講 演 会 ウニ・クリシュナン氏...

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- 0 - 講 演 会 ウニ・クリシュナン氏 国際NGOプラン 日 時 2011年5月27日 場 所 宮城学院女子大学C202教室

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講 演 会

ウニ・クリシュナン氏

国際NGOプラン

日 時 2011年5月27日

場 所 宮城学院女子大学C202教室

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ウニ・クリシュナン先生は、東日本大震災をきっかけに、2回にわたって宮城県内の被災地を

視察・調査し、プラン・ジャパンの支援を指揮してきました。今回の講演では、20年に及ぶ世界

中の災害地における支援活動の経験を踏まえて、支援の国際的ガイドラインや心理社会的ケアと

いう最新の心のケアという観点から東北の災害について話をいただきました。

講師紹介

Dr. Unni Krishnan

2010年1月から国際NGO Planイギリス本部における災害対策統括責任者として、Planの災害お

よび防災対策を指揮する、災害地・紛争地における緊急人道支援実践の専門家です。このほか、

現在、緊急人道支援評価の国際的基準を定めるSphere Projectの委員、および国連議決によって

設立された機関間常設委員会(IASC)の委員をも務められています。この二つの組織は、国連の

関連諸機関および国際的に認められている主な人道機関やNGOの連携によるもので、あわせて、

災害地・紛争地などにおける緊急国際人道支援の基準を定め、かつその遵守・実施のための教育

と広報活動を推進しています。

先生のお仕事は、人道支援のコーディネート、非常事態における公衆衛生、精神保健・心理社

会支援、障害者問題、災害地におけるコミュニケーション問題、災害・防災政策など、広汎な領

域に及びます。

1991年から2009年までは、国際NGO Oxfam(オックスファム)インド支部の統括責任者など、

アジア地域を中心にしながら、世界中の災害・紛争地域での人道支援に多面的に取り組んだ経験

をおもちです。

これまでウニ先生がかかわった災害・紛争地域の主なものは、次の通りです。

・地震 (インド、パキスタン、トルコ、中国、イラン、ハイチ)

・津波 4か国

・洪水 世界中

・戦争・紛争地域 DRC、リベリア、パレスチン占領地、アフガン、スリ・ランカ、ハイチ

・世界中の疫病発生地域

出身は南インド・ケララ州。医学はインド・マドラス大学、人道支援ついては米国およびヨー

ロッパの複数の大学で学ばれました。さらに、被災・紛争地域の多数の人々、とりわけサッカー

好きな腕白坊主たちからも数え切れないほど多くのものを学ばれました。

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【講 演】

「災害と子どもたち」

講 師 国際NGOプラン ウニ・クリシュナン氏

ここに参加されている学生と教師の皆さん、皆さんとお会いするために今日ここに来ること

ができて、とてもうれしいです。

今日お話しするテーマは「災害と子どもたち」、最後のほうに心理社会的なケアに関するこ

とについても少し触れていきたいと思います。このプレゼンテーションを通して、特に心理

社会的なケアというのが災害の復興の中でとりわけ大切だということをお伝えしたいと思っ

ています。

こちらにご紹介している写真は、これまでにプランが活動を行ってきたさまざまな災害の写

真になります。

© Plan

世界各地の災害

左側の写真は、ハイチの大地震後の写真になります。女性は子どもを抱えて食料配給を待つ

ために長い列を作って待っています。皆さん、覚えておいででしょうか。昨年ハイチで大地

震が起きました。私もこのハイチの支援の現場にすぐ飛んで行ったのですが、このハイチの

地震では実は25万人ほどの人々が命を落としています。

ただ、この大地震ですが、マグニチュードでいうと6.1から6.4の間くらいの規模のものでし

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た。この右下の写真、こちら、ごらんのとおり建物がすべて壊されている状況です。この右

下の写真もハイチの写真になります。

そして、右上の写真、こちらはアフガニスタンの写真です。右上の写真、アフガニスタンの

子どもが両足を失ってしまったというのがごらんいただけるかと思います。この男の子は、

地雷によって両足を失ってしまいました。特に子どもがこのように足を失って義足になると

いうことがどういうことかおわかりでしょうか。どんなに優秀な外科医にかかったとしても、

骨が成長し続けるために、男の子が大変な思いをこれからするわけです。私自身も医者で、

アフガニスタンにこれまで何度も足を運んでいますが、こういったケースは、医者として扱

うのが最も難しいケースになります。なぜなら、このように子どもが足をなくすということ

は、その子の精神にも非常に大きな影響があるからです。このように足を失って、普通に学

校に通うことも難しい、友達と遊ぶことも難しくなってしまいます。つまり日常生活すべて

が影響を受けてしまうということです。このように、手足の障害を抱えるということは、特

に心の面でも問題を抱えやすいという研究結果も出ています。

そしてこちらの左の下の写真は、石巻市で撮った写真になります。地震ではなく、津波によ

って破壊された様子です。

ここで、皆さんにちょっと質問してみたいと思います。シャーロック・ホームズを知ってい

る方、ちょっと手を挙げてみてください。では、この中でシャーロック・ホームズが好きだ

という方、手を挙げてください。正直言うと自分の一番好きなキャラクターではないんです

が、でも、一つ、シャーロック・ホームズが言っていたいいことがあります。「データに基

づかない話というのは危険である」ということを教えてくれました。ですので、「災害と子

どもたち」というテーマについて話すとき、まず過去のデータをちょっと見てみたいと思い

ます。

右は世界の災害レポートというものからと

った数字です。北京にある災害リサーチを行

っている機関によるものです。1この研究で

1 世界災害報告は、国際赤十字が編集・発行しています。本部のウェッブサイトで英語版が見ら

れます http://www.ifrc.org/en/publications-and-reports/world-disasters-report/ 。日本

赤十字のサイトで2009年度の報告の一部を紹介している

自然災害(1995-2004年)1件ごとの死者数:

途上国 573人

先進国 51人

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は1995年から2004年までの10年間のデータを出しているのですが、そのデータによると、災

害1件当たりの死者数というのは平均すると途上国では573人となっています。そして、災害

1件当たりの死者数、先進国の場合ですと51人です。つまり地震のマグニチュードであった

りハリケーンの風の強さであったり、そういったものが災害の後の被災者の数を規定するの

ではなく、どこでそれが起きたかということが非常に大きな要素になってくるのです。この

期間に起きた自然災害による死者の97%は途上国の国民でした。紛争の場合ですと76%が途上

国の国民でした。つまりここでわかるのは、貧困にある人々は、より災害に対し非常に脆弱

であるということです。

上の写真をもう一度見ていただくとおわかりのように、マグニチュード7以下のハイチの地

震でいかに多くの人たちが命を失ったかということからもおわかりいただけるかと思います。

つまり地震の場合ですと、地震そのものが人を殺すというのではなくて、脆弱な建物が人を

殺しているという事実があります。

少し簡単なエクササイズをやってみたいと思います。1分間、目を閉じていただきたいと思

います。一日の終わりですから皆さんお疲れでしょうしここで寝てくださいということでは

なく、ちょっとだけ目をつぶっていただきたいです。先ほどお見せしたハイチやアフガニス

タンの写真を思い浮かべてください。1分間、こういったところにいる人たちに何が起きた

のか、何が起きているのかを考えていただきたいと思います。そして、このような状況下で

人々が何を必要としているかを考えてください。これから30秒でそれを考えていただいて、

目をあけたときには手を挙げて皆さんから回答をいただきたいと思います。人々が一体何を

必要としているのか。

はい、目をあけてください。皆さんのアイデアをちょっと聞いてみたいと思います。どうで

すか。こういった人たちは何を必要としていると思いますか。(学生からの回答をまとめて)

食料、医療、水が出ました。水と医療と食料は手に入りました。ほかに何が必要でしょうか。

安全な場所というご意見をいただきました。それを待っていました。

大きく二つのカテゴリーに分けることができると思います。まず一つ目が、救命と生存のた

めに必要な支援、例えば医療であったり水と食料であったり、そういったことが含まれます。

そして、2番目に重要なのは被災者の権利の保護という点です。

権利とは、どういう意味でしょうか。例えば今日を生き抜く術すべ

を失った人がいるときに、権

http://www.jrc.or.jp/kokusai/news/l4/Vcms4_00001161.html 。

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利の話をするというのはどういう意味を持っているのでしょうか。そのお答えはこの後少し

ずつお伺いしていこうと思いますが、まず、人道的支援を行うときに支援する側が肝に銘じ

なければいけないのは、支援内容を決めるのは被災者である、被災者のニーズであるという

点です。支援する側がアイデアを持っているから何ができるかではなくて、あくまでも被災

者が何を必要としているかという点になります。

先ほどの点はもう少し後で詳しくご紹介しますが、その前に、災害時において子どもたちが

どういった状況に置かれているかということについて、少しご紹介いたします。

子どもたちに大きな影響を与えるものの一つ、家族や友人、そして先生などが命を落とした

場合、そういったときに子どもたちは大きな衝撃を受けます。そして、家族が亡くなったと

いう場合でなくても、最初のころ避難所にいたときに、子どもたちが一時的に親や家族から

離れてしまったというケースもありました。

そして、もう一つ重要な点、情報が限られているということです。情報が限られていると、

それが子どもたちの不安をより一層拡大する原因になっていくのです。例えば避難所に行っ

たときに、子どもたちが不安に思っていたことの一つに放射能の影響という問題があります。

つまり、放射能の影響そのものというのも一つの問題ではありますが、それに対する情報が

足りないことによる不安、これがまた別の問題として存在していたということです。

そしてまた、災害時には子どもたちのニーズというものがしばしば後回しにされがちです。

このことは日本ではもしかしたら大きな問題ではないかもしれませんが、途上国では非常に

大きな問題です。子どもたちには投票権がないから子どもたちの声は政治に反映されないと

いうことが起きています。そして、子どもたちの声や意見というものは、さまざまな活動に

おいて聞かれない、無視されているという状況にあります。

先ほど、安全な場所が必要だということをおっしゃってくださいました。安全な場所がない

とどういうことが起きるかというと、特に災害時の混乱の中で、性的な暴力や虐待が起きや

すくなってしまいます。例えば孤児院で暮らしている子どもたち、ケアセンターや保護セン

ターで生活している子どもたちなどは、災害時に特に見過ごされがちな存在となってしまい

ます。さらに紛争地域などでは、子どもたちは兵士として駆り出されてしまうといった状況

も起きがちです。

そして最後にお伝えしたいのは、子どもたちには子どもたちにとっての、子どもたち特有の

ニーズがあるということです。それがこういった災害時には見過ごされがちになっています。

先ほど、なぜ権利の保護が必要かということを後でお伝えすると言いました。次の写真でそ

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の点についてちょっとご紹介したいと思います。

この左側にいる子どもは何歳ぐらいだと思

いますか。何歳ぐらいに見えますでしょうか。

この子は14歳です。この写真はアフリカのス

ーダンの写真です。プランは現在スーダンで

医療活動をしています。ここ数日、スーダン

のことを何かニュースなどで聞いた、目にし

たという方、いらっしゃいますでしょうか。

ここ1週間ぐらい、スーダンは非常にニュースで報道されています。例えばNHKなどでも報道

されています。というのは、現在、これからスーダンで国内の紛争が起きそうな状況にあるから

です。

ごらんのとおり、こちらの右の男の子ですが、食料不足によって非常に栄養不良の状態に陥

っています。スーダンでは現在食料危機が起きています。このように飢餓の状態になったと

き、人々には何が必要でしょうか。もちろん皆さんこれは答えられますよね。そう、食べ物

です。ここで何が起きたかというと、国連機関世界食糧機構がここで食料支援を行いました。

ここの左の男性が持っている穀物というのは、その日にこの男の子のために、男の子に配給

された食べ物なのです。しかし、何が起きたかというと、この左の男性がこの弱っている男

の子から食べ物を奪い去ってしまったのです。

では、このような状況でどうするか。例えばこの男の子に食べ物をもう一回持っていくとい

うこともできるかと思います。でも、それだけではこの男の子の命は救うことはできないで

す。この左の男性が食べ物を盗むことを止めない限り、このような状況は止めることができ

ないです。このような状況があるから、人道的支援で大切なのは、ただ救命のための支援で

はなくて、権利を守るという活動が同時進行で進められなければならないということが言わ

れています。

では、その次に、権利と言ったときにどのような権利が存在するのかということについて、

三つの点を紹介したいと思います。

一つには、権利は国などで保障されるべきものとして一本化されているものがあります。国

際的な権利を守るための法律もあります。国際法であるとか国際人権法といったものがあり

ます。特に災害が起きたとき、人々の権利というのは侵害されがちです。ですので、権利を

守るべき立場にある政府ですとか、例えば権利を守る親であったり教師であったり、そうい

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った人たちは特に権利というものに意識を払っていく必要があります。

例えばハイチの場合、地震が起きて2週間後に、あるグループがハイチの国境沿いで逮捕さ

れました。というのは、ハイチの子どもたちを国境の外に連れ出そうとしていたからです。

それをそのグループの人たちは、ハイチの住民やハイチの政府の許可もとらずに行おうとし

ていたのです。つまり子どもたちの権利を守るということ、例えば暴力であったり虐待であ

ったり性的搾取であったり、あるいは誘拐といった、そういったことから守るというのは、

特に災害時には非常に重要なことになります。

災害時の人道支援で重要な点を三つ簡単にご紹介していきたいと思います。一つ目は子ども

の保護という点です。二つ目は教育です。三つ目は防災になります。

子どもの保護について何が必要かというと、先ほどの方が安全な場所とおっしゃっていまし

た。そういったことですね。子どもたちが守られる場所、そういったところが必要になって

きます。

子どもの保護を行う人たちというのは、二つのレベルに分けて考えることができます。住民

レベル、コミュニティレベルでは、例えば教師であったり親であったり、そういった人たち

が守るというのが1点目です。そして、二つ目は、国や行政の役割として、既にある法律をき

ちんと遵守すること、もしくは新しい法律を作るなどして子どもを守るということが必要に

なります。例えば日本の場合でいうと、避難所における子どものためのスペース、子どもが

安心して過ごせるスペースを作るというのもそういった活動に含まれます。

次の点は、緊急時における教育です。なぜ緊急時における教育が必要か、人道支援において

教育がどうしてそんなに重要かというと、教育の場というのが子どもたちにとって安心を感

じられる場所ということが挙げられます。そして、また日常性を取り戻す、日常生活を取り

戻すために必要なものだからです。例えばこういった災害の後ですべてを失ってしまったり

した場合、まず教育の場というのが人々が最初に集まる場になります。例えば子どもたち同

士が集まって悲しみであったり喜びであったりを表現する場になったり、また、信頼できる

教師の方と会ったりするといった場になるからです。

そして、三つ目のポイントは、子どもを中心とする防災への取り組みです。この国では、防

災といったものに関して詳しく説明する必要はないと思います。なぜなら皆さん一人一人が

この国の防災といったものに関して十分な教育を受けているからです。

私が以前多賀城市に来たときに、地震の1週間後に幼稚園を訪問しました。その際に先生が

言っていたのは、子どもたちは地震が起きたときに本を持って机の下に隠れるという知識を

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© Plan

インド(津波)から

既に持っていた、そういった行動をすぐにしたそうです。

子供のための防災訓練であるとか防災教育というのは、多くの国では行われていません。例

えばハイチでは建物が揺れたときにどうすればいいかというのを知っている人はほとんどい

ません。ですので、防災教育というのは非常に重要になってきます。

その防災教育、具体的にどういったことが必要かというと、例えば実践的な技能の研修、水

泳というのが必要な場合もあります。なぜなら、毎年何千人という人々が洪水によって命を

落としているからです。もしこの人たちが少しでも泳ぐ技術を持っていれば命が救われたと

言われています。そして、このような状況の中で、国連やプランのような支援機関が促進し

ようとしているのは、学校のカリキュラムの中に防災教育というのを含めることです。日本

の皆さんは防災というものを非常によく徹底されていますので、日本人はだれでもが、ほか

の国に行ったら防災というものに関する大使、アンバサダーとして活躍することができると

思っています。

子どもの保護、教育、そして防災、そういったものが大切です。

次に、心理社会的なケアなどについてちょっとお話ししていきたいと思います。

その前に、今から一つ映像をごらんいただきたいと思います。先ほどお話ししたものを具体

的に映像でごらんいただきたいと思います。これは、2004年のスマトラ沖地震津波の起きた

後にインドの子どもたちがどういったことをしたかという映像になります。

〔映像放映〕

ごらんいただいた映像、子どもたちのことについて紹介している映像でしたが、実は子ども

たち自身が作った映像でもあります。

映像ではほんの少ししかお見せしてい

ないのですが、クレヨンと紙があった、

絵をかいていたシーンがあったのはち

ょっとごらんいただいたかと思います。

これは災害後には非常に重要な、自分

を表現する方法として必要なことにな

ります。非常にシンプルな、ただ絵を

かくというだけのことのように思われ

るかも知れませんが、実は脳というのは非常に複雑な動きをしていまして、こういったこと

が大切になってくるのです。

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これから心理的社会的なケアが必要というお話をする前に、ちょっとこちらの宮城県でプラ

ンが今どんな活動をしているかについてもご紹介したいと思います。

○船越美奈氏 では、ここは英語では話さず、直接私のほうから紹介させていただきます。

宮城県で現在プラン・ジャパンが行っている活動を幾つか紹介したいと思います。

まずは、教育は子どもたちにとって必要だという話が先ほどありましたが、教育面での支援

として、例えば学用品の配布が必要になります。これは、宮城県は被災した子どもたち全員

が同じ内容の学用品を受け取れるようにということで政府と調整をしまして、NGO間でどこの

地域をどこのNGOが担当するという形で担当を分けて学用品の支給を行いました。プランもそ

の団体の一つに入っています。

また、学校に通えなくなってしまった子どもたち、例えば途中の通学路が被災で通れなくな

ったとか、以前いた地域と別の地域に移動している子どもたち、そういった子どもたちのた

めに通学支援なども行っています。

また、こちらの左側の写真、これは名取市の写真になるのですが、仮設住宅に入居している

世帯のための物資提供も行っていまして、以前はもちろん避難所でも行っていましたが、今、

仮設入居者のための物資提供というものも始めています。

また、この右の下の写真は子どもの日に行ったイベントなのですが、子どもの日フェスティ

バルと名付けて、地域の子どもたちが参加できるようなイベント、これもなるべく子どもた

ちが主体的に取り組めるようにということで、ボランティアは中学生にお願いしたり、地域

の高校生がコーラスで参加したりすることができるような工夫をしながら、イベントを開催

してきました。

そのほかの活動としましては、教師を対象とした心理社会的なケアの研修を多賀城市の全教

員を対象に行って、これからはこういう研修をどんどんほかの地域でも広げていく予定で、

既に夏ぐらいまでかなりのスケジュールが組まれています。それから、心理社会的なケアの

移動サービス、これは子どもたちがいろいろな避難所などで遊びながら、その保護者を対象

に心理社会的なケアのセッションを行うということ、避難所での子どものためのスペースの

運営、そして、先ほどの映像でごらんいただいたような子どもの部屋プロジェクト、子ども

の声を発信するためのプロジェクトとして写真や映像などの手段で声を発信するような機会

を作っていこうと思っています。

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これらについてもっと詳しく知りたいという方がいらっしゃいましたら、こちらにおります

プラン・ジャパンの職員のほうに、終わった後にお声がけいただければと思います。2

では、次にいきましょう。

心と頭は非常に複雑な働きをしているということを言いました。そのことについて実際にわ

かるような活動をしてみたいと思います。

これは私の財布です。この財布の中にはクレジットカードが4枚入っています。これから皆

さんにお願いするエクササイズができた方には、このお財布を差し上げたいと思います。こ

こでは質問は受け付けません。簡単なエクササイズをしてもらうだけです。リラックスして、

右足をほんのちょっと上に上げてください。右足を時計回りの方向に回してください。左足

は動かさず、右足だけ時計回りに回してください。次に、右手をこのように上げてください。

右足はそのまま回し続けてくださいね。では、右手で6と書いてください。右足は動かした

ままです。上手にやってください。

できた方、いらっしゃいませんか。じゃあ、この財布を差し上げられませんね。これが簡単

に皆さんに、どうやって神経と脳がつながっているかということをご紹介した課題です。

このエクササイズはいろいろな国でやってきていますが、ある国で「できますよ」と言った

子どもがいます。足を右に回しながら6を逆側から書けばできると。私はこのことは知らな

かったのですけれども、子どもが教えてくれました。そのときはクレジットカードを持って

いなかったので、お財布は無事でした。

次に、心理社会的な側面について述べていきたいのですが、心理社会的な問題を論じる場合

には、その中で、脳の生理学的、すなわち神経学的な動きをみると同時に、社会的な反応と

いうものについても注目する必要があります。このPsychosocial、心理社会的という言葉に

ついて、いろいろな人がその定義づけを行ってきました。それで、2003年に国連が多くの専

門家に呼びかけて、例えば国連の機関の人であったり、プランのようなNGOの人であったり、

そういった人たちを呼び集めてこの心理社会的といったものに対する定義づけを行いました。

国連がInter Agency Standing Committeeというこの委員会を立ち上げたのがそのときです。

これは非常に重要な役割を担っているものです。「心理社会的」というのは、心の動き、心

理的プロセスというものと社会的プロセス、それを取り巻く環境といった社会的な枠組みの

2 宮城県における支援活動について、プラン・ジャパンのうぇっば・サイトでご覧になれます。

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中の相関関係をあらわす言葉です。

このことを簡単にご紹介しますと、災害時には二つの影響が出るということです。子どもた

ちが、例えば恐怖に駆られたり、不安に感じたり、夜眠れなくて悪夢を見たり、そういった

ことが起きます。怖いときは、例えば心拍数が上がったりもします。食欲を失ったり、夜眠

れなくなったりします。これは人間として個々人に出る影響です。

しかし、これを社会的環境という面で見てみると、多くの子どもたちが学校に通わなくなる

といった事象としてあらわれたりします。あるいは、工場に勤めている人々が工場に出勤し

なくなるということになってきます。時によっては、アルコール中毒者が増えるということ

もあります。時には精神に障害を来すということもあります。つまりこういった災害の後に、

個々人の心に起きる影響というものと同時に、社会にどのような影響が出てきているかとい

うことを見据えることが重要です。

また、災害の種類によって、心にどのような影響が出るかというのは異なってきます。例え

ば自然災害のときは、人々は結束を固めると言われています。自然災害を経験した人たちは、

お互いのつながり、関係を強めると言われているのです。ところが、紛争や戦争といった場

合には、全く逆のことが起きます。人々はお互いに対する不信感を抱くようになります。

人々の心理状態というのは、こういった災害の種類によって大分変わってきます。

これから、最後の2枚のスライドに移っていきますが、二つ、この心理社会的という面で覚

えていただきたいことがあります。

一つ目の要点は、被災した人たちは、みんなが同じ災害にさらされていますが、一人一人に

よってその被災の影響というのは変わってくるということです。特に子どもたち、親を失っ

た子どもや障害を抱えた子どもというのは大きな影響を受けます。

もう一つ覚えていただきたいことというのは、例えばこういった状況に恐れを感じたり、不

安を持ったり、夜眠れなくなったりする、こういったことは普通のことだということです。

非常な状況にこういった異常な反応が出るというのは普通のことであるということをぜひ覚

えていただきたいと思います。

先ほど言いました国連が承認した委員会が六つの心理社会的ケアの原則というのを定義づけ

ました。

一番重要な点である一つ目の点は、災害における人道支援で人権を守る、人の権利を守る、

http://www.plan-japan.org/topics/news/110315jishin/

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人の尊厳を守るということが重要であるということです。

二つ目は参加です。緊急支援、復興支援を行う中で絶対に必要なのは、そこの被災者が参加

して、被災者自身が同じ意図を持って活動に参加できる状況を作るということです。例えば、

別の国の話になりますが、建設業者が仮設住宅を造って提供したけれども、被災者がそこに

入るのを拒否したというケースもありました。というのは、その建設の段階において被災者

の声が反映されていなかったからです。

三つ目は、人道的支援と同時に医療面でも言える原則になります。その被害をそれ以上拡大

しない、被災者の傷をそれ以上広げないということです。

四つ目の点は、そこで入手できる、被災地・被災国にあるリソースを活用する、資源を活用

するということです。リソース、人的リソースも含めての話ですが、例えば教員の皆さんで

すとか学生の皆さん、若者というのが重要な役割を担っていく部分になります。災害時の支

援というのはいろいろな人が活動をするんですが、その中でも教師や若者といった人たちが

大きな役割を担うことができます。

五つ目の点は、支援にはさまざまな分野の支援がありますが、さまざまなメニューの支援を

総合的に行う必要があるということです。例えば医療面での支援、教育面での支援、そうい

ったものを総合的にきちんと連携した形で行っていく必要があるという点です。

六つ目の点は、支援・復興は、重層的に行わなければならないということです。

では、まとめをちょっとお話ししたいと思いますが、最初のほうでお話ししました。被災し

た後の支援というもので必要なのは、水や食料やシェルターといったものと同時に、心理社

会的支援というのが必要になってきます。この心理社会的なケアというものに関しては、専

門家による支援だけではなくて、皆さんのような学生の方でも、ボランティアの方々が大き

な役割を担える部分になります。

次の点は、先ほど申し上げました子どもの保護、教育、そして防災といった面での取り組み

が重要であるという点です。

三つ目の点、復興というのは被災直後の数日でなし遂げられるものではなくて、長い期間を

かけて徐々にずっと続けていかなければならないものであるということです。私は、先ほど

この学校でも学生が参加して長期的にこういった復興の活動にかかわっていくプロジェクト

を予定しているということを聞いて、本当にうれしく思っています。

また、子どもや若者の意見を聞くということがとても重要であるということを強調したい。

そして、メディアも大きな役割を担っています。情報を提供するというだけではなくて、

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人々を啓発するという役割を担っています。

そして、災害後に国際的な団結、国際的に例えば情報交換を行ったり、学生同士の交換留学

であったり、人の行き来であったり、例えばインドネシアやハイチの若者といろいろ情報を

交換したり、そういったことを強めていくことが非常に重要だと思っています。

そして最後に、最も伝えたいことというのは、子どもや若者というのが支援の中心にあるべ

きであるという点です。子どもを中心に置き、子どもが主体となる活動を進めていくという

ことが必要だと思います。

ありがとうございました。(拍手)

【質疑応答】

○質問者1 では、私から。最後のほうのチャートに、心理社会的ケアの原則が六つありました

けれども、1番と4番だけ赤になっていたのですね。どうしてそこだけ赤になっていたのか、

もし何か理由があるのであれば教えていただきたいと思います。

○ウニ・クリシュナン氏 今日強調したかった2点というのがこの二つだから赤にしています。

まず一つ目の点、人々の権利を守るということ、尊厳を守るということが非常に重要という

のは、心理社会的なケアについて説明するときにどのような聴衆でも第一に強調してお伝え

したいと思っている点です。

では、この4点目を赤にしたのは、今日の皆さんに対して特に強調したい点だからです。支

援を行う中で重要なのは、そこにあるリソースをきちんと活用する、そこにあるリソースの

上に支援をのせていくということが必要だという点です。例えば、ほかの国の人たちである

とか、ほかの国から運んできたいいアイデアであったり、いい実践した活動であったり、い

ろいろな経験、こういったものを持ち込むというのは、もちろん重要ではあります。ですが、

最も重要なのは、そこの地元にいる人たちの知識や経験に基づいて活動を行うということで

す。

なぜ地元の人たち、地元の能力を活用すべきかということについて、二つ例を挙げたいと思

います。

まず1点目は、2003年にイランで起きた大地震です。そのときには24の国から26のレスキュ

ーチームが出動して人々の支援に当たりました。この24の国から来た26のチームが一体何人

の命を救えたか、皆さんは想像できますでしょうか。その地震のときには4万人の方が命を落

としています。そのときに救えた命というのは16人にすぎませんでした。これは2005年の世

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界災害レポートからとった数字です。一方で、その同時期に、イラン赤月社(イスラム国での

赤十字社)にはその国際支援チームよりもより多くの命を救うことに成功しています。

ハイチでは多くの国際的なレスキューチームが活動していたのを皆さんも覚えているかと思

います。このときには25カ国の人々がレスキューチームとして入ったんですが、この人たち

が助けられた命というのは100人に満たなかったのです。この命を助けるというのは、崩

れた建物の中から人々を救出した、その人数になります。

つまり、このような国際的な支援というのが重要なのはもちろんですが、それよりもより効

果的なのは、その地元の人たちに力をつける、地元の人たちがどういった行動をすればいい

かという知識を身につけるということのほうが重要なのです。

もう一つ、地元の人々、地元のリソースが大切だというのは、文化的な背景をそこにいる人

たちは一番よくわかっているからという点もあります。

短いご質問に長く答えてしまいましたけれども、これでよろしいでしょうか。

○質問者2 先ほどの文化的に適した支援という点についてなんですが、PTSDを考えたときに、

普通よく言われるのは対話セラピーだと思います。被災者の声をよく聞いて、被災者に話し

てもらうことで感情を吐き出してもらおうというようなトークセラピーということについて

言われていると思いますが、日本人というのはなかなか感情を表にあらわさなかったり、集

団というもので行動する文化だったりしますので、そういったところで、例えば心理社会的

なケアという面で文化的な背景を配慮した支援というのはどういったものになるのでしょう

か。

○ウニ・クリシュナン氏 二つの面からちょっとお答えをしたいと思います。

PTSDというのは、通常、災害が起きた数カ月後、3カ月後ぐらいから非常に発症率が多くな

ると言われています。なぜなら、どんどんストレスが被災者の中にたまっていくからなんで

すね。人々の心がそういったストレスに対してどう反応するかというのは、風船に例えると

わかりやすいかと思います。風船は空気を入れ続けるとやがて破裂してしまいます。これが、

人の心がどう反応するかというのと全く同じ状況になります。心理社会的なケアに必要なの

は、その風船から空気をうまく抜き出していくことです。

その心理社会的なケアを行う中で、文化的な背景というのを配慮しなければいけないという

のはもちろんなのですが、必ずしもその文化的な背景だけを尊重するということではありま

せん。権利という面から見たときに、文化的な伝統的な活動であるからといって、権利の面

から見ると間違っている、よくないといったことも文化的には行われてきたという国もたく

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さんあります。文化的な、伝統的な活動よりも人権のほうが重要です。

まず、心理社会的なケアでは表現するということが重要なのは間違いありません。その形と

いうのは、例えば1対1の対話であっても集団での表現であっても、どういった形でも構わ

ないと思います。人前で泣くことができるという国の人たちもいますし、それができないと

いう国の人たちももちろんいます。

心理社会的サポートを考える上で、フェスティバル、お祭りをするのが効果的です。もし災

害がなかったらどう

いった活動を人々が

ふだんからしている

かということをきち

んと見る必要があり

ます。災害発生の初

日から初動態勢の中

に心理社会的な提案

を組み込むと、左側

のピラミッドの上の

ほうの、要するに

PTSDになって専門家

のケアを必要とする人たちの数を減らすことができます。

トークセラピー、対話でのセラピーというのは、例えば手をつなぐということだけでも、そ

ういったセラピーになることもあります。例えば子どもたちを集めたときに、手をつなぐと

いうことで子どもたちが安心感を得られるということもあります。そして、つながりを感じ

ることができるということもあります。例えば日本のように相手を抱きしめるといったよう

な習慣がない国においては、このように手をつなぐということだけでも十分につながりを感

じられるようなことになれるのです。

このような基本的な心理社会的なケアというのは、だれしもにできることです。ここにいる

皆さんでも、私でも、だれにでもできること。こういったことを積み重ねていくことで、

PTSDを発症するような深刻な症状が出ることを抑えることができるのです。このような基本

的なケアを行わないことによって、将来的にPTSDを発症するような子どもたちが非常に増え

©Plan

専門的ケア・診療

非専門的個別ケア

住民や世帯による支援強化

基本的ケアと安全に関する考慮

精神科医や心理士などによる専門的診療

安全で適切な基本的ケアについての啓発

社会ネットワーク活性化や子どもスペース支援

非専門家や医師による基本的メンタルヘルスケア

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てしまって、専門家のケアを必要とする子どもたちが非常に多くなってしまいます。

○質問者3 先ほどお話にあった、支援の内容は大きく分けて二つあって、命、生存を守るとい

うことと、もう一つは権利の保護が大切だというお話がありましたが、命を守るという支援

は大体医療であったり食べ物であったり活動の内容がちょっと予想できるんですけれども、

権利の保護というのは具体的にどのような活動をしているのか教えてください。

○ウニ・クリシュナン氏 その点を説明するために、ちょっとハイチに戻ってみたいと思います。

ハイチは、若者の人口が多い国です。人口の6割が25歳以下の若者と子どもたちだと言われ

ています。残念ながら前回の人口統計が行われたのが5年から10年前の話になりますので、ち

ょっと古いお話になります。

先ほど、災害が起きて2週間後に子どもたちが連れ去られそうになったということをご紹介

しました。ハイチから外国人が子どもたちを無断で連れ出そうとしたんです。その外国人を

ハイチの警察がハイチの国境で止めました。その子どもたちを連れ出そうとしていた人たち

が警察にとがめられて言ったのは、私たちは自分の国の許可を得たと。この子どもたちを外

国に連れていったほうが子どもたちは幸せになるに違いないと。しかし、本当にそうでしょ

うか。この点に関して多角的、学問的な研究がすでに幾つか行われていまして、その共通し

た結論としては、自分が慣れ親しんでいる環境に子どもたちを残しておいたほうが子どもの

ためになるということが明確になっています。子どもたちは、自分の生まれ育った社会環境

で育つという権利があります。子どもたちは、食べ物とか支援物資などを受ける権利もあり

ます。子どもたちは、安全な未来ということを享受する権利もあります。これは子どもの権

利条約に明記されていることです。この子どもの権利条約は170以上の国が批准しています。

なお、この170以上の国というのは、正確な数はわかりません。今から批准しようとしている

国もあります。

ハイチに話を戻しますと、子どもたちを連れ去ろうとしていた人たちの国の名前は、アメリ

カ合衆国です。その国に自分の同僚、友人、自分の家族も住んでいます。その国の人たちが

みんな子どもを連れ去ろうとした例の人たちと同じ考え方ではありません。その子どもを連

れ去ろうとしていた人たちの保釈を得るために、クリントン大統領がわざわざハイチまで出

向いて行かなければならないほどの事態になりました。

これは、一般論としての子どもの権利及びその国における法律を犯すような典型的な事例で

あります。この子どもを連れ去りに来た人たちは、きっと子どもにとってこれはいいことだ

と信じていたであろうと。しかし、この事例で明らかなように、その行動をしている本人た

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ちは自分たちが善意で動いているからきっとよいという思い込みだけではなく、権利意識、

あとは法律、国際条約、こういうものもあわせて考慮する必要であります。このようにして、

ハイチだけの事例でもないし、あるいは子どもたちのためになると思いながらも子どもたち

を連れ去ろうとしている人々は何もアメリカ合衆国の人たちだけでは決してありません。

もう一つの事例は、食べ物をもらう、その子どもの権利はどうなるか。前にお見せしたソマ

リアの子どもの写真からわかるように、子どもに食べ物を与えるということだけを考えてい

れば、その子どもから食べ物を奪う人たちも増えてくるばかりでしょう。つまり、食料配給

が必要なだけではなく、食料配給がちゃんと行き渡るための人々の権利を保障することもあ

わせて必要です。

もう一つ言いたいことがあります。それは、世界じゅうの多くの国では、教育というものは

権利としてちゃんと認識されています。子どもが教育を受ける権利を決して否定はしません

が、パキスタンの大地震のときには2万人もの子どもが実は学校の倒壊によって命を落とした

わけです。そう考えれば、この事例では、ただ子どもたちは教育を受ける権利があるだけで

はなく、その教育を安全な環境のもとにおいて受けなければ意味がないということがわかり

ます。

プランは、ハイチで支援を継続してやっています。去年の11月、12月、ハイチでコレラの大

流行がありまして、たくさんの人たちが亡くなりました。地震の場合は復興に何年もかけて

いってもいいのですが、コレラの場合はたったの6時間しかありませんん。しかも対応に何が

必要か、非常に明確にわかっているわけです。コレラが子どもを殺すのにはたった6時間しか

要らないのです。しかし、その場合、亡くなる子どもの9割まで、きれいな水があれば命が救

えるということはわかっているわけです。意外に聞こえるかもしれませんが、世界じゅうの

人々にきれいな水が飲めるということを、一つの人権として打ち立てたいと考えています。

今日のこの時間から明日のこの時間までの間に、世界じゅうで2万4,000人もの子どもが命を

落とすことになりますが、その亡くなる理由というのは、既に治療法が確立されている病気

による死亡なのです。今の数値は、私の勝手な推測ではなく、国連の報告に出ている数値で

す。もしこの子どもたちが成長すれば、皆さんとか私のような大人になっていけるのですが、

この子どもたちは子どものうちに命を落とすことになります。そして、何で亡くなっている

かというと、予防が可能な病気で亡くなっています。

教育、あとはきれいな水と基本的な衛生教育で、この命のほとんどを救うことができます。

支援は重要なのですけれども、支援と権利が不可分離の関係にあるのは今のような話がある

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からです。これでは「人権」に1票入れていただけますでしょうか。つまり、人権の重要さ

をご理解いただけたでしょうか。

○質問者4 先ほどPTSDは災害の3カ月後から発症するというお話がありましたが、3月11日の後

にも余震がずっとやまなかったり、福島の問題があったり、4月7日にまた大きな余震があっ

たり、そういったさまざまなことがその後にも続いている中で、例えばここの時点でPTSDが

発症するだろうということが言えるのかどうか。

○ウニ・クリシュナン氏 こういった数値というのは、あくまでも過去の経験に基づいた数値に

すぎません。ただ、宮城県の子どもたちにいろいろ話を聞いたとき、これまでに起きていな

い状況、ここ独特の状況が起きているということがわかりました。

子どもたちが言ったのは、まず、最初の災害は大地からやってきた。そして、次の災害は水

からやってきた、つまり津波がやってきた。そして、三つ目は空気から、空からやってきた。

つまり放射能、あるいは放射能に対する恐怖というものがやってきたと。つまり子どもたち

はさまざまな面から影響を受けており、それにどう対処したらいいかわからないという状況

に陥っているということです。

また、もう一つ、子どもたちが言われていたのは、地震の後大きな余震がやってきたら建物

の外にいなさいと言われた。なぜなら、弱くなっている建物が倒壊するおそれがあるからと

いうこと。建物の外に出るべきだと言われました。ところが、例えば放射能の汚染がある地

域などでは、建物の外に出るということがそもそもかなわなかったんですね。つまり子ども

たちの不安は、例えば大きな余震が起きたときに、建物の中にいたらいいのか、建物の外に

出たらいいのか、そういったこともわからないといったような状況が起きていました。走っ

て逃げるべきか、それともここにとどまるべきなのか。このように不安がますます大きくな

っている状況にありました。

つまり、子どもたちに対する影響というのは、このように過去に例のない災害ですので、過

去と同じように考えてはできません。ここ独特の状況として見ていく必要があるということ

です。

ただ、過去の経験から言えることは、PTSDを発症するためにはある程度の時間がかかる。ど

んどん膨らんでいったものがPTSDとして発症していく。例えば3カ月から6カ月、その状況も、

国や状況によって変わりますが、時間がかかってそういった発症につながっていくというこ

とが言えます。

また、この国で独特な状況、ほかの国と大分違うと思うのは、人々が、災害に対する抵抗力

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というか、災害をどうやって乗り越えていったらいいかということをよくわかっているとい

うことです。特に若い人たち、子どもたちが、早い段階から災害に対して復興に向けた活動

を始めているというのを見てきました。

例えば、震災が起きた1週間後に私たちが多賀城の文化センターの避難所に行ったときに、

皆さんよりずっと若い10歳から12歳の子どもたちが、その文化センターの避難所でインフォ

メーションセンターを運営していました。その子どもたちがやっていたことは、そこでは電

話もつながらない、石油もなくて車を走らせることもできない、そういった状況の中で、

人々が必要としている情報を、人から質問を受けて、それに対する答えをどんどん掲示板に

張っていったということをやっていました。

でも、これはあくまでも自分の個人的な意見ですので、もちろん違う意見をお持ちの方もい

らっしゃるかとは思います。

これまで過去20年にわたって、私は、50か国以上でこういった災害支援に携わってきました。

時々は幸せな気分になったり、時々は非常に怒りを感じたり、時々は非常に悲しくなったり、

そういったことを感じてきました。そして、これだけの経験を持った私ですが、これほど感

激したのはこの国が初めてです。というのは、震災からたった1週間後に、そんなに若い子ど

もたちが主体的に、人々が何を必要としているかを判断して呼応して走り回っているという

姿を見ることができたのは、この国が初めてだからです。

ただ、これを理想化して、これがすべてだということを言うつもりはありません。ただ、こ

ういった事例も実際にあったということをお伝えしたかったです。災害というのは、人によ

って受ける影響が大きく違いますし、どんなことができるというのも違ってくるとは思いま

すが、多賀城でみた事例も災害の中の一面として実際にこの国で起きているということをお

伝えしたいと思います。

○ウニ・クリシュナン氏 皆さんに最後にちょっと一つだけご質問したいですが、今、回答が欲

しいということではありません。1年後に皆さんに回答していただきたいと思っている質問で

す。皆さんは若者、学生として人生が始まったばかりというような人たちだと思います。そ

の人生が始まったばかりの皆さんに、来年、1年後に聞いてみたいと思います。

被災地の子どもたち、人々が最も必要としている三つは何なのかということ。そして、その

ニーズを満たすために皆さんが何をしたか。一つでいいので、一つの活動、何をしたかを教

えていただきたいと思います。そのことによって、皆さんが大きな変化をもたらすことがで

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きると信じています。

ありがとうございました。(拍手)

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