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ケースヒストリーによる地震時斜面崩壊・流動メカニズムの検討 ~2008 年岩手・宮城内陸地震で生じた斜面崩壊へのエネルギー評価法による逆解析事例~ 地震,エネルギー,斜面 中央大学理工学部 国際会員 國生剛治 正会員 ○石澤友浩 中央大学大学院 学生会員 小泉佳祐 中央大学理工学部 学生会員 佐々木大輝 1.はじめに 従来,地震による斜面安定は,滑り土塊の力の釣り合いや,Newmark 1) により変形量を評価されてきた.これらの 方法では,一旦大規模な崩壊が起こった後の土塊の変形量や下流域への影響範囲を評価することは困難である. 本研究では,斜面崩壊のエネルギーバランスにより,エネルギーの観点から斜面変形量を定量的に評価することを目 指している.これまで模型実験により崩壊斜面流動距離のエネルギー評価法を提案してきたが,これらの研究で等価な 摩擦係数を推定することにより,単純な剛体モデルの理論式で流動量が評価できる可能性がみられた 2,3,4) .この方法を 実斜面に適応するために,自然斜面のような複雑な条件におい ては評価が困難であり,摩擦係数がどのような値をとるのかは 非常に重要である.本稿では, 2008 年岩手・宮城内陸地震で発 生した大規模な斜面崩壊にエネルギー評価法を当てはめ等価摩 擦係数 の逆解析事例を分析した. 2.宮城内陸地震での斜面災害 2008 6 14 日岩手県内陸南部で震源深さ約 8km,マグニ チュード 7.2 の地震が発生した(最大加速度 4000gal).山岳地 帯で発生した地震のため建物被害が少なく,大規模な斜面災害 等が多く発生したことが特徴として挙げられる. 図-1 に国土地理院により作成された岩手・宮城内陸地震の災 害状況図を示す.この図にはこの地震による大小様々な斜面崩 壊が記入されており,我々の判読では 1812 箇所もの斜面崩壊が 確認でき,このうち 10 万㎡以上の大規模な崩壊は 14 箇所あっ た.本稿では,図-1 に示す 6 つの大規模な斜面崩壊について, 本研究でエネルギー評価法を当てはめ等価摩擦係数 µ の逆解析 事例を分析した. 3.等価摩擦係数 µ の逆解析 岩手・宮城内陸地震での各地点に到達する入力エネルギー E IP /A について,ここでは KiK-net の観測データから算出される 近似式は Gutenberg-Richter の式 5) とエネルギーの球面減衰によ る理論式に比べ低い値であったが,ここでは震動エネルギーを 仮想マグニチュード M7.2,震源深さ R 0 =8km,斜面崩壊地点 までの震央距離 R 1 ,震源距離 R を用いてに次式(単位は ergで評価した. (. . ) 図-3 はこのようにして算定した全被災斜面での基盤での単位 面積当たりのエネルギー入力値を示している.これらの入力エ ネルギーE IP を用いて,斜面流動に寄与したエネルギーE EQ を想 定して,次式により等価な摩擦係数 µ を算出した. Study on seismically induced slope failure and flow mechanism by case history -Back-calculation of friction coefficient by energy approach for landslides during 2008 Iwate-Miyagi Nairiku earthquake- , ISHIZAWA Tomohiro, KOKUSHO Takaji, KOIZUMI Keisuke, SASAKI Hiroki, Chuo University, Tokyo, Japan. 図-1 対象とした斜面崩壊 (国土地理院の災害状況図に加筆) 38.80 38.85 38.90 38.95 39.00 39.05 39.10 39.15 0 1000 2000 3000 4000 5000 140.75 140.80 140.85 140.90 140.95 141.00 2008 Iwate Miyagi nairiku EQ E n e rg y p e r u n i t E I P / A ( k J / m 2 ) Latitude E(Deg) Longitude N (Deg) 図-2 全崩壊斜面での入力エネルギーE IP /A 第 45 回地盤工学研究発表会 (松山)    2010年8 月 1633 817 E - 06

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ケースヒストリーによる地震時斜面崩壊・流動メカニズムの検討

~2008 年岩手・宮城内陸地震で生じた斜面崩壊へのエネルギー評価法による逆解析事例~

地震,エネルギー,斜面 中央大学理工学部 国際会員 國生剛治

正会員 ○石澤友浩 中央大学大学院 学生会員 小泉佳祐

中央大学理工学部 学生会員 佐々木大輝 1.はじめに

従来,地震による斜面安定は,滑り土塊の力の釣り合いや,Newmark 法 1)により変形量を評価されてきた.これらの

方法では,一旦大規模な崩壊が起こった後の土塊の変形量や下流域への影響範囲を評価することは困難である. 本研究では,斜面崩壊のエネルギーバランスにより,エネルギーの観点から斜面変形量を定量的に評価することを目

指している.これまで模型実験により崩壊斜面流動距離のエネルギー評価法を提案してきたが,これらの研究で等価な

摩擦係数を推定することにより,単純な剛体モデルの理論式で流動量が評価できる可能性がみられた 2,3,4).この方法を

実斜面に適応するために,自然斜面のような複雑な条件におい

ては評価が困難であり,摩擦係数がどのような値をとるのかは

非常に重要である.本稿では, 2008 年岩手・宮城内陸地震で発

生した大規模な斜面崩壊にエネルギー評価法を当てはめ等価摩

擦係数 の逆解析事例を分析した. 2.宮城内陸地震での斜面災害

2008 年 6 月 14 日岩手県内陸南部で震源深さ約 8km,マグニ

チュード 7.2 の地震が発生した(最大加速度 4000gal).山岳地

帯で発生した地震のため建物被害が少なく,大規模な斜面災害

等が多く発生したことが特徴として挙げられる. 図-1に国土地理院により作成された岩手・宮城内陸地震の災

害状況図を示す.この図にはこの地震による大小様々な斜面崩

壊が記入されており,我々の判読では 1812 箇所もの斜面崩壊が

確認でき,このうち 10 万㎡以上の大規模な崩壊は 14 箇所あっ

た.本稿では,図-1 に示す 6 つの大規模な斜面崩壊について,

本研究でエネルギー評価法を当てはめ等価摩擦係数 µ の逆解析

事例を分析した. 3.等価摩擦係数 µの逆解析

岩手・宮城内陸地震での各地点に到達する入力エネルギー

EIP/A について,ここでは KiK-net の観測データから算出される

近似式は Gutenberg-Richter の式 5)とエネルギーの球面減衰によ

る理論式に比べ低い値であったが,ここでは震動エネルギーを

仮想マグニチュード M=7.2,震源深さ R0=8km,斜面崩壊地点

までの震央距離 R1,震源距離 R を用いてに次式(単位は erg)で評価した.

񮎐񮎐 񮎐 (񮎐.񮎐񮎐 񮎐񮎐񮎐.񮎐)񮎐񮎐 񮎐񮎐 񮎐 ( )

図-3はこのようにして算定した全被災斜面での基盤での単位

面積当たりのエネルギー入力値を示している.これらの入力エ

ネルギーEIP を用いて,斜面流動に寄与したエネルギーEEQを想

定して,次式により等価な摩擦係数 µ を算出した.

Study on seismically induced slope failure and flow mechanism by case history -Back-calculation of friction coefficient by energy approach for

landslides during 2008 Iwate-Miyagi Nairiku earthquake- , ISHIZAWA Tomohiro, KOKUSHO Takaji, KOIZUMI Keisuke, SASAKI Hiroki, Chuo

University, Tokyo, Japan.

図-1 対象とした斜面崩壊

(国土地理院の災害状況図に加筆)

38.8038.85

38.9038.95

39.0039.05

39.1039.15

0

1000

2000

3000

4000

5000

140.75140.80

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140.95141.00

2008 Iwate Miyagi nairiku EQ

Ene

rgy

per

unit E

IP/A

(kJ

/m

2)

Latit

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(Deg

)Longitude N (Deg)

図-2 全崩壊斜面での入力エネルギーEIP/A

第 45回地盤工学研究発表会(松山)    2010 年 8月

1633

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񮎐񮎐񮎐񮎐񮎐񮎐񮎐񮎐񮎐 񮎐񮎐 񮎐񮎐񮎐 (2)

ここで,上記の斜面勾配β,崩壊土塊 M,流動距離δrは,地震前後の DEM データや地震後の航空写真に基づ

き,地震前後の地形変化から推定した.図-4は,斜面崩

壊の断面図の一例を示している.また,これらの地震前

後の地形変化の情報に基づいて,図-5に示すような地震

前後の崩壊土塊のブロック化を用いて,等価な摩擦係数

µ を算出した. 図-6は,逆解析し算出した等価摩擦係 µ と崩壊前の初

期斜面勾配βbe の関係を示している.また,同図には他

の地震で生じた大規模斜面崩壊の結果も示している.同

図より,大規模な崩壊では,摩擦係数と初期勾配がほぼ

同等かもしくは下回る傾向が見られた.大規模な崩壊は

地震により摩擦係数の低下が生じたと考えられる. 図-7は,エネルギー法により算出した等価摩擦係数と

崩壊土体積の関係を示している.また,同図には,その

他の地震で生じた大規模な斜面崩壊における本手法で算

出した等価摩擦係数と既往の研究 6,7)に等価摩擦係数

µ(µ=H/L)の同関係も示している.同図より,大規模な斜

面崩壊では,崩壊土塊体積が大きくなるほど摩擦係数が

小さくなる傾向がわかる. 4.まとめ

2008 年岩手宮城内陸地震における大規模な崩壊に着

目し,エネルギー評価法を当てはめ等価摩擦係数の逆解

をした結果,崩壊前斜面勾配βと逆算摩擦係数μは,β

が大きい急な斜面ほどμも大きくなる傾向が示された.

また,プロットでμ<βとなる.地震前はμ>βである

から,地震により摩擦係数が低下するメカニズムが働い

たと考えられる. 崩壊土塊体積が大きいほど,本手法で逆解析した等価

摩擦係数は小さくなり,これは既往の研究と同様な傾向

があることが示された.

謝辞

本論では地震前後の地形変化を分析するために,朝日

航洋株式会社の貴重な DEM データを使用させて戴きま

した.末筆ながら関係各位に感謝の意を表します. 参考文献

1)Newmark,N.W.:Effects of earthquakes on dams and embank -ments, Fifth Rankine Lecture, Geotechnique Vol.15, 139-159, 1965

2)石澤友浩,國生剛治:エネルギー法による地震時斜面変形量評価方法の開発,土木学会論文集 C,Vol.62,論文 No.4,pp.736-746,2006.

3)國生剛治,石澤友浩,佐々木大輝,小泉佳祐 ケースヒストリーによる地震時斜面崩壊・流動メカニズムの検討(その 1)~斜面崩壊の

逆解析事例~,第 55 回地盤工学研究発表会(論文投稿中) 4)國生剛治,石澤友浩:エネルギー概念による地震時斜面流動量評価法と 2004 年新潟県中越地震への適用,土木学会地震工学研究発

表会 2007 5)Gutenberg, B. and Richter, C, F., 1956. Earthquake magnitude, intensity, energy and acceleration (Second paper)., Bullentin of Seismological

Society of America, Vol. 46, 105-145. 6)J.HSU.:Catastrophic Debris Streams Generated by Rockfalls 1975.Geological Society of America Bulletin,v.86,p.129-140,8 figs January

1975,Doc.no.50117 7)Ashida, K. and Egashira, S. ,1986, Runnig-out processes of the debris associated with the Ontake lamdslide, Natural Disaster science, 8(2),

pp.63-79

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500200240280320360400

Altitude

(m

)

Distance (m)

before after slip line

図-4 断面図(矢櫃ダム北西の崩壊)

図-5 崩壊土塊のブロック化(矢櫃ダム北西の崩壊)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Aratozawa WHitohazama

Aratozawa NE

Higashi-takezawa

DainichiyamaJFES

Yabitsu NW

Yabitsu NNW

Aratozawa

2008Iwate Miyagi Niriku EQ 2004Nigataken Chuetsu EQ 1999ChiChi EQ. μ

=β

価摩

擦係

数 

μ=

tanφ

崩壊前斜面勾配 βbe=tanθ

図-6 等価摩擦係数と崩壊前斜面勾配

103 104 105 106 107 108 109 1010 1011 10120.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

St.Helens(1980)

Ontake(1984)

Tonbi(1858)

Mayuyama(1792)

Bandai(1888)

Aratozawa WHitohazama

Aratozawa NE

Yabitsu NW

Yabitsu NNW

Terano

Higashi-takezawa

DainichiyamaJFES

Aratozawa

J.SHU (1975) Ashida and Egashira(1986)

等価

摩擦

係数

μ(お

よび

μ=H

/L)

崩壊土体積(m3)

2008Iwate Miyagi Niriku EQ 2004Nigataken Chuetsu EQ 1999ChiChi EQ.

図-7 等価摩擦係数と崩壊土体積の関係

255.9

257.0

219.6

16.9

17.617.4

15.4

16.7

( ) 159.2r avd =

47.6hD =

215.1 ( ):unit m

255.9

257.0

219.6

16.9

17.617.4

15.4

16.7

( ) 159.2r avd =

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