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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 保険会社は、ドライバーレス・カーという遠い未来の話だけでなく、 その進化の先にあるステージも視野に入れて、 準備を進めていくことが求められる。

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ドライバーレス・カー:今、保険会社にとって転換のとき 保険会社は、ドライバーレス・カーという遠い未来の話だけでなく、その進化の先にあるステージも視野に入れて、準備を進めていくことが求められる。

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ドライバーレス・カー: 今、保険会社にとって転換のとき 3

はじめにここ数十年の間、自動車業界は継続的に発展してはいるものの、ドライバーレス・カー ( 自動運転車 )の出現を見るまでに劇的な進化は遂げていない。ほんの数年前にはSFのように考えられていたことが、今や現実となりつつある。ドライバーレス・カーの展開はその興奮や関心もさることながら、関連するさまざまな業界をも巻き込む波及効果をもたらしている。例えば、この革新的な出来事が自動車保険分野にどう影響するか、保険各社は気を揉んでいる。今日の保険会社では、主としてドライバーが起こした事故の損害を補償しているが、ではドライバー不在で事故が発生したらどうなるだろうか?

多くの保険会社は、このような不測の事態の想定を始めているが、その過渡期においてどう対応すべきか検討している企業は極めて少数だ。完全無人化 または 完全自律走行化されるまでには、ドライバーによる制御~半自律走行(運転制御を手動・自動に切り替えられる)という段階を経ることになる。保険会社は、これらのステージと並行して、ビジネス転換に対応していく必要に迫られるだろう。

この転換を推し進める方法を探るには、次のような観点から自律走行車を理解しておく必要がある。

• 技術面での影響:

> 技術的進化

> 導入

• 業務面での影響 :

> 補償範囲

> 保険料

> クレーム処理

> 外部要因

本書の目的は、ドライバーレス・カーの進化と導入のタイムラインを予測することである。また、競合他社の一歩先を行くには、自動車保険会社はこの差し迫った過渡期にどう対処すべきか提言する。

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自律走行技術発達の予想時期

NHTSAレベル フェーズ 運転実体 予想される

時期 テクノロジー

1 Ⅰ

ドライバーによる

手動制御

ドライバー 現在~2025年

特定機能による自動化: 状況に応じて、1種の機能のみ自動化される(横滑り防止装置 -ESC 等)

2機能併用による自動化: 一体となって動作するよう設計された2種以上の主機能が自動化される(車線中央維持にも対応した自動速度制御機能等)

3Ⅱ

半自律走行

ドライバーによる

手動制御

2018~2030年

限定的な自動運転による自動化: 好ましい状況下における完全制御を前提とする。好ましくない状況では、その制御がドライバーへ移行する。

4Ⅲ

自律走行車両 2022年以降 完全自動運転: システムがあらゆる運転機能を実行でき、ドライ

バーが不要となる。

図1

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自律走行テクノロジーの出現多くの保険会社が将来的なアジェンダとしてドライバーレス・カーをあげているが、次のような顕著な疑問が浮上している。

• 自律走行車は何年先に実現するか?

• 自律走行車への備えとして、運用面で何ができるか、また何をすべきか?

• 保険会社が準備を進めておくべき過渡期の段階が訪れるか?

何年後にドライバーレス・カーが実現するか判断するにあたり、当社は予想されるテクノロジーの進化と普及の速度に着目している。

技術発展のタイムラインドライバーレス・カーの開発状況はと言えば、有名企業各社によって独占されている。一方はGoogleをはじめとするテクノロジープロバイダであり、もう一方はメルセデス、BMW、アウディ、GM および テスラモーターズといった自動車メーカーである。これらの企業はすべて自律走行車開発の計画をすでに公表しており、徐々に自動化のレベルを高めるとともに、その段階的な展開を見込んでいる。

すでに多くの車種には、死角検出や自動ブレーキをはじめ、1種類以上の運転機能を実行できる自動化機能が装備されている。製造メーカーはさらなる機能の自動化に取り組んでいるため、このような機能が一体となって動作し、完全なドライバーレス・カー体験をもたらすことが期待されている。政府機関や規制当局、保険会社、自動車メーカーで構成されるエコシステムがドライバーレス・カー技術を支えていくことになるのだが、テクノロジーの発展如何はこのエコシステムの発達にも依存するところである。

加えて、ドライバーレス・カーに十分対応できる確かな道路設備を開発しなければならない。また、規制当局が定めるルールや法規制も、テクノロジーの開発・発展に影響を与える可能性がある。

当社は、米国運輸省道路交通安全局 (NHTSA)が定義する4段階の自動化レベルを運転実体(手動運転と自動運転の比率)に基づく3つのフェーズに分類した。図1は、NHTSAが定めるレベルと当社が分類したフェーズのマッピング、および その予想される時期をまとめたものである。

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テクノロジー導入案ドライバーレス・カー技術の導入は「安全性、費用、消費者行動、法規制、および 車両の耐用年数」という5つの要因に大きく依存する。

• 安全性 : ドライバーレス・カーの公道における安全性を確保するためには、テクノロジー、自動車、インフラ、ネットワークから成るエコシステムが発達し、堅固なものとなる必要がある。新たなテクノロジーを取り巻く疑心暗鬼を考えると、車両の制御をマシンに任せるように人々を説得しなければならない。今では規制当局も自動制御を「ドライバーとして」認識している。人々がマシンをドライバーとして - 願わくば可能な限り安全なドライバーとして - 認識し始めると、ドライバーレス・カーの導入は急速に進むかもしれない。とは言え、人々を説得するには、自律走行車が自らを実証してみせる必要がある。米国道路安全保険協会 (IIHS)によると、高度安全機能によって衝突による死亡の可能性は大幅に軽減されている1。同様に、報告事故件数や死亡者数などの数字が減少すれば、人々のドライバーレス・カーへの乗り換えに影響を与えるだろう。このテクノロジーに対する興味や関心に応じて、さまざまな集団が形成されることになる。

• 費用 : 2025年に発売されるドライバーレス・カー(レベル3~4)の価格は手動運転の車両と比べて7,000~10,000ドルほど高額になるだろう、とIHSオートモーティブ社は予測する2。この差額は、2030年には5,000ドル、2035年までには3,000ドルにまで縮まると見られている。初期モデルのドライバーレス・カーは多くの人々にとって法外な費用がかかると思われるが、その導入や技術的な進歩がさらに進むにつれて、価格も下がっていく見込みだ。さらに言えば、ドライバーレス・カー技術に支払うコストを考慮しても、「社会」と「個人」両者にとっての経済的な恩恵の方がはるかに大きい。その一例として、ドライバーによる給与の貯蓄(特に他の人に乗車時の介護を依存する子どもや身障者を家族に持つドライバー)、軽度の事故に要する修理費、いつでも好きなときに移動を可能にすることで実現するワーク・ライフ・バランスの向上などが挙げられる。保険会社にとっては、クレーム管理に関連する運用経費などの分野で、直接的なコスト削減も考えられる。ドライバーレス・カーを早期に導入する顧客は、十分な資産を有し、かつ最新鋭のテクノロジーが搭載された車に乗りたいという個人富裕層であると見込まれている。それ以外の人々は、思い切って購入する前に、価格が下がるのを待つだろう。

• 消費者行動 : 一部の人々にとって車とは、ある地点から別の場所へ移動するだけでなく、運転する喜びを与えてくれるものである。ここで問題となるのは、そのような消費者が車両の制御を喜んで放棄するかどうかである。長期的には、非自動運転車両が生き残り、ビンテージカーとしての価値を維持することになるだろう。短期的には、

ドライバーの行動的属性が自律走行車の導入を遅らせることになるかもしれない。

• 法規制 : 規制当局は、ドライバーレス・カーの使用や発売を促進するルール、ならびガイドラインを明確化する上で、大きな役割を果たすことになる。これを行なう中で、ドライバーレス・カーについての理解を促進し、責任を明確に定義することで、ユーザーの信頼が高まった結果として導入が促進されるだろう。米国では、自律走行車の法規制ガイドライン策定への迅速な対処と市場導入を支援する調査に40億ドルの予算を当てることが提案されている。3

米国道路安全保険協会(IIHS)によると、高度安全機能によって衝突による死亡の可能性は大幅に軽減されている。

米国では、自律走行車の法規制ガイドライン策定への迅速な対処と市場導入を支援する調査に40億ドルの予算を当てることが提案されている。

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• 使用年数 : ドライバーレス・カーは多大な興味を抱かせるが、現在所有している車を投げ出してまで、果たして人々はこれを手に入れようとするだろうか?ドライバーレス・カーの大規模導入は、既存車両のライフサイクルが終わりを告げた後に加速するだろう。米国における普通乗用車の平均使用年数は11.4年と言われているが、さらにテクノロジーが向上すれば、ドライバーレス・カーの導入は数年のうちに増加することが予想されている。

図2で、各フェーズにおける自律走行車の導入要因と影響を概説する。

フェーズ 自律走行自動車導入の要因と影響 時期 テクノロジー導入

Ⅰドライバーに

よる制御

安全性 : 高度機能による安全性向上が、導入に有利に働く。費用 : 低価格の車両増産に向けた安全性と利便性の向上が、導入に有利に働く。消費者行動 : ドライバーが引き続き車両を制御しているため、行動上に多大な影響は見られない。法規制 : 規制当局が高度な安全管理機能の搭載を義務付けるため、さらに導入が促進される。

現在~2018 消費者は引き続きフェーズⅠモデルを購入。

2018~ 2020 高度機能が基本モデルに加わり、導入が増加。

2020~2025

消費者がフェーズⅡモデルへ移行するため、導入スピードが減速するが、フェーズⅠモデルはこの段階を超えても尚存在する。

Ⅱ 半自律走行

安全性 : 導入はゆっくりと進むが、これは安全な自動運転 および 自律走行からマニュアル走行への切り替え易さを実証するデータに依存する。コスト: 低価格という利便性の向上が導入に有利に働く。消費者行動 : 自動運転の利便性 および 緊急時における車両制御を想定する能力がさらに付加されることにより、導入が促進される。法規制 : 安全性データにより利点が強調され、フェーズⅢモデルへ向かう道筋を実証するため、規制当局がフェーズⅡモデルを奨励する可能性がある。使用年数 : フェーズⅠタイプの車両が完全に陳腐化するまで、導入は緩慢なペースで進む。比較的新しいフェーズⅠモデルを所有する消費者は、フェーズⅢモデルの発売を待って直接自律走行車を購入する可能性がある。

2018 フェーズⅡモデルが発売予定。

2018 ~2020安全性、費用 および フェーズⅠモデルの在庫が存在することにより、初期段階の導入はゆっくりと進行。

2020 ~2027

フェーズⅠモデルのライフサイクルが終わりに近づくため、導入が増加。半自律走行車の価格が下がり、安全性が確立される。

2027~2030 自律走行車導入の増加により、半自律走行車の導入は緩慢に進行する。

2030以降

路上の車両の大部分は半自律走行車となるが、自律走行車が普及したため、導入のペースは遅くなる。フェーズⅠ / Ⅱタイプの車両も引き続き存在する。

Ⅲ 自律走行

安全性 : 安全性が確立するまで、その使用は低密度の地域に限られる。費用 : 車両当たりの利用率は、ライドシェアリングによって増加。このような経済的利点が導入を促進する。消費者行動 : フェーズⅢモデルの利用率、利便性がさらに高まると同時に、フェーズⅠ / Ⅱモデルの使用が長期にわたり限定的となり、導入が促進される。法規制 : フェーズⅢモデルの安全性が実証されると、死亡事故の軽減や路上の安全確保に向けて、自律走行車の導入費に対する補助金が施行される。使用年数 : フェーズⅠ / Ⅱの在庫が未だ残存していること、またフェーズⅢモデルには高い初期費用がかかることなどから、当初の導入ペースは緩慢に進行する。

2022 自律走行車の発売当初には、規制当局が使用制限をかける。

2022~ 2027 限定された地域で富裕層による導入が進む。

2027~ 2030

安全性が実証されたため、当局が規制を緩和。運転ができない人々 または 運送業のような運転行為に依存するサービス業によって、早期に導入される可能性がある。

2030~ 2034

フェーズⅢモデル車の価格が下がり、規制当局からその導入に対する補助金が提供されるため、導入ペースがさらに早まる。

2034以降

半自律走行車から完全自律走行車へのアップグレードも起こり得る。路上を走行する車両の多くが自律走行車となり、少数ではあるが、前フェーズモデルの車両が路上で見受けられる。

ドライバーレス・カー導入の予想時期

図2

現在〜2025

2022以降

2018〜2030

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保険会社への影響 ドライバーレス・カーの出現により、保険業界は多大な影響を受けることになるだろう。これに備えて消費者との関係を保つには、保険会社に何ができるか概説する。

補償範囲への影響現在、事故責任はドライバーに課されるため、個人向け自動車保険商品を購入しているのは車の所有車である。ドライバーレス・カーの出現により、責任の所在はドライバーから自動車メーカーやネットワークプロバイダに移るだろう。事故原因が、車両のハードウェア または ソフトウェアの問題に起因する際、自動車メーカーの責任は免れない。また、適切な方向座標の提供に失敗するなど、ネットワークの不具合によって事故が発生する際には、ネットワークプロバイダの責任が問われることとなる。車両の位置や交通量といった運転状況を判断する上で、ドライバーレス・カーはネットワークに依存する。自動車メーカーとネットワークプロバイダは、現行の個人向け自動車保険の補償範囲を拡大した「ハイブリッド自動車保険商品」に加入するようになると見込まれている。

自律走行車の各フェーズモデルは、それぞれに異なる利害関係者による保険購入を引き寄せるだろう。自動車メーカーやネットワークプロバイダは、フェーズⅡの自動モードから始まる潜在的な法的責任に直面する。そのため被保険者(個人)に加えて、自動車メーカーやネットワークプロバイダも自社の損害可能性を補償してくれる「製造物責任保険」商品を購入することになる。

誰が保険の対象となるか?

フェーズ

補償範囲

車両 賠償 総合 医療 無保険運転者補償(UM)

不十分な保険の運転者補償

(UIM)Ⅰ : ドライバーによる制御 被保険者

Ⅱ : 半自律走行手動 被保険者

自動自動車メーカー / ネットワークプロバイダー / 被保険者 被保険者

Ⅲ : 自律走行

図3

フェーズⅠ モデル: ドライバーによる手動制御車両に対する補償への影響車両故障によって損害が発生したと証明できない限り、自動車メーカーの責任が問われることはない。但し、段階的な自動化(電子安定制御や衝突制御装置など)により、一部の損害事象はやはり車両の自動化に起因するとされる可能性があるため、自動車メーカーの安全性に関する説明責任はますます重くなっていく。フェーズⅠモデルにおいては、引き続き自動車保険を購入するのは車両の所有者であり、その他の利害関係者ではない。

フェーズⅡ & フェーズⅢモデル: 半自律走行 / 完全自律走行車に対する補償への影響フェーズⅡモデルの手動モードにおける補償は、フェーズⅠモデルと同様の補償となる。前述のように、フェーズⅡモデルの車両は手動・自動いずれかの制御モードでの走行が可能となるが、フェーズⅢモデルでは常に自動制御モードとなる。

自動制御モードでは、自動運転時に発生した衝突、または損害に対し、自動車メーカーが責任を負うこととなる。

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車両が道路上の使用に適していない(メンテナンス不備)の場合、あるいは自律走行車が突然停車したことにより、このような急ブレーキを予期していなかった後続車が追突するような事故の場合は例外扱いとなり、その責任は被保険者に戻される。直接的な損害の原因が誤ったナビゲーションやネットワーク障害、不正侵入などによる場合に限り、ネットワークプロバイダが責任を負うこととなる。一部の事例では、道路標識といったインフラの不備によっても、損害事象が引き起こされるかもしれない。

総合的な補償範囲は被保険者が購入することになる。但し、自動モード時に動物と遭遇するような場合、万一の急な衝突時には停車することを考慮し、自動車メーカーが補償をカバーするだろう。過失を問われた関係機関が保険に加入していない、もしくは、加入しているが補償範囲が十分でない場合、自動車メーカーに責任を問うことができないため、被保険者は常に保険未加入ドライバー向け、または十分な保険に加入していないドライバー向けの補償特約を購入することになる。医療支払補償は、いずれの利害関係者がその損害の責任を負うかに応じて適用される。

多様なデータ転送のインターフェースが登場したことにより、サイバーハッキングによって引き起こされるテロや誘拐、盗難等による潜在的損害に対処できるよう、自動車メーカー /ネットワークプロバイダ向け保険商品の一部にサイバーリスクなどの新たな補償範囲が盛り込まれるだろう。アンダーライターは、ドライバーレス・カーに関連するこの種のリスクを考慮しておく必要がある。ドライバーレス・カーに対する補償範囲の変化について、当社が予測したものを図4にまとめた。

保険料とアンダーライティングへの影響これまで自動車保険の保険料は、被保険者情報、車両情報、車両使用率、損害履歴などの因子を用いて設定されてきた。迫り来るドライバーレス・カー時代において、これら因子の多くが自動車保険料に影響を与えるが、影響のレベルはそれぞれ異なるだろう。長い時間をかけて、新たな料率設定やアンダーライティングのパラメータが現れることになる。

フェーズⅠ : ドライバー制御車両の料率設定と引受業務への影響車線逸脱警報システムやアンチロック・ブレーキ・システムなどの安全装置は事故の可

フェーズ 時期 補償範囲への影響

Ⅰ制御実体 :ドライバー

現在〜2025年 保険商品構成に変化なし。

Ⅱ 制御実体 :

ドライバー または 車両( 半自律走行 )

2018〜2030

• 手動モードでの運転時には、被保険者である運転者が全補償を必要とするため、保険商品構成に変化はない。

• 自動モード時の総合的な商品構成、および 無保険 / 不十分な保険の運転者向け保険商品構成には変化なし。

• 自動モード時の責任、衝突、医療補償については、自動車メーカーとネットワークプロバイダが購入。

Ⅲ 制御実体 :

車両( 自律走行 )

2022以降• 総合的な商品構成、および 無保険 / 不十分な保険の運転者向け保険商品構成には変化なし。• 自動モード時の責任、衝突、医療補償については、自動車メーカーとネットワークプロバイダ

が購入。

補償範囲の変化

注: 自動運転時に動物と衝突した場合、その損害責任は、自動車メーカーが加入している生産物責任保険(PL 保険)が適用される。追突事故の場合には、被保険者の補償が適用される。

図4

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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 9

能性を軽減してくれるため、通常アンダーライターは、これらに対する割引を提案している。自律走行車の出現に伴い、対物対人保険金請求率が大幅に低減することが期待されている。その結果、自動車保険料も安くなる可能性がある。と同時に、個々の車両の店頭表示価格が上昇することで、保険料が上がることも考えられる。しかしながら、車両コスト高騰による保険料の引き上げ額より、安全性が高まることによる保険料の引き下げ額の方がはるかに大きくなるだろうと当社は予測する。

フェーズⅡ : 半自律走行車の料率設定と 引受業務への影響ドライバーレス・カー時代を迎えると、自動車保険の引受は大きく変わっていくはずだ。まず初めに、保険申込書に変化が現れる。以下のような追加情報が、申込書を通して収集される。

• 車両の自動化レベル

• 車両オペレーティングシステム /ソフトウェア

• 車両ネットワークプロバイダ

現在使用している車両の損害履歴は、ドライバーレス・カーにおける損害予測のよい判断材料にはならないだろう。ドライバーレス・カーが普及し始める最初の数年間は、料率設定における損害履歴の重要度が低くなると見込んでいる。十分な量のデータが収集されると、損害履歴がより大きなパラメータとなり、料率設定における判断要因が少なくなるだろう。アンダーライターも契約や保証条件を書き換え、被保険者の責任を明確に強調し、かつ明確に例外事象との区別を設ける必要に迫られるかもしれない。

また自動モードに対する料率設定については、慣習的要因や高額なオンボードデバイスを除き、既定のネットワークプロバイダや車両オペレーティングシステムの情報と組み合わせて、車両(メーカーモデル)の損害履歴に基づき行われるようになるかもしれない。車両は、シームレスな接続を確保するための可用性に基づいてネットワークを切り替えるため、規定のネットワークが料率設定に影響を及ぼすだろう。制御ネットワークを切り替えるたび、その車両の信頼性が損なわれれば、そのプロバイダを利用する車両の保険料が高くなることも考えられる。車両に適したオペレーティングシステムのテストは、規制当局のガイドラインに沿って、独立した評価機関により徹底的に行われなければならない。ソフトウェアについても、安全性のレベルや差し迫った衝突に対する反応時間に応じてその品質を評価する必要があり、平均的なヒトの反応時間より短い時間で反応することが期待される。個々のオペレーティングシステムの安全性評価に基づき、異なる保険料を設定することが求められる。

テレマティクスは、車両が手動または自動で走行する実時間の算出に使用されることになる。この計算に基づき、保険期間中に保険料が定期的に調整される。自動車メーカーもまた当該車両の被保険利益を有するため、自動 / 手動運転時の情報を収集可能な機器の所有を義務付けられるだろう。よって、料率設定は以下に基づいてなされることになる。

• 手動運転車の料率設定 ( 手動モード時 )

• 自律走行車の料率設定 ( 自動モード時 )

• 契約期間満了時に監査によって調整された保険料 ( 上記2モードに分岐 )

興味深いことに、2018年から2019年までの販売予測に基づき、ドライバーレス・カー

車両コスト高騰による保険料の引き上げ額より、安全性が高まることによる保険料の引き下げ額の方がはるかに大きくなるだろうと当社は予測する。

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技術による車両価格の高騰は、3,000~10,000ドル未満であろうと予測される。車両の価格は当初急騰した後下降するが、これは車両の評価に微々たる影響しか与えない。つまり、車両価格は、長期にわたり、実質上 自動車保険料に影響しないものと目されている。従って、損害の重大性についても、その頻度に伴って減少するだろう。具体的なデータが不足することを考慮すると、保険会社が利用できる広大なデータプールが構築されるまでの数年間は、保険料も料率表を前提としたものになると当社は予測する。

個人向け自動車保険の引受業務に必要となるスキルセットも変化するかもしれない。現在、保険商品とし

ての保証は、特殊保険のアンダーライターによって作成されている。ドライバーレス・カーの保険はいくつかの分野で特殊保険と共通していると見込まれるため、アンダーライターには特殊保険の引受技能が求められるかもしれない。

フェーズⅢ : 自律走行車の料率設定と引受業務への影響 (方向入力、エンジンの始動・停止を除き)人が介入することなく、デフォルトのネットワークプロバイダと車両オペレーティングシステムを併用した車両の損害履歴だけが、保険料設定に影響することになる。年齢、性別、運転歴、違反回数などといったドライバー固有因子は、もはや自動車保険料には何の関係もなくなる。さまざまなオペレーティングシステムの動作をモニタリングするなど、別の理由から引き続きテレマティクスが利用されることも考えられるが、このような機器はもう過去のものとなり、料率設定に影響を与えることはないだろう。

第3フェーズに入るころには、第2フェーズで収集された膨大なデータプールが存在することは確実で、これは、ドライバーレス・カーの損害履歴パターンに関するさらなる洞察を提供してくれるものである。結果として、次のようなことが予測される。

• アンダーライターは相応の確信をもって料率を設定することがきるようになる。

• 高く設定された控除免責額 (Deductable)が軽減され、最終的には削減される。

• 正確かつ大量のデータが収集されることにより、第2フェーズより簡単に保険引受が行なわれるようになる。

自律走行車の安全性に対する規制当局や消費者の信頼が増し、この新たなテクノロジーの普及が急速に進むことにより、この種の車両の価格は第2フェーズより引き下げられ、2035年までには全体の車体価格にわずか3,000ドルを加える程度の費用に落ち着くと見込まれている。その結果、より確かな安全性、事故の軽減、適切なドライバーレス・カーインフラ および 低価格な機器などにより、長い目で見ればドライバーレス・カー向け保険料は引き下げられていくものと思われる。第2

フェーズにおける料率を規制当局側が強制的に設定するような国があれば、保険料率の自由化が起こる可能性がある。結果として保険会社は、自動車保険業界の損害実績ではなく、自社の損害実績に基づいて保険料設定の自由を得るのである。保険引受の役割を担うことになる別の因子として、車両修理サービスが挙げられる。これは認可を受けたサービス業者のみに限定されるだろう。

具体的なデータが不足することを考慮すると、保険会社が利用できる広大なデータプールが構築されるまでの数年間は、保険料も料率表を前提としたものになると当社は予測する。

保険引受の役割を担うことになる別の因子として、車両修理サービスが挙げられる。これは認可を受けたサービス業者のみに限定されるだろう。

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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 11

保険料への影響フェーズ 時期 保険料に関する考慮事項 保険料への影響度

Ⅰ制御実体 :ドライバー 現在〜2025年 新たな安全機能に対する割引

Ⅱ 制御実体 :

ドライバー または 車両( 半自律走行 )

2018 〜2030 当初の保険料は高くなるが、一定期間を経て引き下げられるものと思われる。アンダーライターの判断で、データ不足のリスクを評価。

Ⅲ 制御実体 : 車両

( 自律走行 )2022年以降

高額な車載機器の価格が、フェーズⅡよりさらに下がる。全体的な保険料率はフェーズⅡより安くなる可能性もあるが、フェーズⅠより高くなる。十分なデータプールが構築されたことにより、引受業務はより正確になされるようになる。

クレーム管理への影響ドライバーレス・カーのクレーム管理プロセスには、徹底的な見直しが求められることになるだろう。車両に搭載された自己診断機能を用いて、事故受付 (FNOL)、損害査定、保険金見積(の一部)、および訴訟等に関する多くのステップが撤廃される。クレーム業務にかかる経費は軽減され、その恩恵は最終的に顧客へと還元されるだろう。

第三者機関(自動車メーカー /ネットワークプロバイダ等)が損害事象に対応する事案件数が増加することにより、代位求償事案の増加を引き起こすことになるだろう。主たる保険契約者が加入している保険会社は保険金支払を迅速に処理し、加害者側に接触して損害金額を回収する。

車載の最先端テクノロジー機器の交換にかかる高額な修理費は、車両の廃棄価値(つまり再利用可能な電子部品 + 再利用可能な機械部品の価値)と相まって、サルベージ車 ※を増加させると同時に、修理が減少していくことが予想される。そのため、深刻な損害に際しては容易に「全損」扱いとされる可能性がある。

※《米》サルベージ:車の価値以上の修理費がかかる場合に保険会社が全損扱いで廃車にし、それを下請会社などがまた乗れるようにして再登録された車

ドライバーレス・カー時代には、より正確かつ構造化されたデータが利用可能になることで、車両損害パターンが完全に再定義される。車両損害データは、車両のネットワーク および メーカーモデルと組み合わせて使用される車両オペレーティングシステムによって駆動されると見られている。次章では、ドライバーレス・カーがクレーム管理プロセスに与える影響について予測し、さらに、このような変化を受け入れるために保険会社は何をすべきかについて推察する。今現在すでに第1フェーズに入っているため、第2および第3フェーズに焦点を当てて論述する。

車両損害データは、車両のネットワークおよび メーカーモデルと組み合わせて使用される車両オペレーティングシステムによって駆動されると見られている。

図5

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フェーズⅡ : 半自律走行車のクレーム管理事故発生時、次にあげるようなことを車両が自動的にできるようになるかもしれない。

• 保険会社、および自動車メーカーに事故報告を自動で送信

• 利用可能な最寄りのけん引車サービスを表示 または 当該サービスへ電話連絡

• 自己診断ツールを実行して、保険会社と自動車メーカー宛てに所定の車両属性(車載ソフトウェアのバージョンやその他路上の走行に関する適性)、および損害事象発生時の実際の車両属性について概要を説明する報告書を作成・送信。損害の原因を判断し、メンテナンス不備による保証違反がある場合には保険会社への欠損金支払の義務を負うこともあるため、これは自動車メーカーにとって重要な因子となる。保険金支払は、最終的には各ケースの利点に依存することになるだろう。

• 全体的な一連の損害に関する情報を動画としてドライブレコーダーから収集し、これを保険会社および自動車メーカーと即時に共有。これにより、ある程度の不正請求や訴訟費用を軽減できる。

• 自己診断ツールを実行することで、損害を受けたパーツの交換・修理にかかる必要見積と併せて、保険会社内における損害の評価を可能にする。費用に関する高い予測可能性を提供するだけでなく、これにより修理のスピードアップも図り、ひいては被保険者が車を使用できなくなる期間をさらに短縮する。

以下2つの理由から、フェーズⅡではクレーム管理が大きく変わることが予想される。

• 車両が自動モード、または手動モードのうちいずれのモードで走行していたのかを確認することが重要となる。自動モードで走行していた場合、事故原因が自動車会社の問題によるものか、またはネットワークの問題なのか、判断することが重要となる。

• 技術の進歩に伴い、正確な事故情報を提供できる多種多様なデバイスが求められる。

フェーズⅢ : 自律走行車のクレーム管理フェーズⅢモデル車両については、車が常に自動運転している場合を除き、損害事象はフェーズⅡモデルの自動モードと同様の流れを踏むだろうと見込まれている。損害事象の場合、事故を引き起こした保証違反があったかどうか、トラッキングすることが引き続き重要となる。

クレーム頻度 および(最終的には)重大度の減少に伴い、クレーム管理は大きな混乱が生じる分野になるだろうと当社は確信している。アジャスター、訴訟担当、クレーム処理担当のチームが縮小され、分散型から一元管理型の人員配置モデルへと移行する可能性もある。クレーム調査もまた、高度な技術力を擁する専門家に限定されることになるだろ

フェーズ 時期 クレームへの影響

Ⅰ 制御実体 :ドライバー 現在〜2025

• クレーム、FNOL、調査間における甚大なタイムラグ• 不正が発生しやすい

Ⅱ 制御実体 :

ドライバー または 車両( 半自律走行 )

2018 〜2030

• 運転実体 ( 誰が車を運転していたか)をトラッキング• ブラックボックスからクレーム情報を収集• 事故報告を保険会社へ送信• 自己診断ツールを用いて、保険会社内の損害評価レポート および 実際の車両

属性に対する所定の車両属性の比較を送信• ロードサイドサービスへの通知

Ⅲ 制御実体 : 車両

( 自律走行 )2022年以降 • 運転実体のトラッキングを除き、フェーズⅡモデルで挙げたすべての項目

クレームへの影響(時系列での推移)

図6

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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 13

う。交通事故の場合、事故診断ツールが車両 および 同乗者に関する膨大な量の情報を生成し、これを保険会社に自動転送することが可能となる。これが、技術と効率の両面において、現行業務慣習の現状を打破することになるのだ。

法規制への影響自律走行車には新たなテクノロジーが求められる。しかしながら、既存業界に普及するであろうこの新テクノロジーは、些細なミスが死亡事故を引き起こす可能性がある。そのため、標準オペレーティングモデルの搭載が義務付けられる。保険会社は、標準定義とドライバーマニュアルの改訂を自動車メーカーに求めるだろう。ネバダ州やカリフォルニア州ではドライバーレス・カーがすでに合法化され、「人口知能(A.I)」や「自動運転技術」、「自律走行車」などの関連用語も定義されている。自動車メーカーや保険会社と緊密に協業することにより、近い将来、その他の州もこれに追随するだろう。保険会社は、以下にあげる更なる疑問に対し、答えを出さなければならない。

• ドライバーは誰か?

> これには、1949年のジュネーブ道路交通条約で定められた標準定義に対する変更が必要となってくる。ドライバーの定義は、「道路において車両(自転車を含む)を運転し、もしくは牽引用、積載用 または 乗用に用いられている動物 もしくは家畜の群を誘導する者、またはそれらのものを現実に統御する者」として、第4条に規定されている。誰が車を運転できるのかという点について矛盾がないように、規制当局は運転者の範囲に機械やロボットを明確に含めることを求めるだろう。

• 州ごとのルールとは?

> 全州の車両管理局は、ドライバー、車両所有者、交通ルール、安全運転の手引きなどの情報を提供している。ドライバーレス・カーに対応する上で改訂の必要がある数多くの項目には、運転免許証、所有権、交通規則、スピード制限、シートベルト指針、車両状態、夜間走行、道路共有におけるエチケット等が含まれる。各州の車両管理局では、ドライバーレス・カー用の車両オペレーティングシステム、車両ネットワーク、および 安全運転の手引きを定義することが必要となる。

• 保険申込はどうなるか?

> 取得データには、ドライバーレス・カーの査定に必要となる新たな情報が含まれる。

• 誰が仲裁するか?

> 仲裁人に必要な知識が変化する。資格要件を満たす仲裁人の技術的なノウハウを定義する必要がある。

• どうやって料率を規制するか?

> 過去の損害データが存在しない状況で、規制当局がどのように料率を設定するのか見定めることは興味深い。

• 法規制は時系列でどのように変化していくか?

> 当初数年の間は、自律走行車が使用可能になった時期や地域において当局が規制を加えると思われる。例えば、丘陵地帯や未舗装道路、人口過密地域などにおける、自律走行車の使用を当初 規制当局は許可しないことも考えられる。ドライバーレス・カーの安全性への信頼が実証されるにつれ、これらの規制は緩和されるだろう。

クレーム頻度 および(最終的には)重大度の減少に伴い、クレーム管理は大きな混乱が生じる分野になるだろうと当社は確信している。

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• 倫理上のジレンマにはどう対処するか?

> 事故が避けられない場合、車両は何をすべきか?車両の目的とは、単に同乗者を保護することだろうか? もしくは、たとえ同乗者が死亡しても人的損害の最小化を図ることだろうか?これらの疑問に対して、簡単に答えは見つからない。ドライバーレス・カーが行なった意思決定の過失として、自動車メーカーを何百万ドルの訴訟にさらす可能性があるため、保険会社はこの倫理上の問題を解決しておく必要がある。規制当局の役割は、ここで非常に重要なものとなる。当局は自動車メーカーや倫理学者と協業し、「倫理上のジレンマに陥った場合、ドライバーレス・カーはどのように動作(行動)すべきか」について、ガイドラインを設定することになる。意思決定は保険会社を法的に拘束し、損害事象が発生する場合、保険会社はその手続きが踏襲されていたかどうか検証しなければならない。

ドライバーレス・カーのフェーズ全体を通して、規制当局の活動がどのように発展していくか予想したものが図7である。

事故が避けられない場合、車両は何をすべきか?車両の目的とは、単に同乗者を保護することだろうか?

もしくは、たとえ同乗者が死亡しても人的損害の最小化を図ることだろうか?これらの疑問に対して、簡単に答えは見つからない。

法規制の変遷

フェーズ 時期 法規制の変遷

Ⅰ 制御実体 :ドライバー

現在 〜2025• ドライバーレス・カーを認定し、ジュネーブ道路交通条約や州の車両管理局に従って、車両

の標準定義を改訂• 自動車メーカーが走行試験時に準拠できるよう、最低限の試験項目を設定

Ⅱ 制御実体 :ドライバー または 車両

( 半自律走行 )

2018 〜2030• 保険申込書の追加情報を収集• 自動車保険料率の統制 および 損失分担のための待機車両プールの形成• 迅速な議論に向けた仲裁役の形成

Ⅲ 制御実体 :

車両( 自律走行 )

2022年以降• 保険料率の自由化 および 待機車両プールの解体• 技術の発達に伴い、ガイドラインをさらに発展

図7

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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 15

さらなる道の先には……ドライバーレス・カーが路上を走り回るようになると、保険業界の主たる形勢を破壊することになる。結果として、保険会社は短期 ・ 長期にわたって時代に即した存在であり続けるため、著しい変化への備えを始めておかねばならない。保険会社には、技術の発展を制御することは不可能だ。しかしながら、自律走行車技術に適応することで、未来へ向けて準備することはできる。ドライバーレス・カー時代への備えとして、保険会社は以下のことに注力すべきであると当社は考える。

• 既存の顧客リストを分析し、将来的なターゲットセグメントと移行タイムラインを決定する。

どのような技術にも言えることだが、ドライバーレス・カーの発展は、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)によって定義される。保険会社は自社の顧客リストを分析して、顧客のペルソナを特定し、彼らがいつドライバーレス・カーに移行する可能性があるか判断する必要がある。以下にいくつかの例を挙げる。

> 顧客リストのうち70%が個人富裕層の場合、半自律走行車向け自動車保険の商品開発にすぐにでも着手する必要がある。

> 顧客リストのうち多くが全米退職者協会 (AARP)の会員である場合、次のような選択肢が考えられる。

» 一つ目の選択肢は、これらのターゲット顧客は半自律・完全自律走行車の購入を見合わせる可能性があるため、自律走行車向け自動車保険の商品開発を数年遅らせる。

ニッチ市場ドライバーレス・カー向け保険市場がニッチ市場となる。

補償の要否これは、ドライバーレス・カー普及率が低い場合のシナリオ。この場合、自動車メーカーがドライバーレス・カーに対する補償を提供すると見込まれている。

保険会社が補償サービスを提供自動車メーカーが次世代保険を提供する一方、従来型の自動車保険は陳腐化する可能性がある。保険会社が自動車メーカー向け保険事業に対応する必要性が生じるかもしれない。

判断大手保険会社はこのニッチ市場を無視すべきか、それとも自社商品種目に加えるべきか?

判断

保険会社による補償

自動車メーカーによる補償

保険会社はこの市場へ参入し、調査・人材雇用・新商品の開発 / 試行を他社に先駆けて実践するなど、イノベーションに向けた組織の機敏性に主眼を置くべきか?

判断個人向け保険会社は、この市場のニーズに応じた特殊な補償サービスをどのような形で提供できるか?

判断保険会社は、顧客向け商品を提案すべきか、それとも自動車メーカー向け商品を提案すべきか?

斬新な保険商品従来の保険会社において、ドライバーレス・カー分野のサービス提供が十分に発達する。

低 高ドライバーレス・カー普及率

将来的な可能性ドライバーレス・カーの未来は多くの変数によって形作られるが、その予見は極めて難しい。 下図は、2つの変数に基づき想定される将来的なシナリオを表している。

図8

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» 別の選択肢は、ターゲット顧客を変更することである。少々極端に聞こえるが、これも必要な措置かもしれない。ドライバーレス・カー(自律走行車)の出現までに、保険会社は、半自律走行車市場におけるソートリーダー(思想的リーダー)としての地位を確立し、自律走行自動車保険の信頼できる情報源となっているかもしれない。自律走行技術の完成を待って行動をおこさなかった保険会社は、自社の顧客たちがアーリーアダプターでなかったとしても、これらの顧客を失うことになるかもしれない。

• シナリオに基づくアクションプランを策定する - 未来に関することは、常に予測不能の代償を伴うものである。ドライバーレス・カーは広く普及すると見込まれているが、保険会社において別の可能性に対する備えができていれば、より適切に物事が運ぶだろう。技術の発展や採用とそれによる保険会社への影響により、保険会社が予測・評価し備えた多様な成果がもたらされる。図8は、2つの異なる次元(「ドライバーレス・カー普及率」および「保険提供の事業体」)から、考えられる成果を表したものである。

• 商品戦略を策定する - 保険会社が適切な商品 /マーケティングミックスを確立するには、イノベーションにおける敏捷性の獲得を目指すことが求められる。例えば、商品戦略には補償の決定、補償条件、商品バージョン、および 顧客プロファイルマッピングなどが含まれることになるだろう。初期段階においては、顧客のドライバーレス・カーに関する損害履歴が存在しないため、保険会社は革新的な料率設定方法を確立しなければならなくなる。少し遅らせて保険商品を発売すると決めた場合、判定評価に代わって利用可能な損害履歴を活用できる。

• パートナー ・エコシステムを形成する - ドライバーレス・カーの安全性と普及率は、自動車メーカー、保険会社、規制当局、政府機関省庁 および 技術企業各社から成るコネクテッド・エコシステムに依存する。保険会社はピークに乗り遅れることのないよう、これらのパートナーシップを事前に構築しておく必要がある。

収集データ : 運転パターン、事故データ /

車両診断、ジェイルブレイク・アラート、マルウェア・アラート

提供データ / サービス: 運転制御/ナビゲーション、車両緊急通報、

ソフトウェア更新、道路状況/気象警報

収集データ : -

自動車メーカー

規制当局 保険会社ドライバーレス・カー

• 監督機関は、自動車メーカーに道路状況や気象に関するデータを提供。メーカーはこれらのデータを分析し、車両に対する適宜のアラート発信やナビゲーションに活用

• 関係省庁は、セキュリティ / サイバー脅威に関するデータを自動車メーカーに提供

• 関係省庁が規則や規制を設定する上での一助となるよう、自動車メーカーは監督機関に運転データや事故統計を提供

• 加害者の判定に役立てるため、自動車メーカーと保険会社間において事故データを共有

• 保険会社は基本運転データを受信し、付加価値の高いインフォテインメント・サービスを提供

• 保険会社は法規制の更新に対応し、これに関連する詳細情報を自動車メーカーに提供

安全統計、道路状況、ネットワークセキュリティ/脅威、緊急事態警報提供データ / サービス : 緊急サービス

収集データ : 自動モード/手動モード時走行距離、位置データ、事故データ、車体メンテナンス統計

提供データ/サービス : 付加価値サービス/インフォテインメント、保険満期通知

ドライバーレス・カーのパートナーシップ・エコシステム

図9

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ドライバーレス・カー : 今、保険会社にとって転換のとき 17

• データを収集、処理、活用する - パートナー ・エコシステムが発達すると、保険会社はドライバーレス・カーや規制当局、技術企業などからデータを受信することになる。これらのデータを収集・処理し、関連した分析情報をエコシステムに投げ返すためのデータセンターを設置する必要があるかもしれない。規制当局や技術企業では、データの集約、データサイエンスの実施、さらに安全性を高める方法の決定を行なう。

• 保険商品を開発、試行する - 保険会社がドライバーレス・カー市場向けに斬新な保険商品を開発した時点で、その商品をテストマーケットで試行する必要がある。その際、ドライバーレス・カーの法整備が進んでいる州をテストマーケットとして選択すべきである。

ネバダ州、フロリダ州、カリフォルニア州、ミシガン州といったドライバーレス・カー先進州が、すでに候補として上がっている。この先数年でシナリオに変化が生じない限り、これらの州は絶好のテストマーケットとなり得る。

コントロール型テストマーケットからの市場反応、および関連するエコシステムからのデータは、ドライバーレス・カー市場での成功に向けて保険商品を洗練させる上での一助となるだろう。

保険会社は新商品を開発し、これを試験的なマーケットで発売するものの、当初はその保険商品が失敗するかもしれないという事実を受け入れなければならない。テクノロジーが急速に発達することで、消費者の行動や期待が変化し、保険商品もまた進化を遂げていく。保険会社が旧態を脱し、より一層イノベーションに主眼を置くようになるには、ドライバーレス・カー ・エコシステムに関わる数多くの組織や人々が一体となり、考え方を転換していくことが求められている。

脚注1 ”SAVING LIVES — Improved Vehicle Designs Bring down Death Rates,” Insurance

Institute for Highway Safety Highway Loss Data Institute, January 29, 2015, http://www.iihs.org/iihs/sr/statusreport/article/50/1/1.

2 ”Self-Driving Cars Moving into the Industry’s Driver’s Seat,” January 2014, http://press.ihs.com/press-release/automotive/self-driving-cars-moving-industrys-drivers-seat.

3 Vlasic, Bill, “U.S. Proposes Spending $4 Billion on Self-Driving Cars,” The New York Times, January 14, 2016, http://www.nytimes.com/2016/01/15/business/us-propos-es-spending-4-billion-on-self-driving-cars.html.

4 Average Age of Automobiles and Trucks in Operation in the United States, Office of the assistance secretary for research and technology, http://www.rita.dot.gov/bts/sites/rita.dot.gov.bts/files/publications/national_transportation_statistics/html/table_01_26.html_mfd.

参考文献• “U.S. Department of Transportation Releases Policy on Automated Vehicle

Development,” National Highway Traffic Safety Administration, May 30, 2013, http://www.nhtsa.gov/About+NHTSA/Press+Releases/U.S.+Department+of+ Transportation+Releases+Policy+on+Automated+Vehicle+Development.

• “Fatality Facts – State by State,” Insurance Institute for Highway Safety, Highway Loss Data Institute, http://www.iihs.org/iihs/topics/t/general-statistics/fatality-facts/state-by-state-overview.

ネバダ州、フロリダ州、カリフォルニア州、ミシガン州といったドライバーレス・カー先進州が、すでに候補として上がっている。この先数年でシナリオに変化が生じない限り、これらの州は絶好のテストマーケットとなり得る。

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18 KEEP CHALLENGING August 2016

• “Emerging Technologies: Autonomous Cars – Not If, But When,” IHS Automotive, January 2014.

• “Auto Insurance COSTS AND EXPENDITURES,” Insurance Information Institute, http://www.iii.org/fact-statistic/auto-insurance.

• “Convention on Road Traffic,” United Nations Treaty Collection.

• “Will You Ever Be Able To Afford A Self-Driving Car?,” Fast Company, January 31, 2014, http://www.fastcompany.com/3025722/will-you-ever-be-able-to-afford-a-self-driving-car.

著者紹介Ramanujam Venkatesan

(コグニザント・ビジネスコンサルティング事業部 保険部門 ディレクター)損害保険業界を専門とし、保険引受 / 契約管理グループを統括。北米、欧州、アジア太平洋地域の数多くの保険会社にてコンサルティング実績を有する。インド経営大学校インドール校にてMBA 取得。[email protected] | LinkedIn: https://www.linkedin.com/pub/ramanujam-ram-venkatesan/1/7b1/b27

Abhishek Jha is a Business (コグニザント・ビジネスコンサルタント事業部 保険部門 ビジネスアナリスト)損害保険業界、特に法人向け保険に特化し、イギリス、南米、アジア太平洋地域の保険会社やブローカーと幅広く協業。ナショナル インシュランス アカデミー経営大学校 プネー校にて経営学修士課程を修了。米国認定損害保険士協会 ならび インド保険協会の会員資格を保持。[email protected] l LinkedIn: https://linkedin.com/in/abhishek-jha-15535915.

Anurag Goyal

(コグニザント・ビジネスコンサルティング事業部 保険部門 シニアコンサルタント)損害保険分野の業務 / ITコンサルティングで8年の経験。保険引受、料率設定、契約管理など多岐にわたる業務 / 技術上の問題について、個人 / 法人向け保険会社の経営陣にアドバイスを提供。[email protected] | LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/anurag-goyal-b5725b10.

Puneet Bhatt

(コグニザント・ビジネスコンサルティング事業部 保険部門 シニアコンサルタント)損害保険業界におけるビジネスコンサルティング、およびプログラムマネジメントで 9年の実績。NMIMS 経営大学院にて金融学修士課程を修了。[email protected] | Linkedin: https://www.linkedin.com/in/puneet-bhatt-14b74299.

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