DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を...

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Page 1: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

文章の理解を深めよう

「鹿し

おどし」と「噴水」とを比較して考えよう。

1「なんとなく人生のけだるさのようなものを感じる」(46・1)とあるが、それは「鹿お

どし」のどのようなことからですか。本文中からあてはまる部分を二箇所抜き出しなさい。

2「こおんと、くぐもった優しい音」(46・5)を、①別な表現で表した言葉を、本文中か

ら五字で抜き出しなさい。また、②これはどういうことを強調するのか、本文中から十字

で抜き出しなさい。

①[

②[

3「それ」(46・10)とは、何を指していますか。本文中から五字で抜き出しなさい。

4「流れる水と、噴き上げる水」(47・9)とは、それぞれ具体的に何を指していますか。

流れる水

噴き上げる水

5「エステ家の別荘」の噴水の印象を述べた一文を本文中から抜き出し、初めの五字を記し

なさい。

6「時間的な水と、空間的な水」(49・4)とは、それぞれ具体的に何を指していますか。

時間的な水

空間的な水

7「鹿おどし」と「噴水」の違いを説明した次の文章の空欄に、あてはまる言葉をあとから

選び、記号で答えなさい。

「鹿おどし」は、それが刻む

によって、人に

を感じさせる。「噴水」は、

によって、見る人に

を感じさせる。

趣向を凝らした造形

間接的に流れるもの

直接空間

単純で緩やかなリズム

①[

②[

③[

④[

指導資料 現代文教材

₅₂

指導資料 表現教材

₆₄

指導資料

古文教材

₇₀

指導資料

漢文教材

₇₈

指導資料

資料編

₈₂

付属DVD‒

ROM収録教材

₈₄

明解国語総合﹇改訂版﹈

DP02_責了

 一部の教材について、朗読を収録した音声CDです。

 ◆収録教材例

 日本語の響き

〈現代文編〉

 羅生門

 旅上

 サーカス

 I was born

 崖

〈古典編〉

 伊勢物語 芥川/筒井筒

 漢詩   春暁/静夜思/江雪/送元二使安西/

      黄鶴楼送孟浩然之広陵/涼州詞/春望/

      登岳陽楼/香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁

※その他、学習に役立つさまざまな音声を収録予定です。

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Page 2: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

 「下人」や「老婆」が置かれた状況を、描かれた時代や社会状況の具体的

な叙述から捉え、主人公たちの行為の意味を読み解かせる。

 また、比喩や文章の技巧がもたらしている効果や、物語の始まりから結

末にいたる時間的な構成や空間的な構造が表現しているものについても感

じ取らせたい。

教材文の概要

◉作者

芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)

 小説家。一八九二(明治二五)年、三月一日、東京都の生まれ。辰年辰月

辰日の辰の刻生まれにちなんで龍之介と命名された。父四十二歳、母三十三

歳の大厄の年の子のため、旧習に従い、形だけの捨て子にされた。生後八か

月ごろ、生母ふくが突然発狂したため、母方の実家、芥川家に引き取られ、

のち、養子となった。芥川家は下町的な旧家で、家族全員が文学や美術を好

んだ。江東小学校、府立第三中学校を経て、成績優秀により、無試験で第一

高等学校に入学。同級には久米正雄・菊池寛・山本有三・松岡譲・土屋文明・

恒藤恭などがおり、後の文学仲間との出会いともなった。

 一九一三(大正二)年、東京帝国大学英文科に入学。久米・菊池らと親交

を結び、翌年、第三次「新思潮」を創刊。処女作「老年」、戯曲「青年と死」

などを発表。一九一五年十一月、「帝国文学」に「羅生門」を発表したが、文

壇の注目を浴びるにはいたらなかった。翌年、第四次「新思潮」を創刊。そ

れに載せた「鼻」が夏目漱石に激賞された。また、同年、「芋粥」「手巾」を

中央の雑誌に発表、新進作家としての地位が確立された。翌年五月、第一短

編集『羅生門』が刊行される。

 一九一八(大正七)年、塚本文と結婚。翌年には大阪毎日新聞に入社し、

小説を連載、田端の住居の書斎を「我鬼窟」と号して文筆生活に入る。一九

一九(大正八)年刊行の短篇集『傀儡師』に「奉教人の死」「地獄変」などが

収められた。このころから短篇作家としての評価が定着、人気作家となる。

一九二〇(大正九)年、『影燈籠』、翌年『夜来の花』を刊行。一方大阪毎日

新聞の海外視察員として中国を旅行したが、このころには文壇的名声とは裏

腹に、かなりの疲労と倦怠に追いこまれ、苦悩の日々を送っていた。こうし

た中にあって、「秋」「舞踏会」「藪の中」などを発表。

 一九二三(大正一二)年、健康を損ねて湯河原に湯治。このころ、民衆芸

術論やプロレタリア文学の台頭の中で、同年五月発表の「保吉の手帳から」

をはじめとする、身辺に取材した一連の保吉物といわれる作品に創作手法の

転換を図った。翌一九二四年、軽井沢に滞在し、社会主義関係の文献を読む。

しかし、神経衰弱、胃腸病、不眠症、痔疾などで心身は衰えを見せ、創作は

低調となった。翌年、自己の半生を振り返った新しい作風の「大導寺信輔の

半生」を発表。

 一九二七(昭和二)年、義兄の放火嫌疑による自殺の事後処理に奔走し、

神経衰弱はますます悪化する。そんな中で、彼は最後の力を振り絞って「玄

鶴山房」「河童」「歯車」などを執筆。また、聖書に接近し、「西方の人」およ

び絶筆となった「続西方の人」と、独創的なイエス論を発表した。同年七月

二十四日、田端の自宅で睡眠剤の致死量を仰いで自殺。享年三十五歳であっ

た。

(略年譜は307ページ参照。)

◉出典

 『芥川龍之介全集

 第一巻』(一九七七年・岩波書店)による。

 初出は雑誌「帝国文学」(一九一五年十一月号)で、その後、第一短編集

『羅生門』(一九一七年・阿蘭陀書房)に収録の際、改訂が施され、さらに『新

興文藝叢書第八編

 鼻』(一九二〇年・春陽堂)に採録されるにあたって末尾

259 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 259 13.1.31 3:32:02 PM

羅生門

◆芥川龍之介

小説三

教材採録の意図

◉採録のねらい

恐らく戦後、これほど高校生に読まれてきた小説はないであろう。今の高

校生の親の世代もほとんどが授業で読んだ経験をもっているはずである。

しかし、社会の混乱の極限状況において、「盗み」という悪を生活のために

は許容する、といった反倫理的とも思えるこの作品が、なぜこれほどまでに

長い命を保ってきたのであろうか。

「羅生門」の主人公である「下人」は、家も仕事もお金も恋人も友人も、何

ももたず、ただ「太刀」だけを持たされ、永年勤めた主人から解雇された。

その「下人」が「羅生門」の楼上で老婆と出会い、「下人」は刃を突きつけて

老婆の行動の意味を問う。何ももたない「下人」が執拗に問い続けるのは、

「意味」である。死体の髪の毛を抜く老婆は、「生きるためにはしかたがない

こと。」と答える。そして「(この女も)大目に見てくれるであろ。」という弱

者同士の相互許容の論理。「下人」は冷ややかな侮蔑をもって老婆の着物をは

ぎ取り、京の町の混沌へと向かって夜の闇の中へと駆け下りる。「下人」は老

婆の言葉によって、あれほど憎悪した老婆そのものに生まれ変わった。それ

は歪んだ形とはいえ、少年である下人にとっては、大人になるための、社会

に出て行くための通過儀礼であったのだ。

戦後ヒューマニズムの世界で、「人間性」が称揚される一方、「人間性」や

「善悪」自体を瓦解させ、問い返す「羅生門」的世界、いやそれをも凌ぐ修羅

の世界は、第二次世界大戦の終結の後でも消えることはない。戦争、核、テ

ロ、民族紛争、あるいは「いじめ」「虐待」の横行と、むしろ日常が「羅生

門」化しているとさえ言えるかもしれない。そういう意味で「羅生門」は現

代の私たちにも強く訴える力を持っている。

「羅生門」を、すべてを失った若者が、人間性や人間社会の「意味」を問い

返す現代の物語として、また私たち自身の変革の物語として読みたい。「下

人」の心のありようを読み解いていけば、作品に描かれた、荒廃した「羅生

門」の姿は、現代日本の都市の中枢に、大きく影のように浮かび上がって来

るであろう。

◉学習のねらい

・追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

・場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉え

る。

主人公である「下人」がどういう境遇に置かれているのか、どのような時

代に生きているのかなど、「下人」がある考え方に至り、行動へと赴く上での

基本的な情報を文章から的確に読み取り、深い理解へとつなげていく。

◉学習指導のポイント

・場面の推移に従い、登場人物の心情や行動がどのような表現で描かれてい

るか、理解する。

・描かれた人物、情景、心情などを表現に即して読み、場面の推移や人物の

心理の変化を把握するとともに、ここに描かれている人物や状況が意味す

るものは何か、理解する。

・文章の構成を捉え、比喩などの表現技巧を文脈の中で理解する。

小説三 羅生門 258

D2-13_羅生門.indd 258 13.1.31 3:32:02 PM53

明解国語総合

◎作者(筆者)の肩書き・業績・作風・著作などについて解説しました。 適宜略年譜も掲載しました。

◎教科書採録本文の出典を示しました。書名・発行年・

 出版社に加え、必要に応じて解説を加えました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 53 2016/03/25 15:50

「下人」や「老婆」が置かれた状況を、描かれた時代や社会状況の具体的

な叙述から捉え、主人公たちの行為の意味を読み解かせる。

また、比喩や文章の技巧がもたらしている効果や、物語の始まりから結

末にいたる時間的な構成や空間的な構造が表現しているものについても感

じ取らせたい。

教材文の概要

◉作者

芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)

小説家。一八九二(明治二五)年、三月一日、東京都の生まれ。辰年辰月

辰日の辰の刻生まれにちなんで龍之介と命名された。父四十二歳、母三十三

歳の大厄の年の子のため、旧習に従い、形だけの捨て子にされた。生後八か

月ごろ、生母ふくが突然発狂したため、母方の実家、芥川家に引き取られ、

のち、養子となった。芥川家は下町的な旧家で、家族全員が文学や美術を好

んだ。江東小学校、府立第三中学校を経て、成績優秀により、無試験で第一

高等学校に入学。同級には久米正雄・菊池寛・山本有三・松岡譲・土屋文明・

恒藤恭などがおり、後の文学仲間との出会いともなった。

一九一三(大正二)年、東京帝国大学英文科に入学。久米・菊池らと親交

を結び、翌年、第三次「新思潮」を創刊。処女作「老年」、戯曲「青年と死」

などを発表。一九一五年十一月、「帝国文学」に「羅生門」を発表したが、文

壇の注目を浴びるにはいたらなかった。翌年、第四次「新思潮」を創刊。そ

れに載せた「鼻」が夏目漱石に激賞された。また、同年、「芋粥」「手巾」を

中央の雑誌に発表、新進作家としての地位が確立された。翌年五月、第一短

編集『羅生門』が刊行される。

一九一八(大正七)年、塚本文と結婚。翌年には大阪毎日新聞に入社し、

小説を連載、田端の住居の書斎を「我鬼窟」と号して文筆生活に入る。一九

一九(大正八)年刊行の短篇集『傀儡師』に「奉教人の死」「地獄変」などが

収められた。このころから短篇作家としての評価が定着、人気作家となる。

一九二〇(大正九)年、『影燈籠』、翌年『夜来の花』を刊行。一方大阪毎日

新聞の海外視察員として中国を旅行したが、このころには文壇的名声とは裏

腹に、かなりの疲労と倦怠に追いこまれ、苦悩の日々を送っていた。こうし

た中にあって、「秋」「舞踏会」「藪の中」などを発表。

一九二三(大正一二)年、健康を損ねて湯河原に湯治。このころ、民衆芸

術論やプロレタリア文学の台頭の中で、同年五月発表の「保吉の手帳から」

をはじめとする、身辺に取材した一連の保吉物といわれる作品に創作手法の

転換を図った。翌一九二四年、軽井沢に滞在し、社会主義関係の文献を読む。

しかし、神経衰弱、胃腸病、不眠症、痔疾などで心身は衰えを見せ、創作は

低調となった。翌年、自己の半生を振り返った新しい作風の「大導寺信輔の

半生」を発表。

一九二七(昭和二)年、義兄の放火嫌疑による自殺の事後処理に奔走し、

神経衰弱はますます悪化する。そんな中で、彼は最後の力を振り絞って「玄

鶴山房」「河童」「歯車」などを執筆。また、聖書に接近し、「西方の人」およ

び絶筆となった「続西方の人」と、独創的なイエス論を発表した。同年七月

二十四日、田端の自宅で睡眠剤の致死量を仰いで自殺。享年三十五歳であっ

た。

(略年譜は307ページ参照。)

◉出典

『芥川龍之介全集

第一巻』(一九七七年・岩波書店)による。

初出は雑誌「帝国文学」(一九一五年十一月号)で、その後、第一短編集

『羅生門』(一九一七年・阿蘭陀書房)に収録の際、改訂が施され、さらに『新

興文藝叢書第八編

鼻』(一九二〇年・春陽堂)に採録されるにあたって末尾

259 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 259 13.1.31 3:32:02 PM

羅生門

◆芥川龍之介

小説三

教材採録の意図

◉採録のねらい

 恐らく戦後、これほど高校生に読まれてきた小説はないであろう。今の高

校生の親の世代もほとんどが授業で読んだ経験をもっているはずである。

 しかし、社会の混乱の極限状況において、「盗み」という悪を生活のために

は許容する、といった反倫理的とも思えるこの作品が、なぜこれほどまでに

長い命を保ってきたのであろうか。

 「羅生門」の主人公である「下人」は、家も仕事もお金も恋人も友人も、何

ももたず、ただ「太刀」だけを持たされ、永年勤めた主人から解雇された。

その「下人」が「羅生門」の楼上で老婆と出会い、「下人」は刃を突きつけて

老婆の行動の意味を問う。何ももたない「下人」が執拗に問い続けるのは、

「意味」である。死体の髪の毛を抜く老婆は、「生きるためにはしかたがない

こと。」と答える。そして「(この女も)大目に見てくれるであろ。」という弱

者同士の相互許容の論理。「下人」は冷ややかな侮蔑をもって老婆の着物をは

ぎ取り、京の町の混沌へと向かって夜の闇の中へと駆け下りる。「下人」は老

婆の言葉によって、あれほど憎悪した老婆そのものに生まれ変わった。それ

は歪んだ形とはいえ、少年である下人にとっては、大人になるための、社会

に出て行くための通過儀礼であったのだ。

 戦後ヒューマニズムの世界で、「人間性」が称揚される一方、「人間性」や

「善悪」自体を瓦解させ、問い返す「羅生門」的世界、いやそれをも凌ぐ修羅

の世界は、第二次世界大戦の終結の後でも消えることはない。戦争、核、テ

ロ、民族紛争、あるいは「いじめ」「虐待」の横行と、むしろ日常が「羅生

門」化しているとさえ言えるかもしれない。そういう意味で「羅生門」は現

代の私たちにも強く訴える力を持っている。

 「羅生門」を、すべてを失った若者が、人間性や人間社会の「意味」を問い

返す現代の物語として、また私たち自身の変革の物語として読みたい。「下

人」の心のありようを読み解いていけば、作品に描かれた、荒廃した「羅生

門」の姿は、現代日本の都市の中枢に、大きく影のように浮かび上がって来

るであろう。

◉学習のねらい

・追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

・場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉え

る。

 主人公である「下人」がどういう境遇に置かれているのか、どのような時

代に生きているのかなど、「下人」がある考え方に至り、行動へと赴く上での

基本的な情報を文章から的確に読み取り、深い理解へとつなげていく。

◉学習指導のポイント

・場面の推移に従い、登場人物の心情や行動がどのような表現で描かれてい

るか、理解する。

・描かれた人物、情景、心情などを表現に即して読み、場面の推移や人物の

心理の変化を把握するとともに、ここに描かれている人物や状況が意味す

るものは何か、理解する。

・文章の構成を捉え、比喩などの表現技巧を文脈の中で理解する。

小説三 羅生門 258

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明解国語総合

現代文教材

教材採録の意図/教材文の概要︵作者/出典︶

◎教材採録のねらいを具体的に記し、学習のねらい、 指導のポイントなどをまとめました。

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Page 3: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

せない自由な読みが保証される必要がある。

◉表現の特色────────────────────────────

 構成

羅生門の下で途方にくれていた主人公である下人が、羅生門の楼の上で老

婆と出会い、それを契機にまた、楼から駆け下りて闇の中へと消えていく。

羅生門の楼上という異空間(境界)を通過することで変貌を遂げる下人の姿

を、①門の下→②楼の上→③門の外という場の転換によって描き出している。

 比喩

下人の変貌を決定づける「老婆」を中心に、「猿の親が猿の子のしらみを

取るように」「肉食鳥のような、鋭い目」「からすの鳴くような声」「蟇のつ

ぶやくような声」など、気味の悪い動物の直喩を多用することにより、極限

状況の中で理性や人間性を失い、まさに獣のように生きるしかない人間の生

のありようを、読者の感性に直接的に訴えかけている。

また、この作品では直喩、暗喩、擬人法の他にも、提喩、換喩等、多様な

比喩表現に特色がある。

 心象風景

「門の上の空が、夕焼けで赤くなる時には、それ(からす)がごまをまい

たように、はっきり見えた。」のように、血のような夕焼けの赤と死骸をね

▪羅生門の下で途方にくれる下人

平安時代末期の、ある日の暮れ方、一人の暇を出された下人が羅生門の下で雨やみを待っていた。途方にくれた下

人は、羅生門に一夜の宿を借りようと楼の上へ上るはしごに足をかけた。

第一段

 落

  意

はじめ〜175・4「下の段へ

踏みかけた。」

ページ・行

◉全体の構成

 段落分けと大意(場面から四段落に分けた場合)─────────────────────────────────────────

▪羅生門の上で、下人は老婆と出会う

はしごを上った下人は、楼の上に一人の老婆を見つける。死人の髪の毛を抜く老婆の姿を憎悪し、下人はあらゆる

悪に対する反感を炎のように燃え上がらせた。

第二段

175・5「それから、何分か

の」〜178・8「忘れている

のである。」

▪下人は老婆を問いただし、その弁明を聞く

老婆をねじ倒した下人は、太刀を突きつけ、髪の毛を抜いていた理由を問いただす。老婆は「かつらを作るのじゃ」、

そしてこれも「生きるためにはしかたがないこと」と弁明する。

第三段

178・9「そこで、下人は、」

〜181・11「意味のことを言っ

た。」

▪下人は決断し、夜の闇に消えていく

下人は老婆の話を聞き終わると、「きっと、そうか。」と嘲るように念を押し、老婆の着物を剝ぎ取り、蹴倒して夜

の闇の中へと消えていく。

第四段

181・12「下人は、太刀を」

〜終わり

明解P02-50.indd 5 12/03/14 21:03

の一文等が改訂され、現行の形となった。

 教科書掲載にあたり、表記の統一のために一部表記の変更を行ったほかに

は、原文との異同はない。

◉小・中学校教科書での取扱い  

 芥川の作品は、小中学校の教科書では次のものが採録されている。

〈小学校〉

 平成23年度版俳句……東京書籍3年下、教育出版3年下

       「杜子春」……教育出版6年下

       「仙人」……三省堂6年

〈中学校〉

 平成18年度版「トロッコ」……三省堂1年

       東京書籍3年

 平成24年度版「トロッコ」……三省堂1年、東京書籍1年、教育出版1年

       「蜘蛛の糸」……教育出版1年

       「少年

─海」……学校図書3年

◉大意   平

安末のある日の暮れ方、荒れ果てた羅生門の下で、暇を出された一

人の下人が、雨やみを待ちながら、どうにもならない明日の生活を思っ

て途方に暮れていた。ともかく夜を明かそうと楼へ上った下人は、そこ

で死体の髪の毛を抜く老婆と出会う。老婆をねじ倒した下人はその行為

の意味を問いただすが、「生活のためにはしかたがない。」と答える老婆

に「きっと、そうか。」と念を押すと、老婆の着物をはぎ取り、夜の闇の

中へ逃走した。(二〇〇字)

【二〇〇字】

 平安末のある日の暮れ方、荒れ果てた羅生門で夜を明かそうとした一

人の下人は、楼上で死体の髪の毛を抜く老婆と会う。老婆をねじ倒した

下人は、老婆の言葉を聞いた後、その着物をはぎ取って夜の闇の中へと

逃走した。(一〇〇字)

◉主題についての考察  

 「羅生門」は輻輳したコードからなる多義的な意味を包含するテクストであ

り、それぞれの読者の読みによって全く異なる世界が開けてくる。したがっ

てその「主題」や「意味内容」に関しては諸説ある。

 古くは「下人の心理の推移を主題とし、あわせて生きんがために、各人各

様に持たざるを得ぬエゴイズムをあばいている。」とした吉田精一説がある

が、三好行雄はそれを進めて「エゴイズムなどという概念では決して律しき

れない

─日常的な救済をすべて断たれた存在悪のかたち」を下人の姿に見、

それを「人間存在そのものが永遠に担いつづけなければならぬ痛み」である、

とした。「人間内部における矛盾の並存という命題」によって書かれたとする

駒尺喜美の説。そして闇に消えていく下人にむしろ積極的な意味を見出し、

「己を緊縛するものからの解放の叫び」に主題を見る関口安義の見方もある。

結末部分で作者が行った改稿もまた読みに大きな影響を与えており、その是

非に関してもさまざまな見解がある。吉田俊彦は、上記の関口の説を踏まえ、

初稿における結末部の「京都の町へ強盗を働きに急」ぐ下人の姿の中に「『他

者中心』の抑圧体制からの人間解放」を目指す作者の意気込みを見、しかし

それを、「下人の行方は誰も知らない」と改稿せざるを得なかった芥川の中に

「底知れない存在不安」を克服しえなかった闇を見いだしている。また新しく

は、「語り手」(書き手)に注目し、「下人の行方はだれも知らない」と改稿さ

れた結末部において、「語り手」が、sentim

entalisme

を振り捨て、荒ぶる世

【一〇〇字】

小説三 羅生門 260

D2-13_羅生門.indd 260 13.1.31 3:32:02 PM55

明解国語総合

◎字数制限を付加して、大意(要旨)を掲載しました。 字数制限は、二〇〇字・一〇〇字を原則としました。

◎文体や修辞など、作品の表現上の 特色を解説しました。

◎教材文全体を意味上の段落に分けて表組みで示し、

 段落ごとに大意(要旨)をまとめ、小見出しをつけました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 55 2016/03/25 15:50

せない自由な読みが保証される必要がある。

◉表現の特色────────────────────────────

 構成

羅生門の下で途方にくれていた主人公である下人が、羅生門の楼の上で老

婆と出会い、それを契機にまた、楼から駆け下りて闇の中へと消えていく。

羅生門の楼上という異空間(境界)を通過することで変貌を遂げる下人の姿

を、①門の下→②楼の上→③門の外という場の転換によって描き出している。

 比喩

下人の変貌を決定づける「老婆」を中心に、「猿の親が猿の子のしらみを

取るように」「肉食鳥のような、鋭い目」「からすの鳴くような声」「蟇のつ

ぶやくような声」など、気味の悪い動物の直喩を多用することにより、極限

状況の中で理性や人間性を失い、まさに獣のように生きるしかない人間の生

のありようを、読者の感性に直接的に訴えかけている。

また、この作品では直喩、暗喩、擬人法の他にも、提喩、換喩等、多様な

比喩表現に特色がある。

 心象風景

「門の上の空が、夕焼けで赤くなる時には、それ(からす)がごまをまい

たように、はっきり見えた。」のように、血のような夕焼けの赤と死骸をね

▪羅生門の下で途方にくれる下人

平安時代末期の、ある日の暮れ方、一人の暇を出された下人が羅生門の下で雨やみを待っていた。途方にくれた下

人は、羅生門に一夜の宿を借りようと楼の上へ上るはしごに足をかけた。

第一段

 落

  意

はじめ〜175・4「下の段へ

踏みかけた。」

ページ・行

◉全体の構成

 段落分けと大意(場面から四段落に分けた場合)─────────────────────────────────────────

▪羅生門の上で、下人は老婆と出会う

はしごを上った下人は、楼の上に一人の老婆を見つける。死人の髪の毛を抜く老婆の姿を憎悪し、下人はあらゆる

悪に対する反感を炎のように燃え上がらせた。

第二段

175・5「それから、何分か

の」〜178・8「忘れている

のである。」

▪下人は老婆を問いただし、その弁明を聞く

老婆をねじ倒した下人は、太刀を突きつけ、髪の毛を抜いていた理由を問いただす。老婆は「かつらを作るのじゃ」、

そしてこれも「生きるためにはしかたがないこと」と弁明する。

第三段

178・9「そこで、下人は、」

〜181・11「意味のことを言っ

た。」

▪下人は決断し、夜の闇に消えていく

下人は老婆の話を聞き終わると、「きっと、そうか。」と嘲るように念を押し、老婆の着物を剝ぎ取り、蹴倒して夜

の闇の中へと消えていく。

第四段

181・12「下人は、太刀を」

〜終わり

明解P02-50.indd 5 12/03/14 21:03

の一文等が改訂され、現行の形となった。

 教科書掲載にあたり、表記の統一のために一部表記の変更を行ったほかに

は、原文との異同はない。

◉小・中学校教科書での取扱い  

 芥川の作品は、小中学校の教科書では次のものが採録されている。

〈小学校〉

 平成23年度版俳句……東京書籍3年下、教育出版3年下

       「杜子春」……教育出版6年下

       「仙人」……三省堂6年

〈中学校〉

 平成18年度版「トロッコ」……三省堂1年

       東京書籍3年

 平成24年度版「トロッコ」……三省堂1年、東京書籍1年、教育出版1年

       「蜘蛛の糸」……教育出版1年

       「少年

─海」……学校図書3年

◉大意   平

安末のある日の暮れ方、荒れ果てた羅生門の下で、暇を出された一

人の下人が、雨やみを待ちながら、どうにもならない明日の生活を思っ

て途方に暮れていた。ともかく夜を明かそうと楼へ上った下人は、そこ

で死体の髪の毛を抜く老婆と出会う。老婆をねじ倒した下人はその行為

の意味を問いただすが、「生活のためにはしかたがない。」と答える老婆

に「きっと、そうか。」と念を押すと、老婆の着物をはぎ取り、夜の闇の

中へ逃走した。(二〇〇字)

【二〇〇字】

 平安末のある日の暮れ方、荒れ果てた羅生門で夜を明かそうとした一

人の下人は、楼上で死体の髪の毛を抜く老婆と会う。老婆をねじ倒した

下人は、老婆の言葉を聞いた後、その着物をはぎ取って夜の闇の中へと

逃走した。(一〇〇字)

◉主題についての考察  

 「羅生門」は輻輳したコードからなる多義的な意味を包含するテクストであ

り、それぞれの読者の読みによって全く異なる世界が開けてくる。したがっ

てその「主題」や「意味内容」に関しては諸説ある。

 古くは「下人の心理の推移を主題とし、あわせて生きんがために、各人各

様に持たざるを得ぬエゴイズムをあばいている。」とした吉田精一説がある

が、三好行雄はそれを進めて「エゴイズムなどという概念では決して律しき

れない

─日常的な救済をすべて断たれた存在悪のかたち」を下人の姿に見、

それを「人間存在そのものが永遠に担いつづけなければならぬ痛み」である、

とした。「人間内部における矛盾の並存という命題」によって書かれたとする

駒尺喜美の説。そして闇に消えていく下人にむしろ積極的な意味を見出し、

「己を緊縛するものからの解放の叫び」に主題を見る関口安義の見方もある。

結末部分で作者が行った改稿もまた読みに大きな影響を与えており、その是

非に関してもさまざまな見解がある。吉田俊彦は、上記の関口の説を踏まえ、

初稿における結末部の「京都の町へ強盗を働きに急」ぐ下人の姿の中に「『他

者中心』の抑圧体制からの人間解放」を目指す作者の意気込みを見、しかし

それを、「下人の行方は誰も知らない」と改稿せざるを得なかった芥川の中に

「底知れない存在不安」を克服しえなかった闇を見いだしている。また新しく

は、「語り手」(書き手)に注目し、「下人の行方はだれも知らない」と改稿さ

れた結末部において、「語り手」が、sentim

entalisme

を振り捨て、荒ぶる世

【一〇〇字】

小説三 羅生門 260

D2-13_羅生門.indd 260 13.1.31 3:32:02 PM 54

明解国語総合

現代文教材

教材文の概要︵小・中学校教科書での取扱い/大意/主題についての考察︶

◎字数制限を付加して、大意(要旨)を掲載しました。 字数制限は、二〇〇字・一〇〇字を原則としました。

◎小説教材には、作品の「主題」についての

 考え方や方向性を示しました。

◎文体や修辞など、作品の表現上の 特色を解説しました。

◎同じ作者の作品が小中学校の教科書で

 どのように扱われているかを解説しました。

TM29KS_P001-096_seki.indd 54 2016/03/25 15:50

Page 4: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

◉学習目標と評価  

学習材名

配当時間〔領域〕

学習したい主な内容

羅生門

5[読むこと]

○追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

○場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉える。

重点的に指導する学習指導要領の内容

Cエ

〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕

イ(ア)(イ)・ウ(ア)

学習指導要領の言語活動例

Cイ

評価の観点

学習活動の指導目標

学習活動の評価規準

(B「おおむね満足できると判断される状況」)

評価方法

☆A「十分満足できると判断される」生徒の例

★Bを実現していないと考えられる生徒への手だての例

関心・意欲・態度

①場面の推移に従い、登場人

物の心情や行動がどのよう

な表現で描かれているか、

理解する。

①下人のおかれている状況、老婆の考え方を捉え、二

人の行動や心情の変化が、場面の推移に従ってどの

ような表現で描かれているかを理解しようとしてい

る。

行動の観察

☆個々の叙述から、下人や老婆が置かれている状況とその心理を

読み取り、人間のあり方についての考察を深めている。

★主人公が置かれた状況、場面の推移に従い、一つ一つの語りや

背景描写から確認させる。

読む能力

②描かれた人物、情景、心情

などを表現に即して読み、

場面の推移や人物の心理の

変化を把握するとともに、

ここに描かれている人物や

状況が意味するものは何

か、理解する。

②比喩表現や語りの視点に注意して、作品世界の状況

を把握し、人物の考え方とその変化、そしてそれが

意味するものが何であるかを理解している。

記述の確認

☆下人と老婆との交渉と、それを取りまく羅生門という世界が意

味するものについて、理解を深めている。

★下人と老婆の言葉の意味や、それがなぜ発せられたのか、その

経緯を文脈を追いながら確認させる。

知識・理解

③文章の構成を捉え、比喩な

どの表現技巧を文脈の中で

理解する。

③文章構成における場所や時間の設定、多用されてい

る動物の比喩などの意味するものを的確に捉えてい

る。

行動の観察

☆比喩や表現技巧が登場人物の人間性の表現として重要な働きを

していることを理解している。

★どのような表現技巧や比喩が使われているのかを整理させる。

小説三 羅生門 264

D2-13_羅生門.indd 264 13.1.31 3:32:03 PM

◉展開図  

はしごの上 死骸の髪の毛を抜く老婆を見いだす…… 「六分の恐怖と四分の好奇心」…    見ているうちに… …………… 「悪を憎む心」が燃え上がる

楼の上… ・老婆をねじ倒し… ………………………「安らかな得意と満足」… ・太刀を突きつけ …  「何をしていた。言え。」と脅す … ・老婆の答え「かつらに……」を聞いて…    平凡な答えに失望… ……………「憎悪+冷ややかな侮

蔑べつ

… ・老婆の言い訳… 「冷然と」聞いている…  「生きるためにはしかたがない」……  を聞いて

…  「きっと、そうか。」と念を押す… ……… 「嘲るような声で」… ・老婆の着物を剝ぎ取る…       「夜の底へ駆け下りた」

時代 平安朝末期場所 京都 天災(地震・辻

つじ

風かぜ

・火事・飢き

饉きん

)により 「ひととおりならず衰微」季節 秋       火桶が欲しいほどの寒さ      風が、夕闇とともに         遠慮なく吹き抜ける

(小さな余波)

「どうにもならないことを、どうにかしようとして」「手段を選ばないとすれば……」                   「盗人になるより外に                   しかたがない。」

暮れ方雨

Sサ ン チ マ ン タ リ ス ム

entimentalismeに影響

肯定する勇気が出ない

「暇を出された」

門の外

語り手の判断を超える世界へ

羅生門の様子

荒れ果てた……狐こ

狸り

が棲む盗人死人が捨てられる

「黒こ く

洞と う

々と う

たる夜」「下人の行方は、誰も知らない。」

羅生門

門の下

下人vs老婆

一人の下人 「途方にくれていた」

永年使われていた主人から

ある勇気が生まれ

263 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 263 13.1.31 3:32:03 PM57

明解国語総合

◎観点別に学習活動の指導目標を設定し、 評価基準・評価方法を詳しく示しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 57 2016/03/25 15:50

◉学習目標と評価  

学習材名

配当時間〔領域〕

学習したい主な内容

羅生門

5[読むこと]

○追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

○場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉える。

重点的に指導する学習指導要領の内容

Cエ

〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕

イ(ア)(イ)・ウ(ア)

学習指導要領の言語活動例

Cイ

評価の観点

学習活動の指導目標

学習活動の評価規準

(B「おおむね満足できると判断される状況」)

評価方法

☆A「十分満足できると判断される」生徒の例

★Bを実現していないと考えられる生徒への手だての例

関心・意欲・態度

①場面の推移に従い、登場人

物の心情や行動がどのよう

な表現で描かれているか、

理解する。

①下人のおかれている状況、老婆の考え方を捉え、二

人の行動や心情の変化が、場面の推移に従ってどの

ような表現で描かれているかを理解しようとしてい

る。

行動の観察

☆個々の叙述から、下人や老婆が置かれている状況とその心理を

読み取り、人間のあり方についての考察を深めている。

★主人公が置かれた状況、場面の推移に従い、一つ一つの語りや

背景描写から確認させる。

読む能力

②描かれた人物、情景、心情

などを表現に即して読み、

場面の推移や人物の心理の

変化を把握するとともに、

ここに描かれている人物や

状況が意味するものは何

か、理解する。

②比喩表現や語りの視点に注意して、作品世界の状況

を把握し、人物の考え方とその変化、そしてそれが

意味するものが何であるかを理解している。

記述の確認

☆下人と老婆との交渉と、それを取りまく羅生門という世界が意

味するものについて、理解を深めている。

★下人と老婆の言葉の意味や、それがなぜ発せられたのか、その

経緯を文脈を追いながら確認させる。

知識・理解

③文章の構成を捉え、比喩な

どの表現技巧を文脈の中で

理解する。

③文章構成における場所や時間の設定、多用されてい

る動物の比喩などの意味するものを的確に捉えてい

る。

行動の観察

☆比喩や表現技巧が登場人物の人間性の表現として重要な働きを

していることを理解している。

★どのような表現技巧や比喩が使われているのかを整理させる。

小説三 羅生門 264

D2-13_羅生門.indd 264 13.1.31 3:32:03 PM

◉展開図  

はしごの上 死骸の髪の毛を抜く老婆を見いだす…… 「六分の恐怖と四分の好奇心」…    見ているうちに… …………… 「悪を憎む心」が燃え上がる

楼の上… ・老婆をねじ倒し… ………………………「安らかな得意と満足」… ・太刀を突きつけ …  「何をしていた。言え。」と脅す … ・老婆の答え「かつらに……」を聞いて…    平凡な答えに失望… ……………「憎悪+冷ややかな侮

蔑べつ

… ・老婆の言い訳… 「冷然と」聞いている…  「生きるためにはしかたがない」……  を聞いて

…  「きっと、そうか。」と念を押す… ……… 「嘲るような声で」… ・老婆の着物を剝ぎ取る…       「夜の底へ駆け下りた」

時代 平安朝末期場所 京都 天災(地震・辻

つじ

風かぜ

・火事・飢き

饉きん

)により 「ひととおりならず衰微」季節 秋       火桶が欲しいほどの寒さ      風が、夕闇とともに         遠慮なく吹き抜ける

(小さな余波)

「どうにもならないことを、どうにかしようとして」「手段を選ばないとすれば……」                   「盗人になるより外に                   しかたがない。」

暮れ方雨

Sサ ン チ マ ン タ リ ス ム

entimentalismeに影響

肯定する勇気が出ない

「暇を出された」

門の外

語り手の判断を超える世界へ

羅生門の様子

荒れ果てた……狐こ

狸り

が棲む盗人死人が捨てられる

「黒こ く

洞と う

々と う

たる夜」「下人の行方は、誰も知らない。」

羅生門

門の下

下人vs老婆

一人の下人 「途方にくれていた」

永年使われていた主人から

ある勇気が生まれ

263 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 263 13.1.31 3:32:03 PM 56

明解国語総合

◎教材全体を概観できるよう、 内容を図式化したものを示しました。

現代文教材

教材文の概要︵展開図/学習目標と評価︶

TM29KS_P001-096_seki.indd 56 2016/03/25 15:50

Page 5: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

◉学習展開例  

第一時限

【本時の目標】

❶興味を喚起する。

❷この小説のおおまかなイメージと話の流れを

つかむ。

❸この小説の構成と設定を確認する。

【学習活動と指導内容】

◆導入

1 

芥川龍之介の作品および作者について知る。

 作者の略歴及び主要作品については、「教材文の

概要」「◉作者」の項参照。

 また、小・中学校で学習した可能性のある教材

は、「蜘蛛の糸」(小学校3年)「仙人」(小学校6

年)「トロッコ」(中学校1年)がある。詳しくは

「◉小・中学校教科書での取扱い」の項参照。

〔留意点〕

・中学までに知っている作品があれば挙げさせ、

解説を加える。

◆展開1

1 

全文を通読する。

 通読は教室の実情に応じて、音読(授業者・音

読テープ等)、黙読で行う。

〔留意点〕

 通読に際しては、この小説の構成と、設定(い

つ・どこで・誰が)に注意しながら読むように指

示しておく。

2 

この小説の構成を確認する。

 ここではおおまかな構成を確認する。

 場面から考えると、

 羅生門の下で雨やみを待っていた下人が、楼の

上に上って老婆と出会い、争いの後、また楼を駆

け下りて夜の町へと逃走する。羅生門の楼の上で

の老婆との出会いをクライマックスとし、門の外

→門の上→門の外の三つの場面から成る。

       門の下(夕)

羅生門の楼上(老婆との出会い) 数 時 間

       門の外へ逃走する(夜)

 段落分けの場合は、色々な切り方が考えられる

ので、場面から四段、内容から六段など、指示を

出して考えさせた方が良いだろう。「全体の構成・

段落分けと大意」の項参照。

3 

この小説の設定を確認する。

 この物語の舞台となっている時代・社会の状況

を把握し、主人公である下人がその中でどういう

状態に置かれているのかを読みとる。

(1)いつ・どこで・誰が

・「学びの道しるべ1」の内容を学習する。

1

 次の観点に従って、物語の設定を捉えよ

 う。

  ①いつ

  ・時代

 ・季節

 ・時刻

  ②どこで

  ③誰が

 ・下人のおおよその年齢

      ・下人の仕事

      ・下人のおかれている立場

*解答の詳細は「『学びの道しるべ』の解答例・解

説」の項を参照。

〔留意点〕

 授業者の問いに対して生徒に答えさせる場合に

は、必ず根拠が文中のどこにあるのかを指摘させ

るようにする。

①いつ

・時代

 これはいつの時代の話か。

 平安時代末期

解説

 「平安朝の下人(173・6)」から平安時代で

あると分かる。また、「洛中のさびれ方はひとと

おりではない。」(170・7)やその他の荒廃した

都の描写から、貴族政治が終末を迎えようとす

る、平安朝の末期がこの物語の舞台であること

が分かる。

・季節

 季節はいつか。

 晩秋

解説

 根拠は、「きりぎりす」(170・3)(174・11)

小説三 羅生門 268

D2-13_羅生門.indd 268 13.1.31 3:32:03 PM

学習指導の展開

◉学習指導案例(授業時間5時間の例)

 ※評価の番号は、「◉学習目標と評価」の番号と対応しています。  

時間

  標

学習活動と指導内容

指導上の留意点

評価

第1時限

❶興味を喚起する。

❷この小説のおおまかな

イメージと話の流れを

つかむ。

❸この小説の構成と設定

を確認する。

◆導入

展開1

1

 芥川龍之介の作品および作者に関して知る。

1

 全文を通読する。

 通読は教室の実情に応じて、音読(授業者・

朗読CD等)、黙読で行う。

2

 この小説の構成を確認する。

3

 この小説の設定を確認する。

【学びの道しるべ1】

 この物語の舞台となっている時代・社会の状

況を把握し、主人公である下人がその中でどう

いう状態に置かれているのかを読み取り、整理

する。

  時代/場所/様子/季節/時間/天気など

1

 中学までに知っている作品(「蜘蛛の糸」「トロッコ」

など)があれば挙げさせ、解説を加える。

1

 通読に際しては、この小説の構成と、設定(いつ・ど

こで・誰が)に注意しながら読むように指示しておく。

3

 生徒に答えさせる場合には、必ず根拠が文中のどこに

あるのかを指摘させるようにする。

第2時限

❶主人公のおかれている

状況とその思いをつか

む。

展開2

第一段(初め~175・4)の読解(門の下)

1

 音読する。

2

 羅生門の下で雨やみを待つ下人が置かれて

いる状況とその思いについて考える。

1

 音読の前に本時の目標を生徒に提示し、注意して読む

ように指示をする。

2

 「盗人になる」という悪に対して「勇気」という言葉

を使うことに疑問を持つ生徒がいるだろう。しかしこの

下人が生きていくためには他にどういう選択肢がある

のかを考えながら、今後の読解を進めていくようにさせ

る。

① ③

265 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 265 13.2.1 9:47:17 AM59

明解国語総合

◎授業の進め方の一つの例として、時間ごとの学習活動と指導内容を、 発問例・板書例を取り入れながら具体的に記述しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 59 2016/03/25 15:50

◉学習展開例  

第一時限

【本時の目標】

❶興味を喚起する。

❷この小説のおおまかなイメージと話の流れを

つかむ。

❸この小説の構成と設定を確認する。

【学習活動と指導内容】

◆導入

1 

芥川龍之介の作品および作者について知る。

 作者の略歴及び主要作品については、「教材文の

概要」「◉作者」の項参照。

 また、小・中学校で学習した可能性のある教材

は、「蜘蛛の糸」(小学校3年)「仙人」(小学校6

年)「トロッコ」(中学校1年)がある。詳しくは

「◉小・中学校教科書での取扱い」の項参照。

〔留意点〕

・中学までに知っている作品があれば挙げさせ、

解説を加える。

◆展開1

1 

全文を通読する。

 通読は教室の実情に応じて、音読(授業者・音

読テープ等)、黙読で行う。

〔留意点〕

 通読に際しては、この小説の構成と、設定(い

つ・どこで・誰が)に注意しながら読むように指

示しておく。

2 

この小説の構成を確認する。

 ここではおおまかな構成を確認する。

 場面から考えると、

 羅生門の下で雨やみを待っていた下人が、楼の

上に上って老婆と出会い、争いの後、また楼を駆

け下りて夜の町へと逃走する。羅生門の楼の上で

の老婆との出会いをクライマックスとし、門の外

→門の上→門の外の三つの場面から成る。

       門の下(夕)

羅生門の楼上(老婆との出会い) 数 時 間

       門の外へ逃走する(夜)

 段落分けの場合は、色々な切り方が考えられる

ので、場面から四段、内容から六段など、指示を

出して考えさせた方が良いだろう。「全体の構成・

段落分けと大意」の項参照。

3 

この小説の設定を確認する。

 この物語の舞台となっている時代・社会の状況

を把握し、主人公である下人がその中でどういう

状態に置かれているのかを読みとる。

(1)いつ・どこで・誰が

・「学びの道しるべ1」の内容を学習する。

1

 次の観点に従って、物語の設定を捉えよ

 う。

  ①いつ

  ・時代

 ・季節

 ・時刻

  ②どこで

  ③誰が

 ・下人のおおよその年齢

      ・下人の仕事

      ・下人のおかれている立場

*解答の詳細は「『学びの道しるべ』の解答例・解

説」の項を参照。

〔留意点〕

 授業者の問いに対して生徒に答えさせる場合に

は、必ず根拠が文中のどこにあるのかを指摘させ

るようにする。

①いつ

・時代

 これはいつの時代の話か。

 平安時代末期

解説

 「平安朝の下人(173・6)」から平安時代で

あると分かる。また、「洛中のさびれ方はひとと

おりではない。」(170・7)やその他の荒廃した

都の描写から、貴族政治が終末を迎えようとす

る、平安朝の末期がこの物語の舞台であること

が分かる。

・季節

 季節はいつか。

 晩秋

解説

 根拠は、「きりぎりす」(170・3)(174・11)

小説三 羅生門 268

D2-13_羅生門.indd 268 13.1.31 3:32:03 PM

学習指導の展開

◉学習指導案例(授業時間5時間の例)

 ※評価の番号は、「◉学習目標と評価」の番号と対応しています。  

時間

  標

学習活動と指導内容

指導上の留意点

評価

第1時限

❶興味を喚起する。

❷この小説のおおまかな

イメージと話の流れを

つかむ。

❸この小説の構成と設定

を確認する。

◆導入

展開1

1

 芥川龍之介の作品および作者に関して知る。

1

 全文を通読する。

 通読は教室の実情に応じて、音読(授業者・

朗読CD等)、黙読で行う。

2

 この小説の構成を確認する。

3

 この小説の設定を確認する。

【学びの道しるべ1】

 この物語の舞台となっている時代・社会の状

況を把握し、主人公である下人がその中でどう

いう状態に置かれているのかを読み取り、整理

する。

  時代/場所/様子/季節/時間/天気など

1

 中学までに知っている作品(「蜘蛛の糸」「トロッコ」

など)があれば挙げさせ、解説を加える。

1

 通読に際しては、この小説の構成と、設定(いつ・ど

こで・誰が)に注意しながら読むように指示しておく。

3

 生徒に答えさせる場合には、必ず根拠が文中のどこに

あるのかを指摘させるようにする。

第2時限

❶主人公のおかれている

状況とその思いをつか

む。

展開2

第一段(初め~175・4)の読解(門の下)

1

 音読する。

2

 羅生門の下で雨やみを待つ下人が置かれて

いる状況とその思いについて考える。

1

 音読の前に本時の目標を生徒に提示し、注意して読む

ように指示をする。

2

 「盗人になる」という悪に対して「勇気」という言葉

を使うことに疑問を持つ生徒がいるだろう。しかしこの

下人が生きていくためには他にどういう選択肢がある

のかを考えながら、今後の読解を進めていくようにさせ

る。

① ③

265 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 265 13.2.1 9:47:17 AM 58

明解国語総合

◎時間・目標・学習内容と指導内容・指導上の留意点を、 指導の実際に即して表組みで示しました。

◎授業の進め方の一つの例として、時間ごとの学習活動と指導内容を、 発問例・板書例を取り入れながら具体的に記述しました。

現代文教材

学習指導の展開 

TM29KS_P001-096_seki.indd 58 2016/03/25 15:50

Page 6: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

語句・文脈の解説

170ページ �

●第一段(初め~

175・4)の大意

 羅生門の下で途方にくれる下人

 平安時代末期の、ある日の暮れ方、一人の

暇を出された下人が羅生門の下で雨やみを

待っていた。途方にくれた下人は、羅生門に

一夜の宿を借りようと楼の上へ登るはしごに

足をかけた。

1 

ある日の暮れ方のことである。一人の下人が、

羅生門の下で雨やみを待っていた 

物語性を

もった起句である。「ある日」と日を特定せずに

入る。読者の想像をかき立てるとともに、短い

センテンスの中に「いつ・どこで・だれが」の

最低限の情報が提示されている。芥川の作品に

は、「蜜柑」「杜子春」「神神の微笑」など、夕暮

れの設定から入るものが多い。

1 

下人 

身分の低い者。貴族などに仕えて種々の

雑役にあたった者。また、『日本国語大辞典』(小

学館)によると、「平安以後の隷属民。荘園の地

主・荘官や地頭などに隷属して、家事、農業、

軍事など主家の雑役につかわれ、財産として土

地といっしょに、あるいは別々に売買質入や譲

渡の対象となった。」とある。この作品の「下

人」も、まだ若いのに暇を出されるまで「永年、

使われていた」(173・3)こと、帰る家もないこ

となどを考えると、人身売買で売られてきたと

も考えることができる。原典である『今昔物語

集』では「盗ヌスミセ

ムガ為ニ京ニ上ノ

ボリケ

ル男」とあり、

また、下書きノートや推移稿では「交野(の)

平六」と固有名詞になっていたのを、最終稿で

「下人」とした点に、結末部分の改稿と並んで、

作者の意図が感じ取れる。また、太刀を持って

いたところから、貴族や豪族等の警護にあたっ

た侍とも考えられる。詳しくは本書309ページ「研

究・発展」の「下人とは?」の項参照。

1 

羅生門 

(注)[平安京の正門。羅城門。]本来

は「羅城門」と表記したが、江戸時代以降「羅

生門」も使われるようになった。「羅城」とは古

代中国の都を囲んでいた外郭のこと。平安京に

は羅城は築かれなかった。「平安京復元模型」(171

ページ)参照。

2 

丹 

(注)[朱色の塗料。]「丹塗り」とは赤色の

顔料である丹または朱で塗ってあること。丹は

鉛に硫黄と硝石を加えて焼いてつくったもの。

朱は辰砂として産し、成分は硫化水銀。

3 

きりぎりす 

原文は「蟋き

蟀ぎりす

」とあり、古語では

「こおろぎ」を意味しているが、柱に止まってい

る点、習性から今言う「きりぎりす」に解する

のが自然だろう。無人の強調、周囲が寂れてい

発問

170ページ �

 最初の一行「ある日の暮れ方のことであ

る。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを

待っていた。」で提示されている4W(い

つ・だれが・どこで・なにを)を指摘しよ

う。

 いつ

  ある日の暮れ方

  だれが

 一人の下人が

  どこで

 羅生門の下で

  なにを

 雨やみを待っていた

 「羅生門が、朱雀大路にある以上は…市女

笠や揉烏帽子が、もう二、三人はありそう

なものである。」(3)とあるが、どういう

ことか。

 「市女笠や揉烏帽子」(4)とはここでは

「この男(下人)の外にも、」と下人と同列

に扱われているので、貴族などではなく、

一般の女と男のことを比喩(提喩)として

言っていると考えられる。「もう二、三人は

ありそう」なのは、羅生門が平安京のメイ

ンストリートである朱雀大路にある以上

は、本来ならもっと賑わっていても良いは

ずだからである。

279 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 279 13.1.31 3:32:04 PM

◉生徒のための参考資料  

 『今昔物語集』原文

 「羅生門」は、『今昔物語集』巻二十九および巻第三十一を典拠として書か

れている。以下にその全文を採録する。

  巻二十九

 羅らせいもんのうはこしにのぼりてしにんをみるぬすびとのことだいじふはち

城門登上層見死人盗人語第十八

 今は昔、摂津の国の辺りより盗みせむがために京に上りける男の、日の未

だ明かりければ、羅城門の下に立ち隠れて立てりけるに、朱雀の方に人重しげ

歩あり

きければ、人の静まるまでと思ひて、門の下に待ち立てりけるに、山城の

方より人どものあまた来たりける音のしければ、それに見えじと思ひて、門

の上うは

層こし

にやはら掻か

つり登りたりけるに、見れば、火ほのかにともしたり。

 盗人、「怪し」と思ひて、連れん

子じ

よりのぞきければ、若き女の死にて臥ふ

したる

あり。その枕まくら

上がみ

に火をともして、年いみじく老いたる嫗お

うなの白し

髪が

白きが、その

死人の枕上にゐて、死人の髪かみ

をかなぐり抜き取るなりけり。

 盗人これを見るに、心も得ねば、「これはもし鬼にやあらむ」と思ひて怖ろ

しけれども、「もし死人にてもぞある。おどして試みむ」と思ひて、やはら戸

を開けて、刀を抜きて、「己おのれは己お

のれは」と言ひて走り寄りければ、嫗手て

迷まど

ひをし

て、手をすりて迷まど

へば、盗人、「こは何ぞの嫗のかくはしゐたるぞ」と問ひけ

れば、嫗、「己が主あるじに

ておはしましつる人の失せたまへるを、あつかふ人のな

ければ、かくて置きたてまつりたるなり。その御おほむ

髪かみ

の丈た

に余りて長ければ、

それを抜き取りて鬘かつらに

せむとて抜くなり。助けたまへ」と言ひければ、盗人、

死人の着たる衣と嫗の着たる衣と抜き取りてある髪とを奪ひ取りて、下り走

りて逃げ去りにけり。

 さて、その上の層こし

には死人の骸が

いこつ骨ぞ多かりける。死にたる人の葬

はうぶりなどえせ

ぬをば、この門の上にぞ置きける。

 この事はその盗人の人に語りけるを聞き継ぎてかく語り伝へたるとや。

  巻第三十一

 大たてはきのぢんにいををうるおうなのことだいさむじふいち

刀帯陣売魚媼語第三十一

 今は昔、三さむでう条の院の天皇の春と

うぐう宮にておはしましける時に、大た

て刀帯は

の陣に常

に来たりて魚いを

売る女ありけり。大刀帯どもこれを買はせて食ふに、味はひの

むまかりければ、これを役ともてなして菜な

の料れ

に好みけり。干したる魚の切

れ切れなるにてなむありける。

 しかる間、八月ばかりに大刀帯ども小こ

鷹たかがり狩

に北野に出でて遊びけるに、こ

の魚売りの女出で来たり。大刀帯ども女の顔を見知りたれば、「こやつは野に

は何なに

態わざ

するにかあらむ」と思ひて、馳は

せ寄りて見れば、女大きやかなる籮し

たみを

持ちたり。また楚すはえ

一筋を捧さ

げて持ちたり。この女、大刀帯どもを見て、怪し

く逃にげ

目め

を仕つ

ひてただ騒ぎに騒ぐ。大刀帯の従の者ども寄りて、「女の持ちたる

籮には何の入りたるぞ」と見むとするに、女惜しむで見せぬを、怪しがりて

引き奪ひて見れば、蛇を四寸ばかりに切りつつ入れたり。あさましく思ひて、

「こは何の料ぞ」と問へども、女さらに答ふる事なくて

て立てり。早う、

この奴のしける様やう

は、楚をもって藪や

を驚かしつつ、はひ出づる蛇を打ち殺し

て切りつつ、家に持も

て行きて、塩を付けて干して売りけるなりけり。大刀帯

どもそれを知らずして、買はせて役と食ひけるなりけり。

 これを思ふに、蛇は食ひつる人悪あ

しと言ふに、何ど蛇の毒せぬ。

 しかれば、その体てい

確かになくて切れ切れならむ魚売らむをば広量に買ひて

食はむ事は止むべし、となむこれを聞く人言ひあつかひける、となむ語り伝

へたるとや。

いずれも『新編日本古典文学全集

 今昔物語集④』馬淵和夫・国東文麿・稲

垣泰一校注・訳(小学館・二〇〇二年)によった。ただし、表記の統一のた

めに、表記の変更を行った。

小説三 羅生門 278

D2-13_羅生門.indd 278 13.1.31 3:32:04 PM61

明解国語総合

◎教科書の脚注の語句や重要な概念、固有名詞などについて解説したほか、 読解上のポイントになる文についても取り上げました。

◎授業展開時に有効な発問と解答例を示し、

 必要に応じて解説を加えました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 61 2016/03/25 15:50

語句・文脈の解説

170ページ �

●第一段(初め~

175・4)の大意

 羅生門の下で途方にくれる下人

 平安時代末期の、ある日の暮れ方、一人の

暇を出された下人が羅生門の下で雨やみを

待っていた。途方にくれた下人は、羅生門に

一夜の宿を借りようと楼の上へ登るはしごに

足をかけた。

1 

ある日の暮れ方のことである。一人の下人が、

羅生門の下で雨やみを待っていた 

物語性を

もった起句である。「ある日」と日を特定せずに

入る。読者の想像をかき立てるとともに、短い

センテンスの中に「いつ・どこで・だれが」の

最低限の情報が提示されている。芥川の作品に

は、「蜜柑」「杜子春」「神神の微笑」など、夕暮

れの設定から入るものが多い。

1 

下人 

身分の低い者。貴族などに仕えて種々の

雑役にあたった者。また、『日本国語大辞典』(小

学館)によると、「平安以後の隷属民。荘園の地

主・荘官や地頭などに隷属して、家事、農業、

軍事など主家の雑役につかわれ、財産として土

地といっしょに、あるいは別々に売買質入や譲

渡の対象となった。」とある。この作品の「下

人」も、まだ若いのに暇を出されるまで「永年、

使われていた」(173・3)こと、帰る家もないこ

となどを考えると、人身売買で売られてきたと

も考えることができる。原典である『今昔物語

集』では「盗ヌスミセ

ムガ為ニ京ニ上ノ

ボリケ

ル男」とあり、

また、下書きノートや推移稿では「交野(の)

平六」と固有名詞になっていたのを、最終稿で

「下人」とした点に、結末部分の改稿と並んで、

作者の意図が感じ取れる。また、太刀を持って

いたところから、貴族や豪族等の警護にあたっ

た侍とも考えられる。詳しくは本書309ページ「研

究・発展」の「下人とは?」の項参照。

1 

羅生門 

(注)[平安京の正門。羅城門。]本来

は「羅城門」と表記したが、江戸時代以降「羅

生門」も使われるようになった。「羅城」とは古

代中国の都を囲んでいた外郭のこと。平安京に

は羅城は築かれなかった。「平安京復元模型」(171

ページ)参照。

2 

丹 

(注)[朱色の塗料。]「丹塗り」とは赤色の

顔料である丹または朱で塗ってあること。丹は

鉛に硫黄と硝石を加えて焼いてつくったもの。

朱は辰砂として産し、成分は硫化水銀。

3 

きりぎりす 

原文は「蟋き

蟀ぎりす

」とあり、古語では

「こおろぎ」を意味しているが、柱に止まってい

る点、習性から今言う「きりぎりす」に解する

のが自然だろう。無人の強調、周囲が寂れてい

発問

170ページ �

 最初の一行「ある日の暮れ方のことであ

る。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを

待っていた。」で提示されている4W(い

つ・だれが・どこで・なにを)を指摘しよ

う。

 いつ

  ある日の暮れ方

  だれが

 一人の下人が

  どこで

 羅生門の下で

  なにを

 雨やみを待っていた

 「羅生門が、朱雀大路にある以上は…市女

笠や揉烏帽子が、もう二、三人はありそう

なものである。」(3)とあるが、どういう

ことか。

 「市女笠や揉烏帽子」(4)とはここでは

「この男(下人)の外にも、」と下人と同列

に扱われているので、貴族などではなく、

一般の女と男のことを比喩(提喩)として

言っていると考えられる。「もう二、三人は

ありそう」なのは、羅生門が平安京のメイ

ンストリートである朱雀大路にある以上

は、本来ならもっと賑わっていても良いは

ずだからである。

279 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 279 13.1.31 3:32:04 PM

◉生徒のための参考資料  

 『今昔物語集』原文

 「羅生門」は、『今昔物語集』巻二十九および巻第三十一を典拠として書か

れている。以下にその全文を採録する。

  巻二十九

 羅らせいもんのうはこしにのぼりてしにんをみるぬすびとのことだいじふはち

城門登上層見死人盗人語第十八

 今は昔、摂津の国の辺りより盗みせむがために京に上りける男の、日の未

だ明かりければ、羅城門の下に立ち隠れて立てりけるに、朱雀の方に人重しげ

歩あり

きければ、人の静まるまでと思ひて、門の下に待ち立てりけるに、山城の

方より人どものあまた来たりける音のしければ、それに見えじと思ひて、門

の上うは

層こし

にやはら掻か

つり登りたりけるに、見れば、火ほのかにともしたり。

 盗人、「怪し」と思ひて、連れん

子じ

よりのぞきければ、若き女の死にて臥ふ

したる

あり。その枕まくら

上がみ

に火をともして、年いみじく老いたる嫗お

うなの白し

髪が

白きが、その

死人の枕上にゐて、死人の髪かみ

をかなぐり抜き取るなりけり。

 盗人これを見るに、心も得ねば、「これはもし鬼にやあらむ」と思ひて怖ろ

しけれども、「もし死人にてもぞある。おどして試みむ」と思ひて、やはら戸

を開けて、刀を抜きて、「己おのれは己お

のれは」と言ひて走り寄りければ、嫗手て

迷まど

ひをし

て、手をすりて迷まど

へば、盗人、「こは何ぞの嫗のかくはしゐたるぞ」と問ひけ

れば、嫗、「己が主あるじにておはしましつる人の失せたまへるを、あつかふ人のな

ければ、かくて置きたてまつりたるなり。その御おほむ

髪かみ

の丈た

に余りて長ければ、

それを抜き取りて鬘かつらにせむとて抜くなり。助けたまへ」と言ひければ、盗人、

死人の着たる衣と嫗の着たる衣と抜き取りてある髪とを奪ひ取りて、下り走

りて逃げ去りにけり。

 さて、その上の層こし

には死人の骸が

いこつ骨ぞ多かりける。死にたる人の葬

はうぶりなどえせ

ぬをば、この門の上にぞ置きける。

 この事はその盗人の人に語りけるを聞き継ぎてかく語り伝へたるとや。

  巻第三十一

 大たてはきのぢんにいををうるおうなのことだいさむじふいち

刀帯陣売魚媼語第三十一

 今は昔、三さむでう条の院の天皇の春と

うぐう宮にておはしましける時に、大た

て刀帯は

の陣に常

に来たりて魚いを

売る女ありけり。大刀帯どもこれを買はせて食ふに、味はひの

むまかりければ、これを役ともてなして菜な

の料れ

に好みけり。干したる魚の切

れ切れなるにてなむありける。

 しかる間、八月ばかりに大刀帯ども小こ

鷹たかがり狩

に北野に出でて遊びけるに、こ

の魚売りの女出で来たり。大刀帯ども女の顔を見知りたれば、「こやつは野に

は何なに

態わざ

するにかあらむ」と思ひて、馳は

せ寄りて見れば、女大きやかなる籮し

たみを

持ちたり。また楚すはえ

一筋を捧さ

げて持ちたり。この女、大刀帯どもを見て、怪し

く逃にげ

目め

を仕つ

ひてただ騒ぎに騒ぐ。大刀帯の従の者ども寄りて、「女の持ちたる

籮には何の入りたるぞ」と見むとするに、女惜しむで見せぬを、怪しがりて

引き奪ひて見れば、蛇を四寸ばかりに切りつつ入れたり。あさましく思ひて、

「こは何の料ぞ」と問へども、女さらに答ふる事なくて

て立てり。早う、

この奴のしける様やう

は、楚をもって藪や

を驚かしつつ、はひ出づる蛇を打ち殺し

て切りつつ、家に持も

て行きて、塩を付けて干して売りけるなりけり。大刀帯

どもそれを知らずして、買はせて役と食ひけるなりけり。

 これを思ふに、蛇は食ひつる人悪あ

しと言ふに、何ど蛇の毒せぬ。

 しかれば、その体てい

確かになくて切れ切れならむ魚売らむをば広量に買ひて

食はむ事は止むべし、となむこれを聞く人言ひあつかひける、となむ語り伝

へたるとや。

いずれも『新編日本古典文学全集

 今昔物語集④』馬淵和夫・国東文麿・稲

垣泰一校注・訳(小学館・二〇〇二年)によった。ただし、表記の統一のた

めに、表記の変更を行った。

小説三 羅生門 278

D2-13_羅生門.indd 278 13.1.31 3:32:04 PM 60

明解国語総合

◎発展的に読んだり、比べ読みしたりできる 資料を収録しました。

◎教科書の脚注の語句や重要な概念、固有名詞などについて解説したほか、 読解上のポイントになる文についても取り上げました。

現代文教材

生徒のための参考資料/語句・文脈の解説 

TM29KS_P001-096_seki.indd 60 2016/03/25 15:50

Page 7: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

③「老婆を突き放すと、……目の前へ突きつけた。」(

179・6)

【ねらい】重要な場面における主人公の心理をとらえ、その移り変わりを見

る。

【解答例】

①「六分の恐怖と四分の好奇心」(177・4)とあるように、恐怖とともに、老

婆に対する好奇心もあった。

②恐怖がすこしずつ消えていき、同時に、この老婆に対する激しい憎悪が芽

生えた。そしてそれは悪に対する反感として、炎のように燃え上がった。

③老婆の生死を支配しているという意識から、燃え上がっていた憎悪を冷ま

し、ある仕事をなしとげた安らかな得意と満足に浸っていた。

3

 老婆は、「死人の髪の毛を抜く」(

180・15)

ことをどう思っているか、

また、その理由を

どのように言っているか、まとめよう。

   ◎

理由は二点でまとめる。「わしのすることも大目に見てく

れることであろ。」(

181・10)と言えるのはなぜか、考える。

【ねらい】老婆の論理の要点を整理させる。

【解答例】

 「悪いこととは思わぬ」(181・8)と言っているように、悪とは思っていな

い。理由は、次の二点である。

①髪を抜いていた相手の女も生きるためには自分と同じようなことをしてい

た。

②そうしなければ飢え死にしてしまうのだから、仕方がない。

【解説】

 老婆の言葉を、単なる自分の悪行の「言い訳」とは読まないようにさせた

い。老婆は自分の行為を「悪」ではなく、生きるために「仕方がない」と言っ

ている。この小説で問われているのは、善か悪かの対立ではなく、極限状況

において、何が善で何が悪なのか。そういう根本的な問いかけである。この

状況下で、老婆が生きるために取るべき道が他にあるのか。あきらめて死ぬ

しかないのか。下人にとってはどうなのか。具体的に考えさせたい。

4

 175ページから

180ページの中にある動物を使った比喩表現を全て抜

き出し、それがどういうことを表しているのか、話し合おう。

   ◎

 「やもりのように」(

175・14)

      「猿のような」(

176・15)

【ねらい】特徴的な比喩表現を取り上げ、内容との関連を考えさせる。

【解答例】

〈抜き出し〉

「猫のように身を縮めて」(175・6)

「猿の親が猿の子のしらみを取るように」(177・7)

「鶏の脚のような骨と皮ばかりの腕」(179・3)

「まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目」(180・5) 

「からすの鳴くような声」(180・8)

 

「蟇のつぶやくような声」(180・13)

【解説】

 話し合いの目的は、比喩などの修辞法が単なる文章の技巧ではなく、内容

に関わる大切なものを表していることを感じ取って欲しいという点にある。

 まず、抜き出した動物の比喩を見て、どのような動物が取り上げられてい

るのか、それがどういう印象を与えるかを整理する。

 その上で、これらの比喩が、どういう意味を持っているのかを話し合わせ

たい。「気味が悪い」動物の比喩が多いが、この比喩は主に誰に使われている

か。それはなぜか。考えさせたい。

301 教科書[p.170〜p.185]

D2-13_羅生門.indd 301 13.1.31 3:32:06 PM

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

●場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉え

る。

1

 次の観点に従って、物語の設定を捉えよう。

①いつ

   ・時代

 ・季節

 ・時刻

②どこで

③誰が

   ・下人のおおよその年齢

        ・下人の仕事

        ・下人のおかれている立場

【ねらい】文章を通読し、物語の大枠をとらえる。

【解答例】

①いつ

   時代…平安時代

  季節…晩秋

   時刻…夕方から夜までの数時間

②どこで

   京都

 朱雀大路の入り口にある羅生門の下と楼上

③誰が

   下人のおおよその年齢

   十代後半くらい

   下人の仕事

        

貴族か豪族に雇われ、雑事や警護などを

担当した使用人。

   下人の置かれている立場

  

永年使われていた主人から暇を出され、

行き所もなく、明日の暮らしの目途も立

たずに途方に暮れている。

【解説】

①「時代」は、本文に「平安朝の下人」(173・6)とある。「平安朝」とは、

平安時代の朝廷およびその時代のことを言う。「季節」は、「きりぎりす」

が登場すること、および「夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの

寒さである。」(174・9)等の叙述から晩秋のころ。「きりぎりす」とは古語

では「こおろぎ」を意味する。晩秋だとすると「きりぎりす」より「こお

ろぎ」の方が季節的には合うが、羅生門のはげた朱塗りの朱色ときりぎり

すの緑色の対照、また、柱に止まっていて飛び去ったという様子などから

考えればここは「きりぎりす」と考える方が良いだろう。「時刻」は、冒頭

の「暮れ方」から、楼上に上り、老婆と会って、「黒洞々たる夜」(183・5)

に逃走するまでの数時間。

②文中に「京都」(170・6)とある。朱雀大路の南端にあって京都の入り口に

当たる羅生門が舞台になる。

③下人の年齢は定かではないが、「にきび」の記述と、行動の幼さなどから、

十代後半くらいと推測される。「下人」は、「身分の低い者」あるいは「使

用人」を意味するが、聖柄の太刀を持っていること及び主人に使われてい

たという点から、貴族か豪族等の使用人で、警護等にも当たったのではな

いかと思われる。また、行く場所もなく羅生門で途方に暮れている点など

から考えると、下人には帰る家もないことが分かる。「永年、使われていた

主人から、暇を出された。」(173・3)とあり、幼い頃から家を離れ、働い

ていた下人は、紺の襖の着衣と一振りの太刀だけで、社会へと放り出され

たのだ。「下人」に関しては「Ⅵ研究・発展」の項参照。

2

 次の場面における下人の心理はそれぞれどのようなものか、まとめ

よう。

①「死骸の中にうずくまっている人間を見た。」(

176・14)

②「すると、老婆は、……抜き始めた。」(

177・6)

小説三 羅生門 300

D2-13_羅生門.indd 300 13.1.31 3:32:06 PM63

明解国語総合

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 63 2016/03/25 15:51

③「老婆を突き放すと、……目の前へ突きつけた。」(

179・6)

【ねらい】重要な場面における主人公の心理をとらえ、その移り変わりを見

る。

【解答例】

①「六分の恐怖と四分の好奇心」(177・4)とあるように、恐怖とともに、老

婆に対する好奇心もあった。

②恐怖がすこしずつ消えていき、同時に、この老婆に対する激しい憎悪が芽

生えた。そしてそれは悪に対する反感として、炎のように燃え上がった。

③老婆の生死を支配しているという意識から、燃え上がっていた憎悪を冷ま

し、ある仕事をなしとげた安らかな得意と満足に浸っていた。

3

 老婆は、「死人の髪の毛を抜く」(

180・15)

ことをどう思っているか、

また、その理由を

どのように言っているか、まとめよう。

   ◎

理由は二点でまとめる。「わしのすることも大目に見てく

れることであろ。」(

181・10)と言えるのはなぜか、考える。

【ねらい】老婆の論理の要点を整理させる。

【解答例】

 「悪いこととは思わぬ」(181・8)と言っているように、悪とは思っていな

い。理由は、次の二点である。

①髪を抜いていた相手の女も生きるためには自分と同じようなことをしてい

た。

②そうしなければ飢え死にしてしまうのだから、仕方がない。

【解説】

 老婆の言葉を、単なる自分の悪行の「言い訳」とは読まないようにさせた

い。老婆は自分の行為を「悪」ではなく、生きるために「仕方がない」と言っ

ている。この小説で問われているのは、善か悪かの対立ではなく、極限状況

において、何が善で何が悪なのか。そういう根本的な問いかけである。この

状況下で、老婆が生きるために取るべき道が他にあるのか。あきらめて死ぬ

しかないのか。下人にとってはどうなのか。具体的に考えさせたい。

4

 175ページから

180ページの中にある動物を使った比喩表現を全て抜

き出し、それがどういうことを表しているのか、話し合おう。

   ◎

 「やもりのように」(

175・14)

      「猿のような」(

176・15)

【ねらい】特徴的な比喩表現を取り上げ、内容との関連を考えさせる。

【解答例】

〈抜き出し〉

「猫のように身を縮めて」(175・6)

「猿の親が猿の子のしらみを取るように」(177・7)

「鶏の脚のような骨と皮ばかりの腕」(179・3)

「まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目」(180・5) 

「からすの鳴くような声」(180・8) 

「蟇のつぶやくような声」(180・13)

【解説】

 話し合いの目的は、比喩などの修辞法が単なる文章の技巧ではなく、内容

に関わる大切なものを表していることを感じ取って欲しいという点にある。

 まず、抜き出した動物の比喩を見て、どのような動物が取り上げられてい

るのか、それがどういう印象を与えるかを整理する。

 その上で、これらの比喩が、どういう意味を持っているのかを話し合わせ

たい。「気味が悪い」動物の比喩が多いが、この比喩は主に誰に使われている

か。それはなぜか。考えさせたい。

301 教科書[p.170〜p.185]

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「学びの道しるべ」の解答例・解説

●追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

●場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉え

る。

1

 次の観点に従って、物語の設定を捉えよう。

①いつ

   ・時代

 ・季節

 ・時刻

②どこで

③誰が

   ・下人のおおよその年齢

        ・下人の仕事

        ・下人のおかれている立場

【ねらい】文章を通読し、物語の大枠をとらえる。

【解答例】

①いつ

   時代…平安時代

  季節…晩秋

   時刻…夕方から夜までの数時間

②どこで

   京都

 朱雀大路の入り口にある羅生門の下と楼上

③誰が

   下人のおおよその年齢

   十代後半くらい

   下人の仕事

        

貴族か豪族に雇われ、雑事や警護などを

担当した使用人。

   下人の置かれている立場

  

永年使われていた主人から暇を出され、

行き所もなく、明日の暮らしの目途も立

たずに途方に暮れている。

【解説】

①「時代」は、本文に「平安朝の下人」(173・6)とある。「平安朝」とは、

平安時代の朝廷およびその時代のことを言う。「季節」は、「きりぎりす」

が登場すること、および「夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの

寒さである。」(174・9)等の叙述から晩秋のころ。「きりぎりす」とは古語

では「こおろぎ」を意味する。晩秋だとすると「きりぎりす」より「こお

ろぎ」の方が季節的には合うが、羅生門のはげた朱塗りの朱色ときりぎり

すの緑色の対照、また、柱に止まっていて飛び去ったという様子などから

考えればここは「きりぎりす」と考える方が良いだろう。「時刻」は、冒頭

の「暮れ方」から、楼上に上り、老婆と会って、「黒洞々たる夜」(183・5)

に逃走するまでの数時間。

②文中に「京都」(170・6)とある。朱雀大路の南端にあって京都の入り口に

当たる羅生門が舞台になる。

③下人の年齢は定かではないが、「にきび」の記述と、行動の幼さなどから、

十代後半くらいと推測される。「下人」は、「身分の低い者」あるいは「使

用人」を意味するが、聖柄の太刀を持っていること及び主人に使われてい

たという点から、貴族か豪族等の使用人で、警護等にも当たったのではな

いかと思われる。また、行く場所もなく羅生門で途方に暮れている点など

から考えると、下人には帰る家もないことが分かる。「永年、使われていた

主人から、暇を出された。」(173・3)とあり、幼い頃から家を離れ、働い

ていた下人は、紺の襖の着衣と一振りの太刀だけで、社会へと放り出され

たのだ。「下人」に関しては「Ⅵ研究・発展」の項参照。

2

 次の場面における下人の心理はそれぞれどのようなものか、まとめ

よう。

①「死骸の中にうずくまっている人間を見た。」(

176・14)

②「すると、老婆は、……抜き始めた。」(

177・6)

小説三 羅生門 300

D2-13_羅生門.indd 300 13.1.31 3:32:06 PM 62

明解国語総合

現代文教材﹁学びの道しるべ﹂の解答例・解説 

◎各教材末にある「学びの道しるべ」のねらいを示し、 解答例と詳しい解説を示しました。

TM29KS_P001-096_seki.indd 62 2016/03/25 15:50

Page 8: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

◉学習目標と評価  

学習材名

配当時間〔領域〕

学習したい主な内容

この本を読んでみて!

ブックトーク

5[話すこと・聞く

こと]

○興味をもった本の内容やその魅力をレジュメを使いながら口頭で発表する。

○他者の発表を聞き取り、適切に記録を取る。

重点的に指導する学習指導要領の内容

Aウ・エ

〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕

イ(ア)(イ)

学習指導要領の言語活動例

Aイ

評価の観点

学習活動の指導目標

学習活動の評価規準

(B「おおむね満足できると判断される状況」)

評価方法

☆A「十分満足できると判断される」生徒の例

★Bを実現していないと考えられる生徒への手だての例

関心・意欲・態度

①内容が伝わるように工夫し

て発表する。

①レジュメに基づき、適切に聞き取れるよう発表しよ

うとしている。

行動の確認

☆大きな声ではっきりと聞こえるように注意して、用意したもの

を的確に伝えようとしている。

★レジュメを読み上げればよいと伝え、励ます。

②発表を聞き取り、記録を取

る。

②発表を聞きながら、教科書を参考に記録用紙を作成

しようとしている。

記述の確認

☆発表について具体的に良さや課題を見つけようとして聞いてい

る。

 相手を気遣った表現を使って書こうとしている。

★発表の中で、おもしろい、興味深いと感じるところを探しなが

ら聞くように促す。

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 76

D3-06_この本読.indd 76 13.1.28 4:40:27 PM

この本を読んでみて!

 ブックトーク

話す・聞く3

学習活動の意味とねらい

 主体的に活動する表現学習では、「書くこと」が中心になりがちであるが、

「書くこと」ができるためには、その内容を「話すこと」ができることが必要

である。もちろん、感性に触れたことを書き表したり、創作したりするとき

は、話せなくても書くことができるという場合も少なくない。だが、日常的

に自分が感じたり、考えたりしたことを人にわかりやすく伝えるとき、まず

は話してみて、客観化し、表現を工夫することが、次に文章にまとめるとき

の基盤になることが多い。特に、直接相手に向かって話す場合は、すぐに相

手の反応も受け止めることがしやすいので、表現したいことを意識的に整理

することにも役立つ。話すことから書くことへ発展させていくことは、表現

学習の流れの一つと考えられる。

 だが、人前で話すことは、書くことよりも緊張を強いられる面もあり、高

校生にとっては、話すための準備としてその原稿を書くこと、また、他の人

が話すことを意識的に聞くことによって自分が話すことを客観的に考える視

点を得ること、これらの学習活動が必要になる。

 すなわち、この学習では、自分が感じたり考えたりしたことを人にわかり

やすく伝えることを「話す」活動で行う。そのために、準備として「書く」

活動をし、自分の「話す」活動を客観的に捉えていくために他の人の話を「聞

く」活動をすることが目的となる。

 こうした学習では、何を題材とするかによって、生徒に興味関心を抱かせ、

表現意欲を高める効果が異なってくる。また、指導側にとっても、他の学習

への発展性がある題材、素材を選びたいところである。国語学習では、読書

の経験を豊かにする動機付けとして、楽しく興味深い読書経験をし、その思

いを友達と共有したり、刺激を受け合ったりすることが、社会人の基盤作り

にもつながろう。読書感想文、レポートなどの課題が、却って読書の意欲を

削ぐ場合もあることを考えると、幅広い分野からの選書、簡単で視覚的な情

報も取り入れたわかりやすい資料を伴った発表で、楽しいブックトークを経

験することは取り組みやすい学習になると考えられる。この学習のもう一つ

の目的は、読書の楽しみを喚起することである。小中学校の段階で、本の帯

を作成する学習がよく見られるが、それに続く高校段階の学習と位置づけら

れる。また、広く社会のさまざまなメディアで行われている本や映画・演劇

などの紹介も視野に入れて、親しみやすいブックトークを心がけたい。学校

内の読書に関する活動、例えば朝の読書時間、図書室の読書推進活動との関

連づけも効果的であろう。あるいは他教科の授業の調査活動や学年行事の調

査などの活動との関連も考えられる。それらも視野に入れつつ、本稿では、

授業内で完結する学習を中心にして述べていく。

 パソコン、携帯などの情報機器の充実、インターネットによる情報収集力

の高まり、画像・映像技術の向上、電子書籍の普及などによって、高校生の

情報量は格段に増大し、その処理能力も高まっている。だが、その基本であ

る「文章を読む」力の必要性はむしろ高まっているといえる。本離れの傾向

が見られる中、まずは本の内容への興味関心を高めるためにも、同世代に向

けて自分の思いを発信し、仲間の思いを受け止めるこの学習は、高校生の目

線に立って、楽しく親しみやすいものであることをめざしたい。

 本教科書では、読書への誘いの教材として、ブックガイド1「小説と映像」、

ブックガイド2「世界の中の日本語文学」、ブックガイド3「詩歌の世界」「近

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 74

D3-06_この本読.indd 74 13.1.28 4:40:27 PM65

明解国語総合

◎観点別に学習活動の指導目標を設定し、 評価基準・評価方法を詳しく示しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 65 2016/03/25 15:51

◉学習目標と評価  

学習材名

配当時間〔領域〕

学習したい主な内容

この本を読んでみて!

ブックトーク

5[話すこと・聞く

こと]

○興味をもった本の内容やその魅力をレジュメを使いながら口頭で発表する。

○他者の発表を聞き取り、適切に記録を取る。

重点的に指導する学習指導要領の内容

Aウ・エ

〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕

イ(ア)(イ)

学習指導要領の言語活動例

Aイ

評価の観点

学習活動の指導目標

学習活動の評価規準

(B「おおむね満足できると判断される状況」)

評価方法

☆A「十分満足できると判断される」生徒の例

★Bを実現していないと考えられる生徒への手だての例

関心・意欲・態度

①内容が伝わるように工夫し

て発表する。

①レジュメに基づき、適切に聞き取れるよう発表しよ

うとしている。

行動の確認

☆大きな声ではっきりと聞こえるように注意して、用意したもの

を的確に伝えようとしている。

★レジュメを読み上げればよいと伝え、励ます。

②発表を聞き取り、記録を取

る。

②発表を聞きながら、教科書を参考に記録用紙を作成

しようとしている。

記述の確認

☆発表について具体的に良さや課題を見つけようとして聞いてい

る。

 相手を気遣った表現を使って書こうとしている。

★発表の中で、おもしろい、興味深いと感じるところを探しなが

ら聞くように促す。

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 76

D3-06_この本読.indd 76 13.1.28 4:40:27 PM

この本を読んでみて!

 ブックトーク

話す・聞く3

学習活動の意味とねらい

 主体的に活動する表現学習では、「書くこと」が中心になりがちであるが、

「書くこと」ができるためには、その内容を「話すこと」ができることが必要

である。もちろん、感性に触れたことを書き表したり、創作したりするとき

は、話せなくても書くことができるという場合も少なくない。だが、日常的

に自分が感じたり、考えたりしたことを人にわかりやすく伝えるとき、まず

は話してみて、客観化し、表現を工夫することが、次に文章にまとめるとき

の基盤になることが多い。特に、直接相手に向かって話す場合は、すぐに相

手の反応も受け止めることがしやすいので、表現したいことを意識的に整理

することにも役立つ。話すことから書くことへ発展させていくことは、表現

学習の流れの一つと考えられる。

 だが、人前で話すことは、書くことよりも緊張を強いられる面もあり、高

校生にとっては、話すための準備としてその原稿を書くこと、また、他の人

が話すことを意識的に聞くことによって自分が話すことを客観的に考える視

点を得ること、これらの学習活動が必要になる。

 すなわち、この学習では、自分が感じたり考えたりしたことを人にわかり

やすく伝えることを「話す」活動で行う。そのために、準備として「書く」

活動をし、自分の「話す」活動を客観的に捉えていくために他の人の話を「聞

く」活動をすることが目的となる。

 こうした学習では、何を題材とするかによって、生徒に興味関心を抱かせ、

表現意欲を高める効果が異なってくる。また、指導側にとっても、他の学習

への発展性がある題材、素材を選びたいところである。国語学習では、読書

の経験を豊かにする動機付けとして、楽しく興味深い読書経験をし、その思

いを友達と共有したり、刺激を受け合ったりすることが、社会人の基盤作り

にもつながろう。読書感想文、レポートなどの課題が、却って読書の意欲を

削ぐ場合もあることを考えると、幅広い分野からの選書、簡単で視覚的な情

報も取り入れたわかりやすい資料を伴った発表で、楽しいブックトークを経

験することは取り組みやすい学習になると考えられる。この学習のもう一つ

の目的は、読書の楽しみを喚起することである。小中学校の段階で、本の帯

を作成する学習がよく見られるが、それに続く高校段階の学習と位置づけら

れる。また、広く社会のさまざまなメディアで行われている本や映画・演劇

などの紹介も視野に入れて、親しみやすいブックトークを心がけたい。学校

内の読書に関する活動、例えば朝の読書時間、図書室の読書推進活動との関

連づけも効果的であろう。あるいは他教科の授業の調査活動や学年行事の調

査などの活動との関連も考えられる。それらも視野に入れつつ、本稿では、

授業内で完結する学習を中心にして述べていく。

 パソコン、携帯などの情報機器の充実、インターネットによる情報収集力

の高まり、画像・映像技術の向上、電子書籍の普及などによって、高校生の

情報量は格段に増大し、その処理能力も高まっている。だが、その基本であ

る「文章を読む」力の必要性はむしろ高まっているといえる。本離れの傾向

が見られる中、まずは本の内容への興味関心を高めるためにも、同世代に向

けて自分の思いを発信し、仲間の思いを受け止めるこの学習は、高校生の目

線に立って、楽しく親しみやすいものであることをめざしたい。

 本教科書では、読書への誘いの教材として、ブックガイド1「小説と映像」、

ブックガイド2「世界の中の日本語文学」、ブックガイド3「詩歌の世界」「近

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 74

D3-06_この本読.indd 74 13.1.28 4:40:27 PM 64

明解国語総合

◎学習目標を達成するための具体的な手だてや 注意するポイントを示しました。

表現教材

学習活動の意味とねらい

TM29KS_P001-096_seki.indd 64 2016/03/25 15:51

Page 9: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

学習指導マニュアル

第一時限

【本時の目標】  

❶授業の目的、流れを知る。

❷本を選ぶ。

❸情報を整理する。(その1)

【学習活動と指導内容】  

◆導入

1

 学習の目的とその流れを確認する。

 教科書120ページ~123ページを開いて、学習の目的とその流れを確認する。

目的は120ページ上段のリード文、流れは120ページ上段の囲みで確認すること

ができる。具体的な作業の第一は、レジュメを121ページを参考にして作るこ

とである。したがって、教科書120~121ページを音読し、この時間で何をする

かを具体的にわかるように指示する。

 読書は、見聞を広げ、国語だけではなくさまざまな学習にも必要なことで

あるが、生涯の楽しみでもあり、高校生にとってはこれからの生き方にも影

響を与えることが少なくない、重要な活動である。ただ、ついつい読書させ

られる印象が強く、また、一人で次々と本を選んでいくことは難しい。そこ

で、友人同士、クラスメート同士で情報交換をすることは、興味深い、楽し

い読書のきっかけとなろう。それぞれの読書経験を文章にして、互いに読み

合うのではなく、目の前で本人から語ってもらうことは、より印象深く本へ

の興味を引き出すことになる。生徒それぞれが興味関心を抱いた本を選び、

心惹かれた点を語ることが望ましい。そのための授業の目的、流れであるこ

とが生徒に伝えられるとよい。

◆展開1

1

 自分が取り上げる本を選ぶ。

 事前に、候補の本を持参するように指示しておき、可能ならばそれを持っ

て図書室へ行き、図書室でさらに候補を探し、その上で取り上げる本を決定

するように指示する。図書室が利用できない場合は、候補を複数用意し、教

室で選ぶようにすることも一つの方法である。その折に、グループやクラス

で互いに見合う方法も考えられる。また、教員が候補になりそうな本を少し

用意する方法も加えられる。

 取り上げる一冊を選ぶ観点は120ページ下段の1を参考とする。何よりも自

分が頑張っていることや趣味や好きなことに関わりがあり、興味関心を持て

ることが大切。なかなか見つけられない生徒には、このことを気づかせるア

ドバイスをまず試みたい。どうしても探せない生徒、本には興味や経験がな

い生徒の場合は、いろいろな分野から候補を薦めるのも一つの方法。例えば、

子どもの時に見たことのありそうな絵本、大人からも興味深く捉えられてい

る児童書、部活や好きなスポーツなどに関わりのある雑誌、体験談の本、短

時間で読めそうな小説やエッセイの短編を収めた本、などにも目を向けさせ、

薦めることも考えられる。

 この授業では要になる大切な作業であるので、生徒の主体性を大切にしな

がら、支援をするようにしてほしい。

2

 レジュメの下書きを作成する。

 A4判もしくはB5判の白紙もしくは横罫の用紙に、121ページと122ページ

の上段3を参考にしてレジュメの下書きを作成する。白紙もしくは横罫の用

紙を配付して、教科書を見ながら下書きをさせることもできるが、本指導資

料の付属CD─

ROMに収録されている用紙を配付してもよい。

 個々の下書き作業の様子を確認しながら、机間巡視をして必要なアドバイ

スをする。このとき、本を選べているか、各項目に記入ができているか、を

まず確認するが、次には、自分の意見を一言で書いている場合は、説明や理

81 教科書[p.120〜p.123]

D3-06_この本読.indd 81 13.1.28 4:40:28 PM

学習指導の展開

◉学習指導案例(授業時間5時間の例)

 ※評価の番号は、「◉学習目標と評価」の番号と対応しています。  

時間

  標

学習活動と指導内容

指導上の留意点

評価

第1時限

❶授業の目的、流れを知

る。

❷本を選ぶ。

❸情報を整理する。(その

1)

◆導入

展開1

1

 学習の目的とその流れを確認する。

 1

 自分が取り上げる本を選ぶ。

  事前に、候補の本を持参するように指示して

おき、それを持って図書室へ行き、さらに候補

を探し、その上で取り上げる本を決定するよう

に指示する。選ぶ観点は120ページ下段の1を参

考とする。

2

 レジュメの下書きを作成する。

  A4判もしくはB5判の白紙もしくは横罫

の用紙に、121ページと122ページの上段3を参考

にしてレジュメの下書きを作成する。

1

 教科書120~121ページを音読し、この時間で何をするか

を具体的にわかるように指示する。

 

1

 図書室の利用が難しい場合は、複数の候補を持参させ

たり、教員が候補になりそうな本を少し用意する方法も

ある。

2

 白紙を配付しながら、本の選択について困っている生

徒には、声をかけるようにする。

  レジュメは手書きでよいが、条件が整い可能な場合

は、パソコンで作成しプリントアウトする方法も考えら

れる。

  また、資料を見やすくするために、表紙やキャラク

ターをカットとして取り入れたり、コピーを貼ることも

考えられる。

  ブックトークの発表時間を考慮し、必要に応じてレ

ジュメの下書きを宿題とする。

① ⑤

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 78

D3-06_この本読.indd 78 13.1.30 5:50:31 PM67

明解国語総合

◎授業の進め方の一つの例として、 時間ごとの学習活動と指導内容を具体的に記述しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 67 2016/03/25 15:51

学習指導マニュアル

第一時限

【本時の目標】  

❶授業の目的、流れを知る。

❷本を選ぶ。

❸情報を整理する。(その1)

【学習活動と指導内容】  

◆導入

1

 学習の目的とその流れを確認する。

 教科書120ページ~123ページを開いて、学習の目的とその流れを確認する。

目的は120ページ上段のリード文、流れは120ページ上段の囲みで確認すること

ができる。具体的な作業の第一は、レジュメを121ページを参考にして作るこ

とである。したがって、教科書120~121ページを音読し、この時間で何をする

かを具体的にわかるように指示する。

 読書は、見聞を広げ、国語だけではなくさまざまな学習にも必要なことで

あるが、生涯の楽しみでもあり、高校生にとってはこれからの生き方にも影

響を与えることが少なくない、重要な活動である。ただ、ついつい読書させ

られる印象が強く、また、一人で次々と本を選んでいくことは難しい。そこ

で、友人同士、クラスメート同士で情報交換をすることは、興味深い、楽し

い読書のきっかけとなろう。それぞれの読書経験を文章にして、互いに読み

合うのではなく、目の前で本人から語ってもらうことは、より印象深く本へ

の興味を引き出すことになる。生徒それぞれが興味関心を抱いた本を選び、

心惹かれた点を語ることが望ましい。そのための授業の目的、流れであるこ

とが生徒に伝えられるとよい。

◆展開1

1

 自分が取り上げる本を選ぶ。

 事前に、候補の本を持参するように指示しておき、可能ならばそれを持っ

て図書室へ行き、図書室でさらに候補を探し、その上で取り上げる本を決定

するように指示する。図書室が利用できない場合は、候補を複数用意し、教

室で選ぶようにすることも一つの方法である。その折に、グループやクラス

で互いに見合う方法も考えられる。また、教員が候補になりそうな本を少し

用意する方法も加えられる。

 取り上げる一冊を選ぶ観点は120ページ下段の1を参考とする。何よりも自

分が頑張っていることや趣味や好きなことに関わりがあり、興味関心を持て

ることが大切。なかなか見つけられない生徒には、このことを気づかせるア

ドバイスをまず試みたい。どうしても探せない生徒、本には興味や経験がな

い生徒の場合は、いろいろな分野から候補を薦めるのも一つの方法。例えば、

子どもの時に見たことのありそうな絵本、大人からも興味深く捉えられてい

る児童書、部活や好きなスポーツなどに関わりのある雑誌、体験談の本、短

時間で読めそうな小説やエッセイの短編を収めた本、などにも目を向けさせ、

薦めることも考えられる。

 この授業では要になる大切な作業であるので、生徒の主体性を大切にしな

がら、支援をするようにしてほしい。

2

 レジュメの下書きを作成する。

 A4判もしくはB5判の白紙もしくは横罫の用紙に、121ページと122ページ

の上段3を参考にしてレジュメの下書きを作成する。白紙もしくは横罫の用

紙を配付して、教科書を見ながら下書きをさせることもできるが、本指導資

料の付属CD─

ROMに収録されている用紙を配付してもよい。

 個々の下書き作業の様子を確認しながら、机間巡視をして必要なアドバイ

スをする。このとき、本を選べているか、各項目に記入ができているか、を

まず確認するが、次には、自分の意見を一言で書いている場合は、説明や理

81 教科書[p.120〜p.123]

D3-06_この本読.indd 81 13.1.28 4:40:28 PM

学習指導の展開

◉学習指導案例(授業時間5時間の例)

 ※評価の番号は、「◉学習目標と評価」の番号と対応しています。  

時間

  標

学習活動と指導内容

指導上の留意点

評価

第1時限

❶授業の目的、流れを知

る。

❷本を選ぶ。

❸情報を整理する。(その

1)

◆導入

展開1

1

 学習の目的とその流れを確認する。

 1

 自分が取り上げる本を選ぶ。

  事前に、候補の本を持参するように指示して

おき、それを持って図書室へ行き、さらに候補

を探し、その上で取り上げる本を決定するよう

に指示する。選ぶ観点は120ページ下段の1を参

考とする。

2

 レジュメの下書きを作成する。

  A4判もしくはB5判の白紙もしくは横罫

の用紙に、121ページと122ページの上段3を参考

にしてレジュメの下書きを作成する。

1

 教科書120~121ページを音読し、この時間で何をするか

を具体的にわかるように指示する。

 

1

 図書室の利用が難しい場合は、複数の候補を持参させ

たり、教員が候補になりそうな本を少し用意する方法も

ある。

2

 白紙を配付しながら、本の選択について困っている生

徒には、声をかけるようにする。

  レジュメは手書きでよいが、条件が整い可能な場合

は、パソコンで作成しプリントアウトする方法も考えら

れる。

  また、資料を見やすくするために、表紙やキャラク

ターをカットとして取り入れたり、コピーを貼ることも

考えられる。

  ブックトークの発表時間を考慮し、必要に応じてレ

ジュメの下書きを宿題とする。

① ⑤

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 78

D3-06_この本読.indd 78 13.1.30 5:50:31 PM 66

明解国語総合

◎時間・目標・学習内容と指導内容・指導上の留意点を、 指導の実際に即して表組みで示しました。

◎授業の進め方の一つの例として、 時間ごとの学習活動と指導内容を具体的に記述しました。

表現教材

学習指導の展開/学習指導マニュアル 

TM29KS_P001-096_seki.indd 66 2016/03/25 15:51

Page 10: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

本を選べない生徒へ薦める本について

ヘルプ!

 本を選べない生徒に薦める本を選ぶには、本稿の参考資料や参考文献

および本書の読書案内も参考になる。児童書・絵本にも高校生の思考や

感性に訴える作品は少なくない。

 例えば、『モモ─時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれ

た女の子のふしぎな物語─』(ミヒェル・エンデ著、大島かおり訳、岩波

書店・一九七六年、岩波少年文庫版は二〇〇五年)は時間に追われる非

人間的な現代社会の問題が取り上げられている。『ぼくと「ジョージ」』

(E・L・カニグズバーグ著、松永ふみ子訳、岩波少年文庫・二〇〇八

年)では思春期の自我の葛藤を描いている。話題になった映画やアニメー

ションの原作としては、『はてしない物語』上・下(ミヒャエル・エンデ

著、上田真而子・佐藤真理子訳、岩波少年文庫・二〇〇〇年)、『床下の

小人たち』(メアリー・ノートン著、林容吉訳、岩波少年文庫・二〇〇〇

年)、『魔法使いハウルと火の悪魔』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、

西村醇子訳、徳間書店・一九九七年)、『霧のむこうのふしぎな町』(柏葉

幸子著、講談社青い鳥文庫・二〇〇四年)などもある。昔話・伝説の基

盤に成り立つ短編を数多く書き残し、アンデルセンの再来と言われたエ

リナー・ファージョンの『ムギと王さま

 本の小べや1』(石井桃子訳、

岩波少年文庫・二〇〇一年)『天国を出ていく

 本の小べや2』(石井桃

子訳、岩波少年文庫・二〇〇一年)なども作品をいろいろな方向から考

える楽しさを提供してくれる。

 一方、絵本には、漢詩の世界を絵本化し、夜明けを見事に表現したと

言われる『よあけ』(ユリ・シュルヴィッツ作、瀬田貞二訳、福音館書

店・一九七七年)、世界平和を祈る『きょうというひ』(荒井良二作、B

L出版・二〇〇五年)、グローバル時代の隣人を考えさせる『ぼくがラー

メンたべてるとき』(長谷川義史作、教育画劇・二〇〇八年)、読み合う

楽しさを提供してくれる『まるまるまるのほん』(エルヴェ・テュレ作、

谷川俊太郎訳、ポプラ社・二〇一〇年)など、高校生が楽しみ、考える

ことのできる作品が続出している。

 物語体験の必要性は、幼児、児童の時期に強調されているが、文章に

親しみ、思いを文章で表現する場合、高校生においてもそのきっかけと

なり得ると考えられる。幼い頃に読み聞かせてもらった物語の追体験が、

新たな感慨を引き起こす場合もある。そうした経験がほとんど無い場合

でも、人は年齢に拘わらず話を好むものであるから、新たに物語体験を

積み重ねていくこともある。読書対象を狭めず、生徒の関心を引く分野

の作品や絵本にも範囲を広げてもよいのではないだろうか。

83 教科書[p.120〜p.123]

D3-06_この本読.indd 83 13.1.28 4:40:28 PM

由を加えて、ふくらませるように注意を喚起するようにしてほしい。

 また、この下書きは次の授業で友達と読み合ってから清書をすること、清

書の段階でカットなどを入れる場合はその準備をすることを予告する。

 レジュメは発表で聞き手の手元に配られるため、いろいろな工夫をするこ

とで、より印象深い発表をすることができる。紙面の許す範囲で、カットや

表やグラフなどの視覚に訴える工夫も認めると、作成する側も聞く側も楽し

さが増すであろう。レジュメは手書きでよいが、条件が整い可能な場合は、

パソコンで作成しプリントアウトする方法も考えられる。だが、案外手書き

の方が作る側も聞く側も印象に残りやすい。

 また、資料を見やすくするために、表紙やキャラクターをカットとして取

り入れたり、コピーを貼ることも考えられる。コピーの場合は授業で配付す

る範囲の資料なので著作権を侵害はしないが、この機会に引用や複写に関す

る著作権のことに触れることも一つの学習となろう。

 ブックトークの発表時間を考慮し、必要に応じてレジュメの下書きを宿題

とする。

〈記入用紙例1〉レジュメ

記入例

ブックガイドこの本読んでみて!

◆本のデータ ●書名 『後白河院』 ●編著者名 井上靖 ●出版社名 新潮社(新潮文庫) ●刊行年  昭和 47 年筑摩書房から刊行       昭和 50 年文庫版初版 平成 19 年 31 刷改版       平成 24 年 35 刷(昭和 50 年版、平成 19 年版の解説を掲載)◆出合ったいきさつ  テレビドラマで中世の時代や後白河という人物に興味を持って、インターネットで調べたらこの小説が興味深い構成であることがわかったので、解説が付いている文庫版で読んでみた。◆本や作品に対する感想 四人の人物がそれぞれ後白河周辺の出来事について自分の見たこと聞いたことを語っていく構成になっている。読者である自分がそれらの話を組み立てて、イメージをふくらませていくのは難しいが、事件を解決していくミステリーのようで、わくわくするおもしろさがある。◆主な内容 平安時代の終わり頃、それまでの貴族の政治が武士に取って代わられようとしている混乱の時期、院政を行った上皇や法皇の中でも、今様という庶民の歌を愛したことで変人ともいわれている後白河院は、実は大変な策略家だったという実像を、四人の人物の証言から浮かび上がらせる小説。◆魅力 四人の人が語る四つの部分からできているが、それぞれが語り口調も考え方も違っている。それらを読みながら、読者自身が頭の中で組み上げていくと後白河院の人物像が浮かび上がってくる。それが周りの人に理解してもらえない変わり者ではなく、緻密に策略を巡らせていた政治力のある大人物になってくるところに、ぐいぐいと引き込まれていく。しかも一人目の聞き手は四人目の話し手で、なかなか込み入っている。それがミステリーを解いていくようで魅力的だ。後白河に対する解釈はいろいろとあるので、他の作家の作品や歴史の解説書を読み合わせるとさまざまな後白河像があり、さらに興味がわいてくる。◆キャッチコピー 四人の証言が大策略家「後白河」の実像を暴く!

(CD-

ROM「表現活動シート」参照)

ブックガイドこの本読んでみて!

◆本のデータ ●書名 ●編著者名 ●出版社名 ●刊行年 

◆出合ったいきさつ

◆本や作品に対する感想

◆主な内容

◆魅力

◆キャッチコピー

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 82

D3-06_この本読.indd 82 13.1.30 5:50:31 PM69

明解国語総合

◎時間ごとに、指導の手助けとなる情報や 参考になる資料を示しました。

︵DVD

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 69 2016/03/25 15:51

本を選べない生徒へ薦める本について

ヘルプ!

 本を選べない生徒に薦める本を選ぶには、本稿の参考資料や参考文献

および本書の読書案内も参考になる。児童書・絵本にも高校生の思考や

感性に訴える作品は少なくない。

 例えば、『モモ─時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれ

た女の子のふしぎな物語─』(ミヒェル・エンデ著、大島かおり訳、岩波

書店・一九七六年、岩波少年文庫版は二〇〇五年)は時間に追われる非

人間的な現代社会の問題が取り上げられている。『ぼくと「ジョージ」』

(E・L・カニグズバーグ著、松永ふみ子訳、岩波少年文庫・二〇〇八

年)では思春期の自我の葛藤を描いている。話題になった映画やアニメー

ションの原作としては、『はてしない物語』上・下(ミヒャエル・エンデ

著、上田真而子・佐藤真理子訳、岩波少年文庫・二〇〇〇年)、『床下の

小人たち』(メアリー・ノートン著、林容吉訳、岩波少年文庫・二〇〇〇

年)、『魔法使いハウルと火の悪魔』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、

西村醇子訳、徳間書店・一九九七年)、『霧のむこうのふしぎな町』(柏葉

幸子著、講談社青い鳥文庫・二〇〇四年)などもある。昔話・伝説の基

盤に成り立つ短編を数多く書き残し、アンデルセンの再来と言われたエ

リナー・ファージョンの『ムギと王さま

 本の小べや1』(石井桃子訳、

岩波少年文庫・二〇〇一年)『天国を出ていく

 本の小べや2』(石井桃

子訳、岩波少年文庫・二〇〇一年)なども作品をいろいろな方向から考

える楽しさを提供してくれる。

 一方、絵本には、漢詩の世界を絵本化し、夜明けを見事に表現したと

言われる『よあけ』(ユリ・シュルヴィッツ作、瀬田貞二訳、福音館書

店・一九七七年)、世界平和を祈る『きょうというひ』(荒井良二作、B

L出版・二〇〇五年)、グローバル時代の隣人を考えさせる『ぼくがラー

メンたべてるとき』(長谷川義史作、教育画劇・二〇〇八年)、読み合う

楽しさを提供してくれる『まるまるまるのほん』(エルヴェ・テュレ作、

谷川俊太郎訳、ポプラ社・二〇一〇年)など、高校生が楽しみ、考える

ことのできる作品が続出している。

 物語体験の必要性は、幼児、児童の時期に強調されているが、文章に

親しみ、思いを文章で表現する場合、高校生においてもそのきっかけと

なり得ると考えられる。幼い頃に読み聞かせてもらった物語の追体験が、

新たな感慨を引き起こす場合もある。そうした経験がほとんど無い場合

でも、人は年齢に拘わらず話を好むものであるから、新たに物語体験を

積み重ねていくこともある。読書対象を狭めず、生徒の関心を引く分野

の作品や絵本にも範囲を広げてもよいのではないだろうか。

83 教科書[p.120〜p.123]

D3-06_この本読.indd 83 13.1.28 4:40:28 PM

由を加えて、ふくらませるように注意を喚起するようにしてほしい。

 また、この下書きは次の授業で友達と読み合ってから清書をすること、清

書の段階でカットなどを入れる場合はその準備をすることを予告する。

 レジュメは発表で聞き手の手元に配られるため、いろいろな工夫をするこ

とで、より印象深い発表をすることができる。紙面の許す範囲で、カットや

表やグラフなどの視覚に訴える工夫も認めると、作成する側も聞く側も楽し

さが増すであろう。レジュメは手書きでよいが、条件が整い可能な場合は、

パソコンで作成しプリントアウトする方法も考えられる。だが、案外手書き

の方が作る側も聞く側も印象に残りやすい。

 また、資料を見やすくするために、表紙やキャラクターをカットとして取

り入れたり、コピーを貼ることも考えられる。コピーの場合は授業で配付す

る範囲の資料なので著作権を侵害はしないが、この機会に引用や複写に関す

る著作権のことに触れることも一つの学習となろう。

 ブックトークの発表時間を考慮し、必要に応じてレジュメの下書きを宿題

とする。

〈記入用紙例1〉レジュメ

記入例

ブックガイドこの本読んでみて!

◆本のデータ ●書名 『後白河院』 ●編著者名 井上靖 ●出版社名 新潮社(新潮文庫) ●刊行年  昭和 47 年筑摩書房から刊行       昭和 50 年文庫版初版 平成 19 年 31 刷改版       平成 24 年 35 刷(昭和 50 年版、平成 19 年版の解説を掲載)◆出合ったいきさつ  テレビドラマで中世の時代や後白河という人物に興味を持って、インターネットで調べたらこの小説が興味深い構成であることがわかったので、解説が付いている文庫版で読んでみた。◆本や作品に対する感想 四人の人物がそれぞれ後白河周辺の出来事について自分の見たこと聞いたことを語っていく構成になっている。読者である自分がそれらの話を組み立てて、イメージをふくらませていくのは難しいが、事件を解決していくミステリーのようで、わくわくするおもしろさがある。◆主な内容 平安時代の終わり頃、それまでの貴族の政治が武士に取って代わられようとしている混乱の時期、院政を行った上皇や法皇の中でも、今様という庶民の歌を愛したことで変人ともいわれている後白河院は、実は大変な策略家だったという実像を、四人の人物の証言から浮かび上がらせる小説。◆魅力 四人の人が語る四つの部分からできているが、それぞれが語り口調も考え方も違っている。それらを読みながら、読者自身が頭の中で組み上げていくと後白河院の人物像が浮かび上がってくる。それが周りの人に理解してもらえない変わり者ではなく、緻密に策略を巡らせていた政治力のある大人物になってくるところに、ぐいぐいと引き込まれていく。しかも一人目の聞き手は四人目の話し手で、なかなか込み入っている。それがミステリーを解いていくようで魅力的だ。後白河に対する解釈はいろいろとあるので、他の作家の作品や歴史の解説書を読み合わせるとさまざまな後白河像があり、さらに興味がわいてくる。◆キャッチコピー 四人の証言が大策略家「後白河」の実像を暴く!

(CD-

ROM「表現活動シート」参照)

ブックガイドこの本読んでみて!

◆本のデータ ●書名 ●編著者名 ●出版社名 ●刊行年 

◆出合ったいきさつ

◆本や作品に対する感想

◆主な内容

◆魅力

◆キャッチコピー

話す・聞く3 この本を読んでみて! ブックトーク 82

D3-06_この本読.indd 82 13.1.30 5:50:31 PM 68

明解国語総合

◎実際の学習活動で使用できるワークシート例や記入例を示しました。 付属のDVD-ROMにはデータを収録しています。

◎時間ごとに、指導の手助けとなる情報や 参考になる資料を示しました。

表現教材

ワークシート例/ヘルプ! 

︵DVD

TM29KS_P001-096_seki.indd 68 2016/03/25 15:51

Page 11: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

教材の研究

❖木曾の最期

◉全体の構成

 段落分けと大意  

◉展開図  

【状況設定】

 木曾殿(源義仲)、平家軍に勝って都入りするも、後白河法皇と対立し、源頼朝の追討軍によって都を追われることになる。

 木曾殿は、勢田を守っていた乳母子の今井四郎(兼平)と大津の打出浜で再会し、追討軍と戦うも、とうとう主従二騎になってしまう。

 【二人の言動と心の動き】

 木曾「鎧が重く感じられる。」(信頼する今井に弱音を吐く。)

 今井「あなた様はまだお疲れにはなっていない。」「臆病によってそうお感じになるのだ。」(木曾殿を元気づける。)

   →「防ぎ矢をするので、粟津の松原で自害してほしい。」(木曾殿を思い、武将としての立派な最期を願う。)

       ↓

     新手の敵が、五十騎ほど現れる。

       ↓

 今井「粟津の松原へ行って自害を。」

 木曾「お前と一緒に討ち死にをしたい。」(信頼する今井と離れたくない。)

 今井「弓矢取り(武士)は最期に不覚をとると、末代までの不名誉となります。」「あなた様は疲れていらっしゃいます。」(木曾殿を説得)

   →「とにかくあの松原に。」(ひたすら木曾殿の名誉を大切にする。)

 木曾「それならば」と、松原に向かう。(今井の気持ちを尊重しよう。)

       ↓

 今井「自分のことは鎌倉殿もご存じである。」(相手を自分に引きつけて、木曾殿を無事自害させようとする。)

    ただ一騎で奮戦。無傷で敵を多く討ち取る。(木曾殿を守りたいという強い思い。)

       ↓

 木曾、松原へ向かう途中で、馬が深田にはまり、動けなくなり、後ろを振り返る。(今井の行方が気がかり。)

    内甲を射られてしまい、石田次郎為久に討ち取られる。

       ↓

 今井「今となっては戦う理由がなくなった。自分の死に様を自害の手本とせよ。」と、壮絶な最期を遂げる。(木曾殿の名誉を挽回するため。)

段落

ページ・行

  意

第一段

初め~251・5「駆けたまふ。」

 戦いの末、とうとう木曾殿と今井四郎の主従二騎になった。「鎧が重くなった。」と弱音を吐き、ともに戦って死の

うとする木曾殿を、今井四郎は叱咤激励し、自害するよう説得する。木曾殿は結局今井の勧めに従い、自害するため

粟津の松原へ馬を走らせた。

第二段

251・6「今井四郎ただ一騎、」

~252・7「手も負はず。」

 今井四郎は木曾殿を無事自害させるため、一人で五十騎の敵を相手に奮戦した。その戦いぶりに正面から戦いを挑

む者はいなかった。

第三段

252・8「木曾殿はただ一騎、」

~終わり

 木曾殿は粟津の松原へ向かったが、途中誤って深田に乗り入れ、身動きがとれなくなったところを射られ、首を取

られてしまった。木曾殿の死を知った今井四郎は壮烈な自害を遂げた。

軍記 平家物語 木曾の最期 300301 教科書[p.248〜p.254]

D4-17_平家物語/初.indd 300-301 2015/11/05 12:08:0171

明解国語総合

◎教材全体を概観できるよう、 内容を図式化したものを示しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 71 2016/03/25 15:51

教材の研究

❖木曾の最期

◉全体の構成

 段落分けと大意  

◉展開図  

【状況設定】

 木曾殿(源義仲)、平家軍に勝って都入りするも、後白河法皇と対立し、源頼朝の追討軍によって都を追われることになる。

 木曾殿は、勢田を守っていた乳母子の今井四郎(兼平)と大津の打出浜で再会し、追討軍と戦うも、とうとう主従二騎になってしまう。

 【二人の言動と心の動き】

 木曾「鎧が重く感じられる。」(信頼する今井に弱音を吐く。)

 今井「あなた様はまだお疲れにはなっていない。」「臆病によってそうお感じになるのだ。」(木曾殿を元気づける。)

   →「防ぎ矢をするので、粟津の松原で自害してほしい。」(木曾殿を思い、武将としての立派な最期を願う。)

       ↓

     新手の敵が、五十騎ほど現れる。

       ↓

 今井「粟津の松原へ行って自害を。」

 木曾「お前と一緒に討ち死にをしたい。」(信頼する今井と離れたくない。)

 今井「弓矢取り(武士)は最期に不覚をとると、末代までの不名誉となります。」「あなた様は疲れていらっしゃいます。」(木曾殿を説得)

   →「とにかくあの松原に。」(ひたすら木曾殿の名誉を大切にする。)

 木曾「それならば」と、松原に向かう。(今井の気持ちを尊重しよう。)

       ↓

 今井「自分のことは鎌倉殿もご存じである。」(相手を自分に引きつけて、木曾殿を無事自害させようとする。)

    ただ一騎で奮戦。無傷で敵を多く討ち取る。(木曾殿を守りたいという強い思い。)

       ↓

 木曾、松原へ向かう途中で、馬が深田にはまり、動けなくなり、後ろを振り返る。(今井の行方が気がかり。)

    内甲を射られてしまい、石田次郎為久に討ち取られる。

       ↓

 今井「今となっては戦う理由がなくなった。自分の死に様を自害の手本とせよ。」と、壮絶な最期を遂げる。(木曾殿の名誉を挽回するため。)

段落

ページ・行

  意

第一段

初め~251・5「駆けたまふ。」

 戦いの末、とうとう木曾殿と今井四郎の主従二騎になった。「鎧が重くなった。」と弱音を吐き、ともに戦って死の

うとする木曾殿を、今井四郎は叱咤激励し、自害するよう説得する。木曾殿は結局今井の勧めに従い、自害するため

粟津の松原へ馬を走らせた。

第二段

251・6「今井四郎ただ一騎、」

~252・7「手も負はず。」

 今井四郎は木曾殿を無事自害させるため、一人で五十騎の敵を相手に奮戦した。その戦いぶりに正面から戦いを挑

む者はいなかった。

第三段

252・8「木曾殿はただ一騎、」

~終わり

 木曾殿は粟津の松原へ向かったが、途中誤って深田に乗り入れ、身動きがとれなくなったところを射られ、首を取

られてしまった。木曾殿の死を知った今井四郎は壮烈な自害を遂げた。

軍記 平家物語 木曾の最期 300301 教科書[p.248〜p.254]

D4-17_平家物語/初.indd 300-301 2015/11/05 12:08:01 70

明解国語総合

◎全体の構成を表組みで示すとともに、 それぞれの段落大意をまとめました。

◎教材全体を概観できるよう、 内容を図式化したものを示しました。

古文教材

教材の研究︵全体の構成/展開図︶

TM29KS_P001-096_seki.indd 70 2016/03/25 15:51

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◉品詞分解と通釈  

〔品詞分解〕

①今いま

井ゐの

四し

郎らう

、木き

曾そ

殿どの

、主し

従じゆう

二に

騎き 

 

 

� 

  

なつ

  

� 

 

 

� �

 のたまひ

 

� 

 

��

ける

 

��

 

は、 �

「日ひ

ごろ 

 

 

� 

何なに 

 

 � 

 �

 

� 

 

��

覚おぼ

 

�� 

 

 ��

 

 �� 

鎧よろひ 

 

 

� 

今け

日ふ 

 

 

 

 �

重おも

 

 � 

  

なつ

  

� 

 

��

たる

 �� 

 

 

� 

 

や。」�

②今い

井ゐの

四し

郎らう 

  

申まう

 

��� 

 

��

ける

 

��  

�は、 �

「御お

身み 

 

 

� 

いまだ 

 

 �

疲つか

 

 � 

 

��

させ

 

��  

 ��たまは

 

 �� 

 

 ��

ず。 ��

御おん

馬うま 

 

 

� 

 

弱よは

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

ず。

 

何なに 

 

 

� 

  

よつ

  

� 

 

 

� 

 

 �

か、

 

� 

一いち

両りやう 

 

 

� 御お

着き

背せ

長なが 

 

 

� 

  重お

  

 

 

� 

 おぼしめし�� 

  候さ

うらふ

  

�� 

  

べき。

 

それ 

 

 

� 

味み

方かた 

 

 

� 

御おん

勢せい 

 

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

  

�  

 ��ば、  �� 

臆おく

病びやう

 

 

� 

 

こそ

 

� 

さ 

 

 

� 

 おぼしめし

 

   

候さうらへ。

  

兼かね

平ひら

 一いち

人にん 

  

候さうらふ

  

� 

 

 �

とも、

 

� 

余よ 

 

 

� 

武む

者しや

 千せん

騎ぎ 

 

 

� ��

おぼしめせ。

〔通釈〕

①今井四郎兼平と、木曾殿(義仲)が、主従二

騎になって木曾殿がおっしゃることには、

「日ごろは何とも思わない鎧が今日は重くなっ

たぞ。」

②今井四郎が申しあげることには、

「殿はお体もまだお疲れになってはいらっしゃ

いません。

御馬も弱っておりません。

どうして、たかが一両の御着背長を重くお思い

になることがありましょう。

それはお味方に軍勢がございませんので、気後

れしてそのようにお思いになるのです。

(この)兼平(は一人ですが、たとえ)一人でご

ざいましても、他の武者千騎に相当するものと

矢や

 七なな

つ八や

つ 

  

候さうらへ 

  

  

ば、 

 � 

しばらく

 防ふせ

ぎ矢や

 つかまつら 

  

ん。

 

あれ 

 

 

� 

 

��

見み

 

�� 

 

 候さうらふ

、 

 

粟あは

津づ 

 

 

� 

松まつ

原ばら 

 

 

� 

  

申まう

す、 

��

あ� 

 

 

� 

松まつ 

 

 

� 

中なか 

 

 

� 

御おん

自じ

害がい 

  候さ

うらへ

。」  

 

 

� 

 

て、 � 

  

打う

  

� 

 

 

� 

 

行ゆ

 

� �

ほど 

 

に、 � 

また

 新あら

手て 

 

 

� 

武む

者しや

五ご

十じつ

騎き �

ばかり�  �

出い

で来き � 

 

 �

たり。 

③「君き

み 

 

 

� �

あ� 

 

 

� 

松まつ

原ばら 

 

 

� 

 

入い

 

� 

  

  

� 

 

 ��

たまへ。 

��

兼かね

平ひら 

 

 

� �

こ� 

 

 

� 

敵かたき 

 

防ふせ

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

ん。」 

 

 

� 

  

申まう

  

� 

 

��

けれ

 

�� 

  

ば、 

 � 

木き

曾そ

殿どの �

 のたまひ

 

� 

 

��

ける

 

�� 

 

は、 �

「義よ

仲なか

 都みやこ  �

にて �  ��

いかに �� 

 

 

� 

 

なる

 

� 

 

べかり

 

� 

 

��

つる

 

�� 

  

が、 

 

� 

これ

 �

まで �  

逃のが

れ来く

る  

 

は、 � 

なんぢ 

 

 

� 

一いつ

所しよ 

 

 

� 

 

死し

 

� 

  

  

� 

 

 

 

思おも

 

� 

ため 

 

 �

なり。 �

所ところ

々どころ 

 

 

� 

 

討う

 

� 

  

  

� 

 

 ��

 

 ��  �

より � 

 

も、 � 

ひと所と

ころ 

 

 

� 

 

こそ

 

討う

ち死じ

に 

 

 

� 

 

 

� 

 

 �

 

 � 

  

 �

め。」

 

 �

お思いになってください。

矢が七、八本ございますので、しばらく防ぎ矢

をいたしましょう。

あそこに見えております、粟津の松原と申すと

ころ、あの松の中で御自害なさいませ。」

と申しあげて、むちを打って馬を急がせていく

うちに、また新手の武者が五十騎ほど現れた。

③「殿はあの松原へお入りください。

兼平はこの敵を防ぎましょう。」

と(今井が)申しあげると、木曾殿がおっしゃ

ることには、

「この義仲は、都で最期を遂げるはずであったと

ころを、ここまで逃れて来たのは、お前と同じ

所で死のうと思ったからだ。

別々のところで討たれるよりも、同じ場所で討

ち死にをしようではないか。」

                    

 ��

格助(結果) 動(ラ四・

連用・

音便) 接助(単接) ��

動(尊敬・ハ四・

連用) ��

助動(過去・

連体)

係助(区別)

      係助(区別)  

 ��

格助(引用) 係助(強意) 動(ヤ下二・

未然) 助動(打消・

連体)   格助(主格)    

係助(区別)

形(ク・

連用・

音便) 動(ラ四・

連用・

音便) 助動(完了・

連体) �係助(強意) 間助(詠嘆)

        動(謙譲・サ四・

連用) 助動(過去・

連体) 係助(区別)

    

��

係助(並列)  

  

��

動(ラ下二・

未然) 助動(尊敬・

連用) 補動(尊敬・

ハ四・

未然) 助動(打消・

終止)

    係助(並列) �

動(ラ四・

連用) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(打消・

終止)

  

格助(原因) 動(ラ四・

連用・

音便) 接助(単接) 係助(反語・

係)    

 �

格助(体修)       

格助(対象) 形(ク・

連用・

音便)

係助(区別) 

動(尊敬・サ四・

連用) 動(丁寧・

ハ四・

終止) 助動(推量・

連体・

結)

代名

 

係助(区別)    

��

格助(対象)    

格助(主格) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(打消・

已然) 

接助(順接・確定)

格助(理由) ��

係助(強意・

係) �

副����

係助(区別) 

動(尊敬・サ四・

連用) 

補動(丁寧・

ハ四・

已然・

結)

        動(丁寧・ハ四・

終止) 

接助(逆接・

仮定)   

格助(体修)         格助(比喩) 動(尊敬・サ四・

命令)

         

 �

動(丁寧・ハ四・

已然) 

接助(順接・

確定)   

         

 �

動(ラ四・

未然) 

助動(意志・

終止)

代名

 

格助(場所) 動(ヤ下二・

連用) 補助(丁寧・

ハ四・

連体)    

 �

格助(体修)    

格助(引用) 動(丁寧・サ四・

終止)

代名

 

格助(体修)  

���

格助(体修)   格助(場所)      

動(丁寧・ハ四・

命令)

格助(引用) 接助(単接) 

動(タ四・

連用・

音便) 接助(単接) 動(カ四・

連体)     格助(時間) 

��

      

格助(体修)

     

副助(程度) 動(カ変・

連用) 助動(完了・

終止)

     

係助(区別) 代名

 格助(体修)    

��

格助(方向) 動(ラ四・

未然) 助動(尊敬・

連用) 

補動(尊敬・

ハ四・

命令)

    係助(区別) 代名

 格助(体修)   動(ガ四・

連用) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(意志・

終止)

格助(引用) 

動(謙譲・サ四・

連用) 

助動(過去・

已然) �

接助(順接・

確定)      

動(尊敬・ハ四・

連用) 助動(過去・

連体) 係助(区別)

       

格助(場所) 形動(ナリ・

連用) �

係助(強意) 動(ラ四・

終止) 助動(当然・

連用) 助動(完了・

連体) 接助(逆接・

確定) 

代名

副助(範囲) 

動(カ変・

連体) 係助(区別) ��

 代名

 

 ��

格助(相手)    

格助(場所) 動(ナ変・

未然) 助動(意志・

終止) 

格助(引用)

動(ハ四・

連体)    

��

助動(断定・

終止)

    格助(場所) �

動(タ四・

未然) 助動(受身・

未然) 助動(婉曲・

連体) 格助(比較) 係助(強意)      格助(場所) 係助(強意・

係)

      

��

格助(対象) 係助(強意) 動(サ変・

未然) 助動(勧誘・

已然・

結)

軍記 平家物語 木曾の最期 302303 教科書[p.248〜p.254]

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◉品詞分解と通釈  

〔品詞分解〕

①今いま

井ゐの

四し

郎らう

、木き

曾そ

殿どの

、主し

従じゆう

二に

騎き 

 

 

� 

  

なつ

  

� 

 

 

� �

 のたまひ

 

� 

 

��

ける

 

��

 

は、 �

「日ひ

ごろ 

 

 

� 

何なに 

 

 � 

 �

 

� 

 

��

覚おぼ

 

�� 

 

 ��

 

 �� 

鎧よろひ 

 

 

� 

今け

日ふ 

 

 

 

 �

重おも

 

 � 

  

なつ

  

� 

 

��たる

 �� 

 

 

� 

 

や。」�

②今い

井ゐの

四し

郎らう 

  

申まう

 

��� 

 

��

ける

 

��  

�は、 �

「御お

身み 

 

 

� 

いまだ 

 

 �

疲つか

 

 � 

 

��

させ

 �� 

  ��

たまは

 

 �� 

 

 ��

ず。 ��

御おん

馬うま 

 

 

� 

 

弱よは

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

ず。

 �

何なに 

 

 

� 

  

よつ

  

� 

 

 

� 

 

 �

か、

 

� 

一いち

両りやう 

 

 � 

御おん

着き

背せ

長なが 

 

 

� 

  重お

  

 

 

� 

 おぼしめし�� 

  候さ

うらふ

  

�� 

  

べき。

 

それ 

 

 

� 

味み

方かた 

 

 

� 

御おん

勢せい 

 

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

  

�  

 ��ば、  �� 

臆おく

病びやう

 

 

� 

 

こそ

 

� 

さ 

 

 

� 

 おぼしめし

 

   

候さうらへ。

  

兼かね

平ひら

 一いち

人にん 

  

候さうらふ

  

� 

 

 �

とも、

 

� 

余よ 

 

 

� 

武む

者しや

 千せん

騎ぎ 

 

 

� ��

おぼしめせ。

〔通釈〕

①今井四郎兼平と、木曾殿(義仲)が、主従二

騎になって木曾殿がおっしゃることには、

「日ごろは何とも思わない鎧が今日は重くなっ

たぞ。」

②今井四郎が申しあげることには、

「殿はお体もまだお疲れになってはいらっしゃ

いません。

御馬も弱っておりません。

どうして、たかが一両の御着背長を重くお思い

になることがありましょう。

それはお味方に軍勢がございませんので、気後

れしてそのようにお思いになるのです。

(この)兼平(は一人ですが、たとえ)一人でご

ざいましても、他の武者千騎に相当するものと

矢や

 七なな

つ八や

つ 

  

候さうらへ 

  

  

ば、 

 � 

しばらく

 防ふせ

ぎ矢や

 つかまつら 

  

ん。

 

あれ 

 

 

� 

 

��

見み

 

�� 

 

 候さうらふ、 

 

粟あは

津づ 

 

 

� 

松まつ

原ばら 

 

 

� 

  

申まう

す、 

��

あ� 

 

 

� 

松まつ 

 

 

� 

中なか 

 

 

� 

御おん

自じ

害がい 

  候さ

うらへ

。」  

 

 

� 

 

て、 � 

  

打う

  

� 

 

 

� 

 

行ゆ

 

� �

ほど 

 

に、 � 

また

 新あら

手て 

 

 

� 

武む

者しや

五ご

十じつ

騎き �

ばかり�  �

出い

で来き � 

 

 �

たり。 

③「君き

み 

 

 

� �

あ� 

 

 

� 

松まつ

原ばら 

 

 

� 

 

入い

 

� 

  

  

� 

 

 ��

たまへ。 

��

兼かね

平ひら 

 

 

� �

こ� 

 

 

� 

敵かたき 

 

防ふせ

 

� 

  

��

候さうらは

  

�� 

  

ん。」 

 

 

� 

  

申まう

  

� 

 

��

けれ

 

�� 

  

ば、 

 � 

木き

曾そ

殿どの �

 のたまひ

 

� 

 

��

ける

 

�� 

 

は、 �

「義よ

仲なか

 都みやこ  �

にて �  ��

いかに �� 

 

 

� 

 

なる

 

� 

 

べかり

 

� 

 

��

つる

 

�� 

  

が、 

 

� 

これ

 �

まで �  

逃のが

れ来く

る  

 

は、 � 

なんぢ 

 

 

� 

一いつ

所しよ 

 

 

� 

 

死し

 

� 

  

  

� 

 

 

 

思おも

 

� 

ため 

 

 �

なり。 �

所ところ

々どころ 

 

 

� 

 

討う

 

� 

  

  

� 

 

 ��

 

 ��  �

より � 

 

も、 � 

ひと所と

ころ 

 

 

� 

 

こそ

 

討う

ち死じ

に 

 

 

� 

 

 

� 

 

 �

 

 � 

  

 �

め。」

 

 �

お思いになってください。

矢が七、八本ございますので、しばらく防ぎ矢

をいたしましょう。

あそこに見えております、粟津の松原と申すと

ころ、あの松の中で御自害なさいませ。」

と申しあげて、むちを打って馬を急がせていく

うちに、また新手の武者が五十騎ほど現れた。

③「殿はあの松原へお入りください。

兼平はこの敵を防ぎましょう。」

と(今井が)申しあげると、木曾殿がおっしゃ

ることには、

「この義仲は、都で最期を遂げるはずであったと

ころを、ここまで逃れて来たのは、お前と同じ

所で死のうと思ったからだ。

別々のところで討たれるよりも、同じ場所で討

ち死にをしようではないか。」

                    

 ��

格助(結果) 動(ラ四・

連用・

音便) 接助(単接) ��

動(尊敬・ハ四・

連用) ��

助動(過去・

連体)

係助(区別)

      係助(区別)  

 ��

格助(引用) 係助(強意) 動(ヤ下二・

未然) 助動(打消・

連体)   格助(主格)    

係助(区別)

形(ク・

連用・

音便) 動(ラ四・

連用・

音便) 助動(完了・連体) �

係助(強意) 間助(詠嘆)

        動(謙譲・サ四・

連用) 助動(過去・

連体) 係助(区別)

    

��

係助(並列)  

  

��

動(ラ下二・

未然) 助動(尊敬・

連用) 補動(尊敬・

ハ四・

未然) 助動(打消・

終止)

    係助(並列) �

動(ラ四・

連用) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(打消・

終止)

  

格助(原因) 動(ラ四・

連用・

音便) 接助(単接) 係助(反語・

係)    

 �

格助(体修)       

格助(対象) 形(ク・

連用・

音便)

係助(区別) 

動(尊敬・サ四・

連用) 動(丁寧・

ハ四・

終止) 助動(推量・

連体・

結)

代名

 

係助(区別)    

��

格助(対象)    

格助(主格) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(打消・

已然) 

接助(順接・確定)

格助(理由) ��

係助(強意・

係) �

副����

係助(区別) 

動(尊敬・サ四・

連用) 

補動(丁寧・

ハ四・

已然・

結)

        動(丁寧・ハ四・

終止) 

接助(逆接・

仮定)   

格助(体修)         格助(比喩) 動(尊敬・サ四・

命令)

         

 �

動(丁寧・ハ四・

已然) 

接助(順接・

確定)   

         

 �

動(ラ四・

未然) 

助動(意志・

終止)

代名

 

格助(場所) 動(ヤ下二・

連用) 補助(丁寧・

ハ四・

連体)    

 �

格助(体修)    

格助(引用) 動(丁寧・サ四・

終止)

代名

 

格助(体修)  

���

格助(体修)   格助(場所)      

動(丁寧・ハ四・

命令)

格助(引用) 接助(単接) 

動(タ四・

連用・

音便) 接助(単接) 動(カ四・

連体)     格助(時間) 

��

      

格助(体修)

     

副助(程度) 動(カ変・

連用) 助動(完了・

終止)

     

係助(区別) 代名

 格助(体修)    

��

格助(方向) 動(ラ四・

未然) 助動(尊敬・

連用) 

補動(尊敬・

ハ四・

命令)

    係助(区別) 代名

 格助(体修)   動(ガ四・

連用) 補動(丁寧・

ハ四・

未然) 助動(意志・

終止)

格助(引用) 

動(謙譲・サ四・

連用) 

助動(過去・

已然) �

接助(順接・

確定)      

動(尊敬・ハ四・

連用) 助動(過去・

連体) 係助(区別)

       

格助(場所) 形動(ナリ・

連用) �

係助(強意) 動(ラ四・

終止) 助動(当然・

連用) 助動(完了・

連体) 接助(逆接・

確定) 

代名

副助(範囲) 

動(カ変・

連体) 係助(区別) ��

 代名

 

 ��

格助(相手)    

格助(場所) 動(ナ変・

未然) 助動(意志・

終止) 

格助(引用)

動(ハ四・

連体)    

��

助動(断定・

終止)

    格助(場所) �

動(タ四・

未然) 助動(受身・

未然) 助動(婉曲・

連体) 格助(比較) 係助(強意)      格助(場所) 係助(強意・

係)

      

��

格助(対象) 係助(強意) 動(サ変・

未然) 助動(勧誘・

已然・

結)

軍記 平家物語 木曾の最期 302303 教科書[p.248〜p.254]

D4-17_平家物語/初.indd 302-303 2015/11/05 12:08:02 72

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◎教材本文を総ルビで掲載して詳細な品詞分解を示し、 番号を振って通釈と対応させました。

古文教材

品詞分解と通釈 

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Page 13: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

語句・文脈の解説

249ページ �

●第一段(初め~

251・5)の大意

 戦いの末、とうとう木曾殿と今井四郎の主

従二騎になった。「鎧が重くなった。」と弱音

を吐き、ともに戦って死のうとする木曾殿を、

今井四郎は叱咤激励し、自害するよう説得す

る。木曾殿は結局今井の勧めに従い、自害す

るため粟津の松原へ馬を走らせた。

1 

今井四郎 

(注)[今井四郎兼平。源義仲(木曾

殿)の腹心の部下。](一一五一年~一一八四年)。

(?~一一八四年)義仲を養育した中なか

原はら

兼かね

遠とお

の第

四男。源義仲の乳母子。享年は伝本によって異

なる。巻七「清水冠者」の、源頼朝が義仲を攻

めようと信濃に入る場面に初めて登場し、講和

のための使者として頼朝の許に赴いている。覚

一本では、その後も、巻七「倶く

利り

伽か

羅ら

」・巻八

「妹せの

尾おの

最さい

期ご

」「猫ね

間ま

」「鼓つ

づみ

判ほう

官がん

」などで、義仲を支

える兼平の行動が際立って描かれる。また、作

中の兼平の言動が先見の明を備えているもので

あるのに対し、義仲が兼平の意見や願いに応え

ぬ場面も目につく。とはいえ、二人の信頼が揺

らぐことはなく、むしろその絆の深さが強調さ

れている。最後の寿永三年一月の範頼・義経軍

との戦いでは、勢田を攻める範頼軍との戦いに

敗れ、その後義仲の身を案じて京に戻る途中の

打うち

出で

の浜で、義仲との再会を果たす。

1 

木曾殿 

(注)[源義仲[一一五四~一一八四]。

源義よし

賢かた

の子。源頼朝(鎌倉殿)のいとこ。木曾

(長野県)で成長し、木曾次郎と称した。]源為ため

義よし

の孫。源義賢の次男。源頼朝にとっては従兄

弟にあたる。兄は源頼より

政まさ

の養子で、頼政の乱の

際に戦死した源仲なか

家いえ

である。「源げ

平ぺい

盛じょう

衰すい

記き

」によ

れば、幼名を駒王丸といった。二歳のときに、

義賢が兄義朝の息子義平に討たれた後、木曾の

中原兼遠に引きとられた。木曾で育ったので、

木曾義仲、木曾殿などと呼ばれた。一一八〇(治

承四)年、以もち

仁ひと

王おう

の令旨を受けて挙兵、北陸路

から進撃し、一一八三(寿永二)年、七月に平

家を追い落として京に入り、八月十日の除じ

目もく

後白河院から左さ

馬まの

頭かみ

(左馬寮の長官)、越え

後ごの

守かみ

任ぜられる。(後に伊い

予よの

守かみ

に転ずる)さらに巻八

「名虎」では、「朝日の将軍」という院宣を下さ

れたとする(史実では翌寿永三年一月に「征東

将軍」に補任されている)。しかし貴族との対立

や、平家追討のための水島合戦での敗北などで

次第に孤立し、後白河院とも対立する。院が鎌

倉の頼朝と結びつき、義仲を排除しようとした

ときに、クーデターを起こして院の御所法ほう

住じゅう

寺じ

殿どの

を襲い(寿永二年十一月十九日)、さらに頼朝

発問

249ページ �

 3「日ごろは……なつたるぞや。」という

言葉に表れた木曾殿の気持ちは次のどれ

か。

 ア

 退却したいという気持ち。

 イ

 戦いに疲れたという気持ち。

 ウ

 自害したいという気持ち。

 エ

 

今井四郎だけでも逃げてほしい気持

ち。

 オ

 裏切られたという気持ち。

 イ

 5「御身もいまだ疲れさせたまはず。」と

今井四郎が言ったのはなぜか。

 疲れたと弱気になっている木曾殿を励ま

し、立派に自害するまでがんばってほしい

と思っていたから。

 7「さはおぼしめし候へ。」の「さ」の指

す内容は何か。

 「日ごろは何とも覚えぬ鎧が今日は重う

なつたるぞや。」という木曾殿の言葉。

 7「兼平一人……おぼしめせ。」と言った

のはなぜか。

 木曾殿が味方の軍勢がいなくなったから

弱気になったと考え、木曾殿を力づけるた

めにこう言った。

に対抗するため平家との和睦を謀るも失敗。同

年十二月、源頼朝に義仲追討の院宣が下り、範

頼・義経軍に追討される立場となった。

1 

(語句)のたまふ 

おっしゃる、の意。「言ふ」

の尊敬語で、その動作主を敬う。この場合は木

曾殿(義仲)が動作主なので、語り手の義仲に

対する敬意を表している。

3 

鎧 

このとき義仲は「唐か

綾あや

縅おどし

」の鎧を着てい

た。「唐綾」は、中国から伝わった浮き織りの

綾。「縅」は、鉄または革の小片を糸や革でつづ

り合わせること。唐綾縅の鎧は光沢・文様があっ

て優美であり、武将が着用した。

4 

申す 

「言ふ」の謙譲語。この場合は動作の受

け手である義仲への敬意を表している。

5 

(語句)たまふ 

動作主への尊敬の意を表す補

助動詞。この場合は話者である今井(兼平)の

義仲に対する敬意を表す。

5 

御おん

馬うま 

当時の馬は、日本の在来種の馬で、標準

的な体高(前脚の蹄ひづめか

ら頸く

の根元の鬐き

甲こう

骨こつ

まで

の高さ)が四尺(一二十センチメートル)。現在

のサラブレッドの体高が小さくとも一六十セン

チメートル以上あることから、それと比較する

とかなり小さい印象があるが、馬という種全体

から見ると標準的な大きさである。鎧などの武

具一式を身につけ体重も合わせて百キロを超え

る人間を乗せて駆けたことから考えると、かな

りの馬力をもっていたと考えられる。当時蹄てい

鉄てつ

や去勢の技術はなく、気性も荒かったと考えら

れる。

5 

候はず 

「候ふ」は「あり」の丁寧語。この場

合は、話し手である兼平の、聞き手である義仲

への敬意を表している。

6 

一両 

(注)[一着。「両」は鎧を数える単位。]

「両」は当て字で、本来は「領」である。「領」

は装束・鎧など一揃えのものを数えるのに用い

た単位である。

6 

着背長 

(注)[大将の用いる鎧。]大将が着用

する大鎧の別称。中世では「鎧」(「甲」「冑」と

も表記した)「着背長」の名称が一般的であり、

「大鎧」は江戸時代以降一般的となった名称。騎

馬で戦うための防御に配慮した、全重量三十キ

ロ前後になる鎧である。大腿部を防御するため

に草くさ

摺ずり

が長く、背中から着けて右脇で合わせる

ことからこう呼ばれる。「大鎧」着用の際には

「星ほし

冑かぶと

」(地板をとめる鋲び

ょうの

頭が鉢の表面に見え

ている冑)をかぶる。

6 

(語句)おぼしめす 

「思ふ」の尊敬語。この場

合は話者である兼平の動作主である義仲に対す

る敬意を表している。

6 

御おん

勢せい 

「勢」は、軍勢、兵力、の意。

8 

防ぎ矢 

(注)[敵の攻撃を防ぐために射る矢。]

ここでは義仲に自害させるための援護射撃の

矢。

9 

粟津 

(注)[現在の滋賀県大津市粟津町。]近

 11「この敵

かたき

」とは、誰か。

 新手の武者五十騎ばかり。

 13「いかにもなる」とは、具体的にはど

うなることをいうか。

 死ぬこと。

 13「なんぢ」とは、誰のことか。

 今井四郎。

 13「なんぢと一所で死なんと思ふためな

り。」という言葉から、木曾殿にとって今井

がどのような存在であることがわかるか。

 ともに死のうと思えるほどの深い絆・愛

情で結ばれた存在。

250ページ �

 5「主」とは誰か。

 木曾殿。

 8「最期のとき不覚」するとは、具体的

にどうなることか。今井四郎の言葉から抜

き出せ。

 言ふかひなき人の郎等に組み落とされさ

せたまひて、討たれさせたまひ(250・11)

 8「長き傷」の意味を次から選べ。

 ア

 なかなか治らない傷。

 イ

 長い傷口。

 ウ

 いつまでもある欠点。

 エ

 末代までの不名誉。

 オ

 長引く悪い評判。

 エ

軍記 平家物語 木曾の最期 310311 教科書[p.248〜p.254]

D4-17_平家物語/初.indd 310-311 2015/11/05 12:08:03

自害シテ後ゾ、粟津ノ軍ハ留リケル」(延え

慶ぎょう

本ぼん

「これよりしてこそ、粟津のいくさはととまりに

けれ」(長門本)「今井うたれて後ぞあわづのい

くさははてにける」(百二十句本)「兼平自害シ

テ後ハ、粟津ノ軍モ無リケリ」(源平盛衰記)な

ど、粟津合戦は兼平の死をもって終わったとい

う表現であり、合戦そのものを否定するものは

みられない。しかも、そのような解釈をしなけ

ればならない必然性は、覚一本の本文からも読

み取れず、覚一本のみがそのような立場に立つ

とするのは、「さてこそ」の狭い解釈に捉われた

現代人の深読みに過ぎない。

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●会話の内容と意図を明らかにし、人物のものの見方や生き方を捉える。

1

 今井四郎と木曾殿はどのような関係か、また、二人は最後にどう

なったか確かめよう。

【ねらい】登場人物の人間関係と話の展開を把握する。

【解答例】今井四郎は木曾殿の御乳母子。二人の関係は乳兄弟である。

 木曾殿は、自害をするために、粟津の松原に向かう途中、馬が深田にはま

り身動きがとれなくなる。そのときに、今井の行方が気になって振り返って

仰ぎ見たところを、石田次郎為久に内甲を射られ、石田の郎等に首を取られ

た。 今

井四郎は木曾殿に自害をさせるため、五十騎の敵を相手にたった一騎で

奮戦していたが、木曾殿が討ち取られたことを知り、太刀の先を口に含んで

馬から飛び落ちて自害した。

【解説】二人の関係については、教科書の注を参照させる。また、二人の最期

の様子については、教科書252~253ページの記述から確認させる。「乳母子」「乳

兄弟」という関係が深い絆を伴っていたことについては、「全体の構成・展開

図」や「生徒のための参考資料」などを参考にして、生徒の知識を補ってお

くと、理解が深まるであろう。

2

 今井四郎が「御身もいまだ疲れさせたまはず。」(

249・5)と「御身

は疲れさせたまひて候ふ。」(

250・9)という、矛盾した言葉を発し

ている理由はどのようなものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井四郎が願っていたことをおさえる。

【解答例】いずれも、木曾殿に立派な最期を遂げさせたいという思いから発せ

られた言葉であり、その点では一貫しているのだが、前者は弱気になってい

る木曾殿を励ますため、後者は一緒に戦おうとする木曾殿をあきらめさせる

ためのものであり、状況に応じて使い分けをしたために、矛盾したものとなっ

てしまったのである。

【解説】前者は、鎧が重くなったと弱音を吐く木曾殿を励ますことで、粟津の

松原で自害するまで気力を保ってもらいたいという思いから発せられた言葉

である。後者は、今井とともに戦って、一緒に討ち死にしようという木曾殿

に、名も無き雑兵の手にかかって無様な最期を遂げてしまう可能性が高いと

いう現実に目を向けさせることで、ともに戦うことを諦めさせ、すみやかに

自害の場所に赴かせるために発せられた言葉である。

3

 木曾殿が「さらば。」(

251・4)と粟津の松原へ駆けていった時の気

持ちはどのようなものだろうか、話し合おう。

【ねらい】「さらば」の意味を確認し、今井四郎の説得どおりに行動すること

にした木曾殿の気持ちを考える。

【解答例】自分の正直な気持ちとしては、今井とともに戦い、同じ場所で討ち

死にしたいのだが、今井に説得され、今井の願いどおりにしようとした。

【解説】今井の説得を受け、木曾殿は「さらば」と言って粟津の松原に向か

う。短い描写ではあるが、その言葉と行動から、木曾殿の決意を読み取るこ

とができる。戦に敗れた木曾殿が、都から北国に向かわずに、わざわざ反対

側の勢田に向かったのは、勢田で範のり

頼より

軍と戦っていた今井のことが気がかり

だったためである。木曾殿にとって、今井は生死をともにしようと誓い合っ

た仲であったことを、木曾殿の行動や言葉から理解する。木曾殿にとって、

今井と一緒に死ぬことこそが願いであり、その思いが二人の対立へとつな

がったのだが、信頼する今井の思いを受け入れたからこそ、木曾殿は一人で

源義仲について

 「木曾殿の最期」では「殿」をつけて呼ばれ

ている義仲だが、巻八の猫間中納言とのエピ

ソードなどではかなり馬鹿にされた書かれ方

をしている。

 例えば、巻八で征夷大将軍を賜った頼朝と

比べ、義仲は色白の好男子ではあるが立ち居

ふるまいが武骨で、言葉つきが聞き苦しい、

困った男として描かれている。猫ねこ

間まの

中ちゅう

納な

言ごん

光みつ

隆たか

卿が義仲のもとを訪れたときも義仲は「猫

が人間に対面するのか」と大笑いし、「猫殿」

呼ばわりする、礼儀作法も知らない田舎者の

扱いである。また、牛車に乗った際に中で仰

向けに転がったり、前から降りることになっ

ている牛車を後ろから降りたりと、滑稽な振

る舞いをする野蛮人として描かれ、「殿」抜き

の「木曾」と呼ばれている。

【情報コラム】

●木曾殿の最期(『平家物語絵巻』土と

佐さ

左さ

助すけ

 江戸時代初期)(250~251ページ)

 林はやし

原ばら

美術館所蔵の『平家物語絵巻』は、一

二巻を上中下に分けた全三十六巻、そのうち

絵は七百五枚にものぼる大作である。江戸時

代初期には、大名家の嫁入り道具として、冊

子形態の豪華な奈良絵本平家物語がいくつも

作られたが、絵巻という形でこれだけの場面

を描き、全巻揃った形で残っているものは珍

しい。

【図版解説】

●平へ

曲きょく

を語る琵琶法師(『職し

ょく

人にん

尽づくし

歌うた

合あわせ

』江戸時

代後期の模本)(253ページ)

 本図は、東京国立博物館蔵の『職人尽歌合』

に描かれた琵琶法師の絵である。この『職人

尽歌合』は『七しち

十じゆう

一いち

番ばん

職しよく

人にん

歌うた

合あわせ

』として有名

である。『七十一番職人歌合』とは、月・恋の

歌題のもとに、一四二種の職人が左右に分か

れて七十一番の取り組みを作り、和歌を競い

合うといった趣向の絵巻である。絵の余白部

分には、和歌のほかに室町時代の職人たちの

日常会話や口上などが、いわゆる画が

中ちゆう

詞し

とし

て当時の口語体で書かれている。その成立は、

一五〇〇(明応九)年と推定されているが、

掲載している東京国立博物館蔵『職人尽歌合』

は、室町時代の土と

佐さ

光みつ

信のぶ

絵・三さ

条じよう

西にし

実さね

隆たか

筆と

される作品を一八四六(弘化三)年に木こ

挽びき

町ちよう

狩かのう野の狩野晴せ

川せん

院いん

養おき

信のぶ

(一七九六年~一八四

六年)・狩野勝しよう

川せん

院いん

雅ただ

信のぶ

(一八二三年~一八七

九年)親子が模写したものである。東京国立

博物館蔵。(Im

age:TNM

 

Image

 

Archives

【図版解説】

317 教科書[p.248〜p.254] 軍記 平家物語 木曾の最期 316

D4-17_平家物語/初.indd 316-317 2015/11/05 12:08:0375

明解国語総合

◎教科書に掲載されている図版や 写真についても解説を加えました。

◎内容理解の参考となる興味深いコラムを

 適宜掲載しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 75 2016/03/25 15:51

語句・文脈の解説

249ページ �

●第一段(初め~

251・5)の大意

 戦いの末、とうとう木曾殿と今井四郎の主

従二騎になった。「鎧が重くなった。」と弱音

を吐き、ともに戦って死のうとする木曾殿を、

今井四郎は叱咤激励し、自害するよう説得す

る。木曾殿は結局今井の勧めに従い、自害す

るため粟津の松原へ馬を走らせた。

1 

今井四郎 

(注)[今井四郎兼平。源義仲(木曾

殿)の腹心の部下。](一一五一年~一一八四年)。

(?~一一八四年)義仲を養育した中なか

原はら

兼かね

遠とお

の第

四男。源義仲の乳母子。享年は伝本によって異

なる。巻七「清水冠者」の、源頼朝が義仲を攻

めようと信濃に入る場面に初めて登場し、講和

のための使者として頼朝の許に赴いている。覚

一本では、その後も、巻七「倶く

利り

伽か

羅ら

」・巻八

「妹せの

尾おの

最さい

期ご

」「猫ね

間ま

」「鼓つ

づみ

判ほう

官がん

」などで、義仲を支

える兼平の行動が際立って描かれる。また、作

中の兼平の言動が先見の明を備えているもので

あるのに対し、義仲が兼平の意見や願いに応え

ぬ場面も目につく。とはいえ、二人の信頼が揺

らぐことはなく、むしろその絆の深さが強調さ

れている。最後の寿永三年一月の範頼・義経軍

との戦いでは、勢田を攻める範頼軍との戦いに

敗れ、その後義仲の身を案じて京に戻る途中の

打うち

出で

の浜で、義仲との再会を果たす。

1 

木曾殿 

(注)[源義仲[一一五四~一一八四]。

源義よし

賢かた

の子。源頼朝(鎌倉殿)のいとこ。木曾

(長野県)で成長し、木曾次郎と称した。]源為ため

義よし

の孫。源義賢の次男。源頼朝にとっては従兄

弟にあたる。兄は源頼より

政まさ

の養子で、頼政の乱の

際に戦死した源仲なか

家いえ

である。「源げ

平ぺい

盛じょう

衰すい

記き

」によ

れば、幼名を駒王丸といった。二歳のときに、

義賢が兄義朝の息子義平に討たれた後、木曾の

中原兼遠に引きとられた。木曾で育ったので、

木曾義仲、木曾殿などと呼ばれた。一一八〇(治

承四)年、以もち

仁ひと

王おう

の令旨を受けて挙兵、北陸路

から進撃し、一一八三(寿永二)年、七月に平

家を追い落として京に入り、八月十日の除じ

目もく

後白河院から左さ

馬まの

頭かみ

(左馬寮の長官)、越え

後ごの

守かみ

任ぜられる。(後に伊い

予よの

守かみ

に転ずる)さらに巻八

「名虎」では、「朝日の将軍」という院宣を下さ

れたとする(史実では翌寿永三年一月に「征東

将軍」に補任されている)。しかし貴族との対立

や、平家追討のための水島合戦での敗北などで

次第に孤立し、後白河院とも対立する。院が鎌

倉の頼朝と結びつき、義仲を排除しようとした

ときに、クーデターを起こして院の御所法ほう

住じゅう

寺じ

殿どの

を襲い(寿永二年十一月十九日)、さらに頼朝

発問

249ページ �

 3「日ごろは……なつたるぞや。」という

言葉に表れた木曾殿の気持ちは次のどれ

か。

 ア

 退却したいという気持ち。

 イ

 戦いに疲れたという気持ち。

 ウ

 自害したいという気持ち。

 エ

 

今井四郎だけでも逃げてほしい気持

ち。

 オ

 裏切られたという気持ち。

 イ

 5「御身もいまだ疲れさせたまはず。」と

今井四郎が言ったのはなぜか。

 疲れたと弱気になっている木曾殿を励ま

し、立派に自害するまでがんばってほしい

と思っていたから。

 7「さはおぼしめし候へ。」の「さ」の指

す内容は何か。

 「日ごろは何とも覚えぬ鎧が今日は重う

なつたるぞや。」という木曾殿の言葉。

 7「兼平一人……おぼしめせ。」と言った

のはなぜか。

 木曾殿が味方の軍勢がいなくなったから

弱気になったと考え、木曾殿を力づけるた

めにこう言った。

に対抗するため平家との和睦を謀るも失敗。同

年十二月、源頼朝に義仲追討の院宣が下り、範

頼・義経軍に追討される立場となった。

1 

(語句)のたまふ 

おっしゃる、の意。「言ふ」

の尊敬語で、その動作主を敬う。この場合は木

曾殿(義仲)が動作主なので、語り手の義仲に

対する敬意を表している。

3 

鎧 

このとき義仲は「唐か

綾あや

縅おどし

」の鎧を着てい

た。「唐綾」は、中国から伝わった浮き織りの

綾。「縅」は、鉄または革の小片を糸や革でつづ

り合わせること。唐綾縅の鎧は光沢・文様があっ

て優美であり、武将が着用した。

4 

申す 

「言ふ」の謙譲語。この場合は動作の受

け手である義仲への敬意を表している。

5 

(語句)たまふ 

動作主への尊敬の意を表す補

助動詞。この場合は話者である今井(兼平)の

義仲に対する敬意を表す。

5 

御おん

馬うま 

当時の馬は、日本の在来種の馬で、標準

的な体高(前脚の蹄ひづめから頸く

の根元の鬐き

甲こう

骨こつ

まで

の高さ)が四尺(一二十センチメートル)。現在

のサラブレッドの体高が小さくとも一六十セン

チメートル以上あることから、それと比較する

とかなり小さい印象があるが、馬という種全体

から見ると標準的な大きさである。鎧などの武

具一式を身につけ体重も合わせて百キロを超え

る人間を乗せて駆けたことから考えると、かな

りの馬力をもっていたと考えられる。当時蹄てい

鉄てつ

や去勢の技術はなく、気性も荒かったと考えら

れる。

5 

候はず 

「候ふ」は「あり」の丁寧語。この場

合は、話し手である兼平の、聞き手である義仲

への敬意を表している。

6 

一両 

(注)[一着。「両」は鎧を数える単位。]

「両」は当て字で、本来は「領」である。「領」

は装束・鎧など一揃えのものを数えるのに用い

た単位である。

6 

着背長 

(注)[大将の用いる鎧。]大将が着用

する大鎧の別称。中世では「鎧」(「甲」「冑」と

も表記した)「着背長」の名称が一般的であり、

「大鎧」は江戸時代以降一般的となった名称。騎

馬で戦うための防御に配慮した、全重量三十キ

ロ前後になる鎧である。大腿部を防御するため

に草くさ

摺ずり

が長く、背中から着けて右脇で合わせる

ことからこう呼ばれる。「大鎧」着用の際には

「星ほし

冑かぶと

」(地板をとめる鋲び

ょうの頭が鉢の表面に見え

ている冑)をかぶる。

6 

(語句)おぼしめす 

「思ふ」の尊敬語。この場

合は話者である兼平の動作主である義仲に対す

る敬意を表している。

6 

御おん

勢せい 

「勢」は、軍勢、兵力、の意。

8 

防ぎ矢 

(注)[敵の攻撃を防ぐために射る矢。]

ここでは義仲に自害させるための援護射撃の

矢。

9 

粟津 

(注)[現在の滋賀県大津市粟津町。]近

 11「この敵

かたき

」とは、誰か。

 新手の武者五十騎ばかり。

 13「いかにもなる」とは、具体的にはど

うなることをいうか。

 死ぬこと。

 13「なんぢ」とは、誰のことか。

 今井四郎。

 13「なんぢと一所で死なんと思ふためな

り。」という言葉から、木曾殿にとって今井

がどのような存在であることがわかるか。

 ともに死のうと思えるほどの深い絆・愛

情で結ばれた存在。

250ページ �

 5「主」とは誰か。

 木曾殿。

 8「最期のとき不覚」するとは、具体的

にどうなることか。今井四郎の言葉から抜

き出せ。

 言ふかひなき人の郎等に組み落とされさ

せたまひて、討たれさせたまひ(250・11)

 8「長き傷」の意味を次から選べ。

 ア

 なかなか治らない傷。

 イ

 長い傷口。

 ウ

 いつまでもある欠点。

 エ

 末代までの不名誉。

 オ

 長引く悪い評判。

 エ

軍記 平家物語 木曾の最期 310311 教科書[p.248〜p.254]

D4-17_平家物語/初.indd 310-311 2015/11/05 12:08:03

自害シテ後ゾ、粟津ノ軍ハ留リケル」(延え

慶ぎょう

本ぼん

「これよりしてこそ、粟津のいくさはととまりに

けれ」(長門本)「今井うたれて後ぞあわづのい

くさははてにける」(百二十句本)「兼平自害シ

テ後ハ、粟津ノ軍モ無リケリ」(源平盛衰記)な

ど、粟津合戦は兼平の死をもって終わったとい

う表現であり、合戦そのものを否定するものは

みられない。しかも、そのような解釈をしなけ

ればならない必然性は、覚一本の本文からも読

み取れず、覚一本のみがそのような立場に立つ

とするのは、「さてこそ」の狭い解釈に捉われた

現代人の深読みに過ぎない。

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●会話の内容と意図を明らかにし、人物のものの見方や生き方を捉える。

1

 今井四郎と木曾殿はどのような関係か、また、二人は最後にどう

なったか確かめよう。

【ねらい】登場人物の人間関係と話の展開を把握する。

【解答例】今井四郎は木曾殿の御乳母子。二人の関係は乳兄弟である。

 木曾殿は、自害をするために、粟津の松原に向かう途中、馬が深田にはま

り身動きがとれなくなる。そのときに、今井の行方が気になって振り返って

仰ぎ見たところを、石田次郎為久に内甲を射られ、石田の郎等に首を取られ

た。 今

井四郎は木曾殿に自害をさせるため、五十騎の敵を相手にたった一騎で

奮戦していたが、木曾殿が討ち取られたことを知り、太刀の先を口に含んで

馬から飛び落ちて自害した。

【解説】二人の関係については、教科書の注を参照させる。また、二人の最期

の様子については、教科書252~253ページの記述から確認させる。「乳母子」「乳

兄弟」という関係が深い絆を伴っていたことについては、「全体の構成・展開

図」や「生徒のための参考資料」などを参考にして、生徒の知識を補ってお

くと、理解が深まるであろう。

2

 今井四郎が「御身もいまだ疲れさせたまはず。」(

249・5)と「御身

は疲れさせたまひて候ふ。」(

250・9)という、矛盾した言葉を発し

ている理由はどのようなものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井四郎が願っていたことをおさえる。

【解答例】いずれも、木曾殿に立派な最期を遂げさせたいという思いから発せ

られた言葉であり、その点では一貫しているのだが、前者は弱気になってい

る木曾殿を励ますため、後者は一緒に戦おうとする木曾殿をあきらめさせる

ためのものであり、状況に応じて使い分けをしたために、矛盾したものとなっ

てしまったのである。

【解説】前者は、鎧が重くなったと弱音を吐く木曾殿を励ますことで、粟津の

松原で自害するまで気力を保ってもらいたいという思いから発せられた言葉

である。後者は、今井とともに戦って、一緒に討ち死にしようという木曾殿

に、名も無き雑兵の手にかかって無様な最期を遂げてしまう可能性が高いと

いう現実に目を向けさせることで、ともに戦うことを諦めさせ、すみやかに

自害の場所に赴かせるために発せられた言葉である。

3

 木曾殿が「さらば。」(

251・4)と粟津の松原へ駆けていった時の気

持ちはどのようなものだろうか、話し合おう。

【ねらい】「さらば」の意味を確認し、今井四郎の説得どおりに行動すること

にした木曾殿の気持ちを考える。

【解答例】自分の正直な気持ちとしては、今井とともに戦い、同じ場所で討ち

死にしたいのだが、今井に説得され、今井の願いどおりにしようとした。

【解説】今井の説得を受け、木曾殿は「さらば」と言って粟津の松原に向か

う。短い描写ではあるが、その言葉と行動から、木曾殿の決意を読み取るこ

とができる。戦に敗れた木曾殿が、都から北国に向かわずに、わざわざ反対

側の勢田に向かったのは、勢田で範のり

頼より

軍と戦っていた今井のことが気がかり

だったためである。木曾殿にとって、今井は生死をともにしようと誓い合っ

た仲であったことを、木曾殿の行動や言葉から理解する。木曾殿にとって、

今井と一緒に死ぬことこそが願いであり、その思いが二人の対立へとつな

がったのだが、信頼する今井の思いを受け入れたからこそ、木曾殿は一人で

源義仲について

 「木曾殿の最期」では「殿」をつけて呼ばれ

ている義仲だが、巻八の猫間中納言とのエピ

ソードなどではかなり馬鹿にされた書かれ方

をしている。

 例えば、巻八で征夷大将軍を賜った頼朝と

比べ、義仲は色白の好男子ではあるが立ち居

ふるまいが武骨で、言葉つきが聞き苦しい、

困った男として描かれている。猫ねこ

間まの

中ちゅう

納な

言ごん

光みつ

隆たか

卿が義仲のもとを訪れたときも義仲は「猫

が人間に対面するのか」と大笑いし、「猫殿」

呼ばわりする、礼儀作法も知らない田舎者の

扱いである。また、牛車に乗った際に中で仰

向けに転がったり、前から降りることになっ

ている牛車を後ろから降りたりと、滑稽な振

る舞いをする野蛮人として描かれ、「殿」抜き

の「木曾」と呼ばれている。

【情報コラム】

●木曾殿の最期(『平家物語絵巻』土と

佐さ

左さ

助すけ

 江戸時代初期)(250~251ページ)

 林はやし

原ばら

美術館所蔵の『平家物語絵巻』は、一

二巻を上中下に分けた全三十六巻、そのうち

絵は七百五枚にものぼる大作である。江戸時

代初期には、大名家の嫁入り道具として、冊

子形態の豪華な奈良絵本平家物語がいくつも

作られたが、絵巻という形でこれだけの場面

を描き、全巻揃った形で残っているものは珍

しい。

【図版解説】

●平へい

曲きょく

を語る琵琶法師(『職し

ょく

人にん

尽づくし

歌うた

合あわせ

』江戸時

代後期の模本)(253ページ)

 本図は、東京国立博物館蔵の『職人尽歌合』

に描かれた琵琶法師の絵である。この『職人

尽歌合』は『七しち

十じゆう

一いち

番ばん

職しよく

人にん

歌うた

合あわせ

』として有名

である。『七十一番職人歌合』とは、月・恋の

歌題のもとに、一四二種の職人が左右に分か

れて七十一番の取り組みを作り、和歌を競い

合うといった趣向の絵巻である。絵の余白部

分には、和歌のほかに室町時代の職人たちの

日常会話や口上などが、いわゆる画が

中ちゆう

詞し

とし

て当時の口語体で書かれている。その成立は、

一五〇〇(明応九)年と推定されているが、

掲載している東京国立博物館蔵『職人尽歌合』

は、室町時代の土と

佐さ

光みつ

信のぶ

絵・三さ

条じよう

西にし

実さね

隆たか

筆と

される作品を一八四六(弘化三)年に木こ

挽びき

町ちよう

狩かのう野

の狩野晴せ

川せん

院いん

養おき

信のぶ

(一七九六年~一八四

六年)・狩野勝しよう

川せん

院いん

雅ただ

信のぶ

(一八二三年~一八七

九年)親子が模写したものである。東京国立

博物館蔵。(Im

age:TNM

 

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【図版解説】

317 教科書[p.248〜p.254] 軍記 平家物語 木曾の最期 316

D4-17_平家物語/初.indd 316-317 2015/11/05 12:08:03 74

明解国語総合

◎教科書の脚注の語句や重要な概念、固有名詞などについて解説したほか、 読解上のポイントになる文についても取り上げました。

古文教材

語句・文脈の解説/図版解説/情報コラム 

◎授業展開時に有効な発問と解答例を示し、

 必要に応じて解説を加えました。

TM29KS_P001-096_seki.indd 74 2016/03/25 15:51

Page 14: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

自害シテ後ゾ、粟津ノ軍ハ留リケル」(延え

慶ぎょう

本ぼん

「これよりしてこそ、粟津のいくさはととまりに

けれ」(長門本)「今井うたれて後ぞあわづのい

くさははてにける」(百二十句本)「兼平自害シ

テ後ハ、粟津ノ軍モ無リケリ」(源平盛衰記)な

ど、粟津合戦は兼平の死をもって終わったとい

う表現であり、合戦そのものを否定するものは

みられない。しかも、そのような解釈をしなけ

ればならない必然性は、覚一本の本文からも読

み取れず、覚一本のみがそのような立場に立つ

とするのは、「さてこそ」の狭い解釈に捉われた

現代人の深読みに過ぎない。

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●会話の内容と意図を明らかにし、人物のものの見方や生き方を捉える。

1

 今井四郎と木曾殿はどのような関係か、また、二人は最後にどう

なったか確かめよう。

【ねらい】登場人物の人間関係と話の展開を把握する。

【解答例】今井四郎は木曾殿の御乳母子。二人の関係は乳兄弟である。

 木曾殿は、自害をするために、粟津の松原に向かう途中、馬が深田にはま

り身動きがとれなくなる。そのときに、今井の行方が気になって振り返って

仰ぎ見たところを、石田次郎為久に内甲を射られ、石田の郎等に首を取られ

た。 今

井四郎は木曾殿に自害をさせるため、五十騎の敵を相手にたった一騎で

奮戦していたが、木曾殿が討ち取られたことを知り、太刀の先を口に含んで

馬から飛び落ちて自害した。

【解説】二人の関係については、教科書の注を参照させる。また、二人の最期

の様子については、教科書252~253ページの記述から確認させる。「乳母子」「乳

兄弟」という関係が深い絆を伴っていたことについては、「全体の構成・展開

図」や「生徒のための参考資料」などを参考にして、生徒の知識を補ってお

くと、理解が深まるであろう。

2

 今井四郎が「御身もいまだ疲れさせたまはず。」(

249・5)と「御身

は疲れさせたまひて候ふ。」(

250・9)という、矛盾した言葉を発し

ている理由はどのようなものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井四郎が願っていたことをおさえる。

【解答例】いずれも、木曾殿に立派な最期を遂げさせたいという思いから発せ

られた言葉であり、その点では一貫しているのだが、前者は弱気になってい

る木曾殿を励ますため、後者は一緒に戦おうとする木曾殿をあきらめさせる

ためのものであり、状況に応じて使い分けをしたために、矛盾したものとなっ

てしまったのである。

【解説】前者は、鎧が重くなったと弱音を吐く木曾殿を励ますことで、粟津の

松原で自害するまで気力を保ってもらいたいという思いから発せられた言葉

である。後者は、今井とともに戦って、一緒に討ち死にしようという木曾殿

に、名も無き雑兵の手にかかって無様な最期を遂げてしまう可能性が高いと

いう現実に目を向けさせることで、ともに戦うことを諦めさせ、すみやかに

自害の場所に赴かせるために発せられた言葉である。

3

 木曾殿が「さらば。」(

251・4)と粟津の松原へ駆けていった時の気

持ちはどのようなものだろうか、話し合おう。

【ねらい】「さらば」の意味を確認し、今井四郎の説得どおりに行動すること

にした木曾殿の気持ちを考える。

【解答例】自分の正直な気持ちとしては、今井とともに戦い、同じ場所で討ち

死にしたいのだが、今井に説得され、今井の願いどおりにしようとした。

【解説】今井の説得を受け、木曾殿は「さらば」と言って粟津の松原に向か

う。短い描写ではあるが、その言葉と行動から、木曾殿の決意を読み取るこ

とができる。戦に敗れた木曾殿が、都から北国に向かわずに、わざわざ反対

側の勢田に向かったのは、勢田で範のり

頼より

軍と戦っていた今井のことが気がかり

だったためである。木曾殿にとって、今井は生死をともにしようと誓い合っ

た仲であったことを、木曾殿の行動や言葉から理解する。木曾殿にとって、

今井と一緒に死ぬことこそが願いであり、その思いが二人の対立へとつな

がったのだが、信頼する今井の思いを受け入れたからこそ、木曾殿は一人で

源義仲について

 「木曾殿の最期」では「殿」をつけて呼ばれ

ている義仲だが、巻八の猫間中納言とのエピ

ソードなどではかなり馬鹿にされた書かれ方

をしている。

 例えば、巻八で征夷大将軍を賜った頼朝と

比べ、義仲は色白の好男子ではあるが立ち居

ふるまいが武骨で、言葉つきが聞き苦しい、

困った男として描かれている。猫ねこ

間まの

中ちゅう

納な

言ごん

光みつ

隆たか

卿が義仲のもとを訪れたときも義仲は「猫

が人間に対面するのか」と大笑いし、「猫殿」

呼ばわりする、礼儀作法も知らない田舎者の

扱いである。また、牛車に乗った際に中で仰

向けに転がったり、前から降りることになっ

ている牛車を後ろから降りたりと、滑稽な振

る舞いをする野蛮人として描かれ、「殿」抜き

の「木曾」と呼ばれている。

【情報コラム】

●木曾殿の最期(『平家物語絵巻』土と

佐さ

左さ

助すけ

 江戸時代初期)(250~251ページ)

 林はやし

原ばら

美術館所蔵の『平家物語絵巻』は、一

二巻を上中下に分けた全三十六巻、そのうち

絵は七百五枚にものぼる大作である。江戸時

代初期には、大名家の嫁入り道具として、冊

子形態の豪華な奈良絵本平家物語がいくつも

作られたが、絵巻という形でこれだけの場面

を描き、全巻揃った形で残っているものは珍

しい。

【図版解説】

●平へい

曲きょく

を語る琵琶法師(『職し

ょく

人にん

尽づくし

歌うた

合あわせ

』江戸時

代後期の模本)(253ページ)

 本図は、東京国立博物館蔵の『職人尽歌合』

に描かれた琵琶法師の絵である。この『職人

尽歌合』は『七しち

十じゆう

一いち

番ばん

職しよく

人にん

歌うた

合あわせ

』として有名

である。『七十一番職人歌合』とは、月・恋の

歌題のもとに、一四二種の職人が左右に分か

れて七十一番の取り組みを作り、和歌を競い

合うといった趣向の絵巻である。絵の余白部

分には、和歌のほかに室町時代の職人たちの

日常会話や口上などが、いわゆる画が

中ちゆう

詞し

とし

て当時の口語体で書かれている。その成立は、

一五〇〇(明応九)年と推定されているが、

掲載している東京国立博物館蔵『職人尽歌合』

は、室町時代の土と

佐さ

光みつ

信のぶ

絵・三さ

条じよう

西にし

実さね

隆たか

筆と

される作品を一八四六(弘化三)年に木こ

挽びき

町ちよう

狩かのう野の狩野晴せ

川せん

院いん

養おき

信のぶ

(一七九六年~一八四

六年)・狩野勝しよう

川せん

院いん

雅ただ

信のぶ

(一八二三年~一八七

九年)親子が模写したものである。東京国立

博物館蔵。(Im

age:TNM

 

Image

 

Archives

【図版解説】

317 教科書[p.248〜p.254] 軍記 平家物語 木曾の最期 316

D4-17_平家物語/初.indd 316-317 2015/11/05 12:08:03

自害することを決意したのである。

4

 木曾殿が討ち取られたと知った時の今井四郎の気持ちはどのよう

なものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井が何のために一人で五十騎の敵を相手に奮戦していたかを確

認し、今井の最期の様子や言葉から、その気持ちを読み取る。

【解答例】木曾殿に不名誉な最期だけは遂げさせたくない、粟津の松原の中

で、立派に自害してもらいたいと考え、そのための時間を稼ぐために、たっ

た一人で五十騎もの敵と戦っていた今井であったが、奮闘空しく、今井が危

惧していたとおりに、木曾殿が討ち取られてしまったことを知り、自分には

戦う理由がなくなったと思った。さらに、木曾殿の乳母子たるにふさわしい

自害のしかたを敵に見せつけることで、不名誉な最期を遂げた主君の名誉を

挽回しようと考えた。

【解説】今井四郎の木曾殿に対する気持ちは、「御身もいまだ疲れさせたまは

ず。……御自害候へ」(249・5~9)、「弓矢取りは……入らせたまへ」(250・

7~251・3)、「今はたれをたれをかかばはんとてかいくさをもすべき。これ

を見たまへ、東国の殿ばら、日本一の剛の者の自害する手本」(253・7~8)

などの言葉からうかがうことができる。

5

 次の二つの助動詞「ん(む)」の意味の違いを説明しよう。

①なんぢと一所で死なんと思ふためなり。(249・13)

②所々で討たれんよりも、(250・2)

【ねらい】助動詞「ん(む)」の使い分けができるようになる。

【解答例】①は、意志を表す。②は、婉曲を表す。

【解説】①は「死なんと」とあるように、会話文の文末に位置する。このよう

な場合で、動作主が話者である場合は、「う(よう)」という話者の意志を表

す。 ②

は「討たれんよりも」とあるように、文末ではなく、体言や体言に接続

する格助詞(この場合は「より」)の上にある。この場合は、「…のような」

(婉曲)「…としたら」(仮定)の意味を表す。ただし、婉曲の場合は無理に訳

さなくてもよい。

研究・発展

◉作品解説  

 「平家物語」には、琵琶法師によって語られたものに近い形の〈語り本系〉

のテキストと、それ以外の〈読み本系〉テキストがあるが、教科書本文とし

て採録されている覚一本は〈語り本系〉のテキストである。

 さて、覚一本では、これまで述べてきたように、今井の義仲への心遣いが、

「御身もいまだ疲れさせたまはず」「御身は疲れさせたまひて候ふ」という二

つの矛盾した言葉となって表されているところや、木曾殿が「今井が行方の

おぼつかなさに」振り返ったところを、石田次郎に射られて討ち取られてし

まうとする描写から、木曾殿の今井に対する未練が隙を見せてしまった要因

となっているように描かれているところなどは、二人が死に際に見せたお互

いへの思いやりや絆の強さをドラマチックに描くための効果的な演出となっ

ていることがわかる。

 ところが、異本との比較によって、この演出が「平家物語」テキストにお

いて標準的なものではないことが明らかとなる。

 たとえば、〈読み本系〉テキストで、比較的古い形を留めているとされる延

慶本を見ると、今井とともに戦ってともに討ち死にしようとする木曾殿を思

いとどまらせるために発せられた今井の言葉は以下のとおりである。

 「年とし

来ごろ

日ひ

来ごろ

、いかなる高か

名みやう

をしつれども、最後の時に不覚しつれば、長

き代よ

の疵き

にて候ふぞ。人の乗の

替がへ

、云ふ甲斐なき奴や

原ばら

に打ち落とされて、

『木曾殿は某それがしが

下人に打ち落とされ給ふ』などいわれさせ給わむ事こそ口

惜しけれ。ただ松の中へとくとく入り給へ」

 〈「これまでに、どれほどの武功を立てていても、無様な最期を遂げた

ならば、末代までの不名誉でございますぞ。敵の乗替(注

 敵の武者そ

の人ではなく、乗り替え用の馬に乗る家来)のような、取るに足らない

連中に討ち取られて、『木曾殿は誰それの下人に討ち取られなさった』な

どと言われておしまいになることこそ残念です。とにかく松の中へ早く

早くお入りください」〉

(巻第五本「義仲都落ル事付義仲被討事」)

覚一本の「御身は疲れさせたまひて候」にあたる言葉は存在しないことがわ

かる。これは同じ〈読み本系〉の長門本や源平盛衰記も同様である。つまり、

覚一本では、あえて矛盾する言葉を今井に言わせることで、今井の説得の切

実さを効果的に描くことに成功しているのである。

 また、同じく延慶本では、今井が木曾殿に自害を勧めた際に、

 「兼平はこの敵に打ち向て、死なば死に、死なずは返り参らむ

0

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。兼平が

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行へを御覧じはててに

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、御自害せさせ給へ」

 〈「兼平はこの敵と戦って、討ち死にしたならば死にますが、もしも死

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ななかったならば、あなた様のもとに参りましょう

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。兼平がどうなった

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か最後までお見届けになってから

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0

、御自害なさいませ」〉

(巻第五本「義仲都落ル事付義仲被討事」※傍点は引用者。)

とする。木曾殿が最後に今井を振り返ったのは、実は今井の指示によるもの

なのであり、木曾殿の今井に対する未練のみに起因するような描き方はされ

ていないのである。ここも〈読み本系〉の長門本や源平盛衰記で共通してお

り、覚一本が今井による「自分の行く末を見届けてほしい」という指示を描

かないことによって、木曾殿の今井への未練を強調する効果をあげているこ

とがわかる。

 なお、延慶本のこの部分について、武久堅氏は、木曾殿が今井とともに死

にたいという気持ちを表す「一所ニテ」が、延慶本では三回も繰り返されて

いるところに注目され、それが木曾殿の「究極の願望」なのであり、木曾殿

が最後に「サリトモ今井ハ続クラム〈そうはいっても今井は後に続いて来て

くれるだろう〉」として振り返ったのは、今井のこの「死なずは返り参らむ

0

0

0

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0

という説得の言葉が誘発したものと解釈されている。(注1)

319 教科書[p.248〜p.254] 軍記 平家物語 木曾の最期 318

D4-17_平家物語/初.indd 318-319 2015/11/05 12:08:0377

明解国語総合

◎採録教材の主題や、関連する章段や作品への言及など、 教材への理解を深める内容を掲載しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 77 2016/03/25 15:51

自害シテ後ゾ、粟津ノ軍ハ留リケル」(延え

慶ぎょう

本ぼん

「これよりしてこそ、粟津のいくさはととまりに

けれ」(長門本)「今井うたれて後ぞあわづのい

くさははてにける」(百二十句本)「兼平自害シ

テ後ハ、粟津ノ軍モ無リケリ」(源平盛衰記)な

ど、粟津合戦は兼平の死をもって終わったとい

う表現であり、合戦そのものを否定するものは

みられない。しかも、そのような解釈をしなけ

ればならない必然性は、覚一本の本文からも読

み取れず、覚一本のみがそのような立場に立つ

とするのは、「さてこそ」の狭い解釈に捉われた

現代人の深読みに過ぎない。

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●会話の内容と意図を明らかにし、人物のものの見方や生き方を捉える。

1

 今井四郎と木曾殿はどのような関係か、また、二人は最後にどう

なったか確かめよう。

【ねらい】登場人物の人間関係と話の展開を把握する。

【解答例】今井四郎は木曾殿の御乳母子。二人の関係は乳兄弟である。

 木曾殿は、自害をするために、粟津の松原に向かう途中、馬が深田にはま

り身動きがとれなくなる。そのときに、今井の行方が気になって振り返って

仰ぎ見たところを、石田次郎為久に内甲を射られ、石田の郎等に首を取られ

た。 今

井四郎は木曾殿に自害をさせるため、五十騎の敵を相手にたった一騎で

奮戦していたが、木曾殿が討ち取られたことを知り、太刀の先を口に含んで

馬から飛び落ちて自害した。

【解説】二人の関係については、教科書の注を参照させる。また、二人の最期

の様子については、教科書252~253ページの記述から確認させる。「乳母子」「乳

兄弟」という関係が深い絆を伴っていたことについては、「全体の構成・展開

図」や「生徒のための参考資料」などを参考にして、生徒の知識を補ってお

くと、理解が深まるであろう。

2

 今井四郎が「御身もいまだ疲れさせたまはず。」(

249・5)と「御身

は疲れさせたまひて候ふ。」(

250・9)という、矛盾した言葉を発し

ている理由はどのようなものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井四郎が願っていたことをおさえる。

【解答例】いずれも、木曾殿に立派な最期を遂げさせたいという思いから発せ

られた言葉であり、その点では一貫しているのだが、前者は弱気になってい

る木曾殿を励ますため、後者は一緒に戦おうとする木曾殿をあきらめさせる

ためのものであり、状況に応じて使い分けをしたために、矛盾したものとなっ

てしまったのである。

【解説】前者は、鎧が重くなったと弱音を吐く木曾殿を励ますことで、粟津の

松原で自害するまで気力を保ってもらいたいという思いから発せられた言葉

である。後者は、今井とともに戦って、一緒に討ち死にしようという木曾殿

に、名も無き雑兵の手にかかって無様な最期を遂げてしまう可能性が高いと

いう現実に目を向けさせることで、ともに戦うことを諦めさせ、すみやかに

自害の場所に赴かせるために発せられた言葉である。

3

 木曾殿が「さらば。」(

251・4)と粟津の松原へ駆けていった時の気

持ちはどのようなものだろうか、話し合おう。

【ねらい】「さらば」の意味を確認し、今井四郎の説得どおりに行動すること

にした木曾殿の気持ちを考える。

【解答例】自分の正直な気持ちとしては、今井とともに戦い、同じ場所で討ち

死にしたいのだが、今井に説得され、今井の願いどおりにしようとした。

【解説】今井の説得を受け、木曾殿は「さらば」と言って粟津の松原に向か

う。短い描写ではあるが、その言葉と行動から、木曾殿の決意を読み取るこ

とができる。戦に敗れた木曾殿が、都から北国に向かわずに、わざわざ反対

側の勢田に向かったのは、勢田で範のり

頼より

軍と戦っていた今井のことが気がかり

だったためである。木曾殿にとって、今井は生死をともにしようと誓い合っ

た仲であったことを、木曾殿の行動や言葉から理解する。木曾殿にとって、

今井と一緒に死ぬことこそが願いであり、その思いが二人の対立へとつな

がったのだが、信頼する今井の思いを受け入れたからこそ、木曾殿は一人で

源義仲について

 「木曾殿の最期」では「殿」をつけて呼ばれ

ている義仲だが、巻八の猫間中納言とのエピ

ソードなどではかなり馬鹿にされた書かれ方

をしている。

 例えば、巻八で征夷大将軍を賜った頼朝と

比べ、義仲は色白の好男子ではあるが立ち居

ふるまいが武骨で、言葉つきが聞き苦しい、

困った男として描かれている。猫ねこ

間まの

中ちゅう

納な

言ごん

光みつ

隆たか

卿が義仲のもとを訪れたときも義仲は「猫

が人間に対面するのか」と大笑いし、「猫殿」

呼ばわりする、礼儀作法も知らない田舎者の

扱いである。また、牛車に乗った際に中で仰

向けに転がったり、前から降りることになっ

ている牛車を後ろから降りたりと、滑稽な振

る舞いをする野蛮人として描かれ、「殿」抜き

の「木曾」と呼ばれている。

【情報コラム】

●木曾殿の最期(『平家物語絵巻』土と

佐さ

左さ

助すけ

 江戸時代初期)(250~251ページ)

 林はやし

原ばら

美術館所蔵の『平家物語絵巻』は、一

二巻を上中下に分けた全三十六巻、そのうち

絵は七百五枚にものぼる大作である。江戸時

代初期には、大名家の嫁入り道具として、冊

子形態の豪華な奈良絵本平家物語がいくつも

作られたが、絵巻という形でこれだけの場面

を描き、全巻揃った形で残っているものは珍

しい。

【図版解説】

●平へい

曲きょく

を語る琵琶法師(『職しょく

人にん

尽づくし

歌うた

合あわせ

』江戸時

代後期の模本)(253ページ)

 本図は、東京国立博物館蔵の『職人尽歌合』

に描かれた琵琶法師の絵である。この『職人

尽歌合』は『七しち

十じゆう

一いち

番ばん

職しよく

人にん

歌うた

合あわせ

』として有名

である。『七十一番職人歌合』とは、月・恋の

歌題のもとに、一四二種の職人が左右に分か

れて七十一番の取り組みを作り、和歌を競い

合うといった趣向の絵巻である。絵の余白部

分には、和歌のほかに室町時代の職人たちの

日常会話や口上などが、いわゆる画が

中ちゆう

詞し

とし

て当時の口語体で書かれている。その成立は、

一五〇〇(明応九)年と推定されているが、

掲載している東京国立博物館蔵『職人尽歌合』

は、室町時代の土と

佐さ

光みつ

信のぶ

絵・三さ

条じよう

西にし

実さね

隆たか

筆と

される作品を一八四六(弘化三)年に木こ

挽びき

町ちよう

狩かのう野の狩野晴せ

川せん

院いん

養おき

信のぶ

(一七九六年~一八四

六年)・狩野勝しよう

川せん

院いん

雅ただ

信のぶ

(一八二三年~一八七

九年)親子が模写したものである。東京国立

博物館蔵。(Im

age:TNM

 

Image

 

Archives

【図版解説】

317 教科書[p.248〜p.254] 軍記 平家物語 木曾の最期 316

D4-17_平家物語/初.indd 316-317 2015/11/05 12:08:03

自害することを決意したのである。

4

 木曾殿が討ち取られたと知った時の今井四郎の気持ちはどのよう

なものだろうか、考えよう。

【ねらい】今井が何のために一人で五十騎の敵を相手に奮戦していたかを確

認し、今井の最期の様子や言葉から、その気持ちを読み取る。

【解答例】木曾殿に不名誉な最期だけは遂げさせたくない、粟津の松原の中

で、立派に自害してもらいたいと考え、そのための時間を稼ぐために、たっ

た一人で五十騎もの敵と戦っていた今井であったが、奮闘空しく、今井が危

惧していたとおりに、木曾殿が討ち取られてしまったことを知り、自分には

戦う理由がなくなったと思った。さらに、木曾殿の乳母子たるにふさわしい

自害のしかたを敵に見せつけることで、不名誉な最期を遂げた主君の名誉を

挽回しようと考えた。

【解説】今井四郎の木曾殿に対する気持ちは、「御身もいまだ疲れさせたまは

ず。……御自害候へ」(249・5~9)、「弓矢取りは……入らせたまへ」(250・

7~251・3)、「今はたれをたれをかかばはんとてかいくさをもすべき。これ

を見たまへ、東国の殿ばら、日本一の剛の者の自害する手本」(253・7~8)

などの言葉からうかがうことができる。

5

 次の二つの助動詞「ん(む)」の意味の違いを説明しよう。

①なんぢと一所で死なんと思ふためなり。(249・13)

②所々で討たれんよりも、(250・2)

【ねらい】助動詞「ん(む)」の使い分けができるようになる。

【解答例】①は、意志を表す。②は、婉曲を表す。

【解説】①は「死なんと」とあるように、会話文の文末に位置する。このよう

な場合で、動作主が話者である場合は、「う(よう)」という話者の意志を表

す。 ②

は「討たれんよりも」とあるように、文末ではなく、体言や体言に接続

する格助詞(この場合は「より」)の上にある。この場合は、「…のような」

(婉曲)「…としたら」(仮定)の意味を表す。ただし、婉曲の場合は無理に訳

さなくてもよい。

研究・発展

◉作品解説  

 「平家物語」には、琵琶法師によって語られたものに近い形の〈語り本系〉

のテキストと、それ以外の〈読み本系〉テキストがあるが、教科書本文とし

て採録されている覚一本は〈語り本系〉のテキストである。

 さて、覚一本では、これまで述べてきたように、今井の義仲への心遣いが、

「御身もいまだ疲れさせたまはず」「御身は疲れさせたまひて候ふ」という二

つの矛盾した言葉となって表されているところや、木曾殿が「今井が行方の

おぼつかなさに」振り返ったところを、石田次郎に射られて討ち取られてし

まうとする描写から、木曾殿の今井に対する未練が隙を見せてしまった要因

となっているように描かれているところなどは、二人が死に際に見せたお互

いへの思いやりや絆の強さをドラマチックに描くための効果的な演出となっ

ていることがわかる。

 ところが、異本との比較によって、この演出が「平家物語」テキストにお

いて標準的なものではないことが明らかとなる。

 たとえば、〈読み本系〉テキストで、比較的古い形を留めているとされる延

慶本を見ると、今井とともに戦ってともに討ち死にしようとする木曾殿を思

いとどまらせるために発せられた今井の言葉は以下のとおりである。

 「年とし

来ごろ

日ひ

来ごろ

、いかなる高か

名みやう

をしつれども、最後の時に不覚しつれば、長

き代よ

の疵き

にて候ふぞ。人の乗の

替がへ

、云ふ甲斐なき奴や

原ばら

に打ち落とされて、

『木曾殿は某それがしが

下人に打ち落とされ給ふ』などいわれさせ給わむ事こそ口

惜しけれ。ただ松の中へとくとく入り給へ」

 〈「これまでに、どれほどの武功を立てていても、無様な最期を遂げた

ならば、末代までの不名誉でございますぞ。敵の乗替(注

 敵の武者そ

の人ではなく、乗り替え用の馬に乗る家来)のような、取るに足らない

連中に討ち取られて、『木曾殿は誰それの下人に討ち取られなさった』な

どと言われておしまいになることこそ残念です。とにかく松の中へ早く

早くお入りください」〉

(巻第五本「義仲都落ル事付義仲被討事」)

覚一本の「御身は疲れさせたまひて候」にあたる言葉は存在しないことがわ

かる。これは同じ〈読み本系〉の長門本や源平盛衰記も同様である。つまり、

覚一本では、あえて矛盾する言葉を今井に言わせることで、今井の説得の切

実さを効果的に描くことに成功しているのである。

 また、同じく延慶本では、今井が木曾殿に自害を勧めた際に、

 「兼平はこの敵に打ち向て、死なば死に、死なずは返り参らむ

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行へを御覧じはててに

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、御自害せさせ給へ」

 〈「兼平はこの敵と戦って、討ち死にしたならば死にますが、もしも死

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ななかったならば、あなた様のもとに参りましょう

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。兼平がどうなった

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か最後までお見届けになってから

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、御自害なさいませ」〉

(巻第五本「義仲都落ル事付義仲被討事」※傍点は引用者。)

とする。木曾殿が最後に今井を振り返ったのは、実は今井の指示によるもの

なのであり、木曾殿の今井に対する未練のみに起因するような描き方はされ

ていないのである。ここも〈読み本系〉の長門本や源平盛衰記で共通してお

り、覚一本が今井による「自分の行く末を見届けてほしい」という指示を描

かないことによって、木曾殿の今井への未練を強調する効果をあげているこ

とがわかる。

 なお、延慶本のこの部分について、武久堅氏は、木曾殿が今井とともに死

にたいという気持ちを表す「一所ニテ」が、延慶本では三回も繰り返されて

いるところに注目され、それが木曾殿の「究極の願望」なのであり、木曾殿

が最後に「サリトモ今井ハ続クラム〈そうはいっても今井は後に続いて来て

くれるだろう〉」として振り返ったのは、今井のこの「死なずは返り参らむ

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という説得の言葉が誘発したものと解釈されている。(注1)

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明解国語総合

古文教材﹁学びの道しるべ﹂の解答例・解説/研究・発展 

◎各教材末にある「学びの道しるべ」のねらいを示し、 解答例と詳しい解説を示しました。

TM29KS_P001-096_seki.indd 76 2016/03/25 15:51

Page 15: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

❖虎の威を借る

◉大意  

 虎に捕まえられ、食べられそうになった狐が、自分は天帝から動物たちの王に命じられたので食べてはいけないと嘘を言う。そこで虎が狐の後ろについて

歩くと、獣たちが逃げ出してしまったため、虎は自分を見て逃げ出しているとは気づかず、狐を見て恐れているのだと思ったというまぬけな話。

◉書き下し文・通釈  

◉生徒のための参考資料  

 教科書で取りあげた「虎の威を借る」は、遊説家が相手を説得する際に用

いたたとえ話である。ここでは前後の話を取りあげる。

  荊け

いノ

 宣

 王

 問ヒテ

 群

 臣ニ

 曰ハク、 「吾

 聞ク

 北

 方

 之

 畏おそルルヲ

 昭せう

 奚けい

 

恤じゅつヲ

 也。果タシテ

 誠ニ

 何

 如ト

。」 群

 臣

 莫シ

 対こたフル。

  江

 乙

 対ヘテ

 曰ハク、「虎

 求メテ

 百

 獣ヲ

 而

 食ラヒ

 之ヲ

、得タリ

 狐ヲ

。狐

 曰ハク、

『子

 無カレ

 敢ヘテ

 食ラフコト

 我ヲ

 也。天

 帝

 使しム

 我ヲシテ

 長タラ

 百

 獣ニ

。今

 子

 

食ラハバ

 我ヲ

、是レ

 逆ラフ

 天

 帝ノ

 命ニ

 也。子

 以テ

 我ヲ

 為サバ

 不ト

 信ナラ、吾

 為ニ

 

子ノ

 先

 行セン。子

 随ヒテ

 我ガ

 後ニ

 観ヨ

。百

 獣

 之の

 見テ

 我ヲ

、而モ

 敢ヘテ

 不ラン

 

走ラ

 乎やト。』 虎

 以テ

 為ス

 然リト。故ニ

 遂ニ

 与と

 之

 行ク

。獣

 見テ

 之ヲ

 皆

 走ル

 不ル

 知ラ

 獣ノ

 畏レテ

 己ヲ

 而

 走ルヲ

 也。以

 為ス

 畏ルト

 狐ヲ

 也ト

。」 

  今、王

 之

 地、方

 五

 千

 里、帯

 甲

 百

 万アリテ、而

 専ラ

 属ス

 

之ヲ

 昭

 奚

 恤ニ

。故ニ

 北

 方

 之

 畏ルル

 奚

 恤ヲ

 也や

、其ノ

 実、畏ル

 王

 

 甲

 兵ヲ

 也。猶ホ

 百

 獣

 之

 畏ルルガ

 虎ヲ

 也ト

。」

(荊の宣王が臣下たちに尋ねて言うには、「私は北方の諸国が昭和奚恤を

恐れていると聞くが、果たして事実はどうであるのか。」と。臣下達に答

える者はいなかった。

 すると江乙が答えていった。「虎は動物たちを探し求めてはこれを食べ

ていた。狐をつかまえた。狐が言うには、『あなたは決して私を食べては

いけません。天の神が私を動物たちの王にしたのです。今、あなたが私

を食べたなら、天の神の命令に逆らうことになりますよ。あなたが私を

信じられないというのなら、私はあなたのために先に立って歩いてみま

しょう。あなたは私の後について来てよくご覧なさい。動物たちが私を

一レ

キ二

一レ

見かけて、どうして逃げないことがあるでしょうか。いや、きっと逃げ

ますよ。』と。虎はなるほどと思った。そこで(虎は)そのまま狐につい

ていった。動物たちは狐と虎の姿を見てみんな走って逃げた。虎は動物

たちが自分を恐れて逃げたということを知らなかった。狐を恐れている

のだと思った。」と。

 さて、今王の領地は五千里四方、精兵は百万、それをもっぱら昭奚恤

にお預けになっています。ですから、北方の諸国が昭奚恤を恐れますの

は、その実は王の軍勢を恐れているのでして、それは丁度、獣たちが虎

を恐れたようなものでございます。」と。)

 第一段落では国と国との攻防の中、問題点が提起されている。第二段落か

ら遊説家・江乙の説得が始まり、まず問題となる背景のわかりやすいたとえ

話を取りあげている。第三段落にはたとえ話と背景の関係を述べ、問題の解

決を導いている。このように『戦国策』には、国と国の攻防の中、遊説家の

活躍を述べた話が多く収められている。

教材の研究

〔通釈〕

1

  虎は動物たちを探し求めてはこれを食べていた。狐を捕まえた。

 2

 狐が言うには、

3

 「あなたは決して私を食べてはいけません。

4

 天の神が私を動物たちの王にしたのです。

5

 今、あなたが私を食べたなら、天の神の命令に逆らうことになりますよ。

6

 あなたが私を信じられないというのなら、私はあなたのために先に

立って歩いてみましょう。

7

 あなたは私の後について来てよくご覧なさい。

〔書き下し文〕

1

  虎と

 百ひやく

獣じう

 求もと

めて

 之これ

 食く

らふ。狐き

つねを

 得え

たり。

2

 狐きつね

 曰い

はく、

3

 「子し

 敢あ

へて

 我われ

 食く

らふ

 こと

 無な

かれ。

4

 天てん

帝てい

 我われ

 して

 百ひやく

獣じう

 長ちやうた

らしむ。

5

 今いま

、子し

 我われ

 食く

らはば、是こ

 天てん

帝てい

 命めい

 逆さか

らふなり。

6

 子し

 我われ

 以もつ

 信しん

ならずと

 為な

さば、吾わ

 子し

 為ため

 

  先せ

行かう

せん。

7

 子し

 我わ

 後あと

 随したがひて

 観み

よ。

漢文入門 虎の威を借る 1213 教科書[p.261〜p.271]

D5-100_虎の威を借る/初.indd 12-13 2015/11/05 12:07:12

語句・文脈の解説

272ページ〜273ページ �

※この項については、便宜上、教科書の緑色

の番号を行数表示とした。また、本文を抜

き出す際には基本的に書き下し文を抜き出

し、漢文の句法について解説するときは訓

読文を抜き出した。

1 

虎 

猛獣の名。鋭い目・爪・牙を持ち、性質は

荒々しい。古来より「虎」が出てくる故事成語

は多い。

1 

百獣 

多くの獣。「百」は多い、衆多の意。百

姓(庶民)や百官(役人)で用いられる「百」

も同じ。

1 

「之」は百獣を指す。虎が多くの獣を食べてい

たことがわかる。

1 

而 

置き字で順接を表す。このはたらきによっ

て、「求めて」の「て」が訓読として読まれるよ

うになった。もし置き字としないなら「虎百獣

を求め、而しか

うして之を食らふ」となる。

1 

狐 

獣の名。疑い深くてずる賢いたとえとして

用いられることが多い。

2 

曰はく 

言うことには。「いハク…ト」と呼応

する。

3 

子 

あなた。敬意をもって相手をいう場合に用

いる。ここでは虎を指す。

3 

無カレ

敢ヘテ

�スルコト

  

決して�するな。禁止を表す。「敢

へて」は、強いて…する、進んで…する、と無

理におしきってする意を表す。「無かれ」は、…

してはいけない。この場合、「無」を禁止で読む

ため、「也」は置き字になる。

4 

使ム 

�ヲシテ

 �(セ)

  

(注)[「�をして�(せ)しむ」

と読み、「AにBさせる」の意。使役を表す。]

4 

天帝 

天を支配する神。最高の存在で、万物を

創造したとされる。

4 

長 

かしら、首領、王。

5 

是れ 

上の「我を食らはば」を指す。

5 

命 

命令。

6 

以テ 

�ヲ

為ス 

�ト 

�を�とする(みなす、思う)。

6 

信ならず 

信じられない。

6 

先行せん 

先に立って歩いてみましょう。ここ

で「吾」は狐、「子」は虎を指す。

8 

之 

この場合は主格を表し、百獣が、の意。

8 

敢ヘテ

不ラン

…(セ)

乎 

(注)[「あへて…(せ)ざらん

や」と読み、「どうして…しないことがあろう

か、いや、きっと…する」の意。反語を表す。]

8 

走(る) 

にげる。

9 

以テ

為ス 

然リト

  

なるほどと思う。「以」と「為」の

間に「然」の内容が入り、「…を以て然りと為

す」となる。そうすると「然」は前文の6~8

行めを指すことになる。「以テ 

�ヲ

為ス 

�ト

」の�の省

略形。「以」「為」は二字で「以お

為も

へらく」と訓

読みする場合もある。ここでも「以為ヘラク

 然リト」と

読むこともできる。

9 

遂に 

(注)[そのまま。]

9 

之 

狐を指す。

レレ

10 

之 

狐と虎がやってくることを指す。

11 

知らざる 

気がつかない。わからない。

12 

以テ

為ス 

… 

(注)[「以も

て…と為な

す」と読み、「…

だと思う」の意。]

●『成語故事』(偉青書店・一九六五年(香

港)より転載)。

【図版解説】

8

 動物たちが私を見かけて、どうして逃げないことがあるでしょうか。

いや、きっと逃げますよ。」と。

9

  虎はなるほどと思った。そこで(虎は)そのまま狐についていった。

10

 動物たちは狐と虎の姿を見てみんな走って逃げた。

11

 虎は動物たちが自分を恐れて逃げたということを知らなかった。

12

 狐を恐れているのだと思った。

8

 百ひやく

獣じう

 我われ

 見み

て、敢あ

へて

 走はし

らざらんや。」と。

9

  虎と

 以もつ

 然しか

りと

 為な

す。故ゆ

 遂つひ

 之これ

 行ゆ

く。

10

 獣けもの

 之これ

 見み

 皆みな

 走はし

る。

11

 虎とら

 獣けものの

 己おのれを

 畏おそ

れて

 走はし

るを

 知し

らざるなり。

12

 以て狐を畏ると為すなり。

発問

 1「之」が指示するものを答えよ。

 百獣(多くの獣)

 3「子」は、どのような意味で誰を指す

か。

 あなた。虎を指す。

 5「天帝命」の「命」とはどのような内

容か。

 狐を動物たちの王にしたこと。

 6「先行」するのはなぜか。

 多くの獣が自分を見て逃げ出したと虎に

見せるため。

 9「然り」の指す内容箇所の最初と最後

の三文字を訓読文から抜き出せ。

 子以我~不走乎

 9「之」と10「之」の指示するものを答

えよ。

 9「之」は狐。10「之」は狐と虎。

 10獣はどうして逃げたのか。

 狐の後ろに虎がいるのを見たため。

 11虎はどのように考えたのか。

 狐がいるので多くの獣が逃げていった。

 この話から連想される虎と狐のイメージ

を答えよ。

 虎は、力は強いが、まぬけなイメージ。

狐は力は弱いがずる賢いイメージ。

 「虎の威を借る狐」は、現在ではどのよう

な意味で使われているか。

 強い者(有力者)の力を借りていばる者。

漢文入門 虎の威を借る 1415 教科書[p.261〜p.271]

D5-100_虎の威を借る/初.indd 14-15 2015/11/05 12:07:1279

明解国語総合

◎教科書の脚注の語句や重要な概念、固有名詞などについて解説したほか、 読解上のポイントになる文についても取り上げました。

◎教材本文の書き下し文を総ルビで掲載し、 番号を振って通釈と対応させました。

◎授業展開時に有効な発問と解答例を示し、

 必要に応じて解説を加えました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 79 2016/03/25 15:51

❖虎の威を借る

◉大意  

 虎に捕まえられ、食べられそうになった狐が、自分は天帝から動物たちの王に命じられたので食べてはいけないと嘘を言う。そこで虎が狐の後ろについて

歩くと、獣たちが逃げ出してしまったため、虎は自分を見て逃げ出しているとは気づかず、狐を見て恐れているのだと思ったというまぬけな話。

◉書き下し文・通釈  

◉生徒のための参考資料  

 教科書で取りあげた「虎の威を借る」は、遊説家が相手を説得する際に用

いたたとえ話である。ここでは前後の話を取りあげる。

  荊け

いノ

 宣

 王

 問ヒテ

 群

 臣ニ

 曰ハク、 「吾

 聞ク

 北

 方

 之

 畏おそルルヲ

 昭せう

 奚けい

 

恤じゅつヲ

 也。果タ

シテ

 誠ニ

 何

 如ト

。」 群

 臣

 莫シ

 対こたフル。

  江

 乙

 対ヘテ

 曰ハク、「虎

 求メテ

 百

 獣ヲ

 而

 食ラヒ

 之ヲ

、得タ

 狐ヲ

。狐

 曰ハク、

『子

 無カレ

 敢ヘテ

 食ラフコト

 我ヲ

 也。天

 帝

 使しム

 我ヲシテ

 長タラ

 百

 獣ニ

。今

 子

 

食ラハバ

 我ヲ

、是レ

 逆ラフ

 天

 帝ノ

 命ニ

 也。子

 以テ

 我ヲ

 為サバ

 不ト

 信ナラ、吾

 為ニ

 

子ノ

 先

 行セン。子

 随ヒテ

 我ガ

 後ニ

 観ヨ

。百

 獣

 之の

 見テ

 我ヲ

、而モ

 敢ヘテ

 不ラン

 

走ラ

 乎やト。』 虎

 以テ

 為ス

 然リト。故ニ

 遂ニ

 与と

 之

 行ク

。獣

 見テ

 之ヲ

 皆

 走ル

 不ル

 知ラ

 獣ノ

 畏レテ

 己ヲ

 而

 走ルヲ

 也。以

 為ス

 畏ルト

 狐ヲ

 也ト

。」 

  今、王

 之

 地、方

 五

 千

 里、帯

 甲

 百

 万アリテ、

 専ラ

 属ス

 

之ヲ

 昭

 奚

 恤ニ

。故ニ

 北

 方

 之

 畏ルル

 奚

 恤ヲ

 也や

、其ノ

 実、畏ル

 王

 

 甲

 兵ヲ

 也。猶ホ

 百

 獣

 之

 畏ルルガ

 虎ヲ

 也ト

。」

(荊の宣王が臣下たちに尋ねて言うには、「私は北方の諸国が昭和奚恤を

恐れていると聞くが、果たして事実はどうであるのか。」と。臣下達に答

える者はいなかった。

 すると江乙が答えていった。「虎は動物たちを探し求めてはこれを食べ

ていた。狐をつかまえた。狐が言うには、『あなたは決して私を食べては

いけません。天の神が私を動物たちの王にしたのです。今、あなたが私

を食べたなら、天の神の命令に逆らうことになりますよ。あなたが私を

信じられないというのなら、私はあなたのために先に立って歩いてみま

しょう。あなたは私の後について来てよくご覧なさい。動物たちが私を

一レ

キ二

一レ

見かけて、どうして逃げないことがあるでしょうか。いや、きっと逃げ

ますよ。』と。虎はなるほどと思った。そこで(虎は)そのまま狐につい

ていった。動物たちは狐と虎の姿を見てみんな走って逃げた。虎は動物

たちが自分を恐れて逃げたということを知らなかった。狐を恐れている

のだと思った。」と。

 さて、今王の領地は五千里四方、精兵は百万、それをもっぱら昭奚恤

にお預けになっています。ですから、北方の諸国が昭奚恤を恐れますの

は、その実は王の軍勢を恐れているのでして、それは丁度、獣たちが虎

を恐れたようなものでございます。」と。)

 第一段落では国と国との攻防の中、問題点が提起されている。第二段落か

ら遊説家・江乙の説得が始まり、まず問題となる背景のわかりやすいたとえ

話を取りあげている。第三段落にはたとえ話と背景の関係を述べ、問題の解

決を導いている。このように『戦国策』には、国と国の攻防の中、遊説家の

活躍を述べた話が多く収められている。

教材の研究

〔通釈〕

1

  虎は動物たちを探し求めてはこれを食べていた。狐を捕まえた。

 2

 狐が言うには、

3

 「あなたは決して私を食べてはいけません。

4

 天の神が私を動物たちの王にしたのです。

5

 今、あなたが私を食べたなら、天の神の命令に逆らうことになりますよ。

6

 あなたが私を信じられないというのなら、私はあなたのために先に

立って歩いてみましょう。

7

 あなたは私の後について来てよくご覧なさい。

〔書き下し文〕

1

  虎と

 百ひやく

獣じう

 求もと

めて

 之これ

 食く

らふ。狐き

つねを

 得え

たり。

2

 狐きつね

 曰い

はく、

3

 「子し

 敢あ

へて

 我われ

 食く

らふ

 こと

 無な

かれ。

4

 天てん

帝てい

 我われ

 して

 百ひやく

獣じう

 長ちやうたらしむ。

5

 今いま

、子し

 我われ

 食く

らはば、是こ

 天てん

帝てい

 命めい

 逆さか

らふなり。

6

 子し

 我われ

 以もつ

 信しん

ならずと

 為な

さば、吾わ

 子し

 為ため

 

  先せ

行かう

せん。

7

 子し

 我わ

 後あと

 随したがひて

 観み

よ。

漢文入門 虎の威を借る 1213 教科書[p.261〜p.271]

D5-100_虎の威を借る/初.indd 12-13 2015/11/05 12:07:12

語句・文脈の解説

272ページ〜273ページ �

※この項については、便宜上、教科書の緑色

の番号を行数表示とした。また、本文を抜

き出す際には基本的に書き下し文を抜き出

し、漢文の句法について解説するときは訓

読文を抜き出した。

1 

虎 

猛獣の名。鋭い目・爪・牙を持ち、性質は

荒々しい。古来より「虎」が出てくる故事成語

は多い。

1 

百獣 

多くの獣。「百」は多い、衆多の意。百

姓(庶民)や百官(役人)で用いられる「百」

も同じ。

1 

「之」は百獣を指す。虎が多くの獣を食べてい

たことがわかる。

1 

而 

置き字で順接を表す。このはたらきによっ

て、「求めて」の「て」が訓読として読まれるよ

うになった。もし置き字としないなら「虎百獣

を求め、而しか

うして之を食らふ」となる。

1 

狐 

獣の名。疑い深くてずる賢いたとえとして

用いられることが多い。

2 

曰はく 

言うことには。「いハク…ト」と呼応

する。

3 

子 

あなた。敬意をもって相手をいう場合に用

いる。ここでは虎を指す。

3 

無カレ

敢ヘテ

�スルコト

  

決して�するな。禁止を表す。「敢

へて」は、強いて…する、進んで…する、と無

理におしきってする意を表す。「無かれ」は、…

してはいけない。この場合、「無」を禁止で読む

ため、「也」は置き字になる。

4 

使ム 

�ヲシテ

 �(セ)

  

(注)[「�をして�(せ)しむ」

と読み、「AにBさせる」の意。使役を表す。]

4 

天帝 

天を支配する神。最高の存在で、万物を

創造したとされる。

4 

長 

かしら、首領、王。

5 

是れ 

上の「我を食らはば」を指す。

5 

命 

命令。

6 

以テ 

�ヲ

為ス 

�ト 

�を�とする(みなす、思う)。

6 

信ならず 

信じられない。

6 

先行せん 

先に立って歩いてみましょう。ここ

で「吾」は狐、「子」は虎を指す。

8 

之 

この場合は主格を表し、百獣が、の意。

8 

敢ヘテ

不ラン

…(セ)

乎 

(注)[「あへて…(せ)ざらん

や」と読み、「どうして…しないことがあろう

か、いや、きっと…する」の意。反語を表す。]

8 

走(る) 

にげる。

9 

以テ

為ス 

然リト

  

なるほどと思う。「以」と「為」の

間に「然」の内容が入り、「…を以て然りと為

す」となる。そうすると「然」は前文の6~8

行めを指すことになる。「以テ 

�ヲ

為ス 

�ト

」の�の省

略形。「以」「為」は二字で「以お

為も

へらく」と訓

読みする場合もある。ここでも「以為ヘラク

 然リト」と

読むこともできる。

9 

遂に 

(注)[そのまま。]

9 

之 

狐を指す。

レレ

10 

之 

狐と虎がやってくることを指す。

11 

知らざる 

気がつかない。わからない。

12 

以テ

為ス 

… 

(注)[「以も

て…と為な

す」と読み、「…

だと思う」の意。]

●『成語故事』(偉青書店・一九六五年(香

港)より転載)。

【図版解説】

8

 動物たちが私を見かけて、どうして逃げないことがあるでしょうか。

いや、きっと逃げますよ。」と。

9

  虎はなるほどと思った。そこで(虎は)そのまま狐についていった。

10

 動物たちは狐と虎の姿を見てみんな走って逃げた。

11

 虎は動物たちが自分を恐れて逃げたということを知らなかった。

12

 狐を恐れているのだと思った。

8

 百ひやく

獣じう

 我われ

 見み

て、敢あ

へて

 走はし

らざらんや。」と。

9

  虎と

 以もつ

 然しか

りと

 為な

す。故ゆ

 遂つひ

 之これ

 行ゆ

く。

10

 獣けもの

 之これ

 見み

 皆みな

 走はし

る。

11

 虎とら

 獣けものの

 己おのれを

 畏おそ

れて

 走はし

るを

 知し

らざるなり。

12

 以て狐を畏ると為すなり。

発問

 1「之」が指示するものを答えよ。

 百獣(多くの獣)

 3「子」は、どのような意味で誰を指す

か。

 あなた。虎を指す。

 5「天帝命」の「命」とはどのような内

容か。

 狐を動物たちの王にしたこと。

 6「先行」するのはなぜか。

 多くの獣が自分を見て逃げ出したと虎に

見せるため。

 9「然り」の指す内容箇所の最初と最後

の三文字を訓読文から抜き出せ。

 子以我~不走乎

 9「之」と10「之」の指示するものを答

えよ。

 9「之」は狐。10「之」は狐と虎。

 10獣はどうして逃げたのか。

 狐の後ろに虎がいるのを見たため。

 11虎はどのように考えたのか。

 狐がいるので多くの獣が逃げていった。

 この話から連想される虎と狐のイメージ

を答えよ。

 虎は、力は強いが、まぬけなイメージ。

狐は力は弱いがずる賢いイメージ。

 「虎の威を借る狐」は、現在ではどのよう

な意味で使われているか。

 強い者(有力者)の力を借りていばる者。

漢文入門 虎の威を借る 1415 教科書[p.261〜p.271]

D5-100_虎の威を借る/初.indd 14-15 2015/11/05 12:07:12 78

明解国語総合

漢文教材

教材の研究︵大意/書き下し文・通釈︶/語句・文脈の解説 

◎教材全体を概観できるよう、 大意を示しました。

◎教材本文の書き下し文を総ルビで掲載し、 番号を振って通釈と対応させました。

TM29KS_P001-096_seki.indd 78 2016/03/25 15:51

Page 16: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●何度も音読し、「虎の威を借る」の意味について理解を深める。

1

 動物たちが逃げていったのはなぜか、考えよう。

【ねらい】正確に話の展開、狐の会話が理解できていればわかる問題である。

ただし、一文一文に気をとられると、かえって話の全体が見えなくなる。全

体が理解できているか判断するのに好都合の問題である。

【解答例】狐の後ろを歩いている虎が自分たちを襲って食べるかもしれないの

で、生命の危険を感じて逃げた。

【解説】1行めの「虎百獣を求めて之を食らふ」と、狐が「天帝の命令で、自

分が百獣の王となった。自分の後についてくればわかる」と言った内容をお

さえていることが大事。狐も一緒にいるが、獣は虎を見て恐れているのであ

る。2

 動物たちが逃げたことを虎はどう考えたのか、まとめよう。

【ねらい】漢文に限らず、現代文でも古文でも登場人物の心情を理解すること

が重要である。ここでは、虎がどのように考えたか、書かれている文章を探

し出し、きちんと答えることができるか試したい。

【解答例】自分を恐れて逃げているのだと気づかず、狐を恐れているのだと考

えた。

【解説】11行めと12行めをきちんと読むことができるかが問題を解く鍵とな

る。下段の現代語訳から解答を導いても勿論かまわない。ただし、その場合、

解答の後、上段の「知らざるなり」「以て…と為す」に着目させてほしい。虎

を主格として知覚表現が用いられている。漢文になれてくれば、書き下し文

から判断することになる。漢文は日本語と語順は違うが、使われる漢字は同

じである。漢字に対する感覚を鋭敏にさせることも大事である。

3

 「虎の威を借る狐」という言葉は、現在どのような意味で用いられ

ているか、調べよう。

【ねらい】現代社会でどのように用いられているかを確かめ、日常における漢

文の存在に気づかせたい。

【解答例】他の権勢に頼って威張る小人のたとえ。*趣旨が合っていればよい

【解説】教材の本文から、どのような意味となって今日に使われているのだろ

うか。各種の漢和辞典・国語辞典・ことわざ辞典などを利用し、現在の意味

を調べさせたい。またその意味で、どのような場面で用いられているかを調

べさせるのもいいだろう。生徒自身に例文を作らせてもかまわない。

 故事成語が身近な存在であり、それが漢文に由来することに気づかせたい。

研究・発展

◉作品解説  

 戦国時代、七国(斉・燕・楚・魏・趙・韓・秦)が強国として存在し、楚

国は南方で安定した勢力を築いていた。宣せん

王おう

の時代になると、勢力が拡大し、

北方の国から恐れられるようになった。その時の将軍として活躍していたの

が昭しょう

奚けい

恤じゅつ

である。魏国では、楚の勢力を弱めるために、遊説家の江こ

乙いつ

を楚に

送り込む。江乙は宣王と昭奚恤の仲を裂くことを画策する。そして、楚の宣

王が群臣に向かって「北方の諸国が昭奚恤を恐れているのは本当か。」と尋ね

た時、江乙は昭奚恤を讒言する。その際に用いたのが「虎の威を借る狐」で

ある。

 虎に捕まって食べられそうになった狐が、「自分は天帝の使いだ。嘘だと思

うなら私の後をついて歩いてみろ。百獣は逃げていくぞ。」と嘘をつき、虎を

だますことに成功する。この話では、狐のずる賢さを昭奚恤にたとえ、力が

あるにもかかわらず、愚かにだまされる虎を宣王にたとえている。江乙は、

宣王に対し、その間抜けぶりを指摘して腹立たしく思わせ、さらに昭奚恤が

信用できない人物であると不審を抱かせるように仕向けたのである。江乙は

動物を用いた例え話を巧みに利用し、宣王と昭奚恤の離間を謀ったのである。

 現在、我々は虎を凶暴な動物として、狐を人をだます動物としてイメージ

する傾向が強い。そのイメージは、中国の戦国時代に遊説家が一国を代表し

て敵国の王に讒言した際のたとえ話にすでに見えるのである。

◉研究  

 「虎の威を借る」「蛇足」のように、『戦国策』から取られている教材につい

ては、国と国との攻防の中、遊説家が活躍する場面が取られることが多い。

遊説家の説得を見ると、国と国との関係を理解した上で、相手国の内情を実

に詳しく精査している。誰を説得すれば自国が助かるのか、相手国のどこ・

誰の弱みを指摘・非難すれば説得が成功するのか、いかにわかりやすいたと

え話を用いるのかなど、あらゆる観点から説得を試みている。

 「漁夫の利」も『戦国策』燕策にそのもととなる話がある。そこには次のよ

うにある。

  趙

 且ニ

 伐タント

 燕ヲ

  蘇

 代

 為ニ

 燕ノ

 謂ヒテ

 恵

 王ニ

 曰ク

、今い

 者ま

 臣ノ

 来ルトキ、過グ

 易

 水ヲ

 方ニ

 出デテ

 曝ス

。而シ

 鷸

 啄ム

 其

 肉ヲ

。蚌

 合ハセテ

 而

 拑ム

 其

 喙ヲ

。鷸

曰ク

、今

 日

 不

 雨フラ、

 日

 不ンバ

 雨フラ、

 将ニ

 為ラント

 脯ト

。蚌モ

 亦タ

 謂ヒテ

 

鷸ニ

 曰ク

、今

 日

 不

 出ダサ、

 日

 不ンバ

 出ダサ、

即チ

 有ラント

 死

 鷸。両

 者

 

 肯ゼ

 相ヒ

 舎ツルヲ。

 者

 得テ

 而

 并セ–

擒フ

 之ヲ

  今

 趙

 且ニ

 伐タント

 燕ヲ

。燕

 趙

 久シク

 相ヒ

 支ヘテ、

以テ

 弊ラサバ

 大

 衆ヲ

、臣

恐ルル

 強

 秦

 之

 為ランコトヲ 

  漁

 父ト

 也。故ニ

 願フ

 王

 之

 熟–

計センコトヲ 

 

之ヲ

 也ト

  恵

 王

 曰ク

、善シ

ト。乃チ

 止ム

(戦国時代、趙が燕を攻めようとした。

 蘇代は燕のために趙の恵王に言った。「いましがた、私がこちらへまい

りますとき、易水を通りましたところ、ちょうど、はまぐりが一匹、日

光浴をしておりました。するとそこへ、シギが一羽飛んでまいりまして、

はまぐりの肉をついばもうとしました。はまぐりは急いで殻を閉じて、

シギのくちばしを挟みました。シギが申します。『今日も雨が降らず、明

日も雨が降らねば、たちまちはまぐりの干物ができるだろう。』と。はま

ぐりも言いました。『今日もくちばしを出せず、明日も出せなかったら、

ここに死んだシギができるのは間違いないな。』と。両者共に放すことを

レレ

17 教科書[p.261〜p.271] 漢文入門 虎の威を借る 16

D5-100_虎の威を借る/初.indd 16-17 2015/11/05 12:07:1281

明解国語総合

◎採録教材の主題や、関連する章段や作品への言及など、 教材への理解を深める内容を掲載しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 81 2016/03/25 15:51

「学びの道しるべ」の解答例・解説

●何度も音読し、「虎の威を借る」の意味について理解を深める。

1

 動物たちが逃げていったのはなぜか、考えよう。

【ねらい】正確に話の展開、狐の会話が理解できていればわかる問題である。

ただし、一文一文に気をとられると、かえって話の全体が見えなくなる。全

体が理解できているか判断するのに好都合の問題である。

【解答例】狐の後ろを歩いている虎が自分たちを襲って食べるかもしれないの

で、生命の危険を感じて逃げた。

【解説】1行めの「虎百獣を求めて之を食らふ」と、狐が「天帝の命令で、自

分が百獣の王となった。自分の後についてくればわかる」と言った内容をお

さえていることが大事。狐も一緒にいるが、獣は虎を見て恐れているのであ

る。2

 動物たちが逃げたことを虎はどう考えたのか、まとめよう。

【ねらい】漢文に限らず、現代文でも古文でも登場人物の心情を理解すること

が重要である。ここでは、虎がどのように考えたか、書かれている文章を探

し出し、きちんと答えることができるか試したい。

【解答例】自分を恐れて逃げているのだと気づかず、狐を恐れているのだと考

えた。

【解説】11行めと12行めをきちんと読むことができるかが問題を解く鍵とな

る。下段の現代語訳から解答を導いても勿論かまわない。ただし、その場合、

解答の後、上段の「知らざるなり」「以て…と為す」に着目させてほしい。虎

を主格として知覚表現が用いられている。漢文になれてくれば、書き下し文

から判断することになる。漢文は日本語と語順は違うが、使われる漢字は同

じである。漢字に対する感覚を鋭敏にさせることも大事である。

3

 「虎の威を借る狐」という言葉は、現在どのような意味で用いられ

ているか、調べよう。

【ねらい】現代社会でどのように用いられているかを確かめ、日常における漢

文の存在に気づかせたい。

【解答例】他の権勢に頼って威張る小人のたとえ。*趣旨が合っていればよい

【解説】教材の本文から、どのような意味となって今日に使われているのだろ

うか。各種の漢和辞典・国語辞典・ことわざ辞典などを利用し、現在の意味

を調べさせたい。またその意味で、どのような場面で用いられているかを調

べさせるのもいいだろう。生徒自身に例文を作らせてもかまわない。

 故事成語が身近な存在であり、それが漢文に由来することに気づかせたい。

研究・発展

◉作品解説  

 戦国時代、七国(斉・燕・楚・魏・趙・韓・秦)が強国として存在し、楚

国は南方で安定した勢力を築いていた。宣せん

王おう

の時代になると、勢力が拡大し、

北方の国から恐れられるようになった。その時の将軍として活躍していたの

が昭しょう

奚けい

恤じゅつ

である。魏国では、楚の勢力を弱めるために、遊説家の江こ

乙いつ

を楚に

送り込む。江乙は宣王と昭奚恤の仲を裂くことを画策する。そして、楚の宣

王が群臣に向かって「北方の諸国が昭奚恤を恐れているのは本当か。」と尋ね

た時、江乙は昭奚恤を讒言する。その際に用いたのが「虎の威を借る狐」で

ある。

 虎に捕まって食べられそうになった狐が、「自分は天帝の使いだ。嘘だと思

うなら私の後をついて歩いてみろ。百獣は逃げていくぞ。」と嘘をつき、虎を

だますことに成功する。この話では、狐のずる賢さを昭奚恤にたとえ、力が

あるにもかかわらず、愚かにだまされる虎を宣王にたとえている。江乙は、

宣王に対し、その間抜けぶりを指摘して腹立たしく思わせ、さらに昭奚恤が

信用できない人物であると不審を抱かせるように仕向けたのである。江乙は

動物を用いた例え話を巧みに利用し、宣王と昭奚恤の離間を謀ったのである。

 現在、我々は虎を凶暴な動物として、狐を人をだます動物としてイメージ

する傾向が強い。そのイメージは、中国の戦国時代に遊説家が一国を代表し

て敵国の王に讒言した際のたとえ話にすでに見えるのである。

◉研究  

 「虎の威を借る」「蛇足」のように、『戦国策』から取られている教材につい

ては、国と国との攻防の中、遊説家が活躍する場面が取られることが多い。

遊説家の説得を見ると、国と国との関係を理解した上で、相手国の内情を実

に詳しく精査している。誰を説得すれば自国が助かるのか、相手国のどこ・

誰の弱みを指摘・非難すれば説得が成功するのか、いかにわかりやすいたと

え話を用いるのかなど、あらゆる観点から説得を試みている。

 「漁夫の利」も『戦国策』燕策にそのもととなる話がある。そこには次のよ

うにある。

  趙

 且ニ

 伐タント

 燕ヲ

  蘇

 代

 為ニ

 燕ノ

 謂ヒテ

 恵

 王ニ

 曰ク

、今い

 者ま

 臣ノ

 来ルトキ、過グ

 易

 水ヲ

 方ニ

 出デテ

 曝ス

。而シ

 鷸

 啄ム

 其

 肉ヲ

。蚌

 合ハセテ

 而

 拑ム

 其

 喙ヲ

。鷸

曰ク

、今

 日

 不

 雨フラ、明

 日

 不ンバ

 雨フラ、蚌

 将ニ

 為ラント

 脯ト

。蚌モ

 亦タ

 謂ヒテ

 

鷸ニ

 曰ク

、今

 日

 不

 出ダサ、

 日

 不ンバ

 出ダサ、

即チ

 有ラント

 死

 鷸。両

 者

 

 肯ゼ

 相ヒ

 舎ツルヲ。

 者

 得テ

 而

 并セ–

擒フ

 之ヲ

  今

 趙

 且ニ

 伐タント

 燕ヲ

。燕

 趙

 久シク

 相ヒ

 支ヘテ、以テ

 弊ラサバ

 大

 衆ヲ

、臣

恐ルル

 強

 秦

 之

 為ランコトヲ 

  漁

 父ト

 也。故ニ

 願フ

 王

 之

 熟–

計センコトヲ 

 

之ヲ

 也ト

  恵

 王

 曰ク

、善シ

ト。乃チ

 止ム

(戦国時代、趙が燕を攻めようとした。

 蘇代は燕のために趙の恵王に言った。「いましがた、私がこちらへまい

りますとき、易水を通りましたところ、ちょうど、はまぐりが一匹、日

光浴をしておりました。するとそこへ、シギが一羽飛んでまいりまして、

はまぐりの肉をついばもうとしました。はまぐりは急いで殻を閉じて、

シギのくちばしを挟みました。シギが申します。『今日も雨が降らず、明

日も雨が降らねば、たちまちはまぐりの干物ができるだろう。』と。はま

ぐりも言いました。『今日もくちばしを出せず、明日も出せなかったら、

ここに死んだシギができるのは間違いないな。』と。両者共に放すことを

レレ

17 教科書[p.261〜p.271] 漢文入門 虎の威を借る 16

D5-100_虎の威を借る/初.indd 16-17 2015/11/05 12:07:12 80

明解国語総合

◎各教材末にある「学びの道しるべ」のねらいを示し、 解答例と詳しい解説を示しました。

漢文教材﹁学びの道しるべ﹂の解答例・解説/研究・発展 

TM29KS_P001-096_seki.indd 80 2016/03/25 15:51

Page 17: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

参考資料

◉参考資料1  

時候の挨拶集

 時候の挨拶、といっても具体的にどのような言葉を書いたらいいのか、あまり手紙を書く機会のない生徒たちには浮かばないかもしれない。教

科書に掲げた例とともに、次のような具体例を出すと書きやすい。

 また、この例にとどまらず、自分が感じる季節感をそのまま文章にして、時候の挨拶を工夫させてもおもしろいだろう。

   時

 候

 の

 挨

 拶

   時

 候

 の

 挨

 拶

1月

初春のお慶びを申し上げます。

冷たい風が身にしみる季節ですが、

(皆様いかがお過ごしでしょうか。)

7月

暑中お見舞い申し上げます。

暑い日々が続いておりますが、夕立のあとの涼しさに

ほっと一息ついております。

七夕も過ぎてまもなく夏休みです。

2月

暦では立春とはいえ、いまだ寒い日が続いております。

寒気もようやくゆるんでまいりました。

8月

入道雲が盛りの夏を告げております。

立秋を迎え、この暑さもあと一息というところとなりました。

残暑お見舞い申し上げます。

3月

名残の雪が春をはこぶ季節となりました。

ようやく春の足音も近づき、花の盛りが楽しみになってまいりました。

ひな祭りも過ぎ、だいぶ春めいてまいりました。

(皆様にはお元気にお過ごしのことと思います。)

9月

木々の葉もだいぶ色づき秋めいてまいりました。

秋の長雨の季節となりました。

4月

桜の花もだいぶほころびはじめ、あちこちで花の便りを

聞くようになりました。

春の日ざしが暖かな季節となりました。

10月

空高く晴れわたった秋の空が広がっております。

食欲の秋がやってまいりました。

5月

風薫る五月となりました。

鮮やかな新緑が目にしみる季節となりました。

11月

霜枯れの季節を迎え、日ひ

なた向の恋しい今日このごろ

となってまいりました。

木枯らしが庭木の葉を散らす季節となりました。

6月

梅雨の晴れ間の一時、

紫あじさい

陽花の花が美しく咲く季節となりました。

12月

師走の声を聞いて街の慌ただしさが

増してきたように思えます。

歳もおしつまりお忙しいことと存じます。

資料編 手紙の書き方 174

D3-13_資料編・.indd 174 13.1.28 6:51:13 PM

いうなら、花を活けるときに、花を選ぶだ

けでなく、花びんも選んで、全体で調和の

とれた作品に仕上げるということである。

 このように、トータルとしての「手紙と

いうコミュニケーション」を意識化するこ

とが、言葉の学びとして重要である。ここ

であげている手紙例を扱ううえでも、ただ

単に依頼文だから丁寧に書こうとか、目上

の相手だから丁寧に書こうというのではな

く、相手や用件や内容によってふさわしい

手紙とはどういう手紙だろうか、という点

からのアプローチが必要である。

下1前文 

初めの挨拶。

 主文に入る前の導入部分にあたり、

①頭語

②時候の挨拶

③安否の挨拶(先方・当方について)

④お礼やおわびなどの挨拶、または自己紹

介から構成される。お悔やみの手紙、病気や

事故のお見舞いの手紙では前文を省く。

手紙の書き方

資料編

用語の解説

300ページ

題 

手紙

 用件や近況報告、挨拶などを書い

て送る文書。書簡、書状ともいう。

 手紙は、学校や会社として出すような公

的なものと、個人や家族どうしでやりとり

される私的なもの、およびその中間的なも

のとがある。学習者にとってまず身近なも

のは、私的な手紙であろうが、ここで例と

してあげているような、「中学校でお世話に

なった恩師」に「学校関係のこと」で書く

依頼文となると、「親しい相手」に「日常的

なこと」を書くような場合と違って、かな

り公的なものに近い性格をもってくること

に注意したい。

 この例で想定しているのは、

相手…中学時代の恩師

内容…文化祭の開催について

用件(目的)…文化祭のポスターを掲示し

てもらうよう依頼する

という手紙である。手紙も人と人とのコ

ミュニケーションの手段であるのだから、

やはりこのような、「相手」「内容」「目的」

などを明確に意識し、それにふさわしい方

法を考えていかなくてはいけない。

 コミュニケーションの場としての手紙を

考えた場合、ただ単に、手紙文の文章の形

式(構成)や言葉づかいを選ぶというだけ

が注意の向け先ではないはずである。どの

ような形や色、デザインの便せんや封筒を

選ぶかということから始まって、手書きに

するかワープロ書きにするか、手書きの場

合の筆記具を何にするか、縦書きにするか

横書きにするか、文字を楷書にするか行書

にするか、文字以外の記号をどの程度使う

か、切手の位置や貼り方をどうするかとい

うことなどにまで、選択が行われるのであ

る。つまり、単に言葉を選ぶだけでなく、

言葉の入れ物も重要なのである。たとえて

資料編 手紙の書き方 172

D3-13_資料編・.indd 172 13.1.28 6:51:13 PM83

明解国語総合

◎学習活動や日常の言語生活で活用できる資料を 掲載しました。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 83 2016/03/25 15:51

参考資料

◉参考資料1  

時候の挨拶集

 時候の挨拶、といっても具体的にどのような言葉を書いたらいいのか、あまり手紙を書く機会のない生徒たちには浮かばないかもしれない。教

科書に掲げた例とともに、次のような具体例を出すと書きやすい。

 また、この例にとどまらず、自分が感じる季節感をそのまま文章にして、時候の挨拶を工夫させてもおもしろいだろう。

   時

 候

 の

 挨

 拶

   時

 候

 の

 挨

 拶

1月

初春のお慶びを申し上げます。

冷たい風が身にしみる季節ですが、

(皆様いかがお過ごしでしょうか。)

7月

暑中お見舞い申し上げます。

暑い日々が続いておりますが、夕立のあとの涼しさに

ほっと一息ついております。

七夕も過ぎてまもなく夏休みです。

2月

暦では立春とはいえ、いまだ寒い日が続いております。

寒気もようやくゆるんでまいりました。

8月

入道雲が盛りの夏を告げております。

立秋を迎え、この暑さもあと一息というところとなりました。

残暑お見舞い申し上げます。

3月

名残の雪が春をはこぶ季節となりました。

ようやく春の足音も近づき、花の盛りが楽しみになってまいりました。

ひな祭りも過ぎ、だいぶ春めいてまいりました。

(皆様にはお元気にお過ごしのことと思います。)

9月

木々の葉もだいぶ色づき秋めいてまいりました。

秋の長雨の季節となりました。

4月

桜の花もだいぶほころびはじめ、あちこちで花の便りを

聞くようになりました。

春の日ざしが暖かな季節となりました。

10月

空高く晴れわたった秋の空が広がっております。

食欲の秋がやってまいりました。

5月

風薫る五月となりました。

鮮やかな新緑が目にしみる季節となりました。

11月

霜枯れの季節を迎え、日ひ

なた向の恋しい今日このごろ

となってまいりました。

木枯らしが庭木の葉を散らす季節となりました。

6月

梅雨の晴れ間の一時、

紫あじさい

陽花の花が美しく咲く季節となりました。

12月

師走の声を聞いて街の慌ただしさが

増してきたように思えます。

歳もおしつまりお忙しいことと存じます。

資料編 手紙の書き方 174

D3-13_資料編・.indd 174 13.1.28 6:51:13 PM

いうなら、花を活けるときに、花を選ぶだ

けでなく、花びんも選んで、全体で調和の

とれた作品に仕上げるということである。

 このように、トータルとしての「手紙と

いうコミュニケーション」を意識化するこ

とが、言葉の学びとして重要である。ここ

であげている手紙例を扱ううえでも、ただ

単に依頼文だから丁寧に書こうとか、目上

の相手だから丁寧に書こうというのではな

く、相手や用件や内容によってふさわしい

手紙とはどういう手紙だろうか、という点

からのアプローチが必要である。

下1前文 

初めの挨拶。

 主文に入る前の導入部分にあたり、

①頭語

②時候の挨拶

③安否の挨拶(先方・当方について)

④お礼やおわびなどの挨拶、または自己紹

介から構成される。お悔やみの手紙、病気や

事故のお見舞いの手紙では前文を省く。

手紙の書き方

資料編

用語の解説

300ページ

題 

手紙

 用件や近況報告、挨拶などを書い

て送る文書。書簡、書状ともいう。

 手紙は、学校や会社として出すような公

的なものと、個人や家族どうしでやりとり

される私的なもの、およびその中間的なも

のとがある。学習者にとってまず身近なも

のは、私的な手紙であろうが、ここで例と

してあげているような、「中学校でお世話に

なった恩師」に「学校関係のこと」で書く

依頼文となると、「親しい相手」に「日常的

なこと」を書くような場合と違って、かな

り公的なものに近い性格をもってくること

に注意したい。

 この例で想定しているのは、

相手…中学時代の恩師

内容…文化祭の開催について

用件(目的)…文化祭のポスターを掲示し

てもらうよう依頼する

という手紙である。手紙も人と人とのコ

ミュニケーションの手段であるのだから、

やはりこのような、「相手」「内容」「目的」

などを明確に意識し、それにふさわしい方

法を考えていかなくてはいけない。

 コミュニケーションの場としての手紙を

考えた場合、ただ単に、手紙文の文章の形

式(構成)や言葉づかいを選ぶというだけ

が注意の向け先ではないはずである。どの

ような形や色、デザインの便せんや封筒を

選ぶかということから始まって、手書きに

するかワープロ書きにするか、手書きの場

合の筆記具を何にするか、縦書きにするか

横書きにするか、文字を楷書にするか行書

にするか、文字以外の記号をどの程度使う

か、切手の位置や貼り方をどうするかとい

うことなどにまで、選択が行われるのであ

る。つまり、単に言葉を選ぶだけでなく、

言葉の入れ物も重要なのである。たとえて

資料編 手紙の書き方 172

D3-13_資料編・.indd 172 13.1.28 6:51:13 PM 82

明解国語総合

◎教科書に示された用語や図版などについて、 詳しく解説しました。

資料編

用語の解説/参考資料 

TM29KS_P001-096_seki.indd 82 2016/03/25 15:51

Page 18: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

- 1 -

氏名[

水の東西

語句

上の熟語の対義語を、それぞれ下の[

]に漢字一字を入れて完成させよう。

①有利

②外面

③受動

④積極

⑤間接

次の語句の対義語を調べよう。

①静寂

②人工

次の語句の意味を調べよう。

①けだるい

②くぐもる

③極致

次の語句の意味を調べ、それぞれ短文を作ろう。

①愛嬌

「愛嬌」を使った短文

②徒労

「徒労」を使った短文

- 1 -

氏名[

魚は陸から離れられない

語句

【60ページ】

2「生息」の意味を調べよう。

2「過言ではない」を使って短文を作ろう。

9「過酷」の意味を調べよう。

【62ページ】

6「言い換えれば」を使って短文を作ろう。

14「少数派」の対義語をあげてみよう。

【67ページ】

13「厳密に言えば」を使って短文を作ろう。

【68ページ】

8「千差万別」の意味を調べよう。

12「単一」の類義語をあげてみよう。

15「瞬時」の意味を調べよう。

【69ページ】

7「容易」の類義語をあげてみよう。

− �−

緩急

カンキュウ(190・2)

  組

  番

  氏名〔

            〕

届く言葉、届かない言葉

 漢字

 次の傍線部の片仮名を漢字で書こう。

抑揚

ヨクヨウ(189・12)

マクラ(189・10)

宛先

アテサキ(189・5)

鋭い

スルドい(188・12)

トナリ(187・10)

ヒザ(187・9)

治療

チリョウ(187・4)

偏り

カタヨり(187・2)

咽喉

インコウ(187・1)

◆この本を読んでみて! ブックトーク 表現活動シート1

レジュメ 下書きを書き,互いに見てアドバイスをし合ってから,清書しよう。

ブックガイド

この本を読んでみて!

年 組 番 氏名

◆本のデータ

●書名 本の書名には『 』を付ける。

●編著者名 著者・作者・編者の名前をすべて挙げる。絵本や写真集では画家・写真家の名前も挙げる。

●出版社名

●刊行年 わかれば初版年を書く。何刷か,何版かわかれば「○刷」「○版」を書く。

◆出合ったいきさつ 本を見つけるきっかけになったことを説明する。

◆本や作品に対する感想 出合ったときの印象,読んでみて感じたこと,考えたことなどを書く。

◆主な内容 読んだことのない人にどのような内容かをわかりやすく,簡単に説明する。ネタバレしすぎないように。

◆魅み

力りょく

本や作品の良いところ,アピールしたい点を説明する。

◆キャッチコピー 本の帯に付ける短いフレーズを考える。

新聞に投書してみよう 意見文 表現活動シート1

( )組( )番 氏名( )

●投書をゲットしよう!

課題 新聞の投書欄を3日分読み,その中で特に印象に残った投書を一つ選んで,以下の項目について

まとめておこう。選んだ投書は指定箇所に貼っておこう。

1 選んだ新聞

( )年 ( )月 ( )日付 ( )新聞 朝刊 / 夕刊

2 投書を書いた人の年齢・性別・職業

歳代以下 歳代 歳代 歳代 歳代 歳代以上

女性 男性 職業( )

3 選んだ投書について整理しておこう。

① 投書を書いたのはどのような人物か。

② 投書にはどのような意見が述べられているか。

③ その意見はどのような体験や事実(根拠)に基づいて述べられているか。

4 選んだ投書に対する意見や感想を簡潔にまとめておこう。

(選んだ新聞を貼る場所)

85

明解国語総合

◆本文語句シート 現代文教材の脚注欄に示された語句について 学習するワークシートです。

◆本文漢字シート 現代文教材の脚注欄に示された漢字を学習する ワークシートです。

*その他に、古文教材の品詞分解を書き込むための「古文品詞分解シート」を収録しています。

◆表現活動シート 表現教材の学習活動に即したワークシート です。

DP02_責了

TM29KS_P001-096_seki.indd 85 2016/03/25 15:51

- 1 -

氏名[

羅生門

●追いつめられた状況の中での、人間の考え方や心の動きについて考える。

●場面の推移や比喩表現に注意しながら、主人公の心理の移り変わりを捉える。

「次の観点に従って、物語の設定を捉えよう。

①いつ

・時代

・季節

・時刻

②どこで

③誰が

・下人のおおよその年齢

・下人の仕事

・下人のおかれている立場

次の場面における下人の心理はそれぞれどのようなものか、まとめよう。

①「死骸の中にうずくまっている人間を見た。」(

②「すると、老婆は、……抜き始めた。」(

・6)。

③「老婆を突き放すと、……目の前へ突きつけた。」(

・6)

- 1 -

氏名[

水の東西

語句

上の熟語の対義語を、それぞれ下の[

]に漢字一字を入れて完成させよう。

①有利

②外面

③受動

④積極

⑤間接

次の語句の対義語を調べよう。

①静寂

②人工

次の語句の意味を調べよう。

①けだるい

②くぐもる

③極致

次の語句の意味を調べ、それぞれ短文を作ろう。

①愛嬌

「愛嬌」を使った短文

②徒労

「徒労」を使った短文

負け方を習得する

次の空欄を文章中の語句で補え。

第四段

【喫き

緊きん

のこと】

(p21l7

~終わり)

・㋟

〕以上に多くの利益をもたらす㋠

〕を習得

することが我々にとって喫緊のことである。

意見の総括 話題及び意見の提示 説明

説明②

反論に対する反論

第一段

【構造的敗者】

(初め~

p19l3)

現代社会では「勝つ」方法をうるさく教える。

=グローバル㋐

〕の風ふ

儀ぎ

。 ⇔

しかし、現実には決して「勝ったり、負けたり」してはいない。

私たちは全員今この瞬間も確実に訪

おとず

れる㋑

「〔

〕」に向か

って歩んでいる。例外はない。=構造的に敗者である。

私たちが勝負ごとに熱中するのは勝つためではなく、

「適切な負け方」「㋒〔

〕」を習得するた

めである。

第二段【適切な負け方】

(p19l4~p20l7)

〈事例〉

夏の甲子園高校野球は参加者のほと

んど全員が㋓

〕であるイベ

ント。その教育効果は

「適切に負ける」仕方を学ぶこと。

第一…「㋕

〕は全て自分

にある。」と自省すること。

第二…「この敗北は多くの

〕を教え

てくれた。」と総括すること。

第三…「負けたけれど、とても楽し

い時間が過ごせたから。」と

〕な気分で敗北

を㋘

〕すること。

=人間にとって

〕に重要。

第三段【無意味な敗北】

(p20l8~p21l6)

「適切な負け方」として挙げた三点に「あ

たりまえじゃないか。」と㋙

する人がいるかもしれない。だが「あたり

まえ」と言いきれるであろうか。(いや、

言いきれない。)

理由

政界でも㋚

〕でもメ

ディアでもトラブルは起きるが、その際、

「適切な負け方」を実践する人間を久しく

見ないから。

〈適切な負け方を実践しない人〉

=「負け」を認めないことが㋛

生き方であるとする当代の風儀に従順

なのだろう。

いつか必ず迎える敗北の日に

〕も期待できず、

〕も学べず、

〕だけを残すような

「無意味な敗北」を引き受ける。

説明①

意見内容の解説

適切な負け方

84

明解国語総合

付属DVD–

ROM

ワークシート

◆学びの道しるべシート 各教材末の「学びの道しるべ」をそのまま ワークシートにしたものです。

◆語句・漢字学習シート 各教材末の「語句」「漢字」の設問をそのまま ワークシートにしたものです。

◆構成・内容理解シート 教材文の構成や内容を、図や表に整理して 理解するためのワークシートです。

TM29KS_P001-096_seki.indd 84 2016/03/25 15:51

Page 19: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

- 1 -

負け方を習得する

内田樹

次の文章を読んで

後の問いに答えなさい

発展問題

適切な負け方

の第一は

敗因は

すべ全

て自分自身にある

というき

ぱりとした自省である

負けたのはチ

トのエラ

のせいだとか

監督の

さいはい

采配が悪か

たからだとか言い

のが逃

れをする高校球児は

だれ誰

からのリスペクト

一も得ることができないだろう

第二は

この敗北は多くの改善点を教えてくれた

Ⅰと

総括することである

二負けたあとに

私たちとしてはベ

ストを

つ尽くしたのでもうこれ以上改善努力の余地はない

と言う人間は敗北から何

三も学んでいないことになる

第三は

負けたけれど

とても楽しい時間が過ごせたから

という

ゆ愉かい快

な気分で敗北を記憶することである

四う書き並べると

1そんなことあたりまえじ

ないか

と憤慨する人がいるかもしれない

だが

本当に

んなことあたりまえ

と言いきれるであろうか

今の日本は

政界でも

き企ぎ

う業活動でも

メデ

アでもさまざまな不祥事が相次いでいる

どんな

せい精ち緻

なシステムで

バグ

は回避不能であるから

トラブルが起こることはしかたがないと思う

けれども

その後に

全て自分の

責任だ

と言いきり

改善点が見つか

ことを教訓とし

五て受けいれ

このような不具合を

ともな

伴いながら

ここま

でや

てこられたことを周囲の人々に

感謝する

という語法をも

敗北

の総括をした人間を

私は久しく見

たことがない

たぶん

2かれ彼

らは決して

負け

を認めないことが

かしこ

賢い生き方であるとする当代

Ⅱのふう風ぎ儀

に従順なのであ

ろう

しかし

死ぬまで全ての勝負に勝ち続けることは誰にもできない

私たちはいつか必ず敗北の日を

むか迎

える

その時

誰からのリスペクトも期待できず

何の教訓も学べず

ただひたすらに不快な後味だけを残すような

無意味な

敗北

を引き受けるということでよいのだろうか

勝つ以上に多くの利益をもたらす負け方が時にはある

そのことを習得することが我々にと

てき喫きん緊

のことだと私

は思う

問一

破線一

五のうち

活用の種類が違うものを一つ選び

記号で答えなさい

問二

波線Ⅰ

総括

・Ⅱ

風儀

の意味として最も適切なものを次の中からそれぞれ一つずつ選び

記号で答えな

さい

おさらい

まとめ

反省

理解

風習

風流

風説

風情

問三

傍線1

そんなこと

の指し示す内容を

五十字以内で説明しなさい

問四

傍線2

彼ら

とはどのような人を指すか

具体例として最も適切なものを次の中から一つ選び

記号で答え

なさい

失敗の責任を転嫁し

そこから教訓を得ようとしない責任者

トラブルが起こ

たときに

自分で責任を引き受ける技術者

落ち度を認めた上で

今後の改善点を考えていこうとする政治家

不具合があ

ても協力してくれた周囲に感謝の言葉を述べる指導者

問五

傍線3

勝つ以上に多くの利益をもたらす負け方

とあるが

ここでの

利益

とはどのようなものか

文中

の言葉を用いて

三十字以内で説明しなさい

氏名(

部の漢字の読み仮名を平仮名(現代

仮名遣い)で記せ。

2点×

ラ食

ヲ之。

[]

②きつね

ハク

曰、

[]

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

部の語句の意味をあとから選べ。

2点×

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

ア子ども

イあなた

ウ同志

②われ吾

ためニ

ノ子

セ行

ン。 []

ア先に立って歩くしかない

イ先に立って歩くかもしれない

ウ先に立って歩いてみましょう

③ゆゑニ

つひニ

と与

ク行。 [

]

アやっとのことで

イいつのまにか

ウそのまま

次の漢文を書き下し文に改めよ。2点×

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

天てん

帝てい

使しム

我ヲシテ

長 タラ

百ひやく

獣じうニ

[]

次の漢文の意味に当てはまるものをあと

から選べ。

2点×

ヘ敢

ざラ

不ン

ラ走

や乎。

[]

アあえて逃げはしないだろう。

イ恐らく逃げないに違いない。

ウどうして逃げないでいようか、いや、き

っと逃げる。

以お

―為、

もへラク

畏おそルル

狐 ヲ

也なりト

。 []

ア思わず狐を恐れてしまったのだ。

イ思うに狐を恐れてはいないのだろう。

ウ狐を恐れているのだと思った。

故事成語

虎と

の威い

を借か

得点

/20

◆羅生門(芥川龍之介)

『今昔物語集』原文

巻二十九

らせいもんのうはこしにのぼりてしにんをみるぬすびとのことだいじふはち

羅城門登上層見死人盗人語第十八

今は昔、摂津の国の辺りより盗みせむがために京に上りける男の、日の未だ明かりければ、羅城門の下に立ち隠れ

て立てりけるに、朱雀の方に人

しげ重

くあり歩

きければ、人の静まるまでと思ひて、門の下に待ち立てりけるに、山城の方よ

り人どものあまた来たりける音のしければ、それに見えじと思ひて、門の

うはこし

上層にやはら

かか掻

つり登りたりけるに、見れ

ば、火ほのかにともしたり。

盗人、「怪し」と思ひて、

れん連じ子

よりのぞきければ、若き女の死にて

ふ臥したるあり。その

まくら

枕がみ上

に火をともして、年

いみじく老いたる

おうな

のしら白が髪

白きが、その死人の枕上にゐて、死人の

かみ髪

をかなぐり抜き取るなりけり。

盗人これを見るに、心も得ねば、「これはもし鬼にやあらむ」と思ひて怖ろしけれども、「もし死人にてもぞある。

おどして試みむ」と思ひて、やはら戸を開けて、刀を抜きて、「

おのれ

はおのれ

は」と言ひて走り寄りければ、嫗

て手まど迷

ひを

して、手をすりて

まど迷

へば、盗人、「こは何ぞの嫗のかくはしゐたるぞ」と問ひければ、嫗、「己が

あるじ

にておはしま

しつる人の失せたまへるを、あつかふ人のなければ、かくて置きたてまつりたるなり。その

おほむ

御かみ髪

のたけ丈

に余りて長け

れば、それを抜き取りて

かつら

にせむとて抜くなり。助けたまへ」と言ひければ、盗人、死人の着たる衣と嫗の着たる

衣と抜き取りてある髪とを奪ひ取りて、下り走りて逃げ去りにけり。

さて、その上の

こし層

には死人の

がいこつ

骸骨ぞ多かりける。死にたる人の

はうぶり

などえせぬをば、この門の上にぞ置きける。

この事はその盗人の人に語りけるを聞き継ぎてかく語り伝へたるとや。

巻第三十一

たてはきのぢんにいををうるおうなのことだいさむじふいち

大刀帯陣売魚媼語第三十一

今は昔、

さむでう

三条の院の天皇の

とうぐう

春宮にておはしましける時に、大刀

帯はき

の陣に常に来たりて

いを魚

売る女ありけり。大刀帯ど

もこれを買はせて食ふに、味はひのむまかりければ、これを役ともてなして

な菜の

れう料

に好みけり。干したる魚の切れ切

れなるにてなむありける。

しかる間、八月ばかりに大刀帯ども

こ小たかがり

鷹狩に北野に出でて遊びけるに、この魚売りの女出で来たり。大刀帯ども女

の顔を見知りたれば、「こやつは野には

なに何わざ態

するにかあらむ」と思ひて、

は馳せ寄りて見れば、女大きやかなる

籮したみ

持ちたり。また

すはえ

一筋を

ささ捧

げて持ちたり。この女、大刀帯どもを見て、怪しく

にげ逃め目

をつか仕

ひてただ騒ぎに騒ぐ。大刀

帯の従の者ども寄りて、「女の持ちたる籮には何の入りたるぞ」と見むとするに、女惜しむで見せぬを、怪しがりて

引き奪ひて見れば、蛇を四寸ばかりに切りつつ入れたり。あさましく思ひて、「こは何の料ぞ」と問へども、女さら

に答ふる事なくて

て立てり。早う、この奴のしける

やう様

は、楚をもって

やぶ藪

を驚かしつつ、はひ出づる蛇を打ち殺し

て切りつつ、家に

も持て行きて、塩を付けて干して売りけるなりけり。大刀帯どもそれを知らずして、買はせて役と食

ひけるなりけり。

これを思ふに、蛇は食ひつる人

あ悪しと言ふに、何ど蛇の毒せぬ。

しかれば、その

てい体

確かになくて切れ切れならむ魚売らむをば広量に買ひて食はむ事は止むべし、となむこれを聞く

人言ひあつかひける、となむ語り伝へたるとや。

いずれも『新編日本古典文学全集

今昔物語集④』馬淵和夫・国東文麿・稲垣泰一校注・訳

(小学館・二〇〇二年)によった。ただし、表記の統一のために、表記の変更を行った。

◆論語の言葉

ハ曰ク

ビ学テ

レ不バ

ハ思

則す

はチ

罔く

。ヒ思テ

レ不バ

バ学

チ則

あやフシト

(為政)

子曰はく、「学びて思はざれば

すなは

ちくら罔

し。思ひて学ばざれば則ち

あや殆

ふし。」と。

先生(孔子)が言われた、「(書物で読んだり、先生の話を聞いたりして)学ぶだけで、(その内容について)自

分自身で思考することがなければ、物事がぼんやりしていてよくわからない。(またその逆に)(自分の頭の中で)

思索するばかりで他から学ぶことをしなければ、あやふやで落ち着かない。」と。

ハ曰ク

吾わ

ニ五シテ

ス志

ニ学

ニ十シテ

ツ立。四

ニ十シテ

ハ惑。五

ニ十シテ

ル知

ヲ命

ニ十シテ

順し

がフ。

ニ十シテ

ヒ従テ

ノ心

ニ所

ス欲ル

、ト不

踰エ

矩の

(為政)

子曰はく、「

われ吾

十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑はず。五十にして天命を知る。六十にして耳

したが

ふ。七十にして心の欲する所に従ひて、

のり矩

をこ踰

えず。」と。

先生(孔子)が言われた、「わたしは十五歳で学問を志した。(そして、その努力を十五年間継続して、)三十歳

で自分なりの立場を確立し独り立ちができるようになった。四十歳になると、(さまざまな事物の道理を会得し)自

分に自信を持ってあれこれと迷わなくなった。五十歳になると、天から与えられた自分の使命やあり方とは何かをさ

とるに至った。六十歳になると、(あれこれと思いを巡らさずとも)人の言葉が素直に耳に入るようになった。七十

歳になると、自分のしたいと思うとおりに振る舞っても、社会生活上の規範や、人間としての道を踏み外すことがな

くなった。」と。

87

明解国語総合

付属DVD–

ROM

補充教材集 

教科書の教材に関連する資料や、発展的に読むことができる作品などを収録しています。

DP02_責了

◆補充学習材集

収録学習材例

ベトナムのコーヒー屋

 ネパールの友達(角田光代)

負け方を習得する

 呼ばれる声を聴け(内田樹)

 負ける作法とその嗜み(内田樹)

シリウス

 あした(石津ちひろ)

 はつこい(石津ちひろ)

シジミ

 私の前にある鍋とお釜と燃える火と(石垣りん)

 表札(石垣りん)

魚は陸から離れられない

 ミレニアム生態系評価①

 数字で見る生態系の変化(鷲谷いづみ)

ツゴイネルワイゼン

 父の出征(黒柳徹子)

 パパの出征(黒柳朝)

バスに乗って

 すねぼんさん(重松清)

麦わら帽子のへこみ

 『短歌という爆弾』あとがき(穂村弘)

水の東西

 文明の常識(山崎正和)

 無常のリズム(山崎正和)

問題解決の心理学

 複雑の事柄を取り扱う技術(堀井秀之)

羅生門

 『今昔物語集』原文

届く言葉、届かない言葉

 顔とは「呼びかけ」であり「訴え」である(鷲

 田清一)

 友だち幻想(菅野仁)

古文入門

 田舎の児、桜の散るを見て泣くこと

 (宇治拾遺物語)

 阿蘇の史(今昔物語集)

 清水寺のいさかひ(宇治拾遺物語)

 鳩と蟻(伊曾保物語)

徒然草

 仁和寺にある法師

 友とするに悪き者

 西大寺の静然上人

枕草子

 春はあけぼの

 うつくしきもの

 ありがたきもの

伊勢物語

 東下り

平家物語

 祇園精舎

 能登殿最期

故事成語

 少年老い易く学成り難し/鶏口牛後/

 他山の石/守株/五十歩百歩/推敲

漢詩の世界

 絶句/春望/登岳陽楼(杜甫)

 黄鶴楼送孟浩然之広陵/早発白帝城(李白)

 送元二使安西/鹿柴(王維)

論語の言葉

 子曰、学而不思則罔。…/

 子曰、吾十有五而志于学。…(論語)

 孟子見梁恵王。…(孟子)

 大道廃、有仁義。…(老子)

TM29KS_P001-096_seki.indd 87 2016/03/25 15:51

- -

負け方を習得する

内田樹

〕次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

【基礎問題】

家庭でも学校でも会社でも、私たちは「どうやって競争に勝つか」を教えられる。あらゆるメディアが「勝つ」方

法をうるさく教えてくれる

a︵カブシキ投資で、競馬で、

れんあい

恋愛ゲームで︶。それがグローバル資本主義社会の

ふう風ぎ儀

らし

い。[

]、現実の生活では、私たちは決して「勝ったり、負けたり」しているわけではない。むしろほとんどの

場合、私たちは「負けたり、負けたり」しているのである。

だいいち

b、キュウキョクの勝負とは「生き死にを

か賭けた勝負」だというのが本当なら、私たちは全員今こ

cの瞬間も

確実に

おとず

れる「負け」に向かって歩んでいる

1。この敗北に例外はない。

私たちは構造的に敗者である。そのことを基礎にして、勝負ということについて考え直すことが必要だと思う。私

たちが勝負ごと

dにネッチュウするのは、勝つためではない。「適切な負け方」「意義のある敗北」を習得するためで

ある。私はそう考えている。

夏の甲子園高校野球には四千校以上の高校が参加するが、勝利するのは一校だけで、残りは

すべ全

て敗者である。この

イベントに何らかの教育効果があるとすれば、それは

ま間ちが違

いなく「どうやって勝つか」を

え会とく得

することではない。そ

の教訓を生かせるのは毎年全国で一校しか存在しないからである。あれだけの時間とエネルギーを投じながら、それ

だけの人々に教訓

eを授けるだけのことしかできないのだとすれば、これほ

3ど費用対効果の悪い教育事業はない。

問一

二重傍線a~eについて、漢字はその読みを平仮名で書き、片仮名は漢字に直しなさい。

問二

に入る語句として最も適切なものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。

つまり

それでは

そこで

しかし

問三

波線部「現実」の対義語を答えなさい。

問四

傍線1「この敗北」とは何を意味するか。十字以内で簡潔に説明しなさい。

問五

傍線2「私たちは構造的に敗者である」とはどのようなことを意味しているのか。最も適切なものを次の中か

ら一つ選び、記号で答えなさい。

勝敗は自分ではどうにもならないこと。

社会には一定の数の敗者が存在すること。

全員が敗者になることを免れないこと。

いったん敗者になれば上昇できないこと。

問六

傍線3「費用対効果」とあるが、ここでの(1)「費用」、(2)「効果」とはそれぞれ何を指すか。最も適

切なものを次の中からそれぞれ一つずつ選び、記号で答えなさい。

多くの高校が敗退すること。

「どうやって勝つか」を会得すること。

負けた経験から何かを学ぶこと。

四千校以上の高校が参加して大会を行うこと。

甲子園高校野球に教育効果を期待すること。

- 1 -

負け方を習得する

内田樹

次の文章を読んで

後の問いに答えなさい

発展問題

適切な負け方

の第一は

敗因は

すべ全

て自分自身にある

というき

ぱりとした自省である

負けたのはチ

トのエラ

のせいだとか

監督の

さいはい

采配が悪か

たからだとか言い

のが逃

れをする高校球児は

だれ誰

からのリスペクト

一も得ることができないだろう

第二は

この敗北は多くの改善点を教えてくれた

Ⅰと

総括することである

二負けたあとに

私たちとしてはベ

ストを

つ尽くしたのでもうこれ以上改善努力の余地はない

と言う人間は敗北から何

三も学んでいないことになる

第三は

負けたけれど

とても楽しい時間が過ごせたから

という

ゆ愉かい快

な気分で敗北を記憶することである

四う書き並べると

1そんなことあたりまえじ

ないか

と憤慨する人がいるかもしれない

だが

本当に

んなことあたりまえ

と言いきれるであろうか

今の日本は

政界でも

き企ぎ

う業活動でも

メデ

アでもさまざまな不祥事が相次いでいる

どんな

せい精ち緻

なシステムで

バグ

は回避不能であるから

トラブルが起こることはしかたがないと思う

けれども

その後に

全て自分の

責任だ

と言いきり

改善点が見つか

ことを教訓とし

五て受けいれ

このような不具合を

ともな

伴いながら

ここま

でや

てこられたことを周囲の人々に

感謝する

という語法をも

敗北

の総括をした人間を

私は久しく見

たことがない

たぶん

2かれ彼

らは決して

負け

を認めないことが

かしこ

賢い生き方であるとする当代

Ⅱのふう風ぎ儀

に従順なのであ

ろう

しかし

死ぬまで全ての勝負に勝ち続けることは誰にもできない

私たちはいつか必ず敗北の日を

むか迎

える

その時

誰からのリスペクトも期待できず

何の教訓も学べず

ただひたすらに不快な後味だけを残すような

無意味な

敗北

を引き受けるということでよいのだろうか

勝つ以上に多くの利益をもたらす負け方が時にはある

そのことを習得することが我々にと

てき喫きん緊

のことだと私

は思う

問一

破線一

五のうち

活用の種類が違うものを一つ選び

記号で答えなさい

問二

波線Ⅰ

総括

・Ⅱ

風儀

の意味として最も適切なものを次の中からそれぞれ一つずつ選び

記号で答えな

さい

おさらい

まとめ

反省

理解

風習

風流

風説

風情

問三

傍線1

そんなこと

の指し示す内容を

五十字以内で説明しなさい

問四

傍線2

彼ら

とはどのような人を指すか

具体例として最も適切なものを次の中から一つ選び

記号で答え

なさい

失敗の責任を転嫁し

そこから教訓を得ようとしない責任者

トラブルが起こ

たときに

自分で責任を引き受ける技術者

落ち度を認めた上で

今後の改善点を考えていこうとする政治家

不具合があ

ても協力してくれた周囲に感謝の言葉を述べる指導者

問五

傍線3

勝つ以上に多くの利益をもたらす負け方

とあるが

ここでの

利益

とはどのようなものか

文中

の言葉を用いて

三十字以内で説明しなさい

氏名(

部の漢字の読み仮名を平仮名で記せ。

1点×

①僅かな厚さの水の層。[

]

②岩礁を撮影する。

[]

③湖沼の水深を測る。

[]

④嵐の到来に備える。

[]

⑤台風が来襲する。

[]

⑥洞窟を探検する。

[]

⑦魚の死骸を処理する。[

]

⑧自然の生態系。

[]

部の片仮名を漢字に改めよ。1点×

①エサを少しずつ食べる。

[]

②過酷なカンキョウ。

[]

③サンゴのスキマ。

[]

④カクれる場所を探す。

[]

⑤ネラいを定める。

[]

⑥セキツイ動物の進化。

[]

⑦自意識カジョウ。

[]

⑧環境オセンを食い止める。[

]

次のア・イの

部の片仮名を漢字に改

めよ。

1点×

6 ア半数をシめる。

[]

イドアをシめる。

[]

ア言いカえて説明する。

[]

イ商品をカえる。

[]

ア環礁がケイセイされる。[

]

イケイセイが逆転する。

[]

部の語句の意味をあとから選べ。

2点×

①一番といっても過言ではない。

[]

ア真実だ

イ妥当だ

ウ対等だ

②厳密に言えば誤りがある。

[]

ア仮にも

イ本来なら

ウなぜなら

③千差万別な意見。

[]

ア温厚従順

イせっ切さ磋たく琢ま磨

ウ多種多様

④サンゴに依存して暮らす。

[]

ア寄りかかる

イ耐えしのぶ

ウ降りかかる

魚は陸から離は

れられない

得点

/30

② ① ③

氏名(

部の漢字の読み仮名を平仮名(現代

仮名遣い)で記せ。

2点×

ラ食

ヲ之。

[]

②きつね

ハク

曰、

[]

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

部の語句の意味をあとから選べ。

2点×

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

ア子ども

イあなた

ウ同志

②われ吾

ためニ

ノ子

セ行

ン。 []

ア先に立って歩くしかない

イ先に立って歩くかもしれない

ウ先に立って歩いてみましょう

③ゆゑニ

つひニ

と与

ク行。 [

]

アやっとのことで

イいつのまにか

ウそのまま

次の漢文を書き下し文に改めよ。2点×

カ無

ヘ敢

ラ食

フコト

ヲ我

也。

[]

天てん

帝てい

使しム

我ヲシテ

長 タラ

百ひやく

獣じうニ

[]

次の漢文の意味に当てはまるものをあと

から選べ。

2点×

ヘ敢

ざラ

不ン

ラ走

や乎。

[]

アあえて逃げはしないだろう。

イ恐らく逃げないに違いない。

ウどうして逃げないでいようか、いや、き

っと逃げる。

以お

―為、

もへラク

畏おそルル

狐 ヲ

也なりト

。 []

ア思わず狐を恐れてしまったのだ。

イ思うに狐を恐れてはいないのだろう。

ウ狐を恐れているのだと思った。

故事成語

虎と

の威い

を借か

得点

/20

86

明解国語総合

定期考査などに使える問題を、各教材、難易度別に複数収録しています。長文の教材は出題箇所を変えるなど、重要なポイントを網羅します。解答に加え、丁寧な解説も付しています。

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基本テスト

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評価問題集 

短時間で基礎を養う小テストです。現代文では漢字や語句、古文では文法、漢文では句法などについて出題します。

付属DVD–

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補充教材集 

◆補充学習材集

収録学習材例

ベトナムのコーヒー屋

 ネパールの友達(角田光代)

負け方を習得する

 呼ばれる声を聴け(内田樹)

 負ける作法とその嗜み(内田樹)

シリウス

 あした(石津ちひろ)

 はつこい(石津ちひろ)

シジミ

 私の前にある鍋とお釜と燃える火と(石垣りん)

 表札(石垣りん)

魚は陸から離れられない

 ミレニアム生態系評価①

 数字で見る生態系の変化(鷲谷いづみ)

ツゴイネルワイゼン

 父の出征(黒柳徹子)

 パパの出征(黒柳朝)

バスに乗って

 すねぼんさん(重松清)

麦わら帽子のへこみ

 『短歌という爆弾』あとがき(穂村弘)

水の東西

 文明の常識(山崎正和)

 無常のリズム(山崎正和)

問題解決の心理学

 複雑の事柄を取り扱う技術(堀井秀之)

羅生門

 『今昔物語集』原文

届く言葉、届かない言葉

 顔とは「呼びかけ」であり「訴え」である(鷲

 田清一)

 友だち幻想(菅野仁)

古文入門

 田舎の児、桜の散るを見て泣くこと

 (宇治拾遺物語)

 阿蘇の史(今昔物語集)

 清水寺のいさかひ(宇治拾遺物語)

 鳩と蟻(伊曾保物語)

徒然草

 仁和寺にある法師

 友とするに悪き者

 西大寺の静然上人

枕草子

 春はあけぼの

 うつくしきもの

 ありがたきもの

伊勢物語

 東下り

平家物語

 祇園精舎

 能登殿最期

故事成語

 少年老い易く学成り難し/鶏口牛後/

 他山の石/守株/五十歩百歩/推敲

漢詩の世界

 絶句/春望/登岳陽楼(杜甫)

 黄鶴楼送孟浩然之広陵/早発白帝城(李白)

 送元二使安西/鹿柴(王維)

論語の言葉

 子曰、学而不思則罔。…/

 子曰、吾十有五而志于学。…(論語)

 孟子見梁恵王。…(孟子)

 大道廃、有仁義。…(老子)

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Page 20: DP02 責了 明解国語総合 - 三省堂 総合ウェブサイト ......文 章 の 理 解 を 深 め よ う 一 「 鹿し し お ど し 」 と 「 噴 水 」 と を 比

随筆

徒然草

公世の二位のせうとに

【教科書p.220~p.221】

検印[

目標

できごとの原因や経過とその結果をたどりながら、周囲の人々の反応と主人公

像を読み取る。

語句・文法を理解しよう

次の――線部の読みを現代仮名遣いの

平仮名で書きなさい。

せうと

僧正

きはめて

悪しき

傍ら

切りくひ

次の――線部の語句の本文中の意味と

して適切なものをそれぞれあとから選び、

記号で答えなさい。

良覚僧正と聞こえしは、(220・1)

覚えている方

申しあげた方

評判になった方

きはめて腹悪しき人なりけり。

(220・1)

怒りっぽい人

腹黒い人

みにくい人

この名しかるべからず。(220・4)

さしつかえない

立派だ

よくない

次の――線部の動詞のa終止形、b活用

の種類を答えなさい。

→古文のとびら1

かの木を切られにけり。(220・4)

a[

b[

活用]

掘り捨てたりければ、(221・1)

a[

b[

活用]

次の――線部の語句のa品詞名、bここ

での活用形を答えなさい。

→古文のとびら1

きはめて腹悪しき人(220・1)

a[

b[

形]

腹立ちて、(221・1)

a[

b[

形]

大きなる堀にて(221・1)

a[

b[

形]

次の各文の助動詞「けり」の活用形を答

えなさい。

→古文のとびら2

「榎え

の木の僧正」とぞ言ひける。

(220・3)

形]

かの木を切られにけり。(220・4)

形]

その根のありければ、(220・5)

形]

文章の理解を深めよう

「公世の二位」と「良覚僧正」とはどういう関係か。二字で答えなさい。[

「かの木」(220・4)とは、何を指しているか。本文中から七字で抜き出しなさい。

「いよいよ腹立ちて、」(220・5)とあるが誰が腹を立てたのか。次の中から選び、

記号で答えなさい。

公世の二位

良覚僧正

榎の木

良覚僧正の人柄を表している部分を本文中から十字以内で抜き出しなさい。

良覚僧正の呼び名はどう変わったか。順に書きなさい。

→道しるべ1

]→[

]→[

人々はどのような気持ちから良覚僧正にあだ名をつけたと考えられるか。適切なものを

次の中から一つ選び、記号で答えなさい。

→道しるべ3

何事にも怒りっぽい僧正に親しみを持ちながらからかう気持ち。

何事にも怒りっぽい僧正を嫌いたしなめる気持ち。

何事にも気難しい僧正に何とか喜んでもらおうという気持ち。

何事にも真剣に取り組む僧正を深く尊敬する気持ち。

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明解国語総合

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学習課題ノート

別売の『学習課題ノート』の内容を自由に加工できるデータで収録しています。

朗読CD

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その他の収録データ

◆原文集

 教科書教材文の原文データです。

 ルビなし、教科書ルビ、表外ルビ、総ルビの四種類があります。

◆発問例集

 指導資料に掲載した発問をまとめたデータです。

 一部の教材について、朗読を収録した音声CDです。

 ◆収録教材名

〈現代文編〉

 バスに乗って

 羅生門

 シリウス

 シジミ

 〈古典編〉

 伊勢物語 芥川/筒井筒

 漢詩   静夜思/勧酒/涼州詞/江南春/月夜/

      香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁

※その他、学習に役立つさまざまな音声を収録予定です。

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