DNA判別法による日本酒等、醸造 酒の原料植物判別 …...4 研究目的...

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1 DNA判別法による日本酒等、醸造 酒の原料植物判別技術 新潟大学 農学部 応用生物化学科 教授 大坪研一

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DNA判別法による日本酒等、醸造

酒の原料植物判別技術

新潟大学 農学部 応用生物化学科

教授 大坪研一

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研究の経過1995年:精米粉末へのRAPD法適用開始1997年:RAPD法により上位10品種を識別

1998年:精米1粒を試料とする識別技術1999年:米飯1粒を試料とする酵素法開発

〃 :プライマーのSTS化が可能に2000年:コシヒカリポジキットの開発

〃 :餅の原料米判別技術2001年:コシヒカリネガキットの開発2002年:北海道産米キット等の開発2003年:産地判別、食味判別等への展開2006年:日本酒の原料米判別技術の研究2007年:ワインへの応用を図る

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研究背景

日本酒では、「山田錦100%使用」等の表示が

見られるが、日本酒を試料とする原料米の判別技術は開発されていない。ワインについても、ワインを試料とする原料植物の判別技術は、確立されていない。

消費者の表示への信頼性を高め、製造者の原料表示による品質保証の一助とするために、醸造酒を試料とする原料判別技術が必要である。

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研究目的

(1)日本酒、ワイン等の醸造酒を試料とし、PCR用の鋳型DNAを抽出・精製する

技術を開発する。

(2)好適なプライマーを開発することにより、醸造酒に混在する、麹菌や酵母などの発酵用の微生物のDNAとは区別しなが

ら、原料植物を判別する技術を開発する。

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醸造酒からのPCRの問題点及びその解決方法

1.発酵中にDNAが分解される

酒試料の凍結乾燥DNAの調製方法の改良

酵素法の適用

2.酵母や麹菌のDNAの混在

植物特有のプライマーを設計

3.ポリフェノール等、阻害物質の存在70%EtOH精製法の追加

イソプロパノール精製法

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酵素法による醸造酒からのDNA抽出法

日本酒ワイン

凍結乾燥25ml

0.1M Tris Buffer(P.H 8)0.1M NaCl

600μl

耐熱性 αーアミラーゼ (100mg/ml) 100μl80℃ 3時間

プロテイナーゼ K 100μl10% SDS 30μl55℃ 2時間

軽く遠心し、上清の2倍量のイソプロピルアルコールを加える

遠心後得られた沈殿を300μlTEに溶解し、再度イソプロピルアルコールを加える

RNase処理(10mg/ml ) 1μl 55℃ 30分間

等量のフェノールを加え精製し、15分間除蛋白する

遠心し、上清の2倍量のイソプロピルアルコールと3M酢酸ナトリウムを加える

遠心後得られた沈殿を70%エタノール30μlで洗浄する

遠心後得られた沈殿をTE30μlに溶解する

遠心後得られた沈殿から70%エタノールでDNAを溶出する(氷上で10分間)

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米清酒

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6161

121121

181181

241241

301301

361361

421421

481481

6060

120120

180180

240240

300300

360360

420420

480480

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

A7

1:麹菌 2:酵母 3:山田錦(米) 4:五百万石(米) 5:雄町(米) 6:美山錦(米)

7:市販の酒 A 8:市販の酒 B 9:市販の酒 C 10:市販の酒 D

クローニングし塩基配列を調べる

米由来の識別バンドであることの確認

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「コシヒカリ100%」表示清酒の判別結果

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

クロロプラストSSR13

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

クロロプラストSSR13

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

M 1 2 3 4

1:麹菌 2:雄町(酒米) 3:五百万石(酒米) 4:山田錦(酒米)

植物特有のプライマーの設計例

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「山田錦100%」と表示されている酒の分析例

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町 10:山廃純米吟醸12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町12:久保田城(美山錦)

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

1:麹菌 2:酵母菌 3:山田錦(酒米) 4:五百万石(酒米) 5:雄町(酒米) 6:八海山7:越の寒梅 8:紬美人 9:越の雄町 11:山田錦(大吟醸)12:久保田城(美山錦)

「山田錦100%」では増幅バ

ンドが出現しないはずなのに、No11の酒では美山錦

のバンドが出現した

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1:ソーヴィニヨン 2:フラン 3:シャルドネ4:メルロ 5:リースリング 6:甲州

M 1 2 3 4 5 6

Leaf

1:ソーヴィニヨン 2:フラン 3:シャルド4:メルロ 5:リースリング 6:甲州

M 1 2 3 4 5 6

Wine

M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

1:カベルネ ソービニヨン 2:ソービニヨン ブラン 3:ピノ ノワール

4:ピノ ノワール 5:シャルドネ 6:シャルドネ 7:甲州 8:甲州9:リースリング 10:メルロ

Wine FLeaf F

クローニングし、塩基配列を調べる

ワインから抽出したDNAは約1Kbpまで増幅可能である

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 従来はPCR用鋳型DNA調製の点で、対象試料

が原料植物等に限られていたが、醸造酒からのDNA抽出・精製技術が開発できたため、醸造

酒そのものなど、高度に加工された飲食品を試料として原料判別を行うことが可能となった。

• 本技術の適用により、醸造酒等、高度に加工された飲食品の原料植物が判別できるため、表示への信頼性が高まり、品質向上も期待できる。

• 派生技術として、加工米飯、餅、米菓、みりん等の原料米品種判別も可能である。

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想定される用途

• 本技術の特徴を生かすためには、醸造酒の原料検査に適用することで表示への信頼性確保のメリットが大きいと考えられる。

• 上記以外に、偽装表示の減少による醸造酒等の品質向上という効果が得られることも期待される。

• また、達成された判別技術に着目すると、醸造企業の好適原料の選定や、育種分野への適用等に展開することも可能と思われる。

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想定される業界

・ 想定されるユーザー

日本酒製造メーカーの清酒製造工場

醸造酒における原料表示の検査機関等

・ 想定される市場規模

醸造酒市場規模:約3兆円

検査費用:0.1%と想定→30億円の市場規模

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実用化に向けた課題

• 現在、単一原料の醸造酒の原料について、判別が可能なところまで開発済み。しかし、混合品種の判別の点が未解決である。

• 今後、多数の原料植物について実験データを取得し、市販醸造酒に適用していく場合の条件設定を行っていく。

• 実用化に向けて、判別の対象を混合品種まで拡大できるよう技術を確立する必要もある。

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発表論文

1.日本酒:中村澄子ら、日本食品科学工学会誌, 54, 233-236, 2007.

2.日本酒:K. Ohtsubo et al, J. Biochem. Biophys. Methods, 70, 1020-1028, 2008.

3.ワイン:S. Nakamura et al, J. Agric. Food Chem., 55(25):10388-95.

本発表のまとめ

1.日本酒等の醸造酒からPCR用のDNA調製方法を開発

2.酵母や麹菌のDNAと分別増幅できるプライマーを開発

3.日本酒やワインでのDNA判別の可能性を実証した

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企業への期待

• 未解決の混合品種判別については、定量PCRの技術により克服できると考えている。

• 定量PCRやプライマー開発の技術を持つ、

企業との共同研究を希望。

• また、DNAチップを開発中の企業、酒の原料

判別検査分野への展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :醸造酒中の原料植物の判

別方法

• 出願番号 :特許公開2007-330230

• 出願人 :農研機構食品総合研究所

• 発明者 :大坪研一(現・新潟大)

原口和朋、鈴木啓太郎、

中村澄子

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お問い合わせ先

新潟大学

産学官連携コーディネーター客員教授 後藤隆夫

TEL & FAX 025-262-7558e-mail [email protected]