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74 75 きょうと元気な地域づくり応援ファンド支援事業 平成20年度・平成21年度 事例集 の変化に伴い、高品質に特化したごく少数の京仏壇の需要 は残るものの、圧倒的多数であった一般家庭向け仏壇生 産は激減していたのです。 ところで京仏壇製作には、木 地、木彫、漆塗り、蝋 ろいろ 色、 箔貼り、蒔 まさえ 絵、調板、採寸、彫金、焼き付け、錺(かざり)、 彩色の12の工程があります(松田仏具漆工芸はこの工程 の一つである漆塗り職人で、同時にパーツを組み立てて仏 壇を完成、販売する卸売所でもある)。松田さんがこの世 界に入ったのは、ちょうどこの伝統的な職人間の仕事の流 れが体験できる、いわばギリギリ最後の時期でした。 松田さんは父のもとで塗 師としての修行に励むかたわ ら、機会がある度に他の職人さんたちの工房を訪れ、職人 さんたちの技術について学びました。従来の技術連携を基 礎に、新たな仕事を受注するためのネットワークが構築で きないか模索しはじめたのです。これが新たな事業を支え る大きな基盤となりました。 市場開拓には、もう一つの準備要因がありました。それ は松田仏具漆工芸社がそれまですべてを刷毛による手作 業でしていた漆塗り作業を吹き付け機械の導入によって省 力化、量産化することに成功させていたことです。 「しかし漆は天然素材なので、その日によって成分が微 妙に違い、乾き方も違う。昨日、塗ったものがすべてボツ、 ということも起りうるのです。量産は技術が完成したとき には確かに作業効率が上がるけど、そのぶんリスクも大き く、機械導入には葛藤が伴いました」。それでも大型建材 などを受注するためには量産体制がどうしても必要、と松 田さんは父と共に試行錯誤を重ね、機械による吹き付け技 術を確立させていたのです。 新事業展開には販促ツールが必要 さらに新たなインテリア内装などの仕事を受注しようと 思うと、試作品や見本が必要です。ホームページやカタロ グなども整備する必要があります。展示会に出品するため には展示用作品もつくらなければなりません。こうした新 京仏壇漆塗りのノウハウを活かして 松田恭幸さんが漆職人である父に師事し、家業である仏 具漆工芸の仕事に就いたのはいまから15年前のことです。 数年後、松田さんは漆塗りの技術を活かした新たな製品 の開発に取り組み始めました。 「仕事がなくなっていくのをただ黙って見ているわけに はいかなかったのです。最初はまずは技術力、とひたすら 漆塗りに向き合っていましたが、それだけでは将来がな い、と思ったのです」。 平成18(2006)年には京仏具漆塗りの製造ノウハウを 生かした「家庭用十字架祭壇」のサンプルを作成。これは 「漆を使っているのが京都らしくていい」「宗教は違って も故人に手を合わせたい、祈りの場として仏壇に代わるも のが欲しかった」という日本人クリスチャンたちの心に響 き、その高い美術的価値が認められ、バチカンに十字架祭 壇を奉納する、という機会を得ました。 さらにバーカウンターや建物内装で、漆や箔等の伝統工 芸技術を活かしたインテリア建材を提案する事業に取り 組み、見本市に出展。平成22(2010)年の上海万博では 日本産業館内の日本料理店の銀箔内装を手がける、とい う快挙を果たしました。現在もアルミ板に漆を吹き付けた 新インテリア建材による店舗内装等、次々と新たな仕事受 注に成功しています。 職人のネットワークと技術革新 「自分のルーツを辿ると、父方も母方も仏壇製作にかか わる家系なのです。仏壇づくりや漆塗りを職業にしていく ことに抵抗感はありませんでした」と松田さん。 しかし当時、京仏壇産業はすでに深刻な衰退期に入っ ていました。かつて京仏壇の製作・修復・卸売業は、京都 の伝統のなかにあって絶えることのない市場が存在してい たのですが、核家族化やマンションの増加などの生活環境 たな事業展開に必要な体制を後押ししてくれたのがファン ドでした。「従来の伝統技法を使った新しい技術をどう宣 伝し、受注に結びつけるか。職人は技術力はあるけど売る のは苦手。ファンドはそこを助けてくれました」。 ネットワークの仕事は職人さんたちが仕事しやすいよう なかたちで受けています。たとえば内装の建材はパーツで 作業するようにし、最終的に現場で組み立てるような工法 にしています。こうすることで作業現場の異なる職人さん の間を行き来することが可能になりました。「顧客に“これ はできるか?”と尋ねられたら、とりあえず持って帰って、 ネットワークで相談する。ネットワークがあることがいまの 自分の最大の強みですね」。 身近な夢はショールーム いま、最も身近な夢は、「ショールームをつくること」と 松田さん。「自分たちは職人だし、職場はあくまでも工場。 仕様見本を見てもらえるスペースをつくりたいのです。あと は、さまざまな注文に一つひとつ応えていけるような技術 力と体制を整えていきたいです」。松田さんの挑戦はこれ からも続きそうです。 松田漆企画(松田仏具漆 しっこう 工芸 げい http://matsuda-urushi.com/ 代表:松田恭幸 業種:漆工 創業:昭和 55(1980)年 住所:〒 600-8886 京都市下京区西七条北月読町 78 T E L :075-315-0066 FAX:075-315-0066 case 36 21 松田恭幸さん 伝統産品の活用 MURASAKI

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きょうと元気な地域づくり応援ファンド支援事業平成20年度・平成21年度 事例集

の変化に伴い、高品質に特化したごく少数の京仏壇の需要は残るものの、圧倒的多数であった一般家庭向け仏壇生産は激減していたのです。 ところで京仏壇製作には、木

き じ地、木彫、漆塗り、蝋

ろ い ろ色、

箔貼り、蒔ま さ え

絵、調板、採寸、彫金、焼き付け、錺(かざり)、彩色の12の工程があります(松田仏具漆工芸はこの工程の一つである漆塗り職人で、同時にパーツを組み立てて仏壇を完成、販売する卸売所でもある)。松田さんがこの世界に入ったのは、ちょうどこの伝統的な職人間の仕事の流れが体験できる、いわばギリギリ最後の時期でした。 松田さんは父のもとで塗

ぬ し師としての修行に励むかたわ

ら、機会がある度に他の職人さんたちの工房を訪れ、職人さんたちの技術について学びました。従来の技術連携を基礎に、新たな仕事を受注するためのネットワークが構築できないか模索しはじめたのです。これが新たな事業を支える大きな基盤となりました。 市場開拓には、もう一つの準備要因がありました。それは松田仏具漆工芸社がそれまですべてを刷毛による手作業でしていた漆塗り作業を吹き付け機械の導入によって省力化、量産化することに成功させていたことです。 「しかし漆は天然素材なので、その日によって成分が微妙に違い、乾き方も違う。昨日、塗ったものがすべてボツ、ということも起りうるのです。量産は技術が完成したときには確かに作業効率が上がるけど、そのぶんリスクも大きく、機械導入には葛藤が伴いました」。それでも大型建材などを受注するためには量産体制がどうしても必要、と松田さんは父と共に試行錯誤を重ね、機械による吹き付け技術を確立させていたのです。

新事業展開には販促ツールが必要 さらに新たなインテリア内装などの仕事を受注しようと思うと、試作品や見本が必要です。ホームページやカタログなども整備する必要があります。展示会に出品するためには展示用作品もつくらなければなりません。こうした新

京仏壇漆塗りのノウハウを活かして 松田恭幸さんが漆職人である父に師事し、家業である仏具漆工芸の仕事に就いたのはいまから15年前のことです。数年後、松田さんは漆塗りの技術を活かした新たな製品の開発に取り組み始めました。 「仕事がなくなっていくのをただ黙って見ているわけにはいかなかったのです。最初はまずは技術力、とひたすら漆塗りに向き合っていましたが、それだけでは将来がない、と思ったのです」。 平成18(2006)年には京仏具漆塗りの製造ノウハウを生かした「家庭用十字架祭壇」のサンプルを作成。これは「漆を使っているのが京都らしくていい」「宗教は違っても故人に手を合わせたい、祈りの場として仏壇に代わるものが欲しかった」という日本人クリスチャンたちの心に響き、その高い美術的価値が認められ、バチカンに十字架祭壇を奉納する、という機会を得ました。 さらにバーカウンターや建物内装で、漆や箔等の伝統工芸技術を活かしたインテリア建材を提案する事業に取り組み、見本市に出展。平成22(2010)年の上海万博では日本産業館内の日本料理店の銀箔内装を手がける、という快挙を果たしました。現在もアルミ板に漆を吹き付けた新インテリア建材による店舗内装等、次 と々新たな仕事受注に成功しています。

職人のネットワークと技術革新 「自分のルーツを辿ると、父方も母方も仏壇製作にかかわる家系なのです。仏壇づくりや漆塗りを職業にしていくことに抵抗感はありませんでした」と松田さん。 しかし当時、京仏壇産業はすでに深刻な衰退期に入っていました。かつて京仏壇の製作・修復・卸売業は、京都の伝統のなかにあって絶えることのない市場が存在していたのですが、核家族化やマンションの増加などの生活環境

たな事業展開に必要な体制を後押ししてくれたのがファンドでした。「従来の伝統技法を使った新しい技術をどう宣伝し、受注に結びつけるか。職人は技術力はあるけど売るのは苦手。ファンドはそこを助けてくれました」。 ネットワークの仕事は職人さんたちが仕事しやすいようなかたちで受けています。たとえば内装の建材はパーツで作業するようにし、最終的に現場で組み立てるような工法にしています。こうすることで作業現場の異なる職人さんの間を行き来することが可能になりました。「顧客に“これはできるか?”と尋ねられたら、とりあえず持って帰って、ネットワークで相談する。ネットワークがあることがいまの自分の最大の強みですね」。

身近な夢はショールーム いま、最も身近な夢は、「ショールームをつくること」と松田さん。「自分たちは職人だし、職場はあくまでも工場。仕様見本を見てもらえるスペースをつくりたいのです。あとは、さまざまな注文に一つひとつ応えていけるような技術力と体制を整えていきたいです」。松田さんの挑戦はこれからも続きそうです。

松田漆企画(松田仏具漆しっこう

工芸げい

)http://matsuda-urushi.com/ 代表:松田恭幸業種:漆工創業:昭和 55(1980)年住所:〒 600-8886   京都市下京区西七条北月読町 78 TEL:075-315-0066 FAX:075-315-0066

case36 京

仏壇づくりの伝統技術と職人ネットワークを活かし

新たな市場を開拓

松田漆企画(松田仏具漆工芸)

代表 

松まつだ田

恭きよゆき幸

さん

事 業 概 要

リビング&デザイン展

平成21年度 

採択事業

家庭用十字架祭壇、バチカン奉納モデル

松田恭幸さん

伝統産品の活用

上海万博・日本産業館の料亭「紫

 

MU

RASAKI

」の銀箔壁面