CSR調達を通して するCSR調達を通して実現する 大成建設の成長...

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CSR調達 して 実現する 大成建設成長 大成建設は2013年4月に「調達方針」を制定し、 サプライチェーンのビジネスパートナーとともに、CSR調達を進めています。 今回は、「CSR調達の今後の取り組み」をテーマに、CSRに見識の深い有識者をお招きし、 大成建設でCSR調達を推進している調達担当者との意見交換を行いました。 ステークホルダー・ダイアログ 2015年3月4日(水) 大成建設株式会社本社新宿センタービル 開 催 社外から参加いただいた有識者 大成建設出席者 有識者 牛島 慶一EY Japan 気候変動・サスティナビリティサービス 日本エリアリーダー マネージングディレクター 椹木 茂 建築本部建築部部長 高山 暢彦 土木本部土木部工事管理室長 小林 修 社長室コーポレート・コミュニケーション部 CSR 推進室長 有識者/ファシリテーター 小河 光生株式会社クレイグ・コンサルティング 代表取締役 鈴木 淳司 設備本部設備部長 真﨑 修正 調達本部企画管理部長 1

Transcript of CSR調達を通して するCSR調達を通して実現する 大成建設の成長...

CSR調達を通して実現する大成建設の成長大成建設は2013年4月に「調達方針」を制定し、

サプライチェーンのビジネスパートナーとともに、CSR調達を進めています。今回は、「CSR調達の今後の取り組み」をテーマに、CSRに見識の深い有識者をお招きし、

大成建設でCSR調達を推進している調達担当者との意見交換を行いました。

ステークホルダー・ダイアログ

2015年3月4日(水) 大成建設株式会社本社新宿センタービル開 催

社外から参加いただいた有識者

大成建設出席者

有識者

牛島 慶一氏

EY Japan気候変動・サスティナビリティサービス日本エリアリーダーマネージングディレクター

椹木 茂建築本部建築部部長

高山 暢彦土木本部土木部工事管理室長

小林 修

社長室コーポレート・コミュニケーション部CSR 推進室長

有識者/ファシリテーター

小河 光生氏

株式会社クレイグ・コンサルティング代表取締役

鈴木 淳司設備本部設備部長

真﨑 修正調達本部企画管理部長

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ステークホルダー・ダイアログ

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CSR調達を次のフェーズへ進めていくために

小河 今回は、大成建設が取り組んでいるCSR調達をよ

り効果的に機能させ、次のフェーズに進めていくことを目

的として、企業の先進的なCSR活動に関わっている牛島さ

んのご意見を伺いながら、ダイアログを進行したいと思い

ます。牛島さんは、CSRに見識の深いエキスパートで、ご

自身もグローバル総合電機メーカーおいて、CSRの実務を

担当されていたご経験があり、そしてグローバルな観点か

ら、今後の大成建設にとって有意義なコメントがいただけ

ると存じます。

 また一方で、大成建設における総合建設業としてのビジ

ネスの特殊性も踏まえる必要があるでしょう。今回は外部有

識者と大成建設の双方の観点から意見交換をし、意義のあ

るものにしたいと考えています。

 では最初に、大成建設がサプライチェーンまで含めた

CSRに取り組みはじめた背景などからお聞かせください。

大成 取り組みのきっかけとなったのは、2010年に制定さ

れたISO26000です。ISO26000は、組織の社会的責任に

出席者数倉友会各支部会員(2013年2月登録会社を対象) 265名

大成建設本社 建築本部/土木本部 59名

大成建設各支店 建築本部/土木本部 各購買責任者・各所長会 625名

合計 949名

倉友会 社数 指導項目モニタリング対象会社数 571社

2013年度モニター票回収会社数 160社 ◦法令・社会規範遵守

◦環境保全の取り組み◦安全性と品質の確保指導対象会社数 16社

2014年度モニター票回収会社数 364社 ◦法令・社会規範遵守

◦環境保全の取り組み◦安全・衛生の取り組み◦安全性と品質の確保指導対象会社数 31社

■「CSR調達説明会」出席者数

■「CSR調達」モニタリングの状況

関する国際基準でのガイダンスであり、海外事業展開を適

正に遂行する上でガイドラインの役割を果たすものです。経

団連がその内容を参考に「企業行動憲章」および実行の手引

きを見直したこともあり、今後のCSRに対する社会的関心

の高まりや監視強化の流れを確信しました。そこで当社は、

2011年から本社の各CSR担当部門にISO26000に基づい

たCSR調査を行い、2012年にグループ会社にも調査を実

施し、グループ全体で、CSR活動を推進してまいりました。

そして、2013年からは、取引先に対しても、説明会を通じ

て同年に制定した「調達方針」をお伝えし、当社のCSRに関

するご理解を深めていただきました。

 現在では、当社の購買責任者が取引先に対してモニタリ

ングを行っています(具体的には、当社とのつながりが深い

協力会組織「倉友会」の会員企業を対象に、下記の実施状況

となっています)。

「CSR調達」実施状況 (期間:2013年度〜 2014年度)

※合計で、524社に実施 実施率91.8%

ステークホルダー・ダイアログ

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調達のレピュテーションリスクから企業を守る

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催をめぐる課題

小河 ここからディスカッションに入っていきたいと思いま

すが、CSR調達の次のフェーズということを考えると、この

先2020年には、建設業にとって極めて大きなイベントとな

る東京オリンピック・パラリンピックの開催もあるので、少

し大きな視野からメガトレンドがどうなっているのか、また

CSR調達というものを今度どのように考えていけばいいの

か、牛島さんの方から問題提起をお願いします。

牛島 私からは、CSR調達をめぐる問題提起として、3点申

し上げます。1つめは、CSR調達が求められる背景について。

2つめは、海外から見た日本企業。そして3つめは、CSR調

達に関するグローバルな動向です。

 1つめについて、近年も木材生産国における森林の違法伐

採をめぐり、そのサプライチェーン上の企業に対し、NGO(非

政府組織)が強い抗議行動をとっています。現地では合法と

言われていますが、政治腐敗の上に立った合法であり、実態

牛島 問題提起の2つめは、海外が日本企業をどう見てい

るか、です。

 日本で人権というと、弱い者に対する思いやりといっ

た捉えられ方をしがちですが、海外ではヒューマンライツ

(Human rights)、つまり「権利」のことを指します。すべて

の人には生まれながらにして約30個の権利があり、基本的

にはそれが法律で保護されているのですが、国によっては保

護されていない状況があります。まず海外の常識を理解し、

日本とのギャップを認識することが重要でしょう。

 問題提起の3つめとして、グローバルな動向を挙げたい

と思います。2014年のソチオリンピックでは、会場建設

に移民労働者を雇い、その人たちの労働安全衛生問題が指

摘されていました。これを問題視したIOC(国際オリンピ

ック委員会)は、2024年からホスト国を選ぶ基準に人権を

入れました。2020年の東京オリンピックには遡及して適

用されないものの、世界中のNGOから視線が注がれてい

ることから、オリンピックにおける調達にCSRへの配慮が

求められる流れにはなるでしょう。大成建設の場合、オリ

ンピック関連の仕事を請け負う際に、恐らく人権に関する

は違法性が高いと言われています。ここから学ばなければい

けないのは、あくまで法的責任は最低限必要なもので、法

律を越えた社会的責任が求められるということです。

 特に、経済発展に向けて外資を積極誘致している国では、

異常なまでの低税率や許認可の甘さなどがあり、また腐敗

が横行しがちです。それらの国では政治が未成熟である

ため、法律があっても執行の不十分であったり、矛盾点が

多々あります。現地法のみならず、国際的な基準に準拠し

て操業することが、レピュテーション(評判・評価)リスクから

企業を守る上でポイントになると思います。

 なお、海外では企業や政府以上にNGOが信頼されて

います。非常に優秀で高い能力と国際的な影響力を持つ

NGOも多く存在していますので、敵対せずに対話に応じ、

一緒に問題の改善を図るといったコミュニケーションを形成

するべきだと思います。

取組みについてチェックを受けることになると思います。

大成建設のような大企業は、一次取引先くらいまでは問題

がなかったとしても、二次取引先以降というのは、実際に

確かめてみないとリスクがあるのでは、と懸念します。

 また問題が発見された際は、隠蔽しないことが重要です。

国際的には、情報開示・透明性が、企業のレピュテ―ション

を守るといわれています。発見した問題解決に一緒に取り組

み、改善に協力することが求められます。

ステークホルダー・ダイアログ

まず、社会的課題を「知る」ことが大切

取引先とのモニタリングで、どう働きかけていくか

大成 当社の調達は、一般的な調達とは異なる点がありま

す。多くの会社は、調達に関する全ての発注および契約を、

調達を司る部署で実施していると思いますが、当社の場合、

調達本部が取り扱っているのは、取扱高ベースで全体の約4

割程です。また、調達部門で徴収した見積の結果を支店・

作業所に伝えたのち、支店・作業所で価格決定と契約を行

っており、調達本部では契約締結していません。そのため

追加変更等が生じて最終金額がどうなったのかを追うのは、

なかなか難しい面があります。調達本部が契約者ではなく、

全ての調達先を網羅しているわけではないこともあり、一次

取引先、二次取引先へと順次浸透させていくのは、時間が

かかる取り組みだと思っています。

牛島 おっしゃる通り、浸透には時間のかかる取り組みで

す。前職時代に、私は購買担当者と一緒に現地調査に回っ

た経験があります。監査人と一緒に労働安全衛生や環境保

大成 当社には多数の取引先企業があるのですが、今後そ

の取引先企業の中からどのような基準でモニタリング先を選

んだらよいのか等、牛島さんのご意見をいただけますか。

牛島 優先順位をつけます。一般的には、影響が大きく定

常的に取引している取引先を絞り込んで調査するケースが

多いです。

全といった点を確認するのですが、多くの指摘を受けまし

た。当時の調達担当者も、現地調査を通じて今まで「知ら

なかった」ことを知ることができ、問題意識を共有する上で

有意義でした。

大成 もともと安全面や品質面については、当社の優位性

を高めるためにも重要なテーマでありますが、今後はCSR

調達に取り組んでいくということも同様に大事なことだろう

と思います。従来から安全や品質に関する現地パトロールと

して、当社は定期的に作業所を回っていますので、そこに

購買担当者による現地パトロールという、CSR調達の新たな

視点を入れていく方法もあると感じました。その際には、取

引先の経営者と一緒に回る必要があるでしょう。

 CSR調達をめぐる世の中の流れについては、まず「知るこ

と」を重視し、社員や取引先に対して繰り返し周知しながら、

一緒に頑張っていきたいと思います。

 また調査結果から、特に環境規制や労働安全衛生、人権

などの重要項目に関する取り組みが不十分な取引先を、重

点管理の調達先として選び出します。そうした取引先に対し

ては、「こうした課題を一緒に解決する」といったスタンスを

示し、趣旨を理解いただいた上で改善に向けた働きかけを

行います。

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海外が注視している外国人技能実習生制度

大成 外国人の技能実習生制度について、当社の場合は、

ベトナム人の技能実習生については特別な取扱いルールを

決め、調達本部と建築本部が協力して、監理団体や、ベト

ナム現地の優秀な送り出し機関の選定を行い、しっかりと

した人材教育ができる倉友会会員企業を対象に説明会を開

催した上で、それらの団体を推薦しています。受入れ監理

団体や送り出し機関を推奨し、元請けとして関与するから

には、コンプライアンスに反することが絶対に起こらない

ようフォローを徹底する必要があると改めて感じました。

特に東京オリンピック・パラリンピック関連の工事では、

外国人技能実習生を受入れたい意向もありますので、それ

に対しては国内外の注目度が高いこともあり、より一層元

請けとしてフォローを徹底する必要があると感じています。

牛島 企業としての方針を明確に示し、派遣会社に対して

それらを排除するよう要求しておくべきです。そして好まし

くない事例が見つかった時には、適切に対処することが重

要だと思います。

ステークホルダー・ダイアログ

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ゼネコン業界全体として取り組むべきテーマ

大成 いろいろ聞かせていただいた中で、CSR調達は、や

るべきことと、業界でやるべきことを分けて考えていく必要

があると感じました。例えば材料や設備機器類等、物品の

購入になると、そのメーカーに対し、調査等も含めてどこま

で関与することができ、意識を共有できるのかは、倉友会と

して当社に帰属するというよりは、業界として取引している

メーカー側に、どう対応していくかといったことを考える必

要があると思います。

 また、業界では重層下請構造について、一般社団法人日

本建設業連合会として対処する動きがあり、業界全体で処

遇を改善しなければ、若い技能者が入ってこないという問題

への対応を進めようとしています。建設業として外国人の技

能実習生を活用するのであれば、国内全体の処遇改善を行

わなければいけませんし、その中で人権も一緒に考えるべ

きだと思います。

 同様に、牛島さんが例を挙げられた木材生産国における森

林の違法伐採も、当社だけで対応することが難しいテーマだ

と思います。国によって法律も異なりますが、木材生産国で

合法なだけでなく、日本でも合法な場合もあり、単に法令を

遵守するだけでは、調達に関する批判は免れないということで

すね。しかし当社は、現地に行って直に木材を買うという立場

ではありません。これは業界で共通していることだと思います。

牛島 NPOが期待していることは、国際的にふさわしいス

タンダードで運用する、あるいはそうしたスタンダードを作

ることを主導するということです。

 私のアイデアとしては、ゼネコン業界として調達に関する

基準を制定することだと考えます。電機業界の場合は、JEITA

(一般社団法人 電子情報技術産業協会)という業界団体が

生産と調達に関するスタンダードを作りました。米国の業界

団体が先行して基準を作ったという背景もあり競争優位性に

影響するため、JEITAとして制定し、各メーカーがCSR調達

の基準として取り入れました。同様にゼネコン業界でも、「法

律は整備されていないかも知れないが、こうした理由でCSR

調達におけるデューデリジェンス(リスク等の評価・監査)をや

る」といった形で、業界団体としてのスタンダードを定め、そ

こに準拠した取り組みを始めることを推奨します。

CSR調達の標準化を「オリンピックレガシー」に

小河 最後に、CSR調達の取り組みは短期的なリスクマネジ

メントの要素が強いと思いますが、これを中長期的な視点か

ら、CSR調達を推進することによって、大成建設が競争力を高

めていくという視点で捉えると、どんなことが考えられますか。

牛島 CSR調達を通じて、自社と取引先の意識を変えてい

く取り組みは、現場力の向上につながり、施工の品質を高

める形で競争力につながっていくと考えます。そして、CSR

調達を大成建設グループの成長を実現するための策として

活かすことが、結果的に取引先も含めた業界全体の発展に

もつながっていくと思います。

 このような展望における動きの1つとして、やはり2020

年の東京オリンピック・パラリンピックは大きなイベントだと

思います。「オリンピックレガシー」という言葉がありますが、

これはオリンピックを契機として、いかに長期的な価値を社

会に埋め込んでいくかということです。例えばバリアフリー

化による住みやすい街づくりや健康に暮らせる街づくりとい

うのもあるでしょう。その中で、実はCSR経営やサプライチ

ェーン・マネジメントについても「オリンピックレガシー」の1

つとして認識されているのです。

 オリンピックを契機に、日本の経営やサプライチェーン・

マネジメントに関するスタンダードを国際的水準にまで高

め、今後のグローバルビジネスを視野に入れた変革の機会

にしようという考えです。もし大成建設がリーダーシップを

とり、業界におけるCSR調達のスタンダード作りを「オリン

ピックレガシー」の一環として推進していくことが出来れば、

まさに建設業界のトップランナーとして競争優位となる、そ

ういう時代になるのではないかと思います。

小河 長時間にわたりダイアログをさせていただきました。

国際的な視点から現状を把握し、サプライチェーンで行われ

ていることを「知ること」の必要性、取引先との共栄に向けた

改善システムの重要性について認識できたと思います。そし

て、業界として取り組むべきCSR調達のスタンダード作りに

ついては、特に2020年のオリンピック・パラリンピック開催

というタイミングを視野に入れると、大成建設がリーダーシッ

プをとっていくという新たな示唆が出された場となりました。

 今回のダイアログを踏まえ、大成建設のCSR調達を一層

意義あるものとし、次のステージへ進めていただきたいと

思います。皆様、どうもありがとうございました。