基礎化学(化学計算)補講3...

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基礎化学(化学計算)補講3 解答・解説 基礎力確認問題1 基本事項 以下の語句を説明せよ. 1.密度 ある物質または溶液などの混合物全体の体積 1 cm 3 (mL,cc)あたりの質量(g)のことである.単位は g/cm 3 を用いる. 例1 4 ˚C における純水 1 mL の質量は 1 g である.従って,水の密度は 1 g/cm 3 である. 例2 常温で 10% 食塩水(塩化ナトリウム水溶液:塩化ナトリウムと水の混合物)1 mL の質量は 1.07 g で ある.従って,10% 食塩水の密度は 1.07 g/cm 3 である. 2.比重 ある物質または溶液などの混合物が同じ体積の水の質量の何倍の質量を持つかを示す値である.従っ て,比重は以下のように計算される. 比重 = その物質または溶液の密度 (!/!" ! ) 水の密度 (!/!" ! ) 水の密度は 1 g/cm 3 であるから,結局,比重は密度の値と等しくなる.また,密度で密度を割るので, 単位の記号はつけない. 比重 = その物質または溶液の密度 (!/!" ! ) ! (!/!" ! ) = その物質または溶液の密度の値 3.モル 炭素だけで構成される物質(黒鉛やダイヤモンド)12 g に含まれる炭素原子の数は 6.02 x 10 !" 個(ア ボガドロ定数)であり,その集団を1モル(mol)と呼ぶ. 1 モル(mol) = 6.02 x 10 !" 4.分子量 ある物質 1 mol の質量(g). 5.比例 ある数字の増減に伴い,もう一方の数字が同じ比率(倍率)で変化する関係のこと. 例1 チョコレート 12 個入りの箱を 2 箱買うと,チョコレートは全部で 24 個買ったことになる. 箱が 2 倍になれば中身のチョコレートも 2 倍になる.これを数式で表すと, チョコレートの総数 = 1 箱中のチョコレートの個数(12個)x ! 1箱 例2

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基礎化学(化学計算)補講3 解答・解説

基礎力確認問題1 基本事項

以下の語句を説明せよ.

1.密度

ある物質または溶液などの混合物全体の体積 1cm3(mL,cc)あたりの質量(g)のことである.単位は

g/cm3を用いる.

例1

4˚C における純水 1mL の質量は 1g である.従って,水の密度は 1g/cm3である.

例2

常温で 10%食塩水(塩化ナトリウム水溶液:塩化ナトリウムと水の混合物)1mL の質量は 1.07g で

ある.従って,10%食塩水の密度は 1.07g/cm3である.

2.比重

ある物質または溶液などの混合物が同じ体積の水の質量の何倍の質量を持つかを示す値である.従っ

て,比重は以下のように計算される.

比重=その物質または溶液の密度 (!/!"!)

水の密度 (!/!"!)

水の密度は 1g/cm3であるから,結局,比重は密度の値と等しくなる.また,密度で密度を割るので,

単位の記号はつけない.

比重=その物質または溶液の密度 (!/!"!)

! (!/!"!)=その物質または溶液の密度の値

3.モル

炭素だけで構成される物質(黒鉛やダイヤモンド)12g に含まれる炭素原子の数は 6.02x10!"個(ア

ボガドロ定数)であり,その集団を1モル(mol)と呼ぶ.

1 モル(mol)=6.02x10!"個

4.分子量

ある物質 1mol の質量(g).

5.比例

ある数字の増減に伴い,もう一方の数字が同じ比率(倍率)で変化する関係のこと.

例1

チョコレート 12 個入りの箱を 2箱買うと,チョコレートは全部で 24 個買ったことになる.

箱が 2倍になれば中身のチョコレートも 2倍になる.これを数式で表すと,

チョコレートの総数=1 箱中のチョコレートの個数(12個)x!箱

1箱

例2

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200gが税込 258 円の豚肉を 400g 買うときの支払金額は 258 円の !"" !!"" !

=2 倍になるので,

258 円x2 倍=516 円となる.

例3

200gが税込 258 円の豚肉を 300g 買うときの支払金額は 258 円の !"" !!"" !

=1.5 倍になるので,

258 円x !"" !!"" !

倍=258 円x1.5 倍=387 円となる.

6.ある分子のモル,分子量および質量の関係

4.で規定したように,分子量とは「ある物質 1mol の質量(g)」である.従って,ある物質のその

時の質量(g)が分子量(g/mol)の何倍あるかを求めれば,その時のモル(mol)が求まる.

モル(mol)=質量(!)

分子量(!/!"#)

7.水和物

ある分子が一定の割合の水(結晶水)と複合体を形成し,存在していること.逆に水を含まない状態

を無水物と呼ぶ.

無水物 + 水 → 水和物

例:硫酸銅と硫酸銅五水和物

CuSO4 +5H2O → CuSO4•5H2O

硫酸銅または結晶水の量(質量やモル)と硫酸銅五水和物の量は比例関係にある.すなわち,硫酸銅

五水和物の量(質量やモル)が2倍になるとそれに含まれる硫酸銅の量も2倍になる.

8.質量百分率

溶液 100g に含まれるある物質(基質)の質量(g)であり,単位は%(g/100g)を用いる.

溶液=基質+溶質(溶媒)

塩酸溶液=塩化水素(溶質)+水(溶媒)

例1

食塩水 20g に塩化ナトリウムが 1g 溶けている溶液は

1gx!"" !!" !

=5%(g/100g)

例2

塩化ナトリウム 1g を 19g の水に溶かした溶液は

1gx!"" !

(! ! !") !=5%(g/100g)

CuSO4

H2O

CuSO4H2O

H2O

H2O

H2O

H2O H2O H2O

H2O

H2O

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例3

密度 1.07g/cm3の食塩水 94mL に 5g の塩化ナトリウムが溶けている溶液がある.

食塩水 94mL の質量は 1.07g/mLx94mL=100.58g であるから,その溶液の質量百分率は

5gx!"" !

!"".!" !=4.971≒4.97%(g/100g)

9.容量百分率

溶液 100mL に含まれるある物質(基質)の質量(g)であり,単位は w/v%(g/100mL)を用いる.

例1

食塩水 30mL に塩化ナトリウムが 1g 溶けている溶液は

1gx!"" !"!" !"

=3.333≒3.33w/v%(g/100mL)

例2

10%(g/100g)の食塩水の密度は 1.07g/cm3である.

食塩水 100mL の質量は 1.07g/cm3x100mL=107g

そのうちの 10%が塩化ナトリウムの質量なので,

107g(100mL の質量)x!" !!"" !

=10.7w/v%(g/100mL)

または

10gx!"# !!"" !

=10.7w/v%(g/100mL)

この計算を1つの式にまとめると,

1.07g/cm3x100mLx!" !!"" !

=10.7w/v%(g/100mL)

となる.

10.モル濃度

溶液 1000mL(1L)に含まれるある物質(基質)のモル数(mol)であり,単位はmol/L を用いる.

例1

食塩水 30mL に塩化ナトリウムが 1g 溶けている溶液がある.

この溶液 1000mL(1L)に溶けている塩化ナトリウムは

1gx!""" !"!" !"

=33.33≒33.3(g/L)である.

6.で示したように

モル(mol)=質量(!)

分子量(!/!"#) 塩化ナトリウムの分子量:NaCl=23+35.5=58.5g/mol

であるから,

!!.! !/!!".! !/!"#

=0.56920.569mol/L

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11.中和

反応する者同士(Aと B)が完全に反応し,活性を失うこと.

A(活性)+ B(活性) = AB

①酸−塩基反応

②酸化−還元反応

A と B が完全に反応した時を中和点という.中和点においては酸[H+]のモルと塩基としての能力(モ

ルに換算)が等しくなる.

プロトン(H+)を1個遊離するものを1価の酸という.

例:塩酸,硝酸,酢酸

プロトン(H+)を2個遊離するものを2価の酸という.

例:硫酸,炭酸

プロトン(H+)を3個遊離するものを3価の酸という.

例:リン酸,クエン酸

プロトン(H+)を1個中和するものを1価の塩基という.

例:水酸化ナトリウム,アンモニア

プロトン(H+)を2個中和するものを2価の塩基という.

例:水酸化カルシウム,炭酸ナトリウム

プロトン(H+)を3個中和するものを3価の塩基という.

例:リン酸ナトリウム(K3PO4)

塩酸と水酸化ナトリウム

HCl+NaOH→NaCl+H2O

1mol1mol1mol1mol

1mol(HCl)=1mol(NaOH)中和の式

例2

硫酸(2価の酸)と水酸化ナトリウム

H2SO4 +2NaOH→ Na2SO4+2H2O

1molx2 価 2mol 1mol2mol

1molx2 価(H2SO4)=2molx1 価(NaOH)中和の式

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練習問題

1.以下の記号の表す単位の大きさの順に並べ,それぞれ 10 の何乗を示すか書け.

K(キロ),µ(マイクロ),p(ピコ),m(ミリ),d(デシ),c(センチ),n(ナノ)

K(103),d(10-1),c(10-2),m(10-3),µ(10-6),n(10-9),p(10-12)

2.1モルの水の質量を求めよ.ただし,原子量を H=1,O=16 として計算せよ.

1モルの水の質量=水の分子量

H2O=1x2+16=18g

3.1.3g の水の体積(mL)を求めよ.

水の密度が 1g/cm3であることから,1.3g の水は 1.3mL である.

4.10%の食塩水 100mL に含まれる塩化ナトリウムの質量(g)を求めよ.ただし,10%食塩水の密

度を 1.07g/cm3として計算せよ.

1.07g/mLx100mLx!" !!"" !

=10.7g

5.10%の食塩水の容量百分率を求めよ.ただし,10%食塩水の密度を 1.07g/cm3として計算せよ.

10%の食塩水 100mL に含まれる塩化ナトリウムの質量(g)=10%の食塩水の容量百分率

であるから,4.と同じ解答となる.

∴10.7w/v%(g/100mL)

6.10%の食塩水のモル濃度を求めよ.ただし,原子量を Na=23,Cl=35.5 として計算せよ.

モル濃度は 1L(1000mL)中の NaCl のモル数であるから

1.07g/mLx1000mLx!" !!"" !

=107g/L

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モル(mol)=質量(!)

分子量(!/!"#) 塩化ナトリウムの分子量:NaCl=23+35.5=58.5g/mol

であるから,

!"# !/!!".! (!/!"#)

=1.829≒1.83mol/L

この計算を1つの式にまとめると,

!.!" !/!" ! !""" !" ! !" !!"" !

!".! (!/!"#)=1.829≒1.83mol/Lとなる.

7.1mol/L の塩酸 25mL を中和するのに必要な 0.2mol/L 水酸化ナトリウム溶液の体積(mL)を求

めよ.

塩酸側(1 価の酸) 水酸化ナトリウム側(1価の塩基)

1mol/Lx!" !"!""" !"

x1 価=0.2mol/Lx! !"

!""" !" x1 価

v=125mL

8.0.5mol/L の酢酸溶液 12mL を中和するのに必要な 10%水酸化ナトリウム溶液の体積(mL)を求

めよ.ただし,10%水酸化ナトリウム溶液の密度を 1.10g/cm3とし,原子量を Na=23,O=16,H=

1 として計算せよ.

酢酸側(1 価の酸) 水酸化ナトリウム側(1価の塩基)

0.5mol/Lx!" !"!""" !"

x1 価=!.!" !/!"! ! !""" !" ! !" !

!"" !

!" !/!"#x

! !"!""" !"

x1 価

v=125mL

9.0.1mol/L のシュウ酸[(CO2H)2]15mL を中和するのに必要な 10%水酸化ナトリウム溶液の体積(mL)

を求めよ.ただし,10%水酸化ナトリウム溶液の密度を 1.10g/cm3とし,原子量を Na=23,O=16,

H=1 として計算せよ.

シュウ酸側(2価の酸)水酸化ナトリウム側(1価の塩基)

0.1mol/Lx!" !"!""" !"

x2 価 =!.!" !/!"! ! !""" !" ! !" !

!"" !

!" !/!"#x

! !"!""" !"

x1 価

v=1.090≒1.09mL

10.0.1g のシュウ酸を水に溶かし,全量を 20mL にした溶液を中和するのに必要な 10%水酸化ナ

トリウム溶液の体積(mL)を求めよ.ただし,10%水酸化ナトリウム溶液の密度を 1.10g/cm3とし,

原子量を Na=23,O=16,H=1 として計算せよ.

分子量:(COOH)2=(12+16x2+1)x2=90

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シュウ酸側(2価の酸)水酸化ナトリウム側(1価の塩基)

!.! !

!" !/!"#x2 価 =

!.!" !/!"! ! !""" !" ! !" !!"" !

!" !/!"#x

! !"!""" !"

x1 価

v=0.8080≒0.808mL