定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行...

4
平成 29 年 6 月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 ☎ 03-5390-7447 A4625 定番教材で「考え、議論する道徳」を この資料は,平成30年度小学校教 科書の内容解説資料として,一般社 団法人教科書協会「教科書発行者 行動規範」に則っております。

Transcript of 定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行...

Page 1: 定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 03-5390-7447 A4625 定番教材で「考え、議論する道徳」を

平成29年6月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 ☎03-5390-7447 

A4625

定番教材で「考え、議論する道徳」を

この資料は,平成30年度小学校教科書の内容解説資料として,一般社団法人教科書協会「教科書発行者行動規範」に則っております。

Page 2: 定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 03-5390-7447 A4625 定番教材で「考え、議論する道徳」を

 �んとうに楽しみにしているんだ。ジュニアバンドは、中町小のみんなをいつも元

気にしてくれるからね。今日は、りょう太さんのはじめてのえんそう会だね。さ

あ、がんばって

 山口さんはそう言うと、またいすをていねいにふき始めました。

 「ジュニアバンドのえんそうが、中町小のみんなを

元気にしてくれる。」と聞いて、なんだかとてもうれし

くなりました。そして、ぼくたちのえんそうを楽しみ

にしているみんなの顔を思い出すと、「中町小学校」

というシャツのむねのししゅうが、急にほこらしく思

えてきました。ぼくはししゅうにそっと手をおいて、

(ファンファーレの音が町中じ

ゅう

にとどきますように。)

とねがいながら、一つ大きなしんこきゅうをしました。

 すみきった秋の空に、子ども祭りの始まりをつげる

ファンファーレの音が高らかにひびきわたりました。

。」

むねのししゅうにそっと手をおきながら、

「ぼく」はどんなことを思ったでしょう。

あなたの学校で、これからも大切にしていきたい

もの、つづけていきたいことは、なんですか。

家族のこと

 

どう思っている?

問題を見つけて

考える

 さっきおやつ食べたから、

ごはん、いらない。

 何度も言わないでよ、

今やろうと思ってたのに。

 ゲームほしいな……。

買って、買って!

102103

510

定番教材とは

 定番教材とは、これまで多くの会社の道徳副読

本に掲載され、親しまれている共通の教材です。

 「お母さんのせいきゅう書」は、作:グルエン

ブルグ、訳:上村哲弥の[『牧師ヒュー・テー・

ケル博士の児童説教』(先進社)「ブラッドレーの

せいきゅう書」]からの作品で、東京書籍も副読

本で長年掲載し、多くの先生方に支持されてきた

教材です。

考え、議論する道徳

 「考え、議論する道徳」の具体的な指導方法の

ひとつが「問題解決的な学習」です。

 東京書籍『新しい道徳』では、従来の読み物教

材、定番教材を活用して問題解決的な学習に取り

組みます。

 次のページから、定番教材「お母さんのせいき

ゅう書」の実際の教科書紙面をご紹介します。

つながる道徳

 これまでの道徳が積み上げてきた歴史、そして

実践してこられた先生方のご経験を活かしなが

ら、考え、議論していく、これからの道徳へ。東

京書籍『新しい道徳』がつなぎます。

定番教材で「考え、議論する道徳」を

授業のはじめ、この「とびらページ」で子供たちは問題意識を深めていきます。写真とイラスト、そして「はっ」とする言葉で、子供たちは様々な想像と思考をめぐらせていきます。

平成30年度小学校教科書 

東京書籍『新しいどうとく』4年 

P103

Page 3: 定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 03-5390-7447 A4625 定番教材で「考え、議論する道徳」を

 読み終わったお母さんは、にっこりわらって

たかしを見ました。

 お昼の食事のときになって、お母さんは、た

かしのお皿のわきに、五百円をおきました。た

かしはそれを見て、うれしくなりました。

 ところが、お金といっしょに、小さな紙切れ

がのっていました。たかしが取り上げてみると、

それは、お母さんからのせいきゅう書でした。

それには、次のように書かれていました。

5

お母か

さんのせいきゅう書

家族ときょうりょくして

24 ある日曜日の朝、たかしが、二階の

部へ

屋や

からおりてきて、朝食のテーブル

についたときのことです。たかしは、

お母さんのお皿の横に、ていねいにた

たんだ一まいの紙切れをおきました。

 お母さんは、それを開いてみました。

 たかしは、その様子をじっと見てい

ました。

 お母さんは、はじめ、少しふしぎそ

うな顔をしましたが、すぐもとのやさ

しい顔にもどって、それをくり返して

読みました。

 たかしのおいた紙は、次のようなせ

いきゅう書だったのです。

家族との生活で大切なことは,どんなことでしょうか。考えながら

読もう

104105

510

「考えながら読もう」や、教材文、イラストを通して、子供たちは、お母さんやたかしの気持ち・考えについて、たっぷりと想像していきます。

子供たちは、発言したいという思いが高まっていきます。先生は、子供たちをじらしながら、次のページを開かせます。

Page 4: 定番教材で「考え、議論する道徳」を - Tokyo Shoseki...平成29年6月発行 東京書籍株式会社 関東第一支社 03-5390-7447 A4625 定番教材で「考え、議論する道徳」を

 ゆうきは小学校四年生、地いきのサッカーチームに入ってがんばっています。も

くひょうにしているせんぱいは六年生のまことさんです。まことさんはふだんは口

数が少なくひかえめですが、サッカーとなるとプレーがせいかくでスピードがあり、

チームの中心の一ひ

とり人

です。

 ある土曜日の午後、いつもの小学校でしあい形式の

練習をしていたときのことでした。まことさんが、一い

郎ろう

さんとはげしくぶつかって転びました。ゆうきははっ�

としましたが、まことさんはすぐ起き上がって、なに

ごともなかったように練習をつづけました。

 休けいの時間になって、一郎さんが、

「まこと、だいじょうぶ?」

と声をかけました。

「平気、平気。」

10

ゆうきの心配

思いやりの心

25 考えるステップ  一回、二回、……、たかしは何度もくり返して読み

ました。たかしの目には、しだいになみだがあふれて、

お母さんの書いた字がぼうっとかすんできました。

1 お母さんのせいきゅう書は, なぜ0円だったのでしょうか。

2 たかしは,お母さんの せいきゅう書をくり返し 読んだあと, お母さんにどんな 言葉をかけたでしょうか。

3 家族との生活で,あなたは どんなことを大切にしたいと 思いますか。

106107

5

 たかしは、はっとしました。

 一回、二回、……、たかしは何度もくり返して読みました。たかしの目

には、しだいになみだがあふれて、お母さんの書いた字がぼうっとかすん

参考 グルエンブルグ 作 上村哲弥 訳〔『牧師ヒュー・テー・ケル博士の児童説教』

(先進社)「ブラッドレーのせいきゅう書」による〕

お母さんは、どんな気持ちでせいきゅう書を書い

たと思いますか。

あなたは、家族の一ひとり人として、どんなことを心がけ、

どんなことをしていますか。

できました。

(ぼくは、自分のことしか考えずに、お母さんにせいきゅう書を出してし

まった。それなのにお母さんは……。)

 しばらくじっとしていたたかしは、お母さんのそばにかけよりました。

そして、さっき受け取ったばかりのお金を、お母さんの手にわたして言い

ました。

「お母さん、ごめんなさい。このお金は返します。そして、これからは、

せいきゅう書なんかなしで、なんでも手つだわせてください……。」

 高橋選手は言っています。

「わたしは、風を切って走

ることがただ気持ちよく

て、今まで走りつづけて

きました。今このしゅん

かんの気持ちよさを大切

にして、走りたいんです。」

 高橋選手は、どちらかといえば、ひかえ

めで、おとなしい子どもでした。中学生に

なってから陸上を始め、大学までつづけま

したが、大会ではなかなかよい記ろくを出

 二〇〇〇年(平へ

成せい

十二年)九月二十四日、高橋尚子選手は、シドニーオリンピッ

クで、日本の女子陸り

上じょう

で初は

の金メダリストになりました。

26

文 編へ

集しゅう委い

員いん

会かい

立 体イラスト

 とみや さなえ

いつかにじをかける〜高た

橋はし

尚なお

子こ

選せん

手しゅ

走ってきた道

104105

東京書籍 

道徳副読本4年「ゆたかな心で」より 

身近に感じる題名に

 

原題「ブラッドレーのせいきゅう書」

を「お母さんのせいきゅう書」と、あえ

て「お母さんの」とすることで、子供た

ちは教材文を身近に感じることができま

す。そして、子供たちは、教材文のたか

しとお母さんを自分と自分のお母さんに

重ね合わせながら、自分の考えをしっか

りともち、発表していきます。「お母さ

んは怒って0円と書いたのではないか」、

「お金をもらうつもりで、お母さんをし

ているのではないから」…。

 

教材文を身近に感じ、自分のお母さん

を思い浮かべたからこそ、多様な考えを

引き出すことができるのです。

 

また、たかしがお母さんにかけた言葉

も、自分のお母さんを思い浮かべ、自分

自身が自分のお母さんにかける言葉にな

っていきます。

 「考え、議論する道徳」では、教材文

を自分事として捉えさせることが重要で

す。題名を「お母さんの」としているの

は、自分事として捉えやすくするための

配慮といえます。

教材文の終え方の意図

 

今までの副読本では、お母さんからの

0円と書かれた「たかしさんへのせいき

ゅう書」を見たたかしが、「はっとした」

こと、深く反省している様子、お母さん

に駆け寄り言った言葉もはっきりと書か

れています。しかし、問題解決的な学習

の扱いとした今回の道徳の教科書では、

その部分を削除しました(左記参照)。

 

これは、子供たち自身が家族とはどう

いう存在かについて考え、自分ならお母

さんにどんな言葉をかけるだろうかをし

っかりと考えて発表させることを意図し

たものです。

ページの構成の工夫

 「お母さんのせいきゅう書」は、3ペ

ージの教材文です。見開きになっている

2ページに、たかしが書いた合計500

円の「お母さんへのせいきゅう書」と、

それを読んだお母さんの様子、昼食時に

お母さんが500円と一緒に小さな紙切

れをお皿の脇に置いたことが書かれてい

ます。そして、ページを1枚めくると、

お母さんからの「0円」と書かれた「た

かしさんへのせいきゅう書」が出てくる

という構成です。

 「お母さんからの請求書には、どんな

ことが書いてあるんだろう?」と思いな

がら、1ページをめくるその動作と少し

の時間が、子供たちの思考を促し想像を

駆り立てます。

 

そして、子供たちは、お母さんからの

請求書に0円と書かれていることを知

り、「どうしてだろう?」と問題意識を

もつのです。

 

このようなページの構成も、問題解決

的な学習を進めやすくするための工夫と

いえます。

 

たかしではなく、自分ならお母さんに

どんな声をかけるかを重視しているので

す。書く活動を取り入れるのもよいでし

ょう。十人十色、自分を振り返り、自分

の言葉で、自分なりに納得する言葉を選

びながら考えることが大事です。

 

東京書籍『新しい道徳』は、道徳的な

問題を主体的に考え、友達と話し合い、

その上で、自分が納得できる考え方や感

じ方をしっかりともつこと、正に「考え、

議論する道徳」を大切にしているのです。

すべて0円と書かれたお母さんからの「せいきゅう書」が出てきます。さあ、「考え、議論する道徳」の始まりです。「考えるステップ」に沿って、子供たちは自分の考えを発表していきます。

定番教材「お母さんのせいきゅう書」に込めた思い