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- 29 - 香川大学看護学雑誌 第 16 巻第 1 号,29-37,2012 〔報告〕 看護基礎教育における SST の効果とプログラムの検討 高山 蓮花 1 ,谷本 公重 1 ,笠井 勝代 2 ,森 津太子 3 1 香川大学医学部看護学科, 2 学校法人大麻学園四国医療専門学校, 3 放送大学大学院 Assessing the Effectiveness of Social Skills Training (SST) and Training Programs for Basic Nursing Eeducation Renka Takayama 1 , Kimie Tanimoto 1 , Katsuyo Kasai 2 , Tsutako Mori 3 1 School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University, 2 Shikoku Medical College, 3 The School of Graduate Studies,The Open University of Japan 要 旨 本研究の目的は,第 1 に,看護学生を対象とした社会的スキル・トレーニング(Social Skills Training; 以下 SST と表記) を実施し,社会的スキルの 3 か月後における学習効果を検討する.第 2 に,セッション毎の感想と演習評価から,SST の 効果とトレーニングプログラムの関係について検討することである.本研究では,社会的スキルの向上を目指した効果的 な教育プログラムの開発に向けて,看護学生 1 年生 24 名(男性 5 名 : 平均年齢 20.0 歳・女性 18 名:平均年齢 20.3 歳)を 対象に,13 セッションの SST を実施した.社会的スキルは,KiSS-18 を用いてセッション前と 3 か月後の評価を行った. その結果,社会的スキルの下位尺度である感情処理のスキル得点が上昇していた(p =.09).また,効果とプログラムの関 係では「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」と「アサーションスキル(I メッセージ・ポジティブ な言い換え)」の2つのプログラムで社会的スキル得点が上昇していた(F (1,18)=5.58, p <.05, F (1,20)=5.88,p <.05).感想 は,「初めての体験だった.自分の普段気づかずに過ごしている,何気ない場面を振り返ることができてとても勉強になっ た」や「怒りのコントロールがうまくなった気がする,他者とコミュニケーションをとる時に,勉強したのだからと自信 が持てるようになった」等であった.以上から,SST は看護基礎教育における社会的スキルの向上に効果的な教授モデル であり,非言語的コミュニケーションとアサーションスキルは,SST の効果的なプログラムであることが示唆された. キーワード:社会的スキル,社会的スキル・トレーニング,看護基礎教育,看護学生,KiSS-18 Summary This study first aimed to assess the educational effectiveness of Social Skills Training (SST) three months after it was provided to nursing students. Secondly, this study aimed to assess the effectiveness of training programs conducted during SST from students feedback for each session and their evaluation of the seminar. The SST executed in this study was comprised of 13 sessions, attended by 24 first-year nursing students (5 males: mean age 20.0 years; and 18 females: mean age 20.3 years). The purpose of the SST was to develop an effective educational program designed to improve social skills. The students' social skills were assessed using Kikuchi's Social Skill Scale (KiSS-18) before initiation of the sessions and three months after sessions were completed. Results revealed that students' scores related to emotional self-control, a subscale for assessing social skills, increased (p=.09). Regarding the effectiveness of each program, students' social skills scores increased after participating in the following two 連絡先:〒 761-0793 香川県木田郡三木町池戸 1750-1 香川大学医学部看護学科 高山 蓮花 Reprint requests to:Renka Takayama,School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University, 1750-1 Ikenobe,Miki- cho,Kita-gun,Kagawa 761-0793,Japan

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香大看学誌 第 16 巻第 1号(2012)

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香川大学看護学雑誌 第 16 巻第 1 号,29-37,2012

〔報告〕

看護基礎教育におけるSSTの効果とプログラムの検討

高山 蓮花 1,谷本 公重 1,笠井 勝代 2,森 津太子 3

1 香川大学医学部看護学科,2 学校法人大麻学園四国医療専門学校,3 放送大学大学院

Assessing the Effectiveness of Social Skills Training (SST) and Training Programs for Basic Nursing Eeducation

Renka Takayama1, Kimie Tanimoto1, Katsuyo Kasai2, Tsutako Mori3

1School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University, 2Shikoku Medical College,

3The School of Graduate Studies,The Open University of Japan

要 旨 本研究の目的は,第 1 に,看護学生を対象とした社会的スキル・トレーニング(Social Skills Training; 以下 SST と表記)を実施し,社会的スキルの 3 か月後における学習効果を検討する.第 2 に,セッション毎の感想と演習評価から,SST の効果とトレーニングプログラムの関係について検討することである.本研究では,社会的スキルの向上を目指した効果的な教育プログラムの開発に向けて,看護学生 1 年生 24 名(男性 5 名 : 平均年齢 20.0 歳・女性 18 名:平均年齢 20.3 歳)を対象に,13 セッションの SST を実施した.社会的スキルは,KiSS-18 を用いてセッション前と 3 か月後の評価を行った. その結果,社会的スキルの下位尺度である感情処理のスキル得点が上昇していた(p=.09).また,効果とプログラムの関係では「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」と「アサーションスキル(I メッセージ・ポジティブな言い換え)」の 2 つのプログラムで社会的スキル得点が上昇していた(F(1,18)=5.58, p<.05, F(1,20)=5.88,p<.05).感想は,「初めての体験だった.自分の普段気づかずに過ごしている,何気ない場面を振り返ることができてとても勉強になった」や「怒りのコントロールがうまくなった気がする,他者とコミュニケーションをとる時に,勉強したのだからと自信が持てるようになった」等であった.以上から,SST は看護基礎教育における社会的スキルの向上に効果的な教授モデルであり,非言語的コミュニケーションとアサーションスキルは,SST の効果的なプログラムであることが示唆された.

キーワード:社会的スキル,社会的スキル・トレーニング,看護基礎教育,看護学生,KiSS-18

Summary    This study first aimed to assess the educational effectiveness of Social Skills Training (SST) three months after it was provided to nursing students. Secondly, this study aimed to assess the effectiveness of training programs conducted during SST from students feedback for each session and their evaluation of the seminar. The SST executed in this study was comprised of 13 sessions, attended by 24 first-year nursing students (5 males: mean age 20.0 years; and 18 females: mean age 20.3 years). The purpose of the SST was to develop an effective educational program designed to improve social skills. The students' social skills were assessed using Kikuchi's Social Skill Scale (KiSS-18) before initiation of the sessions and three months after sessions were completed.    Results revealed that students' scores related to emotional self-control, a subscale for assessing social skills, increased (p=.09). Regarding the effectiveness of each program, students' social skills scores increased after participating in the following two

連絡先:〒 761-0793 香川県木田郡三木町池戸 1750-1 香川大学医学部看護学科 高山 蓮花Reprint requests to:Renka Takayama,School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University, 1750-1 Ikenobe,Miki-

cho,Kita-gun,Kagawa 761-0793,Japan

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programs: "An introduction to communication and non-verbal communication" and "Assertive communication skills (I-message and positive rephrasing)" (F (1, 18) = 5.58, p<.05, F (1, 20) = 5.88, p<.05). The students' feedback included comments, such as "This new experience prompted me to review issues in my daily life with a new perspective" and "It has helped me control my anger more effectively. With this knowledge, I can communicate with other people more confidently". Results of this survey suggest that SST is an effective teaching model in basic nursing education for improving social skills, and that programs focusing on non-verbal communication and assertive communication skills are effective in SST.

Key words: social skills, Social Skills Training, basic nursing education, nursing students, KiSS-18

はじめに

 看護は,多様な年齢層のさまざまな価値観をもつ人間を対象とした活動であり,対象者の不安や健康問題を把握し,解決に向けて対象者のアドヒアランスを高めるなど,対象者の奥深く関わっていく必要がある.Joyce Travelbee1)が,「看護は対人関係のプロセスである」と述べたように,看護実践においては良好な対人関係の形成が不可欠である.しかし,現代青年の対人関係能力は未熟な傾向にあり 2),看護学生の臨地実習における,コミュニケーションの未熟さや,良好な対人関係の形成困難が指摘されている 3).それゆえ看護基礎教育では,対人関係能力の効果的な教授モデル開発に向けて模索が続けられている 4,5). 対人関係能力を語る概念に「社会的スキル」がある.社会的スキルとは,「対人関係を円滑に運ぶための知識とそれに裏打ちされた具体的な技術やコツ」であり,社会的スキル・トレーニング(Social Skills Training;以下 SST と表記)は,適切で効果的且つ体系的に社会的スキルを教授する事を言う.SST は,社会的不適応者を対象とした「治療法」として,アサーショントレーニングや認知療法などの治療技法を組み合わせたトレーニング・パッケージとして発展した経緯がある.しかし,最近では社会的スキルの低下による不適応に対する「予防法」や,教育的見地からも適応され,幼児から老人に至るまで全ての対象に実践され 6,7),その学習効果についての報告は多くされている. 小,中,高校生に対する先行研究では,SST により,社会的スキルとともに自己効力感や自尊心の向上が見られたことが報告されている 8-10).看護基礎教育における研究では,社会的スキルが向上し,不快な情動は低減する効果が報告されている 5).また大学生を対象にした研究では, 3 か月後におけるシャイネス得点の減少と社会的スキル(非言語的表出)の上昇効果の持続が報告されている 11).ほかに振り返り項目を用いて,プログラムと効果の関連について検討を加えた研究では,社会的スキルの向上効果とともに,学習効果を左

右する因子として,参加者の意欲や構成,雰囲気の要因に加えプログラムの要因があげられている 12). 看護基礎教育においても,高い社会的スキルが看護学生の主体的学習能力を高め,臨地実習前のストレスを低減させることから,社会的スキルを高める具体的な教育プログラムについて検討する必要性が指摘されている 4,13).にもかかわらず社会的スキルを高めるための,SST の実践報告は上記の千葉 5)のみであり,長期効果について検討した研究は見当たらない. 研究者は,看護基礎教育における社会的スキルの効果的な教授モデルの開発に向けて,SST におけるプログラムと学習効果の関連について,トレーニングスキルの定着が見込まれる 3 か月後に検討することが望ましいと考えた.

目的

 第 1 に,看護学生を対象にコミュニケーション能力の向上を目指した SST を実施し,その前と 3 か月後の社会的スキルを測定することにより,SST の学習効果について検討する.第 2 に,セッション毎の感想と演習に対する評価から,社会的スキルにおける SSTの効果とプログラムの関係について検討する.

方法

1.対象 地方都市にある 4 年制看護専門学校に在籍する 1 年生 24 名

2.研究期間 2009 年 2 月 9 日~ 12 月 2 日

3.質問紙の構成1) 社 会 的 ス キ ル:KiSS-1814)(Kikuchi's Social Skill

Scale・18 項目版) この尺度は,菊池(1988)によって作成された.若

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者にとって必要な「基本的なスキル,高度なスキル,感情処理のスキル,攻撃に代わるスキル,ストレス処理のスキル,計画のスキル」の 6 種類の社会的スキルの要素を含んでおり,18 項目・5 段階評定で,得点が高いほど社会的スキルを身につけている程度が高いことを示す.またこの尺度は,Y-G 性格検査の,一般的活動性(r = .45),社会的外向性(r = .56)と正の相関があり,抑うつ傾向(r =- .35),回帰傾向(r =- .20),劣等感等(r =- .26)とは負の相関がある.ノンバーバル行動に関しても,読解化(r = .44),符号化(r = .38),感受性(r = .37),表出性(r = .36)と正の相関があり,他の社会的スキル尺度とも関連が高いことから,尺度としての構成概念妥当性が確認されている.また信頼性においても,α係数= .83 と高いことが確認されている 15,16).よって本研究では社会的スキル測定尺度として KiSS-18 を使用する.  KiSS-18 は,SST 開始前と全セッション終了 3 か月後の 2 回,集団回答・記名式で即時回収した.2)感想と演習評価 プログラムと学習効果の関連について検討を加えるにあたり,対象者の SST の受け入れや,取り組み,意欲などの把握が必要であると考えた.その為に,先行研究 12)にならい,各セッション終了時に,記名式で,自由記述の感想と演習評価(参加度・楽しさ・役に立ったか・うまくできたか,の 4 因子)を,10 段階で求めた.感想は 3 か月後にも記名式で提出を求めた.

4.分析方法 研究目的 1 の学習効果の検討には,SST 開始前と 3か月後における社会的スキル尺度得点について,対応のあるt 検定を行った. 研究目的 2 の学習効果とトレーニングプログラムの関係性の検討では,SST 参加者のプログラムへの取り組み度合いによる,社会的スキルの学習効果の関連を明らかにするために,各セッションの演習評価(4 因子)について,平均点を中心として,高群と 低群の二群に分けた.そして,演習評価(4 因子:高・低)×評定時期(前・3 か月後)の 2 要因の分散分析を行った.なお統計処理は,SPSS 14.0J(SPSS Japan Ins.)を利用した. セッション毎の感想は,内容に応じて研究者間で合意が得られた文脈について,意味ごとに分類し,類似するものをまとめてサブカテゴリーとし,さらにカテゴリーへと抽象化した.

5.倫理的配慮 施設には,研究実施の承認を得た.  

 対象者には,研究目的及び,得られたデータは個人が特定されないように処理し,研究のみに使用すること,結果は,個人を特定できないようにした上で学会発表すること等を説明した.また本 SST はカリキュラム外であり,評価対象外であるが,再度,成績には全く関係しないこと,研究への参加は対象者の自由意思とし,途中で辞退出来ること等の説明を行い,書面にて承諾を得た.なお回答率は 100% であった.

6.SST の内容 1 回 45 分のプログラム内容を 1 セッションとして,13 種類のプログラムの SST を実施した. 本研究で実施したプログラムを表 1 に示す. SST のトレーニング法は,社会的スキルのどの側面を対象にするかによって異なり,確立されたものは無い.しかし一般的には,「教示」「モデリング」「リハーサル」「フィードバック」「般化」の 5 つの基本的な技法を含んだ標準的な方法で実施される.「教示」とは,言葉を使って SST がなぜ必要なのかを手順とその効果を説明することにより,スキルの重要性に気付かせ,動機を高めることで,「モデリング」とは,トレーニングスキルの手本を示し,それを観察させ,模倣させることである.「リハーサル」とは,教示やモデリングで示した適切な反応を,自ら繰り返し練習させることであり,「フィードバック」とは,リハーサルで示した反応に対して,適切である場合には褒め,不適切である場合には修正を加えることを言う.また「般化」とは,トレーニングしたスキルが,トレーニング場面以外でも実践されるようにすることである 7).  プログラムの構成は,先行文献 12)を参考に,対人関係の前提となる人間観や倫理観を培い,自己理解・他者理解から難易度の高いスキルへと学習を進められるように順序だてた.また看護師を目指す対象者に対して,伝言ゲームや確認のスキル等をプログラムに加えることにより,医療ミスにつながるコミュニケーションエラーへの認識や学習意欲を高め,楽しみながら学習効果が得られるように独自に設定した. ガイダンスでは,資料集を配布し,SST の目的や方法の説明を行った.そして予定されているトレーニングスキルと,学生の「不足しているスキル」にズレがないかを確認した.また,「なりたい人間像」を各自が文字に著すことで具体化し,全員で共有することにより,問題意識を持たせて動機付けを行った. セッションは SST の実施方法にならい,資料を用いてプログラムのポイントと効果について,「なりたい自分」に重ねて説明(教示とモデリング)を行った.リハーサルでは常に巡回し,雰囲気を盛り上げ,発言

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表 1 各セッションにおけるプログラムと内容回 プログラム名 内容紹介1 1)ガイダンス

2)自己認知コミュニケーションの重要性 SST の目的を理解し,動機づけを高める .エゴグラムや自己表現タイプ他 4 心理尺度評定を通して「自分」を客観視することから,不足しているスキルを認知し,目標設定する .

2 他者理解クルーザー物語り

嵐で無人島に避難したクルーザー乗船員の物語から,登場人物の人間性の善悪について個人で順位付けを行った後に,グループで話し合い,再度順位付けをする .全体発表を通して,人間の考え方の多様性を理解し,他者を受容する必要性について学ぶ.

3 1)自分史2)ハインツのジレンマ

出生から今日までの自身の履歴を書き出す作業と発表を通して,多くの「お蔭さま」を再認識し,感謝の気持ちを育む.また生命尊重と法令順守を問う事例を通して深く考える機会を提供し,人間観や倫理観を培う.

4 1)挨拶2)自己紹介

(I am 5 連発)

挨拶スキルトレーニングの後,「されてうれしかった挨拶」について発表する .自分を表現するにふさわしい単語を I am ○○と入れ込む.5 つ作成する作業を通して,自身を内省し,発表を通して自己開示する.クラスメイトの未知なる一面を知り,心の距離が近づく.

5 コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション

コミュニケーションの基本学習の後,視線,表情,しぐさ,対人距離,タッチング等を通して,非言語コミュニケーションの存在を認識し,その重要性について理解する.講義 : おしゃれと身だしなみや,メール→電話→対面のコミュニケーションの相違と必要に応じて使い分ける必要性も理解する .

6 言語的コミュニケーション スピーチの基本(PREP 法)を学ぶ.上手に聴く,話す基本を理解し,スキルを身につける .7 コミュニケーションエラー

1)伝言ゲーム4 グループに分かれて,4 つの設問を用いて伝言ゲームをする .ゲームを通してコミュニケーションエラーを体験することで,言葉の伝わり方の不確かさや,人を介することのマイナス要素について再認識する.

8 コミュニケーションエラー2)5 つの輸・確認・褒める

白紙に○を 5 つ書くようにだけ教示した後,一斉に見せ合う.千差万別な結果から言葉から受けるイメージの多様性を体感する.徐々に説明文を増やし何度も見せ合う過程を通して,5W1H の必要性と確認の重要性を再認識する .ペアを変えながらお互いの良いところを褒めあう.各自褒められたことを記録し,発表する.上手な「褒め方」について意見を出し合う.褒められる喜びから,「承認」の重要性を認識し,上手な褒め方スキルを身につける .

9 アサーションスキル1)Iメッセージ

アサーティブな考えや,Iメッセージ,ポジティブな言い換えの基本パターンについて教示とモデリングを行う.例題を用いて個人ワークと発表を行う.あなたにも私にもちょうど良い視点の重要性を認識し,話し方のコツやスキルを身につける.

10 アサーションスキル2)謝罪・依頼・断る

アサーションスキルについて教示とモデリングする.例題を用いて個人ワーク後発表しあい,それらの会話パターンを理解し,スキルを身につける .ペアで共通点を探す.2 分間にいくつ探せるか競う.ゲーム感覚で互いに自己開示しあい他者理解につなげる.初対面で会話する場合の話題の見つけ方も学ぶ.

11 1)感情のコントロール2)丁寧語と尊敬語

資料を用いて,共感の仕方・感情のコントロール(怒りの抑え方)・自分から出る行動・誘う,などについて教示とモデリングの後にペア学習する.看護師として自分から出ることの重要性を認識し,スキルを理解する .例題を用いて日本語の正しい使い方を学習する.資料を用いて,立ち居振る舞いや避けたいしぐさなどについて理解する .

12 NASA 月で遭難した状況下で生存に必要なアイテムの順位付けを,個人でした後,グループで再度順位付けを行う.個人での判断とグループでの食い違いは,お互いが納得し,合意が得られるまで徹底的に話し合う.議論の中で,自分の意見を相手にうまく伝え,納得させるスキルについて体験学習する .

13 スピーチ 「死生観学習で一番心に残ったこと」について,1 分間で発表する.「聴き方や話し方」に留意し,心に残ったスピーチについて感想と意見を伝えあう.過不足なく話をまとめ,聴衆に自分の思いを解りやすく伝えるスキルを身につける.

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しやすい環境整備し,対象者個々に正のフィードバックを与えた.セッション終了時は,対象者に感想や意見を問いかけ,トレーニングの振り返りから個々の体験を全員で共有できるよう心がけた.また,学習したトレーニングスキルは積極的に活用すること(般化)と,資料集による予習・復習を促した.

結果

1.対象の属性 セッション参加者は 24 名で,男性 5 名(平均年齢 20.0 歳:SD2.2), 女 性 19 名( 平 均 年 齢 20.3 歳:SD3.5)であった.KiSS-18 及び各セッションの感想と演習評価の回収率は 100% であったが,KiSS-18 の分析においては,不備のあった 1 名を除き 23 名で行った.

2.SST の 3 か月後における学習効果 SST 開始前と,3 か月後の社会的スキルにおける,尺度得点(下位尺度含む)の平均値とp 値を表2に示す.  KiSS-18 得点の SST 開始前と 3 か月後について,

対応のあるt 検定を行った結果,有意差はなかった(p=.22).次に,社会的スキルの下位尺度を用いて,同じく対応のあるt 検定を行った.その結果,感情処理のスキル得点が上昇していた(p=.09). 3 か月後の感想は,「他者とコミュニケーションをとる時,勉強したのだからと自信が持てるようになった,周りの様子が気になって観るようになった,怒りのコントロールがうまくなった,断り方を気にするようになったがまだ上手くできない」などであった.

3.演習評価からみた効果とプログラムの関係 演習評価の平均値は,「参加度:8.2,楽しさ:7.7,役に立ったか:8.0,うまくできたか:7.2」と,相対的に高かった.演習評価(4 因子:高・低)×評定時期(前・3 か月後)の 2 要因の分散分析の結果,交互作用に有意差が見られたのは,セッション 5「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」の,

「参加度」(F(1,18)=5.58, p<.05)と,セッション 9「アサーションスキル」の「参加度」F(1,20)=5.88,p<.05)の 2 つであった.図 1,2 に示すように,セッション

表 2 開始前・3か月後のKiSS-18 尺度得点・下位尺度得点

心理尺度 SST 前平均(SD)

3か月後平均(SD) p 値

初歩的なスキル高度なスキル感情処理のスキル攻撃に代わるスキルストレスを処理するスキル計画のスキル

社会的スキル(KiSS-18)

8.969.448.698.249.089.13

53.52

(1.11)(1.10)(1.06)(1.01)(1.00)(0.96)

(11.08)

9.099.569.268.879.179.04

55.00

(1.19)(1.41)(1.07)(1.00)(0.90)(0.99)

(10.54)

0.780.620.090.110.780.85

0.22対応のあるt 検定

図 1 5セッション(参加度)におけるKiss-18 尺度得点の変化

図 2 9セッション(参加度)におけるKiss-18 尺度得点の変化

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5 と,9 の「参加度」高群の KiSS-18 得点は,3 か月後に増加し,低群の KiSS-18 得点は 3 か月後に減少する結果であった. 表 3 に示すように,感想は,『セッション評価』『自己・他者理解』『スキルや知識の獲得』『意識・行動変容』の 4 つにカテゴリー化された.『セッション評価』は,

「楽しさ」「難しさ」「役立ち」「気づき」のサブカテゴリーから,『自己・他者理解』は,「省察」「自己理解」「他者理解」「他者受容」のサブカテゴリーから,『スキルや知識の獲得』は「体験」「知識やスキル」「理解」のサブカテゴリーから,また『意識・行動変容』は「意識変容」「行動変容」のサブカテゴリーからカテゴリー化された.

考察

 本研究では,第 1 に,看護学生を対象にコミュニケーション能力の向上を目指した SST を実施し,SST 実施前と 3 か月後の社会的スキルを測定することにより,SST の学習効果について検討した.第 2 に,セッション毎の感想と演習に対する評価から,社会的スキルにおける SST の効果とプログラムの関係について検討した.

1.SST の 3 か月後における学習効果 KiSS-18 得点は,SST 前が 53.52, 3 か月後は 55.00 と微増したものの,統計学的に明らかな上昇効果はなかった.しかし,下位尺度の感情処理のスキル得点が上昇していた.  感情処理のスキルは 3 つの設問で構成され,相手の

「怒り」や自分の「恐怖心」を処理するスキルや,自身の感情の表出に対するスキルについて問うたものである.プログラムにおいて,感情処理のスキルに関連が大きいと考えられるのは,第 9,10 アサーションスキルと 11 感情のコントロールである.対象者は 3 か月後の感想において,「自分を客観的に見られるようになったと思う,怒りのコントロールがうまくなった気がする,他人とより良い関係を築きやすくなったと思う」と述べており,アサーションスキルの獲得により,自分の感情を相手にうまく伝えられるようになったことが,感情処理のスキルに向上効果をもたらしたと考える.  基本的に社会的スキルを高めることは,「いつも」の気づきから始まるとされる 10)が,対象者はセッション毎の感想において,「初めての体験だった.自分の普段気づかずに過ごしている,何気ない場面を振り返ることができてとても勉強になった」と述べている.

また,SST には,トレーニングに参加すること自体が,心理教育として社会的スキルに働きかける意義があり10),自分自身のソーシャルスキルや対人関係のスタイルを見直すこと自体にも,認知的な効用がある 11).対象者は「自分のことを振り返って考えることができた,自分のことを改めて知った」と省察し,自己理解していた.また 3 か月後には「自分を客観的に見られるようになった,自分の言葉使いや行動を考えて言う(する)ようになった」など, SST に参加することが自分自身の対人関係のスタイルを見直すきっかけとなり,行動変容につながる効果が示唆された.

2.感想と演習評価からみた効果とプログラムの関係 本研究では,振り返り項目の高・低群と評定時期から,SST の学習効果について,KiSS-18 得点をもとに検討した.その結果,社会的スキルの向上効果が示唆されたのは,セッション 5「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」とセッション 9「アサーションスキル」の 2 つのプログラムであった. 初めに,セッション 5 の「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」プログラムにおける学習効果ついて考察する. ここでは対象者が非言語的コミュニケーションの存在に気付き,その重要性を認識することを目的とした.コミュニケーション全体において,「言語」が占める割合は単に 5 ~ 7%に過ぎず,40% が話の間の取りかた等の「準言語」であり,残り 55% が「非言語的」とされる 17).すなわちコミュニケーションの半分以上が非言語的であり,その重要性を教示したセッションに意欲的に参加し,非言語スキルを身に付けた対象者の社会的スキルが向上したことは,納得のいく結果と言える.加えて非言語的コミュニケーションスキルは,効果的で適切に他者と相互作用する力で,様々なスキルを統合する「社会的コンピテンス」に特に影響を及ぼすスキルとされる 18)ことからも,非言語的コミュニケーションプログラムに意欲的に参加し,非言語的コミュニケーションスキルを獲得した対象者の社会的スキルに,向上が見られた本研究結果は理にかなう.  このセッションにおける感想では,「非言語チャネルが言語チャネルより意味が多くて大事だということが分かった,非言語的態度に気をつけなければならないと思った」と意識変容が示唆された.非言語的コミュニケーションスキルは,主に自己を対象とするものであり,自身が意識して他者と接することで般化が容易なスキルであったと考えるが,3 か月後の感想では「身だしなみを気にするようになった,相手の目を見て話すようになった,会話をする時に身体の動きを少し入

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表 3 感想カテゴリー

サブカテゴリ コード

セッション評価

楽しさ

楽しかった面白かった良かった

難しさ

自分のことを他人に伝えるのは難しい5連発は意外と難しかった人を「褒める」のは難しかった

役立ち

役に立ったとても勉強になった自分の目指す人間像がより具体的になった

気づき

初めての体験だった,実体験は大切だと思うきちんと自己実現のための想像をする事が大切だと思った誰かの助けを受けて生きているということを改めて感じた自己効力感は確かに人間の中にあると思ったもっと考え,観察をしっかりすることで視野が広がると感じた非言語的コミュニケーションに服装も入ることに驚いた相手の話をちゃんと聞くことは大切だと改めて感じた他のグループの意見を聴いて感心した性別関係なく共通点を探すことで人とつながれると実感した人を褒めることは良いことだと思う褒める事は相手を良く見ていたり一緒にいるからできるアサーティブなコミュニケーションは大切だと思った目指す人間像に近づく為にどうしたらよいかを考えられた話しているうちにいろんなことが考えられるようになった

自己・他者理解

省察

自分のことを振り返って考えることができた自身を客観的に考察することができた思い出を思い返すだけで心が休まったりするんだと分かった辛いことを忘れてよい思い出を覚えておくことができてなかった自分だけの感情を一方的に話していると気づいた自分が知人をどう思っているかを改めて知った謝る行為に慣れていないと気づけた自分が自己中なのが分かった私は人間としてまだまだ未熟だ自分について好きな項目があまりなかった自分はきちんとできていたか不安になった

自己理解

まず自分を知ることが大切だと感じた自分の事は知っているようで意外と気づかない自分のことを改めて知った自分を見つめなおして自分のことが分かった気がする自分はこんな人間だったと自分について少し理解できた自分の特徴が良く分かった今の自分はこうなんだと思った

他者理解

みんな個々に違ういろんな性格の人がいる人によって感じ方が違う人によってこんなに考え方が違うことが分かって驚いた人によって思い出は様々で色々なことがあるんだと思ったみんなのことも新しく知ることができたみんなの良い所が分かったみんなの意外なところが分かった

他者受容

互いに認め合う事が大切人の言っていることや表現していることを見て,聴いて学ぼうと思った他人の意見を聴くことで視野が広がると思った自分の考えだけでなく違う考えを聞く事は大切だと思った

カテゴリー

サブカテゴリ コード

スキルや知識の獲得

体験

いろんなことを思い出すことができた辛い時に支えてくれた人も沢山いたことを思い出した色々な意見が聞けた相手の態度によって嫌な気まずい空気を体験した相手に体を向けることや相づちがとても大事なことを体験した相手の立場を考えながら主張しポジティブに言い換える練習ができた人を褒めることで気分が良くなった人に褒められて元気になった上手に相手に伝えても違ったことが伝わる事を体験した

学習した知識やスキル

コミュニケーションには様々な要素があることが分かった対人関係にコツがあることを学んだ人とうまく付き合うには知識や技術が必要だと分かった自分の態度でコミュニケーションは決まることが分かった非言語が言語より多くて大事だということが分かった身だしなみとおしゃれの違いが理解できたお互い確認しあうことが大切だと分かった褒める手順が分かった依頼する方法が分かった断るときに代替案を出すことが大切だと分かった謝る時にどのように謝ればいいのか分かった自分の主張を聞いてもらうには工夫が必要だと分かった正しいと思っていた日本語が間違っていることに気づいた

理解

人の命が何より大切だと分かったいろんな人に支えられていることが良く分かった自分だけでなく,相手を思いやる気持ちが大切だと分かった人を褒めることがいかに大切かが分かった自分から声をかける必要性を理解したコミュニケーションは大事,これからどうすればよいのかが分かった

意識・行動変容

意識変容

この授業で初対面の人ともっと多く話せたらいいなと思った自分の意見をみんなに伝えようという気持ちが現れた今回できなかったことを次回に生かそうと思った自分の態度を改めるべきだと思った非言語的態度に気をつけなければならないと思った相手の気持ちを理解し,他人に優しい人になりたいこれから相手の話を聞くときは「聴き方」に気をつけたい勝手に自分で判断してしまうので気をつけたい細かい説明をつい省きがちになるので注意したいこれからはみんなの良いところをたくさん見つけて褒めるようにしたいアグレッシブな態度をとることもあるので気をつけたいアサーティブなスタイルになれるようにしたい相手に自分の思いや気持ちが伝えられるように気をつけたい相手に「ノー」というスキルは必要だと思う.このスキルを活用したい断る場合は,他の案を出して相手を傷つけないようにしたい肘を突く,腕を組む癖があるので,気をつけたい

「人の振り見て我が振りなおせ」実行したい学んだことを活かしたい,習ったことを実行していきたい

行動変容

自分を客観的に見られるようになった自分の言葉使いや行動を考えて言う(する)ようになった身だしなみを気にするようになった,挨拶するようになった初対面の人にも自分から声をかけるようにしている相手の話を遮らず目を見て話すようになった自分の話ばかりをしなくなった会話をする時に身体の動きを少し入れるようになった怒りのコントロールがうまくなった断り方を気にするようになった周りの様子が気になって観るようになった相手が困っている時に手助けするようになったコミュニケーション時,勉強したのだからと自信が持てるようになった他人とより良い関係を築きやすくなったと思う

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れるようになった」などの行動変容が見られた.以上から SST における「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」のプログラムは,意欲的に参加することにより,社会的スキルの向上効果が期待できる効果的なプログラムであると考える. 次に,セッション 9 の「アサーションスキル」プログラムにおける学習効果について考察する. KiSS-18 得点における SST の 3 か月後の学習効果は,感情処理のスキル得点の上昇であった.考察 1 で述べたように,このスキル得点の上昇には,アサーション・スキルプログラムの影響が大きいと考えられる.ここでは,アグレッシブ(攻撃的),ノン・アサーティブ

(非主張的),アサーティブ(主張的)の 3 つの自己表現スタイルの概要とともに,相手の権利を侵害しないで自分が本当に言いたいことを相手に分かるように伝えるスキルや,プラスに言い換える方法について学んだ.このスキルは,主に自己を対象とする態度や信念といったスキルであるため,会話のスタンスとステップを理解することにより般化が容易なスキルであった.そのため意欲的にこのプログラムに参加した者は,対人関係において「自分も相手も大切にした自己表現」ができるようになり,その結果社会的スキルの向上につながったと推察する. また,SST の原型はアサーショントレーニングと言われており 7),アサーションスキルは社会的スキルの基本と言える.前述のように社会的スキルが平均以下であった対象者は,アサーションスキルも低く,効果が発現しやすかったと考える.対象者は,セッションの感想において「アグレッシブな態度をとることもあるので気をつけたい,アサーティブなスタイルになれるようにしたい,相手に“ノー”というスキルは必要だと思う,このスキルを活用したい」と意識変容し,3 か月後には「自分の話ばかりをしなくなった,怒りのコントロールがうまくなった,断り方を気にするようになったがまだ上手くできない」などの行動変容につなげていた.  「自分も相手も大切にした自己表現」は対人関係の基本であるが,メッセージを適切に送信する人は上手く相手のメッセージを読み取ることもできる 2).また社会的スキルが高い人は適切に対人関係を形成できることから,対人接触の機会も多く,そのことがさらにスキルの向上効果をもたらす結果につながる.わずかながらも本 SST において 3 か月後の持続効果が確認できた意義は大きい.

結論

 本研究では看護学生を対象に, 13 種類のプログラムの SST を実施し,社会的スキルの 3 か月後における効果を検討した.また,感想と演習評価から,効果とプログラムの関係について検討した.その結果,社会的スキルの下位尺度である感情処理のスキル得点が上昇した.効果とプログラムの関係では,「コミュニケーションとは・非言語的コミュニケーション」と「アサーションスキル」の 2 つのプログラムにおいて,意欲的に参加した者に社会的スキルの向上効果があった. 感想は,『セッション評価』『自己・他者理解』『スキルや知識の獲得』『意識・行動変容』の 4 つにカテゴリー化された.『セッション評価』は,「楽しさ」「難しさ」「役立ち」「気づき」のサブカテゴリーから,また『自己・他者理解』は,「省察」「自己理解」「他者理解」

「他者受容」のサブカテゴリーから,『スキルや知識の獲得』は「体験」「知識やスキル」「理解」のサブカテゴリーから,さらに『意識・行動変容』は「意識変容」

「行動変容」のサブカテゴリーからカテゴリー化された.対象者は SST に参加することにより,自分自身を振り返り,自己・他者理解をし,獲得した社会的スキルの知識から意識変容を遂げていた.また,3 か月後には行動変容を遂げていた. 以上から,SST は看護基礎教育における社会的スキルの養成に効果的な教授モデルであり,非言語的コミュニケーションとアサーションスキルは,SST の効果的なプログラムであることが示唆された.

本研究の限界と今後の課題

 本研究では終了時の学習効果ではなく,スキルの般化測定が可能な,SST 終了後 3 か月時点における学習効果に着目したため,終了時と 3 か月後の効果の比較ができなかった.また,対象が学生だったことにより ,回答にある程度のバイアスがかかった点も否めない.今後の課題は,研究対象者や効果測定法を拡充し,妥当性の更なる検証を進めるとともに,SST の実施時期と効果性の検討やフォローアップセッション実施による有効性について検討することである.

謝辞

 本研究にご協力いただきました皆様に心から感謝いたします.

 この論文は,放送大学大学院修士論文の一部を加筆修正したも

のであり,第 41 回日本看護学会学術集会において発表しました.

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