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東北大学大学院工学研究科化学工学専攻 〒9808579 仙台市青葉区荒巻字青葉07Department of Chemical Engineering, School of Engineering, Tohoku University, Aoba-yama 07, Sendai 9808579, Japan(E-mail: nonaka@pse.che.tohoku.ac.jp)
Fig. 1 Fluidization of a bed of solid particles (Polystyrenebeads).
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日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001 (197204)
原著論文
固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響
野中 利之・鈴木 睦
EŠect of Gravity-level on Fluidization Characteristicsof a Bed of Solid Particles
Toshiyuki NONAKA and Mutsumi SUZUKI
Abstract
Fluidized bed has been widely used in many processes of petroleum, chemical and electric-power industries. In thebed, solid particles are ‰uidized by the ‰ow of gas or/and liquid. The ‰ow patterns in the bed are strongly aŠected bygravity-levels against drag forces. Minimum velocity for ‰uidization is one of the basic hydrodynamic characteristics ofthe bed. The behavior of a ‰uidized bed under various gravity-levels was observed using our high-gravity generator (1~10 0). The eŠect of gravity-level on minimum ‰uidization velocity of a two-dimensional gas-solid ‰uidized bed was in-vestigated. The experimental results were compared with previous works under normal gravity-level. For some kinds ofparticles categorized in group-A of the Geldart map under normal gravity-level, the values of minimum ‰uidizationvelocity approached those of minimum bubbling ‰uidization velocity as gravity level was higher. The experimental dataof minimum ‰uidization velocity versus gravity-level (4.8<Ar<875) was in good agreement with the correlations whichhave been proposed for the data under normal gravity-level.
. は じ め に
固体粒子を充填した固定層(静止状態の固体粒子層)に
おいて,層の下部から流体(気・液体)を流通させてゆく
と,ある流量以上にて固体粒子層の粒子は装置内を浮遊懸
濁し,あたかも流体のように振る舞う.このような固体粒
子層の状態は,流動化状態1)と呼ばれる.流動化状態で
は,液体の沸騰現象のごとく固体粒子層の中を気泡が上昇
する挙動(Fig. 1 参照)が観察される.
流動層は,流動化状態を利用した装置であり,固体粒子
を流体のように取り扱えるため,粒子のハンドリングが比
較的容易に行えること,層内の有効熱伝導度が高いため発
熱反応を行っても Hotspot が生じず層内温度を均一に保持
できること,等の利点がある.よって,石油の接触分解,
石炭燃焼ボイラーや粉粒体乾燥装置,バイオリアクター
等,工業的に幅広い分野において利用されている24).
さらに,宇宙環境下での流動層の利用を目指した研究も
行われている.例えば,月の表面土に豊富に含まれるイル
メナイト鉱石を流動層内で還元反応させ,月面で水を化学
合成するプロセスが検討されており5),航空機(KC135)
による低重力(1/6 G, G=9.80 m/sec2)環境下での流動化
状態が観察されている.微小重力環境下においても,遠心
流動層の利用を提案した研究6)や流動層のみかけ粘度を測
定した研究7)が報告されている.
固体粒子層の流動化のみならず,粉体輸送,混合等にお
ける粒子の流動挙動は,重力に大きく影響される.しか
し,連続の式や Navier-Stokes の式が適用できる流体解析
の場合とは異なり,理論式および物性値だけを用いた固体
粒子の流動解析は一般的に容易ではなく,現実的には既往
の実験に基づく経験的な相関式等を導入せざるを得ない場
合が多い.それゆえ,地上以外の重力環境での挙動を把握
するためには,その重力環境における実験を欠かせない.
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Fig. 2 Two-dimensional gas-solid ‰uidized bed.
Fig. 3 Experimental apparatus.
Table 1 Physical properties of particles used
Particles rp[kg・m-3]
dp[m]
Glass 2.50×103 1.12×10-4
7.79×10-5
5.81×10-5
Acrylic 1.32×103 6.39×10-5
4.67×10-5
Polystyrene 1.06×103 6.17×10-5
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しかし,気液二相流等の多相系流体挙動の研究と比較する
と,宇宙環境を想定した固体粒子の流動挙動に関する既往
の報告は少なく,工業技術院北海道工業技術研究所による
一連の研究8)が特筆されるにすぎない.
空気中の固体粒子には,重力の他に付着力(分子間力・
毛管力・静電気力)が作用し,粒子の流動や固定層の構造
(粒子の充填状態)に影響を及ぼす9).よって,地上重力,
微小重力に加えて,重力加速度をパラメータとした低・高
重力環境下の実験を行えば,重力の影響の他に,付着力の
影響を間接的に評価できると考えられる.この観点で,地
上重力環境下で構築されてきた粉体工学・流動層工学を見
直すことは,宇宙環境下の粉体技術の基盤を構成するうえ
でも重要である.
本報では,可変重力環境下における固体粒子の流動化に
及ぼす重力の影響について,特に最小流動化速度と重力レ
ベルの関係に焦点をあて,回転式高重力場発生装置10)を用
いて観察し,地上重力環境を対象とした既往の理論を再検
討した.
. 実 験
. 二次元流動層
固体粒子層の流動化の挙動を観察するため,常温常圧の
コールドモデルとして二次元固気流動層を使用した.Fig.
2 に二次元流動層本体の概略図を示す.本体はアクリル樹
脂で,本体上部が流動観察部,下部が整流部である.流動
観察部の断面形状は矩形(横幅100 mm,奥行10 mm)で
あり,流動化のための固体粒子が固定層(静止状態の固体
粒子層)として約 7 cm の高さまで充填される.流動観察
部の上部は,固体粒子の飛出しを防止するための金網を通
して外気と接触している.また,流動観察部の内壁には静
電気の発生を防止するための帯電防止剤が塗布されている.
本体下部の整流部は,流路長を確保するため,L 字型と
なっており,ガラスビーズ(径 1 mm)が整流を目的とし
て充填される.流動化のための流体(気体)は,2 本のパ
イプを通して外部から供給される.
流動観察部と整流部は,分散板とフランジにより接続さ
れ,シリコンゴムシートが漏れ防止のために挟まれてい
る.分散板は,流体の整流ならびに粒子層の落下防止のた
めのもので,ブロンズ製焼結板(SMC 社,厚さ 3 mm,
公称ろ過精度20 mm)を用いた.
. 流動化実験装置
Fig. 3 に測定系も含めた流動化実験装置の概略図を示
す.流動化のための気体は,ガスボンベからマスフローコ
ントローラ(STEC 社,SEC400MK3)にて所定の流量
に調整され,流動層本体下部の整流部に供給される.
固体粒子層の圧力損失は,整流部および流動観察部上部
の圧力タップに接続された差圧型の圧力トランスデュー
サー(コパル電子社,P3000S501D02)によって測定さ
れる.また,固体粒子層の流動化状態は小型 CCD カメラ
(ELMO 社,MN401)を用いて観察した.実験条件は,
常温常圧である.
. 固体粒子・気体
流動化実験に使用した固体粒子を Table 1 に示す.ガラ
スビーズは,トウシン理工社製である.アクリル粒子およ
びポリスチレン粒子は,綜研化学社製(MR, SGP タイプ)
である.
各粒子の粒子径は,光学顕微鏡(オリンパス社,CK2
TRC2)およびプロジェクタ(ニコン社,Model6C)よ
り光学的に測定した.各粒子の粒子径分布を Fig. 4 に示
す.計測個数は,いずれも500個である.平均粒子径 dp
[m]の算出には,体面積平均径を用いた.なお,観察結果
から,いずれの粒子も形状が球形であった.各固体粒子の
密度 rp[kg/m3]は,液体置換法により測定した.
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Fig. 4 Particle size distributions.
Fig. 5 Geldart map.
Fig. 6 Typical ‰uidization curves (glass beads, dp=112 mm, 10).
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固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響
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流動化のための気体には窒素を使用した.
. Geldart マップによる流動化特性の分類
Fig. 5 に Geldart マップ11)を示す.このマップは,平均
粒子径と粒子―流体間の密度差をパラメータとし,地上重
力環境下,常温常圧における固体粒子層の流動化特性を分
類したものである.rf[kg/m3]は,流体(窒素ガス)の密
度である.本実験で使用した粒子を同図中にプロットする
と,グループ A, B に分類される.
一般にグループ A に分類される粒子は,流動開始後に
あるガス流量まで粒子層が均一に膨張し(均一流動化),
さらにガス流量が増加すると粒子層内に気泡の発生(気泡
流動化)が観察される.一方,グループ B に分類される
粒子は,流動開始後での粒子層の膨張がほとんどみられず
(均一流動化状態が存在しない),ただちに気泡流動化状態
となる.よって,最小流動化速度と気泡流動化状態の開始
速度(最小気泡流動化速度)がほぼ等しくなる.
. 最小流動化速度・最小気泡流動化速度の測定
固体粒子層を気体が通過して生じる圧力損失 DP[Pa]と
ガス流量(空塔速度 u[m/sec]基準)の関係の例(地上重
力環境,ガラスビーズ,平均粒子径112 mm)を Fig. 6 に
示す.空塔速度は,ガス流量を装置断面積で除して求めら
れる空塔基準のガス流速である.静止状態の固体粒子層で
は,粒子の間隙を通過する気体の流量増加につれて圧力損
失も増加する.あるガス流量にて,固体粒子層の重量と圧
力損失が釣り合うと,固体粒子層は流動化(層膨張・気泡
発生)状態に遷移し,それ以上のガス流量で圧力損失はほ
ぼ一定の値を示す.
最小流動化速度 umf[m/sec]は,固体粒子層をあらかじ
め流動化させた後に,ガス流量を徐々に減少させて圧力損
失を測定し,圧力損失と空塔速度の両対数グラフの折点に
おける空塔速度から求めた.最小気泡流動化速度 umb[m/
sec]は,層高が小さくガス流量を増加させた場合の層膨張
率の正確な測定が容易でないため,ガス流量を徐々に減少
させた場合の粒子層表面の流動状態を観察し,表面流動が
静止状態となる空塔速度から求めた.
. 空隙率の測定
層高 L[m]は,流動層本体に貼りつけたスケールの値を
ビデオ画像から読み取り,左右の高さを平均して算出し
た.空隙率 e[-]は,次式を用いて求めた.
rp(1-e)=WAL
(1)
ここで,W[kg], A[m2]は,それぞれ固体粒子層全体の
質量,断面積(100 mm×10 mm)である.
. 高重力実験
Fig. 3 に示した実験装置を研究室所蔵の回転式高重力場
発生装置10)に搭載し,高重力(1~10 G)環境下での固体
粒子層の流動化実験を行った.
回転式高重力場発生装置では,アーム(全長1.8 m)の
両端に試料室およびカウンターウエイトが取りつけられて
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いる.アームが回転すると,試料室とカウンターウエイト
は,遠心力によって外側に振り出されるため,地上重力と
遠心力の合力が試料室の底面に垂直に作用し,人工的な高
重力環境が試料室内に実現される.
なお,窒素ガスは,マスフローコントローラを経由し
て,回転式高重力場発生装置の外部から供給される.圧力
損失の電圧信号は,回転軸上部に取りつけられたスリップ
リング(明清電気社,3TB q50 8P)を通して測定される.
固体粒子層の流動化挙動は,トランスミッター(SANKO
社,UHF wireless TV, SX200DX)を用いて,高重力場発
生装置外部に設置された TV モニターからリアルタイムで
観察可能である.よって,最小流動化速度・最小気泡流動
化速度は,地上における操作手順と同様に流動状態を観察
しながら測定した.
. 結果および考察
. 最小流動化速度に及ぼす重力の影響
.. 既往の最小流動化速度の推算式
最小流動化速度の推算式は,粒子層を通過する圧力損失
DP[Pa]と重力との釣り合いに基づき導出される12).流動
化開始状態では,次式が成り立つ.
DPLmf
=(1-emf)(rp-rf) (2)
ここで,emf[-], Lmf[m]は,それぞれ最小流動化時に
おける空隙率,層高である.最小流動化速度の推算は,圧
力損失を表す式の選択と最小流動化時における空隙率の評
価に帰着され,最小流動化速度 umf における Reynolds 数
Remf[-]と重力加速度 [m/sec2]を含む Archimedes 数 Ar
[-]の関係を表す式となる.各無次元数は,次式で定義
される.
Remf=dprfumf
mAr=
d 3prf(rp-rf)
m2 (3)
m[Pa・s]は,気体(窒素ガス)の粘度である.
Wen-Yu の式13),Nakamura の式14)
Archimedes 数に関係なく空隙率 emf を一定とする式であ
り,圧力損失式に Ergun の式を使用する場合,
DPLmf
=1-emf
qsdpe3mf (150
(1-emf)mumf
qsdp+1.75rfu2
mf) (4)
より,次式が導出される.ここで,qs[-]は,粒子の形
状係数である.
1.75qse3
mfRe2mf+
150(1-emf)
qs2e3
mfRemf=Ar (5)
Wen13)らは,emf, qs を含む項に対して,種々の固体粒子
に対する流動化実験の結果から次の相関式を得た.
1qse3
mf=14
(1-emf)
qs2e3
mf=11 (6)
以上から,Wen-Yu の式が導出される.
Remf= (33.7)2+0.0408Ar-33.7 (7)
また,Nakamura14)らは,球形粒子(qs=1)に対し,実
験結果から最小流動化時の空隙率 emf を評価し次式を得た.
Remf= (33.95)2+0.0465Ar-33.95 (8)
粘性支配領域(Ar<1.9×104)では,Re2mf の項を無視で
きる15)ので次式となる.
Remf=Ar/1650 (Wen-Yu の式) (9)
Remf=Ar/1460 (Nakamura の式) (10)
Chen-Pei の式16)
Chen ら16)は,小粒子径の固体粒子(2<Ar<2×104)に
対して次の相関式を得た.
qs2e2
mf
1-emf=0.54Ar-0.11 (11)
また,Ergun の式中の流速 umf の 2 乗項を無視した圧力
損失式(Blake-Kozeny の式)から次式が導出される.
Remf=e3
mf
150(1-emf)Ar (12)
(11)式から emf を求めると Remf を得る.
Leva の式17)
Ergun の式の代わりに,Fanning 型の式18)を用いると次
式を得る.
2f′(rfu2mf
dp )(1-emf
qs )3-n′1
e3mf=(1-emf)(rp-rf) (13)
ここで,f′[-], n′[-]はそれぞれ摩擦係数および指数
である.Leva は Re<10の領域で次式を用いた17).
f′=100Remf
n′=1.0 (14)
よって,次式が成り立つ.
Remf=qs
2e3mf
200(1-emf)Ar (15)
Leva17)は,既往の流動化実験の結果から,Remf<5 の領
域での相関式を求め,次式を得た.
qs2e3
mf
200(1-emf)=0.0007Re-0.063
mf (16)
Remf=(0.0007Re-0.063mf )Ar (17)
Leva の式は,Ar 数の小さい領域で Wen-Yu の式よりも
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Fig. 7 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.
Fig. 8 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.
Fig. 9 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.
Fig. 10 Relationship between Remf and Cmf(=Remf/Ar) undervarious gravity-levels.
Fig. 11 Relationship between Remf and Cmf(=Remf/Ar) undervarious gravity-levels.
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固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響
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高精度であることが報告されている19).
.. 実測値との比較
Figs. 7, 8, 9 に可変(地上・高)重力環境下での各固体
粒子層の最小流動化速度の実測値と推算式による予測値を
示す.横軸,縦軸は,それぞれ重力レベル(1~10 G)お
よび最小流動化速度を変数とする無次元数(Archimedes
数,Reynolds 数)で図示した.
実測値(4.8<Ar<875)は推算式の適用範囲に含まれて
おり,Nakamura の式,Leva の式の推算値が良好である
ことがわかった.
Remf の推算精度は,emf の推算精度に帰着される.既往
の地上重力環境下における Cmf(≡Remf/Ar)の実測値17,20)
(0.001<Remf<1)は,5~15×10-4 の範囲内で,ばらつき
ながら低下する.可変重力環境下での実測値を Figs. 10,
11 に示す.両対数グラフ中の Cmf と Remf の関係を最小自
乗法を用いて決定すると次式が得られる.
Cmf=5.7×10-4 Re-0.109mf (18)
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Fig. 12 Relationship among umf, umb and Ar under variousgravity-levels.
Fig. 13 Relationship among emg, emb and Ar under variousgravity-levels.
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この式は,地上重力環境下の Leva 式や白井の結果20)
(Cmf=6.05×10-4 Re-0.0625mf , Remf<1)に近い.また,Figs.
10, 11の Cmf のばらつきを考えると,本実験範囲に限れば
地上重力環境下の式をそのまま可変重力環境下に対しても
適用できると判断される.
. 高重力環境下における流動化特性の遷移(グルー
プ A から B の遷移)
.. Geldart マップによるグループ A から B の遷
移11)
Geldart マップ(Fig. 5)の縦軸である粒子・流体間の
密度差は,流体に対する粒子の浮力の効果を表す.ゆえ
に,重力環境が異なれば,固体粒子は別のグループに遷移
することが考えられる.
Geldart11)は,グループ A と B の遷移条件として最小気
泡流動化速度 umb[m/sec]の推算式
umb=kmbdp (19)
(ここで,kmb=100[1/sec])と最小流動化速度 umf の推算式
umf=d 2
p(rp-rf)
1250 mair(20)
を等値(umb=umf)し,さらに地上の重力加速度と空気の
粘度 mair[Pa・s]の物性値を代入し,
r(rp-rf)dp=0.22[kg/m2] (21)
ここで,r=/G である.
グループ A と B の領域を分割する境界線( r=1,Fig.
5 実線)とした.
(21)式の境界線を判定基準とすると,グループ A のア
クリル粒子(平均径47,64 mm),ポリスチレン粒子(平
均径62 mm),ガラスビーズ(平均径58,78 mm)の粒子層
は,それぞれ3.6, 2.6, 3.4, 1.5, 1.1 G 以上の重力レベルで
グループ B の領域への遷移が予想される.
.. 実測値(流動化速度・空隙率)との比較
可変(地上・高)重力環境下での各粒子層の最小流動化
速度 umf,最小気泡流動化速度 umb の実測値を Fig. 12に示
す.また,Fig. 13に最小気泡流動化時の空隙率 emf,最小
気泡流動化時の空隙率 emb の実測値を示す.グループ B
(平均径112 mm)の粒子も含め,ガラスビーズの umb は,1
~2 G で umf よりもわずかに高く,3~4 G 以上でほぼ等し
い値となっている.なお,ガラスビーズの emb,emf は,お
互い良く一致しており,粒径および重力レベルによる違い
もほとんど見られない.ポリスチレン粒子の umb は,1~2
G で umf よりもかなり高いが,重力レベルの増加とともに
接近し,5 G 以上でわずかに高めだがほぼ等しくなってい
る.ポリスチレン粒子の emb と emf の関係は,umb と umf の
関係と同様な傾向を示し,6 G 以上で emf の値がほぼ一定
になっている.アクリル粒子は,重力レベルに関係なく
umb が umf よりも高めの値になっている.アクリル粒子の
emb と emf の関係も umb と umf の関係と同様な傾向を示すが,
emf の値はそれぞれ 5 G(平均径47 mm),3 G(平均径64
mm)以上でほぼ一定になっている.
ガラスビーズやポリスチレン粒子の実測値に対するグ
ループ A から B の遷移条件(umb≒umf)は,Geldart によ
るグループ A, B の境界線から予測される結果に定性的に
一致する.アクリル粒子の umb が umf に接近しないのは,
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Fig. 14 Relationship among ue, ue and Ar under variousgravity-levels.
Fig. 15 Relationship among ue, ue and Ar under variousgravity-levels.
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部分流動化状態21)に起因していると考えられる.なお,
emf がほぼ一定値を示す領域で比較すると,アクリル粒子
も境界線による予測値と定性的に一致している.高重力実
験(1~10 G)の範囲が狭く,Geldart マップのグループ
A, B の境界線自身もおおまかな基準であるが,本実験に
限れば(21)式は可変重力環境下にも適用できると判断され
る.
.. Foscolo らの物理モデルによるグループ A から
B の遷移22)
Foscolo ら22)は,均一流動化状態の粒子層(粒径均一)
に対して,粒子間に作用する力(浮力・抗力)をスプリン
グで表現した 1 次元モデルを考え,層内を伝播する 2 つの
波の伝播速度の大小関係からグループ A, B の境界条件の
式に相当する式を得た.
粒子間の相互作用の伝播速度として,弾性波の伝播速度
ue[m/sec]は,次式
ue= &p/&rb (22)
で与えられる.ここで,rb [kg/m3], p [Pa]は,それぞれ
層の密度,粒子層底部に作用する圧力である.層内の 1 粒
子に作用する力 F[Pa]を用いると,次式が成り立つ.
dp=NsdF/A (23)
Ns は,層底部の粒子数であり,次式で与えた.
Ns=4(1-e)A
pd 2p
(24)
よって,ue は,
ue=4(1-e)A
pd 2p
&F&rb
(25)
となる.F, rb は,それぞれ次式で与えた.
F=Fdt(uut)
4.8/n
e-3.8-pd 3
p
6(rp-rf)e (26)
rb=(1-e)rp (27)
ここで,ut [m/sec], Fdt [N], n [-]は,それぞれ単一粒
子の終末速度,ut における抗力,Richardson-Zaki の式(u
=uten)の指数である.また,次の関係を用いると,ue が
得られる.
&F&rb
=&F&e/
&e&rb
(28)
ue= 3.2dp(1-e)rp-rf
rp(29)
粒子層中を空隙率の変動が伝播する速度 ue[m/sec]は,
次式となる.
ue=(1-e)&u&e
(30)
Richardson-Zaki の式を代入すると,ue が得られる.
ue=nut(1-e)en-1 (31)
彼らは,ue が ue よりも速い場合,空隙率の不均一性が
気泡となって気泡流動状態が発生すると考えた.ue, ue の
値自身は,最小流動化速度 umf には直接関係しない.しか
し,Geldart マップにおけるグループ B の粒子層では,最
小流動化(e=emf)直後に気泡流動化状態となるので,ue
>ue の関係が成り立つ.一方,グループ A の粒子層の最
小流動化状態では,気泡が発生しないので,ue<ue となる.
.. 実測値(流動化速度・空隙率)との比較
可変重力環境下,最小流動化時における伝播速度 ue, ue
を重力レベルを横軸として Figs. 14, 15に示す.ここで,
終末速度 ut は,Reynolds 数に応じて,Stokes, Allen の式
から算出した.指数 n については,球形粒子に対する相関
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式23)として,
n=5.1+0.28Ret0.9
1+0.10Ret0.9(32)
で与えた(Ret は終末速度 ut における Reynolds 数であ
る).また,最小流動化時の空隙率 emf は Fig. 13の実測値
を用いた.
アクリル粒子(平均径64 mm),ガラスビーズ(平均径
112, 78 mm)の粒子層は,1 0 でも ue が ue よりも大きい.
アクリル粒子(平均径47 mm),ポリスチレン粒子,ガラ
スビーズ(平均径58 mm)の粒子層は,それぞれ 3~4,4
~5,1 G 以上の重力レベルで ue>ue となり,グループ B
の領域に遷移することが予想される.
この結果を最小流動化速度 umf・最小気泡流動化速度
umb,最小流動化 emf・最小気泡流動化時の空隙率 emb, Gel-
dart マップの A, B 粒子の境界線,それぞれに及ぼす重力
の関係と比較すると,ガラスビーズはやや低い値となる
が,ポリスチレン粒子の値はいずれも良く一致する.アク
リル粒子(平均径47 mm)の A, B 粒子の境界線と ue>ue
の判定基準も一致するが,部分流動化によって emf の値が
高いため,emf の実測値がほぼ一定となる領域の値と比較
すると Foscolo らの理論値は低くなる.以上の結果から,
定性的ではあるが Foscolo らの理論による(29),(31)式に
よって高重力環境下におけるグループ B への遷移を表現
できることがわかる.
. 結 言
本報では,可変(地上・高)重力環境における固体粒子
層の流動化現象に及ぼす重力の影響について実験的に検討
した.
高重力発生装置を使用して,最小流動化速度を測定し
た.地上重力環境下で提案された既往の推算式が高重力環
境下にも拡張できることがわかった.また,地上での流動
化特性を示す Geldart マップや Foscolo-Gibilaro 理論が高
重力環境下にも拡張できることがわかった.
可変重力環境下における固体粒子層の挙動を定量的に解
析するためには,特に最小流動化領域における粒子層の膨
張挙動に注目した系統的な研究が必要である.定常的な微
小・低重力環境下での実験は,膨張等の挙動が顕著になる
ため,現象解明に有用な知見が得られると期待される.こ
れについては今後の検討課題としたい.
謝辞
実験装置の製作には,虎岩正直氏(東北大学工学部化
学・バイオ系学科木工場)の御協力を得た.流動化実験で
は,中尾整氏(東北大学大学院工学研究科,現在は積水化
学工業株),野村忠史氏(東北大学工学部,現在は日本化
学工業株)の助力を得た.ここに記して謝意を表す.
参 考 文 献
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(年月日受理,年月日採録)