固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響 - JASMA...―197 ― 71...

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71 197 東北大学大学院工学研究科化学工学専攻 980 8579 仙台市青葉区荒巻字青葉07 Department of Chemical Engineering, School of Engineering, Tohoku University, Aoba-yama 07, Sendai 980 8579, Japan (E-mail: nonakapse.che.tohoku.ac.jp) Fig. 1 Fluidization of a bed of solid particles (Polystyrene beads). 71 197 日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001 (197 204) 原著論文 固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響 野中 利之・鈴木 EŠect of Gravity-level on Fluidization Characteristics of a Bed of Solid Particles Toshiyuki NONAKA and Mutsumi SUZUKI Abstract Fluidized bed has been widely used in many processes of petroleum, chemical and electric-power industries. In the bed, solid particles are ‰uidized by the ‰ow of gas or/and liquid. The ‰ow patterns in the bed are strongly aŠected by gravity-levels against drag forces. Minimum velocity for ‰uidization is one of the basic hydrodynamic characteristics of the bed. The behavior of a ‰uidized bed under various gravity-levels was observed using our high-gravity generator (110 0 ). The eŠect of gravity-level on minimum ‰uidization velocity of a two-dimensional gas-solid ‰uidized bed was in- vestigated. The experimental results were compared with previous works under normal gravity-level. For some kinds of particles categorized in group-A of the Geldart map under normal gravity-level, the values of minimum ‰uidization velocity approached those of minimum bubbling ‰uidization velocity as gravity level was higher. The experimental data of minimum ‰uidization velocity versus gravity-level (4.8Ar875) was in good agreement with the correlations which have been proposed for the data under normal gravity-level. . はじめに 固体粒子を充填した固定層(静止状態の固体粒子層)に おいて,層の下部から流体(気・液体)を流通させてゆく と,ある流量以上にて固体粒子層の粒子は装置内を浮遊懸 濁し,あたかも流体のように振る舞う.このような固体粒 子層の状態は,流動化状態 1) と呼ばれる.流動化状態で は,液体の沸騰現象のごとく固体粒子層の中を気泡が上昇 する挙動(Fig. 1 参照)が観察される. 流動層は,流動化状態を利用した装置であり,固体粒子 を流体のように取り扱えるため,粒子のハンドリングが比 較的容易に行えること,層内の有効熱伝導度が高いため発 熱反応を行っても Hotspot が生じず層内温度を均一に保持 できること,等の利点がある.よって,石油の接触分解, 石炭燃焼ボイラーや粉粒体乾燥装置,バイオリアクター 等,工業的に幅広い分野において利用されている 2 4) さらに,宇宙環境下での流動層の利用を目指した研究も 行われている.例えば,月の表面土に豊富に含まれるイル メナイト鉱石を流動層内で還元反応させ,月面で水を化学 合成するプロセスが検討されており 5) ,航空機(KC 135による低重力(1/6 G, G9.80 m/sec 2 )環境下での流動化 状態が観察されている.微小重力環境下においても,遠心 流動層の利用を提案した研究 6) や流動層のみかけ粘度を測 定した研究 7) が報告されている. 固体粒子層の流動化のみならず,粉体輸送,混合等にお ける粒子の流動挙動は,重力に大きく影響される.しか し,連続の式や Navier-Stokes の式が適用できる流体解析 の場合とは異なり,理論式および物性値だけを用いた固体 粒子の流動解析は一般的に容易ではなく,現実的には既往 の実験に基づく経験的な相関式等を導入せざるを得ない場 合が多い.それゆえ,地上以外の重力環境での挙動を把握 するためには,その重力環境における実験を欠かせない.

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東北大学大学院工学研究科化学工学専攻 〒9808579 仙台市青葉区荒巻字青葉07Department of Chemical Engineering, School of Engineering, Tohoku University, Aoba-yama 07, Sendai 9808579, Japan(E-mail: nonaka@pse.che.tohoku.ac.jp)

Fig. 1 Fluidization of a bed of solid particles (Polystyrenebeads).

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日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001 (197204)

原著論文

固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響

野中 利之・鈴木 睦

EŠect of Gravity-level on Fluidization Characteristicsof a Bed of Solid Particles

Toshiyuki NONAKA and Mutsumi SUZUKI

Abstract

Fluidized bed has been widely used in many processes of petroleum, chemical and electric-power industries. In thebed, solid particles are ‰uidized by the ‰ow of gas or/and liquid. The ‰ow patterns in the bed are strongly aŠected bygravity-levels against drag forces. Minimum velocity for ‰uidization is one of the basic hydrodynamic characteristics ofthe bed. The behavior of a ‰uidized bed under various gravity-levels was observed using our high-gravity generator (1~10 0). The eŠect of gravity-level on minimum ‰uidization velocity of a two-dimensional gas-solid ‰uidized bed was in-vestigated. The experimental results were compared with previous works under normal gravity-level. For some kinds ofparticles categorized in group-A of the Geldart map under normal gravity-level, the values of minimum ‰uidizationvelocity approached those of minimum bubbling ‰uidization velocity as gravity level was higher. The experimental dataof minimum ‰uidization velocity versus gravity-level (4.8<Ar<875) was in good agreement with the correlations whichhave been proposed for the data under normal gravity-level.

. は じ め に

固体粒子を充填した固定層(静止状態の固体粒子層)に

おいて,層の下部から流体(気・液体)を流通させてゆく

と,ある流量以上にて固体粒子層の粒子は装置内を浮遊懸

濁し,あたかも流体のように振る舞う.このような固体粒

子層の状態は,流動化状態1)と呼ばれる.流動化状態で

は,液体の沸騰現象のごとく固体粒子層の中を気泡が上昇

する挙動(Fig. 1 参照)が観察される.

流動層は,流動化状態を利用した装置であり,固体粒子

を流体のように取り扱えるため,粒子のハンドリングが比

較的容易に行えること,層内の有効熱伝導度が高いため発

熱反応を行っても Hotspot が生じず層内温度を均一に保持

できること,等の利点がある.よって,石油の接触分解,

石炭燃焼ボイラーや粉粒体乾燥装置,バイオリアクター

等,工業的に幅広い分野において利用されている24).

さらに,宇宙環境下での流動層の利用を目指した研究も

行われている.例えば,月の表面土に豊富に含まれるイル

メナイト鉱石を流動層内で還元反応させ,月面で水を化学

合成するプロセスが検討されており5),航空機(KC135)

による低重力(1/6 G, G=9.80 m/sec2)環境下での流動化

状態が観察されている.微小重力環境下においても,遠心

流動層の利用を提案した研究6)や流動層のみかけ粘度を測

定した研究7)が報告されている.

固体粒子層の流動化のみならず,粉体輸送,混合等にお

ける粒子の流動挙動は,重力に大きく影響される.しか

し,連続の式や Navier-Stokes の式が適用できる流体解析

の場合とは異なり,理論式および物性値だけを用いた固体

粒子の流動解析は一般的に容易ではなく,現実的には既往

の実験に基づく経験的な相関式等を導入せざるを得ない場

合が多い.それゆえ,地上以外の重力環境での挙動を把握

するためには,その重力環境における実験を欠かせない.

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Fig. 2 Two-dimensional gas-solid ‰uidized bed.

Fig. 3 Experimental apparatus.

Table 1 Physical properties of particles used

Particles rp[kg・m-3]

dp[m]

Glass 2.50×103 1.12×10-4

7.79×10-5

5.81×10-5

Acrylic 1.32×103 6.39×10-5

4.67×10-5

Polystyrene 1.06×103 6.17×10-5

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野中 利之・鈴木 睦

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

しかし,気液二相流等の多相系流体挙動の研究と比較する

と,宇宙環境を想定した固体粒子の流動挙動に関する既往

の報告は少なく,工業技術院北海道工業技術研究所による

一連の研究8)が特筆されるにすぎない.

空気中の固体粒子には,重力の他に付着力(分子間力・

毛管力・静電気力)が作用し,粒子の流動や固定層の構造

(粒子の充填状態)に影響を及ぼす9).よって,地上重力,

微小重力に加えて,重力加速度をパラメータとした低・高

重力環境下の実験を行えば,重力の影響の他に,付着力の

影響を間接的に評価できると考えられる.この観点で,地

上重力環境下で構築されてきた粉体工学・流動層工学を見

直すことは,宇宙環境下の粉体技術の基盤を構成するうえ

でも重要である.

本報では,可変重力環境下における固体粒子の流動化に

及ぼす重力の影響について,特に最小流動化速度と重力レ

ベルの関係に焦点をあて,回転式高重力場発生装置10)を用

いて観察し,地上重力環境を対象とした既往の理論を再検

討した.

. 実 験

. 二次元流動層

固体粒子層の流動化の挙動を観察するため,常温常圧の

コールドモデルとして二次元固気流動層を使用した.Fig.

2 に二次元流動層本体の概略図を示す.本体はアクリル樹

脂で,本体上部が流動観察部,下部が整流部である.流動

観察部の断面形状は矩形(横幅100 mm,奥行10 mm)で

あり,流動化のための固体粒子が固定層(静止状態の固体

粒子層)として約 7 cm の高さまで充填される.流動観察

部の上部は,固体粒子の飛出しを防止するための金網を通

して外気と接触している.また,流動観察部の内壁には静

電気の発生を防止するための帯電防止剤が塗布されている.

本体下部の整流部は,流路長を確保するため,L 字型と

なっており,ガラスビーズ(径 1 mm)が整流を目的とし

て充填される.流動化のための流体(気体)は,2 本のパ

イプを通して外部から供給される.

流動観察部と整流部は,分散板とフランジにより接続さ

れ,シリコンゴムシートが漏れ防止のために挟まれてい

る.分散板は,流体の整流ならびに粒子層の落下防止のた

めのもので,ブロンズ製焼結板(SMC 社,厚さ 3 mm,

公称ろ過精度20 mm)を用いた.

. 流動化実験装置

Fig. 3 に測定系も含めた流動化実験装置の概略図を示

す.流動化のための気体は,ガスボンベからマスフローコ

ントローラ(STEC 社,SEC400MK3)にて所定の流量

に調整され,流動層本体下部の整流部に供給される.

固体粒子層の圧力損失は,整流部および流動観察部上部

の圧力タップに接続された差圧型の圧力トランスデュー

サー(コパル電子社,P3000S501D02)によって測定さ

れる.また,固体粒子層の流動化状態は小型 CCD カメラ

(ELMO 社,MN401)を用いて観察した.実験条件は,

常温常圧である.

. 固体粒子・気体

流動化実験に使用した固体粒子を Table 1 に示す.ガラ

スビーズは,トウシン理工社製である.アクリル粒子およ

びポリスチレン粒子は,綜研化学社製(MR, SGP タイプ)

である.

各粒子の粒子径は,光学顕微鏡(オリンパス社,CK2

TRC2)およびプロジェクタ(ニコン社,Model6C)よ

り光学的に測定した.各粒子の粒子径分布を Fig. 4 に示

す.計測個数は,いずれも500個である.平均粒子径 dp

[m]の算出には,体面積平均径を用いた.なお,観察結果

から,いずれの粒子も形状が球形であった.各固体粒子の

密度 rp[kg/m3]は,液体置換法により測定した.

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Fig. 4 Particle size distributions.

Fig. 5 Geldart map.

Fig. 6 Typical ‰uidization curves (glass beads, dp=112 mm, 10).

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固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

流動化のための気体には窒素を使用した.

. Geldart マップによる流動化特性の分類

Fig. 5 に Geldart マップ11)を示す.このマップは,平均

粒子径と粒子―流体間の密度差をパラメータとし,地上重

力環境下,常温常圧における固体粒子層の流動化特性を分

類したものである.rf[kg/m3]は,流体(窒素ガス)の密

度である.本実験で使用した粒子を同図中にプロットする

と,グループ A, B に分類される.

一般にグループ A に分類される粒子は,流動開始後に

あるガス流量まで粒子層が均一に膨張し(均一流動化),

さらにガス流量が増加すると粒子層内に気泡の発生(気泡

流動化)が観察される.一方,グループ B に分類される

粒子は,流動開始後での粒子層の膨張がほとんどみられず

(均一流動化状態が存在しない),ただちに気泡流動化状態

となる.よって,最小流動化速度と気泡流動化状態の開始

速度(最小気泡流動化速度)がほぼ等しくなる.

. 最小流動化速度・最小気泡流動化速度の測定

固体粒子層を気体が通過して生じる圧力損失 DP[Pa]と

ガス流量(空塔速度 u[m/sec]基準)の関係の例(地上重

力環境,ガラスビーズ,平均粒子径112 mm)を Fig. 6 に

示す.空塔速度は,ガス流量を装置断面積で除して求めら

れる空塔基準のガス流速である.静止状態の固体粒子層で

は,粒子の間隙を通過する気体の流量増加につれて圧力損

失も増加する.あるガス流量にて,固体粒子層の重量と圧

力損失が釣り合うと,固体粒子層は流動化(層膨張・気泡

発生)状態に遷移し,それ以上のガス流量で圧力損失はほ

ぼ一定の値を示す.

最小流動化速度 umf[m/sec]は,固体粒子層をあらかじ

め流動化させた後に,ガス流量を徐々に減少させて圧力損

失を測定し,圧力損失と空塔速度の両対数グラフの折点に

おける空塔速度から求めた.最小気泡流動化速度 umb[m/

sec]は,層高が小さくガス流量を増加させた場合の層膨張

率の正確な測定が容易でないため,ガス流量を徐々に減少

させた場合の粒子層表面の流動状態を観察し,表面流動が

静止状態となる空塔速度から求めた.

. 空隙率の測定

層高 L[m]は,流動層本体に貼りつけたスケールの値を

ビデオ画像から読み取り,左右の高さを平均して算出し

た.空隙率 e[-]は,次式を用いて求めた.

rp(1-e)=WAL

(1)

ここで,W[kg], A[m2]は,それぞれ固体粒子層全体の

質量,断面積(100 mm×10 mm)である.

. 高重力実験

Fig. 3 に示した実験装置を研究室所蔵の回転式高重力場

発生装置10)に搭載し,高重力(1~10 G)環境下での固体

粒子層の流動化実験を行った.

回転式高重力場発生装置では,アーム(全長1.8 m)の

両端に試料室およびカウンターウエイトが取りつけられて

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野中 利之・鈴木 睦

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

いる.アームが回転すると,試料室とカウンターウエイト

は,遠心力によって外側に振り出されるため,地上重力と

遠心力の合力が試料室の底面に垂直に作用し,人工的な高

重力環境が試料室内に実現される.

なお,窒素ガスは,マスフローコントローラを経由し

て,回転式高重力場発生装置の外部から供給される.圧力

損失の電圧信号は,回転軸上部に取りつけられたスリップ

リング(明清電気社,3TB q50 8P)を通して測定される.

固体粒子層の流動化挙動は,トランスミッター(SANKO

社,UHF wireless TV, SX200DX)を用いて,高重力場発

生装置外部に設置された TV モニターからリアルタイムで

観察可能である.よって,最小流動化速度・最小気泡流動

化速度は,地上における操作手順と同様に流動状態を観察

しながら測定した.

. 結果および考察

. 最小流動化速度に及ぼす重力の影響

.. 既往の最小流動化速度の推算式

最小流動化速度の推算式は,粒子層を通過する圧力損失

DP[Pa]と重力との釣り合いに基づき導出される12).流動

化開始状態では,次式が成り立つ.

DPLmf

=(1-emf)(rp-rf) (2)

ここで,emf[-], Lmf[m]は,それぞれ最小流動化時に

おける空隙率,層高である.最小流動化速度の推算は,圧

力損失を表す式の選択と最小流動化時における空隙率の評

価に帰着され,最小流動化速度 umf における Reynolds 数

Remf[-]と重力加速度 [m/sec2]を含む Archimedes 数 Ar

[-]の関係を表す式となる.各無次元数は,次式で定義

される.

Remf=dprfumf

mAr=

d 3prf(rp-rf)

m2 (3)

m[Pa・s]は,気体(窒素ガス)の粘度である.

Wen-Yu の式13),Nakamura の式14)

Archimedes 数に関係なく空隙率 emf を一定とする式であ

り,圧力損失式に Ergun の式を使用する場合,

DPLmf

=1-emf

qsdpe3mf (150

(1-emf)mumf

qsdp+1.75rfu2

mf) (4)

より,次式が導出される.ここで,qs[-]は,粒子の形

状係数である.

1.75qse3

mfRe2mf+

150(1-emf)

qs2e3

mfRemf=Ar (5)

Wen13)らは,emf, qs を含む項に対して,種々の固体粒子

に対する流動化実験の結果から次の相関式を得た.

1qse3

mf=14

(1-emf)

qs2e3

mf=11 (6)

以上から,Wen-Yu の式が導出される.

Remf= (33.7)2+0.0408Ar-33.7 (7)

また,Nakamura14)らは,球形粒子(qs=1)に対し,実

験結果から最小流動化時の空隙率 emf を評価し次式を得た.

Remf= (33.95)2+0.0465Ar-33.95 (8)

粘性支配領域(Ar<1.9×104)では,Re2mf の項を無視で

きる15)ので次式となる.

Remf=Ar/1650 (Wen-Yu の式) (9)

Remf=Ar/1460 (Nakamura の式) (10)

Chen-Pei の式16)

Chen ら16)は,小粒子径の固体粒子(2<Ar<2×104)に

対して次の相関式を得た.

qs2e2

mf

1-emf=0.54Ar-0.11 (11)

また,Ergun の式中の流速 umf の 2 乗項を無視した圧力

損失式(Blake-Kozeny の式)から次式が導出される.

Remf=e3

mf

150(1-emf)Ar (12)

(11)式から emf を求めると Remf を得る.

Leva の式17)

Ergun の式の代わりに,Fanning 型の式18)を用いると次

式を得る.

2f′(rfu2mf

dp )(1-emf

qs )3-n′1

e3mf=(1-emf)(rp-rf) (13)

ここで,f′[-], n′[-]はそれぞれ摩擦係数および指数

である.Leva は Re<10の領域で次式を用いた17).

f′=100Remf

n′=1.0 (14)

よって,次式が成り立つ.

Remf=qs

2e3mf

200(1-emf)Ar (15)

Leva17)は,既往の流動化実験の結果から,Remf<5 の領

域での相関式を求め,次式を得た.

qs2e3

mf

200(1-emf)=0.0007Re-0.063

mf (16)

Remf=(0.0007Re-0.063mf )Ar (17)

Leva の式は,Ar 数の小さい領域で Wen-Yu の式よりも

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Fig. 7 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.

Fig. 8 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.

Fig. 9 Relationship between Ar and Remf under various gravity-levels.

Fig. 10 Relationship between Remf and Cmf(=Remf/Ar) undervarious gravity-levels.

Fig. 11 Relationship between Remf and Cmf(=Remf/Ar) undervarious gravity-levels.

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固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

高精度であることが報告されている19).

.. 実測値との比較

Figs. 7, 8, 9 に可変(地上・高)重力環境下での各固体

粒子層の最小流動化速度の実測値と推算式による予測値を

示す.横軸,縦軸は,それぞれ重力レベル(1~10 G)お

よび最小流動化速度を変数とする無次元数(Archimedes

数,Reynolds 数)で図示した.

実測値(4.8<Ar<875)は推算式の適用範囲に含まれて

おり,Nakamura の式,Leva の式の推算値が良好である

ことがわかった.

Remf の推算精度は,emf の推算精度に帰着される.既往

の地上重力環境下における Cmf(≡Remf/Ar)の実測値17,20)

(0.001<Remf<1)は,5~15×10-4 の範囲内で,ばらつき

ながら低下する.可変重力環境下での実測値を Figs. 10,

11 に示す.両対数グラフ中の Cmf と Remf の関係を最小自

乗法を用いて決定すると次式が得られる.

Cmf=5.7×10-4 Re-0.109mf (18)

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Fig. 12 Relationship among umf, umb and Ar under variousgravity-levels.

Fig. 13 Relationship among emg, emb and Ar under variousgravity-levels.

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野中 利之・鈴木 睦

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

この式は,地上重力環境下の Leva 式や白井の結果20)

(Cmf=6.05×10-4 Re-0.0625mf , Remf<1)に近い.また,Figs.

10, 11の Cmf のばらつきを考えると,本実験範囲に限れば

地上重力環境下の式をそのまま可変重力環境下に対しても

適用できると判断される.

. 高重力環境下における流動化特性の遷移(グルー

プ A から B の遷移)

.. Geldart マップによるグループ A から B の遷

移11)

Geldart マップ(Fig. 5)の縦軸である粒子・流体間の

密度差は,流体に対する粒子の浮力の効果を表す.ゆえ

に,重力環境が異なれば,固体粒子は別のグループに遷移

することが考えられる.

Geldart11)は,グループ A と B の遷移条件として最小気

泡流動化速度 umb[m/sec]の推算式

umb=kmbdp (19)

(ここで,kmb=100[1/sec])と最小流動化速度 umf の推算式

umf=d 2

p(rp-rf)

1250 mair(20)

を等値(umb=umf)し,さらに地上の重力加速度と空気の

粘度 mair[Pa・s]の物性値を代入し,

r(rp-rf)dp=0.22[kg/m2] (21)

ここで,r=/G である.

グループ A と B の領域を分割する境界線( r=1,Fig.

5 実線)とした.

(21)式の境界線を判定基準とすると,グループ A のア

クリル粒子(平均径47,64 mm),ポリスチレン粒子(平

均径62 mm),ガラスビーズ(平均径58,78 mm)の粒子層

は,それぞれ3.6, 2.6, 3.4, 1.5, 1.1 G 以上の重力レベルで

グループ B の領域への遷移が予想される.

.. 実測値(流動化速度・空隙率)との比較

可変(地上・高)重力環境下での各粒子層の最小流動化

速度 umf,最小気泡流動化速度 umb の実測値を Fig. 12に示

す.また,Fig. 13に最小気泡流動化時の空隙率 emf,最小

気泡流動化時の空隙率 emb の実測値を示す.グループ B

(平均径112 mm)の粒子も含め,ガラスビーズの umb は,1

~2 G で umf よりもわずかに高く,3~4 G 以上でほぼ等し

い値となっている.なお,ガラスビーズの emb,emf は,お

互い良く一致しており,粒径および重力レベルによる違い

もほとんど見られない.ポリスチレン粒子の umb は,1~2

G で umf よりもかなり高いが,重力レベルの増加とともに

接近し,5 G 以上でわずかに高めだがほぼ等しくなってい

る.ポリスチレン粒子の emb と emf の関係は,umb と umf の

関係と同様な傾向を示し,6 G 以上で emf の値がほぼ一定

になっている.アクリル粒子は,重力レベルに関係なく

umb が umf よりも高めの値になっている.アクリル粒子の

emb と emf の関係も umb と umf の関係と同様な傾向を示すが,

emf の値はそれぞれ 5 G(平均径47 mm),3 G(平均径64

mm)以上でほぼ一定になっている.

ガラスビーズやポリスチレン粒子の実測値に対するグ

ループ A から B の遷移条件(umb≒umf)は,Geldart によ

るグループ A, B の境界線から予測される結果に定性的に

一致する.アクリル粒子の umb が umf に接近しないのは,

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Fig. 14 Relationship among ue, ue and Ar under variousgravity-levels.

Fig. 15 Relationship among ue, ue and Ar under variousgravity-levels.

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固体粒子層の流動化特性に及ぼす重力の影響

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

部分流動化状態21)に起因していると考えられる.なお,

emf がほぼ一定値を示す領域で比較すると,アクリル粒子

も境界線による予測値と定性的に一致している.高重力実

験(1~10 G)の範囲が狭く,Geldart マップのグループ

A, B の境界線自身もおおまかな基準であるが,本実験に

限れば(21)式は可変重力環境下にも適用できると判断され

る.

.. Foscolo らの物理モデルによるグループ A から

B の遷移22)

Foscolo ら22)は,均一流動化状態の粒子層(粒径均一)

に対して,粒子間に作用する力(浮力・抗力)をスプリン

グで表現した 1 次元モデルを考え,層内を伝播する 2 つの

波の伝播速度の大小関係からグループ A, B の境界条件の

式に相当する式を得た.

粒子間の相互作用の伝播速度として,弾性波の伝播速度

ue[m/sec]は,次式

ue= &p/&rb (22)

で与えられる.ここで,rb [kg/m3], p [Pa]は,それぞれ

層の密度,粒子層底部に作用する圧力である.層内の 1 粒

子に作用する力 F[Pa]を用いると,次式が成り立つ.

dp=NsdF/A (23)

Ns は,層底部の粒子数であり,次式で与えた.

Ns=4(1-e)A

pd 2p

(24)

よって,ue は,

ue=4(1-e)A

pd 2p

&F&rb

(25)

となる.F, rb は,それぞれ次式で与えた.

F=Fdt(uut)

4.8/n

e-3.8-pd 3

p

6(rp-rf)e (26)

rb=(1-e)rp (27)

ここで,ut [m/sec], Fdt [N], n [-]は,それぞれ単一粒

子の終末速度,ut における抗力,Richardson-Zaki の式(u

=uten)の指数である.また,次の関係を用いると,ue が

得られる.

&F&rb

=&F&e/

&e&rb

(28)

ue= 3.2dp(1-e)rp-rf

rp(29)

粒子層中を空隙率の変動が伝播する速度 ue[m/sec]は,

次式となる.

ue=(1-e)&u&e

(30)

Richardson-Zaki の式を代入すると,ue が得られる.

ue=nut(1-e)en-1 (31)

彼らは,ue が ue よりも速い場合,空隙率の不均一性が

気泡となって気泡流動状態が発生すると考えた.ue, ue の

値自身は,最小流動化速度 umf には直接関係しない.しか

し,Geldart マップにおけるグループ B の粒子層では,最

小流動化(e=emf)直後に気泡流動化状態となるので,ue

>ue の関係が成り立つ.一方,グループ A の粒子層の最

小流動化状態では,気泡が発生しないので,ue<ue となる.

.. 実測値(流動化速度・空隙率)との比較

可変重力環境下,最小流動化時における伝播速度 ue, ue

を重力レベルを横軸として Figs. 14, 15に示す.ここで,

終末速度 ut は,Reynolds 数に応じて,Stokes, Allen の式

から算出した.指数 n については,球形粒子に対する相関

78 ― 204 ―78 ― 204 ―

野中 利之・鈴木 睦

日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 18 No. 3 2001

式23)として,

n=5.1+0.28Ret0.9

1+0.10Ret0.9(32)

で与えた(Ret は終末速度 ut における Reynolds 数であ

る).また,最小流動化時の空隙率 emf は Fig. 13の実測値

を用いた.

アクリル粒子(平均径64 mm),ガラスビーズ(平均径

112, 78 mm)の粒子層は,1 0 でも ue が ue よりも大きい.

アクリル粒子(平均径47 mm),ポリスチレン粒子,ガラ

スビーズ(平均径58 mm)の粒子層は,それぞれ 3~4,4

~5,1 G 以上の重力レベルで ue>ue となり,グループ B

の領域に遷移することが予想される.

この結果を最小流動化速度 umf・最小気泡流動化速度

umb,最小流動化 emf・最小気泡流動化時の空隙率 emb, Gel-

dart マップの A, B 粒子の境界線,それぞれに及ぼす重力

の関係と比較すると,ガラスビーズはやや低い値となる

が,ポリスチレン粒子の値はいずれも良く一致する.アク

リル粒子(平均径47 mm)の A, B 粒子の境界線と ue>ue

の判定基準も一致するが,部分流動化によって emf の値が

高いため,emf の実測値がほぼ一定となる領域の値と比較

すると Foscolo らの理論値は低くなる.以上の結果から,

定性的ではあるが Foscolo らの理論による(29),(31)式に

よって高重力環境下におけるグループ B への遷移を表現

できることがわかる.

. 結 言

本報では,可変(地上・高)重力環境における固体粒子

層の流動化現象に及ぼす重力の影響について実験的に検討

した.

高重力発生装置を使用して,最小流動化速度を測定し

た.地上重力環境下で提案された既往の推算式が高重力環

境下にも拡張できることがわかった.また,地上での流動

化特性を示す Geldart マップや Foscolo-Gibilaro 理論が高

重力環境下にも拡張できることがわかった.

可変重力環境下における固体粒子層の挙動を定量的に解

析するためには,特に最小流動化領域における粒子層の膨

張挙動に注目した系統的な研究が必要である.定常的な微

小・低重力環境下での実験は,膨張等の挙動が顕著になる

ため,現象解明に有用な知見が得られると期待される.こ

れについては今後の検討課題としたい.

謝辞

実験装置の製作には,虎岩正直氏(東北大学工学部化

学・バイオ系学科木工場)の御協力を得た.流動化実験で

は,中尾整氏(東北大学大学院工学研究科,現在は積水化

学工業株),野村忠史氏(東北大学工学部,現在は日本化

学工業株)の助力を得た.ここに記して謝意を表す.

参 考 文 献

1) 白井 隆流動層,第 1 章,p. 14,科学技術社,金沢,

1958.2) 流動層ハンドブック,日本粉体工業技術協会編,堀尾正

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221,朝倉書店,東京,1996.4) 流動層,化学工学会編,第 7 章,p. 165,第11章,p. 201,

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7) S. I. Bakhtiyarov and R. A. Overfelt: Powder Tech., 99 (1998)53.

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書店,東京,1994.10) 野中利之,大浜康生,山下善之,鈴木 睦化学工学論文

集,24 (1998) 737.11) D. Geldart: Powder Tech., 7 (1973) 285.12) 流動層ハンドブック,日本粉体工業技術協会編,堀尾正

靭,森滋勝監修,第2 章,p. 51,培風館,東京,1999.13) C. Y. Wen and Y. H. Yu: AIChE J., 12 (1965) 610.14) M. Nakamura, Y. Hamada, S. Toyama, A. E. Fouda and C. E.

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靭,森滋勝監修,第2 章,p. 48, 1999.22) P. U. Foscolo and L. G. Gibilaro: Chem. Eng. Sci., 39 (1984)

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(年月日受理,年月日採録)