経皮的人工心肺(PCPS)の使用経験 -...

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日本小児循環器学会雑誌 10巻3号 428~434頁(1994年) 経皮的人工心肺(PCPS)の使用経験 (平成6年2月8日受付) (平成6年7月1日受理) 倉敷中央病院心臓病センター小児科 豊原 啓子* 馬渡 英夫 研自 馬場 田中 陸男 *現 庄原赤十字病院小児科 key words:経皮的人工心肺(PCPS),心筋炎,心室頻拍 心筋炎後,心室頻拍から心肺停止をきたした7歳女児に経皮的人工心肺(PCPS:percutaneou diopulmonary support)を使用した.施行後,洞調律となり,わずかに四肢も動かせるように 出血,下肢の循環不全を認めたため,6日目pump offとしたが,2時間後永眠した. PCPSには合 も多く,管理には細心の注意が必要であった.しかし,遠心ポンプと膜型肺を組み合わせた,PCPSは緊 急時に大腿動静脈より経皮的に施行でき,適応となる症例に早期より使用すれば,非常に有用な補助循 環装置と考えられた. はじめに PCPSは経皮的に大腿動脈と大腿静脈をバイパスす る新しい補助循環法である1)』5}.すなわち,PCPSは遠 心ポンプと膜型肺を組み合わせた携帯型人工心肺装置 で小型で搬送が容易である.最近では内科領域で, PCPS下の冠動脈形成術(supported PTCA)や,心 原性ショック,心停止に対する心肺蘇生などに施行さ れている.刺激伝導系の障害による致死性不整脈や心 筋障害によるポンプ失調をひきおこす劇症型の急性心 筋炎は,急性期を乗り切れば,予後は良好な場合が多 い6).このような症例を選んで,時期を逸することなく 施行すれば,非常に有用であるという報告も散見され るようになった.但し,小児に使用した報告例は少な く,貴重な症例と考えられたので報告する. 入院までの経過:症例は7歳の女児で,家族歴や既 往歴に特記すべきことはなかった.小学校入学時の健 診での心電図は異常を認めなかった.平成3年12月15 日に,気分不良を訴え,咳漱とともに2回嘔吐した. 12月18日に,他院を受診し,心電図で心室性期外収縮 表1 入院時検査所見 WBC 13,900/mm GOT 171U〃 ウイルス抗体価(CF) (stab 17%、 seg 46%, GPT lOIU〃コクサッキーA、 4> eo 5%, baso l%, LDH 2911U// コクサッキーA、 8 |ymph 25%, mono 6%) ALP 5841U/~ コクサッキーA6 4> RBC 482×104/mm γ一GTP 1⑪IU// コクサッキーB, 4> Ht 39.6% CPK 251U//エコー6 4> Hb 12.8g/dlBUN 7 mg/dl アデノ3 4 Plt 36.0×104/mm Cr O.4mg/dl CRP L6mg/d1 TP 7.8g/dI 別刷請求先:(〒727)広島県庄原市西本町2丁目7 .10 庄原赤十字病院小児科 豊原 啓子 Presented by Medical*Online

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日本小児循環器学会雑誌 10巻3号 428~434頁(1994年)

経皮的人工心肺(PCPS)の使用経験

(平成6年2月8日受付)

(平成6年7月1日受理)

              倉敷中央病院心臓病センター小児科

          豊原 啓子* 馬渡 英夫  脇  研自

          馬場  清  田中 陸男

               *現 庄原赤十字病院小児科

key words:経皮的人工心肺(PCPS),心筋炎,心室頻拍

                      要  旨

 心筋炎後,心室頻拍から心肺停止をきたした7歳女児に経皮的人工心肺(PCPS:percutaneous car-

diopulmonary support)を使用した.施行後,洞調律となり,わずかに四肢も動かせるようになった.

出血,下肢の循環不全を認めたため,6日目pump offとしたが,2時間後永眠した. PCPSには合併症

も多く,管理には細心の注意が必要であった.しかし,遠心ポンプと膜型肺を組み合わせた,PCPSは緊

急時に大腿動静脈より経皮的に施行でき,適応となる症例に早期より使用すれば,非常に有用な補助循

環装置と考えられた.

          はじめに

 PCPSは経皮的に大腿動脈と大腿静脈をバイパスす

る新しい補助循環法である1)』5}.すなわち,PCPSは遠

心ポンプと膜型肺を組み合わせた携帯型人工心肺装置

で小型で搬送が容易である.最近では内科領域で,

PCPS下の冠動脈形成術(supported PTCA)や,心

原性ショック,心停止に対する心肺蘇生などに施行さ

れている.刺激伝導系の障害による致死性不整脈や心

筋障害によるポンプ失調をひきおこす劇症型の急性心

筋炎は,急性期を乗り切れば,予後は良好な場合が多

い6).このような症例を選んで,時期を逸することなく

施行すれば,非常に有用であるという報告も散見され

るようになった.但し,小児に使用した報告例は少な

く,貴重な症例と考えられたので報告する.

          症  例

 入院までの経過:症例は7歳の女児で,家族歴や既

往歴に特記すべきことはなかった.小学校入学時の健

診での心電図は異常を認めなかった.平成3年12月15

日に,気分不良を訴え,咳漱とともに2回嘔吐した.

12月18日に,他院を受診し,心電図で心室性期外収縮

表1 入院時検査所見

WBC    13,900/mm GOT        171U〃 ウイルス抗体価(CF)

(stab 17%、 seg 46%, GPT        lOIU〃 コクサッキーA、  4>

eo 5%, baso l%, LDH       2911U// コクサッキーA、  8

|ymph 25%, mono 6%) ALP       5841U/~ コクサッキーA6  4>

RBC    482×104/mm γ一GTP       1⑪IU// コクサッキーB,  4>

Ht      39.6% CPK        251U// エコー6      4>

Hb        12.8g/dl BUN        7 mg/dl アデノ3      4

Plt    36.0×104/mm Cr       O.4mg/dl

CRP        L6mg/d1 TP           7.8g/dI

別刷請求先:(〒727)広島県庄原市西本町2丁目7

      .10

     庄原赤十字病院小児科   豊原 啓子

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日小循誌 10(3),1994

(VPC)の3連発が記録されたため入院した.12月20日

に,嘔吐とともに,2分間の意識消失をきたし,ICUへ

10日間収容された.コクサッキーB,ウイルス抗体価の

上昇を認め,ウイルス性心筋炎と診断された.平成4

年2月3日に,退院した.その後も,VPCを認めてい

たが,自覚症状がないため,抗不整脈薬の内服で経過

を観察されていた.5月8日に,学校で嘔吐した時に,

徐脈に気付かれ同病院に再入院した.入院時の心電図

でVPCの5連発を認めた.6月3日に退院した.家族

の希望で近医より当科に紹介され,6月13日に精査及

び加療を目的として入院となった.

 入院時所見:意識は清明で,顔色はやや蒼白であっ

た.体重は20kg,身長は124crnで,脈拍数は40~50/分

で,不整であった.白血球数は増加し,CRPは陽性で

あったが,軽度の気管支炎をおこしていたためと考え

られた.貧血はなく,肝機能及びCPKは正常であった

(表1).胸部X線は心胸比57%と心拡大を認めた(図

1).心電図はVPCの2~7連発を認めた(図2).心

エコー図検査では,器質的心疾患は認めなかった.

VPCの間のsinus rhythm時に計測した左室拡張末期

径(LVDd):42mm,左室収縮末期径(LVDs):33mm,

左室駆出率(LVEF):52%と,VPCの連発のため動き

は不良であった.トレッドミルでは運動時,回復時と

もにVPCの連発は消失しなかった.タリウム心筋イ

・〆ヂ解ぜ

惑鵜

鷲㌘該

429-(91)

図1 当院入院時胸部X線像.心胸比57%と心拡大を

 認める.

メージングでは,perfusion defectを認めず,ホルター

心電図では,VPCが頻発し,最高21連発を認めたが,

自覚症状は全くなかった.

 PCPS補助開始までの経過:数種類のβ一blocker及

びCa拮抗剤を組み合わせを変えて内服させてみた

(図3A).7月16日に心カテ・アンジオ検査を施行し

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図2 入院時心電図.VPC 2~7連発を認める.

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430 (92) 日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第3号

6/13 7/16 8/6 8/9 8/11

入院 心力テ 死亡Ap・i・di・・IDiltiazem Verapamil 80 mg→120 mgP・。P・an・1・l  IM・t・p・・1・1 lp・・p・an・1・120mg-40 mg

   PCPSFIow 2.0(Lん1in)→1.0→0.8→0.4

GOTGPTLDHCPKBUNCr

T.Bil

WBCRBC

HbHt

Plt

    17

    10

   291

   25    7   0.4

   0.4

  13.900

482×IO4

   12.8

   39.6

36.0×104

18

 5314

    7   0.6

   0.5

  7.300

467×104

   12、4

   38.9

29.0×104

濃赤輸血

血小板輸血

   862

   420

  3,776

  10β83

   15   1.6

   1,2

 1 7,1 OO

278×IO4

   7.6

  22.711.4×104

  VT      →sinus rhythrn

          匠↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓

  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓

FOY

ハプトグロビン

lPGE 1

  5.005

  1,433

  1 2,440

 50、590

   64   2.4

   2.8

 10,700382×104

  10.5

  31.610.2×104

  2,379

  1,108

  8,775

 46,680

   99   5.9

   2.9

  3.200

276×104

   7.8

  23.32.4×IO4

  1,046

   778

  3,770

 24,085

   96   6.2

   2.5

  3,500

273×104

   7、8

  23.84.3×104

XiT:v〔mtrlcular tachycardia,CVVH:continuous veno^venous

hemofilteration,FOY:メチル酸ガベキセート,PGE1:プロスタグランディンEユ

   図3A

(1/min)

1.5

O.5

0

8/6

PCPS flow

(回/分)

250

200

150

100

50

 0

8/7  8/8朝  8/8夕  8/9  8/10朝  8/10夕

心拍数

(mmHg)

15

10

5

中心静脈圧

0

8/6   8/7   8/8朝   8/8夕

(mmHg)

100

80

60

40

VT sinus rhythm 20

8/6   8/7   8/8朝   8/8夕

0

8/9   8/10朝  8/10夕

血圧

    ./’\../

 ■  収縮期血圧

一一←拡張期血圧

8/9   8/10朝  8/10夕 8/6   8/7   8/8朝   8/8夕 8/9   8/10朝  8/10夕

図3B

た.造影時にもVPCが頻発しており, VPCの間の

sinus rhythm時に計測したLVEFは48%であった.

右室心内膜心筋生検も施行した.光顕像では,necrosis

をきたした心筋線維,間質のfibrosis,及び少数のリン

パ球浸潤を認め心筋炎の既往が強く疑われた.結局,

propranolol, verapami1を併用し,徐々に増量した(図

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平成6年10月1日 431-(93)

3A).定期的にホルター心電図を施行し, VPCは総数

及び最高の連発の数ともに減少した.しかし,8月6

日に,早朝から気分不良,嘔気,嘔吐を認め,突然心

停止をきたした.気管内挿管,心マッサージ,キシロ

カイン静注,カウンターショックを繰り返し,一時的

に洞調律になることはあるが,ほとんど心室頻拍

(VT),心室細動(VF)の状態であった.意識レベル

は300,瞳孔は散大していた.当院では小児に対する

⑧⑦

①動脈(送血)カニューラ

②静脈(脱血)カニューラ

③遠心ポンプ

④外部モーターユニット

⑤電磁流量計

⑥540型バイオコンソール

⑧人工肺固定台

⑨酸素ブレンダ

⑩酸素ボンベ

⑪移動用台

⑫熱交換器

⑨ 〈一酸素

⑦膜型人工肺(熱交換器付き)

  ①~⑥:BlO MEDICUS社 ⑦:クラレ(MENOX AL-4000)

   図4 脱血管②は大腿静脈から右房あるいは下大静脈に留置し,遠心ポンプ③により

    脱血され,膜型人工肺⑦を通して,大腿動脈に留置した送血管①へと送られる.今

    回,遠心ポンプはbio medicus社製,膜型肺はクラレMENOX AL4000を使用した.

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磁謙謎齢、図5 PCPS開始後の心電図はVTであった.

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432-(94) H本小児循環器学会雑誌 第10巻 第3号

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」購:聴藁違需図6 PCPS開始後3日目の心電図は, sinus rhythmとなっている.

PCPSの経験がなかったため, PCPSを施行するにあ

たって決断に時間を要し,蘇生から開始まで6時間経

過していた.

       PCPSの方法及び経過

 図4にPCPSの模式図を示す.脱血管は大腿静脈か

ら右心房あるいは下大静脈に留置し,遠心ポンプによ

り脱血され,膜型肺を通して,大腿動脈に留置した送

血管へと送られる.遠心ポンプはbio medicus社製,

膜型肺はクラレMENOX AL-4000を使用した.送血管

は15Frで右大腿動脈留置,脱血管は17Frで左大腿静

脈経由で下大静脈に留置した(送血管,脱血管はbio

medicus社製).心カテ時に,サーモ・ダイリューショ

ン法で測定した心拍出量に基づき,flowは21/分で開

始した.抗凝固剤はヘパリンを使用し,ACT(activat-

ed coagulation time)を200秒程度に保った.このた

め,鼻出血,点状出血などの出血傾向を認め,メチル

酸ガベキセート(FOY),新鮮凍結血漿を使用した(図

3A).また,遠心ポンプ,膜型肺の使用のため,溶血性

貧血がおこり,総ビリルビンは上昇し,濃厚赤血球輸

血,血小板輸血は毎日施行した.またハプトグロビン

も点滴静注した.心電図上はVT(図3B,図5)であっ

たが,PCPS開始後より体動を認めるようになり,瞳孔

も縮小してきた.開始後2日目,送血管側(大腿動脈

側)の下肢に循環不全を認め,プロスタグランディン

E1を点滴したが効果なく,大腿動脈一外腸骨動脈バイ

パス術を施行した.開始後3日目,sinus rhythm(図

6)となり,十分な血圧が得られるようになった(図

3B).また,開始後5日目, CVVH(continuous veno-

venous hemo丘lteration:持続血液濾過)を併用し除水

をはかった.わずかに四肢を動かすものの,意識レベ

ルは200で,神経学的にはこれ以上の改善は望めないと

判断した.また,合併症がおこってきたこと,血圧が

得られるようになったことより,PCPSを徐々に

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図7 剖検では,心尖部を中心に心筋全体に,石灰化

を伴う陳旧化心筋壊死像を認めた.陳旧性心筋炎の

所見と考えられる.

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平成6年10月1日

weaningした.開始後6日目, flowを血栓ができない

ための最低ラインである0.41/分にしても,血圧は維持

された(図3B).PCPSを中止しても十分な心拍出量は

得られるかもしれないと考え,中止した.しかし,

PCPS中止後,徐々に血圧は低下し,2時間後永眠し

た.剖検では,心尖部を中心に心筋全体に,石灰化を

伴う陳旧化心筋壊死像を認めた(図7).陳旧性心筋炎

の所見であり7),壊死巣がfocusとなって, VPC, VT

をひきおこしていたと考えられた.

          考  察

 PCPSは,緊急時に経皮的に大腿動脈と大腿静脈を

バイパスする新しい補助循環法である1)-5).また,

PCPSは遠心ポンプと膜型肺を組み合わせた携帯型人

工心肺装置で,小型で搬送が容易であり,閉鎖回路の

ため操作が容易である.最近では内科領域で,PCPS下

の冠動脈形成術(supported PTCA;elective PCPS)

や,心原性ショック,心停止に対する心肺蘇生(emer-

gency PCPS)などに施行されている.小山らは,17例

にernergency PCPSを施行し,8例(47%)が離脱し

7例(41%)の長期生存が得られたと報告している3).

17例のうちの4例は劇症型心筋炎で全例が救命されて

いる.劇症型心筋炎の他に,急性心筋梗塞,肺塞栓,

術後の低心拍出症候群(LOS)や心停止などにもPCPS

を施行している.急性期を乗り切れば,心機能の回復

が期待でき,比較的予後の良好な劇症型心筋炎におい

ては,多臓器不全をきたす以前にPCPSを開始するの

が望ましい.ただし,本症例がPCPSのよい適応で

あったかどうかは疑問である.第一に,剖検所見より,

心筋炎発症後数カ月を経過しており,VTを治療して

も心機能は改善しなかった可能性がある.第二に,

PCPSを開始するまでに蘇生を6時間続けており,す

でにGOT, GPT, LDH, CPK高値, BUN, Crも徐々

に上昇し,心筋障害のみならず,多臓器不全の状態で

あったと考えられた.しかし,PCPS開始後より体動を

認めるようになり,開始後3日目には,sinus rhythm

となり,十分な血圧が得られるようになったことから,

もう少し早期に開始していれば救命できたかもしれな

い.また,weaningの際, IABP等の他の補助循環を

用意しておくべきであった.

 現在,小児専用のPCPSの装置がないのも問題であ

る.今回我々は,体重20kgの女児に対して,成人で

PCPSに使用する最小のカニューラを挿入したが,動

脈側の下肢に循環不全をおこし,バイパス術を施行せ

ざるを得なかった.ただし,細いカニューラだと,十

433-(95)

分な流量が得られず,高度の溶血をおこす可能性があ

る.小山らは,4カ月のJatene術後のLOSの女児に,

松若らは,9カ月の修正大血管転位の開心術後LOS

の女児に左心バイパス(LVAD)を施行し離脱に成功

している2)8).LVADの場合,細いカニューラで小児用

遠心ポンプを用いて,十分な流量が得られる.しかし,

手術侵襲を加えなければならず,本症例のように,心

肺蘇生を行っている状態では負担が大きすぎるであろ

う.

 また,PCPS施行中は合併症も多く,長期間続けるの

は不可能である.本症例に認めた,出血傾向,溶血に

よる貧血,血小板減少,及び易感染性など細心の管理

が必要である.

 これらの問題点をふまえながら,さらに改良を加え

た装置及び小児専用の装置の開発が望まれる.

          文  献

 1)Phillips SJ, Zeff RH, Kongtahworn C, Skinner

   JR, Toon RS, Grignon A, Kennerly RM, Wick-

   emeyer W, Iannone LA:Percutaneous car-

   diopulmonary bypass:Application and indica-

   tiorl for use. Ann Thorac Surg 1989;47:121

    123

 2)小山富生,曽根孝仁,伊藤 健,高須昭彦,村瀬允

   也,佐々寛己,水ロー衛,前田正信,坪井英之,村

   上文彦,寺西克仁:遠心ポンプの臨床一術後左心

   バイパスおよび経皮的心肺補助への応用 .人工

   臓器  1992;21:136-141

 3)恒川 純,稲垣将文,藤村高陽,田中寿和,村上

   敦,石原 均,毛利喜洋,酒井喜正,増本 弘,市

   原利彦,浅岡峰雄,関  章,小田 博,西分和也,

   和田英喜:経皮的簡易人工心肺装置の経験.現代

   医学 1992;39:557-564

 4)佐々寛己,曽根孝仁,小山富生:急性心筋梗塞の冠

   動脈再灌流療法における経皮的心肺補助(PCPS)

   法の有用性.ICUとCCU 1991;15:807812 5)正井崇史,榊原哲夫,渡辺真一朗,児玉和久,金香

   充範,松田 暉:経皮的心肺補助システムによる

   循環補助の後に外科治療に成功した急性心筋梗塞

   後左室自由壁(blow out type)の1例.日胸外会

   言志  1992;40:86  90

 6)小山富生,高須昭彦,伊藤 健,寺西 克仁,曽根

   孝仁,村上文彦,富田康裕,山崎嘉久,坪井英之,

   前田正信,水ロー衛,佐々寛己,村瀬允也:劇症型

   心筋炎に対するpercutaneous cardiopulmonary

   support systemの応用.人工臓器 1991;20:875

 7)星野恒雄,松森 昭,河合忠一:ウイルス性心筋炎

   の病理.病理と臨床 1983;1:59569 8)松若良介,松田 暉,大谷正勝,笹子佳門,河本知

   秀,川島康生:遠心ポンプを用いた左心バイパス

   から離脱しえた生後9カ月の修正大血管転位の1

   例.人工臓器 1989;18:1511-1514

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Page 7: 経皮的人工心肺(PCPS)の使用経験 - JSPCCSjspccs.jp/wp-content/uploads/j1003_428.pdf①~⑥:BlO MEDICUS社 ⑦:クラレ(MENOX AL-4000) 図4 脱血管②は大腿静脈から右房あるいは下大静脈に留置し,遠心ポンプ③により

434-(96) 日本小児循環器学会雑誌第10巻第3号

Clinical use of PCPS

Keiko Toyohara, Kenji Waki, Hideo Mawatari, Kiyoshi Baba and Mutsuo Tanaka

         Division of Pediatrics, Heart Institute, Kurashiki Central Hospita1

   Percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)was performed in a seven-yearっld girl with

cardiopulmonary arrest due to ventricular tachycardia caused by cardiomyositis. ECG returned

to sinus regular thythm, she could slightly move her extremities. Because of bleeding and

ischemia of her right leg, six days later, PCPS was weaned and stopped. But two hours later, she

died. Complications make us pay attention to use of PCPS. But PCPS is a beneficial, portable

resuscitation system consisting of centrifugal pump and membrane oxygenator. The application

and indication for use is recommended, as early as possible.

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