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JETRO ユーロトレンド 2001.72

競争法-EU法と各国法の比較と国家補助金事例

(EU・英国・ドイツ・フランス)

1962年2月6日付理事会規則第17号が、現

在のEUにおける競争法の根幹をなすもので

ある。欧州共同体市場における競争を歪めな

いための制度を確立し、全加盟国に対し統一

的な法の適用を確保するとしている。また効

果的な監視や可能な範囲で行政上の統制を簡

素化することについても言及している。さら

に共同体の現実に照らし合わせ、その発展を

阻害しないことを前提に弾力的な制度を設け

るとともに、統一的な法制度を確立するため、

欧州委員会と各加盟国との緊密な連携が必要

であるとしている。

2001年5月25日に発表された第30次競争

政策報告書(2000年の年次報告書)では、

①独占禁止、合併規則の変更、②国家補助

金規制における中小企業、職業訓練に関す

る例外規定、③サービス産業、とりわけ電

子関連技術の進歩への対応をその課題に据え

ている。また中・東欧諸国についてもEU加

盟に当たって競争法の国内法整備が必要とな

るが、同報告書では、とりわけ国家補助金の

規定について、投資インセンティブを保持し

たいとする関係国の現状に対して、警告を発

している。

1.域内市場統合に向けた40年の歩み

約40年間を通じたEU競争法の骨子は、①

競争を制約するような協定や支配的地位の濫

用の排除(競争者間での価格協定など)、②

EU競争法は、米国独占禁止法と並び世界でも最も影響力を持つ競争法であり、その適

用範囲はEU域内にとどまらず、世界規模の経済活動に関係し得る。また、EU域内にお

いては、EU競争法が適用されるケースと、加盟各国競争法が適用されるケースがあり、

ビジネスにおいてはEU法の正確な理解が不可欠である。

本レポートでは、EU競争法の基本的枠組みと最近の動向を解説した上で、英、独、仏

各国の競争法との関係や違い、国家補助金における違反事例などを中心に、欧州でビジネ

スをする場合、競争法のどのような点に注意すれば良いかについて報告する。

欧州進出に不可欠なEU法の理解(EU)ブリュッセル・センター

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企業合併・合弁(集中)の管理(二大グルー

プの合併により、そのグループが市場にて大

きな影響力を行使することができうる場合な

ど)、③独占性の強い経済分野(電気通信分

野など)、④国家補助金のモニタリング(損

失を続けている企業を回復の見込みなく継続

的に支援するような国家無償援助の禁止な

ど)などとなっている。

またこの間EUでは、企業の競争を確保す

る環境作りとして、1968年の関税同盟、93

年の域内市場統合開始、ユーロ導入を実施

している。企業活動の円滑化、域内市場で

の公平な扱いを通じ、統一的な生産コスト、

流通コスト、市場価格の提供に努めてきた。

ただし加盟国間の税制の違い、人件費コス

トの違い、ディストリビューション契約な

ど、市場分割が現存しており、各国の財政

主権、就業者の自由移動など、市場統合を

阻む要因が共同体の宿命として横たわって

いる。これらの根源的な違いは、各国の文

化性にも起因しており、シラク仏大統領並

びにコール独首相(当時)が98年にのブレ

ア英首相宛に送付した「地域性の保持」に

関する書簡にEUのとるべき姿が反映されて

いる。

2.中小企業・地域振興における競争法のあり方

最近の特長としてEU法制度の近代化への

取り組みが前面に出される傾向にあるが、競

争法についても手続きの簡素化、適用基準の

見直し、さらに中小企業振興を中心的課題に

すえている。第6次中小企業白書によれば、

競争法の新しい取り組みと中小企業振興をテ

ーマに次のとおり触れている。

垂直協定に関する新しい一括免除規則の導

入(自動車のディストリビューション契約は

除く)並びに国家補助金に関する適用除外

(加盟国の貿易に影響を与えない小額な補助)

は、大方の中小企業にとって、欧州委への通

達の負担の軽減、規制遵守負担の免責などの

利点がある。

また欧州委では、競争法に関する手続き近

代化の一環として、加盟国当局、各裁判所に

対し、その適用を委ねる提案を行っている。

これは、加盟国当局での監視強化が打ち出さ

れているものの、ビジネス界では、申請当局

への距離が縮小するなどその対応を歓迎して

いる。

確かに欧州委における競争法に関する案件

処理件数の増大と今後カルテルなど重大な要

件に特化した対応をとるべきとする欧州委の

姿勢などに呼応する形で、加盟国当局への権

限委譲がなされるのではないかとの見通しも

あるが、その目的は欧州委の効率的業務の確

立である。つまり欧州委は、EUのルールを

そのまま加盟国に移す、ある種の地域分散型

を意図していると見られ、ドイツなどが主張

している地域への権限委譲ではない。また国

家補助金の禁止規定の例外として、職業訓練

への補助が適用免除に含まれているが、これ

は、過去に斜陽産業(工場閉鎖、移転など)

からの産業転換、労働者の再就職(フランス

の北部産炭地域振興策など)を図る上で、公

的資金の導入が効果的であったとし、これを

中小企業全般に拡大したものと見られている。

3.新技術とグローバル化への対応が必要

一方、電子商取引きなど新しい技術分野へ

の対応とグローバル企業に対応するための国

際協力の必要性は、40年前にはなかったもの

であるが、グローバルな企業活動の現状では、

その需要は益々高まっている。またEUの合

併規則も施行から10年以上が経過し、売上高

基準、申請届け出コストの増大など問題点の

洗い出しとともに見直しを行っている。M&

Aについては、地域振興、雇用創出、自国企

業の国際化などを目的とする域内での外国投

資受け入れの活発化、統合市場での競争激化

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による生き残り策、グローバル経済下での欧

州企業の国際化などにより、さまざまな提携

がなされている。またM&Aを推進するため

には、中央銀行、証券市場、競争法の3機能

の調和の重要性を指摘する向きは多い。EU

の場合、欧州中央銀行(ECB)はユーロ導入

とともに始動したばかりで、また証券市場に

至っては2003年を目処にようやく法的枠組み

が確立する方向にある。競争法は40年の歳月

を経て、ようやく当初の目的に近づきつつあ

り、その骨格が固まろうとしている。

(掘口英男)

4.EU競争法について

ジェトロ・ブリュッセルは、Van Bael &

Bellis法律事務所の亀岡悦子氏にEU競争法の

法的枠組み、国家補助金、競争法に関する国

際協力などについて解説を委託した。その概

要は以下の通り。

目  次

はじめに …………………………………………4

(1)EU競争法の法的枠組み …………………4

① EU競争法執行機関 ……………………4

② EU競争法と加盟国競争法 ……………5

③ EC条約上の規定 ………………………5

a.EC条約第81条 ………………………5

b.EC条約第82条 ………………………7

c.EC条約第3条 ………………………7

④ 企業合併について ………………………8

a.集中(合併・合弁)とEU法 ………8

b.Merger Task Force(合併担当部門)…8

c.手続 ……………………………………8

d.欧州委からの情報提供要請 …………9

e.手続に従わなかった場合 ……………10

f.欧州委の適合性決定 …………………10

g.売上高基準 ……………………………11

h.市場占拠率 ……………………………11

i.関連市場の画定 ………………………11

j.集中に付随する制限 …………………11

k.共同支配 ………………………………11

l.ジョイントベンチャー ………………12

m.EU外で締結される取引への影響 …12

(2)国家援助 ……………………………………12

(3)競争法に関する国際協力 …………………13

(4)EU競争法を巡る最近の動き ……………14

① 欧州委のEU競争法改革提案 …………14

② 垂直的制限規制 …………………………14

③ 集中審査手続中の競争を回復する手段に

ついての見直し ……………………………15

④ 航空会社間乗入運賃協定についての

EC条約第81条適用免除規則の見直し …15

(5)最近の注目された競争法に関する欧州委

決定 …………………………………………15

① 買収不許可決定 …………………………15

② スポーツイベントとEU競争法 ………15

終わりに …………………………………………16

はじめに

EU競争法は、米国独占禁止法と並ぶ世界

でも最も影響力を持つ競争法であり、超国家

機関によって施行される競争法としては、世

界で唯一のものである。その適用範囲は、

EU域内だけではなく、世界規模の経済活動

に関係し得る。また、EU拡大、企業活動の

グローバル化によってその適用範囲はさらに

広がることが予想される。特にEU競争法の

執行機関である欧州委員会の動きは、欧州、

米国の主要経済誌で毎日のように報道されて

おり、注目を集めている。以下にEU競争法

の基本的な法的枠組みと最近の動きについて

説明する。

(1)EU競争法の法的枠組み

① EU競争法執行機関

欧州委員会は20人の委員で成立している

が、それぞれの委員が専門化した部署(総局)

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の担当を分担している。現在、競争総局を担

当しているのは、マリオ・モンティ委員であ

る。競争総局はブリュッセルにあり、約500

人程のスタッフが、競争法に関する仕事に携

わっている。国家援助に関する問題も競争総

局の分担に属する。

② EU競争法と加盟国競争法

15カ国のEU加盟国の中で特に強力な競争

法、その執行機関を持つ国としては、ドイツ、

英国、フランスがあるが、他の国にもそれぞ

れ独自の競争法がある。

欧州共同体設立(EC)条約の競争法規定

は、加盟国の規定に優先して適用されるのが

原則である。しかし、ある行為がEC条約に

は違反するが、加盟国国内法には違反しない

場合、EC条約のみが、そして加盟国国内法

に違反するが、EC条約には違反しない場合

には、国内法のみが適用されることになる。

また、ある行為に関して、EC条約の規定と

国内法が双方共適用される場合もある。同一

のカルテル行為が、EC条約第81条(旧85条)

とドイツ独占禁止法双方に違反するとされた

例として、1992年の染料国際カルテル事件が

ある。欧州委がある行為について決定を下し

た場合、加盟国独占当局は、この判断を考慮

に入れて行動すると考えられる。欧州委が、

EC条約第81条第3項によって第1項の適用

除外を認めた場合には、加盟国当局はこの行

為を違反とすることはできない。

③ EC条約上の規定

EU競争法規定は、サービス、物、知的所

有権等すべてのセクターに適用される。また、

特殊なセクターに関しては、特別法を設け、

独自の手続等を定めていることに注意する必

要がある。欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)に

関するパリ条約は、石炭と鉄鋼に関する事項

を扱っており、この分野においての競争を歪

める行為を、同条約第65条、66条にて取り締

まっている。欧州委は、パリ条約上、EC条

約より広い権限を認められており、欧州委が

違反と判断するまで、加盟国国内裁判所での

競争法に関する規定は、執行されない。さら

にEU規則によるセクター別の特別法があり、

農業政策について規定するEC条約第34条に

基づいて、理事会規則26/62が制定され、農

業に関する競争の取り締まりはこの規定によ

る。また、運輸に関する競争法の特別規定は、

規則1017/68が、空輸に関する特別規定は規

則3975/87である。

a.EC条約第81条

・第81条で禁止される行為

EC条約は、第81条と第82条で競争につい

て規定している。第81条第1項は、加盟国間

の通商に影響を与える事業者間の競争制限的

協定を禁止しており、同条第2項は、1項に

違反する協定は法的に無効であることを明示

している。EC条約第81条は、米国独占禁止

法のシャーマン法第1条に類似する。しかし、

シャーマン法第1条に違反する行為は、三倍

額賠償(実際の損害額の3倍の額の賠償)の

対象となり、重大な刑事犯罪が成立しうるが、

EU競争法手続は刑事手続ではないとされて

いる。

第81条における競争制限的協定は、2つ以

上の事業者または産業団体間のあらゆる形の

同意、取り決めを包含する。すべての当事者

が合意する必要はなく、また、正式の書類に

よるものでなくてもよい。ある事業者が、一

方的にある市場から撤退することに他の事業

者が同意を示すだけで、この2社間の競争制

限的協定と見なされることがある。協定の名

称は重要ではなく、「公正取引規則」と名づ

けられた協定でも内容によっては、欧州委の

審査の対象となる。また、トレードマークの

譲渡が事業者間の協定とされた例がある。同

一グループに属する事業者間の協定は原則と

して、第81条の対象とはならないので、子会

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社とその親会社の協定、同じ親会社を持つ子

会社間の協定は問題とならない。事業者とは

すべての形態を持つ経済活動の主体であり、

国営企業、地方公共団体も含まれる。その企

業が法人格を有するかどうかは関係がなく、

自然人でもよい。

第81条第2項は、第81条第1項違反の協定、

決定が自動的に無効である旨規定している

が、ここでいう無効が、絶対的無効であると

解釈されるのか、裁判上争った結果、無効と

宣言されて初めて無効となるかどうかは各加

盟国法による。

第81条、82条だけでなく、後述する合併・

合弁(集中)についても細かい市場分析が欧

州委によって行われるが、集中における市場

分析は、第81条、82条における市場分析より

もさらに緻密であると考えられている。しか

し、公表される欧州委決定は、限られた時間

で準備されるものであって細かい記述はして

いないものが多い。

・適用免除

第81条第3項では、第1項に該当する協定

について例外的に無効とされない場合を規定

している。その条件としては、企業の生産性

を高めるなど合理化に寄与し、また、消費者

がその利益を享受しうる場合で、目的を達す

るために必要以上の制限を関係事業者に課さ

ないことなどが条件となる。

この個別のケースごとに判断される個別適

用免除の他に、一括適用免除規則が存在する。

これは規則に規定された一定の要件を満たす

契約について第81条第1項の適用を免除する

もので、欧州委への届出も必要がない。

対象となる契約の種類は、垂直的流通契約、

技術移転契約、研究開発についての協力など

がある。一括適用除外を利用する利点は、手

続が簡素化されることである。市場分析等の、

時として非常に時間を要する複雑な準備を省

くことができる。欠点としては、規定された

一括適用免除の条件が必ずしも明確でないこ

とであろう。欧州委は、一括適用免除を受け

た契約が、後にその要件を満たさなくなった

場合に適用免除を撤回することができるが、

このような例は非常にまれで、現在のところ

唯一の例とされるのは、Langnese-Iglo事件

だけである。将来もこのような例が増加する

とは考えられていない。

94年のEuropean Night Services事件では、

鉄道会社間の協定について欧州委が決定を出

している。European Night Servicesは、欧

州委に届出を提出し、その協定が第81条第1

項にはあたらない旨、宣言された。欧州委は、

許可の条件として事業遂行上不可欠な施設で

ある英仏海峡海底トンネルを、この協定に参

加していない他の同業者にも使用許可しなけ

ればならないとした。この条件付の欧州委決

定に対し、協定参加鉄道会社が、EU第一審

裁判所に訴えを提起し、このような条件を認

める理由が不十分であるとして、欧州委決定

は退けられた。

・手続

EC条約第81条および第82条の施行のため

の規則は、EU競争法手続の詳細を規定して

おり、重要な規則である。この立法により欧

州委競争担当総局がEU競争法の実施につい

て権限を与えられている。また、聴聞に関す

る規則、届出などに関する規則がある。

第81条、第82条の手続は、当事者の届出、

第三者からの申立、または欧州委が独自に審

査を開始することによって始まる。欧州委は、

新聞や経済誌の記事から審査開始決定をする

こともある。

カルテルのケースを例にとると、まず、予

備審査が開始される。これは、内通している

者、あるいは他の企業からの情報によって欧

州委が職権で行うことが多い。これに続き情

報提供請求、立入り検査等が通知される。そ

の後、欧州委から企業に異議告知書が送付さ

れ、企業側からは、答弁書の作成、送付が行

われる。聴聞が開かれ、当事者、あるいはそ

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の弁護士、欧州委ケース担当者、加盟国の専

門家等が出席する。この聴聞は通常1日であ

るが、ケースが複雑な場合には、5日間かけ

て行われることもある。極端な例では、大き

なカルテル事件であるセメントカルテルのケ

ースでは1カ月間、聴聞が行われた。正式決

定は官報に掲載され、カルテルの存在が肯定

された場合には、排除命令の内容、過料の額

などが公表される。

カルテル事件では、欧州委による事前通知

なしの立入検査が行われる。企業が欧州委か

ら決定によって立入検査を要求されたが、従

わない場合には、欧州委は履行強制金、ある

いは過料を課すことができる。企業の同意を

得ずに、立入検査を強行することはできない

が、各加盟国法によって直接強制が認められ

た場合には許される。立入検査では、欧州委

職員はその場で書類を閲覧し、文書のコピー

などを取得することができる。

現在のところ、立入検査中に企業の役員、

従業員に対し、事情徴収を行うことはできな

い。しかし、この点、規則を改正して、社内

の者に対し質問をする権限を与えるべきだと

する意見がある。

・機密情報の扱いについて

EC条約第287条は、EUの機関やその職員

が職業上の秘密に関する情報を開示してはな

らない旨規定している。また、EU規則によ

っても、情報請求や審査によって取得された

情報は、その目的以外には使用することがで

きない。しかし、非公式の会話から得られた

情報については特に制限は設けられていな

い。また、同規則によって、欧州委職員、加

盟国の職員は、機密情報を漏らすことはでき

ないとされている。欧州委に提出される書類

の書式でも機密情報とそれ以外の情報は区別

して記入することになっており、担当職員に

も明らかに区別ができるようにされている。

保護されるべき企業の機密情報が、当該企

業について欧州委に不服を申し立てている者

に開示された場合、欧州委決定に影響を及ぼ

すかが問題となったが、欧州司法裁判所の結

論では、影響がないとして欧州委決定を支持

した。

また、現在のところ、加盟国競争当局が、

欧州委による情報請求によって企業から取得

された情報を使用して、その国において、自

国の競争法あるいはEU競争法手続を開始す

ることはできない。しかし、加盟国競争当局

は、欧州委によって得られた情報をきっかけ

に、調査を独自に開始し、その調査で得られ

た証拠を使用することは認められている。欧

州委はこの点について立法で改善する必要性

を検討している。

また、欧州委が異議通告書を事業者に送付

する際に、それを加盟国裁判所で使用するこ

とはできないとするのに対し、EU第一審裁

判所は、欧州委にはそのような条件を付加す

る権利はないとした。

b.EC条約第82条

EC条約第82条は、支配的地位にある事業

者の地位の濫用を禁止する。市場における支

配的地位にある企業が取引先の企業に過度の

額を請求する、過少の支払いをする、生産や

市場の制限を要請する、他の取引先と不当な

差別的扱いをする、他社との競争を困難にす

る、他では取得できない製品の供給を拒否す

るなどの例がこれに該当する。独占的地位に

ある企業がその競争相手の支配権を取得する

ことは、たとえ、取得される側に被害がない

としても第82条の対象になる。

2つ以上の事業者の共同支配による市場の

占有について、第82条の支配的地位の濫用が

認められることが、Compagnie Maritime

Belge Transports SA /委員会事件の中で肯

定されている。

c.EC条約第3条

EC条約第3条(g)は、域内市場において競

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争が歪められないことを保証する制度の設立

を、共同体の活動の1つとするとしている。

欧州司法裁判所は、EC条約第81条、第82条

を、第3条に照らして解釈すべきことを幾度

となく示している。例えば、73年のコンチネ

ンタルカン事件において欧州司法裁判所は、

EC条約第82条は、既に支配的な地位にある

企業の直接、消費者を害するような行為を規

制するだけでなく、そのような企業が将来的

に市場の競争を弱めるような行為も、長期的

に見て消費者を害する可能性があるとして規

制するべきと述べている。

④ 企業合併について

EUにおける企業合併、買収は最近のEU経

済の動きとも密接に関わっている。例えば、

ユーロ導入を機にEU企業が影響力を域外に

広げ、世界的規模のM&Aが飛躍的に伸びた

ため、ユーロ圏の対外直接投資は増加の傾向

にある。また1999年下半期のユーロ安は、

EU企業による国際的M&Aが活発化したた

め、EUから資金が流出したことが大きな要

因のひとつと言われている。しかしユーロ安

自体は、必ずしも経済に悪影響を及ぼすわけ

ではなく、EUの2000年の実質経済成長は、

同じ時期に回復し、過去10年で最も好調であ

った。短期的にはM&Aによる資金の流出は

ユーロ相場に悪影響を与えても、長期的には

EU企業の収益性と強化に有益であり、ひい

てはEU経済全体に好影響をもたらすと考え

られている。

また、2000年9月には、パリ、アムステル

ダム、ブリュッセルの証券取引所が合併し、

ユーロネクストが誕生したが、この大規模ユ

ーロ資本市場は、ユーロ圏の大型金融機関、

企業に為替リスクのない資金調達の機会を与

え、調達された資金はM&A等に投入され、

M&Aのグローバル化を助長している。

a.集中(合併・合弁)とEU法

EUにおける合併は、基本的に「企業間の

集中の規制に関する理事会規則」によって規

定されている。規則は、合併のみならず、企

業資産の所有権取得も対象に含む。ジョイン

トベンチャーに関しては、後に述べるように、

フルファンクションの集中的ジョイントベン

チャーだけが対象となる。このように合併以

外のオペレイションを対象に含むため、規則

ではこれらすべてを合わせて集中と呼んでい

る。また、通知、期限および聴聞に関する欧

州委規則は、手続についての詳細を規定し、

集中を届ける際に提供されるべき様式を含

む。そして、集中に付随する制限に関する欧

州委告知は、競争禁止条項、工業上および商

業上の財産的諸権利、およびノウハウのライ

センス、購入、供給契約のような、合併にお

いてよく見られる制限の扱いについて規定し

ている。最近の集中の簡略手続に関する告知

では、規模の小さい合併に対し、簡略手続を

設け、さらに効率的な手続を提供している。

この告知の対象となると、より簡略な手続の

もとで、当事者は1カ月以内に欧州委から決

定を得ることができる。

b.Merger Task Force (合併担当部門)

規則はEU規模を有する集中について単一

のフォーラムを提供している。すなわち、集

中とEU市場との適合審査は、欧州委競争当

局の中にあるMerger Task Forceによって、

例外的な場合を除いて、専属的に処理される。

スタッフの中にはエコノミストも含まれてお

り、経済に関する情報を得るため、経済、金

融を扱っている他の委員会との協力も行われ

ている。

c.手続

・第一段階(予備審査)

EU規模の集中は、当該契約締結後、ある

いは株式公開買付の公表後、もしくは支配的

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持分の取得後、1週間内に欧州委に届けられ

なければならない。届出は任意ではなく、強

制で、フォームCOという決められた様式で

提出されなければならない。この1週間とい

う短く厳格な期間を遵守するため、集中につ

いての契約締結前にある程度の準備をしてお

くのが通常である。特に、競合会社について

の知識をある程度持っておくと便利である。

手続第一段階として、欧州委は、届出受理

後、1カ月以内に手続を開始するかどうかを

決定しなくてはならない。欧州委が手続きを

開始する決定をした場合、第二段階に進む。

・第二段階(本審査)

第二段階では、欧州委は手続開始から4カ

月以内に決定に達しなければならないが、こ

の期間は延長可能である。欧州委がこの4カ

月審査の後、否定的な決定をすることはまれ

である。それは、届出以前、そして第一段階

での欧州委と交渉の機会があるため、また、

欧州委は許可決定に際し、条件を付すことが

できるためと考えられる。例としては、フラ

ンス国営会社Aerospatialeとイタリア国営会

社Aleniaの合弁会社ATRが、Boeingの子会

社であるカナダ法人De Havillandを買収しよ

うとしたケースがある。このケースでは、コ

ミューター用航空機市場が問題になっていた

が、この市場で第1位を占める会社が、第2

位の会社を買収することになるため欧州委は

不許可決定を出した。

この1カ月、および4カ月の期間を遵守す

るためには、欧州委、企業、弁護士間の協力

が必要であり、特に届出前を含めるMerger

Task Forceのケース担当者とのコンタクト

が非常に重要である。事前のコンタクトを通

して、届出の情報が不十分、不正確であると

されて手続が延長される、または不正確な情

報提供のために過料が課される事態を回避す

ることが可能である。また、事前協議の対象

事項としては、届出自体の必要性、届出情報

の一部免除、当該合併についての非公式の見

解等が考えられる。手続の効率性からファッ

クス、電子メールが連絡に頻繁に使われる。

各案件の手続は官報に公表され、インターネ

ットでもみることができる。

欧州委決定に対する控訴はルクセンブルグ

にあるEU第一審裁判所に2カ月以内に提起

されなければならない。

d.欧州委からの情報提供要請

欧州委から、さらに情報を提供するように

要請された場合には、期日内に返答をするこ

とが必要である。規則によれば、欧州委は加

盟国政府、関係当局、事業者、職業団体等か

ら必要な情報を取得できるとされている。欧

州委の情報提供要請に応じる法的義務はな

い。しかし、EU市場で、欧州委の指示を無

視し続け、経済活動を行うことは現実として

は困難である。

情報提供に応じる場合には、正確な情報を

提供しなければならない。また、情報提供後

に提出された情報が、実は正確ではなかった

ことを欧州委に伝えることは困難である場合

がある。

もし、情報提供要請に応じなかったり、期

待された情報が得られなかった場合には、欧

州委は、決定を出す。この決定により、決め

られた期限内に情報が提供されない場合に

は、罰金と日毎に増す履行強制金を課すこと

ができる。この手続は2つの部分に分けられ

る。すなわち、第一の手続が情報請求要請に

応じるためのもの、そして第二の手続が罰金

などに関するものである。

要請される情報の内容は、大変複雑である

こともあるが、ケース担当者との交渉を通し、

同様の目的を達する別の情報提供をすること

によって避けることもできる。課される期限

は短く、6週間を超えることはまれである。

集中のケースでは、情報請求は単にファック

スなどによって送付されてくることも多く、

このような場合は、同様の方法で返答するこ

JETRO ユーロトレンド 2001.7 9

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とができる。

欧州委は、案件を扱うのに必要なすべての

情報を取得する権限を有する。また、どの情

報が必要な情報なのかを決定する広い権限も

認められている。欧州委によって必要と判断

された情報を、企業側が必要ではないと立証

することは困難である。しかし、明らかに不

必要だと見られる情報提供依頼を受けた場合

には、理由を明確に述べて拒否することも可

能であろう。欧州委はそれに対し、企業側の

理由を認めて情報提供要請を諦めるか、決定

によって要請を強制することができる。

この欧州委決定に対しては、EU第一審裁

判所に訴えを提起することができるが、極端

な例を除いて、この手段を取ることは、時間、

費用、判決の有用性などを考えると問題があ

ることが多い。欧州司法裁判所の判例によれ

ば、自ら競争法違反を認めるような情報を要

求することも可能であるとされている。しか

し、欧州委が立証責任を負う違反事実の自認

を強制するような質問は、企業の権利を侵害

すると判断されるであろう。欧州委に、どの

範囲までの情報請求が許されているのかは必

ずしも明確ではない。

一方、加盟国政府や関係当局に対し、欧州

委が決定による情報請求をすることはでき

ず、加盟国競争当局が情報を提供する義務を

負うのかどうかは明らかではない。また、加

盟国競争当局は、各加盟国法により機密情報

の保持を義務づけられていることが多い。

最近のケースでは、ドイツポスト(郵便局)

が、欧州委に不正確な情報を提出したとして

50,000ユーロの過料を課されている。欧州委

は、ドイツポストの行為が、欧州委に誤解を

与えることを目的としてなされたと判断して

いる。また、KLM(オランダ航空)は、欧

州委にその子会社の事業について不正確で誤

解を与えるような情報を提供したとして、

40,000ユーロの罰金を課している。欧州委は、

この情報提供を重過失による行為とした。集

中の当事者ではないにもかかわらず、欧州委

から情報提供を求められたが、情報提供要請

に応じなかったとして、罰金を課されたケー

スもある。

e.手続に従わなかった場合

許可されてない合併が欧州委の最終判断以

前に実施されると、欧州委は決定により、結

合した事業者ないし資産の分離、共同支配の

中止、その他有効競争を回復するために適切

な措置を命ずることができる。また、事業者

が規則に反して合併を実施した場合、もしく

は1週間以内に届出をしなかった場合、欧州

委は事業者の総売上高の10%の範囲内で過料

を課すことができる。過料がきわめて高額に

なりうることに注意が必要である。

EU合併・合弁(集中)規制手続において

は、事件処理において透明性が比較的高いと

言われているが、欠点としてはケース担当者

が大きな権限を持っており、誰がケースを担

当するかによってケースの扱いに差がでるよ

うな印象を与えかねないことが上げられるで

あろう。

f.欧州委の適合性決定

・欧州委の審査

欧州委は、売上高基準を満たす合併が、

EU単一市場を害することにならないかを、

審査する。特に合併取引の効果が、関連市場

にどのような影響を及ぼすのかという点に注

意をしている。

・条件付の適合性決定

欧州委は集中許可決定に、条件および義務

を付すことができる。この条件、義務は当事

者側から、許可を得るために提案することも

多く、欧州委との交渉の重要な部分を成す。

例えば、ネッスルによるペリエ買収の届出に

関する92年の欧州委決定では、買収が承認さ

れる一方、市場に競争相手の存在を許すため

に、商標売却を含み、多くの水源を資金力の

JETRO ユーロトレンド 2001.710

1

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ある独立の買主に売り渡すことをネッスルに

義務づけている。また、SAS/SABENAケー

スでは、合併を許可する条件として、政府が

競合会社にライセンスを与えることを求めて

いる。

g.売上高基準

EU規模であるかどうかの判断は、企業の

売上高の計算によって決定される。

合併規則の対象となる合併は、以下の条件を

満たす必要がある。

・関係するすべての企業の世界全体での総売

上が50億ユーロを超えること。

・関係する企業のうち、少なくとも2社のそ

れぞれのEUでの総売上高が2億5,000万ユ

ーロを超えること。

・関係企業のそれぞれが、EUでの総売上高

の3分の2を超える売上げを同一加盟国で

得ていないこと。

さらに98年3月に、新たな追加的基準が設

けられ、上記の基準を満たさない合併でも合

併規則の対象になる可能性がある。

また、買収に関する案件では、買収企業と

被買収企業は関係事業者だが、株式を譲渡す

る被買収企業の親会社は、関係事業者ではな

いとされる。

信用機関、その他の金融機関および保険業

界に関しては基準が異なる。売上高を計算す

る際には、ディスカウント、売上高に対する

税金、合併当事者同士または、グループ内の

取引はないものとして扱われる。

h.市場占拠率

欧州委の審査の重要な基準の1つとして市

場占有率が上げられる。一般に25%以下は問

題とならないが、40%を超えても強力な競争

者の存在や、低い参入障壁等によりEU市場

を阻害することはないとされることがある。

また極端な例では、80%を超えてもそのよう

に判断される。市場占有率が後退しており、

激しい競争によって将来もその傾向が見込ま

れることも、高い占拠率が問題とならない理

由となる。

i.関連市場の画定

集中がEU市場での競争を阻害しないかを

評価するにあたり、欧州委は、製品と地理的

領域の観点から、市場を分析して審査する。

関連製品市場と関連地理的市場との組み合わ

せによって、影響を受ける関連市場が画定さ

れる。この関連市場が合併によって影響を受

けると考えられ、届出の際に、当事者は欧州

委に対し、この市場に関する情報を提供する

ことが求められる。第81条、第82条違反行為

でも、欧州委による市場分析が行われるが、

集中に関する事件の市場分析は、一般により

緻密である。しかし、公表される欧州委決定

は、限られた時間で準備されるものであって、

市場分析に関する細かい記述はされていない

ものが多い。

関連製品市場画定の例としては、製品の技

術的特徴だけでなく、需要構造および競争条

件をも考慮に入れ、ヘリコプター全体の市場

から軍用ヘリコプターの市場を区別した

A e r o s p a t i a l e / M B Bケースがある。

Aerospatiale/de Haviland ケースの例のよう

に、関連地理的市場がEU市場のみならず、

世界的なものとされることもある。

j.集中に付随する制限

集中の実施に直接関連し、必要とされる制

限は、その集中と同時に審査される。欧州委

は、「集中に付随する宣言に関する告示」に

よって、付随的制限の解釈について述べてい

る。それによると、企業譲渡の場合の競業避

止義務は、付随的制限とされることが多い。

k.共同支配

欧州委は、寡占的な企業間の相互依存状況

によって特徴づけられる共同支配にますます

JETRO ユーロトレンド 2001.7 11

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注目する傾向がある。これは一社による独占

と異なり、少数の同種の会社の集中による市

場の独占を問題にしている。

欧州司法裁判所も、98年のフランスの欧州

委に対する判例によって共同支配を認めてい

るが、欧州委が共同支配を認めるためには、

競争相手に対し、共同して行動していること

を示す確たる証拠が必要であるとしている。

Gencor事件では、欧州委は、プラチナと貴

金属の30~35%の市場を占有することになる

合併を、共同支配によるものとし、EU第一

審裁判所もその決定を確認している。

99年のAir Tours/First Choiceケースでも、

共同支配を理由に、欧州委は集中を阻止して

いる。ここでは、Air Toursが First Choice

の支配獲得を試み、それまで市場には主に4

社が存在していたが、この計画によって3社

による市場支配となることが明らかにされて

いた。Exxson/Mobile事件では、7社による

共同支配を認めている。

l.ジョイントベンチャー

ジョイントベンチャーについてはすべての

ものが、合併規則の対象となるのではなく、

フルファンクションの集中的ジョイントベン

チャーが、前に述べた売上高基準に達する場

合に、合併規則によって規制されることにな

る。

フルファンクション集中的ジョイントベン

チャーとは、経済的に独立した事業体の機能

を永続的に充足するものと、98年の欧州委告

示によって定義されている。ジョイントベン

チャーは、市場へのアクセスが無く、親会社

内のある機能を受け持つだけの場合には、

「フルファンクション」であるとは言えない。

例えば、研究開発部門、生産部門だけが独立

してジョイントベンチャーとされた場合、親

会社の補助的機能だけを行う組織とされ、合

併規則の範囲から外れることになる。

m.EU外で締結される取引への影響

EU規則は、関係企業の国籍に関しては、

何も述べていない。EU市場外におけるEU外

企業間、あるいはEU企業とEU外企業との合

併に規則が適用されるかどうかは、前に述べ

た売上高基準のみによって判断される。すな

わち、日本企業がEU市場に子会社、合併会

社、営業所、代理店等を持たない場合でも、

売上高基準を満たし、EU域内での競争を害

する可能性がある場合にはEU合併規則が適

用される可能性がある。

99年4月、EU第一審裁判所はEU合併規則

の域外適用について判断を下した。南アフリ

カの鉱業に関わる事件で、南アフリカの

Gencor社と英国に本社を置くコングロマリッ

トのLohnro社の合併を禁止した欧州委の決

定に対し、控訴された。南アフリカ独占当局

は既にこの合併を許可しており、EU合併規

則が、南アフリカ国内で行われる場合に適用

されるか、またこのような域外適用が国際法

に反しないかが問題となった。欧州司法裁判

所はこの点につき、EU合併規則は国際的な

規模を持つすべての合併に適用されうること

を明らかにした。またこの事件では、合併に

よって独占的地位が築かれ、EU市場におけ

る競争に大きな障害が生じることによって

EU合併規則の範疇に入ることも示された。

EU合併規則の域外適用については、両当事

者が米国の事業者であるBoing/MDD事件で

も問題になったが、大きく取り上げられるこ

とはなかった。

(2)国家援助

国家が恣意に援助を与えることは、市場に

おける競争を歪める。国家援助はEU競争法

の重要な部分を成し、EC条約第87条から89

条までによって規制されている。ここでいう

援助は広い意味を持ち、単に資金を与えるだ

けではなく、低い利子での融資、国家が企業

の負債を保証する等、国が経済的な利益を企

JETRO ユーロトレンド 2001.712

1

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業に差別的に与えることを意味する。欧州委

が援助を許可する権限を持っているため、各

加盟国政府によって欧州委に通知され、その

許可を得ていないすべての国家援助は違法と

なる。欧州委は、既に支払われている援助も、

違法とされたものは払い戻すことを要求する

ので、欧州委に通知がなされていない援助を

受け取ることは危険である。また、ここでい

う国家には地方公共同体等も含まれる。

EUにおける国家援助は、80年代と90年代

半ばに増加しており、これは失業率の上昇等

加盟国の経済状態と密接に結びついており、

政治的な要素が非常に強い。欧州委の国家援

助に関する決定に不服がある場合には、EU

第一審裁判所に訴えることになる。

国家がある企業に援助を与えたことで、そ

の競合企業が損害を被った場合には、援助を

与えた国家に損害賠償を請求することも可能

な場合がある。

86年のベルギーが問題になったケースで

は、セラミックス製造企業に、4億7,500万

ベルギーフランの資本参加をしたことが、第

87条(当時は92条)に違反するとされた。欧

州委からの決定に対し、ベルギー側は、この

会社が閉鎖することの社会的影響の深刻さを

強調する書面を欧州委に送付する。またベル

ギー国内法においては、会社資本金の返還は

認められないと説明した。しかし、欧州司法

裁判所は、加盟国国内法を理由に、欧州委か

らの決定に基づく義務を拒否することはでき

ないと述べ、ベルギー側の主張を退けた。

第三国の企業に対する地域投資援助もEU

国家援助規則上、問題になることが多い。

援助を受けた企業は、援助を受けなかったら

他の地域あるいは他の国に移動しなければな

らなかったなどの説明をしなければならない

ことがある。

(3)競争法に関する国際協力

日本・米国・EUの独占当局は、経済協力

開発機構(OECD)、世界貿易機構(WTO)

での議論を通じて、国際的企業買収のみなら

ず、企業間の国際提携や合弁等を監視してい

くことで合意している。

二国間協定レベルでは、米国・EU間で、

独占禁止法に関する協力協定が既に結ばれて

おり、EU市場に関する合併に関しても、米

国独占禁止法当局がかなりの情報を欧州委に

提供しているのが現状である。WorldCom/MCI

ケースでは、米国当局のスタッフが、ブリュ

ッセルでの欧州委の審議に出席するなど、両

当局は協力体制を強めている。また、2001年

に入って、欧州委がCDの価格設定カルテル

の調査を始めたとの報道がされているが、調

査の発端は、欧州委がEMIとタイムワーナー

のジョイントベンチャーの審査の際に得た情

報と、米国で昨年行われた同様のケースにつ

き米国競争当局から欧州委に通知された情報

による。

合併が、許可される場合どのような条件が

付けられるかということについても両当局間

で討議されることがある。例えば、米国当局

は、Boeing/MDDケースを許可する際、特に

条件を付すことを考えていなかったが、欧州

委は一部の資産の分離を米国側に提案し、米

国側はそれが困難であることを欧州委に予告

したため、欧州委はその案を諦めることにな

ったという経緯がある。

現在のところ、当事者の許可なしに、ビジ

ネスシークレットなどの機密情報を独占当局

間で交換することはできないことになってい

るが、これを可能にする協定についてEU側

は調査をすでに始めている。この協定が締結

されることになると、例えば、欧州委に提出

したEU企業のセンシティブな情報が、米国

側に流れることになり、EU企業が慣れない

米国独占禁止法によって規制される危険にさ

らされることになるとして、EU業界は強く

反対している。

日本・EU間でも独占禁止法に関する協力

JETRO ユーロトレンド 2001.7 13

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協定の準備が進んでおり、既にその内容につ

いては合意に達しているとのことで、EU側

の条約手続が順調に進めば、近くEU・日本

間の競争法に関する協力協定が締結される予

定である。この協定によって、欧州委と日本

の公正取引委員会、両競争当局は国際的競争

法に関するケースについて、情報を交換し、

それぞれの国内法の許す範囲で協力体制を設

けることができることになる。具体的には効

率的な情報収集、反競争的な行為の早期終結

が上げられる。さらに、競争法執行について

の相互理解も高まると考えられる。企業にと

っても、両競争当局から相反する要求をされ

る危険が少なくなり、効率的に手続を進める

ことができるという有利な点がある。しかし

EU・米国間の協定締結状況に比べると、

EU・日本間の協定による協力体制は、初歩

的段階であると言える。

(4)EU競争法を巡る最近の動き

① 欧州委のEU競争法改革提案

欧州委は、2000年9月にEC条約第81条お

よび第82条の実施規則についての提案を採択

した。その中でEC条約第81条第3項(個別

適用免除)を、国内競争当局も適用できるよ

うにすべきとの意見は、現在の手続からの大

きな変化を意味する。またこの提案によると、

加盟国当局は欧州委に適用免除が認められた

場合でも、当該国における市場に関する場合

のみ、適用免除を取り消し、EC条約第81条、

第82条違反を宣言することができる。

この権限の非集中化は、EU競争法適用執

行に関し、加盟国競争当局と国内裁判所の介

入を促すものであるが、同時にEU競争政策

が各加盟国の競争法を基本にする過去の体制

に逆もどりすることを意味するのではないこ

とを強調している。意思決定機関が私人によ

り近づくことは、より共通競争政策を広め、

EU競争ルールの受容を促進するために重要

なことであるとしている。また欧州委が、よ

り重要なケースに集中して効率的な手続を保

証するために、権限の非集中化は、役立つと

考えられている。

問題点としては、15加盟国の中で、有能な

競争法執行機関を持つ国や、競争法立法自体

が最近であり、経験を豊富に持たない国があ

り、ケースの取り扱いに差が出ることが予想

される。また、各加盟国の競争法が統一され

ておらず、各加盟国法の調査、届出準備など、

企業側に大きな負担が掛かることが考えられ

る。この点は、特にEU拡大が進展するに従

って、深刻な問題となるであろう。

② 垂直的制限規制

2000年6月1日から施行されている垂直的

制限についての一括適用免除規則は、異なる

流通レベル(製造者と販売者等)の事業者間

協定を対象とし、フランチャイズ契約などに

適用される。旧規則は、市場占有率1パーセ

ントの事業者も、市場占有率100パーセント

の事業者も同一の取り扱いをし、経済的手法

により、法的なアプローチを重視し、現実に

合致していないという批判を受けていた。

垂直的制限についての一括適用免除規則の

改正で、大きな変化を受けるのは、最高価格

設定と推奨販売価格であろう。再販売価格維

持は、一般に禁止されているが、最近まで、

最高再販売価格を設定することが許されるか

どうかは明確ではなかった。また、推奨価格

は、一定の条件の下で、許されていた。新一

括適用免除規則は、常に、再販売価格設定や

最低再販売価格設定を禁じているが、供給者

に最高販売価格を設定することと推奨価格を

提案することは許している。しかし、この自

由は絶対的なものではなく、販売者は常に独

自に価格を設定する自由を有するとされ、供

給者が価格維持を条件に、販売者に割引を認

める等の行為は、価格の強制と見なされ違反

となる可能性がある。

JETRO ユーロトレンド 2001.714

1

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③ 集中審査手続中の競争を回復する手段に

ついての見直し

EU合併規則に関する最近の改正の動きに

ついては、競争を回復する手段についての欧

州委告示がある。事業者は、欧州委に合併許

可の条件として一定の競争を回復する手段を条

件として提示することがある。2000年12月21

日のこの告示は、企業合併手続の法的拘束力

を持つ厳格な締め切りの重要性を強調してお

り、特に複雑な事件について問題としている。

過去の例に見ると、欧州委は、監視が必要な事

業者の行動上の条件よりも、事業の一部の売

却のような構造上の改革をより好んでいる。

④ 航空会社間乗入運賃協定についてのEC

条約第81条適用免除規則の見直し

欧州委は現在、異なる多数の航空会社の相

互乗入れを容易にするため、旅客運賃につい

ての協議をすることは、EC条約第81条に違

反しないとする従来のEU規則を、2002年6

月30日以降も継続するかについて内外に意見

を求めている。この規則は、実際には、IATA

(Multilateral Interline Traffic Agreement)だ

けを対象としている。ちなみに、IATAは、

34カ国のヨーロッパ航空会社が会員となり、

年会合を開き、国際線運賃を決定し、異なる

航空会社を使用する場合のチケットの販売、

決済等を行っている。しかし、IATAに頼ら

ずとも、近年、2社間の相互協定やアライア

ンスなどによって同様の結果を得ることがで

きるようになってきたため、特にこの団体だ

けをEU規則によって保護する必要に疑問が

出ている。

IATAは、92年のエアーリンガス/ブリテ

ィッシュミッドウェイ事件でも問題とされ、

ここでは支配的地位にあるエアーリンガス

が、ロンドン、ダブリン間の乗入れを希望し

ているブリティッシュミッドウェイのIATA

参加を拒否しながら、自らはIATAの協議に

出席したことが、EC条約第81と第82条違反

になると主張された。

(5)最近の注目された競争法に関する欧州委

決定

① 買収不許可決定

欧州委は、フィンランドのティッシュペー

パー製造者であるMetsa Tissueをスウェーデ

ンのSCA Molniyckeが買収しようとした件

で、この買収が26の関連市場において支配的

地位を創設、強化し、消費者の選択を制限し、

製造者に価格の上昇を許すことにつながると

して不許可決定を出した。90年にEU集中規

則が施行されてから、既に1,500以上の届出

が欧州委に出されているが、不許可決定は、

この事件で14件目である。

② スポーツイベントとEU競争法

95年に欧州司法裁判所がボスマン事件で、

フットボール選手に関する判決を下してか

ら、スポーツイベントとEU法の関係が注目

を浴びている。

サッカー連名は95年7月に、同連盟の選手

移籍制度はEU競争法に違反しないとするよ

う欧州委の意見を求めて、欧州委に、一括適

用免除申請の届出を提出した。一方、ベルギ

ー国内裁判所は、欧州司法裁判所にEC条約

第39条(労働者の自由移動)、第81条(不当

な協定の禁止)、第82条(支配的地位濫用の

禁止)の解釈について先行判決を求めていた。

EU法上、加盟国裁判所は、EU法について判

決を下すにつき、疑問がある場合、欧州司法

裁判所にその点につき判断を求めることがで

き、これを先行判決と呼ぶ。この制度に従っ

て、欧州司法裁判所は95年12月、サッカー連

盟の規定する選手の国際移籍と選手の国籍に

関する規則を問題とする判決を下した。

この中で、欧州司法裁判所は、サッカー連

盟の規則は、第39条違反であることを宣告し、

第81条、第82条については、解釈の必要がな

いと述べただけであった。この判決に続き、

JETRO ユーロトレンド 2001.7 15

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欧州委は、サッカー連合に対し、当該規則が、

EC条約第81条に違反するとの警告を出して

おり、これは前述の欧州委に対する一括適用

免除申請が認められなかったことを意味す

る。その後、選手の国際移籍に関するサッカ

ー連盟の規則については、2001年3月5日の

モンティ欧州委競争担当委員と国際サッカー

連盟会長との会談で、一応決着がついたとさ

れている。

ボスマン事件では、ベルギー国内裁判所は、

国際サッカー連盟の規則が、優秀な選手を獲

得する競争を害し、第81条で禁止されている

企業間の不当な協定に該当するとされた。つ

まり、選手移籍の際に支払いを要求されるこ

とは、移籍を困難にし、選手の報酬を減額す

る効果を持ちうる。また、国籍による制限を

設けることは、外国選手の活動を制限する。

そして、選手の自由な移籍を制限することは、

加盟国間の取引に影響を与えうる。第82条に

ついては、ベルギー・サッカー連盟あるいは

すべてのサッカーチームの共同支配という形

での、支配的地位の濫用による競争の制限が

懸念された。このような判断の背景として、

サッカーチームの中には、既に国内サッカー

連盟より実質的権力を持っているものや、株

式市場に上場していたり、自己のTVチャン

ネルを所有するチームも存在するという事実

がある。

EU競争法とスポーツに関するより最近の

事件では、2000年4月11日の柔道選手に関す

る欧州司法裁判所判例がある。ここでも、

EU競争法の適用可能性についてが問題にな

った。サッカーと同様、ヨーロッパにおける

柔道組織は、ヨーロッパ柔道連盟に、ヨーロ

ッパ各国の柔道連盟が所属するという形にな

っている。この事件では、柔道選手が、国際

競技参加を拒否されたことを理由に、ベルギ

ーのフラマン系柔道連盟、ベルギー柔道連盟、

および同会長に対して訴えを起こした。ベル

ギー国内裁判所は、欧州司法裁判所に先行判

決を提起し、国際競技に参加するためには、

これらの柔道連盟の許可を得なければならな

いという柔道連盟の規則が、EU法、すなわ

ち、第49条(サービスの自由移動)、第81条、

82条違反であるかどうかについての判決を求

めた。欧州司法裁判所は、関連市場、関連企

業、加盟国間の取り引きの存在、程度を定義

するために必要な情報を欧州司法裁判所が得

ていないため、競争法に関する判断はできな

いとし、サービスの自由移動に関する49条に

ついてのみ判断した。

また、2000年4月13日には、バスケットボ

ール選手に関する事件の欧州司法裁判所判決

も出ている。ベルギー国内裁判所が、第39条

(労働者の自由移動を保証する規定)、第81条、

第82条等に関する解釈について、先行判決を

求めた。国際バスケットボール連合の、選手

国際移籍に関する規則は、すべての国内バス

ケットボール連盟に適用されることとなって

おり、国内移籍については、国際バスケット

連盟の精神に基づいて、ガイダンスとして推

奨されている規則を採用することが促されて

いた。この規則では、外国選手は、他の国の

チームで競技する場合、その国のバスケット

ボール連盟の許可を得ることが必要とされて

いた。フィンランドの選手がその許可を得ず

に、ベルギーのチームに参加したため、この

チームはベルギーバスケット連盟によって罰

せられた。この事件でも、欧州司法裁判所は、

ベルギー国内裁判所からの競争法に関する先

行判決に答えるためには、より十分な情報が

必要だとして先行判決要求を拒否している。

終わりに

EU競争法は、EU法の中でも大変動きの活

発な分野であるとともに、EU内外の企業が

重要な決定をする際に、考慮に入れるべき重

要な事項を含んでいる。適切な知識、判断、行

動が、ビジネスにおける時間、労力、費用を

大きく削減することにつながると考えられる。

JETRO ユーロトレンド 2001.716

1

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 17

国家補助金承認には複数候補地との選択可能性が重要(英国)ロンドン・センター

企業の合併に関する規則は、EUにおいて

は企業合併規則、英国においては公正取引法

に記されている。本レポートではまず、両者

における合併の定義や対象となる企業などを

概観する。次に、国家補助金支給に関し、周

辺国において違法とされた判例や英国におけ

る最近の承認事例などを紹介する。

1.英国の国内法とEUの規則との関係について

企業の合併に関する規制は、EUにおいて

は企業合併規則EC4064/89(The EC Merger

Regulation、以下ECMRと略す)に、英国法

においては1973年公正取引法(Fair Trading

Act 1973、以下FTAと略す)に記されている。

両者の関係において留意が必要なことは、

通常ECMRが適用される場合、EU加盟国は

その国の合併規制に関する法律を適用するこ

とはできないということである。ただし、加

盟国の利権が、該当する取り引きによって著

しく影響を受ける場合のみ上記の原則の例外

と見なされ、加盟国は当該国の合併規制法の

下でその取り引きを調査することができる。

すなわち、加盟国の国内市場において、その合

併が支配的地位を創出または強化し、その結

果として有効競争が著しく害されるおそれが

ある場合には、加盟国はその旨、欧州委員会に

通告することができ、欧州委員会が各国国内

法の同時適用について判断することとなる。

このように、ECMRとFTAは非常に特異

な状況下においてのみ同時適用され、通常は

どちらか一方のみが適用されるということに

留意が必要である。

どちらの法律が適用されるかは、①合併ま

たは買収の可能性の有無、②当事者の規模、

の2つの要因によって決定されるが、ECMR

が適用されない場合は、英国の法律が適用さ

れるか否かを確認するだけでなく、他加盟国

の法律が適用されるか否かも確かめる必要が

ある。

(1)ECMRにおける合併の定義

ECMRにおける合併、買収の定義は「企業

集中(concentration)」とされており、かかる

企業集中は以下のいずれかの場合に生じる。

①2つ以上の独立した事業者(business)が

合併する場合

②1つまたは2つ以上の事業者が、1つまた

は2つ以上の事業者の支配権を部分的また

はすべてにおいて獲得する場合(前者が後

者に対して以前に支配権を有していたか否

かは問題とされない)

③自律(autonomous)的経済体のすべての

活動を行う合併企業が設立された場合、こ

の企業は企業集中を構成する。従って、完

全に独立した合併企業が既存の事業から設

立される場合(以前に何も事業の行われて

いない状況下で新しく設立された経済団体

とは明らかに異なる)、その企業はECMR

下では合併と見なされる。一方、合併企業

がリサーチ、開発、販売など特定の目的の

ために設立され、顧客対応、資産などの面

で親会社に依存している場合は自律的経済

体のすべての活動を行っているとはいえ

ず、ECMR下では合併とは見なされない。

(2)FTAにおける合併の定義

FTAにおける合併の定義はECMRにおけ

る定義と多少異なり、FTAは「合併の状態」

を、「2つ以上の事業者が各々別個の企業と

しての存在を継続しなくなる場合」と定義し

ている。

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簡潔には企業とは得意先、顧客を有する団

体のことである。企業の支配権が他に移る時、

その企業は既に支配権を有していた時の企業

とは別個の企業と見なされる。また、FTA

は概して支配権の移動を伴う合併企業の設立

にも適用される。

(3)事業者の規模

ECMRは該当する事業者がある一定の売り

上げを満たす場合のみ適用される。

ここで、「該当する事業者(以下当事者と

記す)」とは、①合併する企業、②一企業

(支配を受ける企業)の合同支配権を獲得す

る企業(売主は除かれる)を指す。また、対

象となる総売上高は事実上の世界向け売上高

であり、該当企業は欧州における実質的な存

在を必要とする。

ECMRが適用される当事者の規模要件は、

①当事者すべての全世界での合計年間売上高

が50億ユーロ以上

②当事者の少なくとも2社のそれぞれの共同

体内での売上高が2億5,000万ユーロ以上

③当事者の各々が共同体内売上高のうち3分

の2以上を同一加盟国内で得ていない

という条件をすべて満たすか、

①当事者すべての全世界での合計年間売上高

が25億ユーロ以上

②当事者のうち少なくとも2社のEU域内の

年間売上高がそれぞれ1億ユーロ以上

③加盟国3カ国以上のそれぞれにおいて、当

事者すべての年間売上高の合計が1億ユー

ロ以上

④③の要件に合致する加盟国3カ国のそれぞ

れにおいて、当事者のうち少なくとも2社

の年間売上高がそれぞれ2,500万ユーロ以上

⑤当事者のいずれも、同一加盟国において、

EU域内における年間売上高の3分の2を

超える売り上げを有しない

という条件をすべて満たす場合である。

一方、FTAの適用規模は次のどちらかの

条件が満たされることである。

①引き継がれる全世界資産の総価値が

7,000万ポンドを超える場合

②取り引きの結果、英国における特定種類

の商品もしくはサービスの供給あるいは消

費において25%以上の市場占有率が創出さ

れる場合、あるいはそのような市場占有率

に拡大される場合

(4)対象となる企業

ECMRは、取り引きにかかわる事業者が売

上高の条件を満たした場合、すべての取り引

きに適用される。そしてターゲットとなる事

業のEUとの関連、その他の事業者の事業が

EUを基盤としているか否かは問題とされな

い。従って世界的な規模を有し、かつ欧州で

事業を行う企業団体が欧州外の取り引きによ

ってECMRの条件を満たしてしまうことは稀

なことではない。

対照的に英国のFTAは、別個の企業とし

て存在しなくなったうちの少なくとも一つの

企業が英国内で事業を継続する場合、または

英国で組織された企業体に支配されている場

合のみ適用される。従って英国で組織された

子会社、支店または部門を有さない企業に対

しては、地域的なつながりが取り引きと英国

の間に存在しないため、FTAは適用されない。

(5)報告の義務について

ECMRが適用される場合、欧州委員会への

報告は法的義務であり、①合併契約締結、②

公開入札(a public bid)、③支配権の獲得、

のうちのいずれか最も早い時点から一週間以

内に報告されなければならない。この義務を

怠った場合、委員会は1,000ユーロ以上5万

ユーロ以下の制裁金の支払いを命ずる権利を

有する。なお、該当する取り引きが報告無し

に完了された場合、委員会は該当する事業団

体の全世界総売上高の10%を支払うことを命

ずることができ、またその取り引きを無効と

JETRO ユーロトレンド 2001.718

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することができる。

FTAが適用される場合、報告は法的義務

ではなく、それを怠った場合に罰金を課せ

られたり、該当する合併が法的に無効とさ

れることはない。唯一の例外となるのは買

収法(Takeover Code)が適用される入札

で、この取り引きは買収法に定められた法

規の条件を満たした場合は常に報告が義務

付けられる。この場合、報告先は公正取引

庁(OFT)であり、判断は貿易産業大臣に

委ねられる。

取り引きに先立ってOFTから秘密指導

(confidential guidance)を受けることが可能

であるが、取り引きが公になった場合、

OFTは第三者の意見を基に取り引きを再審

査する場合がある。

(6)実質的テスト

ECMRにおいてのテストは該当する企業集

中が「支配的地位を創出するか、あるいは強

化するか」の是非である。この条件を考慮す

るにあたり重要なのは、当事者のある特定の

生産品の総市場占有率と市場の地理的要素で

ある。考慮される要因は、市場構造、共同体

内外の現実のまたは潜在的な競争、市場にお

ける当事者の地位・経済力、関連商品の需給

動向、参入障壁、消費者の利益となる技術進

歩と経済発展などである。

FTAにおいては、貿易産業大臣が取り引

きの公益性について審査する。この審査に

おける判断基準は競争という概念よりも広

範のものであり、考慮される要因は、英国

における競争の維持と促進、英国における

その商品・サービスの消費者、購入者、そ

の他の使用者の利益(価格と品質の多様性)、

コストの削減と新技術の開発、市場参入の

促進、英国における産業と雇用のバランス

のとれた配置の維持促進、輸出の維持促進

などである。

2.国家補助金について~周辺国における違法判例と英国の認可事例~

2000年4月に発表された「EUにおける国

家補助金調査(第8回)」(Eighth Survey on

State Aid in The European Union)による

と、英国における国家補助金額(96年から98

年における3年間の平均値)は58億8,100万ユ

ーロであり、そのうちおよそ25%の14億5,400

万ユーロが製造業への補助金となっている。

製造業に対する補助金の内訳は、研究開発や

中小企業などを対象とした水平対象補助金

(Horizontal objectives)が39%、鉄鋼や造船の

ような特定産業を対象とした補助金(Parti-

cular sectors)が1%、北アイルランドなどある

地域を対象とした補助(Regional objective)が

60%と、地域産業振興を目的とした補助金の

割合が高い。なお、地域対象補助金のうち、

欧州条約第87条3項(c)「特定の経済活動もし

くは特定の経済地域の開発を促進するための

援助で、共通利益に反するほど貿易条件に悪

影響を与えないもの」に該当する補助金は

68%、第87条3項(a)「生活水準が異常に低い

地域もしくは深刻な雇用不足の生じている地

域の経済開発を促進するための援助」に該当

する補助金は32%となっている。

国家補助金とEU競争法の関係では、その

補助金が特定の企業または特定の生産に便益

を与えることによって競争を歪めたり、歪め

るおそれがないかという点が論点となる。英

国においては、最近、国家補助金が違法と判断

され、返還が求められた事例は見当たらない

が、国家補助金が違法と判断された場合にど

のような措置がとられるかについて、隣国の

状況などを参考に紹介し、次いで英国におけ

る承認の事例について紹介することとする。

(1)違法補助金の調査と回復

委員会の最も重要な役割のひとつは、不法

な補助金の停止および回復に関連するもので

JETRO ユーロトレンド 2001.7 19

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ある。規則は、問題となる国家補助金につい

て詳しい調査を行う権限、決定が下るまでそ

の補助金支給を停止し、また既に支払われた

補助金の回復を求める権利を委員会に与えて

いる。回復とはその補助が行われる前の市場

条件が回復されることであり、補助金受給者

は受領した補助金の払い戻しを強いられるこ

とにより、競争相手に対し補助金受給により

享受していた有利な立場を失うものとみなさ

れる。

(2)停止および回復指示(Suspension and

recovery injunction)

委員会は、補助金の共同市場との整合性に

ついて決定を下すまで、その補助金を停止す

る決定(停止指示)を採択することができる

(ただし、この停止は将来の支払いにのみ関

係する)。委員会はまた、以下の条件が満た

される場合、補助金の整合性に関する最終決

定が下される前にその補助金の回復を暫定的

に求めること(回復指示)ができる。

①慣習(an established practice)に従っ

て、当該措置の補助金としての性格につ

いて全く疑いがない

②行動を起こす緊急の必要性がある

③競争相手に対する実質的かつ回復不能な

損害という重大なリスクがある

委員会は、委員会決定94/220/EC(1994年

1月26日付)で停止指示を発する権限を行使

した。これはグループ・ブル(Groupe Bull、

以下ブルと略す)に支給された補助金の支払

い停止をフランスに命じたものである。フラ

ンスは、ブルに同社の資本再構築を援助する

ために財政援助を与えたが、委員会はこの支

払いは通常の市場状況下で活動する民間投資

家によっては、なされなかったであろうとい

う理由で、同資金投入は補助金であると判断

した。これは、ブルの危機に瀕した財政状況、

および40億フランを除く目下の財政援助のす

べてがブルの再編成完了時に消去されるもの

と予測されていたという事実によって立証さ

れた。

委員会はフランスに、同補助金のブルへの

支払いを直ちに停止し、補助金の共同市場と

の整合性を調べるために必要なすべての文

書、情報および詳細を委員会に提供すること

を命じた。

(3)回復命令

補助金が違法という決定が下された場合、

委員会は当事者である加盟国がその補助金を

回復するために必要なあらゆる措置を取るこ

とを命令する。これは「回復命令」と呼ばれ

るが、回復が共同体法の通則(比例の原則、

法的必然性の原則など)に反する場合、回復

は求められない。補助金が違法という決定は、

それが当事者である加盟国に何を要求するの

かを正確に明示する場合に限って効力を持

つ。委員会はまた、違法補助金がその受益者

に受領された日から回復時点までの利息も支

払われることを命令する。

欧州司法裁判所は、回復は適切な国内法規

を適用することにより実行されなければなら

ないが、加盟国は補助金の返済に反対するた

めに国内法の規則を引き合いに出すことはで

きないという原則を、これまで数度にわたっ

て再確認している。

「委員会対ベルギー」のケース(CaseC74/89

[1990]ECR 1-492)では、ベルギー政府は一

定期間の地域化(regionalisation)に伴い、

同地区(area)の法的権限は国家から地域

(regions)に移行したという理由で、委員会

により不法であると宣言された補助金の回復

を怠った。欧州司法裁判所は、加盟国は共同

体法により発生する義務の遵守不履行を正当

化するために国内法の手続き規定あるいは規

則を引用することはできないというのは確立

された法制(established jurisprudence)で

あると判断し、このベルギー政府の主張をし

りぞけた。

JETRO ユーロトレンド 2001.720

1

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さらにこのアプローチは、その前の「委員

会対ベルギー」のケース(Case 52/84 [1986]

ECR 89)でも見られる。同ケースで委員会

は、ベルギー政府は補助金を回収するように

命令する委員会の決定に従わないことにより

条約に基づく義務の遂行を怠ったと主張し、

受け入れられた。欧州裁判所は、支払われた

金額を完全に回復することは「不可能」であ

るという事実によってもベルギー政府がその

金額を回復するという義務を免じることはで

きないと判断し、次のように述べている。

「…委員会の目的は補助金を回収すること

である。その目的は会社を解散する手続きに

より達成することができたのであり、ベルギ

ー政府は株主あるいは債権者としての資格で

この手続きを開始することができた」

このように、結果的に受益者が破産するか

らといって、加盟国が違法な国庫補助金の回

復義務を免除されることはなく、加盟国がこ

の義務を免れることができる唯一の道は、回

復が「絶対的に不可能」とされる場合である。

この要件が一定の受益者に引き起こす損害を

軽減するために、理事会規則(EC)No

659/1999第11条2.は、委員会が補助金の返

済を当事者である企業に対する救済補助金の

支払いと連結することを認めている。

加盟国は通常、一回払いの返済によるのか、

問題があるとされた契約条件の修正によるの

か、回復を実現させる方法を決定するにあた

って、ある程度の裁量権を持つと考えられて

いる。補助金を回復するために何が要求され

ているのかが明らかでない場合は、加盟国は

EC条約の協力義務によって、解決に向けて

委員会と協力することを義務付けられる。し

かしながら、欧州委員会の決定は補助金を回

復する手段を特定することもあり、その場合

加盟国は全く裁量権を持たず、委員会の決定

を不服として訴える可能性のみが残される。

(4)英国における最近の補助金支給承認事例

について

先にも述べたが、英国における国家補助金

返済の最近の事例は見当たらない。ここでは

委員会による国家補助金の承認にあたり、ど

のような点が審査されているかということに

ついて下記の欧州委員会によるプレスリリー

スに関する事例についてみることとする。

「欧州委員会は、①英国政府の日産自動

車への補助金(英サンダーランド工場に

おける新型プリメーラ製造に対する投資

に500万ポンドの補助金を支払うこと)

を承認したこと、②同工場における新型

マイクラの生産計画に対する補助金支払

計画については審査手続きを公開するこ

と、③英国政府の申請取り下げにより、

ローバー(BMW)のロングブリッジ工

場に対する補助金支給に関する審査は打

ち切ることを決定した(2000年9月20日

発表)」

欧州委によると、日産自動車は99年1月時

点では新型プリメーラの製造を国内の九州工

場のみで行う意向であったが、ルノーとの資

本提携後、製造を2拠点(英サンダーランド

と九州)で行うことにし、サンダーランド工

場からの製品は欧州に、九州工場からは他の

地域に向けて販売する方針に変更した。この

計画に対する英国政府による補助金支給に関

し、欧州委は、地域、雇用、競争への懸念、

複数候補地の選択可能性(モビリティ)(注1)

という観点について次のような審査を行って

いる。

①地域

サンダーランドは欧州条約第87条3項(c)

「特定の経済活動もしくは特定の経済地域の

開発を促進するための援助で、共通利益に反

するほど貿易条件に悪影響を与えないもの」

が規定する地方支援エリアに当たる。EUの

JETRO ユーロトレンド 2001.7 21

(注1)当該企業が他の地域でも同じプロジェクトを実行することが経済的に可能なこと

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英国向け地域助成計画2000~2006によると、

サンダ-ランドの地域シーリング(投資額に

対する補助金の割合の上限)は20%である。

②雇用

99年の同地の失業率は7.7%と英国平均の

4.2%を大きく上回っている。日産は、同地

域最大の約4,800人を雇用し、さらに同地域

の部品メーカーなど日産に関連する企業では

7,000人以上が雇用されている。

プリメーラを同地域で製造することによ

り、直接、製造にかかわる1,000人以上の雇

用が保証され、現在の製造規模が維持される

ことにより長期にわたり地域の活性化を維持

することにも貢献する。

③競争への懸念

欧州委は補助金の影響について、今回の計

画が地域開発に与える利益と製造能力の強化

というような競争力の歪みを引き起こす危険

性について並行して評価を行った。この結果、

今回の計画により製造能力が増強され競争が

歪められることはないとした。

④モビリティ

対象計画のモビリティを評価するため、費

用利益分析(cost-benefit analysis:CBA)

が実施され他の候補地との比較が行われる。

ただし、補助率が地域シーリングの20%以内

であればCBAは必要ない。今回の補助対象

に対する補助率は4%以下(注2)の2.96%であ

るので、CBAは行われていないが、補助率

はサンダーランドの構造的ハンディキャップ

を補うという目的に合致しているとされた。

一方、新型マイクラおよびローバー・ロング

ブリッジ工場に関する案件は共に審査が公開

されモビリティについて精査が行われている。

新型マイクラの場合、補助率は18.62%で

あった。対抗地フランス(ルノー・フリンツ

工場)とのモビリティについてCBAが行わ

れたが、フリンツに対するサンダーランドの

地域ハンディキャップ率(コストなどの要因

を加味して決定)は32.48%と判定され、補

助率が、地域シーリング、ハンディキャップ

率のいずれも下回ったことから、補助金支給

は問題がないとされた。

一方、ローバーに対する補助は、BMWが

ロングブリッジ工場を売却したことによって

取り下げとなったことから欧州委の最終的な

判断は下されなかったが、対抗地ハンガリー

とのモビリティの問題について調査が行わ

れ、審査に時間を要していた。

補助金が認められるための必要条件は多々

あるものの、地域開発、雇用問題、適正な競

争に対する影響をクリアした後の大きな問題

として、「複数の候補地がどちらにも決め得

るというぐらい競っている」というモビリテ

ィが重要と言える。

(菊池 仁)

JETRO ユーロトレンド 2001.722

1

(注2)サンダーランドの地域シーリング20%の20%は4%

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 23

EUと独で適用基準や企業集中概念に違いベルリン・センター

EUとドイツの競争法・企業集中規則を比

較すると、適用基準や企業集中概念などに違

いがある。企業合併の場合、EUでは欧州委

員会、独では連邦カルテル庁に申請をする必

要があるが、その手続きが異なるため、注意

を要する。企業に対する補助金について、欧

州委にその旨申請し認可を受ける必要があ

る。ドイツの場合、欧州共同体設立(EC)

条約第87条で「ドイツ分割により影響を受け

た特定地域へ不利益を補償する援助は共同市

場と両立する」と規定されており、東部ドイ

ツ企業への補助金申請が多い。ただ、個別事

例をみると、ザクセン州のフォルクスワーゲ

ンへの補助金が認められなかった事例もあ

る。

1.EU・ドイツとの競争法・企業集中規則の比較

(1)適用の判断基準:EU・ドイツ法とも売

上高がカギ

EU企業合併・合弁(集中)規則(4064/89)

は、合併が「EU規模の重要性、すなわち1

加盟国のみでなく、複数の加盟国に影響を及

ぼす可能性」を有するすべての場合に適用さ

れる。合併がEU規模の重要性を有するか否

かを判断する際には、合併に参加する企業の

売上高が重要な基準となる。ドイツ競争法が

適用されるのは、EU規模の重要性が認めら

れない場合、例えば、欧州委員会が当該案件

をドイツの所管官庁に委ねた場合、あるいは

申請に基いて欧州委が行動を控えた場合に限

られる。その際、ドイツの合併規制の適用を

決定するのは、EU法同様、企業の売上高で

ある。EU法で当該企業全社の全世界での売

上総額が50億ユーロを超え、さらに少なくと

も2社のEU内での売上高がそれぞれ2億

5,000万ユーロを超える場合は、これらの企

業の合併はEU法の適用対象となるのに対し、

ドイツ法では当該企業全社の全世界での売上

総額10億マルクを超え、少なくとも1社のド

イツ国内売上高が5,000万マルクを超えてい

る場合となっている。ただし、年間売上高

2,000万マルク未満の小企業、ならびに過去

5年間の年間売上高が3,000万マルク未満の

些細市場については、合併規制の適用対象外

となっている。

(2)企業集中概念の解釈:ドイツ法では25%

取得で合併

EU法では合併規制の適用を必ず受けるの

は、2社の企業が完全合併する場合である。

これに加えて、規制の対象となるのは、直接

的または間接的に他企業に対する支配の全部

または一部を獲得する場合である。これに対

しドイツ法では、とりわけ企業資産の全部ま

たは重要部分の取得が企業結合・合併とみな

され、他企業の総資本における25%の持ち分

を得た場合、あるいはさらなる取得により出

資比率が50%を超えた場合にもそれぞれ合併

とみなされる。このような考え方はEU法に

はなく、ドイツ法では支配の獲得がなくとも、

純粋に総資本における持ち分の25%を形式上

取得すれば合併規制が適用される。ただし、

EU法の合併規制に準じて、ドイツ法におい

ても他企業について事実上の支配を獲得した

場合も規制対象とすることができる。

(3)合併禁止対象企業:ドイツ法では市場占

有率が25%以上の場合に想定

EU法同様、ドイツ法においても企業が本

質的に競争に直面していない場合、または競

争者との関係において市場で優越的な地位を

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有している場合に、市場支配的地位は存在す

る。市場における優越的地位を確認するため

の最も重要な特徴は市場占有率である。その

際、市場占有率の絶対値のほかにも、他の競

争者の市場占有率との距離、すなわち市場占

有率の相対的な大きさが基本的に重要とな

る。EU法の場合、どの時点で支配的地位が

生じるかという推定については、特定の限界

値は設定されていない。

EU法の場合、通常は市場占有率が25%以

下の場合は支配的地位はないとみなされ、

40%でも必然的に支配的地位であるとはみな

されない。ドイツ法においても市場における

優越的地位は、EU法の動向をかんがみ、単

独の企業1社については市場占有率が25%以

上の場合に想定される。しかし、EU法とは

異なり、ドイツ法においては、支配的地位が

形成される場合においても、合併に参加する

企業には、企業集中のもたらす競争条件の改

善が市場支配の弊害よりも大きいことを証明

する機会が与えられる(いわゆる比較考慮条

項)。証明に際しては競争上の観点のみを考

慮することとし、経済全体の利益、公共の利

益、職場の確保または企業の存続は考慮され

ない。これを分かりやすく説明するために、

2社のみが競争する市場を想定する。このう

ち1企業が合併するとする。合併しなければ

当該企業が市場から消滅するという状況下で

あれば、合併により競争条件の改善がもたら

されることになる。

(4)合併申請手続き:連邦経済相が最終的に

認可権を留保

EU法の合併規制は予防的合併規制で、合

併しようとする企業は、契約締結後1週間以

内に合併計画を欧州委に届け出なければなら

ない。この届け出の前後数週間の間は、合併

を実行することはできない。これに対し、ド

イツ法では合併に参加する企業は、合併を行

う前に合併計画を連邦カルテル庁に届け出な

ければならない。届け出の際には、売上高、

市場占有率、合併の種類および形態などの関

連情報を提出する。手続きでは、合併計画を

問題のない事例と問題事例とに区別する。問

題なしとされる案件については、手続は1カ

月以内に終了し、認可は期間満了をもって交

付とみなされる。つまり、連邦カルテル庁が

1カ月の期間内に何ら反応しない場合は、認

可決定が下されたことになる。そうでない場

合には、主要審査手続きの開始が通知される

(いわゆる1カ月書簡)。その後、最終的な決

定までの期間は4カ月である。手続きの要旨

は、EU法の合併規制の手続きを勘案したも

のとなっている。ただし、EU法の合併規制

とは異なり、形式上の決定をもって終了する

のではない。大部分の案件においては、1カ

月の期間満了をもって認可が決定されてい

る。決定権を有する連邦カルテル庁は、比較

的独立的な機関であり、連邦政府からの政治

的な影響を受けにくい。このため、EU合併

規則の枠内における決定機関である欧州委と

比較した場合、カルテル庁の決定はより自主

性の高いものとなっている。このことから、

EUレベルでも、競争規制に関して広範囲の

管轄を有する欧州カルテル庁の設立について

の議論が交わされている。

また、連邦カルテル庁が企業の合併を認可

しなかった場合にも、申請に基いて連邦経済

相が合併を許可することができる。許可の前

提条件となるのは、個別の事例について、企

業統合による競争制限よりも経済全体の利益

のほうが大きい場合、あるいは競争制限を上

回る公共の利益により合併を正当化しうる場

合である。経済全体の利益とは、例えば経済

全体が必要とする経済分野の確保または国際

競争力の強化などである。また、公共の利益

に該当する事例としては、雇用確保または国

有企業の民営化などが挙げられる。このよう

な場合には、競争法の枠を超えた考慮に基づ

いた決定となる。よって、決定は政治的観点

JETRO ユーロトレンド 2001.724

1

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のみに基づいて下される。

(5)適用事例:欧州委によるドイツ企業合併

不認可事例

欧州委は98年5月にドイツテレコム、

CLT-UFAおよびBeta Technikが参加する合

併計画に許可を与えなかった。ドイツテレコ

ムはドイツ国営の通信企業である。CLT-

UFAはベルテルスマンおよびオーディオフ

ィナ(Audiofina)の合弁企業であり、欧州

テレビ業界で活動している。また、ベータ・

テヒニーク(Beta Technik)はキルヒ・グル

ープに属し、映画業界のいわゆるポスト・プ

ロダクション分野で活動する企業である。キ

ルヒ・グループは、ドイツで最大手の有料テ

レビ、映画および娯楽番組の供給者である。

また、同グループには、テレビ番組のデコー

ダー・有料テレビの暗号化技術の分野におい

てドイツ語圏内で唯一の排他的無期限ライセ

ンスを所有するベータ・リサーチ(Beta-

Research)も属している。これらの企業の合

併により、有料テレビおよびケーブル網の技

術サービス市場への影響が懸念された。さら

に、現在および近い将来においてはケーブル

網の運営者はドイツテレコムが唯一の存在と

なる。キルヒ・グループと合併すれば、ドイ

ツテレコムは番組およびマーケティングのプ

ラットホームを提供する唯一の事業者とな

る。加えて、ベータ・リサーチの参加により、

ドイツテレコムは暗号化技術を統制する可能

性も入手することとなる。キルヒ・グループ

が単独の番組プラットホームとなり、ドイツ

テレコムがケーブル網への配信をベータ・リ

サーチの暗号化技術を使って行えば、長期的

には他の技術の導入を阻止する結果となる。

この理由から欧州委は、この合併を認可しな

かった。

2.補助金の返還を求められたドイツの最近の事例と解釈

個々の企業に対する補助金交付が合法的と

なるためには、まず欧州委に申請を行う必要

がある。次に、申請を受けた欧州委が明白に

補助金を認可するか、あるいは申請受領後2

カ月以内に何ら決定を下さないことが必要で

ある。欧州委が2カ月以内に決定を下さない

場合、加盟国はその後に補助金交付を実施す

る旨を通知する。この通知受領後15営業日以

内に欧州委の決定がない場合、認可は与えら

れたものと見なされる。次に補助金の返還を

求められたドイツ企業の最近の事例と解釈を

みる。

(1)フォルクスワーゲン:不利益調整必要額

に補助金を制限

96年7月、ザクセン州はフォルクスワーゲ

ン(VW)に対し欧州委の承認額を上回る州

補助金を交付し、対立した。ザクセン州は補

助金の交付理由として、戦後のドイツ分割に

より生じた経済的不利益を調整する目的の補

助金は容認し得るという欧州共同体設立

(EC)条約第87条の適用除外をあげた。これ

に対し、99年12月に欧州司法裁判所は、適用

除外規定は国境沿い地域、ベルリンを対象と

するもので、ザクセン州の主張するドイツ分

割による不利益調整は適用除外規定により埋

め合わすべきものでない、一般原則に基づい

て判断すべきであるとの見解を示した。さら

に、欧州委およびに欧州司法裁判所は、過分

の補助金交付によって、EU市場の自動車産

業の競争が歪曲される危険があると考えた。

このため、当初の多額の補助金申請を正当化

しうるかどうかが疑問視され、経済後進地域

の工場進出により生じるVWの運転費の不利

益は、代替立地の費用、既存工場の拡張費と

の比較、低賃金の利益などを加味して算出さ

れた。算出された運転費不利益の金額が当初

JETRO ユーロトレンド 2001.7 25

Page 26: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

の補助金申請額を大きく下回った。このため、

欧州委は、この不利益の調整に必要となる金

額分だけに補助金を制限したのである。しか

し、ザクセン州は、助成措置の個々の部分が

明白に不認可となったにもかかわらず、補助

金の交付を開始した。この理由から、当該金

額については、ザクセン州による返還請求が

なされなければならない。法律の要請に基づ

いて欧州委の認可を受け、この認可に基づい

て交付がなされたならば、返還請求は必要で

なかった例である。

(2)システム・マイクロエレクトロニック・

イノベーション:返還請求を法的後継企業

にも適用

システム・マイクロエレクトロニック・イ

ノベーション(SMI)は半導体メーカーで本

社はブランデンブルク州にある。93年から97

年までの間に、同社には合計1億3,510万マル

クの補助金が、信託公社(Treuhandanstalt)

およびブランデンブルク州を通じて交付され

た。しかし、欧州委に対する補助金交付に関

する正式な通知はなされなかった。SMIが破

産した後、企業運営を保証するためにシリシ

ウム・マイクロエレクトロニック・インテグ

レーション(Silicium Mikroelektronic

Integration,SIMI)が設立された。SMIの業

務活動は、そのまま受け皿企業に受け継がれ

た。また同様に、SIMIにも合計500万マルク

の補助金が交付された。さらなる組織変更に

より、マイクロエレクトリック・デザイン・

アンド・ディベロプメント(Microelectric

Design & Development,MD&D)がSIMIの

株式を取得したが、同社はこれによりSMIの

資産をも取得した。その後、欧州委は補助金

交付の事実を知ったが、ドイツ当局からは正

確な情報を入手できなかった。その結果、

EU法に基づく手続が開始されることになっ

た。

95年までに欧州の半導体産業は高度に成長

し、高い利益を上げ、世界市場を舞台に活動

していた。しかし、EU内の取り引きも重要

で活発な競争が行われていた。このような状

況下で補助金を認めれば競争を阻害すること

となるため、補助金の交付をEC条約の前提

条件と比較する必要があった。SMIおよび

SIMIが得た助成は、欧州委の見解では補助

金に該当する。このことは、助成の一部が単

なる融資であったなどの事実には一切関係な

く有効である。当該企業の経営状態が極めて

悪かったため、この規模の投資を行う民間投

資家はいなかった。この理由から助成は補助

金であり、認可申請を行う義務があった。そ

れにもかかわらず、認可申請は行われなかっ

た。この理由だけをとっても補助金は既に違

法である。その後、認可を受けていなかった

補助金について、特別(アド・ホック)補助

金として共通市場との両立性の有無が審査さ

れた。欧州委は、適用除外規定の対象とはな

らず、よって補助金も違法であるとの見解を

示した。VWのケースと同様に、助成の対象

となった企業は旧東独地域である東部ドイツ

に所在していた。しかし、VW訴訟で示され

た基本原則により、ドイツ分割による不利益

調整のためには補助金は必要ではなかった。

また、生活水準が特に低い地域の振興に貢献

するという理由も、補助金の正当化には不十

分であった。当該企業はそのような地域に所

在していたが、個々の特別補助金を個々の企

業に交付するだけでは、目的達成の効果は極

めて小さい。その反面で競争への大幅な介入

がある。したがって、補助金による競争歪曲

の弊害よりも地域の長期的な発展の利益が大

きいことを説明する必要があった。しかし、

本件ではこの説明は行われなかった。また、

経営不振に陥った企業に対する助成という理

由も、補助金を正当化するには至らなかった。

これは主に、補助金が損失補填というかたち

で支給されたことに起因している。このよう

な調整金の交付は、長期的な存続能力と採算

JETRO ユーロトレンド 2001.726

1

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性を記載した広範囲に渡る組織再編計画の枠

内において、再出発のための助成としてのみ

認められている。しかし、このような計画は

本件では提出されていなかった。ただ、企業

を補助金により延命しただけである。また、

本件のもうひとつの重要な点は、欧州委が補

助金の「受給者」、すなわち補助金の返還請

求をすることができる相手を特定した点であ

る。実際の受給者だけに限らず、実際の受給

者の経営資金を利用してその経営を継承する

者も受給者に該当するとした。

(3)コンパクト・ディスク・アルブレヒト:

企業グループへの交付と再建計画の未提出

を問題視

このケースでは、チューリンゲン州アルブ

レヒト(Albrechts)に本社を置く、ピル

ツ・アルブレヒト社(Pilz Albrechts)とバ

イエルン州クランツベルク(Kranzberg)に

本社を置くピルツ(Pilz)グループに対して、

バイエルン州とチューリンゲン州が補助金を

交付した。この補助金の目的は、CD、CDボ

ックスとアクセサリーの製造工場をチューリ

ンゲン・アルブレヒトに建設することであっ

た。この地域は、EC条約が規定する「開発

の極めて遅れている助成地域」に該当する。

ピルツグループはこの工場を合弁企業として

設立した。その数年後にピルツグループに対

する支払不能[破産]手続きが開始された。

その後は、再建プログラムによって設立され

た、コンパクト・ディスク・アルブレヒト

(CDA)が工場経営を継続した。現在は、後

継企業であるロギスティーク・センター・ア

ルブレヒト社(Logistik Center Albrechts、

LCA)とダーテントレーガー・アルブレヒト

社(Daten-träger Albrechts、CDA)が工場

の一部を経営している。欧州委に提出された

資料によれば、合弁企業の設立、CD工場の

建設および経営、その後のCDAによる再編

のために、CDAおよびLCAには少なくとも

5億5,600万マルクの資金が支給されている。

この補助金も欧州委の認可を受けていなかっ

た。当然これが返還請求理由となった。そも

そも、本件の当事者である州が合弁企業およ

びその法的後継企業に交付した補助金は公的

資金で、この補助金により、受給者である企

業は、経営上の投資の大部分または全部の資

金調達を公的資金から賄うことができたた

め、これはEU内における競争の歪曲を生ん

だ。さらに、補助金がピルツグループに交付

され、関係企業に対する助成という行為その

ものがすでに問題視されていた。その後の調

査でもグループ内で交付された補助金の使途

が十分に解明されなかった。このことから欧

州委は、補助金の使途はCD工場の建設とい

う投資計画ではなく、ピルツグループ全体の

存続のため、あるいは他の分野で使用された

とし、補助金は違法という結論に至った。そ

もそも、地域補助金は後進地域に限定されて

おり、当該地域の開発を目的としている。こ

の地域の開発は、投資促進や新企業の誘致、

雇用の創出によって、長期的かつ持続的に確

保される。しかし、補助金によるこのような

持続的な地域開発は、どの時点をみても存在

しなかった。また、法的後継企業が再編を行

うための助成については、企業の長期的採算

性の立て直しを目的とした、再建計画が必要

であった。しかし、そのような計画の提出は

一切なかった。本件においても、補助金の返

還請求は、本来の企業の経営資本を使用して

経営を継続する全ての法的後継企業に適用さ

れる。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 27

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JETRO ユーロトレンド 2001.728

1

EU規則に接近するフランスの合併・合弁規則(フランス)パリ・センター

フランスでは、EU合併・合弁(結合)規則

に対して、国内規制の接近を図っており、改

正案は既に国民議会で採択され、上院での審

議待ちとなっている。フランスの現行結合規

則と改正規則案を以下で解説するとともに、

フランスの国家補助がEU規則違反とみなさ

れる基準、限界を検証する。

1.企業合併・合弁(結合)に関するフランス法制度

フランスにおける企業合併・合弁(結合)を

規制する現行制度は、1986年12月1日付けオ

ルドナンス第V巻(商法典第L430-2条)を根拠

としており、企業結合の任意な事前通知制に

基づくコントロールを主な特徴としている。

同制度は現在、改正準備がなされており、

改正案が2001年1月24日に国民議会を通過

(第二読会)している。改正案は新経済規制

法に含まれており、同法が発布されると、関

連法典も改正され、上記の商法典の関連条項

も置き換えられることになる。

改正の主要点は以下の通りである。

・結合(定義が見直されている)については、

すべてをコントロールする。

・EU制度との親近性が強まっている。

以下にフランスにおける企業結合に関する

現行制度と新制度の比較を行う。

①企業結合に関するフランスの現行制度

a.規制対象となる結合の範囲

商法典第L430-1条、同L430-2条(1986年12

月1日付けオルドナンス第38条、39条)にお

いて、以下の3条件に該当する場合には、企

業結合は、当局による規制の対象になると規

定されている。

・集中の形態の如何に関わらず、企業結合が、

企業の財、権利、責任の全体的もしくは部

分的な所有権の移譲、またはその利用の権

利の移譲を伴う場合、または企業結合が特

定企業もしくは特定グループによってひと

つもしくは複数企業に対して、直接もしく

は間接的な形での決定的な影響力の行使を

可能にする効果がある場合、またはそれが

目的とされる場合、規制対象となりうる

(商法典第L430-2条)。

この条件はきわめて適用範囲が広いもので

あり、規制対象に関するその他の条件と合

わせて考えるべきものである。

・結合が競争を阻害する場合(商法典第

L430-1条1節)。

競争への阻害は、支配的地位の発生または

強化により惹起されうる。しかし、この2

つ目の条件も、それだけでは、当該結合計

画が規制対象と認定されるための十分条件

ではなく、結合の規模に関する条件に同時

に該当することによって初めて規制対象と

なる。

・企業結合による集中の比率が市場占有率に

関する、または売上高に関する基準値を越

える場合(商法典第L430-1条2節)。

売上高の基準:

結合する企業の売上総額(税抜き)が70億

フランを越え、かつ結合する企業のうち少

なくとも2つの企業が20億フラン以上の売

上を記録している場合(注1)。ここでの売上

(注1)1993年11月9日付け競争評議会第93A16号意見、DISCOL SA社のケース。

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は、当該企業によるフランス国内市場での

売上を指す。売上高に関する基準以下の場

合でも、下記の市場占有率に関する基準に

該当する場合には集中の比率に関する条件

を充足するとみなされる。

市場占有率の基準:

結合に参加する、または対象となる、また

は経済的に連携のある企業の総体が、代替

可能な財、製品、またはサービスに関する

国内市場において、販売、購入、その他の

商取引の25%以上のシェアを占める場合。

または上記のような市場において主要な部

分を占有する場合。

この25%という市場占有率を評価するため

に、行政は独自の分析方法を用いている(注2)。

他方、代替可能な製品の概念は、集中規制

においては、かなり限定的に解釈される。対

象となる市場そのものがすでに極めて限定的

であるからである。

b.任意規制

フランスの制度の特徴は、企業結合のコン

トロールが任意ベースで行われることにあ

る。結合を計画する企業は、経済大臣に事前

に通知し許可を得ることは義務づけられてい

ない。

通知が任意であることから、通知は留保条

件を構成せず、結合が当局によって最終的に

禁止されたり、大幅な付帯措置実施命令を受

けた場合には、復旧作業は当該企業にとって

極めてコストの高いものになる。このような

状況のなかで、コントロールは企業のイニシ

アチブで行われる場合と、行政当局のイニシ

アチブで行われる場合がある。

c.企業の発意によるコントロール

商法典第L430-3条において、企業は経済担

当大臣に対して、結合計画、または過去3カ

月以内に実施された結合行為の審査を求める

ことができると規定されている。

このような企業による通知には、2つの利

点がある。

・まず、企業は通知を行うことによって、2

カ月以内に、または大臣が競争評議会の諮

問を決定する場合には6カ月以内に行政当

局の判断を知ることができる。

・次に、事前通知をクリアした場合には結合

のオペレーションは事後の批判の対象とな

らなくなる(支配的地位を構成する場合に

はこのかぎりではなく、商法典L420-2によ

り処罰されうる)。

通知は、通知書類の提出によりなされ、同

書類には政令86-1309第28条が規定する要素

が含まれていなければならない。

d.行政当局のイニシアチブによるコントロ

ール

企業側からの通知がない場合にも、大臣は、

当該結合の完了日時にかかわりなく、行政調

査を命じることにより当該結合のコントロー

ルを行うことができる。

大臣は、行政調査について競争評議会の諮

問をする必要はなく、同評議会に通知する義

務も負わない。

つまり企業結合のオペレーションは、企業

の発意による通知がなされていなかった場

合、いつでも(事後でも)、違法性が認定さ

れる可能性がある。結合に関する事前通知は

任意であるが(注3)、実際には、避けて通れな

いステップであるといえる。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 29

(注2)「集中規制の分析方法」ETUDES DGCCRF 1992年を参照。(注3)競争評議会1988年3月1日付け意見、1998年3月26日付けBOCCRF(Bulletin Officiel de la

Concurrence, de la Consomation et de la Repression des Fraudes), p.216。

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e.コントロールの手続き

通知を受けた後、経済担当大臣には複数の

選択肢がある。

・当該企業結合に反対しない旨明示的に宣言

する。

・回答しない。この場合には、2カ月の期限

が過ぎると、暗黙の了解となる。

・通知受領後2カ月以内に競争評議会への諮

問を決定する(注4)。この場合は大臣の決定

は通知受領から6カ月以内になされる。

大臣が競争評議会に諮問することを決める

場合には、評議会の役割は「結合計画、また

は結合がもたらす競争への阻害を相殺するに

十分な貢献を経済発展に対してなすか否かを

評価する」ことにある。このために競争評議

会は当該企業の国際競争力を考慮することに

なる(商法典L430-4)。

競争評議会は、結合オペレーションのメリ

ットとデメリットを秤にかけ経済的効果を総

合的に評価することになる。

この調査の結果、競争評議会は理由説明を

付した意見具申を行い、同意見は公表される。

ただし当該意見は強制力を有さず、経済担当

大臣は、その意見の採択の如何については自

由である(注5)。

経済担当大臣の決定には以下の選択肢があ

る(商法典L430-5)。

・結合計画を承認しない。

・結合以前の状態への復帰を命じる。

・十分な競争を保証するために、または回復

するために必要な措置をとる。

・結合計画の実施について、競争への阻害を

相殺するに十分な経済的、社会的進歩への貢

献を可能にする付帯的措置の順守を命じる。

この手続きにおいても当然、カルテル、支

配的地位に関して同様の原則に基づき、弁護、

上告の権利が認められている。ただし、商法典

L430-7には、当事者は決められた期限内に意

見を述べなければならないと規定されている。

また、大臣が結合のオペレーションを実施

する企業に対して強制力を持つ命令を発する

場合には、大臣は、決定する前に当該企業に

意見陳述の機会を与えねばならない。

さらに、大臣決定については、権力濫用を

抑えるため国務院に控訴することが可能であ

る。この場合、国務院での審問には第一審と

最終審の2段階がある。

f.罰則

フランス法においては企業結合について、

刑事罰は存在しない。例外的に罰金刑があり

うるのみである。

企業結合当事者が経済担当大臣の決定に違

反する約定をなしている場合、大臣の決定が

有効であり、その実施が義務づけられる。

企業が大臣の決定、命令に従わない場合、

企業には罰金が課され、その額については、

新たに競争評議会への諮問がなされた後決定

される。罰金の上限は、結合の対象分野にお

いて過去2営業年度を通じて計上されたフラ

ンス国内売上(税抜き)の5%に定められて

いる。

②企業結合(集中)に関する制度改正(案)

a.結合の規制対象範囲

準備中の法案においては、企業結合に新し

い定義がなされ、EU規則に接近している。商

法典L430-1の改正案(新法案第48条)では、企

業結合は以下の2つの場合を指すことになる。

・2つ以上の互いに独立した企業が合併する

JETRO ユーロトレンド 2001.730

1

(注4)大臣による競争評議会諮問の決定が企業に対して通知されない場合については競争評議会1991年6月25日付け意見No.91-A-06参照。1991年7月20日付けBOCCRF。

(注5)例えば、競争評議会1988年3月22日付け意見、精糖部門での競争に関する1988年4月13日付け省令、1988年4月16日付けBOCCRF。

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こと。

・少なくともひとつ以上の企業の支配権を保

有する個人または複数の自然人、もしくは

法人が、直接、間接的に、他の企業の全体

または一部の支配権を獲得すること。その

手段については、資本への参加、資産構成要

素の買収、契約、その他の方法がありうる。

この条文では、次も結合の定義に入ること

になる。「自立した経済単位としての機能を

恒常的に行う合弁企業の設立」の場合である。

このようにフランスの企業結合の法制度は

EU法の定義に近づいており、同一の案件に

ついて、フランスとEUの決定に齟齬が発生

することが回避できる。

結合のオペレーションは、現行制度と同様

に、量的基準を超える時にコントロールの対

象となりうる。ただし、法案においては、市

場占有率基準は放棄され、売上規模の基準の

みが採用されている。もっとも売上基準の水

準は大幅に引き下げられている。

新商法典の条項に従うと、以下の場合が、

規制対象となる結合を構成することになる。

・結合に参加する企業、または自然人、また

は法人の集団全体の税抜き売上合計が1億

5,000万ユーロを越える場合。

・結合に参加する2つ以上の企業、または自

然人、または法人の集団のフランス国内で

の税抜き売上が1,500万ユーロ以上である

場合。

他方、EU規模の企業結合は、1989年12月

21日付けEEC4064/89規則の適用となり、フ

ランス競争当局のコントロール対象とはなら

ず、EU当局のみによって規制されることに

なる。法案は「単一窓口」を実現することに

なる。しかし、法案では、「上記規則の適用

対象となる企業結合であっても、加盟国当局

への一括または部分的付託の対象となった案

件は、その付託の範囲内において」国内法の

適用対象になると規定されている。

b.結合案件のコントロール

制度改正の大きなポイントは、以下の点に

ある。

・a.の基準に該当する結合案件のすべてを

システマテチックにコントロールする(法

案第50条)。

・結合実施には、経済大臣、および、場合に

よっては関連する経済分野を担当する大臣

の合意を得ることが義務づけられる。ただ

し、理由説明を行い固有な必要性が認定さ

れた場合に例外が認められうる(法案第51

条)。

通知は、新制度においては留保条件を構成

することになり、結合計画に対してより大き

な法的かつ経済的安定性をもたらす。現行制

度のように、経済大臣により結合が禁止され、

または付帯措置の命令が出された場合に、復

旧措置をとらねばならない状況は発生しなく

なる。オペレーションは、結合に関する合意

が調印された日、すなわち、通知日から、大

臣による合意を得る日まで凍結されることに

なる。

c.コントロールの手続き

結合計画の通知を受領すると、大臣は、

(通知状の)一通を競争評議会に送達しなけ

ればならない。しかし、大臣による競争評議

会への通知義務は、評議会の役割を現行制度

より強化することにはつながらない。なぜな

ら、経済大臣は評議会が具申しうる意見に縛

られないからである。

大臣が決定を下す期限は短縮され、現行制

度では通知受領日から2カ月であるが、今後

は5週間になる。

大臣は、この期限内に以下の選択肢を有する。

・理由説明を付して、通知された計画は、規

制対象外であり、企業結合(集中)とは認

JETRO ユーロトレンド 2001.7 31

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定されないことを確認する。

・当事者の(付帯措置に関する)約定の実施

を条件として、結合を許可する。

・結合が競争を阻害する危険性があり、当事

者が提案する付帯措置が不十分であると判

断する場合には、競争評議会に諮問する。

・上記のいずれの決定も行わない。この場合

には、5週間の期限が過ぎると(検討期間

の延長は可能)、結合計画は承認されたも

のと見なされる。

競争評議会が、諮問を受けた場合に果たす

役割は、現行制度とさほど変わりがない。評

議会は以下の事項を評価することになる。

・まず、結合が競争を阻害するか否か。特に、

支配的地位の発生、または強化があるかい

なか。供給業者を依存状況に置くことにつ

ながる購買力の発生、または強化があるか

否か。

・次に、結合が競争への阻害を相殺するに十

分な貢献を経済的進歩にもたらすか。

競争評議会は、調査の結果、3カ月以内に

大臣に意見具申をしなければならない。大臣

は評議会の意見に縛られない。

経済大臣は、競争評議会の意見を遅滞なく

当事者に送達し、評議会の意見具申を受けて

から4週間以内に自らの決定を行う。この4

週間の期限内において、大臣が決定を出すま

での間、当事者企業は、結合計画内の競争阻

害要素を改善する提案を行うことができる。

大臣の決定には以下の選択肢がある。

・結合計画を禁止し、かつ、十分な競争を回

復するための措置をとることを命令する。

・十分な競争を保証するための措置をとるこ

とを条件に、または、競争への阻害を相殺

するに十分な貢献を経済的、社会的進歩に

おいて実現する措置の順守を条件に、結合

を許可する。

・当事者の約定の履行を条件に、結合を許可

する。

・定められた期限内に上記のいずれの決定も

なされない場合には、結合計画は許可され

たものと見なされる。

結合計画当事者の権利に関する制度が、特

に業務上の情報の守秘規則が、現行制度同様

に新制度においても予定されており、また当

事者は手続き期間中に意見陳述を行うことが

認められる。

当事者の権利とは別に、新制度において現

行制度と大きく変わる点は第三者の権利が認

められたことであり、競争評議会は、当事者

の立ち会い抜きで第三者を聴聞することがで

きるようになる(法案53条)。

d.罰則

罰則は新商法典L430-8に以下のように定め

られる。

・通知をすることなく、結合を実施した場合

には、大臣は、通知の義務を負うものに罰

金を科すことができる。罰金の上限は、法

人については、直近の営業年度にフランス

国内で計上された売上の5%であり、場合

によっては、吸収される企業の売上も算定

基準に加算されうる。自然人については、

150万ユーロを上限とする。この罰金の他

に、大臣は、結合以前の状態への復帰を行わ

ない場合には、通知の履行を命令し、履行

遅滞罰金を課す。大臣は通知を受領する以

前に競争評議会に諮問することができる。

・通知がなされた後、経済大臣の決定を待た

ずに結合が実施された場合、大臣は、通知

を行ったものに対して罰金を科すことがで

きる。罰金の上限は、通知をしなかった場

合の上限をこえることはできない。

・通知に欠陥があるか、不正確な通知がなさ

れた場合も、大臣は上記と同じ上限内で罰

金を科すことができる。また、大臣は、結

合を許可した決定を撤回することができ

JETRO ユーロトレンド 2001.732

1

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る。この場合には結合の当事者は、結合以

前の状況に復する措置をとるか、手続きを

再開するかしなければならない。

・大臣による命令、規則、当事者による約定

の不履行の場合には、大臣は競争評議会に

諮問し、手続きの差し戻しを命じることが

できる。

e.今後のスケジュール

上記の規則は、2001年1月30日に国民議会

が第2読会で採択し上院審議に付託した新経

済規制法に盛り込まれたものである。

同法案についての上院での審議予定は現時

点では確定していない。同法案の最終的な成

立は2001年9月以降になるものと考えられる。

2.フランスの国家補助金とEU競争法

(1)フランスの国家補助金の特徴

フランスの国家補助金の規模は国家予算全

体からみると極めて小さい。94~96年の期間

を見ると、国家補助金の歳出に占める割合は

2.02%であり、96~98年では2.08%にとどまる。

国家予算に占める補助金の比率について、フ

ランスはEU加盟国の中で第8位にすぎない。

96~98年の間に、フランス国家補助金の対

象となった主要な分野は製造、輸送、金融の

3部門である。

しかしこれら3部門以外の部門でも国家補

助金のウエートが高い部門が存在しており、

後述する。なお、本レポートにおいて使用する

データは欧州委員会の報告書(注6)からとった

ものである。

①フランスにおける国家補助の対象部門

a.製造業

製造業に対する補助については、補助の水

準の逓増傾向が観察される。96~98年の期間

については、年間の補助額は平均44億8,100

万ユーロだった。

フランスはEU加盟国中、製造部門への補

助金がもっとも多い国であり、補助は助成金

および税の減免によってなされている。減免

税は、製造業への補助の47%を占める。

製造業への国家補助金は、分野、目的によ

って以下のように区分される。

・横断的目標52%:研究開発、環境、省エネ

ルギー、中小企業支援

・特定セクター支援8%:造船、鉄鋼、その

・特定地域支援40%

b.輸送部門

輸送部門への補助もフランスの国家補助金

の中で大きな位置をしめる。94~96年の期間

では、同部門への補助は国家補助金全体の

45%を占め、96~98年の期間については39%

を占めた。輸送は最も多くの国家補助を受益

する部門である。

内海水路に対する補助を行っている加盟国

は、フランス以外に独、オーストリア、ベル

ギー、ルクセンブルク、オランダの5カ国が

あるが、その水準は低い。(EU全体で)年平

均3,000万ユーロにすぎない。

また、輸送に関する補助金の中には、個別

的に特定企業を対象とし、横断的な目的を有

する補助、特定部門、特定地域への補助のカ

テゴリーに入らないものも存在する。企業の

再建、再編支援のケースである。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 33

(注6)「欧州連合における国家補助金に関する第八報告書」、2000年4月11日、資料番号COM(2000)205 final。・「欧州連合における製造業およびその他の一部分野に対する国家補助金に関する第7報告書」、1999年3月30日、資料番号COM(1999)148 final。

・「欧州連合における製造業およびその他の一部分野に対する国家補助金に関する第6報告書」、資料番号COM(1998)417 final。

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c.金融部門

EU全体では、金融部門への国家補助金は補

助全体からすると低い水準にとどまっている。

しかしフランスでは、94年以来、他の加盟国に

比べると同部門への補助が逓増している。

d.他のEU加盟国と比較しフランスの補助

が多いその他の部門

・石炭産業

フランスの石炭産業への補助水準はEU第

2位である。しかし補助全体に占める比率は

さほど大きくない。

96~98年の期間について、年間平均の採炭

以外の目的の補助金は1億9,600万ユーロ、94

~96年は6億1,400万ユーロだった。

フランスの国内炭生産は微量であり、2005

年には全炭坑が閉山される予定である。石炭

産業への有意な補助が存在しないことから、

仏石炭産業は自然消滅の課程にある。

・自動車産業

95年まで、自動車産業への補助は他のEU

加盟国と同様に、フランスではほとんど存在

しなかった。93年のみが例外で3,200万フラ

ンの補助があった。

しかし97年以降、フランスは自動車産業向

けの補助を行っており、98年の補助金は

5,200万ユーロだった。同部門への補助金水

準で、フランスはドイツについでEU第2位

になる。

・メディア、文化

メディアおよび文化への支援の目的で特別

なプログラムが設置されており、補助額は比

較的多額である。文化、メディアへの補助に

ついてフランスはEUで第1位である(94~

96年の補助金は1億6,000万ユーロ、96~98年

は2億3,100万ユーロ)。

②国家補助金のタイプ別分析

欧州共同体設立(EC)条約第87条の定義する

意味における国家補助の概念の一つの特徴は、

形態の多様性にあるが、この点は後述する。

たしかにEU域内における補助をみると、加盟

国ごとにその形態が多様であることがわかる。

・92~94年の期間については、助成金がEU

においてもっとも多用された。同時期にフ

ランスでは助成金の補助全体に占める比率

は46%、英国は87%、スペインでは86%だ

った。(注7)

・フランスでは減税が助成金に続き、92~94

年の期間について補助全体の19%だった。

ベルギーでは45%、英国では6%だった。

・フランスでは補助の15%が保証の形態をと

り、EU加盟国中でもっとも高い比率とな

っている。ドイツは11%、スペインは2%

である。

・また公的投資(資本参加)はフランスが

12%、イタリアが14%と多用されている。

・制度金融(利子補填)はフランスでは少な

い。これを多用しているのはデンマーク、

ドイツなどである。

(2)国家補助がEU規則違反とみなされる基

準・限界

欧州共同体の原則のひとつは、域内市場にお

いて競争が歪曲されない制度の確立にある(注8)。

そしてこの原則は、企業に対してのみではな

く、政府にも適用される。このことからEC

条約第87条において、特定企業、特定業種を

優遇することにより競争をわい曲する恐れが

ある場合、加盟国政府による直接、間接の補

助は、共同市場の規則違反であると定められ

ている。

JETRO ユーロトレンド 2001.734

1

(注7)出所:欧州委員会(注8)欧州共同体設立条約第3条g

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この第87条の条項から、以下の3条件に合

致した場合には、補助は共同市場規則に適合

しないとみなされる。

・補助が公的権力の行為を起源としてる。

・補助が特定企業または特定業種を優遇する。

・補助が競争を歪曲、または阻害する。

①公的権力による補助

EC条約第87条の文脈においては、共同市

場規則への違反性が認定されるためには、公

的権力の行為があることが条件となる。ここ

でいう公的権力とは、中央政府、地方自治体

またはその他の公的権力に支配される機関を

意味する。すなわち、政府が決定的な影響力

を行使する公的機関、または民間組織を含み、

かつ、政府により補助または優遇措置を管理

するために指名された公的、私的機関を含む。

政府の行為に、公的資金の移転が伴うこと

も違反性を構成する条件であるが(もっとも

明白な例は「奨励金(PRIME)」の供与)、

公的権力が租税公課を放棄する場合もこれに

該当しうる(減税、社会保障負担金免除等)。

また第87条の文脈においては、並行税の収入

も公的資金を構成する。

最終的には、通常企業が負担する負荷を軽

減するような、経済・財政的な効果のある優

遇措置であれば、その形態をとわず違反性構

成の必要要件を満たすものと考えられる。

多様な形態の公的権力による行為が違反性

を有しうるのであり、欧州委員会はこれまで、

助成金、利子補填、制度金融、資本参加型交

付金、目標達成時にのみ償還義務が発生する

前渡金、減税、社会保障負担金減額、市場価

格より安い土地譲渡、公共企業への政府出資、

公的機関による財、サービスの値引き等につ

いて違反性の審査を行っている。

言い換えれば、EC条約第87条の禁止は、

公的資金を原資としたすべての政府の補助を

対象とするものであり、政府による直接給付

と、政府が管理のために設立した官、民の組

織による給付は区別されない(注9)。

例えば、全国農業金庫による農業生産者へ

の支援が、農民支援措置の総合政策の一環と

して公的権力によって承認される場合には、

すなわち、民間資金の運用益を原資としたも

のである場合も、補助支給の決定が、政府によ

り提案され、かつ承認されたものである限り、

違反性の必要条件を満たすとみなされる(注10)。

同様に、オランダ政府が直接、間接に資本

の50%を保有し、料金設定の権限を有してい

る(ガス)会社が、同国の花卉栽培業者に対

して、天然ガスの優遇料金を適用したケース

についても、違反性が認められた(注11)。

②特定企業、特定業種への補助

この条件の適用によって、特定企業、特定

経済分野を対象とせず、経済全体に対する措

置は第87条の文脈では違反性を有しない。

第87条の適用において決定的な基準は、問

題となる措置が経済全体の振興を目的とする

のか、そうではなく、措置の受益者が限定さ

れうる、すなわち、受益者の競争条件を改善

させる特定措置なのかを区別することにあ

る。一般的措置は、客観的なニーズに答え、

差別的性格がなく、裁量性がないことから第

87条の禁止する補助にはならない。

このことから、例えば、法人税を一律40%

から35%に引き下げることは、一般的措置で

JETRO ユーロトレンド 2001.7 35

(注9)CJCE(欧州共同体裁判所)、1977年3月22日判決。第78/76号事件「STEINIKE&WEINLING」、REC.595.

(注10)CJCE(欧州共同体裁判所)、1985年1月30日判決。第290/83号事件「欧州委員会/フランス」、REC.439.

(注11)CJCE(欧州共同体裁判所)、1988年2月2日判決。第67,68,70/85号事件、オランダ、「K.G. VAN DERKOOY/欧州委員会」、REC.219.

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あり、逆に、中小企業のみを、または、特定

分野または特定地域の企業のみを対象とした

減税は第87条が定義する、横断的補助、分野

特定補助、地域特定補助を構成する。前者と

後者を区別する点は、後者には国家の発意に

よる選別性があり、適用に自動性がなく、受

益者選定において公的権力の恣意が存在する

ことにある。

同様に、教育(職業教育等)に対して公的

権力の優遇行為があったとしても、これは、

職業的技能促進の財源確保が一般に政府の役

割と認められることから、第87条で定義され

る補助にはならない。しかし、特定企業の具

体的必要性に答える特別な訓練については、

公的権力がその費用負担をすると第87条が定

義する禁止補助となる(注12)。

もうひとつ例では、基礎研究に対する支援は、

それが特定企業を優遇するものでない限り第87

条が定義する補助とはならない。しかし、政府

が特定分野における研究費用を負担すると第87

条が定義する補助を構成することになる(注13)。

③競争を歪曲、または疎外する補助

第87条においては、国家的措置が、国内生

産者間、または国内生産者と域内生産者間の

競争を歪曲または阻害する場合は違反であ

る。すなわち補助が受益者の競争条件を改善

する効果を有する場合である。受益企業に競

争上のメリットがない限り第87条の定義する

補助とはならない。

この点に関連して、株主または投資家とし

ての政府(またはその他の公的機関)の挙動

を評価する際に、政府投資の共同市場規則へ

の違反性を認定するためには、投資のなかで

補助的要素とそうではない要素を区別しなけ

ればならない。

国家援助の違反性を定める基準は、行われ

た国家援助が、資本経済市場で民間企業が利

益追求のために行う行動(つまり慣行)に該

当するか、否かということである。従って、

資本経済市場論理にありながら、民間企業が

動かないことを理由に、政府が資本経済市場

に「介入」して民間に援助を行うことは、上

記基準に照らしてみると、原則的に第87条で

は違反と判断される。

競争への影響の評価については、欧州委員

会は現行の競争状況と潜在的競争条件を考慮

する。補助がなかったら特定企業の設立がよ

り困難になる場合、その補助は禁止対象となる。

上記については、補助の禁止原則に対して

第87条2項および3項で2つの例外のカテゴ

リーが規定されている(注14)。

JETRO ユーロトレンド 2001.736

1

(注12)1991年3月26日付け欧州委員会決定、サンゴバン社に対する仏政府の補助、EU官報L215、11ページ。(注13)ベルギーの製薬5社に対する補助に関するコミュニケ。EU官報C45、3ページ。(注14)欧州共同体設立(EC)条約第87条2項の規定に従い、以下の補助は共同市場規則違反とはならない。

a.製品の起源による差別をしない、社会・福祉的性格を有する個々の消費者への補助。b.自然災害またはその他の例外的事件を原因とする損害を補償するための補助。c.ドイツの分断の影響を受けたドイツ連邦共和国の特定地域に対してなされ、分断により発生した経済的不利益を補償するために必要な補助。欧州共同体設立(EC)条約第87条3項は、以下を例外として認めている。a.生活水準が異常に低い地域、または深刻な失業問題を抱える地域の経済開発に貢献することを目的とする補助。

b.欧州共通の利害にとって重要な意味を有するプロジェクト実現を促進することを目的とする補助。または、特定加盟国の経済の深刻な混乱を是正することを目的とする補助。

c.公益に害せず、商取り引きの条件をわい曲しない範囲で、特定分野、特定地域の開発を促進することを目的とする補助。

d.公益に反せず、欧州共同体域内での取り引き、競争の条件をわい曲しない範囲で、文化振興および(文化)遺産の保存を目的とする補助。e.欧州委員会の提案に基づき、欧州理事会において特定過半数の決定により規定されるその他のカテゴリーの補助。

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(3)ボロトラ計画における欧州委員会の判

断の分析

①ボロトラ計画(注15)に関する決定において採

択された違反性の基準

フランスのボロトラ計画は、経済財政的諸

措置に関する96年4月12日付け第96/314号法

律第99条および96年6月27日付け第96/572号

政令により定められたもので、繊維、アパレ

ル、皮革・製靴セクターを対象として、特定

の賃金に適用される社会保障負担の軽減、お

よび、全国最低賃金レベルの賃金については

社会保障負担の全額免除措置からなってい

た。本レポートで分析した3条件のうち第1

の条件については、ボロトラ計画がフランス

の公権力の発意によるものであることは明ら

かである。

同計画は、フランスで脅威にさらされてい

ると判断されたセクターについて、社会保障

負担の減免を行うことで、雇用を創出または

維持することを目的とするものだった。フラ

ンスは、この措置をとらないと仮定すると、

6万人の雇用が計画期間中に喪失しただろう

と推定している。

欧州委員会は、その決定において、(禁止

される)補助の概念は、公的権力により給付

される優遇措置を含んでおり、企業が通常負

担する負荷を様々な形態で軽減する措置もそ

れに該当することを喚起している(注16)が、同計

画はたしかにこの判断に該当するものである。

欧州委は、この補助がフランス全国を対象

とする労働時間短縮措置を補償する目的とす

るものであることは、補助の違反性の認定に

なんら影響しないと判断した。というのも、

EC条約第87条1項は、補助をその効果によ

って定義しており、国家の介入の原因、目的

による区分をしていないからである。

さらに欧州委は、ボロトラ計画は、限定的

に列挙された経済セクター(繊維、アパレル、

皮革、製靴)にのみ適用されることから、第

87条の文脈における特定業種の優遇を公正す

ると判断した。欧州委は、フランス政府は社

会補償一般制度の特徴、経済的側面から当該

セクターへの負担軽減が正当化されうること

を証明しているとは認めなかった。

競争条件上の優遇について、欧州委は、社

会補償負担の軽減によって、同セクターの企

業は、政府の支援無しで労働時間短縮または

同等の措置を実施することになる(域内の)競

合企業より有利な条件に置かれると判断した。

商業への影響について欧州委は、関連する

欧州域内企業はほとんどすべて同様の問題を

抱えていると判断し、当該補助によって特定

加盟国が抱える問題が他の加盟国に移転する

リスクが明らかであると判断した。

問題の補助制度については、欧州委に対す

るいかなる通知もなされておらず、かつ、第

87条2項および3項が定める例外規定に該当

せず、また、これら例外規定の適用によりEU

レベルで策定された雇用振興に関するガイド

ラインにも該当しないと判断し、欧州委は、当

該補助金の払い戻しを要求する決定を行っ

た。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 37

(注15)フランスによる繊維、アパレル、皮革・製靴セクターに対する補助に関する97年4月9日付け欧州委員会決定、97/811/EC。97年12月5日付けEU官報L334、25ページ。

(注16)1994年3月15日判断。BANCO EXTERIOR DE ESPAGNA, C-387/92、1994年判例集、I-877ページ。

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JETRO ユーロトレンド 2001.738

1.はじめに

2010年は、EUにとって情報社会の構築を

目指す「e-EUROPE計画」の達成年であ

るとともに、環境対策のための第6次行動プ

ログラムの完了年である。第6次環境行動プ

ログラムは、経済発展と環境政策の調和を目

指した第5次プログラム(1992~1999年)の

延長線上にあり、環境にかかわるEU法規の加

盟各国国内法への導入促進、社会経済政策と

環境政策の統合の強化、市民レベルでの環境

改善に向けた努力の必要性を強調している。

優先項目は、気候変動緩和への取り組み努力、

生態系保護と環境に配慮した農村開発、環境と

健康問題への取り組み(水質・大気汚染、騒音の

低減および危険物質の特定化)、資源の保全(廃

棄物の予防的措置)と再利用の促進などで、第

6次環境行動プログラムの骨子となっている。

2.加盟国間の政策の違いを問題視

環境問題は、加盟国市民の最も身近な問題

として、加盟各国による対応を原則としてい

る。先の電気・電子廃棄物指令案(WEEE)

に関する一部業界と欧州委員会との論争でも

法の接近(欧州共同体設立条約第95条)を同

指令の根拠とすべきとする業界側とあくまで

も環境政策(同条約第175条)を主張する欧

州委員会側とでやりとりがあったのは記憶に

新しい(欧州電子業界団体オルガリムの2000

年8月11日付けポジションペーパーより)。

環境政策が最も進展しているといわれるド

イツの場合、政府がリサイクル不可能な飲料

の缶や瓶に関し、自動的に保証金を上乗せす

る法案を閣議決定した。関連業界が同法案に

反対の意を唱えているのに加え、いくつかの

州(とりわけベルリン)では、経済的な影響

環境政策における優先課題を公表(EU)-第6次環境行動プログラム-

欧州委員会は2001年1月24日、環境政策における2001~2010年の優先課題を示す第6

次環境行動プログラムを採択した。欧州委は環境政策をEUの成功事例のひとつと考えて

いるが、まだ多くの課題を抱えている。新行動プログラムは「環境2010:我々の将来、

我々の選択」と題され、今後10年間の環境政策の戦略を方向づける幅広いアプローチを提

示している。

本レポートでは、加盟国間の環境政策調和の必要性、予防的措置および市民への情報開

示の重要性などのポイントを解説し、第6次環境行動プログラムの仮訳を紹介する。

ブリュッセル・センター

2

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 39

を問題視する声があがっている。環境相の名

前にちなんだトリテインス法案によれば、缶

や瓶への上乗せコストは、独環境省の試算で

1本当たり0.0184マルクとしているが、国内で

の批判とともに欧州委からも域内自由流通の

観点から懸念視する声があがっている。また

ドイツの積極的な環境政策への対応とは反対

に、EU基準を満たせない消極派(水道水の水

質問題、廃棄物の処理違反(注1))国の例もあり、

加盟国間で環境問題に対する取り組み方に大

きな隔たりがあることも事実である。

欧州環境庁(EEA)によれば、加盟国間

の環境規制が不十分であり、運輸、エネルギ

ーなどの分野における統一的な規制の確立の

重要性を強調している。

3.環境奨励策の強化

今回の第6次環境行動プログラムはEUレベ

ルでの環境政策調和への取り組み強化をうた

っているが、農業に与えるインパクトから経

済成長率に至るまで、すべてを環境政策に取り

込もうという考え方は、実際には補完性の原

則により環境政策を加盟国の自主性に委ねて

いることから、むしろ外縁部にて統一化を図ろ

うとする意図付けと受け取ることもできよう。

ただし、当地EUウオッチャーによれば、

欧州委環境総局の実力が、増大していること

は確かに事実で、欧州委提案に際し、同総局

の判断が他の総局との合議でも重要な位置を

占めつつあると指摘している。また欧州議会

の環境常設委員会も発言力を増しており、ロ

ビー活動の重要性を説いている(欧州自動車

工業会関係者)。

なおEU加盟国のうち4カ国(スペイン、

ポルトガル、アイルランド、ギリシャ)のみ

を対象とした地域開発振興策である結束基金

(Cohesion Fund)は、通貨統合の第3段階

に入る条件確保のためのインフラ整備支援を

目的としており、そのうち環境対策では、主

に都市化対策の充実を図っている(注2)。

(注1)欧州委員会は2000年2月、廃棄物に関する法規を遵守していないとして、イタリア、英国などを欧州司法裁判所に提訴することを決めた。また欧州委は、包装ゴミに関する指令を遵守しなかったスペインに対しても理由を付した意見書を送付することを決定した。イタリアは、危険な廃棄物に関する理事会指令91/689/EECを国内法に導入していない。同指令は、危険な廃棄物の再利用を行う企業は、事前に関係当局の許可を得なければならないことを規定している。ただし、加盟国の規定する条件を満たす企業は登録を行うだけで、事前許可を取得しなくてもよい。現在、一部の企業は事前許可取得の義務を免除されているが、イタリアの場合、義務免除のための技術的な条件がまだ規定されていない。また、英国の場合は、廃棄物に関する指令75/442/EEC、危険な廃棄物に関する指令91/689/EEC、包装並びに包装ゴミに関する指令94/62/EECに適合する廃棄物管理プランを採択しなかったことから今回の提訴となった。廃棄物管理プランは、EUの廃棄物戦略において非常に重要な要素であり、廃棄物の削減や再利用、

環境を汚染しない処理の達成が最終目標となっている。英国の採択したプランは、英国全土をカバーしていないほか、包装ゴミの管理に関するプランも十分なものではなかった。なお、包装ゴミに関する指令94/62/EECは、同指令の枠内で何等かの施策を採択する場合、施策

案を欧州委に通達することを規定しているが、スペインの場合、カナリア諸島の関係当局が、この義務を怠ったため意見書の送付となった。

(注2)欧州委は2000年8月30日、2000~2006年のポルトガルにおける運輸ネットワークに関する大規模プロジェクト「交通インフラ整備計画」について承認した。総額33億6,900万ユーロといわれる同計画(うち公的部門の負担は30億7,100万ユーロ)に関し、欧州

委では、13億8,800万ユーロを上限として拠出することになった。なお同予算は、構造基金のうち欧州地域開発基金とポルトガルなど4カ国のみを対象とする結束基金にて充当されることになる。この決定に対して、バルニエ委員は、ポルトガルと他の加盟国との運輸網(道路、鉄道)が完全直結され、地域経済の振興に寄与するもの、としている。ポルトガルについては、「他の欧州市場との距離感」(バルニエ地域担当委員)の縮小が急務である

との認識から同計画が策定された。具体的には、次の4つの計画が柱である。①ポルトガルとスペイン並びその他の加盟国との道路、鉄道網の整備、国内の南北間(ポルト、リスボン、ファロ)の交通体系の整備、さらにポルトとリスボンを結ぶラインの整備、②リスボンなど大都市以外の中規模都市間の道路網の改善、港湾整備へのアクセスビリテイー、物流体系の整備と物流センターの確立、③ポルトガル全体の鉄道網の開発、④環境保護に留意した交通体系システムの構築、交通事故の未然防止などに関する諸策である。

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JETRO ユーロトレンド 2001.740

2

一方EU環境法規の各国国内法への導入・

整備には、法規違反の観点から欧州司法裁判

所の力を活用しながら、加盟国間への普及の

徹底を図るとしている。

また企業ならびに消費者の環境対策の浸透

が大きな課題であることは明らかであり、奨

励策など一般市民の選択肢を広げること、情

報提供の充実を心がけるとしている。特に企

業については、欧州共同体環境監査の適用範

囲を拡張し、環境にやさしい製品など環境に

配慮した企業経営への方向付けを推進する。

たとえば、エコラベルを添付することを奨励

するための税制上の優遇策の検討が挙げられ

る。またエネルギー部門での新エネルギー、

再生可能エネルギーの開発や、農業部門での

環境重視型補助金交付への重点化など市場と

の協力関係強化を取り上げている。

4.予防的措置が最優先課題

優先分野として、気候変動緩和への取り組

みの中で、2012年までに1990年比で温室効果

ガスの排出を8%削減することを決定してお

り、①EUレベルの温室効果ガスの排出権取

引システム策定、②加盟国のエネルギー補助

金リストの作成とその監視、③同分野におけ

る加盟国間の研究・開発の協力体制確立を課

題としている。またエネルギーの効率化、エ

ネルギー税の導入を含め、運輸政策を中心に

温室効果ガス排出の少ない代替燃料開発、導

入に努めるとしている。ハーグ会合における

京都議定書発効への米国の消極的な対応に関

し、EUとしては2002年発効実現に向け積極

的に国際的な呼び掛けを行うとしている。

農村部開発についてEUは、共通農業政策

を見直すとしているが、WTOの農業協定で

も議論を呼んでいる。一方地方分権化の進展

により大規模な自然災害への対処(治水事業)

としての自然景観の保持は、必定との考え方

が根強い。さらに今後加盟が予想される候補

国についてもEU農業の近代化とともにその

適用が含まれている(注3)。

生態系の保護については、保護ゾーンの策

定および2004年までに同ゾーンの管理プラン

を策定するとしている。この生態系の保護に

ついては、遺伝子組み替え作物(GMO)の

評価も含まれており環境へのプラス,マイナ

ス双方の作用につき監視が必要と指摘されて

いる。とりわけトレーサビリテイ(追跡性)

の強化がその課題といわれている(注4)。

環境と健康の問題については包括的なアプ

ローチが必要とし、特に化学物質(約30,000

項目)の分析と影響を詳細に規定する予定で

(注3)EUの21世紀に向けた指針として97年7月に採択された「AGENDA2000」における農業政策の展望は、以下の4点に集約される。

(1)共通農業政策の見直し穀物、畜産、酪農分野市場に関する規則の見直し、オリーブ油、たばこ、ワインに関する見直しなどに加え、環境基準への適合や条件付きの補助体制、地域開発と農業との関係を重視している。

(2)構造基金(加盟国の格差是正)に関する農業政策の見直し88年以降の域内市場統合の推進および地域間格差是正を目的に、①開発が立ち遅れている地域の構造調整、②不況産業ならびに失業対策、③農業構造の調整、農村地区開発などの対応が図られている。基金は、欧州地域開発基金、欧州社会基金、欧州農業指導保証金や結束基金などからなっている。

(3)EUの拡大と農業政策加盟候補国の農業政策の見直しを行う。なお、中・東欧諸国向けのEUによる農業の支援策はPHARE計画により行われている。

(4)2000~2006年の財政展望(注4)欧州委は98年2月23日に、「環境への遺伝子組み換え作物(GMO)の意図的拡散に関する指令90/

220/EEC」の修正指令案を採択、共同決定手続きを開始したが、その後数々の修正が加えられ、調停委員会の召集を経て、欧州議会は2001年2月14日に、閣僚理事会は2月15日にそれぞれ,最終的に修正指令案を採択した。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 41

ある(注5)。

最後に廃棄物処理については、予防、管理、

リサイクルの順番にそのプライオリティーを

置いている。目標では、最終処分廃棄物の分量

を2010年までに2000年比で20%削減、2050年

までに約50%削減とし、他方危険な廃棄物の

生産制限については、2010年までに同20%削

減、2020年までに約50%削減を予定している。

なお、EU法規は、①廃棄物の定義、処理

施設に関する許可手続き、輸送監視体制に関

する法的枠組み、②廃棄場、焼却炉の基準設

定、③廃車、電気・電子機器廃棄物などの個

別分野の法規化が基軸となっている。

またEUでは、加盟候補国も同様にEU環境

法規の加盟までの国内法制化を前提としてい

るが、現実には、ほとんどの候補国で長期間

におよぶ移行期間の設定を要請しており、環

境保全意識が強い欧州議会などから対策強化

の加速化が指摘されている。さらに国際協力

部門では、地中海諸国、ロシア、中央アジア

諸国などを中心に環境対策支援の強化を予定

している。

(掘口英男)

欧州委はGMOに関する意思決定手続きの透明化、リスク評価のハーモナイゼーション促進、流通されるGMOのラベル表示に関する要求の明確化などを目的に同修正指令案を作成した。同指令案では、指令の適用範囲が明確にされ、GMOに関連するあらゆる環境的観点が考慮された。欧州議会は2000年4月12日、第2読会で29の修正を採択したが、理事会が同年9月15日、修正を受け入れられないとしたため、調停委員会が召集され、12月20日に合意案となる共通文書が承認された。修正指令は、流通後のGMOの監視義務に関する要求を規定しているほか、関連科学委員会への諮問を義務付けている。特にGMOの将来的な市場流通に鑑み、それが試作的なもの、もしくは商業的なものであるとにかかわらず、関係当局への通知ならびに当局が定める様式に従った詳細な報告が義務付けられている。さらには、GMOのラベル表示やトレーサビリティ(追跡性)に関する一般消費者向けの配慮がなされている。また欧州議会がかねてより主張していたGMO関連の医薬品の扱いについては、医薬品扱いとし、指

令範囲から除くべきとする議会と理事会の定義が対立したが、最終的にはリスク評価など個別の関連規則を設定することで合意がなされている。流通期間については最大限10年間で、更新期間に関しては同様の10年とするものの期間の短縮、延長はGMO製品個々について判断が加えられることで合意が図られた。

(注5)欧州委は、廃棄物全般および危険廃棄物のそれぞれの指令による廃棄物対象リストの詳細な更新を行い、委員会決定(2000/532/EC)として2000年9月6日付の官報に掲載した。75年の廃棄物全般に関する理事会指令442号(75/442/EEC、75年7月15日付)は、人体、環境への

影響を考慮し、回収、輸送、処理、貯蔵について明記した初の共同体ルールである(91年3月18日付理事会指令156号:91/156/EECで改正)。また91年には、危険廃棄物を対象とした理事会指令689号(91/689/EEC、91年12月12日付)が施行されている。75年の廃棄物指令では、加盟国の廃棄物に関し、廃棄物の排出量の削減努力、リサイクルの推進

(原材料の抽出、エネルギーへの転用、再利用プロセスの確立)が求められ、その計画を欧州委に提出することが明記されている(第3条)。しかし、全体的には概要の域を出ず、とりわけ危険廃棄物の取り扱いの明確さが求められていた。78年に有毒かつ危険廃棄物に関する理事会指令319号が出された後、90年には欧州共同体全体に及ぶ「環境保護アクションプラン」が策定されるなど、環境対策にようやく本腰が入れられた。続いて91年に理事会指令689号により、加盟国での廃棄物処理についての一般的な法規が策定された。処理に関し、処理の場所および処理方法、処理した危険物の内容、分量など細かい情報の通知を加盟国は欧州委に対して行うことになっている(同第8条など)。なお、危険廃棄物の場合、回収、運搬において異なる危険物ならびに通常の廃棄物との混合は回避する必要がある(同第2条)。同決定(2000/532/EC)では、危険廃棄物リストの追加ならびに詳細な分類(同第1条およびアネックス)を行った。具体的には2ケタコードにより危険物のカテゴリーを20に分類し、さらにカテゴリーごとに6ケタまでの詳細分類を行っている。他方、危険物の特性(引火性、刺激性、有害性、有毒性、発がん性、腐食性、催奇性、突然変異誘発性)について、数値設定を含め詳細な情報が付記されている(同第2条)。この決定に基づき、加盟各国では2002年1月1日までに必要な措置を講じる必要がある(同第4条)。

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JETRO ユーロトレンド 2001.742

2

(参考資料)

第6次環境行動プログラム仮訳「環境2010:我々の将来、我々の選択」

1.新行動計画を取り巻く状況

生活の質の向上、長期的な繁栄には健全な

環境が不可欠であり、EU市民もハイレベル

な環境保護を要求している。社会は、環境へ

の悪影響や環境破壊と経済成長を切り離す努

力を求められている。企業は、現在と同量、

あるいはそれ以上の量の製品を、資源の消費

や廃棄物の生産を減らす形で実現しなければ

ならないし、消費形態も使い捨てからより持

続性のあるものに変換する必要がある。

EUにおいては、30年間の環境政策を通じ、

包括的な環境監査システムに到達した。「持

続的な発展に向けて」と題された第5次環境

行動プログラム(1992~1999)では、新たな

方策が実施され、環境以外の分野の政策でも

環境への配慮を統合する意志が明確にされ

た。第5次行動プログラムの総合的な評価で

は、一部分野で公害が減少していることが確

認されたが、残された問題は多く、EU環境

法規の国内法制化の促進、社会経済政策への

環境的配慮の統合の改善・強化、市民等の環

境改善努力の強化といったことが行われなけ

れば環境の破壊は進行し続ける。

こうした状況認識が第6次行動プログラム

の戦略の基礎となっており、今後5~10年間、

環境分野において優先的に取り組まなければ

ならない課題を提示している。優先分野は以

下の4つに絞られる:

・気候変動緩和の努力

・自然と生物多様性

・環境と健康

・自然資源の持続的な使用、廃棄物の持続的

な管理

2.環境分野の目標達成のための戦略的アプ

ローチ

環境分野での目標を達成するための欧州共

同体アプローチにとって、環境法規は重要な

柱であり、今後も重要であり続けるだろう。

また、今後10年間の優先課題としては、EU

法規の国内法への導入の加速が挙げられる。

しかし、今日、環境問題に取り組もうとす

る時、生産や消費の形態に変化をもたらすた

めには、厳密に法的なアプローチに限定する

ことなく、より戦略的なアプローチも必要と

なる。企業や消費者、あるいは政策立案者の

決定に影響を及ぼすためには、あらゆる手段

や方策を導入すべきだ。

戦略的アプローチの優先分野は次のとおり:

(1)EU環境法規の国内法への導入加速

EU環境法規の国内法への導入を加盟国に

促すためには、必要とあれば欧州司法裁判所

を通じた精力的な司法手段に訴える。また、

同時に環境に関するEU法規の国内法への導

入のグッド・プラクティスに関する加盟国間

での情報交換を支援するほか、導入状況を年

次レポートの形で報告する。このほか欧州委

が、注目すべき成果あるいは嘆かわしい状況

を広く一般に知らしめる政策のイニシアティ

ブをとる。

(2)他の分野の政策への環境的観点の統合

深化

欧州委が推進する各分野の行動イニシアテ

ィブを環境的な観点から総合的に評価する。

統合状況の深化は、指標の使用によって、

あるいはパフォーマンスの比較によって実

施する。

(3)市場との協力

・企業や消費者の利害を通じた市場との協力

により、より持続的な生産や消費の形態の

導入を容易にする。環境法規を遵守しない

企業を罰するだけではなく、評価すべきパ

フォーマンスを評価するシステムを作る。

また、欧州共同体環境マネージメント・監

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 43

査システムの適用範囲を拡大する。

・消費者は環境に優しい製品を選択するため

の情報を必要としており、市場をこうした

方向に導く。欧州共同体のエコラベル授与

システムの有効性やその進歩に関する評価

を実施する。自社製品にエコラベルを貼付

することを企業に奨励するため、税制上の

優遇措置などを採択する。エコラベル貼付の

奨励により、消費者は環境に優しい製品を選

択しやすくなる。

・国家補助金は、環境に優しい方策を奨励す

るために使用する。例えば石炭産業への補

助金は、ガスや風力といったよりクリーン

な資源を発電に使用することを遅らせるこ

とになる。また、農業価格の維持や基礎的

農産品への補助金は、環境に害を及ぼす農

業の発展を助長する可能性がある。一方、

政府援助に関する欧州共同体法規を遵守す

るという条件はつくものの、環境に優しい

製品や生産方法の開発に補助金を使用する

ことができる。欧州委は最近、政府援助に関

する新指針を採択、環境関連の目的に使用す

る政府援助の額を最大化する意向にある。

・金融部門の融資や投資は、金融機関がいか

なる企業や活動に資金アクセスを可能に

し、融資に如何なる条件を課すかを決定す

ることで、間接的に環境に大きな影響を及

ぼす。こうした点を考慮し、金融政策のグ

ッド・プラクティスに関する情報の加盟国

間での交換を促進する。また、欧州投資銀

行の融資政策への環境に関する目標や要素

の統合を強化する。

・環境責任に関する欧州共同体システムを確

立するため、環境責任に関する法規作りを

行う。

(4)市民の協力

市民は日常的に、間接的あるいは直接的に

環境に関する決定を下す。環境に関する上質

な情報アクセスを容易にすることで、エネル

ギー効率が高い、リサイクルが可能な製品や

サービスを使用したり、購入したりできるよ

う市民の選択を助けることができる。

(5)国土整備

加盟国の国土整備に関する決定は、環境問

題に大きな影響を及ぼす。欧州委は、グッド・

プラクティスの奨励や、構造基金を通じた介

入によりこうした問題への支援を行える。

3.優先分野

(1)気候変動緩和の努力

科学者たちは、気候が変動しつつあるとい

う点で見解が一致している。気候変動の主因

といえる温室効果ガスの増加は人間の活動に

よるところが大きい。第6次環境行動プログ

ラムの優先目標は、京都議定書を批准させ、

適用することにある。京都議定書の適用によ

り、2008年あるいは2012年までに温室効果ガ

スの排出を90年比で8%削減することを第一

歩とし、長期的には70%の削減を実現する。

①目標

気候変動に関する国連基本協定の目的に従

い、地球の気候が人工的な変動にさらされ

るのを回避できるレベルに大気中の温室効

果ガスの濃度を安定させる。

②ターゲット

科学者は、目標達成には、温室効果ガスの

排出を長期的には、90年比70%近くまで削

減する必要があるとみている。今後2020年

までに、国際協定という手段で、温室効果

ガスの排出を90年比で20~40%削減しなけ

ればならない。

短期的には、EUは京都議定書の枠内で、

2008年あるいは2012年までに、温室効果ガ

スの排出を90年比で8%削減することを約

束している。

③政策的アプローチ

a.気候変動の緩和

温室効果ガス排出の約15%はEUの責任

であり、EUは同ガスの排出削減の先導

役を務める必要がある。気候変動の問題

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JETRO ユーロトレンド 2001.744

2

に対処するには、強固な国際的連携が不

可欠であり、京都議定書での約束を履行

することがその第一歩となる。京都議定

書の目標は野心的とはいえないものの、

さまざまな経済部門の多大な努力を必要

とする。欧州共同体は、京都議定書の履

行と並行して、より野心的な国際協定の

締結に向け尽力すべきだ。

欧州共同体の努力は以下のような方向で

行われる:

・EUレベルでの温室効果ガスの排出権

取引システムを制定。

・加盟国のエネルギーに関する補助金リ

ストの作成とその分析。

・EUの研究・開発政策への気候変動の

統合、並びに加盟国における研究のコ

ーディネーション

・エネルギー効率改善、省エネ(特に建物

の冷暖房)、再生可能な資源エネルギ

ーの利用促進、二酸化炭素以外の温室

効果ガスの排出削減を目的とする方策

の策定。これらの目標は、公害予防や

削減に関する法律、エネルギー税の導

入、産業界との協定、先端技術の使用

支援といった形で追及できる。

・運輸政策、エネルギー政策、産業政策、

地域政策、農業政策といった欧州共同

体の政策に気候変動に関する目標を統

合する。その際、具体的な目標、行動

を設定する。

運輸部門:鉄道利用の促進、公共交通

機関の利用、輸送効率の改善、効率の

高いあるいはガス排出の少ない代替燃

料やテクノロジーの開発。特に航空機

の温室効果ガス排出に注意する(2010

年には、90年に比べ100%増加すると

予想される)。

エネルギー部門:電力生産における石

油・石炭の利用を削減し、天然ガスのよ

うな燃料の利用を促進する。2010年まで

に再生可能エネルギー源の使用を電力生

産の12%に、複合的エネルギー源の使用

を同18%にまで引き上げる。

農業部門:窒素酸化物やメタンの排出

削減。農業や林業における「炭素井戸」

を改善する技術を利用して炭素を閉じ

込める。

・企業や消費者への気候変動に関する情

報提供を改善する。

b.気候変動への準備

温室効果ガス排出の削減と濃度低下の間

には、時間的隔たりがある。たとえ排出

削減に成功したとしても、すでに大気中

に蓄積された温室効果ガスに起因する気

候変動は逃れがたい。このため気候変

動に対処する方策の特定や実施が必要

となる。

これまでの研究では、次のようなことが

示唆されている:

・悪天候に耐えうるエネルギー開発、輸

送ネットワークおよびインフラ整備

・公園や緑地帯を増やし、街の清涼化に

寄与する建設資材の使用を促進する。

・新しい気象条件にあった農業および土

地利用

・高温多湿気候の場合、欧州内で増加す

る恐れのある病気に対処する、国民健

康に関する方策

気候変動への適応策は、まず加盟国や地

域で立案する必要がある。欧州委はこれ

を支援する:

・気候変動への適応を考慮した投資の決

定を下すため、欧州共同体の政策を見

直す。

・地域レベルでの対策作り、市民や企業

の関心を高めるため地域レベルの気候

のモデル化、評価手段の開発。

c.国際的な行動におけるEUの役割

EUは、気候変動に有効に対処するのに

必要な目標を定め、監視するという国際

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 45

レベルでの中心的な役割を維持する。そ

の第一歩は、2002年の発効を睨んだ京都

議定書の早期批准となる。将来の国際協

定では、京都議定書の枠内でまだ温室効

果ガスの削減を約束していない国々、特

に比較的高い発展レベルにある国々の参

加を促す。また、将来の協定で定められ

る目標は温室効果ガス排出の平等な分配

を考慮したものとする。

(2)自然と生態系

地球上の生命の存続を保証するには、自然

システムの健全さや均衡が不可欠であり、人

間の活動が自然や生態系に及ぼす圧力を矯す

必要がある。こうした圧力には、交通、工業、

農業などに起因する公害、土地や海洋の長期

にわたる無責任な使用、酸性雨、化学物質、

あるいは遺伝子組み換え作物の環境への拡散

などが挙げられる。

欧州では、鳥類の38%、蝶の45%がこうし

た脅威にさらされている。また、欧州の西部

や北部では、60%の湿地が消滅した。南部で

は、山火事が問題になっている。漁業資源も

脅威にさらされている。

農業に必須の土地も脅威にさらされており、

欧州の南部では気候や気象条件に関係する侵

食が問題となっている。土壌に含まれる有機

物質の減少がしばしば侵食に関係している。

観光も自然とのかかわりが深く、自然や生

態系、文化遺産が正しく管理されなければ、

観光開発によって深刻な打撃を受ける可能性

がある。

①目標とターゲット

・自然の構造や機能を保護、場合によっては

修復する。

・EUや世界における生態系の衰弱に歯止め

をかける。

・土壌を侵食や汚染から保護する。

②政策的アプローチ

欧州共同体における自然や生態系の保護

は、既存の政策や手段に基盤を置くことが

できる:

・保護や監視の対象となるべき最も代表的な

自然の生態系やゾーンを特定する

Natura 2000のネットワークを構築する。

・LIFEプログラムのNatureプロジェクトに

よる自然保護のための欧州共同体政策実施

への寄与。

・生態系のための欧州共同体戦略。

・水質や水資源を保護し、大気汚染や酸性雨

を減らすなど、環境への影響評価や土地利

用計画に関する欧州共同体法規の採択。

・共通農業政策の枠内での92年以来の農業環

境における方策や、環境的な要素を多く取

り入れた農村開発プラン(2000~2006)の

奨励。

・環境への配慮をより多く統合するため、

2002年以降の共通漁業政策の見直し。

・欧州委員会の提案による沿岸地域の統合管

理の実施。

③踏むべき手順

・公害の脅威

実施:

自然ならびに生態系は、加盟国における環

境法規の実施により恩恵を受ける。一部の

ケースでは、実施の強化が必要となる。水

と大気は重要な行動分野となる。

災害、市民の保護:

欧州共同体は、自然災害や事故のリスクに

対処する整合性のある政策を要求する。こ

のため欧州共同対は、事故や自然災害後に

加盟国が実施する対策のコーディネーショ

ンを行う。また、「危険物質の関係する大

事故のリスク管理に関する理事会指令96/

82/EC(Seveso II指令)」のパイプライン

や鉱山廃棄物への拡大を含め、産業関連事

故を予防することを目的とした方策を採択

する。

放射線に対する保護:

人間だけでなく、植物や動物をも放射線か

ら保護する方策を検討し、そのための環境

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JETRO ユーロトレンド 2001.746

2

基準を定める。

・土地の割当

特別な重要性を帯びるセクターの保護、管

理-Natura 2000:

Natura 2000の完全実施が、欧州共同体の

生物多様性保護政策の基軸となる。第1段

階は、欧州委によるゾーン・リストの採択

で、第2段階では、加盟国が2004年までに

それぞれのゾーンの管理プランを定めるこ

とを目標とする。

農村部の監視:

共通農業政策の改革は、農村部にポジティ

ブなインパクトをもたらし続けている。共

通農業政策の枠内で環境対策に利用できる

資金の額を増やすことで、農村部にポジテ

ィブなインパクトを拡大できる。加盟候補

国である中・東欧諸国では、共通農業政策

は農業近代化に役立つが、農村部開発に重

点を置いた適切な方法でこれを導入する必

要がある。

風景の保護や改善は、生活の質や観光、自

然システムの機能にとって重要である。し

かし、開発や一部の農業によって風景が脅

威にさらされる可能性もある。このため共

通農業政策は、伝統的な風景を保存するの

に適した開発方法を奨励している。

欧州共同体レベルでは、地域政策や農業政

策は、風景の保護、維持、修復が、資金調

達の目的、方法、メカニズムに正しく統合

されることを保証しなければならない。

森林の保護と持続的な発展:

森林は鍵となる自然資源で、重要な経済的

資産である。持続的な方法で保護、管理さ

れる森林は、生態系や農村部の発展に重要

な意味を持つ。欧州では、欧州森林保護閣

僚会議で、森林の持続的な保護や管理のた

めに機能するプラットフォームが定められ

た。また理事会は、98年12月15日のEUの

森林戦略に関する決議で、森林の多機能的

な役割を強調している。

・土地の保護

土地に関するデータの収集や研究には、こ

れまであまり大きな注意が払われてこなか

ったが、土地の侵食、開発による消失、あ

るいは土壌汚染に関する懸念は増大してお

り、土壌保護のシステマティックなアプロ

ーチが必要とされている。

・海洋環境

海洋環境の構造や機能に関する知識は、ま

だかなり限定されている。海洋生態系の人

間へのインパクトに関する理解も限られて

いる。しかし、我々は産業あるいは家庭起

源の公害を通じ海洋環境やその生態系に大

きな影響を及ぼしている。また、漁業資源

の枯渇も観察される。このため2002年には、

共通漁業政策の見直しも行われる。

海洋環境や生態系の保護は、再生可能な資

源の持続的な開発のみにとどまらず、公害、

海洋環境や沿岸部の荒廃に対する戦いのた

めの統合戦略が必要となる。欧州共同体は、

適切な方策を採択するため、問題を特定し、

数量化する協調行動を要求している。

・遺伝子組み換え作物のコントロール、監視、

ラベル表示、トレーサビリティ(追跡性)

の強化

バイオテクノロジーの使用、特に遺伝子組

み換え作物の環境への拡散が、公害の削減、

生態系の保護といった利点を提供し得ると

しても、長期的な潜在的リスクを見極める

必要がある。欧州共同体には、こうした製

品の流通を監督する法規が存在するが、こ

の法規は、商品化のあらゆる段階での監視、

ラベル表示、トレーサビリティの義務を導入

することによって強化されようとしている。

④国際的な行動

国際的なレベルでは、EUは、農業、林業、

漁業、鉱物や石油の採掘、その他あらゆる経

済活動の持続的な奨励に大きな関心を寄せて

いる。このためには、援助計画が環境に及ぼ

す影響を詳細に分析して、貿易、開発、協力

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 47

援助政策に自然や生態系の問題を統合する必

要がある。

⑤生態系に関する戦略ならびに行動計画

さまざまな分野の研究プログラムや行動計

画の実施のほかに、生態系の保護に関する今

後の研究は、知識の深化によって強化される

必要がある。特に生態系の現状認識が必要で

あり、自然や生態系に関するデータや情報の

収集プログラムを立案するとともに、生態系

分野の研究を支援しなくてはならない。

(3)環境と健康

①環境と健康

人の健康が、大気汚染、水質汚染、危険な

化学物質、騒音といった環境問題の影響を

受けるのは避けがたくなっており、予防の

原則やリスク防止を中心に据え、子供や高

齢者といった弱者を考慮に入れた環境や健

康への包括的なアプローチが必要となる。

a.環境と健康に関する一般的な目標

さまざまなタイプの放射線を含む人工的

な汚染物質のレベルが、人の健康にリス

クや影響を及ぼさないような環境レベル

に到達する。

健康は、ただ単に病気あるいは身体障害

が存在しないことを意味せず、身体的、

精神的、社会的な充足感のある状態と定

義される。

b.包括的な政策アプローチ

環境や健康の問題を検討する時、これま

では異なる汚染物質を調査し、大気、水、

廃棄物といったカテゴリー毎に基準を設

定するという方法がとられてきたが、事

態はそれほど単純ではなく、可能な限り

さまざまな観点を取り込み、包括的な政

策アプローチを採択する必要がある。

また、予防に重点を置かなくてはならな

い。危険な物質の使用による健康へのリ

スクに関するデータや評価を提出する生

産者や使用者の義務を強化する必要もあ

る。予防は、技術的、経済的に可能であ

るなら危険な物質をより危険の少ない物

質に置き換えることをも意味する。

包括的な政策アプローチは次のような形

をとる:

・子供や高齢者といった弱者を考慮しな

がら人間の健康へのリスクを特定し、

基準を定める。最新の科学的な知識や

技術の進歩に照らし、リスクや基準を

定期的に見直す。リスクが確かなもの

ではないものの、潜在的なリスクがあ

ると疑われる場合は、予防原則のアプ

ローチを採択する。

・いかなる経路で汚染物質が人体に到達

するかを調べ、リスクにさらされるレ

ベルを最小化するための行動指針を定

める

・大気、水、廃棄物、土壌に関する特定

の政策や基準に環境や健康の優先課題

を導入する。また、製品や生産過程に

おける危険物質の放出、あるいは使用

をなくす可能性を探るための製品の統

合政策にも、健康や環境の優先課題を

導入する。

「公害の統合予防・削減コンセプト(IPPC)」

は、工業施設の及ぼす影響の評価において

重要な役割を演ずる。IPPCはまた、加盟

候補国のEU加盟プロセスにおいても大き

な役割を担うことが期待されている。

IPPC指令に規定される新欧州汚染物質登

録簿(EPER)は、工業起源の汚染物質排

出に関する比較やアクセス可能な環境デー

タの提供のためになくてはならないもので

ある。EPERは、完全な汚染物質の投棄・

移動登録簿(PRTR)の作成に向けた第一

歩となる。

②化学物質

現在、約3万の化学物質が生産、使用され

ているが、そのほとんどに関し我々の知識

は限定されたものに留まっている。これら

の物質の潜在的なリスクは大きく、癌やア

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JETRO ユーロトレンド 2001.748

2

レルギー、喘息といった重大な影響を及ぼ

す。その一方で化学物質は、医療の改善の

ような利益をもたらす。

a.目標

化学物質が人の健康や環境にリスクや悪

影響を及ぼさない環境を作る。

一定量以上の生産が行なわれる化学物質

の評価を行う。まず、大量に生産され、

懸念材料の多い化学物質の評価から始

める。

b.政策的アプローチ

欧州共同体は、流通している化学物質や

市場に導入されようとしている化学物質

に関する法規を整備しているが、主要な

問題となるのは、化学物質に関するEU

法規の発効した81年以前に導入された化

学物質で、これらのうち少なくとも3万

の化学物質が現在、生産されている。こ

のうちの2,500の化学物質は大量に生産、

使用されているが、これらの物質のリス

クに関しては知られていないことが多

い。欧州委は、特別な注意やリスク評価

を必要とする140の化学物質のリストを

作成した。

・新しい化学物質や既存の化学物質のテス

ト、評価、リスク管理のための新単一シ

ステムの設置

・生産あるいは輸入される化学物質の特

性、使用法、量などに応じた試験システ

ムを定義する。すべての化学物質を登録

する。危険な特性を持つ化学物質は、長

期的な影響に関する特別な試験の対象と

する。

・非常に危険な特性を持つ化学物質には、

リスク管理を加速する新たな特定の手続

きを適用する。

・生産、使用される各々の化学物質の特性

に関する産業界からの情報伝達方法の適

応を図る。

・欧州共同体レベルならびに加盟国にお

ける化学物質の管理のための財源や構

造を改善する。

③肥料

a.目標

環境内に存在する肥料が、人の健康や自

然にリスクや悪影響を及ぼさない状況に

到達し、肥料の使用に関連するリスクを

包括的な方法で削減する。

b.政策的アプローチ

欧州共同体は、肥料の使用に関連するリ

スクを最小化するため2つのアプローチ

を採択した:

・最も危険で最もリスクのある肥料の流通

並びに使用を厳しく禁止あるいは制限す

る。

・使用を許可されている肥料の使用に関

し、グッド・プラクティスを模索する。

すでに穀物、果物、野菜、その他の食物

の内部や外部の肥料の残滓の最大レベル

に関する規則や、新しい肥料の流通に関

する規則、すでに商業化されている肥料

の再許可に関する規則などが存在する。

しかし、肥料の持続的使用に関する戦略

や行動計画がこれまでのところ欠けてい

る。

このほか、発展途上国やEU加盟候補国

での化学製品や肥料の管理を改善するた

め、欧州共同体プログラムを完全に実施、

適用する必要があるほか、古い肥料のス

トックを処分しなければならない。

④水資源の持続的使用と水質

水質に関しては、この20~30年で多くの改

善がなされたが、肥料などによる地下水

の汚染といった問題が依然として残って

いる。

a.目標

人の健康や環境に受け入れがたいリスク

や悪影響を及ぼさない水質のレベルに到

達させる。水資源の使用サイクルを、長

期的に持続可能にするための必要な方策

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 49

をとる。

b.政策的アプローチ

主要な課題としては、既存の法規の完全

かつ適切な実施を保証し、農業政策、産

業政策、地域政策といった他のEU政策

に水質に関する欧州共同体の目標を統合

することが挙げられる。また、水浴用の

水質に関する指令を、最新の科学的、技

術的な成果を取り入れ、見直すことも必

要となる。

欧州共同体は最近、水に関する基本指令

を採択したが、この指令の完全かつ適切

な実施を保証しなくてはならない。一方、

加盟国は、湖や河川、海の富栄養化に歯

止めをかけるため、硝酸塩に関する指令

の完全実施に努力する必要がある。

⑤大気汚染

発電所や、工業施設、自動車からの汚染物

質の排出に関する欧州共同体法規は、大気

の質改善に大きく貢献した。しかし、まだ

オゾンや微粒子の問題などが人の健康に影

を投げ掛けている。

a.目標

大気の質を健康や環境に受け入れがたい

リスクや悪影響を及ぼさないレベルに到

達させる。

b.政策的アプローチ

今後10年間に関しては、以下の2点に重

点が置かれる:

・実施:2005年、場合によっては2010年ま

でに、新しい大気の質に関する基準、特

に微粒子、無水亜硫酸、二酸化窒素、一

酸化炭素、重金属、ベンゼンのような芳

香炭化水素に関する基準の完全な適用に

努める。

・整合性:「欧州のための清浄な空気」と

いう名のもと、大気に関する法規とそれ

に関連する政治的イニシアティブに、整

合性のある枠組みを定義する。

⑥騒音

騒音は、欧州において非常に大きな問題と

なりつつある。調査によると、騒音は、少

なくともEU人口の25%に健康や生活の質

の面で影響を及ぼしている。

a.目標

規則的に長い期間、高いレベルの騒音に

さらされる人の数(2000年:約1億人)

を、2000年比で2010年までに10%、2020

年までに20%削減する。

b.政策的アプローチ

騒音を減らすための欧州共同体のイニシ

アティブは、発電機、芝刈り機、自動車

など個々の機器の騒音レベルの上限を定

めることに重点をおいている。これらの

方策は成果を挙げているが、今後の課題

は、輸送体系、特に航空輸送、道路輸送

によって生じる騒音レベルの引き下げの

ための方策を見つけることにある。

欧州委の戦略は、加盟国に強制的に騒音削

減に関する目標を課さず、各国で騒音レベ

ルを引き下げることのできる行動をリスト

アップし、こうした行動の実施を奨励する

政策をとることを目指している。

欧州共同体は手始めに、騒音測定に関する

規則を採択し、実施しなければならないが、

騒音の概念や騒音に関する用語を定義する

ため各種指標の調和が必要となる。

(4)自然資源の持続的な使用、並びに廃棄物

の持続的な管理

①資源効率、資源管理

地球上の資源、特に自然資源や再生可能な

資源は、人口の増加や経済発展といった圧

力にさらされている。こうした状況から資

源の持続的使用を保証する方策に重点を置

いた戦略の定義が必要となる。

a.目標

再生が可能な資源、再生が可能でない資

源の消費やその影響が、環境が耐えうる

範囲を超えないよう留意する。資源の利

用効率を改善し、より物質的でない経済

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JETRO ユーロトレンド 2001.750

2

を発展させ、廃棄物の生産を予防するこ

とで、資源の使用と経済成長を切り離す。

b.政策的アプローチ

欧州共同体は、資源、特に再生が可能で

はない資源の持続的使用に関するテーマ

別の戦略を作成する必要がある。

基本的なアプローチは次のようなものと

なる:

・優先課題の設定、分析やデータ収集のた

めの基準の定義を可能にする整合性のあ

る分析の枠組み作り。

・資源消費の削減を可能にする政策の定義

と実施。

テーマ別戦略に取り上げられる方策とし

ては、次のようなものが挙げられる:

・資源消費の少ない製品や生産方法の研

究、技術開発

・企業向けのグッド・プラクティスを奨励

するプログラム

・自然資源使用への課税や、排出権取引の

ような経済的手段の利用

・資源使用を助長するような補助金の廃止

・製品に関する統合政策やエコラベル授与

システムの枠内に、資源の効率的使用原

則を組み込む。

②廃棄物の予防、管理

適切な措置が取られなければ廃棄物の量は

増加し続けることになろう。このため廃棄

物の発生予防は、非常に重要となる。また、

廃棄物の回収、リサイクルのための方策も

必要となる。

a.目標

廃棄物の発生と経済成長を切り離し、廃

棄物の予防策の改善により世界レベルで

廃棄物の量を減らす。効率的な資源の使

用、並びに持続的な消費形態の導入。

今後も生産される廃棄物については:

・廃棄物の健康や環境へのリスクをなく

す。

・リサイクル、あるいは肥料のような形で

環境に戻すといった方法で、大部分の廃

棄物を経済サイクルに再統合する。

・最終処分の対象となる廃棄物の量を最小

限にとどめ、安全な方法で処分する。

・廃棄物は、生産された場所にできるだけ

近い施設で処理する。

具体的目標:

・最終処分の対象となる廃棄物の量を、

2000年比で2010年までに20%、2050年ま

でに約50%削減する。

・危険な廃棄物の生産量を、2000年比で2010

年までに20%、2020年までに約50%削減

する。

b.政策的アプローチ

廃棄物管理の欧州共同体アプローチで

は、廃棄物発生の予防が最優先され、再

利用(再使用、リサイクル、エネルギー

の再利用)、処分(エネルギー再利用を

伴わない焼却、投棄)がこれに続く。

欧州共同体の廃棄物に関する現在の政策

や法規は、次の3つの主要な要素を含

む:

・さまざまなタイプの廃棄物の定義、廃棄

物処理施設に関する許可手続き、廃棄物

輸送のコントロールなどを含む法的枠

組み

・廃棄場や焼却炉といった廃棄物処理施設

の機能の基準を規定する法規

・廃車のような廃棄物の優先的フローに関

する特定法規

これに廃棄物や資源の管理状況の改善を

計測することを可能にする指標や統計の

改善を目的とする法規が加わる。

こうしたアプローチは、多くの加盟国や

欧州議会などの支持を得ていることか

ら、欧州委の廃棄物管理戦略の基軸であ

り続けることになる。

廃棄物発生の予防:廃棄物の量並びに危

険性の削減

上記のアプローチは、廃棄物管理基準の

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 51

改善に貢献したが、増加する廃棄物に歯

止めを欠けるには至っていない。こうし

たことから量的にも質的(危険性)にも

廃棄物発生の予防に重点を置く必要があ

る。これは、資源の効率的な使用や、消

費形態の変化、生産・使用・廃棄処分の

過程において発生する廃棄物の削減に密

接に関係している。つまり予防活動は

「源泉」で行われなくてはならない。ま

た、廃棄物の予防という目標は、資源管

理、製品に関する統合政策、化学物質に

関する政策(危険な廃棄物)のために検

討されるテーマ別戦略にとって必須の要

素となる。

c.廃棄物のリサイクル奨励

廃棄物は可能な限り再利用することが望

ましく、中でもリサイクルが優先される

べきである。リサイクルに関する欧州共

同体のアプローチは、包装廃棄物や廃車(注)

といった「優先的な廃棄物」のフローに

重点が置かれ、規則という形で加盟国の

リサイクルの目標が定められている。製

品が廃棄物となった場合、製品の生産者

が廃棄物責任者となり、生産者は危険な

物質の含有率の削減責任も負う。

廃棄物のリサイクルに関するテーマ別戦

略には、次のような行動が含まれる:

・リサイクルすべき廃棄物の優先順位の決定

・優先廃棄物の回収、リサイクルを保証す

るための政策や方策の決定

・リサイクルされた物質のための市場創設

を促進する政策や手段の決定

4.国際舞台におけるEU

(1)EUの拡大

第6次環境行動プログラムの方策は、EU

に今後加盟する国にも適用される。このため

加盟候補国の主要な課題は、欧州共同体の支

援を受けながら、環境関連の欧州共同体法規

を国内法制化することで、加盟までに法制化

を終える必要がある。加盟候補国はこうする

ことで、西欧諸国が現在直面する環境問題を

回避することができ、持続可能な経済発展の

道を歩むことができる。

また、次のような行動が不可欠となる:

・加盟候補国の行政当局との持続的発展に

関する広範な協議

・環境問題への関心を高めるため、環境分

野で活動する非政府組織や加盟候補国に

進出している企業との協力関係の構築

(2)国際的な問題解決への貢献

①目標

・EU域外と関係するあらゆる分野に環境

に関する問題や目標を統合する。

・国際機関による環境への考慮、環境分野

における行動への十分な資金を提供する。

・国際協定、特に気候、生態系、化学物質、

砂漠化に関する協定を実施する。

②環境保護に関する近隣国の支援

・欧州-地中海諸国パートナーシップ、

TACIS計画の枠内で、環境問題に対処

する強固な基盤を作る。

・欧州-地中海自由貿易圏構想の目標に持

続的発展を加える。

③EUの対外政策への環境問題の統合

・欧州委員会並びに加盟国は、開発援助、

経済協力といったEUの対外政策に環境

問題を統合することに努める。

・多国間、または2国間の貿易協定の持続

的発展への影響評価のための基準や方法

を設置する。

・外国への直接投資や貿易保険において、

環境に優しい実践を奨励するための努力

を続ける。

(注)ジェトロ欧州課では、廃車に関する欧州議会・理事会指令2000/53/EC(2000年9月18日付け)の仮訳を保管しているので、ご関心の向きはお問い合せ下さい(TEL:03-3582-5569)。

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JETRO ユーロトレンド 2001.752

2

④環境分野における国際的ガバナンスの強化

環境関連の問題を扱う国際機関を強化し、

これらの機関の重要性や影響力などを強化

する。

⑤国際舞台におけるEUの役割強化

EUは国際機関、特に国連環境計画での地

位を強化する必要がある。EUはまた、国

連の他の機関や、国際的金融機構の活動や

機能に環境問題を統合するよう努力する。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 53

はじめに

オランダでは、19世紀におきたコレラの流

行に対する処置の一環として1900年頃までに

既に主要都市では地方自治体による浄化規制

があったが、国家レベルの規制が設けられた

のはその後かなりの時間が経過してからであ

る。73年の石油危機のような出来事は天然資

源の貴重さ、また環境保護の重要さについて

新たに注意を喚起し、政府はその都度、迅速

かつ効果的な対応策を講じてきたが、それで

も法的な対応は十分ではなかった。このため、

環境法が導入され、76年に制定された化学廃

棄物規制法や77年の廃棄物規制法のような汚

染種類別の規定が設けられた。

しかし、個々の汚染問題に対する規定の相

違が環境法の画一性を損ねていた。このため、

この相違を克服するための第一歩として80年

に環境保護基本法が公布された。だが80年代

に起きた数々の汚染スキャンダルは状況の深

刻さを国民の前に露呈し、ついに89年、国家

環境政策計画(NMP:National Milieubeleids

Plan)が提出され、既に導入されていた環境

保護基本法が環境保護法(Wet Milieubeheer)

に統括され、93年3月に施行された。

1.環境保護法に基づく廃棄物処理

93年の環境保護法施行後、94年1月1日に

化学廃棄物規制法(76年)と廃棄物規制法(77

年)は同法第10章、“廃棄物”の条項に組み込

まれた。同章は廃棄物の発生阻止という初期

段階からの取り組みを目的としており、その

上で廃棄物の回収・処理規制による対策でさ

らに廃棄物への取り組みが強化されている。

この章の主な特色は以下のとおり。

①廃棄物の処理は発生防止→再利用→焼却→

処分の順に処理をするよう促している。

②焼却・埋め立て処分は禁止されることがあ

る。

EU指令に先行する廃家電への取り組み(オランダ)

オランダの廃棄物規制の取り組みは古く、70年代には既に汚染種類別の規制が制定され

ていた。90年代に入って環境保護法のもと規制、運営制度が整備され、98年には電気・電

子製品回収政令が制定された。本レポートでは、オランダの環境保護法に基づく廃棄物処

理規制の主な特徴を紹介した上で、電気・電子製品の廃棄物規制の概況とこれによる廃棄

物回収の現状について報告する。

アムステルダム事務所

3

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JETRO ユーロトレンド 2001.754

3

③特定製品の製造・輸入は禁止されることが

ある。

④製造者、輸入業者に何らかの手段で(委託

業などを介して)製品廃棄物の回収・処理

を義務付けることが可能となった。

⑤企業と廃棄物回収業者に廃棄物を分けて出

すための種類分別、または現場処理をする

よう義務づけることが可能になった。

⑥EU内外における廃棄物の移動に関して規

制が定められている。

⑦保健・福祉・スポーツ相は州または地方自

治体の環境条例に規制の導入を定めること

ができる。

オランダの廃棄物処理問題への取り組み

は、地方分権のかたちをとっており政府が概

略を決め、それに基づいて地方・州が、施行

するにあたってさらに具体的な内容や施行方

法を決定するようになっている。93年の環境

保護法の制定により、廃棄物処理分野は90年

代に目覚しい技術の進歩を遂げてきた。廃棄

物処理業者連合や運営組織のための諮問機関

が設置され、さらなる開発が促進されている。

現在オランダにある焼却設備は世界でも上

位に入る高度な技術を所有する企業により開

発されており、使用されている11の焼却設備

は年間500万トンもの廃棄物の処理が可能で、

膨大なエネルギーの供給源となっている。こ

こで生産されたエネルギーは98年に110万戸の

家庭に供給され、焼却されて残った屑は道路

建設のための基礎原料として用いられている。

種類別の回収が義務付けられている廃棄物

は以下のとおり。

a.家庭廃棄物

b.有機材料

c.包装材料

d.瓶

e.紙・段ボール

f.合成物質

g.建築・取り壊しの廃材

h.廃棄自動車

i.危険廃棄物

j.電池

k.電気・電子製品

堆肥処理産業などはこの種類別廃棄物回収

規制によって恩恵を受けた産業のひとつであ

り、有機材料の種類分けによって肥料や土地

改良材への再利用にはずみがついた。

現在廃棄自動車、使用された紙、いくつかの

合成建設材料の回収責任は製造者の任意で行

われているが、タイヤ、電池、電気・電子製品

については法律上で回収が定められている。

2.電気・電子製品の廃棄物に関する規制

92年から政府は関連企業、運営機関、団体

とともに電気・電子製品回収システムの設置

へむけて折衝を行ってきた。94年中頃、一度

審議は暗礁に乗り上げたがその後95年末に経

済相と住宅国土計画環境相は各組織、団体に

廃棄物の回収計画書を提出するよう求めた。

しかし、これらの多くの計画書が非現実的な

回収システムであったことも踏まえ政府は98

年4月21日に電気・電子製品回収政令を制定

した。

(1)目的

電気・電子製品回収政令の基本的な目的

は、電気・電子製品の回収体制の確立である。

特に、電気・電子製品・同部品の最大限の再

利用、廃棄物の回収による環境汚染リスクの

抑制を実現する。またこの政令は製造者側の

責任を明確にした上で、消費者、販売者、修

理業者、地方自治体、製造者・輸入業者に汚

染の防止(環境に優しい設計)、再利用の促進、

低コストで実施可能な回収を提唱している。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 55

(2)政策決定

住宅国土計画環境省のフェールマン廃棄物

政策担当によると、政府は個々の製造者・輸

入業者だけでなく冶金産業協会(FME-

CWM)や97年にオフィス用品の輸入業者・

生産業者協会(VIFKA)から名称を変更し

たオランダ情報通信技術協会(V - I CT

Nederland)など関連機関や団体にも働きか

けており、こうした地道な努力はオランダ電

気・電子製品回収協会(NVMP)の設立に

も結びついている。

製造・輸入業者側は廃棄物の回収が製造者

側の責任であるという点に異議を申し立てて

いるが、電気・電子製品の処理や再利用の強

化は事実上避けられない問題であるため、大

方の企業・団体は受け入れざるを得ない状況

である、ともフェールマン氏は述べている。

ソニーやフィリップスなどの企業はこの点に

おいて率先して対応にあたっている。

(3)政令の施行

電気・電子製品回収政令には以下の5つの

グループが重要な役割を担っている。

① 消費者

消費者による廃棄物の投棄には2つの方法

がある。ひとつは、オールド・フォー・ニュー

(Old for New)規制といい、消費者が代替

製品購入の際、廃棄物を販売者に無料で引き

取ってもらうというものである。もうひとつ

は、オールド・フォー・ニュー規制が当ては

まらない場合(例えば消費者が代替製品を購

入しないが廃棄物を投棄する場合)であり、

その場合消費者は地域の回収サービスを依頼

することができる。

② 販売者

販売者はオールド・フォー・ニュー規制が適

用された場合、消費者が廃棄する製品を無料

回収する義務がある。販売者は廃棄物を第三

者に売る、または製品の製造者・輸入業者、も

しくは地方自治体に引き渡すことができる。

ただし、クロロフルオロカーボン(CFC)(注)

を放出する冷蔵庫・冷凍庫には唯一この規制

は当てはまらない。CFCの放出を最小限に抑

えるために冷蔵庫・冷凍庫は最終処分されな

ければならない。

③ 修理業者

修理業者は修理不可能とみなされた製品、ま

た消費者が修理業者に製品処理を委託する場

合に製品を廃棄物として回収することが多い。

④ 地方自治体

地方自治体は家庭用電気製品の廃棄物回収義

務を保持する。これまでは主にオールド・フ

ォー・ニュー規制に当てはまらない大型電気

製品に関してのみの適用だったが、小型電

気・電子製品の種類別回収、また販売業者か

らの製品回収義務も最近追加された。

⑤ 製造者・輸入業者

製造者・輸入業者は販売者、修理業者、地

方自治体が引き取った廃棄物を回収する義務

がある。製造者・輸入業者は2005年まではメ

ーカーに関わりなく代替製品販売で販売者が

引き取った廃棄物を引きとる義務がある。地

方自治体または修理業者からメーカー別に引

き取るのは合法化されていない。

製造業者・輸入業者はこれらの義務の履行

計画を個人または団体を通して政府に提出し

なければならない。

(注)フッ素、炭素および塩素で構成された物質で、科学的に安定で、不燃性、毒性がないなどの性質を有するため、ターボ冷凍機の冷媒、各種断熱材の発泡剤、電子部品等の洗浄剤などに使用されている。なお塩素を含むためオゾン破壊係数が高い。

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JETRO ユーロトレンド 2001.756

3

電気・電子製品の分別は以下のとおり。

a.冷蔵庫・冷凍庫

b.暖房器具

c.湯沸かし器

d.洗濯機・乾燥機

e.調理器

f.音響機器

g.映像受信機器

h.コンピュータ

i.印刷機器

j.通信機器

k.蓄電機器

l.その他台所電化製品

m.電気・電子工具

n.その他家庭用電気・電子製品

製造者・輸入業者による計画提出期限、回

収義務の発効日および施行開始日などは以下

のとおり。

提出期限までに計画を提出しなかった製造

者・輸入業者は50ほどあったが、環境保護監査

機関からの警告により義務は遵守されている。

(4)回収負担金の有無

電気・電子機器回収に関する政策作成過程

において、関連企業や組織は団体や機関を通

し結束をはかっている。これら団体ではオラン

ダ情報通信技術協会(V-ICT Nederland)と

オランダ電気・電子製品回収協会(NVMP)

が2大組織となっている。NVMPのバッケ

ス女史によると、他の組織もNVMPを参考

としたり、NVMPの回収手法に類似する方

法を導入しており、政府へ提出する回収計画

もNVMPと同様の内容であることなどから

最終的にはNVMPに参加する組織も少なく

ない。

NVMPは製品販売の際、その製品の値段

に加え回収負担金を一部消費者に求めるとい

う方法をとっており、この負担金で廃棄物の

処理・再利用のコストを賄っている。回収負

担金が高すぎるという非難もあるがこのシス

テムは個々の回収・再利用の必要に応じた負

担金の設定をしており、特に再利用のための

費用は技術の開発とともにコストダウンが可

能である。

現在のところ、回収負担金は製品によって

さまざまである。ポータブルラジオの2.5ギ

ルダーからオーブンレンジやビデオの15ギル

ダー、冷蔵庫、冷凍庫の40ギルダーまで金額

範囲も広い。しかし、プロンク住宅国土計画

環境相によると、2001年2月時点で廃棄物の

回収・処理は予想を上回り効率的に実施でき

ていることが明らかになり、その結果、回収

負担金は今後減額される見通しである。

NVMPがテレビの回収負担金を25ギルダー

から7.5ギルダーへ値下げすることに同意し

たことなどはその一例である。

一方、V-ICT Nederlandは情報通信技術

(ICT)製品販売の際、消費者に対し回収負

担金を課してはいないが、その代わり廃棄物

処理業者に回収を委託し、製造者・輸入業者

に後日、その費用を請求するという方法をと

っている。フェールマン氏はこのV-ICT

NederlandとNVMPの相違は次にあげられる

基本的な違いから生じるものとしている。

①ICT製品は他の製品と比べ処理・再利用に

かかる費用が少ない。

②ICT製品は一般的に寿命が短い。

③ICT産業は各製品の利幅がより大きい。

④ICT製品は処理・再利用のシステム構築に

かかる費用が安価。

このような条件が背景となり、ICT廃棄物

の処理・再利用は電気・電子機器廃棄物と比

べ資金的に製造者・輸入業者が負担しやすい

製品グループ� 発効日� 計画提出期限�回収システムの実施�

a.d.e.g.h.i.j�98年6月1日�98年9月1日迄� 99年1月1日より�

b.c.f.k.l.m.n�99年1月1日�99年3月31日迄�2000年1月1日より�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 57

のが大きな理由であるとフェールマン氏はみ

ている。

一方で、ICT製造者・輸入業者が回収を自

費で賄うV-ICT Nederlandを選ぶ主な理由と

して、フィリップスのステーンクスICT担当

は個々が回収システムを独自に管理できる点

をあげている。これは「フリーライダー」の存

在を無視できないマーケット事情とも関係が

深い。「フリーライダー」とは回収団体に参加

しない製造者・輸入業者の事であり、多くの

場合、小規模で未登録のため摘発が難しいと

されている。メーカーに関係なく廃棄物回収

費用がV-ICT Nederlandによって負担される

場合、実際のところ「フリーライダー」によっ

て回収されるべき廃棄物が回収団体によって

行われる、つまり回収団体費用が流用されて

しまう。現在V-ICT Nederland、住宅国土計

画環境省はともに「フリーライダー」摘発の強

化、また回収団体への参加を呼びかけを促進

している。しかし、いまだ政府による摘発の

ための十分な対策がされていないとステーン

クス氏は指摘している。

(5)電気・電子機器廃棄物専門処理業者

他の廃棄物処理業界と歩調を合わせながら

も、ここ数年電気・電子機器廃棄物の処理業

者たちの専門性が顕著に現れてきている。現

在、アイントホーフェンにあるクールレック

(Coolrec)がマーケットリーダーとしてあら

ゆる電気・電子機器(主に冷蔵庫、冷凍庫や

テレビ)を処理している。他にはスクラフェ

ンダールにあるHKS スクラップ・メタル

ズ(HKS Scrap Metals、大型電気・電子機

器)、アイントホーフェンのミーレック

(MIREC、テレビ、小型電気・電子機器)、

アぺルドーンのリサイドゥール(Recydur、

その他電気・電子機器)などがある。マール

へーゼのホーファース・トランスポート

(Hoogers Transport)やリンデンのフォン

ク&カンパニー(Vonk&Co)など、NVMP

と契約している電気・電子機器廃棄物専用輸

送業者も存在する。

(6)EU指令との関わり

住宅国土計画環境省のフェールマン廃棄物

政策担当によると、オランダはブリュッセル

に派遣している代表者を通してEUの政策決

定に意見を反映させることが可能であり、欧

州議会も各国から集まる代表者のための諮問

委員会を設置し専門家の意見を聞く場を提供

している。

オランダの各関連組織は欧州規模の組織を

通して意見を述べることができる。例えばV-

ICT Nederlandは欧州機械、電気・電子工学、

金属加工連合(ORGALIME)、欧州情報通

信技術産業協会(EICTA)を通して意見交

換を行っている。EICTAは2000年1月1日

にECTELとEUROBITの合併によって設立

され、欧州16カ国から成る22のICT組識と26

のICT関連大企業で構成されており、現在

3,000の欧州ICT企業を包括している。これら

の組識はEU指令作成段階で各国の代表者ま

た直接欧州委員会を通して意見を述べること

が可能である。EU理事会で決定された内容

は直ちにオランダの政令に反映され、政府を

介してNVMPやV-ICT Nederlandに通達さ

れるようになっている。

フェールマン氏はオランダの政令の大部分

が既にEU指令と調和していると考えている。

西欧諸国の中でもオランダは最も電気・電子

機器廃棄物回収政令の施行が進んでいる国の

ひとつといえるが、これはオランダがこの分

野において先進的で、なおかつ経験が豊富で

あることから、EU指令に影響を与える立場

にあるためといえる。

在蘭日系企業の大多数が既に廃棄物回収関

連組識に属しているとみられるが、今後、新

規に進出する日系企業にこの規制の存在と関

連組織について周知する必要がある。

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JETRO ユーロトレンド 2001.758

3

(7)システム実行上の問題点

①環境保護監査機関によると、家庭用電気

製品に関する規制が十分に守られていな

いと、強制行動をとるケースがある。

②同監査機関はクロロフルオロカーボンを

放出する冷蔵庫の輸出、売買は依然続い

ているとみている。違反が摘発され、約

2,000の冷蔵庫が処理されたケースもある。

③家庭用電化製品を無料で回収していない

販売店が存在している。同監査機関から

の警告によって回収が履行されている。

④ICT市場における「フリーライダー」を関

連組織に登録させることが困難である。

フィリップスのステーンクスICT担当は

住宅国土計画環境省による「フリーライ

ダー」の摘発に必要な対策が欠如してい

ることを指摘している。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 59

1.参加に対する各界の姿勢

(1)政府および各野党の見解

現在スウェーデンは社会民主党(社民党)

が左党と環境党の閣外協力を受け少数派政権

を維持している。野党第一党としてはやや右

寄りの穏健党があり、この他、自由党、キリ

スト教民主党そしてやや中央よりの中央党が

ある。野党のうちユーロ参加に反対している

のは中央党であるが、政権を支えている左党

と環境党もユーロ参加には反対の立場をと

る。各党の考え方は次のとおりである。

①社民党は一般労働者、勤労者の間で支持を

集めている政権党で、ユーロ参加によりユー

ロ圏としてドル・円圏との為替政策での提

携が可能となり、グローバル化する市場の

巨大資本に対抗する防波堤となり得るとの

立場からユーロ参加に賛成。しかし国民投

票の実施時期については明言を避けている。

②穏健党は産業界、高額所得者、自営業者の

支持が高い政党。同党はスウェーデンがユ

ーロ発足時点で参加すべきと主張してい

た。ユーロ参加により低価格、低インフレ、

低金利、為替両替料金の廃止、貿易手続き

の簡素化等により高い経済効果(成長)を

スウェーデンにもたらすと考えている。ユ

ーロ不参加は経済活動への弊害をもたら

し、またEU加盟時にスウェーデンが調印

した条約に違反するうえ、欧州内でのスウ

ェーデンの影響力も少なくなると主張。

③自由党はインテリ、サラリーマン、中級階

級に支持基盤がある政党。ユーロ発足時か

らの参加を主張、スウェーデンはEU内部

でより活発に活動すべきで、ユーロ参加が

経済的発展を促し、企業活動や雇用の機会

を促進すると見ている。為替相場メカニズ

ム(ERM2)に直ちに参加すべきと主張し

ユーロ参加時期は依然として不透明(スウェーデン)

スウェーデンにおけるユーロ参加への見通しは、今のところ膠着状態が続いている。大

方の政党、エコノミスト、産業界の間では参加に賛成だが、その参加時期になると明確な

答えが出ていない。例えば閣外協力政党は参加に反対している。

また、国民のユーロ参加支持率はユーロの為替レートに連動して上下しており、早急に

国民投票を実施する場合、結果が危ぶまれる。その一方で、金融界ではユーロ参加を見越

した再編の動きが出ている。

ストックホルム事務所

4

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JETRO ユーロトレンド 2001.760

4

ており、また、ユーロ参加の前に国民投票

が必要としている。

④キリスト教民主党はキリスト教信者の間で

人気のある政党で、人類愛を重視し避難民の

受け入れに最も熱心。党大会でユーロ参加賛

成を決定しており、ユーロ参加が安全保障

体制の強化に役立つと見ている。しかし参

加には国民投票を実施すべきと考えている。

⑤中央党は、地方では農民、都市部では環境

に留意する市民層に人気がある政党で、保

守政党の中でユーロ参加に反対する唯一の

政党。経済通貨同盟(EMU)は地方分権

化の理念にそぐわず、EUの東方拡大を困

難にさせ、各国の景気サイクルを乱すと考

えている。国民投票で参加の是非を問うべ

きと主張。

⑥環境党は自然擁護者の間で人気のある党で

ユーロ参加に反対している。EMUは欧州

合衆国につながるもので、最悪の結果にな

ると考える。ユーロ参加により、他国と共

通の税制政策を展開する必要が生じ、スウ

ェーデンの福祉社会に弊害が生じることを

懸念。EMUは非民主的であり、経済的帰

結には疑問点が数多く存在すると主張。国

民投票を要求。

⑦左党は左派系支持者が多く、一般労働者、

勤労者の間で支持がある。社民党がより右

傾化するにつれ社民党から左派系支持者を

奪って支持率が5%から14%に躍進。

EMUは非民主的な機構であり、その経済

政策は福祉社会の改悪につながるとして反

対。ユーロ参加の是非は国民投票で決定す

べきと主張。

(2)産業界の見解

スウェーデン企業の集まりである産業連

盟は、安定したユーロ通貨が欧州に有益と考

えている。ユーロにはできるだけ早く参加す

べきであり、そのために政府は下準備として

社会機構の改革、とりわけ労働市場の構造改

革を進めるべきだと考えている。このために

英国で実施されているような構造改革案を作

り、具体的に公表すべきと要求している。ス

ウェーデンの労働市場は、中央交渉で大枠が

決まり、各企業の現場で具体的に労働賃金が

決定されているが、従来の中央団体交渉モデ

ルはグローバル化の中で機能しなくなってい

る。雇用保証や労働組合活動等の面で勤労者

が各国と比較して手厚く保護されているの

で、規制の自由化を希望している。

雇用者側の中央機関であるスウェーデン雇

用者連盟(SAF)はユーロ参加に賛成して

いる。スウェーデンが欧州の中で長期的な信

頼を維持するには国内における企業環境条件

を良くする必要がある。企業側にとって雇用

条件の改善が行われることによって雇用、そ

して社会福祉の前提条件が保証されると主張

する。しかし労働組合はユーロ参加には賛成

するが労働条件の変更には反対の姿勢をとっ

ている。

(3)世論調査動向

ユーロが99年1月に発足した当初は、参加

への支持がスウェーデンでは高かった。99年

3月4日には57%の国民がユーロ参加に賛成

し、38%は反対、5%が不明と答えていた。

性別では男性が65%、女性は49%が参加に賛

成であり、全体の62%がユーロ不参加となる

と経済成長が低くなるだろうと見ていた。し

かしその後ユーロの為替レートがドルに対し

て徐々に下がるにつれてスウェーデン国民の

ユーロ参加に対する興味もさめた。99年12月

には1ドル=1ユーロとなり、同時にユーロ

参加支持率が下がった。その後2000年に入り

ユーロはますますドルに対して弱含み、それ

と同時にユーロ参加支持率も減少して行く傾

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 61

向が見られた。2000年10月に米国経済にかげ

りが見られ始めてからドルに対してユーロが

強含みつつあるが、まだ1ドル=0.90ユーロ

程度止まりで1:1のパリティ(等価)まで

程遠い。ちなみに同月でのユーロ参加賛成派

は30%、反対派は52%、そして不明派は18%

であった。米国経済のかげりが大きくなるに

つれてユーロが強含み、支持率が増加してい

るが、2001年2月20日に公表されたダーゲン

ス・ニューへテル新聞とシゥードスヴェンス

カ新聞の世論調査でもユーロの強含みを反映

し、賛成派が34%に増加、反対派は50%に下

がり、不明派も17%に減少している。しかし

依然としてユーロ参加反対派が多数を占めて

いる状態だ。

このようにユーロの動きとスウェーデンの

ユーロ参加支持率が連動していることに対し

てエコノミストは懸念を示している。

確かにスウェーデンのユーロ参加に対する

支持率はユーロの為替レートの動きと直結し

た動きを見せ、ユーロが強ければ支持率が上

がり、弱くなれば下がるとSEB銀行主席エコ

ノミスト、クラース・エークルンド氏は指摘

している。政治家、マスメディアはますます

ユーロの上昇が参加支持率向上につながるも

のと考えるようになっている。弱いユーロは

米国の経済、ドルの動きによっても大きく影

響されるので心理的にユーロ圏内外の経済要

因を区別することが困難と彼は指摘する。ユ

ーロに対して懐疑的な元ノルディア銀行アナ

リスト、ニルス・ルンドグレン氏もユーロ参

加問題とユーロの為替レートの結びつきを残

念なことと指摘している。またユーロの為替

交換率はユーロ圏諸国の経済状態を示したも

のだからユーロが強くなくてはならないとの

理解は誤りだとしている。

また2001年1月~6月にはスウェーデンは

EU議長国となったがEU、EMUに対する関

心が盛り上がらずスウェーデン政府にとって

頭痛の種となっている。移動電話利用者を調

査しているモバイルオピニオン社によると、

EU議長国になったことでEUに対する見方が

変わったかとの質問に対して国民全体の61%

が変わらないと答え、6%が否定的に、また

21%が肯定的になったと答えていた。性別で

は男性の24%、女性の14%が肯定的になった

としている。(2001年1月3日付けDI新聞より)

(4)ユーロ参加までのスケジュール(見通し)

ギリシャは2000年5月3日、欧州委員会、

欧州中央銀行(ECB)からユーロ参加を承認

された。しかしスウェーデンは参加の為の条

件に欠けているとECBのクリスチャン・ノワ

イエ副総裁は述べた。スウェーデンがユーロ

に参加するためには基本法に規定される公文

書の公開原則をECBの守秘義務に反しないよ

う修正し、また、為替相場メカニズム(ERM2)

に2年参加する必要があるとECBは指摘する

が、スウェーデン側では秘密遵守法の修正で

事足りるとみている。しかし現在の基本法で

は為替政策は政府が決定するとされており、

中央銀行に独占的な紙幣発行権を認めている

のでこれを修正しなければならない。その基

本法の変更には総選挙を挟んだ2回の国会で

の可決が必要となるので、国民投票は早くと

も2002年以降になる。そして中央銀行自身が

金融政策をECBに移行させる為には99年1月

から施行された中央銀行の独立性を保証する

新法の改正も必要となる。ギリシャは98年3

月からERMに参加し自国通貨の為替変動を

上下15%内に抑えていたのでユーロ参加が認

められた。スウェーデンも例外ではなく

ERM2に参加する義務があるとノワイエ副総

裁は指摘する。しかし参加の為の収斂条件で

はスウェーデンはインフレ、債務残高、長期

金利、財政収支の条件をすべて満たしている。

また2000年3月にはユーロ参加の方針が社

民党党大会によって決定されたが、参加に関

して国民投票を行うかどうか社民党は明確に

することを避けてきた。それは2000年9月に

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JETRO ユーロトレンド 2001.762

4

実施されたデンマークの国民投票での参加否

決が頭に残り、スウェーデンでユーロ参加支

持派が多数派を占めない限り投票を実施しな

いとの考えがあるからだ。パーション首相は

最近、今期政権担当中は国民投票を行わない

と言明しており、スウェーデンのユーロ参加

は事務手続き上も大幅に遅れる可能性が出て

いる。

(5)参加にかかわる経済的条件の収斂状況

収斂条件には5つあり事実上すべてスウェ

ーデンは満たしている。

消費者物価上昇率はEU域内でインフレ率

が最低の国の平均よりも1.5ポイント以上高

くならないことが条件であるが現在のインフ

レ率は低く推移してきており、中央銀行の目

標である2%以下に維持されている。

財政赤字問題も国家予算の引き締めを行

い効果を見せている。緊急の予算支出には

国 会 の 承 認 が 必 要 で 、経 済 監 視 庁

(Ekonomistyrningsverket)を予算の監視を

行うために設置している。最近の財政収支は

黒字であり、赤字がGDPの3%を超えない

こととする収斂条件をクリアしている。

政府債務の残高も経済の好転につれて減少

傾向にある。99年以降、毎年債務残高が減少

中で、この傾向は2003年までは継続すると考

えられている。収斂条件ではGDPの60%を

超えてはならないとされているがスウェーデ

ンでは2001年に達成する見込みである。

収斂条件によるとERM2に2年参加してい

なければユーロに参加できない。しかし、実

際にはECBでは規則が弾力的に運用されてい

るので、参加の際に問題とはならないとの立

場をスウェーデン政府はとっている。ERM

参加中に通貨切り下げがなく、安定した交換

率が維持されることが必要だが、スウェーデ

ンは実質上その条件を満たしている。

また長期金利について、インフレ率が最低

水準のEU諸国3カ国の平均から2ポイント

以上にならないこととする条件があるが、ス

ウェーデンの長期金利はドイツの金利に近い

ため問題がない。

2.スウェーデン・クローナの為替レートの動向、およびユーロ導入によるマクロ・ミクロ経済に対する影響

ユーロが99年1月に発足して以来、スウェ

ーデン・クローナはユーロに対して恒常的に

強含みで推移してきている。99年1月には1

ユーロ=9.08クローナだったが、同年6月には

8.83クローナ、2000年1月には8.59クローナ、

そして12月には多少弱含んだものの8.62クロ

ーナとなった。同時にドルに対しては99年1

月には1ドル=7.82クローナだったのが6月に

は8.50クローナとクローナ安の傾向を示し、

2000年1月には1ドル=8.48クローナ、そし

て11月には10.07クローナとなった。しかし

その後米国経済の減速が顕著となり、2001年

99年�

0.3

2000年�

1.2

2001年�

1.4

2002年�

1.9

2003年�

2.0

表1 消費者物価上昇率(年間)�

(単位:%)

(注)2000年以降は見通し�出所:スウェーデン政府、国家予算2001年�

99年�7,2516,431820

2000年�8,0006,9811,019

2001年�7,2736,680593

2002年�7,2997,2909

2003年�7,5637,381182

国家歳入�国家歳出�黒  字�

表2 財政収支�

(単位:億クローナ)�

(注)2001年以降は見通し�出所:経済監督庁、ESVニュース2001年4月号�

99年�

1,374

70%�

2000年�

1,275

62%�

2001年�

1,163

53%�

2002年�

1,153

51%�

2003年�

1,165

49%�

残  高�

対GNP比�

表3 政府債務�

(単位:10億クローナ)�

(注)2000年以降は見通し�出所:スウェーデン政府、国家予算2001年�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 63

1月には9.46クローナとなっている。クロー

ナは円に対してもドルに対すると同じくクロ

ーナ安の傾向を示した。しかし2000年11月を

境に米国経済の景気に警鐘が鳴らされたこと

からドル安・ユーロ高の兆しがみられた。

スウェーデンからユーロ圏諸国に対する輸

出は同国における全輸出の30%を占めてい

る。ユーロ安はスウェーデンからの輸出にマ

イナスに作用する。ドル圏への輸出が落ち込

んでいるが、ユーロ圏への輸出も伸び悩み、

輸出企業全体での受注減が目立っている。

ユーロ登場によるスウェーデンへのミク

ロ・マクロ的経済の影響は未だにあまり出て

いないといえる。そのひとつの指標に投資活

動が挙げられる。ユーロ不参加に伴うスウェ

ーデン企業の対外投資や国外からの対内投資

の減少は見られず、対外・対内投資ともに増

加傾向にある。

対外投資と対内投資の比較では、国外企業

によるスウェーデン企業取得件数をスウェー

デン企業による国外企業取得件数が2000年も

上回り、スウェーデン企業の国外進出が盛ん

になっている。企業活動のグローバル化に伴

い、これからもますます国境を越えたM&A

(特に技術革新が激しいテレコム産業界)が

盛んになると見られるが、こうした活動はユ

ーロとは無関係のものである。2001年初めに

米のサンミ-ナ社がスウェーデンのセーゲル

ストルム&スベンソン社を約50億クローナで

買収しており、80年代に経験した製薬業界で

の買収劇と同じような大型合併の連鎖がこれ

からも見られると考えられる。

こうしたことからユーロ不参加がスウェー

デンへの投資環境を悪化させているとは考え

られない。これは、スウェーデンは投資環境

競争において世界で9番目にランクされてい

ることからも明らかである。(2001年2月28

日付けDI新聞)

表4 スウェーデン・クローナの推移�

出所:中央銀行�

EUR�USD�円�

11.00�10.50�10.00�9.50�9.00�8.50�8.00�7.50�6.50�6.00

(クローナ)�

�1999年�12月�2月�4月�6月�8月�10月�12月�2月�4月�6月�8月�10月�12月�

94年�

74

84

95年�

146

95

96年�

136

159

97年�

195

107

98年�

233

113

スウェーデン企業による�国外企業取得件数�

国外企業による�スウェーデン企業取得件数�

表5 M&Aの件数�

出所:M&Aに関する出版(Forvarv & Fusion Forlag)、ニュース2001年2月号�

99年�

257

124

2000年�

252

154

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JETRO ユーロトレンド 2001.764

4

特にインフラストラクチャー、政治的安定

性が良く、99年には約6,000億クローナがス

ウェーデンに投資された。アストラ(Astra、

スウェーデン)とゼネカ(Zeneca、英)の

合併(3,800億クローナ)、フォードによるボ

ルボ乗用車部門の取得(600億クローナ)と

いった大型M&Aが実施されたためだが、

2000年にはさらに1兆1,000億クローナが投

資された。エコノミスト誌によると2001~05

年の間にスウェーデンは13番目に大きな投資

受入国になると予想されている。しかし国民

1人当たりの投資額では、既にアイルランド、

ベルギー、香港に次ぎ4番目にランクされて

いる。また国民総生産に対する直接投資の比

率は5%となりEU諸国平均3%を上回って

いる。DI新聞によると最も投資環境の良い

国は米国、オランダ、カナダ、英国の順であ

る。一方でスウェーデンに対する評価でマイ

ナスとなっているのが税金の高さだ。

スウェーデンに対する国外からの直接投資

予想は次のとおりであり、ユーロ参加問題の

影響はほとんど見られない。

2001年    900億クローナ

2002年    1,450億クローナ

2003年    1,650億クローナ

2004年    1,750億クローナ

2005年   1,850億クローナ

出所:2000年2月28日付けDI新聞

3.企業のユーロへの対応

(1)ユーロ建て取引(部品・原材料調達、

販売、資金調達)への移行状況

現在のところ大きな変化は無く、大企業の

一部でユーロが使用され中小企業では余りユ

ーロが浸透していない状況が続いている。ス

ウェーデンにはユーロ圏に展開する子会社を

持つ企業が3,000社存在するが、2001年12月

31日以降対応が求められるユーロ通貨への切

り替えと、ユーロ表示での決算について、今

のところ準備が整っていないと産業連盟は警

告している。

(2)金融界での新しい傾向

ユーロ参加を見越してスウェーデンでは金

融業界での競争力強化に向けた再編成が進行

中である。2001年2月23日にスウェーデンの

SEB銀行と組合貯蓄銀行(Swedebank)が

合併すると公表、以前からの噂が現実となっ

た。組合貯蓄銀行は小口の顧客に強く、SEB

は産業界に大口の顧客を持つため、両者は補

完関係にある。スウェーデンで銀行間の競争

が弱くなるとの批判に対して銀行側は、今後

はユーロ圏の大銀行との競争が生じるだろう

と述べた。新銀行は1,100万人の顧客、行員

3万5,000人を擁する北欧最大の銀行となる。

株式発行総額は1,500億クローナとなり、ノ

ルディア銀行の2,200億クローナに迫るもの

となる。合併費用には40億クローナかかるが、

相乗効果による経費節減がIT開発関係等で

年間6億~7億クローナ、電子取引やインタ

ーネットで1億5,000万~2億クローナにな

ると予想されている。

国内金融界の再編が進む一方で、国外から

の銀行進出の動きも活発化している。ノルウ

ェー銀行(DNB銀行)がスウェーデンに進

出中で、当初はストックホルム、ヨーテボリ、

マルメへの進出を検討している。SEBと

Swedebankの間で合併が公表された中、競

争庁と欧州委員会からの認可が下りればノル

ウェーの銀行の開設スピードが早まると予想

されている。また、スウェーデンの郵便支払

い決済部門(ポストギロ)は2000年に同国内

の4大銀行がコンソーシアムを組んで取得し

たが、支払い決済の独占を恐れる競争庁から

中止を命じられ、所有者の郵便局が現在買い

手を物色中であるところ、ノルウェー銀行が

取得を希望している。さらに多数の国外投資

銀行がスウェーデンに進出を済ませておりス

ウェーデンのユーロ参加の準備に対応しよう

としている。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 65

1.計画概要

アルプス山脈は、ピレネー山脈と同様、技

術と環境の両面で輸送の“過敏”地帯とされ

ている。仏伊両政府は、97年秋の両国首脳会

議で、両国間協力を進めつつ新たな輸送戦略

を採用するとの方針を決定していた。リヨ

ン・トリノ新線(280km)は、旅客用TGV

(フランスの超高速列車)線と貨物輸送路線

の複合線で、複数のトンネルを通す必要があ

る。そのうち1本は仏サン・ジャン・ドゥ・

モリエンヌ(Saint-Jean-de-Maurienne)と伊

ブッソレノ(Bussoleno)間にまたがる全長

52kmのトンネルで、2001年中にも先進道坑

の掘削に着手する予定である。仏伊両運輸相

は、既存の輸送設備が飽和状態に達すると予

想される2015年頃にはこのトンネルを開通さ

せたいとの意向を表明しており、この日程で

計画を進行する場合、地質調査、土木工事、

先進道坑掘削などの計画第一段階部分には

2001年にも着手する必要がある。

同トンネルは2チューブ式となるが、最初

のチューブを通した後の2025~2030年頃に第

2のチューブを通しこれを貨物専用線とする

ことをフランスが希望しているのに対し、イ

タリアは2つのチューブの同時進行を希望し

ている。今後、同時進行とするか否かを決定

するための調査が行われ、遅くとも2002年に

リヨン・トリノ鉄道建設計画と南欧経済への影響(フランス)

2001年1月29日にトリノ市で開催された第20回仏伊首脳会議で、両国政府は2015年

を目処に、リヨンとトリノを結ぶ新鉄道線を開通させることで合意した。リヨン・トリノ

高速鉄道計画は1988年に俎上に乗り、90年に、2010年を目処としたEUの汎欧州運輸ネッ

トワーク計画に取り込まれた。91年には仏伊両国それぞれにリヨン・トリノTGV計画促進

委員会が設置されており、十余年を経てようやく最終決定にこぎつけたことになる。これ

で、欧州大陸の東西輸送網確立の大きな障壁であったアルプス山脈に、トンネルが開通す

ることで、南欧各都市が相互に結ばれることとなり、南欧交通網の比重が増すことが予想

される。

本レポートは同計画と、それが南欧諸国の地域経済に与えるインパクトについて報告する。

リヨン事務所

5

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JETRO ユーロトレンド 2001.766

5

は結論が出るとみられる。

工費は、仏側が30億ユーロ、伊側が20億ユ

ーロ、両国共同で60億ユーロ(このうちコン

ブ・ドゥ・サボワと中央トンネルまでの部分

が10億ユーロ、中央トンネル部分で50億ユー

ロ)、合計110億ユーロと見積もられている。

第一期工事のコストは仏側だけで47億ユー

ロ、うち17億ユーロがトンネル工事(1チュ

ーブ)に充てられ、他方、伊側はこの最初の

トンネル工事だけに17億ユーロを拠出する。

予備調査では、段階的な工事は、第一期工

事が終わった時点で輸送量の増加など経済へ

のインパクトが出現し、それがもたらす収入

を次期工事に投入できるメリットがあるとの結

論が出ており、計画は段階的に15年以上にわた

る予定だ。第一工区(リヨン・シャンベリ間)

を2007年頃には終え、2015年開通(中央トンネ

ル開通)を実現するのが目下の目標である。

財源に関しては、仏伊両運輸相も、計画を

推進してきたバール・リヨン市長(当時)も、

国家とEUの他に民間から資金補助を求める

「官民混合」型が理想的だとしているが、仏

国鉄(SNCF)が使用しているインフラ(路

線)を所持する仏鉄道網「レゾ・フェレ・ド

ゥ・フランス(RFF)」のマルチナン総裁は、

計画総額の最低85%は公的資金で賄われるべ

きだとしている。

なお、現行規制では、こうした工事の場合、

EUが負担できるのは10%が上限だが、欧州

委員会のデパラシオ運輸担当委員は2月28

日、リヨン・トリノ計画については、規制を

見直しすることで最高20%の負担も可能との

見解を明らかにした。

2.リヨン・トリノ新鉄道建設計画の背景

ここ15年間でアルプスを経由する貨物の輸

送量(道路と鉄道)は爆発的に増え、この先

15年間にさらに50~70%増加すると予想され

ている。特に、北アルプスの仏伊国境を越え

る貨物は2020~2030年頃には今の2倍になる

とSNCF(仏国鉄)では見ている。しかしな

がら、仏伊間貨物輸送の主流であるトラック

輸送の場合、イタリアとフランスを結ぶ二大

トンネルであるモンブランとフレジュスのど

ちらも今日の輸送量を見越しては設計されて

おらず、既存の輸送能力ではアルプス通過の

貨物輸送はいずれ限界に達するという認識が

年々強まっていた。

こうした状況において、99年3月にモンブ

ラン・トンネルの大火災が発生し、輸送の安

全強化が一層声高く求められるようになっ

た。両国の政界、地元自治体、環境保護団体

はアルプスの環境保護の観点からも新鉄道線

建設計画の実現を強く求めるようになり、大

気汚染、騒音、安全の観点から道路輸送の増

大をできる限り抑えることで関係者のコンセ

ンサスが成立している。

輸送増に対応するため、また長期的には欧

州の輸送事業の安全と競争力強化という観点

から実現が望まれたリヨン・トリノ新鉄道建

設計画は、欧州統合、欧州各地域間の勢力バ

ランスなどの点からも極めて重要な計画と位

置付けられた。また、同計画は、欧州、特に

関係地域の経済、観光、文化の発展、アルプ

スと周辺都市の環境保護という観点からも実

現が望まれるようになっていた。

リヨン・トリノ新鉄道計画は、94年にEU

の優先事業に指定されたが、仏伊両政府レベ

ルでは、99年9月の首脳会議で同計画を早急

に実現すべきであるとの見解で一致した。両

国運輸相はこの折りに、EU鉄道計画の優先

項目であるアルプス輸送網建設計画(列車に

よる貨物輸送量を4倍に増やすことが可能)

の重要性を改めて確認した。

3.リヨン・トリノ鉄道建設計画の意義

リヨン・トリノ鉄道計画は、何よりまず

EU、さらにはEU拡大という大きな展望の中

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 67

で捉えられている。同計画は、まずEUレベ

ルでは南北の経済力のバランス回復という観

点から捉えられる問題であり、次に中・東欧

諸国へのEU拡大の展望においては、中・東

欧地域の急速な経済発展が予想されることか

ら、東西輸送網の確立、という重大な経済課

題に対応できる計画と解釈されている。

(1)鎖の切れ目

イタリア、フランス、スイス、ドイツ、リ

ヒテンシュタイン、オーストリア、スロベニ

アの7カ国に渡るアルプス山脈(地域住民数

7,000万人)は、長さ1,240km、面積45万km2

(氷河4,000km2)の欧州では最大の通行障壁

であり、従って今なお高速鉄道網が通ってお

らず、この地域は、全長5,000kmの間断ない

欧州高速鉄道網を将来的に完成させるに当た

っての「鎖の切れ目」とされてきた。その意

味から、EUが90年に、2010年を目処とした

欧州TGV網基本計画にリヨン・トリノ線計

画を盛り込んだのは妥当であった。

リヨンとトリノ、さらにミラノをつなぐア

ルプス通過の鉄道輸送(旅客、貨物)は、ア

ルプス、ひいては欧州北部と南部の間に横た

わる自然の大障壁を越えて欧州の統合を進め

る上で極めて重要なカギである。従って、リ

ヨンとトリノが県道に相当する規模の鉄道線

でつながっているに過ぎない現状において

は、新鉄道線計画は欧州の交通・インフラ大

計画の一つと位置付けられている。

EUの基本計画によると、欧州のTGV網は、

2008年には欧州西部(英、仏、ベネルクス、

スペイン:人口1億7,000万人)とイタリア

半島(伊とスイス:人口7,500万人)の計約

2億5,000万人を擁する地域をカバーし、シ

ャンベリとトリノ間の200kmの欠落部分を含

めて、欧州西部で3,000km、イタリア半島で

1,000kmの、合計4,000kmのネットワークが

構築されることになっている。

リヨン・トリノ線はリヨン・トリノ、そし

てミラノ・ベネチアまでの高速鉄道線の一部

をなし(2000年7月にイタリアでは、2005年末

開通を目処としてトリノとミラノ間に高輸送

能力の新鉄道線を建設することが決まった。

他方、ミラノとベネチア間も計画線となって

いる)、リヨン・トリノ線抜きでは、欧州の経

済発展はアルプスの北側で足踏み状態となり、

仏の広範囲な部分とイタリア、スペインが欧

州の発展から疎外されるリスクが大きい。

反対に、欧州を東西に結ぶ幹線としてのリ

ヨン・トリノ新線の開通は、欧州南部の都市

を相互に結んで一大地域を形成し、これを欧

州の核とした上で、他の地域と対等に競争す

ることを可能にする。

欧州の東西幹線は、リヨン、シャンベリ、

トリノ、ミラノ、トリエステ、リュブリャナ

(スロベニア)を通ってさらに東へというの

が将来的な構想であり、こうした将来的展望

に立つと、リヨン・トリノ新線の開通を経て

リヨンは欧州の南北幹線と東西幹線が交わる

重要な位置を占めることになる。

(2)輸送パフォーマンスの向上とピギーバ

ック輸送促進

リヨン・トリノ新鉄道計画には輸送の面で

は2つの狙いがある。

①旅客輸送での総合的パフォーマンスの向

上:時間の短縮(リヨン・トリノ間に関し

ては半分に短縮される)、ダイヤの正確さ、

列車本数の増加など。

②貨物輸送に占める鉄道の比率増大および貨

物輸送の総合的パフォーマンスの向上:輸

送力増強、的確なサービス、時間短縮、ピ

ギーバック輸送(台車輸送。トレーラーを

そのまま鉄道貨車にのせて輸送する方法)

の促進など。

パフォーマンス向上と抱合わせの重要課題

が、貨物輸送の安全強化と環境保護面から望

まれる道路輸送の大幅縮小である、このため

に以下の2つの方法が考えられる。

Page 68: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

表 新線開通による輸送方式別の配分目標�

(単位:100万トン)�

2000年(暫定値)� 40

55

80

10(25%)� 30(75%)�

35(64%)�

35(64%)�

40(50%)�30(37%)�

20(36%)�

40(50%)�

  20(36%)(注1)�あるいは�15(27%)�

0

10(13%)�

0 あるいは5(注2)�

(9%) 

需要総量�従来型鉄道輸送量� ピギーバック� 道路輸送�

配分目標�

2010/2015年�(第1段階)�

2020/2030年�(計画終了時)�

JETRO ユーロトレンド 2001.768

5

③複合輸送でなく輸送網の端から端までを鉄

道輸送とすること(鉄道輸送は特に輸送距離

が600~800km以上の場合適正とされる)。ア

ルプス経由の貨物輸送は、往々にして

1,000kmを越え、輸送量も多く鉄道輸送向き

であるため、リヨン・トリノ新線は、鉄道貨

物輸送を10年間で倍増するという仏政府の輸

送政策に大きく寄与するものである。

アルプス経由の場合、道路輸送(荷物がそ

れほど大きくなく、輸送距離が400~600km

以下の場合に適正)のかなりの部分をピギー

バック輸送へとシフトする。

ジョスパン首相は2001年1月、フランス最

大の貨物駅であるモダンヌ駅(サボワ県)を

訪れた折りに、フランスの貨物輸送は、1970

年には道路輸送が4分の1であったのが、98

年には4分の3まで増加し、この傾向が逆転

しない限り、国民の健康のためにも経済的に

も耐え難い事態が生じるため、この傾向を逆

転させ比率を半々にまでもっていく必要があ

ると語っている。

リヨン・トリノ線開通に伴う貨物輸送に関

して以下に数値目標を示している。

2000年時点で貨物は4,000万トンがアルプ

ス経由で輸送されているが、このうち4分の

3が道路輸送、4分の1が鉄道輸送である。

ちなみに、スイスとイタリア間の貨物輸送は

8割が鉄道輸送でトラック輸送は2割しかな

い。欧州の南北ルートと東西ルートがアルプ

ス一帯に集中していることから、アルプス経

由の貨物輸送量は2015~2020年には現在の2

倍の8,000万トンに達すると予想され、多く

の調査は、その時点で半分の4,000万トン

(うち3,000万トンが従来方式、1,000万トンが

ピギーバック方式)が鉄道輸送にシフトして

いることが肝要だと結論付けている。

(3)鉄道貨物輸送(複合輸送(注3)と鉄道オー

トルート(注4))

貨物の鉄道輸送の発展は、複合輸送、特に、

ピギーバック輸送の今後にかかっている。ピ

ギーバック輸送は、フランスでは現在、英仏

海峡トンネル線(ユーロトンネル)で利用さ

れているに過ぎないが、ピギーバック輸送促

進の方針を明確に打ち出した仏政府は、民間

企業による新型シャトルの開発と並行してピ

(注1)積極的な鉄道輸送促進措置がとられた場合。(注2)既存線で適正機材を使いピギーバック輸送が可能な場合。(注3)貨物を2つ以上の輸送手段(道路、鉄道、川あるいは海路)を使って運ぶこと。(注4)ピギーバック輸送方式で、トラックを高速輸送する。輸送されるトラックの運転手も同じ列車で運ば

れる。スイスでは25年前から採用されているがフランスではユーロトンネル線でのみ導入。

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ギーバック輸送に関する予備調査を進めてい

る。2015~2020年のリヨン・トリノ高速新鉄

道線の開通を待たずして、仏政府は、2002年

から既存のアルプス路線でピギーバック輸送

を実験的に開始することを決めたが、これは

アルプス路線で調査が最も進んでいるため

だ。既存の貨物線アンベリウ-アン-ビュジ

ェ・トリノ線を近代化し、2002年からモリエ

ンヌ渓谷と伊ブッソリノ間(モンスニ・トン

ネルを通過)に1日12本のトラック輸送シャ

トルを走らせて徐々に本数を増やし、2005~

2006年には、高さ4mの大型トラックも運べ

るようにモンスニ・トンネルが整備される予

定で、1日片道20~30本を通常ペースにもっ

ていくのが目標だ。英ユーロトンネル線で使

用されているシャトルと異なり、アルプスで

実験的に使用されるのは、ロール社開発の新

型シャトルで、トラックが列をなしてシャト

ルに乗り込む従来型とは異なり、全車が同時

に乗り降りできるため大幅に時間が短縮でき

る。この場合、トラック輸送の20~30%を鉄

道にシフトできることになると推計される。

2010年にはその2倍に引き上げるのが目標で

ある。ただし2006年までに、モンスニ・トン

ネルの拡幅工事のほかに支線の電化工事など

が必要となる。いずれにしても既存線は、

2015~2020年には能力の限界に達すると予想

され、仏国鉄SNCFと同インフラを保有する

RFFならびに伊国鉄が近代化を進めるにあた

り、新トンネル建設、モンスニ・トンネルの

拡張を含めて50億フラン(7億6,000万ユー

ロ)、これに車両コストが12億5,000万フラン

(1億9,000万ユーロ)の費用がかかるとされる。

ピギーバック輸送促進で注目されるのがア

ルザス地方のロール社が開発した1台に約40

台のトラックを積むことができる新型シャト

ルである。

シャトルの場合、この地域を通行するフラ

ンスのトラックの90%を輸送することを可能

にする(現在は18%)。最終的には1日30便ま

で持っていく方針だが、その場合、1日当た

り1,200台のトラックが道路から姿を消す勘

定だ。他の経路も含め、仏伊間のアルプス経

路では、将来的に年間50万台のトラックが鉄

道輸送に切り替わると試算されている。

モンブラン・トンネルは99年3月24日の大

火災で現在も閉鎖されているため(2001年9

月に再開通の予定)、現在それに最も近いフ

レジュス・トンネル(道路)におけるトラッ

ク通過量は1日6,000台に達しており、この

ルートの通行量軽減が急務となっている。

(4)環境保護

フランスは先進工業国の中では大気汚染度

の低い国に入るとはいえ、政府はCO2の排出

量を大幅に低減する方針を固めている。ボワ

ネ環境相は、2000~2010年の間に少なくとも

5%減らすべきだとしているが、環境保護団

体では、産業界(特に輸送業界)の努力次第

で10%減は十分に可能だと反論する。この観

点から、リヨン・トリノ新鉄道線が開通すれ

ば1日当たり5,000~7,000台のトラック輸送

が鉄道輸送にシフトできると試算されてお

り、アルプス地方の住民を現在直撃している

汚染物質の排出量は3分の2減ることになる

と推計される。

地球規模では微々たるものだが、最近のス

イスのオコサイエンス社(Okoscience)の

調査において、同一トラックで汚染度を比較

した場合、アルプス山岳地帯を走るトラック

は平野部を走るトラックより汚染度が3倍高

いことが判明している。アルプス地方の住民

は、トラック輸送の増加にますます抗議の姿

勢を強めているが、こうした調査の結果は彼

らの主張を裏付けするものである。

4.政治家、有力者の見解

リヨン・トリノ新鉄道計画は、2000年5月

にシラク仏大統領が必要性を強く主張し、さ

らに、貨物の鉄道輸送を推進するゲソ仏運輸

JETRO ユーロトレンド 2001.7 69

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相ならびにベルサニ伊運輸相が「計画を具体

化する時期に来ている」と発言したことを受

けて一気に加速した。

元首相でリヨン前市長のバール国民議会議

員、トリノのカステランニ市長、ピエモンテ

州とローヌ・アルプ地域圏、および地元市町

村の議員らは、長年リヨン・トリノ線計画を

推進してきたが、中でも「リヨン・トリノ線

委員会」の発起人および委員長であるバール

氏は、リヨン・トリノ線建設は、「企業にさ

まざまなサービスを提供するという意味にお

いて経済界の強い要望に応えるものである。

両国間の輸送量の増加が、関係地域の経済成

長と経済産業ポテンシャル増加の一因をなす

ことは歴然としている」と語っている。

「リヨン市とローヌ・アルプ地域圏が得る

メリットと波及効果としては何を期待する

か」との質問に対しバール氏は、「リヨン市

にとっては欧州の交差点、すなわちロンドン

からローマを結ぶ線と、セビリアからブダペ

ストを結ぶ線の交差点であるという使命が一

段と明確になる。経済発展への波及効果は極

めて大きいが、加えて、文化的、社会的ある

いは大学レベルでのフランスと北イタリアの

関係が深まる」と強調し、さらに、「リヨ

ン・トリノ線が開通するとトリノとミラノは

パリから等距離で結ばれることになり、リヨ

ン市とリヨン大都市圏にとっては欧州規模の

都市の中でもトップクラスに入る大きなチャ

ンスである」と期待している。

他方、カステランニ・トリノ市長は、「ト

リノは工業大都市、文化観光大都市であり、

2006年の冬季オリンピック開催などイベント

を受け入れる能力も大きい」と指摘し、トリ

ノの将来的ビジョンの「国際都市トリノ」の

観点からリヨン・トリノ線建設は最も重要な

計画だと述べている。

リヨン・トリノ線建設が決まった仏伊サミ

ット直前の2001年1月27日、シラク大統領は

ローヌ・アルプ地域圏とサボア県の代表を迎

え、以前から同計画の必要性を主張してきた

だけに「何があってもリヨン・トリノ線計画

は取り消しのきかないものと考えるべきであ

る」と述べ、計画の不可逆性を裏書きした。

シラク大統領は、新線の利用開始は2015年を

目標とするのが望ましいとしている。ドゴー

ル大統領下での閣僚経験もあるローヌ・アル

プ地域圏トンネル促進委員会のデュマ委員長

も、リヨン・トリノ線計画を欧州北部と欧州南

部のバランスを改善する(すなわち南欧の比

重アップを意味する)欧州の構造計画と位置

付けた上で、2015年開通との目標を明確化す

ることをシラク大統領に要請し、さらに、資金

面を固めるために財源は官民双方から拠出さ

れるべきである、との意見を大統領に伝えた。

他方、ジョスパン首相は、計画がほぼ本決

まりとなった2001年1月19日、リヨン・トリ

ノ新線計画は10年来の計画であり、実現させ

る旨を視察先で語った。また同首相は2000年

にフランスとイタリア国境を通過した貨物が

15年後には倍増するとの展望にたち、2015~

2020年を開通時期とした上で、2001年から5

カ年計画で全長52kmの新設トンネルの建設

準備計画(総額24億フラン)に着手するとの

方針を明らかにした。

このほか、ローヌ・アルプ地域圏議会のコ

ンパリニ議長(保守:仏民主連合)は、2001

年の年明けにシラク大統領に宛てた書簡で、

リヨン・トリノTGV新線の2015年開通は、

フランス南東部の経済発展という観点に限ら

ず、欧州の交易の中心地としてのフランスの

ポジション(特に域内の鉄道貨物輸送におけ

るフランスのポジション)強化の決定的要因

をなすと主張した。

プロディ欧州委委員長は、伊首相時代の98

年3月、「欧州はかつて一貫して南北に結ば

れてきて、ベルリンの壁崩壊後に初めて東西

につなげることが言われるようになった。東

西ルートの設置は欧州の輸送手段の要であ

る」と述べていた。

JETRO ユーロトレンド 2001.770

5

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また、財界ではダッソー・グループのセル

ジュ・ダッソー前会長が、「経済的にみて、

フランスとイタリアに限らず、欧州、さらに

は欧州の心臓であるアルプスの発展という点

で不可欠である」と語り、「モンブラン・ト

ンネルの悲劇をみても、貨物輸送の増加に安

全に応えられるのは鉄道線しかない」との意

見を明らかにしている。

5.リヨン・トリノ鉄道建設計画のインパクト

本計画の第1段階は2001年中にもスタートす

る。第1段階では、複数路線のうちの一計画を

ベースにした素案作成、既に実施されている地

質工学的調査をさらに進めること、基礎工事、

先進道坑の掘削など、またこれに加え、同計

画の社会経済的インパクトならびに環境への

影響、安全に関する研究調査が実施される。

リヨン・トリノ高速線新設の観光など特定

経済分野への波及効果に関する調査は目下の

ところ予定されておらず(計画発案当初に社

会経済への影響が検討されたが、時間が経ち

すぎたことで再調査が必要となっている)、

現状の計画では、リヨン・トリノ高速鉄道は、

欧州の高速鉄道網全長5,000kmの欠落部分を

埋めるという国土整備上の意義ならびに鉄道

輸送の活性化が強調されている。

(1)EUの域内整備

リヨン・トリノ新線は、欧州北部の大都市

であるロンドン、アムステルダム、ブリュッ

セル、パリを、イタリア半島の重要都市であ

るミラノ、ベネチア、フィレンツェ、ローマ、

ナポリにつなぐ重要路線である。リヨン・ト

リノ鉄道建設計画は、リヨン、トリノ、ミラ

ノ、ベネチアを結ぶ鉄道計画の一部で、イタ

リア側ではトリノ・ミラノ線が2005年末に開

通、フランス側ではリヨン・サンテグジュペ

リ駅(TGV駅)とコンブ・ドゥ・サボワ間

が2008年に開通する。

リヨン・トリノ線は南欧一帯の発展にとっ

て重要な役割を担う。さらに同新線は、ロー

ヌ・アルプ地域圏、イタリアジェノバ後背地、

ロンバルディア地方、ベネチア地方ならびに

地中海盆地一帯の要所ともなり、イベリア半

島から東欧までの新たに広がる経済発展に先

鞭をつけつつ、欧州北部と南部間の均衡回復

に貢献するものと考えられる。EUの14優先大

規模事業のうち、南北の輸送増を可能にし、同

時にイベリア半島諸国、フランス、スイス、

イタリアさらに中・東欧をつなぐ新しい欧州

南部幹線を形成するという2つの課題に応え

るものは、このリヨン・トリノ計画しかない。

EU拡大を考慮すると、欧州の中心部は今よ

り徐々に東に移るとみられ、この意味で、リヨ

ン・トリノ地域の比重が増すことは重要だ。

(2)経済活性化

SNCFのガロワ総裁は、リヨン・トリノ新線

が建設されない場合、貨物輸送はフランス経

由を止めてスイス経由へと流れることになり、

経済活動の低下につながると警告していた。

リヨン・トリノ新線は、当然既存線にも接

続されることから、地域整備と発展の大きな

要因だとされる。特にローヌ・アルプ地域圏

諸都市の距離は相互に縮まり、あらゆる面で

交流が活発化するはずである。

(3)輸送パフォーマンス向上

15年後に倍増が予想される域内輸送を踏ま

え、リヨン・トリノ計画は、まずアルプス経

由の貨物輸送のパフォーマンス向上が目標と

されている。アルプス経由の貨物輸送は、環

境保護上も理想的で、かつ、年間4,000万ト

ン(トラック200万台相当)の安全な輸送が

可能になると試算されている。現在の輸送能

力の4倍である。

(4)旅客輸送のサービス向上

リヨン・トリノ計画は旅客輸送のサービス

JETRO ユーロトレンド 2001.7 71

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改善(時間短縮や線路の延長など)という点

でも、国内線、国際線双方で多くが期待でき

る。EUのTGV計画のうち、2カ国間にわた

るものは、リヨン・トリノ計画と仏ペルピニ

ャン・バルセロナ計画の2つしかない。双方

の計画が実現すると、リヨンとトリノ間は1

時間20分(現在3時間35分)、リヨン・ブリ

ュッセルは3時間45分(同3時間55分)、リ

ヨン・ロンドン間は4時間30分(同5時間25

分)、リヨン・バルセロナ間は3時間(同7

時間)に短縮され、他方トリノ・パリ間は3

時間(同5時間10分)、トリノ・ブリュッセ

ル間4時間30分(同8時間)、トリノ・ロン

ドン間5時間(同9時間)、トリノ・バルセ

ロナ間4時間(同11時間)に短縮される。

サービス向上に伴い列車利用の増加が当然

期待される。リヨン・トリノTGV新線につ

いてみると、2020年頃に両国間で年間700万

人(乗用車にして300万台に相当)の移動を

可能にすると試算されている。これは、飛行

機と比較して列車の利用率が高まることでも

あり、リヨン・トリノTGV開通に合わせて

パリ・トリノ間の列車のシェアは次のように

増大すると予想される。

現在、パリ・トリノ間は5時間30分を要し、

列車のシェアは62%であるのに対し、リヨ

ン・トリノ新線が部分的に開通するとパリ・

トリノ間は4時間15分に短縮されて列車のシ

ェアは75%に増える。リヨン・トリノ新線が

完成の暁には3時間に短縮されて、この時点

でシェアは85%まで拡大すると予想される。

パリとシヨンアルパン(アルプス山脈中央

部とプレアルプスの間に挟まれた一帯)間で

は列車のシェアは90%に拡大することが予想

されている。

(5)輸送機材

国際鉄道輸送は、国によってレールの幅が

違うこともあり、国際化は完全とは言い難い。

複数国間輸送に関しては、車軸幅の変更とい

った技術上の問題や欧州レベルでの情報シス

テムの導入が今後の大きな課題だ。また、よ

り軽量、高性能、安価で、自動連結(安全性

向上、時間短縮につながる)ができ、電子制

御付きブレーキ(長い列車編成が可能となる)

を備えた車両が必要になっており、車両ごと

の荷重を増やし、輸送効率を高める研究が進

んでいる。車両の改良は鉄道貨物輸送の将来

の重要なカギとされている。

モダンヌ経由線では、2000年11月から国境

で機関車を替えずにすむ貨物列車が登場して

いるが、この新型貨物列車は仏伊間では最終

的に100本を走らせる予定だ。

他方、ピギーバック輸送の場合、トラック

35台が積める750メートルのシャトルが必要

となる。

(6)輸送・ロジスティクス業界

リヨン・トリノ新線計画を統括する仏側の

公益団体「トランザルピンヌ(Transalpine)」

の理事会は商工会議所など地元の協力を得

て、2000年5月に、道路と鉄道の貨物輸送の

補完性を課題として輸送業界と協議を始める

ことを決め、作業グループが設置されている。

ローヌ・アルプ地域圏の輸送会社10社余りが

参加している。

貨物輸送において、トラックと列車は必ず

しも敵対関係にあるわけではない。SNCFで

は、トラック輸送はライバルとはいえ、事業

のうち複合輸送と絡む部分が年々増えている

点を取り上げて、道路輸送会社とは協力関係

にあると強調する。協調部分に関しては、

SNCFでは、アルプス地域をモデル地域とし

て複合輸送を奨励する方向で、輸送業者、特

にロジスティクス企業を念頭に置き、マルチ

モーダル(注5)なプラットホームを整備して行

JETRO ユーロトレンド 2001.772

5

(注5)空港・港湾・道路等の連携強化により交通の円滑化を図ること。

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く方針だ。アンベリユ・モダンヌ・トリノ間

の既存線において、複合輸送を促進するため

のインフラを整備しなおすことがすでに決ま

っており、このほか、仏伊国境で機関車を変

えずに済む新型貨物列車(2000年11月登場)、

シャトル輸送用の車体の低い車両開発(例え

ばロール社の新型シャトル)も加速する見通

しだ。

リヨン・トリノ計画と絡んで重要性を高め

ているのがリヨンのサンテグジュペリ(旧サ

トラス)空港・TGV駅で、現在はロジステ

ィクスセンターとしては空路のみだが、リヨ

ン・トリノ線開通を機に、空路と鉄道の複合

輸送に対応可能な輸送センターに発展するこ

とが期待されている。

(7)土木業界への波及

リヨン・トリノ間の280kmの鉄道建設と国

土整備は、欧州の土木業界にとってはトンネ

ル工事と基礎工事も含め大事業である。トン

ネルに関しては、長さ5km以上のものにつ

いては安全面から2チューブ方式がとられる

ため、工事規模は大きい。

(8)環境

リヨン・トリノ計画では環境保護面での意

義がクローズアップされている。

1日当たり片道で60台のシャトルが走ると

トラックは2,750台減ることになる(シャト

ル連結の場合はその倍)。公益団体「トラン

ザルピンヌ」の代表リボワール氏は、アルプ

ス渓谷を通過する5,000~7,000台のトラック

に代わるリヨン・トリノ新線の鉄道貨物輸送

は、汚染に敏感なローヌ・アルプ地域圏の住

民を安心させる出来事だと語る。リヨン・ト

リノ線が新設されてトラック輸送が減ること

で、道路上でのCO2排出量は3分の2減少す

るとみている。

道路輸送から鉄道輸送への切り替えは、フ

ランスに限らず欧州レベルで必要性が次第に

強く求められている。まず安全性でみると、

「一定旅客数×輸送距離」当たりの死者の数

は鉄道は道路の30分の1と断然低い。とくに

アルプスの道路交通は、長距離トンネルに加

えて道路が曲がりくねり、悪天候も多いこと

から危険度が高い。エネルギー消費も鉄道は

道路と比べ格段に少なく、また汚染度でみる

と、鉄道での汚染物質(特に温室効果物質)

排出量は道路の5分の1から10分の1であ

る。アルプス通過輸送に限ると、自動車の排

ガス汚染は平野部より山岳部でひどいため、

汚染度の差はさらに広がる。

6.ローヌ・アルプ地域圏とリヨン

SNCFの業務再編に伴い地域レベルでの鉄

道輸送を実施しているローヌ・アルプ地域圏

は、リヨン・トリノ計画を当初から優先事業

とし推進してきた。

イタリアは、ローヌ・アルプ地域圏にとっ

て輸出入ともに第2のパートナーである。ロ

ーヌ・アルプ地域圏のもうひとつの重要な取

引先はドイツで、イタリアとドイツの2カ国

だけでローヌ・アルプ地域圏の貿易額の3分

の1を占めている。ローヌ・アルプ地域圏の

対イタリア輸出の中心は農産物、電気電子設

備、水、ガス、電力で、他方イタリアの対ロ

ーヌ・アルプ地域圏輸出の中心は農産物、衣

料・皮革、設備材、機械設備、部品である

(99年のローヌ・アルプの対イタリアでの輸

出は41億4,600万ユーロ、輸入は40億8,500万

ユーロ)。

ローヌ・アルプ地域圏に限らず、それに隣

接するプロバンス・アルプ・コートダジュー

ル地域圏、イタリアのリグリア、ピエモンテ、

ロンバルディアの各州の商工会議所もロー

ヌ・アルプ地域圏商工会議所と共に1月末

に、リヨン・トリノ鉄道線の建設、路線、工

期、資金調達の方法などが仏伊サミットで決

定されることを希望するとした共同宣言を発

表した。新鉄道の建設は、ラテン系欧州と中

JETRO ユーロトレンド 2001.7 73

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部欧州間で増える20年後の企業取引のニーズ

に答えられる唯一の方法とし、将来的な輸送

増加を踏まえると、既存線での鉄道貨物輸送

は不十分だとの見解を明らかにした。

公益団体「トランザルピンヌ」の要請で、

国土整備局、商工会議所などがリヨン・トリ

ノ計画の位置付けを行い、ここでも、TGV

と貨物の混合線であるリヨン・トリノ線は、

ローヌ・アルプ地域圏を南北、東西交易の戦

略的要所としつつ、南部欧州の幹線形成に寄

与するものだとの認識が示されている。

ローヌ・アルプ地域圏の発展は、国境地域

の孤立化を妨ぐとともに、工業、文化、技術、

観光などあらゆる面を強化するものであると

して、意見が一致した。

旅客と貨物輸送の新鉄道線であるリヨン・

トリノ・ミラノ・トリエステ計画は、近代的

な欧州輸送網の確立に先鞭をつけるものと位

置付けられるが、中でも国際線であるリヨン

(ローヌ・アルプ地域圏)とトリノ(ピエモン

テ州)を結ぶ新線は、両国の国土整備と交易の

促進という点では極めて重要な役割を担う。

・ローヌ・アルプ地域圏にとっては、この新

線は、TGV網が充実すると同時にサンテチ

エンヌ、グルノーブル、シャンベリ、アヌシ

ー、ブール・アン・ブレス、ヴァランスとい

う地域中心都市の輸送網の質の向上につなが

るという意味がある。

・他方イタリアのピエモンテ州にとっては、

フランス、ひいては欧州北部への開口部が維

持されることを意味する。

・アルプスを取り巻く欧州中部にとっては、

都市集中度が高く経済文化発展のポテンシャ

ルが高いローヌ・アルプ地域圏とピエモンテ

州はもちろんのこと、ジュネーブ地方、レマ

ン湖周辺地帯、ロンバルディア州、アオスタ

渓谷、ベネチア州といった国境地帯の結び付

きが強まることになる。こうした地域にとっ

て新線開通は、欧州におけるポジションの画

期的飛躍につながることが期待できる。

鉄道輸送のパフォーマンスは、企業の競争

力と地域の経済力にとって重要な要素であ

る。リヨンは現在、ジュネーブへ1時間50分、

パリへ2時間、リールへ3時間、ブリュッセ

ル、ナントへ4時間、ロンドンへ6時間とい

う距離にあり、EUのTGV基本計画において

重要な地点である(TGVは現在1日46本が

通過)。リヨンは現在すでに、ブリュッセ

ル・リール・パリ・マルセイユを結ぶ鉄道幹

線上にあるが、リヨン・トリノ線が完成する

と、トリノ、ジュネーブ、チューリッヒ、シ

ュトゥットガルト、フランクフルトといった

欧州の大都市への接近度を著しく強めること

になり、リヨンは南と東に大きく開かれる。

国土整備の観点からは、○リヨン東部、○

ブルグワン-ジャリウの新興都市リル・ダ

ボ、○イゼール県北部、○サボワ県入口、○

エクス-レバン・シャンベリ・コンブ-ド

ゥ-サボワ地域、○モリエンヌ渓谷、○グル

ノーブル、○オート・サボワ県南部、○アン

県、のそれぞれの地域整備、アルプス鉄道計

画に関する課題はあるが、全体的には、地域

の自然環境保全、輸送網の改善、田園観光の

発展が予想されている。

リヨン・トリノ線のTGV駅となるのがリ

ヨン東郊のサンテグジュペリ駅(空港)であ

る。リヨン・トリノTGV線開通後のサンテ

グジュペリ駅はリヨン市の中心部とつなが

り、さらに、グルノーブルとサンテチエンヌ

市からのサンテグジュペリの輸送プラットフ

ォームへのアクセスが容易になることで(時

間と利便性の両面)、複合的な輸送・ロジス

ティクスセンターとして大きな飛躍が予想で

きるだけでなく、リヨン東部(アン平野から

リル・ダボまで)の経済の中心地としての重

要性が益々高まると期待できる。

ただ、利便性と大気汚染、騒音などを考慮

すると、複合輸送・ピギーバック輸送のプラ

JETRO ユーロトレンド 2001.774

5

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ットフォームはアンベリウ-アン-ビュジェ

市とアン平野の間、シャンベリ付近に設置さ

れる可能性が大きい。従ってリル-ダボとア

ン平野のロジスティクス能力と絡めて、サン

テグジュペリの輸送ロジスティクスセンター

としての機能を見直す必要がある。

イタリア向けの貨物輸送の柱と位置付けら

れている複合輸送に関してSNCFでは、長期

的には、新しい輸送路(52kmの新トンネル

など)と既存の輸送網を結ぶことで複合輸送

の質が向上するだけでなく、より長く、重い

列車が走れるようになることで競争力が強化

されるとしている。

国と地域圏間の第12次目標契約の鉄道関連

部分では、2001~2006年までに全国の21地域

圏の220のプロジェクトに310億フランを投入

することが決まっている。このうち95億フラ

ンとほぼ3分の1が投下されるイル・ド・フ

ランス地域圏を別にすると、ローヌ・アルプ

地域圏への投下分は25億フラン(国が10億

7,500万フラン、地域圏が9億2,900万フラン)

と関連予算の上位拠出地域である。

(岡田春彦)

JETRO ユーロトレンド 2001.7 75

Lyon

RHÔNEALPES

Grenoble

SAVOIE

Chambéry Albertville

Madane

St-Beron

ISERE

RHÔNE

Vienne

St-Jeanthe Maarienne ITALIE

トンネル計画中�

Tunnel duMont-Cenis

(出所:2001年1月22日付けレ・ゼコー紙)�

図1 リヨン・トリノ間トンネル計画�

鉄道計画中� 既存路線�

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JETRO ユーロトレンド 2001.776

1.経済

(1)経済動向・見通し

アイスランド経済は90年代半ばから順調な

成長を遂げており、2000年までの5年間、年

平均5%に近い高成長を記録している。99年

の名目GDP(国内総生産)は6,246億アイス

ランド・クローナ(1クローナ約1.3円。以

下クローナ)で、また実質成長率は4.4%を

記録した。2000年に入っても高成長を持続、

国立経済研究所では4.0%の成長を達成した

ものと推定している。

好況を反映し、労働市場での需給は逼迫し、

世界各国と比べても非常に高い雇用率を誇っ

ている。98年の失業率は2.8%を記録したが、

それ以降は低下の一途をたどり、2000年平均

は過去最低の1.3%であった。アイスランド

の労働市場が柔軟で、労働者側のニーズに素

早く対応できるという市場環境が、低失業率

を支えていると思われる。また学生であって

も職業を持っている人が多く、学業と職業を

両立させている青年層がいることも失業率を

低く抑える結果になっているとも言われる。

他方、失業率の低下は労働力不足の問題を

生じさせており、首都レイキャビックでは、

慢性的な人手不足を来たしている。99年4月

通貨安定策・構造改革により高成長を実現

(アイスランド)

アイスランドは、90年代に貿易収支の改善や諸分野の構造改革を実施したことで、高成

長を達成した。政府の財政収支は98年から黒字が続き、引締め政策で経済的安定性の維持

と公的債務の減少に努めている。

EUヘの加盟については、同国の主要産業である漁業がEUの共通政策により不利益を被

る可能性があるなどの問題から、当面は積極的に推進する動きは見られない。

アイスランドの産業構造を見ると、最大の輸出産業である漁業に代わりサービス業と製

造業のウエートが高まっている。政府は水産資源管理政策を強化する一方で輸出産業の多

角化やIT・バイオテクノロジー産業の発展に期待をかけている。

オスロ事務所

6

1991年�

1995年�

1999年�

45(%)�

51.6�

60出所:アイスランド2001年度国家予算案�

表1 学生(15歳以上)の就業率�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 77

に行われた労働市場調査においても、レイキ

ャビック周辺地域の労働力不足、地方での労

働力過剰という格差が顕著にみられた。2001

年は経済の減速が予想されているが、労働市

場に及ぼす影響について国立経済研究所は、

労働力需要は相変わらず根強く、失業率は

1.8%にとどまるものと予測している。

80年代以降のアイスランド経済の最大の問

題は、インフレであった。83年に最高80%台

を記録した消費者物価上昇率も、各政権が推

し進めてきた金融引締め政策により、91年以

降改善がみられた。しかし近年の活発な国内

消費を受けて99年からインフレ高進の傾向が

みられる。また経常収支の赤字幅も年々拡大

し、対GDP比では97年にはわずか1.6%であ

ったのが、98年、99年には6.9%、2000年

9.1%と拡大している点も問題視されている。

2001年の経済見通し:

96年以降2000年までの5年間、年平均

4.6%の高成長を遂げてきたアイスランド経

済も、2001年には減速するものと予測されて

いる。2000年12月時点における国立経済研究

所の経済見通しによれば、2001年の実質

GDP成長率は1.6%に低下すると予測されて

いる。同研究所ではこの成長鈍化の主な背

景・要因として、①2000年来のクローナ安が

2001年も同水準で続く見通しにある、②クロ

ーナ防衛およびインフレ対策から高金利政策

を中心とした金融引締め策が引き続きとられ

る、③インフレがさらに進む、④米国を中心

とした世界経済の減速で輸出の伸びに大きな

期待が持てない、などの点をあげている。こ

うした点から企業の設備投資や住宅・ビル建

設需要が落ち込み、総固定資本形成は前年比

2.6%の減少、さらに民間消費の伸びも1.7%

の低水準にとどまると予測されている。

(2)経済政策

アイスランド経済は90年代に入ってからの

10年間でその基盤を強化した。経済、産業の

発展に貢献したのは、主として安定的かつ予

測可能なマクロ経済政策、さらには構造改革

に力点を置いた経済政策の変化によるところ

が大きい。特に90年代前半では通貨政策が功

を奏し、インフレの沈静化と輸出拡大に貢献

したことも見逃せない。例えば92年11月、93

年6月にクローナをそれぞれ6%、7.5%切

り下げた結果、国際競争力が増し、それまで

実質GDP成長率(%)�

 民間消費(%)�

 政府消費(%)�

 総固定資本形成(%)�

 輸出(財・サービス)(%)�

 輸入(財・サービス)(%)�

貿易収支(財のみ)(億クローナ)�

経常収支(億クローナ)�

経常収支対GDP比(%)�

消費者物価上昇率(%)�

失業率(%)�

賃金上昇率(%)�

4.8�

5.5�

2.5�

9.6�

5.6�

8.5�

△1.1�

△88.9�

△1.6�

1.8�

3.9�

5.4�

1997年�

4.5�

10.0�

3.4�

26.6�

2.2�

23.3�

△250.2�

△400.5�

△6.9�

1.9�

2.8�

9.4�

1998年�

4.4�

6.9�

4.9�

△0.8�

5.5�

6.1�

△223.7�

△432.0�

△6.9�

3.4�

1.9�

6.8�

1999年�

4.0�

4.0�

3.5�

10.8�

2.5�

5.9�

△342.8�

△614.9�

△9.1�

5.0�

1.3�

6.6�

2000年(推定)�2001年(推定)�

1.6�

1.7�

3.0�

△2.6�

0.0�

△1.2�

△331.9�

△680.0�

△9.3�

5.8�

1.8�

6.5�

表2 アイスランドの主要経済指標�

出所:国立経済研究所“KEY ECONOMIC INDICATORS December 2000”�

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JETRO ユーロトレンド 2001.778

6

低迷していた輸出が伸び始め、貿易収支の改

善に貢献した。さらには通貨安定策として93

年5月以降95年9月まで、クローナの通貨変

動幅を、通貨バスケット方式による通貨指数

(91年12月31日=100。2000年末現在の通貨指

数の中心レートは115.01で、上限は125.36、

下限は104.66。)の中心レートから上下2.25%

の範囲に設定した。95年9月からは為替レー

トの決定方式を、それまでの固定バスケット

方式(ECU76%、米ドル18%、円6%のウ

エート構成)から前年の財・サービスの貿易

額に応じて毎年ウエート付けされる9通貨の

変動バスケット方式(2000年7月20日以降、

ユーロ31.43%、米ドル25.26%、英ポンド

14.36%、デンマーク・クローネ8.89%、ノル

ウエー・クローネ7.61%、円4.85%、スウェ

ーデン・クローナ4.07%、スイス・フラン

2.11%、カナダ・ドル1.42%のウエート構成)

に移行している。通貨変動幅は95年9月から

上下6%に拡大されたが、2000年2月からさ

らに9%に拡大され、2001年3月末からはこ

の変動幅の目標値の維持政策は撤廃された。

これに代わり、2001年3月28日からはインフ

レ率の目標値を約2.5%とする経済政策に変

更された。

アイスランドは93年1月にEEA(欧州経

済領域:European Economic Area)加盟を

批准した後、構造改革も多くの分野で推し進

めた。この構造改革には年金制度、税制、金

融市場が対象となったが、さらに国営企業や

国有企業の民営化推進などが含まれている。

90年代から、それまで国営だったニシン加工

や酒・たばこの製造などいくつかの産業が民

営化された。その後も民営化が推進され、最

近では、電信電話公社であるアイスランドテ

レコム(Iceland Telecom)の民営化、国有

商業銀行2行ランズバンキ(Landsbanki)

とブナダルバンキ(Bunadarbanki)の政府

保有株の売却に焦点が当てられている。

(3)貿易

① 貿易構造

アイスランド経済の貿易依存度は非常に高

く、輸出、輸入額(財・サービスを含む)と

もにGDPに占める割合は30%以上で、99年

でみると輸出は34.3%、輸入は38.8%を占め

る。

アイスランドはEU非加盟国であるが、

EEA加盟は93年1月に批准、94年から正式

加盟国として活動しており、また自国が以前

から加盟しているEFTA市場とともにEU市

場へのアクセスを強めている。しかし96年か

らの順調な経済成長と国内消費需要の拡大の

中で、輸出の伸びを上回る輸入の増大が続い

ており、貿易収支は97年以降、赤字が続いて

いる。

アイスランドの輸出構造をみると、伝統的

に強い水産物が中心で、2000年(FOBベー

ス)は総輸出額の63.7%と過半を占める。

1960年代前半には総輸出の90%を水産物が占

めていたが、年々、水産物以外の産業の発展

も目覚しく、水産物依存率が低下している。

水産物輸出の中心は冷凍フィレおよび塩漬

け・乾燥魚である。これに次ぐのは工業製品

で30.9%(2000年)を占めるが、工業製品で

はアルミニウムが工業製品全輸出の58.6%を

占めている。その他の主な工業製品には、フ

ェロシリコン、なめし革、羊毛製品、缶詰製

品などがある。

一方、輸入は例年、工業用資材と資本財

(輸送機器を除く)、消費財(食品・飲料以外

のもの)、輸送機器が上位を占めている。

2000年(CIFベース)でみると、資本財(輸

送機器を除く)が23.4%と最大で、これに工

業用資材22.7%、消費財(自動車、食品・飲

料を除く)18.7%、輸送機器(自動車、船舶、

航空機)17.5%と続いている。

貿易相手国別にみると、輸出では英国、米

国、ドイツが三大輸出先で、地域別では

EEA(欧州経済領域)加盟国が70%弱を占

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 79

める。輸入ではドイツ、米国、ノルウェー、

英国、デンマークが上位を占め、地域的には

EEA加盟国が輸出と同様70%弱を占めてい

る。輸出入とも欧州が今後も最重要相手先国

であることは間違いないが、最大輸出品目で

ある水産物の加工技術と輸送技術の発達によ

って、距離的に遠く離れた海外市場でも競争

力があるとみられており、日本、中国、韓国な

どアジア市場にも関心が高まっている。

② 貿易動向

アイスランドの貿易額は90年代に入り、94

年以降、輸出入とも年々拡大している。財の

みの貿易収支(FOBベース)をみると、90

年代では96年まで赤字を記録した年は91,92

年の2年間だけで、94年は194億1,100万クロ

ーナの黒字(対GDP比4.46%)と最高の黒字

を記録している。97年から貿易収支は赤字に

転落、しかも赤字幅は拡大傾向にある。2000

年は輸出が1,484億クローナ、輸入が1,873億

クローナで、貿易収支は389億クローナの赤

字と90年代の最高を記録した。

2000年の輸出は前年比3.1%増(固定為替

レートで換算しているため、表5とは一致せ

ず。輸入も同様)であったが、輸出の約64%

と太宗を占める水産物は前年比約3%減少し

た。この水産物輸出減少の要因は、主として

水産物輸出の中心を占める冷凍魚フィレと冷

凍エビが前年比11~12%と2ケタ減を記録し

たことにある。工業製品の輸出は2000年は前

年比約25%増と顕著な伸びを示したが、これ

は主としてアルミニウム、フェロシリコン、

医薬品、医療用品の輸出拡大によるものであ

った。

一方、2000年の輸入は輸出の伸びを上回る

前年比約12%の伸びを示した。中でも目立っ

た伸びを示した分野は燃料・潤滑油で、前年

比約2倍の伸びであった。輸入増加額の約

37%は、この燃料・潤滑油の価格高騰による

ものであった。このほか、経済の好調を反映

して工業資材や資本財の輸入増も全体の輸入

額を押し上げる要因となった。

品 目�

水 産 物 �

農 産 物 �

工業製品�

そ の 他 �

1981~85年�

72.6�

1.5�

24.2�

1.7�

1991~95年�

77.1�

1.8�

18.4�

2.7�

1998年�

72.6�

1.4�

23.1�

2.9�

1999年�

67.4�

1.5�

25.6�

5.5�

2000年�

63.7�

1.7�

30.9�

3.7�

表3 輸出商品構成�(FOBベース、%)�

出所:アイスランド統計局“ICELAND IN FIGURES 2000-2001”�

食品・飲料�

工業用資材�

燃料・潤滑油�

資本財(輸送機器除く)�

輸送機器�

消費財�

8.2�

27.2�

9.7�

17.9�

17.7�

19.3�

1990年�

10.3�

28.7�

7.1�

20.6�

12.2�

21.1�

1995年�

9.1�

26.2�

5.1�

25.4�

15.7�

18.5�

1998年�

9.6�

24.1�

5.3�

24.0�

17.2�

19.7�

1999年�

8.2�

22.7�

9.3�

23.4�

17.5�

18.7�

2000年�品  目�

表4 輸入商品構成�(CIFベース、%)

出所:アイスランド統計局“ICELAND IN FIGURES 2000-2001”�

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JETRO ユーロトレンド 2001.780

6

1995年�

1996年�

1997年�

1998年�

1999年�

2000年�

116,607�

125,690�

131,213�

136,592�

144,928�

148,385�

103,539�

124,836�

143,227�

162,062�

167,778�

187,276�

13,068�

854�

△12,014�

△25,470�

△22,850�

△38,891�

2.9�

0.2�

△0.02�

△4.4�

△3.6�

n.a�

貿易収支�輸入(FOB)�輸出(FOB)� 対GDP比(%)�

表5 貿易の推移�(単位:100万クローナ)

(注)輸出入実績は現行為替レートで換算�出所:アイスランド統計局“Icelandic External Trade 1999”、同“ICELAND IN FIGURES 2000-2001”�

合 計 �

E E A �

その他欧州�

米 国 �

日 本 �

そ の 他 �

125,690�

83,115�

23,949�

16,229�

9,094�

4,687�

8,445�

4,522�

5,275�

14,708�

12,370�

10,222�

131,213�

86,773�

24,807�

17,155�

7,431�

7,295�

8,317�

4,392�

9,635�

18,300�

8,696�

7,810�

1998年�1997年�1996年� 1999年�

表6 主要相手国別輸出動向�

(単位:FOB ベース 100万クローナ、カッコ内構成比%)

出所:表7ともアイスランド統計局“Icelandic External Trade 1999”�

英 国 �

ド イ ツ �

デンマーク�

ノルウェ-�

フ ラ ン ス �

オ ラ ン ダ �

136,592 (100.0)�

95,338 (69.8)�

25,897 (19.0)�

20,487 (15.0)�

7,449 (5.5)�

6,574 (4.8)�

9,221 (6.8)�

5,548 (4.1)�

10,157 (7.4)�

17,652 (12.9)�

6,545 (4.8)�

6,900 (5.1)�

144,928 (100.0)�

99,787 (68.9)�

28,479 (19.7)�

18,965 (13.1)�

6,679 (4.6)�

6,930 (4.8)�

7,514 (5.2)�

8,711 (6.0)�

9,128 (6.3)�

21,356 (14.7)�

7,297 (5.0)�

7,361 (5.1)�

135,994�

95,051�

14,802�

13,847�

11,358�

9,132�

8,117�

18,396�

9,916�

12,840�

5,456�

12,731�

143,227�

99,688�

16,847�

14,479�

12,366�

9,584�

9,262�

16,501�

10,125�

13,503�

7,037�

12,874�

1998年�1997年�1996年� 1999年�

表7 主要相手国別輸入動向�

(単位:FOB ベース 100万クローナ、カッコ内構成比%)

合 計 �

E E A �

その他欧州�

米 国 �

日 本 �

そ の 他 �

ド イ ツ �

英 国 �

デンマーク�

スウェーデン

オ ラ ン ダ �

ノルウェー�

176,072 (100.0)�

115,193 (65.4)�

20,176 (11.5)�

17,027 (9.7)�

13,520 (7.7)�

11,154 (6.3)�

10,477 (6.0)�

16,137 (9.2)�

13,674 (7.8)�

19,540 (11.1)�

8,933 (5.1)�

18,732 (10.6)�

182,322 (100.0)�

120,861 (66.3)�

21,580 (11.8)�

16,720 (9.2)�

14,724 (8.1)�

11,327 (6.2)�

9,455 (5.2)�

18,957 (10.4)�

11,976 (6.6)�

19,867 (10.9)�

10,092 (5.5)�

19,526 (10.7)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 81

③ 貿易・為替制度

アイスランドはEEA加盟18カ国(EU15カ

国とEFTAのうちスイスを除く3カ国)の一

員として、ごく一部の分野を除きEUと同様

の自由な経済活動を保証している。EUのす

べての商業に関する法や制度はアイスランド

にも適用される。従って、アイスランドは

EU市場にも関税なしにアクセスが可能であ

る。

アイスランドでは95年に外国為替管理が撤

廃され自由化され、外貨の売買に規制はない。

中央銀行は例外的な環境のもとでは資本の流

失を暫定的に規制する権限を与えられている

が、これまでそうした権限が行使されたケー

スはない。

生きた動物、武器、危険物、医薬品などの

輸出入については、標準的な規制が適用され、

特別な手続き、書類が必要になる。

国内消費税は、アイスランド消費税法

(Icelandic Excise Tax Act)に明記されてい

る。外国から輸入され、アイスランドで製造、

加工、パックされた新製品、中古品が対象に

なる。各種製品に課税される国内消費税の決

済期間は2カ月で、課税対象物品の生産のた

め購入した資材について同期間に支払った消

費税は、納税時に控除できる。商品生産のた

め購入した製品に支払った消費税が、販売に

伴い受けとった消費税を上回る場合、その差

額は還付される。

国内消費税は、数量または金額ベースに基

づき課税されるが、数量ベースの商品につい

てはキロまたはリッター当り、金額ベースの

ものは国内生産品の場合は工場価格、輸入品

の場合は関税が付加された価格に基づき課税

される。

アイスランド以外から輸入される商品につ

いても、「新欧州原産地規則」(N e w

European Rules of Origin)に規定されてい

る“十分な加工”という内容を満たせばアイ

スランドを原産国とみなしうる。この場合、

認定基準は商品のタイプや生産プロセスの内

容により異なる。当該製品がアイスランドで

加工され、そのHSコードの最後の2ケタの

番号が変わる場合、当該製品はアイスランド

原産としうる。これは必ずしもアイスランド

ですべての加工が行われる必要はなく、その

一部がアイスランドで加工されても、商品コ

ードが変化すればよい。

(4)直接投資

① 対内・外直接投資動向

アイスランドへの海外からの直接投資は80

年代後半から91年にかけ前年比2ケタの伸び

で順調に拡大してきたが、92年以降、国内経

済低迷の影響もあり94年まで伸び悩んだ。し

かし、国内経済の回復、さらには95年に外国

為替管理規制が撤廃されたこともあり、96年

からアイスランドへの直接投資も回復をみせ

ている。国際収支フロー、ネット・ベースで

みると、96年には約55億クローナ、97年には

103億クローナへと倍増、98年は前年と同水

準であったが、99年には48億クローナへと減

速している。

アイスランドへの主要投資国は、例年、ス

1992年�

対 外 直 接 投 資 �

対 内 直 接 投 資 �

直接投資バランス�

△3.6�

△6.7�

△10.3�

1993年�

△9.7�

△0.4�

△10.1�

1994年�

△16.6�

△1.1�

△17.7�

1995年�

△16.6�

△6.1�

△22.7�

1996年�

△42.2�

54.8�

12.6�

1997年�

△36.4�

102.7�

66.3�

1998年�

△50.2�

104.0�

53.7�

1999年�

△76�

48�

△28�

表8 アイスランドの直接投資推移(フロー、ネット、国際収支ベース)�(単位 億クローナ)

出所:アイスランド中央銀行“Annual Report”�

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JETRO ユーロトレンド 2001.782

6

イス、米国、ノルウェー、デンマーク、英国

などが上位を占めている。日本からの直接投

資も90年は全体の5.9%、95年は3.3%を占め

ていたが、98年は1%、99年は実績がない。

ノルウェーからの投資も活発である。中で

もエルケム社(Elkem ASA)がフェロシリ

コンの製造でアイスランド政府と日本の住友

商事等との合弁で1976年に設立したアイスラ

ンデイック・アロイ社(Icelandic Alloys

Ltd)への出資比率を高め、2000年にはエル

ケム社55%、一般投資家24.5%、アイスラン

ド政府12%、住友商事8.5%という出資比率

で、過半を占めるに到っている。

しかし最も注目されるのは、ノルウェー国

有企業であるノルシュク・ヒドロ社(Norsk

Hydro ASA)が進めるアイスランド東部に

位置するレイダルフョルドゥール・アルミニ

ウム製錬所および発電所建設プロジェクトで

ある。この製錬所が予定通り2006年から生産

を開始すれば、直接・間接的に540人の雇用

が生まれ、アイスランドを西欧でもアルミニ

ウムの一大生産国に押し上げることになる。

しかし、同プロジェクトは発表時からアイス

ランドの環境を破壊すると環境団体から強力

な反対を受け難航中で、プロジェクトの最終

決定は2002年2月1日まで見送られた。

アイスランドへの直接投資を業種別にみる

と、製造業部門が中心で、例年約70%弱を占

める。98年の実績でみると、製造業67%、貿

易・商業10%、保険・金融サービス7%、通

信・輸送2%、その他14%という内訳となっ

ている。

② 投資環境

アイスランドへの直接投資に関しては、ま

だ国益と密接な関係を持つエネルギー関連産

1990年�

対 外 資 産 �

対 外 債 務 �

4.2�

8.1�

1991年�

5.6�

9.2�

1992年�

6.3�

7.9�

1993年�

8.3�

8.5�

1994年�

10.2�

8.7�

1995年�

11.7�

8.4�

1996年�

16.1�

13.2�

1997年�

19.8�

23.9�

1998年�

23.5

31.7�

1999年�

31.4�

38.4�

表9 アイスランドの直接投資ポジション�(単位:10億クローナ)

(注)対外資産=対外直接投資、対外債務=対内直接投資�出所:アイスランド中央銀行“Annual Report”�

ス イ ス �

米 国 �

ノ ル ウ ェ - �

デ ン マ ー ク �

英 国 �

スウェーデン�

ド イ ツ �

フィンランド�

そ の 他 欧 州 �

日 本 �

そ の 他 �

米 国 �

ス イ ス �

デ ン マ ー ク �

ノ ル ウ ェ - �

ルクセンブルグ

英 国 �

スウェーデン�

そ の 他 �

37(%)�

30�

7�

6�

3�

3�

2�

1�

9�

1�

1�

表10 対内直接投資の主要国別構成�

出所:アイスランド投資局�

1998年�

直接投資総額 317億クローナ�

38(%)�

32�

8�

7�

5�

4�

2�

4�

1999年�

直接投資総額 384億クローナ�

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業や水産・一次水産加工業等への規制はみら

れる。しかし、EEA加盟後はEEA加盟国居

住者は対アイスランド投資が原則自由化さ

れ、また規制も緩和され、外国からの直接投

資を積極的に歓迎している。特に、アイスラ

ンド投資局の発表では、2000年以降、強化し

たい産業部門として次のような分野を挙げて

おり、こうした分野への外国投資を歓迎する

方向にある。

アイスランドが今後強化したい産業分野:

①大・中規模の電力依存型産業、②製造業、

③水産関連産業、④食品加工業、⑤コンピュ

ータソフト開発、⑥情報通信・国際貿易業、

⑦バイオテクノロジー等の知識集約産業、⑧

ヘルスケア・医療技術産業、⑨観光産業、⑩

芸術・デザイン・娯楽産業、など。

一方、アイスランドが外国からの直接投資規

制を行っている分野は次のとおりとなってい

る。

直接投資規制対象分野:

①水産業と水産加工業(水産缶詰製造業は対

象外):事業者は原則としてアイスランド

の国籍所有者と居住者、法的主体のみ。ア

イスランドにおける水産関連事業主体への

他のEEA加盟国を含む外国事業者の所有

割合は原則として25%以下。特別な場合、

最高でも33%以下。

②水力、地熱エネルギーの開発、生産、販売

については、アイスランドおよびEEA加

盟国に本拠地を置く居住者、事業者のみが

許可され、これら以外の居住者、事業主体

は許可されない。

③アイスランド航空会社への資本参加は、

EEA加盟国以外の居住者の場合、最高

49%まで。

④EEA/OECD加盟国以外の有限責任会社お

よびその他の法的主体は、アイスランド通

産大臣の許可が得られれば、またはアイス

ランドが締結している国際条約で認められ

ていれば操業が可能。

⑤外国の政府(国、地方)に関連した企業が

アイスランド企業に投資する場合は、アイ

スランド通産大臣に特別の認可を申請する

必要がある。

⑥EEA/OECD加盟国以外の個人居住者はア

イスランド企業の役員になることに規制を

受ける。ただしアイスランド通産大臣は例

外を認めることができる。

⑦アイスランドに支店や子会社を設立し、ア

イスランドで事業活動を行う新規外国企業

は、会社登記所(Register of Limited

Companies)に登録する義務がある。また、

EEA/OECD加盟諸国以外の企業は、アイ

スランド人役員の最低人数について規制を

受ける。すなわち公開有限責任会社、非公

開有限責任会社の役員数の少なくとも半分

はアイスランドの居住者か、EEA/OECD

加盟国の居住者または国民でなければなら

ない。ただし、アイスランド通産大臣は例

外を認めることができる。

⑧EEA加盟国以外の居住者は労働査証と、

不動産取得売買につき認可を必要とする。

参考:EFTAとEEAのメンバーであるアイ

スランドでは、加盟国内の国際投資規

制が適用される。この国際投資規制と

は、アイスランドがEEAのメンバー

であることから、EEA圏内における

資本、人、サービス、配当の移動の自

由、会社設立の権利等がアイスランド

国内においても適用され、また税制や

外国投資規制についても他のEEA加

盟国の投資家と同様に平等な立場で活

動できるよう定められた規制である。

出所:アイスランド投資局“Restrictions

on Foreign Investment”

アイスランド投資局はアイスランドの投資

JETRO ユーロトレンド 2001.7 83

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環境として以下の点を利点に挙げている。

①政治・経済的安定性。

②EFTA、EEA等の加盟国として5億人の

巨大な欧州市場に関税なしでアクセスでき

る。

③外国投資に関する法律が柔軟で、迅速な対

応が可能。

過去にわずか14カ月でアルミニウム製錬所

が生産開始した例もある。

④法人税は欧州でも低い30%。国際貿易会社

の場合、法人税は5%に優遇。

なお、個人所得税は38.34%(国税26.41%、

地方税11.93%)。

⑤整備されたインフラ。道路、空港、通信網、

安い電話料金で通信費の削減が可能。

⑥クリーンなエネルギー(水力、地熱等)が

豊富で、電力が安価。一次エネルギーの種

類別消費構成は地熱51.8%、水力17.1%、

石油29%、石炭2.1%(1998年)。電力料金

は産業用で1kWh当たり約0.02米ドルで、

ノルウェーの約40%、米国の約半値である。

⑦国民の高い教育水準・IT能力。労働の定

着率が高い。年齢的にも16~65歳の年齢層

が65%を占め、総人口の83.4%(1998年)

が労働市場に出ている。

⑧地理的に欧州と北米の中間点に位置し、両

市場へのアクセスが容易。

⑨北欧諸国並みの高水準の医療・教育サービ

スを提供。

⑩過去5年間、先進国でも高い経済成長率を

達成。

(5)財政・金融

① 財政収支

アイスランドの一般政府の財政収支は、98

年に1980年代半ば以降初めて28億クローナの

黒字を記録して以来、健全な状況にあり、99

年は122億クローナ、2000年度も199億クロー

ナの黒字が見込まれている。2001年度も政府

予算案によると、前年度と大差はなく、197

億クローナの黒字を見込んでいる。

中央政府財務省の財政状況をみても、2000

年度は当初予算より152億クローナ多い歳入

が見込まれ、財政黒字も当初予算より94億ク

ローナ増が見込まれている。国立経済研究所

の推定によれば、2000年度の財務省の財政黒

字は215億クローナで、GDPの3.2%を占める

としている。これは99年の155億クローナか

ら黒字幅は拡大している。こうした財政収支

の改善は、好調な経済を反映し企業の業績が

伸び、また個人所得の拡大もあり、法人税や

所得税の税収が伸びていること、さらには個

人投資から得られる利子、配当、キャピタル

ゲインが対象となる資本所得税(Capital

Income Tax)からの税収増もその要因の一

つである。一方、歳出の方は2000年度は当初

予算より60億クローナ増と推定されている

が、これは公務員の賃上げや、産業界への補

助金増、投資の拡大などがその要因としてあ

げられる。

② 財政政策

政府が経済政策で最も重要視している目標

は、近年の好調な経済活動を維持すること、

またアイスランド経済の継続的安定性を確保

することである。それが結果として財政の健

全化と強化につながり、公的債務を減少させ

ることにつながるとの認識を持っている。

90年代を通じ、慎重な財政政策をとること

によって、98年以降、一般政府の財政は構造

的赤字から構造的黒字に転換した。中央政府

財務省の2001年度予算では、かつてない300

億クローナ、対GDP比4%という財政黒字

を見込んでいる。この好調な財政が公的債務

の対GDP比率の大幅低下に貢献している一

方、こうした財政黒字にもかかわらず、好況

を反映した近年の加熱気味の民間消費からく

るインフレ懸念や経常収支の悪化に対処する

ため、財政引き締め政策を金融政策とあわせ

て引き続き行う結果となっている。

JETRO ユーロトレンド 2001.784

6

Page 85: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

JETRO ユーロトレンド 2001.7 85

さらに政府は財政政策の一環として、数多

くの民間企業に対する政府保有株式の売却も

進めている。特に金融部門や情報通信部門の

株式が中心であるが、この株式売却が財務省

の歳入増加に大きく結びついており、同時に

財務省の公的債務の大幅減少に今後つながる

ものと期待されている。

③ 金融・通貨政策

アイスランドにとって金融・通貨政策も財

政政策と同様、マクロ経済運営の重要な構成

要素のひとつである。財政政策と同じく、近

年は加熱気味の経済を沈静化させ、インフレ

の高進を抑え、クローナ防衛を図ることが主

目的となっている。

アイスランド中銀は、近年のインフレ高進

については、高金利政策と民間信用機関の流

動性に関する新ルールの設定など、金融引き

締め策を通じ対応してきている。その結果、

2000年にはアイスランド国内の短期金利と主

要国のそれとの差が、95年に外国との資本移

動規制が撤廃されて以来の最大幅に拡大し

た。

2000年には1月、2月、6月、11月と4回

一般政府:�

 歳入�

 歳出�

 収支�

 純債務�

 総債務�

中央政府:�

 歳入�

 歳出�

 収支�

 純債務�

 総債務�

地方政府:�

 歳入�

 歳出�

 収支�

 純債務�

 総債務�

公的部門純借入必要額�

対GDP比(一般政府):�

 歳入�

 歳出�

 収支�

 純債務�

 総債務�

公的部門純借入必要額�

194.9�

194.9�

△0.1�

196.5�

279.4

表11 公共部門の財政収支の推移�(単位:10億クローナ。対GDP比は%)

出所:アイスランド中央銀行“Monthly Bulletin 2001/1”�

1997年�

220.8�

218.0�

2.8�

180.7�

280.5

1998年�

255.9�

243.8�

12.2�

150.1�

272.1

1999年�

276.3�

256.4�

19.9�

147.9�

269.4

2000年(推定)�

298.3�

278.6�

19.7�

156.4�

268.4

151.3�

148.5�

2.7�

172.3�

241.6

170.5�

164.3�

6.2�

151.3�

237.8

197.9�

183.4�

14.5�

118.8�

226.0

213.2�

191.1�

22.1�

112.5�

219.0

229.2�

208.9�

20.3�

118.0�

213.0

2001年(予測)

48.2�

51.2�

△3.0�

25.0�

38.4�

17.6

54.4�

58.6�

△4.3�

30.1�

43.3�

5.3

62.1�

65.4�

△3.3�

31.9�

46.8�

10.2

67.1�

70.3�

△3.1�

36.0�

51.0�

△0.8

73.1�

74.7�

△1.6�

39.0�

56.0�

△4.4

37.1�

37.1�

0.0�

37.1�

52.7�

3.3

38.2�

37.8�

0.5�

31.1�

48.3�

0.9

41.0�

39.0�

1.9�

23.4�

42.4�

1.6

40.7�

37.8�

2.9�

21.4�

38.9�

△0.1

41.0�

38.3�

2.7�

21.0�

36.0�

△0.6

Page 86: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

JETRO ユーロトレンド 2001.786

6

の利上げが行われるなど、中銀の金融引き締

め政策継続の結果、2000年の後半から加熱気

味であった景気もやや沈静化の兆しが見え始

め、消費者物価上昇率も年末から2001年初頭

にかけて下落傾向をみせ始めている。一方、

クローナの為替レートも利上げ時点では高目

に反応するものの、主要産業である水産業の

漁獲割当量の減少や経常収支の赤字幅拡大と

いったニュースが発表されるごとに下落する

など、安定してはいないが、中銀も外国為替

市場への介入を通じて為替の安定化に努めて

きている。

このような経済情勢の中で、中銀は2001年

3月27日、レポ金利を0.5ポイント、さらに

金融機関の当座預金金利を0.2ポイント、4

月3日から引き下げると発表した。これによ

りレポ金利は10.9%に、また金融機関の当座

預金金利は6.7%になった。中銀の政策金利

は97年以来一貫して引き上げられてきたが、

2000年11月に0.8ポイントの利上げを最後に、

2001年に入り初めての利下げに転じた。ただ

し翌日返済貸出し金利は据え置きとなった。

この金融政策の転換について、中銀では「ア

イスランド経済の景気過熱のピークは過ぎ、

インフレ見通しも目標圏内に収まりつつあ

る。景気の過度の締め付けを避けるためにも、

今回の金融政策のある程度の緩和は時機をえ

たものである」と説明している。今後の金利

水準は、為替レートの変動や主要経済指標の

変化がインフレや経済成長の見通しを短期的

1997年�(平均)�

金融機関の当座預金�

要求預金�

翌日返済貸出し金利�

レポ金利�

2.7�

3.5�

-�

6.9�

1998年�(平均)�

3.0�

5.5�

8.5�

7.3�

1999年�(平均)�

3.8�

6.6�

9.3�

8.3�

2000年�(平均)�

6.0�

8.8�

11.5�

10.5�

2001年�(1月31日)�

6.9�

9.7�

12.4�

11.4�

表12 アイスランドの政策金利推移�(単位:%)

出所:アイスランド中央銀行“Monthly Bulletin 2001/1”�

実効為替相場指数:�

公定相場指数(94/12/31=100)�

輸入加重指数(94/12/31=100)�

輸出加重指数(94/12/31=100)�

中央銀行為替相場:�

対米ドル�

対ユーロ(注)�

対円�

対ポンド�

対デンマーク・クローネ�

対ノルウェ-・クローネ�

対スウェーデン・クローナ�

1.3�

1.7�

0.9�

表13 アイスランド・クローナの変動推移�

(注)99年以前は対ドイツ・マルク�出所:アイスランド中央銀行“Monthly Bulletin 2001/1”�

△6.1�

8.3�

4.3�

△10.4�

7.0�

2.9�

7.0�

1997年�

1.6�

1.7�

1.6�

△0.2�

1.1�

7.6�

△1.3�

1.1�

6.6�

4.0�

1998年�

(年平均の変化。%)�

0.2�

0.2�

0.1�

△1.8�

△47.5�

△14.6�

0.6�

2.5�

1.5�

2.1�

1999年�

△0.1�

0.2�

△0.2�

△8.2�

6.3�

△12.6�

△1.7�

6.5�

3.7�

2.0�

2000年�

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にどう変化させるかに基づいて決定されるこ

とになろう。

2001年3月27日の利下げ発表と同時に、オ

ッドソン首相とビルギール・I・グンナール

ソン中銀総裁は「インフレーション目標と為

替政策の変更にかかわる宣言書」に署名し、

3月28日から実行に移すと発表した。署名さ

れた宣言書の概要は次のとおりである。

「インフレーション目標と為替政策の変更に

かかわる宣言書」の概要:

1 政府と中銀はアイスランドの金融・通貨

政策の枠組みを次のとおり変更し、3月28

日から実行に移す。

a.金融・通貨政策の主要目標は物価の安

定である。中銀は財政の安定化とともに、

物価の安定という中銀の主目的と矛盾し

ない限り、政府の経済政策の主目的も推

進する。

b.為替レートを一定の変動枠内に維持す

るという通貨政策を基礎にするというよ

り、むしろ中銀はインフレ率を既定枠内

に収めることを目標とする。

c.上記の政策の変化は、クローナの変動

幅の許容限度をなくすということを意味

するが、為替レートは通貨政策の実施には

依然重要な指標であることに変わりない。

d.政府はインフレ目標値達成のため中銀

に対し各種手段を使う権限を与える。

e.政府は3月末に新中央銀行法案を議会に

提出する。同法案は、金融・通貨政策の

主目的を物価安定とするという決議と、

その目的のために行う中銀の各種権限の

独立性を法的に確認するもの。

f.中銀のインフレ目標値は、アイスラン

ド統計局が出す消費者物価指数の12カ月

間の変化を基準とする。

g.中銀は年間インフレ率の目標を約

2.5%とする。

h.もしインフレ率が目標値から1.5%ポ

イント上回るような状況になれば、中銀

はできるだけ速やかに目標値内に収まる

よう努める。このような状況下になれば

中銀は政府に対し、その背景理由や採ろ

うとしている措置、目標値内に収まる時

期の見通しなどにつき報告書を提出し、

一般にもそれを公表する。

i.中銀は2003年末までに2.5%というイ

ンフレ目標値を達成するよう努力する。

インフレ率の上限は、2001年はインフレ

目標値から3.5%ポイント、2002年は同

2%とする。両年とも目標値からはずれ

るような場合はh.の措置をとる。

j.クローナの変動幅リミットを撤廃する

が、中銀はインフレ目標値達成のため必

要と考える場合、また為替レートの変動

が金融安定化を阻害すると考える場合、

外国為替市場で介入する。

k.中銀は四半期ごとに今後2年間のイン

フレ見通しを発表し、中銀四半期報告書

の中でも紹介する。

l.中銀は同四半期報告書の中でインフレ

対策を説明し、中銀総裁もまた、財務大

臣、政府、議会の中銀政策委員会などに

報告する。

以上のとおり、政府、中銀の金融・通貨政

策の主眼がインフレ目標値への収斂に置かれ

ることになった。この政策変化を明確にする

ことになった背景には、2001年1月にアイス

ランドを訪問したIMF調査団の調査報告書や

OECDアイスランド経済報告書等でもインフ

レ目標値の設定が勧告されていることがある

と考えられる。

④ その他

EEA加盟による金融市場の規制緩和もあ

り、外国の金融資産、特に株式保有が近年増

加している点も注目される。EEA加盟批准

後の94年には、アイスランド人は外国企業の

株式をほとんど保有していなかったが、99年

末時点ではそれが1,240億クローナに、また

JETRO ユーロトレンド 2001.7 87

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2000年9月には1,770億クローナに急増して

いる。これら金融投資から得られる収益が経

常収支の収入に反映され、対外債務の増大す

る金利負担を相殺する結果となっている。

(6)EU加盟問題

アイスランド政府のEU加盟問題へのスタ

ンスは、2000年4月に外務大臣が議会に提出

したアイスランドの欧州における協力に関す

る報告書の中でも述べられている。オッドソ

ン首相は2000年10月3日の議会での政府方針

演説の中でもこの報告書の内容について触

れ、EEAおよびEU問題へのスタンスを明ら

かにしている。

同報告書ではアイスランドが93年1月に加

盟を批准したEEA協定については、発効当

初から意図されたとおり進んでおり、アイス

ランドにとっても有益な結果をもたらし、う

まく実行に移され機能していると評価してい

る。またアイスランド政府は、EEA協定が

EU内での政治的意志決定プロセスに直接参

加できない点はEEA協定ができた当初から

問題点として認識しているが、EUに加盟し

た場合のEU共通漁業政策問題でアイスラン

ドの国益を損なうリスクの方を問題視してい

る。共通漁業政策分野におけるEU内の基本

的条件は、アイスランドと比較した場合、全

く異なるとの認識を持っている。すなわち、

EUは漁業は加盟国の独立した存続可能な産

業としてというより、むしろ域内の地域開発

という側面からみているという点である。そ

のためにEUの共通漁業政策では、加盟国の

水産資源はEUの共通資源として取り扱われ

ることになり、アイスランドの重要産業であ

る漁業は結果として不利益を受ける可能性が

大きくなる。同報告書でも、その点に関する

懸念が示されており、またEU加盟問題に関

するアイスランドとEUとの話し合いの基本

原則として、EUの共通政策から漁業問題を

例外的に取り扱うというアイスランドの主張

に対してEUの理解が得られないという点が

問題として挙げられている。このため、EU

側が漁業政策を変更するのであれば加盟問題を

検討するというのが現政権の基本姿勢である。

上記報告書では、漁業政策に加えて、アイ

スランドのEU加盟によるマイナス要素とし

て、次のような問題も指摘している。①農業

部門も、分野によっては加盟に伴いある程度

の農業補助金を受けられるという期待もある

が、EUの拡大によって補助金自体、削減さ

れる可能性がある。②加工農産物はEUの大

規模農業国の生産者との競争上不利で、農業

者は生産面で問題を抱えることになる。③地

域開発補助金の確保は拡大EUになればより

難しくなり、補助金自体も減額される可能性

がある。④EMU加盟の不利益としては、予

期せぬ経済的変動に直面してもアイスランド

当局の対策面での選択の幅が狭くなることが

ある。⑤EU加盟により、アイスランドのEU

基金への分担金負担は年間80億クローナと推

定されているが、この額も不確定要素があり、

増額になる可能性もある。⑥アイスランドの

農業、漁業、地域開発分野へのEU補助金を

どの程度求めるかについて不確定要素があ

る。EUの漁業への補助金は産業そのものに

ダメージを及ぼしていることが既に証明され

ているし、アイスランドの漁業操業上の原則

にも反する。⑦EU基金へのアイスランドの

一人当たり負担額は国民所得を反映し高いも

のになり、見返りとして受け取る額より支払

いの方が大きくなる。しかも拡大EUになれ

ばさらに負担が大きくなり、逆に受け取りは

削減されることになる。

以上のような問題点から、ここ数年の間に、

アイスランドがEU加盟に動くことはないと

いう考えが、現政権内の主流となっている。

一方、アイスランドのEU加盟に関する世

論調査によれば、2000年10月の日刊DV紙の

調査結果では、国民の37%が加盟反対、30%

が賛成という結果である。しかしギャラップ

JETRO ユーロトレンド 2001.788

6

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 89

社(Gallup)が国民を対象として実施した

2000年8月の世論調査では44%が加盟賛成、

うち52%がEU加盟はアイスランドにとって

有益と考え、また賛成派のうち34%が5年以

内での加盟を望んでいる一方、25%が加盟反

対となっている。同社の世論調査ではここ4

年間、加盟賛成の数が反対を上回っている。

またアイスランド産業連盟の会員企業の45%

が加盟賛成で、その内56%は5年以内の加盟

を望んでいる。また社会科学研究所(Social

Science Institute)の2000年9月の調査結果

では、与党連立政権の独立党支持者の50%は

加盟が望ましいと考えており、同じく連立政

権の進歩党支持者の50%強は加盟にやや又は

強く反対という結果になっている。労働組合

の意見も、漁業、農業関連労働組合は加盟反

対、政府関係機関労働組合、国家・地方公務

員労働組合は賛成が反対を上回っている。

このように、EU加盟問題に対する各界の

反応はまちまちであり、連立政権もしばらく

まだ議論を続けていく必要があるとの認識で

ある。ただ、拡大EUから取り残されるとの

懸念も強く、同じ立場にあるノルウェーの動

向には強い関心を持って見守っている。

2.産業

(1)産業構造

アイスランドの産業構造を産業別GDP構

成比でみると、同国の輸出総額の60%台を占

め最大の輸出産業である水産業は年々そのウ

エートが低下し99年では10.8%に低下、また

漁業の就業者数は全就業者数の4.7%を占め

るにすぎない。産業分野ではサービス業の占

める割合が高まっており、最大のウエートを

占めている。製造業分野のウエートも年々高

まっており、サービス部門に次ぐ地位にある。

工業製品では豊富かつ安価な電力を利用でき

るアルミニウム製造業が最大の生産高を誇

り、そのほかセメントやフェロシリコン、ダ

イアトマイトなどが主要製品である。火山地

帯で全国土の1%程度の農地しかない農業の

ウエートは水産業と同様、年々低下しており、

GDP構成比は2%を下回っている。

(2)主要産業動向-水産業

アイスランドの最大の輸出産業である水産

業は、アイスランドの輸出総額の7割弱を例

年占めており、わずか7,200名の就業人口で

世界第11位の漁獲高を誇っている。人口の少

ないアイスランドのような小国が、世界と対

等に競争していくには、高い効率、品質維持

技術、廃棄物処理問題など弾力的かつ小回り

のきく対応を取ることが求められており、各

種の水産技術の調査研究が進んでいる。

アイスランドの水産資源は、タラ、赤魚

(メヌケ類)などの深海魚、ニシン、シシャ

モ、ニベ、ロブスター、シュリンプ、ホタテ

などが中心である。2000年の総漁獲量は、

195万4,000トンで、前年比12.8%増と推定さ

れている。この増加の主因は、ししゃもの漁

獲量が25万トン増え、合計95万トンに達した

ことにある。2001年については漁獲割当ての

農業�

水産・水産加工業�

製造業・建設・電気水道供給�

民間サービス�

公共サービス�

2.2�

14.9�

22.7�

42.5�

17.7�

2.1�

15.2�

23.2�

42.6�

16.8�

2.0�

13.1�

24.1�

41.8�

19.1�

1.9�

11.5�

24.8�

42.8�

19.0�

1.9�

10.8�

25.1�

42.9�

19.3�

表14 産業別GDP構成�(単位:%)

出所:国立経済研究所“Key Economic Indicators of Iceland”�

1995年� 1996年� 1997年� 1998年� 1999年�

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JETRO ユーロトレンド 2001.790

6

削減等で前年比16.2%減と国立経済研究所で

は予測している。

一方、漁獲額は2000年は前年と大差ないも

のと推定されているが、最大の外貨獲得源の

タラは99年に比し0.2%減、その他の深海魚

も同5.3%減と推定されている。その他の魚

種の漁獲額は固定価格で6.8%増、特にシシ

ャモは同32%増、ニシン0.7%増、シュリン

プは23%増となっている。遠洋漁業による漁

獲が増加しており、これによる漁獲の99年の

輸出額は前年より15億クローナ多い90億クロ

ーナ、2000年も93億クローナになるものと推

定されている。2001年の漁獲額については、

国立経済研究所では前年比7.2%減になるも

のと予測している。

水産物業界で見られる近年の傾向は、企業

の国際化が進んでいることで、海外市場での

競争力向上のため、より一層の企業効率化と

採算性の改善を求めて水産会社の合併がいく

つか具体化している。最も注目された合併例

は、99年のアイスランド・シーフード・イン

ターナショナル(ISI)とユニオン・オブ・

アイスランデイック・フイッシュ・プロデュ

ーサー(SIF)の合併である。この合併の結

果、新会社SIFリミテッド社は、年間売上げ

および輸出額でアイスランド最大の企業にな

った。

捕鯨問題:

アイスランドは、日本、ノルウェーなどと

ともに伝統的な捕鯨国であったが、国際捕鯨

委員会(IWC)の商業捕鯨モラトリアム決定

に伴い、1985年から商業捕鯨を停止した。86

年から89年まで調査捕鯨を実施していたが、

90年以降は停止の状況にある。91年5月にレ

イキャビックで行われたIWC第43回年次総会

で、漁業資源保護管理という立場から商業捕

労働人口(人)�

農業�

漁業�

工業:�

 水産加工�

 製造�

 電気水道供給�

 建設�

サービス:�

 卸売・小売・修理�

 ホテル・レストラン�

 通信・運輸�

 金融�

 不動産�

 公共サービス�

 教育�

 医療・社会福祉�

 その他�

153,300�

4.3�

4.7�

23.1�

4.0�

11.4�

0.8�

6.9�

67.9�

13.8�

3.9�

7.6�

3.7�

7.2�

4.9�

6.0�

13.9�

6.9�

表15 産業別就業人口構成(1999年)�

(単位:労働人口以外は%)�

出所:アイスランド統計局“Iceland in Figures 2000-2001”�

合計�

82,200�

5.1�

7.7�

32.9�

4.2�

15.1�

1.3�

12.3�

54.4�

13.7�

2.8�

8.8�

3.0�

8.1�

5.1�

3.4�

3.7�

5.3�

男性�

71,200�

3.3�

1.2�

11.8�

3.7�

7.1�

0.2�

0.8�

83.6�

13.9�

5.1�

6.2�

4.6�

6.2�

4.7�

8.9�

25.7�

8.4�

女性�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 91

鯨再開を提案したが否決されたことから、91

年12月IWCからの脱退を通告、92年6月に

IWCを正式脱退した。

2001年1月にノルウェーが鯨製品の輸出自

主規制解禁を発表して以来、アイスランドで

も商業捕鯨再開と輸出解禁を求める動きが活

発化している。マチーセン漁業大臣も具体的

時期については明確にしないものの、商業捕

鯨は避けられない状況にあるとも語ってお

り、オッドソン首相も同様の認識である。世

論調査でもアイスランド国民の約80%が商業

捕鯨再開に賛成している。アイスランド議会

表16 主要魚種別漁獲量・額�

出所:アイスランド統計局“Iceland in Figures 2000-2001”�

漁獲額(単位:億クローナ)�

合計�

構成比(%)�

 深海魚:�

  タラ�

 フラットフィッシュ�

 ニシン・シシャモ�

 シュリンプ�

 その他�

75.1�

42.5�

9.2�

7.4�

6.6�

1.7�

56.3�

26.5�

13.3�

10.0�

19.3�

1.1�

73.4�

44.1�

6.7�

7.9�

9.4�

2.6�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

n.a�

1990年�

474 537 604 n.a n.a

漁獲量(単位:千トン)�

深海魚:�

 タラ�

 赤魚(メヌケ類)�

ニシン�

シシャモ�

フラットフィッシュ�

シュリンプ�

合計(その他含む)�

620�

334�

95�

90�

694�

54�

30�

1,502�

1995年�

458�

203�

119�

284�

712�

53�

83�

1,607�

1999年�

483�

261�

110�

298�

704�

30�

43�

1,733�

2000年(推定)�2001年(予測)

500�

260�

105�

266�

950�

n.a�

33�

1,954�

475�

236�

103�

227�

790�

n.a�

31�

1,637�

1990年� 1995年� 1999年� 2000年(推定)�2001年(予測)

塩漬け・乾燥魚�

生鮮魚�

冷凍魚�

冷凍フィレ�

冷凍エビ�

フィッシュミール�

魚油�

その他�

水産物合計�

204�

102�

91�

313�

113�

85�

24�

44�

977�

表17 水産物の輸出�(単位:億クローナ, %)�

(注)金額は実勢為替レート、前年比増減は固定為替レートによる。�出所:中央統計局(速報値)�

1999年�

203�

109�

95�

273�

100�

93�

19�

53�

945�

2000年�

0.5�

8.2�

4.8�

△12.1�

△11.2�

9.6�

△22.2�

20.5�

△2.6�

増減(%)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.792

6

では99年に既に商業捕鯨再開の賛成決議を行

っている。しかし、再開に伴い予想される米

国など先進諸国の反発、すなわちアイスラン

ド製品に対するボイコット運動や観光客の旅

行回避などを恐れる意見も無視できず、具体

的な時期は明示していないが、今後の対応に

ついて真剣に議論を継続してきている。

ただ、アイスランドが商業捕鯨を再開する

に当たってまず解決しなければならない問題

は、93年に脱退したIWCへの再加盟申請の問

題である。IWCに加盟していなければ鯨製品

の輸出が現実的に難しい状況にあるため、商

業捕鯨と輸出再開の前提条件としてIWCへの

再加盟が大きな課題として残されている。オ

ッドソン首相は再加盟申請に向けて準備を進

めているとも語っているが、その目的達成ま

でにはまだ時間がかかりそうである。

(3)産業政策

① 漁獲割当て制度による水産資源の保護

アイスランド政府は外貨獲得の重要な担い

手である水産業における水産資源管理政策の

強化で、今後における水産資源の増強に期待

するなど、水産業を依然として重視する姿勢

に変わりない。

水産資源の多くは、資源保護と資源の経済

的・効率的利用の観点から、「1990年漁業管

理法」に基づき導入された譲渡可能個別漁獲

割当て制度(ITQ:Individual Transferable

Quotas)により、漁獲割当量が毎年定めら

れている。このITQ制度はアイスランドが世

界で初めて採用したシステムである。毎年の

漁獲割当量はTAC(Total Allowable Catch)

と呼ばれ、海洋資源調査研究所(Marine

Research Institute(MRI))の科学的調査結

果等に基づき漁業省により決定されている。

近年は割当量も減少ないし前年並みといった

傾向にある。特にタラはアイスランドにとっ

て最も重要な魚種であるが、過去における乱

獲で資源が減少してきているとの調査結果か

ら、厳しい漁獲割当てが例年行われている。

漁獲割当て制度の対象になっている水産資源

は次のとおり。

漁獲割当て対象:タラ、ハドック、セイス、

赤魚(メヌケ類)、グリーンランド・

ハリバット、プレイス(カレイ類)、

ノルウェー・ロブスター、シュリンプ

(エビ)、ホタテ、ニシン、シシャモ、

ウルフフィッシュ、ウイッチ(witch)

アイスランドにとってはまた、漁業水域の

保全も最も重要な問題で、この点がEU非加

盟の大きな要因のひとつとなっている。EU

加盟は、12カイリの外側の漁業資源はEUの

管理下に入るとする共通漁業政策の受入れを

意味することから、アイスランド政府はこれ

に関するローマ条約の条項の適用除外が認め

られない状況下ではEU加盟申請はありえな

いというスタンスである。

② 産業多様化の取り組み

アイスランド政府は、経済発展のために産

業、特に輸出産業の多様化を図る必要性も認

識している。最近ではエネルギー集約型産業

の発展に期待をかけており、この分野では外

国資本との共同で発展を図る方針である。こ

の背景としては、アイスランドは水力発電を

中心とした電力が豊富、かつ他の欧米諸国と

比較しても割安に供給可能なこと、火山国で

あることから温水や蒸気などの地熱エネルギ

ーのコストも割安で利用度が普及しているこ

となどが挙げられる。先に紹介したアイスラ

ンド東部のレイダルフョルドゥールにおける

国営電力公社とノルウェーのノルシュク・ヒ

ドロ社などが進めるアルミ製錬および発電所

建設プロジェクトもその一環である。

このほか政府が今後のさらなる発展に期待

をかけている分野は、後述のITやバイオテ

クノロジーといった知識集約型の産業である。

なお、アイスランド政府は産業支援に関し、

投資に対する直接的な補助金交付といった政

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 93

策はとっておらず、低い法人税、競争力ある

労働力、低価格の電力、競争力ある土地代な

ど、整備されたビジネス環境の提供といった

かたちでの対応が中心である。しかしながら、

99年からアイスランドにおける映画、テレビ

番組制作事業に対して、特別奨励措置が実施

されている。この措置はアイスランドでの登

録企業が、8,000万クローナ(115万米ドル)

以上の予算規模での制作プロジェクトを持っ

ている場合、一定の条件を満たせばコストに

対して割り戻しが認められるもの。1999年~

2002年の期間は12%、2003~2005年までは

9%という割り戻し率になっている。さらに、

政府は研究開発活動が経済活性化につながっ

ているとの認識から、この分野にも力を注い

でおり、95年から99年までの期間で実質38%

の予算支出増を図った。ケースバイケースで

はあるが、政府のニュービジネス・ベンチャ

ー・ファンド(N B V F )や科学基金

(Science Fund)などの機関により、特別プ

ロジェクトに対し補助金が交付されており、

またEUの研究開発基金にもアクセスしてい

る。前記のNBVFではファッション・デザイ

ン産業にも支援を行い、実際に企業数もこの

分野で増えている。

③ 民営化政策

政府の民営化政策もスピードは遅いもの

の、政府関係者間で真剣な議論が進められて

いる。政府の民営化タイムテーブルといった

ものはないが、現在、民営化の対象リストに

上がっている部門は、情報通信分野のアイス

ランド・テレコム(Iceland Telecom)、銀行、

アイスランド・プライム・コントラクター

(Iceland Prime Contractor)である。

アイスランドでの民営化は近年では銀行業

界が中心的存在であった。アイスランドの

EEA加盟以来、広範囲にわたる金融市場の

自由化により、銀行業界のリストラが進めら

れてきた。98年初めには国有商業銀行2行、

ランズバンキ・イスランズ(Landsbanki

Islands)とブナダルバンキ・イスランズ

(Bunadarbanki Islands)が株式会社化され

た。また同時に4部門の投資基金が合併し、

イスランデイック・インベストメント・バン

ク(Icelandic Investment Bank(FBA))と

ニュー・ビジネス・ベンチャー・ファンド

(New Business Venture Fund(NBVF))が

設立された。ランズバンキ、ブナダルバンキ、

FBAは98年に株式市場に上場され、一般投

資家にも株式公開された。

FBAは98年、99年と2段階にわたり民営

化が行われ、一般および機関投資家から広く

出資が得られ、民営化の成功例となったが、

2000年6月に商業銀行のイスランズバンキ

(Islandsbanki)と合併、イスランズバンキ

FBA(IslandsbankiFBA)が誕生した。

98年の新規株式公開(IPO)後、99年に政

府は株式売却を継続したが、ランズバンキや

ブナダルバンキ両行の3分の2以上(約70%)

の株式を依然として保有している。政府はさ

らにこれら銀行の保有株の放出を継続する考

えであるが、2001年に入りナショナルバン

ク・オブ・アイスランド(National Bank of

Iceland)とアグリカルチュラルバンク・オ

ブ・アイスランド(Agricultural Bank of

Iceland)の政府持ち株の売却法案が新たに

議会に提出されている。また、ランズバンキ

とブナダルバンキの合併交渉も一方では進め

られており、2001年中に両行の合併が実現す

る可能性が高くなっている。

電信電話公社のアイスランド・テレコム

(Iceland Telecom)の民営化も現在議論が進

められている。テレコムの民営化は、91年に

政府の民営化政策がスタートして以来、最大

規模の売却例になる。投資アナリストの推測

では、売却総額は400億~600億クローナにの

ぼるものとみている。政府案では2001年中に

政府持ち株の49%を3段階に分けて売却する

法案を上程する計画のようである。売却の第

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JETRO ユーロトレンド 2001.794

6

1段階は従業員および一般投資家に15%を売

却、第2段階として10%を中堅規模の機関投

資家に売却、第3段階として25%程度を中核

となる大手機関投資家に売却するというもの

である。

国有企業の民営化については、首都と地方

の人口格差やサービス格差が大きいアイスラ

ンドでは、民営化後の利益第一という企業の

考え方から、人口の多い首都地域にサービス

が集中するのではないかとの懸念も多く、反

対の声も大きいため、議会でも時間をかけて

議論を続けざるを得ない状況にある。

(4)今後期待される産業

① IT産業

アイスランドはインターネットや携帯電話

の普及率が非常に高く、全人口の75%以上が

インターネットへアクセスできる環境にある

という。これは通信機器の関税を引き下げる

など政府がとってきた奨励策も要因の一つで

ある。IT産業部門はアイスランドでも急速

な成長を遂げており、この部門での雇用の新

規創出や輸出の拡大にも貢献している。現在、

アイスランド株式市場に上場されている6社

のハイテク企業のうち5社はIT関連企業で

ある。これらの企業の99年から2000年にかけ

ての収益は大幅に改善しており、2000年の売

上げは前年比25%増の112億7,100万クロー

ナ、利益も同3%増の7億1,800万クローナ

と著しく伸びている。コンピュータ・ソフト

ウエア開発を含むIT産業は、輸出も拡大し

ており、政府もさらなる発展に向けてのビジ

ネス環境整備、例えば法律面での規制の見直

し、IT分野の教育機会の拡大などに取り組

む方針を示している。

② バイオテクノロジー

IT産業とともに最近非常に注目を浴びて

いるのがバイオテクノロジーの分野である。

地理的にみても歴史的にみても、アイスラン

ドではバイキングの子孫として単一民族の遺

伝子が保護され、国民の遺伝子は同質性が高

く、遺伝子分野の研究には恵まれた環境に置

かれている。こうした背景の中で誕生したア

イスランド初のヒトゲノム(人間の全遺伝情

報)研究会社、デコード・ジェネテイックス

社(deCODE genetics)が世界的にも注目さ

れている。同社は96年に設立されたばかりの

企業で、当時のスタッフは10人前後であった

が、現在は400人(うちバイオロジスト150人、

ケミスト60人。外国人30人)に急成長してい

る。2000年7月には米国ナスダック(Nasdaq)

株式市場にアイスランド企業として初めて上

場し、世界的にも注目を集めた企業である。

同社は遺伝子と遺伝的疾患の関係を研究する

分野で世界的にも最前線を走っている。同社

では国民の遺伝子データを集め研究材料に使

用、最先端技術を駆使し、製薬会社やヘルス

ケア施設とタイアップして自らの研究成果を

実用化し、病気の診断、治療、予防のために

より新しい方法を開発することを目指してい

る。政府も将来の画期的医薬品の開発や新分

野での発展に結びつけばとの考えから、同社

の国民の遺伝子データを使う研究プロジェク

トを承認し、1998年12月に成立した「国民健

康データベース法」に基づき、同社に対し12

年間の患者の遺伝子データ使用ライセンス

(データ使用料として年間7,000万クローナを

表18 IT産業部門の輸出推移�(単位:98年価格、100万クローナ)

出所:アイスランド中央銀行�

32�

1990年�

131�

1991年�

183�

1992年�

262�

1993年�

433�

1994年�

698�

1995年�

1,168�

1996年�

1,526�

1997年�

1,746�

1998年�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 95

国に支払う。)を与えている。また同社では、

火山や温泉、高温の地熱などの自然条件、特

殊な細菌の温床となっているとの判断から、

その細菌を製薬産業や環境保全のために使う

研究も進めている。既に98年にはスイスの大

手製薬会社エフ・ホフマン・ラ・ロシュ

(F.Hoffmann-La Roche)とも5年間、2億

ドルで一部データの使用権利を提供するなど

提携関係を築き、新製品開発、市場化への努

力がなされている。

同社のようなバイオテクノロジー産業が発

展すれば、水産業依存の現状からの脱却が図

れるものとして、政府の同社にかける期待は

大きい。

3.対日関係

(1)貿易

アイスランドと日本との90年代の貿易関係

をみると、97年までは日本からの輸入に比し、

アイスランドの主要輸出品である水産物・同

加工品の対日輸出が多く、日本の入超となっ

ていたが、98年から逆転、日本の出超が続い

ている。99年は27億9,500万クローナ、2000

年1~11月は17億クローナの対日赤字となっ

ている。

アイスランドの対外貿易に占める日本のウ

エートは、99年実績では輸出が5.0%、輸入

が5.5%、2000年1~11月でみても輸出が

5.5%、輸入4.9%と、例年5~6%を占め、

貿易額ではEU、米国、EU以外の西欧諸国に

次ぐ重要な地位を占めている。逆に、日本の

貿易総額に占めるアイスランドのウエート

は、輸出で0.06%、輸入で0.05%(99年実績)

を占めるにすぎない。

① 対日輸出の太宗は水産物

アイスランドにとって日本は水産物(魚介

類)の輸出市場として重要な地位を占めてい

る。アイスランドの対日輸出を商品構成でみ

ると、毎年第1位は水産物・同加工品で、対

日総輸出額の97%前後を占める。工業製品は

2.2%、農産物も1.1%(いずれも99年)を占

めるにすぎず、輸出のほとんどが水産物関連

といえる。

アイスランドの水産物・同加工品の輸出総

額に占める対日ウエートは98年が6.4%、99

年は7.2%と例年7%前後を占め、EEA(欧

州経済領域)、米国に次ぐ第3番目の重要な

輸出市場となっている。対日輸出の水産物を

種類別にみると、冷凍レッドフィッシュ(め

ぬけ類)が最大で、99年は数量ベースで

54.3%、金額ベースでも57.7%と過半を占め

る。(日本の通関統計で、めぬけの輸入を国

別にみると、アイスランドからが最大で、99

年は数量で全体の45.3%、金額でも49.7%を

占めている。)めぬけ以外の対日輸出の水産

物を種類別にみると、金額ベースでは冷凍ひ

らめ・かれい17.2%、冷凍エビ7.9%、冷凍し

表19 アイスランドの対日貿易額の推移�(単位:億クローナ、カッコ内構成比%)�

(注)輸出= FOBベース 輸入=CIFベース �出所:アイスランド統計局“Iceland in figures

1996年�

1997年�

1998年�

1999年�

1999年(1-11月)�

2000年(1-11月)�

123.7(9.8)�

86.9(6.6)�

65.4(4.8)�

72.9(5.0)�

73(5.0)�

75(5.5)�

輸出�

54.5(4.0)�

70.3(4.9)�

89.3(5.1)�

100.9(5.5)�

101(5.5)�

92(4.9)�

輸入�

69.2�

16.6�

△23.9�

△28.0�

△28�

△17�

貿易収支�

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JETRO ユーロトレンド 2001.796

6

しゃも卵7.7%、冷凍ししゃも4.1%、冷凍に

しん1.4%と続く。また、ししゃもの対日輸

出はノルウェーに次いで第2位である(日本

の通関統計で、ししゃもの輸入をみると、99

年のアイスランドからの輸入は数量、金額と

も日本のししゃも輸入全体の26%前後を占

め、めぬけ同様重要な輸入先となっている)。

なお、2001年1月にノルウェーが輸出自主規

制を解除した鯨製品については、同じ捕鯨国

としてその動向が注目されているが、マチー

セン漁業大臣はアイスランドはノルウェー並

みに捕鯨と鯨製品の輸出再開をする環境には

未だないとの公式見解を明らかにしている。

同大臣はその理由として、アイスランドは国

際捕鯨委員会(IWC)非加盟国であり、また

輸入国である日本などが要求する条件(合法

的に捕獲された鯨であること、かつDNA登

録システムにより輸出品が合法的捕獲鯨かど

うかの確認ができる情報提供が可能なこと)

の面でアイスランドはまだ不十分な状況にあ

るため、と述べている。

② 食品加工機械の対日輸出が急増

工業製品の対日輸出としては、食品加工機

械の伸びが著しく、99年は前年比2.8倍、

7,710万クローナを記録した。アイスランド

は伝統的に水産物加工面で優れた技術を有

し、その経験を踏まえた多種多様な食品加工

機械を開発、今や重要な輸出産業にまで成長

している。対日輸出の著増もこれを反映した

ものと考えられる。その他、電子計測機器も

99年は前年比9.3倍の2,130万クローナ、医薬

品・医療用品が6.6%増の2,090万クローナと、

これら3分野で工業製品対日輸出の74.1%を

占める。

なお、日系大手商社が一部資本出資

(8.5%)しているフェロシリコン製造メーカ

ーのアイスランデイック・アロイ社

(Icelandic Alloys Ltd.)のフェロシリコンも

同年3.7トン、2,130万クローナと前年実績を

大きく上回る対日輸出を記録した。

③ 日本からの輸入は年々拡大

日本からの輸入は自動車を中心とした機

械・輸送機器が最大部門で、99年は前年比

14.0%増の約90億クローナを記録した。中で

も自動車は対日輸入の7割弱を占め、毎年2

ケタの伸び(99年27.6%増)を示している。

これに次いで発電機、通信機器、コンピュー

タ等事務機などの輸入が中心である。

表20 主要商品別対日貿易�(単位:100万クローナ、カッコ内構成比%)�

出所:アイスランド統計局“Icelandic External Trade 1999 ” �

水産物�

農産物�

工業製品�

合計(その他を含む)�

1998年�輸出� 1999年�

機械・輸送機器�

工業製品(機械・輸送器除く)�

化学製品�

雑品�

合計(その他を含む)�

1998年�輸入� 1999年�

6,343 (96.9)�

102 (1.6)�

85 (1.3)�

6,545 (100.0)�

7,039 (96.5)�

75 (1.1)�

161 (2.2)�

7,297 (100.0)�

7,895 (88.4)�

295 (3.3)�

123 (1.4)�

596 (6.7)�

8,933 (100.0)�

8,998 (89.2)�

261 (2.6)�

86 (0.9)�

726 (7.2)�

10,092 (100.0)�

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④ 大使館の相互開設で期待される貿易拡大

アイスランドと日本との経済関係は、これ

まで良好に推移してきている。97年までアイ

スランドの対日貿易出超が続いていたことも

あり、98年以降日本の出超が拡大している中

でも経済摩擦といった問題はこれまで生じて

いない。

こうした良好な両国関係を維持、拡大し、

さらなる交流を深めていく目的で、両国の大

使館が2001年それぞれの首都に開設される運

びとなった。日本大使館は既に2月5日にレ

イキャビック市内のラジソンSASサガ・ホテ

ル内に仮事務所(大使館の移転先が2001年中

に正式決定次第、移転予定)を開設し業務を

開始している。一方、東京のアイスランド大

使館の開設は、当初、2001年5月に予定され

ていたが、建設工事の遅れで9月または10月

頃になる見通しである。

アイスランド大使館の開設記念行事とし

て、10月末には東京で「アイスランド週間」

としてアイスランド展や観光・文化行事の開

催が企画され、経済ミッションの派遣も予定

されている。日本におけるアイスランドのイ

メージアップ、経済交流の促進に向けて第1

歩が踏み出されるわけで、観光資源を含めた

両国の一層の経済交流の深化が期待される。

(2)直接投資

日本とアイスランドとの投資交流はこれま

で低調である。アイスランドにおける日系企

業関連の直接投資件数は現時点で3社にすぎ

ない。このうち製造業はフェロシリコンの生

産企業が1社のみで、あとはコンピュータソ

フト開発分野が1社、あわびの養殖業が1社

である。これら3社の概要は次のとおり。

① アイスランデイック・アロイス社

(Icelandic Alloys Ltd.)

住所:Grundartanga 301, Akranes,

Iceland

TEL:+354-432 0200

FAX:+354-432 0101

Homepage:www.alloys.is

設立年:1976年

従業員数:170人(2000年末現在)

業種:フェロシリコン(鉄鋼生産用原料)お

よびマイクロシリカ(セメント生産用原

料)の生産。主力はフェロシリコン。

資本構成:同社の資本構成の変遷は次のと

おり。

1976年 Elkem ASA(ノルウェー)

45%、アイスランド政府(財務

省)55%

1984年 Elkem ASA 30% アイスラン

ド政府55% 住友商事15%

1997年 Elkem ASA 51% アイスラン

ド政府38.5% 住友商事10.5%

1998年 Elkem ASA 51% アイスラン

ド政府12% 住友商事10.5%

一般投資家 26.5%(98年に株

式上場)

2000年 Elkem ASA 55% アイスラン

ド政府12% 住友商事8.5%

一般投資家 24.5%

生産・販売状況:同社のフェロシリコンの

生産能力は現在11万4,000トン。3基

の溶鉱炉を稼動し、1日3シフト体制

で生産。製品のほとんどが輸出向け。

輸出市場は、米国、カナダ、日本を中

心とするアジア、欧州が中心。フェロ

シリコンの国際市況が、98、99年と悪

化しており、95、96年頃にはトン当た

り1,100ドル前後の水準であったもの

が99年には600ドルまで下落しており、

経営環境は厳しくなってきているよう

だ。特に中国が低価格で東欧向けにも

輸出を拡大しており、その影響を受け

て価格競争が激しくなっているとのこ

と。同社ではアイスランドは米国と欧

州の中間に位置しているという立地上

JETRO ユーロトレンド 2001.7 97

Page 98: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

のメリットに加えて、エネルギー・コ

ストの安さを強味としており、設備投

資の増強によるコストダウンを通じ競

争力の改善に努めている。

② オズ・ドットコム社(OZ hf./OZ.Com)

住所:Snorrabraut 54, IS-105 Reykjavik,

Iceland

TEL:+354-535 0000

FAX:+354-535 0055

Homepage:www.oz.com

設立年:1990年にOZ hf.がレイキャビック

に設立されたが、95年に米国カリフォ

ルニア州で株式会社OZ.Comが設立さ

れた結果、OZ hf.は米国OZ.Com本社

のアイスランド子会社という位置づけ

になった。

従業員数:米国サンディエゴ、レイキャビ

ック、ストックホルム、モントリオー

ルの事務所を全て含めると合計180人。

このうちレイキャビックには開発スタ

ッフを中心に90人。

業種:業務用・娯楽用ソフトウエアの開

発、コンサルテーション・サービス、

など

資本構成:連結前のOZ hf.については、2

人のアイスランド人共同設立者が80%

弱のシェア保有。その他小口出資者と

して、日系企業ではエヌ・アイ・エ

フ・ベンチャーズ(株)、住友銀行、

米国パナソニックなどが出資してい

る。OZ.Comにはスウェーデンの最大

手情報通信会社エリクソン(Ericsson)

が97年に参画、20%の株主となった。

業績:同社は95年に米国に進出して以来、

急成長を遂げている。インターネット

の普及もあり、この関連ビジネスが好調

に推移し、2000年9月までの9カ月間

の売り上げをみても前年同期比約60%

増といった好調な業績を上げている。

③ セビリ社(Saebyli hf.)

住所:Vogavik IS-190 Vogar, Iceland

TEL:+354-424 6649

FAX:+354-424 6722

E-mail:[email protected]

設立年:1993年

従業員数:14人(2000年末現在)、日本人

はゼロ。

業種:アワビおよびフラットフィッシュ

(ハリバット)の養殖と輸出。主力は

アワビ。

資本構成:アイスランド資本70%(アイス

ランド政府2%、その他一般投資家

68%)

日本企業(シー・ビー・シー・コーポ

レーション:中外貿易)30%:95年に

資本参加。

販売状況:輸出100%で、日本向けがほと

んど。年により米国向けにも数パーセ

ントの輸出実績もある。商品は生きた

ままの状態で輸出。決済はドル・ベー

ス。アワビの取り引き価格は高めで推

移しており、業績は好調とのこと。

生産状況:養殖場は首都レイキャビックと

空港を結ぶ中間地点にあり、温泉地ブ

ルーラグーンの近くに立地している。

海岸にも隣接しているため、海水の取

り込みも容易であり、地熱温水の活用

も容易な状態にある。養殖はこの地熱

温水を有効に利用しており、しかも厳

しい自然環境から養殖は屋内で行われ

ている。

4.基礎資料・データ

国名   アイスランド共和国(Republic of

Iceland)

位置   北緯63度24分~66度33分、西経13

度30分~24度32分

ノルウェーまで970km、グリーン

ランドまで287km

JETRO ユーロトレンド 2001.798

6

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 99

人口   28万2,845人(2000年12月1日)。

在留邦人は33人(2001年1月)

民族   北方ゲルマン人

首都   レイキャビック(Reykjavik)

人口   10万7,764人(首都周辺16万7,277

人)

面積   10万3,000km2(日本の4分の1強:

北海道と九州を合わせた大きさ。)

国土の20%が牧草地、12%が氷河、

11%が溶岩台地、50%余がその他

不毛の地、耕地はわずか1%

人口密度 km2当たり2.7人

言語   アイスランド語

宗教   キリスト教福音ルーテル教 88.7%

地方自治 町-30 その他地方自治区-94

(1999年12月31日)

政体   立憲共和国。行政権は大統領と政

府に、立法権は大統領と国会、司

法権は裁判所に属する。憲法上の

大統領の行政権、立法権は名目的

なもの。

・大統領:オラフール・ラグナール・

グリムソン(任期 4年)

・首 相:デビッド・オッドソン(独

立党)(1948年1月生まれ53才)

・国 会:一院制。国民の直接選挙に

よる63名の議員で構成。任期は

4年。

・政 党:議会史上、どの政党も単独

で過半数を握ったことはなく、

内閣は各政党の連立により構

成。現在の与党は94年に形成さ

れた独立党と進歩党という中道

右派の連立政権。

99年5月総選挙結果:

独立党 26(40.7%)

同盟 17(26.8%)

進歩党 12(18.4%)

レフト・グリーン運動

6(9.1%)

自由党 2(4.2%)

その他 -(0.8%)

合計 63(100%)

(注)数字は議席数、カッコ内は得票率。

通貨   クローナ(Krona=ISK)

1ユーロ=79.9クローナ

1ドル=85.0クローナ

1クローナ=1.37円(2001年1月)

GDP(国内総生産)

1999年:6,246億クローナ(86億ドル)

2000年:6,787億クローナ(85億ドル)

1人当たりGDP 3万1,118ドル(1999年)

外貨準備高 342億クローナ(2000年12月末)

外国人旅行者 23万2,219人(1998年):

北欧諸国29.7%、北米18.8%、

ドイツ13.8%

(河原 寛)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7100

エストニアは98年3月から欧州委員会と加

盟交渉を開始し、加盟目標時期を2003年1月

1日と設定したが、加盟交渉は99年夏までに

一段落し、現在は残りのEU加盟基準項目に

ついて主に交渉というより文書審査が行われ

ている段階である。同審査に並行してエスト

ニアがこれまでEUから指摘された問題点を

克服しているかを確かめる作業も同時に行わ

れている。ジェトロ・ヘルシンキでは現地の

政府、外資系企業にインタビューし今後の展

開を探ってみた。

1.EU加盟交渉の進捗状況

(1)外務省の反応

加盟交渉はこれまでのところ計画通り円滑

に行われていると外務省では見ている。加盟

交渉31項目のうち29項目にわたって既に政府

の立場を提出済である(表1~3参照)。

エストニアは、関係の良好なスウェーデン

が議長国である2001年上半期中に最優先項目

である環境、サービスの自由な移動、運輸政

策などの項目について交渉を終えられる目途

EU加盟準備状況と予想されるビジネス環境の変化

(エストニア・ハンガリー・スロベニア・チェコ・ポーランド)

欧州委員会は2000年11月、「EU加盟候補国の加盟準備進捗状況についての報告書」、

いわゆるプログレスレポートを公表しているが、これに対する各国の反応は様々である。

エストニア、ハンガリー、ポーランドなど準備が進んでいると評価された国は好意的に受

け止めているが、チェコは近隣のハンガリー、ポーランドに遅れを取ったとして予想外に

厳しい評価と受けとめている。2000年12月の仏ニースでのEU首脳会議にて、EU拡大

についての具体的なゴールが朧げながら提示されたが、2001年6月のスウェーデン・ヨー

テボリの首脳会議では早期加盟国は2002年までに加盟交渉を終了できるとし、新規加盟が

一層現実味を帯びてきた。EU加盟準備の進捗に伴い、貿易・投資制度などビジネス環境

の変化が予想される。中・東欧諸国で活動する、もしくは同地域企業と取り引きする企業

は注意が必要である。

本レポートでは、98年3月からEU加盟交渉を開始し、加盟候補国の中でも比較的準備

が進んでいるとされるエストニア、ハンガリー、スロベニア、チェコ、ポーランドを取り

あげ、現地側からみた加盟交渉の進捗とビジネスへの影響について報告する。

7

順調に進むEU加盟交渉(エストニア)ヘルシンキ事務所

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 101

をつけたいとしている。そして、2001年末ま

でにほとんどの項目で交渉を終えることを念

願している。

EUのプログレス・レポートについて、エ

ストニアは「EU加盟準備に対するEUのアド

バイスを高く評価する」としている。ただし、

目標の2003年1月加盟が危ぶまれているとの

外部観測については、「加盟交渉の速度はエ

ストニアの準備如何だけではなく、EUと他

の加盟候補国との加盟交渉の進捗状況も影響

する」と、目標年に達成できないことも視野

に入れていることをほのめかしている。

(2)経済省の反応

経済省によれば、エストニアの財政政策は

引き締め気味に推移しており、金融政策も変

更がない。投資環境の改善としては、2000年

1月施行の「法人所得税撤廃」(注)がある。

企業は配当や親会社への所得移転以外は課税

されない。また利益の再投資についても課税

されない。

ソ連の崩壊後、より質の高い労働力が求め

られるようになった結果、賃金レベルが上が

り、それが消費者物価へと跳ね返るという悪

循環が起きたが、98年以降は賃金上昇も緩和

して物価にも落ち着きが出ている。

投資環境改善の一環としてエストニアが現

在力を入れている分野は労働力の質の向上で

あり、教育制度の改革や職業訓練所でスペシ

ャリストを育成するなど、人材育成が重要課

題と説明している。特にエンジニアリング部

門の技術者育成が急務であり、経済効率を高

めるためにこの政策はプライオリティーが高

い。エストニアではニュービジネス創出や経

営に関するあらゆる経験や資源がまだ十分で

なく、これらが大きな課題である。

また、同国では91年の独立以降、極めてオ

ープンな自由市場経済を確立している。関税

も他の近隣諸国と比較して既に低いレベルに

ある。その経済的成功の基礎となったのは政

府予算の収支均衡化、ドイツマルクに固定し

た通貨の安定化、自由貿易投資制度などであ

ると考えられる。銀行制度も近代的で効率的

であり、外国投資家は自国に利益・資本の送

金が無制限に行える。エストニアの政治的安

定、経済のパフォーマンス、リベラルな政策

は主要な投資機関から高い評価を得ており、

その評価は他の中・東欧諸国より高い。ウォ

ール・ストリート・ジャーナル紙の経済自由

度ランキングで、エストニアはデンマーク、

フィンランド、ドイツやスウェーデンをも凌

ぐ、最も自由な企業経済を有する国と位置づ

けている。エストニアのGDPの3分の2が

民間部門で占められていることはその裏付け

といえる。

エストニアへの投資を振興する投資局

(Estonian Investment Agency)が投資を考

えている外国企業の相談に応じている。また

研究開発関連企業には財政的支援も行う上、

EU関連支援基金への橋渡しも行う。

エネルギー、鉄道、公共部門は現在民営化

が行われている最中である。エストニアは

GDPに占める負債率が5%と低率なため外

国からの国際融資も受けられる状態にあると

いえるが、国際収支との関係を常に考慮して

いる。一方で農業部門の改善は遅れていると

いえる。

(注)2000年1月1日施行の税法改定(法人所得税撤廃)のポイント①利益への課税から経費への課税に切り替わったため、利益の有無に関わらず、納税義務が生じる。②課税期間は1年毎から1カ月毎となり、翌月の10日までに前月の課税申告及び納税を行う。③納税は現金払いによる。④法人所得税に代わるフリンジ・ベネフィット所得税は、従業員への給与外特典に対して課され、別途社会税が二重課税される。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7102

7

2.外資誘致に不十分な投資インセンティブ

エストニアは他の加盟候補国と異なり、も

ともと自由化が非常に進んでおり、外資誘致

につながる特段の投資インセンティブはほと

んど見当たらない。2000年1月から施行され

た法人所得税の撤廃についても内外無差別で

あって、外国資本のみを対象とするわけでは

ない。

特殊なインセンティブとしては「民営化関

連の取引に係る国税(手数料を含む)免除」

とか、「特定地域へ投資する企業に対する設

備の更新・購入経費の税控除」などの制度が

ある程度である。さらに「インフラ未整備地

域への投資に対する交付金支給」などの制度

もあるが、これはまだ適用されていない。

直接的な投資のインセンティブではない

が、政府は投資誘致活動を充実させる目的で

2001年1月からこれまでの投資貿易開発基金

(EIKAS)を改組しエンタープライズ・エス

トニア(Enterprise Estonia)と改名した。

EIKASは投資誘致を行う投資局と輸出振興

を行う輸出局の2局で構成されていたが、こ

れに技術局、地域開発局、観光局を合体させ、

5局でシナジー効果を目指そうという意図で

ある。これにより投資と地域開発などが同じ

組織で扱えるようになり投資促進活動がスム

ーズになることが期待されている。

3.進出企業の認識と対応

(1)コカコーラ・バルト社:砂糖価格の上

昇を懸念

コカコーラ・バルト社(Coca-Cola Balti

Jookide AS)は地元ソフトドリンク・メー

カーを92年に買収して設立された。ソ連崩壊

後できるだけ早く進出したいという本社の意

向を受けてのものだったが、グリーンフィー

ルド型投資(新規投資)と比べて、ソ連式の

生産設備を有する被買収企業の近代化は並大

抵ではなかったという。93年末に100%子会

社化し、生産設備に1,000万ドルの投資を行

い生産効率を向上させることに傾注、現在は

操業開始時より工場労働者数は減って約200

人を雇用している。エストニアでの同社のマ

ーケット・シェアは48%。エストニア人の1

人当たりの年間コーラ消費は70~80本で、最

近のファーストフード店舗の増加に比例して

消費は右肩上がりを続けている。

バルト3国を販売圏とするコカコーラ・バ

ルト社のコーラ生産の80%はエストニアのタ

リンで行われており、残りはリトアニアで生

産されている。インタビューに応じた財務担

当重役によると、エストニアのビジネス文化

はバルト3国の中でもっとも西側に近く、ビ

ジネスのやり易さが違うという。バルト3国

の中ではエストニアが新しい考えやビジネス

慣行に一番柔軟であると述べている。

工場での平均月額賃金は約300ドル。98年

の経済危機までは賃金上昇が比較的激しかっ

たがその後は落ち着きを見せている。賃金レ

ベルは、意外にも同社のラトビアにある関連

会社の水準よりも低いという。

「法人所得税の撤廃」は「現実より聞こえ

がいい」という。これにはいろんな要素が絡

まっているからだが、その一つは「税法」が

より複雑になったことが挙げられる。このた

めに同社では専門の経理スタッフを1人雇用

したほどである。同財務担当重役によれば、

エストニアは法人税を撤廃したが、その代わ

りに幾つかの「税金に似た」手数料、例えば

「動物性食品輸入検査料」などが増えたと述

べている。企業は利益とは関係なくこれらの

手数料を払わなければいけない。また使用済

み容器リサイクル新法などは、使用済みプラ

スチック容器の回収システムが確立していな

いため、大きな負担になっているという。

道路など一般的なインフラ整備は今のとこ

ろ劇的な改善はないが、通信インフラだけは

大きく改善されたという。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 103

EU加盟の影響についてはソフトドリンク

業界全般に深刻なものがある。それはEUの

糖価支持制度による価格上昇である。現在世

界の砂糖市場価格は1トン当たり200~220ド

ルであるが、EU価格では700ドルに跳ね上が

り、この原材料価格の上昇はすぐさま消費者

価格へと跳ね返ると予測される。

(2)トララム・バルト社:安価なエネルギー・

コストと賃金が魅力

トララム・バルト社(Tolaram Ltd.)はシ

ンガポール資本で、エストニアにバルテック

ス2000社(Baltex 2000)、クオリテックス社

(Qualitex)、ホライゾン・パルプ・アンド・

ペーパー社(Horizon Pulp & Paper)、リトア

ニアにアリタウス・テクスタイル社(Alytaus

Textile)を持つ。

そのトララム・バルト本社の中核となるバ

ルテックス2000社は100%綿織物の生産から

スタート、現在は月産500トンの撚糸および

月産330万平方メートルの繊維製品を生産し

ている大手である。過去4年間に積極的な設

備投資を行い、生産の拡張を行っている。

ISO9002も取得済みである。

バルテックス2000社をはじめとするエスト

ニアの繊維製品は、自由貿易協定を締結して

いるEU諸国に非課税で輸出でき、主要国か

らは1週間以内で納品できる近さにある。撚

糸、繊維の主要市場はイタリア、ポルトガル、

スペイン、英国、フランス、ドイツ、スカン

ジナビア諸国などである。現在、同社の製品

はすべてEU諸国などに輸出されている。

クオリテックス社はラトビア国境に近いシ

ンディ市に所在する、超近代的な設備を誇る

繊維会社である。96年に地元企業を買収し、

ジャージーやフリースなど各種の繊維製品を

生産している。

ホライゾン・パルプ・アンド・ペーパー社

の前身は旧ケフラ・パペル社(Kehra Paper)

で38年に操業開始、当時は年産4万トンの無

漂白天然クラフト紙を生産できる能力を有し

ていた。ケフラ・パペル社は旧ソ連時代は農

業用の紙袋の大手メーカーであったが、ソ連

の崩壊とともに生産はストップしていた。95

年にトララム社が買収し、従業員568人で再

スタート、クラフト紙年産5万トン、農業用

紙袋同2,000万袋、ティッシュ同5,000トンの

生産能力を持つまでになった。

トララム社は不動産部門も抱えており、そ

の一例がトララム・センターというタリンに

あるオフィス・工場ビルである。リース面積

20,000㎡の内訳は、事務所6,500㎡、工場

13,800㎡で、フィンランド企業やエストニア

の銀行などもテナントとして利用している。

インタビューで同社の社長は「旧ソ連企業

を買収した頃は操業が非効率的で困難が多か

った」と当時を語り、近代化に多大な努力と

投資が必要だったと振り返る。当時はエスト

ニア政府も投資を支援する制度を有せず、長

期の融資制度もないためフィンランドの金融

機関を利用した。現在では空港、港湾、鉄道

などのインフラは大幅に改善し、エネルギー

価格は他のバルト諸国より安いという。また

土地の購入手続き、事業許可の取得手続きな

どが他のバルト諸国より簡便で、賃金レベル

も月額300ドルと、ラトビアに比べても競争

力があるとしている。

EU加盟によって同社の投資方針に変更が

出るかとの問いに対しては、「エストニアは

エネルギーコストが安い、自由な環境で操業

ができ、賃金も他のバルト諸国と比べて遜色

ない」とエストニアでの経営に自信を示して

いる。

(3)トヨタ・バルティック社:ラトビアへ

の自動車買い出しを予測

トヨタ・バルティック社(Toyota Baltic

AS)は、トヨタ・フィンランド(60%)と

住友商事(40%)の合弁で97年に設立、バル

ト3国のローカル・ディーラー(エストニア

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JETRO ユーロトレンド 2001.7104

7

4店、ラトビア2店、リトアニア2店)への

卸売りを主業務としている。同社設立前はト

ヨタ・フィンランドがトヨタ・エストニア

(94年設立)に供給、同社を経由して住友商

事がラトビアとリトアニアでトヨタ車を販売

していた。

トヨタ車の新車市場の占有率はエストニア

で9%(第2位)、ラトビアで6%(第4位)、

リトアニアで4%(第8位)となっており、

バルト3国全体では8%(エストニアが全新

車登録台数の50%を占める)となっている。

バルト諸国では中古車市場も大きな存在で、

全自動車市場の約半分を占めるが、これは自

動車がまだまだ平均的国民には手の届かない

存在であることによる。

エストニア人にとって自動車はまだまだ

「高嶺の花」であるにもかかわらず、「4.5人

に1台」というそこそこの普及率を示してい

るのは、購入者のほとんどが「社有車として

購入・登録、個人に貸与」という方法をとる

ためである。「贅沢品」ではあるもののエス

トニアの自動車輸入関税が「0%」であるこ

とが普及率に貢献している。

同社の従業員は出資会社からの出向を除い

て8人、24才から30才代前半と若い。月収は

タリン市平均が400ドル台のところ600ドルと

やや高めである。99年に前年のロシア危機の

あおりを受けて赤字計上したため2000年の賃

上げはできなかったが、2001年は前年の業績

を反映して5%の賃上げで決着したという。

ちなみに市内電車の料金はこの半年で2.5倍

に上昇している。

道路事情などインフラ整備については敏感

な業種であるが、エストニアの道路事情はラ

トビア、リトアニアより「劣る」と指摘する。

これは旧ソ連時代の政策が影響しているらし

い。それでもラトビアへ向かう道路などは1

年前に比べると改善が見られるという。一方、

鉄道は「100km走るのに3時間かかる」とい

う具合で、いたって評判が悪く、民営化も進

んでいないといわれる。

ガソリンは1リットル当たり約10クローン

(1クローン=約7円)で他のバルト諸国よ

り安く、インタビューを行った3月22日現在、

ディーゼルより安いという。

他方、タリン港は整備が進んでいるという。

EU加盟後の同社への影響についてはまだ

定かなことはわからないとしながらも、エス

トニアが第1陣で加盟、ラトビアやリトアニ

アが未加盟という事態になれば、自動車への

関税が他のEU諸国同様に課税されることにな

るので、ラトビアに自動車を買いに行く消費

者が増えるのではと見ている。ラトビアから

エストニアへの輸入には自由貿易協定により

課税されないと見込まれているからである。

2000年1月からの法人税撤廃については、

「毎月の申告に切り替わったためかえって手

間が増えた」と、他のインタビュー企業同様、

同社でも評価していない。課税の仕組みがこ

れまでの決算後の利益を対象としたものでは

なく、それ以前の経費の段階で税金が課せら

れることになったため、利益が出る出ないに

かかわらず、税金の支払が生じている点は赤

字企業には問題である。特に企業から個人へ

の自動車貸与、社宅、飛行機でのビジネスク

ラス利用などはそれまで見過ごされてきた

が、2000年から「フリンジ・ベネフィット」

として厳しく査定され、税金を徴収されると

いう。

この「法人税撤廃」はもともと外資を誘致

し、内部留保や再投資を行う企業を増やす狙

いがあったが、国内企業からは以前の方式に

戻すよう要求が上がっており、今後の政府の

対応が注目されるとトヨタ・バルティック社

は述べている。

エストニア経済の景況は「上向きになりつ

つある」とみており、特に自動車購入ローン

などの金利が以前の12~13%から10%へ低下

したことが効いているとしている。

(長田 榮一)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 105

(参考)

年�

1998年下期�

1999年上期�

1999年下期�

2000年上期�

合  計�

オーストリア�

ドイツ�

フィンランド�

ポルトガル�

7�

8�

8�

6�

29

EU議長国� 開始された交渉項目�

表1 過去2年間の交渉開始状況�

エストニアのEU加盟交渉の経緯

番 号�

16�

17�

18�

12�

15�

19�

23�

11�

8�

26�

27�

5�

4�

13�

20�

1

中小企業�

科学・研究�

教育・訓練�

統計�

産業�

通信・情報技術�

消費者保護�

経済通貨同盟(EMU)�

漁業�

対外関係�

共通外交・安全保障政策(CFSP)�

会社法�

資本の自由移動�

社会政策・雇用�

文化・オーディオビジュアル政策�

商品の自由移動�

1998年11月10日終了�

1998年11月10日終了�

1998年11月10日終了�

1999年6月22日終了�

1999年6月22日終了�

1999年6月22日終了�

1999年6月22日終了�

1999年12月7日終了�

2000年4月6日終了�

2000年4月6日終了�

2000年4月6日終了�

2000年4月6日終了�

2000年5月26日終了�

2000年10月5日終了�

2000年11月14日終了�

2000年12月4日終了�

項 目� 現 状�

表2 加盟交渉の進捗状況(終了分)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7106

7

番号�

25��6��9��10��14��3��22��28��21��24��2���29���7��30�31

関税同盟��競争政策��運輸政策��税制��エネルギー��サービスの自由移動��環境��財務管理��地域政策��司法・内務��人の自由移動���財政・予算規定���農業��諸制度�その他�

1999年5月19日開始��1999年5月19日開始��1999年11月12日開始��1999年11月12日開始��1999年11月12日開始��1999年11月12日開始��1999年12月7日開始��2000年4月6日開始��2000年4月6日開始��2000年5月26日開始��2000年5月26日開始���2000年5月26日開始���2000年6月14日開始��未開始�未開始�

項 目� 現 状� 交渉のポイント�

表3 加盟交渉の進捗状況(継続分及び未開始分)�

関税コードや実施規則を定めるなどハーモナイゼーションを加速する必要あり。�競争法の合併規制を修正する必要あり。その他施行令を定める必要あり。�重車両税を2005年まで移行期間として認めて欲しい旨要請。�風水力発電へのVAT非課税の廃止、たばこ・燃料の物品税の調和化に移行期間を要請。�90日間の石油備蓄は設備が高く付くことからエストニアには問題。�最低2万ユーロの保証金制度に関し2010年までの移行期間を要請中。�オイルシェール産業について2013年までの移行期間を要請。�健全な財務管理を保障するためEUとの協力が重要。�エストニアは全領土をEUの地域政策対象地域に含めるよう要請。�EUは国境管理、行政能力、裁判制度、データ保護などを重視。�旧ソ連の教育機関で発行された卒業証明書を認めるよう要望。EUは微妙な案件につき後日交渉を提案。�EU予算への財政貢献は徐々に行いたいというエストニア側の要請を認めるのは時機尚早とEUは判断。�農家への直接支払などに関し、CAP実施に向け法整備と行政能力を示す必要がある。�

EUの評価に一応の満足(ハンガリー)ブダペスト事務所

欧州委員会によるEU加盟候補各国の準備

状況に関する報告書について、ハンガリー政

府は、同国を交渉の進んでいる国の1つとす

る評価に一応の満足を示している。今後は、

人の自由移動、資本の自由移動、人種問題な

どの課題への対応が注目される。

1.国内の動き

(1)プログレスレポート(加盟候補各国の加盟

準備進捗状況についての報告書)を評価

マルトニ外相は11月8日、欧州委員会が発

表したハンガリーに関するプログレスレポー

トについて、「結果に大変満足している。現

在、ハンガリーは新規加盟候補の最も有力な国

の1つであり、順調に行けばEU加盟第1陣

に入るだろう。」と結果を評価する発言をした。

また、政府は大統領、首相、外相名で声明

を発表し、「当国は、加盟レースのゴールに

最も近いところにいる。2001年以内に交渉を

終えることも有りうる」とこれまでの強気の

姿勢に変わりのないことを明らかにしてい

る。しかし、オルバーン首相は、プログレス

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レポートを「教師と内気な生徒」の間で交わ

される「通信簿」(Report Card)―と揶揄す

るなど、立場の弱さに不快感を表す一面も見

られる。

加盟交渉の難航が予想される主な分野は、

農業、環境、人の自由移動、資本の自由移動

(農地の外国人への開放など)だが、特に農

業については補助金や生産量などが、環境で

は資金不足による基準達成の遅れなどが課題

になるものと見られる。

また、人の自由移動では、第1次世界大戦

後、敗戦国となった同国は、国土が削減され、

現在周辺諸国にはハンガリー系住民が多数い

る(スロバキア57万人、ウクライナ16万人、

ルーマニア162万人、ユーゴスラビア34万人、

クロアチア2万人、スロベニア0.9万人、オ

ーストリア33万人-2001年2月14日付ネープ

サバチャーグ紙)。現在同国と周辺諸国との

往来はほぼ自由だが、EU加盟によるビザの

適用などから往来が制限される可能性があ

る。さらに、国内に60万~70万人いるといわ

れる少数民族(ロマ人)について政府は、教

育や仕事の斡旋などにより地元社会への定着

を図っているが、人の自由移動の実現は、少

数民族を含め、同国の経済状態などに満足し

ない人々が、より豊かな国へ移動する可能性

を秘めていることから、中・東欧諸国からこ

のような人の移動が起こった場合、西欧諸国

がどのように対処するか、人権問題も関係す

るだけに難しい判断が必要となろう。

これに関連して、労働力の自由移動につい

ての交渉は、予定では2001年上半期に決着す

るものと見られるが、同年1月、ドイツ・シ

ュレーダー首相が労働力の自由移動の実施を

正式加盟後7年間の移行期間を設けると提案

したことに対して、ハンガリー政府は、欧州

市民に1等や2等の区別を付けることになり

かねないと反発している。政府は、加盟1年

目を審査期間とし、初年度の実績を見て問題

と判断した場合のみ何らかの措置を導入する

対案を示している。

また農地の購入を外国人に認めるかどうか

についても、交渉が進められている。

なお、少数民族の人権問題として、2000年

7月にロマ人52人(ザーモイ出身)が、政府

の彼らへの処遇を不満として、欧州議会のあ

るストラスブール(フランス)に滞在してい

る問題で、仏政府は2001年3月、15人(大人

7人、子供8人)に移住を認めた。52人のう

ち既に16人が行方不明、6人がカナダに移住、

1人がストラスブールで死亡している。仏政

府は、これまで今回の問題はハンガリーの問

題であるとの立場を取ってきた。

① 今後の課題

プログレスレポートは、課題として次の点

を指摘している。a.少数民族(ロマ人)の

偏見・差別への対応の遅れ、b.メディアへ

の政府介入が続いていること(報道の自由の

制限の恐れ)、c.EU環境基準達成の遅滞、

d.労使問題への政府対応の遅れ、e.政治

腐敗(与党である独立小地主党のトルジャン

党首兼農業・地域開発大臣が、公費を私的な

旅行や親族企業への横流した疑いで、大臣を

辞任した事件など)、f.雇用の地域格差や

高成長産業分野での技能労働者不足、g.金

融機関の中小企業支援のあり方に改善の余地

がある、など。このほか、マクロ経済の安定

成長、市場経済化のための基盤強化、インフ

ラ整備の進展、産業構造再編への着手などを

評価するものの、h.インフレ率が10%を境

に改善しないことを指摘、またi.財政基盤

の一層の強化を求め、改革の必要な年金基金

へのてこ入れを求める一方、j.慎重かつ迅

速に対応できる金融政策が経済安定に不可欠

としている。

② 政界での加盟支持表明が活発化

2000年は、ニース首脳会議を前に、政界を

中心に加盟を支持する動きが見られた。「EU

JETRO ユーロトレンド 2001.7 107

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加盟は市民全体の問題」と唱える市民団体パ

ートリア・ソサイエティー(Patria Society、

民主フォーラム、独立小地主党、自由民主党、

社会党の青年層で構成)は、ハンガリーの

EU加盟支持を表明した署名25万人分を、ハ

ンガリーのEU関係当局に提出した。また、

マードル大統領は11月、議会に参加している

全6政党のトップを集め、EU加盟を早期に

実現するとのコンセンサスを確認した。また

同席上、マルトニ外相は、「今後2年間で、

我が国のその後の10年間の行方が決まる」と

述べ、加盟に向けて重要な時期にさしかかっ

ているとの認識を明らかにした。

なお、極右政党の正義・生活党(MIEP)

は、加盟の動きについて、「加盟によって不

利益をこうむる恐れがある場合、自らの力で

それを回避できるのなら加盟は意味がある」

とコメントしている。

(2)ニース首脳会議に対する評価

政府は2002年中に加盟交渉を終え、2003年

に正式に加盟したい考えだが、ニース首脳会

議で「加盟準備を終えた国から順次加盟が認

められる」ことが明らかになり、ハンガリー

にとって朗報となった。首相はEU首脳会議

参加後、「加盟候補各国の個別評価の原則、

および早期加盟の期限が明らかになったこと

は喜ばしい」と述べ、EU首脳会議の結果を

評価した。

しかし、加盟時期がEU側の問題で若干遅

れる可能性があるとの認識は依然持ってお

り、政府は、新規加盟についてEUの機構改

革次第と見ている。

2004年までに加盟した場合、ハンガリーは、

欧州議会にベルギー、ポルトガル、ギリシャ

とほぼ同じレベルの20議席を、また欧州委員

会に12票の採決票を持つことになる。しかし、

同国の議会内には、その人口規模から22議席

が適当との意見があり、今後議論が予想され

る。

なお、ニース首脳会合の結果を踏まえて、

2000年12月17日に首相は、地元ケーブルテレ

ビDUNATVのインタビューに答えて、「2003

年に加盟候補第1陣の1ヵ国としてEUに加

盟し、2004年の欧州議会に参加する」と述べ

た。また「少数民族問題は国家の重荷とはな

っておらず、一般市民に対する以上に誠実に

対応している」と述べ、EUレポートや外国

人権擁護組織からの「少数民族問題への対応

が手ぬるい」との指摘に反論している。また

周辺諸国に居住するハンガリー系住民への対

応について「EU加盟後も、ハンガリー系住

民に対しては、5~10年の滞在ビザを出すな

ど特別な便宜を図りたい」と述べ、ハンガリ

ー・コミュニティーの結束を維持して行きた

い考えを明らかにした。

(3)EU加盟は産業に大きな変化を与えない

(企業調査結果)

ハンガリーには既に欧米や日本の製造・販

売企業が多数進出しており、生産拠点を確立

する一方、中・東欧市場におけるシェアの確

保に向け販売競争を展開している。したがっ

て、加盟を待ってからの進出では市場でのシ

ェアの確保は容易でないというのが一般的な

見方である。

これに関連して、プライスウォーターハウ

ス・クーパーズ社は2000年11月、EU加盟が

企業に与えるインパクトに関する調査で、大

手外国企業は既にEU加盟を見越して進出し

ており、加盟が外国からの投資をさらに促す

ことはないとの分析結果を明らかにした。同

調査は在ハンガリー国際企業40社の管理職に

対するインタビュー形式で行われた。レポー

トのなかで、周辺の労働コストの安い国に比

べ、労働コスト重視型の投資の魅力は失われ

つつあり、今後は、高付加価値、技術重視の

投資が求められること、また、地元企業は

徐々に外資との厳しい競争にさらされてきて

おり、加盟に際しての制度変更などの情報を

JETRO ユーロトレンド 2001.7108

7

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いち早くつかむことが競争力強化のカギと分

析している。

一方、同レポートは、ビジネス界のリスク

回避のために、加盟交渉の経過を公にするな

ど情報の一層の透明性を求めており、政府の

役割として、官民の対話や理解の促進、ハー

ド、ソフト両面のインフラ整備による地元ビ

ジネス競争力の強化、また適切な投資の促進

と地方企業へのビジネスアドバイスの実施が

必要と提言している。

(4)交渉の進捗状況

マルトニ外相は、スウェーデンがEU議長

国である2001年上半期中に、最低6~7分野

(9.運輸、10.税制、25.関税同盟など)

の交渉を終えたいとの考えを明らかにしてい

る。2001年3月末現在、暫定的に交渉を終了

しているのは全31項目のうち、17項目(1.

物の自由移動、3.サービスの自由移動、5.

会社法、8.漁業、11.経済通貨同盟

(EMU)、12.統計、13.社会政策・雇用、

14.エネルギー、15.産業政策、16.中小企

業政策、17.科学・研究、18.教育・訓練、

19.通信・情報技術、23.消費者・保護、26.

対外関係、27.共通外交・安全政策、28.財

務管理)となっている。

ハンガリー政府は交渉のなかで、さまざま

な「実行猶予措置」をEUに要求しているこ

とが、新聞報道などで明らかになっている。

「猶予が認められたケース」では、タバコ

に含まれるタールの量を最大12ミリグラムに

するのを2005年まで猶予されることとなっ

た。また、サービスの自由移動に関して、国

営銀行2行(ハンガリー輸出入銀行、ハンガ

リー開発銀行)は、一時的にEUの銀行業務

に関する指令に従わなくても良いことが認め

られている。

「猶予を求めている案件」としては、運輸

分野で、陸上運輸と水上運輸の交渉を2001年

上半期に、鉄道と航空運輸を同年下半期に終

えたい考えだ。猶予を希望する主な項目は、

①25トンを越えるトラックに対する従量税

を、EUレベルに引き上げるのを2006年まで

伸ばす、②外国運送企業の国内市場への参入

を段階的に実施する、③重量に耐える道路整

備が遅れていることから、車軸重量の上限を、

現在の10トンから11.5トンに引き上げるのを

遅らせる、④外国の鉄道会社への国内線の解

放を2006年まで遅らせる、⑤ハンガリー航空

(Malev)の騒音規制レベルの引き上げを

2004年まで延期するなど。

資本の自由移動分野で交渉される「外国人

による農地所有自由化」問題については、政

府は、外国人は農地を所有できないとする現

在の法律を、加盟後10年間は維持するとのこ

れまでの考えを崩していない。なお、今のと

ころ政府は、外国・地元の別なく企業による

農地所有を認めない考えだ。

環境分野については、猶予を求めていた項

目を9から4に減らし、残る5項目について

も要求を一部取り下げるなど、妥協する方向

で調整が図られている模様だ。詳細について

は明らかにされていないが、大気や地下水な

どの保護は猶予希望項目から削除され、梱包

材の再利用や廃棄物処理、水面上の排出物、

下水などについて要求内容を一部取り下げる

模様で、早ければ2001年上半期に交渉を終え

たい考えだ。

なお、農業分野では、食品衛生や植物健康

(Plant Health)の分野で順調に交渉が進む一

方で、2001年に補助金問題が交渉される予定

である。

2.貿易・投資制度

(1)投資インセンティブ

加盟時に制度変更することが明らかに

投資インセンティブは近年、補助金以外に

新たな制度は発表されていない。2001年3月、

EU加盟を踏まえて、法人税免除などの優遇

措置を見直す法案が政府経済委員会で固まっ

JETRO ユーロトレンド 2001.7 109

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たが、内容は今のところ明らかにされていな

い。政府関係者によると、同法案は今後議会

で審議され、予定では早ければ2001年内に確

定する見込みである。

本件に関連して、現在出されているインセ

ンティブの加盟後の取り扱いについて投資誘

致機関ITDH(ハンガリー投資貿易促進公社)

に、確認したところ、加盟後も加盟前に適用

されたインセンティブであれば、定められた

期限内は適用される見込みとのことである。

法人税率18%は世界的に最低水準にある

が、①周辺諸国が同国同様、投資インセンテ

ィブを打ち出し始めたこと、②90年代後半に

同国への投資が集中した結果、特に、製造業

分野の投資家の間で同国の労働コスト上昇を

懸念する空気が広がっていることなどから、

これまでのように、外資を独占する時期は過

ぎたと考えられる。近年、日系製造業の中欧

諸国での進出先として、チェコに大型案件が

集中している。ハンガリーでは、外資受入額

が近年、20億ドル前後で安定的に推移してい

るが、さらに投資家を引き付けるためには、

新たな投資誘致戦略の策定が必要と考えられ

る。

ブダペスト周辺やオーストリア寄りの西部

地域と違って、インフラが発達していない東

部地域は、依然失業率が高いところが少なく

ない。同地域にも技術系の高等教育機関はあ

ることから、優秀な若手技術者の活用は可能

であり、高速道路網などインフラの早急なる

整備が期待される。一方、既に外資が多数進

出しているオーストリア寄りの西部地域やブ

ダペスト周辺には、最近外資系中小企業の進

出が見られる。政府は2001~2002年に実施す

る総合経済政策「セーチェニー・プラン」の

中で、中小企業支援を重点項目のひとつとし

て掲げているが、日米欧の外資系中小企業の

進出は雇用の創出のみならず、地域産業への

技術移転でも効果が期待できる。したがって、

中小企業の新規投資、既進出企業の利益の再

投資を促すために、このような企業の活動を

支援するための制度や金融面での一層の支援

が期待される。

(2)制度の変更

① 進展する対EU自由貿易

EU加盟に向けEUからの工業製品に対する

関税率引下げが段階的に進められてきたが、

2001年1月1日をもって0%となり、関税は

事実上撤廃された。今回の措置は、94年1月

に施行されたハンガリーとEU間の欧州協定

にしたがって行われてきたものである。同様

の措置は、欧州自由貿易連合(EFTA)加盟

国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノ

ルウェー、スイス)や中欧自由貿易協定

(CEFTA)加盟国(ポーランド、チェコ、ス

ロバキア、ハンガリー、スロベニア、ブルガ

リア、ルーマニア、ただしルーマニア製乗用

車への関税撤廃は見送られた)、自由貿易協

定締結国(トルコ、イスラエル、バルト3国)

の工業製品にも適用される。なお、EU諸国

におけるハンガリー製工業製品に対する関税

は、98年1月1日に撤廃されている。クロア

チアとの自由貿易協定の締結交渉は、2001年

2月に終了した(②参照)。

この結果、欧州製品と日本製品(例えば、

最恵国待遇:MFN諸国製乗用車への適応税

率13~78%)の関税格差が広がった形になっ

たが、今回の措置について、同国の日系自動

車販売会社は「今回の措置は事前に分かって

いたことで、業務に折り込み済み。品揃えの

ため日本から輸入している車種もあるが、特

別な対応は取っていない」と述べ、ビジネス

に大きな影響はないと見ている。

一方、同国で自動車を生産し国内の新車販

売シェアトップ(2000年で21.07%のシェア)

を誇るマジャール・スズキは、「オペルやフ

ォルクスワーゲンは、今年に入って新車価格

を大幅に値下げしている。昨年末に抱えてい

た在庫の整理を、今回の関税撤廃を利用して

JETRO ユーロトレンド 2001.7110

7

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行っているものと考えられる。イタリアやフ

ランス車は、全欧レベルで見ても低い市場価

格を同国で設定している。事前に分かってい

たこととはいえ、販売競争がいっそう厳しく

なった」と述べている。

関税撤廃と共に、今回、WTO加盟国やハ

ンガリーと自由貿易協定を結んでいる国から

の輸入制限品目の削減も実施され、魚類、繊

維、衣類、靴など一部を除き、新型・中古乗

用車や医薬品など多くの分野で制限がなくな

った。

ハンガリー国立銀行によると、2000年1~

9月の貿易は輸出5兆5,358億フォリント

(前年同期比33.6%増)、輸入6兆2,933億フォ

リント(34.9%増)となった。主な地域別輸

出先ではEU75.6%、CEFTA8.2%、CIS2.4%、

同地域別輸入元はEU58.7%、CIS8 .9%、

CEFTA7.5%であった。2000年通年では、貿

易実績の大幅拡大は確実で、一連の貿易自由

化に向けた措置により、いっそうの貿易の活

発化が期待される。

農産品についても、対EU貿易は自由化が

段階的に進められており、2000年7月1日に

トロピカル・フルーツやスパイス類、大豆製

品などが自由化された。また、2001年1月に

も自由化品目が追加され、ハンガリー農産品

のうち82%(それまでは72%)の品目が無税

でEUに輸出できることになり、この措置に

より関係業界は170億フォリントの経済効果

が期待されると、ナピ・ガズダシャーグ紙は

報じている。一方、EU産品の対ハンガリー

輸出自由化率は54%となっている。

なお、民間の農業関連の研究機関である農

業情報研究所(AKII)によると、2000年1

月から11月までに対EU農業貿易の黒字幅が

縮小し、輸出6,580万フォリント(前年同期

比6.5%減)、輸入は3,660万フォリント(9.8%

増)となった。2000年に対EU貿易が大幅に

自由化されたことを受けて、外務省では農業

貿易の自由化は輸出拡大に寄与するとの予想

をしていたが、今のところそれに反する結果

となっている。

② クロアチアと自由貿易締結

2001年2月22日、ハンガリーとクロアチア

との間で自由貿易協定が締結され、同年4月

1日に発効した。本協定により、2003年から

両国の工業製品貿易は完全に自由化される。

なお、農産品貿易の自由化については、今回

は見送られた。ハンガリーの自由貿易協定は、

EU加盟国との間で締結した欧州協定(発効

94年1月)を皮切りに、EFTA(発効93年1

月)、チェコ、ポーランド、スロバキア(94

年7月)、スロベニア(96年1月)、ルーマニ

ア(97年7月)、イスラエル(98年2月)、ト

ルコ(98年4月)、エストニア(98年11月)、

リトアニア(98年11月)、ラトビア(99年6

月)と締結している。

③ 品質管理保証の相互承認制度の導入を決

2001年2月、ハンガリーとチェコは中・東

欧諸国でははじめて、EUとの間で「品質管

理保証の相互承認制度」(Protocols to the

European Agreement on Conformity

Assessment and Acceptance of Industrial

Products,PECA)の実施を決定した。工業

製品の分野でEU市場統合のメリットが初め

て加盟候補国に拡大されたケースとされ、市

場統合拡大に向けた大きな一歩となった。

ハンガリー・EU間で今回対象となる品目は、

①機械類(Machinery)、②電気保安(Electrical

Safety)、③電磁石適合(Electromagnetic

Compatibility)、④温水ボイラー(Hot Water

Boiler)、⑤ガス器具(Gas Appliances)、⑥医療

機器(Medical Devices)、⑦GLP(Good

Laboratory Practice for medicinal products

for human use)、⑧GMP(Good Manu-

facturing Practice for medicinal products for

human use: inspection and batch certifica-

JETRO ユーロトレンド 2001.7 111

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tion)の8品目。EUの検査等各種基準に合格

した関係工業製品は、EU域内で再度の検査

や書類審査が不要となる。このため、EUで

は制度導入によりEUとハンガリー、チェコ

の間の工業製品貿易において、およそ2億

7,000万ユーロの経費が節約できると予測さ

れ、一方同国経済省は、輸出産業は年間

8,000万から1億フォリントの経費を節約で

きるものと見ている。

本制度は議会での承認を経て、早ければ

2001年中に発効すると見られ、対EU工業製

品貿易の一層のスピードアップ、コスト削減

が期待される。なお、電気機器などの保安基

準としてEU諸国で使われている「CEマーク」

は、本制度のひとつである。また、制度の実

施に伴い、政府は品質検査機関の数を現在の

20から4ないしは5に減らす考えだ。

3.その他

(1)ブダペストとウィーンを結ぶ高速道路に

設けられているヘジェシャロム国境検問所

付近では、荷物を運ぶ大型トラックが審査

を受けるために、数キロに渡って数珠つな

ぎになっている光景が頻繁に見られる。こ

うした状況に不満を持つドイツの長距離ト

ラック組合(BGL)は、2001年1月、オー

ストリアおよびルーマニア国境での通過審

査手続きは遅すぎるとして、ハンガリー税

関当局(VPOP)に対する非難を表明したが、

同年2月、ハンガリーはオーストリアと協

議し、審査場所の増設など手続きのスピー

ドアップに取り組むことを明らかにした。

(2)ビラガズダシャーグ紙によると、ドイツ

銀行(Deutsche Bank)は、2000年の加盟

候補諸国の経済力をEU平均値と比較した

結果を発表した。それによると、ハンガリ

ーは、EU平均レベルの70.3%(99年65.6%)、

スロベニア71.3%、チェコ69.4%、エスト

ニア66.3%であった。

4.ハンガリーのEU加盟に対する進出外資系企業の見方

ジェトロ・ブタペストはEU加盟のメリッ

ト・デメリット、企業戦略などEU加盟に対

する見通しについて、ハンガリーで活動して

いる外国企業2社に、インタビューを行った。

その概要は、次のとおりである。

①企業名:HANWHA BANK HUNGARY

Ltd.(韓国系)

a.インタビュー相手:Mr. JUNG(President)、

HAE JUNG(Chief Executive Officer)

b.企業概要:1990年設立、97年にインド・

スエズ・ハンガリー(銀行)の経営権を握

り、社名を現在のものに変更。一般顧客向

け銀行業務が中心。

c.EU加盟のメリット:業務上のメリット、

デメリットは特にない。しかし、製造業は

対EU向け輸出が無税となるなどメリット

はある。

・加盟前、加盟後の企業戦略の変化につい

て:ハンガリーの銀行業界では、既に約40

社(ほとんどが外資系)が顧客獲得競争を

行っており、ビジネスは容易でない。企業

戦略の変化については、今のところ特に考

えていない。

なお、ハンガリーが外資の関心を集めた

大きな理由は、西欧市場に近いという地理

的条件、また安価で質の高い労働力が利用

できたことであろう。同国に対する韓国製

造業の投資は、今後「ハイテク分野」が中

心となろう。(同国でサムソンがTVを生産

しており、最近関連部品企業が進出してい

る。)

・人件費上昇への対応:人件費が急激に上昇

するとは考えていない。ハンガリーに進出

した製造業は、労働者の質に満足している

と聞く。周辺諸国にハンガリーの労働者以

上の質を求めるのは難しいと考えられるこ

JETRO ユーロトレンド 2001.7112

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とから、人件費上昇の結果として賃金の安

い周辺諸国に生産拠点を移すとは考えにく

い。

・投資インセンティブ変更の影響:現在企業

が得ているインセンティブは、例えEU加

盟を迎えても、定められた期限内は適用さ

れると理解している。

②企業名:ORION Electronics Ltd.(シンガ

ポール系)

a.インタビュー相手:Mr. Santosh K.Sharma

(Technical Director)、Mr. Dilip Modi

(General Manager‐Finance)

b.企業概要:1913年設立、1920~30年代に

ラジオ製造、56年にテレビ製造開始。この

他体制転換前、マイクロ波通信機器をソ連

や東欧、アジア、アフリカ各地向けに製造。

体制転換前は、ハンガリーを代表するエレ

クトロニクス製品メーカーだったが、転換

後、コメコン市場喪失などの影響から経営

が悪化、97年以降、タクラル(THAKRAL)

グループ(シンガポール)が97年にイン

ド・スエズ・ハンガリー(銀行)の経営権

を握り、1)ケンウッドのカーオーディオ

品などのOEM生産(売上の20~30%)の

他、2)TVやオーディオ製品、また白物家

電を製造(同50%)、3)倉庫業務(4万

5,000m2)を行う。従業員数は720人(同社

資料)、売上97年520万ドル、98年790万ド

ル、99年1,010万ユーロ、2000年1,400万ユ

ーロ。

c.EU加盟のメリット・デメリット:安価

な労働力の利用と、関税などを含めた輸送

コスト減はメリット。人件費上昇はデメリ

ット。生産コストは、ハンガリーがEUに

加盟するまでの今後3~4年上昇する。し

かし、東西ヨーロッパの賃金格差は簡単に

縮まらないと見ている。

・加盟前、加盟後の企業戦略の変化につい

て:労働コストを考えながら追加投資を行

うかもしれない。

・人件費上昇への対応:同社は、将来的には

労働集約型生産ラインはルーマニアに移す

かもしれない。その場合、高付加価値製品

は同国で、それ以外の製品はルーマニアで

製造することになる。したがって、同国で

は労働コストが上昇するにしたがい、より

ハイテク製品の製造を行う考え。他の中欧

諸国に比べ人件費が高いとは考えていな

い。

・投資インセンティブ変更の影響:同社に影

響はない。他社が利用してきたインセンテ

ィブが期限切れを迎えた場合、当社にとっ

ては有利となる。

・インフラ整備の進捗、その他:外資にとっ

ての魅力は1)西欧市場に近いという地理

的条件、2)インフラを含め整備された流

通網、3)質の高い労働力、4)質の高い教

育制度など。西欧に比べて低い生活コスト

も魅力。

98年に始めた同社のOEM生産ビジネスは

最近低調。TVは年間3万5,000台生産し、

ユーゴスラビア、ウクライナ、ルーマニア

などにも輸出、同輸出ビジネスは成長して

いる。

(本田 雅英)

JETRO ユーロトレンド 2001.7 113

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JETRO ユーロトレンド 2001.7114

7

2002年末までにEU加盟準備完了目指す(スロベニア)ウィーン・センター

政府は、2001年にはエネルギー、環境など

の分野でEU加盟交渉を終了させ、2002年末

までの加盟準備の終了を目指している。対

EUの輸入関税は撤廃されており、投資イン

センティブ制度もEU基準に準拠したものと

なっている。世論調査によると、産業界、国

民の大半はスロベニアのEU加盟に対して肯

定的な反応を示している。

1.EU加盟進捗状況に対する政府、産業界、国民の反応

(1)政府はプログレスレポートを評価

スロベニアでは2000年4月、独立以来政権

を担ってきた中道左派のドルノフシェク政権

が連立パートナーの離反から崩壊、2カ月の

政治的空白の後に中道右派のバユーク政権が

誕生したものの、11月の総選挙では再びドル

ノフシェク政権が復活するなど、ユーゴスラ

ビア連邦からの91年の独立以来、最大の政治

的混乱に見舞われた。しかし、政党のほとん

どがEU加盟を支持していることもあり、こ

うした政治的混乱の影響に流されることなく

同国のEU加盟準備は一貫して継続されてき

ている。

2000年11月8日に欧州委員会が発表したプ

ログレスレポートでは、スロベニアの加盟準

備状況が肯定的に評価されており、国内では、

EU加盟が順調に進んでいる証との受け止め

方が一般的である。同レポートでは、スロベ

ニアの法体系のアキ・コミュノテール(欧州

共同体の基本条約に基づく権利と義務の総

体)との調和を評価しており、特に国内市場

や農業、エネルギー、環境といった重要分野

において進展が認められた。一方、銀行など

金融セクターの自由化および民営化の遅れや

行政機構改革、低い外国投資受け入れ、司法

手続きの遅れなどについては、他の加盟候補

国より遅れていることが指摘されている。中

でも特徴的な問題として指摘されたのは次の

事項である。

①行政機構改革

スロベニアにおける公務員数は現在約1万

8,000人程度であり、適切な行政サービスが

提供されていない。さらなる公務員の採用と、

教育訓練が必要。

②国境管理

スロベニアは現在、EU域外からEU諸国へ

の不法入国者の窓口になっている。国境管理

については、顕著な進展が見られない(2000

年の1年間で、スロベニアの国境警察が逮捕

した不法入国者数は3万5,000人で前年比倍

増している)。

③免税店の廃止

オーストリア、イタリア、ハンガリー国境

における免税店の廃止措置に躊躇している。

政府は11月9日の通常国会において、「プ

ログレスレポートは、スロベニアがこれまで

継続してきた加盟交渉およびアキ・コミュノ

テールとの調和作業を肯定的かつ現実的に評

価している」と述べ、2002年末までの加盟準

備作業の終了を強調した。ペテルレ外相(当

時)は、「プログレスレポートの評価は現実

的なものであり、批判個所は予想済みである」

と述べ、欧州委員会が加盟準備の整った候補

国から順次加盟させていく立場を維持してい

ることも、スロベニアにとっては歓迎すべき

こととしている。ポトエニック対EU交渉団

代表も、プログレスレポートを評価、「2000

年は国会選挙と政権交代という政治的混乱の

中にありながらも、加盟準備作業は順調に進

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 115

んだ」と振り返る。

政府内でさらなる努力が必要と認識されて

いるのは、以下の事項である。

a.行政機構改革

b.国有企業の民営化

c.対内直接投資の促進

d.司法手続きの迅速化

e.国境付近の免税店の廃止

特に行政機構改革の遅れが指摘されている

政府は、現在の公務員の再配置や新規雇用を

通じた行政機能の拡大案を計画中である。新

規採用の公務員の大半は、対EU関連の部署、

特に外務省に配置する計画である。

また、これとは別に、EU加盟後の対EU関

連行政を担う人材育成の一環として、公務員

の再教育制度も2000年に導入し、人口200万

人の小国が膨大な量に膨れ上がるEU関連業

務を担える官公庁作りに専念している。現在

の行政改革は2002年までには完了させる予定

であり、その後さらなる制度改革(勤続5年

以上、33歳未満の公務員の早期幹部登用制度

など)を計画している。

国有企業の民営化について政府は、2001年

中に、スロベニア・テレコムの政府保有株式

の15%を売却する予定であり、同様に2大国

有銀行ノヴァ・リュブリャンスカ・バンカ

(NLB)およびノヴァ・クレジトナ・バン

カ・マリボール(NKBM)の株式もそれぞれ

35%、40%放出することを表明している。政

府は一連の民営化過程で、指摘された低い外

国直接投資受け入れ額を増加させる意向も併

せ抱いている。

焦点となった免税店の取り扱いについて

は、地域の雇用問題から根強い反対があった

ものの、オーストリアとイタリアの国境に接

する免税店を6月1日から廃止する法案が2

月に可決されている。

(2)産業界はEU加盟を概ね歓迎

産業界のEU加盟に関する姿勢はおおむね

肯定的である。産業界の3分の2は、EU加

盟により世界市場での競争力を増すことが可

能になると考えているという調査結果も発表

されている。また大部分は、EU加盟によっ

て生じるメリットはデメリットを上回るとし

て歓迎している。

産業界から見たEU加盟のメリット、デメ

リットは以下のとおりである。

①EU加盟のメリット

a.EUレベルでの共通の行政、基準が期待

できること

b.安定したビジネス環境

c.資本、技術、ノウハウ、巨大市場などの

獲得

②EU加盟のデメリット

a.輸入関税の撤廃と国内市場での競争激化

b.政治的主権の喪失

一方で、これまで国家保護の下にあった食

料品業界、銀行、保険、エネルギーなどの各

業界では、EU加盟後の価格競争などに懸念

を抱いている模様である。

(3)国民の大半もEU加盟に賛成

国民もほとんどがEU加盟に賛成している。

2001年2月の世論調査では、国民の53.4%が

賛成、22.9%が反対という結果がでている。

2000年2月の調査結果と比較すると、賛成は

6.1ポイント減少、反対は5.7ポイント増加し

た。加盟反対派の人々は、第一に社会保障レ

ベルの低下、言語や文化面でのアイデンティ

ティの喪失、西欧からの安価で良質な農産物

輸入増による農業の衰退や農地の外国人によ

る保有などを危惧しているようである。特に、

スロベニアの独立国としての歴史は91年以降

の10年間とまだ短かく、せっかく手にした主

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JETRO ユーロトレンド 2001.7116

7

権国家がEUのコントロール下に置かれるこ

とに躊躇する姿勢があると言われている。し

かし、反対派も、EU加盟によって得ること

のできる民主主義、法体系、安全保障、経済

成長といった面は評価している。

(4)ニース首脳会議の結果を評価

ドルノフシェク首相は、2000年12月にニー

スで開催されたEU首脳会議で合意された特

定多数決制度の導入など一連のEU機構改革

への支持を表明しており、政治家、メディア、

国民の多くも同会議の結果に満足している。

特に、EU側が2002年末までには新規加盟国

を受け入れる体制を整えることで合意したこ

とが、好意的な反響を呼んでいる。

スロベニアのクーチャン大統領は2001年1

月19日、「ニース会議は、機構改革という側

面では物足りない部分もあるかもしれない

が、スロベニアなど加盟候補国にとっては良

い結果で終わった」とコメント、EU加盟へ

のドアは開かれ、2004年には欧州議会に議員

を送り出すことが現実的なものになったとし

ている。

スロベニアにとっての具体的成果として

は、2005年から欧州委員を「1カ国1委員」

とすること、閣僚理事会での特定多数決持ち

票の見直し(加盟後、スロベニアは4票)、

欧州議会での議席数(加盟後、スロベニアは

7議席)などが挙げられる。特に、欧州議会

での議席数は、同じ加盟候補国であるチェコ

が人口50万人当たり1議席、ドイツ、フラン

スが人口90万人当たり1議席であるのに対

し、スロベニアは29万人に対して1議席とな

ることで、人口200万人の小国である同国が、

加盟後、EUの枠組みの中で国家としての影

響力を維持できるという観点から、評価する

声が高い。

(5)アキ・コミュノテールとの調和をほぼ終

政府は2001年1月18日、アキ・コミュノテ

ールの大部分の取り込みが完了したと発表し

た。具体的には2001年3月末時点では、ア

キ・コミュノテール31項目のうち、18項目に

ついて欧州委員会との交渉を終了している。

①交渉終了した18項目(番号は加盟交渉項目

番号)

(1)モノの自由移動(3)サービスの自由移動(4)

資本の自由移動(5)会社法(8)漁業(11)経済通

貨同盟(EMU)(12)統計(13)社会政策・雇用(14)

エネルギー(15)産業政策(16)中小企業(17)科

学・研究(18)教育・訓練(19)通信・情報技術

(22)環境(23)消費者保護(27)共通外交・安全

保障政策(CFSP)(28)財政管理

②2001年前半に交渉終了を目指している項目

(9)運輸(20)文化・オーディオビジュアル政策

③その他の交渉未終了項目

(2)人の自由移動 (6)競争政策(7)農業 (10)

税制(21)地域政策(24)司法・内務(25)関

税同盟(26)対外関係(29)財政・予算規定

2.投資インセンティブはすべてEU基準に準拠

スロベニアは2000年、新たな投資インセン

ティブとして、同国経済省の機関である投資

促進庁(TIPO)を通した助成金制度を導入

した。これは、企業が2年間で新規雇用を

100人、もしくは研究・開発分野や低開発地

域で新規雇用を20人創出した場合、TIPOか

ら補助金が支給されるもので、支給額はケー

スごとの交渉によって確定される。2000年は

3件、合計300万米ドルの支給実績がある。

例を挙げると、3件のうち英国企業TCGユ

ニテック社の投資計画(5年間で450人の新

規雇用を予定)に対しては、最初の120人の

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 117

雇用分について約100万ドルが支給された。

スロベニアが現在提供している主な投資イ

ンセンティブは下記のとおりとなる。なお、

これら投資インセンティブについては、

TIPOが調査した結果、すべてEU基準を満た

しており、当面変更の予定はない。また政府

は、新たに対内直接投資促進にかかわる計画

を2001年に考案するとしている。

①投資インセンティブ

a.自由経済区(コペル、マリボールの2カ

所)における法人税は25%から10%に軽

減される。

b.2年間で100人以上の新規雇用、もしく

は研究・開発分野や低開発地域で20人以

上の新規雇用を創出した場合、TIPOから

補助金が支給される。

c.失業者を雇用した場合、地域の雇用局が

再教育費の一部を負担する。

d.失業者を雇用した場合、社会保険料が部

分的に、または全額払い戻される。

e.有形固定資産(乗用車を除く)に投資し

た場合、最大40%まで課税控除の対象と

なる。

f.特別減価償却(土地5%、コンピュータ

50%など)

3.対EU関税はすべて撤廃

対EUでは、非センシティブ製品に対する

関税は2000年1月1日から撤廃されている。

センシティブ製品については、自由貿易協定

締結国・地域(EU、EFTA(注1)、CEFTA(注2)、

エストニア、リトアニア、ラトビア、クロア

チア、マケドニア、イスラエル、トルコ)の

製品に対する関税が2001年1月1日をもって

撤廃された。

4.外国企業への影響は最小限

EU域外の国々からスロベニアに進出して

いる企業数はそれほど多くなく、全体の10%

程度である。なお、日系企業では、製造業は

ゼロ、自動車販売業として3社が進出してい

る。EU域外からスロベニアに進出している

外資系企業は、主にクロアチア、米国、スイ

スなどの企業である。

まず、クロアチア企業については、スロベ

ニアのEU加盟後も大きな影響はないことが

明らかである。クロアチアとスロベニアの間

では、自由貿易協定が締結されており、現在

でもEU各国と変わらない取り扱いを受けて

いる。スロベニアがEUに加盟する頃には、

クロアチアはEUと安定化・連合協定(SAA)

を締結させていることが確実で、加盟後もク

ロアチア企業の立場は大きく変わらない。

スイス企業や他のEFTA、CEFTA諸国も

同様で、既にスロベニアと自由貿易協定を締

結しており、スイス企業はスロベニア国内市

場でこれまで通りの競争力を発揮できると考

えられている。

しかし、不動産の取得はEU域内の個人、

企業を対象に自由化されたため、この部分で

はEUに加盟していないスイス企業を始め、

EU域外の企業が不利益を被るケースもあり

得る(EU域外の個人、企業が不動産取引を

する場合は、その経済活動の内容を審査して

資格が与えられる)。

米国企業や他の外資系企業については、ス

ロベニアのEU加盟により、上記の国々より

も大きな影響が生じると予想されるが、対

EU関税の撤廃など、すでに多くの制度変更

が実現している。

米国や韓国などの企業に対するインタビュ

ー結果では、多くの企業がスロベニアのEU

(注1)欧州自由貿易連合(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スウェーデン)(注2)中欧自由貿易協定(ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、スロ

ベニア)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7118

7

加盟で生じる変化は最小限にとどまるだろう

と予測している。これら回答企業は、中・東

欧における自社のシェアは、今後2000年から

2005年の間に3~6%程度低下すると予測し

ており、製品の価格調整で対処していくとし

ている。また、スロベニアのEU加盟で生じ

るデメリットはメリットを上回るかもしれな

いが、それほど深刻な状況にはならないだろ

うとして、当面はスロベニアからの撤退を考

えていないことを明らかにしている。

中・東欧諸国の労働コストの変化について

は、短期間で急激に上昇するとは考えられて

いない模様であり、2005年以降も、西欧に比

べて依然低い状態であることが見込まれてい

る。スロベニアの賃金水準は、中・東欧諸国

の中では突出して高いが、今回回答した企業

は、EU加盟準備が進み、労働関連の法整備

が進むことで、逆に現在よりも賃金水準が低

くなり、生産性も向上することを期待してい

る。もし、この期待に反してスロベニアの賃

金水準がEU加盟後急激に上昇した場合は、

これら企業はボスニア・ヘルツェゴビナな

ど、EU域外の国々へ生産設備を移転させる

としている。

環境関連の規制については、現在でもスロ

ベニアの環境規制はEUのものとさほど変わ

らないとして、スロベニアのEU加盟でデメリ

ットが生じるとは考えていないようである。

回答企業が挙げたスロベニアのEU加盟に

よるメリット、デメリットは以下のとおり。

①メリット

a.政治・経済の安定

b.法律・基準の統合(EUスタンダード化)

c.欧州内(EU内)にある自社の流通設備

などへのアクセスが容易になること

②デメリット

対EU関税撤廃によるEU域外企業製品の競

争力低下

これまでスロベニアが実施してきたEU加

盟準備作業について、これら外資系企業はお

おむね満足している。最も評価されているの

は、1991年以降、スロベニア国内のインフラ

が高規格化していることである。回答企業の

指摘事項は以下のとおり。

③改善に満足

a.道路

b.電話通信

c.エネルギー

④さらなる改善が必要

a.銀行・保険業の自由化および民営化

(2001年後半から2002年内にかけて実施予

定)

b.鉄道網およびサービスの向上(特にコペ

ル港からハンガリー方面への鉄道網拡充

と高速化が求められている)

(松田武志)

予想外に厳しいプログレスレポートの評価(チェコ)プラハ事務所

チェコ政府は、EUプログレスレポートの

チェコに対する評価が予想外に厳しいものと

受けとめている。2000年12月のニース首脳会

議では、最初の新規加盟は2004年以降との見

方が示され、これを受けてチェコ政府も最近

では、2004年の加盟を目指している。

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1.EUプログレスレポートに対する反応

2000年11月、欧州委が発表した「加盟候補

各国の進捗状況についての報告書(プログレ

スレポート)」のチェコに対する評価は、予

想外に厳しいものとしてチェコ国内では受け

とめられている。直前までチェコの政府関係

者は、今回のレポートでは、チェコの改革の

進展状況は高く評価されるとみていた。さら

に、たびたび報道された欧州委員会側の見方

もそれを裏付けるものばかりであった。

現政権は、少数与党政権であるにもかかわ

らず、EU加盟に向けた与野党の統一歩調の

下で多くの法律・制度の改正を実現し、EU

法制への適合は加盟候補国のなかで最も進展

していると国内外で高く評価されていた。プ

ログレスレポートで新たに設けられた加盟候

補国の対応の進展状況に関するランキングで

は、チェコは第1ランクのマルタ、キプロス、

第2ランクのハンガリー、ポーランド、エス

トニアに遅れをとる第3ランクと位置付けら

れていた。

チェコは、90年代前半において中・東欧で

最も順調に体制転換が進んでいると国際的に

高い評価であった。97年の通貨危機後に経済

成長がマイナスに陥いると、90年代前半にと

られたチェコの民営化政策「クーポン民営化」

は、結果的には失敗だったという見方が一般

的になった。「クーポン民営化」とは、外資

に頼らず国内資本で民営化を進めることを目

的に国営企業を株式会社に転換するにあた

り、その株式と交換できるクーポン券を発行

し、国民にこのクーポン券を低額(1クーポ

ン=1,000コルナ)で提供する手法であった。

しかし、国営企業側のディスクロージャーが

伴わず、国民も企業を選択するノウハウに欠

けていたため、クーポン券の大多数は、国内

銀行が設立した数多くのインベストメント・

ファンドによって買い取られた。その結果と

して、企業の株式は国内銀行に集中して保有

されることとなったが、同時に銀行は当該企

業への資金の貸手にもなった。このため、

中・東欧市場のマイナス成長と企業内でのリ

ストラの立ち後れから、企業の業績が悪化す

るにつれて、銀行の不良債権は雪だるま式に

膨らみ、不良債権比率が約4割という状況に

至った。また、銀行の融資債権が足かせとな

って企業のリストラや淘汰が進まなかった。

EUプログレスレポートのチェコに対する評

価の厳しさは、主としてこれらの点に向けら

れている。

しかし、外国直接投資の旺盛な流入に支え

られて、チェコのGDP成長率は、99年第3四

半期以降プラスに転じ、2000年の実績は

3.1%であった。今後数年にわたって成長を

続けるというのが、内外の一致した予測であ

る。また、チェコの1人当たりGDPは中・東

欧で2番目に高い。最も高いのはスロベニア

であるが、同国の人口は200万人弱であり、

人口1,000万人以上の国で見ればチェコの1

人当たりのGDPは、中・東欧では最も高い。

また、チェコは伝統的な工業国であり、第2

次大戦前の1人当たりのGDPは世界第7位と

先進工業国の一角を成していた。世界で3番

目に自動車の商業生産を開始し、米国フォー

ドよりも早い。自動車、航空機、軍事兵器、

工作機械などの製造技術の高さは、社会主義

時代から現在に至るまで維持されており、国

内のほぼ全地域に技術力を持った企業や熟練

工、工業インフラが存在している。道路や鉄

道の整備・敷設状況も中・東欧で最も進んで

いるという見方が一般的である。さらに、

2001年3月に発表されたEUの統計局ユーロ

スタットの調査(1998年の統計)によれば、

チェコの首都プラハは中・東欧で唯一EU15

カ国の1人あたりのGDPを上回っている

(EUの平均を15%上回る)。

このため、今回のEUレポートのランキン

グに関し、EUに対するチェコ側の不信感は

JETRO ユーロトレンド 2001.7 119

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強い。評価の視点によって様相が異なるもの

をあえてランキングという形で公表したこと

自体、その妥当性、必要性が疑われるとして、

チェコ外務省は、EU委員会に対し激しい抗

議を行った。

ニース首脳会議では、EU拡大の実施時期

に関するタイムスケジュールが発表され、最

初の新規加盟は2004年以降との見方が示され

た。チェコ政府は従来、2003年の加盟を目標

としてきたが、これを受けて最近では2004年

の加盟を目指している。また、同首脳会議で

は、加盟候補国を含めた欧州議会の議席数の

再配分が示された。この案では、チェコは

EU加盟時に20議席を得ることとされたが、

チェコ政府は同規模の人口であるベルギー・

ポルトガル・ギリシャが22議席を得ることと

均衡がとれないとして欧州委に議席数の増加

を求めた。欧州委はこの要求を却下したが、

EU加盟交渉において議席数を調整する余地

があることを認めた。

2.投資インセンティブへの影響

チェコは、89年の体制転換以後90年代の後

半に入るまで、外国投資の誘致について極め

て消極的であった。しかし、98年に政権が変

わってからは、積極的な誘致姿勢に転換した。

投資インセンテブ制度は、98年10月から施行

され、さらに、2000年5月には、制度を統合

した投資インセンティブ法が施行され、イン

センティブの対象や内容も拡大された。

EUは域内の競争政策上、国家援助につい

て一定の基準を規定しており、例えば、国家

補助金は、低開発地域の経済開発などに限っ

て認められている。チェコは、EU準加盟協

定を締結しており、投資インセンティブは

「国家援助」にあたり、チェコが投資インセ

ンティブを供与する場合は、同協定に基づき

あらかじめ欧州委の承認を得る必要がある。

投資インセンティブ制度は、98年10月から施

行されたが、欧州委は同制度が国家援助の規

定を満たしていないものとした。このため、

チェコ政府は、新たな投資インセンティブ法

の制定に際し、EU規定の遵守およびインセ

ンティブの拡充(新規投資だけでなく生産拡

張事業も対象に追加など)を図るため、事前

に欧州委の承認を得た上で同法を2000年5月

に施行した。その結果、チェコはEUに加盟

するまでの間は現行の投資インセンティブ制

度を維持することができる。したがって、現

行制度の有効期間(原則としてチェコがEU

に加盟するまでの間)に、インセンティブの

供与を決定された投資案件は、その決定内容

にしたがってチェコのEU加盟後も一定期間

は移行期間としてインセンティブの供与を受

けられるとみられる。EU加盟後は、チェコ

政府は、現行制度のインセンティブの供与を

決定することはできなくなる。チェコ政府と

しては、EU加盟後も一定期間は現行制度を

維持できるよう欧州委と協議を進める意向で

ある。

98年以降チェコの積極的な外国投資誘致策

への転換により外国直接投資は、著しく増加

している。これは投資インセンティブ自体の

効果というよりも、チェコインベスト

(CzechInvest、投資誘致機関)をはじめとし

た政府機関や自治体の積極的な姿勢が、外国

企業の投資決定に意外に大きな効果を及ぼし

ているからである。さらに、法人税の免除や

雇用・人材育成に対する補助金が、投資企業

にとって大きなメリットとなっている。しか

し、日本企業による投資の例でも、インセン

ティブが投資の決定要因となったケースはほ

とんどない。企業の投資決定要因としては、

労働コスト、工業や輸送のインフラ、為替レ

ートの安定性などの経済状況、製品のサプラ

イヤーや納入先、あるいは近隣諸国にある自

社の他工場へのアクセス、さらには駐在員や

その家族の生活環境などがより重要となって

いる。特に昨年来のポンド高・ユーロ安によ

って、製造業にとってコスト削減努力の拡大

JETRO ユーロトレンド 2001.7120

7

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は至上命題となっており、西欧における製造

拠点を労働コストの低い中・東欧へシフトす

る動きや、部品・原材料の調達を欧州外から

欧州内へとシフトする動きが強まっている。

EU加盟によって、現行の投資インセンテ

ィブには、何らかの変更が生ずることは避け

られないであろうが、外国企業の投資動向に

はほとんど影響を及ぼさないと思われる。当

地の報道においても、この点を危惧する論調

や外国企業の見方はない。

3.EU加盟条件に関する取り組み状況

チェコは2000年末現在で、EU加盟のため

のアキコミュノテール(欧州共同体の基本条

約に基づく権利と義務の総体)31項目のうち

13項目について、欧州委との交渉を終了して

いる。昨年来、民法、商法、労働法、破産法、

外国人滞在法等をはじめとして、EU法との

整合性を図るために多くの法制改正が行われ

た。

工業製品の関税については、EU準加盟協

定に基づいて年々引き下げが行われてきた

が、2001年1月1日からごく一部の例外品目

を除きほとんどすべての工業製品について、

EUからの輸入関税が撤廃された。例えば、

乗用車については、関税率3.42%が0%とな

り、EU外からの輸入関税17.1%との格差が拡

大しており、チェコでの日本車の販売は、従

来以上に厳しい状況に直面している。関税撤

廃の例外品目の例としては、セミ・トレーラ

ーが挙げられるが、2001年1月1日から従来

の4.5%が3%に引き下げられた。2002年1

月からはEUとの間の工業製品の関税は、完

全に撤廃される予定である。

また、2001年2月、チェコ政府は、早期の

EU加盟の実現を図るため、通信サービスの

付加価値税(VAT)や燃料のVATの税率引

き上げ、電力市場の自由化の実施に関し、

EU加盟後も一定期間の実施猶予の要求を取

り下げる意向を表明した。

国営企業の民営化についてチェコ政府は、

電力、ガス、通信、鉄鋼、銀行(最後に残っ

た1行であるコメルチニ・バンカ)などの基

幹産業における国有株式の売却を本年中に実

施する方針を示している。

国と地方を合わせた財政赤字は2001年には

さらに拡大すると予測され、将来のマクロ経

済の不安定要因になりかねず重要な課題とな

っている。単一通貨ユーロ(欧州通貨同盟:

EMU)参加条件を定めたマーストリヒト条

約では、財政赤字のGDP比は3%を超えては

ならないとされているため、財政赤字の縮小

はEU加盟のための最優先課題となっている。

4.EU拡大に関する進出企業の認識と対応

チェコ進出企業にインタビューした結果で

は、チェコのEU加盟によって各社の事業に

生ずる具体的なメリット・デメリットは、各

社ともさほど大きくない。例えば、通関手続

は、既にEUとの間でかなりの程度共通化が

図られており、通関上の問題は全くない。現

在、関税やVATの免除を得るためには輸出

を証明する書面が必要で通関業務が避けられ

ないが、EU内での通関業務自体がなくなれ

ば、メリットは大きいという見方がある。ま

た、EU加盟により、部品輸入に際して関税

の逆転が生じるものがあるが、大きなデメリ

ットではないという見方で共通している。労

働コストの上昇については、長期的には上昇

するが短期間での急な上昇はないと見てい

る。したがって、特段、EU加盟を意識した

対応はとられていない。

一方で、EU加盟によって生じる影響に関

するチェコ政府の調査結果では、中小企業が

国際的な競争に勝ち残ることは難しいという

点が危惧されている。特に、外国投資の流入

拡大に伴い、チェコの外国企業がサプライヤ

ーを外国から連れてくることによって、チェ

JETRO ユーロトレンド 2001.7 121

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コの中小サプライヤーが納入先を失うと見て

いる。同調査の結果でも、EU加盟によるデ

メリットを具体的に認識して対応をとってい

る企業は少なく、インタビュー結果と同様の

傾向が示されている。

(1)松下テレビジョン・セントラル・ヨーロ

ッパ

松下電器産業は、95年にFSを実施し、96

年にチェコでの投資(TV製造)を決定、97

年4月には操業を開始した。2000年は、年間

110万台を製造している。従業員数は約1,500

人であるが、日本人駐在員は11人と少ない。

チェコ西部のピルゼン市(プラハから南西に

約100km)の工業団地への入居第1号であっ

た。同社が、当地に進出を決めた理由は、ド

イツのシュトュットガルトにある同社のTV

ブラウン管工場に近かったこと、工業都市と

して工業基盤やインフラが整っていたこと、

工科系の教育に優れた大学がごく近くに存在

していたこと、95年当時の経済状況が良好で

あったこと、首都プラハからそれほど離れて

いなかったことなどである。製品の約8割が

EUをはじめとする西ヨーロッパに輸出され

ている。英国への輸出はポンド建て、欧州の

他の国への輸出はユーロ建てで行っている。

チェコでの部品調達率は約7%であるが、ス

ロバキアに進出している日系部品メーカーか

らの納入を含めると15%に達する。2000年に

はR&Dセンターを設けている。同工場の不

良品率は、1.5%と同社の他工場と比べて極

めて低い。同社の投資は、製造業における日

本からのグリーンフィールド投資の第1号で

あり、その順調な立ち上がりと生産の拡大は、

成功事例として後続の日本企業に大きな影響

をもたらしている。チェコでの投資や調達を

検討している日本企業は、同社工場を訪問し

て現場の情報を収集しており、同社による情

報発信は2000年来の日本企業によるチェコへ

の投資ラッシュに寄与している。

(2)昭和アルミニウム・チェコ

97年に投資を決定し、99年から操業を開始

している。自動車用エアコンのラジエーター

を製造している。プラハ空港に近いクラドノ

市の工業団地の入居第1号であり、チェコの

外国企業に対する投資インセンティブの適用

第1号でもある。従業員数は約300人であり、

日本人駐在員は4人である。製品の75%は

EUに輸出されている。チェコでの部品調達

率は3%であるが、徐々に拡大しつつあり、

同社によればチェコのサプライヤーのレベル

はかなり高い。チェコへの進出を決めた理由

の一つは、大口取引先である独フォルクスワ

ーゲン社から、製造業投資ならチェコだとい

う強い勧めがあったことである。チェコのな

かでもクラドノ市に決めた理由は、同市が製

鉄業を中心とする街であったため失業率が高

く、同市が外国企業の誘致に熱心であったこ

と、プラハに近く駐在員にとって良好な条件

であったことなどである。同社の見方では、

技術者の基礎レベルは日本よりも高い。空港

から近いこともあり、日本企業からの訪問者

が多く、日本企業に対する情報発信のベース

となっており、後続の日本企業投資の拡大へ

の貢献度が大きい。

(3)AVXチェコ

AVX社は、もともとは米国を代表する電

子部品メーカーであったが、89年に日本の京

セラが買収した。チェコへの進出は91年で、

英国に設立されたAVXからの出資によるも

のである。携帯電話や自動車などに用いられ

るキャパシターを製造している。立地は、チ

ェコ中東部のランシュクロン(プラハから東

に約150km)である。そこにチェコのキャパ

シター・メーカーや工作機械メーカーが存在

していたことが動機として大きい。同社の製

造設備には、近隣のチェコ・メーカーの工作

機械も多い。従業員数は4,800人であるが、

日本人の駐在員はいない。製品は100%EUに

JETRO ユーロトレンド 2001.7122

7

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輸出されている。チェコでの部品調達率は

20%である。同社は、自動車メーカーのシュ

コダ・オートに次いでチェコで2番目に輸出

貢献度の高い企業である。

5.その他

EU加盟条件のなかには、EU内の国にとっ

て受け入れが難しいものもある。労働者の移

動の自由がそれであり、ドイツとオーストリ

アは、EUの東方拡大によって中・東欧から

の労働者の移動が増えて国内の職が奪われる

ことを危惧しており、EU東方拡大の実現後

7年間は中・東欧からの労働移動を制限する

ことを提唱している。しかし、チェコではも

ともとドイツ、オーストリアをはじめ諸外国

への労働者の移動は少ない。2000年にチェコ

からEU各国へ移動した労働者は1万8千人

にすぎず、世論調査の結果でもEU加盟後に

チェコからの労働者として移動を考えている

数は約17万人である。したがって、このよう

な提案はチェコにとって実害はほとんどない

が、チェコ政府および政界は、戦後のヨーロ

ッパ統合の歴史における基本理念に反するも

のとして反発を示している。

ユーロへの加盟についてチェコ政府は、通

貨投機が防止できるというメリットは認めつ

つも、ユーロへの加盟を急ぐべきではないと

いう立場を表明している。その理由としては、

EUとの経済格差や経済構造の違いが大きい

にもかかわらず、個別の通貨政策を放棄する

ことは時期尚早であるという点が挙げられて

いる。特に、インフレへの対応が懸念されて

いる。

最近実施された世論調査によれば、チェコ

のEU加盟を支持する国民は45%であり、昨

年の49%より減少している。チェコ国民の

EU加盟に寄せる期待度は、ここ数年にわた

って他の加盟候補国に比べて小さいのが特徴

である。

(畠山 悟)

JETRO ユーロトレンド 2001.7 123

加盟後の移行期間と自由化が交渉のカギ(ポーランド)ワルシャワ事務所

ポーランド政府は、EU加盟に向けての

2000年末の重要な2つの出来事にきわめて満

足している。1つは、ポーランドのEU加盟

に向けた進捗状況に関するプログレスレポー

トでの欧州委員会の好意ある評価であり、も

う1つは、2000年12月のニースにおけるEU

首脳会議の結果であった。

1.ポーランドとEU

ポーランドは、EUにとってきわめて重要

なパートナーである。EUの輸出では、ポー

ランドは米国、スイスおよび日本に次ぐ4番

目の市場であり、EU市場では、ポーランド

は米国、日本、中国、スイス、ノルウェー、

ロシア、台湾および韓国に次いで、9番目の

輸出国である。EUとポーランドとの間の二

国間貿易の増加の割合は、EUの世界貿易よ

りも高い。「ユーロスタット」によれば、

2000年のEUのポーランドとの貿易総額は次

のとおりであった。

・EUの輸出額;337億ユーロ

(総輸出額の3.61%)

・EUの輸入額;231億ユーロ

(総輸入額の2.27%)

・貿 易 収 支 ;106億ユーロ

ポーランドにとっては、EUは輸出入のい

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ずれでも、もっとも重要なパートナーである。

ポーランドの対外貿易統計では、財・サービ

スの輸出の70%がEU向けであり、同輸入の

65%がEUからである。ポーランドの貿易赤

字の約半分(46%)は、対EU貿易で発生し

ている。

しかし、ポーランドの対EU輸出は、過去

数年では車、トラック、キネスコープ、TV

などの輸出が伸びているものの、依然として

低加工品(無煙炭、銅、船舶、鉄鋼製品、家

具など)の輸出が中心である。ハイテク製品

は、ポーランドのEU向け輸出総額の5%を

占めるに過ぎないのに対して、EUからの輸

入では約50%という高い比率を占めている。

政府戦略的研究センター(RCSS)は、こ

うしたポーランドの対EU貿易の現状から、

「EU加盟後に起こり得る長期的な脅威は、ポ

ーランドがEU諸国向けの原料および安い労

働力の供給源になることである」(注1)という

懸念を明らかにしている。また、ポーランド

の経済エリートは、将来のポーランドのEU

加盟をチャンスとみなす一方で、EUの枠組

みの中で経済的かつ政治的な格差拡大の原因

になり得るという見方を示している。

2.「プログレスレポート」に対するポーランドの反応

欧州委は、2000年11月にEU加盟候補国の

加盟準備進捗状況に関する「定期年次報告書

(以下、プログレスレポート)」を発表した。

欧州委の見解ではマルタとキプロスは、すで

にEU統一市場で競合できる段階に達してい

る。その他の3カ国(ポーランド、ハンガリ

ー、エストニア)は、短期間のうちに統一市

場で競合する能力を実現する。チェコとスロ

ベニアの立場は、経済的判断基準では悪い方

に分類される。ポーランドの場合、今回の報

告書の方が、前年の報告書の時点と比べて一

層の進展がみられるとしている。

プログレスレポートは、ポーランド・EU

関係(貿易とEU加盟交渉)の数多くの困難

にもかかわらず、ポーランドに対する前向き

な見方で構成されている。プログレスレポー

トには、ポーランドのEU加盟の政治的およ

び経済的判断基準、加盟前準備期間における

EUのポーランド向け経済援助、および交渉

31項目のうち、29項目の問題点が記載されて

いる。

今回の「プログレスレポート」に対してポ

ーランド政府は、同国に対するEUの準備進

捗評価がチェコよりも高いということもあっ

て、大きな満足を示している。一方、チェコ

では、チェコの方がポーランドよりも伝統的

に加盟準備がはるかに進んでいるとの見解を

抱いていたため、「プログレスレポート」は

多くの異論を招いた。90年代初め以来、チェ

コ、ポーランド両国は、EU加盟の目標を掲

げて張り合っていることから、チェコに対す

る欧州委の評価は、ポーランド人になお一層

の満足を与えてくれるものであった。

「同レポート」に記載されているポーラン

ドとEUの相互関係における主要な問題点は、

ポーランド鉄鋼業界の再構築、特別経済地域

(SSE)の扱い、現行の貿易関係(対外貿易

の規制)の扱い、および農産物貿易における

関税率の一部撤廃である。

「プログレスレポート」は、「ポーランド

のEU加盟準備国家計画」を前向きに評価し

ている。国家計画は、欧州統合委員会(KIE)

が入念に仕上げ、2000年に修正された。この

計画は、EU文書である「加盟のためのパー

トナーシップ」に対応して作成されたもので

ある。

同レポートは、ポーランドの加盟交渉の漸

進的な進捗状況を示している。ポーランドと

EUとの交渉に先立ち、ポーランドの法制度

JETRO ユーロトレンド 2001.7124

7

(注1)RCSSの「ポーランドのEUとの統合の分析および推定」(ワルシャワ、98年)に記載

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とEUの法制度との整合性についての調査

(スクリーニング)が行われた。加盟交渉は

98年11月に、31交渉項目中7項目の交渉から

始まった。

2001年3月末合計31項目中14項目の分野の

交渉が終了している。交渉が終了した14項目

は次のとおりである。

項目1.モノの自由移動、3.サービスの

自由移動、11.経済通貨同盟(EMU)、12.

統計、15.産業政策、16.中小企業、17.科

学・研究、18.教育・訓練、19.通信・情報

技術、20.文化・オーディオビジュアル、23.

消費者保護、26.対外関係、27.共通外交・

安全政策、28.財務管理

ポーランドは、すべての分野の交渉を2001

年末までに完了することを希望しているが、

欧州委では、2001年末の交渉完了はあまりに

楽観的過ぎると考えているようである。いず

れにしてもポーランド、EUともに、2003年

1月を最終期限として交渉を終了することを

目指しており、交渉を加速化するため、ポー

ランドは、移行期間の一部撤回を考慮に入れ

ている。ポーランドは、EU加盟の前に、航

空・鉄道輸送やガス市場を自由化し、かつ特

別経済地域(SSE)に対する公的援助を制限

する可能性もある。

3.ニースEU首脳会議に対するポーランドの反応

2000年12月のニースでのEU首脳会議は、

12カ国(中・東欧諸国、キプロスおよびマル

タ)の新規加盟に備えるためEUの機構改革

について協議し、ニース条約が成立した。今

後の拡大EUは27カ国までの加盟が可能にな

り、新規12カ国には国の人口規模に応じて、

EU諸機関(理事会、欧州議会、経済社会評

議会、地域評議会、欧州委員会)での持ち票、

議席などの配分が用意されている。ポーラン

ドは、EU機関において、スペイン(人口が

同程度)と同程度の権利を獲得した(表1参

照)。EU加盟後のポーランドは、EU組織に

おいて、スペインと同じレベルに位置するこ

とになるが、それは、主要加盟国であるドイ

ツ、フランス、イタリア、英国、スペインよ

りは劣るものの、残りのすべての諸国に勝る

ことを意味する。新規12カ国が加盟した後の

拡大EUの主要機関における加盟国の代表数

は表1のとおりである。

ニース首脳会議は、今後のEU拡大の枠組

みを作成したものであり、この枠組みの中で

EUは今後準備をしなければならない。

ニース首脳会議の結果は、ポーランドにと

ってきわめて有望な前途を約束するものであ

る。同会議は、EUが最も早い加盟候補国を

受け入れるための準備完了可能日を2003年1

月1日と定め、早期加盟候補国との交渉を

2002年の末までに終了することも可能とし

た。しかし、2002年末に交渉が終了したとし

ても、EU加盟国のすべての議会で同交渉結

果を批准しなければならないため、最も早い

加盟候補国のEU加盟が実現するのは事実上、

2004年以降となる。

ブゼク(Buzek)首相はニース首脳会議の

結果について、「ポーランドの偉大な成功で

ある」との見解を明らかにしている。また、

「迅速な加盟が実現する見通しが得られたこ

とから、ニース条約は、今後の拡大EUにお

けるポーランドの有利な立場を約束するもの

である。ポーランドのEU加盟問題は、ポー

ランドの改革の原動力と加盟条件を受け入れ

るEUの準備態勢にかかっている」としてい

る。

2000年6月には、政府は、EU規則の国内

法制化プロセスを加速する(「立法経路の迅

速化」)ための法律制定作業の特別タイムテ

ーブルを受け入れた。同テーブルによれば、

2002年末までに180~200件の法案が可決され

る予定であり、そのうち約100件は、すでに

審議中であるか議会に送られ可決されること

になっている。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 125

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政府は、2000年6月には、ポーランドの

EU加盟を支援するためにEU諸国における広

報促進計画を受け入れた。すなわち、外務省

(MSZ)は8,450万ズロチの予算を使い、EU

拡大に対するフランス、ドイツおよびオース

トリア地域住民の冷たい世論を納得させるた

めのPR活動を行った。

ニース首脳会議後、ポーランド政府は、

EUとの交渉を加速化させる計画を立ててい

る。交渉は、2002年末までに終了する予定で

あるが、多くの問題を解決するにはいくつか

の障害がある。その中には、一部の交渉分野

での移行期間に関するポーランドの提案があ

る。EUは、ポーランドの移行期間を設けた

いという提案の一部(例えば、環境保護、道

路インフラの質または燃料備蓄など)を、短

期間にそれらを改善するための十分な財務的

手段がないとの理由で了解している。しかし、

その他の多くの予定移行期間(ガス市場、航

空・鉄道輸送などの自由化など)については、

ポーランド政府は国内の独占的組織の権益を

保護しているとして、提案の一部撤回を要求

JETRO ユーロトレンド 2001.7126

7

1.ドイツ�

2.英国�

3.フランス�

4.イタリア�

5.スペイン�

6.ポーランド�

7.ルーマニア�

8.オランダ�

9.ベルギー�

10.ギリシャ�

11.チェコ�

12.ハンガリー�

13.ポルトガル�

14.スウェーデン�

15.オーストリア�

16.ブルガリア�

17.フィンランド�

18.アイルランド�

19.リトアニア�

20.スロバキア�

21.デンマーク�

22.ラトビア�

23.スロベニア�

24.エストニア�

25.キプロス�

26.ルクセンブルク�

27.マルタ�

改革後のEU合計�

理事会�

29�

29�

29�

29�

27�

27�

14�

13�

12�

12�

12�

12�

12�

10�

10�

10�

7�

7�

7�

7�

7�

4�

4�

4�

4�

4�

3�

345

欧州議会�

99�

72�

72�

72�

50�

50�

33�

25�

22�

22�

20�

20�

22�

18�

17�

17�

13�

12�

12�

13�

13�

8�

7�

6�

6�

6�

5�

732

経済社会委員会�

24�

24�

24�

24�

21�

21�

15�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

9�

9�

9�

9�

9�

7�

7�

7�

6�

6�

5�

344

地域委員会�

24�

24�

24�

24�

21�

21�

15�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

12�

9�

9�

9�

9�

9�

7�

7�

7�

6�

6�

5�

344

表1 EU主要機関における特定多数決の持ち票と議席数の配分�

出所:ニース条約より抜粋�

Page 127: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

している。ポーランド政府が、交渉を早く終

了するためには、それらの一部撤回の要求に

応じることはほぼ間違いないと思われる。

たしかに、ポーランドは、4つの基本原則

(すなわち、物品、サービス、資本および人

の自由移動)を含め、EU市場統合の条件に

適合しなければならない。ポーランド企業は、

加盟の時点で十分な競争力をつけていなけれ

ばならない。ポーランドとEUの双方で、ポ

ーランド企業の競争力には問題がないであろ

うという楽観的な見解が見られ、ポーランド

の企業組織も同じ見解を表明している。ボー

ク(Bauc)大蔵大臣も、ポーランド経済は

EU加盟後の大きなショックに対応できると

語っている。しかし、競争力は、経済分野に

よって異なっており、どの分野が加盟で有利

になり、どの分野が加盟の結果として不利に

なるかに関する研究や公的な予測は一切な

い。しかし、最も確率が高いのは、現在成長

している分野ではなお一層の成長がみられる

ということであろう。これらの分野では、ポ

ーランド企業の大部分は外国資本に支配され

ている。その他の分野では、加盟によって激

しい競争に直面するものとみられる。中小企

業を中心として、同国産業界では、統一市場

で活動することに対する脅威が認識されてい

ない。

ポーランドのEU加盟は、同国企業がコス

トの大半をEU基準への適合(例えば、ポー

ランド企業は環境保護に投資しなければなら

ない)に支払っていることから、ポーランド

企業の競争力に悪影響を及ぼすことが予想さ

れる。政府は、雇用や生産コストを削減し、

環境状態を改善するために、国家財源の圧倒

的なシェアを占めている重工業(石炭、冶金、

ガソリン部門、重化学)の一部を対象とする

構造改革計画を入念に仕上げた。これらの部

門は、結局民営化されることになろうが、大

きな資金が必要となるため、外国企業しかそ

れらの買い手とはならないであろう。外国投

資家は、民営化後は、買収した企業の経済条

件の改善に努力することになろう。

ポーランド企業は、不可欠な技術的変化に

対応し、新規流通経路を構築した後は、長期

的に徐々にEU諸国との間の自由貿易を享受

することになろう。ポーランドのすべての生

産者(国内市場向け専門に生産するものも含

む)は、EUにおける製品の認定や標準化の

義務的な要件を実現しなければならないであ

ろう(現行の認定および標準化の方式は、ポ

ーランドとEUの間で異なっている)。他方、

統一市場への輸出企業は、自社の製品のEU

および国内基準・認定への適合という二重手

続を回避することができるようになろう。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 127

100�

80�

60�

40�

20�

094年6月�

出所:社会世論研究センター(CBOS)�

図1 EUに対するポーランド人の評価�

95年5月�96年5月�97年3月�97年8月�98年5月�98年8月�98年12月�99年5月�99年11月�2000年5月�

加盟賛成�

加盟反対�

(%)�

Page 128: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

社会世論研究センター(CBOS)が2000年

5月に実施した前回の世論調査では、EU支

持率は、成人ポーランド人の59%(99年5月

比4ポイントの増加)であり、反対は25%

(99年5月比1ポイントの減少)であった。

さまざまな社会グループのうち、とりわけ農

民はEU加盟に対する反対が強く、農業人口

の41%が加盟に反対している。農民は、EU

加盟に反対するポーランドの唯一のグループ

である。

中・東欧諸国の中では、ポーランドのEU

加盟支持率は、ハンガリーよりも低い(2000

年5月時点で支持率68%、反対13%)が、チ

ェコ(同時点でそれぞれ49%と25%)および

リトアニア(同40%と35%)よりは高い。

4.投資家向けインセンティブ

投資家向けインセンティブでは、94年10月

20日の「特別経済区域に関する法律」(官報

123/1994第600条)に基づいて創設された特

別経済区域(SSE)への投資家に対して最大

のインセンティブが与えられている。同法に

基づき、政府は、95~97年の間に、命令によ

り17カ所の SSEを開設した。15カ所のSSEが

20年間、2カ所のSSEが12年間の優遇措置期

間を有している。2000年には、政府は、2ヵ

所のSSE(SSEマゾフシェとSSEチェンスト

ホヴァ:当該SSEは該当する区域での経済活

動に対する許可を与えられなかった)の廃止

を決定した。2000年には、政府は、一部の

SSEの境界も変更した。この変更の主な理由

は、フィアット・オート・ポーランド(同社

は、現在SSEカトヴィツェに含まれているビ

ェルスコ・ビヤワでディーゼル・エンジンの

工場を新設することを計画している)の圧力

によるものであった。

SSEに投資する投資家は、投資してから最

初の10年間(SSEクラクフでは6年間)は所

得税の免除および次の10年間は所得税の50%

の減免が受けられる。この優遇措置は、EU

との加盟交渉が始まる1年前の、95~97年に

付与された。SSEの大半は、2017年まで存在

するものと想定されている。「競争力政策」

をテーマとするEUとの交渉では、ポーラン

JETRO ユーロトレンド 2001.7128

7

カトヴィツェ(Katowice)�

ユーロパーク・ミェレツ(Euro-Park Mielec)�

レグニツァ(Legnica)�

ヴァウブジフ(Walbrzych)�

コストウシン・スウビツェ(Kostrzyn-Slubice)�

ウッジ(£ódz)�

クラクフ・テクノパーク(Krakow Techno Park)�

トゥチェフ・ジャルノヴェツ(Tczew Zarnowiec)�

スヴァウキ(Suwalki)�

タルノブジェグ(Tarnobrzeg)�

スタラホヴィツェ(Starachowice)�

カミェンナ・グーラ(Kamienna Góra)�

ヴァルミア・マズーリ(Warmia-Masuria)�

スウプスク(Slupsk)�

合計�

58�

36�

16�

22�

20�

20�

6�

11�

61�

25�

17�

8�

16�

10�

326

3,400�

1,500�

1,273�

531�

400�

395�

358�

213�

212�

170�

55�

36�

36�

20�

8,600

14,091�

5,200�

3,422�

5,076�

1,700�

2,445�

1,900�

1,835�

3,500�

4,200�

1,225�

570�

300�

625�

46,089

表2 SSEの活動状況(2000年6月末現在)�

付与済み許可件数�(件)�

投資額�(100万ズロチ)�

雇用総数(人)�SSE

出所:経済省�

Page 129: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

ドは、既存SSEで活動中の投資家に対する優

遇措置について、2017年までの移行期間を要

求している。

特別経済区域(SSE)における企業活動は、

いまや、ポーランドとEUとの間の主要な争

点となっている。ポーランドの「SSEに関す

る法律」は、欧州の立法と両立しない。EU

は、SSEへの投資家に対する特別な租税の減

免を廃止し、欧州の財務支援(発展途上地域

に対する補助金)の原則を導入することを要

求している。

このため政府は、法律を改正し、特別経済

地域(SSE)への新規投資家に対する財政援

助の原則を変更した。法改正の主な理由は、

企業および産業部門に対する公的補助をEU

規則に適合させるためである。EUで容認さ

れている公的補助の対象は地域である。2000

年に、議会は、あらたな「公的補助に関する

法律」の法案を可決し、「特別経済区域に関

する法律」を修正した。これらの法律はいず

れも、現在では、EU規則に適合している。

双方とも、2001年1月1日に発効した。

新規則の主な変更点は次のとおりである。

・SSEにおける新規投資家向けの所得税の

全面免除を取り消す。

・SSEへの投資家は、活動地域の発展の程

度に対応して所得税の減免(発展の程度

が低ければ低いほど高い援助)を得るこ

とができる。

・SSEに対する既存の投資には、租税の免

除(10年間の免税および11年目以降は

50%の租税の減免)が引き続き付与され

る。

新たな法律に基づき、経済省(MG)は

2000年末までに限定して、SSEにおける新規

活動に対する許可を与えることを決定した。

SSEにおける活動許可を得たすべての企業

は、94年10月以降の旧「特別経済区域に関す

る法律」で約束されているのと同じインセン

ティブを得ることができる。

「公的補助に関する法律」および修正済み

の「特別経済地域に関する法律」に基づき、

2001年1月1日から既存SSEで活動を開始する

新規企業には免税措置はない。政府は、公的

補助にいわゆる「センシティブ産業部門」を

含めるため、新規法律に対応する行政法案を

立案した。政府の推定では、(過剰生産の理

由で)センシティブ部門には、①造船、②自

動車、③鉄鋼冶金、④炭鉱、⑤合成繊維、な

どの産業が含まれる。

政府は99年に「企業向け公的補助に関する

報告書」を発表した。同報告書によると、ポ

ーランド企業は、99年には国家予算から91億

ズロチ(21億ユーロ)の支援を受け取った。

この金額の34.9%(30億ズロチ)は補助金で

あり、65.1%が租税の減免、信用保証および

資金援助(企業に対する株式拠出)であった。

2000年末までにSSEにおける既存の免税を

打ち切るとの政府の発表後、多くの投資家は、

2000年末以前にSSEに投資することを決定し

た。カトヴィツェSSEでは、125社が活動許

可を与えられたが、そのうち53社は2000年の

第4四半期中のものであった。これら125社

は、全体で総額48億ズロチを投資し、1万人

の労働者を雇用する予定である。SSEクラク

フ技術工業団地では、19社が総額で7億ズロ

チ投資し、3,500人の労働者の雇用が見込ま

れている。既存SSEには全体で4,600ヘクター

ルの土地があり、そのうち2,300ヘクタール

が700人の投資家に販売されている。700人の

投資家は、全体で115億ズロチを投資し、6

万7,000人の労働者を雇用する見込みである。

2000年末までに、2万7,000人の労働者が雇

用された。

経済省がまとめた2000年6月末現在のSSE

における経済活動状況は表2のとおりであ

る。

EUは、ポーランドのSSE問題の解決策に

満足していない。加盟交渉およびプログレス

レポートで表明されたEUの異議は、次の2

JETRO ユーロトレンド 2001.7 129

Page 130: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

点に集約される。

・法的変更にもかかわらず、政府(経済省)

は2000年末までSSEにおける新規活動に

対する許可を与えることを決定し、多く

の企業が租税免除を受けた。

・ポーランドが要求する既存SSE向けの移

行期間(2017年)は長すぎる。

ポーランド政府は、付与済みの権益が削減

された場合の投資家の変容を懸念している。

それは、いまや、加盟交渉における最も困難

な問題となっている。しかし、現在既存の9

つのSSEを創設する11の命令には、第15条に

「租税の減免および優遇措置を変更して、そ

れらを将来のEU加盟国としてのポーランド

の義務に適合させることができる」という条

項が盛り込まれている。

一方、SSEで活動中の投資家は、2001年1

月1日から始まる投資家から地租を徴収する

地方自治体当局の措置に満足していない。

SSEへの投資家は、91年1月12日以降「租税

および地方負担金に関する法律」(官報

9/1991第31条のその後の変更版)に基づき地

租を減免されていた。しかし地租の免除は、

2000年10月13日の時点で、新たな「地域的自

治政府の歳入および一部法律の変更に関する

法律」(官報95/2000第1041条)により取り消

されることになった。この法律により、上記

の91年の「法律」から第7条(既存の租税免

除の法的根拠)が取り消され、2001年1月1

日以降は、地方当局が、投資家に対する地租

の賦課または免除を決定することができるよ

うになった。

このように2001年1月1日以降、SSEへの

投資条件は以前よりも悪化してきている。

5.農産物貿易の自由化

ポーランドは、EU加盟候補国の中でEUと

の農産物における自由貿易協定を署名した最

後の国である。残りのすべての候補国は、

2000年春に当該協定に既に署名し、2000年7

月に発効している。

農産物貿易の自由化に関する、ポーランド

とEUの二国間・地域協議が行われたが、問

題点が多かった。両当事者は、関税率や農業

保護レベルについて論争し、2000年9月27日

にようやく協定に署名した。

合意された農産物貿易自由化協定の内容は

以下のとおりである。

・すべての農産物の75%(まず最初に、果

物、野菜、きのこ、家畜、馬肉)は、相

互に関税がゼロとなる。

・残りのセンシティブ品目と定義された農

産物の場合は、無関税の輸出割当量(偶

発条項付き製品)を設定し、この割当量

を毎年10%づつ増加する。2001年の輸出

割当量は次のとおりとする。

・割当量を超える輸出については現行の関

税率が適用される。

・EUの輸出補助金は撤廃される。

協定は、2001年1月1日に発効した。

6.EUのポーランド向け援助および統合費用

PHARE計画(対ポーランド・ハンガリー

経済再建援助計画、その後中・東欧諸国に拡

大)の枠組内での、EUのポーランド向け経

済援助は、90~99年には、20億5,000万ユー

ロに達した。EUは、候補国向けに2000年1

月から実施される3つの加盟前財政支援計画

を策定した。2000~2002年におけるEUのポ

ーランド向け財務支援額は次のとおりである。

JETRO ユーロトレンド 2001.7130

7

穀類�

豚肉�

豚肉製品�

鶏肉�

チーズ�

400�

30�

16�

36�

9

400�

30�

1�

20�

9

表3 2001年の輸出割当量(単位;1,000トン)�

ポーランド� EU

Page 131: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

・PHARE-IIの枠組内で毎年3億9,800万ユ

ーロ

・SAPARD(農業および農村地域への投

資)計画に毎年1億6,860万ユーロ

・ISPA(輸送および環境保護)計画に毎

年3億1,200万~3億8,400万ユーロ

EU統合にかかわるコストを推定すること

は、きわめて困難である。政府の「EUとの

統合の恩恵とコストに関する報告書」(2000

年7月に発表)は、EU非加盟の場合のコス

トも示している。同報告書は、99-2002年の

予算上の正確な統合費用を示したものである。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 131

モノの自由移動�

人の自由移動�

サービスの自由移動�

資本の自由移動�

会社法�

競争政策Ⅰ�

Ⅱ変形(SSEの排除)�

農業�

漁業�

運輸�

税制�

経済通貨同盟(EMU)�

統計�

社会政策・雇用�

エネルギー�

産業政策�

中小企業�

科学・研究�

教育・訓練�

通信・情報技術�

文化・オーディオ-ビジュアル�

地域政策�

環境�

消費者保護�

司法・内容�

関税同盟�

対外貿易関係Ⅰ�

Ⅱ変形�

共通外交・安全保障政策�

財務管理�

財政・予算規定�

合計:変形最小�

合計:変形最大�

1�

2�

3�

4�

5�

6�

7�

8�

9�

10�

11�

12�

13�

14�

15�

16�

17�

18�

19�

20�

21�

22�

23�

24�

25�

26�

27�

28�

29�

12.4�

1.1�

1.4�

18.2�

8.3�

0.0�

299.3�

0.3�

96.8�

0.3�

0.3�

20.9�

1.0�

0.1�

0.0�

0.2�

48.0�

23.5�

2.1�

0.0�

440.0�

6.5�

185.6�

12.0�

0.0�

0.0�

0.1�

6.0�

0.0�

1,185.0�

1,185.0

20.6�

3.6�

15.5�

19.9�

12.9�

0.0�

745.5�

19.8�

215.4�

0.5�

0.4�

8.6�

4.5�

0.9�

0.0�

23.7�

134.5�

31.4�

2.5�

509.4�

400.0�

7.0�

309.4�

317.0�

0.0�

0.0�

0.1�

2.1�

0.0�

2,805.0�

3,655.0

32.0�

9.1�

15.7�

7.9�

4.4�

0.0�

1,361.0�

24.3�

286.9�

35.6�

0.5�

40.6�

3.0�

1.1�

0.0�

123.2�

196.3�

39.1�

0.0�

720.7�

400.0�

7.5�

380.0�

470.0�

0.0�

180.0�

0.0�

0.0�

0.5�

4,159.0�

4,339.0

31.8�

13.0�

15.7�

8.1�

5.0�

0.0�

1,766.0�

29.0�

288.4�

4.5�

0.5�

7.6�

2.8�

1.2�

0.0�

123.2�

252.0�

45.6�

0.0�

1,009.0�

400.0�

8.0�

344.0�

400.0�

0.0�

370.0�

0.0�

0.0�

0.5�

4,756.0�

5,126.0

96.8�

26.8�

48.3�

54.1�

30.6�

0.0�

850.0�

4,171.8�

73.4�

887.5�

40.9�

1.7�

77.7�

11.3�

3.3�

0.0�

270.3�

630.8�

139.6�

47.1�

4.6�

2,239.1�

1,640.0�

29.0�

1,219.0�

1,199.0�

0.0�

550.0�

0.2�

8.1�

1.0�

12,957.0�

14,357.0

(単位;100万ズロチ)�表4 ポーランドのEU統合コスト�

内    訳� 1999年� 2000年� 2001年� 2002年� 合 計�

出所:ポーランド政府発表「EUとの統合の恩恵およびコストに関する報告書」�

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7.ポーランドのEU加盟に対する進出外資企業の見方

ポーランドで活動中の次の外国企業(その

うち、三星を除くすべてがポーランド国内市

場向けに生産している)への聞き取りに基づ

く調査結果を以下にとりまとめた。

・大宇自動車(韓国): ワルシャワ、ル

ブリン、ナイセなどの自動車、バンおよ

び部品工場。部品の輸入、自動車の輸出。

・大宇エレクロトニクス(韓国): プル

シクフ(Pruszków)のTV工場。サブア

センブリの輸入、TVの輸出。

・ティムケン(米国): ソスノヴィエツ

のローラーベアリング工場。軸受鋼の輸

入、ローラーベアリングの輸出。

・コルゲート・パルモリヴ(米国): ワ

ルシャワ近郊のハリヌフ(Halinów)の

化粧品工場。化粧品の輸入。

・アセロン・ケミカルズ・アンド・ファイ

バ・コープ(台湾): トマシュフ・マ

ゾヴィエツキの合成繊維工場。生産用機

械類を輸入し、最終製品を輸出。

・R. J.レイノルズ・タバコ会社(米国):

ピアセスノ(Piaseczno)の工場。タバ

コの輸入、国内市場向け生産。

・三星エレクトロニクス(韓国):ワルシ

ャワのオフィス・ビルおよび流通。電子

機器の輸入。

・UNPホールディングス(カナダ):

食品業界、包装機器およびガラス向けの

機械生産会社に対する出資。国内市場向

け生産。

・サウス・アフリカン・ブルアリズ(南ア

共和国): Kompania Piwna SAの最

有力株主。国内市場向けビールの生産。

上記の企業は、ポーランドのEU加盟後の

メリットがデメリットより大きいことを期待

している。これら企業の大半にとって最も重

要な点は、自動車部品やタバコ製品を中心と

する、輸入品の関税率引き下げである。EU

加盟国として、ポーランドは、関税率が比較

的低いEUの関税率を受け入れることになろ

う。対外貿易協会(IKiCHZ)の推定による

と、輸入生産財に対する平均関税率は、2000

年の6.2%からEU加盟後は2.6%に引き下げら

れ、欧州共通貿易政策(ポーランドの東の境

界がEUの境界となる)に準じた欧州共通関

税が適用されることになる。自動車、自動車

部品、タバコの場合、ポーランドの関税率は、

EUの関税率よりもかなり高い。

ポーランドのEU加盟の結果、世界のEU域

外企業のポーランド市場へのアクセスはより

自由になる。ポーランド政府は、次の品目を

中心として、「第三国」からの競争が激化す

ることを期待している。すなわち、ビデオ機

器、掃除機、繊維、医療器械、機械部品など

である。米国、カナダ、日本、韓国、台湾、

香港、シンガポール、オーストラリアおよび

ニュージーランドからの、加盟後の生産財の

輸入増加は9.5%(「EUとの統合の恩恵およ

び費用に関する報告書」によれば約3億

3,000万ドル)と推定されている。

ポーランドで活動中の企業は、EU市場に

自由にアクセスできるようになる。聞き取り

調査対象の全企業にとって、前途はおおいに

有望である。企業(たとえば、台湾のアセロ

ンなど)は、EUの製品基準をすでに取り入

れており、近い将来同基準を維持するのに何

の問題もない。自由化の中でポーランドの工

場を買収した企業は、製品基準を急速にEU

要件に適合させつつある。この問題では、ポ

ーランドの地場企業がより多くの問題を抱え

ることになろう。

調査対象の企業は、EUのより高度な環境

保護要件への適合におけるトラブルを予見し

ていない。応用近代技術は、環境に比較的や

さしいからである。生産企業はポーランドの

EU加盟後、EUの環境保護基準への適合に費

JETRO ユーロトレンド 2001.7132

7

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用の大半を支払うことになる。国内企業(民

営および公営)は、近い将来、環境保護に投

資しなければならなくなる。国内企業は、ポ

ーランドで活動中の世界のEU域外企業より

も不利な立場に立たされることになろう。欧

州委の推定では、ポーランドの自然環境の

EU基準への適合費用は総額で340億~350億

ユーロに達する。

インフラ(電気通信や輸送)は、現在、経

済活動の障害のひとつである。調査対象企業

は、ポーランドのEU加盟によりインフラが

改善されることを希望している。ポーランド

政府は、99~2002年の間に輸送インフラに対

し約9億ズロチの予算を割り当てることを計

画している。この金額は欧州委の推定と比べ

れば、それほど大きなものではない。ポーラ

ンドの輸送インフラに対するニーズの総額は

360億ユーロに達する。輸送や環境保護に対

処するためのEUのISPA計画には、プロジェ

クトに応じて、年間3億1,200万~3億8,400

万ユーロの予算が割り当てられている。

調査対象企業の推定では、労働コストの上

昇が、ポーランドのEU加盟によって想定さ

れる唯一の不利な結果である。しかし、この

上昇は、急激にではなく徐々に起こるものと

予想されている。このため企業には、新しい

条件に適合するための時間的な余裕がある。

その上、ポーランドでは、労働能力が、実質

賃金の上昇より高い度合いで向上している。

加盟後のポーランドの労働コストは、現在の

EU15カ国よりも引き続き低い水準で推移す

ると見られている。

調査対象企業は、ポーランドのEU加盟か

ら上記以外に次のような恩恵が得られること

も期待している。

・事業上の問題解決に際して、公的セクタ

ーの迅速な対応が図られる。

・行政管理が高度化し、汚職が減る。ポー

ランド企業の推定では、中央、地方を問

わず、さまざまな役所で汚職が多い。

・経済問題を扱う裁判所の質が向上する。

・炭鉱および冶金を中心として、不採算産

業分野に対する財政支援が削減される。

・財政支出の減少の結果、租税額をできる

だけ引き下げることができる。

・外国の直接投資額の流入が増加する。

・ポーランドの、通貨統合および為替相場

メカニズム(ERM)へのアクセスおよ

びユーロ導入。これらはポーランド政府

の予測では、2006年には可能とみている。

一般に、ポーランド市場で活動中の「第三

国」企業における同国のEU加盟支持の度合

いは、国内企業よりも高い。さらに、これら

外国企業がポーランドのEU加盟の恩恵にあ

ずかる度合いが国内企業よりも高くなるの

は、ほぼ間違いないと思われる。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 133

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JETRO ユーロトレンド 2001.7134

1.EU加盟に向けたスケジュールと主な課題

(1)加盟スケジュール

安定化・連合協定締結に関するクロアチア

とEUとの交渉は、2000年1月24日に開始さ

れ、2001年6月末までに交渉が終了する見通

しである。交渉自体は順調に進むと予想され

ているが、その後EU全加盟国各々の承認手

続きが必要なため、正式な発効まで時間がか

かることが予想される。同協定の有効期間が

そのままクロアチアのEU加盟準備期間とな

るが、具体的な期間を表す数字は前もって設

けられることはない。また、同協定締結によ

り、EUがクロアチアをEU加盟国として承認

しなければならないという義務は生じない。

この期間中にクロアチアは正式にEU加盟

申請することになり、EUはこれをもってク

ロアチアを正式な加盟候補国として承認する

ことになる。また、クロアチアはこの正式申

請でアキ・コミュノテール(欧州共同体の基

本条約に基づく権利と義務の総体)など一連

のEU基準を適用していく義務を負うことに

なる。正式加盟までのEUとクロアチアの協

力体制についても事前に明確化される訳では

ないため、クロアチアのEU加盟は、この間

安定化・連合協定締結後、EU加盟を申請(クロアチア)

クロアチアは2001年6月までにEUと安定化・連合協定の交渉を終了させ、同協定締結

後正式にEU加盟申請をする予定である。EUがクロアチアを正式なEU加盟候補国と承認し

たのち、加盟に向けた交渉が始まる。クロアチア政府は2006年までに加盟作業を終了する

と宣言しており、同国政府が行った調査によると、国民の約8割がEU加盟に賛成してい

る。産業界もEU加盟により長期的には利点があるとする一方、加盟の時期については

「数年以上かかる」との現実的な見方をしている。クロアチアとEUの経済的な関係はすで

に深く、2000年の対EU貿易額は輸出・輸入ともに全体の約55%を占めている。対内直接

投資額でもEUは全体の60%以上を占める。本レポートでは、クロアチアのEU加盟準備の

現状と対EU経済関係について報告する。

ウィーン・センター

8

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 135

の両者の利害関係によって左右されることに

なる。この点を踏まえ、クロアチアはできる

限りこの加盟準備期間を短くし、必要な改革

を効率的に実施していくことが求められる。

現在、クロアチアはEUの加盟候補国とし

て正式に認知されていないが、クロアチア政

府関係者および欧州委員会関係者の最近のコ

メントには、「クロアチアは現在の加盟候補

国を追い抜く力を秘めている」といった内容

のものが多くなってきている。これは、同国

がスロベニアと並んで旧共産圏時代の先進地

域であり、文化的、歴史的に見ても最も西欧

に近い国であったという事実に起因してい

る。しかし、2000年までは、独立後の内戦や

前トゥジマン政権とEUとの確執などの影響

で、クロアチアの政治的・経済的欧州化は遅

れる一方であった。2000年初頭の新政権発足

後は、政治・経済での改革が効果的に実行に

移されれば、同国は、例えばスロバキアやブ

ルガリアなどの正式候補国を追い抜くことが

できるという希望が広く国民全般に浸透して

いる。ラチャン首相は、2006年までにEU加

盟準備作業を完了することを宣言している。

(2)加盟に向けた課題

EU加盟に必要な条件は、「コペンハーゲン

基準」として知られているが、クロアチアも

この基準に適合していかなければならない。

①民主主義、法の遵守、少数民族の人権の保

護などを保障する安定した政治体制

②機能している市場経済の存在

③EU内での競争および市場圧力への対処能力

④アキ・コミュノテールへの適合

クロアチアにも課せられることになるこれ

らEU基準への適合であるが、その必要性に

ついては現在のところ、政府、国民などクロ

アチア社会全般の間に広くコンセンサスが存

在している。しかし、今後こうした流れの中

で具体的な政治・経済改革が実施されるに伴

い、ネガティブな影響を受けるグループは、

これらの改革に対して異論を唱えることも予

想される。加盟の流れに逆行する動きが大き

ければ大きいほど、クロアチアのEU加盟の

実現は困難になるが、同国の専門家の間では、

こうした動きを見越して、実際の加盟実現ま

でには8年はかかるだろうという見方が強い。

また、EU加盟はクロアチア1国の準備作

業次第で決定するものではなく、多分に外的

要因によって左右されると考えられる。安定

化・連合協定を締結した場合、クロアチアに

は、周辺諸国、特にボスニア・ヘルツェゴビ

ナ、マケドニア、ユーゴスラビアなど、他の

安定化・連合協定締結過程にいる国々との協

力関係が求められることが明らかであり、微

妙な問題を未だに抱えるバルカン諸国間で、

政治的対話、司法面での協力、WTOに即し

た自由貿易協定の締結など、相互の協力関係

を構築していく必要が生じる。安定化・連合

協定の目的のひとつは、バルカン地域の政治

的不安定を取り除くことにあるため、例えク

ロアチアのようにバルカン諸国の中で一歩リ

ードしている国であっても、バルカン地域全

体の動きが、特定の1カ国のEU加盟に影響を

与える可能性が非常に高い。EU加盟上、こう

した周辺諸国との関係強化もクロアチア外交

にとってますます重要なものになっていく。

加えて、EU加盟は、候補国を個別に、と

いうよりは、その加盟準備の進展に基づいて、

いくつかのグループ単位で分別する傾向があ

るため、クロアチアが早期加盟を実現するう

えで、ブルガリアやルーマニアといった現在

の候補国の中で比較的遅れている国々に並ぶ

ことが重要である。

さらに、中・東欧諸国のEU加盟は、必然

的にEU自体をも変化させるものであり、短

期間で多くの国々を加盟させる現在の流れの

中では、現加盟国の中にさまざまな政治的問

題、例えば、旧ユーゴ諸国のANVOJ法問題

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JETRO ユーロトレンド 2001.7136

8

やチェコ、スロベニア両国の原子力発電所に

絡めた加盟反対運動などを引き起こす危険性

も指摘されている。

こうした問題の解決は通常は非常に困難な

ものが多く、解決に長い期間を要することか

ら、クロアチアのEU加盟にとってもEU側の

出方というものが最も大きな懸念材料となっ

ている。特に、旧ユーゴ内戦時の戦犯問題は、

クロアチアが抱える大きな問題の一つであ

り、国内の経済状態が改善されぬまま、EU

加盟に必要という理由で戦犯の起訴を推し進

めれば、間違いなく国内の民族主義者グルー

プの反発が予想され、加盟への大きな障害に

なる危険性がある。

2.EU加盟

(1)政府の反応

EUを始め、欧州の諸機関への加盟は、ク

ロアチア政府にとって最も重要な目標の一つ

となっている。同国では、欧州統合省

(Ministry for European Integration)が新た

に設立されており、同省はEUとの協力関係

の構築、政治・経済面でのEU基準への適合、

EU関連の教育・普及、資料の翻訳、地方行

政府とのEU関連事項調整など、EU関連業務

全般を所掌している。

政府にとってEU加盟は同国の政治的、経

済的発展を図る上で欠かせない長期的な目標

であり、加盟によって生じるメリットは同様

に生じるデメリットを大きく上回ると認識さ

れている。政府は現在、EU加盟準備作業を

効果的かつオープンなかたちで推進すべく、

「クロアチアのEU加盟戦略とその影響評価」

の作成を計画している。なお、政府は2006年

までに加盟準備作業を終了、その後正式加盟

という目標を掲げている。

(2)国民一般の反応

国民の大部分は政府同様、クロアチアの

EU加盟に賛成している。国民のEU加盟への

態度やEUについての理解度を測るため、欧

州統合省は、2000年7月と12月の2度にわた

って世論調査を実施した。12月の調査結果で

は、95.2%がEUの存在を認知していた。この

うち、EUのメカニズムや加盟による費用対

効果(メリット、デメリット)など詳細な情

報を持っている人々が34.1%を占め、EUに関

する基礎的な知識を持つに止まっているのが

41.3%、単にEUの名前だけを認識しているの

が19.5%という結果であった。EU自体に対す

る意見については、78.7%が肯定的に評価し

ており、6.2%がEUの存在を否定的に見てい

る。クロアチアのEU加盟については、76.7%

が加盟賛成、7.9%が加盟反対となっている。

特に、人口2,000人以上の都市部に住む知識

層や15歳から34歳の若年層に強い支持が見ら

れる。加盟後の影響(複数回答可)について

は、75~80%が加盟により開かれた国境、政

治的・経済的発展、科学技術の進歩がもたら

されると信じ、74.8%は生活水準の向上を期

待している。一方で、53.3%は、低価格・高

品質の外国製品が流入し、外国企業との競争

が激化することで、クロアチア企業が被害を

被るとの懸念を抱き、何らかの経済的問題が

起こりうると予想している。35.7%の人々は、

EU加盟でクロアチアの主権が制限されると

主張している。そして、これら回答者の大半

が、EU加盟に関するさらなる詳細な情報を

欲していることが調査結果として明らかにな

っている。

(3)安定化・連合協定

99年6月、EUはクロアチアなど南東欧諸

国に対し、「安定化・連合プロセス」を提示

したが、クロアチアとEUの関係については、

その後2000年1月の政権交代まで際立った進

歩は見られなかった。クロアチアは、旧ユー

ゴ内戦に関する国際犯罪法廷への非協力的態

度、ボスニア・ヘルツェゴビナ難民問題、民

主化の遅れなどを理由に、それまではEUか

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 137

ら非難され続けてきた。しかし、2000年初頭

に実施された国会および大統領選挙で政権交

代が実現、一気に民主化へ向かったことが

EUに評価され、2000年11月24日には、首都

ザグレブでEU各国首脳と南東欧諸国首脳に

よる「EUバルカンサミット」が開催された。

同会合では、EU加盟に向けた協力関係の構

築、バルカン地域の相互協力関係などについ

て議論された。

その後、EUとクロアチアの間で安定化・

連合協定締結交渉が開始され、クロアチアの

EU加盟に向けた第一歩が踏み出された。同

交渉は、2001年6月末までに終了する予定で

あり、その間に、モノやサービスの自由移動、

法制度の整備などといったEU加盟上必要な

原則が明らかにされていくことになる。また、

安定化・連合協定の締結では、まずクロアチ

ア製品の対EU向け輸出が自由化され、その

後EU製品の対クロアチア輸出が自由化され

ていくことになる。

また、クロアチアのEU統合の一部は、「再

建・民主化・安定化への共同体支援計画」

( CARDS, Community Assistance for

Reconstruction, Development and

Stabilization)プログラムおよびバルカン安

定化条約(Stability Pact)のメカニズムを通

して実施される予定である。特にEUは

CARDSプログラムを通して2001~2006年の

間に530億~550億ユーロ相当の支援を南東欧

諸国向けに実施することを決定しており、そ

のうちクロアチア向け支援は3億1,300万ユ

ーロに上る見通しである。

(4)政治・経済面でのハーモナイゼーション

クロアチアがEU加盟に向けた政治的、経

済的調和を図る上で、安定化・連合協定が公

式的な原理原則となるが、現段階では締結ま

で時間があり、内容も明らかになっていない

ことから、政府および欧州統合省は独自に

EU基準との整合を図るべく諸改革を進めて

いる。

正式な加盟準備作業は、安定化・連合協定

締結の日から開始され、徐々にEU法との適

合が進められる。この過程で、競争政策、国

家補助金、資本の移動、知的所有権の保護、

政府調達、消費者保護などの主要分野で法整

備が行われる。その後クロアチア国会の承認

を経ながら、最終的にはEU正式加盟までに

すべての法整備を完了することになる。

安定化・連合協定で明示されるEU加盟に

向けた法整備は、クロアチア経済にとって大

きな影響を与えるものである。これらの影響

を予想、分析し、経済面での調和を図るため

に詳細な影響評価調査が求められている。こ

れについては、欧州統合省が影響評価調査の

詳細な手順をとりまとめ、その後各分野の監

督省庁が調査を実施する計画である。

クロアチアがEU正式加盟をするうえで一

番の問題は、コペンハーゲン基準が求める

「市場経済」と「競争力」を満たすことであ

る。これは政府の努力だけではなく、クロア

チア経済の復興のペースに大きくかかってい

る。

EU加盟で生じる変化は、特にクロアチア

の貿易、財政・金融セクターに大きな影響を

及ぼす。クロアチアの通貨(クナ)をユーロ

にリンクさせることや、通貨同盟に参加する

ことで生じるメリットは、財政主権の喪失や

現在ですら成し得ていない為替の調整機能を

失うなどのデメリットを補うと考えられてい

る。財政面でも、EU加盟準備過程で年金・

健康保険改革を通してGDPに占める公共支出

の比率(2000年で32%)を引き下げる必要が

あるなど、プラスの効果が期待できる。また、

関税収入が減少する反面、低コスト体質の財

政を構築し、EUからの補助金を得られるこ

とで、4%を超える財政赤字のGDP比率を引

き下げる効果があると考えられている。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7138

8

表1 クロアチアの外国貿易�(単位:100万米ドル)�

�輸出(FOB)�総額� 先進国�  EU� CEFTA� その他�輸入(FOB)�総額� 先進国�  EU� CEFTA� その他�収支�総額� 先進国�  EU� CEFTA� その他�

4,020�2,778�2,407�153�1,089�

�5,188�3,395�2,849�437�1,356�

�△1,168�△617�△442�△284�267

1990年� 1994年� 1995年� 1996年� 1997年� 1998年� 1999年� 2000年�

4,260�2,729�2,531�174�1,357�

�5,229�3,525�3,096�304�1,400�

�△969�△796�△566�△130�△43

4,633�2,862�2,672�188�1,583�

�7,510�5,300�4,664�462�1,748�

�△2,877�△2,438�△1,992�△274�△165

4,512�2,478�2,303�184�1,849�

�7,788�5,262�4,625�566�1,960�

�△3,276�△2,784�△2,323�△381�△111

4,171�2,266�2,074�189�1,716�

�9,104�6,260�5,412�632�2,213�

�△4,933�△3,994�△3,337�△443�△497

4,541�2,377�2,161�171�1,994�

�8,383�5,822�4,980�546�2,015�

�△3,842�△3,446�△2,819�△375�△21

4,303�2,448�2,110�128�1,727�

�7,799�5,199�4,415�464�2,136�

�△3,496�△2,750�△2,305�△337�△409

4,390�2,631�2,391�132�1,627�

�7,911�5,134�4,398�542�2,235�

�△3,521�△2,503�△2,008�△411�△608

出所:クロアチア中央統計局�

3.外国貿易と外国直接投資

(1)EUとの貿易

クロアチアにとって、EUは最大の貿易相

手となっている。2000年の対EU輸出は、総

輸出の54.5%を占め、EUからの輸入は全体の

55.6%を占めている(表1参照)。EU加盟国

のうち、最大の貿易相手国はイタリアであり、

次いでドイツ、オーストリアと続いている

(表2参照)。

EU向け輸出をみると、過去5年間の動向

はクロアチアにとって好ましい結果とはなっ

ていない。97年にはEU向け輸出の減少に歯

止めがかかったが、99年まで低調に推移し続

けていた。93年から99年にかけてEU域内の

輸入が大幅に増加したにもかかわらず、クロ

アチアの対EU輸出は伸び悩みを見せていた。

クロアチア製品の輸出の伸び悩みは、同国輸

出産業の競争力の低さを物語っている。しか

し、2000年に入り、対EU輸出が前年比13.3%

増加、額にして23億9,000万ドルに達するな

ど、ようやく改善の兆しが見え始めている。

これは、2000年9月、EUがクロアチアの産

業・加工品の輸入枠を撤廃し、農産物枠につ

いても拡大したことが影響している。この措

置は2002年末まで継続され、その間にクロア

チア企業が事業の再構築のスピードを加速す

れば、その後もこの傾向は続くものと予測さ

れている。

輸出先を国別に見てみると、トップはイタ

リア(対EU輸出の40.8%)、続いてドイツ

(同26.2%)、オーストリア(同12.1%)、フラ

ンス(同5.2%)となっている。2000年には、

これら4カ国で対EU輸出の84.3%、全輸出の

45.9%を占めている。他のEU諸国が占める割

合は非常に限られているため、今後もこの4

カ国が主要な位置を占めることに変化はない

と考えられる。

クロアチアのEU諸国からの輸入について

は、過去2年で大幅に減少してきていたが、

2000年には前年比0.4%減少の44億ドルと、

減少傾向に歯止めがかかりつつある。輸入相

手国トップは輸出同様イタリア(対EU輸入

の30.6%)で、以下ドイツ(同29.4%)、オー

ストリア(同12.0%)、フランス(同9.9%)

と続いている。2000年の輸入に占める上記4

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 139

表2 クロアチア国別輸出先�

(単位:1,000米ドル)�

総額� EU�  オーストリア�  ベルギー�  デンマーク�  フィンランド�  フランス�  ギリシャ�  アイルランド�  イタリア�  ルクセンブルク�  モナコ�  オランダ�  ドイツ�  ポルトガル�  スペイン�  スウェーデン�  英国�

4,340,866�2,220,950�222,883�38,334�5,884�1,513�79,760�15,318�22,197�904,282�451�24�

61,682�774,643�1,638�8,231�16,258�67,224

4,541,114�2,161,067�247,338�40,132�5,213�1,346�102,265�9,982�28,089�801,683�

10�277�

52,833�766,992�2,637�11,846�18,927�71,498

4,302,498�2,110,220�275,981�31,072�6,843�2,482�108,163�33,852�24,733�774,733�

26�21�

49,875�676,065�4,758�19,245�22,441�79,932

4,390,086�2,390,714�288,801�42,005�9,587�2,117�125,223�89,279�37,998�974,630�1,792�14�

49,671�627,177�5,471�25,083�35,966�75,899

出所:クロアチア中央統計局�

1997年� 1998年� 1999年� 2000年�

カ国の割合は、対EU輸入の81.9%、全輸入の

45.6%となっている。この傾向も輸出同様、

当分変わりそうにない。

対EU貿易赤字は97年に33億3,700万ドルと

最大の赤字を記録、その後若干沈静化してき

ている。この貿易赤字縮小は主に、輸出の増

加ではなく輸入の減少が要因となっている。

2000年は、EU向け輸出が13.3%と大幅に増加

表3 クロアチア国別輸入先�

(単位:1,000米ドル)�

総額� EU�  オーストリア�  ベルギー�  デンマーク�  フィンランド�  フランス�  ギリシャ�  アイルランド�  イタリア�  ルクセンブルク�  モナコ�  オランダ�  ドイツ�  ポルトガル�  スペイン�  スウェーデン�  英国�

9,122,511�5,430,920�709,061�96,346�62,075�31,672�292,554�22,544�42,241�

1,723,817�3,641�357�

170,116�1,840,840�1,638�93,984�147,441�188,919

8,383,064�4,979,699�612,375�110,270�61,192�44,757�401,032�18,517�52,730�

�1,500,223�2,716�347�

161,443��1,615,953�

2,763�110,331�108,639�176,411

7,798,641�4,414,663�557,595�114,183�64,806�32,157�392,546�17,570�21,318�

1,240,138�3,669�116�

141,789�1,440,957�2,723�82,575�115,659�186,861

7,911,159�4,398,266�527,753�114,717�62,684�33,674�435,888�19,512�35,285�

1,347,116�2,629�126�

130,828�1,293,022�3,004�101,160�111,350�179,517

出所:クロアチア中央統計局�

1997年� 1998年� 1999年� 2000年�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7140

8

表4 クロアチア累積外国直接投資�(単位:100万米ドル)�

1993年�1994年�1995年�1996年�1997年�1998年�1999年�2000年�Total

0.00�0.00�0.00�0.00�0.00�0.00�0.00�0.00�0.00

120.26�116.96�113.96�509.53�357.54�626.00�1,237.66�541.23�3,620.79

n/a �n/a �n/a �n/a �40.35�68.26�47.09�87.89�243.59

n/a �n/a �n/a �n/a �0.00�0.00�0.00�0.00�0.00

n/a �n/a �n/a �n/a �2.65�0.00�0.00�△1.33�1.33

n/a�n/a�n/a�n/a�

△7.95�△14.65�3.59�1.57�

△17.44

n/a�n/a�n/a�n/a�

140.76�243.24�153.80�131.00�667.93

120.26�116.96�113.96�509.53�533.35�922.85�1,442.14�760.36�4,516.19

株式投資�留保利益� 総 額�

債 権� 債 務�証券投資�

債 権� 債 務�その他投資�

債 権� 債 務�

(注)2000年は9月までの金額�出所:クロアチア中央銀行�

し、輸入は0.4%減少したことから、貿易赤

字も約20億ドルと改善した。今後、この貿易

赤字を解消するには、2つの要因、すなわち

クロアチア輸出産業の競争力強化とEU域内

需要の拡大に頼るところが大きい。

EU加盟の影響については、短期的にはク

ロアチア経済の競争力の低さのため、輸入が

増加することでマイナス的なものにならざる

を得ないが、長期的には加盟のメリットがデ

メリットを上回ると予想される。経済の自由

化とEU経済への統合で、安定した貿易制度、

競争力の強化、技術移転などが得られると期

待されている。

(2)EUからの外国直接投資

①現状

クロアチア中央銀行の調査によると、93年

1月から2000年9月までの同国への外国直接

投資総額は45億1,600万ドルであり、株式投

資が全体の80.2%、36億2,000万ドルを占める。

株式投資以外の統計は97年以降のみのデータ

になるが、額としてはわずかである(表4参

照)。

国別のトップは米国(24.65%)であるが、

EUからの投資を合計するとそのシェアは

60%を超えている(表5参照)。これに欧州

復興開発銀行(EBRD)の融資による投資を

加えると、全体の3分の2を超え、貿易同様、

投資の面でもEUの重要性は変わらない。

EU各国のうち、最大の投資国はドイツ

(全投資の23.35%)となっており、これは99

年にドイツテレコムが8億5,000万ドルを投

じてクロアチアテレコム(HT)の株式35%

を取得したことが大きく影響している。次い

でオーストリア(同19.68%)、ルクセンブル

ク(同6.98%)が続いている。イタリア、フ

ランスといった、クロアチアにとって主要な

貿易相手国が外国直接投資の面では活発な動

きを見せていないことは大変興味深い。貿易

で占めるシェアと比較すると、両国の投資面

で占めるシェアは2%程度と極めて低い。イ

タリアの場合、イタリア商業銀行(BCI)と

ウニ・クレディト(UniCredito)両銀行がそ

れぞれクロアチアのPrivredna銀行および

Splitska銀行を買収した2件のケースのみで

大半の投資額を占めている。

将来的には、引き続きドイツ、オーストリ

アの2国が主要な投資国としての地位を維持

していくと予想されているが、他のEU諸国

からの投資も増加傾向にある。

②将来の見通し

現在、クロアチア政府は外国直接投資を経

済成長と雇用促進に欠かせないものと位置付

け、投資の障害となる諸制度を改革すべく努

力している。

政府は2001年1月、IMFのスタンド・バ

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 141

イ・アレンジメントに関する同意書にサイン

し、3月のIMF理事会で承認され、2億5,000

万ドルのIMF特別引出権が与えられた。政府

は、このIMFとの合意が国際金融市場や特に

EUに対しての信用度を増すと期待しており、

この信用度こそ外国直接投資を増加させる重

要な要素になると信じている。

また、政府は2001年中、総額10億ドル相当

の民営化計画に取り組んでおり、これも外国

直接投資を呼び込む主要施策として位置付け

られている。これにはクロアチアテレコム

(HT)、国内最大手の保険会社クロアチア

osiguranje、Dubrovacka銀行、クロアチア銀

行、クロアチア電力公社(HEP)、クロアチ

ア国営石油(INA)など主要国営企業のほと

んどが含まれている。HTについては既に一

部の株式をドイツテレコムに売却している

が、これら国営企業の民営化についても、ほ

とんどがEU域内企業の買収によると予測さ

れており、クロアチア市場におけるEU域内

企業のプレゼンスはさらに高まると思われ

る。

4.クロアチア企業とEU

政府や国民、産業界は、EU加盟がもたら

す長期的なメリットを期待している反面、特

に産業界は、加盟まで早くても数年以上かか

るだろうとの現実的な認識を有している。

EU加盟に向けた経済改革や市場経済への

移行は、クロアチア企業にとって「EU加盟

のために」必要なものというよりは、むしろ

競争力が低下していた企業自身の「事業の再

構築のために」必要という意味合いが強い。

彼らにとっては、EU加盟は第二義的なもの

として捉えられている。クロアチアの主要優

良企業は、同国のEU加盟プロセスよりも先

行して積極的な活動を展開している。彼らは、

従来から、限られた国内市場だけでは生き残

りを図れないという意識を持ちつづけてお

り、国外企業との競争に打ち勝つためには、

国内市場はもちろんのこと、国外市場での自

社のプレゼンスを高めることが最も重要な経

営戦略と認識していた。製薬最大手のPliva

社、食料品のPodravka社などは、国内市場

のシェアを守るという姿勢ではなく、海外、

主にCEFTA諸国に積極的な投資活動を行っ

ている。Pliva社などは、CEFTA諸国に止ま

らず、EU域内にも進出しており、最近では

英国の製薬会社Pharmascience社を買収して

いる。こうした海外への投資活動からも、ク

ロアチアへの外国直接投資と同様、効率経営、

技術移転など、企業にとって良い影響がもた

らされると考えられている。

2000年12月に発行された「Business to

Business Research」(クロアチアの主要企業

78社に対するアンケート結果)によると、彼

らの2001年の業績予想はおおむね良好なもの

となっている。79.2%の企業は新製品の開発

を計画しており、65.8%は新規市場開拓に自

信を見せている。また、雇用面でも、63.2%

の企業が新規採用を行うとしている。そして、

65.8%の企業が海外市場での成功を信じてお

り、同様に59.4%の企業が国内市場での成功

に確信を抱いている。

また、最近のクロアチア企業を特徴づける

動きとして、ISOの認証取得が挙げられる。

表5 クロアチア国別外国直接投資比率�

(単位:%)�

米国�ドイツ�オーストリア�ルクセンブルク�オランダ�イタリア�スウェーデン�英国�EBRD�フランス�その他�総額�

24.65�23.35�19.68�6.98�3.74�2.59�2.33�2.27�2.19�2.01�10.21�100.00

国  名� 93-2000年�9月�

出所:クロアチア中央銀行�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7142

8

クロアチア規格・計量局のデータによると、

20 0 1年2月現在、2 5 0社以上の企業が

ISO9000およびISO14000の認証を取得してい

る(www.dznm.hr/indexen.html)。

しかし、EU加盟に積極的な姿勢を維持す

る企業がある反面、多くのクロアチア企業は

こうした流れに乗り切れずにいることも事実

である。前述した優良企業群を除けば、大半

の企業は事業の再構築に手間取り、また、こ

れまで国内市場でのみ活動してきたため、国

内でのシェアを守る姿勢に徹してしまい、国

外進出にまで漕ぎ付けない状況にある。加え

て、国内の企業間、または企業と行政機関と

の協力体制が弱く、資本的にも国外市場にア

クセスすることが難しい中小企業にとって

は、他の企業もしくは公的機関の援助なしで

は海外のパートナーを探し出すことすら不可

能な状態にある。結果として、クロアチア企

業の多くは、中・東欧諸国、特に、競合相手

が少なく、自社のブランドネームが認知され、

民族的にも近い旧ユーゴ構成国への進出に限

られてしまっている。

こうした二極化(EU域内攻勢グループと

旧ユーゴ市場保守グループ)が進むクロアチ

ア産業界であるが、2000年、EU域内でのク

ロアチア製品およびクロアチアの主要産業で

ある観光業の伸びは満足のいく結果であっ

た。また、EUが2000年、クロアチアの産

業・加工品に関する輸入枠を撤廃したこと

(2002年12月31日まで)や農業製品の輸入枠

を拡大したことが好材料となって、この傾向

は2001年も継続すると予想される。

【参考文献】1)Mayhew, A.(1998): Recreating Europe: The European Union's Policy towards Central and Eastern

Europe, Cambridge: Cambridge University Press.'Poslovna ocekivanja', Privredni vjesnik, 20 December 2000.

2)Samardzija, V. et al(eds)(2000): Croatia and the EU: Costs and Benefits of Integration, Zagreb: IMO. 3)Stanicic, M. et al(2000): 'International Relations', draft for a partial development strategy of Croatia4)Vujovic, S.(2000)'Politika stabilizacije i realni efektivni tecaj', master's thesis, Zagreb: Faculty of

Economics.【参考ウェブサイト】1)クロアチア中央統計局: http://www.dzs.hr/priopcenja2000.htm2)クロアチア中央銀行: http://www.hnb.hr/eindex.htm3)欧州統合省 :http://www.mei.hr/eng/frameset-eng/home.html4)クロアチア国家規格・計量局: http://www.dznm.hr/indexen.html

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 143

1.ポーランドの民営化について

(1)概況

民営化の基本的な目的は、企業への新たな

資本の流入と、雇用形態を変えることによっ

てポーランド経済を効率的かつ競争力あるも

のにすることである。1990年以前に民間企業

がポーランドのGDPに占める割合はわずか

に7%であり、残りの93%は国有企業による

ものであった。

90年以前のポーランドは社会主義国家であ

ったため、国有企業のGDPに占める割合が

高いのは当然であった。社会主義時代におい

ては、ポーランドのすべての大企業と多くの

中小企業、それに小さな町の小売店に至るま

で国有企業であった。特に小さな工場や小売

店については、県や市町村の下部組織として

扱われてきた。現在では、これら小さな工場

や小売店のほぼすべてが民営化されている。

ポーランドにあった8,744の国有企業は、

以下の省庁によって管轄されていた。

・産業分野の企業…………………商工省

(Ministry of Industry)

・建設分野の企業…………………建設省

(Ministry of Construction)

・大規模店、卸売店………国内市場省

(Ministry of Internal Market)

・外国貿易を営む企業(CHZ)…外国貿

易省(Ministry of Foreign Trade)

・銀行業と保険業…………………財務省

(Ministry of Finance)と中央銀行

(National Bank of Poland)

・大規模農場………………………農業省

(Ministry of Agriculture)

商工省管轄の企業は民営化省(Ministry of

Privatisation=MPW:現在は廃止された)

によって民営化されたが、他の省庁が管轄す

る企業についても、90年代半ばに民営化され

た。現在、民営化は分野を問わず、すべて国

有財産省(Ministry of State Treasury=MSP)

によって行われている。

経済の効率化、競争力強化を目指した民営化の現状(ポーランド)

ポーランドでは、いくつかの分野で遅れが出ているものの、全体的に見れば着実に民営

化が実施され、また、ポーランドの多くの企業が民営化を前向きに捉えようとしている。

しかし、今後は公的色彩の強い独占企業体の効率的な民営化、失業問題などへの取り組み

が課題である。

ワルシャワ事務所

9

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JETRO ユーロトレンド 2001.7144

9

90年代初頭から、ポーランドの国営企業は

いくつかの方法により既に民営化のプロセス

に入っていたと言える。ポーランドには

8,744以上の企業が実際には存在していたが、

公式な統計にはこれらの企業しか出てこな

い。また、地方自治体によって民営化された

企業についても同様に、これらの統計には出

てこない。

国有企業の民営化計画においては、すべて

の企業が民営化の対象となっている訳ではな

く、民営化の対象となっていない企業も存在

している。民営化の対象となっていない企業

には、まず第1にポーランド経済にとって戦

略的に重要であると思われる企業が考えられ

るが、このことについてポーランド政府は具

体的な事例を挙げていない。おそらく、国有

財産省は最終的には郵便や空港、港湾、通信

施設、それに鉄道施設を民営化するものと思

われる。

ポーランドの民間企業は、現在全労働者の

70%以上を雇用し、GDPの3分の2以上を

生産していると試算されている。民間企業の

比率は農業分野で96.5%と最も高く、続いて

小売分野の94%、建設分野の93%となってい

る。製造業における民間企業の割合は64%と

なっている。このような民間部門の急速な発

展には、外国からの資本流入が大きく貢献し

ている。

(2)民営化の法的根拠

ポーランドの国営企業の民営化には、以下

の3つの方法がある。

・資本民営化(Capital Privatisation)

・直接民営化(Direct Privatisation)

・清算(Liquidation)

資本民営化は、主として大規模国有企業に

対して用いられる。この方法は、国有企業を

100%国有財産省所有の株式会社とした上で、

各投資家に対して株式を売却するというもの

である。国営企業は直ちに株式会社化される

訳ではなく、株式会社化(民営化)に向けて

企業自身の変革を行う必要があり、実際に株

式が売却されるまでに何年かの歳月が必要と

される場合がある。 この資本民営化の法的

根拠となっているのは、90年7月13日施行

(その後一部改訂)の国有企業民営化法

(Law on Privatisation State-Owned

Enterprise/Dz.U.51/1990)である。その後、

96年8月30日に国有企業商業民営化法(Law

on Commercialisation and Privatisation of State

Owned Enterprise/Dz.U.118/1996/item561)が

制定され、97年4月8日から施行された。

資本民営化には、93年4月30日の国民投

資 基 金 ( N F I ) に よ る 民 営 化 計 画

(Dz.U.44/1993/item202)によって民営化が

計画されている企業も大量に含まれている。

この国民投資基金による民営化計画の対象企

業は全部で512社あり、それぞれの企業の60%

の株式が15の国民投資基金に移管された。

直接民営化は、業績のあまり良くない従業

員500人以下で年間売上高600万ECU、資本

金200万ECU以下の中小規模の企業に対して

用いられる。

直接民営化の法的根拠は、その後一部改訂

されたものの、上述の96年8月30日の国営企業

の商業民営化法(Law on Commercialisation

and Privatisation of State Owned

Enterprise/Dz.U.118/1996/ item561)である。

清算による民営化は、非常に経営状態の悪

い企業に対して用いられる。これらの企業の

資産は、購入したいと考える購買者に売却さ

れる。この清算による民営化の法的根拠は、

81年9月25日の国有企業法(Law on State-

Owned Enterprise/Dz.U.18/1990/ item80)

と91年10月19日の農地民営化法(Law on

Agricultural Real Estate of Treasury

/Dz.U.107/1991/item464)である。すべての

国有集団農場( P G R)は農業資産庁

(Agency of Agricultural Property =

AWRSP)によって民営化される。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 145

(3)90年代の民営化の進捗状況

90年から99年末にかけて8,744の国有企業

の73.3%にあたる6,407社が、民営化されたか、

民営化される途上にある。各民営化の進捗状

況は以下のとおりである。

・資本民営化によって民営化される企業

………………… 1,430社

うち民営化が完了した企業の数

…………………… 256社(18%)

うち国民投資基金(NFI)に移管の企業数

……………… 512社

うち機関投資家に売却された企業数

………… 239社

うち証券取引所で一般に売却された企業

数…………39社

うち清算手続き(Liquidated)された企

業の数……………12社

うち破産手続き(Bankrupted)された

企業の数 ………… 47社

・直接民営化によって民営化される企業

………………… 1,688社

うち民営化が完了した企業の数

………………1,655社(98%)

・清算によって民営化される企業と農場

……1,635社(企業)と1,654社(農場)

うち民営化が完了した企業と農場の数

………………… 753社(46%)

上記の数字が示しているように、多くの

企業はまだ民営化の途上であり、完全に民

営化された企業の数は決して多くはない。さ

らに、国有財産省の基準では、株式のわずか

でも売却すれば完全民営化とされており注

意を要する。

資本民営化は最も利益率の高い民営化方法

であるが、民営化が完了している企業はまだ

少数に過ぎない。一方、その他の民営化の方

法によるものについては、より大きな前進が

見られる。それぞれの方法による民営化の開

始と終了についての詳細(国有農場は除く)

は、図1のとおりである。

民営化の対象となっている企業の産業別の

詳細は図2のとおりである。

表1 90年代の民営化の進捗状況�

出所:ポーランド中央統計局(GUS)�

130�

58�

6�

44�

15�

28�

3�

合 計�

6,407�

1,430�

256�

1,688�

1,655�

1,635�

753�

1,654

民営化され�

る企業数�

資本民営化�

-うち完了�

直接民営化�

-うち完了�

清算民営化�

-うち完了�

国有農場�

1,128�

250�

24�

372�

228�

506�

30�

1,402�

173�

22�

246�

305�

263�

90�

720

1,271�

156�

46�

203�

216�

294�

103�

618

803�

221�

36�

120�

159�

155�

92�

307

501�

246�

25�

113�

127�

133�

108�

9

362�

131�

24�

146�

184�

85�

110�

298�

49�

41�

186�

158�

63�

102�

265�

86�

16�

124�

127�

55�

72�

247�

60�

16�

134�

136�

53�

43�

1990年�1991年�1992年�1993年�1994年�1995年�1996年�1997年�1998年�1999年�

(単位:社)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7146

9

図1 民営化の方法別に見た民営化進捗状況�

出所:ポーランド中央統計局(GUS)�

0 500 1000 1500 2000

清算民営化�

直接民営化�

資本民営化�

753

1635

1655

256

1430

1688

民営化が完了した企業� 民営化される企業�

図2 民営化対象企業の産業別比率�

出所:GUS

輸送、テレコム�7%�

その他�13%�

貿 易�12%�

建 設�17%�

鉱工業�52%�

欧州産業分類(European Classifications

of Activities=ECA)に基づくポーランドの

民営化対象企業は、4,753社となる。ただし、

この中には銀行や保険などの金融分野につい

ては含まれていない。(表2参照)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 147

(4)資本民営化に占める外国資本の割合

国有財産省は、国民投資基金によって民営

化される企業を除いて、99年末までに256社

の企業の株式を投資家に売却した。このうち、

外国投資家が株式の一部でも購入した企業の

数は92社となっている。

資本民営化が最も進んでいる産業分野は、

食品、タバコ、鉱物、医薬品、機械、電機、

それにパルプ産業である。これらの産業分野

においては、外国人による株式の所有比率が

相対的に高くなっており、99年末時点で、ド

イツ企業が資本民営化企業の34社を買収する

など、活発な事業活動を展開している。ドイ

ツに続いて活発な事業活動を展開している国

は、米国(資本民営化企業の20社を買収)、

オランダ(同10社を買収)、フランス(同7

社を買収)、スウェーデン(同7社を買収)、

英国(同6社を買収)である。

表2 欧州産業分類(ECA)に基づく分野別民営化対象企業数�

出所:GUS

合計�

鉱工業�

 鉱業�

 製造業�

 -食品・飲料�

� -タバコ�

� -繊維�

� -アパレル・毛皮衣料�

� -皮革�

� -木材�

� -紙・パルプ�

� -出版・印刷�

� -石炭・石油精製�

� -化学品�

� -ゴム・プラスチック�

� -その他非鉄金属製品�

� -基礎金属�

� -金属製品�

� -機械・設備�

� -事務機器・コンピュータ�

� -電気機械・装置�

� -ラジオ、テレビ、テレコム装置�

� -医療機器・精密機器�

� -自動車・トレーラー・セミトレーラー�

� -その他輸送機器�

� -家具、その他製造業�

� -リサイクリング�

電気・ガス・スチーム・水供給�

建設�

貿易・保守サービス�

輸送、テレコム�

4,753�

2,461�

141�

2,246�

388�

8�

161�

77�

46�

94�

39�

52�

8�

108�

42�

247�

60�

127�

425�

6�

77�

41�

63�

37�

58�

82�

16�

79�

825�

547�

301

1,430�

1,154�

97�

987�

198�

7�

99�

26�

20�

18�

20�

12�

8�

62�

23�

80�

43�

50�

146�

2�

44�

22�

23�

23�

44�

31�

2�

75�

128�

45�

42

1,688�

633�

23�

606�

58�

1�

43�

27�

14�

37�

3�

13�

-�

6�

4�

103�

6�

39�

165�

1�

11�

9�

20�

6�

6�

27�

7�

4�

329�

207�

185

1,635�

674�

21�

653�

132�

-�

19�

24�

12�

39�

16�

27�

-�

40�

15�

64�

11�

38�

114�

3�

22�

10�

20�

8�

8�

24�

7�

-�

368�

296�

74

分 類� 合 計� 資本民営化� 直接民営化� 清 算�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7148

9

ポーランド外国投資庁(PAIZ)によると、

99年末までのグリーンフィールドや小規模な

ジョイント・ベンチャーによる投資を含むポ

ーランドへの外国直接投資額は、累計で390

億ドルに達している。このうちの173億ドル

は製造業に対する投資であり、79億ドルは金

融分野に対する投資である。99年1年間のポ

ーランドへの外国直接投資額は83億ドルであ

り、これは98年の100億ドルに比べ若干減少

している。

表3 欧州産業分類(ECA)に基づく資本民営化によって株式が売却された企業�

出所:GUS

合計�

鉱工業�

 鉱業�

 製造業�

 -食品・飲料�

� -タバコ�

� -繊維�

� -アパレル・毛皮衣料�

� -皮革�

� -木材�

� -紙・パルプ�

� -出版・印刷�

� -石炭・石油精製�

� -化学品�

� -ゴム・プラスチック�

� -その他非鉄金属製品�

� -基礎金属�

� -金属製品�

� -機械・設備�

� -事務機器・コンピュータ�

� -電気機械・装置�

� -ラジオ、テレビ、テレコム装置�

� -医療機器・精密機器�

� -自動車・トレーラー・セミトレーラー�

� -その他輸送機器�

� -家具、その他製造業�

� -リサイクリング�

電気・ガス・スチーム・水供給�

建設�

貿易・保守サービス�

輸送、テレコム�

256�

212�

8�

201�

35�

6�

6�

8�

-�

1�

8�

2�

-�

18�

7�

21�

7�

12�

25�

1�

19�

6�

6�

2�

2�

9�

-�

3�

28�

6�

4

92�

85�

3�

81�

13�

4�

-�

2�

-�

1�

5�

1�

-�

7�

5�

12�

2�

2�

5�

1�

7�

3�

3�

-�

1�

7�

-�

1�

5�

1�

-�

分 類� 合 計� うち外国資本が入った企業�

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(5)民営化に伴う歳入

民営化に伴う政府の歳入は、年々増加して

いる。92年から99年までの民営化による政府

の歳入額は表5のとおりである。

ポーランド予算法(Budgetary Law)によ

ると、2000年の民営化による政府の歳入は

200億ズロチに達する。民営化に必要な費用

はPHARE基金から一部支援されている。

(6)民営化対象企業の政府持ち分の企業価値

国有財産省は、99年末時点における民営化

対象企業の政府持ち分の企業価値は1,620億

ズロチであると試算している。

・商業化段階の企業(Companies of

Treasury) 628億ズロチ

・ 国 有 企 業 ( State-owned firms)

421億ズロチ

・農業財産局所有の資産(Property of

AWRSP) 211億ズロチ

・その他(Shares in other companies)

357億ズロチ

これら資産の大部分は、近い将来売却され

る予定である。また、これらの資産価値は民

営化に伴い低下していくものと思われる。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 149

表4 資本民営化された主要企業�

出所:ポーランド国有財産省(MSP)�

Pekao SA/ Bank�

TP SA/ telecom�

PKN SA/ petrol�

PZU SA/ insurance�

Bank Zachodni�

KGHM/ copper�

BHW/ bank�

PBK/ bank�

Polfa Poznzn�

/ pharmaceutical�

Celuloza Swiecie�

/ pulp and paper�

ZPT Krakow�

/ tobacco�

Stomil Olsztyn�

/ tyres�

Polfa Krakow�

/ pharmaceutical�

WWW Poznzn�

/ tobacco

1998�

1999�

1998�

1999�

1999�

1999�

1997�

1997�

1997�

1998�

1997�

1996�

1995�

1997�

1996

社 名��

Public offer�

Italian�

Unicredito+German�

Public offer�

Public offer�

Bank Gdanski with�

Eureko�

Allied Irish Bank�

/AIB�

Public offer�

Public offer�

Public offer�

British Glaxo�

Wellcome�

Public offer �

Austrian�

Frantschach�

Philip Morris/ �

Holland�

Public offer�

French Michelin�

Croatian Pliva�

German Reemtsma

投 資 家��

15.0%�

52.1%�

15.0%�

30.0%�

30.0%�

80.0%�

32.8%�

19.0%�

70.0%�

80.0%�

15.0%�

65.0%�

65.0%�

16.8%�

52.1%�

80.0%�

65.0%�

916�

4,200�

3,147�

2,400�

3,000�

2,200�

1,348�

1,310�

1,007�

770�

154�

550�

580�

64�

280�

339�

306

-�

-�

-�

-�

600�

-�

-�

-�

-�

560�

613�

363�

-�

376�

245�

103

持株比率� コミット�金 額�(100万ズロチ)�

年�

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2.主要産業分野における民営化の動向

ポーランドにおける民営化の進展は、分野

によって大きく異なっている。進展具合の速

さについては、①その分野における企業の数、

②民間企業と国有企業の全資産に占める割

合、③外国投資家に対する魅力の程度、の3

つの視点から見ることにより理解することが

できる。

(1)燃料と発電

燃料と発電には、①電気と熱の生産と輸送、

分配、②石炭(無煙炭とかっ炭)の生産、③

原油の精製とガソリンの生産、④ガスの生産

とパイプラインの分野が含まれている。

ポーランドにおけるエネルギーの大部分

は、石炭によって賄われている。石炭が全エ

ネルギーの生産に占める割合は現在約3分の

2であるが、90年代初頭においては4分の3

を占めていた。

発電部門は、大企業によって独占されてい

るのとは対照的に、配電部門に多くの中小企

業が存在している。特に新技術である水力、

風力、バイオ・マスによる発電については、

その傾向が顕著となっている。

① 石炭

無煙炭の採掘は、現在61(90年代初頭には

70以上)の炭坑で行われている。このうちの

13の炭坑については、現在清算による民営化

プロセスの途上である。最終的には24の炭坑

が清算により民営化される予定である。ポー

ランドの石炭採掘コストは非常に高く、輸出

しても採算がとれないことから、清算による

民営化が行われている。ポーランド政府は、

最も採算がとれていない炭坑は閉鎖し、残っ

た炭坑については民営化により民間企業に売

却することを考えている。現在採算がとれて

いる炭坑はごくわずかであり、残りの大部分

は赤字の状態である。炭鉱の民営化は遅々と

して進んでいない。しかし、ポーランド政府

は2002年に、南東部ルブリン地域にある

KWK Bogdanka社を民営化することを諦め

てはいない。その他の炭鉱についても、2002

年以降民営化する計画である。

90年代中頃から、ポーランドにある61の無

煙炭の炭坑のうち、51の炭坑については7つ

の持株会社の元に収れんされた。99年末にお

ける炭坑労働者の数は、17万3,000人となっ

ており、これは90年台初頭の30万人強から大

幅な減少となっている。また、2002年には、

さらに減少して、12万8,000人になると予想

されている。

かっ炭については、現在5つの炭坑がすべ

て発電所向けに産出している。これら5つの

かっ炭会社で、合計2万6,000人の従業員を

雇用している。かっ炭会社はすべて公的企業

JETRO ユーロトレンド 2001.7150

9

表6 ポーランドのエネルギー構造�

出所:ARE S.A.

  分 類�

無煙炭�

かっ炭�

原 油�

天然ガス�

新技術�

水力、風力、等�

1990年�

62.2�

13.6�

14.0�

9.0�

1.2

1992年�

62.3�

14.0�

14.3�

8.1�

1.3

1994年�

58.3�

13.6�

15.5�

8.6�

4.0

1996年�

57.8�

12.2�

16.8�

8.7�

4.4

1998年�

50.6�

14.0�

20.2�

10.2�

5.0

表5 民営化による政府の歳入額�

出所:ポーランド外国投資庁(PAIZ)�

(単位:100万ズロチ)

政府の民営化収入�

1992年�

309

1993年�

440

1994年�

846

1995年�

1,722

1996年�

1,956

1997年�

6,636

1998年�

6,590

1999年�

12,950

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となっており、業績も好調である。かっ炭会

社は、かっ炭による発電所が民営化された後

に民営化される計画である。

ポーランド外国投資庁によると、99年末に

おける鉄鋼石や鉱石の採掘を含む鉱業分野へ

の外国直接投資は、累計で6,800万ドルとな

っている。

② ガス

ポーランドにおけるガス産業は、PGNiG

S.A.による独占の形態をとっている。PGNiG

社は、3万3,000人を雇用している。

・原油とガスの生産:年間470万~480万hm3

・ガスの輸入: 年間 750万~770万 hm3

・ガスパイプラインによる輸送:6万キロ

・最終消費者への分配: 670万世帯

・天然ガスの貯蔵量: 100万 hm3

PGNiG社では、現在民営化に先立ってリス

トラが行われている。同社は98~99年にかけ

て、技術部門と建設部門、それに探査部門な

どいくつかの部門に分割された。同社は原油

とガスの生産を行うPGN S.A.と天然ガスの

分配と輸入、それに輸送を行う4つの会社に

分割される予定である。この分割は2001年に

実施される計画だが(注)、政府は現在に至る

までも本件について明確な態度を示していな

い。PGNiG社の分割後、それぞれの会社は民

営化される計画である。ただし、ガスの輸送

については、その戦略的重要性から民営化さ

れるかどうか不明である。

③ 石油

ポーランドの石油産業には、バルト海海底

からの原油生産をはじめとする原油の生産や

輸入、精製、ガソリン、その他の石油製品の

生産、パイプラインや鉄道による輸送、燃料

貯蓄施設からの分配も含まれている(陸上に

おける原油の採掘については、PGNiG社が担

当している)。

石油産業には、3,000以上あるガソリンス

タンドをはじめとして、数多くの企業が参入

している。石油産業で最も大きな企業は

PKN S.A.であり、同社はポーランドで最大

の利益を上げている。同社はプウォツクとト

ウシェビニャ、それにイエドリチェに3つの

製油所を所有しており、このうちプウォツク

にある製油所はポーランド国内で最大規模と

なっている。同社はまた、ポーランド国内で

2,000店以上のガソリンスタンドを所有する

最大のガソリン販売業者でもある。同社は99

年11月に一部民営化され、株式の30%は売却

された。現在同社は、ワルシャワ証券取引所

に上場されている。国有財産省は、次に続く

30%の株式の売却を2001年中に行いたいと考

えている。同社は、石油分野における最初の

大型民営化案件である。この他に民営化の対

象となっている企業は以下のとおりである。

・Gdansk Refinery S.A.

ポーランド第2の精油所。2001年に、外

国投資家に売却される予定である。国有

財産省は99年初頭にも売却を試みたが失

敗に終わっている。

・Refinery Czechowice S.A.

ポーランド南部に小さな製油所を所有す

る企業。

・Refinery Glimar S.A.

ポーランド南部に小さな製油所を所有す

る企業。

・Refinery Jaslo S.A.

ポーランド南部に小さな製油所を所有す

る企業。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 151

(注)国有財産省は2001年2月、PGNiGの民営化計画を国会に提出した。民営化計画によると、PGNiGは6つのガス関係会社に分割される。既に、PGNiGからガス探鉱・採掘会社が1社、ガス販売会社が4社分割されている。残ったPGNiGはガスの貯蔵・輸入並びにガスの輸入契約を行う。

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Czechowice S.A.、Glimar S.A.、Jaslo S.Aの3

つの企業は、PKN S.A.やGdansk Refinery S.A

と比較して小規模ではあるが、Rzeczpospolita

紙発表のポーランド企業利益額上位500社に

ランクされている。各精油企業の規模は、表

7のとおりである。

Trzebinia S.A.とJedlicze S.A.は、PKN

S.A.に買収された。残りの製油企業は独立し

た企業となっている。その他の石油関連企業

には、以下のものがある。

・Petrobaltic S.A.:バルト海から原油とガ

スを産出

・PERN S.A.:パイプライン(2,500キロ)

の保守

・Naftobazy S.A.:燃料貯蔵庫(150万m3)

の管理

・Naftoport Sp.zo.o.:石油製品の海上積み

替えの実施。PKN S.A.が設立

・DEC S.A.:石油製品の鉄道輸送(1万

1,500の鉄道用輸送タンクを所有)

ポーランド政府は、DEC S.A.を含むすべ

ての精油企業を売却する準備ができている。

特に国有財産省は、DEC S.A.について、外

国の大手鉄道会社であるWisconsin Central

Transportation社やその他の企業と売却の交

渉を行っている。

PERN S.A.、Naftobazy S.A.、Petrobaltic

S.A.は戦略的に重要であるとして民営化の対

象にはなじまないとする意見もあるが、おそ

らく将来的には民営化されるものと思われる。

現在、ポーランドの石油産業は国有企業に

よって支配されているが、この状態は精油企

業が民営化されることによって、今後数年で

大きく変わるものと思われる。外国企業は、

ポーランドの精油企業やその他の石油関連企

業の民営化に高い関心を示している。これま

でいくつかの企業がガソリンスタンド網建設

のために多くの資金をポーランドに投入して

きた。シェル、BP、Statoil、コノコ、エッ

ソ、アラルがポーランド国内に所有するガソ

リンスタンドの数は、合計600以上に達する。

これらの企業の多くは、今すぐにでも精油企

業の民営化に入札したいとしている。ポーラ

ンド外国投資庁は、99年末までに外国企業が

ガソリンスタンド網建設に投入した資金は、

累計で10億ドルを超えたと発表している。

(2)金属

金属分野には、欧州産業分類(ECA)に

基づく鉄鋼や非鉄金属などの基礎的金属製品

の生産が含まれる。基礎的金属製品の生産量

は表8のとおりである。鉄鋼製品の生産量は

低下傾向にあり、一方、非鉄金属の生産量は

増加傾向にある。

金属関係分野の従事者数は98年末時点で13

JETRO ユーロトレンド 2001.7152

9

表7 ポーランドの各精油企業の規模�

出所:Nafta Polska S.A., List of 500 Rzeczpospolita

PKN S.A.�

Gdansk S.A.�

Czechowice S.A.�

Trzebinia S.A.�

Jedlicze S.A.�

Glimar S.A.�

Jaslo S.A.�

合 計�

12.60�

3.50�

0.70�

0.60�

0.13�

0.17�

0.20�

17.90

12,002�

3,288�

627�

372�

132�

135�

100�

16,656

7,702�

1,643�

1,307�

827�

1,275�

854�

1,197�

14,805

1�

12�

128�

79�

with PKN�

82�

134�

-�

精油所名�生産能力�

(100万トン)�99年の処理量�(1,000トン)�

従業員数�(人)�

企業利益額上位�500社に占める順位�

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万4,500人である。このうち、鉄鋼分野の従

事者数は8万5,000人であり、非鉄分野の従

事者数は4万5,000人となっている。金属関

係分野に所属する企業の数は、合計851社と

なっている。

① 鉄鋼

ポーランドには25の鉄鋼会社があるが、こ

のうち完全に民営化されているのはHuta

Lucchini Sp.zo.o.(イタリアのLucchini社が

所有)1社である。

国民投資基金(NFI)による民営化の対象

となっている5社の鉄鋼会社や、借入金の担

保として株式を差し出すという財務健全化計

画により、銀行に支配されるかたちで一部民

営化されている鉄鋼会社もある。一部民営化

されている鉄鋼会社は、次のとおりである。

Huta Batory S.A.、Huta Buczek S.A.、

Huta Ferrum S.A.、Huta Jednosc S.A.、

Huta Laziska S.A.、Huta Malapanew S.A.、

Huta Ostrowiec S.A.、

Huta Pokoj S.A.、Huta Stalowa Wola Sp.

zo.o.、Huta Szczecin S.A、

Huta Zabrze S.A、Huta Zawiercie S.A、

Huta Zymunt S.A

政府が所有する鉄鋼会社は次のとおりであ

る。

Huta Andrzei S.A、Huta Bankowa S.A、

Huta Cedler S.A、

Huta Czestochowa S.A、Huta Florian S.A、

Huta Gliwice S.A、

Huta Katowice S.A、Huta Kosciuszko

S.A、Huta Labedy S.A、

Huta Sendzimir S.A

現存する唯一の国有鉄鋼会社は、Huta

Baildonである。

2000年に、国有財産省はポーランド最大規

模を誇るKatowice鉄鋼会社とSendzimir鉄鋼

JETRO ユーロトレンド 2001.7 153

表8 金属製品の生産量の推移�

注:98年の右欄は1994=100とした指数�出所:GUS

フェロメタル、フェロアロイ �

粗鋼�

熱延製品�

冷延鉄板�

亜鉛板�

錫板�

鋼管�

アルミニウム�

電解銅�

亜鉛�

鉛�

銀�

6,932�

11,113�

8,595�

925�

289�

79�

503�

49�

405�

158�

61�

1,064

分 類� 1994年�

7,420�

11,890�

8,998�

1,073�

377�

83�

576�

56�

407�

166�

66�

1,001

1995年�

6,600�

10,432�

8,532�

1,007�

354�

81�

532�

52�

425�

165�

66�

935

1996年�

7,343�

11,585�

9,296�

1,095�

414�

56�

538�

54�

441�

173�

65�

1,038

1997年�

6,178�

9,916�

7,942�

938�

377�

37�

483�

52�

447�

176�

64�

1,100

1998年�

89.1�

89.2�

92.4�

101.5�

130.7�

47.2�

96.0�

106.1�

110.3�

111.9�

105.1�

103.4

表9 ポーランドの金属関係企業の数�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

62�

789�

709�

39�

41�

851

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会社、それに比較的規模の小さいCedler鉄鋼

会社とFlorian鉄鋼会社の株式の大部分を売

却する計画である。英国とオランダ、それに

イタリアの鉄鋼会社は、Katowice鉄鋼会社

とSendzimir鉄鋼会社の民営化に興味を示し

ている。しかし、外国投資家は、EUがポー

ランド政府に対して課した鉄鋼産業のリスト

ラ計画に基づく粗鋼生産量の縮小と従業員の

削減を考慮しなければならない。

② 非鉄金属

ポーランドの非鉄金属分野は、生産性の高

い22の企業によって支配されている。この分

野には、ポーランドにおいて埋蔵量が大変豊

富な銅や鉛、アルミニウム、それに亜鉛も含

まれている。最大の企業は、3つの銅坑と3

つの精練所を持つKGHM Polska Miedz S.A.

である。同社の株式の半数以上(51%)は既

にワルシャワ証券取引所を通じて市場で売買

されていることから、半民間企業であると言

える(政府は株式の49%を所有)。国有財産

省は、2000年に少なくとも10%以上の同社の

株式を投資家に対して売却する計画である。

その他の主要な企業は、以下のとおりである。

・Zaklady Gorniczo-Hutnicze Boleslaw:

亜鉛(国有企業;商業化もされていない)

・Huta Aluminium Konin S.A.:アルミニ

ウム精練会社。Impexmetal社が株式の

部を所有

・Huta Metali Niezelaznych Szopienice

S.A.:非鉄金属の精練

・Hutmen S.A.:銅の精練。ワルシャワ証

券取引所上場の民間企業

・ZML Kety S.A.:アルミニウム精練会社。

ワルシャワ証券取引所上場の民間企業

・Huta Cynku Miasteczko Slaskie:亜鉛

(国有企業:商業化もされていない)

・Huta Olawa S.A.:非鉄金属の精錬。ワ

ルシャワ証券取引所上場の民間企業

・ZM Skawina:アルミニウム精練会社。

Impexmetal S.A.が株式の一部を所有

・ZM Silesia S.A.:非鉄金属の精錬。

Impexmetal S.A.が株式の一部を所有

・WM Dziedzice S.A.:非鉄金属の精錬。

Impexmetal S.A.が株式の一部を所有

・ZG Trzebionka S.A.:鉄鉱石の採掘。国

民投資基金(NFI)による民営化対象企業

・ZGH Orzel Bialy S.A.:鉄鉱石の採掘。

国民投資基金(NFI)による民営化対象

企業。

非鉄分野の輸出は、業界最大手であり、ま

たポーランド最大の輸出企業であるKGHM

Polska Miedz S.A.を中心として、ポーラン

ドの全輸出額の5%を占めている。全世界の

銅の生産量に占めるポーランドの比率は約

4%である。銀については、約10%となって

いる。しかし、銀については、外国投資家は

興味を示していない。

(3)電機

電気機器の分野には、①電気エンジン、発

電機、変換機、②配電器具、③絶縁ワイヤー

とケーブル、④電池・バッテリー類、⑤照明

器具、⑥エンジン用電気部品が含まれる。

この分野はポーランドで最も大きな成長を

遂げている分野の1つである。この分野の産

業全体に占める売り上げの割合は2.7%とな

っており、就労者数は8万2,000人(産業分

野全体の雇用の3.2%)、平均賃金は98年時点

JETRO ユーロトレンド 2001.7154

9

表10 電気機器関連企業の数(98年)�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

69�

6,578�

6,371�

137�

70�

6,647

Page 155: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

で月額(グロス)390ドルとなっている。98

年末における電気機器関連分野に所属する企

業の数は、合計6,647社であった。

このように98年末におけるポーランドの電

気機器関連企業の数は6,647社あるが、従業

員50人以上の比較的規模の大きい企業は272

社となっている。このうち国有企業は54社、

民間企業は218社となっている。この分野の

売り上げに占める民間企業の割合は80%を超

えており、輸出では90%を超えている。

この分野で最も注目すべき企業は、スイス

とスウェーデンの多国籍企業ABB社とポー

ランドのElektrim S.A.である。その他の主要

な外国企業としては、Philips(照明器具)、

Philips Matsushita Batteries(乾電池)、

American Exide(蓄電池製造のCentra S.A.

を買収)、NKT Cables(オランダ:ケーブ

ル)、Ahlstromforet(スイス:照明器具)な

どが挙げられる。

Elektrim S.A.は、OzarowとZalomでケー

ブルの生産を行っていたBFKの工場を利用

してケーブル会社Polskie Kable S.A.を設立、

同分野に進出した。ケーブルの生産は、エレ

クトロニクスの技術革新を先導する分野の1

つである。Elektrim S.A.は、KGHM Polska

Miedz S.A.とNKT Cablesとの間で激しい市

場競争を行っている。

この他の注目すべき企業としては、分盤器

とコントロール機器を生産しているApator

S.Aや電極を生産しているZaklady Elektrod

Weglowych S.Aがある。この両社はいずれ

もワルシャワ証券取引所に上場している。こ

の分野においては、17の企業が国民投資基金

(NFI)による民営化の対象となっている。

(4)事務・通信機器

事務・通信機器の分野には、事務機器やコ

ンピュータと、ラジオやテレビなどのテレコ

ミニュケーション機器が含まれている。この

分野の産業全体に占める生産額の割合は

2.1%となっており、就労者数は3万3,000人

(産業分野全体の雇用の1.3%)となっている。

事務機器・コンピュータに絞って雇用者数を

みると、その人数は2万6,000人である。事

務・通信機器分野の98年末における生産と輸

出に占める民間企業の割合は、それぞれ70%

と85%であった。この分野の主要な製品であ

るテレビや通信機器は、主としてポーランド

に進出してきた外国企業によって生産されて

いる。それぞれの分野における企業の数は次

のとおりである。

事務・通信分野の企業のうち、従業員5人

以上の企業は約1,700社ある。従業員50人以

上の企業はわずか120社であり、このうち25

社は国有企業(11社は国有財産省所有の企業)

であり、88社は民間企業である。従業員500人

以上の企業は、Thomson Polkolorの5,561人

を筆頭とする19社である。その他の主要な企業

としては、Thomson Polkolor Sp.zo.o.(テレビの

生産/フランス資本)、Philips CEI Poland

Sp.zo.o.(テレビの生産/オランダ資本)、

JETRO ユーロトレンド 2001.7 155

表12 テレコミニュケーション関連企業の数�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

44�

5,348�

5,234�

81�

33�

5,392

表11 事務機器およびコンピュータ関連企業の数�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

4�

1,163�

1,100�

59�

4�

1,167

Page 156: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

Alcatel S.A.(電話交換機/フランス資本)、

Siemens ZWUT S.A.(電話交換機/ドイツ

資本)、Optimus S.A.(コンピュータ機器/

ポーランド民間資本)、Daewoo Electronics

S.A.(テレビの生産/韓国資本)、Lucent

Technologies Poland S.A.(通信機器/オラ

ンダ資本)、Tonsil S.A.(スピーカー/日本

の東北パイオニアの資本)などが挙げられる。

ポーランド外国投資庁によると、99年末ま

でに外国企業が事務機器やコンピュータ、ラ

ジオやテレビなどのテレコミニュケーション

機器に投資した金額は、累計で12億6,900万

ドルであった。

(5)自動車

自動車分野には、自動車、バン、トラック、

バス、特定用途向け自動車や自動車用ボディ、

トレーラー、それに部品やアクセサリーが含

まれる。この分野は、99年にポーランドで最

も高い成長を示した分野である。この分野の

産業全体に占める生産額の割合は6.8%とな

っており、雇用者数は9万200人(産業分野

全体の雇用の3.5%)となっている。98年末

におけるこの分野の平均賃金(グロス)は

400ドルであった。

この分野で従業員50人以上の企業は200社

あり、このうち250人以上の従業員の企業は

61社となっている。自動車分野で国有企業は

24社のみであり、ほぼ完全に民営化された分

野であると言える。98年における自動車関連

企業の数は次のとおりである。

自動車、トラック、バスの生産(アセンブ

リーを含む)企業は次のとおりである(カッ

コ内は所在地)。

・Fiat Auto Poland S.A.:フィアットが国

有自動車会社を買収

・Daewoo-FSO Motor Sp.zo.o.:大宇が国

有自動車会社を買収

・Opel Polska Sp.zo.o.:オペルが工場を新

設(Gliwice)

・Daewoo Motor Sp.zo.o.:大宇がバンの

自動車工場を買収(Lublin)

・VW Poznzn Sp.zo.o.:ワーゲン車のアセ

ンブリー工場

・Ford Poland S.A.:フォード車のアセン

ブリー工場(Plonsk)2000年6月末で閉鎖

・GM Poland Sp.zo.o.:GM車のアセンブ

リー工場(Warsaw)

・Star S.A.:独Neoplanがトラック工場を

買収(Starachowice)

・Jelcz S.A.:ポーランドZasada社グルー

プのバス工場(Jelcz-Laskowice)

・Autosan S.A.:ポーランドZasada社グル

ープのバス工場(Sanok)

・MAN Pojazdy Uzytkowe Sp.zo.o.:独

MANのアセンブリー工場

・Neoplan Sp.zo.o.:独Neoplanのアセンブ

リー工場

・Volvo Bus & Volvo Truck:ボルボのア

センブリー工場(WroclawとKobierzyce)

・AMZ Sp.zo.o.:メルセデスベンツ(商用

車)のアセンブリー工場

JETRO ユーロトレンド 2001.7156

9

表13 自動車関連企業の数(98年)�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

6�

96�

61�

22�

13�

102

表14 自動車部品関連企業の数(98年)�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

18�

1,817�

1,689�

109�

19�

1,835

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・Scania-Kapena Sp.zo.o.:スカニア車

(商用車)のアセンブリー工場

上記の企業はすべて民間企業であり、ほと

んどの企業は外国資本となっている。国有財

産省は、これらの企業のいくつかにおいて、

わずかな株式を所有しているにすぎない。

ポーランド市場は、自動車部品企業にとっ

ても魅力的な市場となっている。自動車部品

関係では、トヨタ自動車がギアボックスを生

産することを決定し、いすゞやフォルクスワ

ーゲンがディーゼルエンジンを生産してい

る。また、Lear Corp.が自動車用座席を生産

している。これらの企業は、ポーランドにお

ける最大規模のグリーンフィールドによる投

資企業である。米国のDelphi Automotive

SystemsやDana Groupは既存の工場への追

加投資を検討している。ポーランドの自動車

部品分野への外国直接投資額は、10億ドル以

上(ストック)になると試算されている。し

かし、外国企業が最も興味を示したのは自動

車用タイヤの分野である。この分野には、グ

ッドイヤー(米国)やミシュラン(フランス)、

それにブリジストン(日本)がポーランドの

タイヤ工場を買収するなどして生産を行って

いる。98年末におけるポーランドの自動車と

自動車部品分野に対する外国直接投資額は、

累計で44億ドルに達している。

(6)化学

化学分野は、大きく分けて、①化学製品

(基礎化学品-有機半製品、無機半製品、プ

ラスチック、合成ゴム、工業用ガス等-、殺

虫剤、塗料、医薬品、洗剤・石鹸・化粧品、

のり・写真用化学品、合成繊維)と、②ゴ

ム・プラスチック製品、の2つから成り立っ

ている。

この分野の産業全体に占める生産額の割合

は9.1%となっており、雇用者数は18万人

(産業全体の雇用の6.7%)である。98年末に

おける企業数は表15のとおりである。

この分野で従業員5人以上の企業は6,226

社あり、このうち従業員50人以上の企業は

628社である。民間企業が全化学産業に占め

る資産の割合は、それぞれの分野によって大

きく異なっている。

① 医薬品

医薬品分野の雇用者数は2万5,000人(産

業分野全体の雇用の0.7%)である。98年末

における平均賃金(グロス)は553ドルであ

った。98年末の医薬品分野に所属する企業の

数は、表16のとおりである。

この分野で従業員50人以上の企業は61社あ

り、うち39社は民間企業である。この分野の

主要な企業は以下のとおりである。

・Polfa Tarchomin S.A.:商業化された企

業(2000年売却予定)

・Polpharma S.A. in Starogard Gd.:国有

財産省所有企業(2000年売却予定)

・Glaxo Wellcome / Poznan S.A.:英国資本

・Polfa Kutno S.A.:民間企業(ワルシャ

ワ証券取引所上場)

・Jelfa S.A.in Jelenia Gora:民間企業(ワ

ルシャワ証券取引所上場)

・Piva-Polfa Krakow S.A.:クロアチア資本

・Polfa Warszawa S.A.:商業化された企業

・Polfa Pabianice S.A.:商業化された企業

・ICN Polfa Rzeszow S.A.:米国資本

・Polfa Grodzisk S.A.:商業化された企業

JETRO ユーロトレンド 2001.7 157

表15 化学関連企業の数(98年末)�

出所:GUS

企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

 合 計�

化学分野全体�

99�

15,865�

15,113�

628�

124�

15,955

ゴム・プラスチック�

36�

12,710�

12,251�

412�

47�

12,746

化学製品 �

54�

3,155�

2,862�

216�

77�

3,209

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ポーランドの医薬品の約90%は、上記の企

業によって生産されている。国有財産省は、

2001年に国有医薬品会社であるPolfa社を民

営化することにより、医薬品分野の民営化を

終了したいとしている。医薬品の製造とは別

に、流通分野については、国有企業Cefarm

社が民営化されたことにより、既に終了して

いる。外国企業は製造だけではなく、流通の

分野にも興味を示しており、Eli Lilly、

Sanofi Biocom、Bayer、Slovenian Lek等が

既に投資を行っている。医薬品は外国企業に

とって大変魅力的な分野である。

② ゴム・プラスチック製品

ゴム・プラスチック製品の分野は、化学品

の中で最も多くの中小企業が活動している分

野である。98年末において、この分野に所属

する企業の数は次のとおりであった。

この分野で従業員50人以上の比較的規模の

大きな企業は300社あり、これらの企業が市

場で中心的な地位を占めている。民間企業の

売り上げがこの分野に占める割合は、93%に

達している。この分野で最大規模を誇る業種

は、自動車とトラック向けのタイヤ生産であ

る。タイヤ生産においては、国有企業Stomil

社があったが、既に資本民営化され外国資本

に買収されている。

・Stomil Olsztyn(フランスのMichelinが

買収)

・TC Debica(米国のGoodyear Tyre &

Rubberが買収)

・Stomil Poznan(日本のBridgestoneが買収)

ポーランド外国投資庁によると、99年末ま

でに外国企業がゴムとプラスチック分野に投

資した資金は、累計で4億5,100万ドルであ

った。

(7)電気通信とコンピュータサービス

この分野には、電話やテレビ、ラジオ、コ

ンピュータサービス、インターネット、コン

サルティングなど幅広い分野が含まれる。こ

の分野の企業数は2万5,000社となっており、

従業員5人以下の小規模零細企業が全体の

95%を占めている。就労者数は合計18万

4,000人となっている。

この分野で最大の企業は、TP S.A.(電信

電話会社)であり、従業員数は7万1,500人

である。同社は一部民営化されており、15%

の株式が現在市場で売買されている。同社の

民営化第2弾として、先の15%の株式とは別

JETRO ユーロトレンド 2001.7158

9

表18 ポーランドの電気通信とコンピュータ関連企業数(98年末)�

出所:GUS

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

  合 計�

216�

24,733�

24,396�

284�

53�

24,949

173.1�

11.2�

N.A.�

N.A.�

N.A.�

184.3

電気通信と�コンピュータ関連企業�

就労者数�(1,000人)�

企業形態�

表16 医薬品関連企業の数(98年末)�

出所:GUS

企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

 合 計�

医薬品部門全体�

13�

259�

213�

34�

12�

272

調 剤 �6�

195�

167�

20�

8�

201

基礎医薬品�

7�

64�

46�

14�

4�

71

表17 ゴム・プラスチック製品関連企業の数(98年末)�

出所:GUS

   企業形態�

公的企業�

民間企業�

うち国内企業�

  外国企業�

  ミックス�

    合 計�

企業数�

36�

12,710�

12,251�

412�

47�

12,746

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に35%の株式が売却され、フランステレコム

(25%)とその関連会社がこれらの株式を43

億ドルでを購入した。同社は、ポーランド国

内にいくつかの地域電話会社が存在するにも

かかわらず、独占的な地位を占めている。

電気通信分野への主要な外国投資企業は以

下のとおりである。

・Telia AB(スウェーデン):Netia

Telekom S.A.を設立(電話回線)

・Tele Danmark(デンマーク):

Polkomtel S.A.を設立(GSM関連)

・DeTeMobil(ドイツ):Polska Telefonia

Cyfrowa S.A.を設立(GSM関連)

・US West(米国):Polska Telefonia

Cyfrowa S.A.を設立(GSM関連)

・Vivendi(フランス):ポーランドの

Elektrimと共同で電気通信分野に投資

(8)金融

99年末における金融サービス関連企業の数

は4,001社となっている。

この4,001の金融サービス関連企業の中に

は、大手銀行の傘下に入って業務を展開して

いる数多くの協同組合銀行(Co-operatives

Banks)が含まれている。この協同組合銀行

は、親銀行との業務統合により、徐々にその

数を減らしている。ポーランド中央銀行

(NBP)は、協同組合銀行の数は99年に前年の

1,189行から781行に減少したと発表している。

商業銀行(Commercial Banks)の数は、

98年末の83行から99年末には75行に減少した。

① 銀行

90年以前のポーランドには、以下の銀行し

かなかった。

・NBP(ポーランド中央銀行):一般の

サービスも行っていた

・PKO:貯蓄銀行

・BGZ:農民のための金融機関で1,600以

上の支店を持っていた

・Pekao:外貨準備のための銀行

・Bank Handlowy:外国貿易のための銀行

上記の銀行はすべて国有銀行であった。90

年にポーランド政府は、民営化を迅速に進め

るためにポーランド中央銀行(NBP)を地

域別に以下の9つの銀行に分割した。

・Wielkopolski Bank Kredytowy(WBK):

Poznan地域

・Bank Slaski(BSK):Katowice地域

・Bank Przemyslowo-Handlowy(BPH):

Cracow地域

・Powszechny Bank Kredytowy(PBK):

Warsaw地域

・Bank Gdanski:Gdansk地域

・Pomorski Bank Kredytowy(PBK):

Szczecin地域

・Powszechny Bank Gospodarczy(PBG):

Lodz地域

・Bank Zachodni:Wroclaw地域

・Polski Bank Inwestycyjny(PBI):

Warsaw地域

ポーランド政府はこの他にも、輸出を支援

する目的で輸出振興銀行BRE S.A.と投資銀

行PBR S.A.を設立した。現在、銀行分野の

民営化は、終了に近づきつつあると言うこと

ができる。99年に元NBPの上記9行のうち

最後まで残ったBank Zachodniが民営化され

JETRO ユーロトレンド 2001.7 159

表19 ポーランドの金融サービス関連企業数(99年末)�

出所:GUS

国有企業�

地方自治体有企業�

協同組合�

商法上の企業�

 うち国有財産省所有企業�

   国内民間資本企業�

   外国資本企業�

   ミックス�

1�

276�

1,361�

2,363�

12�

1,779�

442�

130�

4,001

企業形態�

合  計�

企業数�

(PKO BP)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7160

9

た後、現在、政府所有の銀行は、PKO BPと

BGZ S.A.の2行のみとなっている。この2

行は、ポーランド国内において大変大きな地

位を占めている。ポーランド政府は、この2

行の民営化にあたっては、既にポーランドの

金融部門において外国資本の割合が大変大き

くなっていることから、国内企業に売却した

いと考えている。もっとも、国有財産省は民

営化された一部の銀行の極く少数の株式は所

有している。

90年から、民間銀行の設立や外国銀行の支

店の設立が可能となった。民間銀行(元公的

銀行を含む)、外国金融機関、現存する公的

金融機関を含めたポーランド国内にある金融

機関の数は77である。この77という数字は、

近年金融機関の統合が進行していることか

ら、減少傾向にある。

銀行分野には、外国資本が積極的に進出し

ており、99年において外国資本が過半数を占

める銀行は39行に達した(98年は31行)。ポ

ーランド中央銀行(NBP)によると、ポー

ランドの銀行全体の資産の70%は外国資本に

よって支配されており、広い意味での公的資

本によるものが25%、残りの5%が民間資本

によるものとなっている。

99年末における銀行分野の就業者数は、17

万4,700人となっている。上述のPKO BP、

Pekao S.A.、Bank Handlowy S.A.(BHW)、

BGZ S.A.は、ポーランドにおける大手行で

ある。

銀行分野への主要な外国投資企業は以下の

とおりである。

・UniCredito Italiano(イタリア)と

Allianz(ドイツ):Pekao S.A.に出資

・Bayerische Hypo und Vereinsbank(ド

イツ);BPH S.A.に出資

・ING Group(オランダ):BSK S.A.に出資

・Allied Irish Bank(アイルランド):

WBK S.A.とBank Zachodni S.A.に出資

・Citibank(米国):Handlowy S.A.に出資

・Commerzbank(ドイツ):BRE S.A.に

出資

保険を含むポーランドの金融部門に対する外

国資本投資額は、78億6,000万ドル(99年末

累計)となっており、これは製造業への投資

に次ぐ規模である。

② 保険

ポーランドには63の保険会社があり、すべ

て財務省の監督下にある。しかし、地元有力

紙RzeczpospolitaのInsurance Reportによれ

ば、実際に活動している会社は46社であると

いう。

90年以前のポーランドには、PZU(最大手)

とWarta(海外保険)の2つの保険会社しか

なかった。その後、民間の保険会社の設立が

認められるようになった。PZU(一部民営化)

とWarta(民営化終了)は、ここ数年の外資

系企業による活発な活動以前は、ポーランド

の保険市場をほぼ独占していた。国有財産省

は、PZUの株式の30%を99年にBIG Bank

Gdanski S.A.とEurekoのコンソーシアムに売

却した。政府は、2000年にさらにPZUの株式

の30%を売却する計画である。99年における

PZUの市場シェアは55.5%(98年は59.5%)、

Wartaは13.4%(98年は13.3%)となっている。

ポーランドの保険市場は、これら大手2社

を別にすれば、多くの小規模保険会社と外資

系企業によって構成されている。ポーランド

の独立系小規模保険会社は、外資系保険会社

をパートナーとして求めており、概してうま

表20 ポーランドの生命保険市場(主要企業別市場シェア)�

出所:Rzeczpospolita Insurance Report

PZU Life�

CU Life�

Amplico Life�

Nationale Nederlanden�

Others

63.9�

18.0�

9.3�

6.7�

2.1

56.4�

20.1�

10.0�

8.9�

4.6

(単位:%)�

企業名� 1998年� 1999年�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 161

くパートナーを見つけているようである。ポ

ーランドの保険会社の資本に占める外資系保

険会社の割合は、98年の33%から99年末には

50%にまで上昇している。

ポーランドの保険市場で、特に競争が激し

いのは生命保険の分野である。この分野では、

CU Life、Amplico Life、それにNationale

Nederlandenの3つの外資系保険会社が市場

の40%を占めている。

3.2000年と2001年の民営化計画

国有財産省は、毎年翌年の民営化計画につ

いて“Directions of Privatisation”で公表し

ている。

2000年、国有財産省は130の企業を国有企

業から民営化の前段階である国有財産省所有

企業へと転換する。この中には、ポーランド

最大の銀行であるPKO BPも含まれている。

2000年に民営化される企業で、最も注目を集

めた企業はTP S.A.(電信電話会社)である。

同社の株式の15%は既に98年に売却されてい

るが、2000年はさらにフランステレコムに

35%の売却を行った(売却金額は40億ドル)。

その他の注目される民営化案件としては、保

険会社PZU S.A.(30%の株式、3億ドル)

や航空会社LOT(50%の株式、2億ドル)、

石油精製のGdansk Refinery(50%の株式、

3億ドル)がある。さらに、大手鉄鋼会社

Sendzimir S.A.やKatowice S.A.(ともに50%

の株式、合わせて6億ドル)、精銅会社

KGHM Polska Mieds S.A.(10%の株式、1

億ドル)もある。

国有財産省は、前述のGdansk Refineryや

Sendzimir S.A.、Katowice S.A.等の株式売却

を99年に行ったが、失敗に終わっている。

国有財産省は、民営化の第2弾として、最

大手の石油会社であるPKN(30%の株式、

5億~6億ドル)の株式売却についても計画

している。

以下は、国有財産省が発表した2000年と

2001年の民営化案件から主なものを抜粋した

ものである。特に、エネルギー、金属、銀行、

医薬品、アルコール飲料、製糖分野を中心に

抜粋した。また、2000年に初めて民営化され

る兵器分野についてもこの中に含まれてい

る。これら企業を中心とする売却額は、総額

200億ズロチに達すると試算されている。

電信電話:TP S.A.(25~35%)

銀行:Pekao S.A.(9.1%)、PBK S.A.

(12.6%)

保険:PZU S.A.(30%)

航空:LOT S.A.(50%)

石油精製:PKN S.A.(30%)、Rafineria

Gdanska S.A.(未定)

鉄鋼:Huta Katowice S.A.(50%)、Huta

Sendzimir S.A(50%)、Huta Florian

S.A(50%)、Huta Cedler S.A(50%)

発電所:Polaniec S.A(25%:2000年上半

期に株式売却終了)、Rybnik S.A(10~

80%)、Bedzin S.A(36.7~52.5%)、

Opole S.A(20~35%)、Skawina S.A

(20~35%)、ECW S.A(ワルシャワの

発電所-55%:2000年上半期に株式売却

終了、その他の発電所-10~80%)

配電:Energa Gdansk S.A(20~25%)、

ZE Kalisz S.A(20~25%)、ZE Elblag

S.A(20~25%)、ZE Koszalin S.A(20

~25%)、ZE Olsztyn S.A(20~25%)、

ZE Plock S.A(20~25%)、ZE Slupsk

S.A(20~25%)、ZE Torun S.A(20~

25%)

医薬品:Polpharma S.A(80%)、Polfa

Tarchomin S.A(未定)

医薬品の集配:Cefarm Warszawa S.A

(未定)、Cefarm Lodz S.A(未定)

製糖:Slaska SC S.A(10%)、Lubelsko-

Malopolska SC S.A( 51% ) 、

Mazowiecko-Kujawska SC S.A(51%)、

Poznansko-Pomorska SC S.A(51%)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7162

9

アルコール飲料:Polmos Krakow S.A(65

~80%)、Polmos Szczecin S.A(65~

80%)、Polmos Lublin S.A(65~80%)、

Polmos Gdansk S.A( 65~ 80% )、

Polmos Siedlce S.A(65~80%)Polmos

Bielsko-Biala S.A(65~80%)、Polmos

Konin S.A(65~80%)、Polmos Kutno

S.A(65~80%)、Polmos Lancut S.A

(65~80%)、Polmos Jozefow S.A(65~

80%)、Polmos Torun S.A(65~80%)、

Polmos Poznan S.A( 65~ 80% )、

Polmos Bialystok S.A(65~80%)、

Polmos Wroclaw S.A(65~80%)、

Polmos Zielona Gora S.A(65~80%)

4.民営化の問題点

(1)戦略部門の民営化

ポーランドにおける民営化は、全体的にみ

れば着実に実施されているが、いくつかの分

野(鉄鋼、炭鉱、鉄道、ガス、暖房)では遅

れが目立っている。電力分野と石油精製分野

の民営化は98年から実施されているが、まだ

緒についたばかりである。民営化が遅れてい

る分野は、基本的に政府の独占によって運営

されてきた公的色彩の強い分野である。これ

らの分野は、民営化しても、結果として引き

続き独占状態が続くのではないかと考えられ

ている(例:ポーランド電信電話会社(TP

S.A.)は民営化された後も、引き続き独占的

な地位を占めている)。

多くの専門家は、公的色彩の強い独占企業

体を効果的に民営化するには、ガスの独占企

業体であるPGNiG S.A.の例のように、まず

分割し、その後分割された企業ごとに民営化

するのが良いとしている。

(2)民営化プロセスの遅れ

地方自治体所有の企業は、政府が100%株

式を所有する企業となった後、2年以内に株

式が売却されることとなる。しかし、公的色

彩の強い分野の企業となると、実際にはこれ

以上の年月が必要となっている。国民投資基

金所有の企業は全部で1,481社あり、うち民

営化された企業はわずかに266社であると発

表(2000年6月30日)されている。

国民投資基金所有企業の民営化では、失敗

に終わったものもいくつかある。国民投資基

金所有企業の民営化で最も重要なものに製鉄

所と精油所(Gdansk Refinery S.A.)の民営

化がある。

国有財産省は、4つの製鉄所(Katowice、

Sendzimir、Cedler、Florian)の民営化をこ

こ数年にわたって計画しているが、いまだに

達成されていない。 2000年11月、国有財産

省はカトヴィッチェ製鉄所(Huta Katowice

S.A.)の売却についてCorus社(Britisjh

SteelとオランダHoogovensの合弁会社)に

提案したが、同社により辞退された。現在、

カトヴィッチェ製鉄所が抱える負債総額は10

億ズロチを超えており、深刻な事態となって

いる。しかし、カトヴィッチェ製鉄所は全く

見放されているという訳ではなく、近い将来、

同社とCorus社、それにイタリアのDanieli社

が合弁会社を設立するという話もある。

一般に外国資本は、ポーランドの鉄鋼会社

にあまり興味を示していない。これまでの民

営化で外国資本に売却されたのは1社(イタ

リアのLucchini社が買収)のみである。この

ような状況から、ポーランド経済省は従来の

民営化による売却から、引き続き政府による

所有も考慮に入れ始めている。

ポーランド第2の精油所であるGdansk

Refinery S.A.は、99年に民営化のための売却

が行われたが失敗に終わっている。この買収

に応募したのはフィンランドのNeste Oy社

のみであり、買収提案金額も極めて低調なも

のであった。この結果を受けて、現在、国有

財産省は同社の再度の売却に向け準備を進め

ている。国有財務省は、今回の売却にあたっ

ては、既に米国、北欧、それに旧東欧諸国か

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 163

ら計4社の入札応募があったと発表してい

る。米国の投資銀行J.P.モルガンは、Gdansk

Refinery S.A.の株式50%の評価額は3億ズロ

チであると試算している。ポーランドの精油

業界は90年代を通じて慢性的な赤字に苦しん

でおり、その結果として、特に戦略投資家を

必要としている。

ポーランドの石油精製分野最大手のPKN

Orlen S.A.(ポーランドの原油精製の75%、

ガソリン生産の66%、ガソリン小売りの40%)

はGdansk Refinery S.A.の買収の意向を明ら

かにしているが、国有財務省は同社の入札へ

の参加を認めていない。その原因として、国

有財務省は PKN Orlen S.A.が Gdansk

Refinery S.A.を買収するようなことになれ

ば、同社がポーランド国内において余りに強

大になりすぎるからとしている。

99年秋に行われた入札の結果、ポーランド

の保険最大手PZU S.A.(保険市場の60%を

占めている)の株式の30%は、BIG Bank

Gdansk S.A.とEurekoのコンソーシアムに売

却されることとなった。しかし、同社の大株

主である国有財務省(大部分の株を保有)は、

これら2社からの役員の派遣に反対してい

る。この激しい対立により、同社の2000年の

民営化は中止となった。国有財務省は今後も

対立が続くようであれば契約を中止し、新た

な入札を実施するとしている。

ポーランドにおける民営化は、時として国

有財務省と労働者、労働組合、政党、マスコ

ミとの間に大きな論争を巻き起こしている。

この論争は時として法廷に持ち込まれること

もある。ポーランドの民営化の歴史は浅いが、

それでも世間から注目を集める民営化の場合

には、個別企業の民営化の枠を超えて、民営

化そのものに反対する労働運動となることも

ある。90年代初頭、クラクフにある発電所

(Leg S.A.)では、買収提案を行ったフラン

スのEdF社に対し抗議デモが行われた(しか

し、最終的にLeg S.A.の労働者は態度を軟化

させた)。

90年代半ばには、業績が大幅に悪化してい

るにもかかわらず、ワルシャワにあるトラク

ター大手企業Ursus S.A.の労働者は、同社の

民営化を中止させた。この結果、現在に至る

まで同社の業績は回復していない。

造船会社Stocznia Gdansk S.A.は民営化に

反対し倒産寸前までいったが、最終的には民

営化を受け入れ、Stocznia Gdvnia S.A.に買

収された。

このようにいくつかの民営化反対の動きを

述べてきたが、基本的にその他の多くの企業

は、民営化を前向きに捉えようとしている。

ポーランドの資本市場は、民営化のプロセ

スを通して形成されていった。91年4月に創

設されたワルシャワ証券取引所(WGPW)

に最初に上場した5社はすべて、国有企業か

ら民営化された企業であった。99年末時点で

ワルシャワ証券取引所に上場している企業の

数は261社に達しており、うち58社は元国有

企業である。同時期におけるワルシャワ証券

取引所上場企業の株式時価総額は1,230億ズ

ロチであり、これはポーランドのGDPの

20%に相当する額である。

5.民営化と失業の関係

ポーランド国民の民営化に対する最大の関

心事は、民営化の推進が失業者の増大と相関

関係にあるのかどうかということである。一

般的に、民間企業は国有企業よりも効率的で

あり、また労働生産性も高いと考えられてい

るため、民営化された場合には大幅な雇用の

削減が行われるものと信じられている。しか

し、実際には従業員を大幅に増やしている民

間企業(民営化企業)もあり、民営化と失業

者の発生を単純に結び付ける訳にはいかな

い。ただし、炭鉱や鉄鋼、兵器産業の国有企

業については、明らかに雇用の削減が必要で

ある。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7164

9

表21 資本民営化企業と国有企業の収益力格差(2000年1~6月)�

出所:GUS

( 単位:100万ズロチ)

売上げ�

税引前利益額�

税引後利益額�

税引前利益率(%)�

税引後利益率(%)�

45,224�

3,099�

2,014�

6.9�

4.5

18,900�

645�

362�

3.4�

1.9

53,391�

526�

△124�

1.0�

△0.2

18,053�

△149�

△496�

△0.8�

△2.7

資本民営化企業�

調査対象企業�

248社�

外国資本参入企業�

88社�

国有財産省所有の�

株式会社(442社)�

国有企業�

(1,096社)�

(1)民営化企業の財務状況

資本民営化された266企業は高い業績を示

しており、ポーランド経済において重要な役

割を果たしている。資本民営化企業の2000年

1~6月期の税引前利益率は6.9%であり、

これはポーランド全企業平均の1.9%よりも

大幅に高くなっている。また、同時期の資本

民営化企業の税引後利益率も、4.5%とポー

ランド全企業平均の0.6%を大きく上回って

いる。

資本民営化企業は大規模なものが多く、従

業員500人以上の企業が全体の55%を、また

従業員250~500人規模の企業が全体の19.4%

を占めている。

資本民営化企業は資本民営化過程にある企

業も含めて、ポーランド国内の国有企業と比

べて高い利益をあげていることがわかる(表

21参照)。資本民営化企業で外国資本が参入

した企業については、大規模な設備投資が行

われ、生産性が大きく向上している。一般的

に、資本民営化企業は資本主義経済に最もう

まく適応しているといえる。資本民営化企業

は効率が高く、技術革新に積極的であり、ま

た投資や戦略的活動に秀でていると特徴づけ

ることができる。

直接民営化(比較的小規模な企業を対象と

しており、主に会社の従業員によって企業の

買収が行われている)企業の業績は、国有企

業を上回っている。直接民営化企業の2000年

表22のとおりである。

失業を恐れる労働者にとって、職を引き続

き確保するという意味で、直接民営化による

会社の存続は大変有益である。しかし、労働

者が中心となって会社を買収する直接民営化

であっても、大規模なリストラ等によって経

営効率を高めなければならないことにかわり

はない。数年前まで、多くの経済専門家は直

接民営化企業については、新たな資本注入を

することなしに経営効率を高めることは不可

能であると判断していた。しかし、このよう

な判断は間違っており、現在多くの直接民営

化企業は、新たな資本注入なしに大幅な経営

効率化を達成している。

表22 直接民営化企業の業績(2000年1~6月)

出所:GUS

( 単位:100万ズロチ)�

売上げ�

税引前利益額�

税引後利益額�

税引前利益率(%)�

税引後利益率(%)�

14,997�

470�

276�

3.1�

1.8

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 165

(2)民営化により引き起こされた失業

多くの資本民営化企業は、以前の国有企業

時代と比較して従業員数を減らしている。し

かし、この傾向は元国有企業に限ったことでは

なく、ポーランドでは2000年には企業形態の

如何にかかわらず、雇用者数が減少している。

90年代におけるポーランドの失業者数は、

表23にもあるように90年から93年にかけて増

大し、94年から97年にかけては減少している。

しかし、98年から2000年にかけては再び失業

者数が増大している。2000年第3四半期にお

ける失業者数は250万人を超えており、失業

率も14%と深刻な状態となっている。

就労者数を大幅に減らしている分野に、炭

鉱、鉄鋼、兵器、鉄道(ポーランド国鉄)が

あるが、これらの大部分は国有企業である。

これら国有企業におけるリストラは労働者

(特に炭鉱労働者)に対して十分配慮された

ものとなっており、そのため、解雇された労

働者は基本的に失職することに対してあまり

不満を抱いていない。

従来、ポーランド人は国有企業の方が民間

企業よりも労働者保護がしっかりなされてい

表23 90年代におけるポーランドの雇用情勢�

出所:GUS

注:企業部門における就労者数および失業者数の下段は前年=100とした場合の指数�

就労者数(1,000人)�

企業部門における�

就労者数(1,000人)�

失業者数(1,000人)�

失業率(%)�

15,772�

6,713�

N.A.�

2,156�

191.4�

12.2

15,118�

5,857�

95.4�

2,890�

115.2�

16.4

15,486�

5,738�

101.0�

2,629�

92.6�

14.9

15,842�

5,664�

98.7�

2,360�

89.8�

13.2

16,295�

5,745�

101.4�

1,826�

77.4�

10.3

16,267�

5,856�

101.9�

1,831�

100.3�

10.4

16,000�

5,795�

99.0�

2,350�

128.3�

13.0

N.A.�

5,316�

96.5�

2,529�

116.1�

14.0

1991年� 1993年� 1995年� 1996年� 1997年� 1998年� 1999年�2000年9月�

表24 国有企業(民営化企業も含む)の雇用者数�

出所:GUS

(単位:1,000人、カッコ内は社)

全企業�

 (調査対象企業数)�

国有財産省管轄企業�

 (調査対象企業数)�

国民投資基金管轄企業�

 (調査対象企業数)�

資本民営化企業�

 (調査対象企業数)�

  うち外国資本買収企業�

 (調査対象企業数)�

直接民営化企業�

 (調査対象企業数)�

1,434.7�

(2,498)�

641.9�

(N.A.)�

308.7�

(N.A.)�

229.9�

(N.A.)�

77.7�

(N.A.)�

192.3�

(N.A.)

1,269.7�

(2,504)�

557.4�

(458)�

256.8�

(488)�

213.5�

(221)�

82.4�

(87)�

155.7�

(1,074)

1,327.2�

(2,728)�

465.0�

(424)�

209.9�

(473)�

307.1�

(244)�

80.0�

(87)�

194.9�

(1,157)

1,276�

(2,680)�

452.1�

(442)�

189.8�

(449)�

297.3�

(248)�

90.3�

(88)�

192.1�

(1,126)

雇用者数� 1998年�1997年� 1999年� 2000年6月�

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ると考えてきたが、近年この考え方は逆転し

ている。国有企業を買収する企業は、その労

働組合もしくはそれに準ずる団体(外部も含

む)と交渉しなければならない。通常、この

交渉において、買収企業は被買収企業の従業

員の1年から4年の非解雇義務を負うことと

なる。さらに、買収企業は労働者の再訓練や

賃上げ、それに各種福利厚生の継続を義務付

けられる。ただし、買収企業は交渉で定めら

れた期限以降(場合によっては、労使協調期

間の終了前であっても)であれば、労働者の

解雇が認められる。

国有企業・民間企業ともに、近年企業形態

にかかわりなく、雇用者数を抑制しようとい

う傾向がある。しかし、この傾向は既に売却

され民間企業となった民営化企業よりも、今

後民営化が予定されている国有企業に強い。

労働者にとって最も雇用情勢が安定している

企業は、表24からもわかるように直接民営化

企業である。

外国資本が雇用している従業員数は増加傾

向にあるが、これは外国資本がポーランド企

業を買収する際、一定期間雇用を維持するよ

う義務づけられているためである。

雇用問題を考える際、常に相反する2つの

要素を考慮しなければならない。1つは新技

術とノウハウの導入である。新技術の導入は

一般に従業員の減少をもたらすが、企業が積

極的な技術の導入と販路の拡大戦略を採用す

れば、逆に従業員数が増加する場合もある。

この例としてSanitec Kolo Sp.zo.o.(フィン

ランドのSanitec社が所有)があり、同社は

買収される直前の国有企業時代に比べ従業員

数が2倍となっている。また、99年において

医薬品会社Piva-Polfa Krakow S.A.(クロア

チア資本)とICN Polfa Rzeszow S.A.(米

国資本)は、共に国有企業時代と比べて従

業員数をそれぞれ20%から40%増加させて

いる。

逆に、財務状況の悪化により大幅に従業員

数を減少させている企業もある。ポーランド

への最大の外国投資企業である大宇(韓国)

は、自動車部門の従業員を大幅に削減するこ

とを発表している。ルブリンにある大宇自動

車(Daewoo Motor Sp.zo.o.)の工場では、

2001年1月末までに全従業員の20%以上にあ

たる1,200人を削減することを発表している。

また、ワルシャワにある大宇FSO(Daewoo-

FSO Motor Sp.zo.o.)の工場でも、同様の大

規模な人員削減が予定されている。

この他にも民営化案件とは別であるが、金

融分野におけるBIG S.A.のBank Gdanski

S.A.の買収やBank Handlowy S.A.とCiti

Bankの合併等の動きは、雇用の減少につな

がるものと考えられている。

表25から、一部の企業を除いて雇用人数に

あまり差がみられないことがわかるが、これ

は過去数年多くの企業がリストラを行ってき

た結果である。

JETRO ユーロトレンド 2001.7166

9

表25 民営化された企業で最も雇用者数の多い企業(99年末)�

出所:PAIZ

1�

2�

3�

4�

5�

6�

7�

8�

9�

10�

11�

12�

13�

14�

15�

16�

17

TP S.A.(電信電話)�

Pekao S.A.(銀行)�

KGHM S.A.(精銅)�

PZU S.A.(保険)�

PKN Orlen S.A.(石油精製)�

PBK S.A.(銀行)�

BSK S.A.(銀行)�

Bank Zachodni S.A.(銀行)�

BPH S.A.(銀行)�

BHW S.A.(銀行)�

WBK S.A.(銀行)�

Stomil Olsztyn S.A.(タイヤ製造)�

Big Bank Gdanski S.A.(銀行)�

TC Debica S.A.(タイヤ製造)�

PAK S.A.(エネルギー)�

PZU Zycie S.A.(保険)�

Philip Morris S.A.(タバコ)�

71,525�

24,671�

18,841�

12,041�

12,000�

7,572�

6,963�

6,673�

6,501�

4,444�

4,394�

4,388�

4,287�

4,238�

4,183�

4,130�

3,383

以上�

企業名� 雇用者数�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 167

PKN Orlen S.A.(石油精製)は、この数

年のうちに現在の従業員の約半分にあたる

6,000人の人員削減を行う計画である。また、

Bank Handlowy S.A.は1,500人の人員削減を

計画している。この他にも、米国の大手タイ

ヤメーカーGoody e a rに買収されたTC

Debicaは、2001年末までに800人の人員削減

を計画している。

この他の多くの大企業については、定年等

による自然減を除く人員削減策を実施する計

画はない。しかし、多くのアナリストは経営

効率化の観点から、TP S.A.とPZU S.A.は大

規模な人員削減を必要としている。

一方、医薬品、家庭用洗剤、化粧品、タバ

コ、食料品企業については、生産の増大や新

工場建設により従業員を増やしている。欧州

復興開発銀行(EBRD)は、報告書「中・東

欧諸国の経済構造改革10年」の中で、民営化

と失業の関係について厳しい評価を下してい

る。EBRDは同報告書の中で、中・東欧諸国

並びにバルカン半島諸国の企業を3つのタイ

プ(国有企業、民営化企業、新規設立の民間

企業)に分類し、それぞれについて考察して

いる(表26参照)。

同報告書は、企業のタイプによって雇用の

増減はそれぞれ異なるが、全体的に見れば雇

用は国有企業では雇用増加率が高く、減少率

は低く、一方民間企業では、雇用増加率が低

く、減少率は高い。したがって、雇用創出は、

まだ国有企業によるところが大きい。

6.民営化企業の競争力

ポーランドについてEUやOECD(経済協

力開発機構)、IMF(国際通貨基金)、EBRD

(欧州復興開発銀行)は、EUに加盟できる準

備が整いつつあり、またEUという統一巨大

市場の中で競争していけるとしているが、実

際にはポーランド経済はEU経済と比較して

大きく遅れている。

特に遅れている点として、①ポーランドの

輸出は加工度の低い製品が中心となっている

こと、②輸入の増加と経常収支赤字が大きい

こと、③低調な輸出支援策、④高水準の政府

負債、⑤インフラ整備が遅れていること、⑥

重厚長大型産業が経済に占める割合が高いこ

と、⑦技術水準が低いこと、などを挙げるこ

とができる。

(1)輸出入の構造

ポーランドの輸出入に占めるEU諸国の割

合は大変高く、EU諸国はポーランドの輸出の

70%、輸入の65%を占めている。ポーランド

の主なEU向け輸出品目は、石炭、銅、造船、

金属製品等の付加価値の低い品目である(近

年は外資系企業の進出により、自動車やトラ

ック、双眼鏡、テレビなどの輸出が伸びつつ

ある)。ポーランドのEU向け輸出に占めるハ

イテク製品の割合はわずか5%であるが、輸

入については50%を占めるに至っている。

ポーランド政府戦略研究所(RCSS)は、

ポーランドがEUに加盟するにあたっての長

期的な問題点として、EU諸国がポーランド

の原材料や安価な労働力を利用するためだけ

に進出し、ポーランドを自国の下請け輸出基

地とするのではないかという懸念を掲げてい

る。ポーランドのエリート層は、ポーランド

のEU加盟とそれに伴う一層の関係緊密化は

自国経済の発展に有益であるとしているが、

他方EU加盟によってポーランドが政治経済

的にEUの辺境として飲み込まれてしまう可

表26 ポーランドの企業形態別雇用情勢�

出所:EBRD;Transition Report ,1999

国有企業�

民営化企業�

民間企業�

52�

45�

20

14�

23�

36

企業タイプ�雇用増減率�

(増加率)�

雇用増減率�

(減少率)�

(単位:%)�

Page 168: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

JETRO ユーロトレンド 2001.7168

9

能性もあるとしている。

(2)産業と技術

ポーランドの過去の経済成長は、主として

石炭による発電(全体の97~98%)に依存し

た重厚長大型産業によって支えられてきた。

炭鉱業と重工業は時代遅れの技術によって

支えられており、結果として自然環境を大

きく破壊してきた。現在、これらの産業は

EUの環境基準を達成すべく近代化に励ん

でいる。

90年に始まった政府ならびに産業部門の構

造改革は、資本主義経済への移行を促進する

ためのマクロ経済政策と外国資本の流入に力

点を置いたものとなっていた。経済構造改革

の結果、多くの企業は従業員を削減し、また

需要に見合った生産量へと生産を縮小した。

これに合わせて、多くの企業では組織と管理

のあり方を変えた。しかし、変革の第一段階

においては、各企業は資金不足の状態あり、

新技術の導入や生産設備の更新は実施されな

かった。生産設備の更新と新技術の導入が実

際に行われるようになったのは、90年代半ば

頃からであり、この流れは現在さらに加速し

ている。しかし、この流れをもってしても、

近い将来ポーランドのEU加盟が実現し、完

全に開かれた市場となったポーランドにおい

て、ポーランド企業がEU企業と対等に競争

していくには不十分である。従って、ポーラ

ンド企業はEU企業に伍していけるだけの競

争力を早急に達成しなければならない。

NOBE経済研究所(独立系シンクタンク)は、

ポーランドの労働者1人あたりの労働生産性は、

EU平均の25%にも満たないとしている。しか

し、国際的な比較においては、ポーランドの

数値も決して悪いものではない。国際競争力

年鑑(The World Competitiveness Yearbook)

によると、98年の各国の労働者1人当たりの

購買力平価(Purchasing Power Parities per

one Employee)は表27のとおりである。

ポーランドがEUに加盟した場合、プラスに

作用する産業として、多くのアナリストはゴ

ム産業、電機産業、食品加工産業をあげてい

る。しかし、全体的に見れば逆にマイナスに

作用する産業の方が多いとしており、特に多

額の環境保護対策費が必要となるエネルギー

産業や政府の補助金が削減される鉱業、競争

激化が予想される加工産業がそうした産業と

されている。

(3)ポーランド経済と企業の競争力

国際競争力年鑑によると、ポーランドの国

際競争力は調査対象47カ国中、常に下位にラ

ンクされている。国際競争力年鑑による各国

の競争力は表28のとおりである。

ポーランドの国際競争力は、2000年に順位

を上げたとはいえ、依然下位に位置している。

ポーランド企業を個別具体的にみると、経済

全体のマクロ的な視点とは違った姿が見えて

くる。ポーランドにおいても競争力のある企

業は存在するが、それでも全体的にはチェコ

やハンガリーの企業に比べて劣っている。

表27 各国労働者の購買力平価(98年)�

出所:The World Competitiveness Yearbook

ポーランド�

チェコ�

ハンガリー�

スロベニア�

ポルトガル�

ギリシャ�

日 本�

スペイン�

ドイツ�

アイルランド�

米国�

ベルギー�

17.64�

21.58�

23.80�

29.34�

31.97�

35.96�

45.23�

49.13�

50.17�

59.78�

61.58�

64.68

国 名� 労働者1人あたりの購買力平価(単位:米ドル)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 169

(4)民営化企業の競争力についての経済人

の見方

ポーランド政府の調査報告書「ポーランド

のEU加盟準備期間における競争力について

のポーランド経済人の考察」(European

Studies No.4/1998 IK.by Mr. Jasiecki)によ

ると、民営化された大企業の管理職の多くは、

ポーランド企業の競争力は強化されてきてお

り、ポーランドのEU加盟までにEU企業に伍

していけるだけの競争力を確保することは可

能であるとしている。民営化された大企業の

競争力強化に向けた取り組みは表29のとおり

である。

この調査からもわかるように、現在ポーラ

ンド企業は市場競争力を確保するために新技

術の導入や新製品開発、品質の目安となる

ISOの導入などを積極的に進めている。ポー

ランドの大企業でISOを既に取得している企

業はわずか20%であるが、現在多くの企業が

ISO取得に向け努力している。

民営化の過程を経験した元国有企業の管理

職は、民営化は企業の技術水準に大きな影響

を与えるとしている。民営化が行われた後に

は、多くの企業で技術水準の向上が見られる

としている。

ポーランドで世界レベルの技術水準を持つ

分野に食品加工業がある。ポーランドの食品

加工業は500人以上の従業員を抱える大企業

が多く、これらの企業の技術水準は高い。

ポーランドの企業関係者の一般的な認識で

表28 国際競争力年鑑による各国の国際競争力(順位)�

出所:The World Competitiveness Yearbook 1994-2000

ポーランド�

チェコ�

ハンガリー�

ロシア�

オーストリア�

フィンランド�

ドイツ�

ギリシャ�

アイルランド�

ポルトガル�

スペイン�

45�

39�

41�

-�

11�

19�

6�

40�

21�

30�

27

45�

39�

41�

46�

11�

18�

6�

40�

22�

32�

28

43�

34�

39�

46�

16�

15�

10�

40�

22�

36�

29

43�

35�

36�

46�

20�

4�

14�

37�

15�

32�

25

45�

38�

28�

46�

22�

5�

14�

36�

11�

29�

27

44�

41�

26�

47�

19�

3�

9�

31�

11�

28�

23

40�

37�

27�

47�

18�

3�

8�

32�

7�

29�

24

1994年�対象国:47カ国� 1995年� 1996年� 1997年� 1998年� 1999年� 2000年�

表29 民営化された大企業の競争力確保に向けた取り組み�

出所:European Studies

リストラ(経費の削減)�

新技術の導入�

新しいデザインを取り入れた新製品開発�

ISO(国際標準規格)の導入�

外資との協力�

投資拡大のための資本の増強�

12.3�

39.7�

30.1�

34.2�

6.8�

4.1

活動内容(73社)� %�

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は、ポーランドと外国企業の技術格差は縮ま

りつつある。しかし、同時に外国企業よりも

かなり技術水準が劣ると考えられるポーラン

ド企業が最も多くの割合を占めていることも

また事実であり、この点からポーランド企業

が技術分野で外国企業に伍していくにはまだ

無理があると考えられる。

ポーランド企業のレベルは、まだ一部を除

いてEU企業やその他の国際的な企業と競争

していく段階に達していない。しかし、将来

のEU加盟やそれに伴う競争激化により、将

来ポーランド企業が国際化の波にさらされる

ことは間違いない。ポーランドのEU加盟に

伴い、どの産業が生き残り、どの産業が淘汰

されていくかについての公式な予想は存在し

ていない。しかし、現在活況を呈している業

界については、今後しばらくの間は成長が持

続していくのではないかと考えられている。

これらは以下のような業界であるが、主に外

資によって支配されている。

通信機器、テレビ、自動車、電機、ガラ

ス・窯業、塗料、医薬品、ゴム・プラス

チック、化粧品、木材・家具、製・パル

プ、印刷・出版、パッケージング、食品

加工

上記の産業とは異なり、将来が危ぶまれる

産業もいくつかある。これらの産業について

は、90年代初頭より生産が減少している。具

体的には、以下のとおりである。

機械、化学肥料、鉱業(特に硫黄)、皮革

この他にも、欧州市場で自由化が進んでい

ることによる燃料等のエネルギー産業や欧州

域内で生産過剰にある金属産業、それに精密

機械や基礎化学、繊維、建設、輸送産業等が

ある。現在好調である電気通信や政府の手厚

い保護に守られている農業分野も、近い将来

厳しい競争にさらされることとなる。

コンサルタント大手のPricewaterhouse-

Coopersの調査によると、ポーランドの中小

企業の多くはEU諸国の中小企業と異なり、

ほとんどすべての業種において競争力がな

く、また多くのビジネスマンがEU加盟後の

ポーランド市場は従来の市場とは質の異なっ

た市場になるということを理解していないと

している。

ポーランドのEU加盟を積極的に支持する

企業は、基本的にEU市場への輸出が可能な

競争力のある一部の企業である。ポーランド

政府は、EU加盟に伴い多くの中小企業が苦

境に立たされるおそれがあるとして、中小企

業に対して輸出促進のための財政支援策を策

定した。

7.今後の民営化計画について

ポーランドの民営化計画はしばらく続くこ

ととなっている。国有財産省は、毎年、翌年

の民営化計画について“Directory of

Privatisation”で発表している。

国有財産省は、2001年の民営化による歳入

は180億ズロチになると予想しており、前年

の260億ズロチ(当初の計画では200億ズロチ)

よりも減少するとしている。これは、ポーラ

JETRO ユーロトレンド 2001.7170

9

表30 ポーランド企業の技術水準�

(注)ポーランド企業からの聞き取り調査。調査対象=197社。�出所:K.Jasiecki, Adjustment Process of Privatised Firms

主要外国企業と同水準�

平均的な外国企業と同水準�

平均的な外国企業よりやや低い�

平均的な外国企業よりかなり低い�

1.0�

6.1�

23.9�

37.6

技術水準� 民営化前� �

7.1�

20.3�

21.3�

25.4

現 在� �

+6.1�

+14.2�

△2.6�

△12.2

変化率�

(単位:%)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 171

ンド電信電話(TP S.A.)のような大型民営

化案件が遅々としていることによるものであ

り、政府歳入が前年比マイナスとなるのは民

営化開始後、初めてのことである。

ポーランド政府ならびに国有財産省は、ポ

ーランドのほぼ全産業分野において民営化を

実施することを決めている。従って、どの企

業、どの分野が民営化されないかについては

不明である。実際、ポーランド政府は民営化

を進めていくことによる最終的なポーランド

経済の姿を描ききれないでいる。また、ポー

ランド政府は最終的にいつ民営化が終了する

かについて明らかにしていない。

政府戦略研究所(RCSS)は2000年5月に

発表した報告書「ポーランド2025年:発展の

ための長期戦略」(Long-term Strategy for

Development)の中で、炭鉱、天然ガス、石

油産業の民営化を謳っている。これらの分野

の民営化については、同報告書の方針により

既に政府も承認していることから、この計画

は実行に移されることとなる。また、兵器産

業についても、一部を除き民営化されること

となる。従業員19万5,800人を誇るポーラン

ド国鉄(PKP)の民営化については、まずリ

ストラを実施し、その後民営化が行われる模

様である。

国有財産省は、ポーランドにおける電力の

送電を独占するポーランド電気エネルギーネ

ットワーク社(PSE)の民営化を2002年まで

に実施すると決定した。この他にも、石油や

ガスの備蓄施設、それにパイプラインが民営

化されるかもしれない。しかし、従業員9万

7,000人を誇る郵便局については、民営化さ

れない模様である。また、港湾や空港につい

ても民営化は行われない模様である。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7172

ブガレスト事務所

10

1.税制改革の背景

2000年1月から施行された税制改革は、前

年度に決定されたさまざまな財政関連の改定

の中でも最も重要なものである。この改革が

施行されたことによって、法人だけでなく個

人にも税制上の大きな変化が起こっている。

マクロ経済環境を向上させること、貯蓄と

投資への刺激策、それに構造変革の推進の3

つが、現在行われている税制改革の主な目的

である。税制改革の主な内容としては、個人

に対する包括課税、税の控除や免除、法人税

の減税、付加価値税(VAT)の見直し、消

費税の見直しなどがある。

税収の不均等を是正し、経済を活性化させ

るため、法人税に関する法令No.70/1994の改

定が決議され、2000年1月より法人税が38%

から25%に引き下げられた。同時に、優遇税

制が受けられる事業の種類が、大幅に削減さ

れた。また、経済発展のためのカギとなる輸

出振興のための優遇税制として、ルーマニア

で銀行口座を開設し代金を回収している輸出

会社について、輸出により得た利益に関して

は法人税5%となる制度が導入された。例え

ば、売上の20%を国内販売、80%を輸出とし

た場合、国内販売による利益には通常の法人

税25%、輸出による利益には、5%の法人税

となる。さらに、投資についても、技術設備

や物流システムに対しての効果的な投資に

は、自動車の場合を除き、10%の税控除が導

入された。

VATに関する重要な改革としては、臨時

法令No.215/1999において、2000年1月より、

VATが22%から19%に引き下げられた。主

に必需食料品に対して適用されてきた11%の

中間税率は廃止された。11%の中間税率は物

JETRO ユーロトレンド 2001.7

税制改革が進展(ルーマニア)

2000年1月から施行された税制改革は、マクロ経済環境の向上、貯蓄と投資への刺激策、

構造改革の推進を、主な目的としたものである。競争力のある持続的な成長を目指すルー

マニア経済にとって、EU加盟プロセスの観点からも重要なステップである。

本レポートは、ルーマニア全国輸出入業者連盟(ANEIR)のオクタヴィアン・リヴィ

ウ・オラル副理事長と同連盟コンスタンタ・キティバ市場調査・貿易推進部副部長に執筆

を依頼し、ジェトロにて仮訳したものである。

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価対策として大きな効果があった。また法令

では、VAT非課税の一部を廃止して、優遇

を受けられる業種の数を削減している。保健

衛生施設、教育施設、および国立科学研究所

のプログラムに基づいて活動する研究機関に

対してはVATが免除される。自由貿易地域

における事業、あるいは年間の売上高が

5,000万レイ未満の事業にもVATが免除され

る。関税の免税制度の適用を受けて開発され

た事業や、関税が免除になる輸入などに対し

ても、同様の措置が適用される。家庭用の電

力、熱、燃料の消費に対しても、この制度に

より2000年3月31日までは、VAT免除の対

象になった。しかし、同年3月31日以降は、

19%のVATが課せられている。また、ルー

マニア国立銀行により認定された金融機関で

開設した口座を通して代金を回収している輸

出業者に対しても、VAT非課税が適用され

ている。政府は、2000年3月15日付施行の臨

時法令No.17/2000で、VAT免除対象の事業

を拡大した。それによると、個人が依頼する

弁護士や公証人の費用についても、新たに免

除が適用されることになった。原材料を輸入

し、最終製品に加工して45日以内に輸出する

輸出入業者については、原材料の輸入に掛か

るVATが免除される。また、製品の輸出と

直接関わるような輸送業についてもVAT免

除が適用される。

税制改革の3つめの内容は、2000年2月15

日施行の法令No.27/2000による、消費税シス

テムの見直しである。この改定の目的は、消

費税制度の対象となる製品の生産および輸入

における脱税行為を減少させることと、国の

消費税収入を改善することである。主な改定

内容は、アルコール飲料、石油類、コーヒー

や高級毛皮製品に対する消費税を12~25%の

レベルに引き上げたことである。タバコに対

する消費税は変更されていない。

所得税法に関する法令No.73/1999の施行に

よって、最も重要な対策の一つである、個人

の所得に対する包括課税制度が導入された。

従来の登記税制度はいくつかの法律によって

規定され、近年数回にわたって改定されてき

たが、今回の方式はそれに代わるものである。

2000年1月1日から施行された包括課税方式

では、個人が、国内および海外で得た収入に

ついて、収入の内容を問わず、その総計に対

して課税されることになった。ここでいう収

入とは、給与、自営による収入、使用権の譲

渡などが含まれる。ただし、当面は、株式の

配当、利息などの財務収入は除外されている。

世帯の平均純給与を上回る額の年金に対して

は、超過した額に対して課税されることにな

った。また、92万6,000レイの経費が基礎控

除されることになり、所得税の対象者すべて

の個人について減税になる可能性がある。最

高税率も45%から40%に引き下げられた。

税制改革は、企業が献金を義務付けられて

いる多くの特別基金の数を減らすことも目的

のひとつになっている。しかし、現時点で削

減されたのは、経済改革の基金だけである。

財政システムの改革によって、少なくとも

当初は歳入の減少が起こる。IMFと合意した

財政計画では、財政赤字がGDPの3%(31兆

5,670億レイ)に決められているので、歳出

に支障が出てくる。企業が使える資金が増え

たとしても、それは、投資を回収して経済を

発達させるという流れの単なる出発点に過ぎ

ない。その結果として、歳入の上昇が起こら

なければならない。現状における一番の制約

は、公債のための資金調達である。2000年度

の予算の枠内で、利子を含む公債のための支

出が45兆6,460億レイになっており、そのう

ち国内の国債が全体の63%を占めている。

財政システムの均等化のための施策は、効

率的な財源の割り当てを行うための重要なス

テップである。また、財政問題はEUと交渉

中の項目の一部になっているので、EU加盟

へのプロセスにとっても重要な要素になる。

JETRO ユーロトレンド 2001.7 173

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JETRO ユーロトレンド 2001.7174

10

2.法人税

(1)法人税

法人税は、主に、臨時法令No.217/1999に

よって改定された法令No.70/1994により規定

されている。

① 法人税の納税者

ルーマニアに所在する企業は、全世界の収

入が課税対象になる。その企業が、ルーマニ

アで法人として設立されていれば、ルーマニ

アに所在する企業となる(実際の経営、管理

が別であっても関知しない)。

ルーマニアの正規の企業や個人とで作った

「協会」や「組合」で、法人登記をしていな

いものでも、ルーマニアの法人税の課税対象

となる。課税はその協会に対してなされるが、

実際の税金はパートナーとなっている企業が

計算し支払う。

外国企業は、ルーマニア国内で(営業所、

一般総合予算�

補正�

国家所有基金�

省庁に認可された対外債権�

健康社会保障基金�

失業基金�

国の社会保障予算�

その他�

地方予算�

国家予算�△11,626

△6,333.4

△6,592.2

△6,200

△1,867.4

△2,070.2

252

2,841.5

1,325

1,105.6

図1 一般総合予算の収支(10億レイ)*�

(注*)1999年11月現在�

出所:大蔵省�

図2 国家予算の歳入構造*�

所得税 18%�その他 7%�

給与税 8%�

その他の直接税 3%�

VAT 35%�

非財政収入 4%�

関税 8%�

消費税 17%�

(注*)1999年12月現在�出所:大蔵省�

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その他の恒久施設、法人登記をしていないル

ーマニアのパートナーと作った協会などを通

して)上げた利益のみについて課税される。

② 税率

法令No.217/1999に定められている一般法

人所得税は25%である。例外として、次の規

定も定められている。

・賭博、バー、あるいはナイトクラブより収

入を得ている納税者は、その所得に対し追

加の25%が課税される。

・所得の80%以上を農業から得ている納税者

は、25%の税率で課税となり軽減される。

・社会資本の増資には、10%が課税となり軽

減される。

・輸出による所得には、5%が課税となり軽

減される。

③ 課税所得からの控除

次に挙げる経費については、課税所得から

控除を受けることができる。

・消費税を含む総所得と総経費の差の1%ま

での交際費

・規定額あるいは帳簿上の利益の5%までの

後援会等の経費

・広告宣伝費(ただし、文書の契約書に基づ

いたものに限る)

・年収の5%以内の予備費。ただし、その予

備費が登記した資本の5分の1に達するま

で有効(ただし、保険、リース会社および

銀行については特例がある)

・恒久施設を有する海外法人あるいは外国人

の経営管理費(ただし、ルーマニア国内に

おいて得た所得の3%まで)

・99年4月施行の行政指導に定める範囲の生

鮮食品に掛かる経費

・ルーマニア国内および海外における出張交

通費。ただし、証明する書類があるものに

限る。(交通費の控除には上限が設けられ

ている)

④ 減価償却

減価償却の算出方法は、①定額法、②定率

法、③加速償却の中から選び、一貫してその

方法で行うようにする。定額法では、その耐

用年数にわたって固定資産が定額で償却され

る。定率法では、定額法の率に、耐用年数に

応じて1.5から2.5までの乗数をかけて算出す

る。加速償却では、初年度に資産の価値の

50%を償却し、その後は耐用年数まで定額法

で償却していく。この方法を用いるためには、

納税者は、あらかじめ、地方の財務当局の許

可を受けておく必要がある。加速償却の申し

込みは99年12月31日までは一時停止されてい

た。

建物に関しては、定額償却のみが認められ

ている。土地は償却できる資産として認めら

れていない。

99年から、一部の資産の耐用年数が修正さ

れた。この新しい規定によると、裏付けとな

る証拠資料を提出すれば、資産の耐用年数を

20%まで増加、あるいは減少させることがで

きる。

無形資産は、通常5年以内で償却される。

営業権は、その価値の継続的な減少が見られ

る場合を除いて償却できない。継続的な減少

が見られる場合は、資産評価の引き下げの手

続きが必要となる。

98年6月30日現在で所有している建物、特

別建造物および土地について、98年12月31日

から、その簿価を再評価することが許される

ようになった。このような再評価は、インフ

レ率に同調されることになり、年間のインフ

レ率が5%以上の場合、年に1回再評価が行

われる。それ以外の資産は、自動的に再評価

されることはない。

2000年1月1日より、技術設備(機械、工

具および装置)および自動車を除く輸送設備

への投資に対して10%の税控除が認められて

いる。この税控除は、通常の減価償却に加え

てさらに行うことができる控除である。その

JETRO ユーロトレンド 2001.7 175

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場合、該当設備を購入した月に控除が認めら

れ、所得申告の際に申告する。その年度の税

損失がもしあれば、その一部として繰り越す

ことができる。

⑤ キャピタルゲイン

キャピタルゲインに関して、別個の課税は

ない。事業者は、キャピタルゲインを損益勘

定に計上し、その損益勘定に対して通常の所

得税を支払うことになる。上記のように、建物

や土地以外の資産については、自動的な再評価

は行われないので、インフレによる利得は課

税されることになる。固定資産の資本損失は、

通常、所得税上では控除対象にはならない。

⑥ 損失

98年1月1日以降に発生した租税の損金

は、5年間繰り越すことができるが、インフ

レによる再評価は行われない。租税の損金の

遡及は認められていない。

2000年1月1日より、分割や合併で法人の

形態を変更する企業には、租税の損金の繰り

越しは認められなくなった。納税者が、3年

間連続して損失を出した場合、自動的に税務

署によるレビューが行われる。

⑦ 為替差益・差損

98年以前は、ハードカレンシーで保有され

た現金にかかわる為替差益は、一定の要件を

満たす場合、準備金に計上していた。それ以

外の用途では、そのような利益は所得と見な

され課税されていた。99年からは、このよう

な為替差益は、非課税になった。ただし、経

理上、為替差益を所得とするか準備金とする

かについては、まだ確定していない。

売掛金と買掛金は、額面価格で計上する。

外国通貨の売掛金と買掛金は、計上当日の為

替レートでレイに換算する。売掛金と買掛金

の計上日から、実際の決済日までに発生する

為替益あるいは損は、それぞれ収入あるいは

支出として計上する。

法律によると、企業は、未実現の為替損失

のために引当金を設ける必要がある。この引

当金は、未実現の為替純損失の金額、つまり

すべてのハードカレンシーの売掛金、買掛金

に掛かる為替益および損の合計の純価格に対

して年末の時点で控除が可能である。

⑧ 申告と支払い

会計年度は、暦年である。法人税法による

と、納税者は四半期ごとに、確定申告を行う

(翌四半期の最初の月の25日までに法人税を

支払う)。最終的な確定申告は、毎年4月15

日までに提出しなければならない。申告を行

わなかったり、期限までに法人税を支払わな

かった企業には、罰則が適用される。

⑨ 外国企業の駐在事務所に対する課税

外国の民間企業および経済団体が、ルーマ

ニアに駐在事務所を開設した場合、設立、営

業、課税に関しては、法令No.29/1997で規定

されている。

駐在事務所における課税所得とは、手数料

などの収入から、控除される経費(家賃、給与、

社会保険の負担金、税金と関税、交際費など)

を差し引いたものである。税率は、算出した額

の38%である。しかし、従業員数に基づいた

課税最低限がある。大蔵大臣の法令No.42/2000

で定める現在の基準は以下のとおりである。

このほか、サービスの輸出や自社製品の輸

出(直接の輸出あるいは手数料契約)によっ

JETRO ユーロトレンド 2001.7176

10

表1 外国企業の駐在事務所に対する課税最低限�

(単位:レイ)�

従業員1~2人�

従業員3~5人�

従業員6~8人�

従業員8人以上�

従業員数� 年間の課税最低限�

88,737,500�

277,585,500�

543,798,200�

1,103,533,000

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て得た所得に関しては、代金がルーマニアの

銀行口座に主要通貨で振り込まれたものに限

って、低い特別レートの5%で課税される。

⑩ 配当金への課税

法人が、ルーマニアの企業から受け取る配

当は、10%の源泉徴収税の対象となり、受け

取った法人の課税所得からは除外される。ル

ーマニアの企業から個人の株主に支払われる

配当は、5%の源泉徴収税の対象となる。

(2)地方税

主な地方税は次のとおりである。

① 建物税

税率は、個人の場合では、建物の価格の

0.1~0.2%、法人の場合では、0.5~1.0%にな

る。個人の場合、建物の価格(最低価格が規

定により算出される)に対して課税されるが、

法人の場合は、当初の簿価に対して課税され

る。税金は、四半期ごとに、その四半期の最

後の月の15日までに支払う必要がある。

② 土地税

土地の所在地により規定される。税額は、

1平方メートル当たり一定の額が毎年課税さ

れる。その土地の所在地、つまり、市町村別

や、中心街、住宅街、郊外などによって率が

異なっており、課税額は、以下のとおりであ

る。税金は、四半期ごとに支払われ、地方自

治体の財源になる。

農業および林業以外の用途で土地を使用す

る場合の規定は、法No.69/1993に定められて

いる。土地は、市街地の場合4つの地域に、

郊外の場合は5つの地域に区分されている。

(3)石油関連の税

99年11月1日付で、石油と天然ガス税が、

次のように改正された。

・原油については、トン当たり4ユーロ

・天然ガスについては、1,000立方メートル

あたり7.40ユーロ

この税は、これらの商品を販売した時点で

支払われる。

(4)手続き関係

① 財務登記

ルーマニアで所得を得ているが、国内に本

社あるいは住所を持っていない法人について

は、その財務処理を行う財務代理人を任命し

なければならない。以前は、この規定は

VAT規定によって、VATに限って定められ

ていたが、所得税、VAT、消費税、および

その他の税にも義務付けられた。VATの登

記は、年間売り上げが5,000万レイ以上の納

税者に義務付けられている。

② 財務証明書

税制における特典を受けるために、国内お

よび海外の法人は、自治体の財務当局の定め

る書類を提出する必要がある。

・ルーマニアの個人および法人用の財務所在

JETRO ユーロトレンド 2001.7 177

(単位:レイ)�

表2 市町村別の1平方メートル当たりの土地税額�

地域�

A�

B�

C�

D�

市�

240�

140�

90�

60

村�

40�

50�

60~�

40~�

町�

180�

100

市街地�

A�

B�

C�

D�

郊外�

Ⅰ�

240�

140�

90�

60�

140

Ⅱ�

180�

100�

60�

40�

120

Ⅲ�

80�

50�

30�

-�

100

Ⅳ�

20�

30�

-�

-�

60

Ⅴ�

40

表3 1平方メートル当たりの市街地土地税制�

(単位:レイ)�

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地証明書発行のための申請書

・ルーマニアの個人および法人用の財務所在

地証明書

・非居住者の個人、法人に代わって、ルーマ

ニアで源泉徴収税が支払われたことを証明

する証明書を発行するための申請書

・非居住者に代わって源泉徴収税が支払われ

たことを証明する証明書

これらの証明書は、自治体の行政局長、あ

るいはブカレスト財政局理事長(Bucharest

General Directorate of Public Finance)、(ま

れに大蔵省)によって署名され発行される。

③ 確定申告遅延に対する罰則

提出期限以内に確定申告を提出しなかった

場合には、次のような罰金が課される。

・提出期限から30日以内に申告が提出された

場合、その所得税額の10%

・提出期限から60日以内に申告が提出された

場合、その所得税額の30%

・提出期限から60日以降に申告が提出された

場合、その所得税額の50%

・課税される所得をまったく記帳しない納税

者や、VATや消費税を受け取る立場であ

りながら、それらの申告を怠った納税者に

対しては、50万レイ

事業の再建中のために、確定申告が提出さ

れない場合でも同様の罰金が課せられる。ま

た、申告が遅延した納税者は、所得税を支払

ったとしてもやはり罰金を支払う義務があ

る。

④ 所得税の支払い遅延に対する利息と罰金

2000年8月より、確定した税額を期限内に

支払わなかった場合、支払遅延に対して遅延

1日につき0.15%の利息が課せられることに

なった。

利息のほかに、源泉徴収された税(給与税

と社会保険の負担金)の支払いについて、期

限から30日以上遅れた場合、未払いの税額の

10%の罰金が課せられる。

CAS(一般社会保障基金)の未払いに関し

て明確な規定が設けられ、もし期限から30日

以内に支払われた場合は、税額の10%、期限

から30日以上経ってから支払われた場合は、

1ヵ月当たり(月の途中の場合は日割り計算

で)税額の15%の罰金が課せられる。

源泉徴収税を徴収あるいは支払わなかった

場合(ルーマニアの非居住者による所得につ

いて)、支払遅延に対する利息のほかに、税

額の100%の徴税が行われる。

⑤ 輸入取引における脱税防止

脱税は、当局にとって、国内市場において

も、輸入の場合でも、深刻な問題である。コ

ーヒー、タバコのように関税、消費税、

VATなど総合的な税率が極めて高く、脱税

の危険が高い製品について、船積みごとの書

類の提出と現物検査を義務付けている。これ

らの製品について、インボイス価格を過小表

示する問題がある。これについての罰則は、

競争価格に対する課税である。そのような懸

念がある場合、輸入業者は税関に、その低い

価格が正当であることを文書で証明しなけれ

ばならない。

これまで当局は、コーヒー、タバコおよび

酒類のブラックマーケットの広がりをくい止

めようと努力してきた。その対策の一つが、

国境での監視強化による密輸入の防止であっ

た。新たな対策として、99年4月1日施行の

臨時法令No.50/1998に基づき、ブカレストお

よびルーマニア全国にある41の郡において、

タバコ、酒類、コーヒーの生産、輸入、国内

販売を監視できるような書類手続きシステム

がつくられた。

3.付加価値税(VAT)

VATは、従来の売上税に代わって、93年

7月から施行された。VATに関する規定は、

制定後改定が加えられた法令No.3/1992で定

JETRO ユーロトレンド 2001.7178

10

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められており、適用方法については、政府決

議No.1178/1996によって定められている。一

番最近のVATに関する法律規定は、臨時法

令No.215/1999と臨時法令No.17/2000である。

ルーマニアのVATシステムは、EUのものを

手本にしており、大変シンプルでオープンな

ものになっている。

(1)課税対象、税率

VATの納税者は、課税所得を得ている事

業を営む個人および企業である。売上高

5,000万レイ以上のすべての企業体には、自

治体の税務署を通して、VAT納税者として

登録することが義務付けられている。売上高

5,000万レイ未満の企業体については、VAT

納税者になるかどうかは、オプションになっ

ている。

VATの確定申告は、毎月、次の月の25日

までに税務署に提出しなければならない。仕

入れ段階で控除できるVATが販売段階の

VATより多い場合、納税者は償還を求める

ことができる。

VATの税率は、臨時法令No.215/1999に基

づいて、次のように定められている。

・一般税率:19%

・商品およびサービスの輸出、支援金や返済

の必要のない貸付金(特に国外の団体から

の)により融資された投資、外交派遣団の

ために必要な商品やサービス:0%。

(2)VATの対象となる業務

VATの対象となる業務は以下のとおり

(課税業務)。

・ルーマニア領域での可動商品の買売

・ルーマニア領域でのサービスの提供

・ルーマニアに所在する土地や不動産の買売

・商品およびサービスの輸入

課税業務の場合、仕入れ段階のVATの支

払額を販売段階のVATから控除することが

できる。その業務がVAT免除である場合、

仕入れ段階のVATの支払いは、法律で明確

に定める場合を除いて控除できない。

教育、保健・医療サービス、保険および再

保険業務、銀行および金融業務、出版および

放送業務、非営利の業務などは免税業務とさ

れる。ただし免除される商品および業務は、

法律によって明確に定められており、類推に

よって拡大解釈することは禁じられている。

① サービスの提供

基本的には、VAT法に定める領域規定に

基づき、ルーマニア国内と見なされる場所に

おいて提供されるサービスについては、課税

の対象となる。サービス提供の場所とは、一

般的に、提供者が事業を行っている場所であ

るが、EU指令No.6のリストと同様の内容の

例外もある(不動産の関連サービス、輸送業、

有形資産の賃貸業、有形・無形商品のリース

業、広告代理店、銀行および金融業、コンサ

ルタント業など)。

サービスの輸入の場合は、サービスの輸入

に関する規定により、輸入者はVATを仮払

いし、後に回収することになっている。仮払

いの方法は、輸入会社が輸入するサービスの

VATを計上し、請求書を受け取ってから7

日以内に国庫に支払い、次の月にそのVAT

分を差し引く。

サービスの輸出の場合、ルーマニア国籍の

会社によって提供される以下に挙げるサービ

スについては非課税が適用される。

・商品の輸出に関連するサービスと認められ

たもの

・海外の会社と結んだ契約で、供給する場所

がルーマニア国外の場合

・輸入した商品の通関価格に、提供するサー

ビスの値段が含まれている場合

・輸入商品の保証期間内に行うサービス

・研究、市場調査、専門的な援助

・ルーマニアの領域内を通過する商品につい

てのサービス

JETRO ユーロトレンド 2001.7 179

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② 商品の供給

商品を輸入する場合、輸入業者は通関時に

VATを支払う義務がある。しかし、次のよ

うな場合はVATが免除される。

・ルーマニア関税規則で定める免税品

・関税法により、免税品として流通する商品

と認められたもの

・自由貿易地域に直接入荷する商品とその輸

送手段

・輸入する商品が、もしルーマニア国内で調

達された場合、VAT免除と定められてい

る商品

・その輸入品が、45日以内に輸出される製品

の原材料である場合

さらに、法の規定により、通関時のVAT

の支払猶予(1億5,000万レイ以上)が次のと

おり定められている。

・製造ラインの新設や増設のための、工業、

農業用の設備や装置については120日

・国内では手に入らないもしくは入手困難な

特定の原材料については60日

また、規定によると、通関書類、手続きを

経てルーマニア国外に輸送され供給された商

品は、輸出品とみなされる。

(3)財務代理人

VAT法によると、ルーマニア国内でVAT

の対象となる営業を行っている外国企業は、

財務代理人を任命しなければならないが、実

際にはこの規定はまだ徹底されておらず、現

状も詳細には把握されていない。

(4)支払いおよび申告要項

納税者は、毎月(売上高が、1億5,000万レ

イ以下の場合は、四半期毎)、VATの課税金

額と税額を明示して、税務署に申告しなけれ

ばならない。この申告とVATの払い込みは、

次の月の25日までに行う。

仕入れ段階のVATと販売段階のVATの差

額(支払超過額)は、1カ月に限り繰り越す

ことができ、返還を申請すれば、30日以内に

返還される。30日以内に返還がない場合、納

税者は大蔵省から支払い遅延に対する利息を

受け取る権利がある。

4.個人所得税

ルーマニアにおける所得税の規定は、2000

年1月1日に施行された法令No.73/1999で定

められている。

この法令が施行された時点で、本法令の適

用に関する基準法をはじめ、給与にかかる税

を定めた法令No.32/1999や、国民の所得に対

する税を定めた臨時法令No.85/1997、その他、

個人にかかる税についてのさまざまな規定や

条項が廃止になった。これは、ルーマニア国

民のために、合算課税システムを作り上げる

のに必要なステップであり、これによって、

課税に関する雑多な方法が整理された。

合算課税システムの構築以外にも、法令で

は、ルーマニアの税法上重要な次の2つの原

則を打ち出している。

・所得額に対して、税率が釣り合うようにす

る衡平法

・納税者の個人的な資格にしたがって税率を

決定する社会的資格

1番目の原則は、ルーマニアに居住するす

べての国民が受けることができる基礎控除額

92万6,000レイに基づいて決定される累進課

税率と最低限界税率を制定するために適用さ

れるものである。2番目の原則は、生活不能

な納税者のために、扶養家族の数、親などの

特定の条件に基づいて特別控除を行うために

適用されるものである。

(1)納税者

納税者は、次のように定義されている。

・ルーマニアの国民で、ルーマニアに居住し、

ルーマニアおよび海外から所得を得ている者。

・ルーマニアの国民で、ルーマニアに居住し

ておらず、ルーマニア領域にある企業体を

JETRO ユーロトレンド 2001.7180

10

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 181

通してルーマニアで所得を得ている者、あ

るいは暦年のうちの183日以上ルーマニア

で所得を得ている者。

・外国人で、ルーマニア領域にある企業体を

通してルーマニアで所得を得ている者、あ

るいは暦年のうちの183日以上ルーマニア

で所得を得ている者。

ルーマニア政府は、上記の納税者をまとめ

て次の2つに分類している。

・ルーマニアに居住するルーマニア国民で、

国内および海外両方で得た所得(合計所得)

が課税される者。

・ルーマニアに居住していないルーマニア人

および外国人を含むその他すべての市民

で、ルーマニアで得た所得のみが課税され

る者。同じように、外国へ移住した者が得

た所得に対しても、ルーマニアで得た所得

に対してのみ課税される。

上記いずれの場合も、ルーマニアの住人と

は、ルーマニアに居住している者、事業所を

持っている者、暦年のうちの183日以上ルー

マニアで所得を得ている者を意味する。

ルーマニアに居住していないルーマニア国

民と、上記で定める以外の方法でルーマニア

で所得を得ている外国人も、ルーマニアで定

める二重課税協定に基づき納税者となる。

(2)課税対象所得

課税対象になる所得は、大きく2種類に分

けられる。

・年間の課税総所得に含まれる所得

・年間の課税総所得に含まれないが課税され

る所得

1番目の項目に該当する所得としては、具

体的に、①自営によって得た所得、②給与所

得、③資産の譲渡によって得た所得が挙げら

れる。

また、2番目の項目に該当する所得として

は、具体的に、①配当によって得た所得、②

利子所得、③賭博、宝くじ、ボーナスで得た

所得、④有価証券の売却で得た所得、⑤その

他の所得が挙げられる。

所得は、現金収入および物品受け取りのレ

イ相当額の両方について課税される。

(3)課税期間と税率

法律の規定で、財政年度は暦年度に当たる

と定められており、その年度内に得られた所

得が課税年間所得とみなされる。年間所得に

対する税率は、年間課税所得に限界税率を用

いて計算されたものになる。

納税者は、年間の包括収入から、2000年度

の上半期は毎月80万レイ、2000年度の下半期

は毎月92万6,000レイの基礎控除を受けるこ

とができ、その他に課税期間のすべての月で

追加控除が受けられる。

年間の限界税率は、統計委員会が算出するイ

ンフレ率にしたがって半年に一度見直される。

表4 決議No.611/2000で定められた2000年度の平均年間税率�

課税所得(レイ)�

11,868,000まで�

11,868,001~29,118,000�

29,118,001~46,374,000�

46,374,001~64,710,000�

64,710,000以上�

     年間税率(レイ、%)�

18% �

2,136,240 +11,868,000を超える額の23%�

6,103,740+29,118,000を超える額の28%�

10,935,420+46,374,000を超える額の34%�

17,169,660+64,710,000を超える額の40%

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(4)純所得の決定

純所得とは、総所得から控除できる経費を

差し引いた額である。経費は、それが所得に

関連しており、その経費が所得を得るための

業務活動の結果であり、そのことを証明でき

る書類がある場合に限り、控除の対象になる。

次のような出費は、控除の対象外である。

・納税者やその家族が、私的目的で使用した

資産の額

・無税、あるいは税を免除される所得を得る

ために使われた経費

・法令No.73/1999に基づいて、支払いの義務

のある税金

・会社の財産である資産を、私的目的で使用

したときにかかった経費

減価償却の経費は、償却に関する法律

No.15/1990に準拠して行われたものであれば

控除できる。また、法人については、生鮮食

品の経費と広告費が控除できる。個人の場合、

生鮮食料品の経費は控除できないが、マスメ

ディアによる広告契約の費用は全額控除する

ことができる。

このように、総所得から基礎控除と控除で

きる経費を差し引いた額が、純所得になる。

基礎控除および追加控除は、ルーマニアに居

住するルーマニア市民だけに認められてい

る。海外に永住している者には、個人控除は

認められない。また、個人控除額は、所得額

を上限とし、控除額の合計が基礎控除額の

2.5倍を越えてはならない。

納税者は、次のような義務を負っている。

・自営および自身の資産を使用して業務を行

い所得を得ている納税者は、単式簿記法に

基づいて会計事務を行い、該当する規則に

従って、受け取りおよび支払い帳、在庫帳、

その他の会計資料を作成しなければならな

い。

・純所得が必ず一定の率の経費を控除して決

定される納税者は、受け取りおよび支払い

帳をつけなければならない。

・在庫帳には、事業に関連するすべての資産

と利権を記入しなければならない。

所得が均一課税所得(フラット・タック

ス・インカム)と考えられる納税者は、簿記

を行う必要はない。

① 自営業による所得

自営業による所得とは、独自あるいは共同

で行う商売による所得、フリーランスによる

所得および著作権所得を指す。商売による所

得とは、納税者が、さまざまな取り引き、サ

ービス、貿易およびフリーランス以外の営業

活動から得た所得のことである。プロのスポ

ーツ選手の所得も自営業の所得とみなされ

る。自営業の純所得の求め方には次の2とお

りがある。

・均一課税所得をベースにする方法

・単一簿記法、つまり本格的な会計システム

により記入されたデータを用いる方法

均一課税所得に基づいて純所得を決定でき

る自営業のリストは、大蔵大臣法令

No.1192/1999で定められている。このリスト

には、さまざまな商売、貿易、製造・修理業

務、馬車などの動物を使用する輸送業務、タ

イプ仕上げ、写真撮影、タクシーなどのサー

ビス業務など121項目が掲げられている。

均一課税所得は、自治体の一般公共財政と

国の財務管理局(General Public Finance

and State Financial Control Department)に

よって提案され、郡の評議会あるいはブカレ

スト市の評議総会(Conty Councils or the

General Council of Bucharest City)によっ

て、各会計年度の1月31日までに認可される。

自営業によって所得を得ている納税者が、

1年のうちの一部しか業務を行わなかった場

合、仕事をしなかった期間に比例して均一課

税所得は低くなる。この場合、税率は均一課

税所得に比例するが、納税者は、単一簿記に

よる会計データに基づいて課税されることを

選択することができる。その場合、納税者は、

JETRO ユーロトレンド 2001.7182

10

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 183

次の会計年度が始まるまでに、税務当局に申

請書を提出しなければならない。その選択は、

以後2年間は義務となり、それ以外の方法を

新たに申請するまで自動的に更新される。

自営業で得た純所得は、単一簿記による会

計データに基づいて決定され、控除が許され

ている経費を総所得から差し引いて算出され

る。総所得とは、受け取った収入と現品のレ

イ換算額すべてを言い、信用貸しで受け取っ

た金額は、総所得からは除外される。

知的所有権から所得が生じている場合、受

け取った現金あるいは物品のレイ換算額の合

計額から25%の率の経費を差し引いた金額が

純所得とみなされる。この控除規定は法で定

められているため、証拠となる書類の提出は

必要ない。

著作権や記念碑などの芸術作品によって得

た所得の場合は、総所得から40%の率の経費

を差し引いた金額が純所得となる。知的所有

権を相続したものが、その権利を主張する場

合や清算する場合、上記の率の控除は認めら

れず、遺産管理機関あるいは同様の個人に支

払う金額を、総所得から差し引いた金額が純

所得となる。知的所有権から発生する純所得

は、単一簿記による会計データに基づいて算

出することもできる。その際、納税者はその

ような意向を表明しなければならない。

知的所有権により所得を得ている納税者

は、一時納税として15%の税金を支払う。こ

の納税は、次の月の10日に実際の所得税が支

払われるまで、源泉分として国庫に保管さ

れる。

② 給与所得

総給与所得とは、一つ以上の職に就いてい

る従業員の所得の総額である。純所得は、総

所得の中から、法律で定められた年金基金

(5%)、失業保険(1%)、社会保険(7%)

などへの負担金と、職場で認められている基

礎控除のほか、職業上の経費として認められ

ている個人控除(15%)を差し引いて算出さ

れる。

給与所得に対する税金は、雇用主によって

毎月計算され、給与と同時に支払われる。毎

月の税額は、上記の年間課税額を12で割って

算出される。政府決議No.611/2000は、2000

年下半期の給与の新しい限界税額を設定して

いる。

主要な職場で得た所得に対する毎月の税率

は、毎月の給与の純所得と、その月に認めら

れている個人控除額との差額に限界税率をか

けて計算される。その他の所得に対する毎月

の税率は、総所得と、それぞれの職場で負担

する社会保険料との差額に、限界税率をかけ

て計算される。毎月の税額はそれぞれの職場

で計算されるので、納税者は、確定申告でそ

の差額を支払う。

次の納税年度の財務書類は、雇用主が11月

30日までに税務署で入手することができる。

財務書類には、その年の納税者の所得、個人

表5 決議No.611/2000で設定された2000年度下半期の毎月の課税所得額と税額�

毎月の課税所得額 (レイ)�

1,061,000 まで�

1,061,001~2,603,000�

2,603,001~4,146,000�

4,146,001~5,785,000�

5,785,000以上�

    毎月の税額 (レイ、%)�

18% �

190,980 +1,061,000を越える額の23%�

545,640 +2,603,000を越える額の28%�

977,680 +4,146,000を越える額の34%�

1,534,940 +5,785,000を越える額の40%

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控除額、給与所得および国庫に支払われた税

額、年間所得や給与の補正の結果などのデー

タが記載される。雇用主は、支払われたすべ

ての給与について、財務書類を作成し、給与

にかかる税額の補正と再計算を行わなければ

ならない。

前年度の財務書類の写しは、所轄の税務署

と従業員に、その年の2月最後の日までに提

出しなければならない。財務書類の個人的な

データは、雇用主が証拠となる資料をもとに

記入する。同様に、雇用主は、従業員の扶養

家族について確認できる資料を従業員に要求

しなければならない。

ルーマニアで事業を営む納税者で、海外か

ら別に給与を受け取っている者、また、ルー

マニア国民で海外に外交派遣されている者

は、個人で、あるいは財務代理人を通して、

課税される所得を算出し、所得のあった月の

月末から15日以内に申告し支払わなければな

らない。その場合、その納税者が働く個人や

企業は、税の源泉徴収は行わないが、その納

税者の就業の開始あるいは停止について、そ

の開始あるいは停止の日から15日以内に所轄

の税務署に連絡しなければならない。

海外に居住しているルーマニア国民と、ル

ーマニアで就業している外国人で、外国から

の給与という形で所得を得ている者は、前述

の183日規定に従って課税される。特に、そ

の暦年内に183日以上就業した場合、その時

までに得た所得については、その外国人が最

初にルーマニアに到着した日から課税され

る。所得を得た次の月の15日までに所得税が

支払われない場合、支払遅延の罰金(税額の

0.3%)が発生する。

③ 資産の使用権譲渡による所得

動産あるいは不動産の使用権譲渡で得た所

得は、現金あるいは物品のいずれの場合でも

該当する。譲渡された資産価格は、文書によ

る譲渡契約書に記載し、実行の日から15日以

内に所轄の税務署に登記しなければならな

い。その場合の総所得とは、その資産の使用

を譲渡されることで得た金額あるいは現品の

レイ換算額の合計になる。この場合の譲渡人

とは、資産の所有者、用益権者あるいは資産

の法的所有権を持っている者になるが、その

譲渡人が負担した経費については総所得に加

算される。ただし、その経費を非譲渡人が負

担した場合は加算されない。

資産の使用権譲渡による純所得は、総所得

から、定められている控除率30%の経費を差

し引いて求められる。この一律30%の経費に

は、資産を所有することにかかる費用や税金、

法律に定める代理店手数料など、すべての経

費が含まれている。譲渡人は、失権に掛かっ

た経費について、控除を証明する資料を税務

署に提出することはできない。

④ 配当および利子による所得、その他の所得

配当とは、企業のある年度の貸借対照表と

損益勘定に基づいた、現在あるいは累積の企

業収益を株主に比例配分するもので、通常、

配当は現金で支給される。株や財産で支給さ

れる場合もある。配当による所得には、5%

の税率が課される。この種の所得には、投資

信託として所有する株式による収入も含まれる。

利子による所得には1%の税が課される。

このような所得とは、すべての受取債権から

の所得、償還価格が購入価格を上回るオープ

ンエンド投資信託会社の株式で得た利益など

で、生命保険契約の保険額は、利子と同等と

みなされる。大蔵省証券と一覧払い積立金の

利子は税免除が受けられる。

有価証券の所有権の譲渡によって得た所得

は、その取引の総額の1%が課税される。

法令No.73/1999で定める以外のすべての所

得については、総所得の10%が課税され、毎

月、次の月の25日までに支払わなければなら

ない。

JETRO ユーロトレンド 2001.7184

10

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⑤ 外国税額控除

ルーマニア在住の納税者で、同じ課税期間

内の同じ所得に対して、ルーマニアおよび外

国の両方の所得税を支払う義務のある者は、

ルーマニアで支払う所得税から、外国で支払

った税額を控除することができる。この控除

は、外国税額控除と呼ばれており、次のよう

な条件によって認められる。

・外国で発生した所得税で、発生時点で直接

支払われたか源泉徴収されたもの。ただし、

税が支払われた国の所轄税務署が発行する

支払証明書があるもの。

・外国で支払われた所得税が、ルーマニアの

所得税と同質のものであること。

外国税額控除では、外国で得た所得に対し

外国で支払った税額が控除されるが、ルーマ

ニア国内の所得税率で算出した場合の所得税

額を上回る額の控除はできない。外国税額控

除では、それぞれの国の所得が個別に算出さ

れる。外国税額控除を計算する際の外貨交換

レートは、ルーマニア国立銀行発表のその年

の外国為替市場における年間平均レートである。

二重課税協定の控除を受ける者は、ルーマ

ニアの税務署に対して、居住している国の税

務署が発行する財務所在地証明書を提出し、

その国に居住している二重課税協定の控除の

対象者であることを証明しなければならない。

⑥ 財務代理人

財務代理人とは、海外に居住するルーマニ

ア市民あるいは外国人の依頼人が、ルーマニ

アを離れている間、税制上の義務を遂行する

権限を与えられたルーマニアに居住している

者をいう。

同様に、ルーマニアで事業を営み、その所

得を外国で給与という形で得ている納税者

は、その所得に対する税額を算出し、所轄税

務署に確定申告を行う財務代理人を任命する

ことができる。この場合、代理人の任命は義

務ではなく、納税者が自分で納税し申告する

こともできる。

任命された財務代理人が、納税と申告の提

出についての税制上の義務を怠った場合、代

理人は代理依頼人とともに責任を負わなけれ

ばならない。

⑦ 確定申告

納税者は、居住している地域の税務署に対

して、3月31日までに確定申告を提出する義

務がある。また、納税者は、それぞれの所得

の種類、所得を得た場所について特別確定申

告を作成し、所得が発生した地域の所轄の税

務署に提出しなければならない。確定申告の

手続きを簡単にするため、給与という形で一

つの収入源から所得を得ている納税者は、申

告を行う必要はない。その場合、年間の税額

の計算は、雇用主、もしくは要請があれば所

轄の税務署が行うことになる。勤務先で、源

泉徴収で税額を差し引かれている納税者は、

徴収された税額が最終税額になる。その会計

年度中に事業を始める個人または非法人の組

合は、その年に発生すると予想される収入と

経費に関する申告を、事業を始めてから15日

以内に、所轄の税務署へ提出しなければなら

ない。

⑧ 税額の決定

年間総所得に対する税額は、納税者から提

出された確定申告に基づいて、税務署が規定

の税率を適用して算出する。税務署は、納税

者の前年度分の年間税額を決定し、毎年大蔵

省で発令する規定に基づいて納税命令書を発

行する義務がある。

この税務署の納税命令書には、年間税額の

差額として納税者が支払うもしくは納税者に

還付される額が明示される。この差額は、総

所得額に対する年間課税額から、事前に支払

っている分の税額、源泉徴収されている税額、

それに外国税額控除を差し引いた額になる。

納税命令書には、前年度に予め仮払いしてあ

JETRO ユーロトレンド 2001.7 185

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JETRO ユーロトレンド 2001.7186

10

表6 消費税の対象品目と税率�

アルコール飲料� 消費税�

1.蒸留されていないアルコール�

2.蒸留したエチルアルコール�

3.蒸留エチルアルコールおよび穀類蒸留アルコールベースの蒸留酒�

4.自然アルコール飲料、濃度0.5以上のエチルアルコールを含有するその他の飲料、ワイン、蒸留ワインベースの製品(濃度が体積で22%以上のもの)�

5.ビール�

6.発砲でないワイン�

7.発砲ワイン�

8.ベルモットおよびその他のワインベースの製品で体積濃度が22%までのもの�

140ユーロ/ヘクトリットルの純アルコール�

160ユーロ/ヘクトリットルの純アルコール�

(180+最高申告小売値段の1%)ユーロ/ヘクトリットルの純アルコール�

180ユーロ/ヘクトリットルの純アルコール���

1.2~1.5ユーロ/アルコール1度�

0.55ユーロ/ヘクトリットル/アルコール1度�

2.75ユーロ/ヘクトリットル/アルコール1度�

2.30ユーロ/ヘクトリットル/アルコール1度�

          石油類�

1.自動車用ガソリン�

2.自動車用無鉛ガソリン�

3.ディーゼル(ディーゼル車用燃料)�

4.DAVの最初の蒸留のガソリン、蒸解および熱分解�

5.燃料タイプ"M"と "P"�

6.自動車エンジン用オイル�

7.ガソリン添加物�

8.ワセリン、パラフィン�

消費税(ユーロ/トン)�

270�

220�

105�

270�

105�

50�

75�

40

         コーヒー類�

1.グリーンコーヒー�

2.煎ったコーヒー、代用品入りのものを含む�

3.可溶性のコーヒー、可溶性との混合を含む�

消費税(ユーロ/トン)�

775�

1,035�

4,500

          タバコ�

1.紙巻きタバコ�

2.葉巻および板葉巻�

3.パイプタバコ、かぎタバコと噛みタバコ�

          消費税�

(2+最高申告小売値の25%)ユーロ/1000本�

6.50ユーロ/1000個�

14ユーロ/キログラム�

           毛皮�

高級毛皮�

         クリスタル�

クリスタル製品�

           宝石�

金とプラチナの宝石�

          自動車�

自動車�

           香水�

香水�

          電子製品�

一部のAV製品�

           猟銃�

猟銃�

消費税�

40%�

消費税�

50%�

消費税�

20%�

消費税�

1~18%�

消費税�

20%�

消費税�

15%�

消費税�

50%

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 187

る税額についても明示される。命令書の差額

税額が変わるような事態が起こった場合、税

務署は命令書を再発行する。

自営業者および資産の使用権の譲渡を受け

た納税者は、所轄の税務署の発行する納税命

令書にしたがって、所得税を前払いしなけれ

ばならない。知的所有権による所得にかかる

税のような所得源税については、前払いの必

要はない。

前払いする税額は、推定年間所得あるいは

前年の納税命令に基づいて、税務署が決定す

る。前払いは、四半期の最後の月の15日まで

に均等分割で支払う。前払い税の算出の根拠

となる所得が、20%以上変動すると思われる

納税者は、年に一度だけ、下半期に、前払い

金の納税命令書の再発行を申請することがで

きる。その際、納税者は、業務所得の実績に

ついて証明する資料を税務署に提出しなけれ

ばならない。税の未払い残高については、

100万レイ以下であれば納税命令書発行から

30日以内に、100万レイ以上であれば発行か

ら60日以内に2回の分割で支払わなければな

らない。前年度の確定申告を怠った納税者、

会計帳簿をつけていない納税者、帳簿の内容

が疑わしい場合や推定所得に関する資料を提

出しなかった納税者に対して、税務署は税の

前払いを決定し命令する権利がある。

5.物品税

(1)消費税

消費税とは、国内品あるいは輸入品のいく

つかに特別に課せられる税金である。消費税

に関する規定は、法令No.27/2000と法令

No.134/2000で定められている。消費税は、

飲料、コーヒー、タバコ、石油類、毛皮、宝

石、香水、クリスタル、自動車、AV製品の

一部、ルーマニア領域内で行う賭博、カジノ

に適用される。次のような項目は、消費税が

免除される。

・直接輸出される製品や経済団体によって手

数料ベースで輸出される製品

・免税店で販売される製品

・ルーマニアの領域を通過する製品

・株式資本に拠出された自動車や、株式資本

の増資のために投資家の拠出によって購入

した自動車

現在、消費税は単位当たりの税率あるいは

基本課税率で定められている。

納税者は、毎月消費税の申告を行い、翌月

の25日までに支払う義務がある。輸出に関す

る消費税の払い戻しは、現在、請求から60日

以内となっており、その期限内に払い戻しさ

れない場合は、大蔵省は支払遅延による利子

を支払わなければならない。アルコール飲料

の消費税に関しては、特別な監督、管理制度

が設けられている。

(2)関税

関税に関する法的規制は、関税コード

(Customs Code)と関税規定(Customs

Regulation)で定められている。

① 基礎と税率

関税は輸入の際に課税され、その税率は輸

入品の種類によって決まっている。一般的な

税率は3%から30%であるが、これより高い

税率の製品もある。関税は、WHOの原則に

基づいて決定されるその商品の関税価格(消

費税とVATを除く)で算出される。さらに、

特恵品目(ルーマニアが特恵条約を結んだ国

からの製品)に該当しない輸入商品には、関

税価格に0.5%の通関手数料が徴収される。

98年10月から、政府は、法律で定める通常

の関税のほかに、すべて課税される輸入(若

干の例外を除く)に対する追加料金を導入し

た。2000年の追加料金の率は2%と定められ、

2001年から徐々に削減されている。

② 関税の優遇措置

ルーマニアの経済を左右するような大きな

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開発(5,000万米ドル以上)に投資する投資

家は、以下に挙げる輸入に関して、関税およ

びVATの免除を受けることができる。

・株式資産として拠出した償却できる資産

・償却できる資産である技術設備

・業務の開始から2年間の期間内の原材料、

消耗品および予備品

リース法では、リース取引による可動商品

の輸入において、特定の関税の優遇措置(免

税)が定められている。ルーマニアのリース

会社が、陸上(on shore)でリースする目的

で輸入した商品には、関税が免除される。在

外(off shore)のリースの場合、仮輸入とし

て関税が全額免除される。陸上(on shore)

リース取引に供される商品の部品や組立品に

も免税が認められている。

③ 通関手続き

ルーマニアの通関規定は、EUの通関規定

をモデルにしている。手続きは大きく自由流

通の輸入と輸出に分けられている。通常の輸

入には輸入関税が課せられ、商品の輸出には

関税が免除される。

ルーマニア関税コードでは、①輸入通関中、

②輸出通関中、③保税倉庫、④仮認可、⑤税

関の通過、など一定期間にわたる通関保留処

分が定められている。保留手続きでは関税の

支払いは必要なく、通常、関税分の保証金を

預ければ認可される。

④ 輸入関税

HS 1992に基づき、6桁のレベルで、5,018

行に渡るルーマニアの輸入関税一覧は、決議

No.673/1991によって導入された。この関税

規則に代わる法令No.26/1993が93年に施行さ

れ、欧州協定(Europe Agreement)でルー

マニアが同意したEU統合関税分類(EU

Combined Nomenclature(CN)tariff classifi-

cation)(決議No.120/1993)に適合するため

に、8桁レベルに移行された。その後95年7

月1日に、決議No.353/1995の条項LXIXで、

ほとんどの農産物に拘束率が導入され、再び

修正された。ルーマニアは、HS 1996の申し

合わせ(Convention)を法律No.98/1996で批

准したので、CNとHS1996の間では、6桁レ

ベルまでなら1対1で対応している。ルーマ

ニアの関税一覧には、8桁の1万587行の関

税一覧がある。通産省は、毎年、輸入業者と

ルーマニア税関管理局(Romanian Customs

Administration)のための資料として、関税

の手引き(Ghid de Utilizare a Tarifului

Vamal de Import al Romaniei)を発行して

いる。最初の2列には、MFNレート、つま

り法定関税(taxa vamala)と適用税率(最

新の手引きではtaxa vamala 2000)が記載さ

れ、残りの11列には、特恵規定と国際協定が

受けられる原産地からの輸入にかかる関税が

記載されている。つまり、EU、トルコ、

EFTA、CEFTAの各国(ブルガリア、チェ

コ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、

スロベニア)の原産のもの、グローバル貿易

特恵システム(Global System of Trade Pre-

ferences(GSTP))あるいは「プロトコル16」

(“Protocol of 16")に基づく開発途上国に適

用される関税である。94年に、ルーマニアと

自由貿易協定を結んでいるモルドバとの相互

貿易には、関税はかからない。

法定税率と適用税率が異なるのは農産物の

みである。農産物以外では、法定MFNレー

トと単純平均税率が、99年で16.2%と同じで

あることを見てもわかるように、拘束率の

35%よりかなり低い税率で安定していること

を示している。逆に、農産物では、99年の

MFN単純平均レートの33.9%と法定レート

の134.1%との間で大きな格差がみられるが、

これは97年以来の農産物の関税自由化政策

によるものである。農産物に対する関税は

9 5年7月時点の高めの法定税率(決議

No.353/1995)が、97年まで適用税率として

採用されてきたが(決議No.1055/1995)、97

JETRO ユーロトレンド 2001.7188

10

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年4月に引き下げが行われた(決議

No.161/1997)後、98年まで維持され(決議

No.947/1997)、その後さらに引き下げられた

(決議No.237/1997)。99年には、アルコール

を除く品目の適用税率がさらに引き下げられ

た(決議No.935/1998)。農産物についての適

用税率は、議会の決議によって毎年見直すこ

とになっている。

法定税率と適用税率の格差は流動的で、当

局の判断によって、農産物の拘束率の範囲内

で、適用税率が引き上げられる可能性もある。

絶対値で最大の格差がみられる項目は、「穀

類、小麦粉、でん粉あるいは牛乳の加工、ペ

ストリー製品、」(法定税率が198.8%、適用

税率が29.1%)、「飲料、蒸留酒および酢」

(288.2%と121.1%)、「ココアおよびココア加

工品」(194.7%と39.2%)などとなっている。

99年の最高適用税率は、ビールの248%と、

ワイン、ベルモットおよびその他の醸造酒の

144%であった。

農産物以外の自由化政策には、98年、99年

度に適用された生皮、皮革、毛皮の関税の引

き下げ(決議No.237/1997)、99年度に適用さ

れた綿の関税の引き下げ(決議No.80/1998)

などがある。ルーマニアでは、97年12月31日、

98年1月1日、99年1月1日にそれぞれ締結

された情報技術協定(ITA)が適用される製

品について、協定が定めるスケジュールにし

たがい、1次、2次および3次の引き下げも

行われている。

さまざまな特恵関税率の平均をみると、特

恵は、主に非農産物に認められており、原産

国としては、99年度では、EUやEFTA諸国

よりCEFTA諸国の方が多くなっている。し

かし、これは、ルーマニアが、EUとEFTA

の合意に基づきセンシティブ品目の自由化を

2002年まで先送りしている結果である。99年

度では、履き物と織物および衣類が、特恵税

率15%以上でEUから輸入している製品の3

分の2を占めている。該当品目の関税引き下

げが完了する2003年までは、自由貿易協定に

おけるルーマニアの特恵率は、原産国にかか

わらず一律になる。

97年5月以来の、農産物のMFNレートの

引き下げに伴い、ウルグァイ・ラウンドでル

ーマニアが確約したMFN原産国からの農産

物に対する特恵関税適用の割当制度が始まっ

た。99年度では、特恵の割当を定めている12

品目の農産物のうち、ベルモットとビールの

2品目だけが特恵関税の割当を超過したが、

その他の10品目については、割当に達しなか

った。さらに、99年に、ルーマニアは、特恵

原産国からの合計73品目に関税率割当を設定

した。原産国別の割当品目数は、EU(20)、

トルコ(7)、フルガリア(9)、チェコ(6)、

ポーランド(4)、スロバキア(6)、スロベ

ニア(13)、ハンガリー(8)である。これ

らの割り当ては、早いもの順に割当数に達す

るまで許可され、割当数を超えた輸入につい

てはMFNレートが適用される。

6.社会保険制度

ルーマニアでは、雇用主と従業員がそれぞ

れ費用の一部を負担する社会保障制度が定め

られている。通常、雇用主の負担は、給与基

金総額の47.25~47.75%で、従業員の負担は

給与の合計の13%である。この負担金の用途

の割合は次のとおりである。

【雇用主による負担金】

・CAS(一般社会保証基金):業務の種類に

よって、30~40%

・社会保障健康基金:給与の合計の7%

・失業基金:給与の合計の5%

・労働会議所(Labor Chamber)手数料:給

与基金の総額の0.25%または0.75%(本社

以外の事業所)または、給与税、社会保険

料を含む従業員に支払った額の合計の5%

(本社のみに適用)

・障害者基金:給与基金の総額の3%

・全国教育基金:給与基金の総額の2%

JETRO ユーロトレンド 2001.7 189

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【従業員による負担金】

・失業基金:給与の合計の1%

・年金基金:給与の合計の5%

・社会保障健康基金:給与の合計の7%

(1)一般社会保証基金

雇用主は、一般社会保障給付金のための負

担金として、業務の種類に応じて、従業員の

給与の合計の30%、35%、あるいは40%を支

払う。業務の種類は、3つのグループに分類

されているが、大半の業務は、負担金が30%

の3番目のグループ(通常の業務条件)に分

類されている。

(2)社会保険健康基金

ルーマニアには、政府の一般財政でまかな

う病院医療介護制度がある。98年1月1日か

ら、社会健康保障負担金の規定が変わり、現

在の健康基金になった。同時に負担金が引き

上げられ、雇用主と従業員の両者が負担する

ことになった。

98年1月1日から施行された社会健康保険

法No.145/1997によると、雇用主は、支払っ

た給与の合計額の7%を負担金として支払う

義務がある。従業員も給与の合計の7%の負

担金を支払わなければならない。民間契約で

仕事をしている個人は、課税される所得額の

7%を支払う。

(3)失業基金

ルーマニア政府は、全国規模の失業保険基

金を運営しており、職を失った従業員に対す

る短期の給付を行っている。雇用主は給与の

総額の5%を、従業員は給与の総額の1%を

負担する。雇用主は、従業員から負担金を徴

収し、従業員に代わって国庫に納めなければ

ならない。失業給付金は9カ月まで支給され、

職業訓練や斡旋も行われる。

(4)その他

従業員は、従業員およびその扶養家族の退

職および埋葬の費用の援助として、給与の総

額の5%を国庫の年金補助基金に支払う。

また、臨時法令No.102/1999にしたがって、

雇用主は、給与の総額の3%を社会連帯障

害者基金に払い込まなければならない。そ

のほか、雇用主は、給与の総額の2%を全

国教育基金のために負担する義務があり、

労働会議所に、業務記録を会社がつけるか

労働検査委員会がつけるかによって、給与

の総額の0.25%か0.75%を支払わなければな

らない。

7.海外からの投資のための優遇措置

全般的な投資に対する税の優遇制度(大型

の投資を含む)は、2000年に撤廃された。し

かし、投資に関しては次のような税の便宜が

図られている。

(1)条件不利地域への投資

条件不利地域への投資に対する優遇措置

は、臨時法令No.24/1998で定められており、

その内容は以下のとおりである。

・条件不利地域への投資を行ったり、事業を

続行したりする目的で輸入した機械、設備、

備品、工具、輸送手段、ノウハウ、その他

の償却できる資産について、関税とVAT

の全額免除

・条件不利地域への投資を行ったり、事業を

続行したりする目的でルーマニアで製造さ

れた機械、設備、備品、工具、輸送手段、

その他の償却できる資産について、VAT

の全額免除

・条件不利地域での自主生産を行うために輸

入した原材料、予備品あるいは構成部品に

ついて、関税の全額払い戻し

・条件不利地域として指定されている期間中

の所得税の免除

JETRO ユーロトレンド 2001.7190

10

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・投資のための、農地についての指定の除外

や用途の変更にかかる税金の免除

・輸出の奨励、外国信用状の保証、特別プロ

グラムへの融資、登記株式資本に国が参画

する投資プロジェクトへの融資に対する、

ルーマニア政府の開発特別基金からの優先

的な補助金

(2)自由貿易地域

自由貿易地域は、法律No.84/1992で定めら

れている。自由貿易地域の設立とその範囲の

設定は、関係省庁と地方自治体からの要請で、

議会の決議によって行われた。自治体として

活動する自由貿易地域の管理は、運輸省の中

の自由貿易庁が行っている。

自由貿易地域に対して与えられる優遇措置

は、以下のとおりである。

・自由貿易地域の土地および建物は、ルーマ

ニアあるいは海外の個人や企業に対して、

最高50年まで貸し出される。

・外国から自由貿易地域へ持ち込む、あるい

は自由貿易地域から外国へ持ち出す場合の

輸送手段、商品その他の資産については、

関税および租税が免除される。

・自由貿易地域で事業を行う企業は、その事

業の全期間にわたってVAT、消費税およ

び所得税が免除される。

・自由貿易地域で事業を清算あるいは縮小し

た外国人や外国企業は、ルーマニア国家お

よび契約相手に対するすべての支払いを終

了してから、その資本と利益を海外に移転

することができる。自由貿易地域に持ち込

んで、特定の商品の製造に使用したルーマ

ニア製の材料や付属品は、書類による輸出

申請をすれば関税が免除される。

・自由貿易地域内にある施設の建設、修理お

よび保守のために使用されたルーマニア製

の商品には、関税が免除される。

・ある自由貿易地域から別の自由貿易地域に

送られる商品には、関税が免除される(現

在、Sulina、Constanta、Galati、Braila、

Curtici、Aradの6つの自由貿易地域が設

立されている)。

(3)中小企業に対する優遇措置

中小企業とは、従業員数が249人以下で、

年間総売上が800万ユーロ以下の規模で生産

およびサービス活動を行う企業を指す。中小

企業は、個人企業家による中小企業の設立と

発展を奨励する法律No.133/1999の規定によ

り、次のような優遇措置を受けることができ

る。

・自身の商品の生産およびサービスの向上の

ために輸入し、自身で支払うかルーマニア

あるいは外国銀行からの借り入れで支払わ

れる機械、設備、備品、ノウハウについて

の関税の免除

・商品の生産のために輸入した原材料で、そ

の生産品が免税品である場合は、原材料の

関税の免除

前述の優遇措置は、企業が、銀行、保険・

再保険、通商、投資信託、証券取引および外

国貿易会社である場合は認められない。

中小企業に対する優遇措置は、「官報」

No.195/2000年5月に掲載された国庫法

No.76/2000によって定められている。

8.EU統合に向けての税制システムの調和

税制改革を継続していくことは、競争力の

あるルーマニア経済を確立し、永続的な成長

を目指すという観点から重要である。

財政システムの均等化のための施策は、効

率的で、わかりやすい財源の割り当てを行う

ための重要なステップであると同時に、EU

統合のプロセスにとっても重要な要素にな

る。

2000年から始まった中期財政改革では、原

則的に、労働、貯蓄および投資を促進するた

めの近代的な税システムの構築と、税の均等

JETRO ユーロトレンド 2001.7 191

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JETRO ユーロトレンド 2001.7192

10

化を目指している。

財源の偏りは、税の均等の原則が定着すれ

ば改善されると思われる。個人の所得税、富

裕税、付加価値税、消費税がルーマニアの税

システムの柱となり、逆に関税の比率は減る

ものとみられる。税システムの改革は、まず、

税制基盤を拡大すること、そして適切な限界

税率を設定していくことから始まる。

直接課税システム、特に所得税と個人税に

ついては、EUの規範と基準に調和しなくて

はならない。個人の所得税に関しては、一定

のレベルを超える額の年金や農業生産による

所得にも課税する方向で検討されている。年

金に課税するということになると、総所得に

対して課税するために、一般所得の課税割り

当てを見直す必要が出てくるものと考えられ

る。また、個人の所得税に配当金を入れるこ

とも検討されている。

間接税率、特に付加価値税と消費税率に関

しては、EUレベルに調和させるために、税

収に応じて引き下げられることになるものと

思われる。付加価値税をEUレベルにすると

ともに、外国に居住する個人へのVATの払

い戻しの規定をより明確にすることも必要に

なろう。消費税と関税については、保税倉庫

から搬出される製品についてのみ課税され、

消費税の対象である製品を保税倉庫間で移動

する場合の税の支払猶予という優遇措置がと

られている。こうした措置を通じて、EUと

ルーマニアの消費税制度の違いは、ビジネス

の流れに急激な変化を与えることなく徐々に

是正されていくことが期待されている。

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193

ブダペスト事務所

ロマ社会への対応が課題(ハンガリー)

11

EU加盟を目指しているハンガリーにとって、ロマ社会への対応が政治的課題となって

いる。2000年8月には、50人のロマがストラスブール(フランス)で難民申請し、国際

社会の注目を浴びた。EUは人権保護の観点から加盟の前提として中・長期的な問題改善

を求めている。

1.政治的保護をフランスに求めたロマ

ハンガリーのロマ人の間では、差別を嫌っ

て旧体制時代から外国への移住・亡命が行わ

れていた。この傾向は体制転換後顕著となり、

とりわけ亡命先としてカナダの人気が高い。

同国へは2000年に2,488人が亡命申請したが、

カナダはハンガリーからの入国者に対しビザ

取得義務化を検討している。

国際社会でクローズアップされたのは、何

といってもフランスへの大量の駆け込み的訴

えが契機であった。2000年7月下旬以来、50

人のロマ(半数は子供)がストラスブールに

滞在し、同地の難民事務所(OFPRA,フラ

ンス難民・無国籍者保護局、1953年に設立さ

れ、外務省の管轄下にある)に、政治的保護

と難民認定を求めたからだ。

彼らが保護と難民認定を求めた理由は、以

前住んでいた故郷ザモイ(ブダペストの西方

約50キロ)の家が、老朽化の度合いが著しく

97年に取り壊され、新しい住宅が国から提供

されたものの、地域住民から暴行などの嫌が

らせ(住宅の提供が過保護ではないかとして)

があったため、移住を断念したという。

現在ロマはストラスブールで、ハンガリー

政府に1億3,000万フォリント(1フォリン

ト=約0.40円)の損害賠償を、OFPRAに対

しては難民認定(結果は後記)を求めている

が、ロマが賠償金を獲得する可能性は少ない

とみられている。しかし、ロマによるストラ

スブールでの行動は、EUがかねて改善を求

めているハンガリーでのロマの人権問題を、

国際社会に大きくクローズアップさせること

になった。

JETRO ユーロトレンド 2001.7

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2.90年代に失業率が上昇

ハンガリーのロマ社会の現状をみる前に、

第二次世界大戦後のハンガリーにおけるロマ

の歴史を振り返ってみたい。

第二次大戦後、社会主義政権はロマの社会

的・文化的向上を図る政策を取った。しかし、

この取り組みは政府がロマの固有文化や意見

に十分な注意を払わなかったため、本質的な

解決には至らず、今日に至っている。

1950年代から60年代には、戦後の復興と共

に建築・土木工事が増加し、ロマは未熟練工

として継続して働けるようになり、60年代か

らは鉱山での労働も増えた。

70年代を通じてロマの男性の大半は仕事に

就くことができたが、80年代半ばから国有企

業の人員整理が進められ、これまでの安定は

崩れ始めた。彼らの多くは初等教育しか受け

ておらず、職場復帰のために大量の教育プロ

グラムが実施されたが、有効な解決策とはな

らず多くの失業者が生まれ始めた。

失業しても、地方に住むロマは耕す土地が

あるのでまだ救われる。しかし、都市では貧

民居住区が形成されるところもあり、ロマ問

題は社会的な構造問題となっていった。

90年代に入って国全体の体制転換が進む

と、企業・工場の一層の人員整理が不可避と

なり、真っ先に未熟練工が解雇された。この

傾向はロマ社会に大打撃を与え、収入の手立

てを失った家計は、国の社会保障制度に依存

せざるを得なくなった。95年ロマの失業率は、

70%以上に達した。

3.急速に増加するロマ人口

ハンガリーのロマ人口は絶対数でも多く、

全人口に占める比率でもかなり高い。ロマの

自治団体代表によれば、ハンガリーには国内

人口の6~7%にあたる60万から70万人のロ

マが暮らしているという。現在、ハンガリー

にはドイツ人、セルビア人など13の少数民族

が居住しているが、人口は数万から数千にす

ぎない。その中で飛びぬけて多いのがロマで

ある。

最も多くのロマが暮らしているのは、ハン

ガリー北部および北東部であり、中部ティサ

川流域と南トランシルバニアである。ロマの

平均年齢は、ハンガリー人の平均よりも15~

20歳も若い。ロマにおける年金生活者の比率

は22%であり、ロマ以外のハンガリー人の比

率である7%よりもはるかに高い。

専門家の予測によれば、ロマ人口は2010年

には70万人、2050年には120万人に達する。

これは、全人口が800万人にまで減少すると

予測される中、現人口の6~7%を占めるに

すぎないロマが、2050年までには全人口の

15%を占めるということである。

4.政府とEUの対応

一般的に低い教育レベルにより職に就け

ず、社会保障制度に依存しやすい環境にある

ロマ社会を改善するため、90年から99年まで

に100億フォリントの予算がロマ支援に投じ

られている。2000年の関連支出は72億フォリ

ント、2001年は94億フォリントが投下される。

EUは、98年から加盟候補国の準備状況な

どを記載する年次報告書を発表している。ハ

ンガリーのロマ問題は98年版報告書で取り上

げられ、次のように記述されている。「ハン

ガリーは、中央および地方レベルでの財政支

援をベースにロマ・アクション・プログラム

を開始した。このプログラムは、ロマの統合

(社会への一体化)と教育、文化、雇用、住

宅、福祉における差別撤廃を促進する。」

5.OFPRA15人を難民認定

2001年3月2日にはフランス国民議会のブ

ルボン宮で、ストラスブールに滞在するロマ

のスポークスマンとハンガリーロマ議会(N

GO、ロマ社会の有力団体)議長により、討

論会と報道陣への公聴会が開催された。フラ

JETRO ユーロトレンド 2001.7194

11

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 195

ンス議会からは2人が後援者として参加し、

幾つかの人権擁護団体、33人の欧州議会議員

も公的にイベントを支持した。この中でスポ

ークスマンは、50人のロマがどのような経緯

でフランスへ政治的保護を求めたのかを説明

し、ロマ議会幹部は彼らの置かれた現状を説

明した。

ストラスブールのOFPRAは3月7日、

2家族に対し避難民(亡命ではない)として

の地位を付与、その後も1家族に認め、都合

15人が難民として認められた。50人の条件に

大差はないので、今後も順次難民認定が続く

とみられる。

ル・モンド紙(3月11日)によればフラン

スの人権保権団体はこぞって、「この決定は

欧州でも初のケースであり、歴史的出来事で

ある」と評価し、フランス外務省も今回の決

定が「ハンガリー当局の少数民族に関する注

意を喚起する意味もあった」としている。

ハンガリーの反応はやや異なる。オルバー

ン首相がマスコミで述べたコメントは、次の

とおり。「中・東欧では、ロマ問題は人種問

題ではなく社会問題。ロマが我々と暮らすの

がけっして容易でないのと同じく、我々にと

っても彼らと暮らすのは難しい。両者が平和

的に暮らすにはロマの環境改善が必須であ

り、そのためにも彼らはきちんと学び、働く

必要がある。ハンガリーは、この件で恥ずべ

きことは何もない。欧州では、ロマの状況が

ハンガリーよりもずっと悪い国がある。」

また、少数民族問題を担当する司法省は、

ロマ問題に関する外国マスコミの報道につい

て、「十分な根拠がなく、不正確」と批判し

ている。また、ダヴィド司法相は、「すべて

のハンガリー市民は、海外への移住に虹を追

うのではなく、この国で幸福を見出すべきだ。

ロマ問題を解決する手段として仕事、勉学、

名誉、伝統の保護、自由な選択のもとでのア

イデンティティ強化が必要」と述べている。

この問題に関するマスコミや国民の反応は

一貫して厳しく、冷ややかである。しかし、

フランスで難民認定されたあと、一部マスコ

ミではロマの立場に立つ論調もみられる。

ストラスブールに滞在しているロマは、何

があってもハンガリーに戻る意志が無いこと

を言明している。ロマ自治団体幹部は、この

問題をできれば国内で穏便に解決したいと考

えている。この事件を引き金として、国内で

ロマに対する風当たりが一層強まることを懸

念しているためだ。

6.問題解決には地道な努力が必要

一部の国際関係専門家は、ロマ問題はハン

ガリーの人権侵害を浮き彫りにし、EU加盟

にとって悪影響があると懸念している。人権

情報・文書センターの憲法専門家ガーボル・

ハルマイ氏は、ロマを差別から効果的に守る

ためには、94年にオランダ議会が決議した反

差別法と同様の立法が必要だと主張する。ま

た、全国ロマ自治団体のファルカシュ議長は、

「問題解決ヘの最善の道は、政党の結成より

もロマを含むすべての人種の意見を政府が良

く聞くことだ」と主張し、政党結成をちらつ

かせつつ、政府からできるかぎりのロマ支援

策を引き出そうとしている。

ハンガリーのロマ問題は、以上みてきたよ

うに歴史的・社会的に根が深く、一朝一夕に

解決できる問題ではない。ハンガリー政府に

とってEUからの問題指摘にとどまらず、ロ

マ問題は国際社会でも広く注目され始めてお

り、引き続き地道な問題解決が求められる。

(オルマンディー・ジョルト、菱木勤治)

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JETRO ユーロトレンド 2001.7196

西欧の情報通信技術(ICT)産業について、

欧州情報技術研究所(EITO:European

Information Technology Observatory)が

「EITO 2001」報告書を発表した。同報告書

によると、西欧のICT市場は、2000年に顕著

な伸び(前年比13%増)をみせ、2001年も引

き続き増加(同11%増)が見込まれていると

している。国別にみると、2000年にICT産業

の伸びが10%以上を記録したのは、スペイン、

ギリシャ、ポルトガルなどの南欧諸国であっ

た。一方、北欧諸国のICT産業の伸びは低調

であった。この背景として、北欧諸国は既に

ICT浸透度が高く、市場が成熟しているため、

市場の急激な拡大はない一方、これまでICT

浸透度が低かった諸国の市場が急拡大してい

る。

1.顕著な伸びをみせた2000年の欧州ICT産業

2000年の西欧(注1)のICT産業(注2)は、GDP

の約6.3%に相当する5,380億ユーロとなった

(表1参照)。内訳をみると、IT部門(オフィ

IT活用進める各業界メーカーの動き(欧州)

欧州企業が情報技術(IT)を積極的に活用している。流通業界では、電子商取引が普及

し始め、商品の購入や販売、決済をネット上で行う企業がでてきた。自動車業界では、中

古車販売でネット販売が増加している一方、新車のネット販売は遅れ気味だ。そうした中、

オペルやBMWなどは試験的に新車のネット販売を行っている。医薬品業界は規制が厳し

く、IT活用が遅れているといわれるが、ソフトウエアやデータバンクの開発が進んでおり、

今後、IT導入が加速する可能性がある。エレクトロニクス業界も2000年、携帯電話の製

造・販売を中心に好業績を収めた。欧州情報技術研究所(EITO)によると、欧州の情報

技術通信(ITC)産業は2000年に前年比13.0%増加し、2001年には同11%に拡大する見込

みだ。IT戦略を中心に各業界の動向を報告する。

12

顕著な伸びをみせた2000年のICT産業パリ・センター

(注1)西欧:EU、スイス、ノルウェー(注2)ICT産業:オフィス機器、データ処理機器、データ通信機器関連のハードウェア産業、ソフトウェア

産業、ソフトウェアサービスおよびテレコム関連機器とテレコムサービス

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 197

ス機器、データ通信設備、ソフト、サービス)

が約2,480億ユーロ、テレコム部門が約2,900

億ユーロとなっている。これにより、西欧は

世界のICT市場の26.7%を占めることになっ

た(そのうち、IT部門は全世界の24.6%、テ

レコム部門は同28.8%)。また、EITOは2000

年の西欧ICT産業の欧州全体のGDPに占める

割合が前年比13.0%増加したとし、2001年は

11.0%増加するとの見通しを発表している。

2.スペイン、ギリシャが大幅増

ICT市場の伸びを各国別にみると、前年比

10%以上の大幅増を記録した国がほとんどで

ある。最も大きな伸びを示したのがスペイン

(17.7%増、対前年比、以下同)で、ギリシ

ャ(16.4%増)、ポルトガル(15.3%増)、英

国(14.2%増)と続いている。逆に伸びが低

調だったのは、ノルウェー(7.6%増)、フィ

ンランド(9.1%増)などの北欧諸国であっ

た。

主要国についてみると(表2参照)、ドイ

ツが2000年は10.4%の伸びをみせ、2001年は

10.5%の増加が予測されている。このうちIT

部門は2000年は9.8%増、2001年も同率増を

予測、テレコム部門は2000年10.9%増、2001

年は11.1%増を予測。

フランスは2000年に13.7%増、2001年は

11.8%増を予想している。このうちIT部門は

2000年12.3%増、2001年は12.5%増を予測。

テレコム部門は2000年に15.3%増、2001年

11.0%増を予測。

英国は2000年15.9%増、2001年は12.0%の

伸びが予測されている。このうちIT部門は

2000年12.7%増、2001年は11.8%増を予測。

テレコム部門は2000年14.2%増、2001年は

11.9%増が見込まれている。

イタリアは2000年14.0%増、2001年は9.8%

増との見通しである。このうちIT部門は2000

年12.5%増、2001年11.2%増を予測。テレコ

ム部門は2000年14.8%増、2001年9.2%増との

予測。

スペインは最も高い伸びを示し、2000年は

17.7%の増加、2001年は14.2%増との予測さ

れている。このうちIT部門は2000年13.6%増、

2001年10.3%増を予測。テレコム部門は2000

年19.5%増、2001年15.9%増を予測。

3.高い北欧諸国のIT関連支出

IT関連支出を対GDP比でみると(図1参

照)、西欧全体(注1)で2.74%となっており、

米国の5.40%、日本の3.37%に比べて低いが、

スウェーデン(4.51%)、スイス(3.70%)、

英国(3.65%)、デンマーク(3.21%)と北欧

諸国を中心に比率が高くなっている。逆に低

いのはギリシャ(0 . 9 7%)、ポルトガル

(1.56%)、スペイン(1.88%)で、前述の

2000年ICT市場の伸びが大きい諸国である。

この背景としては、北欧諸国は既にICT浸透

度が高く、市場が成熟しているため、市場の

さらなる急激な拡大はない一方、これまで

ICT浸透度が低かった諸国の市場が急拡大し

ている。

 コンピュータ・ハードウェア�

 通信機器�

 オフィス機器�

 データ通信、ネットワーク設備�

ICT設備総計�

 ソフトウェア�

 ITサービス�

 サポートサービス�

 事業者サービス�

ICT総計�

85�

44�

10�

43�

182�

50�

71�

18�

217�

538

15.9�

8.2�

1.8�

8.0�

33.9�

9.3�

13.1�

3.3�

40.4�

100

市場規模�

(単位:10億�

 ユーロ)�

欧州ICT市場

全体に占める

割合(%)�

表 1 西欧におけるICT市場規模(2000年)�

(注)西欧はEUにスイス、ノルウェーを加えた範囲�出所:欧州情報技術研究所(EITO)、「EITO2001」�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7198

12

4.国民1人当たりではスイスがトップ

国民1人あたりのIT関連支出についてみる

と(図2参照)、西欧(注1)は573ユーロであり、

米国(1,498ユーロ)の3分の1程度で、日

本(903ユーロ)にもはるか及ばない数字と

なっている。西欧で1人当たりのIT関連支出

額が多い国順にみるとスイス(1,238ユーロ)、

スウェーデン(1,072ユーロ)、デンマーク

(978ユーロ)、ノルウェー(934ユ―ロ)、の

支出が多い。他方、IT関連支出の少ない国は

ギリシャ(103ユーロ)、ポルトガル(157ユ

ーロ)、スペイン(250ユーロ)、イタリア

(319ユーロ)、アイルランド(411ユーロ)と

なっている。

5.深刻な技術者不足同報告書によると、ICT関連の技術者につ

いて、西欧(注1)では99年が126万8,000人、

オーストリア�

ベルギー・ルクセンブルク�

デンマーク�

フィンランド�

フランス�

ドイツ�

ギリシャ�

アイルランド�

イタリア�

オランダ�

ノルウェー�

ポルトガル�

スペイン�

スウェーデン�

スイス�

英国�

合   計�

4,181�

5,650�

4,776�

2,969�

34,674�

46,106�

977�

1,318�

16,623�

10,251�

3,684�

1,412�

8,566�

8,557�

8,157�

42,431�

200,333

4,554�

6,254�

5,194�

3,328�

38,485�

50,738�

1,086�

1,466�

18,367�

11,412�

4,138�

1,570�

9,850�

9,516�

8,847�

47,119�

221,924

5,046�

6,923�

5,832�

3,735�

43,204�

55,701�

1,252�

1,637�

20,660�

12,623�

4,525�

1,789�

11,189�

10,564�

9,717�

53,106�

247,504

5,490�

7,701�

6,466�

4,160�

48,588�

61,159�

1,378�

1,828�

22,965�

13,958�

5,015�

1,950�

12,341�

11,729�

10,712�

59,380�

274,818

5,976�

8,487�

7,130�

4,613�

54,761�

67,405�

1,506�

2,032�

25,399�

15,391�

5,535�

2,132�

13,531�

12,959�

11,714�

66,106�

304,678

(8.9)�

(10.7)�

(8.7)�

(12.1)�

(11.0)�

(10.0)�

(11.1)�

(11.2)�

(10.5)�

(11.3)�

(12.3)�

(11.2)�

(15.0)�

(11.2)�

(8.5)�

(11.0)�

(10.8)�

(10.8)�

(10.7)�

(12.3)�

(12.2)�

(12.3)�

(9.8)�

(15.3)�

(11.7)�

(12.5)�

(10.6)�

(9.3)�

(14.0)�

(13.6)�

(11.0)�

(9.8)�

(12.7)�

(11.5)�

(8.8)�

(11.2)�

(10.9)�

(11.4)�

(12.5)�

(9.8)�

(10.1)�

(11.6)�

(11.2)�

(10.6)�

(10.8)�

(9.0)�

(10.3)�

(11.0)�

(10.2)�

(11.8)�

(11.0)�

(8.9)�

(10.2)�

(10.3)�

(10.9)�

(12.7)�

(10.2)�

(9.3)�

(11.2)�

(10.6)�

(10.3)�

(10.4)�

(9.3)�

(9.6)�

(10.5)�

(9.4)�

(11.3)�

(10.9)�

1998年� 1999年� 2000年� 2001年� 2002年�

表 2 西欧各国のIT市場の推移(1998~2002年)�

(注)西欧はEUにスイス、ノルウェーを加えた範囲�出所:EITO、「EITO 2001」�

(単位上段:100万ユーロ、下段:伸び率(%))�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 199

2000年には187万1,000人のIT関連技術者が不

足していたとし、2001年では237万3,000人、

2002年は300万1,000人、2003年には384万

6,000人が不足するという深刻な事態が予想

されている(表3参照)。

このような状況を踏まえ、欧州各国はICT

に熟練した外国人技術者受け入れを目的とす

る移民政策に着手し始めているが、特に熱心

なのはドイツで、2万人の外国人ICT技術者

の受け入れ案を発表している。また、英国も

外国人の熟練ICT技術者に対するビザ発給手

続き迅速化策を発表している。また、オラン

ダは外国人の熟練技術者向けの税制優遇措置

を導入している。他方、以前までは外国人

ICT技術者として、インドに注目が集まって

いたが、現在では東欧、北アフリカの技術者

にも関心が寄せられている。また、中でも企

業ベースでは仏企業が仏語圏であるチュニジ

ア、モロッコのICT関連企業にアウトソーシ

ングするといったケースが増加している。

0 1 2 3 4 5 6

(単位:%)�図 1 IT関連支出比率(対GDP比)�

(注)西欧はEUにスイス、ノルウェーを加えた範囲�(出所)EITO、「EITO 2001」�

(%)�

オーストリア� 2.33

ベルギー・ルクセンブルク�

2.58

デンマーク� 3.21

フィンランド�

2.88

フランス� 2.92

ドイツ� 2.59

ギリシャ� 0.97

アイルランド� 1.88

イタリア� 1.72

オランダ� 3.25

ノルウェー� 3.00

ポルトガル�

1.56

スペイン� 1.88

スウェーデン� 4.51

スイス� 3.70

英国� 3.65

EU 2.70

西欧� 2.74

日本� 3.37

米国� 5.40

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JETRO ユーロトレンド 2001.7200

12

ここでは、ICT関連技術者の受け入れに特

に熱心なドイツの例をとり上げる。ドイツ政

府は2000年8月、期限を5年間とし、1万人

の外国人(欧州域外)にソフトウェア技術者

受け入れのための特別ビザ発給政策を開始し

た。この背景には深刻なICT技術者不足があ

り、永住権利のあるアメリカのグリーンカー

ドとは異なり、最大5年を期限とする滞在・

労働許可が給付される。ビザ発給は3年間に

わたって外国人ICT技術者1万人に与えられ

る見通しだが、市場がより多くのICT技術者

を必要とする場合には、2万人まで拡大され

る予定である。新たに雇用された技術者は健

康保険や失業保険等への加入も可能となって

いる。ドイツでの就労を希望し、ドイツ企業

に雇用された外国人技術者を国別にみると、

全体の17%に相当する365人がインド、次い

で348人がロシアの出身で、ルーマニア、旧

ユーゴスラビアがこれに続いている。求職者

の大半が資格保有者で、規定により、給与は

0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600

(単位:ユーロ)�

図 2 国民1人当たりのIT関連支出�

(注)西欧はEUにスイス、ノルウェーを加えた範囲�(出所)EITO、「EITO 2001」�

(ユーロ)�

オーストリア� 563

ベルギー・ルクセンブルク�

588

デンマーク� 978

フィンランド� 645

フランス� 653

ドイツ� 617

ギリシャ� 103

アイルランド� 411

イタリア� 319

オランダ� 725

ノルウェー� 934

ポルトガル� 157

スペイン� 250

スウェーデン� 1,072

スイス� 1,238

英国� 794

EU 557

西欧� 573

日本� 903

米国� 1,498

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 201

年間4万ユーロ以上となっている。

なお、EITOはICT技術者の不足によって

予想される事態として、①賃金コストの上昇、

②プロジェクトの延期、③従業員の生産性低

下、などを指摘している。

他方、ICT技術者不足解消への対応策とし

て、①ICT関連教育制度の抜本的見直し、②

ICT技術向上のための産官学交流促進、③企

業内ICT関連研修プログラム、スクリーニン

グの実施、④ICT技術者移民の優遇策、を挙

げている。

表 3 西欧のICT関連人材の需給と不足の推移(1999~2003年)�(単位:万人)�

<需要>�

 ICT技術�

 Eビジネス�

 コールセンター�

合  計�

<供給>�

 ICT技術�

 Eビジネス�

 コールセンター�

合  計�

<不足分>�

 ICT技術�

 Eビジネス�

 コールセンター�

合  計�

(注)西欧はEUにスイス、ノルウェーを加えた範囲�(出所)EITO、「EITO 2001」�

1999年�

945.0�

181.2�

100.0�

1,226.2�

861.3�

148.1�

90.0�

1,099.4�

83.7�

33.1�

10.0�

126.8

2000年�

1,039.7�

280.0�

130.0�

1,449.7�

918.8�

225.5�

118.3�

1,262.6�

120.8�

54.6�

11.7�

187.1

2001年�

1,117.0�

391.4�

169.0�

1,677.4�

981.5�

304.0�

154.6�

1,440.1�

135.5�

87.4�

14.4�

237.3

2002年�

1,212.7�

508.4�

211.3�

1,932.4�

1,060.9�

376.1�

195.4�

1,632.4�

151.9�

132.4�

15.8�

300.1

2003年�

1,303.0�

632.7�

257.7�

2,193.5�

1,134.4�

434.7�

239.7�

1,808.8�

168.6�

198.0�

18.0�

384.6

IT活用の進展が期待される医薬品業界ロンドン・センター

医薬品産業におけるIT(情報技術)の活

用は、医薬品の安全性に関連した規制が存在

することなどから、他産業に比べて遅れをと

っているといわれる。しかし、その必要性の

高まりとともにさまざまなソフトウエアやデ

ータバンクが開発されており、今後、規制緩

和と並行して、ITが活用される余地は大き

い。以下に医薬品産業においてどのようにIT

が活用されているかなどについて概観する。

1.IT活用の必要性高まる

昨今のITの発展・活用は、多くの産業に事

業効率化を促すなどのインパクトを与えてき

たが、医薬品業界におけるIT化は、他産業に

比べて遅れをとっており、一般的に「eカー

ブ遅れ」といわれてきた。

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英政府のレポートは、同業界における電子

商取引(e-commerce)への対応にはいくつ

かの障壁があることを指摘している。それら

は、①資金、人、時間などの資源にかかわる

問題、②安全上の問題、③法規制による抑制、

④既存システムとの調和にかかわる問題、⑤

外部ITサポートの不足、などである。

しかし医薬品業界においても、ITの活用の

必要性は年々高まっている。実際、ITは医薬

品産業に対してB2B(Business to Business)

やB2C(Business to Consumer)、また研究

開発などにおいてさまざまなかたちで影響を

与えている。

業界誌スクリップ誌によると、「コスト削

減をし、より良いかつ安価な製品をより早く

市場に投入しようとするプレッシャーに駆ら

れていることが、近年、医薬品企業でeイニ

シアティブが急速に普及してきている背景に

ある」としている。

メルク(Merck & Co、米)は、2000年11

月、約1億ドルを投下して、インターネット

やネット関連ビジネス展開を行うための新会

社、メルク・キャピタル・ベンチャーズを設

立することを発表した。新会社では、「イン

ターネットが医薬品関連ビジネスのイノベー

ションを加速させることについて疑う余地は

ない。過去2年間に、それは大きなインパク

トを与えてきた。しかし、ITのもつ潜在力を

長年培われてきた医薬・ヘルスケア関連ビジ

ネス全般に最大限に引き出すにはまだ至って

おらず初期段階にある」とコメントしている。

2.ITが企業戦略に影響

世界の医薬品産業の競争力強化への取り組

みは、M&Aの加速やコア・ビジネスへの特化

などさまざまな手法で行われてきた。競争の

波に対処するために各社が実施してきている

ことは、最大限の経営の効率化を図ることで

ある。そしてITの活用はその一手段である。

医薬品産業においては、コア・ビジネス以

外を分離したり、アウトソースすることによ

ってコア・ビジネスへの特化を行う過程でIT

がもつ潜在力が発揮され、サプライ・チェー

ンにまでも効率性の追求を促すという効果を

もたらすことが期待されている。

アストラゼネカ(AstraZeneca、英)は約

17億ドルを投じてIBMと提携した。IBMは今

後7年間にわたって同社の持つ世界的なITイ

ンフラをアストラゼネカに提供することとな

った。アストラゼネカによれば、IBMとの提

携によって、「eビジネスや研究開発における

ITの活用のような情報技術サービスに集中す

ることができる」としており、同社の技術力

の向上、コスト削減などの効果が期待されて

いる。

また、イーライ・リリー(Eli Lilly、米)

はITを活用するための専属部門、eリリー

(e-Lilly)を発足させ、研究開発、人材育成、

調達や販売などにおいてインターネット技術

を駆使することとしている。同社では、イン

ターネット技術を活用して、世界の電子商取

引市場に参入することにより、新薬開発の元

となる物質を発見・取引することや、オンラ

イン上でのバーチャル共同研究、新薬開発と

承認までの期間短縮、B2Bの促進、CRM

(カスタマー・リレーション・マネージメン

ト)の促進を図っている。

アベンティス(Aventis、仏)は、2001年2

月に、特に医師とのネットワークを強化する

ための2つの対米eビジネス戦略を発表した。

ひとつは、パークストン・メディカル・インフォ

メーション社(ParkStone Medical Information、

米)と提携し、同社の持つ「モバイル処方

(m-prescribing)」を利用している医師との

ネットワーク強化を図ることである。他方は、

アイフィジィシャンネット(iPhysicianNet、米)

と提携し、電子ビデオを用いて医師とインタ

ラクティブなコミュニケーションや情報提供

に役立たせるものである。このほかアベンテ

ィスでは、従業員のリクルートや投資家への

JETRO ユーロトレンド 2001.7202

12

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情報提供にもインターネットを活用してお

り、将来的には、インターネット上での臨床

試験も実施していくことを目標としている。

3.B2Cの進展は緩やか

医薬品企業がITの活用によって競争力の維

持・向上を図ろうとする理由のひとつに、イ

ンターネットをマーケティング手段として用

いることが挙げられる。これは他社との商品

の差別化、ブランド力の強化、または競争の

波がさほど及んでいないニッチ市場への参入

といった効果をもたらす。

一般的に、B2Cには2つの大きな流れがあ

る。ひとつは、単に、消費者に対して製品情

報を伝達する手段としてインターネットを活

用することであり、他方は、電子媒体を介して

実際に消費者に製品を販売することである。

英政府のレポートでは、消費者を対象とし

てインターネット技術を活用するには、イン

タラクティブなウェブサイトを開発すること

や、サプライ・チェーンの効率性を促すよう

なシステム統合に焦点をあてていくことなど

が必要であると指摘している。

また、英国医薬産業協会(ABPI:The

Association of the British Pharmaceuticals

Industry)は、病人やヘルスケア専門家らは

常に薬品や治療に対するより多くの情報を求

めているため、インターネットの適正な活用

によって、より精緻で信頼できる広範な情報

提供が可能になると指摘している。同協会で

は、インターネットによる薬品の流通におい

ては商品の物理的移動に焦点をあてるべき

で、消費者に対して当該薬品の潜在的危険性

の情報を十分に提供しなければならないと

し、然るべき条件のもとでのIT活用の普及を

支援している。

小売面におけるITの活用例として、英国で

は、オールキュアズ・コム(allcures.com)

が、インターネットを通じて消費者が処方

薬を入手することを可能としていることが

挙 げ ら れ る 。 同 社 の ウ ェ ブ サ イ ト

(http://www.allcures.com)では、通常の薬

局のようなサービス(化粧品などの販売)も

展開しているが、NHS(ナショナル・ヘルス・

サービス:英国の公的医療制度)や私的診療

における処方薬提供のほか、アドバイスや他

のヘルスケア関連ウェブサイトへのリンクな

どの情報提供も行っている。このような電子

薬剤店(eファーマシー)のチャネルの活用

もまた、医薬品製造業にとって新たなマーケ

ティング機会を提供するものである。

ただし同社のようなサービス展開は、欧州

において必ずしも一般的なものとはいえな

い。医薬品産業におけるB2Cの進展具合が緩

やかな背景には、消費者が製薬業者から処方

薬を直接購入できない法規制が存在するこ

と、また国によって規制が異なることがある。

英国における規制は次第に緩和されている

が、それでも品質管理や病人への安全性確保

の観点からeファーマシーの活動は制限され

ている。

4.B2Bでコスト削減効果

調達部門におけるITの活用は、多くの産業

においてコスト削減をもたらすものとして取

り組まれてきている。

インターネットの活用は、医薬品製造にお

ける化学品調達のための情報収集手段として

役立つものである。このほか、多くのユーザ

ーおよび製品情報が存在することによって、

「インターネットは、単純なマーケティング

や情報伝達の手段としてのみならず、現在で

は、調達や品質管理など、より深化した複合

的なビジネス・ツールとなってきている」

(スクリップ誌)と指摘される。このように、

新たな技術の導入を図ることにより一層の効

率性の追求を可能にするものと認識されてい

る。また、インターネットの活用によって、

消費者が商品情報などのデータベースに直接

アクセスして引き合い・問い合わせなどを行

JETRO ユーロトレンド 2001.7 203

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うことで、波及的に販売価格の削減効果をも

たらすことが期待できる点が挙げられる。

例えば、ケムナビゲーター・コム(the

Chemnavigator.com、米)のウェブサイト

(http://www.chemnavigator.com)では、商

業化されている化学物質の在庫およびその情

報をもつ研究開発企業にリンクしている。そ

のデータベースには100万以上の化学物質が

登録されており、これを利用することで新薬

開発研究のための化学物質調達の合理化を推

進することを可能にしている。

医薬品産業におけるB2B電子商取引の潜在

的影響はさまざまである。例えば、電子デー

タ交換システムは取引スピードを向上させ、

また、より効率的な調達プロセスをもたらす。

そしてこれらは、サプライ・チェーンにも影

響を及ぼし、市場により新しい、包括的な製

品情報を提供することによってコスト削減効

果をもたらすほか、サプライヤー、ビジネ

ス・パートナーなどとの関係を強化するもの

とされる。

5.研究開発の効率化を期待

ITが医薬品産業の効率化を促すものとして

最も大きな潜在力を発揮するのは、研究開発

分野であろう。ITの利用により、研究者は膨

大なデータの蓄積およびその活用が可能とな

る。特に遺伝子研究などにおける新たな発

見・開発においては、論理的なデータベース

の構築が不可欠であるほか、ITを活用するこ

とによって、新薬開発にかかる時間を短縮す

ることも可能となるため、メリットは非常に

大きい。ファイザー(Pfizer、米)によると、

平均的には、新薬開発から市場投入までには

約15年の歳月を要し、投資コストは5億ドル

にのぼるとされている。また特許による保護

も、早期に承認を得れば得るほど、投下資本

回収率が向上し利益率が上昇することから、

開発から承認までの期間を短縮することが極

めて重要な課題である。

コンピュータ・モデリングによって、構成

分子・物質の組み合わせを行うことは、新薬

発見・開発におけるIT活用の一例である。こ

の組み合わせ(組成)は非常に複雑なプロセ

スであり、製造方法、安全性、環境への配慮、

コストなどさまざまな要因を考慮しなければ

ならないため、ITの活用が不可欠の分野とな

っている。

種々の行程管理を必要とする産業に対し

てコンピュータ・ソフトウエアを提供してい

るアスペン・テクノロジー社(Aspen

Technology, Inc.、米)は、医薬品産業に対

しては、ルート・セレクション・ソリューショ

ン(Route Selection Solution)と呼ばれるソ

フトウエアを提供している。このソフトウエ

アは、製品開発にあたっての最も理想的なプ

ロセス・ルート、原料、コストを導き出すと

同時に、投薬量や販売価格などの分析も行う

ものであり、費用対効果のメリットを引き出

すものとされている。

ある特定の病気などひとつのターゲットが

特定されると、研究者はそれに対処し得る医

薬品の開発のために注力していくこととなる

が、適合する構成物質・分子を最も効率的な

手段で見つける上で、ITの活用は欠かせない。

膨大なデータ・ライブラリーからの検索は単

なる構成物質の抽出のみならず、長年の新薬

開発プロセスの中で培われてきた技術・情報

を蓄積することでさまざまな分析・解析も助

ける。

医薬およびバイオ産業向けのシステムを提

供しているファーサイト社(Phars ight

Corporation、米)では、ファーサイト・ト

ライアル・シミュレーターと呼ばれるシステ

ムを開発している。それを活用することによ

って企業は、臨床試験に関するリスク分析、

コスト分析、プランニングなどを行うことが

でき、市場投入までの時間を節約することが

できるとされている。

(ブレア・キーナン)

JETRO ユーロトレンド 2001.7204

12

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 205

シェア拡大する欧州自動車メーカーミュンヘン事務所

欧州自動車メーカーが力をつけている。

2000年の欧州市場は若干縮小、GMやフォー

ドがシェアを落としたが、欧州メーカーは軒

並みシェアを拡大した。世界市場でも欧州メ

ーカーの健闘が目立つ。燃費の良さを理由に

需要が高まるディーゼルエンジンの新技術を

開発、シェアを拡大するプジョー・シトロエ

ン(PSA)、流通ルートの徹底見直しでコス

ト削減を図るルノー、ゼネラル・モーターズ

(GM)と合弁で部品調達会社を設立、部品

調達の効率化をはかるフィアットなどが注目

されている。欧州の自動車業界について、そ

の現状と見通しを報告する。

1.独自路線を貫くPSA、ルノーは日産の流通網を活用

2000年の欧州自動車市場は、全体では若干

縮小した。ただ、メーカーによって様子が異

なり、米GM、フォードがシェアを大きく落

としたのに対し、プショー・シトロエン

(PSA)やダイムラークライスラー、フィア

ット、BMW等の欧州メーカーはシェアを拡

大、明暗を分けた。

(1)欧州のメーカーが世界史上でシェア拡大

2000年の西欧の乗用車新規登録台数は、欧

州自動車工業会(ACEA)の暫定値によると、

前年比2.2%減の1,474万2,003台だった。年間

100万台以上の国別市場では、イタリアと英

国で市場が拡大したが、ドイツ、フランス、

スペインでは登録台数が減少した。特にドイ

ツでは11.1%減と大幅な後退となった。

グループ別ではトヨタが登録台数を12.9%

増、シェアを3.2%から3.7%に上げた。ダイ

ムラークライスラー(Daimler Chrysler)も

7.4%増でシェアが5.6%から6.2%に上昇、

PSAは5.8%増でシェアが12.1%から13.1%

に、フィアット(Fiat)は2.9%増でシェアは

9.5%から10.0%に上昇した。子会社のローバ

ー(Rover)を切り離したBMWも、BMW単

独では登録台数が2.9%増加、シェアは3.2%

から3.4%に拡大した。

これ以外のグループはいずれも、登録台数

は前年に比べて減少している。特にゼネラ

ル・モーターズ(GM)とフォード(Ford)

は、それぞれ8.0%減、9.7%減で、シェアは

いずれも10.8%へと下がっている。GMグル

ープのオペル(Opel)は5億ユーロの赤字

決算(2000年)を発表、フォードも10億ユー

ロ規模の赤字に陥る見通しだ。全世界での販

売台数では、3.8%増の498万888台となった

ルノー(Renault)・日産グループも、西欧市

場では日産車の健闘にもかかわらず、ルノー

の不振で登録台数が3%減少、シェアは前年

の13.6%から13.3%に落ちた。(ルノー車だけ

の登録台数は5.9%減の156万台)。フォルク

スワーゲン(VW)グループも西欧での販売

台数は2.9%減で、275万台にとどまっている。

しかし世界市場に目を転じると、ルノーや

VWも販売台数を伸ばした。日産を含まない

ルノー車単独の世界市場での販売台数は

0.4%増、過去最高の235万台となっている。

VWグループは世界市場で4%増の506万台

を販売、初めて500万台を突破した。世界シ

ェアも0.2ポイント増の12.2%にまで上がって

いる。VWグループの北米での販売台数は、

18%増、アジア地域では10%増といずれも2

ケタの伸びを示した。

2001年になって、世界最大の自動車市場で

ある米国で、急激な市場縮小が始まっている

中で、世界市場での欧州のメーカーの健闘が

目立っている。市場の縮小で、工場の一時閉

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鎖に追い込まれたのは、いずれも米国のメー

カーである。2000年に縮小したドイツ市場で、

シェアが下がったのはオペルやフォードの米

国系企業だ。日産を除く日本車も、欧州での

販売台数を落としている。

今後5年間の各社の生産台数を予測してい

るマーケティングシステム(Market ing

System)社によると、フィアットを除く欧

州のメーカーはいずれも、今後5年間で生産

台数を8%以上拡大する。これに対し米国や

アジアのメーカーは、最高のGMとホンダで

も7.4%ないし7.3%の拡大にとどまり、フォ

ードは5.3%減と予想されている。ダイムラ

ークライスラーではさらに鮮明で、欧州のメ

ルセデス部門が12%拡大、米国のクライスラ

ー部門が5.8%縮小するとの予測だ。

世界で初めて自動車の量産を始めた米国、

品質管理と生産性向上を成功させた日本に続

いて、欧州の自動車メーカーが注目される時

代がやって来たようだ。プジョー部門の税引

前利益率は4.6%、ルノーは6.3%で、ポルシ

ェ(Porsche)に至っては11.9%の高収益率

を誇る。欧州のメーカーは、メルセデス、ポ

ルシェ、BMWなどに見られる高品質・高性

能の高級車メーカーと、VW、プジョー、ル

ノーなど大衆車が中心のメーカーとに分かれ

るが、いずれも好収益を上げている。

(2)PSA、独自路線で業績好転

PSAの世界市場での販売台数は、2000年は

11.8%増の282万台で、目標の270万台を大き

く上回った。プジョー・ブランドの車が167

万台(10.7%増)で、シトロエンが114万台

(13.4%増)だ。4年連続のPSAの躍進は、

プジョー(Pegeout)の小型車206や高級車

607、シトロエン(Citroen)のエックスサラ

(Xsara)などの人気のおかげだ。

ガソリン価格が高騰する中で、低燃費のデ

ィーゼル車が良く売れた。PSAが生産する乗

用車に占めるディーゼルエンジン車の比率

は、現在48%だが、50%を超える日も間近い。

売り上げの約4割を占めるシトロエン・ブラ

ンドの車は、縮小気味の西欧市場でも、登録

台数を8.5%も伸ばしている。同ブランドの

「ベルリンゴ(Berlingo)」は、ディーゼルエ

ンジンの生産が間に合わないほどだった。

PSAの全世界での車の売り上げは、過去最

高の37億5,000万ユーロ(14.4%増)で、部品

の販売や金融事業などを含めた総売上は

16.9%増の44億1,800万ユーロ、純利益は80%

増の13億1,200万ユーロだった。97年にPSA

社長に就任したジャン・マルタン・フォルツ

氏は、当時欧州の主要市場でジリ貧状態だっ

たPSAを立て直し、ほかの企業が資本参加や

買収で規模を拡大している間に、自力で成長

力回復に成功した。

プジョーとシトロエンを合わせて2000年に

は西欧で193万台、全世界では280万台を販売

したPSAは、欧州ではVWグループ、ルノ

ー・日産グループに次いで第3位のメーカー

だ。2位との差はわずかに2万台。フォード

やGMが欧州の生産設備の過剰に悩んでいる

のに対し、PSAの工場の稼働率は平均で

101%、スペイン工場では130%、英国やポル

トガルの工場では140%を超えている。

(3)シトロエンのイメージ変更が課題

PSAはクラシックな高級イメージのプジョ

ーと、前衛的なイメージのシトロエンをうま

く使い分けて、ブランドの浸透を図ってきた。

今後の課題はシトロエンのイメージチェンジ

である。ディーゼルブームに乗って人気のシ

トロエン「ベルリンゴ」は、小型配送車とし

てのイメージが強すぎるため、セダンとして

のシトロエン・ブランドの再確立が急務だ。

2001年3月に発売された中型車「シトロエ

ンC5」の貢献が期待されている。シトロエ

ンにしては保守的なデザインのC5は、発売

初年に全世界で13万台、2002年には22万台の

販売を目指している。2002年には斬新なデザ

JETRO ユーロトレンド 2001.7206

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インの小型車「C3」、2004年には高級車

「C6」を発売する予定だ。これらの新車は

特に、欧州最大のドイツ市場を狙って開発し

ており、ドイツでのPSAのシェアを現在の

4.5%から6.5%に拡大することを目標にして

いる。

プジョーはVW「ゴルフ」の対抗車として、

コンパクトクラスの新車「307」を投入、初

年度の2001年に全世界で30万台、2002年には

55万台という高い目標を設定している。年末

には新しいミニバンも登場する予定だ。2001

年から2004年にかけて、24車種の新型車(バ

ージョンアップやマイナーチェンジを除く)

の発売を予定しており、車種の数は37となる。

全世界での販売に占める発売後4年以内の車

種の割合は、2000年の4.3%から2004年には

56%に上昇する見込みだ。現在は7種のプラ

ットフォームが使われているが、新車種はす

べて新しい3種のプラットフォーム上で生産

し、この3種のプラットフォーム上で生産さ

れる車の割合は2001年の50%から、2004年に

は85%になる。

全世界での販売目標は、2001年は300万台

のライン突破、2004年は350万台だ。PSAは

これを合併や戦略的提携によらず、独自に達

成する方針である。企業買収によってグロー

バル化を目指すルノーなどとは、異なる戦略

を取っている。高馬力のハイエンド・カーや

モータースポーツには目もくれず、世界最大

の北米市場の早期進出にも関心を示さない

PSAは、市場では中・東欧も含めた欧州と南

米に、車種では中小型車とディーゼルに高い

優先順位を置いて、「もうかる企業」を目指

している。

(4)ディーゼルの排ガス対策で強み

燃費が良いために欧州で人気の高いディー

ゼルエンジンは、発がん性のすすを排出する

ことが最大の欠点だった。ディーゼル車の排

気は、ガソリン車の廃棄より10倍も高い発が

ん性を持つ。PSAは、このすすをほぼ完全に

取り除く技術の開発に、世界で初めて成功し

た。FAP(Filtre a particules)と呼ばれる

この技術は、シリコンカーバイドのフィルタ

ーエレメントと直噴燃料の電子コントロール

(コモンレール)、そして燃料に混入される添

加物(Eolys)を組み合わせたものだ。

PSAはこれを607HDi型ディーゼルエンジ

ンに利用して、プジョーの高級車607に搭載

した。ドイツで行われた排気ガス試験では、

1キロ走行当たりの排気に含まれるすすの重

量は0.000238グラムだった。2005年から適用

される予定のEuro4基準(0.025グラム以下)

のほぼ100分の1に相当する。すすの粒子の

数も、ほかの最新型ディーゼル社の6,000分

の1に減っている。PSAはFAP使用のHDi型

エンジン搭載車を徐々に増やす予定だ。

(5)ルノー、南米・トルコで販売拡大

ルノーは2000年に、過去最高の235万台の

乗用車や軽トラックを全世界で販売した。し

かしこれは2.6%の増加にすぎない。地元の

欧州で人気のディーゼル車の生産が間に合わ

なかったことで、販売が不振だったためだ。

しかし、欧州以外でのルノー車の販売は23%

拡大しており、特に自社工場を持つ南米(ア

ルゼンチンとブラジル)やトルコの市場で販

売が伸びた。

世界全体での販売台数の伸びは小さかった

にもかかわらず、売り上げは5.6%増の402億

ユーロに達した。しかし、14%増加した新車

開発費や、傘下の三星自動車(韓国)とダチ

ア(Dacia、ルーマニア)での資金需要、欧

州でのディーラー網整理などのため、経常利

益は11%減少して16億ユーロとなっている。

これに対して、純利益は前年の5億3,400万

ユーロから10億8,000万ユーロに倍増した。

前年は高額の早期退職引当金が計上され、傘

下の日産自動車の赤字なども純利益に影響し

た。しかし、2000年は日産も黒字化して、不

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安要因はなくなった。2001年は新型「ラグナ」、

新型「クリオ」、新たなミニバン「アヴァン

タイム」、そして高級車「ヴェル・サティス」

など、続々と新しいモデルを投入、ディーゼ

ル車の生産能力も拡大されるため、156万台

に落ちた西欧市場でもシェアを回復して、

170万台の販売を達成できると見込んでいる。

(6)2010年までに800万台体制目指す

日産との提携によるコスト削減は、5年間

で10億ユーロと見込まれている。このうち2

億3,000万ユーロが、7カ国にわたる流通組織

の再編によるものだ。欧州では従来の日産の

流通ルートの人員を1,500人から660人に整理

する。ルノーの欧州内ディーラー網も再編成

を進めており、3,000社あったディーラーを

800社程度に整理することになっている。こう

した流通組織の簡素化によって、納期は現在

の6週間から2001年末には15日に短縮する。

2001年4月には、両者共同の資材購入会社

をパリに設立、年末までには両者の部品や資

材調達の30%を新会社経由に切り替える。長

期的には共同調達の比率を70%にまで引き上

げる予定だ。ルノーは2001年にメキシコ、オ

ーストラリア、台湾の3カ国・地域の市場に

初進出するが、いずれも日産の流通ルートを

利用する。メキシコでは、日産の工場でルノ

ー車を生産することが決まっており、年間8

万台を販売して約8%のシェア獲得を目指し

ている。ルノー車の売り上げのうち、非欧州

諸国での売上比率は、2000年には18%だった

が、2001年には22%に上昇するとルノーでは

予測している。しかし、米国市場への進出は

今のところ、予定していない。

ドイツの経済誌ヴィルトシャフツ・ボッヒ

ェ(Wirtschafts Woche)3月8日付による

と、2000年11月、日産社長のカルロス・ゴー

ン氏が極秘裏に、ルノーの新型高級車「ヴェ

ル・サティス」の試作車6台を米国に持ち込

み、日産インフィニティの米国ディーラー網

での販売が可能かどうか反応を試した。しか

し、ルノーのブランドが全く浸透していない

米国での結果は悲惨なもので、ルノーは米国

市場進出を断念し、高級車への進出ターゲッ

トをとりあえず欧州市場に限定することにな

った。

ドイツ勢が攻めまくる高級中型車市場で

は、ルノーは「サフラン」がフランス市場で

30%のシェアを持つだけで、西欧市場全体で

のシェアは1.9%に過ぎなかった。新車種の

アヴァンタイムとヴァンタイムとヴェル・サ

ティスで、ルノーは2002年にはこのクラスで

の西欧マーケットのシェアを8%に上げたい

考えだ。斬新なデザインのアヴァンタイムは、

今後5年間に全世界で10万台、ヴェル・サテ

ィスは30万台を販売する目標を設定してい

る。2003年からは、GMと共同開発した小型

バン「トラフィック」を、日産のスペイン工

場で年間6万4,000台の規模で生産すること

が決まっている。再建中の韓国の三星自動車

やルーマニアのダチアも含めて、2010年には

全世界で800万台体制を目指している。

2.GMとの提携メリット追求するフィアット

赤字が続いたフィアットの自動車部門は

2000年、黒字転換した。同社は現在、資本参

加を受けたGMと、経営の効率化を進めてい

る。2000年7月にはエンジン生産の合弁会社、

資材調達の合弁会社をそれぞれ設立した。部

品の共通化を進め、提携メリットを追求する。

VWの2000年の業績は売り上げ、利益ともに

過去最高を記録した。米国での販売増と部品

調達コストの削減が奏功した。

(1)フィアット、GMグループで共同部品調

フィアットは2000年3月、自動車部門の株

式の20%をGMの株式の5.7%と交換した。こ

の資本提携により、フィアットの自動車部門

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はGMの傘下に入った。GMの欧州事業とフ

ィアットの自動車部門で、大幅な組織変更が

行われ、同年7月には両者は資材のグローバ

ル調達とエンジン生産の2つの合弁会社を設

立した。この2つの事業によるコスト削減効

果は2001年には5億ユーロ、3年後には13億

ユーロ、2005年からは年間20億ユーロと弾き

出されている。

グローバル調達の合弁会社はGMフィアッ

ト・ワールドワイド・パーチェシング(GM

Fiat Worldwide Purchasing)で、欧州GM

とフィアットから、それぞれ5人が取締役に

就任した。本社はドイツのリュッセルスハイ

ムにある欧州GMの中核企業、オペル(Opel)

本社内に置いている。これまで両社の各工場

で、調達を担当していた社員は、この本社の

指揮下に組織され、合計2,200人が新会社に

移籍した。各地の事業所の購買部は新会社の

地域事務所となり、ブランドや車種の壁を超

えた部品や資材の調達を行っている。新会社

はオペルとフィアット、および両者の合弁会

社、パワートレイン(Powertrain)を顧客と

する調達会社となった。オペルの資材購入は、

100%この合弁会社を通して行われているが、

農業機械やロボットなど、自動車以外の部門

も抱えるフィアットの資材購入に関しては、

鋼材などフィアットグループ本社が行ってい

るものは除かれている。

新しい合弁会社では、年間約330億ユーロ

の資材や部品を調達、この約半分がフィアッ

ト向けである。フィアットの調達はこれまで、

主にイタリア国内で行っていたが、調達業務

を新会社に移管することによって、オペルの

グローバル調達の組織と経験が利用できるよ

うになった。米国ビッグ3が進めている共同

オンライン調達システム「コビシント」にも

参加する予定だ。将来オペル(ヴォクスホー

ル:Vauxhallも含む)とフィアット(ランチ

ア:Lancia、アルファロメオ:ArfaRomeo

を含む)の共通部品が増えれば、共同調達の

重要性とメリットは、ますます高まることに

なる。

(2)グループ内生産一本化でスケールメリッ

ト生かす

もう一つの合弁会社パワートレインは、フ

ィアット本社のあるトリノに設立され、同社

のエンジンとトランスミッションの工場がこ

の合弁会社の管理下に置かれた。GM、オペ

ル、ヴォクスホール、サーブに勤める欧州と

南米の社員のうち1万3,000人と、フィアッ

トの社員のうち1万4,000人が、この合弁会

社に移籍した。世界最大のエンジン・トラン

スミッションのメーカーとなり、その生産台

数は500万台を超える(2001年計画)。スケー

ルメリットを生かす余地は大きく、現在20余

りのプロジェクトが検討されている。

その1つが、現在フィアットが8種類、オ

ペルが6種類生産しているガソリンエンジン

を、将来は8種類に統合する構想だ。ディー

ゼルエンジンも、現在は両社が3種類ずつ製

造しているが、より進んだフィアットのディ

ーゼル技術を使った共通のエンジンを、両方

の車種に搭載することができる。燃料電池や

ナビゲーションシステムなどでは、GMの進

んだ技術が利用可能だ。プラットフォームを

4種類にまとめる構想もある。エンジンとト

ランスミッションに関しては、将来はGMと

フィアットの区別なく、すべてパワートレイ

ン製のものとなる予定だ。

現在、オペル、フィアット、ランチア、ア

ルファロメオ、サーブなどのブランド別に車

種の製品サイクルが異なるが、エンジンやト

ランスミッションの生産を一本化すること

で、工場の稼働率を平均化することも合弁会

社設立の狙いの一つになっている。

98年と99年に1億ユーロ以上の赤字を出し

たフィアットの自動車部門は、2000年には

4,400万ユーロを稼ぎ出し、ようやく黒字転

換した。これはイタリア国内の新車販売台数

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(242万台)の寄与するところが大きい。新車

への買い替えに、政府が補助金を出した97年

の新車登録記録を上回る販売数だった。フィ

アット・グループはイタリア市場で販売台数

を2.6%伸ばしている。これはグループ全体

の生産台数(250万台)の約3分の1に相当

する。

(3)VW、2000年の純利益は過去最高を記録

VWが2001年2月末に一部公表した同グル

ープの業績をみると、2000年の売り上げと利

益はいずれも、過去最高となっている。西欧

市場では販売台数が減ったものの、世界市場

での販売台数は初めて500万台を突破して、

506万2,000台を記録した。これは前年比3.9%

増である。世界市場でのシェアは12.2%とな

り、0.2ポイント増加した。

北米での販売台数は18%増、アジア地域で

は10%増と、いずれも2ケタ台の伸びを示し

た。北米では特にアウディ(Audi)が検討して

いる。グループの売り上げは13.8%増の856

億ユーロ、営業利益は65.7%増の42億ユーロ

となった。米国を中心とした販売の伸びのほ

か、部品調達コストの削減が利益の拡大に貢

献した。廃車リサイクルのために7億ユーロ

の引当金を計上したが、純利益は前年の2.4

倍の20億6,000万ユーロとなり、過去最高を

記録した。2007年から実施されるEUの廃車

リサイクルに7億ユーロもの引当金を計上し

たのは、2000年の業績を抑えて、2001年の業

績をはなばなしいものにするための操作、と

アナリストはみている。1年後に社長を退く

ことになっているフェルディナンド・ピエッ

ヒ氏の最後の花道を飾るためというわけだ。

VWが目標とする売上利益率6.5%は、米国

式の会計基準では、実は既に到達していると

の憶測もある。しかしそれが事実だとしても、

公表されるのはおそらく1年後で今回は99年

の3.36%から4.89%に上昇したとされた。

(4)ピエッヒ社長の降任人事も注目点

2002年4月、ピエッヒ社長は65歳の誕生日

を迎え、監査役会長に退くことになっている。

後継社長として取りざたされているのは、

2000年夏にBMW社長の座を追われ、間もな

くVWの取締役兼セアト(Seat)社長に移籍

したベルント・ピシェッツリーダー氏。ピエ

ッヒ氏と同じくオーストリア出身で、ブラジ

ルVW社長のヘルベルト・デメル氏や、ポル

シェ社長のヴェンデリン・ヴィーデキング氏

も社長候補とうわさされている。

ピエッヒ社長は、自分が監査役会長に退い

た後も御しやすい、コンセンス型経営者のピ

シェッツリーダー氏を後継社長に推してい

る。ピシェッツリーダー氏は、自分がBMW

を追い出された直後に、VW取締役として登

用してくれたピエッヒ社長に恩義を感じてい

るはずである。また、VWで伝統的に強い力

を持つ労働組合も、対話路線を好むピシェッ

ツリーダー氏の次期社長就任を歓迎するとみ

られている。

しかし、VWの株主、特に株の18.6%を所

有するニーダーザクセン州は、ピシェッツリ

ーダー氏の社長就任に難色を示しているよう

だ。ガブリエル州首相の姿勢は、州内の雇用

を是が非でも守ろうというものではない。む

しろグローバルな国際競争に勝ち抜いて、高

い利益率を長期的に維持する企業が州内に存

在することを重視している。目標の売り上げ

利益率6.5%を実際に達成・維持するために

は、強い社長が必要とされる。労働組合に妥

協をするような社長は歓迎されない。このた

め、ガブリエル首相はヴィーデキング氏を推

している。

傾いていたポルシェの経営を短期で立て直

し、高コストのドイツでも、高い利益率での

自動車生産が可能であることを証明したヴィ

ーデキング氏なら、VWを生産性の高い自動

車メーカーにし、グローバル競争を勝ち抜い

てくれるはずとの読みである。ポルシェと言

JETRO ユーロトレンド 2001.7210

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う中堅企業を10年間経営して、成功に導いた

後に、ドイツを代表する企業でもあり、名実

ともにグローバル企業となったVWの社長に

就任することは、ヴィーデキング氏にとって

も大きな魅力に違いない。しかし、次々と成

功を重ねているポルシェの社長として、ポル

シェ家から最高の条件と最大限の信頼を得

て、一切の決定を任されているヴィーデキン

グ氏が、2002年9月末の契約期限後に、報酬

が現在の3分の1に減るVW社長の座につく

意思があるかどうかは不明だ。

ポルシェの場合と異なり、VWの経営では

株主や監査役会、州政府など、各方面の意向

を十分に考慮しなければならない。雇用を維

持するために取り決めたVW労働組合との合

意も、社長が変わったからといって破棄する

ことは不可能だ。ヴィーデキング氏がナンセ

ンスと評しているVWの高級車進出計画(ブ

ガッティ、ベントレー、ランボルギーニ)も、

ピエッヒ氏が監査役会を支配している限り、

撤回は難しい。量の拡大よりも利益を重視す

るヴィーデキング氏に、VWの体質が合うか

どうかも疑問だ。同氏がVW社長に就任すれ

ば、多くの摩擦が予想される。

3.新デザイン車の投入進めるBMW

BMWの売上高は2000年、前年に比べ減少

したが、税引前利益と純利益はともに過去最

高を記録した。英ローバーの事業を分離売却

し、身軽になったことが影響している。中型

車・高級プレミアム車が中心の同社は今後、

小型モデル、オフロード車などの新デザイン

車を投入していく。

欧州で新車のインターネット販売は普及し

ていない。販売全体におけるインターネット

利用の比率は、最も進んだドイツでも0.7%

にとどまる。ただ、オペル、BMWなどのメ

ーカーは、ネット上の販売を試験的に行って

いる。

(1)BMW、「ミニ」以外のローバーブラン

ド・生産設備を売却

BMWは94年に買収した子会社ローバーに

50億ポンドの資金を投入して経営の立て直し

を試みていたが、ポンド高を背景に拡大する

赤字のために、ついに再建をあきらめ、2000

年春から夏にかけて、ローバーの事業を分離

売却した。わずか10ポンドでローバー・ブラ

ンドの事業と生産設備をフェニックス・グル

ープに譲り渡し、ランドローバーは31億ユー

ロでフォードに売却した。ローバー傘下のブ

ランドは「ミニ」だけをBMWの傘下に残した。

バーミンガム近郊、ロングブリッジのロー

バー本社工場にあった「ミニ」の一部製造設

備は、100キロ離れたオックスフォード工場

に移転し、オックスフォード工場内に建設中

だった「ローバー75」の生産ラインは逆に、

ロングブリッジに運ばれた。この引っ越しに、

BMWは4,500万ポンドをかけている。

ローバーは社名をMGローバーと変え、

5,500人の社員で再スタートした。BMWの設

計によるローバー75は、2001年1月にMGロ

ーバーから発売された。BMWはローバーを

分離独立させる際に、5億ポンドを無利子で

MGローバーに融資している。利益が出たら

その4分の1を返済に充てるという条件だ

が、年間返済額の上限は2,500万ポンドで、

完済の期限は50年も先である。

ローバーを切り離すことで身軽になった

BMWは、2000年に全世界で83万台(BMW

とミニの合計)を販売した。これは前年比

8.8%の伸びだ(99年は76万3,000台、ローバ

ーとランドローバーを加えると120万台)。売

り上げは325億ユーロとなる見込みで、ロー

バーとランドローバーを含む99年の売り上げ

344億ユーロより下がるものの、約20億ユー

ロの税引前利益や10億ユーロに達した純利益

は、いずれも過去最高の97年を上回る。

アジア地域では販売台数を16.3%伸ばし、

5万8,000台を超えた。このうち、ほぼ3分

JETRO ユーロトレンド 2001.7 211

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の2が日本で販売されている。しかし日本で

の販売台数の伸びは2.4%で、増加分のほと

んどは中国、タイ、インドネシアなどでの市

場の拡大による。特に今後は中国で、急速な

市場拡大の可能性があるとみたBMWは、同

国の高い輸入障壁を回避するために、中国の

小型バスメーカー、ブリリアンス自動車

(Brilliance China Automotive)との合弁会

社を遼寧省瀋陽に設立し、3シリーズの乗用

車を現地生産する交渉を進めている。しかし、

中国政府から要求されている生産量は年間12

万台なのに対して、BMWは8万から10万台

以内を考えている。現在タイにある組み立て

工場でも、2000年は2,400台しか生産してお

らず、生産能力の4分の1も使っていない。

BMWは大衆車のローバーを切り離した

後、スケールメリットを追わない「プレミア

ム・ブランド」戦略に切り替えた。ミニも従

来は個性派の車だが、BMWの設計による新

型ミニは「小型プレミアム車」という位置付

けで、BMWの「中型および高級プレミアム

車」のラインアップを補完することになって

いる。BMWブランドの車では、ミニと3シ

リーズの間に1シリーズが2004年に加わり、

5シリーズと7シリーズの間にスポーツクー

ペの6シリーズが2006年に登場する。さらに

ロールスロイスのブランド権が、2002年末に

VWからBMWの手に移るため、BMWでは同

ブランドの車を最高級車として2003年から、

BMWブランドの上に加える計画だ。年間生

産台数は1,000台の予定である。

(2)新モデル向けの新工場設立を画策

1月のデトロイト・ショーではミニ、7シ

リーズなどの新デザインを発表しているが、

各シリーズの中でも新しいモデルが増える予

定だ。オフロード社のラインアップ、ニッチ

モデルの投入、ミニのディーゼル車の開発な

どが計画中である。目標は2002年までに年間

生産100万台を突破し、2005年には130万台を

達成することだ。3シリーズ、5シリーズ、

7シリーズが合わせて90万台、新しい1シリ

ーズが20万台、新型ミニが12万台、オフロー

ド車ではX5に居住性を高めたX3が加わっ

て10万台の規模に拡大する。

現在、これらの新モデルや、エンジンなど

の製造立地を検討中だ。これまでもっぱら3

シリーズを組み立てていたレーゲンスブルク

工場では、2004年から1シリーズの生産を始

める予定で、生産能力の拡大が必要な3シリ

ーズの工場立地のために、多くの候補地が調

査検討されている。地理的に近いチェコも有

力候補地だが、経済再建が遅れている東部ド

イツに工場を新設するよう、シュレーダー首

相がBMWを説得しているといわれている。

BMWは既に、英国工場に2001年と2002年の

2年間で、10億ポンドの投資を行うことを発

表している。英国での生産が決まっている新

型ミニとロールスロイスのほか、年間40万台

のエンジンを英国で生産、世界各地のBMW

工場に運ばれることになる。

(3)新車のネット販売には慎重

中古車のインターネット販売が増えている

のに比べ、新車のインターネット販売は、欧

州では今のところ進んでいない。ダイムラー

クライスラーが「スマート」の販売を99年末

からインターネット上で行っていた程度だ。

ただし、これは代理店を通した定価販売であ

る。オペルもカーナビゲーション装置を標準

装備した特殊仕様のモデル 「Corsa Webc

@r」 に限って、99年4月からネット販売し

てきた。この場合も、消費者からの発注は、

電子メールで最寄りの代理店に送られてい

る。キャップ・ジェミニ・アーンスト・アン

ド・ヤング(Cap Gemini Ernst & Young)

社の調査結果では、2000年の欧州の自動車販

売におけるインターネット利用は表のように

小さな数字にとどまっている。一番多いドイ

ツでも米国の半分以下だ。

JETRO ユーロトレンド 2001.7212

12

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 213

オペルは2001年3月10日から7月末まで、

期間を限ってインターネット上での4車種の

試験販売を始めた。「Webk@uf」と名付けた

このキャンペーンには、ドイツ国内の875の

オペルディーラーが参加している。オンライ

ン・コンフィギュレーション(仕様の選択・

決定)によって、オペルのホームページ上で、

車種やタイプ、仕様、色、エンジン、内装、

オプション装備などを選択していくと、最初

に表示された標準金額が、選択のつど変更さ

れて、希望仕様の価格が表示される。

試験販売中は一律に8%の割引価格も適用

する。中古車の下取価格も計算されるので、

消費者は予算に合わせながら、自分の好みの

車を仕立て上げることができる。最後に住所、

氏名、支払方法などを記入してボタンをクリ

ックすれば、最寄りのディーラーにこの仕様

書が届く仕組みだ。しかしこれは、正式なオ

ンライン発注ではない。ディーラーには問い

合わせのかたちで情報が送られ、正式の見積

り書類がディーラーによって作成される。消

費者がこれに署名することによって、初めて

正式の発注となる。しかし、この試験販売の

ために特別に部品在庫を用意し、注文どおり

の使用の車が即座に生産ラインに乗せられる

ようにしている。このため納期は大幅に短縮

される。

上記のようなインターネット上での使用選

択は、既に多くの自動車メーカーが実施して

いるが、これを発注に結び付けているところ

は少ない。BMWの場合も、消費者は直接、

インターネット上で車の使用を選択・決定で

きるが、オンライン発注はできない。BMW

はインターネット上ではなく、ディーラーの

店舗内でのオンライン発注システムを構築し

ている。欧州内の2,500のディーラーすべて

が、ミュンヘンの本社とオンラインで結ばれ

ており、販売員は消費者の希望を聞きながら

端末にデータを入力すると、希望の使用が可

能かどうかが即座にチェックできる。また価

格や納期も即座に表示されるので、消費者が

発注を早期決断するのに役立つ。

現在、一部の人気車種を除くと、通常は20

日程度の納期に短縮されている。BMWはこ

の納期を、2002年末までに10日に短縮する目

標を掲げている。消費者の希望仕様情報は即

座に部品メーカーにまで伝達され、部品メー

カーは折り返し指定の色や仕様の部材や部品

の納期情報を送り返す。発注が確定すると即

座に、部品メーカーでの生産が始まる。

BMWではこうした一連のサプライ・チェー

ン・マネージメント(SCM)を、情報技術

(IT)技術専門の子会社ソフトラブ(Softlab)

を設立して構築している。

2000年末には、電子商取引専門のコンサル

ティング会社ネクソラブ(Nexolab)も設立、

部品メーカーや運送会社の取り込みを図って

いる。現在欧州で人気の車種は、消費者の発

注から納車まで1カ月から2カ月かかること

もある。この短縮を図っているのはBMWば

かりではない。ルノーは納期を15日に短縮す

る目標を設定している。欧州自動車流通市場

でのインターネットの活用は、新たな流通経

路の開拓ではなく、納期短縮に主眼を置いて

進められている。

0.1�0.7�0.1�0.3�1.6

新車販売のインターネット利用率�

(単位:%)�

出所:キャップ・ジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング�

英 国 �ド イ ツ �フ ラ ン ス �イ タ リ ア �米 国 �

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JETRO ユーロトレンド 2001.7214

12

携帯電話市場は2001年も堅調デュッセルドルフ・センター

米国で急減速する携帯電話市場も、欧州で

は依然堅調との見方がある。欧州の携帯電話

メーカーをみると、米国での売り上げが高く

市場縮小で影響を受けるノキア、生産部門を

外部委託し開発と販売に注力するエリクソン

などの動きがある。独シーメンスは2001年に

地上設備を含む情報通信機器部門の売り上げ

を前年比で30~50%増加する見込みだ。

欧州では近年、電機メーカーのビジネスに

影響を及ぼす制度の変化が起こっている。例

えば、電気・エレクトロニクス製品の回収・

再利用を規定するEU指令が2001年中に発効

する見込みだ。また、デジタル著作権に関す

る取り決めも進んでいる。欧州のエレクトロ

ニクス産業の現状と見通しを以下に報告す

る。

1.「選択と集中」進める欧州電機メーカー

欧州の通信機器メーカーが健闘している。

同分野の世界上位8社のうち、半分は欧州企

業だ。爆発的に拡大を続けた携帯電話市場は

2001年に入り、成長が不安視されている。ノ

キアやエリクソンなどが相次いで業績見通し

を下方修正したからである。ただ縮小が懸念

されるのは米国市場だけで、欧州の携帯電話

市場は2001年も堅調に拡大するとみられてい

る。

(1)欧州企業、通信機器で健闘

世界の電機・エレクトロニクスメーカーの

売り上げトップ企業10社は、米国と日本がほ

ぼ独占している。欧州企業ではドイツのシー

メンス(Siemens)がただ1社、4位に入っ

ているだけだ。欧州2位のオランダのフィリ

ップス(Philips)は、世界ランキング12位を

米国のモトローラ(Motorola)と争っている

が、モトローラが通信技術と半導体に特化し

ているのに対して、フィリップスは7つの事

業分野を持つ総合電機メーカーだ。

シーメンスとフィリップスを除くと、欧州

には総合電機メーカーとして電機とエレクト

ロニクスの両方にわたる幅広い分野で事業展

開する大企業はない。過去にそのような形態

を目指した企業も、現在ではすべて特定分野

に特化している。表1は欧州の電機・エレク

1 シーメンス�

2 フィリップス�

3 エリクソン�

4 ABB�

5 アルカテル�

6 ノキア�

7 BAEシステム�

8 エレクトロラックス�

9 マルコーニ�

10 シュナイダー�

総 合�

総 合�

通 信�

重 電�

通 信�

通 信�

軍 事�

家 電�

通 信�

設 備�

68,582�

31,459�

25,229�

24,686�

23,023�

19,772�

14,448�

14,002�

9,262�

8,378

1,864�

1,799�

1,421�

1,614�

644�

2,656�

531�

489�

850�

481

(単位:100万ユーロ)�

表1 欧州の電気・エレクトロニクスメーカーの収益(99年)�

分 野� 利 益�売り上げ�

出所:メトロポリタンフェアラーク�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 215

トロニクスメーカーの売り上げランキングだ

が、総合電機メーカー以外で電子製品を扱う

のはすべて、通信機器メーカーだ。アルカテ

ル(Alcatel)やマルコーニ(Marconi)など、

いずれもほかの部門を分離し、内外の通信機

器メーカーを買収して、グローバル展開して

いる。

表1にはコンピュータや事務機器、音響映

像機器のメーカーは登場しない。コンピュー

タメーカーとしては、日、米、仏の企業が所

有するフランスのブル(Bull)や、富士通と

シーメンスのドイツでの合弁会社、富士通シ

ーメンスがあるが、売り上げ規模は前者が32

億ユーロ、後者が34億ユーロ(いずれも2000

年)で、米コンパック(Compaq)と比べる

と10分の1である。音響映像家電メーカーで

はフランスのトムソン・マルチメディア

(Thomson Multimedia)が91億ユーロ(99年

は67億ユーロ)で、ソニーの10分の1の規模、

ドイツのグルンディヒ(Grundig)は14億ユ

ーロでさらに規模は小さい。

しかし通信機器業界では、世界のトップ8

社のうち、半分が欧州のメーカーだ(表2)。

中小メーカーの多くは特定分野に特化して、

大企業の傘下に入っている。ドイツのクヴァ

ンテ(Quante)やクローネ(Krone)は、も

ともと電話機メーカーだったが、現在では両

社ともネットワーク機器の専門メーカーとし

て、米国企業の子会社になっている。いずれ

も売り上げが3億5,000万ユーロ程度と米ルー

セント・テクノロジー(Lucent Technologies)

の100分の1の規模だが、大企業の傘下でルー

セントと世界市場で互角に競っている。

(2)欧州市場は堅調だが、2001年の業績は

下方修正

2000年末まで破竹の勢いで伸びていた携帯

電話市場は、2001年に入ると警鐘が鳴り始め

た。まず、トップを走るフィンランドのノキ

ア(Nokia)が1月末、第1四半期の悲観的

な見通しを発表した。当初、前年同期比25~

30%の売り上げ増を予想していたが、20%増

程度にとどまる見込みだ。主力部門の端末事

業だけでは15~20%増と予想している。

世界3位のエリクソン(Ericsson)は、既

に2000年の決算で、携帯電話端末部門で18億

3,000万ユーロの赤字を計上している。2001

年第1四半期も5億ユーロ近い赤字の見通

し。世界2位のモトローラも業績予想を下方

修正して、1~3月期の営業損益が赤字にな

ることもあり得ると発表した。

フランスのアルカテルも、2001年第1四半

期は、携帯電話端末(同社の売り上げの約

7%を占める)の販売数は前年同期比で減少

1 エリクソン�

2 ノーテルネットワークス�

3 ノキア�

4 ルーセント・テクノロジー�

5 シスコ・システムズ�

6 シーメンス�

7 モトローラ�

8 アルカテル�

25.7�

21.3�

20.1�

33.8�

15.0�

20.0�

19.7�

17.1

31.3�

30.3�

27.2�

25.8�

23.9�

22.8�

22.8�

21.6

34.9�

42.2�

57.0�

△23.5�

59.3�

32.5�

15.3�

46.8

(単位:10億ドル、%)�

(注)伸び率は現地通貨によるもの。�

出所:ガートナーグループ�

表2 世界の通信機器メーカー売り上げランキング�

99年� 伸び率�2000年�

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する見込みと発表した。年初まで5億5,000

万台とみられていた2001年の世界の携帯電話

予想販売台数は、1カ月もたたないうちに5

億台、そして4億5,000万台へと縮小した。

しかし市場の縮小が鮮明になっているの

は、今のところ米国だけである。ドイツの市

場調査会社GfKは、ドイツ、英国、フラン

ス、イタリア、スペインの主要5カ国の携帯

電話市場は、2001年は12~15%の成長を、西

欧全体では16%の成長を予測している。米系

調査会社のフロスト&サリバンも、欧州の携

帯電話の市場は99年の237億ドルから2006年

には488億ドルに拡大すると予想する。特に

2002年のスタートを目指している次世代携帯

電話が、大きな市場拡大要因になると期待さ

れ、既に地上基地設備の受注競争が始まって

いる。

(3)ノキア:米国市場縮小が痛手

世界市場のほぼ3分の1を握るノキアは、

2000年決算では税引き前利益を前年比57%も

増大させ、49億ユーロを達成した(表3参照)。

しかし、売り上げの70%を携帯電話端末に頼

っているノキアにとって、最大市場である米

国市場の頭打ちは、他社以上に打撃となる。

米国市場の減速に加え、欧州での携帯電話用

高速情報通信技術(GPRS)携帯電話の発

売の遅れも、同社の売り上げ拡大の足かせに

なっている。

(4)エリクソン:生産外注し開発・デザイン

に注力

エリクソンは携帯電話端末部門の生産事業

のすべてを、2001年4月1日付でシンガポー

ルのフレクストロニクス社(Flextronics)

に売り渡した。生産は同社に委託して、エリ

クソンは開発とデザイン、販売に専念するこ

とになった。社員も4,200人がフレクストロ

ニクス社に移籍した。同社は典型的なEMS

(電子機器の受託生産事業)企業で、エリク

ソンの競争相手のシーメンスやモトローラも

顧客である。モトローラは同社に1億ドルの

資本参加を行っている。

エリクソンは企業向けの通信機器販売事業

を、エンタープライズ・ソリューション

(Enterprise Solutions)として別会社に組織

し、4月にその株式の80%を英国の投資会社

アパックス(Apax Partners)に4億8,000万

ドルで売却した。社員数を1万6,800人から

7,000人に減らして身軽になるエリクソンは、

9億ユーロを開発やデザインに投資、イメー

ジの刷新を図る計画だ。これまで携帯電話端

末の赤字は、ほかの部門の黒字で補われてい

た。特にエリクソンは地上基地設備では世界

のトップで、これが同社のドル箱だ。欧州の

次世代携帯電話サービス提供企業は75社だ

が、このうち既に33社が地上基地設備の発注

を始めており、エリクソンはこの受注競争で

トップを走っている。

(5)シーメンス:携帯電話部門の成長に自信

2001年3月にニューヨーク証券取引所に上

場したドイツのシーメンスは、総売上が784

億ユーロで、欧州最大の電機メーカーである。

2000年10~12月期には、利益が前年同期比

32%増加した。同社最大の部門が、売上が

204億ユーロの通信機器部門である。この部

門で同社は欧州3位、世界6位である。携帯

電話端末では現在世界4位だが、製造から撤

退するエリクソンを抜いて、3位の座を獲得

JETRO ユーロトレンド 2001.7216

12

ノキア�

モトローラ�

エリクソン�

シーメンス�

松下(パナソニック)�

その他�

30.6�

14.6�

10.0�

6.5�

5.2�

33.1

(単位:%)�

出所:日本経済新聞2月26日付�

表3 携帯電話世界市場シェア(2000年)�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 217

しそうだ。既に欧州では2000年9~12月期に

930万台を販売して、ノキアに続く第2位に

のし上がった。

これまで携帯電話部門に進出していなかっ

た米国市場で、世界標準のGSM携帯電話が

始まるため、GSMを開発した欧州企業にと

っては新たなチャンスとなる。ほかのメーカ

ーが投資を控え始めた中で、シーメンスは半

導体メーカーのインテル(Intel)に大量発注

を行っており、今後3年間で20億ドル以上の

フラッシュメモリーを購入する長期契約を交

わしたと報道されている。これは携帯電話ブ

ームの前年度に、半導体不足のため、計画し

ていた3,000万台に対して2,400万台しか製造

できなかった苦い経験による。

今年度は4,800万台の計画で、今のところ

下方修正はしていない。地上設備を含む移動

情報通信機器部門(ICM)全体の売り上げ

は30~50%増を見込んでいる。シーメンスの

携帯電話における社外製造比率は15~20%

で、この比率は大きくは上げない方針だ。

ネットワーク設備でもシーメンスは攻勢に

出ている。ブロードバンド技術の分野での同

社のシェアは4%で、アルカテル、シスコ・

システムズ(Cisco Systems)、ルーセント・

テクノロジーなどに大きく遅れをとってい

る。しかし現在、DSL(注)端末で世界市場

の30%を握る米国のエフィシェント・ネット

ワーク社(Efficient Networks)の買収を進

めており、これによってブロードバンド技術

を強化する戦略だ。

2.企業に対応迫る著作権制度と環境規制

欧州で、エレクトロニクス産業をめぐる

制度に変更がみられる。例えば、EUはデジ

タル著作権に関して、作者に補償を受ける権

利があると認める一方、その補償方法は加盟

各国に一任した。ドイツではパソコンメーカ

ーと著作権協会が、料金の徴収方法で対立し

ている。

環境面では、電気・エレクトロニクス製品

の回収・再利用を規定する「電気・電子機器

廃棄物(WEEE)に関する指令」の制定準

備が進んでいる。同指令が2001年中に発効す

るのはほぼ確実だ。これに対して大企業は、

リサイクルセンターを設立するなど、対策を

進めている。

(1)メーカーと著作権協会が対立

欧州議会は2000年2月半ばに、デジタル著

作権に関する新しい指令を採択した。これに

よると、音楽CDの複製やインターネットか

らの音楽のダウンロードは、私的な用途に限

り、合法とすることを確認した。しかし、ア

ーティストには相応の補償を受け取る権利が

あることも、同時に認めている。どのように

この補償を行うかに関しては、加盟各国の法

規定に任されることになった。

ドイツでは1965年以来、ダビング機能のあ

る音響映像機器について、1台当たり2.50マ

ルクないしは18マルクの一括著作権料を機器

メーカーや輸入業者が著作権協会に支払って

いる。しかし、パソコン周辺機器にはこれま

で、はっきりとした取り決めがなかったため

に、著作権協会と機器メーカーが裁判で争っ

ていた。

2000年11月のシュツットガルト地方裁判所

の調停案では、CD-Rライターを輸入して

いるドイツ・ヒューレット・パッカード(H

P:Hewlett Packard)が、98年2月までさ

かのぼって、販売した台数に応じて1台当

たり3.60マルクを、また2000年11月20日以

降に販売するCD-Rライターに関しては

(注) 一般回線を用いて高速通信を実現する技術。

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1台当たり12マルクの料金を私的コピー権

センター(ZPÜ:Zentralstelle für private

Überspielrechte)に支払うことになっている。

しかしドイツHPは、この調停案に対する異

議申し立て期限の延長を申請した。同社だけ

が支払い義務を負うことに納得がいかないた

めだ。ドイツHPとしてはZPÜに、すべての

メーカーを取り込んだ包括契約を結ぶよう求

めている。

また、機械の販売時に一律の料金を徴収す

るのではなく、コピー機能を使った回数に応

じて徴収するシステムを構築すべきだと主張

している。ドイツの著作権協会ではCD-R

ライターだけでなく、ハードディスクやプリ

ンター、さらにパソコン自体からも著作権の

一括料金を徴収しようという動きがある。

(2)WEEE指令、2001年末までの発効確

EUによる「電気・電子機器廃棄物(WE

EE)および特定有害物質の使用制限に関す

る欧州議会・理事会指令」の制定準備が進ん

でいる。この指令は古くなった電機・エレク

トロニクス製品の回収と再生・再利用を規定

し、環境破壊の原因となる有害物質の使用を

禁止するものである。機器メーカーに無料で

の回収と、環境に配慮した処理を義務付ける

ことになっている。2000年12月のEU環境相

理事会で、政治的な合意に一歩近づいた。同

理事会では禁止されるべき物質から、液晶デ

ィスプレーやハンダの原料となる鉛など、一

部を除外することになった。2001年末までに

この指令が発効することは、ほぼ確実とみら

れている。EU指令の加盟各国に対する国内

法制化には、30ヵ月の猶予期間を設ける方向

で検討していると伝えられる。

指令の骨子は次のとおり。

・対象となるのは家電、音響映像機器、情

報技術(IT)機器、通信機器、照明機

器、電動工具、玩具、電子医療機器、電

子計測制御機器、自動化機器。

・消費者は古くなった機器の無料引き取り

を要求できる。

・販売業者は新製品の販売の際に、同種の

古い製品を引き取る。

・メーカーや輸入業者は、機器の再生・資

源化・処理の費用を負担する。

・回収システムは業界全体のものでも、企

業ごとのものでも構わない。

・発効以前に販売された機器は、すべての

メーカーが協力してその回収・処理に当

たる。

・最低回収量は住民1人当たり4キロ。最

低再生率は機器の種類により50~80%。

・業務用機器には、業者間の個別の取り決

めが認められる。

・2008年からは鉛、水銀、カドミウム、六

価クロム、多臭化ビフェニル(PBB)、

多臭化ジフェニルエーテル(PBDE)

の使用が禁止される(例外措置あり)。

対策講じる大手メーカー

IT機器廃棄物の量は、毎年5~10%増え

ており、電気製品廃棄物に占める比率も約

10%から次第に拡大している。欧州委員会で

は99年のエレクトロニクス機器の廃棄物の量

を約600万トンと推定しているが、これは93

年の数字を基にして、販売数の伸びや製品寿

命の短期化を考慮して算定したものだ。この

うち4分の1から3分の1は、ドイツが出し

ているとされる。

回収・再生処理にかかる費用は、ドイツ電

機工業会(ZVEI)の試算ではEU全体で

75億ユーロとされている。しかし欧州委は、

回収の一部は自治体の経費で行われるので、

メーカーが負担するのは半分程度と推定して

いる。

大企業の多くは既に対策を講じている。こ

れはドイツなどで同様の法律が議会で審議さ

れていた経緯があり、また環境を大切にする

企業のイメージが重要視されているためだ。

JETRO ユーロトレンド 2001.7218

12

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改修や処理・再生にかかるコストも比較的よ

く把握されているといわれるが、いずれの企

業もこれを公開していない。

欧州コンパックは10年以上も前から、

「Return & Invest」というスローガンで、同

社製品を買う顧客から、古くなった機器を残

存価格を支払って引き取っている。このため

オランダに自社の解体センターを持ち、EU

全域から、古くなったコンパック製品がここ

に集められている。同社は企業ユーザーの

70%が、Return & Investを利用していると

みている。

富士通シーメンスも92年から、自社のリサ

イクルセンターを持ち、年間6,000トンの自

社製品を回収している。壊れていないものは、

中古機器として社内販売や本社周辺のパソコ

ンショップに回し、使える部品は再利用、そ

れができないものは材料の再生に回す。

IBMは欧州内に4ヵ所の回収センターを

持っている。99年には5,200トン、2000年に

は5,800トン(推定)の機器が回収された。

IBMは顧客の事務所からの機器の回収も行

う。顧客が支払うのは回収や輸送にかかる費

用だけで、パソコンの場合は約12.5ユーロ、

大型機の場合は約1,100ユーロになる。同社

の場合はコンパックや富士通シーメンスと異

なり、上記のような顧客の事務所からの回収

は製品価格に含まれておらず、別途の契約に

よって行われる。

(3)電子商取引を活用するシーメンス

シーメンスが99年1月に設立した電子商取

引の子会社、SPLS(Siemens Procurement

and Logistics Systems)は、グループ内外の

事業のために買い付け、物流、サプライチェ

ーン・コンサルティングなどのサービスを行

う。グループ内の電子購買システム「click2

procure」の導入も、SPLSの事業だ。シ

ーメンスはグループ全体で年間350億ユーロ

の資材を買い付けているが、その約10%が電

子化されている。この比率を今後3年間で

50%以上に引き上げるのが目標だ。

電子化された買い付け業務の多くは、専用

線を使った特定取引相手との電子データ交換

(EDI)によるものだが、各部署の担当者

が、業者のカタログから買い付ける場合も少

なくない。そのために導入されたのが、イン

ターネット上のバーチャルカタログ・システ

ム「click2procure」だ。IT機器、事務用

品、オフィス家具、工具、消耗品、工場備品、

設備機器など、シーメンスのグループ企業が

定期的に購入する商品40万点以上が電子カタ

ログになっている。

この発注システムはグループ外の企業にも

開放されており、現在グループ内外の1万

2,000人がオンライン発注している。これら

の商品については納入業者と包括購入契約を

結んでおり、新たな商品や新たな納入業者が

決まるたびに、データを更新している。商品

の輸送や支払いはSPLSが一括して行う。

このようなカタログ化された発注システムに

適している調達商品は、シーメンス・グルー

プの購入商品全体の20~25%とみられている。

(4)余剰在庫を売買するバーチャル市場が始動

SPLS社が2000年1月にスタートさせた

「click2asset」は、余剰在庫の電子部品を販

売するためのバーチャル市場だ。「鮮度」が

売り物の電子部品の余剰在庫が、ここで競売

にかけられる。発足以来1年でグループ内外

の150社が参加し、予想を上回る300万ユーロ

の売り上げを記録した。2年目は売り上げを

600万ユーロに倍増させる計画で、シーメン

スは、積極的にグループ外の企業にも利用を

呼びかけている。

製品サイクルが短くなっているため、電子

部品の在庫はますます大きなコスト要因とな

っている。特に米国の会計手法に従って、四

半期ごとにバランスシートを作る企業が増え

ており、これまで年1回の棚卸し時にしか発

JETRO ユーロトレンド 2001.7 219

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JETRO ユーロトレンド 2001.7220

12

見できなかった余剰在庫が、目立つようにな

ってきた。そのため余剰在庫品の買い手を速

やかに見つける需要が高まっている。こうし

た企業のために、SPLS自身が電子部品の

ブローカーの役割を担う。売り手が余剰在庫

を発見してSPLSに委託すると、SPLS

はその電子部品の検品、引き取り、管理、マ

ーケティング、売買契約の締結、納品、請求

書発行、入金確認など売買の全般を請け負う。

需要家にとってバーチャル市場は、安い価

格だけでなく、即座に入手できる点も大きな

利点だ。そのために迅速な納入が重要な要素

になっており、SPLSが売買を一手に行う

理由もここにある。売り上げの約半分につい

ては、SPLSが物流も引き受けている。

余剰在庫品は通常、仕入れ価格の1~10%

程度でしかさばけない。このため売らずに廃

棄処分にする企業も多かった。SPLSは余

剰在庫品を仕入れ価格の30%以上で売ること

を目標にしている。これまでは電子部品は市

場で窮迫していたため、比較的高い価格での

販売が可能だった。半面、余剰在庫の電子部

品を十分に仕入れることが難しく、SPLS

では余剰在庫情報を専門に集める担当者を世

界各地に置いている。今後、半導体などを中

心に過剰在庫が増えてくると、バーチャル市

場「click2asset」の利用も増えると予想さ

れる。

競争激化で大手の市場占有進む流通業界ベルリン・センター

欧州流通業界でも競争の激化から集中化が

進み、大手企業の市場占有率が上昇している。

一方、そうした寡占企業による不当な取り引

きの防止など、公正競争維持に向けた独禁当

局の動きもみられる。

情報技術(IT)革命が進む中、欧州流通

業界でもITを駆使した取り引きが拡大して

いる。オンライン競売など生き残りが厳しく

なってきている分野もあるが、決済システム

の開発も進み、英国ではデジタル衛星放送を

利用した双方向性のテレビショッピングに多

くの小売企業が参加するなど、徐々に電子商

取引のすそ野が広がっている。

1.拡大する大手の市場占有率

欧州における小売業トップ5社の市場占有

率の合計は、91年の15.8%から99年には

25.4%に拡大し、欧州小売業の集中化が進ん

でいる。フランクフルトの市場調査会社M+

Mオイロデータ社は、トップ5社の集中化は

今後さらに進行し、その市場占有率の合計は

2005年には約40%に達するとみている。94年

の段階ではメトロ(Metro)、レーヴェ

(Rewe)、アルディ(Aldi)、エデカ(Edeka)

のドイツ小売企業4社が欧州トップ5社に顔

を出していた。しかし、5年後の99年にはカ

ルフール(Carrefour、仏、売上高666億ユー

ロ)、メトロ(売上高489億ユーロ)、アンテ

ルマルシェ(Intermarche´、仏、売上高319

億ユーロ)、レーヴェ(売上高316億ユーロ)、

オーシャン(Auchan、仏、売上高303億ユー

ロ)とフランス勢が3社登場し、ドイツ勢は

2社に減少した。

2.2001年末に黒字化目指すウォルマート・ドイツ

レーベンスミッテル新聞によると、欧州の

ハイパーマーケット部門では、ウォルマート

(米、99年売上高168億ユーロ、ここでは欧州

のみ)が99年売上高でメトロのハイパーマー

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ケット部門であるレアル(Real)とエクスト

ラ(Extra)を抜いた。またディスカウント

店では、アルディ(国内売上率70%)、リード

ル(Lidl、57%)、プルス(Plus、76%、テン

ゲルマン系列)、ペニー(Penny、80%、レー

ヴェ系列)のドイツ勢の売り上げが大きい。

ウォルマート(米)本体は2001年に世界中

で新規に400店、アホールド(Ahold、蘭)

も同年に世界中で新規に600店を開店する計

画を立てており、両社とも拡大路線を走って

いる。ウォルマートは98年に進出したドイツ

では、今後3年間で買収によらずに内的成長

によって50店を新規開店するという計画を依

然として捨てていない。しかし、適切な立地

探しに苦労しており、許可手続きもうまくい

っていないが、同社のスコット社長は「成功

するのに、買収は必要ではない」と述べ、企

業買収はこれまでの95店で十分としている。

ウォルマート・ドイツが黒字になるのは、

2001年末と見込まれている。

メトロは会員制卸売りのキャッシュ&キャ

リー(C&C)店の中国とロシアへの進出を

積極化することを考えている。同社は2005年

までに、中国だけでC&C店を新規に50店開

店する計画を打ち出している。ロシアへの進

出は当初2002年を考えていたが前倒しし、

2001年から3年計画でモスクワ圏に2億

5,000万マルクを超える投資を行い、C&C

6店を新規に開店する。モスクワ市場は800

万人を超える人口を抱え、ロンドン市場より

も大きく、小売業の売上高は99年に前年比

8%増、ロシア全体の小売売上高の30%に相

当する。これまでロシア市場は不安定との評

価があり、トルコのスーパーマーケットとス

ウェーデンの家具小売りチェーン・イケア

(Ikea)が乗り込んでいるにすぎない。

オーストリアでは、小売業大手2社ビラ

(Billa、99年売上高74億マルク)とシュパー

(Spar、同61億マルク)が99年に市場占有率

をさらに伸ばした。

レーベンスミッテル新聞によると、99年に

おける両社の市場占有率の合計は55%に上

る。第3位は南アルディ系列のホーファー

(Hofer)で、占有率は13%だった。ビラとシ

ュパーの売り上げ拡大は、オーストリアの老

舗マインル(Meinl)からの店舗買収による

ところが大きい。レーヴェの子会社であるビ

ラはマインルのスーパー163店を買収し、シ

ュパーは同社の大規模店ラインである

PamPam店21店を買収した。シュパーはさら

に2000年に同社の残りの店舗93店を買収し、

これでマインルはオーストリア小売業界から

消えた。エデカ(99年売上高255億マルク)

が50%資本参加しているアデーグ(Adeg、

99年売上高、C&C含まず26億マルク)は、

テンゲルマン(Tengelmann、独、99年売上

高172億マルク)の子会社レーヴァ(Löwa)

の大規模店を買収したため、2000年の市場占

有率は11%に上昇したとみられている。

3.不当な価格設定にメス

テスコ(T e s c o)、セインズベリー

(Sainsbury)、アスダ(Asda、ウォルマート

傘下)などの英国小売り大手企業が、独占に

より不当な小売価格を設定していないかどう

かの調査を行っていた英国の競争委員会

(The Competition Commission)は2000年10

月10日、16ヵ月間にわたる調査の結果、その

ような事実はないとのレポートを公表した。

一方、同委員会は、正当な競争を維持して

いくためのいくつかの改善点をあげた。第1

点は、大手小売企業が寡占化の下で納入業者

に不当な値引き、手数料を求めているとして、

法律に基づいた取引の実施規約「Code of

Practice」を作成すべきとした。第2点は、

一定の商品についてコスト割れ販売が行われ

ており、公正な競争を妨げる恐れがあると指

摘した。第3点は、大手スーパーチェーンが

既存の自社スーパーの近くにさらにスーパー

を開店する際、それで消費者の選択の可能性

JETRO ユーロトレンド 2001.7 221

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が制約され、競争条件の悪化につながるとし

て、新規出店などに関しては英国の公正取引

局(Office of Fair Trading)の許可を得るよ

うなシステムを提案した。

4.コスト割れ販売と認定

ドイツでもコスト割れ販売が問題となっ

た。ディスカウンター大手アルディの日常食

品価格を下回るウォルマートの「スマート価

格」攻勢は、約95品目を対象に2000年5月央

にスタートしたが、アルディはさらに価格を

下げてこれに応戦し、リードルも続いた。業

界では既にウォルマートのスマート価格プロ

グラムがスタートした段階で、これは仕入れ

値以下での販売を禁止する法に違反している

という声が大きくなっていた。ドイツ小売業

中央連盟では、この値下げ競争に終止符が打

たれなければ、ドイツ小売業では次々に破産

が起き、2000年だけでも雇用機会が2万件は

失われるとの懸念を表明していた。これに対

してドイツカルテル庁は9月、競争監視の歴

史上初めて食品小売り大手の値下げ競争に介

入し、ウォルマート、北アルディ、リードル

のダンピング価格での食品販売を禁止した。

この決定に対し、同3社は予想以上に早く

バター、ミルク、砂糖、小麦粉、コメ、マー

ガリンなど問題になった製品の価格を9月末

には引き上げる動きに出た。この仕入れ値以

下での販売の禁止に再度違反すれば、最高

100万マルクの罰金を覚悟しなければならな

い。ハンブルガー・アーベントブラット紙に

よれば、ドイツ大手スーパーマーケットがと

ってきた価格政策により、ドイツ食品小売業

界は劇的に変化した。20年前には全国に食品

店が15万店あったが、現在この店舗数は半分

以下の7万店になった。

5.専門化するインターネット「モール」

小売業の旧来のビジネスモデルの一例とし

て「ショッピングセンター」があげられる。

ショッピングセンターは、種々の商品を提供

する多数の店舗を集中することで買い物客の

流れに影響を与えようとするものである。出

店場所を集中することでセンター内の各店舗

は駐車場、その他の設備、広告、イベントな

どを共同利用できるようになり、コストの削

減につながるというのが構想である。

ショッピングセンターのインターネット版

といえるウェブ上のモールには、すべての業

者を受け入れるグローバルモール、ある地域

の業者、地域特有の商品に専門化した地域モ

ール、特定の業界あるいはテーマに専門化し

たモールがある。

現在ビジネスモデルが話題になる場合、イ

ンターネット、携帯電話などのコミュニケー

ション手段、さらにテレビという技術を基礎

にしたモデルがほとんどであり、「eコマー

ス」(電子商取引)、「ウェブTV」などの言

葉が生まれている。

ドイツのインターネット・アナリストであ

る フ レ ン コ 氏 は イ ン タ ー ネ ッ ト

「autoresponder.de」の中で、米国の電子商

取引専門家であるイーストン氏がオンライ

ン・ビジネスモデルについて、①内容を中心

としたサイト、②購読料を必要とするサイト、

③商取引のためのサイト、の3タイプに分類

していることを紹介している。

内容を中心としたサイトは、特定のテーマ

をめぐって広範な情報を用意し、多くの利用

者に魅力的なサイトを作り、多数のサイト訪

問者数を基礎に広告主の関心を引こうとする

ものである。特定のテーマを中心に消費者と

企業が集まってできる仮想共同体(バーチャ

ル・コミュニティー:VC)も、その一つと

考えられる。一つのテーマを軸に共同体を作

るという点では、メトロ(Metro)系列のメ

トロ・オンライン社がレストラン、ホテル業

界をテーマに中小企業向けに構想しているポ

ータルサイトも、この分類に入りそうである。

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同社はこのポータルサイトのテストを2000年

11月に始め、その応募広告を2001年1月から

集中して始める。同ポータルサイトでは、自

社ばかりでなく、他社の食品、非食品や業界

情報も提供する。

購読料を必要とするサイトは、株価情報、

市場分析情報、データバンクの調査資料など

へのアクセスに対し手数料を取るもの。統計

局の統計、新聞、雑誌の蓄積資料などへの有

料アクセスが、その例である。

商取引のためのサイトでは、製品やサービ

スをインターネットを通じて販売することが

唯一の目的になっている。キーワードは電子

商取引である。

電子商取引のビジネスモデルでは、ビジネ

スパートナーの相違(企業対企業、企業対消

費者、消費者対消費者)により、また目的

(販売、購買、業務プロセス)の相違により、

ビジネスのタイプを分類することが多い。企

業対企業(B2B)では電子調達、業務プロセ

スのサプライチェーン・マネジメント

(SCM)、企業対消費者(B2C)ではオンライ

ンショップ、業務プロセスのオンラインバン

キングやオンライン支払いシステム、消費者

対消費者(C2C)ではインターネット競売な

どが主なタイプとして考えられる。

6.巨大な潜在力持つオンライン競売

オンライン競売はB2C、B2Bの分野で巨大

な潜在力を持っている。オンライン競売の先

進国である米国では、日ごとに売り上げが伸

びているといわれ、フォレスター・リサーチ

社の見通しでは、99年の134億マルクから

2002年には947億マルクに達すると推定され

ている。米国のオンライン競売の世界で最も

著名な企業は、95年に設立されたeBay(サ

ンホセ、カリフォルニア)である。これに対

しドイツ語圏では、業界トップを目指す

Primus-Onlineのほか、ricardo.de、alando.de、

auxion.deなどが地盤を固めようとしている

が、安定するまでには至っていない。98年に

設立されたハンブルクのricardo. deは、2000

年春に株価が213ユーロから100ユーロに暴落

するなど破産寸前まで追い込まれたが、競合

会社QXL(英)との合併で危機を乗り越えた。

今後QXL ricardoとして、これまでB2C競売

に重点を置いていたのを、C2C競売を中心と

する方針に変更、これまでの自社配達をやめ

るなど、仲介業に専念する予定である。

従来の競売は、特定の日時に開催され、数

時間のうちに競売品は競り落とされる。これ

に対し、オンライン競売の場合は数日かける

ことが多く、5~10日かけることも珍しくな

い。このため参加者は、競売品がどれほどの

価値があるかをじっくり考える余裕があり、

このやり方で実際に市場の実勢によく合った

価格が設定されることが多い。そのため、企

業が新製品の価格を探るためにオンライン競

売をテスト市場として利用することも考えら

れる。その他の長所として、取り引きにかか

る費用が少なくて済むことがあげられる。ま

た、オンライン競売は販売が難しくなった在

庫品の販売にも利用できる。

B2Bオンライン競売の場合には、必然的に

自前でインターネット競売サイトを作るか、

競売サービス会社のサイトを利用するかの選

択を迫られる。試験的に競売を行うのであれ

ば、競売サービス会社を利用する方がいい。

定期的に競売を開催するのなら、自前の競売

サイトを持つ方がいいといえるが、次にどの

競売ソフトが最適かという選択の問題が出て

くる。

7.広がる小売企業のインターネット調達

小売企業の、欧州を超えた、まさしくグロ

ー バ ル な B 2 B の 調 達 の 分 野 で は 、

GlobalNetXchange(GNX)が2000年2月

28日にカルフール(Carrefour、仏)、シアー

ズ(Sears、米)、データベース・ソフトウエ

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アの最大手でITサービスを行うオラクル(米)

の合弁事業として発足した。同年3月にはメ

トロ、セインズベリー(Sainsbury、英)も

同事業に参加した。この調達競売市場にはさ

らに、クローガー(Kroger、米)、コール

ズ・マイヤー(Coles Myer、豪)、ピノ・プ

ランタン・ルドゥット・グループ(Pinault

Printemps Redoute,仏)、カールシュタッ

ト・クヴェレ(Karlstadt Quelle、独)が参

加している。同市場では食品、非食品の両方

が取り引きされており、総購買規模は4,000

億ドルに達する。将来的にはサプライチェー

ンの最適化を含めて、小売業者とメーカーと

のコミュニケーションの場としての機能を強

めることが考えられている。2000年12月には

日本法人「グローバルネットエクスチェン

ジ・ジャパン(GNX-J)」の設立を発表して

おり、日本の小売業界特有のニーズにも合わ

せていきたいとしている。

また、2000年3月31日には世界の大手小売

企業11社が、B2Bのインターネット市場、

World Wide Retail Exchange(WWRE)の

設立を明らかにした。WWREには、アホー

ルド(Ahold、蘭)、オーシャン(Auchan、

仏)、カジノ(Casino、仏)、ドゥレーズ

(Delhaize、ベルギー)、Kマート(K-Mart、

米)、テスコ(Tesco、英)、セーフウェイ

(Safeway、英)、エル・コルテ・イングレス

(El Corte Ingles、西)、ケスコ(Kesko、フ

ィンランド)、デイリーファーム(Dairy

Farm、香港)、レーヴェ(Rewe、独)、エデ

カ(Edeke、独)、コープ・スイス(Coop

Schweiz、スイス)などの小売企業のほか、

ジャスコ、西武百貨店なども参加している。

2001年3月末現在のメンバー小売企業数は53

社に達し、これら企業の総売上高は7,220億

ドルに上る。WWREの最大の目的は、サプ

ライチェーンの効率向上である。ITサービス

はIBM、i2、アリバ(Ariba)が連合して行

っている。

8.B2Cの分野でも競争が激化

既成小売り大手企業のオンラインショッ

プは、この分野に属する。例えば、欧州ト

ップ小売企業のカルフールは、picard.frと

ooshop.frで食品宅配を、verywine.comでワ

インの販売を行っている。さらに、地方ニュ

ース、レストラン紹介、映画紹介、買い物情

報などの情報ポータルであるWebcity.frに、

20%資本参加している。

欧州第2位の小売企業メトロの電気製品イ

ンターネットショップであるMediamarkt.de

は、2000年10月末で顧客登録数が10万人を超

えた。メトロ系列のハイパーマーケットであ

るレアル(Real)とエクストラ(Extra)の

オンライン宅配サービスの可能性について、

メトロ・オンライン社のドンブロウスキー取

締役は「中期的にみて、利益を出せそうなス

ーパーマーケットによるB2Cビジネスモデル

をこれまで見たことがない」と否定的に述べ

ている。

米ウォルマート系列のアスダ(Asda、英)

は、英国市場で先行している競合小売企業テ

スコ、セインズベリーに対し、B2C分野でも

競争に突入した。www.asda.comでは、生鮮

食品、冷凍食品を含め約6,000点を提供して

おり、オンライン宅配サービスでも英国最大

手であるテスコに挑戦することになる。

9.決済システムの開発進む

eコマース(電子商取引)とeビジネス

(インターネットを使ったビジネス)は同義

語として使われることが多い。しかし概念的

に分けて考える場合には、eコマースは主に

商品やサービスをインターネットを通じて紹

介・販売し、取り引きと支払いをオンライン

で行うという意味合いが強いのに対し、eビ

ジネスには、最終的に企業の全業務をインタ

ーネットまたはイントラネットを通じて行う

という意味が込められている。このため、マ

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 225

ーケティング、販売・サービス、調達、生産、

物流、決済など企業の全活動分野が対象にな

っている。

業務プロセスの分野、特に支払い方法につ

いては、paybox.net社のシステムが2000年5

月にドイツでスタートし、その後オーストリ

ア、スペインなどへも拡大、近い将来、ほか

の欧州諸国にも展開する予定になっている。

同社にはドイツ銀行が50%資本参加してい

る。この支払いシステムに必要なものは、携

帯電話、振替口座、同社への登録である。オ

ンラインで注文したピザの支払い、タクシー

の支払いなど携帯電話で同社のホットライン

を呼び出し、携帯電話の番号と金額を打ち込

むと折り返し回答があり、その支払いについ

て暗証番号で確認する。金額は顧客の振替口

座から引き落とされる。

オーストリアのペイセーフカード

(Paysafecard)社は、携帯電話の分野で既に

実現している前払いカードシステムを、オン

ラインショッピングに適用した。この方法は

2000年11月からオーストリアで実施されてお

り、同国のインターネットショップ50店以上

が協定を結んでいる。ドイツでは2001年5月

から導入されることになっており、売り出さ

れるカードは3種類、50、100、200マルクの

カード。この支払い方法の特徴は、銀行、ク

レジットカード、個人に関するデータが一切

関与してこない点である。

B2Bの分野では、シールズ(Seals)社のイ

ンターネット支払いシステムがある。サプラ

イヤーあるいは顧客が同社の支払いシステム

の利用を決定した場合、同社は両社の会計ソ

フトを検討し、インターフェースを作る。請

求書は同社のサーバーを通して伝達される。

同社の X.net(クロスネット)の顧客数は現

在20社にすぎないが、ネスレなどの大企業が

加入している。

10.英国ではデジタル放送によるショッピングも

英国のデジタルテレビ放送局ブリティッシ

ュ・スカイ・ブロードキャスティング

(BSkyB)は、99年10月にチャンネル“Open”

を開設した。Openは、ブリティッシュ・テ

レコム(BT)、松下電器ヨーロッパ、香港上

海銀行(HSBC)、BSkyBの合弁事業で、本

社はロンドンにある。Openは、デジタル放

送を使った双方向性テレビによる英国初のシ

ョッピングサービスである。電気製品チェー

ンのディクソンズ(Dixons)、書籍販売のW

Hスミス(WH Smith)、百貨店のウールワ

ース(Woolworth)、食品小売りのサマーフ

ィールド(Sommerfield)、スポーツ用品販売

のキットバッグ(Kitbag)などが参加してい

る。

Openによると、英国では2000年末時点で

400万世帯以上がデジタル衛星放送を受信で

きる。同社は2000年12月には、高級百貨店ハ

ロッズと組んでクリスマスキャンペーンを実

施している。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7226

4日�EU、日本と相互認証協定(MRA)を

正式調印。通信機器、電子機器、化学

品、医薬品の4分野に適用され、日本

にとっては初のMRA調印となる。

8日�欧州委、2002年予算案発表。歳入は

1,003億ユーロ、歳出は977億ユーロ。

9日�EU、一般問題理事会開催。マケドニ

ア首相を招き、安定化・連合協定(SAA)

を調印。EU、ユーゴスラビア連邦を

含むバルカン半島の5カ国とSAAを結

ぶ方針で、マケドニアは最初の調印国。

9日�EU、個人がインターネットから取り

込んだ画像や音楽の商業目的利用の禁

止などを盛り込んだ改正著作権法を承

認。改正法はネット配信ソフトの私的

な複製を認める範囲を大幅に規制し、

著作権を保護したことが特色。

11日�EU、バナナ紛争で米国と合意。カリ

ブ海諸国など旧植民地産のバナナを扱

う業者に優先的に無関税輸入枠を与え

てきたEUの従来の措置を改め、2006年

から全面的に関税化することで合意。

11日�欧州委、EU拡大により新規加盟国か

ら大量な労働者が西欧に流れ込むのを

防ぐため、加盟後に最大7年間、自由

な労働力移動を制限する提案を発表。

11日�欧州中央銀行(ECB)、定例会議で主

要政策金利(短期オペ最低入札金利)

を4.75%に控え置くことを決定。

<5 月>

2~3日�EU外交使節団、朝鮮民主主義人

民共和国(北朝鮮)を訪問。南北対話

の推進を図ることが狙い。

3~4日�EU外交使節団、北朝鮮訪問後、

韓国を訪問。金大中大統領と訪朝の成

果や朝鮮半島情勢などについて意見交

換。

7~8日�第5回欧州社会党大会がベルリン

で2日間にわたり開催。協議内容は、

①拡大後のEUの将来、②現代の社会

主義市場経済と社会民主主義、③欧州

社民政党の強化、など。

8日�欧州委、韓国政府が自国の造船業界に

不当に補助金を支出しているとし

WTOに提訴することを決定。6月30日

まで解決が得られない場合は提訴に踏

み切る。

9日�欧州議会のフォンテーヌ議長、ECBの

ドイセンベルク総裁に対しユーロ紙幣

の早期供給を要請。中小企業などでは

ユーロ貨幣への切り替えに十分な現金

を確保できないことを懸念。

10日�ECB、主要政策金利(短期オペ最低

入札金利)を4.75%から0.25ポイント

引き下げ、4.5%とすることを決定。

ECB利下げは99年4月以来。

14日�欧州委、北朝鮮と外交関係を樹立した

旨発表。南北対話の促進、人権問題の

改善、北朝鮮のミサイル廃止、などが

狙い。今後、代表部の相互設置や大使

の派遣などを検討。

14日�EU産業相理事会開催。欧州委が提案

した韓国造船業界に対するWTOへの

EUEUROPEAN UNION

<4 月>

Page 227: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

JETRO ユーロトレンド 2001.7 227

提訴方針を承認。

15日�欧州議会、家電・電子製品を対象にメ

ーカーに廃品回収を義務付ける「電

気・電子機器廃棄物および特定有害物

質の使用制限に関する欧州議会・理事

会」指令案を可決。環境相理事会との

調整を経て同指令を2002年早々にも成

立させる。回収費用は原則メーカーの

負担とし、材料の再利用率を60~85%

とするなど厳しい目標を定めた。

1日�シャープ、欧州移動体通信開発会社シ

ャープ・テレコミュニケーションズ・

オブ・ヨーロッパを設立。資本金は

140万ポンド。

2日�ブレア首相、5月3日に予定されてい

た地方選を6月7日に延期する旨発表。

3日�富士通研究所、情報・通信・デバイス

の先行・基礎研究所を新設した旨発

表。本部はロンドン、資本金は30万ポ

ンド。

5日�中銀、主要政策金利のレポ金利を0.25

ポイント引き下げ、年5.5%にすること

を決定、即日実施。

13日�日本テレコム、同社が保有するJ-フ

ォン東日本、東海、西日本3社の株式

それぞれ約5%をBTが購入する権利

を与える旨発表。

18日�中銀、4月の金融政策委員会議事録を

公開。6人が0.25ポイントの利下げを、

3人が0.5ポイントの利下げを主張し

たことが明らかに。

24日�グラクソスミスクライン、2001年第1

四半期決算を発表。売上高は前年同期

比16%増、税引前利益は同19%増。

26日�アストラゼネカ、2001年第1四半期決

算を発表。売上高は前年同期比3%増

加、税引前利益は9%増加。

27日�BAEシステムズ、ヨーロピアン・エ

アロ・ノーティック・ディフェンス・

アンド・スペース(EADS)、伊フィ

ンメカニカ、3社のミサイル事業を統

合する協定に26日に調印した旨発表。

<5 月>

2日�ボーダフォン、BTが保有する日本テ

レコム株とJ-フォン株を買収するこ

とで合意と正式発表、出資比率はそれ

ぞれ45%と46%に。また、スペインの

エアテル株をBTから取得する旨も発

表、出資比率は91.6%に。

4日�ハリファックスとスコットランド銀

行、対等合併で合意した旨発表。

8日�ブレア首相、6月7日に総選挙を実施

する旨発表。

10日�中銀、主要政策金利のレポ金利を0.25

ポイント引き下げ、5.25%とすること

を決定、即日実施。

14日�下院解散。

23日�中銀、5月の金融政策委員会議事録を

公開。8人が0.25ポイントの利下げを、

1人が0.5ポイントの利下げを主張し

たことが明らかに。

24日�調査機関MORI、ユーロ参加にかかわ

る世論調査結果を発表。賛成は23%、

反対63%、不明14%。

4日�外務省高官、国交樹立を目指しパリを

訪れた北朝鮮の外務次官と会談。人権

状況や核不拡散問題など、仏側の質問

に対して明確な答えはなかったとの声

明を発表。

15日�ジョスパン左派政権、民間企業が相次

ぎ繰り出すリストラ策が加速する中、

英 国UNITED KINGDOM

<4 月>

フランスFRENCH REPUBLIC

<4 月>

Page 228: 競争法-EU法と各国法の比較と - JETRO...2 JETRO ユーロトレンド 2001.7 競争法-EU法と各国法の比較と 国家補助金事例 (EU・英国・ドイツ・フランス)

JETRO ユーロトレンド 2001.7228

民間企業に対する「リストラ規制法」

を検討。人員削減を決めた企業に反発

する製品ボイコットなどの動きも拡大

し始め、民間企業の社会的責任を問う

声、強まる。

24日�ジョスパン首相、民間企業の人員削減

に歯止めをかけることを狙った「社会

連帯計画」を発表。リストラ前の説明

責任や解雇社員に対する補償金倍増な

どが柱。近く法制化に着手する構え。

<5 月>

2日�シラク大統領、小泉首相と電話会談。

7月の主要国首脳会議(ジェノバ・サ

ミット)の前後に2国間の首脳会談を

行うことで合意。

2日�ルノー、伊フィアットと合弁で設立し

たバス製造会社アイリスバスを100%

子会社化する旨発表。

9日�仏憲法会議開催。2002年の選挙で、大

統領選挙を国民議会(下院)選挙の前

に実施する法案を承認。これにより、

2002年4月に大統領選、同6月に総選

挙が行われることに。

11日�シラク大統領、シュレーダー首相とパ

リで非公式会談。4月末にシュレーダ

ー首相が示した「欧州連邦化構想」に

反対の姿勢を示す。

22日�ジョスパン首相、2002年の大統領選挙

と議会総選挙をにらみ、失業問題の改

善を最優先課題に掲げ、企業のリスト

ラ策や解雇に歯止めをかける「社会連

帯計画」を発表。

28日�ジョスパン首相、パリ市内でEU将来

像について演説。独が提案した「欧州

連邦化構想」について「受け入れるこ

とはできない」と拒否。EUの統合路

線をめぐる独仏の対立が鮮明に。

1日�独ドレスナー銀、監査役会で独保険ア

リアンツの同社買収を承認。

5日�シュレーダー首相、ベルリンでコンゴ

のカビラ大統領と会談。

5日�独タイヤ製造コンチネンタル、ブレー

キ部品メーカー、辰栄工業(東広島市)

の買収を発表。

10日�首相、サンクトペテルブルクでプーチ

ン露大統領と首脳会談。露の対外債務

の返済問題について協議。

13日�独流通メトロ、日本進出を発表。2002

年夏に東京に第一号店舗を開店予定。

現金問屋にあたるキャッシュ・アン

ド・キャリー(C&C)業態で進出。

17日�ノルトライン・ヴェストファーレン州

のザムラント欧州・連邦担当相、脱税

容疑で辞任。

18日�独、特許申請でEU首位。99年のEU諸

国の特許申請4万5,000件のうち43.6%

が独申請。EU統計局(EUROSTAT)

発表。

23日�ハノーバーメッセ、開幕。65カ国から

約7,000企業が集う。

25日�連邦政府、国民の家計についてまとめ

た「貧富報告」を発表。98年調査時点

で西部ドイツの個人資産額の平均は東

部ドイツの約3倍。

27日�連邦大蔵省、2001年の実質GDP成長率

の見通しを2.75%から約2%に下方修

正。世界的な景気の落ち込みで輸出が

鈍化することが主因。

27日�首相、訪独中のコロンビア・パストラ

ナ大統領と会談。

<5 月>

1日�ラウ大統領、オーストラリアとニュー

ドイツFEDERAL REPUBLIC OF GERMANY

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 229

ジーランド訪問に出発。

1日�加ボンバルディエ、独鉄道アドトラン

ツの買収を完了。買収価格は約16億マ

ルク。

2日�新首相府が完成、首相が執務を開始。

地上9階建て、延べ床面積約6万6,000

平方メートル。総工費は約4億6,500万

マルク。

2日�首相、小泉首相と電話会談。

2日�連邦政府、缶ビール・ジュースなどの

容器に預り金を課す保証金制度の導入

を閣議決定。政令改正案では、容量が

1.5リットル未満の飲料1本につき、

預り金0.5マルク、1.5リットル以上は1

マルク。

5日�2002年のユーロ現金導入時、企業によ

る便乗値上げを懸念するドイツ人は

70.6%。独フォークス誌調査。

7日�第5回欧州社会党大会、ベルリンで開

幕。シュレーダー首相、EU諸機関の

改革の必要性を訴える。

7日�独のバイオ産業が拡大。バイオ関連企

業332社の総売上額は前年比50%増の

7億8,600万マルク。就業者は同31%増

の1万1,000人に。連邦教育・研究省発

表。

8日�欧州委、独国内の州立銀行への公的保

証問題の解決案を9月末を目処に提出

するよう、独に要請。

8日�欧州委、独ゼネコン・ホルツマンへの

補助金を認可。

9日�透析医療機器メーカー、独フレゼニウ

スメディカルケアの工場、福岡県豊前

市に完成。設備投資額は40億円で従業

員は約100人。

10日�OECD、独経済に関する報告書を公表。

実質GDP成長率は2001年2.2%、2002年

2.4%と予測。

11日�在日ドイツ大使館のウーヴェ・ケスト

ナー駐日大使、トヨタの豊田章一郎名

誉会長に功労勲章大功労十字章を授与。

11日�連邦議会と連邦参議院、年金改革法案

を可決。2002年施行。変更点は次の通

り:①現行、収入の約70%の年金最低

支給率を段階的に67~68%に引き下げ、

②年収の19.1%とされる保険料率の上限

を22%に引き上げ、③任意加入の民間

保険、企業年金に税控除措置と補助金

支給。

11日�三洋化成工業、独ヘンケルグループ・

コグニス社との共同出資会社サンノプ

コ(京都市)を完全子会社化すると発

表。コグニス社より約36億円で、発行

済株式の50%を取得。

16日�電子署名法、施行。電子署名に通常の

署名と同等の効力を持たせるために必

要な、枠組みについて規定。

17日�独ルフトハンザ航空のパイロット組

合、賃上げ交渉の決裂を受けストに突

入。4日、10日に続いて3度目。

17日�連邦大蔵省、2001年の連邦税収見通し

を発表。3,845億マルクで2000年11月見

通し(3,856億マルク)から下方修正。

景気減速が主因。

21日�食品小売と農業団体、統一「環境マー

ク」の作成で合意。

22日�首相、強制労働補償財団に出資する企

業が補償金支払いに応じる意向を示し

たことを歓迎。

22日�98年に施行された家電の消費電力表示

政令の成果につき、連邦経済省が委託

調査。電力効率が良い家電の販売が増

加、結果として二酸化炭素の排出量が

減少したとの調査結果。

22日�連邦教育・研究省、バイオ育成のため

3地区に助成金総額1億マルクを供与。

ポツダム・ベルリン(3,500万マルク)、

ブラウンシュバイク・ゲッティンゲ

ン・ハノーバー(3,000万マルク)、シ

ュトゥットガルト・ネッカー=アルプ

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JETRO ユーロトレンド 2001.7230

(3,500万マルク)。

24日�ボーデヴィッヒ運輸・建設相、訪中し

朱首相と会談。

25日�欧州委、東部ドイツの起業を援助する

「FUTOUR2000」計画を承認。同計画

では東部ドイツで技術関連の起業に補

助金拠出が可能。2003年まで。

26日�首相、ウィーンでオーストリアのシュッ

セル首相と会談。EUの対オーストリア

外交制裁終了後、初のオーストリア訪問。

28日�フィッシャー外相、ベルリンでアンゴ

ラのミランダ外相と会談。両国関係や

コンゴ紛争につき意見交換。

6日�仏テレコムが出資する携帯電話会社ウ

インド、フィンランド通信大手ノキア

に次世代携帯電話のネットワーク設備

を発注。

11日�政府、バチカン放送局の電磁波公害問

題で4月末までの合意を目指すことを

閣議決定。同放送局の周辺で白血病発

症率が高く、同放送局の電磁波が原因

との指摘があった。

<5 月>

8日�欧州委のソルベス委員(金融政策担

当)、次期政権に対してEU加盟国が合

意した財政ルールを順守すべきと発

言。総選挙にのぞむ中道右派、左派が

ともに、包括減税を公約に掲げている

ことを受けて。

13日�総選挙でベルルスコーニ元首相率いる

中道右派「自由の家」が勝利。選挙後

の上院(終身議員除き定員315)の議

席数は「自由の家」177議席、中道右

派「オリーブの木」125議席、その他

13議席。下院(630)の議席数は「自

由の家」368議席、「オリーブの木」

250議席、その他12議席。

14日�ビアンコ内相、総選挙投票時の不手際

を謝罪する声明を発表。総選挙では投

票所の混乱から各地で投票締切りを大

幅に延長。

27日�ローマ、ナポリ、トリノ市長選の決選

投票で中道左派「オリーブの木」が擁

立した候補が勝利。総選挙で敗北した

中道左派が挽回。

3日�ボデイン経済省国際貿易・投資委員会

委員長が率いる経済代表団、北朝鮮の

郭範基副首相と会談。

10日�上院、安楽死を合法化する法案を可決。

安楽死を合法化する法律が成立された

のは世界初。安楽死が認められる患者

は12歳以上で、16歳未満の場合は親権

者の同意が必要。

11日�ノーリツ、オランダ物流子会社を設立。

欧州の販売子会社7社の輸入業務や顧

客配送業務を集約、在庫削減など効率

化を図る。

26日�サベナ航空の株主であるスイス航空グ

ループおよびベルギー政府、経営責任

を問うかたちでサベナ航空取締役会の

メンバーを刷新。任期を更新されたの

はスイス人取締役2名のみ。取締役数

も12名から9名へ。

<5 月>

9日�ガブリエル農相、2000年11月から2001

年4月にかけての狂牛病による農業部

イタリアREPUBLIC OF ITALY

<4 月>

オランダKINGDOM OF THE NETHERLANDS

<4 月>

ベルギーKINGDOM OF BELGIUM

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 231

門の損害に24億ベルギー・フラン

(5,950万ユーロ)の補償を行う旨発表。

なお、同助成措置には欧州委の承認が

必要。政府は同期の損害額を35億ベル

ギー・フランと見積もり。

25日�日本の農水省、EU諸国のうち日本が

清浄国として扱っている国からの豚肉

などについても3月24日以降、輸入の

一時停止措置を講じてきたが、このう

ちデンマークなどからについては、同

措置を解除。

<5 月>

10日�中銀、貸出金利を0.3ポイント引き下げ

5.0%にすることを決定、14日から実施。

23日�ソロス氏、アイルランド旧国営電話会

社エアコムの買収を提案。

<5 月>

11日�エアコム、臨時株主総会で子会社の携

帯大手エアセルの英ボーダフォンへの

売却を圧倒的多数で承認。

11日�政府中央統計局、4月の消費者物価上

昇率を5.6%と発表。2月より3カ月

連続の上昇。

3日�イベリア航空、マドリード株式市場に

上場。政府所有53.9%のうち、48.5%

を株式公開売却で放出。残り5.4%も

イベリア航空従業員に売却され、完全

民営化の予定。

18日�サバデル銀行(国内第5位)が株式市

場に上場。同時にデクシア銀行(仏・

ベルギー資本)との相互資本参加の可能

性を発表したため、株価は14.7%急騰。

25日�政府、次世代携帯電話(UMTS規格)

の事業開始時期延期を承認。設備納入

業者の納入の遅れを考慮し、2002年6

月1日に延期。

25日�アスナール首相、英FT紙に寄稿し、

景気刺激策はECBの任務ではなく、E

U加盟各国政府の仕事との認識を表明。

27日�政府、2002年度雇用計画を採択。126

億ユーロを計上。同計画には企業設立

に関する行政手続き簡素化、ニューエ

コノミー部門の新規企業に対する2年間

の社会保障負担免除などが含まれる。

<5 月>

7日�イドロカンタブリコ(HC、国内電力部

門第4位)におけるEnBW(独エネルギ

ー)およびEDP(ポルトガル電力公社)

の議決権を一時的に凍結する旨発表。

13日�バスク自治州議会選挙実施。バスク国民

党(PNV)率いる穏健民族派連合

(PNV-EA)が定数75議席中33議席を獲

得。バスク地方の分離独立を目指すバス

ク市民(EH)は7議席に留まり半減。

15日�大日本製薬、開発中の精神分裂病治療

薬「ブロナンセリン」について、西製

薬最大手アルミラル・プロデスファー

マに東アジアを除く全世界での独占開

発・販売権を与えるライセンス契約を

締結した旨発表。

9日�欧州委、ポルトガルの交通輸送分野へ

デンマークKINGDOM OF DENMARK

<4 月>

アイルランドIRELAND

<4 月>

スペインSPAIN

<4 月> ポルトガルPORTUGUESE REPUBLIC

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7232

構造基金から1,000億エスクード拠出

することを承認。

20日�デソーサ経済相、現在交渉中の外国直

接投資受け入れ額合計は3,830億エス

クードに上ると発表。主な投資対象分

野は、エレクトロニクス、半導体、IT、

観光。

26日�経営開発国際研究所(IMD)の調査結

果によると、ポルトガルの国際競争力

ランキングは34位。2000年は29位。対

外債務の評価が低く、物価が安い点の

評価が高い。

30日�財務省と経済省、ユーロ導入に伴う二

重価格表示義務を一定期間免除する条

件を発表。2001年10月1日から2002年2

月28日まで、従業員が9人以下の190

万企業が対象。

<5 月>

18日�EU統計局(EUROSTAT)による

と、ユーロ圏の3月の鉱工業生産は

前月比0.2%の減少。ポルトガルとベ

ルギーは1.4%の増加で、ユーロ圏で

最高。

24日�国家統計院(INE)によると、ポルトガ

ルの労働者数は496万2,000人で、2000

年末より3万人増加。

4日�ローマ法王ヨハネ・パウロ2世、カ

トリック教会の最高指導者として約

1000年ぶりにギリシャを訪問。東方

正教会との和解に大きな一歩を踏み

出す。

5日�ヨハネ・パウロ2世、アテネ市内でミ

サを実施、ギリシャ正教会などとの和

解を強調。

15日�自由党のハイダー前党首、伊総選挙結

果を受け、EUは伊に制裁を行わない

との見通しを示す。

16日�クレスティル大統領、訪中、江沢民国

家主席と会談。江国家主席、国交樹立

30周年を迎えた両国関係に満足の意を

表明。

24日�携帯大手エリクソン、次世代携帯でソ

ニーとの合弁を発表。両社の対等出資

で合弁会社を設立、10月1日より事業

開始。

27日�ノーベル財団、2001年のノーベル賞賞

金引き上げを発表。前年より約1割増

の1,000万クローナへ。

<5 月>

1~5日�貿易代表団、北朝鮮訪問で、輸

送・電力分野の経済協力を協議。

7日�格付投資情報センター(R&I)、

スウェーデンの外貨建て長期債格付

けを「AA+」から「AAA」に引き

上げ。

18日�中銀総裁、国内の物価上昇について静

観の構え。

18日�エリクソン、国内で4,000人の削減を

発表。これにより年間200億クローナ

のコスト削減となる見込み。

22~23日�残留性有機汚染物質の規制条約、

ストックホルムで調印会議。

31日�首相、欧州を主権国家の連合と位置づ

ける仏首相のEU機構改革案に賛同を

表明。

ギリシャHELLENIC REPUBLIC

<5 月>

オーストリアREPUBLIC OF AUSTRIA

<5 月>

スウェーデンKINGDOM OF SWEDEN

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 233

3日�ポーランド国鉄(PKP SA)、再編・

民営化の一環として、先に分離した

PKP鉄鋼広軌鉄道、PKP三都市間高速

鉄道、PKPワルシャワ郊外鉄道の3社

に続いて、PKPインターシティーと

PKPエネルゲティカ(電力)の2社を

100%の持株会社であるPKP SAの傘

下に位置付けながら組織内分離。

21日�運輸省、2015年までに既存の約1万

5,000キロメートルの国道をEU基準に

合わせ整備すると発表。また、約

1,570キロメートルの高速道路と約

1,500キロメートルの幹線道路の建設

も発表。費用は約1,500億ズロチで、

うち700億ズロチはEUの基金から拠出

予定。

26日�ズロチの為替レート、変動相場制移行

後最高値の1ドル当たり3ズロチ96グ

ロシュを記録。

30日�クファシニェフスキ大統領、任期満了

に伴う上院と下院の総選挙を2001年9

月23日に実施すると発表。

<5 月>

8日�ズロチ相場、1ユーロ=3ズロチ49グ

3日�通信大手ノキア、フランステレコムグ

ループのオレンジに総額150億ユーロ

の次世代携帯ネットワーク供給するこ

とで合意。

20日�ノキア、第1四半期決算は前年同期比

10%の増益と発表。

<5 月>

18日�国会、使用済核燃料の最終処分場建設

を圧倒的多数で承認。原発保有国で初

の建設決定。

25日�政府、国民から動物保護を目的とする

憲法制定要求がある中、憲法で定める

ほどのことではないとして、制定反対

を表明。

<5 月>

22日�政府、EUとの包括協定において交渉

を希望する10項目を発表。

7日�出光興産、同社のグループ企業がノル

ウェー沖北海で新油田を発見した旨発

表。

14日�石油・エネルギー省、国営石油会社ス

タットオイルの株式を6月18日、オス

ロとニューヨークの証取所に上場する

予定と発表。

フィンランドREPUBLIC OF FINLAND

<4 月>

スイスSWISS CONFEDERATION

<4 月>

ノルウェーKINGDOM OF NORWAY

<5 月>

中・東欧

ポーランドREPUBLIC OF POLAND

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7234

ロシュとユーロ導入以来の最高値。

�内務行政省が許可した2000年の外国人

(主に外国企業)による土地購入物件

数は1,109件。購入土地面積は約3,500

ヘクタールで前年の約4,700ヘクター

ルから急減。2000年までの合計は約2

万5,600ヘクタール(非合法のものは

除く)で、国土総面積の0.08%。

10日�ファイナンシャルタイムス、東欧大企

業リストで、ポーランドテレコム

(TP)が市場価値評価額95億8,000万

ドルでトップと発表。同社のほか上位

20位にBank PeKaO SA(9位)、石油

コンツェルンOrlen(11位)、Agora社

(18位、全国紙ガゼタ・ヴィボルチャ

の発行元)、KGHM(19位、ポーラン

ド銅採掘社)の5社がランク・イン。

18日�自動車市場調査会社サマル社、2001年

1~4月の新車販売は前年同期比34%

減の12万3,900台と発表。この傾向が

続けば、2001年の新車販売は前年比

40%減、ピークであった99年(販売台

数64万台)の半分以下の30万台前後と

なると予測。また関税引き下げやズロ

チ高で新車販売に占める輸入車の割合

はさらに増加、1~4月では輸入車5

万9,800台、国産車6万4,000台。

21日�中央統計局、2001年第1四半期の対外

貿易統計(通関統計)を発表。輸出は

前年同期比18.3%増の89億ドル、輸入

は同4.7%増の123億ドルで、貿易赤字

は34億ドルと前年同期の42億ドルから

急減。最大の取引相手地域はEUで、

輸出の72.3%、輸入の61.2%を占め、

対EU貿易赤字は11億ドル。

3日�不二工機、西ボヘミアのロウニ市で予

定の自動車部品の投資に関して投資イ

ンセンティブ適用申請。投資額は3億

9,000万コルナ、従業員数110人の予定。

6日�豊田合成、北ボヘミアのクラーシュテ

レツ・ナド・ホフジーで車用エアバッ

グ工場の建設を開始。

10日�中銀、2000年末現在の対外債務は

8,140億コルナ(232億ユーロ)で、前

年比85億コルナ減と発表。

�中銀、2000年の外国直接投資総額は45

億ドル、最大はドイツで22%、業種別

ではサービス業が最大で68%と発表。

�メルトリーク蔵相、辞表を提出。

12日�ハベル大統領、メルトリーク蔵相の後

任に労働・社会問題省次官のイジー・

ルスノク氏を指名。

17日�IMF、2001年チェコのGDP成長率を

3%と予測。

�AV機器用ケイヤーハーネスメーカ

ー・オーナンバ、北モラビアのオロモ

ウツ市でのケーブル、インダクタン

ス・コイル製造プラント建設を決定。

投資額は1億コルナの見込み。建築開

始は2001年上半期の予定。従業員数は

150人、このほか更に在宅勤務者150人

の雇用を予定。

24日�IDC East Central Europe、2000年の

チェコのIT部門投資はGDPの3%で

中・東欧最大と発表。また1人当たり

のIT投資は170ドルでスロベニアに次

いで同地域2位。

25日�欧州委、2001年春季経済予測の中でチ

ェコのGDP成長率を2001年3.5%、

2002年4.0%と予測。

27日�大蔵省、2001年のGDP成長率予測を

3.5%(前回予測3.0%)に上方修正。

インフレ率、失業率も3.9%(同4.2%)、

8.3%(同8.8%)にそれぞれ修正。

2002年についても、GDP成長率3.8%

(同3.2%)、インフレ率4.4%(同5.4%)、

チェコCZECH REPUBLIC

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 235

失業率(7.9%)に修正。

<5 月>

2日�通産省、2000年のチェコの輸出におけ

る外資系企業の割合は62.7%で、前年

比2.5ポイント増。また輸入における

割合は約65%で、同0.9ポイント増と

発表。

3日�閣議、外国人・外国法人の土地取得を解

禁するための外国為替法改正案を決定。

�中銀、2001年GDP成長率2.3~3.3%、

2002年2.4~4.4%と予測。

�OECD、チェコのGDP成長率は2001年

3%、2002年3.5%と予測。またインフ

レ率は、2001年4.2%、2002年4.8%、

失業率は、2001年8.4%、2002年8.1%

と予測。

10日�EU、チェコの競争政策(独占禁止法)

を高く評価。2001年中の競争政策につ

いてのEU加盟交渉終了見通しを示唆。

15日�インデット・セーフティー・システム

(日本火薬、ニチメン合弁)に対する

投資インセンティブの適用を決定。

24日�松下通信工業の投資(携帯電話および

カーステレオの製造)に対する投資イ

ンセンティブ適用を決定。

29日�小糸製作所に対する投資インセンティ

ブの適用を決定。

30日�ハベル大統領、新経済担当副首相にグ

レーグル通産相を任命。

�デンソー、北ボヘミアのリベレツに

100%出資で現地法人を設立、カーエ

アコンの生産を行うと発表。新会社名

は「デンソー・マニュファクチュアリ

ング・チェコ」で、資本金は約4億円。

生産開始は2003年の予定。

31日�統計局の発表によると、第1四半期の

平均賃金は1万3,289コルナで、前年

同期比9.3%増。実質賃金上昇率は

5%。

1日�政府、地方行政改革法案(現在の8つ

ある地方体を12の地方体に再構成する

法案)を承認。

�民営化省、国営ガス会社SPPの民営化

プロジェクトを承認。株式資産は575

億SKKで、51%は政府保有、49%が民

営化される予定。民営化は2001年10月

に完了予定。

2日�EUアキコミュノテールの環境に関す

る交渉開始。多額の投資コストが見込

まれることから政府は4年間の移行期

間を要求。

3日�民主党DS、法人税を現行の29%から

19%に引き下げる法案を議会に提出。

�経済相、VWの新型車コロラドモデル

の部品生産拠点となるZAHORIE工業

団地への鉄道等のインフラ供給が1年

程度遅れると発表。工業団地のオープ

ンは2001年9月になる予定。

4日�2000年度の国内パソコン販売、前年比

10.5%増の15万6,000台。トップブラン

ドはCompaq、次いでIBM。

5日�エネルギー備蓄に関する修正法案が議

会を通過。現在26日間の原油備蓄量を

90日間相当とするもので、EU指令に

沿った法改正。

6日�議会、近親親族の相続税を廃止する法

案を可決。

10日�農業管理局、口蹄疫対策の動物の輸入

と輸送の禁止対象国を、英国、アイル

ランド、フランス、オランダに限定。

加熱滅菌処理した加工品は対象外。

17日�クーカン外相、日本政府から2002年に

在スロバキア日本大使館開設の用意が

あるとの通知を受理したと発表。

27日�IMF、スロバキアの2001年のGDP成

スロバキアSLOVAK REPUBLIC

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7236

長率について、政府見込みの3.2%を

0.1ポイント下回る3.1%と発表。

<5 月>

3日�OECD、2001年のスロバキアのGDP成

長率を2.8%、経常収支赤字をGDP比

4.3%と予測。

�東京電線工業、7月にスロバキア東部

のPuchovに工場立ち上げを発表。AV

機器のケーブルハーネスを生産。日系

製造企業で8社目の進出。

16日�政府、新投資促進法を承認。8月に施

行予定。

�政府、2000年の財政収支会計を承認。

歳入2,135億SKKで、財政赤字は276億

SKK(GDP比3.1%)。2001年度予算で

はGDP比3.9%の赤字を見込む。

18日�工業団地設立法が議会を通過。

23日�政府、電気・電子技術産業の一部部品

の輸入関税をゼロにすると発表。

28日�民間調査機関の世論調査によると、国

民の71%がEU加盟に賛成、48%が

NATO加盟に賛成。

�中央銀行によると、2001年の経常収支

は、貿易赤字の拡大で、GDP比5.7%相

当の578億SKK(前年329億SKK)の

赤字の見込み。

5日�政府、インフレ率が予想どおりに低下

しないため、年金の引き上げ率を

10.3%から13~14%へ修正。

8日�サンヨー、ドログの工場(1万4,000平

方メートル)に隣接し2万9,000平方メ

ートルの工場を建設。従業員は770人

から2,500人に拡大。また、電池事業

の統括センターを設置。

9日�伊藤忠商事の子会社で自動車輸入を手

がけるEurasia Trade Commercial

Kft、物流子会社Eurasia Sped Kftと

統合。

17日�議会、労働法改正案を可決。改正によ

り年間残業可能時間は144から300時間

に拡大。2時間以内であれば夜間残業

代の割り増し支払いは不要。1日の最

大労働時間12時間、週は48時間となる。

19日�タールキ社会研究所などの調査による

と、公式統計に計上されない闇経済の

比重は年々低下。最高時にはGDPの

33%に達したが、取締まり強化等によ

り98年には21%に低下。

25日�マジャール・スズキ、1月に資本金を

198億フォリントから818億フォリント

に増資。

<5 月>

3日�中央銀行(NBH)、4日から通貨フ

ォリントの為替変動幅をこれまでの±

2.25%から±15%に広げると発表。

10日�中央統計局(KSH)、2001年第1四

半期の貿易額を発表。輸出80億ユーロ

(前年同期比22%増)、輸入91億ユーロ

(同22%増)。

14日�農業地域開発省、5月15日からEU加

盟国のうち口蹄疫非感染国からの偶蹄

類の入国を認めると発表。

16日�ヤーライNBH総裁、短期金融市場の

自由化を急ぐべきとの考えを表明。

25日�タタバーニャ市(ブダペスト西)、

BMWの新小型車生産拠点候補地の選

定から漏れたことを表明。

29日�議会、電子署名(e-signature)を認め

る法律案を可決。

4日�ミシュラン、ルーマニア進出に合意。

ハンガリーREPUBLIC OF HUNGARY

<4 月>

ルーマニアROMANIA

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 237

6日�農業省、EUからの口蹄疫による牛、

豚、羊およびヤギの輸入禁止を4月15

日まで延長。

12日�議会、財政赤字の対GDP比3.7%を変

更せず2001年の予算案を採択。予算は

4.1%の経済成長(昨年は1.6%)、イン

フレ率25%(同40.7%)がベース。

13日�オーストリアのRZB(Ra i f f e i s en

Zentralbank Oesterreich AG)、農業

銀行を買収。

26日�ビジネス開発センター(BDC)、投資

家へのビジネス情報提供を目的にルー

マニア商工会議所内に設置。

26日�民営化庁(APAPS)、カナダのExall

Resources株式会社に、ルーマニア最大

のPVCプラスチックメーカーOltchimを

1億6,000万ドルで売却する協定に署名。

<5 月>

4日�コンスタンツァ港第2コンテナターミ

ナル、11月に建設開始の予定。(完成

予定は2003年5月)

9日�輸入品の関税価格計算をユーロ単位に

切り替え。

17日�上院、ウェブ取引の認証を定めたe-

署名法案を可決。

18日�政府、新たに2分野(関税と漁業)の

交渉をEUと開始。これまで、12分野の

交渉を開始し、6分野が終了。

�国営原子力発電会社、カナダ原子力会社

(AECL)およびイタリアのANSALDO

とチェルナヴォダ2号炉の機器購入・

建設契約に調印。総費用は6億8,900

万ドル。

24日�政府の貧困対策委員会、貧困率は過去

10年に8倍(89年6%から2000年44%)

に増加と発表。

�欧州委、ブライラ工業団地プロジェク

トを承認。総費用880万ユーロ。うち

650万ユーロが公的資金で、EUが

Phare資金で75%、ルーマニア政府が

25%を負担。

2日�コズロデュイ原発当局、3~6号機の

近代化設備投資額は2001年度では3億

8,000万ドルに上ると発表。

5日�政府、2001年度の民営化計画を承認。

477件で6億4,014万レバの収入見込み。

�議会、NATOとの協定を批准。

9日�国家統計局、2000年度の貿易収支は輸

出48億1,200万ドル(前年比20.1%増)、

輸入64億9,400万ドル(同17.7%増)で

16億8,200万ドルの赤字と発表。

13日�政府、国営ガス会社ブルガルガスの

2001年度投資計画を承認。コンプレッ

サー施設の増強、パイプラインの新設

等に9,760万レバを支出。

23日�資源エネルギー庁、2000年の国内発電

量は409億700万kWhで前年比7%増、

輸出量は56億kWhで前年から倍増と

発表。発電構成比は火力48.5%、原子

力44.3%、水力7.2%。

�ハンパーツミャン民営化庁長官、ブル

ガリアテレコムの民営化時期を2003な

いし2004年とし、それまでの同社の経

営を外国人経営チームに委託する方針

を発表。国営電力会社にも同様のスキ

ーム採用を示唆。

24日�欧州投資銀行、2001/02年を対象にブ

ルガリアに対して総額6億ユーロの融

資の用意があると発表。うち2億8,900

万ユーロは2本の高速道路の延長・近

代化。その他水道、廃棄物リサイクル

事業等が対象。

<5 月>

14日�国家統計局、2001年度の固定資産投資

ブルガリアREPUBLIC OF BULGARIA

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7238

額は前年度比21%増加の見込みと発表。

17日�エネルギー効率化庁、英PetrecoSARL

社にガラタガス田における25年間の試

掘・採鉱権を交付。同ガス田の推定埋

蔵量は14.4億~25.2億立方メートル、P

社の投資額は約5,000万ドル。

18日�世銀、2002~2004年の対ブルガリア国

家支援戦略を発表。3カ年のGDP成

長率5%以上、輸出増加率6~7%、

政府による中期改革プログラムの堅実

な推進等を条件に総額7億5,000万ドル

の融資の用意がある旨を表明。

24日�中央銀行、第1四半期の経常収支赤字

は1億6,100万ドル(前年同期の3億

4,800万ドルから大幅減)と発表。

29日�格付け会社Moody's、ブルガリアの外

貨建て債券の格付け(B2)を据え置き。

2日�スロベニアのコペル港とイタリアのト

リエステ港の代表者が会合。両港間の

鉄道敷設、ベネチア、リュブリャナ間

の鉄道路線改良などで協力を表明。

4日�政府、ワイン類の輸出入に関する協定

をEUと締結。今後、年間最大720万リ

ットルのスロベニア産ワインのEU向

け輸出が可能。

5日�政府、国内銀行最大手のノヴァ・リュ

ブリャンスカ・バンカ(NLB、政府

保有株式は83%)の株式を年内に最大

48%売却、およびコペル港およびリュ

ブリャナ空港の運営会社の株式49%

(全政府保有株式)の売却を発表。

13日�スロベニアのアドリア航空とユーゴス

ラビアのJAT航空、リュブリャナ・ベ

オグラード間の定期便開設で合意。本

年5月から週2便運行。

15日�大口電力市場を自由化。2003年1月1

日からは一般世帯需要を含む完全自由

化を実施予定。

23日�キャノン、リュブリャナ市内にキャノ

ン・アドリア社を設立。従業員9人で、

主にマーケティングや技術サポートな

どを展開の予定。

<5 月>

3日�スロベニア・ハンガリー間の直通鉄道

路線が開通。

4日�政府、2004年までに土地登記簿および

公図のコンピューター管理化を決定。

総費用2,900万ドルの大半を世界銀行、

EUのPHAREプログラムからの補助金

で賄う見込み。

10日�ドルノフシェク首相、プラチスラバで

開かれたNATO拡大関連の会議で同

国の早期NATO加盟を要望。2002年

にプラハで開催されるNATO首脳会

談での加盟承認を目指す。

17日�政府、クロアチアおよびマケドニアと

締結しているFTAに関し、EU加盟後

の移行期間要求の撤回を決定。これに

より、6月のEU加盟交渉で「関税同

盟」および「外国関係」の交渉終了を

目指す。

28日�憲法裁判所、法手続き上の理由で、6

月に予定していたオーストリアおよび

イタリア国境沿いの免税店廃止の延期

を決定。これにより、EU加盟交渉で

の「関税同盟」の交渉終了は2001年後

半にずれ込む見通し。

2日�クロアチア統計局、2000年の輸出総額

は44億ドルと前年比3%増加、輸入は

79億ドルと1.6%の増加と発表。

11日�米国、クロアチアに対して、内戦当時

スロベニアREPUBLIC OF SLOVENIA

<4 月>

クロアチアREPUBLIC OF CROATIA

<4 月>

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 239

に被害を受けた送電線網の修復工事費

用として500万ドルの無償援助を決定。

見積りでは、送電線の修復に総額

4,500万ドルが必要。

12日�政府、クロアチア・テレコム(HT)

株式の追加売却(21%)の10月末延期

を発表。

20日�クロアチア中央銀行、2000年の同国へ

の外国直接投資額は前年の約15億ドル

を大幅に下回る約8億6,800万ドルと発表。

<5 月>

11日�クロアチア国営石油INA社、2カ月以

内にイタリアSNAM社との間で、両

国間のガスパイプラインの敷設で合意

見通し。総額2億6,000万ドルのプロ

ジェクトで、同社はこれを契機に欧州

域内のガス市場への参入を目指す。

14日�EUとの間で安定化・連合協定(SAA)

を締結。これにより、クロアチアは正

式にEU加盟準備作業を開始。EUから

同国へ輸出される工業製品の関税は遅

くとも2007年1月から撤廃。

�イタリアのUnicredito銀行とドイツの

アリアンツが、クロアチア最大手の

Zagrebacka銀行を買収へ。買収総額

は5億1,400万ドルに上る見通しで、

過去最高額の買収案件。当局の承認が

前提で、早ければ夏頃に買収完了の見

込み。

20日�社会民主党を中心とした国政連立6

党、地方選挙で、21の自治体のうち15

で勝利。連立与党の進める民主化・親

欧州政策が信任を得た形。欧州委も選

挙過程と結果に対して歓迎の意を表明。

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JETRO ユーロトレンド 2001.7240

統計資料

英  国� フランス� ド イ ツ � イタリア� スペイン�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

2. 8 2. 9 8. 0 1. 7 1. 8 11. 8 1. 7 1. 7 9. 4 2. 9 5. 4 11. 6 2. 7 4. 7 22. 9� 2. 6 3. 0 7. 2 1. 1 1. 7 12. 3 0. 8 1. 4 10. 4 1. 1 4. 0 11. 6 2. 4 3. 6 22. 2� 3. 5 2. 8 5. 3 1. 9 1. 2 12. 5 1. 4 1. 9 11. 4 1. 8 2. 0 11. 7 3. 9 2. 0 20. 8� 2. 6 2. 6 4. 5 3. 4 0. 7 11. 9 2. 1 1. 0 11. 1 1. 5 2. 0 11. 8 4. 3 1. 8 18. 8� 2. 3 2. 3 4. 2 2. 9 0. 5 11. 2 1. 6 0. 6 10. 5 1. 4 1. 7 11. 4 4. 0 2. 3 15. 9� 3. 0 2. 1 3. 6 3. 1 1. 7 9. 7 3. 0 1. 9 9. 6 2. 9 2. 5 10. 6 4. 1 3. 4 14. 1� 3. 2 2. 2 3. 9 *1. 1 - - 2. 4 - - 2. 8 2. 1 11. 1 4. 2 2. 7 15. 4� 3. 2 2. 1 3. 8 *0. 6 - - 3. 7 - - 3. 3 2. 4 11. 4 4. 2 2. 9 15. 0� 3. 4 2. 1 3. 7 *0. 7 - - 3. 5 - - 3. 0 2. 6 10. 8 4. 2 3. 2 14. 0� 3. 0 2. 1 3. 5 *0. 6 - - 2. 8 - - 2. 7 2. 6 10. 1 4. 1 3. 6 13. 7� 2. 6 2. 1 3. 4 *1. 0 - - 1. 9 - - 2. 6 2. 6 10. 0 3. 8 4. 0 13. 6� 2. 5 1. 9 3. 3 - - - 1. 6 2. 3 2. 9 10. 1 3. 8 13. 4� - 2. 0 3. 8 - 1. 5 10. 0 - 1. 9 10. 6 - 2. 5 - - 2. 9 -� - 1. 9 3. 7 - 1. 3 9. 9 - 1. 5 9. 8 - 2. 3 - - 3. 0 -� - 2. 0 3. 7 - 1. 5 9. 8 - 1. 4 9. 3 - 2. 5 - - 3. 1 -� - 2. 2 3. 6 - 1. 7 9. 6 - 1. 9 9. 1 - 2. 7 - - 3. 4 -� - 2. 2 3. 6 - 1. 7 9. 7 - 1. 9 9. 3 - 2. 6 - - 3. 6 -� - 1. 9 3. 5 - 1. 8 9. 6 - 1. 8 9. 3 - 2. 6 - - 3. 6 -� - 2. 2 3. 5 - 2. 2 9. 5 - 2. 5 9. 0 - 2. 6 - - 3. 7 -� - 2. 0 3. 5 - 1. 9 9. 4 - 2. 4 8. 9 - 2. 6 - - 4. 0 -� - 2. 2 3. 4 - 2. 2 9. 2 - 2. 4 8. 9 - 2. 7 - - 4. 1 -� - 2. 0 3. 4 - 1. 6 9. 2 - 2. 2 9. 3 - 2. 7 - - 4. 0 -� - 1. 8 3. 3 - 1. 2 9. 0 - 2. 4 10. 0 - 3. 1 - - 3. 7 -� - 1. 9 3. 3 - 1. 4 8. 8 - 2. 6 10. 1 - 3. 0 - - 3. 8 -� - 1. 9 3. 3 - 1. 3 8. 7 - 2. 5 9. 8 - 2. 8 - - 3. 9 -� - - - - 1. 8 8. 7 - 2. 9 9. 5 - 3. 1 - - 4. 0 -�

1995年 � 96年 � 97年 � 98年 � 99年 � 2000年 � 1999年 10~12月� 2000年 1~3月� 4~6月� 7~9月� 10~12月� 2001年 1~3月� 2000年 3月� 4月� 5月� 6月� 7月� 8月� 9月� 10月� 11月� 12月� 2001年 1月� 2月� 3月� 4月�

1995年 � 96年 � 97年 � 98年 � 99年 � 2000年 � 1999年 10~12月� 2000年 1~3月� 4~6月� 7~9月� 10~12月� 2001年 1~3月� 2000年 3月� 4月� 5月� 6月� 7月� 8月� 9月� 10月� 11月� 12月� 2001年 1月� 2月� 3月� 4月�

ポルトガル� ギリシャ� オランダ� ベルギー� ルクセンブルク�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

1. 9 4. 2 7. 3 2. 1 8. 9 10. 0 2. 3 2. 0 7. 0 2. 3 1. 5 14. 1 4. 1 1. 9 2. 9� 3. 0 3. 1 7. 3 2. 4 8. 2 9. 8 3. 0 1. 4 6. 6 1. 0 2. 1 13. 8 2. 9 1. 4 3. 3� 3. 6 2. 2 6. 7 3. 5 5. 5 10. 3 3. 8 2. 2 5. 5 3. 4 1. 6 13. 3 7. 3 1. 4 3. 7� 3. 9 2. 8 5. 0 3. 1 4. 8 9. 9 4. 1 2. 0 4. 1 2. 4 1. 0 12. 6 5. 0 1. 0 3. 3� 3. 0 2. 5 4. 4 3. 4 2. 6 11. 7 3. 9 2. 2 3. 1 2. 7 1. 1 11. 7 7. 5 1. 0 3. 1� - 2. 9 4. 0 4. 1 3. 9 11. 1 3. 9 2. 6 2. 6 ※3. 9 2. 5 10. 9 - 3. 2 2. 6� 3. 2 2. 0 4. 1 - - - 4. 9 - 2. 7 - - - - - -� 3. 0 1. 8 4. 4 - - - 4. 9 - 3. 0 - - - - - -� 3. 0 2. 5 3. 8 - - - 4. 3 - 2. 4 - - - - - -� - 3. 4 4. 0 - - - 3. 5 - 2. 4 - - - - - - � - 3. 9 3. 8 - - - 2. 8 - 2. 6 - - - - - -� 4. 8 2. 0 2. 4� - 1. 5 - - 3. 1 - - 1. 9 - - 2. 3 10. 6 - 2. 8 3. 1� - 2. 1 - - 2. 6 - - 2. 1 - - 2. 0 10. 6 - 2. 7 2. 9� - 2. 6 - - 2. 9 - - 2. 4 - - 2. 2 10. 1 - 2. 6 2. 7� - 2. 9 - - 2. 7 - - 2. 7 - - 2. 8 10. 1 - 3. 3 2. 7� - 3. 2 - - 2. 6 - - 2. 8 - - 2. 8 11. 2 - 3. 4 2. 6� - 3. 5 - - 2. 9 - - 2. 5 - - 2. 9 11. 9 - 3. 1 2. 7� - 3. 4 - - 3. 0 - - 2. 9 - - 3. 4 11. 5 - 3. 4 2. 6� - 3. 5 - - 3. 8 - - 3. 1 - - 3. 0 11. 1 - 3. 5 2. 5� - 3. 8 - - 4. 2 - - 3. 0 - - 3. 1 10. 7 - 3. 7 2. 6� - 3. 9 - - 3. 9 - - 2. 9 - - 2. 5 10. 6 - 3. 5 2. 6� - 4. 4 - - 3. 4 - - 4. 2 - - 2. 2 10. 7 - 2. 9 2. 7� - 4. 8 - - 3. 5 - - 4. 5 - - 2. 3 10. 6 - 2. 9 2. 7� - 5. 1 - - 3. 0 - - 4. 6 - - 2. 1 10. 3 - 2. 9 2. 5� - 4. 5 - - 3. 5 - - 4. 9 - - 2. 8 - - 2. 8 2. 5

  1)GDP成長率は前年比および前年同期比 *は前期比 ※は推定値�  2)消費者物価上昇率は前年比、前年同期比および前年同月比�  3)ポルトガルの実質GDP成長率・四半期の値は、99年より半期(1月~6月、7月~12月)平均値�資料:各国統計による。ドイツのGDP成長率は99年4月よりEU基準に変更。�

主 要 経 済 指 標

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 241

統計資料

アイルランド�オーストリア�スウェーデン�フィンランド� ス イ ス �実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

デンマーク�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率� 実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

2. 8 n. a. 7. 2 8. 3 2. 5 12. 1 1. 6 2. 2 6. 6 3. 9 2. 5 7. 7 4. 0 1. 0 15. 4� 2. 5 2. 0 6. 8 8. 2 1. 6 11. 5 2. 0 1. 9 7. 0 1. 3 0. 5 8. 1 4. 1 0. 6 14. 6� 3. 0 1. 9 5. 6 10. 1 1. 5 9. 8 1. 3 1. 3 7. 1 1. 8 0. 5 8. 0 6. 3 1. 2 12. 7� 2. 8 1. 3 5. 2 8. 6 2. 4 7. 4 3. 3 0. 9 7. 2 2. 9 △ 0. 1 6. 5 5. 3 1. 4 11. 4� 2. 1 2. 1 5. 2 9. 3 1. 6 5. 6 2. 8 0. 6 6. 7 3. 8 0. 4 5. 6 4. 2 1. 2 10. 2� 2. 9 2. 7 4. 7 - 5. 6 4. 1 3. 2 2. 3 5. 8 - - 4. 7 5. 7 3. 4 9. 8� 3. 3 2. 8 4. 9 12. 1 - 5. 1 4. 0 1. 0 6. 6 3. 8 1. 1 5. 2 3. 5 1. 7 9. 3� 2. 6 2. 9 4. 8 11. 7 - 4. 5 4. 1 1. 6 7. 7 3. 9 0. 8 5. 4 5. 2 2. 7 11. 0� 3. 6 2. 9 4. 6 7. 8 - 4. 2 4. 1 2. 1 5. 3 3. 9 0. 8 4. 4 4. 5 3. 0 11. 1� 3. 2 2. 6 4. 7 - - 3. 9 2. 3 2. 8 4. 6 3. 7 0. 9 4. 8 5. 6 3. 9 8. 4� 2. 4 2. 6 4. 8 - - - 2. 6 2. 8 5. 8 2. 3 1. 1 3. 9 5. 5 3. 9 8. 6� 3. 1 9. 8� - 3. 0 4. 7 - 4. 6 4. 3 - 1. 9 6. 6 - 1. 0 5. 1 - 3. 1 11. 2� - 2. 9 4. 6 - 4. 9 4. 3 - 1. 9 5. 9 - 0. 9 4. 7 - 2. 7 11. 0� - 2. 8 4. 6 - 5. 2 4. 2 - 1. 8 5. 3 - 1. 0 4. 1 - 2. 9 11. 9� - 2. 9 4. 7 - 5. 5 4. 1 - 2. 7 4. 7 - 0. 8 5. 1 - 3. 5 10. 3� - 2. 8 4. 7 - 6. 2 4. 0 - 2. 8 4. 5 - 0. 8 5. 2 - 3. 7 7. 8� - 2. 2 4. 6 - 6. 2 3. 9 - 2. 7 4. 6 - 0. 9 5. 1 - 3. 8 8. 3� - 2. 7 4. 8 - 6. 2 3. 8 - 3. 0 4. 6 - 0. 8 4. 1 - 4. 2 9. 1� - 2. 8 4. 9 - 6. 8 3. 7 - 2. 8 5. 2 - 1. 0 4. 0 - 4. 1 8. 9� - 2. 7 4. 9 - 7. 0 3. 7 - 3. 1 5. 8 - 1. 3 3. 9 - 4. 0 8. 7� - 2. 3 4. 7 - 5. 9 3. 6 - 2. 6 6. 5 - 1. 0 3. 7 - 3. 5 8. 3� - 2. 3 - - 5. 2 3. 6 - 3. 0 7. 7 - 1. 5 4. 4 - 3. 3 9. 9� - 2. 3 - - 5. 3 3. 6 - 2. 6 7. 5 - 1. 5 4. 2 - 3. 1 9. 8� - 2. 2 - - 5. 4 3. 6 - 2. 7 6. 4 - - - - 2. 9 9. 6� - 2. 6 - - 5. 6 3. 6 - 2. 9 5. 8 - - - - - -�

0. 5 1. 8 4. 2� 0. 3 0. 8 4. 7� 1. 7 0. 5 5. 2� 2. 3 0. 0 3. 9� 1. 5 0. 8 2. 7� 3. 4 1. 6 2. 0� 3. 1 1. 1 2. 4� 3. 9 1. 6 2. 4� 3. 8 1. 4 1. 9� 3. 6 2. 0 1. 8� 2. 5 2. 6 1. 8� - - -� - 1. 5 2. 3� - 1. 4 2. 1� - 1. 6 1. 9� - 1. 9 1. 8� - 2. 0 1. 8� - 1. 3 1. 8� - 2. 3 1. 7� - 1. 3 1. 7� - 1. 9 1. 8� - 1. 7 1. 9� - 1. 3 2. 0� - 0. 8 1. 9� - 1. 0 1. 8� - 1. 2 1. 7

アイスランド� ポーランド� チ ェ コ � ハンガリー� ルーマニア�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

ノルウェー�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率� 実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�実質GDP�成長率�

消費者物�価上昇率�

失業率�

3. 7 2. 4 4. 9 0. 1 1. 7 5. 0 7. 0 27. 8 14. 9 5. 9 9. 1 2. 9 1. 5 28. 2 10. 2� 4. 8 1. 3 4. 9 5. 2 2. 3 4. 4 6. 0 19. 9 13. 2 4. 8 8. 8 3. 5 1. 3 23. 6 9. 9� 3. 5 2. 6 4. 1 4. 8 1. 8 3. 9 6. 8 14. 9 10. 3 △1. 0 8. 5 5. 2 4. 6 18. 3 8. 7� 2. 0 2. 2 3. 2 4. 5 1. 7 2. 8 4. 8 11. 8 10. 4 △2. 2 10. 7 7. 5 4. 9 14. 3 7. 8� 0. 9 2. 3 3. 2 4. 4 3. 4 1. 9 4. 1 7. 3 13. 1 △0. 8 2. 1 9. 4 4. 2 10. 0 7. 0� 2. 3 3. 1 3. 4 4. 0 5. 0 1. 3 4. 1 10. 1 15. 0 3. 1 3. 9 8. 8 5. 2 9. 8 6. 4� 2. 4 2. 0 3. 4 - 5. 3 1. 6 6. 2 9. 2 - 1. 0 1. 9 9. 1 5. 9 10. 8 6. 5� 4. 6 2. 9 3. 9 - 5. 8 1. 8 6. 0 10. 3 - 4. 3 3. 6 9. 6 6. 6 9. 8 6. 7� 2. 2 2. 9 3. 3 - 5. 8 1. 4 5. 2 10. 0 - 2. 1 3. 7 8. 9 5. 8 9. 1 6. 5� 1. 4 3. 4 3. 5 - 4. 8 1. 0 3. 3 10. 8 - 2. 2 4. 0 8. 9 4. 5 9. 8 6. 3� 0. 7 3. 1 3. 1 - 4. 3 1. 1 2. 4 9. 2 - 3. 9 4. 2 8. 6 4. 2 10. 4 6. 0� - 3. 5 3. 7 - 3. 8 1. 5 2. 3 6. 7 - - - - - 10. 3 6. 0� - 2. 5 4. 0 - 5. 9 1. 9 - 10. 3 14. 0 - 3. 8 9. 7 - 9. 6 6. 0� - 2. 6 3. 6 - 6. 0 1. 5 - 9. 8 13. 8 - 3. 4 9. 0 - 9. 2 6. 9� - 2. 8 3. 4 - 5. 9 1. 5 - 10. 0 13. 6 - 3. 7 8. 7 - 9. 1 6. 7� - 3. 3 3. 2 - 5. 5 1. 3 - 10. 2 13. 6 - 4. 1 8. 7 - 9. 1 6. 0� - 3. 3 3. 3 - 5. 6 1. 1 - 11. 6 13. 8 - 3. 9 9. 0 - 9. 6 6. 6� - 3. 5 3. 6 - 4. 7 1. 1 - 10. 7 13. 9 - 4. 1 9. 0 - 9. 6 6. 5� - 3. 5 3. 4 - 4. 0 0. 9 - 10. 3 14. 0 - 4. 1 8. 8 - 10. 3 5. 7� - 3. 1 3. 4 - 4. 2 0. 9 - 9. 9 14. 1 - 4. 4 8. 5 - 10. 4 6. 2� - 3. 2 3. 1 - 4. 6 1. 1 - 9. 3 14. 5 - 4. 3 8. 5 - 10. 6 6. 0� - 3. 0 3. 0 - 4. 2 1. 3 - 8. 5 15. 0 - 4. 0 8. 8 - 10. 1 5. 7� - 3. 4 3. 6 - 3. 5 1. 6 - 7. 4 15. 6 - 4. 2 9. 1 - 10. 1 6. 0� - 3. 6 3. 4 - 4. 1 1. 5 - 6. 6 15. 8 - 4. 0 9. 0 - 10. 4 6. 3� - 3. 7 3. 3 - 3. 9 1. 5 - 6. 2 15. 9 - 4. 1 8. 7 - 10. 5 5. 6� - 3. 8 - - 4. 5 2. 1 - 6. 6 15. 8 - 4. 6 8. 3 - 10. 3 -�

7. 1 32. 3 9. 5� 3. 9 38. 8 6. 6� △6. 9 154. 8 8. 9� △5. 4 59. 1 10. 3� △3. 2 45. 9 11. 8� 1. 6 45. 6 10. 5� - - -� - - -� - - -� - - -� - - -� - - -� - 49. 0 12. 2� - 48. 9 11. 9� - 44. 0 11. 5� - 40. 9 11. 2� - 44. 5 10. 8� - 45. 4 10. 5� - 44. 9 10. 2� - 42. 9 10. 2� - 41. 3 10. 3� - 40. 7 10. 5� - 39. 9 10. 8� - 40. 0 10. 8� - 40. 3 10. 5� - - -�

注1:97年1月からのオーストリアの消費者物価上昇率は、調整品目・方法をEU基準に合わせるとともに�   96年=100としたCPIに基づく新統計。�注2:アイルランドの実質GDP成長率は、96年より中銀からCentral Statistics Office統計値に変更。�注3:デンマークの失業率は99年10月よりEU基準に変更。�注4:ルクセンブルクの実質GDP成長率は、2001年1月より96年まで溯り計算方法が変更。�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7242

便利な英語版ホームページ

投資促進はハンガリー投資貿易促進公社(ITDH)(International Division、TEL:+36-1-318-6396、FAX:+36-1-317-4369、E-mail:[email protected]、HP:http://www.itd.hu)が行う。投資環境などの説明や、工業団地訪問のアレンジなどのサービスを受けられる。現在、日本人投資アドバイザー(高橋氏)が在籍しており、日本語での相談も可能だ。金融制度については、ハンガリー国立銀行

Magyar Nemzeti Bank(Information Department、TEL:+36-1-332-2521, FAX:+36-1-302-3601,E-mail:[email protected]、HP:http://www.mnb.hu)が質問に答えてくれる。文書でのやりとりをお勧めする。

商業関係では、ブダペスト商工会議所(Chamberof commerce and industry Budapest)(TEL:+36-1-488-2173、FAX:+36-1-488-2180)が中小企業を中心とした幅広いネットワークを持っている。産業関係では、自動車部品工業会(Hungarian

Association of Vehicle Component Manu-facturers)(MAJOSZ、TEL/FAX:+36-1-303-9007、HP:http://www.majosz.hu)、鋳物協会(Association of Hungarian Foundries)(MOSZ、TEL/FAX:+36-1-420-4812、HP:http://www.foundry.matavhu)、機械工業会(National Associa-tion of Hungarian engineering Companies)(MAGOSZ、TEL:+36-1-202-3985、FAX:+36-1-356-0040)などがある。

熱心な投資誘致機関

スロベニアでは貿易投資推進局(TIPO,Trade and Investment Promotion Office)が積極的な投資誘致活動を展開している。法律、税制などの情報提供に加え、補助金を投資企業に直接支給する事業も展開している。残念ながらスタッフ数はそれほど多くはないものの、日本語のパンフレットも準備されており、熱心な姿勢がうかがえる。なお、TIPOは現在、経済省の内部組織であるが、独立した外部機関として再編成される計画が進行中である。クロアチアでは、クロアチア経済会議所

(Croatian Chamber of Economy)が情報提供、各種手続き相談などのサービスを提供してい

る。同会議所の強みは、訪日経験者や日本とのビジネスにかかわりのあったスタッフが数人いることである。在京クロアチア大使館との連携で、日本国内でのセミナー開催など、積極的な誘致活動を展開している。残念ながら、両国に進出している日本企業は、スロベニアに自動車販売業などで4社を数えるのみで、隣国のハンガリー、スロバキアのような日系製造業の進出はいまだ見られない。今後両国とのビジネスを展開する場合は、この2つの機関を利用することをお勧めしたい。

(ホームページアドレス)スロベニア:www.investslovenia.org/クロアチア:www.hgk.hr/komora/eng/eng.htm

ハンガリー

スロベニア、クロアチア

中・東欧ミニ情報�中・東欧ミニ情報�

《投資促進機関》�

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JETRO ユーロトレンド 2001.7 243

商工会メンバーは31社

日本大使館は、最近新館に移転した。新住所はul.Szwolezerow 8, 00-464, Warsaw。電話は、+48-22-696-5000(代表)/+48-22-696-5005(領事館)である。また、新館建設中に一時大使館が入居していたAtriumには広報文化センターが発足し、日本文化の普及に貢献している。広い閲覧室を備えた同センターでは、日本語環境のコンピューターでインターネット検索などもできる。日本人商工会は、ポーランド日本人会の下部

組織となっている。商工会のメンバーは現在31社。隔月(奇数月)、大使館に集まり、大使館によるブリーフィングのあと定例会議を行って

いる。商工会では、ゴルフコンペも催され、ワルシャワ郊外にある唯一のゴルフ場に集い、腕を競い合っている。懇親会も年2回ほど行われている。商工会婦人会でも懇親会が行われているほか、ご婦人方で組織された柳桜会(りゅうおうかい)では、ワルシャワ大学日本学科の学生たちと交流会を開いている。一方、日本人会は、「ワルシャワ日本人会」か

ら「ポーランド日本人会」に名称を変え、ポーランド全国に在住の日本人を対象に会員を募集している。主な催しは、12月に行われる総会と忘年会(同時開催)、スポーツ大会や音楽留学生演奏会(年2回)、日本人学校と共催の運動会などである。

活動的な日本人会、商工会

チェコには大使館、日本人学校(小・中等部、補習校ではない)のほか、日本人会、商工会がある。日本人会は、チェコ在住日本人の個人とその

家族(家族の国籍は問わない)、および日系法人であれば、誰でも会員となる資格がある。日本人会には広報、生活関連情報、文化交流、レクリエーションなど、それぞれの分野で活動する部会がある。会員の一人一人が参加する手作りの組織という性格が強いのも、比較的邦人の数が少ない国ならではのことである。一方、商工会は、在チェコ日本企業の日本人

駐在員および関係者で組織され、ジェトロ・プ

ラハ事務所が事務局となっている。月例会を開催し、労働問題や法制をはじめとするチェコのビジネス環境などについて、日本企業間で情報交換を行っている。また、スロバキア、ハンガリー、ポーランドなど近隣諸国に進出している日本企業との間でも情報交換を行っているほか、チェコ政府関係機関や銀行、法律事務所、会計事務所などを招いて、さまざまなテーマについてセミナーや意見交換の場を設けている。このところ日本の製造業の対チェコ進出が相次いでいるため会員が増えている。工場の立地がプラハから離れた地方にあるケースが多いため、プラハでの商工会の開催は、毎月最終金曜日の夕として、なるべく遠くからも参加しやすいようにしている。

多彩で活発な行事

来年は、日本とルーマニアが1902年6月にはじめて外交接触をもってから100年にあたる。これを記念して茶、生け花、尺八・琴、三味線、なぎなた・剣道、能、有名指揮者によるコンサートなどさまざまな文化行事が大々的に行われる。このため当地日本大使館が中心となり、実行委員会が組織され基金への参加募集を行っている。日本人会の会員は約150名、バーベキュー大

会、運動会、テニス大会、ソフトボール大会、忘年会などの行事がある。運動会は日本人学校との共催、忘年会では新人芸(その年の新入会者達による演芸)が毎年好評を博している。その他、医療部会や婦人部の活動、年2回の親善ゴルフ

大会などがある。商工会は会員約20社、月例会合には毎回20~

25名が出席し、ルーマニアの政治・経済情勢報告、内外講師による講演、企業同士の情報交換、歓送迎会など活発な活動を行っている。日本人学校は生徒数が22名で、遠足、運動会、

林間学校、秋祭り、ひな祭り、水泳、テニス、スキー・スケートの学習、国際交流などを行っている。JICAの青年協力隊員は約30名、最近は女性

隊員が主流となりブカレストおよび地方都市に入り活躍しており、その数は増加傾向にある。その他、単身赴任者が、「ブカチョン会」と称

し月1回、市内のレストランで夕食会を開いている。

ポーランド

チ ェ コ

ルーマニア

《日本人会・商工会》

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各�国�通�貨�交�換�レ�ー�ト�2001年6月1日現在�

ユーロ圏12カ国�フ ラ ン ス �ド イ ツ �イ タ リ ア �オ ラ ン ダ �ベ ル ギ ー �ス ペ イ ン �ポ ル ト ガ ル �アイルランド�オーストリア�フィンランド�ギ リ シ ャ �英 国 �デ ン マ ー ク �スウェーデン�ス イ ス �ノ ル ウ ェ ー �アイスランド�ポ ー ラ ン ド �チ ェ コ �ス ロ バ キ ア �ハ ン ガ リ ー �ル ー マ ニ ア �ブ ル ガ リ ア �

ユーロ�

仏フラン�

独マルク�

伊リラ�

オランダ・ギルダー�

ベルギー・フラン�

スペイン・ペセタ�

ポルトガル・エスクード�

アイルランド・ポンド�

オーストリア・シリング�

フィンランド・マルカ�

ギリシャ・ドラクマ�

英ポンド�

デンマーク・クローネ�

スウェーデン・クローナ�

スイス・フラン�

ノルウェー・クローネ�

アイスランド・クローナ�

ポーランド・ズロチ�

チェコ・コルナ�

スロバキア・コルナ�

ハンガリー・フォリント�

ルーマニア・レイ�

ブルガリア・レバ�

EUR�

F.FR.�

D.M.�

LIT.�

D.GL�

B.FR.�

S.PESETA�

P.ESC�

IRELAND£�

A.SCH.�

MARKKA�

DR.�

STG.£�

D.KR.�

S.KR�

S.FR.�

N.KR.�

I.KR.�

PLN�

CZK�

SKK�

HUF�

ROL�

BGN

102.42�

15.61�

52.37�

5.29�

46.47�

253.86�

61.55�

0.51�

130.04�

7.44�

17.22�

0.30�

173.24�

13.84�

11.46�

67.31�

13.05�

1.14�

29.86�

2.95�

2.35�

0.40�

0.41�

51.74

6.55957�

1.95583�

1,936.27�

2.20371�

40.3399�

166.386�

200.482�

0.787564�

13.7603�

5.94573�

340.750�

3.9876�

40.227�

50.673�

299.80�

28,775�

2.3001

注:1)交換レートは、現地通貨当たりの円貨額(売り相場)を表示。�   ユーロ圏12カ国の備考欄は、1ユーロに対する各国通貨の交換レート。中・東欧諸国の備考欄は1USド

ルに対する各国通貨の交換レート。�  2)イタリア、ベルギー、スペイン、ルーマニアはそれぞれ100LIT.、100B.FR.、100S.PESETA、100ROL

当たりの円貨額。�出所:東京三菱銀行EXCHANGE QUOTATIONS(Opening)、ただしギリシャ、アイスランドおよび中・東欧   諸国はFINANCIAL TIMES ホームページ“FT.com”による6月1日現在のレート。��

2001年7月号(NO.47)  2001年6月25日発行�

発行所●日本貿易振興会 海外調査部欧州課�    〒105-8466 東京都港区虎ノ門2-2-5 電話03(3582)5569 FAX03(3589)3419��★本会の許可なく無断転載および複製を禁じます。�★本誌掲載の論文・論旨は、必ずしも本会の公式見解ではないことをお断りします。��© JETRO 2001 Printed in Japan

国   名� 通    貨� 略 号� 交換レート� 備考�

注2

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