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V P I S D S Self Directed Search John L. Holland Realistic Investigative Artistic Social Enterprising Conventional 6 2 自分と将来の仕事を 結びつけて考える場面 よくあるこんなケース 『D.E.スーパーの生涯と理論』全米キャリア発達協会著 仙崎武・下村英雄監修 図書文化社、 『ホランドの職業選択理論‐パーソナリティと働く環境』 John L. Holland著 雇用問題研究会、 『その幸運は偶然ではないんです!』 J.D.クランボルツ著 ダイヤモンド社、 『偶然をチャンスに変える生き方』諸富祥彦著 ダイヤモンド社 諸富祥彦先生 12

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になるというのだ。

 

ホランドはさらに、「個々人を特徴づける

パーソナリティ・タイプは、その人の生得的

資質と発達過程で体験する人的、文化

的、物理的諸環境からの力との交互作用

を経て形成される」という仮説に基づき、

パーソナリティ・タイプの発達を図3のよう

に表した。つまり、興味に関係した活動に

よって関心が高まり、それに関する経験も

増えて、ますます興味の傾向が強まる。い

わゆる「好きこそものの上手なれ」という

ものである。

 

これらの理論を元に、統計的な実験を

行って多くの職業適性診断が作成されて

いる。そのため、結果として出てきた適職

は、本人が日頃とっている行動や価値観と

近い関係にあると考えられる。よくあるこ

んなケースにも登場しているような、「やり

たいことがわからない」という生徒にとって

も、自分が関心をもっていることがどのよ

うな方向か考えるキッカケにできるのだ。

 

進路指導のなかで、職業適性診断など

のアセスメントを実施する機会は少なく

ない。しかし、その結果を、単に「合ってい

る、合っていない」「やってみたい、やってみた

くない」だけで終わらせてしまうのはもっ

たいない。職業適性診断の結果は、生徒が

日頃どんなことに興味をもっているか、ど

ういう価値観をもっているかといった「自

己理解」の重要なヒントになるのだ。

 

例えば、自らもVPI職業興味検査や

SDS(S

elf Directed S

earch

)という大

学生向けの進路選択支援ツールの開発者

として有名なジョン・ホランド(John L.

Holland

)。ホランドは、パーソナリティと職

業環境を、現実的(R

ealistic

)、研究的

(Investigative

)、芸術的(A

rtistic

)、社会的

(Social

)、企業的(E

nterprising

)、慣習的

(Conventional

)の6タイプに分類した。

それが、パーソナリティと環境タイプ論の

基本となる「ホランドの六角形モデル」で

ある(図1)。

 

そして、「人々は、自分のもっている技能

や能力が生かされ、価値観や態度を表現

でき、自分の納得できる役割や課題を引

き受けさせてくれるような環境を求め

る」と仮定した。つまり、パーソナリティ・タ

イプが現実的な人は、現実的タイプに属

する職業を求める傾向にあると仮定し

(図2)、六角形の隣り合うタイプは関連

性が高く、タイプ間の距離が離れるほど

心理的距離が遠くなると考えた。現実的

タイプは社会的タイプよりも研究的タイ

プとの関連性が強く、心理的に近い関係

自分と将来の仕事を結びつけて考える場面

Aくんは、将来やりたいことがよくわからないと相談にやってきた。そこ

で先生は、以前に行った職業適性診断の結果から、話を始めてみること

にした。Aくんは「商社の営業」があったというが、それも何だかピンとこ

ないと不満気である。どうやら、なぜその仕事が自分に向いているとい

う結果になったか、よくわかっていない様子。そこで先生は、商社の営業

とはどんな仕事だと思うかと聞いた。すると、「新しいビジネスを見つけ

て、それを売り込む。海外に出て行って活動的に動く仕事らしい」という

答え。そこで、「社会に大きな影響力がありそうな仕事だな」と返してみ

ると、Aくんは満更でもない顔になり、「言われてみれば、何か大きなこ

とをやってみたいという気持ちがある」と、自分について語りだした。

自己理解につながる

パーソナリティと仕事を結びつける理論

―ホランドのパーソナリティと環境タイプ論

よくあるこんなケース

『D.E.スーパーの生涯と理論』全米キャリア発達協会著 仙崎武・下村英雄監修 図書文化社、『ホランドの職業選択理論‐パーソナリティと働く環境』John L. Holland著 雇用問題研究会、『その幸運は偶然ではないんです!』J.D.クランボルツ著 ダイヤモンド社、『偶然をチャンスに変える生き方』諸富祥彦著 ダイヤモンド社

進路指導の先には、生徒一人ひとりの生涯にわたる「キャリア」が

あります。そんな視点をもつ教育が、キャリア教育であり、キャ

リアデザイン指導といえるでしょう。その基礎となるキャリア理論

をピックアップしました。後発の理論や診断の

ルーツであり、変化の時代だからこそ重要性が

増すそのベーシックな考え方を、進路指導のさ

まざまな場面で活用してください。

文/清水由佳  

監修/諸富祥彦(明治大学文学部教授)

諸富祥彦先生

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学生学生

子供子供

生活段階  成長    探索   

  確立      

  維持                   解放

年齢5   10   15   20  

25 30 35

40 45 50 55 60 65 70 75 80 85

その他のさまざまな役割

    

  退職        

状況的決定因:間接的‐直接的社会構造歴史的変化

社会経済的組織・状況雇用・訓練学校

地域社会家庭

市民市民市民

家庭人家庭人家庭人

労働者労働者労働者

余暇人余暇人余暇人

学生

子供

個人的決定因気づき態度興味

欲求・価値アチーブメント

一般的・特殊的適性生物学的遺伝

学部・学科調べや仕事調べなど、知識を増やす場面

図1 ホランドの六角形モデル

図2 パーソナリティ・タイプと環境タイプの関連例

図4 ライフ・キャリア・レインボー

B子さんはもともと子どもが好きで、保育園の先生になりたいと言っ

ていた。そのため、保育の専門学校への進学を希望し、進路先となる専

門学校や保育士の仕事を調べ始めた。また、オープンスクールにも参加

し、積極的に情報収集に努めていた。さまざまな情報に触れ、保育の現

場を詳しく知るようになると、子どもたちを取り巻く問題などにも

関心をもつようになってきた。そして、保育園の先生以外の幼児教育

や食育、知育玩具の開発など子どもに関わるさまざまな仕事の情報

も集めだした。次第に、保育園の先生になることだけが目的ではなく、

児童心理学や教育学、栄養学など幅広く学び、将来の可能性を広げ

たいと思い始め、大学進学に向けて受験勉強を始めた。

キャリアは生涯にわたって変化し、

発達するものと包括的に示した理論

―スーパーのライフ・スパン/

ライフ・スペース理論的アプローチ

パーソナリティ・タイプ 環境タイプ

現実的明確で秩序的、組織的な操作を伴う活動を好む。体感を大切にして、手先を使うことを好む。

機械を使う、物を扱う、動物に触れる、物を作る、運転する、身体を動かす(職業例)エンジニア、運転手など

研究的物事の観察、分析、研究などの活動を好む。独立志向が高く、自分の意思を明確にもっているタイプ。

研究する、調査する、情報を集める(職業例)研究者、調査員、薬剤師、ゲームクリエイターなど

芸術的芸術的な物・事の創造や、それに伴う活動を好む。繊細で感受性が強く、束縛を嫌う傾向がある。

創作する、表現する、デザインする、感性を生かす(職業例)デザイナー、俳優、音楽家など

社会的他者と一緒に物事を行うことを好む。興味・関心の対象が「人」。社会的活動に熱心なタイプ。

人と接する、人に教える、人を援助する、人を支える(職業例)教師、医師、看護師、警察官、カウンセラーなど

企業的組織目標の達成や経済的利益をもたらす活動を好む。リーダーシップを発揮し、外交的なタイプ。

企画する、管理する、リーダーシップを発揮する、指導する、運営する(職業例)会社社長、店長、政治家など

慣習的データの具体的、秩序的、体系的操作などを好む。規律正しさや計画性、実利的なことを好むタイプ。

正確に処理する、計算する、物を整理する、反復作業をする、定型的な作業をする(職業例)事務員、税理士など

 「教師になりたい」という夢がかない、仕

事をしていくなかでまた新たにやりたいこ

と、実現したいことが生まれ、それに邁進

する。そんな先生方が実感しているよう

に、キャリアは固定のものではなく、生涯

にわたって変化し発達していくものとして

包括的な理論を提唱してきたのが、ドナル

ド・スーパー(D

onald E. Super

)である。

 

スーパーが多くの研究者にも影響を与

えてきた理論の基本は、「ライフ・スパン/

ライフ・スペース理論的アプローチ」。キャリ

ア発達を「時間」の視点からとらえた「ラ

イフ・スパン」と、「役割」の視点からとらえ

た「ライフ・スペース」という2つの次元をも

よくあるこんなケース

 

ただし、これらは固定的なものではな

く、「人の行動はパーソナリティと環境との

交互作用によって決定される」ので、自分

のパーソナリティ・タイプと異なる環境の

なかでも、その環境に適応するため変化

する場合が考えられる。例えば、興味をも

った職業がパーソナリティ・タイプとは遠い

という診断結果でも、その仕事に挑戦し

て頑張っていると、パーソナリティ・タイプが

しだいに変化することもありえるのだ。

 

だからこそ、進路指導では、アセスメント

の結果だけに固執するのではなく、いかに

興味・関心の幅を広げる経験の機会を提

供し援助するかも重要になるといえるだ

ろう。

図3 パーソナリティ・タイプの発達図式(出典:Holland,1985)

研究的

社会的

現実的

企業的

慣習的 芸術的

『キャリア・コンサルティング 理論と実際 3訂版』木村周著 雇用問題研究会、『新版 キャリアの心理学‐キャリア支援への発達的アプローチ』渡辺三枝子編著 ナカニシヤ出版、

関連書籍紹介

人間

(生得的な資質)

諸活動

諸興味

諸能力

諸傾向

環境

家庭、学校、親戚、友人などは、これらの環境の主となっている型によって、その機会を提供し、強化を行う。

自己概念自己の社会の諸価値の認識環境の影響に対する感受性パーソナリティ特性

(注)発達の順序はふつう、活動から傾向へと進む。しかしパーソナリティ・タイプの形成にはループの矢印で示したような経路も起こりうると仮定される。

(出典:Nevill&Super,1986を一部改訂/『キャリアの心理学』より)

高校生のためのキャリアデザイン入門   2章

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を目指していた人は、わずか2%。ほとん

どの人が、18歳のころには考えてもいなか

った仕事で成功しているというのだ。

 

クランボルツは、学習理論からのアプロ

ーチで、学習し続ける存在としての人がい

かにその学習から行動を変容していくか

を説いている。特に、「個人のキャリアは、偶

然に起こる予期せぬ出来事によって決定

されている事実があり、その偶発的な出

来事を、主体性や努力によって最大限に

活用し、力に変えることができる」と説

き、さらに「偶発的な出来事を意図的に

生み出すように、積極的に行動すること

によって、キャリアを創造する機会を生み

出すことができる」という。つまり、特に意

図していなくても、何かしら行動を起こし

努力していた結果が、キャリアにつながって

いくということ。特に、変化の激しい現代

においては、その時々の努力や経験が結果

的にキャリアにつながっていくという考え

方のほうが現実的ともいえる。

 

同じような考え方の理論を、意思決定

 

早い時期から目標を立て、そのために

頑張ってきた経験をもつ先生は、生徒がキ

ャリアを考える際にも、大きな目標を見つ

け、その実現のために頑張ることが大事だ

と思いがちかもしれない。しかし、実際に世

の中で成功している多くの社会人は、「た

またまこの仕事に巡り合って、頑張ったら

プロセスからアプローチしたのが、ハリィ・ジ

ェラット(H

arry B. Gelatt

)である。ジェラ

ットは、「積極的不確実性」が重要になる

と説いた。「未来は存在せず、予測できな

いものである。それは創造され発明される

ものである」から、合理的で直線的な情報

収集やその判断だけでなく、時には非合

理的・直感的な考え方も含めた意思決定

も必要であると考えた。例えば、古典的

な学習スタイルでもある「左脳」を使った

判断と、イメージ的側面からの「右脳」を

使った判断の全能的アプローチによって意

思決定されることが大切だと説く。つま

り、知識として得られる情報だけでなく、

五感を通じて得られるイメージや感覚も

意思決定には重要であるというのだ。

 

進路指導において、教室内での勉強だ

けでなく、職業体験やさまざまな社会人

との出会い、ボランティアなど、多くの体

験の場を提供していく意味は、そんな全

能的アプローチにもつながるといっていいだ

ろう。

成功した」というケースが少なくない。

 

そのような偶然の出会いの重要性を説

いたのが、ジョン・クランボルツ(John D

.

Krumboltz

)の「計画された偶発性

(Planned H

appenstance

)」である。クラ

ンボルツが成功しているビジネスパーソンに

行った調査では、18歳の時点で今の職業

つ「ライフ・キャリア・レインボー」と呼ばれ

る絵で示している(図4)。人は、そのとき

の場面に応じて、さまざまな役割を演じ

(ライフ・スペース)、キャリアは一生涯を通じ

て発展的に変化する(ライフ・スパン)。

 

さらに、キャリア成熟に向かうことを促

すのに、①将来展望の必要性を自覚する

②意思決定を行う能力がある③情報源

に関する知識や利用方法を心得ている④

キャリアに関する総体的な情報をもってい

る⑤仕事に関する総体的な情報をもって

いる⑥希望する業務に関する詳細な情報

をもっている。という6つの要素があると述

べている。

 

すなわち、情報を得たり経験を積むこ

とによって、人はキャリアのとらえ方や考

え方が変化する。よくあるこんなケースの

生徒のように、高校生の3年間という短

い期間のなかでも、キャリア意識の変化は

十分にありえるのだ。

 

特に、青年期はまさに試行錯誤の時代

社会人や大学生と会ったり、オープンキャンパスに行く場面

Cくんは、高校1年生の夏休みの課題だった職業体験で、たまたま日程が

合った地元の商店街の夏祭りの手伝いをした。何気なく趣味のパソコンで

イラストを描いているという話をしたら、ホームページで夏祭りのレポート

を任された。それが意外に好評を得た。それから個人的に声をかけても

らうようになり、ポスターやチラシ作りをはじめイベント事務局の手伝い

などをして、いろいろな社会人や大学生と話をするようになる。なかで

も地域振興を仕事にする人の話がおもしろくて、自分でも将来そんな

仕事ができると楽しいかもと思うようになった。そんな折、たまたま参加

した大学のオープンキャンパスで、授業で街おこしプロジェクトに参加し

ている大学生の話を聞き、その大学・学部への進学を目指すことにした。

変化の激しい時代だからこそ重要になっている

「たまたま」の出会いを大切にする理論

―クランボルツの計画された偶発性、

ジェラットの積極的不確実性

よくあるこんなケース

である。変化することが悪いことなのでは

なく、その変化の裏で何が起こっているの

かに注目することが、生徒の理解につなが

るといえる。その際、キャリア成熟度の6つ

の要素が、生徒一人ひとりがどのような状

況であるかを把握する枠組みとしても活

用できるだろう。

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