生徒のモチベーションを 高める理論と方策 これら …...Motivation and vision: An...

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生徒のモチベーションを 高める理 論と方 策 [図1]自己決定の段階性 3 2 無動機 自己決定度合: とても低い 「英語を勉強する 意味なんてない」 ・能力に対する 自己評価の低さ ・価値観の欠如 ・手がかかる状態 外的調整 自己決定度合: 低い 「英語を勉強 しなきゃいけない」 ・報酬や罰で 動く状態 ・権威に従順 ・置かれた環境に 反発 取り入れ的調整 自己決定度合: やや低い 「英語ができる って思われたい」 ・承認欲求の ために動く状態 ・高いプライド ・恥への恐れ ・自己関連性に 敏感 同一視的調整 自己決定度合: やや高い 「将来、英語を使える ようになりたい」 ・自分にとっての 重要性を 認識した状態 ・どんな価値が あるのか意識 ・自己肯定的 ・目標志向 統合的調整 自己決定度合: 高い 「英語を学び 続ける人でありたい」 ・「自分」を持って いる状態 ・個人の価値観と 言動が一致 内発的調整 自己決定度合: とても高い 「英語を学ぶことに やりがいを感じる」 ・関心が高い状態 ・楽しさを追求 ・あふれる満足感 支配的な動機づけ 自律的な動機づけ パフォーマンスが発揮されず 状態も悪い 無動機 内発的動機づけ 外発的動機づけ パフォーマンスが 発揮され状態も良い 英語教育に応用できる 動機づけ理論と枠組み 心理学における「動機づけ」は、 「学習理由」「目標」「志向性」「努力す ること」「継続させること」などのさ まざまな概念から構成されていま す。さまざまな動機づけの理論と 枠組みを知ることで、動機づけの 観点から、自分の生徒を深く観察・ 分析できるようになり、また、自分 の教授法を「生徒を動機づける」と いう視点で振り返り・修正すること が可能となります。 「動機づけの方法」に関し知りた い先生は多くいらっしゃると思いま す。しかし、その前にまず現状分析、 つまり、自分のクラスの生徒を深く 分析することが必要です。動機づ けは、「学習者要因」「個人差要因」 と捉えられており、対応の仕方は、 生徒の「学習理由」、「目標」、「志向 性」の種類や、「動機づけの高低」な どによっても変えていく必要性があ ると考えられます。 ここでは、言語教育で応用可能 な動機づけの理論をいくつかご紹 介します。 自律を軸とした 動機づけ理論 DeciとRyanによって1985年に 提唱された心理学の理論です。こ の理論は、大きく分けて二つのこと を説明しています。一つ目は、人が ある行為をする理由(目標志向性)。 二つ目は、一つ目の理由の中で、よ り内発的な種類の動機づけを高め る三つの心理的欲求に関する枠組 みです。 図1を見てください。学習者の動 機づけ(目標志向性・学習理由)は、 六つに分けられています。この図で は、右から左に進むにつれて、その 行為に対する自己決定度合いが弱 くなることが表されています。つま り、左の方へ行けば行くほど、周り の環境や他者からの介入によって 決定される、つまり「自律的ではな い」目標志向であるとされています。 一番右の動機づけは、「内発的動 機づけ」であり、他人から強制され るわけではない内的な感情により学 習するというものです。内的な感情 とは、 「好き」「楽しい」「うれしい」「ワ クワクする」などです。この内発的 動機づけを持つことは、他者や環 境により心理状態がコントロールさ れるのではなく、自らの感情により 学習という行為を決定していること になります。ですので、より良い学 習効果やより高い満足度が期待で きます。その次の「統合的調整」は、 自分の目標が自己の中にある価値 感や目標と一致している状態です。 また、三つ目の「同一視的調整」は 将来的に自己の成長にとって重要で あるということを認識できるために 学習をする状態です。この「統合的 調整」、「同一視的調整」も自己決定 の度合いが高く、質の高い学習効 果を生み出すと考えられます。四 2019年度の巻頭特集は『英語教育の骨格をつくる』をテーマに、「音読(春号)」 「ペアワーク(夏号)」「フィードバック(秋号)」に焦点を当ててきました。 これらをうまく成り立たせる土台となるのが「生徒のモチベーション」です。 そこで今号では、動機づけに関する理論・方策・実践例と、 アドバイジングの手法についてご紹介します。 イラスト_中井涼 自己決定理論(Self-Determination Theory) 言語教育における学習者の心理 Theory Part 1 1 監修・執筆  マキュワン麻哉 先生 早稲田大学教育学部専任講師。外国語教育学博士。 関西大学大学院外国語教育学研究科修了後、博士研 究員としてカナダ・アルバータ大学心理学科で言語 教育における動機づけ研究を行う。2015年より現 職。言語教育における心理的要因に焦点を当てて研 究を続けており、論文・著書多数。 出典:※2を元に作成。日本語訳:アルク教育総合研究所 まずは、動機づけに関する数々の研究の中から 英語教育に応用可能な理論をご紹介いただきます。

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

[図1]自己決定の段階性

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無動機

自己決定度合:とても低い

「英語を勉強する意味なんてない」

・能力に対する 自己評価の低さ・価値観の欠如・手がかかる状態

外的調整

自己決定度合:低い

「英語を勉強しなきゃいけない」

・報酬や罰で 動く状態・権威に従順・置かれた環境に 反発

取り入れ的調整

自己決定度合:やや低い

「英語ができるって思われたい」

・承認欲求の ために動く状態・高いプライド・恥への恐れ・自己関連性に 敏感

同一視的調整

自己決定度合:やや高い

「将来、英語を使えるようになりたい」

・自分にとっての 重要性を 認識した状態・どんな価値が あるのか意識・自己肯定的・目標志向

統合的調整

自己決定度合:高い

「英語を学び続ける人でありたい」

・「自分」を持って いる状態・個人の価値観と 言動が一致

内発的調整

自己決定度合:とても高い

「英語を学ぶことにやりがいを感じる」

・関心が高い状態・楽しさを追求・あふれる満足感

支配的な動機づけ 自律的な動機づけ

パフォーマンスが発揮されず状態も悪い

無動機 内発的動機づけ外発的動機づけ

パフォーマンスが発揮され状態も良い

英語教育に応用できる動機づけ理論と枠組み

 心理学における「動機づけ」は、「学習理由」「目標」「志向性」「努力すること」「継続させること」などのさまざまな概念から構成されています。さまざまな動機づけの理論と枠組みを知ることで、動機づけの観点から、自分の生徒を深く観察・分析できるようになり、また、自分の教授法を「生徒を動機づける」という視点で振り返り・修正することが可能となります。 「動機づけの方法」に関し知りたい先生は多くいらっしゃると思います。しかし、その前にまず現状分析、つまり、自分のクラスの生徒を深く分析することが必要です。動機づけは、「学習者要因」「個人差要因」と捉えられており、対応の仕方は、生徒の「学習理由」、「目標」、「志向性」の種類や、「動機づけの高低」などによっても変えていく必要性があると考えられます。 ここでは、言語教育で応用可能な動機づけの理論をいくつかご紹介します。

自律を軸とした動機づけ理論

 DeciとRyanによって1985年に提唱された心理学の理論です。この理論は、大きく分けて二つのことを説明しています。一つ目は、人がある行為をする理由(目標志向性)。二つ目は、一つ目の理由の中で、より内発的な種類の動機づけを高める三つの心理的欲求に関する枠組みです。 図1を見てください。学習者の動機づけ(目標志向性・学習理由)は、六つに分けられています。この図では、右から左に進むにつれて、その行為に対する自己決定度合いが弱くなることが表されています。つまり、左の方へ行けば行くほど、周りの環境や他者からの介入によって決定される、つまり「自律的ではない」目標志向であるとされています。

 一番右の動機づけは、「内発的動機づけ」であり、他人から強制されるわけではない内的な感情により学習するというものです。内的な感情とは、「好き」「楽しい」「うれしい」「ワクワクする」などです。この内発的動機づけを持つことは、他者や環境により心理状態がコントロールされるのではなく、自らの感情により学習という行為を決定していることになります。ですので、より良い学習効果やより高い満足度が期待できます。その次の「統合的調整」は、自分の目標が自己の中にある価値感や目標と一致している状態です。また、三つ目の「同一視的調整」は将来的に自己の成長にとって重要であるということを認識できるために学習をする状態です。この「統合的調整」、「同一視的調整」も自己決定の度合いが高く、質の高い学習効果を生み出すと考えられます。四

2019年度の巻頭特集は『英語教育の骨格をつくる』をテーマに、「音読(春号)」「ペアワーク(夏号)」「フィードバック(秋号)」に焦点を当ててきました。これらをうまく成り立たせる土台となるのが「生徒のモチベーション」です。そこで今号では、動機づけに関する理論・方策・実践例と、アドバイジングの手法についてご紹介します。

イラスト_中井涼

自己決定理論(Self-Determination Theory)

言語教育における学習者の心理TheoryPart 1

1

監修・執筆 マキュワン麻哉 先生

早稲田大学教育学部専任講師。外国語教育学博士。関西大学大学院外国語教育学研究科修了後、博士研究員としてカナダ・アルバータ大学心理学科で言語教育における動機づけ研究を行う。2015年より現職。言語教育における心理的要因に焦点を当てて研究を続けており、論文・著書多数。

出典:※2を元に作成。日本語訳:アルク教育総合研究所

まずは、動機づけに関する数々の研究の中から英語教育に応用可能な理論をご紹介いただきます。

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※3 Dörnyei, Z. (2009). The L2 motivational self system. Motivation, language identity and the L2 self, 36(3), 9-11.※4 Dörnyei, Z., & Chan, L. (2013). Motivation and vision: An analysis of future L2 self images, sensory styles, and imagery capacity across two target languages. Language learning, 63(3), 437-462.※5 Papi, M. (2010). The L2 motivational self system, L2 anxiety, and motivated behavior: A structural equation modeling approach. System, 38(3), 467-479.※6 Dörnyei, Z. (2018). Motivating students and teachers. In Liontas, J. I. (Ed.), The TESOL encyclopedia of English language teaching (Vol. 7; pp. 4293-4299) . Alexandria, VA: TESOL.

[図2]自己決定理論:心理的欲求の満たし方(例)

生徒に有益なフィードバックを与える

ことで満たされる

学び合える教室環境を整えることで満たされる

有能性Competence

関係性Relatedness

3つの心理的欲求

自律性Autonomy

生徒の選択肢を増やすことで満たされる

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

つ目は「取り入れ的調整」といわれ、他者の存在により自分の中に「罪悪感」や「劣等感」を感じる場合に起こる動機づけです。つまり「クラスではこのくらいできないと恥ずかしい」など、他者の存在を意識することで生まれる感情により学習を決定している状態です。五つ目の「外的調整」は、まさしく外的な環境における報酬や罰に対応するための動機づけです。つまり「〇〇大学に入るには、英語の点数を○○点まで上げないといけない」という感情により学習という行為を決定している状態です。最後の「無動機」は、まさに「なぜ学習しているのか全く分からない」という、その行為に対しての動機づけが「無」の状態を表します六つの志向性に関しては※1※2を参

照。前述のとおり、学習者の目標志向性が右に行けば行くほど、学習場面においてより自己決定されているということで、良い効果が期待できます。これらの目標志向性は学習者の中で明確に分けられるわけではなく、学習者によっては、学習理由が二つにまたがるパターンも見られます。

動機づけに影響する三つの心理的に欲求

 図2では、内発的動機づけやより自己決定度合いが高い動機づけ

(統合的調整、同一視的調整)をど

ゾルタン・ドルニェイによる第二言語に関する理論

 L2 Motivational Self System とは、動機づけ研究の第一人者であるゾルタン・ドルニェイが提唱した枠組み※3 で、第二言語(以下L2)使用者としての「理想自己」、L2使用者としての「義務自己」、L2に関する学習経験から言語学習者における動機づけプロセスを説明しています。 L2使用者としての理想自己とは、L2話者としてのなりたい理想の自分のこと。例えば、「自分が英語母語話者のように話せるようになると想像ができる」というようなポジティブな自己像を指します。 L2使用者としての義務自己は、L2話者としてならなければいけない自分、もしくは、こうはなりたくない自分から発生します。例えば、

「両親をがっかりさせないように英語を勉強するべき」というのは義務自己に当てはまります※4。 多くの研究でL2使用者としての理想自己を持つことは、その後の英語学習効果に良い影響を与えるとされています。例えば、ある研究では、L2使用者としての理想自己を持つことはL2使用不安を下げるのに対し、L2使用者としての義務自己は、L2使用不安を上げるという結果が出ています※5。 それでは、どのような方法で理

う伸ばすかという点に焦点を当て、三つの心理的欲求を紹介しています。自己決定理論では、これら三つの心理的欲求を満たすことで内発的動機づけや自己決定度合いがより高まるといわれています※2。 「自律性」は自分の学習行為において関連する事項を自ら決定したいという欲求、「有能性」は学習において求められる目標やレベルを達成できることへの欲求、「関係性」は学習環境の中で関わる人たちと良い関係でいたいと思う欲求です。 具体的に、英語教師がどのような方法で学習者の心理的欲求を満たすことができるのか、一つずつ例を挙げたいと思います。 まず「自律性」の欲求を満たすには学習者が学習に関して自ら決定できるように、授業中の目標やタスクに関して選択肢を増やすということが

想自己を持つことができるのでしょうか? ドルニェイ氏は、より明確な将来像を描写するためにいくつかのステップを紹介しています※6。 それによると、まず生徒が「L2話者としてどのような人物になることができるか」、そして「L2を使用できるということが、彼らの生活にどのようなビジョンをもたらすことになるのか」という視点で、学習者がより望ましい将来像を思い描けるようにサポートすることが大切です。

その上で、より明瞭で緊急性の高い「なりたい自分」を見つけることをサポートし、自己像のイメージをより強固なものにさせて、ビジョンをさらに強めることが重要だとしています。 その他ドルニェイ氏は、実現可能である自己像を描かせること、そのビジョンを実行するためのプランを具体的に立てさせること、などを挙げています。

L2 Motivational Self System2

出典:※2を元に作成。日本語訳:アルク教育総合研究所

挙げられます。例えば、リーディングの時間に、生徒にいくつかの選択肢の中から、自分の興味・関心に合った読み物を選ばせるのも一つの方法です。 「有能性」の欲求を満たすには、どのようにしたら現状よりも良くなるのかフィードバックを与えることが挙げられます。例えば、「もう一つ上のレベルに到達するには、○○と△△にチャレンジしてみるといいですよ」というような具体的で明確なコメントを出すことです。 最後に「関係性」の欲求を満たすには、教室環境全体に気を配り、教員と生徒、生徒同士のより良い関係性を構築することが挙げられます。生徒同士が助け合い、お互いにコメントを出し合えるようなよい関係を築けるようにサポートしましょう3欲求に関

しては※2を参照。

※1 Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). The general causality orientations scale: Self-determination in personality. Journal of research in personality, 19(2), 109-134.※2 Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford Publications.

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[図3]Willingness to Communicate

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

Layer 1

Layer 2

Layer 3

Layer 4

Layer 5

Layer 6

コミュニケーション行動

行動の意志

状況的要因

動機傾向

情動的・認知的 コンテキスト

社会的・個人的 コンテキスト

1L2使用

2Willingness to Communicate

3特定の相手と

コミュニケーションをする意志

5対人接触動機

8対グループへの態度

11グループ間の関係

12性格

9その場の社会的状況の認知

10コミニカティブ・コンピテンス

6対グループの接触動機

7自信

4その場での

コミュニケーションの自信

失敗を改善できるものと捉える帰属理論とは?

学習者の第二言語使用の要因を示す理論

  図 3は、1998年 にMacIntyreらによって提唱された理論的枠組み※7で、第二言語使用(実際のコミュニケーションを取る行動)にたどり着くにはどのような要因が必要なのを示しています※7。三角形の頂点を見てみると、第二言語を使用したコミュニケーション行動が目標であると分かります。第二層には、その目標に影響を与える要因として、第二言語を使用してコミュニケーションを取ろうとするwillingness(意志)が挙げられています。第三層で

は、その意志(第二層)を高めるために、その状況下での要因が二つ

(特定の相手とコミュニケーションをする意志とその場でのコミュニケーションの自信)あることが分かります。第四層では第三層に影響を与える要因が3種類挙げられており、対人や対グループ間でのコミュニケーションを取る際の動機に言及しています。第五層では、それらを支える情意や認知面の状況・状態、第六層では、それら全体の要因を支える個人的・社会的な要因が挙げられています。 この図の右側を下から上に見ていくと、個人差要因である性格が

土台となり、その上に第二言語使用の能力や自信などの学習者(個人差)要因があることが分かります ※8。その反対の左側を下から上に見ると、社会・文化的背景や環境から影響を受ける要因があり、その中には異文化に対する態度、異文化に関わりたいと思う動機、対人、対グループ間でのコミュニケーションを取ろうとする意欲などがあることが分かります。そして最終的には、個人差要因と、社会・文化的背景や環境などが影響する要因とが複雑に絡み合って、第二層のWillingness to Communicate(自発的にコミュニケーションを取る意

生徒の「言いたい気持ち」を引き出す

『即興スピーキング!』(学校専売品)

本記事の最後に扱った “Willingness to Communicate” の枠組みを踏まえ、著者の本多敏幸先生が中高での指導経験を生かして作り上げた授業用テキストです。対人・対グループ間でのコミュニケーションを活性化させ、生徒の能力や自信を高める仕掛けが満載で、Spoken Interactionの実践に最適です。

アルク学参シリーズのご紹介

まずは生徒を深く観察すること

 「生徒の動機づけの仕方が分からない」という悩みをお持ちの先生は少なくないと思います。しかし、取り扱っている内容・授業形態などによって、生徒一人一人の動機の強さ・種類が変わってきます。また動機づけは安定しているものではないので、同じ生徒でも、時間の経過とともに変わっていくものです。やはり、その時、その環境にいる学習者を深く観察し、今回ご紹介したような理論に当てはめて考え、学習者個人の動機づけを分析することが必要です。そうすることで、自分の生徒へのより適切な動機づけ方法に気づくことができるのではないでしょうか。

 帰属理論(Attribution Theory)は、社会心理学の分野でよく利用されている理論です。自身の行動の結果、成功する場合もあれば失敗する場合もありますが、それらの原因を行動者がどう認知しているかを説明するものです。例えば、失敗したのは「自分の努力不足である」という内的なものに起因させる場合もあれば、「教員のサポート不足」や「学習環境が悪かった」など外的なものに起因させる場合もあります。この理論は、第二言語習得の場面で頻繁に利用されているわけではありませんが、これらを利用して、学習者の第二言語使用に関する成功体験や失敗体験への認識を分析することができます。

Column

Willingness to Communicate(WTC)3

※7 MacIntyre, P. D., Clément, R., Dörnyei, Z., & Noels, K.A. (1998). Conceptualizing willingness to communicate in a L2: A situational model of L2 confidence and affiliation. Modern Language Journal, 82, 545-562.※8 八島智子. (2003). 第二言語コミュニケーションと情意要因:「言語使用不安」 と 「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」 についての考察. 外国語教育研究、81-93.※9 Yashima, T. (2002). Willingness to communicate in a second language: The Japanese EFL context. The Modern Language Journal, 86(1), 54-66.※10 八島智子. (2001). 「国際的志向性」 と英語学習モーティベーション―異文化間コミュニケーションの観点から―. 外国語教育研究、33-47.※11  Cao, Y. (2011). Investigating situational willingness to communicate within second language classrooms from an ecological perspective. System, 39(4), 468-479.

志)につながっていくのです※8。

WTCに影響を与えるもの

 日本人大学生を対象とした研究によると、国際的志向性と第二言語を使用してコミュニケーションを取る自信がこのWillingness to Communicate に影響していることが明らかになりました※9。この国際的志向性とは、国際語としての英語を使用して、国際的に活動したり、その文化に触れたりしたいという日本人の英語学習者が持っている志向性だとされています※10。 また、別の研究では、Willingness to Communicateに影響を与える要因として、コミュニケーションを取る場面でのトピック、タスクタイプ、グループ構成や教員の介入なども挙げています※11。

教室やグループを一つの社会・文化と捉える

 WTCのモデルは、一見教室場面とは関係のない要因もあるように思えますが、そうではありません。教室という単位、もしくは学習者同士で形成されたグループを、一つの社会・文化と考えると、この理論的枠組みは教室場面に応用することができるのです。

出典:※3を元に、日本語訳に八島智子著『外国語コミュニケーションの情意と動機』(2004年・関西大学出版部)を参照して作成。

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

生徒のモチベーションを高める英語指導ストラテジー  モチベーショナル・ストラテジーの理論と実践

MethodPart 2

⓿意欲を引き出す基本的環境設定

執筆 和田 玲 先生

順 天 中 学 校 ・ 高 等 学 校 教 諭 。 ロ ン ド ン 大 学 クイーンメアリー修士課程修了(応用言語学 w i t h Distinction)。「高校英語授業におけるモチベーショナル・ストラテジーの効果」に関する教室実証研究論文を執筆。著書に「アクティブ・リーディング」シリーズ(アルク)など。元テコンドー全日本チャンピオン、世界大会メダリストでもある。

なぜ今、動機づけが必要か?

 近年、優れた指導方法や活動アイデアがたくさん提案されています。しかし、「生徒が授業に乗ってこない」と頭を抱える先生は少なくありません。毎年実施される文部科学省の英語力調査によると、高3生・約70万人のうち、「英語学習が好きでない」と答えた生徒が半数以上にも上っています。また、同調査参加者の85%の英語発信力はCEFR A1(最初級者)レベルにとどまり、家庭学習時間が少ないことも明らかとなっています。有効な指導法の実践と同時に、生徒の学習意欲を高める動機づけのアプローチが今こそ必要です。

モチベーショナル・ストラテジーとは?

 「生徒の意欲を刺激し、引き出す指導技術」のことをモチベーショナル・ストラテジー(以下MS)と呼びます。MSは多様で有効な技術ですが、どんなクラスでも等し

 MSはどんな生徒にも有効な万能薬ではありません。その効果を引き出すためには、以下の条件を十分に満たす必要があります。「適切な教師の振る舞い」、「楽しく支持的な教室ムード」、「規範の浸透と集団凝集性の強化」です。

く効果を発揮するとは限りません。意欲は、時と場面に応じて変化するからです。従って、MSの効果を最大限に引き出すには、意欲の流動的性質に基づくMSの理論的枠組みを理解し、状況に適した指導法を取り入れることが大切です。 動機づけ研究の世界的権威ゾルタン・ドルニェイ先生が体系化したMSの理論的枠組みによると、意欲には以下の発達段階があります。⓪基本的環境設定、①意欲の喚起、②維持、③発展(ポジティブな自己イメージの促進)です。この段階的モデルは、生徒のやる気を引き出す環境基盤を構築し、その上で意欲喚起を図ることの重要性を示唆しています。しかし、一度喚起された意欲は時の経過とともに減退します。従って、生徒が夢中で取り組める活動を仕掛け、意欲を維持することが大切です。また、生徒の取り組みに適切なフィードバックを与え、英語話者としての肯定的イメージを強化することも、次の課題への挑戦意欲を育む上で重要です。以下、各段階ごとに有効なMSの一部を見てみましょう。

これらは、農業で例えれば、種まきの前に大地を耕す作業に似ています。地を耕す準備の段階がなければ、植物が豊かに育つことはありません。故に、動機づけを考える際に最も重視すべき段階がこの基本的環境設定なのです。

監修 Zoltán Dörnyei(ゾルタン・ドルニェイ)先生

英国ノッティンガム大学教授。専門は、応用言語学。外国語学習における動機付け研究の第一人者。著書にMotivational Strategies in the Language ClassroomやMotivating Learners, Motivating Teachers (Cambridge University Press)など多数。

⓪意欲を引き出す基本的環境設定

②意欲を維持する段階

③意欲を発展させる段階(ポジティブな自己イメージの促進)

①意欲を喚起する段階

適切な教師の振る舞い

 生徒の活発な学習行動を促すには、教師・生徒間の信頼関係構築努力が不可欠です。それには、教師が生徒の成功に期待を寄せ、進歩を支援し、いつでもポジティブに生徒たちを「受容」する姿勢が欠かせません。また、教師の教科や指導への情熱も生徒のやる気に大きな影響を及ぼします。

Methods

●生徒が成長した姿を信じる(教師の期待度が生徒の学習成果に影響を与えることを指す「ピグマリオン効果」を意識する)

●生徒の好ましい性質や努力を認識していることを伝える●教科愛を示す(いかにその教科が好きか、価値ある教科であ

るかを表現する)

教室実践例

 「受容」することの重要性を知りつつも、やはりどのクラスにも教師が指導しづらい生徒はいるものです。そうした生徒に関しては、ついネガティブな側面ばかりを見てしまいがちで、次第に心的距離は広がっていきます。そのような状態を避けるために、新年度早々、私が実践することは、クラスの全生徒の長所を具体的な場面とともに五つ以上言えるようにすることです(担任クラスの場合には1カ月以内に10個以上)。それができるまでは、決してネガティブなイメージを固定化しないと決意します(もちろん必要な指導は適宜入れます)。そうすると、不思議なことに、上の目標が達成できる頃には、関係づくりに困難を感じていた生徒も含めて、そのクラスの全ての生徒が好きだとはっきり言える自分ができ、クラス全体もポジティブな状態に変化していることが多いのです。ポイントは、「君は価値ある存在だ」「君には独自の力がある」「君は他者に貢献することができる人だ」とはっきり言えるように取り組むことです。

※1 上記の班作りの方法は、畑中豊先生から教えていただいたやり方です。『英語授業マネジメントハンドブック』(明治図書出版)参照。 ※2 クラスルール作りとその重要性に関しては、胡子美由紀先生から多くを学ばせていただきました。『英語授業ルール&活動アイデア35』(明治図書出版)参照。

1 2安心で支持的なクラスムードの構築

 英語の授業では、生徒が安心して学習に取り組めるクラスムードが欠かせません。不慣れな言語でやり取りすることを求められる教室には、生徒の言語不安や意欲の減退を引き起こす危険性が大いにあるからです。しかし、クラスに楽しく支持的なムードが浸透していれば、生徒はリスク・テイキングを厭わなくなります。そのようなムードの醸成は、集団の結束性と建設的な集団規範の有無に大きく左右されます。

Methods

●誤りは言語習得上不可欠な進歩の証しであることを強調し、歓迎(許容規範の共有)、リスク・テイキングを奨励する

●互いを知る機会を増やす●共通ゴールを設定し協働を促す(グループ間競争も時に有効)●クラス・ルールを明確に示す

教室実践例

 安心で支持的なクラスムードを浸透させるためには、初めてのグループ作りを慎重に行う必要があります。無作為な班作りは、授業停滞の要因になり得るからです。初めての班決めの際には、生徒たちとグループの在り方についてクラス全体で話し合う時間を設けます。生徒たちには、リーダーに求める資質と班員のあるべき振る舞いについて話し合ってもらいます。出てきた意見を収集し、共通点を多く含む考えをそのクラスのコミュニケーション・ルールとするのです。その後、生徒たちにはリーダーになってもらいたい仲間の名前を数名ずつ紙に書いてもらい、回収。その日はそこで終了。次の授業までに、リーダー候補に選ばれた生徒たちを集め、リーダーを引き受けてもらえるかを尋ねます。次時にグループを組む際、リーダーには班員を迎えに行かせ、班員たちには握手をしながら一言ポジティブな言葉を贈ってもらうようにします(「一緒に最高の班を作ろう」、「貴方についていきます」など)※1 。その後は、毎時間、黒板にルールを貼っておき、規範の浸透と集団凝集性の強化を図ります※2。

StrategyStrategy

生徒のやる気を引き出すために、日々の授業の中でどのような工夫ができるのか、ご紹介いただきます。

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

生徒の自己関連性を引き出す

 生徒たちの将来の目標や関心のあるトピックを可能な限り授業や教材に取り入れることは、意欲の喚起に役立ちます。それには、生徒の持つ関心・経験・ニーズを知る手だてが必要です。さまざまな角度から生徒理解に努め、自己関連性を引き出す授業デザインを試みることが、意欲の喚起につながります。

Methods

●自分を描写するライティング課題を出し、生徒理解に努める●文完成型アンケートを行う(「私がハマっていることは…」、「私

が怖いのは…」、「人がすべきだと思うことは…」など)●生徒が英語に触れる場面や将来の英語使用場面を調査する

教室実践例

 ニーズ分析(necessities, lacks, wants)に基づくシラバス作りや教材開発は、生徒の意欲喚起に大きな影響を与えます。高3クラスでニーズ調査を行い、生徒の関心(特に wants に着目した)に沿ったテーマの入試問題を集めてリーディング教材を作り、独自のシラバスに基づいて授業を行ったことがありました。教材は、global issuesを概観するような内容となり、環境の問題(エコ商品、エコ改築、絶滅危惧種、エコツアー)から始まり、国際問題(地雷、難民、飢餓、格差)へと発展します。最後は、「世界のためにできること」という卒業プレゼンをゴールに据え、その間にも問題解決に尽力する人物や団体を紹介した英文を読ませていきました。授業では、英文読解に終始せず、概念的葛藤を生み出す発問を投げて理解の深化を図り、世界の問題がわれわれの生活と密接に関係していることを認識させました。この授業は、生徒の内発的動機を強く刺激し、受験直前期にもかかわらず、休憩時間に関連書籍を読みふける生徒や希望進路の変更を本気で相談しにくる生徒を多く産み出したのです。これが、拙書『アクティブ・リーディングSuper』(アルク)の原型です。つまり、ニーズ(とりわけ wants)に目を向け、自己関連性を引き出す試みは、意欲あふれる教室作りの第一歩なのです。

※3 本多敏幸先生から教わった活動です。『到達目標に向けての指導と評価』(教育出版)参照。 ※4 グループによる協同的リーディング活動。班員に異なる英文を読ませ、担当箇所を説明させたり、異なる情報を見つけさせたりします。※5 自己決定理論がこのことを強調しています。本誌2ページを参照。

❷意欲を維持する段階

 意欲が一度喚起されたとしても、それを維持する働き掛けがない場合、意欲は次第に減退します。意欲を維持させるには、興味深いタスクを提示して、生徒主体の学習ムードを促すことが不可欠です。教師が「生徒にイニシアチブを委譲するタイミング」と言い換えてもよいか

もしれません。生徒のengagement(夢中になって取り組む姿勢)を高めるタスクには、いくつかキーとなる要素があります。その要点を押さえたタスクを導入し、協同と自律を促す指導を組み込むとより効果的です。

❶意欲を喚起する段階

 全ての生徒が意欲にあふれ、いつでも活発に学習に取り組んでいる理想的なクラスに恵まれることはまれです。カリキュラム内容の多くは、社会で大切だと思われている事柄に照らして構成されており、生徒の興味に基づいて作られたものではないからです。それが、生徒たちに

授業での学習内容に価値を見いだしにくくさせている要因ともなっています。従って、教師は、生徒の学習意欲を高める必要があるのです。それには、活動に対する生徒の

「成功期待」を高める工夫や、教材内容を生徒の「自己関連性」の高いものにするといった手だてが有効です。

自律を促す

 意欲の前提は、選択の自由にあります※5。選択には責任が伴います。故に、生徒の選択を反映した授業の実施(生徒の関心に基づく授業計画、指導展開、教材選びなど)は、彼らの自律的行動を促します。自律型学習スタイルの導入に不安を感じる場合は、生徒の自己決定場面を徐々に増やしていくとよいでしょう。初めは選択肢を与え、やがて修正案や代替案を考えさせる。最終的には自分たちの学習目標や方法を全て決めるよう仕向けます。これは日頃の学級活動でも実践されるべきであると考えます。 その際、教師の役割(teacher role)を意識することも重要です。単なる「知識教授者」ではなく、「自律支援者」(facilitator)でなくてはなりません。これには三つのモードがあります。階層的(教師が学習過程を方向づけ、重要な決定もする)、協同的(責任と権限を共有し、多様なやり方を奨励して自律を促す)、自律的(全て生徒たちの判断に委ねる)モードです。意欲の維持には、これら三つの使い分けが重要です。

3 54 6

7Strategy

成功期待を高める

 生徒がベストを尽くすのは、自分にはそれが「できる」と信じられるときです。とりわけ、難しい課題に取り組む際には、成功可能性が生徒の活動意欲に影響を与えます。実際に一つを達成することで、生徒の成功期待の幅が広がり、次の課題に挑む意欲も高まります。しかし、課題が簡単すぎると手を抜いたり、やる気を減退させたりすることがあるため、タスクはチャレンジングでありつつ、実現可能な範囲内でデザインすることが大切です。

Methods

●成功基準を明確に示す ●準備手順と成功例(モデル)を示す●新しい単元を扱う際には、全員がうまく取り組める課題から

始め、徐々に要求の高い課題を提示する

教室実践例

 新しい単元に入る時には、達成目標項目を全て可視化した1枚のシートを配布します。スピーキング・ライティングテストの際にもルーブリックを配布し、成功基準を明示します。例えば、スピーチ活動では、三つの評価項目を黒板に示し、生徒がその項目に見合うパフォーマンスを効果的に行った際には、その場で黒板にチェックを入れ、評価のプロセスを可視化します。三つの項目とは、Structure (序論、本論、結論)、聴衆からの自然なReaction(「へえ」、「ほぉ」、「わはは」の数を評価)、聴衆のParticipationを促す工夫(質問、クイズ、実験など)です。こうした活動を行う前には、必ず①準備の手順を示し、②教師や先輩によるモデル提示を行います。これによって、生徒は「自分にもできそうだ」と感じ、成功期待を膨らませて、意欲的に活動へ取り組むようになります。生徒の発表後には、ポジティブなフィードバックを与え、次の課題に向かう挑戦意欲を強化します。同時に、聞き手にも何が聴衆の心を捉えるのかを理解させ、自信を持って準備に臨めるよう仕向けます。

興味をそそるタスクを提示する

 タスクは、以下の要素を多く含んでいるほど、生徒の積極的参加を促すのに役立ちます。【(1)挑戦的 (2)面白い (3)真新しい (4)興味深い (5) エキゾチック (6)空想的 (7)個人的 (8)競争的 (9)創作的 (10)ユーモア】といった要素です。これらをより多く含むタスクデザインを心掛けましょう。また、授業でタスクを導入する際には、その課題達成がどのような目的と有用性を持つのかを明示することも大切です(task value)。さらに、課題を達成できるよう、適切な取り組み方を示すことも意欲の維持に影響します。

Methods

●上の10個のキー・エレメントを含むタスクをデザインする●目標スキル強化の目的と有用性を明示する●取り組み方を明示する(手順・モデル提示、有用な既有知識

への気づき促進など)

教室実践例

 「夢の商品販売」プレゼン※3が、毎年生徒に好評です。これは、夢の新商品を考案し、それを1分間で魅力的に伝えるテレビCMを作るタスクです(私のクラスでは通常ペアで行います)。このタスクは、視聴者の心をつかむCMを限られた時間でまとめなくてはならないため、とてもチャレンジングです。空想的要素もあり、有形物の創作を通じて、真新しさと興味深さを追求します。また、良い意味で競争的でもあり、プレゼンには自然とユーモアが加えられます。一連の作業に取り組む生徒たちは常に楽しそう。準備時間を無駄遣いする者はなく、はつらつとした協同の姿が見られます。このように、上のキー・エレメントを多く含んだタスクは生徒の活動を活性化し、発表時まで意欲を高い状態に維持します。他にも、修学旅行直後の発話活動で、名所や物産を説明させる際、単に事物を説明せよと指示するのではなく、体調不良で欠席したA君とB子さんのためのお土産を選ぼうなどと「個人的要素」(personalisation)を加えるだけで議論は活発になります。

協同を促す

 協同的な学びは、生徒同士のインタラクションと互いの学びへの貢献を増幅します。良い意味での相互依存は、支持的な集団ムードと個々の責任感を高め、個性的な貢献が見られるようになります。他の学習形態に比べて不安やストレスが和らぎ、学ぶ意欲が持続します。 協同的な学びには、ゴール達成に他者との協力を要する課題を設定し、班員全員の役割・責任分担を明確にすることがポイントとなります。例えばシグソーリーディング※4は、課題解決に向けて班員の責任と協力を促します。グループ内討議の前に、同じ役割を担当する者同士による助け合いの時間を設ければ、英語が苦手な生徒もグループ内での任務を果たすことができます。自己効力感を高め、学習意欲の維持・向上にもつながります。

Strategy Strategy Strategy Strategy

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

Messages for Japanese EFL teachers from Profressor Zoltán Dörnyei

 In order to develop a working knowledge of a foreign language, learners have to actively engage with the language and have to practice communication in it. This is a point that I believe most language teachers would agree with, but we should also remember that such an engagement is, by definition, a face-threatening task for the students: Because they only have a rather limited amount of language knowledge at their disposal, they constantly face the danger of committing mistakes and thus appearing incompetent in front of their peers. It is no wonder, therefore, that so many of our students feel highly anxious during language classes and, as a result, often decide to ‘play it safe’ by remaining passive or even completely silent. Accordingly, our job as language teachers is not only to teach the new material well but also to offer encouragement to our learners: We need to counter their natural tendency to disengage by finding ways of motivating them to participate in our lessons despite the obvious risks they will have to take in doing so. Luckily, there are many tried and tested tools on our hand to achieve this purpose – techniques that have usually been referred to as ‘motivational strategies’. Research in educational psychology has proved that it is possible to motivate learners through such strategies, and in my book – Motivational Strategies in the Language Classroom※6 – I collected the techniques that I considered most useful for language teachers. It is a real honor that this magazine has decided to feature some of these strategies, and I am genuinely grateful to Rei Sensei for helping to introduce these techniques and to make them accessible to Japanese colleagues. It is the hope of both of us that this selection will serve as an inspiration for language teachers in Japan and that it will convince them that it is worth experimenting with new motivational techniques. In our own experience, both Rei Sensei and I have found that students appreciate the use of motivational strategies, since these methods can make the difficult process of acquiring a new language more interesting and less demanding for them. We have also observed that as students get more motivated, our task as teachers becomes easier and more fruitful. Therefore, I believe it is true to conclude that applying motivational strategies in a language classroom is potentially a win-win solution!

 最後は、英語使用者としての生徒のポジティブな自己イメージを高め、意欲を発展させる段階です。ここでは、教師によるフィードバック(FB)が重要な役割を果たします。ポジティブなFBによって高められた生徒たちの自己効力感は、後に直面する困難に立ち向かう意志と粘り強さを強化します。

MSを教室で活用してみよう

 ゾルタン・ドルニェイ著 Motivational Strategies in the Language Classroom※6には、35のMSが紹介されています。これらをタイプ別に分類すると、【1】教師の談話、

【2】アクティビティー・デザイン、【3】フィードバックに分かれます。ある研究によると、日本の先生方は談話タイプのMSをよく用いる一方、アクティビティーやフィードバック系のMSを

あまり使わない傾向にあるようです。まず、さまざまなMSの存在を知り、可能な限り教室で活用してみることです。三つのMSの種別に照らして、自分の使用MSタイプを点検すると、強みと弱みが見えてきます。このようなMS使用を尺度とした批判的な振り返りの試みは、授業改善の確かな手掛かりをもたらします。また、意欲を高める授業の実現は、生徒一人一人の個性を引き出し、教師にも授業をする喜びと生徒たちへの愛をより大きなものにしてくれるはずです。

世界を読み解く英語リーディング

『アクティブ・リーディング Super』(学校専売品)

本記事の監修者である和田玲先生が、高校での指導経験を生かして作り上げた授業用テキストです。リーディング活動を起点に “英語で” 学ぶ楽しさを実感させ、社会のために行動できる生徒を育む至極の1冊。採用特典の Teacher’s Manual には、生徒の動機づけを高め、世界に対する視野を広げるための指導案や授業用プリントを網羅しています。

アルク学参シリーズのご紹介

❸意欲を発展させる段階(ポジティブな自己イメージの促進)

8 9ポジティブな情報フィードバック

 FBには、二つの区別があります。情報FB(進歩を適切に支援するFB)と管理型FB(外的基準に照らして生徒のパフォーマンスを判断するFB)です。例えば、ある生徒がテストで低い点数を取ったとき、クラス平均と比較して他者との差を強調し、努力の必要性を説くようなコメントは管理型と呼ばれます。一方、その生徒の以前の成果と比較して、長所と短所を明らかにし、客観的に進歩を後押しする助言は情報FBと分類されます。教師が生徒の進歩をモニターし、転機となる出来事を見つけたときには、学級通信や掲示物のような可視化できる物を作って紹介したりなどすると、生徒の充足感は高まり、学習意欲の発展に好影響を与えます。

Methods

●生徒の進歩の過程と集中すべき事柄に対してコメントを与える●生徒の進歩を可視化する ●素早いFBを心掛ける(タイミング)●簡単な課題で褒めない(自尊感情が低くなり逆効果になるこ

とも)

教室実践例

 情報FBの心構えとして、次のことを意識しておきましょう。FBとは生徒に対する「教師の期待」を伝える手段であるということです。故に、われわれがFBを与える際には「期待の焦点」を明確にすることが大切です。例えば、生徒がテストで良い点数を取った時、われわれが「今回は良かったね。その調子だぞ」などと伝えたら、聞こえはいいかもしれませんが、何が良いのかが不明確で、生徒に我 の々期待することを伝えることができません。「今回は、何度も復習を繰り返したことが結果に結び付いたね。その調子だぞ」とすれば、自分の努力の方向性は正しかったと認識し、自信を伸ばします。そして、さらに進歩するために改善点への助言を求めるようになります。このように、FBの成果を高めるためには、日頃から「生徒をよく見る」ことが大切です。彼らの「性質」をつかみ、「期待の焦点」を明確にして助言することが教師の腕の見せどころと言っても過言ではありません。

努力要因に着目したフィードバック

 多くの人が、過去の失敗経験を語るとき、「能力」の問題にしがちです(「自分には言語の才能がない」など)。しかし、能力のせいにすることは、何も利益をもたらしません。一方、「努力」の足りなさを意識する人は、「もっと頑張る」という建設的な意志を抱くことができます。故に、教師は努力要因に焦点を当てたFBを与えることが大切です。

Methods

●失敗は努力と学習方略知識の不足のせいであり、能力不足のためではないことを強調する

●教師の個人的な努力経験をシェアし、類似経験を生徒から引き出す

●成功者の伝記を読ませ、適用可能な要因を語り合う

教室実践例

 努力帰属にまつわるエピソード。私の学校では、朝礼前の10分間は単語集を用いた朝学習の時間。5分で20語を覚えてテスト。担任は結果を記録します。毎朝高得点を狙おうとすれば、予習が必要です。そこで私は、毎週際立つ努力を示した生徒を学級新聞でたたえることにしました。ある月、女子生徒Mがその週のトップに輝きました。Mは暗記が苦手で成績不良が続いていましたが、偶然普段より早く登校した日があり、やることがないため単語の勉強を始めたのです。すると、その日は初の好成績。私は宿題ノートの余白に、その日のMの自主性と努力についてつづりました。それから、事あるごとにMの努力に焦点を当ててコメントを書きました。Mが徐 に々意欲を高めていったある日、隣の席の生徒から「最近始業前から頑張っているね、刺激になるよ」と褒めてもらったそうです。この努力承認がMの心に火を付け、ついに朝学習のトップに輝いたのでした。当然、私は学級新聞に彼女の努力の軌跡を書きつづり、激賞。それを読んだお母さまは喜びで感涙。以来、Mの家では居間に記事が飾られ、事あるごとに娘の努力を家族でたたえるようになったのだそうです。その後、Mが突出した努力の人となったわけではありませんでしたが、朝学習だけは最後まで頑張り続けることができたのでした。

Strategy Strategy

FBの際には、何を対象として行うかが大切です。学習者の「能力」ではなく、「努力」に焦点を当てたコメントを、さらに、パフォーマンスや個人特性に言及するのではなく、生徒の学習の「進歩」を評価し、それを「支援」するコメントを心掛けることが大切です。

※6 訳書は『動機づけを高める英語指導ストラテジー35』(米山朝二・関昭典 訳、大修館書店)。

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

nutritionやfreedom of choiceといったキーワードを交えながら、肉食のメリットを考えるヒントを与える。ただし、先生の側から積極的に声を掛けることはあまりない。大切にしているのは、あくまで生徒たちの自主性だ。

Authenticな授業で実社会を感じさせる

 最後に全員がスピーチと反駁スピーチを1分ずつ行い、ディベートは無事終了。授業の終わりには必ず「振り返り」の時間を設け、生徒たちに感想を書かせている。時にはクラウドサービス「Classi」を通じて

クラス内で共有することもあるそうだ。「他の生徒の意見は、みんな結構面白がって読みますね。それもまた、授業への興味につながっているようです」。 年度末には環境問題に取り組む企業からスピーカーを招き、授業内で話してもらうよう調整中だ。教材を通じて環境問題に関心を持ち、インドネシア・ボルネオ島へのスタディツアーに参加した学生もいる。「学びが実社会とつながっていることを感じられるAuthenticな授業」が、成績や入試だけにとらわれない「学び」そのものへの動機づけに結実している。

should eat less meat. We have two reasons: ①( )and ②( ). First, ... For example, ...” の よ うに英語が印刷されており、空欄部分に主張を書き込むことで論理的なスピーチを組み立てられる。「ただ自由に考えさせるよりも『プリントに書き込む』というタスクを設けることで、より集中して取り組んでくれるように思います。いわばScaffolding(足場掛け)ですね」。 生徒たちは配付資料を読んだりスマートフォンで検索したりしながら、意見をまとめ書き込んでいく。昭和高校では昨年来、BYOD(Bring Your Own Device)の取り組みが進行中だ。「教師の話を聞くよりも自分のスマートフォンで調べる方が自由度が高まり、生徒たちもやりやすいようです」。 話し合いの途中、「主張が思い浮かばない。先生、ヒントを下さい!」と求めるNegative(=肉食肯定派)のグループがあった。木村先生は

Authenticな授業を実現する

『アクティブ・リーディング Super』(学校専売品)

地球環境問題や国際社会問題など、入試頻出テーマに関する長文を精選。「論理把握チャート」を完成させてから本文の要約を行うステップにより、どんな長文でも主旨を正確に把握できるように。各Unitには「発展活動(アウトプットタスク)」も設定されているため、本記事の実践例のように “読み→考え→発信する” 活動が可能です。

アルク学参シリーズのご紹介

BYOD(Bring Your Own Device)の取り組みの様子。授業中に生徒が自身のスマホを自由に使えることが、動機づけにもつながっている

ペアワークやグループワークを取り入れ、即興でのスピーキング、ディベート、ライティングなど多様な活動に挑ませる

合致している。 授業の冒頭に取り入れているのが、ウォームアップを兼ねたミニディスカッション。折しも、見学した日は英語民間試験の導入延期が発表された直後。先生が “So, what do you think of the government's postponing the four-skills tests?”と問い掛けると、生徒たちはペアを組んで活発に意見を交わし始めた。 しばらくして、木村先生は2人の生徒を指名し意見を発表させた。"I think it is good for everyone to postpone the tests because my cousin don't have any access to the test. She lives in Kochi. Kochi have few place, which can ...(発言ママ)”細かな文法ミスを逐一指摘することはないが、生徒がつかえたときは“... (which can) offer tests?"と助け舟を出す。「ちょっと難しいテーマかなとドキドキしましたが、生徒からしっかりとした意見

が返ってきたのはうれしい驚きでした」。普段は学校行事や季節の話題を取り上げることが多いそうだ。

タスクを与えることでより集中して取り組む

 この日の授業の本題は、食糧問題に関するディベート。“People in developed countries should eat less meat.” という命題について、生徒たちをAffirmativeとNegativeのグループに分ける。資料を基にグループで話し合いながら主張をまとめ、短いスピーチとして発表する。最後は相手方の主張に対する反は ん

駁ば く

スピーチを行って終了、という流れだ。これまでに合計6時間、飢餓や食糧問題を取り上げており、ディベートはその集大成といえる。 生徒の意欲を引き出すための工夫が、事前に配布したディベートシート。“We absolutely agree that people in developed countries

学びを深めることが動機づけにつながる

 見学したのは、6年生(高校3年生)の選択科目「英語演習D」。大学入試を意識して長文読解や文法に取り組みながらも、4技能をバランス良く伸ばすことを目指した授業だ。 主な使用教材は『アクティブ・リーディングSuper』(学校専売品、アルク)と『CLIL 英語で学ぶ国際問題』(三修社)。木村明子先生がこれらの教材を選んだ背景には「国際問題への関心を高めてほしい」との思いがある。「学んだことがただ偏差値アップ、受験突破につながるだけでは寂しい。誰かの役に立ち、世界の力になることが分かれば、学びがより深まりますし、生徒たちの動機づけにもつながると考えています」。こうした方針は、グローバルリーダーの育成を目標に掲げ、SDGsに積極的に取り組む昭和女子大学附属昭和高校の教育理念とも

授業におけるモチベーションアップ実践例ReportPart 3

授業中の工夫や声掛けで、いかに授業が活性化し、生徒たちのアウトプットへの意欲(話す・書く)が高まるのでしょうか。動機づけの意識を高く持って授業に挑む昭和女子大学附属昭和高校の木村明子先生の授業をレポートします。

取材・文_いしもとあやこ 撮影_西村法正

積極的な声掛け&疑問出しで知りたい・言いたい気持ちを高める

昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校教諭 木村明子先生

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

まな角度からの情報を得ることで、より的確なアドバイスが可能になるのです。また、生徒にとっては自分自身の学びを振り返り、新たな気づきを得る機会ともなります。 そしてステップ3では、ここまでで得た情報をもとに、いよいよ具体的な学習法を提案していきます。もちろん、思いついたことを並べればいいというものではなく、先生の英語学習に関する知識を総動員することが必要です。 さらにステップ4では、提案した学習法を、より具体的な行動計画に落とし込んでいきます。忙しい日々の中では、教材選択や学習の開始がつい先延ばしになりがち。セッションの最後に「教材はどれを使うか」

「いつから学習をスタートさせるか」「どのようなペースで進めるか」などの計画を立てて、次の一歩を後押しすることで、実際に行動に移す可能性を高めることができます。 個別アドバイジングは、それぞれの生徒に合わせたアドバイスができることが最大の強み。授業中、

「いまひとつやる気が出ない」様子の生徒を見掛けたら、上記の4ステップを参考に、ぜひアドバイジングを試してみてください。もちろん、

「すでに英語ができる生徒をより伸ばす」ことにもアドバイジングは有効です。

アドバイジングの基本

 授業中にモチベーションを高めることに加えて、生徒個人のあらゆる状況を考慮し、今のその人に最適だと思える提案をすることで、最終的に具体的な学習計画を設計することができます。 状況や抱える悩みもさまざまな生徒に対して、的確で具体的、効果的なアドバイジングをするには、生徒の話に真

し ん

摯し

に耳を傾ける必要があります。本音で話をしてもらうために、話しやすい雰囲気をつくることも大切です。そのための典型的な進め方として、右にある四つのステップを挙げることができます。 ステップ1にある「ラポール」とは、人と人との「心のつながり」や「信頼関係」を意味する言葉。生徒に「この人になら話せる」と思ってもらい、本音で語ってもらうための信頼関係づくりです。セッション全体の内容を深めて最大の効果を引き出すためには、最初にこのラポールを形成することが重要な鍵となります。 ステップ2は、アドバイジング・セッションの核心ともいえる「情報収集」。生徒の学習目的や具体的な目標、現在のレベル、学習方法、学習環境などの条件が一つ違えば、適切な学習計画もまた異なってきます。じっくりと話を聞き、さまざ

アドバイジングの基本フロー

ステップ1 ラポール形成

ステップ3 提案・目標や考え方、学習歴、英語のレベル、性格など、生徒のバッ

クグラウンドはさまざま。それぞれの視点にできる限り寄り添って、気持ちを受け止めるように心掛ける。

・生徒が話しやすくなるよう、「私はあなたの話が聞きたい」「一生懸命聞いている」という姿勢を示す。

・生徒の話に対して共感を示す。それによって、生徒との心の絆を深めることができる。

・生徒を出迎えるときの表情、声量や話し方、視線や姿勢など、ちょっとした心掛けで雰囲気が良くなることもある。

・手当たり次第にアドバイスしても、生徒は消化不良を起こしてしまう。実行可能と思える範囲で、優先順位を付けながら的を絞った提案を行う。

・学習法の最終的な選択・決定権は、生徒自身に委ねる。自分の裁量で決めたと感じられることで、モチベーションも高まる。

ステップ2 情報収集

・ただじっと話を聞くだけではなく、積極的に相手から話を引き出し、振り返りを促しながら話を深めていく。

・「うなずき」「相づち」「繰り返し」「言い換え」「要約」「質問」などの傾聴スキルを活用する。

・事前に質問票に記入してもらった場合も、傾聴スキルを通して話を聞いていくことで、より正確で詳細な情報を得ることができる。

ステップ4 学習計画設計

・モチベーションを維持しながら学習を長期的に継続できるよう、現実的に実行しやすく、続けやすいプランにする。

・あまりに綿密に計画を立てると、万一計画どおりにいかなかった場合に挫折してしまう可能性も。ある程度柔軟性を持たせた計画づくりを。

・学習を振り返り、必要に応じて計画を見直すタイミングを計画の中に組み込む。

・学習方法の選択と同様に、一つ一つの行動計画は、生徒自身が考えて決めていけるように導いていく。

面談で使える! 英語学習アドバイスの基本AdvisoryPart 4 ここでは、英語学習アドバイザー資格認定制度(English Study Advisors’ Certificate: ESAC)を

参考に、生徒と一対一で向き合う場合に備えた、英語学習アドバイスの基本をご紹介します。

監修_アルクESAC事務局 構成・文_仲藤里美

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生徒のモチベーションを高める理論と方策

『ESAC®認定 英語学習アドバイザーコース』(右ページ参照)を受講※課題提出あり ※TOEIC730 点、英検準1級以上相当の英語力を持っていることが望ましい

ジュニア資格を取得

アソシエイト/プロフェッショナル/マスターの資格を取得※年に2回(夏・冬)行われる

「英語学習アドバイザー 実践ワークショップ」(写真)への参加などが必要になります

通常価格:66,000円(税込)

「英語の先生応援価格」 56,000円(税込)※2020年3月10日まで※特別価格でのお申し込みは、アルクサポートセンターでの受付のみとなります。 講座の詳細、お申し込み方法などは同封の別紙案内をご覧ください。

●監修_吉田研作(上智大学) ●教材内容_ 特製ボックス/テキスト2冊 /DVD2枚 ●標準学習期間_2カ月●主な内容_テキストvol.1 知識編:「英語学習アドバイザーの役割」「よい言語学習者になるには?─動機づけの観点から─」「コーチング 自発的な行動を促すコミュニケーションスキル」テキストvol.2 実践編:「英語学習アドバイジングの概要」「3つの側面へのアプローチ」「アドバイジング・セッションの基本ステップ」

「ケーススタディー」 

Initiative for Professionals 『ESAC®認定 英語学習アドバイザーコース』

資格取得を目指す先生にも、そうでない先生にも

 『ESAC®認定 英語学習アドバイザーコース』は、英語学習者に応じて適切なアドバイスができるプロの英語学習アドバイザーを養成するための教材です。 このコースは、2006年に開講した『ESAC®認定 英語学習アドバイザー養成講座』の入門テキストを大幅に見直し、最新の情報に更新。実践に役立つ内容を強化してテキストを追加したものです。また、活躍中のプロの英語学習アドバイザーを交えたトークセッションや模擬アドバイジング・セッションの様子、英語学習法なども映像を通じて学べます。「資格取得までは考えていないけれど、アドバイジングを学んで学習指導にさらなる磨きをかけたい」という先生にも最適の教材です。

英語学習アドバイスを「自己流」から「プロのスキル」へ!

英語学習アドバイザーに必要な知識とノウハウが分かる!

アドバイスの理論や英語学習アドバイザーとしての心構えに加え、アドバイジングの進め方など具体的な知識が学べ、本教材によりジュニア・アドバイザー資格の取得を目指すことができます。

学習アドバイジングの実践スキルを身に付けられる!

アドバイジング・セッションの流れやFAQ、テキスト掲載のモデルアドバイジング例を映像でも収録。実際のアドバイジングの様子が確認できるので、実務に直結します。

補足情報で相談者を広範囲にわたりサポートできる!

英語学習の具体的な方法に加え、相談の多いTOEIC®テスト対策や留学アドバイジングの基礎知識などの情報も充実。生徒からの幅広い相談に対応できます。

お勧めポイント

目的に合わせたレベルを目指す

 本資格は、英語力およびアドバイス力、経験などにより、「ジュニア」から「マスター」までの4段階で認定されます。資格認定者は、高校・大学・語学学校など教育機関の学習サポート部門、留学相談機関や企業人事部など、社会のあらゆる場面で活躍が期待されています。

資格取得までの流れ

「ESAC®認定 英語学習アドバイザー資格」とは?

プロとして認められるために

 「アドバイジングの基本フローは分かったけれど、具体的なイメージが湧かない……」とお考えの先生もいらっしゃるかもしれません。アドバイジングを体系的に学び、生徒への指導をバージョンアップさせたい先生にお薦めなのが、「ESAC®認定 英語学習アドバイザー資格」の取得です。この資格の認定制度が設立された背景には、グローバル化が進むこの時代、今まで以上に英語を習得することの重要性が高まっていることがあります。学習の場や教材が多様化し複雑な環境にある英語学習者が、効率的・効果的かつ自律的に学べるよう的確なアドバイスを行う、いわば「英語学習アドバイジングのプロ」を求める声が高まっているのです。 このようなニーズに応え、さらには「英語が使える日本人」の育成を目指して、学習者に応じたカウンセリング・メンタリングができる、プロの英語学習アドバイザーを養成・認定する制度としてアルクが設立したのが、「英語学習アドバイザー資格認定制度 English Study Advisors’ Certificate(ESAC)」です。

▲ワークショップも定期的に開催されています

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文科省 概算要求

英検 お知らせ一覧

Sep. - Nov. 2019

英検が民間試験活用延期を受け実施概要を一旦見直し英検

高校生の海外留学4.7万人短期研修旅行の増加で過去最高海外留学

共通テストへの英語民間試験活用見送り2024年度の導入を目指す

文科省概算要求、前年度比12.2%増学校の通信環境整備に375億円教育

4年制大学の7割が導入を公表も会場や費用などの調整が追いつかず

 萩生田光一文部科学大臣は11月1日、2021年に予定していた大学入学共通テストへの英語民間試験の導入を見送ると表明した。2021年から従来の大学入試センター試験に代わり、大学入学共通テストが実施され、英語に関しては、「読む・聞く・話す・書く」の4つの技能を測定するため、日本英語検定協会の「英検」、ベネッセコーポレーションの「GTEC」など、6団体7種類の民間試験を活用する準備が進んでいた。仕組みは、まず受験生が共通テストを受ける前年の4~12月に、希望する民間試験を2回まで受ける。その成績を大学入試センターが集約・管理し、各大学の求めに応じて提供するシステムだ。 文科省は10月25日、4年制大学のうち70.8%にあたる538校が、少なくとも1つの学部や学科でこの「大学入試英語成績提供システム」を利用すると公表。うち国立大は95.1%、公立大は85.7%、私立大は65.1%。短大も29.5%が利用を予定していた。しかし、今後、出願資格や選抜方法の再検討が必要になる。

 民間試験の活用をめぐっては、性質や難易度が異なる複数の試験を入試に使うのは無理があるとの批判のほか、試験会場が都市部に偏っていたり、受験料が高額であったりと、地域や経済格差への対応が不十分といった声があがっていた。問題視した立憲民主党をはじめとする野党は、10月24日、「公平に受験ができるよう環境を整えるには、さらなる検討が必要だ」として、衆議院に導入を延期する法案を提出。10月30日には、自由民主党と公明党の幹事長同士が会談し、受験生や関係者に不安を与えることがないよう、文科省にしっかりとした対応を求めるとしていた。 試験まで半年を切り、受験に必要な共通IDの手続きが始まる直前で、導入延期を決定。萩生田光一文部科学大臣は閣議後の記者会見で、「受験生の皆さんにおすすめできるシステムになっていない。経済的な状況や居住している地域にかかわらず、等しく安心して受けられるようにするためには時間が必要」と理由を述べた。さらに、民間試験の活用の有無も含めて抜本的な見直しを行い、2024年度に「新たな英語試験」の導入を目指すとした。文科省のウェブサイトには、同大臣から受験生や関係者へ向けたメッセージが掲載されている。

通信ネットワークを整備する新規事業「GIGAスクールネットワーク構想」に約375億円を計上。全国の小・中学校・高校および特別支援学校などで、1人1台の学習者用コンピューターに対応した通信環境を整備する。構想は3年計画で、1年目の2020年度は国公私立の全学校の3分の1にあたる約1万校を整備。2022年度までに全校整備を目指すとしている。 このほか、新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための指導・運営体制の構築に、1兆5,197億円を計上した。教職員定数については、学校における働き方改革のため3,820人、複雑化・困難化する教育課題への対応のため415人、計4,235人の増員を要求。小学校英語教育の早期化・教科化に伴い、質の高い英語教育を行う専科指導教員の充実、義務教育9年間を見通し、小学校高学年からの教科担任制に先行的に取り組む学校の支援、中学校における生徒指導や支援体制の強化、学校運営体制の強化などを求めている。

 文部科学省は8月27日、高校などにおける国際交流の状況について、隔年で行っている調査結果を公表した。2017年度の高校生の留学生数は過去最高の4.7万人。前回調査した2015年度の3.6万人から1.1万人増加した。このうち、3カ月未満の研修旅行をした高校生は、前回調査より1万1,148人増の4万2,793人。高校生を派遣した学校数は延べ2,286校で、公立が1,483校、私立が780校、国立が23校。行き先については55カ国・地域にわたり、最も多かったのはオーストラリアで1万888人。次いでアメリカ9,123人、カナダ4,438人、イギリス3,395人、ニュージーランド2,959人だった。

 日本英語検定協会は9月13日、大学入試英語成績提供システムを利用する各試験について、大学入試センターが定める経済的に困難な受験生を対象に、検定料の減免措置を行うことを発表していた。検定料は、英検CBT・英検2020 1 day S-CBT・英検2020 2 days S-Interviewの場合、1級が1万5,680円(通常1万6,500円)、準1級が9,310円(同9,800円)、2級が7,130円(同7,500円)、準2級が6,560円(同6,900円)、3級が5,510円(同5,800円)。TEAP/TEAP CBTは1万4,250円(同1万5,000円)、IELTSは2万1,570円(同2万5,380円)と、おおむね5%前後の減免となる。 しかし、11月1日に萩生田光一文部科学大臣より発表された英語民間試験活用の延期を受け、これまでに公表していた実施概要や措置を一旦見直すことに決定。大学入試英語成績提供システムの方針が固まり次第、今後の対応などについて改めて議論し、速やかにウェブサイトで公表するとした。

 

 文部科学省は8月29日、2020年度の概算要求を発表した。一般会計の総額は前年度比12.2%増の5兆9,689億円。教育再生、科学技術イノベーション、スポーツ・文化の振興により、「人づくり革命」を断行し、「生産性革命」を実現するとした。 教育政策推進のための基盤の整備事業では、外部プロバイダから学校内の全教室に向けて、高速・大容量の

■大学入学共通テスト「英語」をめぐる動き

2019年11月1日 2020年 2021年1月

大 学 入 試 に お け る「新たな英語試験」を導入予定

2025年1月

2021年実施の大学入学共通テストへの英語民間試験導入は見送りと発表

延期発表から1年を目標に、大学入試における新たな英語試験について議論し、結論を出す。民間試験については活用の有無も含めて検討

予定通り、大学入学共通テスト「英語」を実施

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氏名 ローマ字表記

高校生 留学調査

政府が氏名のローマ字表記を「姓-名」に統一する方針決定表記

仙台育英が教育機関では世界初VR英会話レッスンを試験導入教育×VR

海外留学支援制度高校生コース第6期の募集開始海外留学

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大学受験生向け電子参考書サブスク「ポルト」提供開始サブスク サブスク 電子参考書

た若年層へのスマホの普及と勉強への利用、デジタル教科書の法令整備の流れを受けて、アプリの開発に至ったという。 「ポルト」は、月額980円で、大学受験の主要科目である5教科17科目の参考書が読み放題。参考書ごとに進捗率や正答率といった学習データを把握することが可能で、ユーザーは簡単に反復学習ができる。さらに、英語科目の参考書の多くは、ネイティブによる読み上げ機能を備えている。 現在は、『夢をかなえる英単語 新ユメタン』(アルク)や『英単語ターゲット』(旺文社)、『センター試験過去問題研究(英・数・国)』(教学社)など、出版社12社による参考書約30冊が提供されているが、2020年度夏までに約3倍となる累計100冊に拡大予定。また、授業や自宅学習で利用する学習用デジタル補助教材としても提供し、2020年度には約100校への導入を目標としている。

認めている場合としている。

 政府は9月6日、国の文書に日本人の氏名をローマ字で表記する際、国内外で一般的とされる「名-姓」の順ではなく、日本語表記と同様に「姓-名」の順に統一する方針を決めた。柴山昌彦元文部科学相が閣僚懇談会で提案して同意を得たもので、会見で「グローバル社会が進んでいくに従って、言語や文化の多様性を意識することが重要になってきている。日本の伝統に則した表記にすることに意義がある」と理由を説明。今後、内閣官房を中心に関係省庁において具体的な取り扱いを定め、民間にも働きかけていく。 氏名のローマ字表記をめぐっては、2000年に当時の国語審議会が「『姓-名』の順とするのが望ましい」と答申を出し、政府機関や自治体、国公私立大などに対応を要請。英語の検定教科書などでは「姓-名」の順がその当時から採用されている。

  宮城県にある仙台育英学園高等学校の英進進学コースが、9月から「アメリカ人講師による対人VR英会話レッスン」の試験導入を開始した。アメリカのスタートアップ企業「イマース」から提供を受けたもので、教育機関としては世界初の試み。日本でTOEIC Programの実施・運営を行う国際ビジネスコミュニケーション協

 一方、外国の高校などに3カ月以上留学をした高校生は、前回調査より121人減の4,076人。高校生を派遣した学校数は延べ1,099校で、公立が566校、私立が517校、国立が16校。行き先は39カ国・地域にわたり、アメリカ1,151人、カナダ937人、ニュージーランド704人、オーストラリア522人だった。

 日本学生支援機構は9月3日より、官民協働による海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」の高校生コースの募集を開始した。2014年にスタートした同プログラムは、「教育振興基本計画」で掲げられた「2022年度に日本人高校生の海外留学生数を6万人にする」という目標の達成に向け、グローバル人材育成のために民間企業からの寄付金によって、官民が協力して運営しているもの。2020年までの7年間で約1万人の高校生、大学生を派遣留学生として送り出すことを計画している。 高校生コースは、多様な分野においてリーダーシップを発揮し、世界で活躍しようとする、または日本から世界に貢献しようとする意欲ある生徒を募集。渡航費や授業料など、諸外国への留学に必要な費用の一部を奨学金などとして支給するほか、留学経験の質を高めるため、留学前後での研修の実施、留学後の継続的な学習や交流の場として留学生ネットワークの提供も行う。 募集分野は、アカデミック(テイクオフ・ショート・ロング)、スポーツ・芸術、プロフェッショナル、国際ボランティアの4つ。対象となるのは、2020年7月1日から2021年3月31日までの間に留学が開始され、期間が14日以上365日以内の計画で、留学先における受け入れ機関があり、在籍する日本の高校などが教育上有益と

会(IIBC)の協力のもと、約3カ月間のレッスン前後に「TOEIC Speaking Test」を受験させることで、客観的なデータとして学習効果を測定する。 レッスンでは、会議室やレストラン、空港など、英語利用シーンがVRで再現されるため、現実に近い英会話を体験することが可能。また、ネイティブのアメリカ人講師だからこそできる相互のコミュニケーションで、通常の英会話クラスを受講するのに比べ、2倍から3倍の学習効果を見込め、留学に近い英語力の上達が期待できるという。 第1回目のレッスンは、自宅で旅行計画を立てるという内容だった。生徒と講師の計6名が、どこに行くかなどをリアルタイムで話し合いながら、約45分のレクチャーを受けたという。

 大学進学を目指す高校3年生の3人に1人以上が利用する学習管理アプリ「Studyplus」を提供するスタディプラス株式会社が9月17日、日本初となる大学受験生向け電子参考書のサブスクリプション(定額制利用)サービス「ポルト」の提供を開始した。 政府の調査によると、高校生の97.5%がスマートフォンを保有している。近年では、友だちとの連絡手段やゲーム、SNSといった遊びのためだけでなく、アプリや動画を利用して勉強する動きがあり、スマホを使い、いつでもどこでも安価に手軽に勉強する「スマ勉」という言葉も生まれた。 また、4月には、学習用デジタル教科書を制度化する法令が施行され、6月には、東京都教育委員会が都立高校へのスマホの持ち込みを容認することを決めるなど、行政や教育現場でも教育のICT化が進んでいる。こうし

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Sherpa(Senior High English Reform Project ALC)は、金谷憲先生(東京学芸大学 名誉教授)をリーダーに立ち上げた、高校英語授業の改善を目指すプロジェクトです。シェルパが登山家を頂上まで導くように、高校の先生方の手助けとなるべく活動中。その最新動向をご紹介します。

(写真左から)臼倉美里先生(東京学芸大学 准教授)、金谷 憲先生(東京学芸大学 名誉教授)、大田悦子先生(東洋大学 准教授)、鈴木祐一先生(神奈川大学 准教授)

授業改善のためのSherpa出張研修をご希望の先生は、以下の通りご応募ください。

[ 宛 先 ] [email protected]. jp  ※件名に「Sherpa出張研修希望」とご明記ください。[必要事項] ①お名前 ②学校名または団体名 ③ご希望の研修内容  ④検討中・実施中の授業改善の取り組み ⑤ご希望の日程(複数)

[ 条 件 ] 研修の模様を本誌などの媒体で発表することに同意いただけること

私たちSherpaメンバーが出張研修のコーディネートをしております。

通じて英語の基礎を定着させること」です。本来はパフォーマンステストを最後のアクティビティとする「パターンA:超こってりコース」と、Story Reproductionでレッスンを終える「パターンB:こってりコース」だけを実施したいのですが、時間がかかり過ぎて1年で教科書の全てのレッスンを終えられないため、あっさり系の2つのパターンを導入しました。あっさり系コースの問題として、インプット活動止まりで、アウトプット活動をさせないため、レッスンを終えた後の定着率の低さが指摘されていました。しかし、教科書の難易度を下げ

難易度を下げて生じた問題

 難易度を下げた教科書でTANABU Modelを実践すると、一つの問題が生じました。「パターンB:こってりコース」の最後のアクティビティである、与えられたキーワードを使って教科書の内容を自分の言葉で再生するStory Reproductionで、1パートの英文量が少ないために、生徒が自然に教科書の英文を暗記してしまうようになったのです。丸暗記を否定するわけではありませんが、キーワードを頼りに教科書の内容を自分の言葉で再生する過程で、負荷をかけながら英語の基礎を定着させることが難しくなってしまいました。 この問題を解決するために2つ以上のパートを一気に扱ってみたところ、教科書の英文を暗記してしまうことはなくなりました。4パートからなる1レッスンを一気に扱うことも試してみましたが、音読活動を充実させ、語彙の定着を図るには、2つのパートをまとめて扱うくらいがちょうどいい分量のようです。

難易度を下げたことによる効果

 「パターンB:こってりコース」について具体的に見てみると、難易度の高い教科書では1つのパートに3時間かけ、4つのパートからなる1レッスンを終えるのに12時間かかっていました。現在は2つのパートに4時間かけ、4つのパートを8時間で終えています。結果的に1レッスンで4時間短くなりました(表参照)。 TANABU Modelの狙いは、「アウトプット活動を

 レッスンごとに教科書の扱いを変える「TANABU

Model」は、2017年のアルク選書刊行以来、多くの

反響をいただいてまいりました。あれから2年─

Sherpa出張研修によるサポートも後押しとなり、モデ

ルは進化を続けています。その全貌を、青森県立田名

部高等学校の堤孝先生にご紹介いただきます。

 本校では2013年度から金谷憲先生をアドバイザーにお迎えし、授業改善の研究会を年3回実施しています。県内に加え、県外からも先生方が参加してくださるようになりました。ここ数年は実際にTANABU Modelを実践された上でご意見やご質問をいただくようになり、モデルをアップデートする貴重な機会となっています。TANABU Modelの変化と今年度のSherpa出張研修で共有された、現時点での課題についてお伝えします。

アウトプットレベルに合った教科書へ

 何よりも大きな変化は教科書の難易度を下げたことです。2013年度から2016年度まで、3つの出版社の最も難易度の高い教科書を年度ごとに変えて採択し、TANABU Modelの汎用性を確認しました。しかし、高校生にアウトプットさせるためのモデルとして英文を見てみると、レベルが高すぎるのではないかという議論が起こり、2017年度から各学年とも教科書の難易度を下げることにしました。その後のGTECも、難易度の高い教科書を使っていた頃と同様に伸びており、難易度を下げても生徒の英語力の伸びに変化はないようです。

授業改革レポート英語教育界で話題の授業モデルがさらに進化!「TANABU Model 2019」 て時間を短縮できたことで、教科書の英文をテスト問題

として扱い1レッスンを2時間で終える「パターンD:超あっさりコース」が不要になりました。

現時点での課題

 「パターンC:あっさりコース」は、教科書の内容を文字によらず音声で理解するコースです。1つのパートに1時間、4つのパートに4時間かけて1レッスンを終えます。これについては、定着率の低さが指摘されました。「アウトプット活動を設けないと定着率が低くなること」を、授業者として経験を通じて理解できたことには大きな意義があったと思います。しかし、難易度を下げることで時間が短縮され、アウトプット活動に時間を割けるようになった今、パターンCの存在意義が薄れてきました。金谷先生からもパターンC廃止の助言をいただき、今後検討していくことになりました。 

Sherpa アルク

Sherpaセミナー・教材・出張研修などの情報は

 Webサイトリニューアルで、お役立ち情報が大増量!

授業モデルの詳細・ワークシートを収録

『レッスンごとに教科書の扱いを変える TANABU Modelとは』(アルク)

TANABU Model 2019 の3パターン

Sherpa出張研修の様子

パターン名【コース名】 授業の流れ 時間数

/Lesson

パターンA【超こってり】パフォーマンス

概要把握→詳細理解→語彙&表現定着活動→さまざまな音読活動→“パフォーマンス”テスト:1年ロールプレイング・2年ディベート・3年ディスカッション

13時間(15時間)

パターンB【こってり】リプロダクション

概要把握→詳細理解→語彙&表現定着活動→さまざまな音読活動→ディクテーション→ストーリー“リプロダクション”

8時間(12時間)

パターンC【あっさり】リスニング

リスニングによる概要把握→詳細理解→語彙&表現定着活動→さまざまな音読活動※パートごとに授業を行う

4時間

※ パターンA・パターンBは一度に2つのパートを扱う(例:Part 1 & 2, Part 3 & 4)※「パターンD:超あっさりコース(2時間)」“読解力診断テスト”は2017年度に廃止※( )の時間は難易度の高い教科書を使っていた2016年度までのもの

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 2013年秋から4年間、「しごとの基礎英語」(NHK Eテレ)に出演しました。ビジネスパーソンが仕事の場で使う英語力を養う趣旨の番組で、解説役を務められたのが言語学者である大西泰斗先生です。シチュエーションドラマをまず収録し、それを観ながら大西先生にベストな表現やフレーズを教わるという番組構成だったのですが、最初に大西先生とお会いした時に、「とにかくなんでも聞いてください」と言われたのを覚えています。実際、どんなに突拍子もない疑問にも的確に答えてくださり、その知識の深さ広さもさることながら、質問者に恥をかかせない、懐の深い受け止め方にもとても感銘を受けました。その安心感があったからこそ、僕は本当に自由に質問できたんだと思います。 実を言うと僕は、高校時代に英語に挫折しています。ところが、番組が始まって1年経たないうちに「英会話、好きかも」と思うまでに! 海外のロケ先などで、通訳を介さずに簡単な会話ができたりすると、すごくうれしい。やっぱり一対一のリズムの方が、お互いに温度は上がりますよね。英語って、ちゃんとやればちゃんと身に付き、その後には世界中の人とコミュニケーションできるという“最高のご褒美”が待っている。そのことを、身をもって実感できたのです。 大西先生の指導方法で特に衝撃を受けたのは、「もし三単現のSが抜けるのを恐れるあまり会話できないなら、そんなの気にしなくていい!」というもの。ネイ

ティブでない人なら許されるミスがあり、反対に、間違えると絶対に伝わらないミスもある。その違いも丁寧に教えてくれました。一方で、知っている単語が増えれば聞き取る力も同時に伸びるのだからと、単語の勉強を積むことは厳しく要求されました。とにかく会話を重視した、志の高い指導だったと思います。 大西先生と出会えたことは、僕にとってとてもラッキーだったと思っています。番組が終わった今も、食事をするなどのお付き合いが続いています。(談)

Vol. 07

篠山輝信|俳優|

英会話が好きになった、独特の指導法

取材・文_井上雅惠 イラスト_川崎真奈

しのやま・あきのぶ◎東京都生まれ。玉川大学芸術学部卒業。2006年に舞台「ANGEL GATE〜春の予感」で俳優デビュー。ドラマや映画だけでなく、NHK「あさイチ」ではリポーターとしても高い人気を得る。Eテレ「しごとの基礎英語」では台本なしで英語のミニドラマに挑戦するなど、多方面で活躍。父は写真家の篠山紀信。

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英語スピーキング能力実態調査結果を振り返る

 アルク教育総研では2015年度から2017年度にかけて、「日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査」を行った。日本の三つの高校の、2015年度の高校1年生およそ270名の協力を得て、1学年から3学年までの3年間、毎年1回TSST(アルクが提供するスピーキングテスト)を受験してもらい、経年変化を観察するというもの。調査協力校3校のプロフィールは、次の通りである。

A高校:私立。大学付属高で付属中学校あり。約8割が系列大に内部進学。B高校:公立。進学重点校的な位

易しい教科書に替えてアウトプットの時間が増大

 生徒の8割が内部進学をするA高校では、家庭での学習時間が少なく、生徒のモチベーション維持に課題を感じている。そこで「生徒は面白いことしかやりたがらない」という“真理”を逆手に、教科書の内容を発展させたアウトプット活動を教師が考え、ワークシートなども手作りして、生徒の興味を維持する工夫を続けてきた。単元ごとに短くて1時間、長いと3〜4時間ほどもアウトプットに充てているが、その時間は教科書のレベルを1段階落とすことで捻出した。 A高校同様、B高校も教科書を生徒のレベルに合ったものに替えている。その結果、「トピックに対する生徒の思考が深くなった。クラスで話し合ったり、自分で調べたりして、英語に触れる量も増えた」と高井久美子先生は話す。 C高校でも、「活動につなげることを念頭に、もっと読みやすい教科書に替えてはどうか」との議論はある。入試で求められるレベルとの差が開くという不安が拭えず、実現には至っていないが、現行の教科書

見交換を行う座談会が開かれた。 三つの高校間で差が生じた主な原因については、もともとの学力、学習時間、指導方法、モチベーションなどが考えられるが、小菅敦子先生(東京女子大学 非常勤講師)は、B高校がディスカッションやプレゼンテーションなど、スピーキング活動につながる内容を日頃から積極的に取り入れていることに着目し、その成果が表れたと述べた。 C高校の山本真由美先生も、「当校はインプットに気を取られて、生徒が学んだことをアウトプットする機会、授業内で発信させる活動がB高校と比べて十分ではなかった。それがデータとしてはっきり出た」と語っている。これを皮切りに、各校の英語の授業を振り返った。

の一体感や楽しさを喚起。フィジカルな動きが心理面に与える影響も考えて、生徒が発話しやすいよう、動きを制御しない会話環境を心掛けている。 「その上で、発話意欲を引き出せるよう、高校生が話しやすいトピックを取り上げるようにしています。何かの情報を読んだり聞いたりすると、話すきっかけができるので、発話の動機づけになります。反対に、一見簡単そうな自己紹介などは、友達間では改めて興味を引かれるトピックではなく、話も弾みません」(B高校・高井先生) A高校では、スピーキング活動の後で、生徒にセルフ・リフレクションを書かせている。自分のパフォーマンスに対する生徒の評価は、先生が意外に思うほど客観的かつ的確であることが少なくない。 「スピーキングの活動は、やりっ放しになってしまうことが多いので、こういうことが案外大事だと思います」と坂口翔平先生が言うように、生徒自身による活動の振り返りも、意欲や関心を高める一助だろう。 同じくA高校の塚田香織先生は、生徒が英語を口にしたときは、絶対にその発言を否定しないことを旨と

置付けで設立され、特に英語には力を入れている。卒業後の留学なども奨励。C高校:公立。付属中学校あり。大学の付属校ではない。

 結果、B高校については3年間でスピーキング力の向上が認められ、A・C高校には大きな変化は見られなかった。しかしさらに子細に見ていくと、TSSTのレベルアップには至らないまでも、テストにおける生徒の発話量は、座談会時点で分析可能であったA・B高校において3年間で確実に増えていたことが分かった。 こうした結果を踏まえて、この夏、調査協力校の英語科教員4名と、英語教育を専門とする大学の研究者3名が一堂に会し、振り返りと意

でもできることは少なくない。 一例として、校内でのスピーキングテストを、単なる例文暗唱から、暗唱した例文を使って自分に引き付けた話をする形に変えた。すると、

「丸暗記でなくても、自分の言葉で話せればいいのだ」という意識が生徒に芽生え始め、完全な即興とまではいかないまでも、テスト範囲のどのトピックでも、その場で話せるようになってきたという。 例文の単語を入れ替えただけで言いたいことが言えたと、達成感を感じる生徒も少なからず出てきた。教科書で学んだことを、パーソナライズして使う機会を与えるだけでも、十分に発話の動機になることがうかがえる。

生徒の発話を引き出す工夫話しっ放しにさせない工夫

 英語学習の「動機づけ」に関するヒントは、現役の先生たちが語る授業実践の中に、他にも多数見つけることができた。 B高校では、ペアワークの組み合わせを小まめに変える、たくさんの友達とハイタッチするなどの工夫で、スピーキング活動の際のクラス

従前の高校英語授業においては、「読む」「聞く」「話す」「書く」の中で最も指導が後回しになりがちだったのが「話す」力の育成だったのではないでしょうか。高校生の学習意欲を高め、スピーキング能力の向上につなげるにはどのような指導が有効になるのでしょうか?現場で奮闘する高校英語教師と英語教育の専門家が集まり、スピーキング指導とその動機づけに関して、本音と課題に迫る座談会を開催しました。

取材・文_田中洋子 写真_遠藤貴也

塚田香織(仮名)調査協力校、私立の大学付属高校・A校 教諭

坂口翔平(仮名)同・調査協力校、私立の大学附属高校・A校 教諭

高井久美子(仮名)調査協力校、公立高校・B校 教諭

山本真由美(仮名)調査協力校、公立の中高一貫教育校・C校 教諭

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する。英語での問い掛けに、生徒が日本語で話し始めてしまうようなときも、英語で話すよう指導せず、話し終わるまで待っている。ディスカッションで生徒が間違った英語を話していても、期待と異なる発言をしていても、その場で割って入らず、最後まで話を聞く。 「しゃべっても大丈夫と分かれば、発話に対して消極的な生徒も、苦手意識がある生徒も、少し気が楽になるのではないかと思うからです。それでも英語が出てこない生徒には、『あなたがさっきノートに書いたことを話して』と、具体的な指示で話すきっかけをつくるようにしています」(A高校・塚田先生)  今回の調査で、唯一はっきりとスピーキング力の向上が見られたB高校にも、発話の意欲に乏しい生徒はいる。特に入学当初は、英語を話すのが怖くて発言できない生徒も多い。「教師が働き掛けるというより、生徒同士で高め合って次第に話せるようになっていきます。たとえペアワークで言いよどんでも、相手がじっくり聞いてくれるので、どの生徒も発話せずに授業を終えることはありません」(B高校・高井先生)

できてしまうのです」 繰り返し声に出して読み、頭に音が響いている間に関連する話題に触れ、少し興味を深めたところで、すかさずまた同じ英文を音読する。

「その感覚が心地よく感じられるようになると、英語の発話も楽しくなってきて頑張れる」と、小菅先生も“ミルフィーユ”方式を評価する。“ミルフィーユ”のクリームの部分に、どれだけ生徒の気持ちをつかむ話題をちりばめられるか、それなりの準備が必要だとしても、さまざまな反復練習への動機づけとして応用が利きそうだ。

正答を探し出す力から「何かを返す」力へ

 座談会終盤、東京外国語大学の根岸雅史先生が述べた、「言語能力をCEFR的に考えると、必ずジェネラ

は、C高校でも取り入れている。アイデアをシェアするような活動では、相手が言ったことには必ず自分の感想や意見を返す、ペアで音読をするときは、ちゃんと読めているかを確認し気づいたことを教え合う、暗唱の練習では1文を最後まで言い切れるよう、必要に応じてヒントを出し合うなど、教師が具体的な指示をしてから活動を開始する。 ところでスピーキング活動には、

「音読」というシンプルで基本的な活動が含まれることも多い。だらけたり飽きたりして、なかなか続かない音読の反復練習だが、金谷憲先生(東京学芸大学 名誉教授)は生徒のやる気を維持するコツを、横浜の中学校の例を挙げて紹介する。 「何回か音読したら、そのトピックに関することを先生が話したり、生徒に尋ねたりして、『じゃあもう1、2回、読んでみようか』と再び音読。私は“ミルフィーユ”と呼んでいるのですが、何度もインターバルを入れながら、薄い層を重ねるように続けていくと、中学生でも20回くらいは平気で、しかも楽しく音読

英語で伝えることがスピーキング能力だ」と言う。 「正しい答えがあるに違いない」というマインドセットは、日本の学生に根深く浸透している。その固定観念が、

「英語を話す」という敷居を必要以上に高くし、生徒のモチベーションに影響を与えてはいないだろうか。 これからの英語教育が、コミュニケーションの原点に立ち戻り、「正答」の呪縛から解き放たれるものであれば、多くの生徒にとって英語を学ぶことの意味は変わってくるのではないだろうか。学習者はなぜ黙ってしまったのか。話したいことがなかったからか、話す術がなかったからか――それらの問いに真摯に向き合いながら、学びの場で次にできることを考えたい。

※この合同座談会の様子は、以下の書籍でより詳細にご紹介しています。

 B高校では、ペアワークのペアも活動中に何度か変わる。ペアの相手が英語で上手な表現をしたと思ったら、どんどんまねをして、次のペアの相手に使ってみるよう奨励されているので、誰もが英語が上手になった気分を味わえる。友達から学べるので堅苦しさがない上、まねをされる側の生徒にとっても、自信や励みになる仕組みだ。

“ミルフィーユ”方式で音読練習も飽きさせない

 生徒同士が協力して学ぶ仕組み

ル・インテリジェンス(社会で通用する一般知能)が関わる」という見解は、これからの日本の英語教育の目指すべき方向を示唆するものでもあった。 例えば、普段話したことのない分野や、興味のない内容について尋ねられることは、日常生活においてもスピーキングテストにおいても、往 に々してある。そんな時に、黙ったまま回答しないということは、現実の社会の中では受け入れられない。この「何かを言わなくてはならない」ということが前提となって、スピーキング能力は問われるのだという。文脈に関係なく、文法的に正しいかどうかだけを見ていた時代から、現在は「何かを返す」力を見る流れになってきているのだ。 小菅先生は、「誕生日の過ごし方を聞かれた場合、日本人学習者は、理想の誕生日について話さなくてはいけないと思いがち。誕生日だからといって特別なことをしない人なら、それを

スピーキング能力向上に有効な指導とは?約270名の高校生を3年間追跡した「日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査」の結果をまとめました。追加取材により調査校の実態と指導の工夫を明らかにした上で、有効なスピーキング指導について考えています。

『英語スピーキング力はどう伸びるのか〜高校3年間のテスト調査結果〜』金谷 憲 監修

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知らない分野でも、興味がなくても、

「何か返す」力が必要になります

小菅敦子(東京女子大学非常勤講師)元東京学芸大学附属世田谷中学校教諭。今回の「高校生の英語スピーキング能力実態調査」に専門家として参加

言語能力には必ずジェネラル・

インテリジェンスが関わってきます

根岸雅史(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 教授)応用言語学博士。専門は、英語教育学、特に、言語テスト論、言語能力評価枠組み研究。今回の「高校生の英語スピーキング能力実態調査」に専門家として参加

調査結果から生徒がどのように

学んでいるかを知ることが

有効な指導の第一歩になります

金谷 憲(東京学芸大学名誉教授)東京大学大学院人文科学研究科修士課程、教育学研究科博士課程および米国スタンフォード大学博士課程を経て、32年間東京学芸大学で教壇に立つ。現在、フリーの英語教育コンサルタントとして、学校、都道府県その他の機関に対してサポートを行っている。今回の「高校生の英語スピーキング能力実態調査」を監修。

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3938

 第4回 自由英作文の基本的指導方法

最終回

灘中学校・高等学校の木村達哉先生による4回完結の誌上セミナー。本連載では、生徒の英語4技能を必

・ ・

ず高めるための指導方法について木村先生の日々の実践をもとにご紹介いただきます。

授業では「書き方」を説明する

 自由英作文の指導において大切なことは、どのように書けばいいのかを教えることです。ここでは、実際に僕が授業で使った教材で具体的に説明します。

次の英語で示された見解に対して、賛成、反対、

いずれかの意見を英語で述べよ。賛成の場合は

I agree with this ideaで、反対の場合はI disagree

with this ideaで書き出し、その語句を含めて50語

程度にまとめること。文はいくつに分けても構わな

い。

Railroad or bus companies should do away with

priority seating (seats for senior citizens and

disabled people) in train cars or buses.

(オリジナル問題文)

 授業ではまず、「PREPを意識せよ」と指導しています。下記それぞれの頭文字を取ったものです。

第1文:そのトピックセンテンス(Point)第2文:理由(Reason)第3文:例示(Example)や 肉付けの説明(Explanation)第4文:まとめ(Pointagain)

 ただし、これはあくまでも基本形です。今回は、50語程度で書く必要があるので、3文程度でまとめなければなりません。僕が板書したのは、以下です。

第1文:賛成/反対の意見を書く第2文:その理由を書く第3文:その理由に肉付けをする

 これを見ながら、生徒たちはノートに日本語でメモを書きます。メモを書き終えると、それを複数の友達に見せて自分のメモが「論理破綻」していないかをチェックしてもらいます。 次に電子辞書を出します。電子辞書であれば、英和、和英、英英といった複数の辞書を引きながら、表現力豊かな文章を書くことができます。入試本番では自分の知っている単語や表現しか使うことができないですが、普段の授業ではむしろ「知らないものを使え」と指導しています。そうしなければ語彙が増えませんからね。

できるだけ「覚えたもののまだ定着していないと感じる語」を使うように促します。

英作文指導で重要な4点

 生徒が書く間に、以下のようなことを板書します。

 ①書く前に必ずメモを取る ②1文10~15語程度で書け ③知らない語句(特に熟語)を使え ④書き終わったら読み込め

 ①については前述のとおりです。②については、あまり短いとクオリティーが低くなりがちです。5語や6語で終わらせるのではなく、関係代名詞や分詞、接続詞などを使ってできるだけ10~15語程度で1文を収める練習をします。③については、熟語や慣用表現を効果的に使うことで文章のクオリティーが上がり、印象の良い英語になります。僕が高2の2学期から『ユメジュク』を

使った帯活動をしているのはそのためです。そして④では、文構造や文法のミスなどがないか、客観的に文章を読みます。初期段階では特に、書いたものをグループワークにより回し読みさせます。 次に、僕が書いた文章を生徒たちに配付します。僕は必ず1つの問題に対して5つの文章(解答例)を作ることにしています。B5判の紙に①から⑤まで、5つの解答例を掲載したものを配付し、生徒たちは格付けランキングを行います。どの解答が一番点数が高く、どれが一番低いのか、点数を付けるのです。その後解説をしますが、どういった文章が良いものなのかを理解する目を持てれば、徐々にですが自分も評価の高い答案が書けるようになってくるのですね。 教師も与えられた問いに対して、良い答案や普通の答案、悪い答案を書く練習をしてみてはどうでしょう。それにより文章を書くスキルが上がっていきますし、指導の助けになるはずです。特に若い先生方、英語ができることとうまく書けることとは違いますので、ぜひトライしてみてくださいね。お互い頑張りましょう!

木村達哉先生

灘中学校・高等学校教諭。学校での授業に加え、学習参考書やエッセーの執筆に励む。英語教師を育てる意図で「英語教師塾」を立ち上げ、全国の中学校・高等学校での講演の他、福島・沖縄の教育支援を目的に高校生向け勉強会を開催するなど、教育活動に精力的に取り組んでいる。『新ユメタン』シリーズ(アルク)など著書多数。今秋には自身の最新の著書となる「夢をかなえるリスニングユメリス」シリーズ(学校専売品、アルク)計4タイトルを上梓した。

『新ユメジュク』(学校専売品、アルク)木村達哉監修・執筆

1週間、同じ80熟語を多角的なアプローチにより徹底反復することで、大学入試に必須の英熟語が完全に定着。CDの音声は「日本語(例文)」→「英語(例文)」の順で収録されており、例文ごと覚えることで英作文やスピーキング力もアップさせます。

11月刊行! 待望の改訂版

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「英文法総合問題集 ES」シリーズ(学校専売品、アルク)英語4技能の核となる中学〜高校標準レベルの英文法定着にとことんこだわった英文法総合問題集。問題は全てオリジナルで、シャッフル出題により、答えを推測させず「真の実力」を養成する。

恵比須大輔先生

子ども英会話講師、塾の英語講師、留学コーディネーターを経て、神戸と大阪で「やりなおし英語JUKU」(http://evinet.biz/)を主宰。「英文法総合問題集 ES」シリーズ(学校専売品、アルク)など著書多数。昨春、学生対象の「Evineの英語塾」(https://www.evinez-es.com/)を開校した他、最新の著書であり、自身のベストセラーの続編となる『Mr. Evineの中学英文法を修了するドリル2』を上梓。

作問例

第20回 関係代名詞what

4140

Stage01 文法的理屈で教える 直前の名詞の有無を決め手にするのが、文法上の見分け方のポイントですね。

 また関係代名詞自体は代名詞ですが、関係代名詞節は形容詞節として名詞を修飾する働きとなり、一方で関係代名詞 what の節は名詞節になるため what 節のカタマリで S / O / C の位置に入ることも押さえておきます。特に文頭にいきなり What を持ってくることが生徒は苦手です(作問例1参照)。

Stage02 場面とニュアンスで使い分けを意識させる 関係代名詞 what は普通の関係代名詞を用いた「the thing(s) which ...」で言い換えることが文法的に可能ですが、the のニュアンスが含まれていることに

出題のポイントと解答

 前号では関係代名詞の基本的な使用目的をお話ししました。今回は関係代名詞who / which / that とは使い方が異なる関係代名詞 what について説明します。生徒にとっては普通の疑問詞としての働きとどう違うのかも気になるところですね。それでは次の問題を生徒に解かせた後に、どのような解説をすればよいか考えてみましょう。 

適切な語を選び、完成した英文の日本語を考えましょう。

I didn’t get [ who / which / what ] she wanted.

1 日本語の意味になるように(  )に適切な語を入れましょう。ただし、短縮形は1語とします。

 「彼女たちがやろうとしていることは、そんなに難しくはありません」

(         ) they’re trying to do (       ) that difficult.

2 ほぼ同じ内容になるように、( )に適切な語を入れましょう。 (A)You need a secure USB flash drive. (B)(       )you need is a secure USB flash drive.

疑問詞か関係代名詞か

 直前の名詞の有無に注目させましょう。関係代名詞 who / which / that は直前の名詞(=先行詞)に説明を付ける働きですから、肝心の先行詞がなければ使えません。ところが what は前に名詞が不要です。文法的にはハッキリしていますね。では、疑問詞 what と関係代名詞 what に違いはあるのでしょうか。文構造における違いはまったくありません。どちらの場合でも代名詞として、S / O / C いずれかの部分を置き換える働きをし、訳し方が異なるだけです。今回の問題では2通りの解釈が可能なこともポイントですね。疑問詞であれば「何を〜」、関係代名詞であれば「〜なもの/こと」と訳します。まさに英文法も文脈が大切であることが分かりますね。

正解: what (日本語訳:「何を彼女が欲しいと思っているのか分からなかった(疑問詞)」または「彼女が欲しがっているものが手に入らなかった(関係代名詞)」)

「まず必要なのは英文法」をコンセプトに、スピーキングにつながる英文法指導を行っているMr. Evineこと恵比須大輔先生。本連載では、毎回テーマを決めて、英文法指導の要となる生きた例文提示や演習作成術をご紹介いただきます。

「関係代名詞節」のニュアンスを理解させる演習方法

問 題

 気づけば5年という長きにわたってコア英文法指導をテーマに連載してきましたが、今号で終了します。この連載では、理屈とニュアンスのバランスを大切にしてきました。今回の関係代名詞節も品詞的な理屈が定着を助けますが、2文を1文にくっつける作業演習ではなく、実際の場面を意識した演習をしない限り、運用力にはなりません。アウトプットさせる前提で教える、これが大切ですね。ありがとうございました。

まとめ

1関係代名詞 What 節“What they’re trying to do”を一つの S として用いたもの。文構造 SVC の中で正しく品詞を理解して、what 節と、それに対する be動詞を置けるかがポイントです。正解: What they’re trying to do isn’t that difficult.(ES【高校発展編】問題344番より)2 関係代名詞 what が need の目的語の働きをし、What ... need までが一つの主語。直前に先行詞がいらない分、すっきりとした表現になります。正解: What (日本語訳:(A)あなたには安全なUSBメモリが必要です。(B)あなたに必要なのは安全なUSBメモリです。)(ES【高校標準編】問題112番より)

普通の関係代名詞who/which/that

先行詞(名詞)あり

直前に説明したい名詞が必要

関係代名詞what

先行詞(名詞)なし

what自体に名詞the thing(s)が含まれる

注目です。つまり、特定の何かを指す響きになるため「何でも」構わないというニュアンスでは使えません。

I’ll get you what you need.(必要なものを手に入れてあげるよ) …what = the thing(s) which you needI’ll get you anything you need.(必要なものは何だって手に入れてあげるよ)…この意味ではwhatで言い換えNG

Stage03 運用力を養う what は間接疑問文としても関係代名詞節としても文構造が同じですから、まず間接疑問文として捉えれば中学レベルの知識で理解できます。さらに、意味が異なるといっても事実は同じことを言っているだけですので、難しく考えずに間接疑問文として慣れておくとスムーズに使えるようになります。Don’t you remember what I said?「私が言ったことを覚えていないの?」も「私が何を言ったのか覚えていないの?」も内容は同じ!

最終回

最終回

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4342

②反意①ためらい

④代案③理由

社会においては、文法が正しい英語を流ちょうに話せても、コミュニケーションがうまく成り立つとは限りません。話題や人間関係に応じて丁寧度を変える、アサーティブなインタラクションの技法を伝授します。ALTとのやり取りや、一歩進んだ言語指導にお役立てください。

[著 者] 愛場吉子/アーサー・ウィン[定 価] 1,900円+税[仕 様] A5判 208ページ  CD-ROM1枚(MP3音源63分)付き

※この記事は本書籍を再構成したものです。

『相手を必ず味方につける 英会話のロジック』(アルク)

これが「反対」の構成要素だ!

 「反対」の目的は、お互いにとってより有益だと思われる別の考え方を伝えることでしたね。前号で確認した「反対」の構成要素を振り返りましょう。

英語らしい「反対」を徹底分析!

Brie :Hi Yumi. I was just wondering if it’ll be

OK to let Jackie update the student list.

Yumi :【ためらい】O h , J a c k i e ? 【反意】I d o n ’ t

know about that. 【理由】You know, she

is still new here, and the file is really

confidential.

Brie :Well, I don’t think I can complete it by this

Friday without help.

Yumi :Actually, 【代案】I have a little free time

tomorrow, so I can take a look at it for you.

Brie :That’ll be great. Thanks, Yumi.

 仲の良い後輩Brieに反対する(人間関係:近)

Beth:Yumi. Would you mind asking Jackie to

update the student list?

Yumi:【ためらい】Well, 【反意】I don’t think she should

be the one responsible for that task. 【理由】

She is still new here, and the file has a lot

of really confidential material.

Beth :Yeah, you may be right. But everyone

already has a lot of tasks to complete.

Yumi :【代案】Actually, I have a little free time

tomorrow, so I can handle it.

Beth :That’ll be great. Thanks, Yumi.

 先輩Bethに反対する(人間関係:遠)

Case1(話題:軽)1年目の先生に責任の重い業務を任せるだって?

John:Hey Yumi. PTA members asked for

permission to access our servers so that

they can look at our project files. I was

thinking of letting them.

Yumi:【ためらい】Yeah, 【反意】but I don’t really think

that’s a good idea. 【理由】It’s a big security

risk to allow any third party to look at

sensitive data on our servers.

John :Hmm, I do see your point there.

Yumi:How about this? 【代案】We can work on a

secure website that gives them limited access

to only what they need.

John :OK, sounds good. Let me discuss it with

them.

 仲の良い先輩Johnに反対する(人間関係:近)

Mr. Dorr :Hey Yumi. I was thinking of letting

PTA members access our servers so

that you guys can work more efficiently

together.

Yumi :【ためらい】Well, 【反意】I’m not really keen

on doing that. 【理由】It’s just that giving

third parties that kind of access would

be a major security risk.

Mr. Dorr :Well, what are the alternatives?

Yumi :【代案】I think creating a secure website

that gives them limited access to only

what they need might be a better idea.

Mr. Dorr :Well, whatever you think is best.

◎主張を控えめにするためのさまざまな工夫 全構成要素で、かなり相手に配慮した表現が使われていま

す。“I’m not really keen on ...”(…にはあまり乗り気ではな

い)は、“really keen on ...”(…にとても乗り気である)を打ち

消す部分否定で、間接的に反意を伝えていることがうかがえま

す。理由や代案にも助動詞をうまく取り入れて、控えめな主張

にしています(would be a major security risk / .... might

be a better idea)。

 校長のMr. Dorrに反対する(人間関係:遠)

Case2(話題:重)PTAメンバーに校内サーバーへのアクセスを許す?

実践トレーニング

ケースの素材にメタルは向いていません

 あなたは一般企業に勤めています。上司は最近就任したばかりの人で、あなたに自社製品であるタブレットケースの素材について相談してきました。その上司は頑丈さを求める顧客の要望を知り、メタルはどうかと言っています。メタルは輸送するのに重すぎて付帯コストがかかることを理由に反対してください。また代案として、丈夫かつメタルの半分の重さのファイバーグラスを薦めましょう。    答えはこちら→

◎部分的に同意して即座に打ち消すYeah, but ... 全般的に率直な表現(“How about this?”など)が使われて

いますが、話題が重いだけに慎重さもうかがえます。ためらい

表現には、部分的に同意してすぐにbutで打ち消す “Yeah, but

...”(そうですね、でも…)が使われています。反意について

は、ぐっと抑えて相手へ配慮を示す “I don’t really think that’s

a good idea.”が使われています。こうした言葉選びが、相手と

の良好な関係維持につながります。

◎間接的な言い方でも意図は十分伝わる

 ためらい表現として、ここでは“Oh, Jackie?”と、Brieが出した名前を反復する方法を採っています。反意を表す際には、仲の良い後輩に対してでも “I don’t know about that.”という間接的な言い方をしていますね。これで反意は伝わりますし、比較的率直な表現です。構成要素全てが使われていて、良い展開で終わっています。

◎間接的な反意表現の代表、I don’t think  構成要素は後輩に話す時と同じですが、相手が先輩という

ことで、反意の表現が “I don’t know about that.”(それはど

うかな)よりも多少かしこまった言い方になっています。“She

shouldn’t be the one ...” と言うと非常に強い主張になります

が、 “I don’t think she should be the one ...” と伝えることで、衝撃を和らげることができます。

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アルク留学センターPresents

Vol.7 1年間留学プログラム

最終回

意見や行動に責任を持ち、他者の意見や思いを尊重することも大変重要視されます。今回の面談はA君に謝罪を求めるためのものではなく、何が悪かったのか、今後どうしていけばよいのか、という点をしっかり考える機会を持ってほしいという目的のもと開かれたものでした。しかし、未成年のA君にはそれほど簡単に理解できるものではありません。彼にしてみれば、今回の面談は先生が事を大きくしたように思えて仕方なかったのです。「頭では理解できるけれど……」という気持ちを抱えながら、A君はホームステイ先へ帰っていきました。

心の葛藤は「視野の広がる過程」

 その後も、日々の小さな出来事から、A君は「他者を尊重する」という考え方の違いに違和感を覚えることもあるようです。しかし、学校、ガーディアン、保護者は、A君自身の意見を聞きながら彼自身で深く考えるよう促し続けています。A君もまた日々の生活の中で少しずつ立ち止まりながら、他者の思いを考えると同時に自分と向き合う努力をしています。 こうした心の葛藤はA君だけでなく中長期の留学生の多くが経験することであり、それぞれに答えを見つけています。自分の気持ちや意見から他者に目を向け考えるこの葛藤の時期を、“視野が広がっていく過程”のようにも感じます。A君の留学生活は、現在も続いています。彼が今後どんな答えを見つけていくのかとても楽しみです。

ちを抱えていると、先生が教室に入っていく姿が目に入りました。A君は急いで先生のもとへ向かい、先生がドアを閉めようとした瞬間、足でそのドアを止めることで引き留めることに成功しました。これにより、音楽室を利用していたクラスメートは当日音楽のテストがあり随分前から練習の許可を取っていたことが分かりました。しかし、この何げないA君の行動がこの後大きな問題となってしまいます。

三者面談を受けるも、心に残ったわだかまり

 足でドアを止めるという行動が問題視されたA君。その場できちんと謝罪の言葉を述べましたが、話はそこで終わらず、学校から三者面談の呼び出しを受けることになってしまいました。翌週、A君は留学中のガーディアン(後見人)である日本人女性と共に面談に出席。学校側からは、当事者である音楽の先生に加え、学校で問題が起こった際に客観的な立場から問題解決を行う仲裁専門のスタッフが出席しました。面談では、問題点を注意されるのではなく双方の考えや思いをお互いに伝える時間が与えられ、A君は自分の行動に非があったことを認め、真摯に自分の考えを伝えました。最終的に仲裁役

ふとした行動でぶつかった壁

 留学生活では、異文化の壁にぶつかることは珍しいことではありません。“食事が口に合わない”というのは、とても分かりやすい代表的な例です。しかし、留学生活で体験する本当の意味での異文化の壁は、日々の生活の些細な出来事に潜んでいて、なかなか気づきづらく理解に苦しむものも多くあります。今回は、ニュージーランドの高校で1年間留学中の高校1年生のA君がぶつかった異文化の壁と葛藤をご紹介します。

 留学して半年以上が経ち、A君は学校やホームステイ生活にもすっかり慣れ、楽しい留学生活を送っていました。もちろん英語に苦戦することもありましたが、授業以外にも得意なピアノの演奏を練習するなど、何事にも精力的に取り組んでいました。そんなある日、テスト期間中のため昼休みの音楽室の使用が禁止されていた週に、クラスメートが利用している姿を目にしたA君は、もしかしたら練習可能になったのかもしれないと、自分も使用許可を取るため音楽の先生のもとへ向かいました。しかしなかなか先生が見つからず、A君は焦る気持

より、悪気のない行動でも自分の話し方やタイミング、行動で相手を尊重した行動かそうでないか異なる印象を与えてしまうこと、それを念頭に責任を持って考えて行動できるようになろうというアドバイスを受け、面談を終えるかたちとなりました。自分の間違いを理解できたA君でしたが、少し心にモヤモヤを抱えることになります。

日本流「空気を読む」は通用しない?

 今まで経験したことのない状況に加え英語での面談という緊張状態から解放されたA君は、面談後のガーディアンとの会話の中で率直な気持ちを話し始めました。その場で自分の非を認めしっかりと謝罪をしたにもかかわらず、面談までの大きな問題に発展してしまったのはなぜなんだろう? という驚きと疑問がA君をモヤモヤさせていたのです。ニュージーランド在住歴の長いガーディアンは、A君にニュージーランドと日本の考え方や教育方針の違いを説明しながら今回の面談の意味を伝えました。 日本では、“空気を読む”という表現があるように、他者の考えをくんで行動することがあります。しかしニュージーランドでは、幼い頃から自分の思いや意見はしっかりと伝えるというのが一般的であり、学校でも自分の意見を伝える教育がなされます。その反面、自分の

近年、高校生の留学が身近になってきていますが、そもそも留学したら何ができるのか、また、生徒たちの未来に、どのような影響を与えるのでしょうか。

さまざまな形で留学した生徒たちの体験と成長の軌跡を追い掛けます。ぜひ、留学希望の生徒さんへのアドバイスにお役立てください。

取材・文_アルク留学センター

生徒や先生の留学をサポート 

アルク留学センターTEL:03-3556 -1325(月~土 10:00~18:00)

E-Mail:jr-study@alc. co. jp

お問い合わせに際し、下記の内容をご提示いただけますと、その先のご案内がスムーズになります。①ご希望の渡航期間 ②ご希望の渡航国 ③ご希望のプログラム内容④ご予算 ⑤ご希望の参加人数(団体の場合)

※各国の法律や規則にのっとってのご案内となりますので、専門性の高いものに関しましては、 全てのご希望にお応えできかねることもありますのでご了承ください。

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第2回 スピーキング[やり取り]の評価②

に当てる時間(チャットの時間)を1人のときよりも長く設定することができます。 パートナーとなる生徒を替えて、違う話題で2回の評価機会を設ければ、話し相手や話題の影響が減り、より信頼性の高い評価となります。欠点は評価時間が2倍になることです。2分間、同じパートナーで話させるのならば、設定時間を1分間とし、違うパートナーと違う話題で話させることも考えてみてください。 評価項目によっては、2人ではなく、3人以上の生徒同士に話させてもよいでしょう。例えば、「話す順番を得る」「他の人に話題を振る」「話題を切り出す」などを評価したいのならば、2人よりも4人くらいが適切な人数となります。

主に指導したことを評価のポイントに

 やり取りの評価では、発話する英語の正確さや流ちょうさを評価項目にすることはもちろん可能です。さらに、授業で指導したことを評価のポイントにすることも考えられます。

[評価項目の例]

・相手の質問に対して情報を加えて応答できる・相手の言ったことに対して適切な質問ができる・適切な相づちを打つことができる・相手の言ったことを確認できる・例を挙げたり言い替えたりできる・十分な情報を伝えることができる(発話量)

“授業が上手”なだけでなく“評価が上手”な教師は、生徒のやる気を引き出し、英語力を高めることができます。そこで、先生方からよくいただく評価に関するご質問に対して、千代田区立九段中等教育学校の本多敏幸先生にお答えいただきます。

活動中は生徒全体を観察する

 生徒が一斉に話している場面では、個々の生徒のパフォーマンスを評価するのは不可能です。もし行うのであれば、1回の活動で評価する対象の生徒を決めるしかないでしょう。クラスサイズがかなり小さければ可能かもしれませんが、普通のクラスサイズ(20〜40名)では、平等な評価はできません。評価が長期間にわたってしまい、生徒の状況が最初の頃と最後の頃では変わってしまうからです。そもそも、授業中に対象生徒を評価しようとしても、他の生徒が気になり、評価するどころではないと思います。 ただし、「外国語表現の能力」の観点では評価できなくても、「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」の観点では評価できます。相手とコミュニケーションを取ろうとしているかについては、観察をすれば評価できるからです。 では、生徒が一斉に話しているとき、教師は何をするべきでしょうか。それは生徒の話す英語に耳を傾けることです。生徒の間を歩きながら、活動後のフィードバックのための材料を探します。複数の生徒に共通する誤り、全員に紹介したい表現、上手な会話技術の使い方な

どの例を集め、次の活動に役立つフィードバックを生徒全体に行います。評価のために指導が疎かになるようでは本末転倒でしょう。

やり取りの評価は生徒を取り出して

 話すこと[やり取り]では、授業はパフォーマンスの質を上げるための指導の場、評価は生徒を取り出して行うと割り切るとよいでしょう。では、生徒を取り出してのパフォーマンステストの例を紹介します。 やり取りは即興で行われるため、話し相手や話題などに左右されます。話しやすい相手で自分が得意な話題であれば高い評価が得られる可能性があります。 チャットの活動をやり始めたばかりの生徒であれば、あらかじめ話題を生徒に伝えておくとよいかもしれません。即興的な発話とはならない部分がありそうですが、パフォーマンステストに向けて事前に練習するという良い波及効果が期待できます。 話し相手については、教師(またはALT)か生徒同士のどちらかになるでしょう。教師であればやり取りをコントロールできるので、ある程度平等に評価できます。生徒同士であれば、2人を同時に評価できるので、評価

本多敏幸先生

千代田区立九段中等教育学校指導教諭。東京学芸大学大学院教育学研究科英語教育専攻修士課程修了。文部科学省中央教育審議会専門委員、ELEC同友会英語教育学会会長などを務める。平成19年度に文部科学大臣優秀教員表彰を受ける。『即興スピーキング!』(学校専売品、アルク)など著書多数。

 評価項目は事前に生徒に伝えましょう。何をどう評価するのかを知らせることで、生徒はそれを意識したパフォーマンスを行うことができます。 もう少し具体的な例を示します。生徒同士に90秒間のチャットを行わせ、「発話の正確さ」「適切な相づち」「適切な質問」の三つを評価する場合の評価シートの例です。

 「発話の正確さ」は3点満点で評価します。ほぼ正しく相手に誤解を与えない発話であれば3点を付けます。「適切な相づち」と「適切な質問」では、これらが見られたらチェックを行い、それぞれ1点で評価します。合計5点満点で点数化します。 話すこと[やり取り]の評価では減点方式は向きません。話すことは生徒にとって難しい技能なので、厳しい評価をして生徒の意欲をなくさないようにしましょう。

帯活動でチャット(口頭での即興のやり取り)を行っています。生徒はだいぶ話せるようになってきました。「話すこと」を評価するために、ALTに、個々の生徒とのチャットを評価してもらっています。評価項目は流ちょうさと正確さの二つです。本多先生は授業中にもチャットの評価を行っていますか。また、他にどんな評価方法があるか教えてください。

今回のお悩み

『即興スピーキング!』(学校専売品、アルク)本多敏幸 著

授業の帯活動など短い時間でできるインタラクティブなタスクを豊富に収録。新入試で求められるスピーキング力を養成します。

授業用ワークブック詳細・見本

生徒名 正確さ 相づち 質問 合計

安藤美和大塲浩平

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 生徒のはつらつとした自己表現を引き出すには、受容的なクラスカルチャーが不可欠です。今回の授業では、聴衆から発表者の不安をあおる行為が見られました。こうした場面を防ぐには、クラスに一定のルール(group norm)が共有される必要があります。発表時の聴衆の心構え(聞く姿勢、支え合う態度)を意識させた上で活動を実施することが大切です。教師には生徒の自己イメージを保護し、自己効力感を高める心掛けが必要。そうしなければどんな技術も有効性を失ってしまいます。動機を維持するポイントとして、伊是名先生が投げた課題は創造的で、協力的かつ良い意味で競争的でもあります。さらに、学校改革案という自分ごとへの転換(personalization)を図り、期待価値を高めるタスクデザインを見事に行っています。発表後、教師や仲間から効果的なフィードバックが加わり、成功感覚を得ることで、生徒たちはポジティブな自己イメージを強化します。これにより、自信を蓄え、言語不安を軽減し、次の課題にも意欲的に取り組む態度を強化するのです。動機づけの観点からは、この正のサイクルをいかに構築するかが鍵となります。学習者心理の点から、大変示唆に富む実践報告でした。

動機づけの技術

生徒の“心”に 火 をつける!

 その23 社会論の指導例

順天中学校・高等学校の和田玲先生とその研究チーム「例の会」との共同研究から生まれた実践例。生徒の感性をいかに刺激し、はつらつとした自己表現へと導くか。徹底した議論と手直しを繰り返して磨き上げた珠玉の指導案です。

今回の授業者:伊是名 希(鎌倉学園中学校・高等学校 教諭)

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監修 和田 玲先生の総括

city council?” 「議員でしょ」と生徒は返答。“We usually think so. But everybody can be a member of the city council, like post officers, nursery teachers, your father and mother. Many kinds of people give some ideas what kind of service they need and have changed their society.” デンマークの市議会は、いろいろな職業の方が参加できるよう夕刻から始まります。当事者がかかわり、意見を出し合うことで、市民が身の周りの小さな社会から変えていきました。実際、電車には、自転車、ベビーカー、車いすを利用する人々のための専用車両も存在します。その写真をスライドで見ながら、一般市民の「こうあったらいいな」の発想がスムーズに反映されている社会であることを生徒は知ります。

Output ― 自分たちも社会を変えられる!

 ここから自分ごととして生徒自身の「社会」である学校について考えてもらいます。“What can we do for our future? Make things better to share happiness with everyone.” こう問い掛け、Change our school !と題し、自分たちの学校について改善したいところを各自1分間でプレゼンテーションするOutput課題を与えました。素晴らしいプレゼンは、生徒からの学校改革案として、生徒会や職員に意見書の形で私から提出するとも伝えました。 それでも、スピーチは初めての経験なので戸惑う生徒がたくさんいました。そこで、過去に撮影した先輩のスピーチをモデルに見せたところ、今までになく静かに動画を凝視。「俺も頑張ればできるかも」と少しモチベーションを上げ、原稿に向かい始めました。 “I want our school to make more chances to interchange other school students.” “I want our school to use iPad more to tell student’s ideas.” “I really want you to change the amount of homework.”(←私にも意見をもらいました)などなどアイデアはさまざま。その後の発表で、いつもはおとなしく人前に出たがらない生徒が、クラスメートの声援を受けて最後まで暗唱できたときの一体感は、まるで試合時間残り数秒で逆転ゴールを決めた選手を抱擁するかのようでした。

 中学3年生を対象に、幸せを形にするために自分たちができることの考察・実践を目指しました。

Introduction ― そんな国あるの?

 “What country is this? People must not teach letters under six. And teachers don’t give exams to students under 13. Have a guess.” アジアからヨーロッパまでさまざまな国名が飛び交います。“I’ll give you a hint. This country ranks the highest in the world happiness report!” ここで生徒たちは北欧の国々を挙げ、答えのデンマークにたどり着きます。

“Their education fees are all free from elementary school through university. Why could they realize this system?”と問い掛け、リスニングへ導入します。

Jump ― 社会を変えているのは誰?

 本文理解、音読活動の後、第8文目に着目。「国政に参加するってどういうこと?」。生徒たちは「選挙!」と口々に即答。「でも日本の投票率は低いし、団結感につながるなんてどういう感覚だろう?」。 そこで、コペンハーゲンにある市議会の写真を見せます。“Who do you think can be a member of this

 しかし、Outputがうまくいかなかったクラスも一つだけありました。あがり症で口ごもる生徒に不必要な発言を投げ掛けた生徒数人を私が一喝し、自由な発表の場に緊張感を生んでしまいました。Outputの成功は教室の空気感に大きく影響します。授業後、その生徒たちと冷静に話す時間を設けました。何かトラブルがあったときは、生徒とじっくりと向き合うチャンスです。 今回の授業を通して再認識したことは、表現活動は生徒から新しい視点をもらうのと同時に、ライブ感覚で異なる意見を交わす楽しさがクラスのカラーをつくるということです。同じ空間にいながら周りの意見と違っていてもよい。他者とアイデアを共有し、自分の意見を受け入れてもらう空間が自己肯定感につながると、学ぶ意欲も自然と湧いてくるはずです。1クラス40名以上の環境では活動が難しいと感じることもありますが、生徒がつくる一体感はそのクラスでしか味わえません。日々山あり谷ありですが、彼らの個性を見つけ、それを愛し、対話できる距離感を保ちながら、成長を見守りたいです。

伊是名 希先生

鎌倉学園中学校・高等学校教諭。上智大学文学部英文学科卒。英語教師である父に影響を受け教員になる。勤務校初の女性教諭として教壇に立ち、最初の数年間は生徒との距離感に悩む。現在は生徒と共に活動を楽しみ、学習意欲が自然と湧く授業デサインを模索中。趣味は居酒屋のはしご。

Denmark, the Happiest Country in the World.

①Some statistics have shown that the people of Denmark are the happiest in the world. ②The secret to their happiness has been attributed to the ample social welfare system called the“Scandinavian Model.” ③In this plan, the government provides its citizens with free maternity coverage, free medical care, and free funerals. ④In addition, they don’t have to pay education fees from elementary school through university, and they will be financially supported when they lose their job. ⑤All of these services relieve Danes from everyday financial worries, and promote good health. ⑥Of course, Danes pay for all of this social welfare through very high taxation. ⑦However, the people don’t feel uncomfortable with this situation. ⑧They don’t have much money individually, but they feel they are participating in the national administration, and this gives them a sense of togetherness. ⑨Probably this is what leads them to feel happy.

和田 玲『アクティブ・リーディング Basic』(学校専売品、アルク)、Lesson 7

最終回

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CASE 11 「実践体験型PBL」の 先にあったもの

松井さん もちろん苦い思い出もいっぱいありますけどね。偶像崇拝禁止のイスラム教徒のゲストを寺に連れていったり、宗教上豚肉が食べられないと知らずにラーメン屋を案内したり。英語はできるようになっても、ガイドとしては成長できていないなと落ち込んだものです。飯塚先生 僕も最初は、英語ができる=いいガイドだと思い込んでいて、そうじゃないことに気づき始めたのは、おそらく光起たちと同じ頃だったんだよ。英語ができる以上にゲストを喜ばせたい、幸せにしたいという気持ちが強いことがいいガイドの条件なんじゃないかと思うようになった。英語力以外に生かせるものはたくさんあるし、生徒それぞれの良さがツアーの中で出れば、全員が素晴らしいガイドになるんじゃないかって。僕もみんなのガイドを見ながら一緒に学んでいったんだよ。

活動が自分たちのものになっていく

松井さん 例えば外国人留学生に話しかける勇気だったり、難しい表現を使わなくても伝わるように話すというテクニックだったり、ガイドの活動が今に生きていると感じることはたくさんあります。でも、最も役立ってい

共につくり上げた鎌倉観光ガイドの活動

飯塚先生 光起はESSで鎌倉観光ガイドをするようになった一期生。まさに一緒に活動をつくり上げた代だね。松井さん 僕は高校で入学して、最初の担任が飯塚先生で、ESSに興味を持ちました。将来海外に行きたいというぼんやりした自分の将来像とつながっていたので。飯塚先生 ESSの活動として何をするかを考えた時に、せっかく学校が鎌倉にあるわけだし、地の利を生かした実用的なことができないかなーと考えたんだよね。そんな時に、外国人向けの鎌倉観光ボランティアガイドの存在を知って、よし、これを部活にしよう! と。 最初にガイドに行った時のことは覚えてる?松井さん 最初の日は確か、自分から声を掛けることはできずに終わったんですよね。初対面の外国人、しかも出身国すら分からない人に声を掛けにいくという行動自体がハードルが高くて。その前1カ月ぐらいかけて、看板を作ったり、観光名所を案内するための原稿をつくったり、準備万端なつもりだっただけに、悔しくて。飯塚先生 飛び込む勇気が足りなかった。松井さん それに加えて、英語力。それと、案内する上

での前提知識。この2点を補う必要があると強く感じました。それから自分なりに工夫をして、初めて「言いたいことが言えた、理解してもらえた」という手応えのようなものを感じたのは、2年の夏か秋だったと思います。 案内後にゲストのSNS投稿やメッセージを見て、本当に楽しんでくれたんだな、というのが分かった時は、本当に嬉しかったですね。でもそれは、自分以外のメンバーの力もあってこその成果で、グループだからこそ得られた達成感も大きかったです。

「英語ができる=いいガイド」ではない

飯塚先生 光起たちのグループは、ESSの活動時間以外、休日なんかにも皆で下調べに行ったりしてたよね。なんでそこまで積極的になれたんだろう。松井さん 今思うと、活動に学びが多いことに気づいていたからだと思います。グループ全員が難関校と呼ばれる大学を志望していたけれど、活動に時間を割くことに何の抵抗もなかった。活動が英語の受験勉強にもなっているのを感じていた気がします。飯塚先生 実際みんな合格を勝ち取ったしね。

学びの「その先」に広がっていた景色をテーマに、学びを終えた生徒から話を聞き、授業を担当した先生に、当時の実践を振り返ってご紹介いただきます。今回は「部活動での観光ガイドの実践」を振り返ります。

取材・文_古賀亜未子 撮影_島﨑信一

「ESSでの鎌倉観光ガイド」

 鎌倉学園高等学校のESSでは、鎌倉を訪れる外国人観光客のための鎌倉案内を行っている。活動は平日1日と土曜日の週2回。月に1~2回は鎌倉駅前に立ち、希望する外国人観光客にガイドツアーを行う。顧問の飯塚先生が、部員たちが英語で「おもてなし」をする様子をつづった本誌連載(「鎌倉男子のアウトプット活動実践記」2019年秋号まで)も好評を博した。松井さんは高校に入学した2015年から3年間活動に取り組んだ。

飯塚直輝先生

松井光起さん

鎌倉学園中学校・高等学校 教諭

慶應義塾大学2年

生徒たちの

ガイドの様子から

僕も学んでいきました

自分で考え

研究や仕事を進める

流れが身に付きました

飯塚先生がESSで使っていた生徒のインタラクションの力を伸ばすテキスト『即興スピーキング!』(学校専売品、アルク)

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 実は1年生の間は英語の成績が振るわず、苦しんだこともありました。ところが2年生になってからESSの活動に本気で取り組むようになると、成績が急上昇。試験の英語比率が高い、現所属の大学・学部に合格できるまでの力を付けることができました。 対談でお話ししたとおり、ガイドの活動で、自分たちで考え、自分たちで実行するという経験を繰り返したことで、仮説を立て、検証して、実行に移し、成果を出すという「流れ」が身に付いたことが大きかったのだろうと感じています。 大学に入ってから、毎日膨大な量の英語論文を読んでいますし、受講して

ると思うことは、「こうやったらうまくいくんじゃないかな」と仮説を立て、調べてみて、実行して、成果を出すという「流れ」で活動した経験です。この流れは大学の研究の基本でもあるし、今、インターンシップで働いてもいるんですが、仕事の基本でもあると感じます。飯塚先生 最近になって、ESSの観光ガイドのような活動は、PBL(プロジェクト型学習)と言われて注目されるようになったけど、本来こうした「流れ」は、人が何かやりたいことがある時に自然と出てくるものだと思うんだよね。教師が目標をつくって筋道を立てるものじゃない。大事なのは、生徒たちがどう思うかということで、それをそのまま認めることなんじゃないかと。 実際僕は活動に一切口を出さないようにしていたのに、気がつくとみんなが主体的に動いていた。結果論かもしれないけど、自分たちで考えて自分たちでできる、という状況があったことで、活動が自分たちのものになっていったのかな、と。

松井さん 確かに先生の介入度は少なかったですよね。飯塚先生 ツアーに同行して、誰かが英語が分からなくて困っていても、カメラを構えてニヤニヤ見てるだけだったからね(笑)。僕は、失敗ができることこそが、鎌倉観光ガイドの活動の価値だと思っているから。松井さん あえて失敗させて、何が駄目だったのかを考えさせてくれていたんですよね。それによって次へのモチベーションが高まっていたわけだから、指導されていないようでありながら、導かれていたのでしょうか。飯塚先生 いやいや、本当にみんなが好きなようにやっていたのを見ていただけだよ。 今日光起には久しぶりに会ったけど、いい顔になったね。大学でよく勉強していること、しかも、誰かにやらされているんじゃなくて、興味を持って楽しんで学んでいるのがよく分かる。そのオーラというか、佇まいがカッコいいよ。これからも本気でやりたいと思うことを突き詰めていってください。

いる講義では英語を使うことも多いです。大変ではありますが、将来やりたいこと、なりたい自分のために、必要だと判断し、自ら英語に漬かりにいっているわけですので、苦ではありません。こうした考え方ができるようになったのも、やはりガイドでの経験があるからこそだと思います。 飯塚先生に「今の自分があるのは先生のおかげといっても過言ではありません」と言ったら大げさだと笑われましたが、実際、ESSの活動がなかったら、今の大学にも行けていないと思いますし、今の全てにつながる「きっかけ」を与えてくださったのは飯塚先生です。本当に感謝しています。

対談を終えて 飯塚先生へ

松井光起さん鎌倉学園高等学校卒業。慶應義塾大学環境情報学部2年生。高校時代は、ESSの活動に加えて、サーフィンにも本格的に取り組んでおり、現在、両方の力を生かして、インターンシップでワールドサーフリーグ(WSL)の仕事にも従事している。