画像センサーを利用したレーザー回折法による簡易...

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画像センサーを利用したレーザー回折法による簡易粒径計測システムの改良について Improvement of The Laser Diffraction Based Drop-sizing System Which Utilizes Image Sensor ○正 鈴木 孝司(豊橋技科大) 原瀬 聖史(東芝キヤリア) Takashi SUZUKI, Toyohashi Univ. of Tech., 1-1 Hibarigaoka Tempaku-cho, Toyohashi 441-8580, Japan Kiyofumi HARASE, TOSHIBA Carrier Corp., 336 Tadehara, Fuji 416-8521, Japan Key Words: Spray, Drop-sizing, Drop-Size Distribution, Laser Diffraction, Mie-Scattering, System Development 1.はじめに 噴霧流は内燃機関をはじめ様々な工業機器内部で見られ, その諸特性はこれらの機器の性能に密接に関連している.こ のため噴霧液滴の粒径や速度を測定するレーザー計測機器 が開発されてきたが,それらは一般に高価である.研究者が 気軽に利用し得るツールを用意しておくことも有効であろ う.このような観点から著者らは,噴霧の平均粒径を測定す る低価格で必要最低限のシステムとして簡易粒径計測シス テムを開発し,大学・高専の研究者向けに公開してきた (2)(3) このシステムはレーザー回折法の原理 (1) に基づく粒径計測 装置で,汎用部品のみで構成され,粒子からの散乱光の光セ ンサーとしてカメラの画像センサーを利用している.しかし, このシステムには後述するような問題点もある.これらは主 に測定用レーザー光束の集光点の光強度が強いことに起因 する.前報 (4) において画像センサーの表面にレーザー光束の 集光点を覆う遮光板を設置することで問題を解消できるこ とを示した.本報では改良したシステムを紹介すると共に測 定例を示す.また,さらなる改良の案についても言及する. 2.粒径計測システムの概要 まず,レーザー回折法による粒径計測の基本原理について 簡単にまとめておく.粒子に平行光束を照射すると回折現象 により光散乱が生じる.空気中の水滴に波長λ のレーザー光 束を照射した場合の散乱光の強度 I Fig.1(a)に示すように 散乱角θ(レーザー光束となす角)により大きく変化する. また,この散乱光強度分布は Fig.1(b)に示すように粒径 d 強く依存するので,これを測定すれば d が逆算できる.この 原理に基づく計測装置の基本構造を Fig.2(a)に示す.図のよ うに測定用レーザー光束の光軸上に凸レンズを設置し,その 焦点距離 f の位置にスクリーンを置くと,レーザー光束はそ の中央の点に集光し,レーザー光束上にある粒子からの散乱 光のうちθ 方向への光は集光点を中心とする半径 r の円環に 達する.この半径 r は粒子の位置には無関係で,θ が小さい 場合には近似的に r = f θ となる.レーザー光束上に複数の粒 子がある場合,得られる散乱光強度分布は全ての粒子からの 散乱光強度分布を合成したものになるので,これを分析すれ ば光束上の粒子の粒径分布粒径毎の頻度が得られる. レーザー回折法の原理に基づく市販の粒径計測装置では Fig.2(a)のスクリーンの位置に置いた同心円状に複数の光検 出部を持つ専用の光センサーで光強度分布を測定している. 本システムでは,産業用小型 CMOS カメラの画像センサー Epix SV9M001, Monochrome 10bit 階調で散乱光の像を 記録している.画像センサーの輝度ダイナミックレンジが足 りないので,露光時間の異なる複数の画像を合成することで 階調数の大きい画像とし,これから散乱光強度の半径方向分 布を得ている (2) .しかしながら,このような工夫でもまだ輝 度ダイナミックレンジが不十分で,レーザー光束の集光点近 傍で光センサー出力が飽和するため,光束の透過率 T を厳密 に評価できない.また,光センサーの素子表面で集光したレ ーザー光が乱反射し,カバーガラスに反射して再び素子に入 って光学的ノイズとなる.このような問題を解消するため, Fig.2(b)に示すように,画像センサーのカバーガラスの表面に レーザー光束の集光点を覆うように遮光板を設置すること にした (4) .遮光板としては直径 140μm の中実円をプリントし た透明フィルムマイクロフィルム化技術で作成を用いた. Fig.1 Intensity distributions of the scattered light from water particle in laser-beam. Fig.2 Optical setups for laser-diffraction based drop-sizing system.

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画像センサーを利用したレーザー回折法による簡易粒径計測システムの改良について

Improvement of The Laser Diffraction Based Drop-sizing System Which Utilizes Image Sensor

○正 鈴木 孝司(豊橋技科大) 原瀬 聖史(東芝キヤリア)

Takashi SUZUKI, Toyohashi Univ. of Tech., 1-1 Hibarigaoka Tempaku-cho, Toyohashi 441-8580, Japan Kiyofumi HARASE, TOSHIBA Carrier Corp., 336 Tadehara, Fuji 416-8521, Japan

Key Words: Spray, Drop-sizing, Drop-Size Distribution, Laser Diffraction, Mie-Scattering, System Development

1.はじめに 噴霧流は内燃機関をはじめ様々な工業機器内部で見られ,

その諸特性はこれらの機器の性能に密接に関連している.こ

のため噴霧液滴の粒径や速度を測定するレーザー計測機器

が開発されてきたが,それらは一般に高価である.研究者が

気軽に利用し得るツールを用意しておくことも有効であろ

う.このような観点から著者らは,噴霧の平均粒径を測定す

る低価格で必要最低限のシステムとして簡易粒径計測シス

テムを開発し,大学・高専の研究者向けに公開してきた(2)(3).

このシステムはレーザー回折法の原理(1)に基づく粒径計測

装置で,汎用部品のみで構成され,粒子からの散乱光の光セ

ンサーとしてカメラの画像センサーを利用している.しかし,

このシステムには後述するような問題点もある.これらは主

に測定用レーザー光束の集光点の光強度が強いことに起因

する.前報(4)において画像センサーの表面にレーザー光束の

集光点を覆う遮光板を設置することで問題を解消できるこ

とを示した.本報では改良したシステムを紹介すると共に測

定例を示す.また,さらなる改良の案についても言及する. 2.粒径計測システムの概要

まず,レーザー回折法による粒径計測の基本原理について

簡単にまとめておく.粒子に平行光束を照射すると回折現象

により光散乱が生じる.空気中の水滴に波長λのレーザー光

束を照射した場合の散乱光の強度 I は Fig.1(a)に示すように

散乱角θ(レーザー光束となす角)により大きく変化する.

また,この散乱光強度分布は Fig.1(b)に示すように粒径 d に

強く依存するので,これを測定すれば d が逆算できる.この

原理に基づく計測装置の基本構造を Fig.2(a)に示す.図のよ

うに測定用レーザー光束の光軸上に凸レンズを設置し,その

焦点距離 f の位置にスクリーンを置くと,レーザー光束はそ

の中央の点に集光し,レーザー光束上にある粒子からの散乱

光のうちθ 方向への光は集光点を中心とする半径 rの円環に

達する.この半径 r は粒子の位置には無関係で,θ が小さい

場合には近似的に r = f θ となる.レーザー光束上に複数の粒

子がある場合,得られる散乱光強度分布は全ての粒子からの

散乱光強度分布を合成したものになるので,これを分析すれ

ば光束上の粒子の粒径分布(粒径毎の頻度)が得られる. レーザー回折法の原理に基づく市販の粒径計測装置では

Fig.2(a)のスクリーンの位置に置いた同心円状に複数の光検

出部を持つ専用の光センサーで光強度分布を測定している.

本システムでは,産業用小型 CMOS カメラの画像センサー

(Epix 社 SV9M001, Monochrome 10bit 階調)で散乱光の像を

記録している.画像センサーの輝度ダイナミックレンジが足

りないので,露光時間の異なる複数の画像を合成することで

階調数の大きい画像とし,これから散乱光強度の半径方向分

布を得ている(2).しかしながら,このような工夫でもまだ輝

度ダイナミックレンジが不十分で,レーザー光束の集光点近

傍で光センサー出力が飽和するため,光束の透過率 T を厳密

に評価できない.また,光センサーの素子表面で集光したレ

ーザー光が乱反射し,カバーガラスに反射して再び素子に入

って光学的ノイズとなる.このような問題を解消するため,

Fig.2(b)に示すように,画像センサーのカバーガラスの表面に

レーザー光束の集光点を覆うように遮光板を設置すること

にした(4).遮光板としては直径 140μm の中実円をプリントし

た透明フィルム(マイクロフィルム化技術で作成)を用いた.

Fig.1 Intensity distributions of the scattered light

from water particle in laser-beam.

Fig.2 Optical setups for laser-diffraction based drop-sizing system.

このような工夫により改良した新しいシステムの外観を

Fig.3に示す.光学系は汎用の光学部品類で構成されている.

Fig.3 An appearance of newly developed drop-sizing system.

Fig.4 Optical transmittance of variable-density-filter.

Fig.5 Results of test measurements of reticle film

with many circular dots of uniform diameter.

Fig.6 Sauter mean diameter of spray droplet formed by

breakup of radial liquid film of impinging two liquid jets.

画像センサーを制御して画像を記録し,画像より散乱光強度

の半径方向分布を求め,それを基にレーザー光束上の粒子の

粒径分布を計算する PC コードもこれに合わせて開発した. 3.測定例 まず,前のシステムでは必ずしも厳密に評価できなかった

測定用レーザー光束の透過率 T(光束集光点での光強度)を

調べてみた.レーザー光束上に回転式可変濃度フィルターを

置き,新システムで T を測定した結果をフィルターの透過率

の計算値(光学濃度から算定)と比較して Fig.4 に示す.図よ

り,T の測定値は計算値と良く一致している.若干のずれは,

レーザー光束の断面(φ12mm)内でのフィルターの濃度変化

が大きいために生じた透過率の計算値の誤差と考えられる. 次に,Fig.5(d)に示すような同じ径の中実円を多数プリント

した透明フィルムレチクル(マイクロフィルム化技術で作

成)を測定してみた.中実円径が 397.8μm のレチクルの場合,

得られた粒径分布には Fig.5(a)に示すように円直径に対応す

る粒径のピークがあり,ザウター平均径 D32の測定値も円直

径とほぼ一致していた.中実円径が 81.5μm のレチクルの場

合も D32は円直径とほぼ一致していたが,Fig.5(b)に示すよう

に粒径分布のピークの裾が大粒径側に広がっていた.これは

プリントされた中実円の輪郭が必ずしも鮮明でないためと

考えられる.397.8μm のレチクルと 81.5μm のレチクルを2

枚重ねて同時に測定した場合も,Fig.5(c)に示すように粒径分

布に両者に対応する粒径のピークがみられ,本システムで多

分散粒子の平均径や粒径分布の測定が可能なことがわかる. 次に,液体噴流同士の正面衝突で形成した放射状液膜噴流

の分裂によって生成された噴霧の粒径を測定してみた.結果

を Fig.6 に示す.このような噴霧では液体噴出ノズルの孔径

で正規化されたザウター平均径 D32/d がウェーバー数 We の

増加と共に小さくなることが従来の研究(5)により示されて

いる.今回の測定結果でも,Fig.6 に示すように表面張力が

小さいシリコンオイル#10 の場合と表面張力が大きいプロピ

レングリコール水溶液の場合で結果に差異が見られず,また

Weの増加に伴うD32/dの減少傾向は従来の実験相関式と良く

対応している.これらの結果や前報の試行計測の結果から,

本システムは噴霧の平均径や粒径分布の評価(条件変更に伴

う特性変化の分析)に利用できるものと考えられる. 改良した新しいシステムも画像取得・粒径分布演算の PCコードに光学系構成図や導入説明書を添えて大学・高専の研

究者向けに公開している(問合せ先=第 1 著者).旧システム

で見られた不都合が大幅に解消されたものの,残念ながら新

システムは光学系の調整に若干の熟練を要するようになっ

た.測定用レーザー光束を光センサーの素子表面に集光させ

た状態ではカバーガラス表面(素子表面までの光路=約 0.7 mm)に設置した遮光板の像がぼやけていて,遮光板の中心を

光束の集光点に合わせる調整が容易でないためである.この

問題を解消するため,現在さらなる改良を進めている.Fig.2 (c)に示す仮想焦点面に遮光板を置いたリレーレンズ付き光

学系について,粒径計測に好適か,光学系の調整が容易か,

などを調べている.良好な結果が得られたら改めて公表する. 4.おわりに 著者らが開発・公開してきたレーザー回折法の原理に基づ

く画像センサーを用いた噴霧粒径計測システムの不都合を

解消した新しいシステムを紹介すると共に測定例を示した. 謝辞 本研究は科研費(基盤研究(C), 課題番号 25420116)の助成を受けた.ここに付記して感謝の意を表す.

文献 (1) JIS Z 8825-1, (2001),日本工業規格.(2) 鈴木・斉

藤・藤松・林田,微粒化,16-54(2007) , pp.34-46.(3) 鈴木・

斉藤・藤松・林田,微粒化,17-58(2008), pp.44-51.(4) T.Suzuki, K.Harase, Proceedings of SPIE 9232, (2014), doi:10.1117/12. 2063606. (5) P.Walzel, VDI-Berichte, 470(1983), pp.341-352.