問題解決とは いったい何なのか · 2013-04-01 · 解決する問題の決定 ・世の中には、解決すべき問 題がたくさんある ・1つの会社、1人の人も、
数理モデル特論 I (金1 限 レポート · 数理モデル特論. i (金1 限)レポート...
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数理モデル特論 I (金 1 限)レポート ・全 15 回の全ての問題の中から、6 題選んで解いて提出.
・沢山解いても良いですが、その中から評価の高い解答 6 題を評価. ・どの問題を解いたか判別できるように、問題文を書いてから解答する
のが望ましい. ・色々な分野から,問題を選ぶのが望ましい. ・2019 年 8 月 2 日(金)までに提出して下さい.
私に直接か、I 棟 2 階 I207 まで (7 月 9 日頃~8 月 2 日まで I207 の前に BOX が設置してあります)
(I 棟は、平日の朝方から夕方まで開いています.入館カードを持って いない場合は注意してください)
・レポートは返却しないので、必要な場合は自分でコピーを取って下さい.
・6 月 28 日(金) と 7 月 5 日(金)は,休講になります.
補講をするかもしれません(KOAN 掲示を良く見て下さい).
講義ノートは、下記にアップします
http://www-mmds.sigmath.es.osaka-u.ac.jp/faculty/personal/miyanishi/ 宮西
5
第1章 位相
1.1 導入と応用例
位相は, 集合の連続的な特徴や写像 (関数)の連続性や極限を捉える道具のことである. 曖昧にはなるが, 厳密な
定義や定理などは後回しにして, 応用例や実践例を先に紹介してみよう.
1.1.1 位相幾何から
例 1.1.1. (位相同型)
右図で,正方形の辺と円周を考える. 双方は互いに
連続的に全単射(一対一対応)で写りあうように
出来る. あくまで直感的だが, 連続的に写りあえる
状態になっている.
正方形 円
∼=
つまり, 正方形と円は連続的に写りあえるので, 同じ形(位相同型)と見なせるだろう. 記号 ∼=は, 位相同型を
表す記号になっていて, 連続の意味さえ正確に捉えれば上記の議論は正当化できる. そこで今少し,連続の意味を
考えておく.
例 1.1.2. (連続性とは)
再び,正方形の辺と円周を考える. 互いに連続に
全単射で写りあえば, 正方形の辺の開区間は, 円
の開区間に写りあう状態になっている(右図).
開区間とは, 数直線なら (a, b) = {x | a < x < b}と思えば良い.
正方形 円
∼=
例 1.1.3. (位相同型)
球面
∼= ∼=
四面体の表面立方体の表面立方体の表面,四面体の表面,球面なども連続的に写りあえる.この場合にも, 開集合が開集合に写りあう (開
集合の定義は後日).
6 第 1章 位相
下の図は, 位相同型な図形のイメージ. (コーヒーカップとトーラスの連続的に変形して繋げてみた)
1.1.2 計算方法の一例(結び目)
一般に位相同型であるか否かを判別する万能な方法は無いのが実情だが,状況を制限することで多くの計算方
法が開発されている.例えば, 紐が何本か絡まっている閉じた紐を考えて,これを結び目と呼ぼう.ここでは, 結
び目に対応する関数を紹介してみたい.
まず, 計算のために 進む方向を考えて, 紐の上に矢印をつけておく.
結び目ではない 結び目である 結び目である
さらに、2つの結び目を連続変形して重ねることができるとき,2つの結び目は同じ形なので,同型と呼んで
おく.
は同型である
と は同型ではない
と
同型な結び目に対し同じ値を対応させることができるとき,その値を不変量と呼ぼう.
結び目K に対し,次の規則で定まる関数 FK(x)は不変量であることが知られている.
1.1. 導入と応用例 7
定義 結び目K に対し,
K = のとき, FK(x) = 1または
xFK+(x)− 1
xFK−(x) = −(√
x− 1√x
)FK0
(x)
ただし,K+, K−, K0 は,ある場所だけ下図のようにみえて,それ以外は全く同じになっている3つ
の結び目のことだと思うことにしよう.
K+ K− K0
K =1. のとき例
右図の斜線部分に注目すると,前頁の定義から
xFK+(x)− 1
xFK−(x) = −(√
x− 1√x
)FK0
(x).
定義から,FK+(x) = FK−(x) = 1. よって,
FK0(x) = −
(x− 1
x√x− 1√
x
)= −
(√x+ 1√
x
).
以上より FK(x) = −(√
x+ 1√x
).
K+ K−
K = K0
K = のとき2.例
右図の斜線部分に注目すると,前頁の定義から
FK+(x) = 1
x2FK−(x)− 1x
(√x− 1√
x
)FK0
(x).
右図より FK−(x) = −(√
x+ 1√x
), FK0
(x) = 1.
よって,
FK+(x) = − 1
x2
(√x+ 1√
x
)− 1
x
(√x− 1√
x
)= −
(1
x2√x+ 1√
x
).
以上より FK(x) = −(
1x2
√x+ 1√
x
).
K = K+
K−K0
8 第 1章 位相
(問題) K が次の結び目であるとき,FK(x)を求めよ.
三葉結び 8の字結び
(1) (2) (3)
(答) (1) FK(x) =(√
x+ 1√x
)2(2) FK(x) = − 1
x4 + 1x3 + 1
x (3) FK(x) = 1x2 − 1
x + 1− x+ x2
各結び目に対して, 一題分とみなす(合計三題分).
勿論, この問題を選んで解く場合には途中経過を書くこと.
実は, 結び目 K の場合には 3次元空間を R3 とおくと, R3\K の位相不変量を計算していることになっている.
定理の形で言うと,
定理 1.1.4 (V. Jones (1983)). K を結び目とするとき, FK(x)は位相不変量. つまり, 結び目K と Lに対し,
R3\K ∼= R3\L ⇒ FK(x) = FL(x).
(生命科学,工学などへの応用)
左上図はDNAの解析, 酵素の反応による位相の変化を解析している (D. W. Sumners, (1987), Notices of AMS)
右上図は, 流体のHelicity への応用. Helicityとは, 流体の流れの速度ベクトル u(r)に対し渦度 ω(r) = ∇×u(r)
としたとき,
H =
∫u(r) · ω(r)d3r
で与えられる量. Helicityは, vortex tubes Cn が与えられると,
H =∑i,j
ΓiΓj
∮Ci
∮Cj
xi − xj
|xi − xj |3· (dli × dlj)
などと書けて, 結び目を利用して表現されることがわかっている (H. K. Moffatt, (1969), J. Fluid Mech).
物理学では, チャーン・サイモンズ理論やコンツェビッチ不変量などでの利用もある.
1.1. 導入と応用例 9
1.1.3 計算方法の一例
ここでは位相空間を調べる方法として,ホモロジーやホモトピーと呼ばれる方法を紹介しよう.ここでも一般
の定義はやめにして,3次元ユークリッド空間 R3における図形でどのような計算をするか説明することにする.
図形 連結成分 わっかの個数 空洞の個数
∼= ∼=
三角形円板
平面図形
(内部も含む)1 0 0
∼=
円板 2個
平面の領域
2 0 0
球面
∼=
四面体の表面1 0 1
トーラス (表面のみ)1 2 1
2穴 (表面のみ)1 4 1
2穴 (表面のみ) トーラス (表面のみ)2 6 (= 2 + 4) 2
上の表で点線は,わっか(後で説明)の様子を表している.
10 第 1章 位相
以下では, 連結成分, わっか,空洞についてどのように考えるのか述べていこう.
まず,連結成分の個数については, 繋がっている図形 (集合)が何個あるか数えればよい.
例 1.1.5. (連結成分の個数)
右図 Aは,円周が一個と領域が二個ある様子.
勿論,繋がっている図形は合計 3個となり,
連結成分の個数は 3個.このことを,
H0(A) = Z3
と表す.
(H0(A)を Aの 0次ホモロジー群と呼ぶ).
Aは集合,Zは整数全体の集まりの意味で,
ここでは記号の意味は深く追求しない.
例 1.1.6. (連結成分の個数)
右図 B は,円環 一個, 線分 一個, 三角形が
一個,さらに 楕円と四面体が線分で繋がれ
ている. 結局,繋がっている図形は合計 4個
となり, 連結成分の個数は 4個.つまり,
H0(B) = Z4.
例 1.1.7. (連結成分の個数)
右図 C は,平面上に書かれている漢字である.
「数」は 5個の繋がった図形, 「理」は 2個
の繋がった図形から出来ている.
結局,繋がっている図形は合計 7個となり,
連結成分の個数は 7個.つまり,
H0(C) = Z7.
数理(問題)右の図形Dは, 格子点上に 9個の点を並べたものである.
(1) H0(D)を求めよ.
(2) 線分を一本加えて図形 Eを作り, 連結成分の個数を 7とせよ.
つまり, H0(E) = Z7 とせよ.
((2)の答は何種類もあるので,一種類で良い).
(3) 連結成分の個数を 1とするには, 線分が最低何本必要か?
(問題)右の図形 (文字)F について, 以下に答えよ.
(1) H0(F )を求めよ.
(2) 漢字のうち,右図と同じ連結成分の個数を持つものを
一つ答えよ
((2)の答は何種類もあるので,一つで良い.解答では
字を丁寧に書くこと).
雲
1.1. 導入と応用例 11
連結成分の正確な定義は, 位相空間を導入すると下記のように書ける.
(参考) (後日予定)� �定義 1.1.8 (連結). X ⊂ R3 とする.
X が連結 ⇐⇒ X の開集合かつ閉集合は ϕ と X のみ.
定義 1.1.9 (連結成分の個数). X ⊂ R3 とする.X =∪i∈I
Xiとし,各々のXi が空集合でない連結集合. 各々
のXi を含む連結集合がXi のみのとき, ♯I を連結成分の個数と呼ぶ.� �つぎに, わっかについて,考えてみよう.
O
ab左の図形は, 二個の円周が原点で接している.{始点 Oから右の円の反時計回り一周することを a,
始点 Oから左の円の時計回り一周することを b
とすると,
a−1b−1
逆に回ることは −1乗.つまり,{始点 Oから右の円の時計回り一周することは a−1,
始点 Oから左の円の反時計回り一周することは b−1
と考える.
例えば下の図では,b · a−1 を考えている (a−1 が先, bが後).
a−1b 始点 Oから右の円の時計回りに一周し,
そして
左の円を時計回り一周している
例えば下の図では,b−1 · a−2 を考えている (a−2 が先, b−1 が後).
a−2b−1 始点 Oから右の円の時計回りに 2周し,
そして
左の円の反時計回り一周している
12 第 1章 位相
(問題)右図において,各々のわっかを時計回りに回ることを,
それぞれ a, b, cとおく.
(1) c · b · a−1 はどのような進み方になるか. 前頁のように
進み方を図示せよ.
(2) a−1 · b · c はどのような進み方になるか. 前頁のように
進み方を図示せよ.
b
O
ac
新しく次の図を考えよう.
abc
Ocの周り方は,始点Oから始まって
いない.
そこで, 始点 Oから出発して, cを回るようにしたい.
c
O
c
O
左図 (どちらでも良い)のような進
み方を考えると,cを回っているこ
とには違いない!!
言い換えれば,連続的に道を変形
すると, cを周ると思って良い.
もしくは, 同じ道の行き帰りは何
も動いてないと考えても良い.
つまり,左図の動きをあらためて
cと思えば,a, b, c を用いて,始
点 Oから 「わっか」 を自由に回
ることが出来る.
(始点の位置によらずに,文字 a,
b, cで書けたと思える).
上図では結局,周り方は a, b, c の 3文字で考えることが出来る. 平面図形の場合,見た目通り「わっか」の個
数と一致する.この文字数を使って, 図形X の一次ホモロジー群をH1(X) = Z3 と書くことにしよう.
例 1.1.10. (一次ホモロジー群の例)
左の図形 Aについては,文字数 2個で書けていた.
よって,H1(A) = Z2.
1.1. 導入と応用例 13
例 1.1.11. (一次ホモロジー群の例)(電気回路)
左図の電気回路を図形Bとみると,わっかの個数は 4個.
よって,H1(B) = Z4.
これは,Kirchoff の法則(閉路方程式)を計算する際に,
本質的に 4個の方程式を考えていることに相当する.
例 1.1.12. (一次ホモロジー群の例)
畳 左図の文字を図形Cとみると,田の わっかの個数は 4個.
且の わっかの個数は 3個.合計わっかの個数は 7個.
よって,H1(C) = Z7.
(問題)右の図形 (文字)Dについて, 以下に答えよ.
(1) H1(D)を求めよ.
(2) 漢字のうち,右図と同じ一次ホモロジー群
を持つものを一つ答えよ.
((2)の答は何種類もあるので,一種類で良い).夏
(問題)
右図は, 日本のギガネットワークの図である.
一番太い線だけからなる図 E を考えるとき,
以下に答えよ.
(1) H1(E)を求めよ.
(2) 太線の一本が不通になっても, ネットワー
クは繋がっていたとする.例えば,どこが不
通になったときか? 一つ答えよ.
(3) 太線の一本が不通になっても,ネットワー
クが繋がるように太線を増設したい. 自分で
(太線)増設し,簡易な図 F を書いて,その際
のH1(F )を求めよ.
((3)の答はわっかの数が小さいものほど,高
得点とする). https://www.jgn.nict.go.jp より
14 第 1章 位相
空間図形の場合にも,わっかを考えることが出来る. まずは周り方が同じの意味を説明してみよう.
下の図では,円柱 (表面)を書いている.
a
a aの周り方は,円柱上で連続変形して (ずらして) a に重ねる
ことが出来る(輪ゴムをずらすイメージ).このようなとき,
aと a は周り方が同じと考える.
数学では,aと a はホモトープと呼ぶ
また次の図では,球面を考えている.
a
a
aの周り方は,球面上で連続変形 (ずらして) a に重ねる
ことが出来る.aは動いていないことと同じで,球面上の
輪ゴムは縮めることが出来るとイメージしても良い.
数学では,aは 0ホモトープと呼ぶ.
結局, 球面 S について
H1(S) = 0 (注意. 0のときは, Z0 とは書かない).
次の図は,トーラス上のわっかを考えている.
b
a
トーラス上の場合,左下図の周り方は,連続的に道を変形すると右下図 b · aの周り方と同じことになっている.
トーラス (表面のみ)上の輪ゴムをずらすイメージ.
b
a
結局,トーラス (表面のみ) T については, 周り方は文字数 2つで表せるので, H1(T ) = Z2.
1.1. 導入と応用例 15
さらに,(中身が詰まった)トーラス T については,
b
a
bの周り方は,T 上で連続変形 (ずらして) 点につぶすことが
出来る.点は動いていないことと同じで,輪ゴムは縮めること
が出来るとイメージしても良い (球面のときと同じ).
結局, T については,1文字 aだけで周り方が表せるので
H1(T ) = Z (注意. 1のときは, Z1 とは書かない).
(問題)
右の図 1は, 中身の詰まった 2穴の空間図形 G.
この場合は aと bの二文字で周り方が表せている.
(1) H1(G)を求めよ.
(2) 図 2は Gに取っ手を二つ付けた図形である.
取っ手の端は Gにくっ付いているものとする.
図 2の図形をK とするとき, H1(K)を求めよ.
図 1. 2穴 (中身のつまっている)
ab
図 2. 2穴 (中身のつまっている)+取っ手二つ
周り方が同じであることを数学ではホモトープと呼び,正確な定義は位相空間を導入すると,次のように書ける.
(参考) (今は,このようなものがあるのかくらいで,十分)� �定義 1.1.13 (道). I = [0, 1]とし,X を位相空間とする.写像
f : I −→ X
∈ ∈
x 7−→ f(x)
が連続であるとき, 写像 f を道と呼ぶ. とくに, f(0) = f(1)となるとき,閉じた道と呼ぶ.
定義 1.1.14 (ホモトープ). 2つの道 f と gは連続的に一方から他方へ変形できるとき,ホモトープと呼び
f ∼ g
と表す. 厳密に言うと,
f ∼ g ⇔ ある連続写像h : I × I −→ X
∈ ∈
(t, x) 7−→ h(t, x)があって,h(0, x) = f(x), h(1, x) = g(x)
ただし,I × I = [0, 1]× [0, 1]は積集合で,位相空間や連続の定義などは後日.� �
16 第 1章 位相
最後に,空洞について考えよう. 3次元空間R3内の図形X については, 3次元空間から図形X を取り除いた
集合R3\X の連結成分の個数から 1を引く.つまり,
(空洞の個数) = (R3\X の連結成分の個数)− 1.
実際に図で考えてみよう.下図は球面 S の図である.
空間は,球面によって分離されている.つまり,空間から Sを除くと
R3\S =(球面の内側)∪(球面の外側).
R3\S の連結成分の個数は 2となる.球面では空洞が 1個. つまり,
1 = 2− 1で見た目通り上手く行っている.この空洞の個数を使って,
図形 S の二次ホモロジー群を H2(S) = Zと表すことにしよう.
次の図は,(中身が詰まった)トーラス T である.
空間は T を除くと
R3\T =(トーラスの外側).
R3\T の連結成分の個数は 1となる.中身が詰まっているので空洞
などは無く,空洞の個数は 0. つまり,0 = 1−1で見た目通り上手く
行っている.よって,二次ホモロジー群は H2(T ) = 0 となっている.
さらに,次の図を考えてみよう.下図は 2穴の浮き輪とトーラスの図X である.
2穴 (表面のみ) トーラス (表面のみ)
空間は,2穴の浮き輪とトーラスで分離され
ている.つまり,空間からX を除くと
R3\X =(2穴浮き輪内側)∪(トーラス内側)
∪ (両方の外側).
R3\X の連結成分の個数は 3となる.左図で
は空洞が 2個. つまり,2 = 3 − 1で見た目
通り上手く行っている.よって,二次ホモロ
ジー群は H2(X) = Z2 となっている.
(問題) 次の問いに答えよ.
(1) H0(A) = Z2, H1(A) = Z, H2(A) = Zとなる空間図形 Aを一つ図示せよ.
(2) H0(B) = Z, H1(B) = 0, H2(B) = Zとなる曲面 B は,どのような曲面になると予想されるか?
1.1. 導入と応用例 17
ここまでで,空間内のホモロジー群を計算してきた. 勿論, 膨大な計算方法と定理が大量に証明されている.す
べてを紹介するわけにはいかないので,重要な定理を紹介する.
定理 1.1.15. X,Y ⊂ R3 とする. このとき,
X ∼= Y(位相同型)⇒ Hk(X) = Hk(Y ) (k = 1, 2, 3).
上の定理の逆は成り立たない.また,定理には仮定が少し必要で,図形が三角形分割可能と呼ばれる性質など
を必要とする (応用上は,あまり意識しなくて良い).少しだけ,数学流の表現をしておこう.
定義 1.1.16. 空間図形X について, 連結成分の個数を b0(X), わっかの数を b1(X), 空洞の数を b2(X)と書き,そ
れぞれ,0次のベッチ数,1次のベッチ数, 2次のベッチ数と呼ぶ. また,
χ(X) = b0(X)− b1(X) + b2(X)
をオイラー標数と呼ぶ.
定理 1.1.17 (オイラー標数,オイラー多面体定理).
X ∼= Y(位相同型)⇒ χ(X) = χ(Y ).
また, X が多面体の場合には
χ(X) =(頂点数)−(辺の数)+(面の数)= 2− 2g(X).
ここで,g(X)は genusと呼ばれ曲面の穴の個数のことで, 穴あき浮き輪の穴の個数と思うことにする. 例えば,
球面と位相同型なら穴 0個,トーラスと位相同型なら穴 1つ.
(問題)
(1) サッカーボール状の多面体の面の数、辺の数、頂点の数を求めよ.この場合 g(X) = 0であることから,
オイラー多面体定理 (頂点数)−(辺の数)+(面の数)= 2 は用いて良い.
(2)(頂点数)−(辺の数)+(面の数)= 0 となる多面体を一つ図示せよ.
ホモロジー群は不動点定理などで経済学への応用もあるが,一旦ここまでにして,最後に複雑なホモロジー群
を計算するソフトウェアを紹介しておこう.
http://chomp.rutgers.edu/Software/Homology.html より
左図 X では,3次元の Cahn-Hilliard 方程式
(二元流体に関する方程式)を解いた際の相分
離のプロセスを CGにしたもので,
H0(X) = Z, H1(X) = Z1059, H2(X) = 0
であることが,ホモロジー群ソフトウェア
CHomPによって計算されている.
複雑な挙動を示す図形や物質の解析などにつ
いては,最近,ホモロジー群による分類が行
われるようになってきた.次回は少しだけ応
用面 (Persistent Homology) も紹介して,そ
の後に,集合や写像,さらに一般位相につい
て順次紹介していく予定.
18 第 1章 位相
1.1.4 計算方法の一例
前節では,ホモロジーの計算を主に紹介した.ホモロジーを実用上に使う例として,パーシステントホモロジー
(Persistent Homology) を紹介しよう.まず前節で扱った,空間図形X のホモロジーとは大雑把に要約するとH0(X)は,X の連結成分の個数
H1(X)は,X のわっかの個数
H2(X)は,X の空洞の個数
のことであった.例えば,トーラス T の場合, H0(T ) = Z, H1(T ) = Z2, H2(T ) = Z となっていた.ここでは,空間 (平面)内の n点の配置を見極める方法の一つとして,パーシステントホモロジーを次の手順で計算しよう.
計算の手順
(Step1) ϵ > 0を決める.
(Step2) 各点を中心として,半径 ϵの球面 (円)を描く.
(Step3)
・2つの点を中心とした球面(円)が交わったら,その 2つの点を線分で結ぶ.
・3つの点を中心とした球面(円)が交わったら,その 3つの点を頂点とする三角形を塗りつぶす.
・4つの点を中心とした球面が交わったら,その 4つの点をを頂点とする四面体の内部を塗りつぶす.
(Step4) 出来た図形のホモロジーを求める.
(Step5) ϵを動かして,ホモロジーの変化を見る(表やグラフなどにまとめる).
例 1.1.18 (パーシステントホモロジーの例). (正三角形の頂点X)
(図形の変化)
ϵ → → →
H0(X) Z3 Z ZH1(X) 0 Z 0
例 1.1.19 (パーシステントホモロジーの例). (直角二等辺三角形の頂点 Y)
(図形の変化)
ϵ → → →
H0(Y ) Z3 Z ZH1(Y ) 0 0 0
平面図形の場合は空洞など無く,2次ホモロジーを書く意味がないため省略している.
1.1. 導入と応用例 19
前頁の例を見ると,正三角形と直角三角形は位相同型だが,パーシステントホモロジーは一致していない. パー
システントホモロジーは,点の配置をホモロジーを用いて分析する方法と思うことが出来る.
(問題) 正方形の頂点 Aに対し、パーシステントホモロジーを求めよ.
例 1.1.20 (パーシステントホモロジーの例). (正四面体の頂点 B)
内部を塗りつぶした表面を塗りつぶした点線を入れてある)
(図形の変化)
(分かりにくいので, 線分で結んだ
ϵ → → → →
H0(B) Z4 Z Z ZH1(B) 0 Z3 0 0
H2(B) 0 0 Z 0
(真上からみた図)四面体の頂点を線分で結んだ図
a
b
c
上記で,四面体の頂点を結んだ線分からなる
図形を Xとする.真上から観察すると底面を
一周することは, c · b · aと同じ周り方 (左図).
つまり,a, b, cの 3文字で周り方をすべて表
せるので, 一次ホモロジー群は H1(X) = Z3
となっている(見た目のわっかは, 3つ).
(問題)
空間内に 4点 (0, 0, 0), (1, 0, 0), (0, 1, 0), (0, 0, 1)がある.この図形を C とするとき, パーシステントホモロジー
を求めよ.
(問題)
立方体の頂点 Dに対し、パーシステントホモロジー
を求めよ (Hint. 立方体を真上から観察すると?)(右図)
(真上からみた図)立方体の頂点を線分で結んだ図
20 第 1章 位相
パーシステントホモロジーの応用例として,幾つかの図を引用しておく.
例 1.1.21 (沢山の点). 少し複雑な平面上の点の配置について,計算手順の CG.
N. Otter et al., (2015), arXiv:1506.08903
例 1.1.22 (Cosmology). ϵ が大きくなるにつれ,銀河(点)が線で結ばれていく様子.近いところ程結ばれやす
いので,繋がり方を図ることが出来ている.
https://sites.google.com/site/yenchicr/ より
例 1.1.23 (Chemistry). 分子の配置を,パーシステントホモロジーで計算する途中経過 CG.
K. Xia et al. (2014)
1.1. 導入と応用例 21
例 1.1.24 (Biology). ヘモグロビンのアルファ複体モデル.
E. Escar and Y. Hiraoka, Mathematics for Industry, Springer (2015)
例 1.1.25 (物性). ガラスと液体について,パーシステントホモロジーを利用して原子配置の秩序構造を抽出.
Hiraoka et al., PNAS (2016)
例 1.1.26 (経済). 株式への利用.Correlation coefficient matrixと呼ばれる行列を適当にプロットすると,日時
によってグラフが変動しパーシステントホモロジーが変化する.ホモロジーが劇的に変化すると…
Edelsbrunner, H., and Harer, J., (2010).
以上の例を見ても分かるように,大量のデータを扱う Big Data や 機械学習などの分野でもトポロジーは活用
されている.画像処理などの応用もある.
(問題)
自分の興味のある分野で,ホモロジーやパーシステントホモロジーの応用例が見つかりそうであれば,それを
述べよ.
22 第 1章 位相
1.1.5 位相の意味に向けて
前節までで,図形や点について位相幾何という観点から位相を紹介した.よく考えると,図形や点は集合 (物
の集まり)のことで,位相というのは近い遠いを判定していることになっている. 近い遠いについて,少し考えて
みよう.
例えば,三つの要素からなる集合を考えよう.
{阪大,石橋,ニューヨーク }
恐らく,阪大と石橋は近いがニューヨークは遠いと考えるだろう.これは,距離が遠いからそう思っているに違
いない.遠近は距離で測るのが, 一番考えやすい.
いつでも距離で測るのが良いだろうか?この疑問に答えるために,五つの要素からなる集合
{猫,人間,バッタ,蝶,ダイヤモンド }
を考えよう. 猫と人間は何となく近い (哺乳類だから?), バッタと蝶は近い (昆虫だから?) と考える人もいるだろ
う. もしくは,漢字だから猫,人間,蝶は近く,バッタとダイヤモンドはカタカナだから近いと思う人もいるだ
ろう.
猫
人間
バッタ
蝶
ダイヤモンド
全体集合
猫
人間
バッタ蝶
ダイヤモンド
全体集合
どちらの考え方も,間違っているという訳ではない.ただし,距離で測るのは不自然な感じがする. この場合に
は, 近いという考え方を部分集合の集まり で表現する方が自然だろう.
次に,上で考えた集合 {猫,人間,バッタ,蝶,ダイヤモンド } について値を対応させてみよう (写像や関数と呼ば
れる). 例えば,文字数を対応させてみると
猫
人間
バッタ
蝶
1
2
3
1
6ダイヤモンド
果たして,この写像は連続といえるだろうか?近い遠いの解析 (位相)を見るためには,連続性は解析に必要と
考えられ,このような場合にも連続性を考えたい.そのためには,集合や写像の概念から考えておく必要がある.
1.1. 導入と応用例 23
もう少し数学的な例を考えておこう.例えば関数 fn(x) = sinnxを区間 [0, π] で考えてみる.fn(π2n ) = 1であっ
て, limn→∞
fn(x) を考えることは一見難しい.ただし,
limn→∞
∫ π
0
fn(x) dx = 0 (1.1.1)
であるから,上の積分を使った意味で 0に収束する(近づく)と思って良いだろう. 近づく意味がどの意味で近
づくかと考えれば, 収束や極限を考えることも出来る.問題に応じて位相を変えることで, 意味のある結果を出
せそうである.
(問題) 式(1.1.1)を示せ (Hint. 数 IIIで習う積分).
次節以降,集合や写像,距離や位相を考えていくが, 記号や論理の意味には感覚的な背景がある.イメージを掴
みながら理解するようにすると,理解しやすくなると思う.
24 第 1章 位相
1.2 集合
以下,定義や定理の形で書くことも多い.定義とは決まり事のことで,矛盾無く文章を立てる必要がある.定
理は証明のつけられる事実だと思っておく.系は,定理からわかる事実.補題は,定理のために準備となる事実と
しておこう.1
1.2.1 高校~大学初年級の記号の復習
定義 1.2.1 (集合). 数や物の集まりを集合と呼ぶ.集合を構成している各々の数や物を要素または元と呼ぶ.
(集合の表し方) 例えば,数 1, 2, 3からなる集合は, 次のように表す.
(記法 1) {1, 2, 3} (具体的に要素を書いて表す方法).
(記法 2) { x | xは 1以上 3以下の自然数 } (条件を書いて表す方法).
例 1.2.2 (よく使う集合).
N = {1, 2, 3, . . .} (自然数全体)(Natural number)
Z : 整数全体からなる集合 (Zahl)
Q : 有理数全体からなる集合 (Quotient number)
R : 実数全体からなる集合 (Real number)
C : 複素数全体からなる集合 (Complex number)
これらには,特にこだわりのない限り,通常の加法,乗法,および (Cを除いて)大小関係があるものとする.
定義 1.2.3. aが集合 Aの要素であることを,a ∈ Aと表す(aは Aに属するとも呼ぶ). aが集合 Aの要素でな
いことを,a /∈ A と表す.
例 1.2.4. 3 ∈ N,√2 /∈ Q など
定義 1.2.5 (部分集合). Aと B を集合とする.Aの任意の元 aが B の元となるとき,Aを B の部分集合と呼び
A ⊂ B もしくは B ⊃ A
と表す. また, A ⊂ B かつ B ⊂ Aであるとき,Aと B は等しいと呼び A = B と表す.
例 1.2.6. N ⊂ Z ⊂ Q ⊂ R ⊂ C
例 1.2.7. { x | xは 1以上 3以下の自然数 } ⊂ { x ∈ R | 0 < x < 7}
(問題)
Q = { nm | m ∈ N, n ∈ Z}である.これにならって,C を Rを用いて表せ. (Hint. x+ yi)
1集合論や論理の深い事実は数学基礎論で研究されている (公理的集合論).ここでは,素朴に物の集まりとして集合を考える(素朴集合論).
1.2. 集合 25
定義 1.2.8 (空集合). 要素を一つも持たない集合を空集合と呼び,ギリシャ文字の ϕで表す.すなわち,
ϕ = { }.
また,どんな集合に対しても空集合は部分集合となっている.
(豆知識) 本来は,ギリシャ文字の ϕと空集合は関係が無い.ラテン文字の ∅ が混同して使われるようになってきた.もちろん,∅と書いても良い.
例 1.2.9. { x | xは 2で割りきれる奇数 } = ϕ.
注意 1.2.10. {ϕ} = ϕ に注意しておく. というのも,(左辺)は「空集合からなる集合」となっており,要素とし
て空集合を持つ.
1.2.2 高校~大学初年級の論理の復習
以下,論理に関する基本事項を羅列してある. 嫌いな人も多いかもしれないが,仕方ないので復習しておこう.
次節以降の証明の根拠にもなり電子回路やプログラミングを学習する際にも必須であるので,慎重を期して理解
してほしい.
命題� �文章「A」を考えよう.「A」が正しいか間違っていることを証明できるときに,「A」を命題と呼ぶ.
さらに,命題「A」が正しいときに Aは真,間違っているときに Aは偽 と呼ぶ.� �例. 「2 > 1」は命題で,真である.
「πは有理数」は命題で,偽である.
否定� �文章「A」に対して,文章「Aでない」を Aの否定と呼び,「A」などと表す.� �
例. 「x = 1」の否定は,「x = 1」.
「私は人である」の否定は,「私は人でない」.
「ならば」� �文章「A」,「B」に対して,文章「Aならば B」を考えることがある.「A ⇒ B」などと表す.� �
例. 「x ≧ 1⇒ x2 ≧ 1」.
「xy = 0⇒ x = 0」.
上の例では両方とも命題で,上は真,下は偽である.
とくに,命題「A」,「B」に対しては,「A ⇒ B」も命題で, 真偽をまとめてみると,2
「A」 「B」 · · · 「A ⇒ B」
真 真 · · · 真
真 偽 · · · 偽
偽 真 · · · 真
偽 偽 · · · 真
である.ここでは,「A」が偽であると,「A ⇒ B」が真であることに注意したい.
例. 「1 > 2⇒ 1 = 0」は真である. 「1 < 2⇒ 1 = 0」は偽である.2真偽をまとめた表を,真偽表と呼ぶ.
26 第 1章 位相
「または」,「かつ」� �文章「A」,「B」に対して, 文章「Aまたは B」を考えることがある.「A ∨ B」などと表す.さらに,
文章「Aかつ B」を考えることもできる.これは,「A ∧ B」などと表す.� �例 「x = 0 または y = 0」, 「x < 1 かつ x > 0」.
また,「A ∨ B」は「A ∧ B」, 「A ∧ B」は「A∨B」と定義されている.例 xを実数として,否定文を考えてみると,
「x = 0 または y = 0」の否定文は,「x = 0 かつ y = 0」.
「x < 1 かつ x > 0」の否定文は,「x ≧ 1 または x ≦ 0」.
「すべて」,「ある」� �文章「a = 1かつ b = 1かつ c = 1かつ · · · かつ z = 1」を考えてみよう.一つ一つの a ∼ zについて書
くのは, 面倒である.つまり,「すべてのアルファベット a ∼ zが 1である.」と書き換えるのが良いことが
わかる.
同様に,「a = 1または b = 1または c = 1または · · · または z = 1」についても,「あるアルファベット
a ∼ zが 1でない.」と書き換えることができる.� �例「すべての整数 xは,x2 ≧ 0である.」
「ある整数 xは,x < 0である.」
ここでは,色々な言葉使いにも注意しておこう.同じ意味を言い換えるのは国語の問題であって,以下の
例のような言い換えが良く使われる.
例. 「すべての整数 xは,x2 ≧ 0である.」
↕「すべての整数 xに対し, x2 ≧ 0である.」
↕「任意の整数 xは, x2 ≧ 0である.」
↕「任意の整数 xに対し, x2 ≧ 0である.」
↕「For all integer x, x2 ≧ 0.」
同じ
例. 「ある整数 xは, x2 < 0である.」
↕「ある整数 xが存在して, x2 < 0である.」
↕「There exists integer x such that x2 < 0. 」
同じ
(省略の仕方) いちいち,「すべて」,「ある」を書くのは面倒である.そこで,「すべて」を ∀,「ある」を ∃と略記する.(∀は, allの頭文字 Aを逆さにしたもの.∃は,existの頭文字 Eを逆さにしたものである).
例. 「すべての整数 xに対し,x2 ≧ 0である.」⇐⇒ 「For ∀x ∈ Z, x2 ≧ 0.」
「ある整数 xが存在して,x2 < 0である.」⇐⇒ 「∃ x ∈ Z s.t. x2 < 0. 」
このように, 簡便に表現できることになる.(Z は整数全体,x ∈ Z は「x は整数」と言う意味である).
ここでは,∀と ∃の使用を可能な限り控えるが,手書きでは多用されている.
(問題)
(1) 「すべての実数 xに対し,ある yが存在して x < y.」の真偽を述べよ.
(2) 「ある yが存在して,すべての実数 xに対し x < y.」の真偽を述べよ.
1.2. 集合 27
「すべて」,「ある」の否定
もう一度,文章「a = 1 かつ b = 1 かつ c = 1 かつ · · · かつ z = 1.」を考えてみよう.この文章の否定は
「a = 1 または b = 1 または c = 1 または · · · または z = 1.」である.すなわち,
「 すべてのアルファベットに対し,1である.」
↕「a = 1 かつ b = 1 かつ c = 1 かつ · · · かつ z = 1. 」
↕「a = 1 または b = 1 または c = 1 または · · · または z = 1. 」
↕「あるアルファベットが存在して,1でない. 」
が見て取れる.結局,「すべて · · ·となる.」の否定が「ある · · ·でない.」
「ある · · ·となる.」の否定が「すべて · · ·でない.」と解釈される.
一般に,「すべて · · · となる」の否定が「ある · · · でない」というのは, 「かつ」の否定が「または」となる
のが理由である.
例. 「すべての実数 xに対し,x2 ≦ 0.」否定⇐⇒ 「ある実数 xが存在して,x2 > 0.」
例. 「For ∀x, ∃y s.t. x > y. 」否定⇐⇒ 「∃ x s.t. x ≦ y for ∀y. 」
(集合の証明の書き方)
今までのことを集大成して,集合の証明の書き方を復習しておこう.
例 1.2.11. (証明の書き方)
3Z+ 5Z = { 3m+ 5n | m,n ∈ Z}と定義するとき,
3Z+ 5Z = Z
を証明しよう.
Proof. 3Z+ 5Z ⊂ Z かつ Z ⊂ 3Z+ 5Z を示せばよい.
まず, x ∈ 3Z+ 5Zとすると, x = 3m+ 5n ∈ Zより 3Z+ 5Z ⊂ Z.
逆に,x ∈ Zとすると, 1 = 3× 2− 5に注意して
x = (3× 2− 5) · x = 3× (2x) + 5(−x) ∈ 3Z+ 5Z ⊂ Z.
よって,Z ⊂ 3Z+ 5Z.
証明では,(左辺の集合)が(右辺の集合)に含まれることを示すために, 左辺の元を取るたびに右辺の元に
なることを示している.Venn図は考えるときに補助とはなるものの,正確には上記のような方針が取られる.紹
介するたびに,証明の書き方にも慣れていって欲しい.
(問題)
10Z+ 6Z = { 10m+ 6n | m,n ∈ Z} および 2Z = { 2n | n ∈ Z} (偶数全体の集合)と定義するとき,
10Z+ 6Z = 2Z
を,上の例にならって証明せよ.
28 第 1章 位相
1.2.3 集合族と集合の演算
ここではまず,集合が沢山ある状態を考えたい.この状態は,近い遠い (位相)を定義するために,近い集合を
沢山決めていくときにも使われる.また,一般の積分論 (Lebesgue積分と呼ばれる)では,集合の大きさ (測度)を
考える事が出来て,その際にも利用される.
定義 1.2.12 (集合族). 集合を要素とする集まりを集合族と呼ぶ.3
例 1.2.13. {ϕ, Q, C}は,集合族.
定義 1.2.14 (添字付けられた集合族). I を集合とする.I の各要素 iに対して一つの集合 Aiが対応しているとす
る.このとき,すべての Ai からなる集合族
{ Ai | i ∈ I}
を I で(添字付けられた)集合族と呼び,{Ai}i∈I などとも表す.
例 1.2.15. n ∈ Nに対し, An = {x ∈ R | 0 ≦ x ≦ n}とする.このとき,
{An}n∈N
は,(添字付けられた)集合族となっている.
定義 1.2.16 (部分集合全体の集まり). X を集合とする.X の部分集合全体からなる集合族を
2X もしくは P(X)
などと表す.
例 1.2.17. A = {1, 2}とするとき,2A = {ϕ, {1}, {2}, {1, 2}}. (ϕも Aの部分集合になっていることに注意).
(問題)
B = {1, 2, 3}とするとき,2B = {ϕ, {1}, {2}, {1, 2}, · · · }である.(1) · · · の部分を埋めて,2B の元が何個あるか数えよ.
(2) (1)を見て,2B という記号を使っている理由を説明せよ (なぜ,3A などと書かないのか?).
(問題)
C = { x ∈ Z | − 5 ≦ x ≦ 3}とする.
(1) 2C の元は何個あるか.
(2) 22C
の元は何個あるか数えよ.(22C
は,2C の部分集合全体の集まり).
3「集合の集合」といわず「集合のあつまり」としているのは,文脈によっては集合族が同じ集合をいくつも重複して持つ場合があったり,集合の集まりが集合でない場合がある (Russell’s paradox).ここでは難しいことは意識しないで,単に集まっていると思っておくことにしよう.
1.2. 集合 29
定義 1.2.18 (和集合,共通集合). Aと B を集合とする.
A ∪B = { x | x ∈ Aまたは x ∈ B } (和集合)
A ∩B = { x | x ∈ Aかつ x ∈ B } (共通集合)
とする.もっと一般に,集合族 { Ai | i ∈ I}に対して∪i∈I
Ai = { x |ある i ∈ I が存在して x ∈ Ai } (和集合)∩i∈I
Ai = { x |すべての i ∈ I に対し x ∈ Ai } (共通集合)
Venn図でイメージすると,
A ∪B A ∩B
A B A B
定義 1.2.19 (補集合). AとX を集合とし, A ⊂ X とする.
A = { x | x /∈ Aかつ x ∈ X} (補集合)
を Aの補集合と呼ぶ(X を全体集合と呼ぶ). A を 他の記号で使いたいときには, Ac と書くことも多い. 4
Venn図でイメージすると,
A
A
X
定理 1.2.20 (De Morgan’s law). A,B ⊂ X とする.そのとき,
A ∩B = A ∪B, A ∪B = A ∩B.
Proof.
A ∩B = { x | x ∈ Aかつ x ∈ B }
= { x | x /∈ Aまたは x /∈ B, x ∈ X}
= { x | x /∈ A, x ∈ X} ∪ { x | x /∈ B, x ∈ X}
= A ∪B.
A ∪B = A ∩B も同様5(次ページの問題).
4補集合を英語で “complement set” と呼ぶので Ac と書くことがある.5赤字は,講義ノートのタイポ修正
30 第 1章 位相
(問題) A,B ⊂ X とする. A ∪B = A ∩B を上の証明にならって示せ.
定理 1.2.21 ((一般の) De Morgan’s law). Ai ⊂ X (i ∈ I)とする.そのとき,∩i∈I
Ai =∪i∈I
Ai ,∪i∈I
Ai =∩i∈I
Ai.
Proof. ∩i∈I
Ai = { x |すべての i ∈ I に対し x ∈ Ai }
= { x |ある i ∈ I が存在して x /∈ Ai, x ∈ X}
=∪i∈I
Ai.
∪i∈I
Ai =∩i∈I
Ai も同様(次の問題).
(問題) Ai ⊂ X (i ∈ I)とする.∪i∈I
Ai =∩i∈I
Ai を上の証明にならって示せ6.
定義 1.2.22 (積集合). Aと B を空でない集合とするとき
A×B = { (x, y) | x ∈ A, y ∈ B}
を A と B の積集合と呼ぶ.
例 1.2.23. A = {1, 2, 3}, B = {4, 5}とするとき,
A×B = { (1, 4), (1, 5), (2, 4), (2, 5), (3, 4), (3, 5)}.
例 1.2.24. A = R, B = Rとするとき,
A×B = { (x, y) | x ∈ R, y ∈ R} = R2. (ユークリッド平面)
(問題) A = { x ∈ N | 1 ≦ x ≦ 10}, B = { x ∈ N | 1 ≦ x ≦ 7}とするとき,A×B の要素の個数を求めよ. この
ことから,積集合で ×の記号を使う理由を述べよ.
(発展)
定義 1.2.25 ((一般の) 積集合). {Ai}i∈I を集合族とし,各 Ai は空集合でないとする. 各 i ∈ I に対し Ai の元 ai
を対応させて元の族 (ai)i∈I を考える.∏i∈I
Ai = { (ai)i∈I | ai ∈ Ai, ∀i ∈ I}
を {Ai}i∈I の積集合と呼ぶ.
無限に集合族があるときでも積集合は一見自然に見えるが,実は積集合が存在することは他の公理と独立して
いる事がわかっている.そこで,積集合が存在することを「選択公理」と呼び,公理として認めることが多い.直
感的には,無限に要素を選んで並べ, 集合を作る操作のことを選択公理と呼んでいる7.
6沢山 (無限) の集合がある場合,Venn 図を使って De Morgan’s law を説明するのは厳しいことが分かるだろう.7一般に選択公理を認めると,パラドックス (Banach-Tarski paradox など) が発生することがある.ここでは,特殊な事象は意識しない
で進んでいくことにする.
1.2. 集合 31
例 1.2.26. 集合族 Ai = {0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9} (i ∈ N) に対して,∏i∈I
Ai = { (□,□, . . .) | □ ∈ Ai, ∀i ∈ N}.
上の□には,0 ∼ 9の数字が適当に次々と入っている.小数っぽく考えてみると,0.□□ · · · の様なもので,普段,何気なく書いている無限小数と同じと見なせる (実際は,無限に書いていないが…).
1.2.4 写像
この節では,写像や関数について考察する.写像とは読んで字の如く, 集合の要素を集合の要素にうつす対応の
ことである.正確に定義すると,
定義 1.2.27 (写像). X と Y を集合とする.X の各要素 xに対し,Y の要素 yが ただ一つ対応するような対応8
を,X から Y への写像という.対応 f がX から Y への写像であるとき,f : X → Y と表す.
また,f により x ∈ X が y ∈ Y に対応するとき y = f(x)と書くことにしよう. より詳しくまとめて,
f : X −→ Y
∈ ∈x 7−→ f(x)
などと表したりもする.
猫
人間バッタ
蝶
1
2
3
4
6本
f
写像になっている
猫
人間バッタ
蝶
1
2
3
4
6本
f
写像になっていない本に対応して値が 2個ある!
定義 1.2.4において,集合X を定義域と呼ぶことにしよう.また,写像 f は,X の部分集合に制限して定義され
ていることもあり,写像が定義されている X の部分集合を D(f) と表すことにする (以下では特に混乱の無い限
り,写像 f : X → Y に対し X を定義域としておく).
定義 1.2.28 (値域 (像)). 写像 f : X → Y を考える. X の部分集合 Aに対して,
f(A) = { f(x) | x ∈ A} (⊂ Y )
を,集合 Aの f による像と呼ぶ.また,f(X)を写像 f の像(値域)などと呼ぶ9.
例 1.2.29 (関数). X = Y = Rとする. f(x) = x2 (二次関数)とするとき,
f(X) = { y ∈ R | y ≥ 0}.
例 1.2.30 (有限集合の例). X = { x ∈ N | 1 ≤ x ≤ 5}, Y = { y ∈ N | 1 ≤ y ≤ 7}とする.
f(1) = 3, f(2) = 7, f(3) = 5, f(4) = 3, f(5) = 5 とするとき,
f(X) = {3, 5, 7}.
8(発展) 空集合 ϕ から集合 Y への写像 f : ϕ → Y は空写像と呼ばれ,f(ϕ) = ϕ として考える(分からない人は,そうなのかくらいで).9f(X) を Im f と表したりもする
32 第 1章 位相
(問題)
X = Y = { x ∈ N | 1 ≤ x ≤ 3} とする.このとき,例えば f(x) = xは写像 (関数)になっている.
(1) X から Y への写像は,何通り作れるか.
(2) X から Y への写像のうち,Imf の要素の個数が 2個となるものは何通り作れるか.
定義 1.2.31 (全射,単射). 写像 f : X → Y とする.このとき,
1. f(X) = Y であるとき,f は(X から Y への)全射もしくは上への写像という.
2. x1 = x2 ⇒ f(x1) = f(x2)であるとき,f は(X から Y への)単射もしくは一対一の写像という.
3. f が全射かつ単射であるとき,全単射であるという.
参考 1.2.32 (全射の言い換え).
f : X → Y が全射 ⇔ 任意の y ∈ Y に対し,ある x ∈ X が存在して f(x) = y
⇔ ∀y ∈ Y, ∃x ∈ X s.t. f(x) = y.
(全射と単射のイメージ)
猫
人間バッタ
蝶
1
2
3
f
全射になっている 全射になっていない
猫
人間バッタ
蝶
1
2
3
f
猫
人間バッタ
1
2
3
f
単射になっている
4
猫
人間バッタ
1
2
3
f
単射になっていない
4
(問題)
X = {1, 2, 3}, Y = {1, 2}とする.
(1) X から Y への全射は,何通り作れるか.
(2) Y からX への単射は,何通り作れるか.
(問題)
X = {x ∈ R | a ≤ x ≤ 5}, Y = {y ∈ R | 0 ≤ y ≤ 25}(ただし,aは −5 ≤ a ≤ 5を満たす実数)とする.
f(x) = x2 とするとき,以下の問に答えよ.
(1) f : X → Y が全射となるような実数 aの範囲を求めよ.
(2) f : X → Y が単射となるような実数 aの範囲を求めよ.
1.2. 集合 33
定義 1.2.33 (逆写像). f : X → Y を単射とする.
このとき,任意の y ∈ f(X)に対し f(x) = yとなる x ∈ X がただ一つ存在する10.この xを f−1(y)と書くと,
f−1 は f(X)からX への写像となる. この写像を f の逆写像と呼び,f−1 : f(X)→ X などと表す.
定義 1.2.34 (逆像). f : X → Y とする.B ⊂ Y に対して,X の部分集合
f−1(B) = { x ∈ X | f(x) ∈ B} (⊂ X)
を集合 B の逆像と呼ぶ (f−1 が写像でなくても,逆像は定義できることに注意せよ).
例 1.2.35 (逆像の例). X = Y = {1, 2, 3}とし,f(1) = f(2) = 1, f(3) = 2とする.このとき例えば,
f−1(ϕ) = ϕ, f−1({1}) = {1, 2}, f−1({1, 2}) = {1, 2, 3} = X, f−1({3}) = ϕ.
例 1.2.36 (逆像の例). X = Y = Rとし,f(x) = x2 − 2xとする.このとき例えば,
f−1({0}) = {0, 2}, f−1({y ∈ R | y ≤ 0}) = {x ∈ R | 0 ≤ x ≤ 2}.
(問題)
(1) 例 1.2.35において,f−1({2, 3})を求めよ.(2) 例 1.2.36において,f−1({a}) = ϕであるような,実数 aの範囲を求めよ.
定義 1.2.37 (合成写像). f : X → Y,g : Y → Z とする.
このとき,x ∈ X に対し g(f(x)) ∈ Z を対応させる写像を f と gの合成と呼び,
g ◦ f : X → Z
などと表す.
例 1.2.38 (合成写像の例). X = Y = Z = {1, 2, 3}とし,f(1) = f(2) = 1, f(3) = 2,g(1) = 3, g(2) = g(3) = 1
とすると,例えば
g ◦ f(1) = 3, f ◦ g(1) = 2, f ◦ f(2) = 1.
例 1.2.39 (合成写像の例). X = Y = Z = Rとし,f(x) = sinx,g(x) = x2 とすると,
g ◦ f(x) = (sinx)2 = sin2 x, f ◦ g(x) = sin(x2).
以上の例を見ても分かるように,g ◦ f と f ◦ gは一般には異なる.
(問題)(やや難) f : X → X を全単射とし,fn(x) = f ◦ f ◦ · · · ◦ f︸ ︷︷ ︸n 回
と表すことにする.以下の問に答えよ.
(1) X が有限集合のとき,ある x ∈ X と n ∈ Nが存在して fn(x) = xとなることを示せ(不動点定理の原型).
ただし,有限集合とは有限個の要素からなる集合とする.
(2) X が有限集合のとき,ある n ∈ Nが存在して fn(x) = Id(x) = xとなることを示せ.
(Id : X → X を恒等写像(Identity map)と呼ぶ).
10任意の y ∈ f(X) に対し,f(x) = y となる x ∈ X がただ一つ存在する ⇐⇒ ∀y ∈ f(X), ∃! x ∈ X s.t. f(x) = yのように略記する.記号 ∃! は,ただ一つ存在の意味.
34 第 1章 位相
1.2.5 集合と写像の基本的な性質
ここでは,集合と写像の基本的な性質を述べていく.位相や Lebesgue積分 (実解析)の主な定理は,以下の性質
から分かることになる.多くの性質は直感的にも気付くことだが,証明も一応記す.どうしても論理の分かりに
くい人は, 感覚的に定理の結果を掴むだけでもお勧めしたい.
定理 1.2.40. A1, A2 ⊂ X, B1, B2 ⊂ Y とし,写像 f : X → Y とする.
(1) A1 ⊂ A2 ⇒ f(A1) ⊂ f(A2).
(2) B1 ⊂ B2 ⇒ f−1(B1) ⊂ f−1(B2).
(証明の方針) (左) ⊂ (右)を示すためには,「(左)の任意の要素が (右)の要素となる」ことを示す.
Proof. (1)の証明.
像 f(A1)の定義より,任意の y ∈ f(A1)に対し ある x ∈ A1 が存在して y = f(x).
x ∈ A1 ⊂ A2 であるから,y = f(x) ∈ f(A2). よって, f(A1) ⊂ f(A2).
(2)の証明.
逆像 f−1(B1)の定義より,任意の x ∈ f−1(B1)に対し ある y ∈ B1 が存在して f(x) = y.
y ∈ B1 ⊂ B2 であるから,x ∈ f−1(B2). よって,f−1(B1) ⊂ f−1(B2).
定理 1.2.41. 写像 f : X → Y とする.{Ai}i∈I を X の部分集合からなる族, {Bj}j∈J を Y の部分集合からなる
族とする.このとき,
(1) f(∪i∈I
Ai) =∪i∈I
f(Ai).
(2) f(∩i∈I
Ai) ⊂∩i∈I
f(Ai).
(3) f−1(∪j∈J
Bj) =∪j∈J
f−1(Bj).
(4) f−1(∩j∈J
Bj) =∩j∈J
f−1(Bj).
Proof. (初心者は,証明についてはこの様な物があるのかくらいで.)
(1)の証明.
まず (左) ⊂ (右)を示す.
任意の y ∈ f(∪i∈I
Ai)に対し, ある i ∈ I と x ∈ Ai が存在して y = f(x).
つまり, y ∈ f(Ai) ⊂∪i∈I
f(Ai).
逆に (左) ⊃ (右)を示す.
任意の y ∈∪i∈I
f(Ai)に対し, ある i ∈ I が存在して y ∈ f(Ai).
つまり, ある i ∈ I と x ∈ Ai が存在して y = f(x).
x ∈ Ai ⊂∪i∈I
Ai であるから,y = f(x) ∈ f(∪i∈I
Ai).
(2)の証明.
任意の y ∈ f(∩i∈I
Ai)に対し, ある x ∈∩i∈I
Ai が存在して,y = f(x).
よって, 任意の i ∈ I に対し y ∈ f(Ai)であるから, y ∈∩i∈I
f(Ai).
1.2. 集合 35
(3)の証明.
まず (左) ⊂ (右)を示す.
任意の x ∈ f−1(∪j∈J
Bj)に対し, ある y ∈∪j∈J
Bj が存在して y = f(x).
よって, ある j が存在して y = f(x) ∈ Bj . つまり,x ∈ f−1(Bj) ⊂∪j∈J
f−1(Bj).
逆に (左) ⊃ (右)を示す.
任意の x ∈∪j∈J
f−1(Bj)に対し, ある j ∈ J と y ∈ Bj が存在して y = f(x).
よって, x ∈ f−1(Bj) ⊂ f−1(∪j∈J
Bj).
(4)の証明.
まず (左) ⊂ (右)を示す.
任意の x ∈ f−1(∩j∈J
Bj)に対し, ある y ∈∩j∈J
Bj が存在して y = f(x).
よって,任意の j ∈ J に対し y = f(x) ∈ Bj となる.
つまり,任意の j ∈ J に対し x ∈ f−1(Bj)となり, x ∈∩j∈J
f−1(Bj).
逆に (左) ⊃ (右)を示す.
任意の x ∈∩j∈J
f−1(Bj)に対し, y = f(x) ∈ Bj が 任意の j ∈ J について成り立つ.
つまり,任意の j ∈ J に対し y = f(x) ∈ Bj となる.
よって,y = f(x) ∈∩j∈J
Bj となり,x ∈ f−1(∩j∈J
Bj).
(問題) (この問題は,(1)と (2)でレポート一題分,(3)と (4)でレポート一題分 (合計 2題分)とします.)
X = {1, 2, 3, 4, 5} とし,X の部分集合を A = {1, 2, 3}, B = {3, 4} とする.f : X → X を f(1) = 1, f(2) = 2, f(3) = 3, f(4) = 2, f(5) = 2と定めるとき (参考図),以下の問に答えよ.
(1) f(A ∪B) および f(A) ∪ f(B)を求め, f(A ∪B) = f(A) ∪ f(B)を確かめよ.
(2) f(A ∩B) および f(A) ∩ f(B)を求め, f(A ∩B) ⊂ f(A) ∩ f(B)を確かめよ.
(3) f−1(A ∪B) および f−1(A) ∪ f−1(B)を求め, f−1(A ∪B) = f−1(A) ∪ f−1(B)を確かめよ.
(4) f−1(A ∩B) および f−1(A) ∩ f−1(B)を求め, f−1(A ∩B) = f−1(A) ∩ f−1(B)を確かめよ.
1
2
3
f
問題 (参考図)
4
5
A
B
1
2
3
4
5
A
B
(問題) 一般に A ⊂ f−1(f(A)),f(f−1(B)) ⊂ B となることが知られている.
上の問題と同じ条件の下で,このことを確かめよ.
36 第 1章 位相
1.2.6 濃度,基数
ここでは,集合の要素の個数を (一般化して)数えたい.集合の要素が無限個ある場合にも,個数に類似した考
え方がある.個数というと少しおかしいので,濃度と呼ばれる考え方を紹介する.
まずは,有限個の要素からなる集合について,当たり前の事実から考えておこう.
例 1.2.42. X と Y を有限個の要素からなる集合とする.f : X → Y が単射であるとき,X と Y の要素の個数を
それぞれ,♯X と ♯Y とおくと,
♯X ≤ ♯Y.
これは,要素の個数の大小を見ているだけである.とくに,f : X → Y が全単射の場合には,♯X = ♯Y が見て取
れる(下図).
1
2
3
f が単射
(有限集合のイメージ)
4
1
2
3
4
5
X Y
1
2
3
f が全単射
4
1
2
3
4
5
X Y
5
♯X < ♯Y ♯X = ♯Y
有限集合から類推して,無限集合の場合にも個数の概念(濃度)を定義しよう.
定義 1.2.43 (濃度). 集合X に対し,X の濃度(♯X や card(X)などと表す)と呼ばれるもの11 が一つ割り当て
られて,次を満たすものと定義する.X が有限集合のときは,要素の個数を♯X とする.
単射 f : X → Y が存在するとき,♯X ≤ ♯Y .
全単射 f : X → Y が存在するとき, ♯X = ♯Y .
例 1.2.44 (有限集合). X = {n ∈ Z | − 100 ≤ n ≤ 100}とすると,♯X = 201.
例 1.2.45 (有限集合). 有限集合X に対し, 部分集合全体からなる集合を 2X とすると,♯2X = 2♯X .
(p.28の問題参照)
さて,有限集合の場合を観察すると,f : X → Y が全射であれば,
♯X ≥ ♯Y
つまり,♯Y ≤ ♯X としたくなる.実際このことは正しい.無限集合の場合も含めて次の補題で証明しておこう.
11「もの」では曖昧なので,正確には 全単射 f : X → Y があるとき,X ∼ Y とすると,
X ∼ X (反射律)
X ∼ Y ⇒ Y ∼ X (対称律)
X ∼ Y かつ Y ∼ Z ⇒ X ∼ Z (推移律)
が満たされる. このような関係を同値関係と呼び X ∼ Y となる Y 全体を X の同値類と呼ぶ(後述予定).各々の同値類は互いに素 (交わりが無い) ので,各々の同値類を濃度と定義する.(この注釈は分からなければ,このような考え方があるのかくらいで)
1.2. 集合 37
補題 1.2.46. f : X → Y を全射とする.そのとき,ある単射 g : Y → X が存在する.
Proof. 任意の y ∈ Y に対し,f の逆像からなる集合族 {f−1({y})}y∈Y を考える.各々の f−1({y}) は空集合でないから,ある元 xy ∈ f−1({y}) ⊂ X を一つ選ぶ12ことが出来る.
さらに,y1 = y2 ⊂ Y ならば f−1({y1}) ∩ f−1({y2}) = f−1({y1} ∩ {y2}) = ϕ であるから,xy1= xy2
.
つまり,yに対し xy を対応させる写像 g : Y → X は,単射になっている.
(無限集合の濃度)
以上,有限集合の場合を考えて類推してきた.しかし,無限集合の場合にはX ⊂ Y, X = Y であっても,♯X < ♯Y
とは言い切れない (注意! “=”が無い) .
例 1.2.47. X = 2N = { 2n | n ∈ N}(偶数全体の集合),Y = Nとしてみると,X ⊂ Y だが,全単射が存在す
る.実際,f(x) = x2 とすると f : X → Y は全単射なので ♯X = ♯Y . (下図)
(無限集合のイメージ)
1
2
3
f は全単射
4
2
4
6
8
X Y
···
♯X = ♯Y
···
10 5
(問題) X = N,Y = N ∪ {0}とする. ♯X = ♯Y を示せ.(Hint. 全単射 f : X → Y を作る).
(問題) X = {0 < x < 1 | x ∈ R},Y = Rとする. ♯X = ♯Y を示せ.
(Hint. f(x) = tan(π(x− 12 )) とすると,f : X → Y は全単射となることを説明せよ).
定義 1.2.48 (可算集合). X を集合とする.全単射 f : N→ X があるとき,X を可算集合と呼び
♯X = ℵ0
と表す.ただし,ℵ はヘブライ文字の第一文字で “アレフ”と読み,ℵ0 は “アレフゼロ”と読む.
可算集合とは,まさに自然数で数え挙げられる集合と思える.高校数学で言えば数列,さらに位相や Lebesgue
積分でも使われる基礎概念となっている.
例 1.2.49. 例えば,♯N = ℵ0,♯(2N) = ℵ0 である.さらに,♯Z = ♯Q = ℵ0 にもなっている.
また,整数や有理数の有限個の積集合についても ♯Zn = ♯Qn = ℵ0 である.
(問題) ♯Q = ℵ0 を示せ. (インターネットで検索して良い.有理数,濃度などと検索すると良いだろう).
12無限にある集合族から一つずつ元を選んで並べることが出来る.このことを「選択公理」と呼んだ.
38 第 1章 位相
次に,実数の濃度について考えよう.
f : N→ Rを f(x) = xとすれば単射であるから,ℵ0 ≤ ♯Rは明らかである.全単射を作ることが出来るだろう
か?実は世にも有名な “Cantor の対角線論法”を用いた次の定理より全単射は存在しないので,ℵ0 < ♯Rとなる.
定理 1.2.50 (Cantor (1874)). 全単射 f : N→ Rは存在しない. すなわち,
ℵ0 < ♯R.
Proof. 開区間 (0, 1)と実数Rには全単射が存在するので,f : N→ (0, 1) が全単射にはなり得ないことを示せば
よい.以下,背理法で示す.
もし,全単射 f : N→ (0, 1)があったとする.このとき,f(x) ∈ (0, 1)を 10進小数13で表していくと
f(1) = 0.a11a12a13a14a15 · · ·
f(2) = 0.a21a22a23a24a25 · · ·
f(3) = 0.a31a32a33a34a35 · · ·
f(4) = 0.a41a42a43a44a45 · · ·
f(5) = 0.a51a52a53a54a55 · · ·
· · ·
ただし,akl は f(k) ∈ (0, 1)の小数第 l桁を表している.そこで,
bk =
{1 (akk = 1 のとき)
2 (akk = 1 のとき)
と定め,小数 y = 0.b1b1b3b4b5 · · · を作ると,任意の k ∈ Nに対し y = f(k). つまり,y /∈ f(N)となり,全射に
なっていない.
以上,Cantor の定理より ℵ0 < ♯Rとなる.そこで,♯R = ℵ (アレフ)と表し実数濃度と呼ぶことにする.また,可算集合でない無限集合を非可算集合と呼ぶことにしよう.
例 1.2.51 (実数濃度の例). 実は,実数の有限個の積集合Rn や自然数の部分集合全体 2N は,実数濃度を持つこ
ともわかっている.
ℵ = ♯R = ♯Rn = ♯2N.
次に,便利な定理を述べておく.直感的には明らかだが,証明は難しい(証明は,あくまで参考として最後に書
いておく).
定理 1.2.52 (Bernstein (その 1)(1897)). f : X → Y および g : Y → X を単射とする.
そのとき,ある全単射 h : X → Y が存在する. すなわち,♯X = ♯Y .
定理 1.2.53 (Bernstein (その 2)). f : X → Y および g : Y → X を全射とする.
そのとき,ある全単射 h : X → Y が存在する. すなわち,♯X = ♯Y .
例 1.2.54 ((応用) 開区間と閉区間).
♯(0, 1) = ♯[0, 1]
なぜなら,f : (−1, 1) → [1, 1]は,f(x) = xとすれば単射.逆に,g : [0, 1] → (0, 1) は,g(x) = x2 とすれば単射
となる.よって,Bernstein の定理より全単射 h : (0, 1)→ [0, 1]が存在する.
13有限小数は,0.23000 · · · = 0.22999 · · · のように二種類の表示がある.ここでは有限小数について,左辺の表記と決めておく.そうすると,一意に小数表示が出来ることになる.実数が小数表示できる事や表示の一意性について気になる人は,微積分学や解析学の本を確認のこと.
1.2. 集合 39
例 1.2.55 ((応用) 正方形 (内部)と開区間 (0, 1)). A = (0, 1)× (0, 1), B = (0, 1)とすると,
♯X = ♯Y.
なぜなら,f : A → B は,f(x, y) = xとすれば全射.逆に,g : B → A は,x ∈ B に対し x = 0.a1a2a3 · · · とし g(x) = (0.a1a3 · · · , 0.a2a4 · · · )とすれば全射となる.よって,Bernstein の定理より全単射 h : X → Y が存在
する.
Proof. 定理 1.2.52の証明 (あくまで参考ということで,分からなくても良い).
f : X → Y および g : Y → X を単射とする.
そこで,集合族 {Xn}n∈N と {Yn}n∈N を, 次のように帰納的に定義する.
X1 = g(Y ), Xn+1 = g(Yn) (n ∈ N),
Y1 = f(X), Yn+1 = f(Xn) (n ∈ N).
これらの和集合をX+ =∪
n∈N
Xn ⊂ X, Y + =∪
n∈N
Yn ⊂ Y とし,X− = X+, Y − = Y + とする.
x ∈ X2n−1のとき h(x) = f(x),
x ∈ X2nのとき h(x) = g−1(x),
x ∈ X−のとき h(x) = f(x)
と定義すると,h : X → Y は全単射になっている.
Proof. 定理 1.2.53の証明 (あくまで参考ということで,分からなくても良い).
f : X → Y および g : Y → X を全射とする.
補題 1.2.46より,ある単射 f : Y → X および g : X → Y が存在する.
よって,定理 1.2.52よりある全単射 h : X → Y が存在する14.
(問題)平面上の円板領域D = { (x, y) ∈ R2 | x2+y2 < 1}に対し,♯D = ℵを証明せよ.ただし,♯([0, 1]×[0, 1]) = ℵと Bernsteinの定理を用いて良い.
(小節まとめ)
この節では,集合と写像について紹介してきた.集合の濃度については,大雑把に集合の要素の個数を考えて
いることに相当した.まだ説明していない,同値関係,順序関係などの事項は,後日必要に応じて紹介する.応
用例についても殆ど述べられなかったが,人工知能や制御理論,経済学など,集合や写像および論理は必須の概
念であることを強調しておきたい.
ただ,ここまで準備しておけば,近い遠い (距離や位相),さらには集合の大きさ (測度)を測ることが可能にな
る.そこでまず次節では, 距離や位相について説明しよう.
14(発展参考) 定理 1.2.52 では選択公理を使っていないが,定理 1.2.53 では補題 1.2.46 を利用して証明するため選択公理を使っている,