スポーツ人間模様大宮久喜（スポーツジャーナリスト）

　

大相撲が日馬富士という第70代横綱

を迎えることで新たな第一歩を踏み出

そうとしている。ついに白鵬・日馬富

士の東西横綱が並び立つ。

　

まさに青天〈白日〉時代が来たので

ある。角界を覆っていた曇天を一気に

晴らすチャンス到来だ。

　「やっぱり、ワシと柏戸、貴乃花と

千代の富士、古くは栃錦・若乃花、い

いライバルがいてこそお互い強くなる

し、お客さんも喜んでくれる」

天才を支えた人の何百倍もの稽古

　

大先達である第48代の名横綱大鵬さ

んがそう話してくれると、なおさら期

待感が募ってくる。

　

大鵬さんにお会いするたびに、昨今

の大相撲のテイタラクが申し訳なくて

仕方がなかった。それというのも、相撲

にかける情熱が痛いほど分かるからだ。

　「みんな、ワシのこと、天才、天才

というけれど、そうじゃないよ。ワシ

ャ、人の何倍も何十倍、何百倍も稽古

したし、何度辞めようと思ったかわか

りゃせん。今どきのコは、体はでかい

し相撲もうまいけど、自分を追い込ま

ないからな…」

　

私が責任者だった新聞で長く評論を

続けてくれている。一度、その題字を

お願いに行った折に聞かせてもらった

話は今も忘れられない。「巨人・大鵬・

卵焼き」世代の右代表ともいえる者に

とっては意外だった。二所ノ関親方の

スパルタ主義で四股５００回、鉄砲２

０００回がノルマだったというが、大

鵬は朝から晩までやっていたと、自ら

豪語した。

　

その原動力になったのは、極貧から

の脱出、という相撲には不可欠なハン

グリー精神だったろう。

稽古嫌い、

飢餓知らずの弟子たちに危機感

　「生きるために、たとえ粥かゆ

すすって

も、米の飯のために稽古がある。当た

り前だよ」

　

その信条、体験を、近頃の弟子たち

の稽古嫌い、飢餓知らずを矛ほ

こ先にして、

「このままじゃ相撲がなくなる！」

　

天才の名をほしいままにした人の危

機感は説得力がある。先頃、お互いに

循環器系の疾患で通っていた病院でバ

ッタリお会いした。社交辞令で病状談

義でもと思ったら、「新弟子がおらん。

ワシの田舎の北海道でも…昔はいくら

でもいた。今じゃどこにでもあった土

俵だって少なくなっちまって」と、終

始、相撲を慮

おもんぱかる

一代の名横綱がそこ

にいた。

　

角界では、この一い

ちげんこじ

言居士ぶりに眉を

ひそめる人も少なくない。間々、理事

長目前で病に倒れたこともあり、１段

上の英雄に祭り上げられてきたきらい

もある。父親がウクライナ人だったこ

とも、見えない別格扱いにつながって

いるのかもしれない。

相撲界初の文化功労章を受章

　

大鵬さんはそれだけに、あの朝青龍

を理解し、１文字与えた白鵬の才能と

努力も買い、そして、小兵のハンディ

を乗り越えた努力の日馬富士にも大変

な評価をしている。

　

稀勢の里、琴奨菊など日本人力士の

歯がゆさが目立つ。しかし、今やワー

ルドワイドな相撲道からすれば、つい

に白日の両横綱を頂いた大相撲は、ま

さに再び絶頂期を目指せる待望のチャ

ンスととらえるべきだろう。

　

大鵬さんは長年にわたり70台もの救

急車を寄贈し、3・11後も植林啓蒙運

動の旗を振っている。２００９年には

相撲界からは初となる文化功労章も受

けた。

　

盛り上がってくるだろう土俵を大鵬

さんがどう評価、評論するか、楽しみ

で仕方がない。

天才横綱・大鵬努力の人・日馬富士を評価

47 Shokokai 2012.11