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正常稼働状態の表現学習に基づく風車異常検知 小川哲司研究室 基礎班 修士 2 長谷川 隆徳 1. はじめに 風力発電機等の大型産業機械の故障停止は,産業・社 会に甚大な影響を与える.現状は法令等に基づく定期メ ンテナンスを実施し,維持管理を行うことが多いものの, 風車は最大級の回転機械であるためメンテナンスや故障 検知は難しい.このような故障検知の難しい機器におい て劣化や損傷等の経年変化をより正確にかつ早期に遠隔 から把握できれば,機器の状態に応じた費用対効果の高 いメンテナンスの実施が可能となる.そこで,状態監視 システム(Condition Monitoring System; CMS)への 期待が高まっている. 近年,CMS から収集された振動,音響,温度,AE のデータに対する解析技術が検討されている [1–6].そ の中でも,一般的に振動データは機械要素の損傷の予兆 が比較的早期に現れるとされている [7].そこで本研究で は加速度ピックアップから得られる振動データを解析対 象として,信号処理と機械学習に基づくデータ駆動型ア プローチにより,回転機器に対する異常予兆を精度良く 検出する異常検知システムを構築する. 一般に,データ駆動型の異常検知システムでは,入力 信号から正常と異常を識別することでモニタリング対象 機器の異常状態を検知するアプローチは望ましくない. このアプローチは,異常検知システムを構築するために 正常と異常データの 2 つを必要とする.つまり,モニタ リング対象機器の異常状態の信号が事前に観測されてい ることを前提としており,損傷の発生が稀である機器を 対象とした場合は現実的ではない.また,稀に発生する 風車主要機器の故障状態の信号が観測されたとしても, 主要機器の構造は複雑で,その故障パターンは膨大であ る.実際に,風力発電に用いられる風車は,電気系統で の損傷の発生は 1 機あたり平均して 0.4 回と多いものの, 主軸受や増速機,発電機等の回転機械等で損傷が発生す るのは年にそれぞれ 0.2 回程度だったという報告がなさ れている [7].そのため,損傷データが実運用上取得しに くい機器を対象として正常データと異常データの両方を 網羅的に収集し,正常と異常の 2 クラスに分類するモデ ルを構築するのは容易ではない. そのため,一般的なデータ駆動型の異常検知システム は,外れ値検知のアプローチが採られることが多い.こ のアプローチでは,モニタリング対象となる機器の正常 稼働状態のデータのみを用いて正常状態モデルを構築し, このモデルから「外れる」(正常モデルの尤度が閾値を 下回る)入力を異常と判定することで異常検知を行う. つまり,正常データとは言えない入力信号を異常と定義 している.また,正常状態モデルの構築に明示的に異常 データを使わないことで,学習データが存在しない未知 の異常データの検知が可能になる.実際に我々は,特徴 量として音声認識や脳波解析において高い性能を上げて いるフーリエ局所自己相関特徴 [8–10] Fourier Local Auto-Correlation features; FLAC)を用い,正常状態を 混合ガウス分布(Gaussian Mixture Model; GMM)に よりモデル化した異常検知システムを構築し,風車実機 データに対する有効性を明らかにした [11, 12].このと き,正常状態であっても風車周辺の気象状況や計測セン サーの変更などにより振動は変動することに注意すべき である.そのため,未知の正常状態に対して頑健なモデ ルを構築(汎化)すべきであるが,そうすると未知の異 常を検知できなくなる.これは,外れ値検知に基づく異 常検知が潜在的に抱える弱点である. この問題に対して我々は,機器の違いや周辺の環境に よらず正常と損傷を表す本質的な特徴表現をデータ駆動 で求めることで,異常検知器の汎化を回避するアプロー チを提案してきた.この取り組みの 1 つとして,DNN Deep Neural Network; DNN/GMM タンデム接続型 異常検知という新たな風車異常検知の枠組みを提案し, 風車実機データに対する異常検知性能を著しく改善し [13].この枠組みは GMM を用いた外れ値検知の枠組 みではあるが,機器の正常状態と損傷状態の識別に寄与 する本質的な特徴表現を抽出する特徴抽出器を,モニタ リング対象とは異なる機器から得られた正常・損傷デー タを用いて構築したことが,検知性能の改善に貢献した. 提案方式では,モニタリング対象機器ではないものの類 似した機器から取得した損傷状態の振動データを利用し ている.それに対し,損傷状態の観測データを全く用い ることができない状況においても、できるだけ高性能な 異常検知システムが構築できれば、CMS の実運用にお いて有益となると考えられる. そこで本研究では,機器の正常稼働データのみを用い て汎化性能の高い特徴抽出器を構築することを試みる.提 案システムでは,複数の機器で観測された正常稼働状態 のデータを用いて構築した自己符号化器(Autoencoder; AE)のコンパクトな中間層出力を特徴表現として用い, 正常状態の照合を行う GMM に入力することで機器の異 常検知を行う.風車実機主要機器の振動データを用いて 提案システムを評価することで,提案システムの有効性

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正常稼働状態の表現学習に基づく風車異常検知

小川哲司研究室 基礎班 修士 2年 長谷川 隆徳

1. は じ め に

風力発電機等の大型産業機械の故障停止は,産業・社

会に甚大な影響を与える.現状は法令等に基づく定期メ

ンテナンスを実施し,維持管理を行うことが多いものの,

風車は最大級の回転機械であるためメンテナンスや故障

検知は難しい.このような故障検知の難しい機器におい

て劣化や損傷等の経年変化をより正確にかつ早期に遠隔

から把握できれば,機器の状態に応じた費用対効果の高

いメンテナンスの実施が可能となる.そこで,状態監視

システム(Condition Monitoring System; CMS)への

期待が高まっている.

近年,CMSから収集された振動,音響,温度,AE等

のデータに対する解析技術が検討されている [1–6].そ

の中でも,一般的に振動データは機械要素の損傷の予兆

が比較的早期に現れるとされている [7].そこで本研究で

は加速度ピックアップから得られる振動データを解析対

象として,信号処理と機械学習に基づくデータ駆動型ア

プローチにより,回転機器に対する異常予兆を精度良く

検出する異常検知システムを構築する.

一般に,データ駆動型の異常検知システムでは,入力

信号から正常と異常を識別することでモニタリング対象

機器の異常状態を検知するアプローチは望ましくない.

このアプローチは,異常検知システムを構築するために

正常と異常データの 2つを必要とする.つまり,モニタ

リング対象機器の異常状態の信号が事前に観測されてい

ることを前提としており,損傷の発生が稀である機器を

対象とした場合は現実的ではない.また,稀に発生する

風車主要機器の故障状態の信号が観測されたとしても,

主要機器の構造は複雑で,その故障パターンは膨大であ

る.実際に,風力発電に用いられる風車は,電気系統で

の損傷の発生は 1機あたり平均して 0.4回と多いものの,

主軸受や増速機,発電機等の回転機械等で損傷が発生す

るのは年にそれぞれ 0.2回程度だったという報告がなさ

れている [7].そのため,損傷データが実運用上取得しに

くい機器を対象として正常データと異常データの両方を

網羅的に収集し,正常と異常の 2クラスに分類するモデ

ルを構築するのは容易ではない.

そのため,一般的なデータ駆動型の異常検知システム

は,外れ値検知のアプローチが採られることが多い.こ

のアプローチでは,モニタリング対象となる機器の正常

稼働状態のデータのみを用いて正常状態モデルを構築し,

このモデルから「外れる」(正常モデルの尤度が閾値を

下回る)入力を異常と判定することで異常検知を行う.

つまり,正常データとは言えない入力信号を異常と定義

している.また,正常状態モデルの構築に明示的に異常

データを使わないことで,学習データが存在しない未知

の異常データの検知が可能になる.実際に我々は,特徴

量として音声認識や脳波解析において高い性能を上げて

いるフーリエ局所自己相関特徴 [8–10] (Fourier Local

Auto-Correlation features; FLAC)を用い,正常状態を

混合ガウス分布(Gaussian Mixture Model; GMM)に

よりモデル化した異常検知システムを構築し,風車実機

データに対する有効性を明らかにした [11, 12].このと

き,正常状態であっても風車周辺の気象状況や計測セン

サーの変更などにより振動は変動することに注意すべき

である.そのため,未知の正常状態に対して頑健なモデ

ルを構築(汎化)すべきであるが,そうすると未知の異

常を検知できなくなる.これは,外れ値検知に基づく異

常検知が潜在的に抱える弱点である.

この問題に対して我々は,機器の違いや周辺の環境に

よらず正常と損傷を表す本質的な特徴表現をデータ駆動

で求めることで,異常検知器の汎化を回避するアプロー

チを提案してきた.この取り組みの 1 つとして,DNN

(Deep Neural Network; DNN)/GMMタンデム接続型

異常検知という新たな風車異常検知の枠組みを提案し,

風車実機データに対する異常検知性能を著しく改善し

た [13].この枠組みは GMMを用いた外れ値検知の枠組

みではあるが,機器の正常状態と損傷状態の識別に寄与

する本質的な特徴表現を抽出する特徴抽出器を,モニタ

リング対象とは異なる機器から得られた正常・損傷デー

タを用いて構築したことが,検知性能の改善に貢献した.

提案方式では,モニタリング対象機器ではないものの類

似した機器から取得した損傷状態の振動データを利用し

ている.それに対し,損傷状態の観測データを全く用い

ることができない状況においても、できるだけ高性能な

異常検知システムが構築できれば、CMS の実運用にお

いて有益となると考えられる.

そこで本研究では,機器の正常稼働データのみを用い

て汎化性能の高い特徴抽出器を構築することを試みる.提

案システムでは,複数の機器で観測された正常稼働状態

のデータを用いて構築した自己符号化器(Autoencoder;

AE)のコンパクトな中間層出力を特徴表現として用い,

正常状態の照合を行う GMMに入力することで機器の異

常検知を行う.風車実機主要機器の振動データを用いて

提案システムを評価することで,提案システムの有効性

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を明らかにする.本実験で得られた知見は,日々収集さ

れる CMSデータの有効な活用方法や異常検知システム

の早期運用について有益となることが期待される.

2. 関 連 研 究

データ駆動型異常検知とは,対象機器の対象機器の稼

働状態が正常か異常かを判断する「専門家の知識」を蓄

積された過去のデータから「学習」することで得ようと

するアプローチである.機械学習による異常検知,1)正

常と異常の識別に寄与する特徴量の設計と,2) 高精度

な正常と異常状態の識別器(もしくは照合器)の構築の

2つである.ここでは,正常と異常状態の識別器と照合

器に着目する.正常と異常状態の識別によるアプローチ

では,モニタリング対象機器ごとに観測した正常と異常

データを用いて識別器を構築し,未知の観測データが正

常と異常のどちらに分類されるかで異常の検知を行う.

識別器は,入力データを正常と異常,もしくはいくつか

の故障パターンに分類するような SVMや DNNが用い

られる [14–18].[18]は,数百機の風車から収集した大量

の損傷データを利用し,畳み込みニューラルネットワー

クを構築し,正常と異常の識別に基づく異常検知が行っ

た.ただし,一般的には,損傷のバリエーションが膨大

であるため,正常と異常の識別器の構築は困難であり,

こういったシステムが実現できるのは一部の企業に限定

される.

一方,正常状態の照合(もしくは外れ値検知)に基づ

く異常検知アプローチでは,監視対象機器の正常データ

のみで照合器を構築し,入力されたデータが正常状態

からどれだけ逸脱しているかで異常の検知を行う.振動

や SCADA データ等から,特徴量を計算し,one-class

SVM や GMM, Autoencoder などの照合器を構築す

る [19–21].[21]は,正常稼働状態下で SCADAを通し

て取得される各センサー値に対して,Denoising Autoen-

coderを構築し, 異常時では各センサー値が学習データ

に含まれていないため,Denoising Autoencoderで再構

成できないことを利用して異常を検知することを試みた.

現状の多くの研究では,1)データ収集からモデルの構

築,モニタリングまでを機器ごとに行っている,2)実際

の運用においてはほとんど観測されない異常状態のデー

タの使用を前提としてモデルを構築している,などシス

テム構築の前提条件において課題が見て取れる.一方で

本研究では,モニタリング対象外の機器から取得した

データを異常検知システムの高精度化に効率的に活用す

ることを試みる.

3. AE/GMMタンデム接続型異常検知システム

本研究では,監視対象機器やそれに類似した機器の正

常稼働状態のデータのみを用いて構築した AEのコンパ

クトな中間層出力を特徴表現として用い,正常状態の照

合を行う GMM に入力することで機器の異常検知を行

う.この枠組みを AE/GMM タンデム接続型異常検知

と呼ぶ(図 1).特徴抽出器(AE)の構築と異常検知器

(GMM)の構築は別々に行われる点に注意したい.

特徴抽出器として用いる AEの構造を図 2に示す.こ

の AEは 7層の全結合型ニューラルネットワークであり,

4層目にボトルネック層(他の隠れ層に比べユニット数

が絞られた層)を持つ.正常データを用いて入力と出力

を同じになるように学習することで構築できるニューラ

ルネットワークである.入力からボトルネック層までの

エンコーダ部分が特徴抽出に相当する.この AEを監視

対象機器を含む複数機器の正常データを用いて学習する

とき,ボトルネック層出力には機種や機器の違いに依ら

ない正常稼働状態とは何か,を表す本質的な情報が含ま

れていると期待できる.このボトルネック層の出力を特

徴量として後段の GMMに基づく異常検知器の入力に用

いることで,異常検知性能の向上が期待できる.

いま,オートエンコーダの入力には,FLAC特徴量を

用いる.このとき,入力の次元数は 75,中間層は 64と

32ユニットを適用する.また,ボトルネック層のユニッ

ト数は,実験的に決定する.

4. 風車データセットによる異常検知実験

タンデム接続型異常検知システムの有効性を検証する

ために,NEDO事業「スマートメンテナンス技術研究開

発(分析)(リスク解析等)」において収集された風力発

電機実機の CMSデータ(加速度振動データ)を用いて

異常検知実験を行った.

4. 1 振動データ

本研究で用いる振動データセットである CMSデータ

セットについて述べる.モニタリング対象機器は風力発

電機の主軸受(回転速度: 19.4 rpm)であり,NTN社

製計測装置 [22, 23]により取得された加速度振動データ

である.計測は設置された加速度ピックアップにより 1

回あたり 40 秒の振動データが記録され,この計測が 2

時間間隔で行われた.サンプリング周波数は 25.6kHzで

ある.本実験で使用する主軸受振動データ A.07および

B.21 は,それぞれ異なるサイトで取得されたものであ

り,風車の機種も異なる.また,モニタリング対象の主

軸受の形式はいずれも自動調心ころ軸受であるが,主要

寸法等スペックは異なる.各主軸受の損傷状況は,A.07

が「軌道面の剥離損傷」,B.21が「転動体ならびに軌道

面の剥離損傷」であった.各データセットの正常・損傷状

態の計測回数(記録された振動データ数)を表 1に示す.

4. 2 比較システム

本実験では,以下の 4つのシステムの異常検知性能を

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図 1 AE/GMM タンデム接続型異常検知システムの処理の流れ

図 2 AE/GMM タンデム接続型異常検知システムの概要図表 1 CMS データセットのデータ量

風車サイト. 号機収録計測数

正常データ 異常データ

A.07 2050 1304

B.21 1331 1033

比較した.本実験では, システム構築には一切損傷デー

タは利用せず,モニタリング対象の正常データと,モニ

タリング対象とは異なる機器から取得した正常データを

用いる.

• FLAC-tGMM:特徴量として FLACを抽出し,

モニタリング対象機器の正常状態データから構築した

GMMにより異常検知を行う.

• tAE/BNF-tGMM:AE/GMM タンデム接続

型異常検知システム.前段のボトルネック特徴抽出器

(AE)と照合器(GMM)を,モニタリング対象から取

得された正常から構築する.

• allAE/BNF-tGMM: AE/GMM タンデム接

続型異常検知システム.前段のボトルネック特徴抽出

器(AE)は,モニタリング対象とモニタリング対象外

の機器から取得した正常データを用いて構築し,照合器

(GMM)を,モニタリング対象から取得された正常デー

タから構築する.

• allAE/BNF-allGMM:AE/GMMタンデム接

続型異常検知システム.前段のボトルネック特徴抽出器

(AE)と照合器(GMM)を,モニタリング対象とモニ

タリング対象外の機器から取得した正常データを用いて

構築する.

このとき,振動波形フレーム長は 5.12 秒である.ま

た,1フレーム分の FLAC特徴量出力 75次元をオート

エンコーダの入力とした.ボトルネック層のユニット数

は 16とし,GMMの混合数は 8とした.

4. 3 実 験 結 果

CMS データセットの主軸受データ A.07,B.21 に対

して各システムを用いて異常検知を行った場合の ROC

曲線と AUC値を計算する.また,システムが出力する

異常値のトレンドも求める.A.07および B.21に対する

ROC曲線と AUC値を各々図 3 および図 4に,異常度

のトレンドを図 5~図 8に示す.このとき,A.07をモニ

タリング対象の主軸受とすると,tGMMと tAEはモ

ニタリング対象の A.07の正常データを用いて構築する

ことを意味し,allGMM,allAEはモニタリング対象

の A.07ならびにモニタリング対象とは異なる B.21の正

常データを用いて構築した.

図 3 および 4 より,allAE/BNF-tGMM は,A.07,

B.21 に依らず,4 システムの中で最も高い性能を達成

した.一方,tAE/BNF-tGMM は従来システムである

FLAC-tGMM と同等の性能を与えるにとどまり,また

allAE/BNF-allGMMはB.21においては他の 3システム

と比較して性能の劣化が見られた.これより,AE/GMM

タンデムシステムの構築法について,以下の知見が得ら

れる.

• AE(特徴抽出器)はモニタリング対象を含む複数

機器のデータを用いて構築するのが良い.(汎化できる)

• GMM(異常検知器)はモニタリング対象機器の

データのみで構築するのが良い.(汎化は望ましくない)

続いて図 5から図 8に示した異常度のトレンドについ

て述べる.本事例では,主軸受交換前に収録したデータ

を異常状態とし,正常状態の学習区間は主軸受交換後に

設定した.図 5と図 6はモニタリング機器を A.07とし

たときの各システムが出力する一例である.また,図 7

と図 8はモニタリング機器を B.21としたときの各シス

テムが出力する一例である.図 5と図 6,図 7と図 8を

それぞれ比較すると,FLAC-tGMMシステムに比べ,

allAE/BNF-tGMM システムでは主軸受交換前後で

システムが出力する異常度の差が明確になっており,主

軸受交換前の損傷発生時には異常度が継続して高い値を

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示していること,そして主軸受交換後の正常状態では異

常度が低い値を保っていることから正常・異常の判断が

容易に行えることが見て取れる.

以上により,特徴抽出器としての有効性のみならず,

異なる機種から取得した正常データの有効的な活用方法

という観点からも AE/GMMタンデム接続型システムの

有効性が明らかになった.

図 3 A.07 をモニタリング対象としたときの ROC 曲線と

AUC 値

図 4 B.21 をモニタリング対象としたときの ROC 曲線と

AUC 値

図 5 A.07 をモニタリング対象としたときの FLAC-tGMM

システムの 異常度のトレンド.主軸受は区間 (I)(2015年

4月 4日から 2015年 4月 14日)に交換され,照合器は

区間 (II)(2015 年 4 月 15 日から 2015 年 6 月 15 日) で

取得されたデータを用いて構築した.

5. ま と め

本稿では,オートエンコーダを用いて機器の正常状態

をコンパクトに表現した特徴量を抽出し,その後段で

図 6 A.07 をモニタリング対象としたときの allAE/BNF-

tGMM システムの 異常度のトレンド.主軸受は区間

(I)(2015 年 4 月 4 日から 2015 年 4 月 14 日) に交換さ

れ,照合器は区間 (II)(2015年 4月 15日から 2015年 6

月 15日)で取得されたデータを用いて構築した.特徴抽

出器は区間 (II)と B.21の正常データを用いて構築した.

図 7 B.21をモニタリング対象としたときの FLAC-tGMMシ

ステムによる異常度のトレンド.主軸受は区間 (I)(2015

年 5月 27日から 2015年 10月 31日)に交換され,照合

器は区間 (II)(2015 年 11 月 1 日から 2015 年 12 月 31

日) で取得されたデータを用いて構築した.

図 8 B.21 をモニタリング対象としたときの allAE/BNF-

tGMMシステムによる異常度のトレンド.主軸受は区間

(I)(2015 年 5 月 27 日から 2015 年 10 月 31 日) に交換

され,照合器は区間 (II)(2015年 11月 1日から 2015年

12 月 31 日) で取得されたデータを用いて構築した.特

徴抽出器は区間 (II) に加え A.21 の正常データを用いて

構築した.

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GMMを用いて正常状態の照合を行うAE/GMMタンデ

ム接続型異常検知システムの有効性について述べた.風

力発電機実機の主軸受データにより評価を行ったところ,

提案する正常状態をコンパクトに表現した特徴量は,従

来高い性能を与えていた FLAC特徴の性能を大きく上回

ることが明らかになった.また,異常検知システムの構

築には,特徴抽出器は汎化できる,つまりモニタリング

対象に加えモニタリング対象とは異なる機器から収録し

た正常データを用いて構築できる一方,照合器 (異常検

知器)は汎化するのは望ましくない,つまりモニタリン

グ対象のみのデータで構築することが望ましいという可

能性を示した.

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