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秒速・過去問攻略講座2020 講師 加藤喬 1 [民事系科目]令和1年 1 2 〔第3問〕 (配点:100[ 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:40:25]) 3 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 4 5 【事 例】 6 Xは,A県A市(以下「A市」という。)に住む会社員であり,夫と3人の小学生の子供がいる。 7 X一家はキャンプ好きのアクティブな一家である。Yは,自動車製造会社であるS社の系列会社 8 であり,S社の製造するワゴン車等をキャンピングカーに改造して販売している。Yは,本店が 9 B県B市(以下「B市」という。)にあり,全国各地に支店を有する。 10 Xは,ある日,A市内にあるYのA支店において,Yとの間で,甲というシリーズ名の新車の 11 キャンピングカーを400万円で買うとの売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し,40 12 0万円を支払った。Xは,本件契約を締結する際,YのA支店の従業員から,甲シリーズのキャ 13 ンピングカーは,耐荷重180kgの上段ベッドシステムがリビング部の上に設置されており, 14 成人男性で言えばリビング部に3名,上段ベッドに2名の合計5名が就寝可能であるという仕様 15 (以下「本件仕様」という。)を有しているとの説明を受けた。また,本件契約の対象となるキャ 16 ンピングカーが本件仕様を有することは,本件契約の契約書にも明記されていた。 17 本件契約の契約書は,Yが用意したものであり,そこには他に「本件契約に関する一切の紛争 18 は,B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との定め(以下「本件定め」という。)が記載さ 19 れていた。B地方裁判所は,Yの本店があるB市を管轄する裁判所である。 20 Xは,本件契約に定められた納入日にキャンピングカーの引渡しを受けた(以下,Xが引渡し 21 を受けたキャンピングカーを「本件車両」という。)。引渡しを受けた当日,Xの子供3人が本件 22 車両の上段ベッドに乗ったところ,この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段 23 ベッドが落下した(以下,この事件を「本件事故」という。)。幸い3人の子供にけがはなかった 24 が,本件事故により5名が就寝可能なキャンピングカーとして本件車両を利用することが不可能 25 になった。XがYに本件車両の引取りと本件車両の代わりに本件仕様を有する別のキャンピング 26 カーの引渡しを要求したところ,YのA支店の従業員は,子供が上段ベッド上で激しく動き過ぎ 27 たために仕様上の想定を超えた負荷が掛かり上段ベッドが落下したのではないかなどと主張し, 28 これに応じなかった。そのため,Xは,以後,本件車両を自宅車庫にて保管している。 29 Xの委任を受けた弁護士Lは,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,履行遅滞に 30 よる本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行として支払済みの代金400万円の返還を求 31 める訴えを,A市を管轄するA地方裁判所に提起し(以下,この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」 32 という。),訴状において以下の①から⑦までの事実を主張した。 33 ① XがYとの間で,本件仕様を有するキャンピングカーを目的物とする本件契約を締結した 34 事実 35 ② XがYに対して本件契約に基づき400万円を支払った事実 36 ③ YがXに対して本件契約の履行として本件車両を引き渡した事実 37 ④ 本件事故が起きた事実 38 ⑤ 本件車両が本件仕様を有していなかった事実 39 ⑥ XがYに対して本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡すように催告をし,それから 40 相当期間が経過したので本件契約を解除する旨の意思表示をした事実 41 ⑦ Xが自宅車庫に本件車両を保管している事実 42 43 Yは,本案について弁論する前に,A地方裁判所に対し,本件定めによりB地方裁判所のみが 44 管轄裁判所となるとして,民事訴訟法第16条第1項に基づき,本件訴訟をB地方裁判所に移送 45

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秒速・過去問攻略講座2020

講師 加藤喬

1

[民事系科目]令和1年 1

2

〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:40:25]) 3

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 4

5

【事 例】 6

Xは,A県A市(以下「A市」という。)に住む会社員であり,夫と3人の小学生の子供がいる。7

X一家はキャンプ好きのアクティブな一家である。Yは,自動車製造会社であるS社の系列会社8

であり,S社の製造するワゴン車等をキャンピングカーに改造して販売している。Yは,本店が9

B県B市(以下「B市」という。)にあり,全国各地に支店を有する。 10

Xは,ある日,A市内にあるYのA支店において,Yとの間で,甲というシリーズ名の新車の11

キャンピングカーを400万円で買うとの売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し,4012

0万円を支払った。Xは,本件契約を締結する際,YのA支店の従業員から,甲シリーズのキャ13

ンピングカーは,耐荷重180kgの上段ベッドシステムがリビング部の上に設置されており,14

成人男性で言えばリビング部に3名,上段ベッドに2名の合計5名が就寝可能であるという仕様15

(以下「本件仕様」という。)を有しているとの説明を受けた。また,本件契約の対象となるキャ16

ンピングカーが本件仕様を有することは,本件契約の契約書にも明記されていた。 17

本件契約の契約書は,Yが用意したものであり,そこには他に「本件契約に関する一切の紛争18

は,B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との定め(以下「本件定め」という。)が記載さ19

れていた。B地方裁判所は,Yの本店があるB市を管轄する裁判所である。 20

Xは,本件契約に定められた納入日にキャンピングカーの引渡しを受けた(以下,Xが引渡し21

を受けたキャンピングカーを「本件車両」という。)。引渡しを受けた当日,Xの子供3人が本件22

車両の上段ベッドに乗ったところ,この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段23

ベッドが落下した(以下,この事件を「本件事故」という。)。幸い3人の子供にけがはなかった24

が,本件事故により5名が就寝可能なキャンピングカーとして本件車両を利用することが不可能25

になった。XがYに本件車両の引取りと本件車両の代わりに本件仕様を有する別のキャンピング26

カーの引渡しを要求したところ,YのA支店の従業員は,子供が上段ベッド上で激しく動き過ぎ27

たために仕様上の想定を超えた負荷が掛かり上段ベッドが落下したのではないかなどと主張し,28

これに応じなかった。そのため,Xは,以後,本件車両を自宅車庫にて保管している。 29

Xの委任を受けた弁護士Lは,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,履行遅滞に30

よる本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行として支払済みの代金400万円の返還を求31

める訴えを,A市を管轄するA地方裁判所に提起し(以下,この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」32

という。),訴状において以下の①から⑦までの事実を主張した。 33

① XがYとの間で,本件仕様を有するキャンピングカーを目的物とする本件契約を締結した34

事実 35

② XがYに対して本件契約に基づき400万円を支払った事実 36

③ YがXに対して本件契約の履行として本件車両を引き渡した事実 37

④ 本件事故が起きた事実 38

⑤ 本件車両が本件仕様を有していなかった事実 39

⑥ XがYに対して本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡すように催告をし,それから40

相当期間が経過したので本件契約を解除する旨の意思表示をした事実 41

⑦ Xが自宅車庫に本件車両を保管している事実 42

43

Yは,本案について弁論する前に,A地方裁判所に対し,本件定めによりB地方裁判所のみが44

管轄裁判所となるとして,民事訴訟法第16条第1項に基づき,本件訴訟をB地方裁判所に移送45

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するよう申し立てた。 46

なお,Xの居住地,Lの事務所,YのA支店及びA地方裁判所は,いずれもA市中心部にあり,47

Yの本店及びB地方裁判所は,いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距48

離は,約600kmであり,新幹線,在来線等の公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かる。 49

50

以下は,Lと司法修習生Pとの間の会話である。 51

L:Yの移送申立てに対して反論をする必要がありますが,反論にはどのような理由が考えられ52

ますか。 53

P:Yは,本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内54

容とすると解釈しているようですが,本件定めがそのような内容の定めではないという理由が55

考えられます。 56

L:そうですね。そこで,Yの解釈の根拠も踏まえつつ,本件定めの内容についてYの解釈とは57

別の解釈を採るべきだとの立論を考えてください。これを課題⑴とします。ところで,本件定58

めの内容についてのYの解釈を前提とすると,民事訴訟法第16条第1項が適用され,Xとし59

ては,本件訴訟の移送を受け入れなければならないのでしょうか。 60

P:Xとしては何とかしてA地方裁判所での審理を求めたいところだと思います。 61

L:そうですね。本件定めの内容についてのYの解釈を前提とするとしても,本件訴訟はA地方62

裁判所で審理されるべきであるとの立論を考えてください。これを課題⑵とします。本件の事63

例に即して検討することを心掛けてください。 64

65

〔設問1〕 66

あなたが司法修習生Pであるとして,Lから与えられた課題⑴及び課題⑵について答えなさい。 67

68

【事 例(続き)】 69

Yの移送申立てが却下され,本件訴訟はA地方裁判所で審理されることになった。本件訴訟の70

第1回口頭弁論期日においてLが訴状を陳述したところ,Yは,上記①から⑦までの事実のうち71

⑤の事実以外の事実を認める陳述をする一方,上記⑤の事実に関しては,本件仕様を有する本件72

車両を引き渡したと主張した。 73

その後に行われた今後の訴訟方針についての打合せの際,Lは,Xから,本件事故が起きたと74

きに落下した上段ベッドの下敷きになりXが夫から結婚10周年の記念にもらった時価15075

万円の腕時計が損壊したこと(以下「本件損壊事実」という。),損壊した腕時計をXがメーカー76

修理に持ち込んだところ修理費用として100万円を請求され支払ったことを告げられた。Xが77

これまで本件損壊事実を告げなかった理由について,LがXに尋ねたところ,メーカー保証によ78

り腕時計については無償修理ができると考えていたためであるとのことであった。そこで,Lは,79

本件訴訟において,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,本件契約の債務不履行に80

基づく損害賠償請求として100万円の支払を求める請求を追加し,⑧本件損壊事実及び⑨Xが81

腕時計の修理費として100万円を支払った事実を追加主張した。 82

Yの訴訟代理人は,100万円という高額の請求が後から追加されたことでXの主張する本件83

事故の発生経緯に疑いの目を向けるようになった。そこで,Yの訴訟代理人は,その後に開かれ84

た口頭弁論期日において④の事実に関する従前の認否を撤回し,④及び⑧の事実を否認し,⑨の85

事実に対し不知との陳述をした。これに対し,Lは,Yが④の事実に対する認否を撤回すること86

は裁判上の自白の撤回に当たり,許されない旨異議を述べた。 87

88

以下は,本件訴訟を担当する裁判官Jと司法修習生Qとの間の会話である。 89

J:本件訴訟では,Xが訴えの変更をして請求を追加していますね。このように訴えが追加的に90

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変更された場合に,元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料はどのような関係に立ち91

ますか。 92

Q:元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくとも追加された請求についての訴訟資料に93

なると理解しています。 94

J:元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料の関係については異なる理解もあり得るか95

もしれませんが,ここではあなたの理解を前提としましょう。Lの述べるとおり,Yは,④の96

事実を認める旨の陳述を自由に撤回することができなくなっているのでしょうか。 97

Q:裁判上の自白の成立要件に照らして検討してみる必要があると思います。 98

J:そのとおりですね。裁判上の自白の成立により,Yが④の事実を認める旨の陳述を自由に撤99

回することができなくなっているかどうか,検討してみてください。これを課題とします。本100

件では,元の請求及び追加された請求のそれぞれにおける④の事実の位置付けを考慮する必要101

がありますね。その上で,Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響するかど102

うかも考えてみましょう。なお,自由に撤回することができないとしても,例えば事実に反す103

ることを証明した場合など一定の事由があれば,撤回が許される場合がありますが,ここでは104

その事由があるかどうかまでは検討する必要がありません。 105

106

〔設問2〕 107

あなたが司法修習生Qであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。 108

109

【事 例(続き)】 110

本件訴訟の争点整理手続が行われている間,Lは,Yの元従業員から,同じくYの元従業員で111

Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたTが,甲シリーズ112

のキャンピングカーの仕様について疑問を口にしていたことがあるとの情報を得た。 113

LがTを訪ねたところ,Tの妻Zが応対し,Lに対し,以下の(ア)から(ウ)までの事情を述べた。 114

(ア) Tは,Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたが,115

先日,死亡した。Tの相続人はZだけである。 116

(イ) Tは,生前日記を作成していた。その日記は,今はZが保管しており,そこには,要約す117

ると,甲シリーズのキャンピングカーには上段ベッドシステム部分に設計上の無理があり,118

その旨を上司に進言したが取り合ってもらえなかった,という内容の記載がある(以下,こ119

の日記のうち,この内容が記載されている箇所を「本件日記」という。)。 120

(ウ) Zとしては,本件日記の詳しい内容はプライバシーに関わるから言えないし,その内容を121

直接見せたり証拠として提供したりすることもできない。 122

123

そこで,Lは,Zを所持者として本件日記についての文書提出命令を申し立てた。その申立書124

には,上記(アから(ウまでの事情が記載されていた。 125

126

以下は,Jと司法修習生Rとの間の会話である。 127

J:あなたには,Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際にどのような観点か128

らどのような事項を考慮すべきかを検討してもらいます。文書提出義務の根拠条文に照らして129

検討する必要がありますが,申立書に記載されているもの以外の事情を仮定する必要はありま130

せん。また,文書提出義務の有無についての結論までは示す必要はありません。これを課題と131

します。 132

R:本件日記に書かれている内容がキャンピングカーの上段ベッドシステム部分に係る設計上の133

ミスということなので,民事訴訟法第197条第1項第3号の「技術又は職業の秘密」に該当134

する可能性を考える必要はないでしょうか。 135

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J:ここでは「技術又は職業の秘密」に該当する事柄が記載してあることまで考える必要はあり136

ません。今回の検討ではその点は除外して考えましょう。 137

138

〔設問3〕 139

あなたが司法修習生Rであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。140

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[解 説] 秒速・過去問攻略講座2020

講師 加藤喬

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第1.総論

1.出題の概要

本問は,会社員Xが,全国展開している業者Yから購入したキャンピング

カーが契約どおりの仕様を有していなかったことを理由として,履行遅滞に

よる売買契約の解除に基づく原状回復としての売買代金の返還と債務不履行

に基づく損害賠償をYに求めるという事案を題材として,①管轄に関する合

意が存在し,それを専属的管轄合意と解釈した場合には管轄を有しないこと

になる裁判所に訴えを提起したことを前提に,民事訴訟法(以下「法」とい

う。)第16条第1項による移送をすべきではないとの立論をすること(設問

1),②原告が主張する特定の事実を認める旨の被告の陳述が裁判上の自白に

該当して自由に撤回することができなくなるかを検討すること(設問2),③

作成者が死亡しその相続人が所持するに至った日記を対象とする文書提出義

務の成否を判断するためにどのような観点からどのような事項を考慮すべき

かを検討すること(設問3),を求めるものである。(出題の趣旨)

2.採点方針

本問においては,例年と同様,受験者が,①民事訴訟の基礎的な原理,原則

や概念を正しく理解し,これらに関する知識を習得しているか,②それらを

前提として,設問で問われていることを的確に把握し,それに正面から答え

ているか,③抽象論に終始せず,設問の事案に即して具体的に掘り下げた考

察をしているかといった点を評価することを狙いとしている。

答案の採点に当たっては,基本的に,上記①から③までの観点を重視する

ものとしている。本年においても,問題文中の登場人物の発言等において,

受験者が検討し,解答すべき事項が具体的に示されている。そのため,答案

の作成に当たっては,問題文において示されている検討すべき事項を適切に

吟味し,そこに含まれている論点を論理的に整理した上で,論述すべき順序

や相互の関係も考慮することが必要である。そして,事前に準備していた論

証パターンをそのまま答案用紙に書き出したり,理由を述べることなく結論

のみを記載したりするのではなく,提示された問題意識や事案の具体的な内

容を踏まえつつ,論理的で一貫した思考の下で端的に検討結果を表現しなけ

ればならない。採点に当たっては,受験者がこのような意識を持っているか

どうかという点についても留意している。(採点実感)

3.全体を通じた採点実感等

・本年の問題では,例年同様,具体的な事案を提示し,登場人物の発言等に

おいて受験者が検討すべき事項を明らかにした上で,管轄合意,移送,裁

判上の自白,自己利用文書等の民事訴訟の基礎的な概念や仕組みに対する

受験者の理解を問うとともに,事案への当てはめを適切に行うことができ

るかどうかを試している。

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2

・設問3について,時間が不足していたことに起因するものと推測される大

雑把な内容や体裁の答案が一定数見られたものの,全体としては,時間内

に論述が完成していない答案は少数にとどまった。しかし,検討すべき事

項の理解を誤り,検討すべき事項とは関係がない論述を展開する答案や,

検討すべき事項自体は正しく理解しているものの,問題文で示されている

事案への当てはめが不十分であって,抽象論に終始する答案も散見された。

また,そもそも裁判上の自白の理解が十分にはできていないなど,基礎的

な部分の理解不足をうかがわせる答案も少なくなかった。

・条文を引用することが当然であるにもかかわらず,条文の引用をしない答

案や,条番号の引用を誤る答案も一定数見られた。法律解釈における実定

法の条文の重要性は,改めて指摘するまでもない。また,判読が困難な乱

雑な文字や略字を用いるなど,第三者が読むことに対する意識が十分では

ない答案や,法令上の用語を誤っている答案,日本語として違和感のある

表現のある答案も一定数見られた。これらについては,例年,指摘されて

いるところであるが,本年においても,改めて注意を促したい。

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第2.設問1

本問は,会社員Xが,全国展開している業者Yから購入したキャンピングカ

ーが契約どおりの仕様を有していなかったことを理由として,履行遅滞による

売買契約の解除に基づく原状回復としての売買代金の返還と債務不履行に基づ

く損害賠償をYに求めるという事案を題材として,…管轄に関する合意が存在

し,それを専属的管轄合意と解釈した場合には管轄を有しないことになる裁判

所に訴えを提起したことを前提に,民事訴訟法(以下「法」という。)第16条

第1項による移送をすべきではないとの立論をすること…を求めるものであ

る。(出題の趣旨)

1.課題(1)

設問1では,まず,課題(1)として,XがYと交わした契約書中にある管

轄の合意(本件定め)について,「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管

轄裁判所から排除することを内容とする」というYの解釈とは別の解釈を採

るべきであると立論することが求められている。(採点実感)

(1)本件定めを付加的管轄合意と解釈する

課題(1)は,管轄合意の解釈の在り方を問うものである。本件定めの

ような管轄合意には,特定の裁判所を管轄裁判所から排除する専属的管轄

合意と特定の裁判所を管轄裁判所に付け加える付加的管轄合意があるが,

Yは,本件定めを専属的管轄合意と解釈していると考えられることから,

本件定めを付加的管轄合意として解釈すべきだという議論を適切な論拠

を示しつつ展開することが求められる。(採点実感)

ア.Y の解釈の根拠を踏まえたうえで、付加的管轄合意と解釈するべきであ

ると立論する

課題(1)では,本件定めが専属的管轄合意であるとするYの解釈の

根拠も踏まえつつ,これが付加的管轄合意であるとのX側の解釈を採る

べきことを示す必要がある。

管轄の合意が専属的管轄合意と付加的管轄合意のいずれに属するのか

は、合意の意思解釈の問題である。

まず、①合意の中で、特定の裁判所のみを管轄裁判所とする旨の意思

が明示されている場合には、専属的管轄合意と解釈される。

次に、②「当事者」間の「一定の法律関係に基づく訴えに関し」複数

の法定管轄裁判所が存在する場合に、その中の 1 つについて合意がなさ

れているときも、専属的管轄合意と解釈されるのが通常である。法定管

轄裁判所が複数あるにも関わらず、その中から合意により敢えて一つに

絞って明示しているのであるから、専属的管轄合意と解釈することが当

事者の合理的意思に合致すると考えられるのである。

本件定めでは、「本件契約に関する一切の紛争」について「B 地方裁判

所」のみを管轄裁判所する旨が明示されているとまではいえないから、

①には当たらない。他方で、「本件契約に関する…紛争」に基づく訴えに

伊藤 86 頁

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は、X を原告とする場合には、Y の本店の所在地である B 市を管轄する

B 地方裁判所に普通裁判籍による法定管轄が認められる(4 条 1 項・4

項)。また、本件契約が甲というシリーズ名の新車のキャンピングカーと

いう種類物の引渡しを目的とした種類物売買であることから、「本件契約

に関する…紛争」に基づく訴えのうち、X を債権者・原告とする場合に

は、「財産上の訴え」における「義務履行地」たる債権者 X の住所地(民

法 484 条後段)である A 市を管轄する A 地方裁判所にも、特別裁判籍

による法定管轄が認められる(5 条 1 号)。このように、XY 間の「本件

契約に関する…紛争」に基づく訴えについて複数の法定管轄裁判所が存

在する場合に、本件定めによりその中の 1 つである B 地方裁判所につい

て合意がなされているという意味で②に当たる。

このように、XY 間の「本件契約に関する…紛争」に基づく訴えについ

て、A 地方裁判所と B 地方裁判所の双方に法定管轄が認められるにもか

かわらず、契約書において管轄裁判所として B 地方裁判所だけ定められ

ているのは、全国各地に支店を有する Y が、全国各地に及ぶことが予定

される多数の自動車購入者との間で、自動車の売買契約に関して生じる

紛争に基づく訴えの裁判機関を常に Y の本店所在地を管轄する B 地方

裁判所に限ることで、Y の便益を図るためである。裁判例でも、「保険契

約に関する訴訟については当会社の本店所在地を管轄する裁判所をもっ

て合意による管轄裁判所とする」という普通保険約款中の管轄の合意に

ついて、上記と同様の理由から、「専属的管轄を定める意図であったろう

ことは推認され得なくもない」と述べられている(もっとも、最終的に

は、一般契約者の利益のために付加的管轄合意と解釈することで、②の

例外を認めた。)。

以上が Y の解釈の根拠である。

イ.付加的管轄合意と解釈するべきであるとの論拠

・論拠としては,Yが本件定めを作成するに当たり,本件定めが専属的

管轄合意であることを明記し得たのにしていないのであるから,専属

的管轄合意と理解するのが合理的であるとはいえないことや,本件定

めは,Y側から提起する債務不存在確認の訴えなどB地方裁判所の法

定管轄に属しない場合にもB地方裁判所が管轄裁判所となることを

基礎付けるものであり,これを付加的管轄合意と解釈することに合理

性がないとはいえないこと,といったものが考えられる。この他本件

定めを付加的管轄合意として理解すべきとする論拠は,複数考えられ

得るが,説得力をもって以上のような論拠を適切に展開し,本件定め

を付加的管轄合意として理解すべきことを結論付けることが,課題

(1)との関係では求められる。(出題の趣旨)

・Yの…解釈の根拠としては,本件契約に関する紛争は複数の裁判所の

法定管轄に属するにもかかわらず,本件定めはそれを一つに絞るもの

であるから,これを専属的管轄合意と解釈することが当事者の合理的

札幌高判 S45.4.20

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意思に合致するというものが考えられる。…これに対する反論とな

り,かつ,本件定めが付加的管轄合意であるとする解釈の根拠となる

ものとしては,例えば,本件契約の契約書は,Yが用意したものであ

ることを踏まえ,本件定めの文言を「B地方裁判所のみ」とするなど,

Yにおいて本件定めが専属的管轄合意であることをより明確にする

ことができたにもかかわらず,そのようにはしていないことや,Yか

ら提起する債務不存在確認の訴えなどB地方裁判所の法定管轄に属

しない場合もあり,本件定めは,そのような場合もB地方裁判所を管

轄裁判所とするものであって,これを付加的管轄合意と解釈すること

に合理性がないとはいえないことなどが考えられる。しかし,これら

のそれぞれの解釈の根拠がかみ合うよう適切に論ずる答案は,ほとん

どなかった。特に,本件定めが専属的管轄合意であるとするYの解釈

の根拠について,適切にこれを示した答案は少なく,そのため,本件

定めを付加的管轄合意と解釈すべきであるとの結論を示す答案であ

っても,Yの解釈の根拠を踏まえることなく,一方的な根拠を指摘す

るだけの答案が多かった。このような答案であっても,例えば,上記

のもののほか,全国に展開する事業者であるYに対して,Xは一消費

者であり,消費者契約法第10条の趣旨に鑑みても,Xに不利となら

ないように解釈すべきであることなど本件定めを付加的管轄合意と

解釈すべき根拠として適切なものを指摘している限りは,相応の評価

がされるが,「Yの解釈」すなわち「本件定めが専属的管轄合意であ

るとする解釈」の根拠も踏まえつつという問題文の求めに的確に応じ

たものとまではいえないことについて,留意する必要があろう。(採

点実感)

②の場合でも、企業側が用意した契約書や普通契約約款による当該企

業の本店(本社)所在地を管轄する裁判所をもって合意による管轄裁判

所とする旨の合意については、一般契約者(一般消費者)の利益保護の

観点から、専属的管轄合意ではなく付加的管轄合意と解されることがあ

る。

例えば、前掲裁判例は、「保険契約に関する訴訟については当会社の本

店所在地を管轄する裁判所をもって合意による管轄裁判所とする』とい

う普通保険約款中の管轄の合意について、(ⅰ)「専属的管轄を定める意

図であったろうことは推認され得なくもない」としつつ、(ⅱ)これを専

属的合意と解釈することは「一般の保険契約者にとって…甚だ不便なこ

とであり、場合により(殊に遠隔地居住者の如き)、紛争解決を始めから

断念せざるを得ないに等しい結果を招来することにもなるのであって、

…疑わしい場合は、むしろ一般契約者の利益に解釈すべく、本件管轄約

款は、相手方の本店所在地の裁判所が法定管轄権を有しない場合にも、

これに管轄権を認めた、いわゆる付加的合意管轄の定めと解するのが相

当である。」として、一般契約者(一般消費者)の利益保護の観点から付

和田 78 頁、中野 78 頁

札幌高判 S45.4.20

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加的管轄合意であると解釈している。

本件定めも、企業である Y 側が用意した契約書による Y の本店所在地

を管轄する裁判所を合意による管轄裁判所とする旨の合意であるから、

上記の考えが妥当する。

このことに、「本件契約の契約書は、…本件定めの文言を「B 地方裁判

所のみ」とするなど、Y において本件定めが専属的管轄合意であること

をより明確にすることができたにもかかわらず、そのようにはしていな

いこと」や、「Y から提起する債務不存在確認の訴えなど B 地方裁判所

の法定管轄に属しない場合もあり、本件定めは、そのような場合も B 地

方裁判所を管轄裁判所とするものであって、これを付加的管轄合意と解

釈することに合理性がないとはいえないこと」なども考慮することで、

本件定めを付加的管轄合意であると解釈することになる。

(2)本件訴えが本件定めの「本件契約に関する一切の紛争」に当たらないとす

る答案や、公序良俗違反や民訴法 11条 2項の「一定の法律関係」に関するも

のではないとして本件定めの効力を否定する答案

以上に対し,本件定めの「本件契約に関する一切の紛争」という文言に

着目しつつ,Xが提起した訴えがこれに当たらないとする答案も一定数見

られた。しかし,このような解釈は,その文言に照らし,無理がある。ま

た,民事訴訟法(以下「法」という。)の規定の解釈のみを示してA地方裁

判所が管轄裁判所から排除されないとの結論を導く答案も少ないながら

見られたが,論理の飛躍があるとともに,合意の解釈と法令の解釈を混同

するものである。このほか,本件定めについて,公序良俗に反するとした

り,法第11条第2項の「一定の法律関係」に関するものではないとした

りするなどして,本件定めの効力を否定するものも少なからず見られた

が,このような答案は,その妥当性自体が疑わしいことはさておくとして

も,「別の解釈」を示すという問題文の出題趣旨を正しく理解しないもので

あり,評価されない。(採点実感)

(3)採点実感

管轄の合意については,一般に,特定の裁判所のみに管轄を生じさせて

他の裁判所の管轄を排除することを内容とする専属的管轄合意と法定管

轄に付加して特定の裁判所にも管轄を生じさせる付加的管轄合意とがあ

るとされている。そのため,本件定めについても,これが専属的管轄合意

であれば,Xの訴えがB地方裁判所のみの管轄に属することとなり,これ

が付加的管轄合意であれば,Xの訴えが法定管轄裁判所の管轄にもなお属

することから,後記のとおり法定管轄裁判所の一つであるA地方裁判所の

管轄にも属することとなる。そこで,課題(1)は,本件定めについて,専属

的管轄合意であるとするYの解釈に対し,付加的管轄合意であるとする解

釈を立論することが求められていると言い換えることができる。しかし,

「専属的管轄合意」,「付加的管轄合意」という語を用いることなく,「A地

方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容

出題趣旨

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とする」という問題文の表現をそのまま引用して論述する答案が多かっ

た。また,これらの語を用いていない答案においては,本件定めがどのよ

うな内容の合意であるのかという点を検討することなく,単に「A地方裁

判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とす

るものではない」とし,それに代わる解釈を示さないままのものが散見さ

れた。これらを含め,管轄合意における専属的管轄合意と付加的管轄合意

の区別を理解していないことから問題の所在を的確に把握することがで

きていない答案が相当数に上った。

2.課題(2)

課題(2)は,本件定めを専属的管轄合意と解釈することを前提としても,

管轄違いによる移送(法第16条第1項)をすべきではないとする立論を求

めるものである。(出題の趣旨)

(1)17条の類推適用による自庁処理

・立論としては,仮にB地方裁判所に本件訴訟が係属したとしてもB地方

裁判所がA地方裁判所に法第17条に基づく移送をするための要件を

満たす場合には,A地方裁判所として移送をせずに自庁処理をすること

が認められる,というものが考えられる。

・法第17条に言及する答案は相当数あったが,以上の趣旨を過不足なく

述べる答案は少なく,法第17条が直接に適用されるとする答案や,A

地方裁判所からB地方裁判所に移送されることを前提にB地方裁判所

からA地方裁判所に再移送されるべきであると論ずる答案が散見され

た。前者は明らかな誤りであり,後者は問題文と異なる事実を前提とす

るものであることから,これらの答案の評価は,相対的に低いものとせ

ざるを得ない。(採点実感)

ア.前提の指摘

専属管轄であっても,それが法第11条による管轄合意によるもので

ある場合には,移送の制限がされないこと(法第20条第1項)を前提

として指摘した上で,法第17条の類推適用によって,Yの移送申立て

を却下し,そのままA地方裁判所において審理されるべきであるとの立

論をすることが期待される。

専属的管轄合意に基づく管轄裁判所に訴えが提起された場合であって

も、裁判所は、訴訟を他の裁判所(法定管轄裁判所)に移送することが

可能である(17 条、20 条 1 項括弧書)。

これに対し、専属的管轄合意により管轄を排除されている法定管轄裁

判所に訴えが提起された場合には、裁判所により、管轄違いを理由とし

て、訴訟が合意管轄裁判所に移送される(16 条 1 項)。もっとも、16 条

1 項に基づく管轄違いを理由とする合意管轄裁判所への移送を制限する

ことができないか。

イ.17条の類推適用の根拠

伊藤 87 頁、リークエ 72 頁

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・その根拠としては,法第17条の要件を満たす場合には,仮にA地方

裁判所からB地方裁判所に対し管轄違いによる移送をしてもB地方

裁判所からA地方裁判所に同条による移送がされることが考えられ

ることから,そのようなう遠な処理をするまでもなく,法第17条の

類推適用によりA地方裁判所で自庁処理をすることが適切と考えら

れること,場面は異なるが法第16条第2項が管轄違いの場合の自庁

処理を認めていることなどが挙げられる。(出題の趣旨)

ウ.当てはめ

・法第17条の類推適用を論ずるに当たっては,Xの訴えがA地方裁判

所の管轄に属することを論ずる必要がある。Xの訴えは,法第5条第

1号又は第5号により,A地方裁判所の管轄に属することとなるが,

この点を正しく指摘する答案は多くはなく,A地方裁判所の管轄に属

することの根拠として,問題文ではYのA支店がYの主たる営業所で

あるという事実関係が全く示されていないにもかかわらず法第4条

第4項を挙げる答案や,国際裁判管轄の管轄原因を定める法第3条の

3を挙げる答案,法第5条第1号を引きながら本件車両の引渡義務の

履行地について論ずる答案も一定数見られた。これらは,明確な誤り

であり,条文の基礎的な理解がおろそかになっているのではないかと

懸念される一つの例であるので,ここで紹介するとともに,注意を促

したい。(採点実感)

・課題(2)では,以上を踏まえ,法第17条の要件に本問題の事案を

当てはめる必要がある。多くの答案においては,考慮すべき事実に着

目することができていたが,条文に応じて適切に事実の整理や評価を

行うものは少なく,問題文中の事実に意味付けを加えないまま羅列し

て結論を示すだけの答案など大雑把な当てはめのものが多かった。

(採点実感)

(2)その他の理論構成

・このほか,例えば,法第19条第1項の類推適用など他の条文を根拠と

して論ずるものがあったが,説得的に説明がされていれば,相応の評価

を受ける。(採点実感)

・具体的な条文によらず,信義則等を根拠とするもの,衡平や管轄の理念

を根拠とするものなども少なからずあったが,このうち,前者は具体的

な条文を検討することなく一般条項を根拠としている点で低い評価と

なり,後者は更に抽象的な概念を根拠としている点でより低い評価とな

る。(採点実感)

3.課題(1)(2)を通じた採点実感

・設問1は,設問2及び設問3と比較し,出題の趣旨を適切に捉えた論述を

する答案は少なかった。このような傾向は,特に,課題(1)に強く見られ

る。

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・「優秀」に該当する答案は,課題(1)及び課題(2)のいずれについても,

出題趣旨を正しく理解した上で,上記の検討事項について,過不足のない

論述をするものである。また,「良好」に該当する答案は,例えば,課題(1)

及び課題(2)のいずれについても,出題趣旨をおおむね正しく理解して

いるが,例えば,課題(1)では,本件定めを付加的管轄合意と解釈すべき

根拠を指摘するにとどまるものや,課題(2)では,法第17条の類推適用

を論ずるものの,その当てはめに更なる工夫や改善の余地があるものなど

である。「一応の水準」に該当する答案は,例えば,課題(2)の出題趣旨

をおおむね正しく理解しているものの,法第17条の当てはめが大雑把な

ものなどである。これに対し,課題(1)や課題(2)の出題趣旨を理解し

ないものなど,総じて基礎的事項の理解が不足している答案は「不良」と

評価される。

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第3.設問2

〔設問2〕は,問題文中の④の事実を認める旨のYの陳述が裁判上の自白に該

当して撤回制限効が生じているかどうかを問うものである。ここでは,裁判上

の自白の成立要件に照らした検討が求められる。(出題の趣旨)

1.裁判上の自白の成否

(1)裁判上の自白の成立要件

一般に裁判上の自白の成立要件は,(1)口頭弁論又は弁論準備手続におけ

る弁論としての陳述であること,(2)相手方の主張と一致する陳述であるこ

と,(3)事実についての陳述であること,(4)自己に不利益な陳述であるこ

と,であるとされるが,本問では(1)と(2)の要件を満たすことは明らかであ

り,(3)と(4)の検討が中心となる。(出題の趣旨)

(2)要件(1)(2)

(1)及び(2)の要件が満たされることは明らかであり,そのこともあって

か,これらの要件が満たされることについて触れた答案は少なかった。要

件が満たされたことが示されなければ,効果の発生を論証したとはいえな

いので,注意を喚起したい。(採点実感)

(3)要件(3)

ア.学説の対立

(3)の要件との関係では,この要件を満たす「事実」について,主要事

実に限定されるとする見解と間接事実も含まれるとする見解があり,こ

のうち,後者に属する見解では,これを重要な間接事実に限るとする見

解から広く間接事実一般を含むとするものまで様々なものがある。解答

に際しては,まず以上のうちのいかなる立場に立つかを論拠を示して明

らかにする必要がある。

主要事実存否の判断において、間接事実は主要事実の推認に役立つも

のとして証拠と同じ役割を果たす。そうすると、自白された間接事実に

ついて当然に存在するものと前提して主要事実の存否を認定することを

裁判官に強いると、裁判官が不自然・不合理な事実認定を強要されるこ

ととなり、自由心証主義(247 条)に抵触する。そこで、間接事実の自

白には拘束力は認められないと解する(通説)。

イ.④の事実の位置づけ

・とりわけ主要事実限定説や重要な間接事実限定説では,④の事実が訴

訟物との関係でいかなる位置付けを有する事実であるかにより(3)の

要件の成否が異なってくることから,元の請求と追加された請求にお

ける訴訟物との関係での④の事実の位置付けを要件事実の考え方を

踏まえて整理した上で,自説に当てはめることが求められる。(出題

の趣旨)

・元の請求と追加された請求のそれぞれにおいての④の事実の位置付

けを検討し,自説に当てはめる必要がある。(採点実感)

高橋[上]491~497 頁

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(ア)元の請求

主張立証責任の配分については,様々な見解があり得ようが,元

の請求(履行遅滞による本件契約の解除に基づく原状回復請求)に

おいては,実務上は,被告が抗弁として契約に基づく債務を履行し

た事実を主張立証しなければならないと理解されることが多いもの

と思われる。この理解に立脚する場合には,④の事実は,Yが本件

契約に基づく債務を履行していないことを推認させる間接事実とな

り,抗弁事実の積極否認の理由となる事実となるが,このような的

確な理解を示した答案はごく少数であり,多くの答案は,Yが履行

していないことを請求原因事実と位置付けた上で,④の事実が間接

事実であるとするものであった。(採点実感)

元の請求は、Y が X との本件契約(民法 555 条)に基づく財産権移

転債務として負っている本件仕様を有する本件車両を引渡す義務(民

法 562 条 1 項参照)の履行遅滞を理由とする本件契約の催告解除(民

法 541 条)に基づく原状回復請求(民法 545 条 1 項本文)であり、そ

の請求原因事実は、(ⅰ)X が Y との間で本件仕様を有する甲シリー

ズの新車のキャンピングカーを代金 400万円で買う旨の契約を締結し

たこと(債務の発生原因事実)、(ⅱ)X が Y に対して本件契約の履行

として代金 400 万円を支払ったこと(同時履行の抗弁権の存在効果を

消滅させることで履行遅滞を違法ならしめる+原状回復請求の前提)、

(ⅲ)X が Y に対して本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡す

ように催告し、それから相当期間が経過したこと、(ⅳ)(ⅲ)の相当

期間経過後、X が Y に対して本件解約を解除する旨の意思表示をした

こと(民法 540 条)である。

これに対し、(ⅴ)Y が X による解除の意思表示到達前に本件仕様

を有するキャンピングカーを X に引き渡したことは、抗弁である。

「本件事故が起きた事実」という事実④は、X に引き渡された本件車

両が本件仕様を有していなかった(X に引き渡された本件車両の品質

の契約不適合)事実を推認するという意味で、抗弁(ⅴ)の主要事実

に対する否認の理由たる間接事実(抗弁(ⅴ)の主要事実の不存在を

推認する消極的間接事実)である。

したがって、主要事実限定説からは、元の請求との関係では、事実

④を認める旨の Y の陳述は、間接事実の自白に過ぎないから、裁判上

の自白の成立要件(3)を満たさない。

(イ)追加された請求

追加された請求(本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求)

においては,④の事実が債務不履行と損害の発生の因果関係に当た

り,主要事実となると考えられるところであり,答案においても,

このような理解を示すものが多かった。(採点実感)

まず、訴えの変更の目的は、旧請求の裁判資料の継続利用による原

基本講義・債権各論Ⅰ53~55 頁参

中野ほか 511・519 頁、伊藤 601 頁、

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告の権利の迅速保護及び訴訟経済にあるから、訴えの変更が許される

場合には、旧請求の裁判資料が新請求との関係で継続利用されること

になる。したがって、Y による事実④を認める旨の陳述は、追加され

た請求との関係でも継続利用されることになる。

次に、追加された請求は、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法

415 条)であり、その請求原因は、(ⅰ)債務の発生原因事実、(ⅱ)

債務の不履行、(ⅲ)損害の発生とその額、(ⅳ)(ⅱ)と(ⅲ)の間

の相当因果関係である。これを追加された請求に即して言うと、請求

原因事実は、(ⅰ)X が Y との間で本件仕様を有する甲シリーズの新

車のキャンピングカーを代金 400 万円で買う旨の契約を締結したこ

と、(ⅱ)Y が X に本件契約の履行として引き渡した本件車両が本件

仕様を有していなかったこと、(ⅲ)X は夫から結婚 10 周年の記念に

もらった時価 150 万円の腕時計が損壊し、損壊した同腕時計をメー

カー修理に持ち込んだところ修理費用として 100 万円を請求され支

払ったこと、(ⅳ)X の子ども 3 人が本件車両の上段ベッドに乗った

ところ、本件車両が本件仕様を有していなかったために、上段ベッド

システムと車全体の接合部分が破損して上段ベッドが落下するとい

う本件事故が起き、その際に(ⅲ)の腕時計が落下した上段ベッドの

下敷きになり損壊したことである。「本件事故が起きた事実」という

事実④は、(ⅳ)の主要事実である。したがって、主要事実限定説か

らも、追加された請求との関係では、事実④を認める旨の Y の陳述

は、主要事実の自白として、裁判上の自白の成立要件(3)を満たす。

(ウ)採点実感

これに対し,それぞれの請求について,請求原因事実と考えるも

のを列挙した上で,④の事実は主要事実に当たるとする答案や,そ

のどれにも当たらないということのみから間接事実に当たるとする

答案が一定程度見られたが,このような答案は,説明の点で不十分

なものといわざるを得ず,相対的に評価は低いものとなる。このほ

か,(3)の要件の「事実」の意義について検討することなく,④の事

実が(4)の要件の不利益性を満たすかどうかという検討のみをする

答案も一定数あった。このような答案は,(3)の要件について明確に

論じてないことなどから,間接事実などについて自白が成立しない

理由を十分に論証することができていないため,低い評価となる。

(4)要件(4)

(4)の要件については,相手方が証明責任を負う事実の存在を認める場合

に限りこの要件を満たすとする見解,認める旨の陳述をした当事者の敗訴

可能性を基礎付ける事実であればこの要件を満たすとする見解,不利益要

件は必要ないとする見解などが主張されており,(3)の要件に関する自説と

の整合性に留意しながら,いずれの立場に立つかを明らかにする必要があ

る。(出題の趣旨)

新堂 762 頁

プラクティス民法・債権総論 95 頁

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確かに、裁判上の自白の撤回禁止効の根拠を自己責任の原則及び相手方

の信頼保護に求めるのであれば、不利益性の有無は敗訴可能性を基準に判

断し、自己が証明責任を負う事実を否定する陳述(=自己が証明責任を負

う事実についての不利益陳述)についても、敗訴可能性がある限り、裁判

上の自白を認めるべきとも思える。

しかし、敗訴可能性説では、訴訟の成り行きに応じて自白の成否が変更

されるため、自白の成否を画する基準として不明確である。

基準の明確性という点からすれば、証明責任が基準として優れている。

また、自己が証明責任を負う事実を否定する陳述については、その者が

首尾一貫しない主張をしているものであるから、裁判所が釈明権(149 条

1 項)を行使して、訂正すべきものは主張当事者に訂正させるべきである。

そこで、自己に不利益な事実とは、相手方が証明責任を負う事実を意味

すると解する(証明責任説)。

証明責任説からも、追加された請求との関係では、事実④を認める旨の

Y の陳述は、相手方 X が請求原因事実として証明責任を負う主要事実(ⅳ)

の自白として、裁判上の自白の成立要件(4)も満たす。

2.問題意識

Xが新請求を追加したのは,Yが④の事実を認める旨の陳述をした後,そ

れを撤回する前である。…設問で示されたJの問題意識に照らし,こういっ

た点についても検討することが求められる。(出題の趣旨)

(1)元の請求との関係では自白は成立しないが追加された請求との関係では自

白が成立すると考える立場

・このような事実経過からは,例えば元の請求との関係で自白は成立しな

いが追加された請求との関係では自白が成立すると考える立場では,X

が新請求を追加する前は自由にできた陳述の撤回が新請求の追加によ

り制限されてよいか…といった疑問が喚起される。設問で示されたJの

問題意識に照らし,こういった点についても検討することが求められ

る。(出題の趣旨)

・多数の答案が採用した見解による場合には,④の事実を認める旨のYの

陳述は,当初は,間接事実を認めるものにすぎず,いつでも撤回するこ

とができたにもかかわらず,Yが関知し得ない訴えの追加という偶然の

事情によって,裁判上の自白が成立し,撤回することができないものと

なるのではないかという問題意識に基づく検討を進めることが必要と

なる。(採点実感)

ア.当事者双方の利益状況を十分に踏まえつつ、裁判上の自白の意義や訴え

の変更において被告に保障される手続の内容に照らして論理的に検討する

ここでは,例えば,Yが自白を撤回することができるとする場合には,

訴えの変更が原告のみの意思によってされ,その要件が満たされる限

り,被告がこれを拒み得ないことから,Yが自白を撤回することができ

大判 S11.6.9

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ないとすると,Xが一方的に自己に有利な状況を作出することを許容す

ることを意味して不当であることや,訴えの変更自体は正当な訴訟行為

であるとしても,Xが本来有していた信頼の範囲を超え,Yに不測の損

害を与えることなどを指摘して論ずることが期待される。他方で,Yが

自白を撤回することができないとする場合には,Yが一度は事実として

認めている以上その事実について自白が成立するとしても不当ではな

く,追加された請求との関係でも,請求の基礎に変更がないという前提

の下では,Yとしては,Xが有する信頼を甘受すべきであって,Xの信

頼は保護されるべきであることなどを指摘して論ずることが期待され

る。撤回の可否について,どちらの結論であっても,評価に差異はない

が,いずれであっても,当事者双方の利益状況を十分に踏まえつつ,裁

判上の自白の意義や訴えの変更において被告に保障される手続の内容

に照らして論理的に検討する必要がある。(採点実感)

元の請求との関係では裁判上の自白の成立要件を満たさないが追加さ

れた請求との関係では裁判上の自白の成立要件を満たすと考える立場か

らは、X の意思のみによって行える訴えの変更により請求が追加された

場合に Y の陳述が裁判上の自白の成立要件を満たすことにより、自白を

撤回することができなくなるのでは、Y に不測の損害を与えることにな

るし、撤回を認めても X が本来有していた信頼を害することにもならな

いだろうから、撤回を認めてもいいのではないかという形で、裁判上の

自白の成否(又は撤回の可否)が問題となる。

イ.評価されない答案

この点についての問題意識自体は示している答案も一定数存在した

ものの,その点について説得的かつ適切な議論を展開した答案は必ずし

も多くはなく,例えば,裁判上の自白の意義などを踏まえずに利益衡量

のみから結論を導く答案や,争点が変わったから撤回が可能とする答

案,単に追加された請求の関係で裁判上の自白は成立しないとする答案

なども散見された。このような答案は,評価されない。(採点実感)

(2)元の請求との関係でも追加された請求との関係でも自白が成立すると考え

る立場

このような事実経過からは,例えば…元の請求との関係でも追加された

請求との関係でも自白が成立すると考える立場では,これらが異なる請求

であることから,元の請求との関係で成立した自白の効力を追加された請

求との関係でもそのまま維持してよいか,といった疑問が喚起される。設

問で示されたJの問題意識に照らし,こういった点についても検討するこ

とが求められる。(出題の趣旨)

元の請求との関係でも追加された請求との関係でも、Y の陳述が裁判上の

自白の成立要件を満たすと考える立場からは、Y が事実④について自白した

後に、請求が追加されたことにより係争利益の価値に変化が生じたことに着

目して、自白の撤回の可否を検討することになる。これについては、次のよ

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うに考えることが可能である。

当事者は、係争利益の価値を踏まえて、訴訟追行に要する費用・労力・

時間的負担を考慮して訴訟追行態度を決定するものである。このことは、

申立事項拘束原則(246 条)が原告の申立事項を通じて被告に対して敗訴

リスクの最大限を示すことが要求していることからも窺える。

そうすると、裁判上の自白の撤回禁止効の根拠の一つである自白当事者

の自己責任も、当事者が係争利益の価値について認識できている場合に初

めて認められるものであるといい得る。

そこで、自白後に訴えが変更されたり反訴が提起されるなどして、係争

利益の価値が著しく変更した場合には、自白当事者に自己責任を問う前提

を欠くことになるから、例外的に、自白の撤回が認められると解すべきで

ある。

3.設問2全体を通した採点実感

・裁判上の自白が成立する事実の意義や,④の事実の位置付けについて上記

のものと異なる理解をした場合であっても,そのことから直ちに低い評価

を受けるわけではないが,それぞれについて,整合性をもって説得的に自

分の見解を示すことが求められる。また,例えば,元の請求と追加された

請求とのいずれにおいても裁判上の自白が成立するとする場合であって

も,請求が異なるにもかかわらず,追加された請求について,元の請求に

おいて成立した裁判上の自白の効力を及ぼしてよいかという問題意識を持

って検討することが期待される。

・このほか,設問2においては,問題文で示された訴訟物とは異なる訴訟物

について検討を加えるもの,問題文では検討する必要がないとされている

にもかかわらず,「事実に反することを証明した場合など一定の事由」の有

無を検討するもの,元の請求における④の事実の位置付けや自白の成否に

ついての検討はしているが,追加された請求における④の事実の位置付け

や自白の成否についての検討はしていないものもそれぞれ少ないながらあ

った。しかし,これらは,問題文に反するものであることから,評価されな

い。また,訴えの変更について詳細に論ずる答案もあったが,そのような

論述は,出題の趣旨に照らし,必要がない。

4.答案の例

設問2については,設問1及び設問3と比較すると相対的には充実した内

容の答案が多かった。(採点実感)

(1)優秀

「優秀」に該当する答案は,出題趣旨を正しく理解した上で,アにおいて

述べたところを適切に論述するものである。特に,④の事実を認める旨の

Yの陳述の撤回の可否について,的確な問題意識をもって十分に論ずるも

のがこれに当たる。(採点実感)

藤田解析 91 頁

新堂 762 頁、解析 91 頁

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(2)良好

「良好」に該当する答案は,「優秀」に該当する答案に準ずるものではあ

るが,例えば,元の請求及び追加された請求における④の事実の位置付け

は的確であり,本問題の事案の特殊性自体に由来する問題意識の認識はあ

る程度示すことができているものの,その具体的根拠の検討において不十

分さが残るものがこれに当たる。(採点実感)

(3)一応の水準

「一応の水準」に該当する答案は,元の請求及び追加された請求における

④の事実の位置付けは一応的確であるが,本問題の事案の特殊性に由来す

る問題自体の認識ができていないものがこれに当たる。(採点実感)

(4)不良

これらに対し,裁判上の自白の意義や④の事実の位置付けなどの理解に

乏しいものは「不良」と評価される。(採点実感)

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第4.設問3

〔設問3〕は,文書提出義務の有無を判断するに当たって考慮すべき観点や事

項を問うものである。本件の文書は日記であるので,法第220条第4号ニの

自己利用文書の該当性の判断に当たり考慮すべき観点等について検討する必要

がある。(出題の趣旨)

1.自己利用文書該当性の要件

判例(最高裁判所平成11年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8

号1787頁ほか)によれば法第220条第4号ニの自己利用文書該当性の

要件は,(ⅰ)内部文書性(「専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外

部の者に開示することが予定されていない文書であること」),(ⅱ)不利益性

(「開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人又は団体の自由な

意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不

利益が生ずるおそれがあると認められること」),(ⅲ)特段の事情の不存在であ

るとされており,独自に適切な要件を考案して設定するのでない限りは,こ

れに即して考慮すべき観点と事項を抽出することが求められる。(出題の趣

旨)

自己利用文書の要件は、(ⅰ)内部文書性・(ⅱ)不利益性・(ⅲ)特段の事

情の不存在であると解されている。

(ⅰ)は条文の文言から導かれ、(ⅱ)は自己利用文書が一般義務化された文

書提出義務の除外事由であることにかんがみ、その範囲を制限するための要件

である。

(ⅰ)・(ⅱ)は、文書の作成目的・記載内容、これを現在の所持者が所持す

るに至った経緯、その他の事情から判断される。

2.考慮すべき事項

(1)(ⅰ)内部文書性

本件日記は,日記である以上専らTが自らの利用に供する目的で作成

し,Tも外部の者に開示することは予定していなかったと考えられる。ま

た,Zは死亡したTの妻であり,Tの相続人として日記を所持するに至っ

たものであって,Zも外部の者に開示することを予定していない。そこで,

(ⅰ)の内部文書性の要件が満たされると判断されることとなると考えられ

る。(出題の趣旨)

内部文書性の判断では、作成目的が重視され、法令により作成が義務付け

られている文書は、作成目的が他律的であり、すでにそのことの故に内部文

書性が否定されることが多い。

(2)(ⅱ)不利益性(ⅲ)特段の事情の不存在

(ⅱ)(ⅲ)との関係では問題が生じ得る。(ⅱ)の不利益として問題となるの

は,通常の場合には,作成者であるところの所持者のプライバシーの侵害

であるが,本件では作成者は死亡し,作成者と異なる者が本件日記を所持

最決 H11.11.12・百 69

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するに至っている。そのため,本件日記については,(a)保護されるべき

プライバシーの主体が現在の文書の所持者と同一ではなく,(b)その主体

が死亡しており要保護性を欠くに至っていると評価をすることも可能で

あるとして, (ⅱ)の要件が満たされないとも考えられる。もっとも,(a)

(b)から本件では(ⅱ)にいう不利益は生じないと即断することも早計であ

る。なぜなら(ⅱ)で保護される利益には文書作成の自由に対する利益も含

まれると考えられるところ,本件のような事案で安易に本件日記の開示を

認めると,死亡後に開示対象になることを恐れ,日記作成に対する萎縮効

果を生みかねないからである。ここでは,破綻した信用組合の貸出稟議書

の提出義務が問題となった最高裁判所平成13年12月7日第二小法廷

決定・民集55巻7号1411頁の考え方も参考となろう。なお,上記の

問題は(ⅱ)の不利益性に係る問題といえるが,この判例からも分かるとお

り,(ⅲ)の特段の事情の問題として整理することも可能であり,いずれの

要件の問題として扱っても,評価に差異はない。

そこで,本設問に対する解答としては,法第220条第4号ニの自己利

用文書の要件として不利益性が要求されること,その不利益性としては本

件日記との関係ではまず所持者のプライバシーが問題となること,自己利

用文書該当性で問題となる不利益性として文書作成に対する萎縮効果も

考慮されるべきことなどといった観点から,本件日記にはTのプライバシ

ーに属する事柄が書いてあること,当該プライバシーの帰属主体であるT

と現在の所持者であるZが異なっていること,プライバシーの帰属主体で

あるTが死亡していること,本件でZに対し文書提出義務を認めると将来

の日記作成に対する一般的な萎縮効果を生むおそれがあることなどを指

摘して論ずることが期待される。なお上記で「観点」に位置付けた内容を

「考慮すべき事項」に位置付けたり,あるいはその逆であったりしていて

も,論理的に筋の通った答案になっている限りは,問題ない。(出題の趣

旨)

判例は、「特段の事情」について「文書提出命令の申立人が…所持者…と

同一視することができる立場に立つ場合」という解釈を示している。

3.最高裁決定で示された要件とは異なる要件に基づく答案

以上は,最高裁決定で示された要件に基づき論述する例を示すものである

が,これと異なる要件に基づくものであっても,上記の点が自身の提示する

要件の中で体系的に整理されて論述されていれば,相応の評価を受ける。(採

点実感)

4.設問3全体を通した採点実感

・自己利用文書に触れるとともに,又は自己利用文書に触れることなく,他

の文書について検討する答案も少なくなかった。しかし,ここでは,問題

文であらかじめ排除されたものを除き,自己利用文書以外の文書への該当

最決 H12.12.14

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性を論ずる意味は乏しい。したがって,他の文書について論じた場合であ

っても,評価されない。

・文書提出命令の申立ての審理手続について述べる答案も少数ながらあった

が,この点も,出題趣旨とは関係がないことから,論述する必要はない。

5.答案の例

(1)優秀

「優秀」に該当する答案は,出題趣旨を正しく理解し,自己利用文書につ

いての適切な要件の下で,体系的にZが死亡したTの日記を所持するとい

う本問題の特殊性を整理し,論述するものがこれに当たる。

(2)良好

「良好」に該当する答案は,「優秀」に該当する答案に準ずるものではあ

るが,例えば,体系的な論述という点でなお足りない面があるものがこれ

に当たる。(採点実感)

(3)一応の水準

「一応の水準」に該当する答案は,おおむね本問題の特殊性を把握するこ

とができているものの,要件との関係での整理が不十分なものなどがこれ

に当たる。(採点実感)

(4)不良

自己利用文書以外の文書や審理手続など必要のない論述に終始するも

のなどは,「不良」と評価される。(採点実感)

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第5.法科大学院に求めるもの

本年の問題に対しては,多くの答案において,一応の論述がされていたが,

定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案,出題趣旨とは関

係のない論述をする答案,事案に即した検討が不十分であり,抽象論に終始す

る答案なども,残念ながら散見された。また,民事訴訟の極めて基礎的な事項

への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案も

一定数あった。これらの結果は,受験者が民事訴訟の体系的理解と基礎的な知

識の正確な取得のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業を

おろそかにし,依然としていわゆる論点主義に陥っており,個別論点に対する

解答の効率的な取得を重視しているのではないかとの強い懸念を生じさせる。

このような懸念は,定型的な論証パターンが数多く準備されていると推測され

るいわゆる「典型論点」とされる裁判上の自白を題材とする設問2については

ある程度の記述ができている答案が大多数であった反面,設問1については基

礎的な事項の理解すらおぼつかない答案が多くあったことによっても裏付ける

ことができる。条文の趣旨や判例,学説等の正確な理解を駆使して,設問2の

④の事実の位置付けが変わった場合のように未だ論じられていないような新た

な問題に対して,論理的に思考し,説得的な結論を提示する能力は,法律実務

家に望まれるところであり,このような能力は,基本法制の体系的理解と基礎

的な知識の正確な取得,論理的な思考の日々の訓練という地道な作業によって

こそ涵養され得るものと思われる。

また,このような論理的な思考の過程を適切に表現し,読み手に対して十分

に伝えるための訓練も必要となろう。法科大学院においては,このことが法科

大学院生にも広く共有されるよう指導していただきたい。

また,民事訴訟法の分野においては,理論と実務とは車の両輪であり,両者

の理解を共に深めることが重要であるが,例えば,設問1のテーマである管轄

は,実務上は重要な事柄であるにもかかわらず,十分な理解を示した答案は少

なかったことに鑑みても,実務への理解が必ずしも十分に深められているとは

いえないように思われる。現実の民事訴訟の手続の在り方のイメージがないま

まに学習を進めることは難しいと思われることから,法科大学院においては,

理論と実務を架橋することをより意識した指導の工夫が必要となろう。(採点実

感)

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[模範答案] 講師 加藤喬

1

設問1 1

1.課題 (1) 2

(1) Y の解釈の根拠 3

ア.まず、本件定めは、本件訴訟の「当事者」である X と Y4

が、本件契約に関する一切の紛争という「一定の法律関係5

に基づく訴えに関し」、契約書という「書面」で、「第一審6

に限」ったものとして、B 地方裁判所を第一審の管轄裁判7

所として合意するものである( 民訴法 11 条 1 項・ 2 項)。 8

イ . 次 に 、「 本 件 契 約 に 関 す る … 紛 争 」 に 基 づ く 訴 え に は 、9

X を原告とする場合には、 Y の本店の所在地である B 市1 0

を管轄する B 地方裁判所に普通裁判籍による法定管轄が1 1

認められる( 4 条 1 項・ 4 項)。また、本件契約が甲とい1 2

う シ リ ー ズ 名 の 新 車 の キ ャ ン ピ ン グ カ ー と い う 種 類 物 の1 3

引渡しを目的とした種類物売買であることから、「本件契1 4

約に関する…紛争」に基づく訴えのうち、X を債権者・原1 5

告とする場合には、「財産上の訴え」における「義務履行1 6

地」たる債権者 X の住所地(民法 4 84 条後段)である A1 7

市を管轄する A 地方裁判所にも、特別裁判籍による法定1 8

管轄が認められる( 5 条 1 号)。このように、X Y 間の「本1 9

件契約に関する…紛争」に基づく訴えについて、A 地方裁2 0

判所と B 地方裁判所の双方に法定管轄が認められるにも2 1

かかわらず、契約書において管轄裁判所として B 地方裁2 2

判 所 に つ い て 合 意 さ れ て い る の は 、 全 国 各 地 に 支 店 を 有2 3

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2

する Y が、全国各地に及ぶことが予定される多数の自動1

車 購 入 者 と の 間 で 、 自 動 車 の 売 買 契 約 に 関 し て 生 じ る 紛2

争に基づく訴えの裁判機関を常に Y の本店所在地を管轄3

する B 地方裁判所に限ることで、 Y の便益を図るためで4

ある。そこで、本件定めは、管轄 裁判所を B 地方裁判所5

だ け に 限 定 す る 専 属 的 管 轄 合 意 で あ る と 解 す べ き で あ る 。 6

(2) Y の解釈とは別の解釈 7

本件定めを付加的管轄合意であると解釈する。 8

ア.まず、本件定めを専属的管轄合意と解釈すると、X のよ9

う な 遠 隔 地 居 住 者 に つ い て は 、 本 人 訴 訟 の 場 合 に お け る1 0

移動の時間・費用の負担の大きさ や、弁護士代理の場合に1 1

お け る 弁 護 士 費 用 の 負 担 の 大 き さ か ら 、 訴 訟 を 始 め か ら1 2

断念せざるを得なくなる場合もある。そうすると、Y が用1 3

意 し た 契 約 書 に よ る 本 件 定 め に つ い て は 、 一 般 消 費 者 の1 4

利 益 の た め に 付 加 的 管 轄 合 意 を 解 釈 す る べ き 必 要 が あ る 。 1 5

イ.しかも、本件契約の契約書は、本件定めの文言を「 B 地1 6

方裁判所のみ」とするなど 、Y において本件定めが専属的1 7

管 轄 合 意 で あ る こ と を よ り 明 確 に す る こ と が で き た に も1 8

かかわらず、単に「 B 地方裁判所…とする」と定めるにと1 9

ど ま っ て い る の だ か ら 、 付 加 的 管 轄 合 意 を 解 す る 余 地 が2 0

ある。このことに、Y から提起する債務不存在確認の訴え2 1

の法定管轄裁判所は A 地方裁判所だけである( 4 条 1 項、2 2

5 条 1 号)というように、「本件契約に関する」訴えには2 3

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3

B 地 方 裁 判 所 の 法 定 管 轄 に 属 し な い も の が あ る こ と も 考1

慮すれば、本件定めは 、そのような場合も B 地方裁判所2

を 管 轄 裁 判 所 と す る 付 加 的 管 轄 合 意 で あ る と 解 釈 す る こ3

とができる。 4

2.課題(2) 5

専 属 的 管 轄 合 意 に 基 づ く 管 轄 裁 判 所 に 訴 え が 提 起 さ れ た 場6

合であっても、裁判所は、訴訟を他の裁判所(法定管轄裁判所)7

に移送することが可能である( 1 7 条、 2 0 条 1 項括弧書)。こ8

の こ と と の 均 衡 を 図 る た め に 、 専 属 的 管 轄 合 意 に よ り 管 轄 を9

排 除 さ れ て い る 法 定 管 轄 裁 判 所 に 訴 え が 提 起 さ れ た 場 合 に お1 0

ける管轄違いを理由とする合意管轄裁判所 への移送( 16 条 11 1

項)を制限できないか。 1 2

(1)合意により管轄を排除されている法定管轄裁判所で審理・1 3

裁判することが「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の1 4

衡平を図るため」に必要である場合、管轄違いを理由とし て1 5

合 意 管 轄 裁 判 所 に 移 送 が さ れ た 後 に 、 さ ら に 上 記 法 定 管 轄1 6

裁判所に移送されることになるが、これは迂遠である。また、1 7

地 方 裁 判 所 が 簡 易 裁 判 所 の 管 轄 に 属 す る 訴 訟 を 自 庁 処 理 す1 8

ることが認められている( 1 6 条 2 項)ことに照らせば、土1 9

地 管 轄 に お け る 管 轄 違 い の 場 面 で も 自 庁 処 理 を 認 め る 理 論2 0

的余地がある。そこで、合意により管轄を排除されている法2 1

定管轄裁判所で審理・裁判することが「訴訟の著しい遅滞を2 2

避け、又は当事者間の衡平を図るため」に必要である場合に2 3

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4

は、1 7 条の類推適用により、1 6 条 1 項に基づく移送が制限1

されると解すべきである。 2

(2) A 市中心部にある X の居住地と X の訴訟代理人 L の事務3

所から B 市中心部にある B 地方裁判所までは、約 6 0 0 ㎞も4

離れており、新幹線・在来線等の公共交通機関を乗り継いで5

約 4 時間もかかる。そのため、 B 地方裁判所に移送 される6

と、X は訴訟追行に当たり 大きな負担を受ける。他方、Y は、7

A 市内にある A 支店にいる支配人に訴訟代理をさせること8

が可能であるし(会社法 11 条 1 項後段)、その経済的規模9

からして弁護士に訴訟代理( 5 4 条 1 項参照)させることに1 0

よる経済的負担も大きくないから、A 地方裁判所に移送され1 1

ることによる訴訟追行上の負 担は大きくない。 1 2

そうすると、1 7 条の類推適用により、「当事者間の衡平を1 3

図るために必要がある」として B 地方裁判所への移送が制1 4

限されるから、 A 地方裁判所で審理されるべきこととなる。 1 5

設問2 1 6

1.裁判上の自白の成立要件 1 7

裁判上の自白とは、当事者が、訴訟の口頭弁論又は弁論準備1 8

手 続 に お い て す る 、 相 手 方 の 主 張 と 一 致 す る 自 己 に 不 利 益 な1 9

事実の陳述をいう。 2 0

基 準 の 明 確 性 と い う 理 由 か ら 、 こ こ で い う 不 利 益 な 事 実 と2 1

は、相手方が証明責任を負う事実を意味すると解する。 2 2

また、裁判上の自白が成立する事実は、主要事実に限られる2 3

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5

と 解 す る 。 主 要 事 実 存 否 の 判 断 に お い て 間 接 事 実 は 主 要 事 実1

の 推 認 に 役 立 つ も の と し て 証 拠 と 同 じ 役 割 を 果 た す た め 、 自2

白 さ れ た 間 接 事 実 の 存 在 を 前 提 と し た 主 要 事 実 存 否 の 認 定 を3

裁判官に強いることは、不自然・不合理な事実認定の強要とし4

て自由心証主義( 24 7 条)に抵触するからである。 5

2.各請求における④の位置付け 6

(1)元の請求の訴訟物は、Y の売買契約上の引渡債務の履 行遅7

滞を理由とする本件契約の催告解除(民法 5 41 条)に基づ8

く原状回復請求権(民法 5 4 5 条 1 項本文)である。 9

Y は、自己が本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡1 0

す義務を負うことを前提に、抗弁事実たる主要事実として、1 1

X に よ る 解 除 の 意 思 表 示 到 達 前 ま で に 本 件 仕 様 を 有 す る 本1 2

件キャンピングカーを X に引き渡した事実について証明責1 3

任を負う。④の事実は、引き渡された本件車両が本件仕様を1 4

有 し て い な か っ た こ と を 推 認 す る 事 実 で あ る か ら 、 上 記 抗1 5

弁 事 実 の 積 極 否 認 の 理 由 と い う 意 味 で 間 接 事 実 に 位 置 づ け1 6

られる。したがって、④ の事実は、裁判上の自白が成立する1 7

事実ではない。 1 8

(2)追加された請求 の訴訟物は、本件契約の債務不履行に基づ1 9

く損害賠償請求権( 4 1 5 条)である。X は、請求原因事実の2 0

一つとして、債務不履行・損害間の相当因果関係を基礎づけ2 1

る主要事実について証明責任を負う。④の事実は、Y の引渡2 2

義務違反と腕時計の損壊による修理費用 1 00 万円の支出と2 3

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6

いう損害の間の相当因果関係を基礎づけるものとして、X が1

証 明 責 任 を 負 う 主 要 事 実 に 位 置 づ け ら れ る か ら 、 裁 判 上 の2

自白が成立する事実である。 3

3.裁判上の自白の成否 及び Y の陳述の撤回の可否 4

Y の陳述は、元の請求との関係では裁判上の自白の成立要件5

を満たさないが、追加された請求との関係では 、相手方 X が6

証明責任を負う主要事実である④について X の主張と一致す7

る 口 頭 弁 論 に お け る 陳 述 と し て 裁 判 上 の 自 白 の 成 立 要 件 を 満8

たす。請求が追加された途端、Y の陳述に裁判上の自白が成立9

して撤回禁止効により陳述を撤回できなくなるのでは、Y に不1 0

測 の 損 害 を 与 え る こ と に な り 得 る た め 、 例 外 的 に 撤 回 を 認 め1 1

ることができないかが問題となる。 1 2

(1)裁判上の自白が成立した事実には証明不要効( 1 7 9 条)が1 3

生 じ 、 証 明 不 要 に 対 す る 相 手 方 の 信 頼 を 保 護 す る 必 要 か ら1 4

審判排除効とともに撤回禁止効も生じる。もっとも、撤回禁1 5

止効は、証明不要に対する相手方の信頼保護の必要性と、自1 6

白当事者の自己責任を根拠とするものである。そこで、これ1 7

ら の 根 拠 が 妥 当 し な い 陳 述 に は 、 撤 回 禁 止 効 は 生 じ な い と1 8

解すべきである。 1 9

( 2 ) 自 白 の 証 明 不 要 効 が 生 じ る 事 実 も 主 要 事 実 に 限 ら れ る と2 0

い う 理 解 に 立 つ の で あ れ ば 、 元 の 請 求 と の 関 係 で は 間 接 事2 1

実の承認にとどまる Y の陳述については、請求が追加され2 2

るまでの間は、保護に値する証明不要に対する X の信頼は2 3

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認められない。しかも、訴えの変更による 請求の追加は、「請1

求 の 基 礎 」 の 同 一 性 を 満 た せ ば 被 告 の 同 意 を 要 す る こ と な2

く 原 告 の 意 思 だ け で 行 う こ と が で き る か ら 、 請 求 の 追 加 前3

に お け る 被 告 の 陳 述 が 追 加 さ れ た 請 求 と の 関 係 で 裁 判 上 の4

自 白 の 成 立 要 件 を 満 た す こ と に な っ た 事 態 に つ い て 被 告 に5

自己責任を問うことは困難である。そこで、例外的に、Y は6

陳述を撤回できると考える。 7

設問3 8

1.Z が本件日記の文書提出義務を負うかについては、本件日記9

が一般義務文書( 2 20 条 4 号)に該当するかという観点から検1 0

討するべきである。そして、本件日記が同号イロハホに該当し1 1

ないことは明らかであるから、自己利用文書(同号ニ)該当性1 2

が検討されるべきである。 1 3

自己利用文書、すなわち「専ら文書の所持者の利用に供する1 4

ための文書」の要件は、①専ら内部の者の利用に供する目的で1 5

作 成 さ れ 、 外 部 の 者 に 開 示 す る こ と が 予 定 さ れ て い な い 文 書1 6

であること(内部文書性),②開示されると個人のプライバシ1 7

ー が 侵 害 さ れ た り 個 人 又 は 団 体 の 自 由 な 意 思 形 成 が 阻 害 さ れ1 8

た り す る な ど 、 開 示 に よ っ て 所 持 者 の 側 に 看 過 し 難 い 不 利 益1 9

が生ずるおそれがあると認められること(不利益性)、③特段2 0

の事情の不存在である。③の特段の事情 の一例は、文書提出命2 1

令 の 申 立 人 が 所 持 者 と 同 一 視 す る こ と が で き る 立 場 に 立 つ こ2 2

とである。 2 3

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2.T は、Y の従業員として得た情報と経験に基づく事柄を本件1

日記に記載しているものの、あくまでも 、法令上の義務や Y か2

ら の 業 務 命 令 に 基 づ く 義 務 と し て で は な く 、 私 的 な 日 記 と し3

て本件日記を作成したにすぎない。そうすると、本件日記は、4

T が専ら自らの利用に供する目的で作成し、T において外部の5

者に開示することを予定していなかったといえる。しかも、妻6

である Z が T の相続人として本件日記を所持するに至ったと7

いう経緯からしても、Z においても本件日記を外部に開示する8

こ と を 予 定 し て い な い と い え る 。 こ れ ら の 事 情 を ① 該 当 性 を9

肯定するものとして考慮するべきである。 1 0

他方で、本件日記の作成者 T が死亡しているため、作成者1 1

T のプライバシー保護の要請はない。しかも、仮に作成者の死1 2

亡 に よ り 作 成 者 と 現 在 の 所 持 者 が 異 な る に 至 っ た 場 合 に は 現1 3

在 の 所 持 者 の プ ラ イ バ シ ー 保 護 が 問 題 に な る と 考 え た と し て1 4

も、本件日記には現在の所持者である Z に関する記載はない1 5

のだから、やはりプライバシー保護の要請はない。そう すると、1 6

本件日記が開示されても作成者 T や現在の所持者 Z のプライ1 7

バ シ ー 侵 害 は 生 じ な い と い う こ と が ② 該 当 性 を 否 定 す る 事 情1 8

として考慮されるべきである。 1 9

本件日記の文書提出命令の申立人である X は、 Y との間の2 0

本件契約を締結した一般契約者であり、 Y の元従業員 T やそ2 1

の妻 Z と同一視することができる立場にない。これは、③の2 2

特段の事情を否定する事情として考慮するべきである。2 3

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[中位答案] 講師 加藤喬

1

設問1 1

1.課題 (1) 2

(1) Y の解釈の根拠 3

本件定めは、管轄の合意である(民訴法 11 条 1 項・2 項)。 4

そして、「本件契約に関する…紛争」に基づく訴え のうち、5

X を原告とする ものには、 Y の本店の所在地である B 市を6

管轄する B 地裁( 4 条 1 項・ 4 項)と債権者 X の住所地であ7

る A 市を管轄する A 地裁( 5 条 1 号)の双方に法定管轄が8

認められる。にもかかわらず、本件定めでは管轄裁判所とし9

て「 B 地方裁判所」だけを挙げているのだから、本件定めは、1 0

管轄裁判所から A 地裁を排除する専属的管轄合意である。 1 1

(2) Y の解釈とは別の解釈 1 2

管轄裁判所が B 地裁に限定されると、 X のような遠隔地1 3

居住者については、訴訟のための時間・費用の 負担の大きさ1 4

から訴訟を断念せざるを得なくなる場合もある。そこで、企1 5

業である Y が用意した契約書による本件定めについては、1 6

企業との関係で 一般消費者の利益 を保護するために、XY 間1 7

訴訟が B 地裁の法定管轄に属しない可能性に備えて B 地裁1 8

を 管 轄 裁 判 所 と す る 趣 旨 の 付 加 的 管 轄 合 意 で あ る と 解 釈 す1 9

るべきである。 2 0

2.課題(2) 2 1

( 1 ) 仮 に 専 属 的 管 轄 合 意 に 基 づ く 管 轄 裁 判 所 に 訴 え が 提 起 さ2 2

れた場合には、 1 7 条により合意により管轄を排除された法2 3

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2

定管轄裁判所に移送される余地がある。にもかかわらず、合1

意 に よ り 管 轄 を 排 除 さ れ て い る 法 定 管 轄 裁 判 所 に 訴 え が 提2

起 さ れ た 場 合 に は 管 轄 違 い を 理 由 と す る 移 送 が な さ れ 、 法3

定管轄裁判所で審理・裁判をする機会がないのでは、前者と4

の関係で不均衡である。そこで、後者の場合には、 1 7 条の5

要 件 を 満 た す の で あ れ ば 、 同 条 類 推 適 用 に よ り 管 轄 違 い を6

理由とする移送が制限されると解すべきである。 7

(2) X の居住地と X の訴訟代理人 L の事務所 B 地裁までは、8

約 6 0 0 ㎞も離れており、新幹線・在来線等の公共交通機関9

を乗り継いで約 4 時間もかかる。そのため、B 地裁に移送さ1 0

れると、 X は訴訟追行 に当たり大きな負担を受ける。他方、1 1

Y は、A 支店の支配人に訴訟代理させること で、A 地裁での1 2

訴訟に容易に対応できる (会社法 11 条 1 項後段)。そうす1 3

る と 、「 当 事 者 間 の 衡 平 を 図 る た め に 必 要 が あ る 」 と し て 、1 4

B 地裁への移送が制限されるから、 A 地裁で審理される 。 1 5

設問2 1 6

1.裁判上の自白の成立要件 1 7

裁判上の自白とは、当事者が、訴訟の口頭弁論又は弁論準備1 8

手 続 に お い て す る 、 相 手 方 の 主 張 と 一 致 す る 自 己 に 不 利 益 な1 9

事実の陳述をいう。基準の明確性という理由から、ここでいう2 0

不 利 益 な 事 実 と は 、 相 手 方 が 証 明 責 任 を 負 う 事 実 を 意 味 す る2 1

と解する。自由心証主義との抵触を避けるため、裁判上の自白2 2

が成立する事実は、主要事実に限られると解する。 2 3

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3

2.④の位置付け 1

(1)元の請求の訴訟物は、本件契約の催告解除(民法 5 4 1 条)2

に基づく原状回復請求権(民法 5 4 5 条 1 項本文)である。 3

Y は、抗弁事実 たる主要事実 として、本件仕様を有する本4

件キャンピングカーを X に引き渡した事実について証明責5

任を負う。④は、引き渡された本件車両が本件仕様を有して6

い な か っ た こ と を 推 認 す る 事 実 で あ る か ら 、 上 記 抗 弁 事 実7

の 積 極 否 認 の 理 由 と い う 意 味 で 間 接 事 実 に 位 置 づ け ら れ る 。8

したがって、④は、裁判上の自白が成立する事実ではない。 9

(2)追加された請求 の訴訟物は、本件契約の債務不履行に基づ1 0

く損害賠償請求権( 4 1 5 条)である。④の事実は、Y の引渡1 1

義務違反と腕時計の損壊による修理費用 1 00 万円の支出と1 2

いう損害の間の相当因果関係を基礎づけ るものとして、X が1 3

証 明 責 任 を 負 う 主 要 事 実 に 位 置 づ け ら れ る か ら 、 裁 判 上 の1 4

自白が成立する事実である。 1 5

3.撤回の可否 1 6

Y の陳述は、請求が追加された途端、裁判上の自白の成立要1 7

件を満たすことになり、これは X Y 双方にとって想定外のこと1 8

である。そこで、例外的に撤回が許されないか。 1 9

(1)裁判上の自白の撤回禁止効の根拠は、 証明不要( 1 7 9 条)2 0

に 対 す る 相 手 方 の 信 頼 保 護 と 自 白 当 事 者 の 自 己 責 任 に あ る 。2 1

と こ ろ が 、 訴 え の 変 更 前 の 陳 述 が 訴 え の 変 更 後 に 初 め て 裁2 2

判 上 の 自 白 の 成 立 要 件 を 満 た す と い う 場 合 、 自 白 時 点 で は2 3

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相 手 方 の 証 明 不 要 に 対 す る 信 頼 に も 要 保 護 性 が な い し 、 撤1

回 禁 止 効 が 生 じ る こ と を 知 ら ず に 自 白 し て い る 自 白 当 事 者2

に自己責任を問うことも困難である。そこで、上記場合には、3

例外的に自白の撤回が認められると解すべきである。 4

(2)したがって、 Y は陳述を撤回できる。 5

設問3 6

1.本件日記が 2 20 条 4 号イロハホに該当しないことは明らか7

であるから、自己利用文書( 2 2 0 条 4 項ニ)該当性 を検討する8

べきである。 9

「 専 ら 文 書 の 所 持 者 の 利 用 に 供 す る た め の 文 書 」 の 要 件 は 、1 0

① 内 部 文 書 性 、 ② 個 人 の プ ラ イ バ シ ー 侵 害 な ど を 内 容 と す る1 1

不利益性、③特段の事情の不存在である。 1 2

2.T は、本件日記を私的日記として作成しているのだから、外1 3

部への開示を予定していない。T の相続人として本件日記を所1 4

持するに至った Z も、T の意思を尊重すると思われる。こうし1 5

た事情を①を肯定するものとして考慮するべきである。 1 6

他方で、作成者 T が死亡している上、本件日記には Z に関1 7

する記載はないから、作成者 T と現在の所持者 Z のいずれの1 8

プ ラ イ バ シ ー 侵 害 も 生 じ な い 。 こ の こ と を ② を 否 定 す る 事 情1 9

として考慮するべきである。 2 0

申立人 X を T や Z と同一視できる事情はないから、これを2 1

③の特段の事情を否定するものとして考慮するべきである。 2 2

以上 2 3