発達障がいの論文を読む:ASD...

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発達障がいの論文を読む:ASD を中心に May20 Granovetter, M.C. et al. Uncharacteristic task-evoked pupillary responses implicate atypical locus ceruleus activity in autism. J. Neurosci., 40:3815-3826, 2020. この論文は ASD の atypical な注意機能を、文字の 1-back 課題実行時の瞳孔の反応で捉 えた。瞳孔の反応は青斑核と関係することが分かっている。タイトルに青斑核とあるが、 fMRI などで青斑核の活性を計測してはいない。30y 前後の ASD と定型発達 TD は、1-back 課題を聴覚的な妨害刺激の有無の条件で実行し、瞳孔の大きさを計測した。 上の図が結果である。青が TD, 赤が ASD の瞳孔の反応で、図 a は hit, 図 b は false alarm 試行の結果である。TD は hit で妨害刺激があると瞳孔反応の大きさが増加するが、 ASD ではそれがない。その結果、妨害刺激条件では瞳孔反応は TD>ASD になった。False alarm では、ASD で瞳孔反応が低下し。やはり TD>ASD になった。この結果は各図の右 の瞳孔反応の大きさの比(妨害刺激有/無)にも反映されている。なお、課題の成績は TD と ASD で差はなく、また、妨害刺激そのものへの瞳孔反応にも差はなかった。ADOS と の関係も分析されているが、省略する。 以上、要点を説明したが、このような研究を、注意の対象、課題の工夫は必要だが、乳 児、幼児で行ったら、どのような結果になるのだろうか。

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発達障がいの論文を読む:ASD を中心に

May20

Granovetter, M.C. et al. Uncharacteristic task-evoked pupillary responses implicate atypical

locus ceruleus activity in autism. J. Neurosci., 40:3815-3826, 2020.

この論文は ASD の atypical な注意機能を、文字の 1-back 課題実行時の瞳孔の反応で捉

えた。瞳孔の反応は青斑核と関係することが分かっている。タイトルに青斑核とあるが、

fMRI などで青斑核の活性を計測してはいない。30y前後の ASDと定型発達 TD は、1-back

課題を聴覚的な妨害刺激の有無の条件で実行し、瞳孔の大きさを計測した。

上の図が結果である。青が TD, 赤が ASD の瞳孔の反応で、図 a は hit, 図 bは false

alarm試行の結果である。TDは hit で妨害刺激があると瞳孔反応の大きさが増加するが、

ASD ではそれがない。その結果、妨害刺激条件では瞳孔反応は TD>ASDになった。False

alarmでは、ASDで瞳孔反応が低下し。やはり TD>ASDになった。この結果は各図の右

の瞳孔反応の大きさの比(妨害刺激有/無)にも反映されている。なお、課題の成績は TD

と ASDで差はなく、また、妨害刺激そのものへの瞳孔反応にも差はなかった。ADOSと

の関係も分析されているが、省略する。

以上、要点を説明したが、このような研究を、注意の対象、課題の工夫は必要だが、乳

児、幼児で行ったら、どのような結果になるのだろうか。

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Kawakami, S. et al. Everything has its time: Narrow temporal windows are associated with

high levels of autistic traits via weakness in multisensory integration. J. Autism Dev. Disord.,

50:1561-1671, 2020.

この論文は、視覚と聴覚の統合の時間窓 temporal window, TW の長さと自閉症の傾向 AQ

との関係を、約 21 歳の参加者の、視覚刺激と聴覚刺激の時間順序判断の課題(上図 a)と

音による flash illusion 課題(SIFI, 上図 b)で明らかにした。

時間順序判断では、音が

先行する条件、光円が先行

する条件があり(SOA は図

の通り)、いずれが先行した

かを答える。flash illusion 課

題では光円と音が同時提示

されるが、もう一つの音が

それに先行/後続する。参加

者は光が 0/1/2 を答える。2

と答えたデータを利用した。

中図が時間順序

判断の結果で、y 軸

は音が先行したと

判断した%、濃い

線が低AQ, 薄い線

が高 AQ の結果で

ある。TWは各参加

者の 25%と 75%の

間の SOA とした。

TW の値は高 AQ が 294.8 ms, 低 AQ が 332.1 ms で、低 AQ の方が広かった。

下図は flash illusion 課題の結果で、下図 a, b ともに y 軸は光が 2 つと答えた%である。

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下図 aは、手続きの説明をしなかったが、聴覚、視覚同時の刺激を図にある SOA で 2回提

示した結果である。傾向として、高 AQ の参加者の成績が悪い。下図 b は上で説明した

illusion の条件の結果である。低 AQ の方が高 AQ よりも illusion がおおきく、SIFI の感受

性が高い傾向がある。

上の図と表は TW, SIFI sensitivity, AQ の関係を分析した結果である。詳細は論文を参照

ください。

時間の問題は調音や音声知覚に関係するので、幼児でも重要なテーマである。

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LeBarton, E.S. & Landa, R.J. Infant motor skill predicts later express language and autism

spectrum disorder diagnosis. Inf. Behav. Dev., 54:37-47, 2019.

この論文は、ASD の高、低リスク児で、6 カ月齢の運動機能が、24-36カ月での ASD

の診断を予測できるか、30-36カ月齢の表出言語を予測できるかを検討した。

6カ月齢の運動機能は Peabody Developmental Motor Scales-2, PDMS-2の 3 項目、

Stationary, Grasping, Visual-Motor integration (VMI) を測定した。上の表は PDMS-2 の 3

項目の結果で、後の ADOS による診断の基づいた結果が示されている。

下の表は、6 カ月齢の PDMS-2 の 3項目の値で、24-36 カ月齢の ASDの診断を予測で

きるか、多元ロジスティック回帰で検討した結果である。Graspingは p=0.043, Stationary

は p=0.021 で 3 つのグループ(低リスク LR, HR-nonASD, ASD)を予測できた。VMI は

傾向にとどまった。LR 群を基準にすると、VMI は LR と ASDは有意に異なっていた

(p=0.032)。Grasping, Stationaryは傾向にとどまった。ASD を基準にして、nonASDと

ASD の区別を検討したが、どの subscaleも差はみられなかった。LR を基準にして、LR

と nonASD の区別を検討したが、Graspingと Stationary で区別が可能だった。

次ページの表は、6カ月齢の PDMS-2の 3 項目が、24, 30, 36 カ月齢のMullen Scales of

Early Learning, MSEL による表出言語を予測するか検討した結果である。Stationary は

30カ月齢、Grasping は 30, 36 カ月齢の表出言語を予測した。VMI は予測することはな

かった。

これらの結果は、6カ月齢の運動機能が ASD の予測に重要であることを示している。多

元ロジスティック回帰について、知識がないので、表の十分な説明はできなかった。詳

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細は論文を当たってください。

なお、幼児の歩行や姿勢の発達に関係すると思われる論文があった。参考になるかもし

れないので、下に挙げておく。要するに、TD の姿勢や歩行についてのしっかりした知識

に基づいて、ASDの姿勢や歩行の研究をするべき、ということ。

Sylos-Labini, F. et al. PNAS, 117:9604-9612, 2020.

Dominici, N. et al. Science, 334:997-999, 2011.

また、1 歳半までの発達について、

田中昌人・田中杉江 子どもの発達と診断 1, 2. 大月書店。

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Kuno-Fujita, A. et al. Sensory processing patterns and fusiform activity during face process-

ing in autism spectrum disorder. Autism Re., 13:741-750, 2020.

この論文は、約 31歳の ASDで、Adolescent/Adult Sensory Profile, AASP で測定された

感覚処理パタンと、顔/家の 1-back 課題中に fMRI で計測された脳(紡錘状回、扁桃核)の

活性の関係を検討した。簡単に紹介する。

上の図左は 1-back 課題時の顔>家の活性を示した紡錘状回と扁桃核である。図右は

AASP の Sensation Avoiding の評定と右紡錘状回の顔に対する活性の関係を示した図であ

る。定型発達 TD(青)では相関はないが、ASD(赤)では有意な正の相関がある。

この結果は、ASD の感覚処理パタンが顔の知覚の障がいと関係することの脳内過程を示

すと考えられた。

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Kinard, J.L. et al. Neural mechanisms of social and nonsocial reward prediction errors in

adolescents with autism spectrum disorder. Autism Res., 13:715-728, 2020.

この論文は、12-18 歳の ASDと定型発達 TDで、社会的、非社会的な報酬予測誤差 RPE

に対する脳の活性を、fMRI で計測した。

上図が課題である。2 つのキルトのパタンが提示され、一方は報酬(社会的:顔、非社

会的:もの)と、他方は無報酬(scrambled stimulus)と関係する。✓と Xは参加者の予

測を反映し、✓は報酬の、X は無報酬の予測を意味する。参加者の予測とは異なる報酬が

提示されることがあり、RPE が生じる。RPE には 2種類あり、signed prediction error, SPE

は経験した報酬と期待した報酬の差、thresholded unsigned prediction error, tUPE は大き

さに関係なしに期待した結果と期待しなかった結果の差である(詳しくは論文参照)。

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前ページ下図が fMRI の結果で、社会的報酬のみで、ASDと TDに差がみられた。上段

は SPE の結果で、ASDは TDよりも右中心前回で活性が低く、前頭極で活性が高かっ

た。中段は tUPEの結果で、ASDは TD よりも a: 右前部帯状回、b: 右中心前回、c: 左中

心前回で活性高かった。下段は報酬の有無の結果で、ASDは TD よりも右中心前回で高い

活性がみられた。なお、tUPE で左中心前回は反応時間と正の相関を示した。

この図は ASDの症状の程度と社会的な RPE の脳活性との関係を示したもので、y 軸は

Pragmatic Rating Scale-School Age, PRS-SAの Pragmatic Impairment(左)と Paralin-

guistic(右)の値で、x 軸は左が右中心前回の SPE, 右が tUPE の活性の程度である。いず

れも、負の相関がみられた。

中心前回は一次運動野の領域である。脳波でも類似の結果があったことから、著者らは

この結果を ASDは over-anticipation をすると考えた。ASDは予測、priorに問題があると

いう考えと整合的である。

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Sokhadze, E.M. et al. Neuromodulation integrating rTMS and neurofeedback for the treat-

ment of autism spectrum disorder: An exploratory study. Appl. Psychophysiol. Biofeedback,

39:237-257, 2014.

この論文は、10-21 y の ASD で、反復的 rTMS と脳波の NFB 訓練の組み合わせが、odd-

ball 課題の成績、その際記録した脳波、医者や両親による社会的、行動的評価に与える効果

を検討した。

上図は rTMS と EEG-NFB の簡単な手続き

である。rTMSは 1 Hz、運動誘発の 90%の強

度で、左右の dlPFC に与えた。EEG-NFB は

Peak Performance Trainer, PAT systemにより、

Focused Attention, FA index を高め、40 Hz-

centered gamma, 40 Hz index を維持する訓練

をした。Feedback は BBCなどのビデオを利用

した。更に詳しくは、論文を参照ください。

図は載せないが、NFB 訓練により、相対的

なγpower が増大し、θ/高β比が低下した。

下図の左は FA index, 右は 40 Hz indexの訓練

による変化である。訓練により脳波の変化が達成されたことを示す。

次ページ上図は、rTMS-EEG-NFB訓練の oddball課題への効果である。左図は TMS-NFB

前後の誤反応の変化で、この介入を受けた群では誤反応が低下した。右図はエラー後の反応

時間の変化だが、介入を受けた群では、誤反応後に反応時間が延長する適応的な行動を行っ

た。誤反応に関連して、次ページ中図は誤反応関連負電位 ERNの変化だが、介入により ERN

の負電位が増加しているのが分かる。

脳波の ERPの変化については省略するが、前頭、前頭-中央部の ERP については、N100,

N200, P2d, P300 (P3a) について、頭頂、頭頂-後頭部の ERP については、P200 とN200,

P300 (P3b) について報告している。論文を参照ください。

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最後に、TMS-NFB の社会、行

動面への効果だが、下図は

Repetitive Behavior scale の結果

だが、Stereotype Behav., Com-

pulsive Behav., Ritualistic/

Sameness Behav., Total Score で

介入後に低下がみられた。

ASD に関連する脳の活動を

変化させるには、行動的な介入、

脳活動の行動による変化(NFB)、

脳の非侵襲的な刺激(TMS,

tDCSなど)がある。この研究は

後二者を組み合わせたものだが、

このような試みは今後も続くか

もしれない。

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発達障がい論文の要約

May20

総説

Courchesne, E. et al. (2020) Trend. Neurosi., 43:326-342.

ASD の出生前の起源についての総説。

Metcalfe, D. et al. (2020) Res. ASD, 74: no 101549.

Screening tools for autism spectral disorder, used with people with an intellectual disability:

A systematic review と題する総説。

Fuller, E.A. & Kaiser, A.P. (2020) J. Autism Dev. Disord., 50:1683-1700.

ASD の子供の社会的コミュニケーションに対する早期介入の効果についてのメタ分析。

論文

Granovetter, MC. Et al. (2020) J. Neurosci., 40:3815-3826.

30y 前後の ASD と TD の注意の問題を、文字の 1-back 課題を音の妨害刺激の有無の条

件で行わせ、瞳孔の大きさを計測し検討した。Hit と false alarm に分けて分析したが、hit

では TDが瞳孔反応を大にし、false alarmでは ASDが反応を小にした。いずれの条件でも、

妨害刺激の有無による瞳孔反応の比は、TD>ASDだった。上で紹介した。

Kawakami, S. et al. (2020) J. Autism Dev. Disord., 50:1561-1571.

21 y の参加者で、ASDの傾向と視聴覚統合の能力(temporal window, TW)の関係につ

いて、temporal order judgement task と sound-induced flash illusion task で検討した。ASD

の傾向が高い者は TW が狭く、視聴覚統合が劣っていた。上で紹介した。

Feldman, J.I. et al. Res. ASD, 74: no 101555.

4名の 7-14 yの ASDで、視聴覚の同時性判断課題の訓練を行なった。Temporal binding

window は 1名のみで訓練の効果がみられた。

LeBarton、E.S. & Landa, R.J. (2019) Inf. Beahav. Dev., 37-47.

6 mo の ASD の低リスク、高リスクの運動機能(Peabody Developmental Motor Scales)

は 24-36 mo の ASD の診断を予測し(低リスク、高リスク nonASD、ASD)、30-36 mo の

表出言語を予測した。上で紹介した。

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Kuno-Fujita, A. et al. (2020) Autism Res., 13:741-750.

31 y の ASD で、Adolescent/Adult Sensory Profile, AASP で測定された感覚処理パタン

と、顔/家の 1-back task 実行時に fMRI で計測された紡錘状回、扁桃核の活性の関係を検討

した。顔提示時の AASP の Sensation Avoiding score と右紡錘状回活性が、ASD で正の相

関を示した。上で簡単に紹介した。

Yeung, M.K. et al. (2020) J. Autism Dev. Disord., 50:1596-1606.

11-18 yの高機能 ASDと TDで、facial emotion labeling task と facial perceptionの関係

を検討した。ASD では負の情動(悲しみ、怒り、嫌悪、恐れ)の labeling の成績が低下し

たが、それは facial perception の障がい、社会的な障がいの重篤度と相関した。

Yasuno, F. et al. (2020) Autism Res., 13:729-740.

20 歳代後半の ASD と TD で、水平のスリット視で表情の同定を行わせたところ、ASD

では成績が低下した。Neurite-orientation dispersion and density imaging, NODDI で脳の微

細構造を計測し、スリット視による表情同定との関係を検討した。腹側の後頭複合領域、上

側頭/頭頂連合野、脳梁の大鉗子のNODDI の値と表情同定の成績の間に負の相関がみられ

た。ASDでは脳梁を介する左右半球の表情の知覚的統合に問題があることが示された。

感想:幼児、児童での ASD のスリット視の研究は?

MaAuliffe, D. et al. (2020) Autism Res., 13:777-784.

8-13 yの ASDと TD で、無意味な動作の模倣学習を行わせた。その学習曲線は両群で異

なっていたが、主成分分析を行ったところ、第 1主成分P1が大きく貢献していた。Mediation

analysis では、P1 は overlearned praxis performance (FAB)に直接的に関係し、また、ASD

の重篤度、さらにmotor coordination(PANESS)を介して、間接的に関係した。

Lampi, A. et al. (2020) J. Autism Dev. Disord., 50:1479-1496.

平均約 8 y の ASD で、restricted and repetitive behavior, RRB の生起の社会的、運動的

context を検討した。Motor と verbal RRB が一般的で、運動、社会的な context で RRB の

生起は異なり、社会的な関与は RRB を減少させた。RRB と ASDの重篤度、社会的な同期

性、非言語的精神年齢の間には有意な相関があった。

Calhoun, S.L. et al. (2020) J. Autism Dev. Disord., 50:1701-1713.

睡眠障害 SDは ASD でよくみられるが、この論文は SD がワーキングメモリWM や学習

に与える影響を高機能 ASDで検討した。SDはWMに障害を与え、それが学習に影響した。

高機能 ASDでは SDとWM障害を介入の対象にすべきである。

感想:ASDリスク児の睡眠パタンの変化の発達的変化は?

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Stewalt, G.R. et al. (2020) Autism Res., 13:751-762.

Broad Autism Phenotype, BAP による ASD の傾向と ToM課題の成績の年齢差について

検討した。18-46 y と 60-91 y の BAPと non-BAPで成績を比較すると、non-BAP>BAPだ

った。年齢差は Triangle Animations task, TA の一部でみられた。TA Intentionality につい

て、若者は BAP, non-BAP で同様の成績だったが、高齢者では non-BAP>BAP だった。

Harrop, C. et al. (2020) Autism Res., 13:763-776.

約 8-9 y の男女の ASD と TD に子供が人形と遊んでいるビデオを見せ、eye-tracking を

行った。ASD の女児の方が男児よりも actor の顔を見ることが多かった。また、同じ性の

actor、人形を観ることが多かった。ASD も TD も、男児の actor が女児に関連した人形で

遊んでいると、actorの顔を見た。

感想:幼児の研究は?

MacLennan, K. et al. (2020) Autism Res., 13:785-795.

感覚の反応性と不安の関係を 3-14 yの ASDで検討した。Hyperreactivity と total anxiety,

separation anxiety, physical injury fears の間に正の相関があった。しかし、autism traits を

control すると、hyperreactivity は physical injury fear, 特定の phobia に関係し、hypo-

reactivity は低い total 及び社会的 anxietyに関係した。Sensory seeking は anxiety と関係な

かった。

論文-神経科学など

Kinard, J.L. et al. (2020) Autism Res., 13:715-728.

12-18 y の ASDと TDで、社会的、非社会的な報酬に対する予測誤差 RPE の脳の反応を

fMRI で計測した。ASD と TD の差は社会的な RPE でみられた。ASD>TD の活性が中心

前回などでみられ、右中心前回では症状との相関も見られた。ASD では over-anticipation

があると考えられた。上で紹介した。

Sokhadze, E,M, et al. (2016) Appl. Psychophysiol. Biofeedback, 41:81-92.

11-21 y の ASD と TD control に、改良した Posner 課題(左右と斜め上下)を課し、脳

波(ERPと lateralized readiness potential, LRP)を記録した。Cueの congruency の影響は

両群に同じだったが、target の位置の効果は ASD に強く表れた。incongruent 試行での初

期の前頭の負電位と LRP振幅は ASDで大きく、LRP は ASDの運動の準備、反応の選択の

認知的な側面を反映すると考えられた。LRPはASDの dyspraxiaのよい biomarkerである。

感想:工夫すれば、もっと幼い幼児でも実験できそう?

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Sokhadze, E.M. et al. (2014) Appl. Psychophysiol. Biofeedback, 41:237-257.

10-21 y の ASD で、dlPFC への反復 rTMS と脳波の neurofeedback, NFB を組み合わせ

る介入を行った試み。介入前後で視覚的な odd ball 課題を行わせたが、成績の改善がみら

れ、記録したエラー関連負電位も低下した。上で紹介した。

Byrge, L. & Kennedy, D.P. (2020) Hum. Brain Mapp., 41:2249-2262.

24 y の ASD, TD で、脳の機能結合 connectome で、ASD と TD を区別できるか検討し

た。fMRI は安静時と社会的なビデオを観ている時に計測した。Connectome は個人と行動

を区別したが、ASDと TD の区別はできなかった。

Hadoush, H. et al. (2020) Autism Res., 13:828-836.

平均 8yのASDの左右の前頭前皮質と運動皮質に anodal tDCSを与え、その前後の autism

treatment evaluation checklist, ATEC(language and communication; sociability; sensory

awareness; behavioral, health and physical conditions)の評定値の変化をみた。tDCS を受け

た参加者は ATEC の total scale, sociability, behavioral, health and physical conditions の

subscale の低下がみられた。

Hegarty, J.P. et al. (2020) Cereb. Cortex, 30:1946-1956.

10y 前後の ASDと TDの双生児で、脳の形態(容量、皮質の厚さ、表面積)に対する遺

伝と環境の影響を T1 強調 MRI で検討した。脳の形態は主に遺伝的に決定されていたが、

TD では側頭、後頭皮質の厚さ、ASDでは前頭、側頭、頭頂皮質の厚さは環境の影響があっ

た。また、ASD では前頭の灰白質容量は環境により決定され、前頭、側頭、頭頂皮質の灰

白質容量の差は社会的な communication の障がいと関係した。

Haigh, S.M. et al. (2020) Autism Res., 13:702-714.

17-45 y の ASD と control で、白質線維の統一性 integrity と認知の神経心理学的測定値

の関係を検討した。前部視床放線と右帯状束の異方性度 fractional anisotropy, FA は ASD で

低下していた。しかし、低下した FA は神経心理学的な測定値と関係しなかった。

Wenderski, W. et al. (2020) PNAS, 117:10055-10066.

専門外なのでタイトルを訳しておく。神経に特異的な BAFの subunit の ACTL6B の欠損

は、初期に働く遺伝子の抑制を促進し、劣性の autism の原因となる。ヒトとモデル動物の

研究。

Kiiski, H. et al. (2020) Europ. J. Neurosci., 51:2095-2109.

成人の ADHD で、脳波による ADHD, その一親等血縁者、control の区別を検討した。

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ADHD と controlの区別は、開眼脳波の中央頭頂部のδ、θ。低α、前頭の低β、頭頂の中

βの増加で可能だった。θ/β比は有効でなかった。血縁者と control はδ、θ、低α、低β

で区別できた。θ/β比は子供に適用可能かもしれない。

López-Barroso, D. et al. (2020) Neuroimage, 213: no 116722.

成人で、字を読めない者、成人になって字を覚えた者、子供時代に覚えた者で、視覚と言

語に関係する領域の FC の変化を、VWFA と以下の 4 network, 左 FPN, 聴覚 network, 内

側と外側視覚機能 network, FPN control network との FCで検討した。読む能力により、左

FPNとの FC は増加、外側視覚機能、聴覚 network との FCは減少した。