皮革製品における各種皮革素材の普及状況調査第Ⅰ章 1.天 1- 国連...

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平成27年度 経済産業省委託調査 平成27年度皮革産業振興対策調査等 皮革製品における各種皮革素材の普及状況調査 報告書 平成28年3月 株式会社 東レ経営研究所

Transcript of 皮革製品における各種皮革素材の普及状況調査第Ⅰ章 1.天 1- 国連...

平成27年度 経済産業省委託調査

平成27年度皮革産業振興対策調査等

皮革製品における各種皮革素材の普及状況調査

報告書

平成28年3月

株式会社 東レ経営研究所

∞∞∞∞∞∞∞ 目 次 ∞∞∞∞∞∞∞

第Ⅰ章 国内外の皮革市場・皮革業界の概況

1.天然皮革マーケットの概況

1-1.原皮、革、製品(靴)の生産動向

1-2.天然皮革単価の推移

1-3.天然皮革・皮革製品輸出入動向

2.人工皮革、合成皮革マーケットの概況

2-1.人工皮革と合成皮革の位置付け

2-2.人工皮革・合成皮革のマーケット動向

3.主要国別皮革産業概況整理

第Ⅱ章 消費者アンケート調査結果

1.調査概要

2.調査結果

第Ⅲ章 ヒアリング調査結果

第Ⅳ章 総合分析と提言

1.我が国皮革業界の現状整理

1-1.国内天然皮革市場の変化と課題

1-2.人工皮革・合成皮革市場に関する考察

2.国内皮革業界に求められる取組みの方向性

2-1.国内皮革業界の総合力発揮

2-2.目指すべき素材開発の方向性

3.我が国皮革業界の総合力向上に関する考察

3-1.二つの方向性による総合力向上のイメージ

3-2.期待される業界横断取組みの相乗効果

4.協業促進に向けたポイント整理

4-1.業界横断的な連携の促進

4-2.素材横断的な製品開発の促進

4-3.消費者意識変化への対応

4-3.対外的情報発信の強化

5.その他課題の整理

5-1.人工皮革・合成皮革に関する定義の明確化

5-2.皮革製品表示の明確化

6.本調査の総括

1

1

1

3

4

8

8

13

21

32

32

33

65

106

106

106

109

111

111

114

116

116

117

118

118

119

120

120

122

122

123

125

第Ⅰ章

1.天

1-

国連

文・出

らに皮

ット

てお

に原皮

1)牛

牛原

約 3.

いる。

この

産量

図表

出典:

章 国内外の

天然皮革マー

1.原皮、革

連食糧農業機

出典等では

皮革製品と

を見る上で信

り、本調査も

皮、なめし後

牛原皮の国別

原皮の世界生

3 億枚だった

のうち、201

を円グラフで

Ⅰ-1:主要

:FAO「World

1998-

の皮革市場

ーケットの概

革、製品(靴

機関(Food

FAO と記載

しての靴につ

信頼性の高い

も主に FAO

後の皮革、さ

別生産動向

生産量は微増

たものが 201

14 年生産量

で示すと下図

要国原皮(牛

d Statistical C

-2014 版」

・皮革業界の

概況

靴)の生産動

and Agricu

載)は牛・羊

ついての国別

いデータとし

統計を元に

さらに靴につ

増ペースなが

14 年(暫定値

量が一か国で

図のようにな

牛)生産量

Compendium

1

の概況

動向

lture Organ

羊・山羊とい

別統計を作成

して ICT(国

しながら日本

ついて主要国

がらもおおむ

値)は約 3.7

1,000 万枚

なる。

(2014 年暫定

for raw hides

総生産量:37

(百万枚)

nization of t

う 3 種の動物

成している。

国際タンナー

本の皮革素材

国の生産動向

むね着実に増

7 億枚と、10

を超えている

定値)

s and skins, l

1.1

the United N

物の皮に関し

これは国際

ー協会)など

材として代表

向を見ていく

増加しており

0 年で 1 割強

る国は 6 か国

eather and le

Nations 以下

して原皮、革

際的な皮革マ

どの団体でも

表的な牛革を

、2004 年時

強の増加とな

国あり、各国

eather footwea

下、本

革、さ

マーケ

も用い

を対象

時点で

なって

国の生

ar

年に

め、僅

とリ

る国で

が原皮

2)牛

FA

積統計

量デー

FA

フィー

おおむ

グラ

図表

出典:

イタ

に韓国

同統

8 倍の

から考

によってトッ

僅差でブラジ

ンクしてい

でも国内の飼

皮生産量の多

牛革の国別生

AO の統計で

計)とに分け

ータで比較す

AO の 2013 年

ート(以下、

むね横ばいと

フで示すと下

Ⅰ-2:主要

:前グラフと同

こでも中国や

リアのように

国が皮革製品

統計による

の牛皮革を生

考えても牛皮

ップと 2 位の

ジルが続く

る国が多いが

飼育数の多さ

多さに反映し

生産動向

では牛革の生

けられている

する。

年暫定値デー

、mil.f2 で表

と見なせる。

下図のように

要国牛革生産

同じ FAO 統計

やブラジルと

に保有牛の頭

品で有名なイ

日本の牛革生

生産している

皮革の日韓の

の入れ替わり

という構図が

が、インドの

さ(頭数ベー

している。

産量統計が

るが、ここで

ータで見ると

表示)前後で

一か国で 1

になる。

産量(2013

といった原皮

頭数や原皮生

イタリアより

生産量は同じ

る。日本が約

の生産量の差

2

りはあるが、

が続いている

のように牛肉

ースでは世界

Heavy Lea

では一般的に

と、世界の牛

でここ 10 年近

1,000 mil.f2

年暫定値)

皮生産量の多

生産量ではさ

り多いという

じ 2013 年暫

約 396 万頭、

差は説明でき

総生産量:14,

百万平方フィー

インドと中

る。基本的に

肉を食べない

界の約 2 割で

ather(重量統

に考える「革

牛革生産量は

近く大きな変

2を超える生

多い国が上位

さほど多くな

うのが目を引

暫定値で 128

韓国が約 3

きるものでは

171

ート

中国がほぼ毎

に牛の飼育頭

いヒンズー教

で も多く、

統計)と Li

革」に近いラ

はトータルで

変動がなく、

生産量の国は

位に並ぶが、

ない国が上位

引く。

mil.f2だが、

320 万頭とい

はなく、原皮

毎年トップ 2

頭数や牛肉消

教徒が大半を

中国の約 3

ight Leathe

ライトレザー

で 14,000 百万

生産量とし

は 5 つだけで

その一方で

位入っており

、韓国はその

いう牛の保有

皮輸入→国内

2 を占

消費量

を占め

3 倍)

er(面

ー生産

万平方

しては

あり、

韓国、

り、特

のほぼ

有頭数

内なめ

し加工

ついて

3)革

代表

も上位

が、そ

いう点

しない

図表

出典:

同統

平均の

革の生

1-

天然

気の変

次頁

これ

間で

工するとい

ては後に再度

革靴の生産動

表的皮革製品

位を占めると

そのすべて人

点はもちろん

いといった点

Ⅰ-3:主要

:前グラフと同

統計での日本

の約 3,000

生産だけでな

2.天然皮革

然皮革、特に

変動に応じて

頁の図はシカ

を見ると、3

低価格(2

う皮革産業モ

度触れる。

動向

品である革靴

というシンプ

人口の多い新

んだが、安い

点で靴が重要

要国の革靴

同じ FAO 統計

本の靴生産量

万足レベル

なく、 終製

革単価の推移

に原皮はその

て取引相場価

カゴの原皮取

35 年の中でも

28.50¢/pou

モデルが形成

靴の生産量を

プルな傾向が

新興国で占め

い人件費や豊

要な輸出品目

(Leather S

量は約 2,600

ルから微減傾

製品製造分野

の性格上、畜

価格も上下す

取引市場の価

も特に近年の

nd)から

3

成されている

を国別に比較

が認められる

められる。こ

豊富な労働力

目として位置

Shoes, All Ty

0 万足で、ベ

向が続いてお

野でも伸び悩

畜産物あるい

する。

価格変動を 3

の相場が激し

高価格(114

総生産量:4,470

百万足

ることを伺わ

較すると、人

る。生産量が

この背景には

力、さほど高

置付けられて

ypes)生産量

ベトナムの 2

おり、我が国

悩み状況にあ

いは農産物に

35年間とい

しく上下して

4.63¢/poun

0.7

わせるが、牛

人口の多い国

が 1 億足以上

は国内マーケ

高い機械技術

ていることも

量(2013 年暫

割ほど。しか

国皮革産業が

あることがわ

に近い部分が

う長期レベル

ており、 近

nd)まで急激

牛の原皮輸入

国が靴の生産

上の国が 7 つ

ケットが大き

術レベルを必

も伺える。

暫定値)

かも 1998~

が原皮調達や

わかる。

があり、需要

ルで見たもの

近 5~6 年ほど

激に価格が変

入量に

産量で

つある

きいと

必要と

~00 年

や材料

要や景

のだが、

どの期

変化し

4

ていることがわかる。

図表Ⅰ-4:原皮取引単価の推移

出典:IMF「Commodity Prices」 単位は米セント/重量ポンド Hides, Heavy native steers, over 53 pounds, wholesale dealer's price, US, Chicago, fob Shipping Point, US cents per Pound

この 35 年間で も原皮価格が安くなったのは 2009 年 3 月で、これは明らかにリーマン

ショック後の世界同時不況の影響とみられるが、その 5 年半後、2014 年 9 月には逆に過去

35 年間での 高値にまで急上昇している。

2014 年の急激な価格上昇についてはリーマンショックほどはっきりと原因を指摘するの

は難しいが、中国の皮革需要急増が影響要素の一つであることは間違いないといえよう。

中国でレザー需要が急増したことは原皮価格の変動はもちろん、我が国皮革産業の原皮調

達難の一因にもなっていると考えられている。次項では原皮輸入データ等から中国のレザ

ー需要急増をもう少し詳細に検証する。

1-3.天然皮革・皮革製品輸出入動向

1)中国の原皮輸入需要

すでに見たように中国は牛原皮や牛革の生産量では現在世界トップの座にあるが、一方

で中国が海外から輸入する皮革の量も大幅に増加しており、その増加ぶりは世界の皮革市

場そのものに影響を与えるほどのレベルに達している。

下図は主要国の牛原皮輸入量をグラフ化したものだが、中国の輸入量(2013 年暫定値)

28.59('09.3)

114.63('14.9)

0

20

40

60

80

100

120

80 85 90 95 2000 05 10 15

(¢/pound)

(年)

5

は 98~00 年平均値と比べても倍以上、さらに過去の 93~95 年平均値(233.4 千トン)から

みれば 4 倍以上という急増ぶりで、今や世界の牛原皮輸入総量の約 4 割が中国向けで占め

られるに至っている。

一方、我が国の牛原皮輸入量は 98~00 年平均が 86.7 千トンだったのが 2013 年には 25.5

千トンと 1/3以下、93~95年平均に比べれば実に 1/6 以下というレベルにまで急落している。

このことは急増する中国原皮輸入が我が国の原皮調達にも影響している可能性を示唆する

ものであるが、一方で日本と同様に原皮輸入が多い韓国やイタリアなどは日本ほど輸入量

を激減させていないのも事実である。原皮の調達難や価格高騰の主要因が中国の輸入量急

増にあり、その影響が各国に及んでいるとしても日本と韓国とでは影響のあらわれ方に差

があるのは確かである。

図表Ⅰ-5:主要国の牛原皮輸入量推移

出典:FAO「World Statistical Compendium for raw hides and skins, leather and leather footwear 1993-2012 版および 1998-2014 版」 単位は塩漬湿重量での千トン

中国は牛皮および革の世界 大の生産国でありながら、同時に世界一の牛原皮輸入国にな

ったわけであるが、同国の皮革需要急拡大の大きな要因の一つとして指摘されているのが

カーシートへの本革使用である。

中国では高級感があるという理由で本革を使ったカーシートに対する需要が他国に比べ

て非常に高いとされているが、一方で乗用車需要そのものも激増し、今や世界一の乗用車

マーケットになっているため、結果的にカーシート用を中心に牛革需要が急速に拡大する

ことになった。

次頁の図は中国の原皮生産量・輸入量の推移(棒グラフ)と新車販売台数(折れ線グラ

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

93~95平

98~00平

01~03平

04

05

06

07

08

09

10

11

12

13暫

(千トン)

(年)

その他 イタリア

日本 韓国

中国

6

フ)を重ねたものだがこれを見ると原皮の生産量・輸入量ともに着実に増えてはいるもの

の、車の販売台数はそれらをはるかに上回るペースで急増していることがわかる。

図表Ⅰ-6:中国の原皮生産量・輸入量と新車販売台数推移

出典:FAO「World Statistical Compendium for raw hides and skins, leather and leather footwear 1998-2014 版」 及び中国汽車工業協会データ

中国で売られる新車のうち「本革シート」が何割程度使用されているかのデータはない

が、母数にあたる新車販売台数が 9 年で約 4 倍という増え方であるから、「本革率」が一定

であったとしてもその総需要が急速に増えていることは確実である。

中国景気は 2015 年秋頃から低迷が指摘されており、その影響で新車販売台数の伸びもこ

れまでより鈍化する可能性はあるが、仮に横這いが続いたとしても年間 2000 万台超の世界

一の自動車市場であり続けることには変わりがなく、今後も中国が世界の比較総輸入量の

半分近くを占めるという状態が続く公算が大きい。

2)欧州主要国の輸出入動向比較

欧州主要国の原皮、あるいは靴の輸出入動向を比較すると、本調査の国別調査対象にあ

る欧州 5 か国(ドイツ、イタリア、英国、フランス、スペイン)に限っても国ごとに傾向

の差があらわれる。

次頁の図は上記 5 か国の原皮(牛)輸入量の推移であるが、これを見るとイタリアの突

出ぶりが明らかで、その次に多いドイツでも原皮輸入量はイタリアの 2 割程度にすぎない。

前項のグラフにも示したように、イタリアの原皮輸入量は中国ほどではないものの世界

的に見てもトップクラスで多いといえ、欧州だけに限っていえばイタリア 1 か国だけで欧

州全体の輸入量の 4 割を占めている。

0

500

1,000

1,500

2,000

0

200

400

600

800

1,000

98

~00

平均

01

~03

平均

04

05

06

07

08

09

10

11

12

13

(万台)(千t)

(年)

原皮輸入量(左軸)

原皮生産量(左軸)

新車販売台数(右軸)

7

図表Ⅰ-7:欧州主要国原皮輸入量推移

出典:FAO「World Statistical Compendium for raw hides and skins, leather and leather footwear 1998-2014 版」

一方、なめした後の牛革の輸出で比較すると下図のようにこれまたイタリアが群を抜い

ており、「原皮を海外から調達し、レザーにして海外に輸出する」というイタリア皮革業界

の傾向があらわれている。

図表Ⅰ-8:欧州主要国の革靴輸出量推移

出典:FAO「World Statistical Compendium for raw hides and skins, leather and leather footwear

1998-2014 版」

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

98

~00

平均

01

~03

平均

04

05

06

07

08

09

10

11

12

13

暫定

(千t)

(年)

その他 スペイン フランス

英国 イタリア ドイツ

0

1,000

2,000

3,000

4,000

98~00平

01~03平

04

05

06

07

08

09

10

11

12

13暫

(百万平方フィート)

(年)

その他 スペイン フランス

英国 イタリア ドイツ

8

2.人工皮革、合成皮革マーケットの概況

前項では主に天然皮革およびその製品についてのマーケット概況を整理したが、ここで

は本調査の中心的テーマである人工皮革・合成皮革について、そのマーケットや業界動向

等について整理していく。

2-1.人工皮革と合成皮革の位置付け

1)本調査における合成皮革、人工皮革の考え方

現在のところ、人工皮革と合成皮革の位置付けは公的な製品分類などにおいても明確に

なっているとは言えず、さらに業界によって慣習的な言い方・扱われ方も残っている。

下図は本調査における人工皮革や合成皮革の位置付けを便宜的に概念図として表したも

のである。

区分が不明確なのは下図のアミかけ点線枠内で示した部分で、海外では通常「天然皮革

でない皮革」をひとくくりにして扱っており、その呼称も下表に示すように様々であり、

明確な定義・区分はない。

図表Ⅰ-9:人工皮革と合成皮革の位置付け概念図と海外における呼称例

英語での様々な呼称の例(カッコ内は便宜的な和訳) Synthetic Leather(合成レザー) Artificial Leather(人工レザー) Faux Leather(偽レザー) Imitation Leather(模造レザー) False Leather(偽レザー) Fake Leather(模造レザー)

Man Made Leather(人造レザー) Vegan Leather(非動物由来レザー) PU Leather(ポリウレタンレザー) PVC Leather(塩ビレザー) Pleather(造語:Plastic + leather)

一方、我が国では人工皮革と合成皮革が製造方法の違いで分けられているが、次項で触

れるように皮革製品の品質表示等においても、さらに各種統計等での扱いにおいても統一

的な区分がなされていないため、その分類上の定義にはバラつきがある。

銀面

スエード

エナメル

湿式

乾式 合成皮革

人工皮革

皮 革

天然皮革

人造皮革

9

さらに業界慣習的な呼び方も根強い。前頁の表では人工皮革と合成皮革を合わせた概念

として「人造皮革」という呼称を用いているが、この呼称も実際にはあまり普及しておら

ず、天然皮革以外はすべて「合皮」でまとめてしまうという捉え方の方が多いのが実情で

ある。

また、合成皮革をさらに分類する場合、業界内では「湿式」と「乾式」という製造方法

による区分が一般的であるのに対し、人工皮革の場合は「銀面」「スエード」「エナメル」

といったように出来上がった製品の表面タイプによって分ける場合が多い。

本調査においては合成皮革、人工皮革という用語は下記の定義に基づいて用い、この二

つを包含した概念としての人造皮革という便宜的用語は使用しない。また、いわゆる塩ビ

レザーは合成皮革からは除外して考えるものとするが、合成皮革・人工皮革をさらに細分

化する場合は上述の「湿式・乾式」「銀面・スエード」といった業界慣習的な分け方に準じ

て記述する。

図表Ⅰ-10:本調査における人工皮革・合成皮革の定義

用語分類 定 義 合成皮革 織物や編物等の基布にウレタン等のプラスチック樹脂を塗布し

たもの(ただし塩ビレザーは除外) 人工皮革 マイクロファイバー等で作られた不織布基材にウレタン等の樹

脂を含浸させたもの 人造皮革

(本調査では使用せず) 上記二つを併せた概念として用いられる場合もあるが、厳密なも

のではなく、普及度も低い

2)法規制や統計等における区分や位置付け

①家庭用品品質表示法

家庭用品品質表示法で材料表示が定められた皮革製品としては、かばん、靴、手袋、衣

料、いす等の張り材があり、それらの材料表示に関する規定の内容だけを抜粋して以下に

①~⑤として整理する。

衣料と手袋に関する表示規定は動物の種類が異なるだけでほぼ同一であり、材料種類の

「合成皮革」の中で基材の種類によって合成皮革と人工皮革とに表示が分けられている。

図表Ⅰ-11:皮革製品の材料に関する品質表示規定抜粋①~⑤

① 革 製 衣 料

材料の種類 表示名 革 牛、羊、やぎ、鹿、豚、馬 牛革、羊革、やぎ革、鹿革、豚革、馬革

前各項に掲げる以外の革 材料の種類の通称を示す用語 合成 皮革

基材に特殊不織布以外のものを用

いたもの 合成皮革

基材に特殊不織布を用いたもの 人工皮革

10

② 革 製 手 袋

材料の種類 表示名 革 牛、羊、やぎ、鹿、豚、馬、犬、ペッカリー 牛革、羊革、やぎ革、鹿革、豚

革、馬革、犬革、ペッカリー革

前各項に掲げる以外の革 材料の種類の通称を示す用語 合成 皮革

基材に特殊不織布以外のものを用いたもの 合成皮革 基材に特殊不織布を用いたもの 人工皮革

③ か ば ん

●かばん外面積の 60%以上が表皮付き(銀付革)の牛革、馬革、豚革、羊革、やぎ革

のものについてはその皮革名を用いる ●二者あるいは三者の混合かばんは、「牛革・馬革混用」「牛革・豚革混用」「馬革・豚

革混用」「牛革・馬革・豚革混用」「床革(皮革を二枚にそいだ場合の表皮の付かな

い内側の革)」の用語を用いて表示

④ 靴

靴の部位 表示内容 甲材 「合成皮革」 条件に合えば「人工皮革」も可 底材 「ゴム底」もしくは「合成底」

⑤ いす、

腰掛け

及び 座椅子

張り材の種類 張り材の種類を示す用語(表示名) 皮革 「皮革」の用語にその皮革の名称を示す用語を

括弧書きで付記したもの 合成皮革 合成皮革 布に短繊維を植え付けたもの 植毛シート ロープ 「ロープ」の用語にその素材の名称を示す用語

を括弧書きで付記したもの

出典:消費者庁 HP の各製品に関する規定から抜粋

③のかばんの場合、上記 5 種類の動物の天然皮革使ったもののみが対象になっているた

め、合成皮革や人工皮革に関する規定はない。

逆に、④の靴は対象製品の定義が「甲に合成皮革を、本底にゴム、合成樹脂又はこれら

の混合物を使用し、甲と本底とを接着剤により接着したものに限る」とされており、天然

皮革の靴は同法上の対象になっておらず、表示に関する規定もない。

なお、靴の規定における合成皮革の定義は「基材に織布又は不織布等を用いて、表面に

ポリ塩化ビニル・ポリアミド・ポリウレタン等の合成樹脂を形成し、表面に天然皮革模様

を型押し(場合によっては発泡剤等の薬品で微細気孔処理を行う)し、天然皮革の特性で

ある外観、感触、光沢、通気性、柔軟性等を与えたものを指す」と記されている。

一方、人工皮革については「甲皮として特殊不織布を用いているものは「合成皮革」の

用語に代えて「人工皮革」の用語を用いることができる」となっている。

つまり、両者の違いは基材が「織布又は不織布等=合成皮革」「特殊不織布を用いている

もの=人工皮革」の差、すなわち基材が特殊不織布かどうかで区分が違うことになる。

11

特殊不織布については雑貨工業品品質表示規程の中に「ランダム三次元立体構造を有す

る繊維層を主とした基材にポリウレタン又はそれに類する可撓性を有する高分子物質を含

浸させたもの」と定義されているが、この定義に合致した場合でも「人工皮革の用語を用

いることができる」となっている。つまり現状では特殊不織布を使っても合成皮革という

表示のままでもよいということになり、人工皮革の位置付けが不明確なのは否めない。

また、⑤の椅子等の張り材でも現状では天然皮革か、合成皮革かという2分類にしかな

いため、人工皮革は「合成皮革の一部」と考えるしかない状態になっている。

このように、家庭用品品質表示法において人工皮革は合成皮革の一部として扱われたり、

何らかの定義があっても表示義務が曖昧であったりといったケースが少なくない。こうい

った点はヒアリング調査等でも指摘された問題であり、合成皮革と人工皮革の将来展開を

考える上でも無視できないポイントといえる。

②生産動態統計

経済産業省が作成している生産動態統計では「合成皮革 Synthetic Leather」が「フィル

ム・シート」や「板」などと並んで「紙・印刷・プラスチック製品・ゴム製品統計編」に

含まれる品目として統計対象品目になっているが、人工皮革という集計区分はない。

この統計における合成皮革の分類定義は「塩化ビニル系、ウレタン系、ナイロン系、ア

ミノ酸系などの樹脂被膜と、布、紙などで構成された製品(壁装材を除く)」となっている。

人工皮革の基材が不織布であり、不織布も上記区分定義の「布、紙など」の「など」に含

まれると考えれば、人工皮革は合成皮革統計の内数に含まれることになる。また、上記定

義によって、この分類には本報告書では基本的に調査対象からはずしている、いわゆる「塩

ビレザー」が含まれていることにも留意が必要である。

不織布そのものはプラスチック製品ではなく「繊維・生活用品統計編」で敷物やフェル

トなどと共に集計対象になっているが、同統計では樹脂を含浸させた不織布は集計対象に

なっていないため、上述のように人工皮革はプラスチック・ゴム製品統計の「合成皮革」

の中に合算、つまり「合成皮革+人工皮革+塩ビレザー=合皮」といった考え方で集計され

ている可能性が高い。

実際には統計作成サイドでもこの点についてはやや不明確なのが実情であるが、少なく

とも生産動態統計においては現在のところ合成皮革がプラスチック製品の一つとして位置

付けられ、統計対象品目になっていることは確かである。

③貿易統計

財務省所管の貿易統計においては合成皮革・人工皮革ともにプラスチック製品ではなく

繊維製品の中に位置づけられている。ただ、次頁の表にみるように、その区分定義にもや

12

はり明確とはいいきれない部分がある。

図表Ⅰ-11: 貿易統計品目上の合成皮革・人工皮革の扱い

大分類 中分類 小分類 合 成 皮 革

第 11 類 第 59 類 染み込ませ、塗布し、被

覆し又は積層した紡織

用繊維の織物類及び工

業用の紡織用繊維製品

第 59.03 項(a) 紡織用繊維の織物類で、プラスチックを染み込ませ、

塗布し、被覆し又は積層したもの(1 平方メートルにつ

いての重量を問わず、また当該プラスチックの性状

が密又は多泡性であるものに限る)。(以下除外規定)

紡織用繊維及びその製品

人 工 皮 革

第 56 類 ウォッディング、フェルト、不織

布及び特殊糸並びにひ

も、綱及びケーブル並び

にこれらの製品

第 56.03 項 不織布(染み込ませ、塗布し、被覆し又は積層した

ものであるかないかを問わない。 注として「不織布で、プラスチック又はゴム(性状が密又

は多泡性であるものに限る)を染み込ませ、塗布し、

被覆し又は積層したものを含む」「プラスチック又はゴム

を結合剤として使用した不織布を含む」

出典:財務省貿易統計 輸出統計品目表(2016 年版)から抜粋

まず問題になるのが第 59.03 項(a)にある「織物類」という表現で、この「類」の中に不

織布が入ると解釈すれば人工皮革もここに分類されることになる。しかし、ここでいう「類」

とは「織物+編物」という意味であり、第 59.03 項にはあくまでもテキスタイルまたはニッ

トベースの合成皮革だけが分類されることになる。

人工皮革は基材が不織布であることから、分類上は第 56.03 項ということになり、合成

皮革との合算は避けられている。ただ、この分類の定義は上表にみるように「(樹脂を染み

込ませる等の加工の)あるかないかを問わない」となっている。つまり、プラスチック樹

脂を含浸した不織布はこの分類に含まれるが、含浸していない不織布もまた含まれるとい

うことになる。

従って、この分類には人工皮革も、樹脂の含浸処理がなされていない普通の不織布も併

せてカウントされることになり、結果的に人工皮革だけの輸出入量というのは把握できな

いことになる。

④JIS 規格

合成皮革あるいは人工皮革に関連した JIS 規格としては「JIS K 6505:靴甲用人工皮革

試験方法(昭和 46 年制定)」「JIS K 6601:靴甲用人工皮革(同 47 年制定)」という二つの

規格がある。

後者ではまず靴甲用人工皮革を「高分子物質を繊維層に浸透させ、革の組織構造に準拠

して造られたもので、高分子物質は連続微細多孔構造を持ち、繊維層にランダム三次元立

体構造をもつ靴の甲材料をいう」と定義している。

そのうえで銀面タイプ(同規格内ではスムーズと記載)、スエードタイプ(同ナップと記

13

載)の両者について男子用、女子・子供用と分けて耐屈曲性、耐水度、吸湿度等々、詳細

な試験項目と適合基準数値を定めており、前者でその試験方法が定められている。

ただ、これ以外に人工皮革や合成皮革に関する工業規格は存在しておらず、今のところ

靴の甲という用途に限られた人工皮革のみが JIS 化されているという状態である。

2-2.人工皮革・合成皮革のマーケット動向

前項でも触れたように、合成皮革と人工皮革の位置付けや区別は日本においてもまだ明

確とは言い難い部分があるが、日本以外では両者の区別は事実上ないに等しく、公的な統

計データも存在しない。

本項では先に掲げた合成皮革・人工皮革それぞれの定義に基づき、合成皮革調査会の「合

成皮革統計資料」※1 やヒアリング調査等を元にして数量的な推計を行いつつ、それぞれの

生産動向や需要動向等についてまとめる。

1)合成皮革・人工皮革の生産動向

①世界の合成皮革生産量推定と地域別動向

世界全体の生産量は現在約 6 億㎡弱/年というレベルに達していると推定される。主要生

産国は東アジア(日本、中国、韓国、台湾)と東南アジア(タイ、ベトナム、インドネシ

ア、フィリピン)地域に集中しており、この両地域で世界の合成皮革生産量の 9 割以上を

占めるとみられる。なお、主要国個々の生産量推定値は次項の国別概況で整理している。

次頁の図を見ると一目瞭然だが、合成皮革生産で圧倒的ウェイトを占めるアジアの中で

も中国の生産量は群を抜いており、東南アジアも増加しているのに対し、日本、韓国、台

湾、あるいは欧米などの生産量は減少傾向にある。

ただ、これは中国メーカーの隆盛に対して他国のメーカーが退潮にあるという単純な構

図ではなく、今世紀に入って各国の主要な合成皮革メーカーが生産コストの安い中国や東

南アジアに生産を移し、国内での生産はハイグレード品、高付加価値品に注力するという

動きを強めたことも大きく影響している。

結果的に合成皮革の生産は中国一極集中に近い状態になっているが、ボリュームゾーン

向けの合成皮革は中国生産、少量の高付加価値品は各国生産というスタイルがその背景に

あるといえる。また、次頁グラフにある「その他」地域ではインドやトルコなどにも合成

皮革メーカーが存在している。 ※1同統計はアジア地域中心の整理であり、また、2010 年版が 後になっているため、他地域や近年の推移

についてはヒアリング調査等で補完して推定している。また、合成皮革については同統計の数字を㎡に換

算している。

14

図表Ⅰ-12: 合成皮革の生産量推移推計

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」(合成皮革調査会)、およびヒアリング等を元に弊社推計

合成皮革市場が成熟期にさしかかっているという見方は多く、圧倒的生産量を占める中

国にしても今世紀初めの頃のようなハイペースでの生産増加は今後望みづらいことから、

中期的には多少の上下動を含みながら 6 億~7 億㎡/年のゾーンで推移する展開が予想され

る。

②世界の人工皮革生産量推定と地域別動向

人工皮革の生産量は2015年で3.5億㎡/年程度と推定され、合成皮革と同様に、主要国個々

の生産量や有力メーカー等については後項の国別概況で整理している。

3.5 億㎡/年という生産量は前項でみた合成皮革のおよそ 6 割程度にあたる。ここでも中国

の生産量は群を抜いているが、合成皮革ほど極端な一国集中にはなっておらず、我が国も 1

割程度のシェアを占めている。

合成皮革に比べて人工皮革生産で「中国集中」が起きていない背景には、日本や韓国、

台湾等の生産国にとって人工皮革は、先に触れた「自国内で注力すべき高付加価値品」に

あたるという点がまず大きい。つまり、安いボリュームゾーンの合成皮革はコストの安い

中国や東南アジアで生産し、ハイグレード合成皮革や極細繊維基材の人工皮革など、ハイ

エンド素材は自国で生産するという図式が成り立っているといえる。

同様の構図は欧州や米国についても言えるため、欧米の生産比率も日本、韓国、台湾な

どと同様、合成皮革に比べると高い。

約4.1億㎡

約4.9億㎡

約5.5億㎡

約4.4億㎡

約5.1億㎡

約5.8億㎡

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

2002 04 06 08 10 15

(万㎡)

(年)

その他

欧州

北米

東南アジア

台湾

韓国

中国

日本

15

図表Ⅰ-13: 人工皮革の生産量推移推計

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」(合成皮革調査会)、およびヒアリング等を元に弊社推計

ただ、人工皮革生産の場合、基材は海外から輸入して自国で樹脂を含浸させて製品化と

いうケースがかなりあることも指摘しておく必要がある。基材から樹脂含浸加工、仕上げ

まで一社だけで対応できる企業はさほど多くない。

我が国の人工皮革メーカーは 4 社とも繊維系大手メーカーがそろっており、それぞれ独

自の技術で極細繊維を使った不織布基材を作ることができ、そういう意味での技術的アド

バンテージは持っているということができよう。

2)合成皮革・人工皮革の用途展開動向

①合成皮革の用途別ウェイト

合成皮革の用途は靴や鞄、衣料などの消費財から車や家具などまで多岐にわたるが、こ

こでは①靴・サンダル ②衣料 ③自動車 ④家具・インテリア ⑤鞄その他という 5 つ

の用途分類設定でそのウェイトを推定した。

ただ、合成皮革や人工皮革では世界的に見た用途ウェイトと国内のそれとはかなり差が

あるとみられることから、次頁の図では世界市場と日本市場とに分けてその用途別ウェイ

トを示している。

世界トータルで考えれば合成皮革の 大の用途は靴であり、生産量の 5 割~6 割程度が靴

やサンダル等の履物用で占められるとみられる。特に新興国などでは合成皮革製の靴が「高

い天然皮革の靴を履くほど豊かでない人々が求める安い擬似革靴」といった性格の膨大な

需要で支えられている面があるのは確かであり、今後も比較的低グレードの合成皮革が大

約1.6億㎡

約2.4億㎡

約3.1億㎡

約2.8億㎡

約3.1億㎡

約3.5億㎡

0

10,000

20,000

30,000

40,000

2002 04 06 08 10 15

欧州

北米

東南アジア

台湾

韓国

中国

日本

16

量に靴に用いられる傾向は続くとみられる。

靴以外の用途では鞄用、自動車用、家具用、衣料用などがそれほど大きな偏りなく存在

しているとみられるが、靴などと違って合皮製レザーウエアなどの需要がある地域はある

程度限られるため、相対的に衣料用ウェイトは低くなる。

これに対し、日本の合成皮革市場の用途別ウェイトでは靴の比率が大きく減り、その分

自動車用が増えている。日本はカーメーカー自体も多く、車の内装材やシート材に採用さ

れた場合の量産規模も大きいことがこういった数字につながっている。ただ、日本では「合

成皮革のみ」で作られたカーシートというのは少なく、肌に接する部分は天然皮革+側面や

背面などは合成皮革といった形の組み合わせが多い。こういった「天然皮革+合成皮革の組

み合わせ」は高級レザー家具などにおいても同様に見られる。

図表Ⅰ-14: 合成皮革の用途別ウェイト推定

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」(合成皮革調査会)、ヒアリング等を元に弊社推定 注)図Ⅰ-14 からⅠ-16 までは便宜上円グラフを用いているが、用途ウェイトの推定値には多少の幅が あるため、合計数値が 100 にならない

②人工皮革のタイプ別・用途別ウェイト

人工皮革の場合、まず銀面タイプとスエードタイプが占める生産ウェイトについて触れ

る必要がある。

全世界の人工皮革生産量では圧倒的に銀面タイプの方が多く、次頁の図でみるように全

体の 8~9 割は銀面タイプで占められるとみられる。ところが我が国の生産量だけに限って

いえば銀面タイプとスエードタイプの生産量は年によってどちらかが若干多いといった変

動はあるものの、おおむね半々の比率であると考えられる。

銀面タイプとスエードタイプとでは用途展開にかなり違いがある。全体推定は次頁の図

60~65%

約5%

15~20%

10%弱

10%弱

世界市場の用途別ウェイト推定

靴・サンダル

衣料

自動車

家具・インテリア

鞄その他

25~30%

10%弱

30~35%

約20%

10%強

日本市場の用途別ウェイト推定

17

に示す通りだが、特に差が大きいのが靴用のウェイトである。銀面タイプの場合は靴用が

も多いのに対し、スエードタイプでは 10~15%とさほど高くはない。

逆に車用の比率はスエードタイプが高い。使用面積の広いカーシートでスエードタイプ

が採用されるケースがあり、シート用のウェイト増に寄与している。一方、銀面タイプの

場合、カーシートでは上述のように「天然皮革+合成皮革の組み合わせ」というスタイルが

多いこともあり、内装やシフトノブのカバーなど、シート以外の部分での使用が多くなり、

量的にも靴用ほどのボリュームには達していない。

図表Ⅰ-15: 人工皮革のタイプ別生産ウェイトとタイプ別国内用途推定

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」(合成皮革調査会)、ヒアリング等を元に弊社推定

また、銀面タイプでは家具と衣料をあわせてもその比率は 1 割程度とみられ、逆にラン

ドセルなどの鞄、さらにサッカー等の球技用ボールなどの鞄・スポーツ分野が銀面タイプ

約50%約50%

国産人工皮革タイプ別ウェイト推定

85~90%

10~15%

世界トータルのタイプ別ウェイト推定

銀面

スエード

55~60%

約15%

約5~10%

20~25%

国産銀面タイプ用途別ウェイト

自動車

家具・衣料

鞄・スポーツ

約10~15%

約10%

約40~45%

約20%

約15%

国産スエードタイプ用途別ウェイト

衣料

自動車

家具・インテリア

鞄その他

18

の重要な用途先として挙げられる。

一方、スエードタイプは銀面タイプのような球技用ボールといった用途はありえないが、

衣料分野や家具・インテリアのほか、さらに AV 機械の一部に使われるといった産業用用途

もあり、特定用途への偏りの度合いは銀面タイプほど顕著ではない。

上の図でも示すように、我が国では銀面タイプとスエードタイプはほぼ半々の生産量で

あるが、世界的には銀面タイプの人工皮革の方が圧倒的に多い。従って、世界の人工皮革

全体での用途ウェイトを考えれば、必然的に我が国の銀面タイプのそれに近いものになる。

図表Ⅰ-16: 人工皮革の世界全体での用途動向

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」(合成皮革調査会)、 ヒアリング等を元に弊社推定

3)合成皮革・人工皮革の技術動向

①合成皮革

合成皮革は通常、製造方法で乾式と湿式に分けられる。大型の水槽や長い乾燥工程が必

要な湿式の方が製造プロセスとしては複雑でコストも高くなりやすいが、ポリウレタンの

発泡層が作られるために柔らかい風合いの素材が得られる。一方、乾式は触感としてはや

や硬くなるが摩耗に強く、コストも安い。

現在、合成皮革業界では乾式で作った素材で湿式と同じような柔らかさや風合いを実現

することが一つの目標になっているが、さらに製造プロセスで溶剤をあまり(あるいは全

く)使わない、水を大量消費しないといったエコロジー的な側面も差別化ポイントの一つ

になっている。

約75%

3~4%

約10%

約5%

6~7%

世界市場の用途別ウェイト推定

衣料

自動車

家具・インテリア

鞄その他

銀面タイプが大部分を占める

世界全体の人工皮革市場では日

本以上に靴用途のウェイトが高

いとみられ、全体の 7~8 割程度

が靴用と考えられる。

履物は全ての人が必要とする

ものであり、そういう意味では合

成皮革においても人工皮革にお

いても靴用という用途は人口の

多い新興国や自動車普及度の低

い途上国等でも確実な需要を形

成しているといえよう。

19

②人工皮革

人工皮革の場合、まず基材となる不織布を構成する繊維の細さが重要になる。人工皮革

の定義として比較的よく用いられるのが「基材が織物・編物で、樹脂を塗布したもの=合

成皮革」「基材が不織布で、樹脂を含浸させたもの=人工皮革」という区分である。つまり、

基材がテキスタイルかニットであれば合成皮革、不織布であれば人工皮革という区分けの

考え方であり、ここでは不織布繊維の直径は条件にされていない。p12 で触れた靴甲用人工

皮革の JIS 規格なども繊維の細さについては特に定めはなく、本調査のアンケート調査等

もこの区分に基づいた質問を入れている。

だが、日本においては人工皮革の基材は極細繊維(マイクロファイバー)の不織布であ

るのが今や普通になっている。どの細さからを極細繊維とするかについて公的な基準はな

いが、少なくとも絹の繊維(2~3 デニール)などより大幅に細い 0.3 デニール程度より細

い繊維を指すことが多い。

現在、日本で作られる人工皮革の大半はこの極細繊維基材を使ったものであり、“非極細

繊維”のウェイトは年々減って現在では1割を切っていると推定される。韓国や台湾も日

本ほどではないが、やはり“非極細繊維”基材の人工皮革生産ウェイトは 2~3 割程度で、

極細繊維製が圧倒的に多い。

だが、生産量で圧倒的シェアを持つ中国では極細繊維製人工皮革はまだ 4~5 割程度であ

り、東南アジア製となると、そのほとんどが“非極細”ベースであるとみられる。

図表Ⅰ-17: 人工皮革基材の極細繊維ウェイトの概念図

出典:「合成皮革統計資料 2010 年版」等を元に弊社が現在のおおまかな比率を推定

極細繊維基材の人工皮革は稠密な繊維層を持つことから触感や風合いに優れ、高級衣料

や高級靴などでニーズがあるが、コストも高くなる。一方、“非極細”不織布の人工皮革は

製造コストも安く、普及品の靴などの素材として用いられる。

従って、不織布繊維の細さの違いはそのまま人工皮革のグレードにほぼ直結していると

0% 25% 50% 75% 100%

東南アジア

中国

韓国・台湾

日本

極細繊維

非極細繊維

20

言ってよく、極細繊維使用比率が圧倒的に高い日本は人工皮革の技術力という点でもアド

バンテージがあるといえる。

日本製の人工皮革は海外でも高級車のシート素材や球技の公式球などに使用されており、

ハイグレード素材としてのブランドイメージもかなり形成されている。今後日本の人工皮

革が“非極細”を使った普及タイプに戻ることは考えられず、マイクロファイバー製不織

布基材という技術をベースとしながら、たとえば天然皮革タンナーとのジョイントや銀面

とスエードの中間タイプ素材の開発といったような、新しい取り組み、新しい用途開拓を

続けていくという展開が予想される。

21

3.主要国別皮革産業概況整理

本項では下記に掲げる 10 ヶ国+日本の 11 ヶ国について、各国の皮革産業の概況について

各種統計資料等を元に整理している。本調査の主旨を踏まえ、天然皮革だけではなく統計

データがほとんど存在しない人工皮革や合成皮革についても可能な限り情報収集・整理を

行った。データの出所や整理方法は下記に示した通りである。

対象国(一部略称):

①中国 ②韓国 ③台湾 ④バングラデシュ ⑤カンボジア ⑥ミャンマー ⑦米国

⑧フランス ⑨ドイツ ⑩イタリア ⑪日本

データ出所、整理方法等

1)項目①~⑥についてはFAO(国連食糧農業機関)の「World Statistical Compendium for

Raw Hides and Skins, and Leather Footwear 1998-2014」のデータに基づいている。

FAO統計でデータの存在しない国や項目については部分的に当該国の独自統計等で補填

した部分もあり、それについては注で説明している。

2)また、項目①~⑥についてはある程度長期的推移を見るため、統計 新年次からさかの

ぼって4年ごとの数字を整理している。

3)項目⑦の事業所数についてはUNIDO(国連工業開発機構)の「International Yearbook

of Industrial Statistics 2015」をベースにしている。業種分類についてはISIC(国際標準

産業分類)のLeather, leather products and footwear(皮革、皮革製品と靴)の下にある

三つの業種であるTanning and dressing of leather(原稿では「革なめし」と省略)、

Luggage,handbags,etc;saddlery & harness(同「鞄・バッグ」と省略)、Footwear(同

「靴」と省略)の3業種を対象としている。

また、2015年版にデータがない国については2014年版データを記載したケースもある

ため、年度に若干バラつきがあるが、項目①~⑥と同様に4年ごとのデータを記載してい

る。また、統計データそのものがない国については部分的に当該国の独自統計や資料等を

活用し、そのことを注で説明している。

4)項目⑧の合成皮革・人工皮革の生産量等については合成皮革調査会の「合成皮革統計資

料 2010 年版」の数値を 3 年間隔で記載しているが、同資料は 2010 年版が 後になった

ため、2015 年数値はヒアリング調査等を参考にしながら東レ経営研究所が推計している。

また、項目⑨の有力メーカーについても東アジア地域の国に関しては同資料をベースにヒ

アリングで情報を補完して整理している。

なお、合成皮革調査会の統計資料では生産量等の数字が業界慣習に従って合成皮革に

ついては 92cm 幅換算の長さ(m)で、人工皮革は面積(㎡)で表されている。しかし本

報告書では混乱を避けるために合成皮革の生産量数値をすべて㎡に換算しなおして記載

している。

22

国 名 単位 中 国(中華人民共和国)

① 牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値) 711.4 756.4 740.2

②牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

223.4 994.4 153.2 1,041.8 79.8 1,075.1 ③牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 2,489.1 2,518.0 2,463.0

④牛革 輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸出 輸入 輸出

5,896.7 9,136.8 764.6 3,028.1 939.7 3343.7 ⑤革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 2,010.0 1,948.4 1853.7

⑥靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸出 輸入 輸出

1,577.2 352.6 1,131.5 204.9 929.9 164.4 ⑦皮革関連 事業所数

単位:件 2009 年 2010 年 2011 年 革なめし 844 881 729 鞄・バッグ 2,314 2,370 1,437

靴 5,624 5,897 3,994

⑧人工・合成皮革 生産状況

中国の合成皮革・人工皮革生産量は今世紀に入って急速に増加しており、途中

リーマンショック等で若干の停滞はあったものの、生産量という点では合成皮革

でも人工皮革でもすでに我が国を大きく凌駕している。合成皮革の生産量は

2010 年時点で 4 億㎡強、人工皮革で 1.6 億㎡強であったが、現在ではさらに 2割程度は増加していると考えられる。

単位:万㎡ 2004 年 2007 年 2010 年 2015 年推定 合成皮革 39,800 43,800 41,460 47,000~50,000 人工皮革 9,200 16,000 16,500 18,000~22,000

2004~2010 年は合成皮革調査会「’10 合成皮革統計資料」データ、ただし合成皮革は㎡換算値、2015

年は東レ経営研究所推定

合成皮革では中国の圧倒的生産量とコストの安さで特に低グレード品では世

界的にも普及しているが、高級グレード品ではまだ日本などの国との品質差は少

なくない。人工皮革でも生産量だけ見れば日本より圧倒的に多いが、普通繊維の

不織布を使った低~中級グレード品が多く、極細繊維を用いた高グレード品のマ

ーケットではまだ日本製などの優位性がある。 ⑨人工・合成皮革 有力メーカー

合成皮革・人工皮革のメーカーは数百というレベルで存在し、その規模・技術

レベルも様々だが、有力企業の例として下記のようなメーカーがある。 ・温州人造革有限公司(Wenzhou Artificial Leather Co., Ltd) ・佛山市高明威仕达塑料有限公司(Foshan Gaoming Wise Star Plastic Co.,Ltd)・昆山协孚人造皮有限公司(Kunshan Xiefu Artificial Leather Co., Ltd) これらのメーカーは単独企業というより、関連会社と企業グループを形成して

いる場合が多い。

23

国 名 単位 韓 国(大韓民国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値)

11.8 14.1 20.0 牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

0.5 181.7 2.4 174.4 2.0 140.3 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 1,220.1 1,187.9 1,103.2

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

597.9 558.0 228.2 117.3 331.1 184.4 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 75.6 72.6 70.6

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

9.6 21.8 1.9 14.7 2.8 24.1 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2008 年 2009 年 2011 年 革なめし 115 107 113 鞄・バッグ 103 103 137

靴 520 516 524

人工・合成皮革 生産状況

合成皮革・人工皮革ともに圧倒的生産量で世界トップシェアを占める中国とい

う構図の中で、韓国は我が国や台湾と共に中国からだいぶ離されたところで「2

位グループ」を形成しているといえ、2010 年の人工皮革の生産量では我が国よ

り若干すくなく台湾より若干多いが、合成皮革では日本や台湾よりやや少ないと

みられる。

傾向としては日本、あるいは次頁でみる台湾などと同様、低~中グレード品市

場での中国とコスト競争は避け、合成皮革なら中~高級グレード品、人工皮革で

も極細繊維製の高級ゾーンを狙う方向性が強まっており、その意味では我が国や

台湾企業とのバッティング局面が今後さらに増える可能性が高い。

単位:万㎡ 2004 年 2007 年 2010 年 2015 年推定 合成皮革 2,581.7 1,286.8 707 500~700 人工皮革 3,126 3,350 2,870 2,700

2004~2010 年は合成皮革調査会「’10 合成皮革統計資料」データ、ただし合成皮革は㎡換算値、2015

年は東レ経営研究所推定

人工・合成皮革 有力メーカー

徳成、大元化成、伯産、大宇インターナショナルの 4 社は銀面、スエード両タ

イプの人工皮革製造能力があるが、どのメーカーもウェイトとしては銀面タイプ

の方が圧倒的に大きい。スエードタイプに限っては KOLON というメーカーが生

産量トップの位置にある。

24

国 名 単位 台 湾(中華民国)

牛原皮・中間

品輸入量※1

(千トン)

原皮、ウェットブルー、スプリ

ットレザー等含む輸入量 2013 年 2014 年

132.5

関連産業 生産総額※2

(百万 NT$) 2001 年 2006 年 2011 年 革 な め し 19,260 25,929 22,018 鞄・バッグ 6,414 5,557 6,175

靴 25,051 29,182 30,641 そ の 他 製 品 2,534 3,271 2,845

同上 従業員数※2

人 2001 年 2006 年 2011 年 革 な め し 7,783 6,778 5,359 鞄・バッグ 4,255 3,569 3,767

靴 18,746 18,040 15,879 そ の 他 製 品 1,929 1,590 1,398

同上 事業所数※2

件 2001 年 2006 年 2011 年 革なめし 229 224 199 鞄・バッグ 310 337 341

靴 1,298 1,087 1,077 そ の 他 製 品 220 171 151

人工・合成皮革 生産状況

上表に見るように台湾の皮革産業は天然皮革に関してはや生産額、従業員数、

事業所数等のデータがすべて長期的減少傾向にあることを示しており、天然皮革

関連産業は我が国同様厳しい状況にあることが伺える。

一方、合成皮革・人工皮革については中国、日本、韓国と並んで「東アジア 4

強」の一角を形成しており、特に人工皮革の国別生産量では世界第 4 位のシェア

を占めるとみられる。

単位:万㎡ 2004 年 2007 年 2010 年 2015 年推定 合成皮革 3,749.2 1,150 937.6 800~1,000 人工皮革 2,930 2,880 2,540 2,400~2,600

2004~2010 年は合成皮革調査会「’10 合成皮革統計資料」データ、ただし合成皮革は㎡換算値、2015

年は東レ経営研究所推定

だが、合成皮革については生産量も減少傾向が続いており、低~中級の合成皮

革では中国と勝負せず、高付加価値の人工皮革に注力している状況にある。

人工・合成皮革 有力メーカー

三芳化学工業(San Fang Chemical Industry Co., Ltd)と南亜塑膠工業(Nan

Ya Plastic Corporation)が二大メーカーといえ、さらに大洋塑膠工業(Ocean

Plastic Co., Ltd)などの中堅メーカーにも合成皮革・人工皮革の両方を手掛ける

企業がある。また、合成皮革のみを作っている中規模メーカーも 10 社前後存在

している。とみられる。

※1:FAO データでは台湾がデータ集計対象になっていないため、ここでは Taiwanese International Leather

Association 資料の数字を記載。ただし、同数値はウェットブルーやスプリット等の半加工品も含んでいるため、

ここでは「牛原皮・中間品輸入量」として記載した。

※2:生産総額、従業員数、事業所数データは各年の行業別統計表データ(行政院主計總處)による。

25

国 名 単位 バングラデシュ(バングラデシュ人民共和国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値)

32.4 33.2 34.5 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 165.0 130.9 100.8

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

151.1 2.6 107.9 15.9 150.0 83.0 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 10.8 10.4 7.8

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

8.4 0.2 7.0 0.3 6.3 1.0 皮革関連産業 事業所数 (単位:件)

2006 年 2011 年 革なめし 202 199 鞄・バッグ 81 84

靴 ― 647

人工・合成皮革 生産状況

次項でも触れているように、バングラデシュ国内には合成皮革等を使う靴メー

カー等は数多いが、合成皮革素材そのものを生産しているメーカーは存在しない

とみられる。従って、

皮革産業 概況

皮革製品はバングラデシュにとって重要な輸出製品の一つであり、80 年代は

既製服輸出に次いで輸出額シェアで第二位を占めていた。現在、輸出額のシェア

では落ちているものの、皮革産業の重要な位置づけに変化はない。

原皮はタイなどの近隣国から輸入というケースが多いが、国内にタンナーは多

く、なめし革の国内調達は比較的容易である。また、合成皮革や帆布等が必要に

なった場合は主に中国からの輸入で賄うケースがほとんどである。近年は安い人

件費を武器に海外企業から安い靴の製造を受託し、再び輸出するという商流が形

成されており、日本向けも増加傾向にある。

ただ、靴の製造品質レベルは未だ高いとは言えず、輸出用靴のメーカーでも新

製品切り替え時などには不良率が 1 割を超えるケースもあるとされる。ただ、近

年は技術レベルも向上しつつあり、今後は徐々に中級品クラスの受託生産も増え

ていくことが考えられる。

有力メーカー バングラデシュタンナー協会(Bangladesh Tanners Association)の正会員企

業は 141。靴・皮革製品輸出協会の加盟企業は 109 社である。靴メーカーでは

Leatharex Footwear、ABC Footwear などの地場メーカーもあるが、大手とし

てはイタリアや日本などの外資共同出資で作られ、従業員 9,000 人、年間売上 150

万ドルの規模を持つ Apex Footwear などが代表的といえる。

注)FAO 統計ではバングラデシュの牛原皮輸出入量がなかったため、上表では省略している

26

国 名 単位 カンボジア(カンボジア王国)

牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

0.7 ― 0.8 ― 1.5 ― 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 3.5 4.8 9.5

皮革産業 概況

国内の原皮生産は少量、タンナーもほとんどないとみられ、皮革産業商流の中

では人件費の安さを生かして靴製造・輸出など下流部門特化している。

靴メーカーでは従業員数 1,000 人超、年間生産量 100 万足超の企業が 10 社前

後存在しているが、その多くは台湾や香港、中国等の外国資本で設立された輸出

用靴メーカーであり、日本向けもかなりのウェイトにのぼる。ただ、天然皮革で

も合成皮革でも国内調達は困難であり、中国や台湾、ベトナム等からの材料輸入

が欠かせない。

有力メーカー 台湾資本では Ming Da Footwear Industry、New Style Shoes、Chian Hway

Shoes などが大きな工場を有しており、その他に香港資本の Shoe Premier、中

国資本の Huey Chuen などのメーカーがある。

注)FAO、UNIDO の両統計でカンボジアは多くの集計項目データがないため、上表では省略している

国 名 単位 ミャンマー(ミャンマー連邦共和国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(速報値)

10.2 20.3 24.1 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年

20.0 25.1 31.9 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 5.8 5.7 5.6

皮革産業 概況

さほど多くはないが国産原皮もあり、タンナーもバングラデシュほどではない

もののある程度存在している。ただ、国内タンナーは革鞣しでも比較的初期段階

の工程を担当するケースが多く、ウェットブルー程度の加工で輸出し、相手国で

再鞣しや仕上げを行うというパターンが多い。こういった粗鞣し皮革の輸出量が

年間約 1 万 t 弱、金額で 3 百万ドル強という業界推定もある。

皮革製品製造分野は比較的弱く、靴メーカーでも台湾や韓国資本による現地製

造会社が多く、地場の有力メーカーといえるものは見当たらない。もちろん、国

内に人工皮革や合成皮革のメーカーはなく、次項に記載した国内靴メーカーも材

料はその大半が中国等からの輸入に頼る。

有力メーカー 台湾系資本の De Tai Wi 社、韓国系資本が入った Inlay Shoe Manufacturing

社が 1,000 人超の従業員を抱えるメーカーであり、これ以外に従業員 500 人前後

のメーカーも数社あるが、やはり韓国系資本によるものが多い。

注)ミャンマーも FAO や UNIDO 統計でデータのない項目が多いため、上表では省略している

27

国 名 単位 米 国(アメリカ合衆国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値) 846.3 883.1 778.0

牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

665.2 50.6 626.5 32.0 754.6 56.3 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 580.0 585.2 576.6

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

625.3 498.9 235.2 123.9 633.3 192.7 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 71.6 81.1 89.2

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2006 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

13.9 904.8 17.1 612.1 24,6 599.0 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2008 年 2009 年 2010 年 革なめし 234 220 210 鞄・バッグ 422 388 391

靴 252 234 222

皮革産業概況 人工・合成皮革 生産状況

牛原皮や牛革の生産量ともに世界でも上位にあり、天然皮革では生産国という

点でもマーケットという点でも世界有数の位置を保っている。ただ、靴などの皮

革製品の製造ではスポーツシューズ等の分野では有名企業も多いが、一般的な革

靴では輸入依存度が高い。

合成皮革については中国などからの輸入依存傾向が高い。また、クラレや東レ

など海外メーカーの米国法人が現地生産や販売にあたるケースも多いため、人工

皮革のメーカーもあまり多くない。

人工・合成皮革 有力メーカー

米国の人工皮革メーカーとしては Majilite Corp.が挙げられる。Majilite は

Meridian Industries のグループ企業であり、極細繊維を使ったハイグレード人

工皮革を生産している。基材はナイロン・ポリエステル両方を使うことができ、

銀面タイプ、スエードタイプの両方を扱っている。ノバスエード(novasuede)

は同社のスエードタイプの人工皮革ブランド名として知られている。

Majilite 以外のメーカーでは、さらに不織布基材の人工皮革を生産している

Mississippi Polymers, Inc.があり、Ultratexhyde などのブランドで販売してい

るほか、塩ビレザーなども扱っている。

その他のメーカーの例としては合成皮革のほかに人工毛皮なども製造してい

る Novatex International、塩ビレザーを扱っている Sommers Plastic Products

などが挙げられる。

28

国 名 単位 フランス(フランス共和国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値) 122.4 122.1 116.2

牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

142.7 17.9 111.0 19.6 131.3 16.8 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 112.5 110.5 114.3

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

100.5 110.7 57.6 84.2 99.1 88.4 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 57.0 55.1 53.9

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

23.0 126.4 20.7 109.3 23.2 106.7 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2009 年 2010 年 2011 年 革なめし 130 120 112 鞄・バッグ 1,293 1,532 1,561

靴 333 363 376

皮革産業概況 人工・合成皮革 生産状況

フランスの天然皮革業界は羊革の扱いが多いのが特徴であり、なめし革出荷量

の 6 割強はシープスキンによって占められ、なめし革の輸出でも牛革と羊革がほ

ぼ同じウェイトを占める。中小のタンナーでは倒産や廃業というケースも多く、

大手タンナーへの集約化が進んでいる。なめし革の半分以上は国内向けだが、輸

出も一定量を保っており、 も多いイタリア向けの他にチュニジアやモロッコな

ど旧植民地向けの輸出も少なくない。

また、動物愛護にからんだ皮革産業への逆風が目立つのもフランスの特徴で

あり、 近では米国の動物愛護団体がエルメス社の一株株主となり、同社のワニ

革製品に対する反対活動を展開するといった例もあるが、牛や羊の皮革に関して

は爬虫類皮革や毛皮に対するほどの反対運動は少ない。

一方、人工皮革や合成皮革分野では素材メーカーという点では目立つ企業は存

在せず、安価な合成皮革であれば中国等から、人工皮革もイタリアやスペイン、

ドイツ、オランダ等の近隣国からの材料調達が多いとみられる。

人工・合成皮革 有力メーカー

合成皮革や人工皮革を使う製品メーカーではやはりルイ・ヴィトンやエルメス

等の高級バッグメーカーが知られており、ルイ・ヴィトン製バッグの一部に塩ビ

レザー(ベースはエジプト綿)が使われているのは有名だが、こういった動きの

背景には上述の動物愛護思想に対する配慮も影響しているとみられる。

革靴ではオーベルシーやベルルッティ、コルテ等のブランドが有名であるが、

これらの革靴メーカーで合成皮革や人工皮革の扱いはほとんどない。

29

国 名 単位 ドイツ(ドイツ連邦共和国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値) 107.7 107.6 102.4

牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

137.8 84.2 152.6 100.7 153.5 104.2 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 228.1 212.0 171.0

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

216.4 195.3 209.8 231.6 256.8 274.4 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 45.1 42.8 40.9

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

58.2 193.5 62.2 131.0 76.0 147.6 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2010 年 2011 年 2012 年 革なめし 116 85 91 鞄・バッグ 621 669 621

靴 337 398 362

皮革産業概況 人工・合成皮革 生産状況

天然皮革産業は古くから盛んであり、今日でも高級革財布の Goldpfeil、高

級革小物の BREE などのブランドが知られているが、靴ではイタリアやフ

ランスのような高級靴ブランドは少なく、足にフィットする健康的な履き心

地を売りにしたコンフォートシューズメーカーの Finn Comfort、やはり足へ

のフィット感を訴求した革サンダルやカジュアルシューズ等を展開する

Birkenstock など、高級感よりも履きやすさを追求した靴メーカーが目立つ。

ドイツの場合、革なめしや靴職人は伝統的なマイスター制度の風土が残って

いるため、小規模な工房スタイルのメーカーも数多い。

人工皮革や合成皮革の素材に関しては東アジアエリアから調達するケース

が多いとみられるが、ドイツ国内にもいくつか合成皮革メーカーは存在して

いる。

人工・合成皮革 有力メーカー

自動車用から靴・バッグ用、インテリア用など各種合成皮革を幅広く扱い、欧

州主要国に販売代理店網を持つ Vowalon Beschichtung 社、本革と合成皮革の両

方を扱う ATN 社、さらにポリウレタンとポリアミドの混合樹脂を中心に合成皮

革を作る Novocor 社などのメーカーがある。輸出比率もかなり高く、上述の

Vowalon Beschichtung 社の場合は生産高の 4 割ほどが国外輸出である。

また、Novocor 社では日本メーカーから供給された基材や合成皮革をさらに自

社加工して販売しているケースが多いとみられるが、日本側パートナー企業名は

不明である。

30

国 名 単位 イタリア(イタリア共和国)

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値) 116.7 110.0 104.7

牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

98.5 331.6 116.3 227.8 152.1 454.4 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 1749.6 1243.0 1047.1

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

2,000.0 937.0 1,658.6 988.5 1,611.2 1,198.6 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 260.5 241.4 225.4

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

165.8 138.9 123.3 118.9 133.2 119.2 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2009 年 2010 年 2011 年 革なめし 2,011 1,949 1,949 鞄・バッグ 5,069 4,818 5,029

靴 9,025 8,572 8,715

皮革産業概況 人工・合成皮革 生産状況

古くから高質な天然皮革および皮革製品の産地国として知られており、北部ト

スカーナ州にはグッチやプラダ、フェラガモなど世界的高級ブランドの本社が集

まる。タンナーの事業所数も欧州の中では欧州主要国の中では多く、Motta

Alfredo 社など世界的に有名なタンナーも少なくない。イタリア国内で生産され

るなめし革のうち、国内消費は 1/3~1/4 程度とみられ、残りは高級革素材として

輸出されるが、輸出先としては EU 域内国、さらに中国向けウェイトも高い。

ただ、近年の良質原皮の不足はイタリアの皮革産業にとっても大きな問題にな

っており、日本の人工皮革メーカーがイタリアのタンナーで仕上げなめし処理し

たものを天然皮革代替素材として高級バッグメーカーに売り込むといった動き

も現れている。

人工・合成皮革 有力メーカー

人工皮革では東レ系列の Alcantara 社がスエード系人工皮革で確固たるブラ

ンドを築いている。同社のように基材から欧州で一貫して人工皮革を製造してい

るメーカーはイタリア国内にはほとんどなく、欧州全体見渡しても数少ないとみ

られる。Alcantara 以外のメーカーとしては Coronet 社、Fiscatech 社、Sisa 社

などいくつかのメーカーがある。これらメーカーの多くが靴やレザーウエアなど

のファッション向けを主にしているのに対し、Alcantara 社は自動車用で成功し

ている。

また、イタリア国内の合成・人工皮革メーカーには「エコ」や「アニマルフリ

ー」といった点をアピールしている企業もあり、動物愛護運動の強い欧州におけ

る“非天然皮革”メーカーの立ち位置を示唆しているといえよう。

31

国 名 単位 日 本

牛原皮生産量

塩漬湿重量

(千トン) 2006 年 2010 年 2014 年(暫定値)

36.5 36.6 34.7 牛原皮 輸出入量

塩漬湿重量

(千トン)

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入

8.7 47.3 18.1 26.4 13.6 25.5 牛革生産量 百万

平方フィート 2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 202.0 170.0 128.3

牛革輸出入量

百万

平方フィート

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸出 輸入 輸出

42.3 46.7 27.9 27.3 26.7 35.0 革靴生産量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年(暫定値) 29.3 27.8 26.6

靴輸出入量 (全タイプ計)

百万足

2005 年 2009 年 2013 年 輸出 輸入 輸出 輸出 輸入 輸出

0.4 58.9 0.2 29.9 0.2 48.2 皮革関連産業 事業所数

単位:件 2008 年 2009 年 2010 年 革なめし 263 240 216 鞄・バッグ 1,125 938 839

靴 1,226 1,053 944

トン

2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 44,232 53,483 51,068 51,154 50,146 53,058

人工・合成皮革 生産状況

我が国の合成皮革、人工皮革の生産量推移は下表の通りであり、2004 年から 3年間隔でみても微減傾向にあるといえる。2011 年の震災~2012 年頃にかけては

2010 年の生産レベルよりさらに少なくなったとみられるが、その後の景気持ち

直しもあり、人工皮革の方はやや回復したと考えられる。

単位:万㎡ 2004 年 2007 年 2010 年 2015 年推定 合成皮革 2,538.7 2,410.2 2,135.6 1,800~2,200 人工皮革 3,685.7 3,456.2 2,916.7 3,000~3,400

2004~2010 年は合成皮革調査会「’10 合成皮革統計資料」データ、ただし合成皮革は㎡換算値、2015

年は東レ経営研究所推定 ただ、合成皮革については韓国や台湾などと同じように、長期的な減少傾向が

続いているとみられる。やはり中国の安価な合皮が出回っているということが大

きく、靴やバッグの低グレード品であれば中国からの輸入で賄う、あるいは海外

メーカーに安く委託生産させ、材料はやはり中国製合成皮革を輸入するといった

形態が増えたことが国内生産の長期漸減傾向に結びついていると考えられる。

人工・合成皮革 有力メーカー

人工皮革は大手繊維メーカー4 社で占められ銀面タイプでクラレ(クラリーノ

等)と帝人コードレ(コードレ)、スエードタイプでは東レ(ウルトラスエード)

と旭化成せんい(ラムース)がある。 合成皮革では国内主要メーカーだけで 10 社程度になり、東洋クロス、共和レ

ザー、第一化成、アキレス、加平、小松精練等がシェア上位である。

32

第Ⅱ章.消費者アンケート調査結果

1. 調査概要

●調査目的:一般消費者の皮革製品購入時の行動や意識、皮革製品・素材に対するイメ

ージ等の検証

●調査方法:WEB アンケート調査

●調査期間:平成 27 年 10 月 13 日~10 月 14 日

●調査対象:ネット調査会社が持つ WEB 調査登録モニターのうち、20 歳以上の男女で、

直近 1 年以内に価格 1,000 円以上の皮革製品を購入した経験がある消費者

●抽出/調査方法:

モニター登録者に対し、2 段階の WEB アンケート調査回答依頼・調査画面の URL を電

子メールで配信した。

初段階にスクリーニング(以下 SC)調査を実施し、性別や年齢などのデモグラフィック

情報と、直近 1 年以内に価格 1,000 円以上の皮革製品を購入した経験の有無を聴取。それ

らの回答から 20 歳以上で、しかも 1,000 円以上の皮革製品を 近 1 年以内に購入したこと

があると回答した者を次段階の本調査の対象者とした。

上記 SC 調査で抽出した対象者に対して、SC 調査回答直後に本調査回答を依頼した。本

調査の回答者は性別・年代 10 歳刻み別(60 歳以上からは 1 セグメント)の計 10 セグメン

トに分類し、各セグメントでサンプルサイズ(以下 ss)が 300ss、総計 3,000ss となるよう

回答データの回収を続けた。

●回答者内訳(性別・年齢別構成)

男性 女性

20~29 歳 300 300

30~39 歳 300 300

40~49 歳 300 300

50~59 歳 300 300

60 歳以上 300 300

合計(3,000) 1,500 1,500

33

2. 調査結果

≪直近 1年以内に購入した価格 1,000 円以上の皮革製品に関する質問≫

Q1 から Q6 までは、 近 1 年の間に購入した 1,000 円以上の皮革製品のうち、「 も価格

の高かった皮革製品」を特定し、その特定の皮革製品の購入に際しての購入行動や意識を

質問している。

1)購入した皮革製品の種類と購入数について

あなたが 近 1 年の間に購入された皮革製品についてお聞きします。

Q1. 購入された皮革製品(価格 1,000 円以上のもの、中古品を除く)のカテゴリーと

購入点数をお答えください。(SA)※

直近 1 年以内に購入した価格 1,000 円以上の皮革製品の購入個数(1 つ、2 つ、3 つ以上、

購入していない)を聴取したところ、「購入していない」を除いて、衣料以外の製品カテゴ

リーで「1 つ」と回答される割合が も高かった。衣料では「3 つ以上」と回答された割合

が 20.6%で も高く、靴や鞄、家具等とやや異なる傾向を見せている。

図表Ⅱ-1:1,000 円以上の購入皮革製品カテゴリーと購入点数

靴 鞄・ハンドバッグ 小物・雑貨 衣料 家具・スポーツ用品他

1つ 46.3% 33.2% 26.7% 11.2% 10.5%

2つ 19.3% 8.9% 8.1% 7.6% 4.7%

3つ以上 12.3% 3.3% 10.1% 20.6% 5.9%

購入していない 22.1% 54.6% 55.2% 60.5% 79.0%

※ Q1 以降、全ての質問文の 後に回答形式として SA(単一回答:シングルアンサー)と MA(複数回答:

マルチアンサー)のどちらであるかをカッコで示している。

34

2)購入した皮革製品における も高額な製品の種類について

Q2_1. 前問で回答された「 も価格の高かった皮革製品」は何ですか?(素材が天然

皮革か合成・人工皮革かは問いませんが、毛皮は対象に含めません)(SA)

直近 1 年以内に購入した皮革製品の中で「 も価格の高かった製品」は、全体では「靴」

が 47.3%で も高く、次いで「鞄・ハンドバッグ」26.8%であり、この 2 種類で全体の 4

分の 3 近くを占める。

図表Ⅱ-2:「 も価格が高かった皮革製品」の商品カテゴリー別ウェイト

この回答を男女別に比較すると、男性の回答では「靴」が 52.3%と半分以上を占めてい

るのに対し、女性の回答では「靴」の比率は 42.3%と、男性より 1 割ほど下がる一方で、「鞄・

ハンドバッグ」が 36.1%とかなり高く、この 2 分類で全体の 8 割弱となる。

図表Ⅱ-3:「 も価格が高かった皮革製品」カテゴリー別の購入者性別ウェイト

靴 鞄・ハンドバッグ 小物・雑貨 衣料 家具・スポーツ用品他

男性 52.3% 17.5% 11.6% 11.0% 7.5%

女性 42.3% 36.1% 10.3% 7.1% 4.1%

靴47.3%

鞄・ハンド

バッグ26.8%

小物・

雑貨11.0%

衣料9.1%

家具・スポー

ツ用品ほか5.8%

(n=3,000)

35

Q2_2. 前問で回答された「もっとも価格の高かった製品」とは具体的に何ですか?(SA)

前問で示した 5 つの製品分類の中から、実際に購入した「 も価格の高かった皮革製品」

が具体的に何かを各分類ごとに細分類化すると以下のようになる。

図表Ⅱ-4:「 も価格が高かった皮革製品」のカテゴリー別商品分類ウェイト

(n=1,419)

男性用・女性

用革靴

革を使った

スニーカー

革製

サンダル

革製

ブーツ

その他

靴 70.1% 13.6% 4.6% 10.5% 1.2%

(n=805)

革製の鞄

ハンドバッグ

ショルダー

バッグ

アタッシュ

ケース

ランドセル

ポーチ

ブリーフ

ケース

その他

鞄・ハンドバッグ 26.1% 25.8% 41.0% 1.1% 2.0% 1.0% 0.4% 2.6%

(n=329)

革製財布

定期入れ

名刺入れ

カードケース

キーケース

スマホケース

手帳カバー

ブックカバー

ストラップ

ペンケース

その他

小物・雑貨 62.3% 5.5% 2.7% 2.7% 7.6% 7.3% 0.9% 2.1% 2.1% 0.6% 6.1%

(n=272)

革ジャン

革パンツ

革コート等

レザー

ウェア

革ベルト

革手袋

革製ブレス

レット

その他

衣料 22.8% 2.9% 13.2% 21.0% 7.4% 1.8% 30.9%

(n=175)

革張りソファ

等の家具類

野球グラブ・

ミット

その他各種

スポーツ用手

ボクシング

グローブ

サッカー他

各種ボール

各種スパイク

シューズ

オートバイ用

スーツ

その他

家具・スポーツ

用品他 37.1% 8.6% 5.7% 1.1% 2.3% 12.0% 2.9% 30.3%

36

3) も高額な皮革製品を購入した場所について

Q2_3. 前問で回答された「もっとも価格の高かった製品」はどちらで購入しましたか?

(SA)

「 も価格の高かった皮革製品」をどこから購入したかという質問に対する回答結果は

下図のようになる。 も多かったのは「通販」20.6%、僅差で「百貨店」20.1%が続き、さ

らに「ショッピングセンター・総合スーパー」17.8%の順となり、この 3 つで全体の 6 割弱

を占める。

図表Ⅱ-5:「 も価格が高かった皮革製品」の購入店舗タイプ別ウェイト

百貨店

20.1%

ブランド直営店

11.2%

セレクトショップ、

ファッションビル

9.8%ショッピング

センター

総合

スーパー

17.8%

商店街・路面

4.2%

アウトレット

モール

8.1%

ロードサイド

専門店 3.7%

通販(ネッ

ト、TV、カタロ

グ等)

20.6%

海外で

1.7%

その他

2.9%

(n=3,000)

37

4) も高額な皮革製品の購入価格について

Q2_4. 前問で回答された「 も価格の高かった製品」はいくらで購入しましたか?

(SA)

「 も価格の高かった皮革製品」の購入金額は、全体では「10,000~30,000 円未満」が

33.1%と も高く、次いで「5,000~10,000 円未満」22.8%、「5,000 円未満」19.6%と続く。

図表Ⅱ-6「 も価格が高かった皮革製品」の購入価格帯別ウェイト

購入金額ランクのウェイトは、全体で見れば安いゾーンのウェイトが圧倒的に高くなっ

ており、「 も価格の高かった皮革製品」を買った消費者の 4 割強は 1 万円未満だったこと

がわかる。

しかし、これを購入製品分類別に見ると傾向の差がかなりあり、下図にみるように「鞄・

ハンドッグ」と「家具・スポーツ用品」ではより高額ゾーンのウェイトが高まる。

5千円未満19.6%

5千~1万円

未満22.8%

1万~3万円

未満33.1%

3万~5万円

未満10.9%

5万~10万円

未満7.0%

10万~30万円未満4.9%

30万円以上

計1.7%

(n=3,000)

38

逆に「小物・雑貨」と「衣料」では購入金額の安いゾーンのウェイトが増え、「靴」が全

体平均に比較的近い分布となっている。

図表Ⅱ-7:「 も価格が高かった皮革製品」のカテゴリー別の購入価格帯ウェイト

5,000円未満5,000~

10,000円未満

10,000~

30,000円未満

30,000~

50,000円未満

50,000~

100,000円未満

100,000~

300,000円未満

300,000円以上

靴 1,419

鞄・ハンドバッグ 805

小物・雑貨 329

衣料 272

家具・

スポーツ用品他175

19.9

10.4

38.0

29.8

9.7

29.9

14.4

17.0

17.6

22.3

38.9

32.3

27.4

20.2

21.1

6.2

19.4

8.2

12.1

13.1

2.7

12.0

7.9

9.9

12.0

1.9

8.8

0.9

6.6

16.0

0.6

2.6

0.6

3.7

5.7

(%)

39

5)メーカーやブランドの情報について

Q3. あなたがその皮革製品を買った時、その製品のメーカー名やブランドをご存じで

したか?また、その情報が購入に影響しましたか?(SA)

「 も価格の高かった皮革製品」のメーカー・ブランドの認知状況は、全体では「メー

カーやブランドを知っていたし、そのことが購入に影響した」いう回答は 40.0%、「メーカ

ーやブランドについては知らずに購入した。」と回答された割合は 40.3%であった。

また、図表Ⅱ-7に見るように、性年代別では男性 60 歳以上、女性 60 歳以上では「メ

ーカーやブランドを知っていたことが購入に影響した」という回答が全体平均と比べて低

い一方で、「知っていたが購入に影響しなかった」という比率は全体平均よりも高く、年齢

の高い層ではメーカーやブランドが購入に与える影響が低いことが伺える。それを裏付け

るように女性 60 歳以上では「メーカーやブランドを知らずに購入した」割合が全体平均よ

りも高い。

図表Ⅱ-8:メーカー・ブランド認知状況の性別・年齢層別ウェイト

認知あり、影響あり 認知あり、影響なし 認知なし

3,000

男性20~29歳 300

男性30~39歳 300

男性40~49歳 300

男性50~59歳 300

男性60歳以上 300

女性20~29歳 300

女性30~39歳 300

女性40~49歳 300

女性50~59歳 300

女性60歳以上 300

40.0

38.7

43.3

41.7

42.7

35.0

44.0

37.3

43.0

44.7

29.7

19.7

19.7

17.0

22.7

17.3

24.7

18.0

18.7

19.0

15.7

24.3

40.3

41.7

39.7

35.7

40.0

40.3

38.0

44.0

38.0

39.7

46.0

(%)

40

また、図表Ⅱ-8に掲げるように、メーカー名やブランドの認知状況を購入商品別に見

ると「小物・雑貨」と「衣料」で「メーカーやブランドを知らずに購入した」の割合が高

く、一方、「家具・スポーツ用品ほか」や「鞄・ハンドバッグ」は、「メーカーやブランド

を知っていたし、そのことが購入に影響した」の割合が高い。

Q2_4 で見たように「家具・スポーツ用品」と「鞄・ハンドバッグ」は購入金額自体が他

のカテゴリーに比べると高いことと重ねて考えると、高い買い物になりやすい家具や鞄な

どの皮革製品でメーカーやブランドの認識が購入に影響を与える傾向が強いといえる。

図表Ⅱ-9:メーカー・ブランド認知状況の購入商品別ウェイト

Q3_1. メーカーやブランドの情報はどうやってお知りになりましたか?(SA)

Q3 でメーカー・ブランドを認知していた回答者に対する限定質問で認知手段を質問した

が、全体では「製品のロゴやデザイン」が 35.6%で も高く、次いで「そのブランドの専

門店」24.1%、「製品についていた表示」20.5%と続く(次ページ図表Ⅱ-9参照)。

図表Ⅱ-10:「メーカー・ブランド情報の認知手段」ウェイト

認知あり、影響あり 認知あり、影響なし 認知なし

3,000

靴 1,419

鞄・ハンドバッグ 805

小物・雑貨 329

衣料 272

家具・

スポーツ用品他175

40.0

38.3

47.8

35.3

29.0

44.0

19.7

20.4

19.1

14.9

20.6

24.0

40.3

41.3

33.0

49.8

50.4

32.0

製品のロゴや

デザインから

製品についていた

表示から

そのブランドの

専門店だから店員の説明から

広告(チラシ、

パンフレット、Web情

報など)から

その他

n=1,791 35.6 20.5 24.1 6.6 10.1 3.1

(%)

(%)

41

このメーカー・ブランド情報の認知手段を、先に見た Q2_3「どこで買ったか」とクロス

集計すると、購入場所による認知手段の違いが現れる。

「ショッピングセンター・総合スーパー」では、メーカー・ブランドの認知手段が「製

品のロゴやデザイン」と「製品についた表示」がほぼ同率であり、自ら実際の製品を見て

認知した人の割合が も多い。一方、「商店街・路面店」や「ロードサイド専門店」、「百貨

店」では、「店員の説明」の比率が全体平均に比べて高い。

また、「通販」では、「店員の説明」が極端に低く、「広告・Web 情報」が 3 割近くに達し

ているが、これは購入形態から考えれば当然の結果といえる。

図表Ⅱ-11:「メーカー・ブランド情報認知手段」の購入店舗タイプ別ウェイト

製品のロゴや

デザインから

製品についていた

表示から

そのブランドの

専門店だから店員の説明から

広告(チラシ、

パンフレット、Web情

報など)から

その他

1,791

百貨店 411

ブランド直営店 298

セレクトショップ、ファッションビル 164

ショッピングセンター、総合スーパー 202

商店街、路面店 47

アウトレットモール 177

ロードサイド専門店 54

通販(ネット、TV、カタログ等) 363

海外で 36

その他 39

35.6

38.0

25.8

45.7

39.1

34.0

32.2

37.0

38.0

36.1

15.4

20.5

24.3

11.1

20.7

38.6

25.5

12.4

29.6

17.4

8.3

15.4

24.1

19.0

52.0

19.5

7.4

19.1

42.4

14.8

10.7

44.4

12.8

6.6

10.7

4.7

6.7

7.4

17.0

4.5

11.1

2.8

7.7

10.1

4.6

5.0

4.9

4.0

2.1

5.1

7.4

29.2

2.8

25.6

3.1

3.4

1.3

2.4

3.5

2.1

3.4

1.9

8.3

23.1

(%)

42

6)製品の原産国の情報について

Q4. あなたがその皮革製品を買った時、製品の原産国(日本製か、海外製ならどの国

の製品か)をご存じでしたか?また、その情報が購入に影響しましたか?(SA)

「 も価格の高かった皮革製品」の原産国の認知状況は、全体では「製品の原産国を知

っていたし、そのことが購入に影響した。」が 19.5%、「製品の原産国を知っていたが、そ

のことは購入には影響しなかった」が 23.0%、「製品の原産国については知らずに購入した」

が 57.5%で、男女による違いはほとんど見られない。

図表Ⅱ-12:「製品原産国情報認知状況」の男女別ウェイト

認知あり、

影響あり

認知あり、

影響なし

認知なし

全体 n=3000 19.5% 23.0% 57.5%

性別 男性 1,500 20.8% 24.0% 55.2%

女性 1,500 18.3% 21.9% 59.8%

一方、原産国の認知状況を購入金額別に見ると、購入金額が高くなるほど原産国情報を

認知し、しかもそれが購入に影響しているという回答が多くなり、逆に原産国を知らずに

買う人の割合が減るという傾向が顕著に現れている(次ページ図表Ⅱ-11参照)。

43

図表Ⅱ-13:「製品原産国情報認知状況」の男女別ウェイト

Q4_1. 原産国の情報はどうやってお知りになりましたか?(SA)

原産国の認知手段は、「製品についていた表示」という回答が 6 割を超えており、「店員

の説明」16.6%と「広告など(チラシ、パンフレット、Web 情報など)」16.1%の差はほと

んどない。

メーカー・ブランドの認知手段とは選択肢構成が異なるため、単純に比較することは難

しいが、この後の Q5_2「皮革素材の認知方法」と比べると回答内容は非常に近く、原産国

情報と素材情報は圧倒的に製品についている表示から得ていることがわかる。

図表Ⅱ-14:「製品原産国情報認知手段」のウェイト

認知あり、影響あり 認知あり、影響なし 認知なし

n=3,000

5,000円未満 589

5,000~10,000円未満 683

10,000~30,000円未満 994

30,000~50,000円未満 327

50,000~100,000円未満 209

100,000~300,000円未満 147

300,000円以上 計 51

19.5

6.5

12.3

20.9

36.1

29.7

36.1

45.1

23.0

13.8

21.7

26.1

25.4

28.7

32.0

21.6

57.5

79.8

66.0

53.0

38.5

41.6

32.0

33.3

製品についていた表示

店員の説明広告など(チラシ、パンフ

レット、Web情報など)その他

全体 n=1275 64.8 16.6 16.1 2.5

(%)

(%)

44

7)製品の素材の情報について

Q5. あなたがその皮革製品を買った時、その製品の主な素材(天然皮革か合成・人工

皮革か、など)についてご存じでしたか?その情報が購入に影響しましたか?(SA)

「 も価格の高かった皮革製品」の主な素材の認知状況は、全体では「素材が何か知っ

ていたし、そのことが購入に影響した」が 37.8%で も高く、「知っていたが購入に影響し

なかった」と合わせると、全体の 7 割弱の消費者が天然皮革か、合成・人工皮革を知って

いたことがわかる。

これを年代別に見ると、若い層ほど素材認知度が低く、年齢層が高くなるにつれて高く

なり、同時に購入に与える影響度も強まっている。

図表Ⅱ-15:「素材情報認知状況」の年齢層別ウェイト

今回アンケートの Q3、Q4、Q5 でそれぞれ「メーカー・ブランド」、「原産国」、「素材」

という3つの情報について、それを認知していたかどうか、購入に影響したかどうかにつ

いて質問しているが、単純集計結果を比較すると下表のようになり、購入行動への影響度

では、①メーカー・ブランド、②素材、③原産国という順になり、逆に「その情報を認識

せずに買った人の少なさ」では、①素材、②メーカー・ブランド、③原産国の順となる。

(次ページ図表Ⅱ-16参照)

認知あり、影響あり 認知あり、影響なし 認知なし

全体 n=3,000

20~29歳 600

30~39歳 600

40~49歳 600

50~59歳 600

60歳以上 600

37.8

29.0

28.7

37.2

47.7

46.7

31.8

27.2

30.5

33.8

32.7

35.0

30.3

43.8

40.8

29.0

19.7

18.3

(%)

45

図表Ⅱ-16:皮革製品情報タイプ別の認知度、購入影響度皮革

認知あり・影響あり 認知あり・影響なし 認知なし

メーカー・ブランド 40.0% 19.7% 40.3%

原産国 19.5% 23.0% 57.5%

素材 37.8% 31.8% 30.3%

このうち「メーカー・ブランド」と「素材」、「原産国」と「素材」をクロス集計すると、

結果は以下のようになる。

下図の結果は、メーカー・ブランド情報と素材情報、あるいは原産国情報と素材情報と

いう複数の商品情報を確認し、その複数の情報で購入可否を検討している消費者が多いこ

とを示しており、特に原産国情報を知っていた人の 8 割以上が素材情報も知っており、そ

れらの情報が購入判断に影響したと答えているのが目立つ。

図表Ⅱ-17:「メーカー・ブランド認知状況」×「素材情報認知状況」ウェイト

図表Ⅱ-18:「原産国情報認知状況」×「素材情報認知状況」ウェイト

素材認知あり、影響あり 素材認知あり、影響なし 素材認知なし

n=3,000

メーカー・ブランド認知あり

影響あり1,200

メーカー・ブランド認知あり

影響なし591

メーカー・ブランド認知なし 1,209

37.8

54.7

30.8

24.6

31.8

26.9

47.2

29.2

30.3

18.4

22.0

46.2

素材認知あり、影響あり 素材認知あり、影響なし 素材認知なし

n=3,000

原産国認知あり

影響あり586

原産国認知あり

影響なし689

原産国認知なし 1,725

37.8

82.1

37.7

22.8

31.8

13.0

52.2

30.1

30.3

4.9

10.0

47.1

(%)

46

Q5_1. 購入した皮革製品の素材は何でしたか?(SA)

「メーカー・ブランド」(Q3、Q3_1)と「原産国」(Q4、Q4_1)では、認知度合いと認

知手段を聞いているが、ここでは、素材に関して「素材情報を認知していた」と答えた回

答者の限定質問として、実際に買った皮革製品の素材が天然皮革か合成・人工皮革かを質

問している。全体では天然皮革が 67.1%、合成・人工皮革が 32.9%で、ほぼ 2:1 という比率

で天然皮革が多い。

図表Ⅱ-19:「素材を認知して購入」の回答者が購入した製品の素材

特徴的なのは年齢層が高くなるほど「天然皮革率」が高くなることで、先に見た Q5「素

材情報の認知度」がシニア層ほど高いことと考え合わせれば、高い年齢層に「本革志向」

が強く、必然的に素材が何かを確認する人が多いことを伺わせる。

Q5_2. 素材の情報はどうやってお知りになりましたか?(SA)

素材情報の認知手段では、「製品についていた表示」という回答が 63.8%と も多く、次

いで「店員の説明」19.3%、「広告など」15.0%と続く。これは、同じ構成の選択肢で質問

した Q4_1「原産国情報の認知手段」の回答結果と極めて近い数値である。

図表Ⅱ-20:素材情報の認知手段ウェイト

天然皮革 合成・人工皮革

n=2,090

20~29歳 337

30~39歳 355

40~49歳 426

50~59歳 482

60歳以上 490

67.1

54.9

58.0

66.4

75.1

74.7

32.9

45.1

42.0

33.6

24.9

25.3

製品についていた

表示店員の説明

広告など(チラシ、

パンフレット、Web

情報など)

その他

n=2,09063.8 19.3 15.0 1.9

(%)

(%)

47

8)皮革製品の購入に際し重視した要素について

Q6. あなたがその皮革製品の購入を決める上で重視した要素は何ですか?下記の中か

らお答えください。(MA)

「 も価格の高かった皮革製品」を購入する際に何を重視したかという質問に対しては、

「その他」を除いて 12 の選択肢を用意した。

結果としては、全体では「色・デザイン」が 72.5%と も高く、次いで「価格」58.2%、

「機能性(使いやすさ、防水性など)」48.8%となる。さらに「メーカー・ブランド」、「耐

久性」、「天然皮革であること」までが 10%以上の回答を集めた項目であり、これ以外の項

目を重視した比率は低い。

図表Ⅱ-21:素材情報の認知手段ウェイト

これを男女別にみると、女性の方が男性よりも「色・デザイン」を重視している傾向が

強く、また「耐久性」を重視する比率は男性の方が高く、女性より2倍以上多いといった

差異が認められる(上図の黄色マス目部分)。

(使

メー

カー

セー

トー

(人

全体 n=3000 72.5 58.2 48.8 26.4 13.6 10.9 2.9 2.4 0.9 0.6 0.6 0.4 1.5

男性 1,500 64.3 61.2 46.5 26.9 18.5 10.1 3.3 2.5 0.9 0.7 0.7 0.3 1.1

女性 1,500 80.7 55.3 51.1 25.8 8.8 11.6 2.6 2.3 1.0 0.5 0.5 0.5 1.9

72.5

58.248.8

26.4

13.6 10.92.9 2.4 0.9 0.6 0.6 0.4 1.5

0%

20%

40%

60%

80%

48

また、本項目と Q2_3「購入場所」とをクロス分析すると、「メーカー・ブランド」を重

視していると回答した人の購入場所は、「百貨店」23.1%、「通販(ネット、TV、カタログ

等)」21.9%、「ブランド直営店」19.3%の割合が高く、「価格」と回答した人の購入場所は、

「ショッピングセンター、総合スーパー」22.6%、「通販(ネット、TV、カタログ等)」22.5%、

「百貨店」15.1%の割合が高かった。

重視項目を購入場所別に見ると、「色・デザイン」や「機能性」では特に大きな差はない

が、「メーカー・ブランド」や「価格」では購入場所によってかなり差があらわれる。

「メーカー・ブランド」を重視する回答は「百貨店」や「ブランド直営店」で購入した

回答者に多く見られるのに対し、「価格」重視という回答者は、「ショッピングセンター、

総合スーパー」での購入者が も多い。メーカー・ブランド重視派は百貨店やブランド直

営店に、価格重視派はショッピングセンターやスーパーで皮革製品を購入するケースが多

いことがわかる。

図表Ⅱ-22:「重視項目:メーカー・ブランド」×「購入場所」

図表Ⅱ-23:「重視項目:価格」×「購入場所」

ョップ

ァッシ

ョン

ョッピ

、総

ーパ

、路

ット

ール

ード

(ネ

ット

T

V

、カ

メーカー、ブランド n=791 23.1 19.3 8.3 7.8 2.5 10.0 2.1 21.9 2.7 2.1

23.119.3

8.3 7.8

2.5

10.0

2.1

21.9

2.7 2.1

0%

10%

20%

30%

ョップ

ァッシ

ョン

ョッピ

ター

、総

ーパー

、路

ット

モール

ード

(ネ

ット

T

V

、カ

価格 n=1747 15.1 8.6 9.8 22.6 4.2 9.4 3.8 22.5 1.2 2.8

15.1

8.6 9.8

22.6

4.2

9.4

3.8

22.5

1.22.8

0%

10%

20%

30%

49

≪皮革製品全般に関する質問≫

ここからは「直近 1 年の間に買った も高額な特定の皮革製品」ではなく、普段の皮革

製品購入全般に関しての質問となる。

1)皮革製品を購入する際のメーカーやブランドについて

Q7. 皮革製品を購入する際、製品のメーカーやブランドを確認しますか?(SA)

全般的な皮革製品購入に際して、メーカー・ブランドを確認する程度は、「必ず確認し、

購入の判断材料にする」が 24.2%、「適宜確認(必要に応じて(購入する製品によって)確

認)し、購入の判断材料にする」が 34.9%、「製品のメーカーやブランドは確認しない」が

40.7%であり、メーカーやブランドは気にしないという消費者が も多いことがわかる。

図表Ⅱ-24:メーカー・ブランド情報の確認・重視度ウェイト

Q3「直近 1 年の間に購入した も高額な特定の皮革製品」における「メーカー・ブラン

ド認知状況」では、「それを知っていて、購入に影響した」が 40.0%、「知っていたが購入

に影響しなかった」が 19.7%、「知らずに買った」が 40.3%であるから、本質問の「普段か

ら皮革製品を購入する際にメーカー・ブランド情報を確認しない人」の 40.7%と、Q3 の「メ

ーカー・ブランドを知らずに買った」人の割合 40.3%とは、ほとんど同じと言うことにな

る。

逆に言えば、皮革製品購入者の 6 割は、皮革製品購入に際してメーカー・ブランド情報

に関心があると言うことができる。

必ず確認、

判断材料とする

適宜確認、

判断材料とする確認しない その他

n=3,000 24.2 34.9 40.7 0.1(%)

50

2)皮革製品を購入する際の製品の原産国について

Q8. 皮革製品を購入する際、製品の原産国を確認しますか?(SA)

全般的な皮革製品購入に際して、製品原産国を確認する度合いに関する質問であるが、

回答では「原産国は必ず確認し、購入の判断材料にする」が 13.4%、「必要に応じて確認し、

購入の判断材料にする」が 33.1%、「原産国は気にしない」が 53.4%であった。したがって、

原産国を「必ず確認する」と「必要に応じて確認する」を合計すると 46.5%となるものの、

半分以上の消費者は皮革製品購入に際して原産国情報を気にしていないことになる。

図表Ⅱ-25:原産国情報の確認・重視度ウェイト

これについても、Q4「直近 1 年の間に購入した も高額な特定の皮革製品」の原産国の

回答では、「製品の原産国を知っていて、それが購入に影響した」が 19.5%、「知っていた

が購入には影響しなかった」が 23.0%で、これらの合計は 42.54%となり、「知らずに購入

した」が 57.5%であった。

Q4 の「製品の原産国を知っていた」の合計 42.54%と、この Q8、つまり普段の購入にお

ける「必ず確認する、又は適宜確認する」の 46.5%はかなり近く、同様に Q4 の「知らず

に購入した」57.5%と、この Q8(普段の購入の際)の「原産国は確認しない」の 53.4%と

いう数字にも大きな違いはない。

必ず確認、

判断材料とする

適宜確認、

判断材料とする確認しない その他

n=3,00013.4 33.1 53.4

0.2

(%)

51

3)皮革製品を購入する際の製品の素材について

Q9. 皮革製品を購入する際、素材(天然皮革か合成・人工皮革か、など)を確認します

か?(SA)

全般的な皮革製品購入に際して、素材が何であるかを確認する度合いは、全体では「必

ず確認し、購入判断材料にする」が 28.5%、「必要に応じて確認するし、判断材料にする」

が 42.8%、「製品の素材は気にしない」が 28.6%であった。

「確認しない」割合は、Q7「メーカー・ブランド情報」や Q8「原産国情報」と比べて半

分程度であり、皮革製品購入に際して「本革か、合成(人工)皮革か」という情報の確認

が他の二つに比べて重視されていることがわかる。

図表Ⅱ-26:素材情報の確認・重視度ウェイト

また、「確認しない」人の割合 28.6%は、Q5「直近 1 年の間に購入した も高額な特定

の皮革製品」の「素材を知らずに買った」人の割合 30.3%と概ね同じ比率であり、皮革製

品購入に際して天然皮革か合成(人工)皮革かという点を重視しない消費者が全体の 3 割

程度存在すると見なすことができる。

また、Q7「メーカー・ブランド」、Q8「原産国」、Q9「素材」の確認度合いをクロス集

計したところ、3 つの情報すべてを「必ず確認する」人の割合は 7.8%と、1 割に満たない

ウェイトであるが、3 つの情報ついて全く確認しない人は全体の 20.9%であった。つまり、

消費者の2割程度は、皮革製品の購入に際してメーカー・ブランド情報、原産国情報、素

材情報という3つの情報について全く気にしていないことになる。

必ず確認、

判断材料とする

適宜確認、

判断材料とする確認しない その他

n=3,000 28.5 42.8 28.6(%)

52

4)皮革製品を購入する際の素材の原産国について

Q10. 皮革製品を購入する際、素材の原産国(日本製か、海外製ならどの国の皮革素

材か)の表示は必要だと思いますか?(SA)

素材の原産国表示の必要性については、全体では「重要な情報なので必要」が 24.3%、「あ

れば参考にするので必要」が 56.9%、「素材の原産国表示は必要ない」が 18.8%であった。

「重要だから必要」と「あれば参考にするので必要」の合計は 81.2%となり、皮革製品購

入者の 8 割以上は素材の原産国の表示に関して必要であるという認識を持っていることが

わかる。

図表Ⅱ-27:素材原産国情報の必要認識ウェイト

この回答を性年代別に分けると、「重要な情報なので必要」と回答した割合が全体平均よ

りも顕著に高かったのは、男性 60 歳以上の 35.3%、逆に低かったのは、男性 30~39 歳の

18.7%、女性 20~29 歳の 18.3%、女性 30~39 歳の 15.7%であり、大まかな傾向としては、

若い層ほど素材原産国の情報については必要度が低いと考えていることがわかる。

また、Q9「製品の原産国情報」の確認とのクロス集計では、「素材の原産国を必ず確認す

る」と回答した者の 79.8%が「素材の原産国情報は重要だから必要」と回答しており、原

産国情報を重視する消費者は、「製品原産国」とともに「素材原産国」についても知りたい

と考えていることがわかる。

重要な情報なので

素材の原産国表示は必

要である

あれば参考にするので素

材の原産国表示は必要で

ある

素材の原産国表示は必

要ないその他

n=3,000 3,000

男性20~29歳 300

男性30~39歳 300

男性40~49歳 300

男性50~59歳 300

男性60歳以上 300

女性20~29歳 300

女性30~39歳 300

女性40~49歳 300

女性50~59歳 300

女性60歳以上 300

24.3

26.3

18.7

23.3

26.7

35.3

18.3

15.7

27.3

27.0

24.0

56.9

51.0

53.0

60.0

56.0

51.0

55.7

62.7

55.0

63.7

61.0

18.8

22.3

28.0

16.7

17.3

13.7

26.0

21.7

17.7

9.3

15.0

0.1

0.3

0.3

(%)

53

5)皮革製品における素材の種類(天然皮革、合成皮革、人工皮革)について

Q11. 天然皮革と合成・人工皮革とで比べた場合、以下の項目に関するあなたの評価は

どのようなものですか?項目別に、どちらの素材に対して「そう思う」かをお答え

下さい。(SA)

6 つの評価項目に関して、天然皮革と合成・人工皮革の評価の違いを質問したところ、「天

然皮革についてそう思う」という回答の割合が高かった項目は、「高級感がある」、「長持ち

する」、「重い」、「価格が高い」であり、特に「高級感がある」、「価格が高い」という項目

については、「強くそう思う」と「ややそう思う」を合計すると、8 割を超える消費者が天

然皮革を支持している。

こういった結果から、合成・人工皮革に対しては、素材としての高級感イメージはまだ

あまり形成されていないことが伺え、「合成・人工皮革についてそう思う」という回答割合

が高かった評価項目は、「動物にやさしい」と「環境にやさしい」の 2 項目であった。

図表Ⅱ-28:天然皮革と合成・人工皮革の項目別評価ウェイト

天然皮革について

強くそう思う

天然皮革について

ややそう思うどちらともいえない

合成・人工皮革に

ついてややそう思う

合成・人工皮革に

ついて強くそう思う

項目 n=

高級感がある 3,000

長持ちする 3,000

重い 3,000

価格が高い 3,000

動物にやさしい 3,000

環境にやさしい 3,000

48.7

29.1

19.6

47.8

3.7

4.6

34.2

30.8

34.9

36.3

6.9

8.4

15.8

33.1

40.9

14.3

46.7

67.3

1.0

5.8

3.7

1.4

21.2

12.4

0.2

1.2

0.9

0.3

21.4

7.4

(%)

54

Q12. 日本では合成皮革と人工皮革は製造方法の違いなどから厳密には区別されていま

すが、あなたは合成皮革と人工皮革の違いをご存じでしたか?(SA)

Q12 は合成皮革と人工皮革の違いの認知度合いに関する質問であるが、全体の 12.3%が

「製造方法が違うことを知っていた」と回答しており、これに「何か違いがあることは知

っていた」の 37.8%を加えると 50.1%となり、消費者の約半数は合成皮革と人工皮革が違

うものであることを知っていることになる。

図表Ⅱ-29:人工皮革と合成皮革の違いに関する認識ウェイト

この結果を性年代別に見ると、「女性より男性の方が認知度が高い」、「年齢層が高くなる

ほど認知度も高くなる」という傾向があることが読み取れ、男性 60 歳以上では合成皮革と

人工皮革の違いを認識している人の割合が も高く、そのウェイトは 62.4%と 6 割を超え

ているのに対し、 も低い女性 30~39 歳の層では 40.3%と 4 割に留まる。

逆に「そもそも呼称の違いを意識したことがない」消費者の割合は女性の若い年齢層で

高くなっており、20~29 歳が 46.0%、30~39 歳が 48.3%と 5 割近くに達している。

合成皮革と人工皮革の違いの認知状況が実際の購買にどう影響しているかを見るため、

Q5_1「直近1年以内に購入した も価格の高かった皮革製品の素材」の回答結果とクロス

集計すると、次図の結果のように、天然皮革購入者の方が「合成皮革と人工皮革の違い」

に対する認知度が高いという結果が出ている。これを端的に言い表せば、「皮革素材に詳し

両者の間で製造

方法が違うことを

知っていた

なにか違いがあること

は知っていたが正確な

違いは知らなかった

呼称が違うだけで同じ

ものだと思っていた

そもそも呼称の違いを

意識したことが

なかった

その他

全体 n=3,000

男性20~29歳 300

男性30~39歳 300

男性40~49歳 300

男性50~59歳 300

男性60歳以上 300

女性20~29歳 300

女性30~39歳 300

女性40~49歳 300

女性50~59歳 300

女性60歳以上 300

12.3

14.3

15.0

12.0

13.0

16.7

9.3

8.0

12.0

10.3

12.7

37.8

34.0

36.0

38.7

40.3

45.7

31.3

32.3

35.7

42.0

41.7

12.1

11.7

10.3

12.3

11.7

14.0

13.3

11.3

11.3

12.7

12.7

37.7

39.7

38.7

37.0

35.0

23.3

46.0

48.3

41.0

35.0

33.0

0.1

0.3

0.3

(%)

55

い人は天然皮革を買う割合が高く、素材に詳しくない人は合成・人工皮革を買う割合が高

い」ということができる。

図表Ⅱ-30:「人工皮革・合成皮革の違い認識」×「購入製品の素材」

合成皮革と人工皮革の違いを知っていることを皮革素材に対する「詳しさ」の度合いと

考えて、さらに前問 Q11 で聞いた天然皮革と合成・人工皮革の評価項目のうちから「動物

にやさしい」の回答結果と Q12 の結果をクロス集計してみた。結果は以下のとおりである。

図表Ⅱ-31:「人工皮革・合成皮革の違い認識」×「動物にやさしい」

合成皮革と人工皮革とでは製造方法に違いがあることを知っている「詳しい」消費者で

あれば、合成・人工皮革が動物の皮を用いないことも当然わかっているはずである。

しかし実際には、「製造方法に違いがあることを知っている」と回答した「詳しい」消費

者が「合成・人工皮革は動物にやさしい」と回答した割合は 33.0%であり全体平均の 42.6%

よりも低く、逆に天然皮革について「動物にやさしい」と回答した者の割合は 21.3%と全

体平均の 10.6%より2倍以上高いという結果が出ている。

天然皮革製品イコール「動物がかわいそう」と捉える考え方も確かにあるが、合成皮革

と人工皮革の製造方法の違いを知っているような「詳しい」消費者であれば、天然皮革は

基本的に食肉の副産物を活用したものであり、「皮目当てに動物を殺したものではない」こ

とを知っているからではないか、という推論も成り立つと言えよう。

両者の間で製造

方法が違うことを

知っていた

違いがあることは知っ

ていたが、正確な違い

は知らなかった

呼称が違うだけで両者

は同じものと思っていた

そもそも呼称の違いを

意識したことが

なかった

その他

購入製品素材

天然皮革 n=1,402

合成・人工皮革 n=688

18.8

9.4

42.0

42.7

12.7

14.0

26.5

33.7 0.1

天然皮革について強

くそう思う

天然皮革についてや

やそう思うどちらともいえない

合成・人工皮革につ

いてややそう思う

合成・人工皮革につ

いて強くそう思う

全体 n=3,000

両者の間で製造方法が違うことを知っていた 370

両者になにか違いがあることは知っていたが、

正確な違いは知らなかった1,133

呼称が違うだけで両者は同じものだと思っていた 364

そもそも呼称の違いを意識したことがなかった 1,131

その他(参考値) 2

天然皮革についてそう思う・計 合成・人工皮革についてそう思う・計

3.7

10.8

2.7

3.8

2.4

6.9

10.5

7.4

8.8

4.6

46.7

45.7

46.0

38.5

50.4

50.0

21.2

12.7

22.0

24.7

22.1

50.0

21.4

20.3

21.9

24.2

20.5

評価項目:「動物にやさしい」

(%)

(%)

56

6)皮革製品における品質表示について

Q13. 皮革製品の品質表示はどのような情報が書かれているべきだと考えますか?必要

と思うものをお答えください。(MA)

皮革製品の表示にどんな情報が必要と思うかについて質問したところ、全体では「天然、

合成などの素材情報」の 48.9%と「動物の種類、人工か合成かなど素材情報の詳細」の 33.4%

の合計が 82.3%を占めており、皮革製品を購入する上で原産国情報やメーカー情報などよ

りも、やはり素材情報を表示することが重要であるという認識が消費者の間で高いことが

うかがえる。

これを年代別に見ると、若い層よりも年齢の高い層の方が「素材情報重視」の傾向が若

干高く、一方でメーカー・ブランド情報を必要とするニーズは若年層の方が若干高いとい

う傾向が現れている。

図表Ⅱ-32:皮革製品表示情報の必要度に関する認識ウェイト

素材(天然、合成な

ど)の情報が必要

素材の詳細(動物の

種類、人工か合成か

など)の情報が必要

製品の原産国がどこ

かという情報が必要

メーカーやブランド等

の情報が必要

素材の原産国がどこ

かという情報が必要その他

全体 n=3,000

20~29歳 600

30~39歳 600

40~49歳 600

50~59歳 600

60歳以上 600

48.9

46.3

43.7

52.0

48.2

54.2

33.4

28.8

32.7

30.0

39.8

35.8

26.1

28.0

26.2

26.2

25.2

24.8

23.0

26.8

25.3

20.0

22.5

20.5

11.0

14.7

12.8

9.5

7.7

10.2

0.5

0.7

0.7

0.5

0.5

0.2

(%)

Q1

皮革

例と

the m

ンポー

図表

図表

n=3000

0%

10%

20%

30%

40%

14. ヨーロッ

等)を表

(SA)

革製品の素材

して用いた画

main compon

ーネントで使

Ⅱ-33:ア

Ⅱ-34:絵

、日

32.6 2

32.62

ッパでは以下

表すのが一般

材を絵で示す

画像は欧州指

nents of fo

使用される材

アンケート質

絵表示に対す

27.7 14.1

27.7

14.1

下のような絵

般的ですが、

す、いわゆる

指令 Directi

ootwear for

材料のラベリ

質問で提示し

する評価ウェ

1 24.9

1

24.9

57

絵表示で素材

こういった

るピクトグラ

ive 94/11/E

r sale to t

リング)」の

した絵表示例

ェイト

0.6

0.6

材の違い(天然

た絵表示につ

ラム表示の対

C 「labelin

the consume

ピクトグラム

「絵

本でも

た“受容

「絵表

ない」

と、そ

年代

43.8%

が高い

が高ま

然皮革か合成

いてはどう

対する受容性

ng of the ma

r(消費者用

ムを使用して

表示はわか

取り入れてほ

容派”が 32

示はわかり

と答えた“拒

の差は 5%ほ

別では、60

、拒否派 2

ほど絵表示

るという傾向

成・人工皮革

思われます

性に関する質

aterials us

用の靴の主要

ている。

りやすいので

ほしい」と回

2.6%なのに対

づらいので

拒否派”も 2

ほどしかない

歳以上で受

3.7%と、年

示に対する受

向が認められ

革か、

か?

質問で、

sed in

要なコ

で、日

回答し

対し、

で必要

7.7%

い。

受容派

年齢層

受容性

れる。

58

7)皮革製品を購入する際に重視する要素について

Q15. 皮革製品を購入する場合、重視する要素はなんですか?(MA)

皮革製品全般を購入する際に重視するポイントは何かを 12(その他を除く)の項目から

選んでもらったところ、全体では「色・デザイン」が 67.5%で も高く、次いで「価格」

65.1%、「機能性(使いやすさ、防水性など)」51.7%と続く。

図表Ⅱ-35:皮革製品購入全般に際しての重視要素ウェイト

この結果を男女別にみると、男性は「耐久性」や「メーカー・ブランド」などの項目で

女性より重視しているのに対し、女性は「色・デザイン」や「機能性」などの重視度が男

性より高く、特に「色・デザイン」では 18%もの開きがある(上図黄色マス目部分)。

(使

メー

カー

(人

セー

トー

全体 n=3000 67.5 65.1 51.7 25.4 22.9 12.6 4.8 2.3 1.8 1.4 1.0 0.7 0.5

男性 1,500 58.5 66.9 47.5 28.9 25.3 11.7 5.7 2.5 2.3 1.5 1.2 0.4 0.5

女性 1,500 76.5 63.3 55.9 21.9 20.5 13.6 3.9 2.1 1.3 1.3 0.7 0.9 0.5

67.5 65.1

51.7

25.4 22.912.6

4.8 2.3 1.8 1.4 1.0 0.7 0.50%

20%

40%

60%

80%

59

8)皮革製品を購入する際に出費出来る上限額について

Q16. 以下に挙げる三つの代表的な皮革製品に関し、少し奮発してハイグレードなもの

を買うとしたら、あなたが出せる金額はいくらくらいですか?(SA)

ここでは「革靴」、「革製鞄・ハンドバッグ」、「革製財布」という3種類の皮革製品に関

して、普段買っている価格帯ではなく、「奮発して高いものを買うとしたらいくらまで出せ

るか」を質問している。

結果は下図のとおりであり、革靴、鞄・ハンドバッグ、財布と3種類共に「10,000~30,000

円未満」が「奮発して買う皮革製品」のボリュームゾーンになっている。

図表Ⅱ-36:ハイグレード皮革製品に払える上限金額ウェイト

ただし、傾向としては、「鞄・ハンドバッグ」が全体的に安い価格が少なく、高い価格ゾ

ーンに寄っており、「30,000~50,000 円未満」の回答比率も鞄・ハンドバッグが も高い。

特筆すべきは、より高額な「50,000~100,000 円」まで出せるという回答も革靴や財布では

一桁代であるが、鞄・ハンドバッグでは 14.3%を占めており、更に高額な「100,000 円以上」

という回答も 8.7%と、靴や財布に比べ圧倒的に高い比率となっている。

Q15「皮革製品購入に際しての重視要素」で「メーカー、ブランド」と回答している消費

者は 687 人いるが、その 687 人が上の Q16 ではどう回答しているかを見ると、やはりどの

製品でも軒並み上限金額が平均より高い。「メーカー、ブランド」を重視する消費者の「皮

革製品の価格受容性」はかなり高いことがわかる。

5,000円未満5,000~

10,000円未満

10,000~

30,000円未満

30,000~

50,000円未満

50,000~

100,000円未満100,000円以上 計

n=3,000

n=3,000

n=3,000

革靴(紳士用・婦人用)

革製カバン・ハンドバッグ

革製財布

8.0

7.4

11.6

20.0

13.9

23.2

47.6

33.3

40.2

17.1

22.3

15.3

5.2

14.3

8.3

2.1

8.7

1.4

60

図表Ⅱ-37:品目別・ハイグレード皮革製品に払える上限金額ウェイト

9)皮革製品に対する国別のブランドイメージについて

ここから先は主に皮革製品に関する国や地域ごとのブランドイメージの差や、日本製皮

革製品への評価等について質問している。

Q17. 以下に挙げた国の皮革製品で、特に品質やブランドイメージの高いと思われる国

はどこですか?(MA:回答は 3 つまで)

ここで例示した国・地域は全部で 16 あり、ヨーロッパで①フランス、②イタリア、③ド

イツ、④スペイン、⑤イギリス、⑥その他の欧州、アジアで⑦日本、⑧中国、⑨韓国、⑩

香港、⑪その他のアジア、それ以外では⑫豪州などのオセアニア、⑬米国、⑭米国以外の

北米、⑮南米、⑯その他である。これら 16 の国・地域の中から皮革製品の品質やブランド

イメージが高いと思うところを 3 つ選んでもらった結果、以下のような結果が得られた。

全体ではイタリアが 69.0%で も高いが、日本が僅差といってもいい 66.3%で 2 位の評

価を得ており、以下フランス 34.8%、米国 26.3%、イギリス 15.4%などと続く。

性年代別では、イタリア、日本、米国の皮革製品に対して、男女共に若年層よりシニア層

の方が品質・ブランドイメージが高いと回答する割合が高かった。

また、フランスに対しては男性よりも女性の方が品質・ブランドイメージが高いと回答

する割合が高かったが、これは鞄・ハンドバッグを購入する割合が高い女性において、シ

ャネルやルイ・ヴィトンなどフランスの有名ブランドに対する評価が影響しているものと

考えられる。

5,000円未満5,000~

10,000円未満

10,000~

30,000円未満

30,000~

50,000円未満

50,000~

100,000円未満100,000円以上 計

革靴(紳士用・婦人用) n=687

革製カバン・ハンドバッグ n=687

革製財布 n=687

2.9

1.6

3.5

13.0

7.9

14.7

46.9

27.7

40.6

24.2

25.5

22.7

9.0

19.7

15.4

4.1

17.7

3.1(%)

61

図表Ⅱ-38:皮革製品イメージの国別評価ウェイト

Q18. 欧米製の皮革製品とくらべて日本製の皮革製品に対するあなたのイメージはどの

ようなものですか?(SA)

Q19. 次にアジア製の皮革製品とくらべて日本製の皮革製品に対するあなたのイメージ

はどのようなものですか?(SA)

Q18 と Q19 では全く同じ評価項目に対し、日本の皮革製品が「対欧米」と「対アジア」

でどの程度評価・イメージに差があるかを比較した。

次ページの図は、日本製の方が優れていると「強く思う」と「やや思う」の合計数値で

対欧米、対アジアのイメージ比較を並べたものである。

対欧米を見ると、「製品の品質」、「製品の機能性」、「素材の品質」といった面では日本の

皮革製品は一定以上の評価を得ているものの、「色・デザイン」や「ブランドイメージ」、

さらに「環境配慮」といった面では欧米製に対して評価は低い(次頁図表Ⅱ-37の黄色

マス目部分)。また、価格に対しては、「欧米製の方が高価格」というイメージが日本の消

費者の間で強いことがわかる。

全体 n=3,000 34.8 69.0 11.4 10.7 15.4 0.3 66.3 1.7 1.9 1.4 0.2 13.1 26.3 2.2 1.6 1.1

男性20~29歳 300 34.3 58.7 19.7 10.0 18.3 - 54.3 2.3 0.7 1.3 0.3 6.0 19.0 3.3 2.3 2.0

男性30~39歳 300 32.7 67.0 13.0 6.3 24.3 0.3 60.3 3.0 0.7 0.7 0.3 12.3 19.3 0.7 1.3 0.3

男性40~49歳 300 34.0 68.3 10.7 9.7 14.0 1.0 72.0 2.3 1.0 1.0 0.3 12.0 32.3 0.7 0.7 1.3

男性50~59歳 300 33.7 69.3 8.0 8.7 19.3 - 73.3 0.7 3.7 0.7 - 12.3 31.7 2.0 1.0 0.3

男性60歳以上 300 22.0 69.0 12.7 10.7 11.7 0.7 78.3 1.0 2.0 3.3 - 20.0 40.0 4.0 3.0 0.7

女性20~29歳 300 35.7 68.7 15.3 7.3 21.0 0.3 55.3 2.3 1.3 0.7 0.3 10.3 22.3 1.3 1.0 1.3

女性30~39歳 300 38.7 72.3 9.3 12.0 12.0 0.3 65.0 2.3 2.7 3.0 - 11.3 22.0 1.0 3.3 1.0

女性40~49歳 300 40.7 67.3 9.7 11.0 11.7 0.3 63.0 1.0 3.3 1.3 0.7 14.3 23.7 1.3 1.7 2.0

女性50~59歳 300 40.3 76.0 7.7 17.3 10.3 0.3 67.7 0.7 1.7 0.3 0.3 14.7 21.0 2.0 0.7 1.0

女性60歳以上 300 36.0 73.7 8.3 13.7 11.3 - 74.0 1.3 2.3 2.0 - 17.7 31.3 5.3 1.0 1.0

34.8

69.0

11.4 10.715.4

0.3

66.3

1.7 1.9 1.4 0.2

13.1

26.3

2.2 1.6 1.10%

20%

40%

60%

80%

(%)

62

図表Ⅱ-39:皮革製品イメージの国別評価ウェイト

一方、アジア製との比較では、どの比較項目についても圧倒的に日本製の皮革製品を優

位と考える消費者が多いが、特徴としては、意外にも「環境配慮」の項目が相対的な評価

が低く、日本製が優れていると回答した消費者は半数強に留まる結果となっている(上図

の緑色マス目部分)。

対欧米比較では、日本の皮革製品の環境配慮に対する評価が更に低かったことを考える

と、日本の皮革製品業界の環境配慮の取組みはまだ消費者の間には十分浸透していないこ

とがうかがえ、環境配慮に関しては、「アジア製と大きな差はなく」、「欧米製より遅れてい

る」と認識している消費者が少なくないことを示している。

メー

使

欧米製の皮革製品とくらべて n=3000 42.6 63.4 57.3 31.0 33.5 59.5 31.1

アジア製の皮革製品とくらべて n=3000 71.4 79.2 77.2 70.6 71.3 72.6 55.7

42.6

63.457.3

31.0 33.5

59.5

31.1

71.4 79.2 77.270.6 71.3 72.6

55.7

0%

20%

40%

60%

80%

(%)

63

10)メイド・イン・ジャパンの皮革製品について

Q20. メイド・イン・ジャパンの皮革製品に求めたいものは何ですか?下記の中からご自

分の考えに近いものをお答えください。(天然皮革/合成・人工皮革別)(MA)

ここではメイド・イン・ジャパンの皮革製品に求めたいポイントを天然皮革と合成・人

工皮革別に聞いている。

結果は下図に見るとおりであり、天然皮革に対しては「より製品の品質が高いもの」、「よ

り色やデザインのすぐれたもの」、「より素材の品質が高いもの」、「より高級感のあるもの」

という 4 項目が半数以上の消費者から期待されているポイントとなっている。

これに対して合成・人工皮革に対しては、「より価格の安いもの」と「より機能的で使い

やすいもの」を求める声が多く、天然皮革に対するニーズとはかなり差があることがわか

る。

「より環境に配慮したもの」という点に期待する回答比率は他の項目に比べると高いとは

言えないが、ここでも天然皮革よりは合成・人工皮革の方が高い数字になっており、環境

配慮型皮革製品という点では、消費者は「天然皮革」よりも「合成・人工皮革」の方に期

待をかけていることがうかがえる。

図表Ⅱ-40:日本製皮革製品に対する期待項目ウェイト(天然×合成・人工皮革別)

の よ

使

天然皮革 n=3,000 59.4 65.8 57.8 53.4 24.9 43.1 24.0 8.3

合成・人工 n=3,000 43.8 32.1 25.5 15.7 52.5 51.2 31.4 14.1

59.465.8

57.8 53.4

24.9

43.1

24.0

8.3

43.8

32.125.5

15.7

52.5 51.2

31.4

14.1

0%

20%

40%

60%

80%

(%)

64

図表Ⅱ-41:日本製の天然皮革製品に対する期待項目

図表Ⅱ-42:日本製の合成・人工皮革製品に対する期待項目

天然皮革、合成・人工皮革に対する期待ポイントは、年代別で見ても大きな差はないが、

「より機能的で使いやすい合成・人工皮革製品」に対する期待は年齢層が高くなるほど数

字も増えているといった点、天然皮革の「製品の品質」や「素材の品質」に対する期待は

年齢層の低い層ほど期待度も低いといった点がやや特徴的な点として挙げられよう。

の よ

使

20~29歳 n=600 53.2 56.5 50.0 46.5 20.2 32.3 19.7 16.5

30~39歳 n=600 60.7 64.3 55.3 51.0 29.0 40.5 23.2 10.0

40~49歳 n=600 62.0 65.0 58.7 51.2 28.5 46.0 25.2 6.0

50~59歳 n=600 59.5 71.2 63.2 57.3 25.8 47.7 26.0 5.7

60歳以上 n=600 61.7 71.8 61.8 61.0 20.8 48.8 25.8 3.3

0%

20%

40%

60%

80%

20~29歳 30~39歳

40~49歳 50~59歳

60歳以上

の よ

使

20~29歳 n=600 40.8 26.2 19.7 16.7 47.7 44.0 23.7 19.3

30~39歳 n=600 45.2 32.2 27.3 17.5 52.0 43.8 27.0 13.7

40~49歳 n=600 41.2 32.2 22.8 14.5 50.7 47.7 28.7 14.3

50~59歳 n=600 46.2 33.0 28.2 16.3 53.5 61.0 35.0 13.3

60歳以上 n=600 45.7 36.8 29.3 13.3 58.8 59.5 42.5 10.0

0%

20%

40%

60%

80% 20~29歳 30~39歳

40~49歳 50~59歳

60歳

天然皮革 期待項目

合成・人工皮革 期待項目

(%)

(%)

65

第Ⅲ章 ヒアリング調査結果

本調査では主に人工皮革や合成皮革に関する事業動向や皮革製品需要の変化に関する情

報収集のために 21 件の企業・団体等にヒアリング調査を実施している。対象は大まかに①

素材メーカー(天然皮革、人工皮革・合成皮革の製造・卸)、②製品メーカー(靴、鞄、衣

料等、各種皮革製品の企画、製造、卸企業)、③小売(百貨店、量販店、専門店、通販企業

等)の三つに分けられる。

下表がその一覧であり、次頁以降にそれぞれのヒアリング結果の要約を整理している。

ただ、ここでいう素材メーカーや製品メーカー、小売という分類はあくまで便宜的なもの

である。また、ヒアリング結果要約のコメント内容は基本的に一人称で記述している。

ヒアリング対象一覧

分類 ヒアリング企業・団体

素材

メーカー

(株)クラレ

共和レザー(株)

ミドリオートレザー(株)

帝人コードレ(株)

加平(株)

(株)東レ

大喜皮革(株)

製品

メーカー

(株)リーガルコーポレーション (株)タチエス

(株)サポートサーフェス カリモク家具(株)

日本ケミカルシューズ工業組合 神戸レザークロス(株)

鞄メーカー(名称非公開)

小売 (株)三越伊勢丹 百貨店(名称非公開) 量販店(名称非公開)

(株)シップス (株)東京デリカ 靴小売業(名称非公開)

(株)ディノス・セシール

66

企業名 (株)クラレ

所在地 大阪市北区角田町 8-1(大阪本社) 従業員数 3,365 名(単体)

企業プロフィール:

クラレが 1964 年に開発した「クラリーノ」は我が国で 初に量産・普及した人工皮革素

材である。現在は様々な派生ブランドを保有し、生産能力は 1,550 万㎡というレベルに達

している。(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

クラリーノの用途動向:

クラリーノの用途展開ウェイトとしては靴用が 50%程度、その他が 40%程度で、細かい

「その他」の用途としてはスポーツ用品や衣料等がある。残りの約 10%はランドセル用で

あるが、今や我が国のランドセル市場では天然皮革よりもクラリーノの方が圧倒的に高い

ウェイトを占めるに至っている。

それに比べると靴のマーケットは少なくとも紳士用革靴に関しては未だに「本革志向」

が根強いというのは事実であり、人工皮革は雨に濡れても大丈夫といった機能がむしろス

ポーツシューズなどの分野で積極的に取り入れられている。

靴用の流通チャネルは国内の場合は代理店などを経由した販売が中心であるが、北米な

ど海外大手メーカー向けの供給では靴メーカーに直接納めるというケースが多い。国内の

ランドセル用もやはり製造メーカー直接ということはなく、鞄素材の問屋や代理店を経由

した供給となる。

タンナー協業の背景と今後の可能性:

当社ではクラリーノ素材をイタリアのタンナーに提供し、仕上げ加工してもらった銀面

タイプの人工皮革を欧州のバッグメーカーなどに採用を働きかけるという取組をすでに始

めている。イタリアのタンナーが仕上げた人工皮革はその見た目や触感、風合い等々、通

常のクラリーノに比べても格段に本革に近いものになっており、高級ラグジュアリーバッ

グのブランドでの採用可能性はあると考えている。

欧州の高級ブランドバッグの素材としての採用を狙う背景にはやはり天然皮革の材料調

達難という事情が大きく影響している。原皮の調達難は世界的に共通した問題であり、イ

タリアのタンナーがクラリーノの仕上げ加工に取り組んだ理由の一つも、「仕事をしたくて

も材料が手に入らない」という彼らの切実な事情がある。イタリアでは皮革産業は斜陽ど

ころか成長産業と言ってもよいが、原料の調達には彼らも非常に苦労している。

今後多少の変動があるとしても、長期的に見て原皮供給が大きく増えたり価格が昔のよ

うに安くなるということは考えづらく、天然皮革の不足という状況が劇的に改善する可能

性は低い。そういう意味でクラリーノをイタリアのタンナーで加工し、欧州の高級バッグ

素材として採用を狙う当社の考えには「天然皮革代替素材としての、本革のような人工皮

革」という狙いがあるのも事実である。

67

こういった素材は通常の人工皮革の数千円/m といった価格レベルよりさらに高くなる

が、天然皮革の質感+天然皮革にない耐水性等の機能、さらに面取り作業が天然皮革よりず

っと効率的に行えるといった長所をアピールすれば十分欧州でのマーケット開拓可能性は

あると考えている。

イタリアのタンナーとの協業は欧州高級バッグ市場の開拓を前提としているが、日本の

タンナーと組んで国内需要開拓という可能性もあり得る。当社として国内のタンナーには

あまりたくさんの接点もなく、欧州での取組が先行しているが、前述の原皮調達難が日本

でも事情が同じであるという点を考えれば、将来的には可能性はあるといえよう。

クラリーノの今後の方向性に関する見解:

単純に「まるで本革のような人工皮革」というだけでは人工皮革は天然皮革に近づくこ

とは出来ても超えることは出来ない。天然皮革と遜色ない触感や風合いという点のクリア

はもちろんだが、そこに「天然皮革では実現不可能な機能」が付加されていることが重要

であろう。

溶剤を使う量や工程から出る汚染水の少なさなど環境へのやさしさ、あるいは動物を原

料としないといったイメージ的な側面も今後強まることはあっても弱まることは考えられ

ず、そういった意味でも天然皮革代替としての人工皮革の可能性は大きなものがある。

人工皮革の表示に関する見解:

上述のような長所を生かして人工皮革や合成皮革を天然皮革に代わる新しいレザー素材

として国際的に売り出し、世界でブランドイメージを高めるというのは日本の繊維産業や

皮革産業にとって有意義な取組であることは間違いない。

ただ、現状の皮革の素材表示はそういった考え方にマッチしていないという思いがある

のも事実である。現在の表示の仕方では人工皮革はいわば「合成皮革の一部」といった位

置づけに過ぎず、靴などの場合も合成皮革という表示は必要、人工皮革の場合は「そう表

示することもできる」という規定、逆に言えば「合成皮革という表示のままでもよい」と

いった内容で、天然素材に代わる新しい素材の表示既定としては不明確であるし、対外的

訴求力にも欠けると言わざるを得ない。

仮に新しい人工皮革を開発し、天然皮革代替素材として、たとえばジャパンハイテクレ

ザーといった呼称で海外にも積極的に売り出そうとしても、実際の靴などの製品につく表

示が「合成皮革の一部で、表示することも(しないことも)できる人工皮革」のままでは

アピール力も期待できない。天然皮革業界がこのままでは先細りは避けられず、人工皮革

や合成皮革を日本の皮革産業振興のためにうまく組み合わせるというのであれば、とりあ

えず現在の表示規定は改善の余地が大きいのではないかと認識している。

68

企業名 帝人コードレ(株)

所在地 大阪市中央区南本町 1-6-7 従業員数 約 200 名

企業プロフィール:

帝人コードレは繊維大手メーカー帝人の子会社であり、銀面タイプの人工皮革であるコ

ードレの製造販売を行っている。コードレはいわゆる銀面タイプの人工皮革主体の展開で

あり、銀面タイプ人工皮革メーカーは国内では同社とクラレ(クラリーノ)の 2 社となる

(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

人工皮革の用途動向:

大まかな用途で分けると、スポーツ関連用途(スポーツシューズ+ボールなど)が大体 7

割程度を占めており、残り 3 割が鞄やランドセル、靴、車両用といったウェイトになり、

スポーツ用途が占める割合が高い。ボールは重要な位置づけの用途である。現在すでにサ

ッカーボール、バレーボールなどは人工皮革を使うものが圧倒的であり、バスケットボー

ルでも人工皮革製が普及している。

こういったボールが天然皮革製から人工皮革にシフトしていった背景には純粋に素材と

しての機能が天然皮革より人工皮革の方が優れていたからであり、たとえば雨天でもボー

ルが水を吸って重くならないといったような、天然皮革にない機能を人工皮革が持ってい

たことが普及の要因といえる。

後述するように当社としてはコードレを「天然皮革代替素材」という部分を前面に出し

た展開を考えているが、そこでも単に「まるで本革のようである」という見た目や質感だ

けではなく、天然皮革にない機能、天然皮革では実現できない工程簡略化などを訴求する

ことで天然皮革代替としての市場も開けていくと考えている。

国際的な競合状況に関して:

「天然皮革にない機能を持つ人工皮革」というだけであれば中国や台湾、韓国などのメ

ーカーも作ることはでき、コストも日本製より安い。当社に限らず日本製の人工皮革は市

場の中でも高級・高品質ゾーンで高いシェアを持っている。あるメガブランドのメジャー

なスポーツ用途の靴では、高級ゾーンが全体の 15%程度あり、そのゾーンでは日本製人工

皮革のシェアが 8 割程度を占めている。今後も低~中クラスのボリュームゾーンでは外国製

の人工皮革が中心になると考えられ、日本メーカーとしては靴にしてもバッグにしても、

高級ゾーンでいかに需要を獲得していくかが重要になる。

タンナーとの協業の動向と今後の展開:

高級ゾーンを狙うという戦略の一つとして取り組んでいるのがタンナーとの協業であ

る。当社が組んでいるのは日本国内のタンナーであり、天然皮革と同じように染色工程に

樽を使ったり、手作業で革らしいムラを出したりすることで、これまでの人工皮革以上に

69

天然皮革に近い見た目と風合いを実現している。人工皮革でも工場で作った後に手を加え

ればそれだけ皮革素材らしい味が出るもので、タンナーの仕上げを経たコードレは天然皮

革代替素材としての市場を開拓し得ると考えている。

タンナーの仕上げ技術を導入し、より本革に近い人工皮革の用途として当社が想定して

いるのは靴である。これまでにも銀面タイプの人工皮革を使った革靴は存在したが、タン

ナーの手を経てより高い質感を持った素材を投入することで高級紳士靴など、天然皮革が

圧倒的に強かった分野で、天然皮革に代わる素材になり得る。タンナー仕上げのコードレ

を使った靴はすでに試験販売の段階まで進んでおり、本格的な販売も遠いことではない。

天然皮革代替素材としての可能性:

原皮の高騰や調達難が叫ばれる今日、天然皮革代替素材のニーズは靴や鞄等のユーザー

業界では強い。原皮の供給は屠殺される牛の数に依存するわけだが、これが今後大きく増

加するとは考えづらい。むしろ北米や欧州などでは減少傾向もあるとされており、特に良

質な子牛の皮の供給なども減っている。キップの皮はかつて 60 円/デシ程度といわれていた

が、現在では 100 円/デシくらいにまで上がっている。とすれば 1 ㎡では 1 万円ということ

になり、天然皮革のみに頼った原料調達は量的確保という点でもコストという点でも難し

くなっている。

原皮の供給量が現状レベルのまま推移するとすれば皮革産業にとっての原料不足が根本

的に改善する可能性も低く、皮革製品メーカーが天然皮革に代わる(あるいは補完する)

素材を求める状況も変わらないのではないかというのが当社の見方である。

日本製皮革製品のブランドイメージ形成:

日本製レザーが世界的なブランド力をつけようとすれば、やはり靴やバッグといった製

品で国際的に高い評価を獲得することが必要になる。

ただ、日本も靴であればリーガルとか、鞄であれば吉田鞄、土屋鞄等々、高い評価を得

ているブランドは存在する。また、ランドセルのように日本独自の皮革製品もある。確か

にイタリアなどと比べればまだ日本製皮革製品のブランド力は高いとはいえないが、「日本

製」ということが徐々に訴求力を持つようになっているのではないかという感触はある。

ただ、上述のように天然皮革業界は原皮調達難や価格高騰、さらに国内皮革業界の職人

不足や後継者不足など厳しい状況にあるのは確かで、少なくとも日本製の天然皮革製品に

ついては普及品より、完全にニッチトップ市場を狙った展開にならざるを得ないのではな

いか。

70

企業名 (株)東 レ

所在地 東京都中央区日本橋室町 2-1-1(本社) 従業員数 7,232 名(本社のみ)

企業プロフィール:

東レが扱う人工皮革の代表的なものはスエードタイプの「ウルトラスエード」で、これ

は過去「エクセーヌ」(日本・アジアで展開)というブランド名で知られていたが、現在は

ブランドが「ウルトラスエード」(グローバルに展開)に変更された。東レGとしては、上

記「ウルトラスエード」に加え、欧州関係会社のアルカンターラ社が製造販売している「ア

ルカンターラ」いう二つのブランドが用いられている。何れも地域は限定せず、それぞれ

グローバル展開している。(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

人工皮革の用途動向:

ウルトラスエードの用途は大きく分けると①自動車内装用、②靴、③衣料、④家具・イ

ンテリア、⑤工業材料、⑥その他といったところで、①は全体の 2 割程度だが増加傾向に

あり、その他に⑤の用途も増えている。⑤も増えている用途であり、たとえば各種のディ

スクの挿入口のカバー(防塵、遮光機能)などにもウルトラスエードが使われている。

逆にやや減っているのは③であろうか。アパレルの世界では人工皮革のように不織布ベ

ースにポリウレタン樹脂を含浸する等特殊な構造ではなく、織・編物をそのまま起毛処理

し、スエード調に仕上げた素材も多数存在し、品質もレベルアップしてきている。そうい

った素材は人工皮革より薄く、柔らかく、価格は遥かに安いため、特にカジュアル系衣料

などでは同じスエード調素材でもそういった安い競合素材が採用される例が増えていると

いう傾向はあるかもしれない。

ただ、今後の伸びる余地の大きさで言えばやはり①であろう。自動車内装材は耐久性、

耐光性、その他の機能性も重視され、さらに高級車市場では、ブランドイメージなども採

用に影響し得るため、単純な価格競争だけではないマーケットといえる。

ウルトラスエードの技術的特性:

日本の人工皮革の基材はナイロンを用いたものとポリエステルを用いたものがある。ナ

イロンを使った方が染色しやすいといった長所がある一方でポリエステル製の方が耐光性

などに優れているといった違いがある。ウルトラスエードはポリエステル繊維の不織布に

ポリウレタン樹脂を含浸し作られているが、カーシートなどの用途は前述の耐光性等の要

求スペックが高いため、ナイロン基材の人工皮革ではなかなかスペックインできないとい

う面がある。

現在、人工皮革市場で大きなマーケットを形成している自動車内装用需要が獲得できたと

いうのもポリエステル基材を使っていたという背景が大きく影響しているのは確かであろ

う。また、東レの場合はスエードタイプ一辺倒ではなく、ウルトラスエードに表面加工し

て銀面タイプにする場合もあるし、スエードと銀面の両方の質感を兼ね備えた新素材「ヌ

ー」などの試みも積極的に行っている。

現在、中国や台湾、韓国などに多くの人工皮革メーカーが存在するが、その多くはナイ

ロン基材の、しかも安さを売りにしたものが多く、自動車内装用や家具・インテリア用途

71

その他高級用途に使われるものは依然としてそのほとんどが日本製、イタリア製

(ALCANTARA)であろう。

マーケティング上の特性:

①ブランドイメージの形成

欧州のアルカンターラを含め、ウルトラスエードに関してはもはや世界中で「人工皮革

としての(あるいは天然スエードに代わる)素材」という売り方はしておらず、ウルトラ

スエードあるいはアルカンターラというブランド名そのものを訴求している。従って、ウ

ルトラスエードを天然皮革と比較する、あるいは「より天然皮革に近づける」といった考

え方もない。結果的にこういった方法がウルトラスエードやアルカンターラという素材ブ

ランドイメージ形成に寄与したといえる。

②グローバルマーケティング

欧州のアルカンターラ社と東レは、かつては「東レ製の人工皮革を欧州で、アルカンタ

ーラブランドで製造販売する会社」という位置付であったが、現在では製品開発やマーケ

ティングもそれぞれ独自に行っており、販売に関しても「欧州とそれ以外」といった地域

分けや用途分けも全くない。従って、時には東レとアルカンターラが競合する局面という

のも生じ得るわけで、こういったある種の「グループ内競争」が結果的にウルトラスエー

ド(アルカンターラ)の競争力の向上にも結び付いている。

タンナーの技術導入可能性:

ウルトラスエードに関して言えばタンナーとの連携という可能性は考えづらい。タンナ

ーの技術を人工皮革に応用するとすれば、それは天然皮革なめしのノウハウを人工皮革に

取り入れて「より天然皮革に近い」「まるで本革のような」人工皮革を目指すことになるで

あろうが、前述のようにウルトラスエード(あるいはアルカンターラ)は「人工皮革」あ

るいは「天然スエード代替」という売り方はしていない。

ウストラスエードを「天然スエードよりも優れた機能を持った素材」という考え方で売

る立場としてはタンナーと連携して「より天然スエードに近づける」といった必要性も低

い。タンナーと連携してより本革らしく、天然皮革に代わる人工皮革を、というのはやは

り銀面タイプの人工皮革の方にマッチする考え方なのではないか。

人工皮革のブランドイメージ形成について:

たとえば新しい人工皮革を日本製「ニューレザー」といった形で海外にアピールするの

はそれなりに有効であろうが、それがそのままインバウンド需要などに直結すると考える

のは難しいのではないか。

海外からの旅行者が日本のレザー製品に魅力を感じ、それを買いに来るとしても、実際

に買うのはバッグや靴であって素材そのものではあり得ない。そういう意味では海外需要

の取り込みといっても素材メーカーの努力だけでは限界があるのも事実で、まず靴やバッ

グ、アパレルといった皮革製消費財で「日本のあのブランドを買いたい」と思わせる日本

ブランドの出現が待たれる。

72

企業名 共和レザー(株)

所在地 浜松市南区東町 1876(本社) 従業員数 1,324 名(連結)

企業プロフィール:

合成皮革メーカーの大手である共和レザーは自動車用内装材をはじめとしてインテリ

ア・ファッション・生活資材用など、様々な合成皮革を手掛けている。特に「シルフィ」

という合成皮革は自動車用合成皮革として一つの到達点といえる品質を達成し、採用例も

多い。(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

カーシート用合成皮革の技術動向:

当社ではカーシート用だけでも様々な合成皮革を製造しているが、特に「シルフィ」は

本革に近い触感を持ちながら耐薬品性などの耐久性や形状追従性等にもすぐれ、カーシー

ト用合成皮革として一つのゴールになっていると言える。

シルフィは湿式合成皮革であるが、現在の業界の傾向としてはシルフィと同等の品質を

乾式合成皮革で達成し、しかもさらに低コストにすることがターゲットになっているとい

えるが、現状、 適なものが見つからずにシルフィを採用するといった例は未だに多い。

タンナーとの協業の可能性:

合成皮革の業界で天然皮革タンナーの技術を導入・応用するという可能性はほとんどな

いと言えるのではないか。合成皮革の製造は繊維製造と同じレベルの量産性や品質の安定

性、さらにコストなどが要求される。そんな合成皮革業界と、職人の手仕事的な側面が強

いタンナーの業界との間で技術的に組み合わせやすいとは考えづらい。

タンナーの技術をそのまま使えば確かに天然皮革に近い仕上がりの合成皮革を作れる可

能性はあるが、それが自動車用のようにかなりの量産規模を要求される製品全てに応用で

きるとは思えないし、品質のバラつきという懸念も生じ、さらにコストも確実に上がる。

つまり上述の「量産性・品質安定性・コスト」という三つの要素のどれについてもマッチ

しないということになる。又、過去に色々試行錯誤して別の方法で同様の表現ができる技

術が確立できているので協業の必要性は感じていない。

合成皮革に対するニーズに関する見解:

日系自動車メーカーの間ではカーシート等の内装材にウレタン系樹脂を使った合成皮

革、それも「本革に近い」物性・触感を持った合成皮革の採用は徐々に増えていると認識

しており、今後もこの流れが続く可能性は高い。

ただ、合成皮革の場合は単に「本革に代わる素材」としてだけではなく、そこにプラス

アルファとして付加できる機能が求められるのは当然であり、耐久性や耐水性等々、本革

にない様々な品質をクリアしている必要がある。ただ、「動物を殺さない」といった要素、

あるいは「環境にやさしい」といった要素がプラスアルファの機能として重要視されるか

73

というと、価格との兼ね合いになるというのが実情である。

自動車内装材用の合成皮革のユーザーは二つに分けて考える必要がある。それは当社に

とって直接の顧客にあたるカーメーカーと、その車を 終的に使うエンドユーザーである。

カーメーカーはどこも多かれ少なかれ環境への取組みを重視しているが、実際に車を購

入するエンドユーザーがその車のカーシート素材の環境要素を考えて購入の可否を判断す

ることはまず考えられない。近年は「溶剤を使わない合成皮革」など、環境要素を売りに

した合成皮革も現れており、そういった“環境価値”をカーメーカーが多少は評価する可

能性はあるかもしれないが、エンドユーザーに対してはほとんど訴求力を持たないという

のが実態といえよう。

合成皮革のブランドイメージ形成に関する見解:

合成皮革や人工皮革の世界でブランドイメージを形成し、世界に発信するのは容易なこ

とではあるまい。ブランドイメージというのは靴やバッグといった製品から生まれるもの

であって素材から生まれるものではない。たとえばそれ自身が素材として大したことのな

いものであっても「あの有名ブランドで採用された素材」ということになれば、素材その

もののステイタスやブランドイメージも向上する。実際、ルイ・ヴィトンのバッグでは塩

ビレザーが使われているが、「あのルイ・ヴィトンで使われている」というだけで見る側の

イメージは違ってくる。そういったブランドイメージの形成はカーシートでは難しく、や

はり靴やバッグといった消費財皮革製品ということになろう。

そういう意味では靴であれバッグであれ、あるいはアパレルであれ、まず合成皮革や人

工皮革を使った日本製の消費財が「製品としての高いブランドイメージ」を獲得する必要

があるが、それは繰り返すように容易なことではない。

国内の皮革製品業界に対する認識:

イタリアの皮革素材が国際的に高いブランドイメージを持っているのはやはりイタリア

のバッグや靴といった 終製品が優れているからに他ならないが、それと同じことが日本

で期待できるかとなると、難しいと考えざるを得ない。

これは日本の皮革製品のデザインや品質など特定の“要素技術”が悪いというより、そ

れらを含んだ皮革文化の差、あるいは革を使う歴史の差かもしれず、もしそうだとすれば

これは「埋められない差」なのかもしれない。

また、靴などの製品はシーズン性や流行にも大きく左右されるというのも素材供給側に

すれば難しい部分がある。たとえば若い女性の間でブーツが流行れば合成皮革メーカーに

も“特需”の恩恵があるが、キャンバス地の靴が流行れば完全にその逆ということになる。

ただ、近年はスポーツシューズで合成皮革を使ってブランド訴求している例もあり、そう

いった動きには注目している。

74

企業名 加 平(株)

所在地 大阪府泉南市日根野 4165 従業員数 71 名

企業プロフィール:

加平は合成皮革大手の一角を占めるメーカーであり、他社製の繊維製品に様々な樹脂加

工をほどこして合成皮革製品化する加工を得意としている。近年同社が開発したエコセル

という素材は水を使わない乾式で湿式合皮の風合いを実現したものとして車のシート材な

どに採用されている(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

合成皮革取扱い状況:

生産量はエコセル(自動車シート用)だけで月産約 40 万 m ほど。その他に乾式の合成

皮革などが数十万 m ほどある。主力商品であるエコセルはカスタマーから提供されるポリ

エステル基材にエコセル特有の樹脂加工処理をほどこしたものであるが、これ以外にも

様々な繊維メーカーなどから持ち込まれたテキスタイルや不織布に樹脂層形成処理を行う

ケースは多く、東レのエクセーヌに樹脂をのせて銀面タイプに仕上げるといった加工につ

いても実績がある。

エコセルの技術的特性:

エコセルの特性は一言で言えば「水を使わない製法で湿式合成皮革と同じ柔らかい風合

いを実現した合成皮革」と表現できる。湿式合成皮革は乾式に比べてソフトな風合いの素

材を作れるため、衣料や家具、ゴルフ手袋等の素材に広く使われるが、製造に際しては大

量の水を使い、排水処理も必要になる。

エコセルの 大のセールスポイントは湿式製法を経ずに表面に細かい発泡層を形成でき

ることで、触感や風合いは湿式と同等のソフトさを持ち、しかも水を使わないことで排水

処理なども含んだ製造コストは通常の湿式合成皮革に比べて安い。

前項で触れた月産約 40 万 m ほどのカーシート用エコセルはカスタマーから供給された

ポリエステルの基材にポリウレタン樹脂を含浸させ、発泡層を形成させたもので、カスタ

マーに納品後の(自動車メーカーに対する)価格は不明であるが、数千円/m レベルとされ

る人工皮革に比べれば半分以下のレベルになる。

海外合成皮革メーカーとの競争状況について:

中国などでは合成皮革メーカーが多数存在しているのは事実であり、しかも日中どちら

のメーカーも日本製の離型紙を使っているはずであるから、「革らしさ」をだすための表面

シボなどの点でも違いはないと言ってよい状態であるが、実際のところは中国などの合成

皮革メーカーを直接的な競合相手という捉え方はしていない。

たとえばカーシート用エコセルの場合、自動車メーカーからは加水分解 10 年といった長

い耐久性を要求されるが、中国の合成皮革メーカーでそこまでのクォリティのものを作る

企業はほとんどない。これは皮革の製造技術の差というより合成皮革に対する根本的な考

75

え方の差が影響していると考えている。中国においては全般的に「価格はとにかく安く、

製品が劣化したら取り換えれば(買い換えれば)いい」という考え方が強く、先に述べた

ような「加水分解 10 年」といった品質を追求するメーカーは少ない。そういった根本的考

え方が変わらないうちは、中国メーカーを脅威として捉えることはないのではないか。

タンナーとの連携可能性:

「タンナーのノウハウを合成皮革づくりに取り込む」のではなく、「加平がタンナーの天

然皮革仕上げ用の銀面加工膜を提供する」という逆のケースはすでに存在している。

天然皮革タンナーは現在どこも人手不足・後継者不足で、これまで職人芸に依存してい

た手加工も「出来る人がいない」というケースが増えている。天然皮革の表面仕上げのエ

ナメルスプレーなどもその一つで、天然皮革表面に手仕事で均等かつ美しくエナメルをス

プレーできる職人は少なくなってきている。

そこで、エコセルなどと同じ原理の発泡層の膜をタンナーが加平から買い、それを天然

皮革仕上げ膜として使うという例は実際に存在している。ただ、天然皮革の銀面仕上げ用

に使うわけであるから、取引量としては小さな規模にとどまる。

タンナーの仕上げ技術を合成皮革製造に応用しようとすれば、 大のネックになるのが

おそらく量産性ではないかと思う。天然皮革のタンナーという仕事は基本的に職人の手仕

事の世界であり、その手仕事をそのまま大量生産の合成皮革製造に組み込むというのは現

実的には考えづらい。高級・少量ロット生産の人工皮革等であれば可能性があるかもしれ

ないが、合成皮革の業界、特にある程度の量産規模が要求されるカーシート向けの合成皮

革で「タンナーのノウハウを導入して、“より本革らしい”素材」という方法論はちょっと

難しいのではないかと思う。

合成皮革のブランドイメージ形成について:

人工皮革の世界ではクラリーノやウルトラスエードなど、ブランドイメージの高い素材

もあるが、現実問題としてポリウレタン樹脂を使った合成皮革と塩ビの区別がつく一般消

費者はまだ少ないのが現状ではないはずで、そういった現状を考えれば合成皮革の世界で

ブランドイメージを確立し、向上させるのは容易ではない。

近、大手の衣料メーカーが合成皮革製ジャケットを売り出した例があるが、ためしに

買って自社の高温高圧室に入れてみたら一週間で表面樹脂が爪ではがれるほど劣化したと

いうケースもある。中国製の安い合成皮革素材を使って作られているとみられるが、消費

者の間に合成皮革=安かろう悪かろうというイメージが形成されてしまうと合成皮革の価

値自体が低くなってしまうのではないかという懸念もある。

76

企業名 大喜皮革(株)

所在地 兵庫県姫路市花田町高木 280 従業員数 20 名(含アルバイト)

企業プロフィール:

大喜皮革は姫路市にある天然皮革タンナーで、創業は江戸時代にさかのぼる。近年はバ

ッグや靴用などの天然皮革なめしだけではなく、インクジェットプリンタを使ったプリン

ト皮革やコットン基材に樹脂を含浸させた一種の合成皮革である「タンナーコットン」の

開発など、様々な新しい試みに取り組んでいる(以下、ヒアリング内容については一人称

で記述)。

タンナーコットンの特性、扱い状況:

タンナーコットンは合成皮革というより、新しい布素材の一つとして捉えている。コッ

トンという天然繊維を基材に使うことで、たとえば水を吸うという特性や(合成繊維は基

本的に吸わない)耐熱性など、合成繊維にない特性を持った素材として使えるのではない

かという考えが開発の背景にあった。天然皮革に比べてはるかに軽く、染めや型押しなど

の後加工もしやすいといったメリットがあり、さらに天然皮革タンナーのノウハウを生か

した表面処理をすることで本革に近いツヤなどを出すこともできる

ただ、その製品展開まだ決定的な大量販売先を見つけるには至っていない。タンナーコ

ットンは 4 年前から扱っているが、1 年目に約 2,000 万円程度あった扱い量も現在はその

1/4 程度になっている。用途開発や製品化は様々なユーザーと共に取り組んではいるもの

の、依然として模索状態が続いている。現在の用途ウェイトとしてはバッグ・鞄用途が 5

~6 割といったところで、それ以外ではインテリアや小物雑貨、さらにスニーカーなどの靴

用などにも使われており、海外メーカーでの採用例もあるなど、引き合いは多いが量や継

続性といった点はまだビジネスとして大きなものになっていない。

通常、天然皮革は当社でなめした後は革卸に納め、そこから縫製業者、さらに靴やバッ

グなどの製品問屋を経て小売店という販路をたどるが、タンナーコットンは当社の自主開

発素材であり、バッグメーカーの製品企画部門などと直接コンタクトしながらサンプル提

供や試作を行っているため、実際に納める場合は革卸を通すことはなく、直接製品問屋(あ

るいは製品問屋指定の縫製工場)に納めるというパターンが一般的である。

合成皮革・人工皮革へのタンナー技術応用の可能性:

国内の人工皮革メーカーが当社に完成素材や基材を持ち込み、当社の皮革加工技術と組

み合わせるという試みも数年前から複数のメーカーとトライしてきたが、基材に樹脂を含

浸させた際の痕跡が点々と残るといった技術的課題が解決しきれず、モノになっていない

のが実情である。

合成皮革や人工皮革に天然皮革タンナーの技術を取り入れるというのは可能性としては

あり得ると思うが、天然皮革なめしは基本的に手作業の世界であり、合成(人工)皮革の

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ような大量生産製品と比べればそのロットは何十分の一という開きがある。この手作業の

部分をいかに機械化できるかが問題になろう。

皮革産業の機械化に関して

革なめしという加工が本質的に手作業に依存した部分があるのは確かだが、なめした革

の仕上げの部分でこれまでにない機械化の余地はあるのではないかと考えており、たとえ

ばプリント工程をデジタル化して機械でプリントするといった方法は当社でも取り組んで

いる。現在革なめし加工はミャンマーやバングラデシュといった国にどんどん移転してい

るが、日本の高い人件費や環境対策コストなどを考えれば、純粋に原皮をなめし革にする

というビジネスではもはや価格的にこれらの国々に太刀打ちすることは困難といえる。

ただ、上述のデジタル化のような技術はこれらの国がまだマネできない領域のものであ

り、そういった部分に日本のタンナー業界が生き残る可能性があるのではないかと考えて

いる。

近年の事業環境に対する問題認識:

天然皮革タンナーにとっては非常に厳しい状況といえる。原皮の調達難や価格高騰もも

ちろん大きな問題であるが、天然皮革なめしという産業自体が日本では存続が困難になっ

ているという側面も大きい。

国内の和牛の原皮は大体半分は国内消費、半分は輸出にまわされると言われているが、

その調達コストはかつて 6,000~8,000 円/頭だったのが今や 9,000~12,000 円/頭というレ

ベルに達している。円レートが円安に振れたことで輸入原皮価の調達コストも相場そのも

のの高騰という要素を差し引いても軽く 2 割は上昇したことになる。

だがその一方で靴やバッグといった 終製品の売値は「安止まり」のままというのが現

状である。現在、国内のタンナーで加工している皮革は1デシ(10cm 四方)あたり 60 円

前後でなければやっていけないが、小売りサイドから求められる価格要求に応えるには 30

~40 円/デシ程度をクリアする必要がある。今後はそういった価格レベルのものは合成皮革

などの製品にシフトしていく可能性も十分あろう。

たとえば電器や自動車といった製造業では円安になったことで、海外で生産していたも

のを国内に回帰させるといった動きもあるほうだが、革なめし加工が円安になったからと

いってミャンマーやバングラデシュといった国から日本国内に戻ってくる可能性はまず考

えられない。

今後、国内の天然皮革産業は一般消費財というより“工芸品”、つまり非常に少量で高額

ではあるが、限られた愛好家の間でのみニーズがある素材のサプライヤーという形でしか

生き残れないという可能性も十分現実的なシナリオになりつつあるといえる。

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企業名 ミドリオートレザー(株)

所在地 渋谷区広尾 5-4-3(東京本部。本社は山形県) 従業員数 420 名(派遣含)

企業プロフィール:

昭和 21 年に山形県に設立された北洋皮革(株)が母体。その後ミドリ安全グループに加

わり 2007 年からはミドリホクヨーという社名であったが、2015 年 11 月に海外工場などと

のグローバルブランド共通化の狙いもあってミドリオートレザーという社名に変更。カー

シート向けや家具用皮革の製造・販売業として国内 大手であり、世界的にもビッグプレ

ーヤーの一角を占める(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

皮革製造・販売事業の概況:

当社の皮革販売量は月に大体 2,500 万デシ(1 デシ=10cm 四方。従って、100 デシ=1 ㎡で

換算すれば約 25 万㎡/月の販売量となる)ほどで、用途別にみると自動車用(カーシート、

ステアリング等)が 9 割、家具用が 1 割と自動車用が圧倒的ウェイトを占める。

扱っているのは 100%天然皮革(牛革)であり、主にブラジル、米国、豪州などの牛の皮

を現地でウェットブルー(クロム鞣しが終わった湿潤状態の革)にまで鞣し加工したもの

を購入し、自社工場で再鞣し・仕上げ処理を行ったあと裁断して日本国内のカーメーカー

や系列シートメーカーに出荷する。中国、メキシコ、ブラジルに同様の工場を有し、グロ

ーバルで顧客に納入できる体制にある。

現在、カーシート用皮革のグローバルサプライヤーは GST オートレザー(米国)やイー

グルオタワ(米国)、バーダー(ドイツ)など数社程度に限られており、当社はその中で 4

番手程度のポジションにある。

自社の特徴・強み:

原皮調達能力が当社の強みである。当社の原皮調達先を国別にみると 6 割がブラジル、3

割が中国であるが、この両国は原皮の生産では世界 1 位(ブラジル)と 4 位(中国)であ

り、それぞれの国に自社工場を持っているという海外ネットワークが当社の原皮調達能力

を支えている。

また、自動車産業で鍛えられた品質安定力、継続的コストダウン要求に応えるためのカ

イゼン活動もまた強みといえる。

合成・人工皮革に対する評価:

天然皮革の製造・販売事業を営んでいる当社にとって人工皮革や合成皮革とは競合素材

という関係になり、ビジネスで扱うことは全く考えていない。

第三者という立場で評価すると、人工皮革は特に銀面タイプにおいて見た目や触感など

の点で天然皮革との差が大きく、「本物(天然皮革)とは違う模造品」というマイナスイメ

ージも依然として残っているのではないかと感じる。

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そういう意味では人工皮革や合成皮革をさらに改良して天然皮革に近づけるといった取

り組みの意義もあるだろうが、天然皮革しか扱っていない当社としてはそういった開発に

興味はなく、技術の応用という観点でも特にコメントはない。

原皮調達難、価格高騰に関して:

カーシート素材は車のグレードによっても異なるし、高級車ゾーンになるとシート素材

も複数のオプションの中から選べるというケースが多い。高級車に使われる本革シートに

なるとトップクラスの品質のレザーが使われるが、こういった高品質な原皮の価格が高騰

しているのは確かである。しかし、天然皮革が人工皮革にどんどん置き換わっていくとは

考えづらく、カーシート分野だけをとってみても高級車などで本革シートを求めるニーズ

は今後も続くと考えている。

もちろん原皮不足・価格高騰といってもユーザーからの価格要求がそれほど緩くなるわ

けではなく、継続的なコストダウンが求められているというのが実情である。

グローバルネットワークの充実に関して:

先に触れたように、当社の強みは南米、北米、中国など主要な牛原皮産地に拠点を持っ

ていることであり、これが安定した原皮調達能力を支えていると同時に北米、日本、中国

という主要自動車マーケットを押さえる拠点となっている

ただ、自動車メーカーからはグローバルネットワークが求められており、当社の空白エ

リアである欧州市場、東南アジア市場での拠点づくりが課題となっている。

また、グローバルに工場展開していることから、 も優れた工場の生産技術を他工場に

移転していくことも大きな課題となっている。

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企業名 (株)リーガルコーポレーション

所在地 千葉県浦安市日の出 2-1-8 従業員数 219 人(連結 1,067 人)

企業プロフィール:

紳士靴、婦人靴、その他各種靴の製造、販売、修理を事業内容とし、REGAL SHOES を

中心に国内に約 140 店舗の小売店を構える。自社企画ブランド商品の他、海外ブランド商

品の販売も行う。(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

当社売上のおよそ 7 割弱はビジネスシューズを中心とする紳士靴が占め、主要な顧客層

は 40~50 歳代のビジネスマンである。残り 3 割の大半はプレーンなパンプスやヒールロー

ファーといった婦人靴で、数パーセントを七五三ほか特別なシーン向けの革靴などキッズ

製品が占めている。商品の価格帯は、主力のビジネスシューズが 2 万 5,000 円~3 万円前後、

レディスシューズが 1 万 5,000~2 万円前後となっている。原皮価格や人件費の高騰で小売

価格改定もあったが、心配したほどの大きな混乱はなく受け入れられた。比較的固定ファ

ンが多く、長期間の使用を考えればコストパフォーマンスが良いと評価されている。また、

このところ八重洲、銀座、日比谷といった都心の店舗では高額商品が伸びる傾向もある。

店頭での接客を重視していることもあり、ネット通販の取り扱いは今のところ少ないが、

当社のユーザーはサイズについての認識も深く、ネット通販での購入にも可能性があるた

め、ネット事業は今後の強化が必要だと考えている。

皮革素材の採用と、人工皮革の試み:

当社の商品は天然皮革素材が大半である。タンナーや革問屋との付き合いも長く、取り

扱いに慣れた素材といえる。高級感、独特の風合い、足になじむという特性などが天然皮

革の優位性としてあげられる。

合成皮革素材はレインシューズなど量的な扱いは極わずかでその用途も限られている。

合成皮革の採用は撥水等の機能を求めた結果で、低コストが理由になることはほぼない。

人工皮革素材については、現在紳士用のビジネスシューズでパイロット的に取り組んで

いる。国産の銀面タイプの人工皮革をタンナーで仕上げ加工することで、より天然皮革に

近い風合いを持たせたもので、素材メーカーとの数年の開発を経て靴クリームで艶が出る

ほど天然皮革に近い表面感を実現した。ただストーブや焚火付近のような高温などの耐熱

性では天然皮革に及ばない部分はある。

商品価格は税込み 2 万円前後を想定している。天然皮革であれば 25,000 円前後になると

ころだが一段低めに抑えている。素材のコストとしては実際には天然皮革とさほど変わら

ないが、今後の認知度向上のため戦略的に設定した価格である。

全ての素材の採用時には業界内でもかなり厳しいと自負する当社の材料試験が適用さ

れ、屈曲や磨耗、堅牢度等々、さまざまな項目について自社内のテスト環境で確認する。

そこを通らないと量産化には至らないため商品開発には時間がかかるが、固定客からの信

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頼を維持するためには必要なプロセスだと考えている。

消費者の皮革素材への認識:

天然皮革は高級素材で、合成皮革は低価格というのが一般的な認識であり、「リーガルと

いえば革靴」というイメージも強いことから、当社の製品では 初から天然皮革素材であ

ることが顧客にとって前提となっていると考えられる。店頭ではイタリアンカーフなど特

別な素材の使用時は紹介することもあるが、基本的にタグには原産国表示のみで天然皮革

という素材の記載はしていない。ただしゴアテックスなど高機能の素材ブランドは、機能

訴求という目的でタグをつけることがある。

POP やタグ等についてはトレーサビリティ等が重視され始めており、今後は消費者から

の要求も高まることが予想される。また、色落ち等のリスクを示すデメリットシールもあ

る。天然皮革製品購入に際して敷居が高くなりがちな手入れ方法については HP で解説し

たり、リーガルカレッジなど販売員教育の場を設けたりしている。

商品企画開発の流れ:

9 月に開催されるイタリアのリニアペッレという皮革素材展示会でのリサーチが具体的

なスタートになる。そこでのトレンド情報や、他の展示会やショールームの素材なども検

討して、タンナーからサンプル革を入手し、素材の検査と平行して自社で製品サンプルを

試作する。サンプルは数回の調整を経て、検査を通れば提携工場で量産化となる。シーズ

ン MD には半年以上かかる場合も多いが、前述の人工皮革を使用した紳士靴などでは素材

メーカーと素材開発からの取り組みなどを経て数年かかることもある。

原皮価格高騰の影響:

ここ数年の原皮価格の高騰は小売価格改定の要因となるとともに、品質の安定性にも問

題が出ている。天然皮革素材の調達難は、前述の人工皮革素材採用の大きな要因になって

いる。このままの状況が続けば、人工皮革に限らず合成皮革でも新たな加工で天然皮革の

代替とする可能性もある。天然皮革以外の道を模索することには社内でも議論があったが、

天然皮革の調達難にはそれほどの危機感がある。

インバウンド需要:

免税対応も増やしており、中国、台湾、タイといった国々の観光客を中心に数寄屋橋な

どの店舗や、りんくう、沖縄、御殿場のアウトレットなど観光地や空港に近いところで売

上が伸びている。メンズシューズが強く、クラークスなど有名ブランド商品も好調である。

特にインバウンド向けの商品企画は行っていないが、中国でのビジネスでは現地百貨店イ

ンショップやネット通販向けの企画を一部採用している。

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企業名 (株)タチエス

所在地 東京都昭島市松原町 3-3-7(本社) 従業員数 9,839 名(連結)

(平成 27 年 3 月末現在)

企業プロフィール:

1954年設立の同社は特定の自動車メーカー系列に属さない独立系カーシートメーカーで

あり、納入先はほぼ全ての日系自動車メーカーをカバーすると共に、一部中国自動車メー

カーとの事業も展開している。生産体制は国内 6 工場のほか、アジア、北米、南米、欧州

などに世界中にシート工場、フレーム工場、縫製工場、さらに開発拠点など、多数のグロ

ーバルネットワークを整備しており、中国だけでも工場や子会社、関連会社の数は 15 にの

ぼる(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

カーシート素材の使用ウェイト:

当社が生産しているカーシートの数はグローバルレベルで捉えれば年間数百万台という

レベルになるが、使っているカーシート素材を大ざっぱに分ければ、大体 7 割がクロス製

であり、残り 3 割が革製という比率になる。この 3 割の革製シートをさらに分ければ大体 6:

4 で天然皮革の方が多く、合成皮革は 4 割程度なる。ただ、それは「約 6 割のシートが本

革製で残り約 4 割が合皮製シート」ということではない。

「全て天然皮革製」あるいは「全て合成皮革製」というカーシートは現実にはほとんど

ないと言ってよく、たとえば「肌に触れる部分は天然皮革、それ以外のサイド部分などは

合成皮革」といったように一つのシートでも両方の革が使われる。つまり革製シートはほ

ぼ全てが天然皮革と合成皮革の“ハイブリッド”であり、こういったシートで使われる革

材料のウェイトが大体 6:4 で天然皮革の方が多いということになる。

天然皮革・合成皮革に対する評価:

性能という点だけでいえば、本革と合皮の差はないか、むしろ合皮の方が耐水性や耐久

性等々の性能面ではすぐれていると言ってもよい。

また、材料を使う上での効率性も合成皮革の方が高い。天然皮革は使う部位によって出

来上がりに差が出ることもある。たとえば、牛の腹側の革を使うと皮が伸びてたるみにつ

ながることがある。それを防ぐには伸びにくい背中側の革を使えば良いが、そうなると今

度は価格が高くなる。その点、合成皮革は天然皮革と違って品質にムラはなく、面取り・

裁断工程などでの効率も高い。

それらの点を考えればシートメーカーとしては素材性能、材料品質の安定性、材料コス

トや使用効率等々、様々な面で合成皮革の方が良いということになるが、それでも天然皮

革を使うのは、結局、車を販売する際のカタログに「革製シート」という文字を入れて高

級感を訴求したいという、その一点に尽きると言っても過言ではない。

カーシート素材の選択の現状:

カーシート素材の選択は基本的に納入先であるカーメーカー側から提示される仕様や価

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格がベースになり、さらに顧客と当社の間の協議によって細かく詰めていくという形が一

般的なパターンであり、協議の中では牛のどちら側(背か腹か)の皮を使うかといった細

かい点まで決める。

もちろん、カーメーカー側のコスト要求は厳しいものがあるのは確かだが、「革製シート

とカタログに載せたい」というのは当社よりむしろカーメーカー側の思いであり、天然皮

革を使いたいが使えばコストが上がること、昨今の原皮価格が高騰していることなどは顧

客側も理解している。そういう意味では原皮価格の高騰が当社の事業に深刻な影響を与え

ているといった認識は持っていない。

エンドユーザーのニーズについて:

日本のカーユーザーは中国や北米ほど“本革志向”が強いわけではないだろうが、それ

でも上述のようにカタログに「革製シート」と載せた方が高級イメージをアピールできる

ことは確かである。ただ、こういった傾向は徐々に変化しているはずであり、長期的には

“本革志向”といったものは若い層から少しずつ希薄になっていくのではないか。中国も、

現在は本革志向が非常に強い国と見なされているが、今後中国で車を保有することの大衆

化が進んでいけばシート素材に対するニーズも変わっていく可能性がある。

カーシートにおける表示基準について:

日本のカーメーカーがカタログに「革製シート」と記載する上での基準、たとえば本革

使用比率が何割以上でなければならないといった統一基準があるという話は聞いたことが

なく、自動車業界の内規のような形で決まっているのかもしれない。靴やバッグのような

消費財とカーシートを同列に比較することは難しいが、仮に、今後新しい人工皮革素材な

どをカーシート用に普及させようとするのであれば、そういった表示基準などもある程度

クリアにしておく必要はあろう。

新しい皮革素材に対する期待:

手作り感よりも品質の安定性と高い量産性が要求されるカーシートの世界では「タンナ

ーの手作り感を生かした合成皮革」といった素材はマッチしづらいであろうが、タンナー

との協業ということにこだわらず、新しい人工レザー素材に対する期待感はある。

重要なのは天然皮革では不可能な機能を有した素材であることで、たとえばプリントの

しやすさとか、キルティング加工が可能であるといった、本革では不可能なシートづくり

を可能にする素材であればニーズは生まれる。また、「軽量」という要素も自動車業界では

依然として重要なスペックであることも考慮に入れるべきであろう。

そういった新素材を「皮革」という名称すら付けずに、「本革」「合皮」に次ぐ第三の素

材といった形でブランドイメージを確立できれば、世界市場というレベルでも普及が期待

できるのではないか。

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企業名 (株)サポートサーフェス

所在地 東京都渋谷区東 4-9-15 従業員数 6 名

企業プロフィール:

デザイナー研壁宣男氏によるアパレルブランド。1999 年立ち上げ、2006 年から東京コ

レクション参加。全国の百貨店やセレクトショップ向けに卸販売を行う。本ヒアリングは、

デザイナー研壁氏にご協力いただいた(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

ブランドについて:

コートやジャケットといった重衣料を得意とするレディースブランド。商品の販売価格

帯は、コートで 8~20 万円。全体を平均して 4 万円前後と比較的高額ゾーン。立体裁断に

よるカッティングが特徴的で、購入支持層、卸先も幅広い。

皮革素材の採用状況と、皮革素材採用製品製造の流れ:

天然皮革は、靴、ベルト等で牛革を採用している。衣料品ではレザージャケット等で採

用経験があるが、ここ数シーズンの取扱いはない。靴については全製品、ベルトは 7~8 割

を天然皮革が占める。自社でデザインを起こし、提携するシューズメーカー、ベルトメー

カーのアドバイスを得て、 終的なデザイン、仕様を決定する。素材に関しては各メーカ

ーからイメージに沿った提案があり、そこから選択する。採用には、色や素材感といった

デザイン面での選定の他に、資材メーカーを通した小ロットでの対応や素材手当のタイミ

ングに対するストックの安定感等も考慮の対象となる。合成皮革を採用したことはないが、

人工皮革は、コートやワンピース等の衣料品で「ウルトラスエード」を採用しており、一

部ベルト等にも使用している。

皮革素材に関する認識、イメージ:

国内縫製でレザージャケットを製造した経験があるが、衣料品に採用することを考える

と、天然皮革は原皮価格、縫製代とも高く、ここ数年は更に高騰している印象がある。一

般的な革ジャンが 4~6 万円程度と仮定して、日本製では安くて 10 万円、中心価格帯はそ

れ以上と考えられる。自社で想定する場合は、コートで 35 万円、ジャケットで 15 万円程

度が考えられるが、そこまでの価格で製造しても、消費者に求められているとは考えにく

い。購買層が非常に限られる製品になるだろう。人工皮革については、現在採用している

が、素材の価格は高い。人工皮革の良さは、天然皮革特有の形状の制限から生まれるカッ

トロスもなく、大きなパーツでも自由に設定できる点がある。また、素材への加工にも様々

な可能性があり、天然皮革に比べ自由度が高い。将来的には、天然皮革とは違った経年変

化の可能性もあるだろう。水に強く、洗濯等イージーケアである点も優れている。

靴やベルト、特に靴においては、「革靴」が基本であり天然皮革の採用が当然のイメージで、

いまのところ合成皮革の採用は一切考えていない。合成皮革は素材として耐久性が低い印

象がある。

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消費者による皮革素材の認知状況:

消費者は天然皮革か、それ以外かという認識はあっても、合成皮革と人工皮革を分けて

考えてはいないのではないか。採用している「ウルトラスエード」についても、購入前か

ら知識があるようには感じない。人工皮革については、パッと見て消費者に高価格な理由

が伝わりにくいところが課題と言えるのではないか。

また、天然皮革素材の衣料品に対しては、品ぞろえとしての単純な要望はあるが、前述

のような販売価格では受け入れられないのではないかと考えている。

皮革素材採用の今後の可能性:

天然皮革については先に述べた通り原皮の高騰に加え、特に衣料品の分野で、国内縫製

工場の工賃高騰があり、今後も簡単には扱えない状況である。靴に関しては、衣料品同様

に製造コストも日本では高いが、コートなどの重衣料に比べれば皮革の使用量が少なく、

原皮価格高騰の影響が相対的に低いことや、「革靴」の定番性から引き続き採用するだろう。

また、人工皮革については、ボンディング素材でコートを制作するなど、採用歴は 2~3

年になる。パンチングで穴をあけたり、プリーツ加工をしたり、表面の光沢感を調整した

りといった加工の面白さがあり、天然皮革の代替ではなく、別のジャンルの素材として考

えたほうが魅力を引き出せる可能性がある。レザータッチとして1つの切り口を設定する

のは必要だが、天然皮革に近づけることだけが究極に目指すべきところとは思わない。天

然皮革にヒントは得ていても、 終的には違う表面感や風合いを実現するなど、まだまだ

工夫の余地があるように感じる。

合成皮革や人工皮革については、天然皮革のように経年変化による味わいや魅力が出な

いという印象がある。天然皮革と同じ様な経年変化を無理に実現することには、それほど

価値があるとは思わないが、いつまでも新品のようではなく、天然皮革とはまた違った形

での馴染み感や、こなれ感が加わっても面白いのではないか。

合成皮革や人工皮革については、実際の素材の良し悪しもあるが、素材としてのイメー

ジも改善の余地があるのではないか。一般に使用されるフェイクレザーという言葉では、

いかにも偽物という雰囲気があるが、例えばイタリア語ではエコペッレ(エコロジーレザ

ー)というクリーンなイメージの用語があり、天然皮革とは違った価値が上手く PR されて

いる。

店頭や、広告の場における皮革素材製品の PR 状況:

人工皮革といった素材表示はつけているが、特に皮革素材の PR になるようなタグ等はつ

けていない。採用した人工皮革がどういうものか、素材としての高級感や、イージーケア

性などについては、店頭で説明できるよう販売員教育をしている。

インバウンド需要:

国内での販売について、インバウンド需要の影響は具体的な情報がない。なお、買い付

けについては、中国のセレクトショップなどから受注している。

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企業名 カリモク家具(株)

所在地 愛知県知多郡東浦町大字藤江字皆栄町 108 従業員数 800 名

企業プロフィール:

1947 年創業の家具メーカー。1980 年代から本革使用のソファなどに取り組み始め、現

在では高級レザー家具では国内でもトップクラスの評価を持つ。小売は行っていないが全

国に 23 か所の自社ショールーム、3 か所のアウトレットを持つ(以下、ヒアリング内容に

ついては一人称で記述)。

皮革素材の使用状況:

リビング用ソファとダイニング用チェアとで表面素材の使用状況は大きく異なる。ダイ

ニング用の椅子は座面に適度なグリップ力があって体がずりずり落ちづらい、あるいは汚

れをふき取りやすいといった要素が求められるため、本革よりもむしろ滑りづらい布調の

合成皮革やスエードタイプのラムースなどがよく使われる。カバーをとりはずして洗濯で

きるという点では、水洗いできる布もユーザーの支持を得ている。

一方、リビング用ソファは深く体をあずけるため、体のズリ落ちなどは考える必要がな

く、本革製ソファが多く、一部ラムース張りなどの人工皮革製もある。ただ、当社の場合

天然皮革ソファでも「天然皮革、外側合成皮革」という、いわゆる“合わせレザー”のソ

ファが多く。これは体が触れる部分は天然皮革を使い、背面や側面など体に接触しない部

分には同色の合成皮革を使うというタイプである。総天然皮革張りであれば 60 万円くらい

するソファでも、合わせレザーにすることで 30 万円程度に価格を抑えることができるし、

天然皮革を求めるユーザーでも側面や背面には合成皮革を使うことに抵抗感はない。

家具素材選択のポイント:

当社では主に北米産原皮を使い、長く付き合っている姫路のタンナーでなめしてもらっ

ている。原皮価格高騰の影響は確かにあり、2014 年、2015 年と続けて製品価格の改定を

行っている状態であるが、会社としては依然として天然皮革へのこだわりを持つ。

家具は使用年数が長いため、人工皮革や合成皮革は見た目や触感に加えて耐久性が重要

な選択ポイントになる。ウレタン系の人工皮革やソフトレザーなどを使った経験もあるが、

発泡層が剥離したケースもあるし、長繊維の基材を使った人工皮革でピリング(中の繊維

が表面で毛玉になる状態)が発生したりといったように、長く使っているうちに思わぬ経

年変化が発生するケースがある。その点、天然皮革は「確かな素材」だという認識は強い。

上述のラムースは同じ人工皮革でもピリングといった問題も起きず、スナッキング(猫

のひっかき等による繊維のほつれ)にも強く、家具としての長い使用に耐える素材といえ

るが、ラムースのメーカーに同じ系列のハウスメーカーがあり、そこでの販売に強いとい

うことも大きい。

また、 近の家具メーカーはソファでも使用素材に応じてモデルを作り分けているとい

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う部分もある。天然皮革は空気抜けが悪いため、モールドウレタンの中身と組み合わせて

しっかりした座り心地のソファを提供しているのに対し、人工皮革や布製のソファは空気

層を含んだ中身にしてふっくらした感触のソファにするといった工夫をしている。この辺

はユーザーの好みの問題であるが、中には「革の匂いが苦手」といったユーザーもおり、

そういった様々な顧客ニーズに対応するために、リビングソファだけでも様々な表面素材

を使った製品ラインナップを揃える必要があると言える。

新しい皮革素材に対する期待・懸念:

新しい合成・人工皮革の開発は家具メーカーにとって製品開発の可能性を広げてくれる

ものではあるが、当社に関して言えば新しい素材の導入に慎重になる可能性が高いのも事

実である。

その大きな理由は一般的な皮革製品に比べてレザー家具の耐用年数が非常に長いことに

ある。同じ靴を 5 年・10 年と履き続けることは考えられないし、バッグであっても 10 年

使い続けるというケースは少ないであろう。しかし高いレザー家具となればユーザーは軽

く 10 年は使い続けるわけで、15 年後に予想もしなかった形で素材が経年変化すれば、そ

れは家具メーカーである当社へのクレームとなって返ってくる。

当社ではユーザー保証は 3 年間であり、それ以降は基本的に有償による修理ということ

になるが、保証期間を過ぎているとしてもメーカーとしては素材上の経年劣化といった問

題は回避しようとする。そうなると、仮に画期的皮革素材が新たに開発されたとしても、

その採用には慎重になるのは致し方ない部分があるといえる。ただ、インテリアは雰囲気

が決め手でもあり、素敵感のある表情の革は積極的に検討しなければならない。

我が国の皮革産業支援策に関する見解:

平面素材である皮革や布を立体に張り上げる椅子張りというのは高い技能を要求される

仕事であり、椅子張りという技能は国家資格になっている(椅子張技能士)。

こういった公的な技能検定は国内の技術レベル維持や技能伝承などと同時に、本人の処

遇にも反映され、職人のやる気やプライドも高めてくれる。何の技能も持たずに当社に入

った若者も経験を積んで技能検定に挑戦する例は多いが、そういった技能伝承や技術レベ

ル向上努力が「レザー家具ではカリモク」という評価にもつながっているといえる。そう

いう意味では椅子張りに限らず、革なめしや靴づくりなど、職人不足や後継者不足が叫ば

れる国内の技術を国家資格としてオーソライズし、技術伝承・職人増加を図ることも重要

ではないかと思う。

ジャパンレザーといったブランドを打ち出して日本製皮革を海外にアピールし、拡販を

図ることも確かに重要ではあるが、まず国内で支持されなければ海外でも売れない。ブラ

ンドプロモーションだけではなく、技能伝承や後継職人育成を国としてバックアップして

いくことも大事ではないかと考えている。

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企業名 日本ケミカルシューズ工業組合

所在地 神戸市長田区大橋町 3-1-13 組合員企業 85 社(2015.9 末現在)

組合プロフィール:

神戸を中心に全国の合成皮革製靴メーカーの業界団体として 1957 年に設立。60 年代は

市場拡大期で輸出も多かったが、その後徐々に組合員企業は減少。現在の組合員企業のう

ち約 4 割は天然皮革製靴メーカーで占められ、合成皮革(および合成皮革+天然皮革両方)

のメーカーは 6 割ほどに減少している(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

靴業界における素材選択の現状:

当組合に入っている靴メーカーで製造している靴は基本的には全て OEM であり、ブラ

ンドを持つ会社あるいはその下の靴問屋からの要求仕様に基づいた形で製造することにな

る。従って仕様はトップダウン型で決められ、しかも「 初に上代ありき」という感じで

まず価格の上限が極めてハッキリしている。

価格要求をクリアし、さらに要求される仕様やデザインに応えるための素材を調達する

ことから、素材選択の幅は非常に限られていることになる。もちろんデザインや仕様の決

定も販売ブランド(あるいは問屋)サイドが決めるため、靴メーカーが独自に「こういう

靴を作りたいからこういう皮革を選ぶ」という局面はほとんどないと言ってよい。

合成皮革製靴に対するニーズ動向について:

靴の場合、大ざっぱに言って販売価格で 1 万円というラインが合成皮革と天然皮革を分

ける境界線といえ、1 万円超なら天然皮革、以下なら合成皮革が中心という品揃えになるが、

消費者はやはり価格重視で素材の違いはあまり意識していないのではないか。ただ、百貨

店などの販売チャネルでも神戸大丸から始まったケミカルシューズフェアーが好評で全国

の大丸松坂屋で実施するようになったり、大丸松坂屋が合成皮革の PB ブランドの靴を販売

するといった動きもあり、合成皮革靴に対する販売サイドの見方も徐々に変わりつつある。

製造サイドから言えば合成皮革は裁断がしやすい素材であるといえる。クオリティが均

質であるからたとえば 4 枚重ねで裁断することもできるわけで、そういう意味で効率は良

い。ただ、成形性やシワのとりやすさといった点ではやはり天然皮革の方が優れた物性を

持っているのも確かで、仮に人工皮革や合成皮革で「より革に近い物性」を持った素材が

出てくれば、しかもそれがコスト的に見合うものであれば、靴製造という立場から見れば

ニーズは十分あるのではないかと思う。

靴マーケットの特性と素材業界への影響:

一方で靴製造は流行の変化による影響をうけやすい業界であるのも確かであり、たとえ

ばかなり以前の話になるが「アムラー」が流行った頃は厚底のブーツが大流行し、それに

よって神戸の靴業界もかなり潤った面がある。

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ただ、こういった流行の影響があるのは確かで、紳士用革靴のように天然皮革を使った

靴は定番という性格が強いため、流行に左右される部分が少なく安定しているのに対し、

主として女性用の合成皮革を使った靴は流行の影響を大きく受ける。

また、たとえば中国・東南アジア方面で生産した安価な靴であれば買う方でも「ワンシ

ーズンもてばいい、来年はまた新しいのを買う」という意識があるのも確かで、そういう

意味では合成皮革製の靴に対する耐久性要求レベルも天然皮革に比べればかなり低いとい

える。

靴業界の人工皮革に対する認識:

ケミカルシューズ、つまり天然皮革以外の素材を使った靴のメーカーが合成皮革と人工

皮革の違いを明確に認識し、区別して捉えているかとなると、現状はあまり違いを認識し

ていないのではないかと思う。

靴メーカーの間では今のところ「本革か、本革以外の素材(合成皮革+人工皮革)」とい

う認識が一般的のはずであるから、靴メーカーが「合皮」と言う場合はそこに人工皮革も

含めて捉えているということになる。

TPP の影響に関する懸念:

TPP 合意 12 か国の中で、日本に対する靴の輸出が増加する可能性があるのはベトナムく

らいで、日本の靴業界への影響は少ないという予想が業界内では一般的だが、靴の輸入と

いう製品レベルではなく、原皮あるいは畜産という部分にまで拡大して考えると二次的な

影響があるのではないかという懸念もある。

現在、原皮の調達難は世界的な問題となっており、天然皮革の靴を作っている当組合の

企業も原料調達には非常に苦労している。ただ、牛の皮は 100%輸入というわけではなく、

国内で屠殺される牛の数もそれなりにあり、業界にとっては貴重な国内原料調達ルートに

なっている。

もし TPP の影響で国内の畜産業がダメージを受け、国産牛の数が減少するといった事態

になればただでさえ原料調達に苦しむ皮革業界が貴重な国産原皮調達も難しくなるという

ことにもなりかねず、そうなれば業界のうける影響も大きい。

また、ブランド牛の問題もある。神戸牛に代表されるように国産牛はどんどん「高級ブ

ランド化」が進んでいるが、そういったいわゆるブランド牛の皮は一般的な牛原皮より薄

く、靴の原料には向かないといわれている。TPP で増加する安い牛肉の輸入に対抗するた

めに国産牛は「高級ブランド化」で差別化を図るという動きが今後加速することが考えら

れるが、それもまた原料調達という点で靴業界に影響を与える可能性がある。日本の皮革

産業振興を考える時は、国内畜産業の変化による影響といった部分にも目配りした上での

検討が求められるのではないか。

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企業名 神戸レザークロス(株)

所在地 台東区東浅草 1-8-11(東京支店) 従業員数 700 名(アルバイト含)

企業プロフィール:

靴用やインテリア用など、各種用途向けのレザー素材等の卸、さらに自社の靴ブランド

「エスペランサ」による靴の製造・小売や、OEM 生産など、素材から小売りまで幅広く靴

ビジネスを手掛けている(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

素材別の靴販売・ニーズ動向:

当社の靴に関して言えば天然皮革の靴が占める割合は売上のごくわずかであり、大半は

「本革以外の靴」で占められ、本革以外の素材としては合成皮革・人工皮革などのレザー

系素材と布素材がほぼ半々といえる。

合成皮革や人工皮革について言えばほとんどは国内メーカーからの調達であり、海外製

の輸入合皮(人工皮革)は 5%程度である。

海外製合成皮革素材に対する評価:

たとえば中国製の合成皮革であれば国内の合皮に比べて価格は 1/2~1/3 というレベルで

あり、価格競争力は圧倒的に高い。ただ、中国製の素材は品質が問題になるケースや品質

管理そのもののレベルが問題になるケースも少なくない。

品質管理というのはたとえば不良率であったり製造日管理といった部分で、たとえば品

物が届いてみたら製造日が非常に古く、在庫になっていたものだったという例もある。合

成皮革は年月で加水分解などの劣化が進む可能性があるため、製造日管理がルーズである

ことは問題になる。ただ、安い靴を買ってワンシーズンだけ履けばよいといったニーズに

応える靴であれば品質が日本製より劣ったとしても中国製の安い合成皮革で十分なのも事

実である。

靴業界から見た人工皮革評価:

同じ人工皮革でもそのタイプによって靴業界から見た評価はかなり異なる。人工皮革を

三つのタイプに分けた場合、スエードタイプ(エクセーヌやラムースなど)とエナメルタ

イプ(クラリーノエナメルなど)の二つに関してはもはや天然皮革との差はないと言って

よく、別の言い方をすればスエードとエナメルについてはもはや「天然皮革でなければな

らない理由はない」ともいえる。

ただ、クラリーノやコードレといった銀面タイプの人工皮革に関しては見た目や風合い

といった面で天然皮革との差はある。銀面タイプ人工皮革はゴルフシューズなどの分野で

はかなり使われているが、紳士用革靴などになると依然として「天然皮革でなければなら

ない理由がある」といえる。

そういう意味ではクラレや帝人といった銀面タイプのメーカーがタンナーの仕上げ技術

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を導入してさらに天然皮革に近い皮革素材を提供することに取り組んでいるのは重要な取

組といえる。そういった人工皮革は当然これまでより高いものになるであろうが、仮に 50

円/デシ程度であったとしても、天然皮革よりはまだ安い。銀面タイプで天然皮革と差がない

人工皮革があれば、スエードタイプなどと同じように天然皮革代替としての需要が生まれ

る可能性はあるといえよう。

インバウンド需要に対する見解:

当社の小売部門ではすでにインバウンド需要の高まりを数年前くらいから実感してい

る。靴という商品は「足に合う」「履き心地」といった部分が重要で、バッグなどのように

デザインがいいからすぐ買うという性質のものではないが、自分の足に合うものを一つ見

つけたら同じサイズの色違いもまとめ買いしていく外国人客も多い。

当社では 3 年ほど前から婦人靴などの一部に「Tokyo Japan」といった文字を入れている

が、これも主にアジア系外国人客に日本製の靴であることをアピールするためで、昨今の

訪日旅行者の増加でそういった取組の効果はさらに高まっている。

ただ、中国人客についていえば「本革か人工(合成)皮革か」の違いがそのまま「本物

かニセ物か」という評価に直結している部分もあり、一口に外国人客といってもそのニー

ズには国による差も少なくない。

現在のような来日旅行者増加が続けば、靴やバッグといった国産の皮革製品でのインバ

ウンド需要は今後も続くと見込める。ただ、これが靴の輸出に結びつくかとなると単純に

「日本製の品質やブランド」だけでは評価できない部分も多い。

たとえば関税という要素も無視できない。中国などは靴の輸入に対して関税がかかり、

その分日本製の靴が不利になるのは否めない。一方 EU との EPA が締結され、イタリアな

どから靴の輸入が増えるようになると、ただでさえ苦しい国内の靴業界がさらに難しい局

面を迎える可能性もある。

靴業界の現状に関して:

浅草周辺にたくさんあった靴メーカーも今やかなり減少し、10 年で 1/3 程度になったと

言っていい。同様に靴職人の数も大きく減っているのが現状であり、当社のグループに属

する靴学院への入学者も非常に少なくなっている。国内のタンナー業界と同じような事情

は靴業界にもあると言ってよい。

そういった業界動向に加え、天然原皮の調達難といった市場環境の悪化も業界の苦境に

拍車をかけているのが実情であり、先に触れたような天然皮革代替となり得る銀面タイプ

の人工皮革素材の登場は業界としても期待したいところである。

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企業名 非公開(鞄メーカー)

企業プロフィール:

紳士用、婦人用のバッグや鞄、子供用ランドセルなどを製造している鞄専業メーカー。

全国主要都市に自社ブランドの直販店舗も保有しており、製品企画から製造、販売に至る

までの体制を整えている(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

鞄、ランドセル製造事業の概況:

当社の製品を一般バッグとランドセルに分けた場合、一般バッグでは天然皮革製のもの

しか扱っていないが、ランドセルに関しては天然皮革製と人工皮革製(クラリーノ)の両

方を製造している。

国内のランドセル市場全体では今や 6~7 割が人工皮革製とみられているが、当社が製造

販売しているランドセルに限って言えば天然皮革製が 7~8 割、人工皮革製が 2~3 割とい

ったウェイトになっており、ランドセル全体の市場とは逆の傾向を示している。これは、「当

社製のランドセルが欲しい」と考えるユーザーには天然皮革という素材にこだわりを持っ

た顧客が多いということの表れで、そういう意味では当社の販売傾向は国内のランドセル

市場を代表するものとは言い難い。

人工(合成)皮革素材に対する評価:

天然皮革に比べれば、品質にバラつきがない人工皮革は確かに歩留りや効率性という点

で優れているのは確かであろう。

天然皮革が使われている靴や鞄といった用途は天然皮革がその用途に 適な素材である

ことが長い歴史の中で認知され、製造技術が進化してきた。人工皮革は軽さや耐久性、耐

水性など、天然皮革にはない機能も持ち得ており、そういった機能を生かして既存の天然

皮革用途の代替需要よりも、新しい用途を開拓するといった可能性も考えられる。

皮革素材に対する消費者ニーズ動向:

当社の場合、天然皮革をつかった鞄メーカーというイメージも強く、すでに述べたよう

にランドセルにおいても圧倒的に天然皮革製を求める顧客が多い。

現在、当社が作っている天然皮革ランドセルは 6 年間イージーケア・ノーメンテナンス

で使える表面仕上げを施しており、天然皮革のデメリットとされた分もかなり小さくなっ

ている。

ランドセルは大体 100 万個程度、毎年新しい需要が安定して生まれる市場で、日本独自

の需要という側面も強いが、マーケット規模的には天然皮革にとっても人工皮革にとって

も重要なものであるのは確かである。

インバウンド需要に対する見解:

当社は全国に直営店舗を持っているが、九州(福岡)の店舗などでは近年外国人購入者

が若干増えているといった変化はあり、外国人需要は今後さらに増加する可能性はある。

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企業名 (株)三越伊勢丹

所在地 東京都新宿区新宿 3-14-1 従業員数 約26,000名(国内グループ全体)

企業プロフィール:

伊勢丹と三越が 2008 年の経営統合した国内 大手百貨店。本ヒアリングは百貨店店舗

の通常の靴販売についてではなく、三越伊勢丹が 2011 年からスタートさせた靴の自社企

画ブランドである「ナンバートゥエンティワン(以下、NTと略して表記)に関して行っ

ている(以下、ヒアリング内容については一人称で記述)。

No.21ビジネスの特性と狙い:

NTは百貨店が自主企画の靴をメーカーとの直取引で製造・販売する事業であり、百貨

店の通常の靴売場と違って間に靴問屋を通していない。こういった方法をとることによっ

てメーカーは小売店と直接商売ができ、百貨店側は問屋などの中間マージンのコストを省

けることになる。

NTでは省いた中間マージンの分、商品を安く提供するというのではなく、その浮いた

コストでよりクオリティの高い靴を消費者に提供するという方針を追求している。たとえ

ば、それまで日本製の革を使っていたのをイタリア製の革を使ったり、より工賃の高いメ

ーカーで作らせるといったことが可能になる。これによって消費者は従来と同じ値段で、

品質的にはこれまでよりワンランク上の商品を購入することができることになる。問屋を

通さないことで売れ残りのリスクが発生するが、NTでは売れ残りリスクはすべて百貨店

側が負う。

NTの売れ筋の一つは冠婚葬祭などの時に履くシンプルな黒のパンプスであるが、この

ようにデザインが流行に左右されず品質の良さが重視されるような商品では、同じ価格帯

で、より高いクォリティの靴を提供するというNTの考え方が特に効果を発揮する。NT

は 2011 年にスタートし、今では年間約6万足を販売するところまで成長しているが、今

後は自店舗だけの販売だけではなく卸展開を積極的に行っていく考えで、海外で韓国の新

世界百貨店での展開を皮切りに国内でも ADO グループ(共同仕入れの仕組みをとっている

全日本デパートメントストアーズ開発機構)の店に広がっている。

皮革素材別ウェイト、人工皮革導入の背景:

現在、NTで販売している靴のほぼ 9 割は天然皮革製であり、人工皮革が 1 割前後、ほ

かに布製などの靴もわずかにある。つまり現状では圧倒的に天然皮革製が多いわけだが、

今後は人工皮革製を増やす考えであり、その背景には三越伊勢丹の地方店での展開という

ことがある。

たとえば伊勢丹新宿店であれば上述の黒のパンプスの販売価格が 16,000~19,000 円と

いったゾーンだとしても、地方の購買力を考慮すれば 11,000~13,000 円程度のレベルに

下げる必要がある。その方法として皮革素材の質を落とすのではなく、人工皮革を使って

高機能性をアピールしつつ、価格も下げるという形の展開を進めている。

現在、この「高機能+天然皮革製より安い」というゾーンでは 6~7 割ほどが人工皮革製

の靴で占められるが、今後はこの比率をもっと高めていきたいと考えている。

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素材の調達、共同開発等の状況:

現在、NTでは銀面タイプとエナメルタイプの人工皮革はクラレ、スエードタイプは東

レから調達しているが、どちらも「在りもの」を仕入れるというだけではなく、見た目や

触感、色味等々について当社側から要望を出し、素材メーカー側と共同開発に近い取組み

を行っている。

スエードタイプについては人工皮革と天然皮革の差はほぼないが、銀面タイプではまだ

本革の良さに達していないという認識は当社も持っており、クラレとの共同開発では、た

とえば人工皮革でクリッピング(革に立体のクセをつける加工)が可能にならないか試し

たり、革との見栄えの差を埋めるために二次加工で表面に磨きをかけたりといったよう

に、かなり突っ込んだ仕様の実現を追求している。

タンナー技術導入等、新しい人工素材に対する期待:

上述のように、現在の人工皮革にもまだ靴素材として実現してもらいたい部分は残って

おり、そういう意味ではタンナーの仕上げ技術を取り入れた人工皮革や合成皮革など、新

しい人工素材に対するニーズは十分あると考えられる。かつて 50 円/デシ 程度だった革の

仕入れコストは現在 80 円/デシ に近いレベルにまで上がっており、天然皮革に替わる素材

を求める需要も大きいであろう。

ただ、そういった素材が靴とバッグのどちらに向いているかとなると、足元に履く靴よ

り、もっと目につきやすい位置で使い、靴より使う革の面積が広いバッグの方ではないか。

面積が広いところに人工皮革を使うと本革独特のムラがない分、のっぺりした印象が強く

なりやすく、見た目でより本革に近い人工素材がマッチしやすいのではないかと思う。

インバウンド需要に関する見解:

インバウンド需要はNTでも増えている。現在、新宿伊勢丹本店で、外国人顧客への販

売実績足数は、NTが1位である。ただ、中国人客などが日本製の靴を買うのは日本製の

デザインやブランドイメージを求めて、というより自国製に比べて品質的に安心できるか

ら、という側面が大きいのではないか。そういった外国人客に対して日本製の新しい素材

をアピールするという考え方は基本的には有効だと思うが、「天然皮革と同じ」「天然皮革

に替わるもの」といった形で皮革にこだわりすぎるべきではないのではないかとも思う。

皮革製品では世界的にイタリア製への評価やブランドイメージが高いのは動かし難く、

「新しい人工皮革素材を使った日本の皮革製品」といった考え方で売り出そうとしても、

結局イタリアを越えられないということになる。

むしろ皮革という点にこだわらず、純粋に「まったく新しい素材」としてアピールする

方がいいのではないかと感じる。そうすれば靴やバッグといった分野での天然皮革代替需

要だけではなく、これまで革が使われていなかったような新しい用途開発という点でも期

待が持てるのではないか。

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企業名 非公開(百貨店)

企業プロフィール:

全国に 20 数店舗を構える百貨店。本ヒアリングは、複数の店舗業態をまたぎ、インショ

ップブランドの新規導入や構成、自主編集売り場の店頭 MD、商品企画開発などを行う、

レディースのバッグ、財布他革小物の担当者にご協力いただいた。(以下ヒアリング内容は

一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

百貨店全体を通した主要顧客の年代層は 40~60 代であり、同ゾーンの指向を反映して商

品構成のターゲットは 30~40 代前半を設定している。販売方法は店頭、ネット通販、外商

といった形態が連動している。

婦人バッグ、革小物の店頭販売は、一般に百貨店内のインショップブランドが売上の 6

割、自主編集売り場が 4 割を占める。インショップブランドの商品価格はバッグで 3.5~5

万円、財布で 2~3 万円が主流となる。なお都心の店舗はインショップの比率が圧倒的に高

く、逆に郊外店舗は自主編集売り場の比率が高くなる。

皮革製品販売の 近の傾向では小型化が顕著で、3 年ほど前まで A4 サイズが入るトート

バッグが主流だったが、現在は幅 26~28 ㎝程度が好まれ、小ぶりなトート、ボストンとい

った商品が売れている。小型化の一方で装飾性が高まり、素材に変化が出たり、チャーム

を付けて自分なりにアレンジできたりとバリエーションが増えている。単にモノを運ぶ道

具としてのカバンから、ファッションアイテムの 1 つとして、スタイリングの中心として

扱われているようである。また、例えばスケジュール管理のツールを紙の手帳からスマホ

にするといった変化のように、顧客がスマートな生活感を好むようになって、持ち運ぶ荷

物が減ったことも小型化の要因として考えられる。

皮革素材製品の採用基準:

バイイングの品揃えは、ブランドや製品化された商品を見て検討するので、素材を第一

の判断材料とすることはあまりないが、百貨店の高級感を損なわないために、上質感のあ

る商品が基本になる。合成皮革の製品も、見た目は天然皮革と遜色ない風合いを持つよう

な上質感のあるものを採用している。更に表面塗装に工夫があったり、高級感のある金具

が使用されたりと、商品としていいモノが増えている。そういった商品は、例えば有名ブ

ランド製であり 3 万円前後の価格でも通るような見映えでありながら、実売価格は 17,000

円程度で抑えられるなど、上質感と手ごろな価格を両立することができている。

消費者の製品購入と皮革素材への認識:

消費者の購買行動はさまざまだが、百貨店では、どのブランドの商品なのかが、何より

も優先される傾向がある。婦人のバッグは、有数の高級ブランドが生み出すトレンドを、1

~2 年程度遅れてやや格下と思われるブランドが導入し、またその下に広がっていくという

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のが基本的な流行の構図だと言えるが、自分の好きなブランドで、流行のデザインである

ことが消費者にとって購入の決め手になる。また、植物タンニンなめしの天然皮革を用い

た製品などでエコロジーなイメージをコンセプトとして打ち出しているブランドの固定客

であれば、素材に対する知識も豊富で、こだわりを持っているという場合もある。

一方で、バッグの用途で選別するという面もある。通勤や旅行などの利用シーンによっ

て、バッグの機能、重さなどが考慮され、例えばキチンとしたイメージの牛革、あるいは

軽いナイロン素材など必要に応じて選択される。また、1シーズンなど短期間の使用しか

想定しなければ合成皮革の手頃な価格の商品、長く使用するのであれば天然皮革で高価格

の商品といった選別もあり得る。

売り場では、製品の原産国表示に加え、素材について合成皮革や天然皮革といったタグ

もつけているが、「イタリアンレザー使用」などアピールポイントとなる場合を除いて、素

材について詳しい表示はしていない。素材についての詳細な解説は、外商のような高級品

の販売時には有用になり得るが、店頭の消費者の指向はファッション性の高さに振れてお

り、素材から吟味して購入にいたることは多くないのではないか。

原皮価格高騰の影響:

昨今の原皮価格の高騰は、バイイングにも商品企画にも影響している。2015 年 8、9 月

でブランド各社は軒並み値上げし、11 月にも再度上がってきている。為替の変動と原皮価

格高騰の両方の影響が強い。企画開発はバッグメーカーの協力を得てデザインを起こして

いき、素材手当はバッグメーカーの提携するタンナーや皮革問屋を通して製品デザインと

価格に見合ったものを選択するが、例えば 35 センチ程度の大きめのトートバッグで、2 年

半前には販売価格 17,000 円で製造できたものが、今、全く同じものを製造しようとすると、

2 万円を超えてしまうなど、原皮の値上がりがモノづくりを難しくしている面がある。

ただ、百貨店は何よりも上質感を重視しており、タンナーのなめし加工等でより天然皮

革に近づけた人工皮革や合成皮革の素材ができたとしても、自社で企画開発する際は天然

指向が優先する。天然皮革素材の中でも更に高品質な素材をどのようにして入手し製品化

するかが重要であり、原皮の調達難があっても合成皮革や人工皮革が選択肢に含まれるこ

とはないだろう。

インバウンド需要:

インバウンドの恩恵は地域差が大きく、特定の店舗に限られていて、ラグジュアリーブ

ランドの製品が中心となっている。当社でも中国人観光客向けに、日本製の赤いバッグや

財布について中国の SNS で情報発信するなどしており、赤い鹿革の財布など、中国人観光

客に特別に人気の商品もある。

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企業名 非公開(大手量販店〔GMS〕)

企業プロフィール:

全国に展開する大手量販店。本ヒアリングは、レディースバッグ商品構成のディレクシ

ョン統括者にご協力いただいた(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

MD(マーチャンダイジング)は基本的に全店共通で、商品の切り替えは半期ごとに行っ

ており、自社で、素材、色、デザインを決定してつくり込む PB(プライベートブランド)

と、取引先と相談しながらセレクトする NB(ナショナルブランド)の 2 形態があり、全体

の 3 割程度が PB となる。

主要顧客層は、45~69 才のミセスからハイミセスが中心だが、天然皮革バッグの購入層

は、更に上がり、60~64 才が多く、ナイロンや合成皮革に比べ、天然皮革は高年齢のミセ

スに求められていることが分かる。天然皮革製品で見た 近の傾向では、9,800~13,000 円

前後の 2WAY のショルダーなどがよく売れている。

レディースバッグ売り場は、天然皮革製品をそろえる革コーナーと、ファッション的に

トータルで扱うバッグのコーナーがあり、更にナイロンや、合成皮革といった素材、ある

いはトートバッグ、リュックなど形で細かく分類した陳列になっている。

天然皮革の PB 製品は無いが、NB メーカーとの協業ブランドで製造した天然皮革製品が

あり、オール天然皮革製品の他、持ち手等部分的に天然皮革を採用した革附属製品がある。

消費者の製品購入と皮革素材への認識:

当社では天然皮革と合皮皮革とで売り場自体を分けていることもあって、購入者は両者

を明確に区別して購入商品を選択していると考えられる。価格重視の購入者であれば素材

について細かく検討することはないが、逆に値段の張る買い物であれば、素材についても

しっかりと吟味するだろう。素材の紹介や説明、PR については、商品のタグや売り場の

POP が中心となっている。

人工皮革については取り扱いがなく、消費者の認知度は低いのではないか。当社の顧客

層に限らず、一般的な消費者の指向で言えば、基本的に天然皮革を好む傾向は変わらず、

ヤング層やインバウンド向けにも、国産の天然皮革製品の開発が増えている印象がある。

商品企画開発の流れ:

PB の場合は、基本的に全社共通の MD であり、 初のコンセプトを決めて企画スタート

し、市場調査を経て前期の改善点等を考慮したデザイン画を起こし、型数、素材、色の検

討後、バッグメーカーにサンプル依頼をする。それをたたき台とし、地区の商品部の意見

も取り入れながら再度サンプル作製し、量産化に至る。素材手当については、タンナーや

革問屋と提携するバッグメーカーの提案素材から選ぶことが多く、タンナーや革問屋との

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直接の取引はほぼない。NB も生産の流れは PB と同様になる。

天然皮革製品企画時の優先事項は、製品価格と形状である。原産国により素材価格は大

きく異なるため、 初の価格設定でほぼ素材の原産国が決まる。もし日本素材を採用した

場合は、それが理由で高価格に設定されていることが一目で顧客に伝わるよう必ずタグ等

で PR している。

一方、合成皮革製品の企画時は天然皮革とは違い、製品価格ではなくバッグの機能性が

開発開始時の優先事項になるため、それに合う特性かどうかが素材採用のポイントになる。

例えば、春向けのショルダートートバッグでは、これまでは A4 の書類が入って、用途ごと

に細かいポケットや仕切りがあるものが人気だったが、 近はざっくりとした仕切りでも

軽いものがいいなど、変化する製品企画の条件に見合った素材が選ばれ、更にデザインに

なじむ表面感の素材を選定していく。 終的に、その積み上げとして販売価格を設定する。

人工皮革については、ほとんど採用がない。前述のとおり素材に対する顧客の認知度は

低いものの、人工皮革製品の販売価格は高めになりがちであるため、受け入れられにくい

のではないかと考えている。

原皮価格高騰の影響:

当社で扱う天然皮革の種類は牛革が中心で、次に羊革となり、豚革はほとんどない。皮

革の原産国は中国が多いが、カンボジア等も増えてきている。これまでも値上がり基調な

がら、世界的な原皮の高騰はこの 1 年特に顕著で、前年から原皮価格が 2 割程度上がって

おり、店頭価格にはもっと強い影響が出ている。この傾向は変わらず、今後もモノづくり

が難しくなると考えている。

合成皮革、人工皮革、天然皮革の今後の開発について:

合成皮革や人工皮革を、より天然皮革の見た目に近づけて開発するとしたら、使用時の

風合いの再現と価格面がどうなるかがポイントではないか。消費者は 2 極化の傾向があり、

高価格でも天然皮革を好む消費者は柔らかい風合いといったものに価値を見出すため、合

成皮革や人工皮革で代替するとしたら、その特性まで加えることが必要になるだろう。ま

た、手頃な価格で複数の製品を購入し、短サイクルで多様なデザインを楽しむ消費者は、

品質の良い素材を好むとしても、あくまでも値ごろ感とデザイン性が先行する。

また、合成皮革には、加水分解のリスクがあるため品質保持期間が長くできれば、今よ

りも活用の可能性があるかもしれない。一方、天然皮革には取り扱いの難しさの面がある

が、完全防水の天然皮革素材の開発も目にしたことがあり、こちらも価格は課題だが、興

味深く見ている。

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企業名 (株)シップス

所在地 東京都中央区銀座 1-20-15 従業員数 640 人

企業プロフィール:

衣類や小物などを販売するセレクトショップ「SHIPS」を運営する。本ヒアリングは、

メンズカジュアル分野におけるバッグや靴を中心とした皮革衣料雑貨について行っている

(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

シップス全体ではメンズ、ウイメンズ、キッズの取り扱いがある。メンズの中心顧客層

は 30 歳代で、実際の購入層は 20 歳代前半~50 歳代後半、60 歳代までの幅がある。

皮革製品では靴、バッグ、財布のほかブレスレットなどアクセサリーがあり、おおまか

な売上構成比はバッグが 4 割、靴が 4 割強、小物が 2 割弱となる。

国産製品が中心だが一部メキシコ産など海外製もある。価格帯はオリジナルのベーシッ

クな靴で 25,000 円前後、バッグで 13,000~2 万円前後となる。バッグはトート型が主流だ

が、この 3 年ほどでクラッチバッグに人気が出ており、バッグインバッグ兼、単体でも持

てるサブバッグとして需要があるようだ。

ネット通販はシップス全体の売上構成比うち 15%程度を占めており、皮革製品では 2 万

円以下のバッグや小物の動きが良い。

皮革素材の採用:

セレクト品のスニーカーなど一部の商品を除き合成皮革の採用は企画開発品を含めてほ

ぼない。男性ユーザーは本革など品質にこだわる面があると考えており、企画側としても

いい素材を使いたいと考えているため、安価な素材というイメージが強い合成皮革は選択

肢として候補に入りにくい。ただしウイメンズでは商品全体のデザイン性やカラーが重要

となるため合成皮革素材の採用もあり、メンズとは若干考え方が異なっている。

人工皮革では、天然皮革の代用ということではなく、ブランドが確立しているアルカン

ターラを採用した経験があるが、素材に対する顧客の認知度が予想したほどには高くなか

った印象である。天然皮革は経年変化を楽しめるというのも魅力の 1 つであるが、人工皮

革は素材の特性上、均質な組織であるため天然皮革のような味わいが出にくいように感じ

る。

天然皮革製品は作るアイテムによってそれぞれ適した革厚やなめし方があるため、その

点を第一に重視して素材を選定する。また、付加価値の訴求や、品質と供給量の安定が望

めることから、可能な範囲で有名タンナーが仕上げた革を採用している。

一口に消費者といってもモノにこだわりがあって素材ほか商品知識が豊富な人と、全く

興味がない人と個人差が大きく、合成皮革でも構わないという場合もあるだろうが、当社

の男性顧客については品質重視の傾向が強く、本革という前提で商品を選ぶことが多くな

る。

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商品企画開発の流れと原皮価格高騰の影響:

実売の半年前にウエアを中心としたブランド全体のシーズンイメージが決まり、そこに

コーディネートするためのバッグや靴等、皮革製品の企画も始まる。形、サイズ、デザイ

ン、色まで決定してから提携工場でサンプルを作成し、数度の調整を経てオーダーとなる。

ゼロから企画することもあるし、店舗の商品担当者を通して顧客の要望をヒアリングし

てこれまで販売した形状にもち手の長さなどの具体的な改良を加えていく場合もある。定

番商品の場合は発注数などをまとめることで、同じコストでも品質の高い素材に変更する

といったように、改良は形状の変化だけでなく素材をより良いものにするケースもある。

ただ 近は素材の改良が原皮価格高騰分の吸収に回ってしまう面もある。

原皮の高騰は特にこの 2 年厳しい状況で、提携するメーカーが耐えられえなくなってき

ている印象である。安定的な工場運営に寄与するため計画生産の精度を上げ、皮革素材は

年間で備蓄オーダーし、工場の生産は半期で押さえるようにしている。皮革素材は提携す

るバッグや靴メーカーの仕入れたものから選定しており、国産素材やイタリアレザー、ア

メリカレザーなど各メーカーが得意とする素材を提案してもらっている。通常、商品タグ

には原産国のみを表示するが、栃木レザーや欧州などの有名な皮革素材の場合は、商品棚

の統一感に邪魔にならない範囲で PR として加えることがあり、販売員にも素材について説

明できるよう商品知識をつけている。

インバウンド需要と国産素材、国産製品の可能性:

インバウンド需要については原宿店等で若干見られるが皮革素材製品はほとんどなく、

日本のお土産のイメージでデザインに遊びのある今治タオルや、伝統工芸の食器などの扱

いにとどまっている。ただ、昨今のメイドインジャパンのブームもあり、インバウンドに

限らず日本の職人技を前面に出したような皮革製品で、当社のコンセプトに合致するモノ

が出てくれば当然興味はあり、採用を検討する可能性がある。メイドインジャパンや職人

技、匠の技術といったところは品質の良さを求めるメンズ市場と相性が良いと考えられる。

皮革製品のつくり手側とすれば本当に良い素材は使いたくなるもので、栃木レザーなど

は評価が高い。また、加工に限らず原皮から国内で調達し、なめしも国内のタンナーが行

うなどすれば国産天然皮革素材はもっとブランド価値が高まるのではないか。

合成皮革、人工皮革素材を採用する可能性:

合皮皮革や人工皮革を採用するとしたら、天然皮革の安価な代用品という考え方ではな

く、合成皮革や人工皮革にしかできない商品開発となるだろう。例えば、スエード調の人

工皮革であればポーチやスポーツ系のリュックにした場合、ナイロン素材よりも上品なイ

メージを持たせながら、撥水性や洗濯耐用性があるなど新しい商品企画ができるかもしれ

ない。

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企業名 (株)東京デリカ

所在地 東京都葛飾区新小岩 1-48-14 従業員数 非公開

企業プロフィール:

セレクトショップ「SAC'S BAR」業態を中心に約 600 店舗で鞄・袋物及び財布・雑貨類

の小売販売を行う。一部自社オリジナルブランドも運営しており、本ヒアリングはその中

のレディースブランド「kissora(キソラ)」を中心に行っている(以下ヒアリング内容は一

人称で記述)。

皮革製品の販売状況:

キソラは婦人向けのレザーバッグブランドで、墨田区や台東区といった皮革産業振興の

意図もあり東京ソラマチに 1 号店をオープンした。現在 4 年目を迎えて直営店は全国 11 店

舗に増え、取扱店は 50 店舗を数える。フルベジタブルタンニンなめし革の採用などナチュ

ラルなイメージをコンセプトに素材から国産天然皮革にこだわっており、縫製や組立は全

て国内で行う。また、店内にミシンを置きセミオーダーにも対応している。ターゲットは

20 歳代後半~50 歳代を想定しているが、品質の良さで高い年代の支持も得ており実際には

70 歳代の購入もある。販売価格の平均単価は全体で 1 万 5,000 円前後、コインケースや名

刺入れのような小物の構成比が高い。アイテム別ではバッグ類で 1~2 万円、財布 1~2 万

円、財布以外の小物類で 2,000~1 万円前後が中心価格帯となっている。

皮革素材の採用状況:

キソラはナチュラルな天然皮革を前面に出したブランドであるため人工皮革や合成皮革

の採用はない。牛革が 9 割を占め、他にヤギ革や豚革などもある。イタリアやアメリカの

有名皮革素材を使うこともあるが、国内のタンナーによる素材の採用が中心で、北海道産

や四国産の牛革など原皮から国産の素材もある。素材の採用時は、経年変化で得られる味

わいがポイントになり、顔料や型押しでなく染を活かすことを重視している。

合成皮革はキソラでは扱っていないが、一般のバッグで 3,900~5,900 円、ブランド名が

ついて 1 万円前後という手ごろな価格設定が一番の魅力ではないか。軽さや手入れの手間

がないことも合成皮革の長所といえる。

消費者の製品購入と皮革素材への認識:

合成皮革素材の製品は長く持つのではなく手ごろな価格でトレンドを追った形やデザイ

ンが魅力で、特に若い消費者は合成皮革素材にこだわりがないようである。

天然皮革はメンテナンスが心配という点でハードルが高いため 10~20 歳代前半には興

味がもたれにくく、それより上の世代が手に取ることが多い。店頭での接客では手入れ方

法のレクチャーを行うだけでなく、購入後の商品の手入れも請け負っている。天然皮革固

有の経年変化の魅力、長く使用していけば高い買い物ではないことなどを伝えている。店

頭の POP ではイタリアなどの有名な皮革素材について解説したりしているが、革の知識が

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豊富な顧客も多い。雑誌などの誌面や店頭の POP など素材情報の PR は重視している。

商品企画開発の流れ:

企画は第一に皮革素材の選定が優先され、そこからどういった種類のバッグにするかを

決めデザインを起こす。その後提携バッグメーカーと調整してサンプルを作成、それを修

正してコスト等詳細を決定したうえでオーダーとなる。皮革素材は展示会等で選ぶことが

多いが、こちらの要望を基にメーカー側から提案される場合もある。

原皮価格高騰の影響:

4 年前のブランド開始時から原皮価格高騰は続いており、特に 近の 2 年ほどは急激に高

騰している。一時的に落ち着くことがあっても、以前の水準に戻ることはないだろう。販

売価格の改定も行っているが、皮革製品小売の全体的な価格上昇もあり大きな反発はなく

受け入れられている。原皮については品質の安定性にも問題が生じている。購入した素材

のうち全てが A ランクとはいかず B や C ランクの混在が増えており、きちんとした品質で

そろえてくれる良心的な問屋では逆に納期が遅くなってしまうこともある。

ただこういった逆風の環境下でも、天然皮革固有の経年変化を楽しむというコンセプト

に変わりはなく合成皮革や人工皮革素材に切り替えることは想定していない。むしろ傷や

ホクロといった一般に不良と判断されるような点を天然皮革素材特有の味わいとして理解

を得るなど、顧客の意識改革を行うことが原皮不足への一つの対応となるかもしれない。

タンナーにとっては、天然皮革以外の素材をなめして新しい素材開発に協力するには時

間や手間といったリスクがあり誰でも始められることではなく、発注する側からすれば定

番の素材を安定的に取引することや価格引き上げへの協力も必要だろう。国内のタンナー

は技術が高いものの国産原皮は少ないのが現状だが、原皮から一貫した国内生産が増えれ

ばジャパンレザーとしてのブランド訴求力も高まるだろう。

インバウンド需要:

中国、台湾、シンガポールやインドネシアからの購入者が増えており、東京ソラマチの

店舗で 15%、銀座店で 50%、沖縄店で 10%程度を占める。メイドインジャパンが受け入

れられており、大型で高額なバッグやデザインに特徴がある商品がよく売れる。色はパー

プルやレッドに加え、インバウンドを意識して作ったシルバーも売れている。今後も形状

や色などブランドコンセプトから逸脱しない範囲で企画開発を増やす可能性はある。

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企業名 非公開(靴小売業)

企業プロフィール:

複数の店舗業態がある靴小売業者。自社企画ブランド商品の販売も行う。本ヒアリング

は、自社ブランドを中心にメンズカジュアルシューズについて行っている(以下ヒアリン

グ内容は一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

当社の購買層は男性が多く、主要な年齢層は 30 歳代から 60 歳代である。全店舗の半数

が低価格ゾーンを得意とする量販店業態である、ネット通販の販売も伸びており今後も力

を入れる分野である。皮革素材は天然皮革、合成皮革、人工皮革とも使用しており、価格

要因から合成皮革が中心である。

皮革素材の採用:

合成皮革を採用する理由は価格が第一であるが、価格さえ見合えば天然皮革を使用した

い。人工皮革も天然皮革と同様に材料コストが上昇するため取り扱いは多くない。

天然皮革の素材感や見た目には特有の魅力があり、その点は合成皮革ではなかなか補え

ない。また、加水分解のリスクがある合成皮革と違って、靴底さえケアすれば長期間の使

用に耐えるのも天然皮革の優位性である。

人工皮革は、これまでビジネスシューズ向けにクラリーノなどを使用しており、製品販

売価格は合成皮革製品よりも高く、天然皮革製品の少し下という位置づけ。顧客にどこま

で伝わっているかは別にして、使用感は良く、良い素材だと評価している。

消費者の製品購入と皮革素材への認識:

価格重視の傾向が強い顧客が多いことから、素材に強いこだわりがあるとは考えていな

い。特に合成皮革と人工皮革について認識の違いはないのではないか。

商品企画開発の流れ:

お客様の声や各部署から要望を取り入れつつ、商品企画がスタートする。年間で多数の

企画があり、海外の提携工場でサンプルを試作のうえ数回の調整を加えて量産化にいたる。

素材手当については、基本的に現地の工場で行っており、一部こちらから指定する素材を

採用する場合がある。季節ものの企画はスピードを重視する一方、定番品のように息の長

い商品の場合は企画に多数年かかるということもある。

原皮価格高騰の影響:

当社のビジネスは工場からの納品価格に原皮価格高騰が影響するが、この 1~2 年影響が

特に大きい。これまでも上昇基調であったものの、素材の選定や仕入数量の確保等でなん

とか吸収できたが、為替の変動もあり対応しきれなくなった。その意味では、原皮価格高

騰の直接的な影響は実際の原皮価格の値動きからはタイムラグがあったようだ。

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企業名 (株)ディノス・セシール

所在地 東京都中野区本町 2-46-2

中野坂上セントラルビル

従業員数 1,320 人

(連結約 2,600 人)

企業プロフィール:

通信販売事業大手でありカタログ・テレビ・インターネット等によるファッション・イ

ンテリア・美容健康商品他の販売、法人向け事業(広告、卸事業他)、直販事業(店舗・催

事)、その他(フラワーネット事業・保険代理業他)と事業内容は多岐にわたる。

本ヒアリングは、上記通信販売事業内のディノス事業から、レディスファッション事業

について行っている(以下ヒアリング内容は一人称で記述)。

皮革製品の販売について:

ディノスのレディスファッション事業では、ファッション雑誌のような高級感のあるカ

タログで商品を紹介している。誌面の構成が MD として機能することを重視しているので、

単品よりもコーディネート提案写真が中心となっており、ページ内のバランスを基に靴や

バッグといった皮革製品の掲載が決まる。大まかに年代層ごとに分けたブランドカタログ

や、タレントを起用したりサイズに特化するなどした様々なカタログを製作している。顧

客は 40、50 歳代を中心に、30~60 歳代まで幅がある。全体的に本物志向で高級感を重視

しており、皮革製品には天然皮革の採用が多い。

ブランドカタログごとに個別のバイイングを行っており、取扱商品数の 8 割が衣料品で、

靴・バッグ等の衣料雑貨が 2 割程度となる。衣料品の 近のヒットアイテムにはフェイク

ムートンコートがある。またレザージャケットは天然皮革のみで定番的に扱っている。靴

ではカジュアル系に振れており、ヒールの低いものが増えてロングブーツは動きが悪い。

カタログを追いかける形でネット通販も行っており、カタログに入りきらなかった情報

も掲載されている。カタログによる高級な世界観とネットの利便性が使い分けられており、

ネット通販の販売は増加傾向である。

消費者の皮革素材への認識:

カタログ誌面で も目に付く商品名には PR 要素が強く、天然皮革を使用した場合は「オ

イルレザー…」や「ラムレザー…」と一見して素材が分かるような記載で工夫する。顧客

も必ずそこを意識して購入にいたると考えている。「この素材を使用しているのに値ごろ感

がある」という評価を期待しているので、提案側としては分かりやすいアピールポイント

となり得る天然皮革素材が使いやすい。顧客に人工皮革と合成皮革の違いについての認識

があるとは思わないが、天然皮革とそれ以外は確実に区別している。

イタリアンレザーやスペインレザーなど素材の原産国が訴求ポイントとなり得る場合

も、商品名にその情報を加えることで積極的にアピールしている。

特に意図して品揃えをしている訳ではないが、年代の高い方が天然指向が強いと考えら

れることもあり、想定読者年齢の低いカタログの方が合成皮革の採用率は高い傾向がある。

105

また年齢を問わずウォーキングシューズやコンフォートシューズなど特定の分野では合成

皮革の製品がある。

天然皮革には高級感に加えて長く使えるというイメージもあるが、手入れが心配という

面もあるため、販売商品には、製品の取り扱い説明や、ケア方法説明のタグを付けている。

またデメリット表示として色移りの予防や、水濡れ時の対応、色やけ等の解説を加えてい

る。

合成皮革は機能性が高いことが優位性だが、経時劣化に課題があると考えている。

商品企画の流れ:

商品カタログの企画はどんな構成でどの程度のボリュームにするかの検討から始まる。

そのページ構成案を基に各ページに必要なアイテムを設定し、メーカーとの商談に入る。

コンペ形式で数社からの提案を受け、採用したメーカーのサンプルについてデザイン等に

調整を加えカタログ作成、量産化となる。

皮革素材の手当てはメーカー側で行うが、こちらの要望でもっと肉厚にとかオイル感を

出すといった調整が入ることもある。商品としてカタログページの雰囲気に合致している

かといったデザインや見た目に加え、設定価格が重要なポイントになる。素材は中国なめ

しの低価格な革もあるが、堅牢度の高さや技術への安心感からスペインやイタリアなめし

の高級な革を多く採用している。日本素材を採用した製品の扱いは少なく、縫製や組み立

ては中国が中心となっている。

日本製素材を採用した企画の可能性:

ディノス事業内では皮革製品自体の取扱量が多くないので難しいが、メイドインジャパ

ンという切り口が注目される昨今では、日本製素材や日本なめしに注目した企画には可能

性があるのではないか。皮革製品に限らず、日本の職人技術を前面に打ち出した企画は市

場でも増えているように感じる。

原皮価格の高騰と、人工皮革、合成皮革の採用について:

原皮価格の高騰があっても製品販売価格への転嫁が難しい環境下で、素材調達の時期を

早めて確保しておくなどの工夫が功を奏したケースもあるが、皮革製品の小売全体で見れ

ば困難を抱えた状況が続いている。

ただしカタログ通販でいえば、どんなに品質が向上しても、人工皮革や合成皮革という

言葉に対する顧客のイメージは本革に及ばず、人工皮革、合成皮革という表記のままでは

採用は難しい。人工皮革や合成皮革で信頼されるブランドが生まれ、高級素材として認知

度が高まれば、価格との兼ね合いはあるが、人工皮革や合成皮革の採用の可能性は高まる

だろう。

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第Ⅳ章 総合分析と提言

1.我が国皮革業界の現状整理

1-1.国内天然皮革市場の変化と課題

①原皮調達の困難化、価格高騰

良質原皮の調達難は近年の世界皮革マーケット全体に共通する問題といえ、我が国だけ

に限った問題ではない。ただ、本報告書 p5 に掲げた図にもみられるように、我が国の原皮

輸入量の減少ぶりは隣の韓国などと比べても顕著であり、原皮調達難の影響が大きいこと

が伺える。

こういった状況は、端的にいえば中国需要の急拡大で受給バランスが崩れたことによっ

て生じたといえる。牛を例にとって考えても、下図に見るように世界の牛の保有頭数はこ

の 10 年間で 10%程度という微増であり、今後も大きな増加は期待しづらい。特に良質原皮

の産地とされる欧州や北米などのエリアでは牛の数はむしろ減少傾向にあり、世界トータ

ル頭数が微増で推移しているのはアジア、アフリカ、南米等での増加で支えられていると

いう側面が強い。そういう意味では良質原皮の供給逼迫という状況が供給面から大きく改

善する可能性は低いと考えざるを得ない。

図表Ⅳ-1:世界の牛保有頭数・エリア別ウェイト推移

出典:FAO「World Statistical Compendium for raw hides and skins, leather and leather footwear

1998-2014 版」(注:2014 年値は暫定値。同統計のエリア分類は通常の地理的分類とは若干

異なっており、上図では日本はアジアではなく「その他」に含まれる)

一方、中国の天然皮革需要は本報告書 p6 で見たように、生活レベルの向上や自動車の普

及に伴って原皮の伸びよりもはるかに急速に増大し、それに伴って原皮の輸入量もまた急

1527.6 1544.6 1564.2 1574.3 1602.21647.0

1619.4 1635.1 1642.5 1661.9 1674.3

0

600

1200

1800

2004 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(百万頭)

(年)

その他 アフリカ 欧州

北米 南米・カリブ アジア

107

増している。今後、中国景気自体の変動等で多少の増減があるとしても、長期的にみれば

中国の自動車普及や生活向上のポテンシャルが大きいことは言うまでもない。

こういった状況を考えれば、天然皮革の受給状況がさらに逼迫することはあり得ても緩

和する可能性は低いと考えられ、良質原皮の調達難という問題もまた今後長く続くと予想

せざるを得ない。

②後継者不足等による業界の先細り

後継者不足や人手不足という問題は、少子化が進む我が国では農林水産業や多くの製造

業で深刻化しつつあり、皮革産業もその例外ではない。第Ⅰ章で見た主要国の皮革関連事

業所数の推移を見ると、我が国ではタンナーに加えて靴製造などでも減少傾向が顕著であ

る(図表Ⅳ―2参照)。

日本と同様に人口横這い~減少傾向にある欧州諸国でもタンナーは減少傾向にあるが、

ドイツやフランスの靴製造事業所などは逆に増加しており、2 年間で 3/4 近くにまで減少し

た日本とはだいぶ事情が異なっている。

図表Ⅳ-2:皮革関連事業所数の国別増減動向

国名 データ取得期間 革なめし事業所数 靴製造事業所数

韓国 2008~11 年 115→113(▲1.7%) 520→524(+0.8%)

米国 2008~10 年 234→210(▲10.3%) 252→222(▲11.9%)

フランス 2009~11 年 130→112(▲13.9%) 333→376(+12.9%)

ドイツ 2010~12 年 116→91(▲21.5%) 337→362(+7.4%)

イタリア 2009~11 年 2,011→1,949(▲3.1%) 9,025→8,715(▲3.4%)

日本 2008~10 年 263→216(▲17.9%) 1,226→944(▲23.0%)

出典:UNIDO「International Yearbook of Industrial Statistics 2015」

皮革産業に携わる事業所が減ることが、そのまま産業としての競争力や技術力の減退に

直結するわけではない。しかし、どんなに高い技術力やブランドイメージを有していても、

製造現場を担うメーカー数が減り、職人が減ることが我が国の皮革業界の総合的な体力低

下につながっていることは否めない。

③皮革流通のグローバル化進展

TPP に代表される広域的な経済連携協定(EPA)は世界貿易活性化の大きな流れになっ

ており、我が国もその流れに乗りつつある。しかし、EPA が総体的には我が国の輸出入を

活性化させるとしても、個々の業界レベルで見れば輸入増による国内業界圧迫といった可

能性もあり得、皮革業界にも同じことが言える。

現段階の TPP 参加国の中では主にベトナムなどからの靴輸入の急増が懸念されているが、

価格・品質的には比較的安価ゾーンになると考えられる。むしろ懸念が大きいのは日本・

108

EU 間の EPA であり、これが合意に至ればイタリアやフランス、ドイツ、スペイン等々、

高級皮革製品で高い競争力を持つ国のブランドが我が国に対して輸出攻勢をかけてくる可

能性は高く、現在続いている交渉においても EU 側としては皮革製品の対日輸出拡大に有

利な条件を獲得しようとしていることは十分考えられる。

今回調査で行ったアンケート調査結果等において、消費者の国産皮革製品に対する評価

はかなり高く、欧州製皮革製品が増加してもある程度の競争力は発揮し得ると考えられる

が、イタリアなどからの皮革製品輸入が急増すれば、国内のメーカーにある程度の悪影響

が及ぶことは想定しておく必要があろう。

図表Ⅳ-3:皮革製品イメージの国別評価ウェイト(再掲)

また、競合製品の輸入だけではなく、原料調達面での影響という可能性も考慮しておく

必要がある。TPP の参加国には米国や豪州、ニュージーランドなどの畜産大国が含まれて

おり、日本国内の畜産業への影響も懸念されている。

我が国は量的にさほど多いとはいえないものの、年間 3 万 t 以上(塩漬湿重量)の牛原皮

生産国であり、これはドイツ、フランス、イタリア等の 1/3 程度の規模にあたる。TPP に

よって国内畜産業が打撃を受け、肉牛の飼育頭数が減少すれば、それはそのまま国内原皮

生産量の減少に結びつくことになる。原皮の輸入調達困難化が続く中で貴重な国内原皮も

減少することになれば、皮革業界への影響も少なくないと考えられる。

④インバウンド需要の可能性

なめし革などの材料分野ではもちろん靴や鞄といった皮革製品分野でも、これまで日本

製皮革製品が海外に輸出されるという例は限定的であり、第Ⅰ章の主要国別概況に掲げた

靴の輸出量でみても日本からの輸出量は年間 100 万足を大きく下回っている。これは欧州

主要国の輸出量とは数百倍レベルの開きがあり、近隣の韓国などと比べても大幅に少ない

数字で、日本製皮革製品はこれまで主に国内需要で支えられてきたといえる。

そういった状況が前項で述べたような TPP 等の影響で変動する可能性があるのは確かで

全体 n=3,000 34.8 69.0 11.4 10.7 15.4 0.3 66.3 1.7 1.9 1.4 0.2 13.1 26.3 2.2 1.6 1.1

34.8

69.0

11.4 10.715.4

0.3

66.3

1.7 1.9 1.4 0.2

13.1

26.3

2.2 1.6 1.10%

20%

40%

60%

80%

(%)

109

あるが、一方でこれまでほとんど考慮されなかったインバウンド需要という新しいニーズ

が形成されつつあることも見逃せない。外国人旅行者の旺盛な“メイド・イン・ジャパン

需要”はこれまで主に家電製品や化粧品、医薬品などに向いていると見られていたが、今

回調査では日本製の皮革製品にもインバウンド需要が及んでおり、特に都市部ではその需

要は無視できないレベルになりつつあることが確認された。

我が国がこの先人口減少が続くことが避けられないとすれば、国内皮革製品マーケット

も長期的には縮小傾向に向かう可能性は高いが、インバウンド需要はそういった長期縮小

見通しの中で好材料であることは間違いない。

ただ、現在の段階では日本製皮革製品に対する外国人需要はまだ一時期の“ブーム”で

あり、品質やデザイン等に対する信頼や日本製ブランドイメージの高さなどに裏打ちされ

たものであるかどうかはわからない。そういう意味では日本製皮革製品に対して形成され

つつあるインバウンド需要を一時期のブームで終わらせず、永続的なブランドイメージの

高さに結びつける努力が求められるといえる。

1-2.人工皮革・合成皮革市場に関する考察

天然皮革=本革に対し、人工皮革や合成皮革は「本物ではない革」というイメージは未

だに根強く残っており、その傾向はむしろ米国や中国など、日本以外の方がさらに強いと

みられる。

しかし、世界市場の中で我が国の人工・合成皮革業界が置かれた状況は前項で述べた天

然皮革のそれとはかなり異なっている。両者を主なポイントごとに比較すると下図のよう

に整理でき、人工皮革・合成皮革それぞれの視点から次頁以降で詳説している。

図表Ⅳ-4:天然皮革と人工・合成皮革のポイント別比較整理

素材特性 マーケット見通し 競争力

天然皮革

触感、風合い、エイジング後

の味わいなど、革ならではの

素材感に強み

良質原皮の価格高騰や調達難

が大きな制約要因に。国内で

は職人不足等の問題も。

消費者評価高い

が、イタリア製など

には及ばず。

人工皮革 合成皮革

耐水性や耐光性等の機能、軽

さなどの面で優れるが、“革ら

しさ”という点では天然皮革

に及ばず。

原料調達等での問題は特にな

く、今後のマーケット拡大余

地もあり。

高級品に強み。

技術競争力は世

界トップクラ

ス。

①機能的な強みと感覚的な弱み

合成皮革や人工皮革は、字義的には「人工的に合成してつくられた皮革」という意味に

なり、上述のように「本物ではない」「イミテーション」といった見方を招きやすいが、こ

110

れらの人工素材の本来的な強みは本革に似ていることよりも、むしろ天然皮革にはない機

能を備えていることにある。

たとえばカーシート表面素材として天然皮革に対する需要は高いが、耐摩耗性や耐水性、

耐薬品性等々、様々な機能で考えると合成皮革の方が優れている部分が多く、これは球技

のボールで使われる人工皮革等についても同じことがいえる。

つまり、人工皮革や合成皮革は「革に似ている・革より安い」という点よりも天然皮革

にない機能を持っていることが強みであり、その強みに合った用途が存在することでマー

ケットが形成されているという部分が大きい。

一方、合成皮革や人工皮革に弱みがあるとすれば、それは素材そのものというよりユー

ザー側の感覚的・イメージ的な部分がかなり大きいのも確かである。どんなに機能面で優

れていても見た目、風合い、触感といった感覚的な評価では依然として天然皮革との差は

あり、エイジングを経て出てくる“味わい”といった部分になると原理的に人工素材では

実現不可能といえる。また、本革=高級素材というイメージがユーザーの間に根強いのも

事実であり、そういう消費者イメージに対応しようとすれば、たとえ機能的に優れていて

も皮革製品メーカーとしては合成皮革や人工皮革を全面的に使いづらくなる。「本革製シー

ト」とカタログに載せたいために天然皮革と合成皮革の“ハイブリッド”シートが珍しく

ないカーシート分野などはその代表例といえよう。

②マーケットの拡大余地

天然皮革製品は、原料となる原皮の供給が世界的に見ても今後大きな伸びを期待しづら

い状況にあり、今後天然皮革製品の需要が大幅に伸びても原料確保という制約の中でしか

成長を期待できない状況にある。また、日本に関して言えば革なめしや靴製造などに携わ

る職人も減少し続けているため、仮に原皮の調達環境が大きく好転したとしても“職人不

足”という別の制約要因がある。

それに対して人工皮革や合成皮革の場合は原料調達や製造能力不足といった事業制約要

素は当面存在しないと言っていい。すでに靴や球技ボールなどのように、従来天然皮革が

使われていた用途で合成皮革や人工皮革への代替化が進行しているが、原皮調達難の長期

化という前提に立って考えれば、この「天然皮革代替素材」需要は今後さらに拡大する可

能性が大きいといえる。

また、衣料・ファッション、家具・インテリア、カーシートなどの分野では布など、天

然皮革以外の素材と競合しながら徐々に市場が拡大している。世界的な生産量を見ても合

成皮革はやや伸び鈍化の傾向はみられるものの、人工皮革と併せて考えれば飽和市場とい

うには早く、市場拡大余地もかなり広いと考えられる。

111

③日本メーカーの技術競争力

図表Ⅳ-4にも示したように、我が国の合成皮革・人工皮革メーカーの技術競争力はか

なり優位性があり、特に人工皮革のハイグレードゾーンにおいては世界的にみてもトップ

の位置にあると言ってよい。

合成皮革市場では中国が圧倒的生産シェアを持ち、価格も安いが、少なくともハイグレ

ード製品に関して言えば中国を脅威とする見方は少なく、人工皮革と同様に高級品分野で

は日本の技術優位性があると言える。

先に触れたように、我が国の皮革製品に対する国内消費者の評価はかなり高いが、イタ

リアなどには及ばないのも事実であり、しかも革加工職人の手作業やノウハウに依存する

部分が大きいという性格上、合成皮革や人工皮革のように先端的素材開発でリードすると

いった考え方は当てはまらない。逆に言えば、純粋な工業製品である人工皮革や合成皮革

には今後も技術革新の余地は大きく、我が国の技術的競争力がさらに高められる可能性も

十分ある。

2.国内皮革業界に求められる取組みの方向性

2-1.国内皮革業界の総合力発揮

これまで天然皮革と人工皮革・合成皮革はレザー市場というマーケットにおける競合素

材として捉えられていた部分がある。たとえば一定量のマーケットの中で合成皮革製の靴

が販売シェアを伸ばせば、その分本革製の靴がシェアを減らすといった競合局面は存在す

るし、今後もそれがなくなるとは考えられない。

しかし、EPA の進展等で欧州製をはじめとする海外レザー製品の輸入増加が十分想定さ

れる状況の中、国内皮革業界と人工皮革・合成皮革業界とが競合に明け暮れていては、海

外製品に対して日本製レザーとしての対抗軸を打ち出すのは難しい。むしろ両者のコラボ

レーション、あるいは相互補完といった関係性を強化することで皮革産業全体の総合力を

高めることが求められる。

本調査では人工皮革・合成皮革の製造や商品開発にタンナーの技術やノウハウを組み合

わせるという組み合わせの可能性を検証したが、その結果、次頁の図にみるように銀面タ

イプ人工皮革ではすでにタンナーとの協業という取り組みが進行している一方、合成皮革、

あるいはスエードタイプの人工皮革ではかなり事情が異なるといったように、素材タイプ

によって協業可能性にはかなり差があるという結果が得られている。以下、素材別に整理

していく。

①合成

合成

い量産

るとい

いう点

なり難

②人工

靴な

メル

ヒア

工皮革

つま

の良

であ

また

余地が

ンナー

図表Ⅳ

成皮革

成皮革の重要

産性が要求

いうのは均質

点でも不利に

難しいと考え

工皮革(スエ

などの皮革製

タイプに関

リングでも複

革をさらに天

まりスエー

し悪しを評価

る。

た、現実問題

が少ないの

ーとの協業と

Ⅳ-5:スエ

要用途である

される。そ

質性・量産性

になる。そ

えざるを得な

エードタイプ

製品メーカー

しては人工皮

複数聞かれた

天然スエード

ドタイプの人

価する、差を

題として、起

も事実であ

という可能性

エードタイプ

るカーシー

ういった素材

性のどちらに

ういう意味で

ない。

プ)

ー、すなわち

皮革と天然皮

た。一方、ス

ドに近づけた

人工皮革にお

を縮めるとい

起毛したスエ

り、我が国の

性は低い。

プ人工皮革と

(写真提供 東

112

トなどの分野

材にタンナー

にとってもマ

では合成皮革

ち“皮革素材

皮革の差はな

スエードタイ

たい」という

おいては、天

いう考え方自

エードタイプ

の人工皮革の

と製品例

東レ(株):上左

野ではバラつ

ー職人の高度

マイナスであ

革業界とタン

材ユーザー”

ない」という

イプ人工皮革

う考え方はな

天然スエード

自体がすでに

プではさらな

のほぼ半分を

左はウルトラス

つきのない製

度な仕上げ技

あり、コスト

ンナー技術の

の間では

う評価がある

革メーカーに

ない。

ドと人工スエ

に希薄化して

なる表面仕上

を占めるスエ

スエード、上右は

製品の均質性

技術を組み合

トの上昇を招

の組み合わせ

「スエードや

ることは本調

にも「自社製

エードを比べ

ていると言え

上げ処理を加

エードタイプ

はブーツの製

性と高

合わせ

招くと

せはか

やエナ

調査の

製の人

べてそ

えるの

加える

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品例)

③人工

銀面

皮革の

に整理

始めて

触感な

人工皮

は影響

持った

景に

れてい

この

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模式的

まえ、

図表Ⅳ

(写真

工皮革(銀面

面タイプの場

の差は依然

理したように

ているとい

など感覚的評

皮革メーカー

ういったメー

響している。

た人工皮革を

は「良質天然

いる。

のように、国

という可能性

的にまとめ

、皮革業界が

Ⅳ-6:銀面

真提供(株)ク

面タイプ)

場合、すでに

としてある」

に、我が国の

うのはまさに

評価という面

ー側のニーズ

ーカー側ニー

。天然皮革

を投入すれば

然皮革が手に

国内皮革産業

性を考えるに

ると下図のよ

が今後目指す

面タイプ人工

クラレ:上左は

に触れたよう

」という見解

の銀面タイプ

にそういった

面での人工皮

ズが存在して

ーズの背景に

と同じ見た目

ば、天然皮革

に入りづらい

業の総合力を

に際しても、

ように整理で

すべき方向性

工皮革と製品

はクラリーノ、

113

うに「見た目

解は複数のヒ

プ人工皮革メ

た“差”、す

皮革の弱み」

ているといえ

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目・触感で、

革代替素材と

い状況は今後

を発揮するた

、素材タイプ

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性について次

品例

上右はイタリ

目、触感、風

ヒアリングで

ーカー2 社が

すなわち、先

をタンナー

える。

原皮の調達難

天然皮革に

として市場を

後も続く」と

ために人工皮

プによってそ

ういった素材

次項で考察す

リアタンナーと

風合いなどの

で聞かれてい

がタンナーと

先に述べた「

ーの手作業で

難や価格高騰

にない(耐水

を獲得し得る

という可能性

皮革・合成皮

その差は大き

材ごとの差と

する。

との共同開発素

の点で本革と

いる。図表Ⅳ

との協業取組

見た目、風

で埋めたいと

騰という市場

水性等の)機

るという判断

性が当然織り

皮革とタンナ

きい。その違

といった実情

素材による試作

と人工

Ⅳ-5

組みを

合い、

という

場環境

機能を

断の背

り込ま

ナーの

違いを

情を踏

作品)

114

図表Ⅳ-7:タンナー協業可能性に関する素材別評価と銀面タイプの協業事例

協業パターン 概要 主ターゲット

クラレ+ 伊・タンナー

自社の人工皮革クラリーノをイタリアに運び、

現地タンナーが仕上げ。これまで以上に本革に

近い風合い・質感を実現。

欧州高級バッグ →天然皮革代替需要

帝人コードレ+ 国内タンナー

同じく自社のコードレを国内のタンナーで仕上

げ処理。従来の銀面タイプよりさらに本革に近

づけ、すでに靴ではトライアル販売段階。

高級紳士靴等の革靴 →天然皮革代替需要

2-2.目指すべき素材開発の方向性

銀面タイプの人工皮革については素材メーカーとタンナーの協業可能性はあるどころか、

すでにその取組みは始まっている一方で、合成皮革やスエードタイプではタンナーとの協

業可能性は低い。

この違いは一言でいえば「より本革に近づける→それによって天然皮革代替素材として

の需要開拓を狙う」という考え方がフィットするか、しないかの差と言え、タンナーの仕

上げを加えることで天然皮革にさらに近づく余地がある銀面タイプ人工皮革ではこの考え

方がすでに現実の取組みになっている。

一方、スエードタイプ人工皮革や合成皮革などでは「より本革に近づく」というニーズ

がないとしても、新しい素材や機能、製法などを追求する志向は強い。スエードタイプの

メーカーである東レが新たに開発したスエードと銀面の両方の特性を持った人工皮革など

はその典型といえる。合成皮革業界でも、たとえば乾式の製法で湿式合成皮革と同等の質

合成皮革

人工皮革

(スエード)

人工皮革

(銀面)

量産性、品質均一性等がネック。コストをかけて今以上に本革に近づけるニーズ低。

天然スエードに近づける意義少。タンナーの手加工を加える余地も少。

感覚・イメージ面でまだ天然皮革と差あり。

競合する天然皮革は調達難+価格高騰長期化。

欧州のタンナーなどは新皮革素材加工に意欲。

高級バッグ、高級革靴用なら手仕事工程が増えても量的に対応可。 また、銀面タイプなら手加工を加えて天然皮革に近づくことで「天然皮革代替需要」の可能性。

115

感や柔らかさを実現するための取組みが活発であり、それに伴って水の使用量や溶剤の使

用料を減らすといった製造方法自体の改善につながる例も現れている。

つまり、スエードタイプ人工皮革や合成皮革では「天然皮革に近づける」という志向は

ないが、「これまでにない素材、これまでにない製法、これまでにない機能」を追求する競

争は激しく、メーカーも開発努力を惜しんでいない。

そう考えてくると、我が国の皮革産業がその総合力を高めるための方向性は二つに集約

できる。一つは人工皮革メーカーとタンナーの協業によって「銀面タイプ人工皮革を限り

なく天然皮革に近づける」という方向性であり、もう一つは「スエードタイプ人工皮革や

合成皮革の分野でまったく新しい素材を開発する」という方向性である。

図表Ⅳ-8:我が国皮革業界総合力アップに向けた二つの方向性イメージ

第Ⅰ章やヒアリング調査結果などでわかるように、合成皮革や人工皮革の生産量、ある

いはそのコストの安さという点では中国製などが圧倒的に強く、我が国皮革産業がこれら

アジア製にコストで勝てる可能性はほとんどない。

となれば、求められるのは人工皮革や合成皮革の分野で現在持っている技術的優位性や

高級品マーケットでのシェアをさらに高めるという考え方であり、上述した「より本革に

近い銀面タイプ」「これまでにない新素材」という二つの方向性はどちらもその考え方に合

致するものといえる。

ただ、この二つの方向性は皮革業界とのジョイントのあり方や、それぞれがターゲットと

し得る用途なども若干異なる。それらの点について次項でもう少し詳しく考察していく。

・本革と区別がつかない触感、風合いを 持った素材の開発 ・タンナーの手仕事を加えることで本革 らしい“味”を実現 ・既存の天然皮革マーケットで天然皮革 代替需要を狙う

①限りなく天然皮革に近づけた天然皮革代替素材

・キルティング加工やプリントを可能にする等の新 しい機能、あるいはスエードと銀面の中間的 触感の実現など、これまでにない特性を 持つ素材の開発 ・既存のマーケットに加え、これまで皮革 とは縁の薄かった新用途を創出

②これまでにない機能・質感等を 持った新しい素材

116

3.我が国皮革業界の総合力向上に関する考察

3-1.二つの方向性による総合力向上のイメージ

前項で述べた①と②の二つの方向性のうち、「限りなく天然皮革に近づけて天然皮革代替

需要を狙う」という取組においては銀面タイプ人工皮革メーカーと天然皮革タンナーのコ

ラボレーションという事例がすでに存在しているため、協業による総合力向上イメージも

比較的明確といえる。

それに対し、全く新しい人工皮革や合成皮革の開発に皮革業界がどういった形で関与す

るかはやや漠然としているが、ここではタンナーよりもむしろ靴、レザーウエア、カーシ

ート等々、製品メーカーの果たす役割が重要となると考えられる。そういった組み合わせ

では、本調査のヒアリングでも取り上げた東レ(素材メーカー)+Support Surface(アパ

レル)が好例といえる。

東レでは従来得意としたスエードタイプに、さらに銀面タイプの中間的な触感を持たせ

た新しい人工皮革「ヌー」を発表したが、こういった全く新しい新素材は開発するまでは

メーカーの仕事でも、それを実際の商品にするにあたっては商品の企画・製造を担う製品

メーカーの果たす役割が極めて重要になる。

「ヌー」の場合、国内デザイナーブランドである Support Surface がこの新素材を使っ

たアパレル展開を積極的に進めたことで、これまでにない触感を持った、しかも高級な新

素材としてのイメージ発信につなげている。

「より本革に近い素材」という方向性では素材開発の目標が明確で、ターゲットも「既

存の天然皮革製品」とはっきりしている。その目標に向け、タンナーは「より本革らしい」

仕上げ加工に関与する一方、製品メーカーも「これまでの本革の替わりに使う」素材とい

う前提で製品開発を進めることになる。

一方、これまでにない新しい機能などを持たせた素材開発では、上述のようにタンナー

業界などが直接素材の製造段階で関与するという局面は考えづらいが、従来にない機能を

持っているだけに、その用途や製品化のイメージにも未知の部分が多い。それだけに新素

材の持つ機能がどのような用途に応用できるかという点においては、靴や鞄といった既存

の皮革ユーザー業界はもとより、これまで皮革素材があまり使われなかった新しいユーザ

ー業界も加わった製品開発・用途開発の重要性がいっそう高まる。

「より本革に近い素材」という方向性においては銀面タイプ人工皮革メーカーとタンナ

ー、「これまでにない新しい素材」というもう一つの方向性においてはスエードタイプ人工

皮革や合成皮革メーカーと各種の製品メーカー。この基本的な二つの組み合わせのイメー

117

ジを表すと下図のようにまとめられる。

図表Ⅳ-9:二つの方向性別の業界横断的協業イメージ

3-2.期待される業界横断取組みの相乗効果

上図に示したように、皮革業界が人工皮革や合成皮革とどのように協業するかというは、

その目指す方向性によって実際の素材製造段階での関与があり得るか、用途開発段階での

協業になるかといった違いがある。しかし、どちらの方向性であっても、原材料高騰や海

外品の流入、後継者不足等々で業界縮小傾向にある皮革業界が、市場の伸びしろを持つ業

界とジョイントし、「新素材・新市場創出チームの一員」に加わる意義は大きいといえる。

そういう意味ではクラレが人工皮革の仕上げ加工をイタリアのタンナーに委託しているの

は、国内のタンナーにとっては大きな機会損失であるとも言えよう。

確かに、こういった業界横断的な協業には矛盾要素が含まれる。タンナーが「天然皮革

代替素材」の開発に貢献することは、従来あった天然皮革製品の市場を奪う可能性がある

ことは否定できないからである。

しかし、もともと人口減少で国内マーケットは長期的縮小基調にあり、加えて上述のよ

うな原材料価格高騰など、事業環境は厳しいものがある。天然皮革という素材だけに固執

して、その製造加工技術のイノベーションを進めるとしても、その伸びしろが大きくない

①限りなく天然皮革に 近い素材の開発

タンナー業界

繊維・化学業界スエードタイプ人工皮革メーカー

合成皮革メーカー

銀面タイプ 人工皮革メーカー

②これまでにない 新しい素材の開発

素材開発・製造段階 での協業

靴、鞄、スポーツ、家具、カーシート等々、 皮革ユーザー業界

靴、鞄など、これまで天然皮革が絶対的強みを持つ市場での代替需要獲得を狙える新素材

天然皮革代替需要にとどまらず、これまでにない新用途の開拓や、天然皮革と人工素材のハイブリッド化など

製品開発・用途開発段階 での協業

製品開発・用途開発段階での協業

118

ことは否めず、このままでは業界がさらに厳しい事業環境に追い込まれかねない。

本章で提示している合成皮革・人工皮革業界との協業による新市場創出=二つの方向性

は、単に国内市場だけにとどまらず、海外市場開拓やインバウンド需要の獲得といった可

能性も含むものである。我が国の天然皮革製品だけに限って言えば、これまで海外需要の

開拓に成功したとは言い難いが、人工皮革・合成皮革業界との協業によって海外マーケッ

ト獲得の可能性も大きく広がり、皮革業界にも新市場開拓の十分なメリットが及ぶことが

期待される。

4.協業促進に向けたポイント整理

4-1.業界横断的な連携の促進

これまでに見てきたように、今後の我が国の皮革業界では天然皮革と人工皮革・合成皮

革という垣根を越えた連携取組みによる相乗効果発揮が求められる。特に原皮の高騰や調

達難、職人不足等々、事業環境の厳しさが増す一方で小規模事業者が多いタンナー業界や

靴等の製品メーカーにとって新しい素材開発や製品開発への関与は大きな意味を持つ。

「本革だけが持つ良さ」「本革でなければ出せない味」といったように、天然皮革のみが

持ちうる長所があることは事実であり、本調査のヒアリングでも本革に対する評価やこだ

わりは皮革業界全体を通じて依然として強いことが伺える。ただ、人工皮革や合成皮革、

すなわち繊維業界や化学業界メーカーとの連携を模索するにあたっては、天然皮革業界サ

イドも伝統的・固定的な考え方から踏み出し、柔軟な発想を持つことが必要なのも確かで

ある。国内でもタンナーコットンのように、タンナーが人工素材づくりに取り組む例は現

れているが、こういった取り組みはまだ少ないのが実情である。

タンナーと人工素材メーカーとの協業という観点で考えると、銀面タイプ人工皮革メー

カーのクラレが「限りなく本革に近い人工皮革」開発のためにイタリアのタンナーに自社

製品を持ち込んだ際の、現地タンナーの反応が示唆に富むといえる。

高い技術を誇るイタリアのタンナーにとって、昨今の良質原皮調達の困難化は、自社の

高いなめし技術に適した良質な原料が調達できないことを意味しており、端的に言えば「仕

事がしたくても材料がない」という状況に近い。そういった状況の中、日本メーカーから

持ち込まれた人工皮革に対するタンナーの姿勢はオープンなもので、人工皮革の仕上げ加

工に対しても積極的に協力したとされる。

もし「ウチは天然皮革しか扱わない」という心理的なハードル、あるいは「“本革のよう

119

な人工皮革”づくりに協力することは結局天然皮革の市場縮小=自分たちの首を絞める」

といった警戒心が大きければ協力関係は生まれ得なかったはずであり、こういったオープ

ンなチャレンジ精神が逆にイタリアタンナーの底力と考えることもできよう。

タンナー業界は基本的に原皮以外の人工素材を加工する機会は少ない。だが、人工皮革

や合成皮革の新素材開発や用途開発で協業ということになれば、我が国のタンナー業界に

もイタリアのタンナーと同じような姿勢が期待されるのは当然であろう。

本革へのこだわりはタンナーのいわば“本能”に近いものといえるが、それだけに固執

していては、新素材開発に向けた協業という可能性も閉ざされる。

もちろん、協業に際しては人工皮革や合成皮革メーカー側の姿勢も重要になる。人工皮

革や合成皮革のメーカーは繊維や化学系のメーカーが多く、靴や鞄、アパレルやスポーツ

用品などのユーザー企業(=製品メーカー)や皮革素材卸企業などとの接点は少なくない

が、より川上に位置するタンナーなどとの協業機会は非常に少なかった。本調査ヒアリン

グ対象でもあった帝人コードレ+国内タンナーのような取組は人工皮革メーカー側にとっ

ても大きなチャレンジだったといえる。しかし今回のような取組を契機として、繊維メー

カーや化学メーカーと国内のタンナーとの間で協業パイプが太く強化されれば、特に銀面

タイプ人工皮革の「天然皮革代替需要狙い」という方向性では今後さらなる事業機会の増

大や相乗効果の発揮につながることが期待できる

4-2.素材横断的な製品開発の促進

靴や鞄などの比較製品メーカーは、素材そのものの開発や製造に直接関与することはな

いとしても、新しい素材に合った製品企画や開発、さらに人工皮革や合成皮革に適した加

工技術の研究といった面でも担う役割は大きいといえる。

しかし、現状では皮革製品メーカーの間では人工皮革と合成皮革の違いもあまり認識せ

ずに一括りにして捉えるといった考え方が未だに残っているのも事実である。しかし、実

際には合成皮革と人工皮革では同じ靴を作る場合でも加工方法には違いがあるとされてお

り、人工皮革や合成皮革に対する認識の遅れは「素材にマッチした製品開発」の遅れに結

びつく。ましてや「天然皮革しか扱わない」といった考え方に固執していては、タンナー

と同じように事業環境が厳しさを増していくことも十分考えられる。

今後は皮革製品メーカーも天然皮革と人工皮革・合成皮革の両方を扱う技術を身につけ

た上で、今まで以上に顧客のニーズに応じて使い分けるといった柔軟な素材調達や技術対

応が求められるといえる。また、一つの製品の中で天然皮革と人工・合成皮革の両方を組

み合わせるといった“ハイブリッド”化への対応もより重要になってくるといえよう。

120

こういったハイブリッド皮革製品はカーシートや家具といった、大型皮革製品ではすで

に珍しくはなくなっているが、こういった方法論が拡大し、「天然皮革も、人工・合成皮革

も、両者の組み合わせも作だけのれる」といえるだけの技術対応力が皮革製品メーカー全

体に浸透すれば、我が国皮革産業全体の技術レベルの底上げにも寄与すると考えられる。

4-3.消費者意識変化への対応

本章1-1項でも触れたように、TPP や日・EU 間 EPA など海外巨大市場と日本を結ぶ

大型経済連携協定の締結・発効が今後進むという前提に立てば、皮革製品についても同じ

貿易ルールに基づいた共通市場化が進むと考えられる。

皮革市場の共通市場化が進むのに伴い、皮革製品に対する消費者の意識もまた変化し、

それが皮革産業にとってのリスクになり得る。

たとえば下に挙げた①~③などは皮革産業に向けられるネガティブな消費者意識の例で、

こういった見方は現在のところまだ大きな消費者意識のトレンドを形成するには至ってい

ないが、一部の消費者の間には存在している意識であることは間違いない。

①皮革製品は毛皮と同様、動物に残酷である

②開発途上国の革なめし業などでは児童労働など人権上の問題がある

③同様に、開発途上国の革なめし業などは排水処理等の環境負荷対策が不十分である

しかし、今後皮革製品マーケットやそのサプライチェーンがグローバル化し、そこに共

通のルールが適用されるようになり、特定の皮革製品サプライチェーンのどこかに上記の

ような問題が指摘されれば消費者から非難を浴びるというリスクは確実に増す。実際、米

国では動物愛護団体が新興カーメーカーの株主となり、カーシート素材の採用に株主とし

ての影響力を行使して天然皮革以外の素材使用を認めさせたといった例も現れており、皮

革産業に対する消費者監視の目が今後さらに強まる可能性は高い。

ただ、こういった皮革業界に向けられる消費者監視の目は、上に挙げたリスクの例に抵

触することがあり得ない人工素材にとっては逆に追い風になるといえる。

次項で詳説するイメージ評価(図表Ⅳ-12)にみるように、我が国の皮革製品に対し

て「欧米製より環境にやさしい」と考えている消費者はあまり多くない。逆に言えば、日

本製より“環境にやさしい”というイメージの高い欧米製皮革製品の輸入が今後増える可

能性が高いということになる。こういった消費者イメージ動向は国内皮革業界も敏感にな

らざるを得ず、人工皮革や合成皮革といった「低リスク素材」に事業範囲を広げておくこ

との意味もまた少なくないと考えられる。

121

4-4.対外的情報発信の強化

本調査のアンケート結果などでも見られるように、日本製皮革製品が欧米製に比べてブ

ランドイメージや高級感で勝ると考える消費者は少なく、高級天然皮革製品という“土俵”

で戦う上では欧州勢との勝負は厳しい戦いになる可能性が高い。

図表Ⅳ-12:皮革製品イメージの国別評価ウェイト(再掲)

そこで期待されるのが先に述べた「二つの方向性」から生み出される新しい皮革素材と

なる。「これまでにない“本革らしさ”を持った新素材」「これまでにない機能や触感等を

実現した新素材」という二つの方向性から生み出された新素材は、そのどちらであっても

いわば世界の先頭を切って皮革マーケットに投入された先端素材ということになる。

天然皮革製品での勝負であれば日本製がイタリア製に勝つのは容易ではないであろうが、

先端素材という新しい“土俵”であれば勝機は十分にあるといえ、そのことはスエード系

人工皮革で東レ系列のアルカンターラがイタリアを中心に欧州マーケットで大きな位置を

占めていることからも十分推測できる。

そのためには素材自体の品質や機能はもちろんだが、やはり素材ブランドとしてのイメ

ージを確立できるかどうかが大きなポイントとなる。上述のアルカンターラ、あるいは日

本のランドセル市場におけるクラリーノなどはこういった「素材ブランド」のイメージ確

立に成功した例といえよう。

逆に、いかに優れた機能を持ち、天然皮革と区別がつかない品質を実現したとしても、

それらが「人工皮革(あるいは合成皮革)という点では中国や東南アジアで作られている

ものと基本は同じ」と見なされれば高質なブランドイメージ形成にはつながらない。

本調査で提示した皮革業界と人工・合成皮革業界のコラボレーションという可能性は、

メー

使

欧米製の皮革製品とくらべて n=3000 42.6 63.4 57.3 31.0 33.5 59.5 31.1

アジア製の皮革製品とくらべて n=3000 71.4 79.2 77.2 70.6 71.3 72.6 55.7

42.6

63.457.3

31.0 33.5

59.5

31.1

71.4 79.2 77.270.6 71.3 72.6

55.7

0%

20%

40%

60%

80%

(%)

122

素材それ自体としては人工皮革あるいは合成皮革の範疇から出るものではない。ただ、環

境面の影響に関する一定の基準を満たした天然皮革を「日本エコレザー」と認定している

のと同じように、ある条件にあった人工皮革・合成皮革に日本製のニューマテリアルとい

う別の認定ブランドを与えることは可能であろう。

こういった取り組みが「これまでにない人工(合成)皮革」「天然皮革のノウハウを取り

入れた人工(合成)皮革」といった新規性の訴求につながると同時に、海外に向けた日本

製新素材の情報発信効果発揮という期待も持てる。

本章1-1項でも触れたように、輸出ウェイトが少なかった我が国の皮革製品市場に、

近年はインバウンドという新しい需要が形成されつつある。インバウンド需要を日本製皮

革製品に引き寄せるためにも、日本製の新しい皮革新素材の良さを認定ブランドなどの形

で対外的にアピールすることの重要性は高いといえる。

5.その他の課題の整理

5-1.人工皮革・合成皮革に関する定義の明確化

まず問題になるのは、本報告書第Ⅰ章でも言及したように、我が国において人工皮革と

合成皮革の定義に不明確な部分が残っているため、両素材の位置付けや区別が曖昧になっ

ているという点である。

人工皮革と合成皮革の位置付けがやや曖昧という現在の状況の中で、 も一般的に普及

していると考えられる認識は次頁の図のパターンである。ここではまず天然皮革=本革に

対して合成皮革=合皮が存在し、合成皮革の一部に人工皮革が含まれるという捉え方で、

家庭用品品質表示法における革製衣料や革製手袋等における区分がこのパターンにあたる。

図表Ⅳ-8:現在の人工皮革・合成皮革の位置付け概念図

この区分で常に問題になるのは、「合成皮革」という用語だけでは人工皮革を含んだ素材

全体を指すのか、人工皮革を除いた合成皮革を指すのかがわからないという点である。第

天然皮革=本革

合成皮革=非天然皮革?or

=非人工皮革?

人工皮革

皮革?樹脂? 繊維?

123

Ⅰ章にも示したように、本報告書では「合成皮革」という用語を「人工皮革以外の“非天

然皮革”」という意味で用いているが、現実には業界内でも「合成皮革=“非天然皮革”全

体」、すなわち人工皮革を含めた概念を指して用いられている例はあり、人工皮革と合成皮

革の違いが明確に捉えられていないケースが少なくない。

さらに、法規制や公的統計などにおいてはこれら“非天然皮革”製品の分類が皮革素材

(家庭用品品質表示法など)であったり、繊維製品(貿易統計など)であったり、プラス

チック製品(生産動態統計など)であったり、といったようにバラつきがあることも合成

皮革と人工皮革の位置付けを不明確にする一因になっている。

しかし、本調査のアンケート調査では回答者の約 12%強が人工皮革と合成皮革が製造方

法の違いから区別されたものであることを、約 38%弱が「同じものではない」ことを認識

している。すなわち国内消費者の半数は「人工皮革と合成皮革は同じものではない」こと

をわかっているということになる。消費者の“非天然皮革”素材に対する認識がそこまで

高くなっている状況の中で、人工皮革と合成皮革の公的な定義・区分が曖昧であるという

状態は消費者を混乱させる恐れがある。

図表Ⅳ-9:現在の人工皮革・合成皮革の位置付け概念図(一部抜粋・再掲)

「人工皮革」と「合成皮革」という用語それ自体はすでに長く用いられて普及している

ため、今から変更することは現実的ではないであろうが、少なくとも「合成皮革」という

用語が上位概念と重複して使われている状態は改善の余地があると言わざるを得ない。

さらに言えば、人工皮革と合成皮革が品目分類として皮革なのか、繊維なのか、プラス

チックなのかという点についても、各種統計等で共通化されることが望ましいといえる。

5-2.皮革製品表示の明確化

本報告書の p9~11 で示したように、現在の家庭用品品質表示法においては皮革製品の表

示が鞄や靴、衣料・手袋、家具等で横並びになっていない。たとえば「革(天然皮革)」と

いう表示の規定が革製衣料や手袋には存在しても靴には存在していないし、鞄で天然皮革

製のみ表示が定められているのに対して靴では合成(人工)皮革やゴムだけが表示規定対

象になっていたり、といったバラつきがある。加えて、前項で触れたように合成皮革と人

両者の間で製造

方法が違うことを

知っていた

なにか違いがあること

は知っていたが正確な

違いは知らなかった

呼称が違うだけで同じ

ものだと思っていた

そもそも呼称の違いを

意識したことが

なかった

その他

全体 n=3,000 12.3 37.8 12.1 37.7 0.1

工皮革

かりや

ただ

は存在

の扱い

靴に

クト

内張

すこ

図表Ⅳ

出典:

上表

もので

でこの

く普及

う別の

グラム

められ

革の定義や位

やすい統一的

だ、皮革製品

在する。EU

いの違いがそ

に関して言え

グラム(絵表

りは繊維、外

とが基本にな

Ⅳ-10:E

甲皮(

革(Leathe

:Directive 9

sale to the

表下列いちば

で国際的に

のマークをシ

及したものと

ころが、繊維

の規定(Regu

ムなどではな

れた。

位置付けにつ

的表示にはな

品の歴史が長

U の法規則上

その典型例と

えば、素材の

表示)を使っ

外底は(ゴム

なる。

EU における

(Upper)

er) コ

(Co

4/11/EC 「la

consumer

ばん左にある

もかなり広く

シンボル的に

と言ってよい

維製品の一部

ulation No.

なく「動物由

ついても明確

なっていない

長い欧州でも

上、靴などの

といえる。

の表示は使用

った表示方法

ムなどの)そ

る靴の部位・

内張り

コーティング革

oated Leathe

beling of the

る革のピク

く知られたも

に多用するな

い。

部に皮革や毛

1007/2011)で

由来の非繊維

124

確でない部分

いのが実情で

も同じ皮革素

皮革製品と繊

用部位に関し

法が定められ

それ以外の素

素材表示ピ

(Lining an

er)

天然繊

(Natur

and sy

te

e materials u

トグラムは動

ものであり、

など、天然皮

毛皮を使った

で別の表示方

維製品が使用

分があるため

である。

素材が製品分

繊維製品に部

して 3 種類、

れており、た

素材」といっ

ピクトグラム

nd Sock)

繊維、合成繊

不織布繊維素材

al textile mat

ynthetic or no

xtile materia

used in the m

動物の皮を開

国際タンナ

皮革を表すピ

た場合に関し

方法が定めら

用されている

め、皮革製品

分野で表示が

部分的に革が

素材に関し

たとえば「甲

ったような情

外底(O

繊維、

terials

nwoven

ls)

(A

main componen

開いた状態を

ナーズ協会で

ピクトグラム

しては、EU繊

られており、

る」という文

品全体を通し

が異なるとい

が使用された

しては 4 種類

甲革は天然皮

情報を絵表示

Outer sole)

それ以外の素

All other Mate

nts of footwe

を模式的に表

でも自協会サ

ムとしては

繊維表示規則

そこではピ

文言での表示

したわ

いう例

た場合

類のピ

皮革、

示で表

素材

rial)

ar for

表した

サイト

も広

則とい

ピクト

が定

125

「動物由来の非繊維製品」という表示は動物愛護的観点から見るとマイナスイメージが

強い表現であり、毛皮と同じ扱いになることに対する抵抗も強かったことから、欧州皮革

業界からはこの表示方法に反対の声があがり、「革・レザー」という本来の表示に戻せとい

う要求がなされたが、EU 当局はこの反対意見を取り入れなかった。

このように、皮革という素材の共通性だけで商品分野横断的な共通表示を作ることは難

しいのは事実である。ただ、我が国の品質表示法の場合、たとえば鞄では「天然皮革使用

の場合のみ表示規定あり→人工皮革や合成皮革に関する表示規定なし」なのに対し、靴で

は「甲革に合成(人工)皮革使用の場合のみ表示規定あり→天然皮革に関する表示規定な

し」といったように、皮革製品の代表的分野といえる靴と鞄で表示規定の対象素材が正反

対という状態は消費者にとっても混乱を招きやすい。

図表Ⅳ-11:絵表示に対する評価ウェイト(再掲)

6.本調査の総括

本章でこれまで考察してきたように、皮革業界が「天然皮革以外の素材開発」、すなわち

新しい人工皮革や合成皮革の開発において繊維メーカーや化学メーカーなどと協業すると

いう可能性は、すでに一部においては可能性ではなく現実に動き始めている。

こういった協業の可能性はどの国においても等しく存在するものとは考えられない。た

とえば中国や東南アジアなどのように新素材開発や品質向上よりまずコストの安さが重要

、日

n=3000 32.6 27.7 14.1 24.9 0.6

32.627.7

14.1

24.9

0.60%

10%

20%

30%

40%

本調査の消費者アンケート調査

では先に掲げた EU のピクトグラ

ムを例に掲げ、絵表示に対す消費者

評価を検証したが、結果は「わかり

やすいので日本でも取り入れて欲

しい」という回答が 3 割超で も多

いものの、「わかりづらいので必要

ない」という回答もそれに次いで多

い 27.7%ある。

現段階で皮革製品表示をピクト

グラムにいきなり変更するといっ

たことは考えづらいが、先に言及し

た人工皮革と合成皮革の定義等と

併せて、わかりやすさ改善に向けた

検討は求められるといえよう。 (%)

126

な国では人工皮革や合成皮革のメーカー、タンナー、皮革製品メーカーといった個々のプ

レーヤーが数多く存在したとしても、高級新素材開発に向けて業界横断的な取り組みとい

った可能性は考えづらい。

本章で提言したような「皮革業界が人工素材づくりに関与する」というスキームは、人

工皮革や合成皮革で高い技術競争力を持ち、特にハイグレード市場で高いシェアを持ち、

天然皮革代替需要獲得や新素材開発というポテンシャルを持つ我が国だからこそ成立し得

るものといえる。

今後皮革製品取引はグローバル化が進展するのは確実であり、欧州などからの輸入品も

増加する可能性は高い。我が国の消費者の間で欧州製の皮革製品が「デザイン性」や「ブ

ランドイメージ」などの面で国産品より高いイメージを持っていることは否めない。また、

良質原皮の調達難といった逆風も強いことも事実である。

だが、こういった逆風は我が国皮革業界に限った話ではない。イタリアのタンナーが日

本製人工皮革の加工に積極的な姿勢をみせた背景にも「加工技術はあっても加工する材料

(良質原皮)がない」ことが背景になっていることは確かである。

我が国皮革業界も状況としては同じであろう。しかし上述のように我が国には技術レベ

ルで世界トップクラスの人工皮革・合成皮革メーカーが存在しているという大きなアドバ

ンテージがある。タンナーにおいてはこの利点を生かし、従来からの天然皮革の製造に加

え、これまでに培ってきた匠の技術を人工皮革や合成皮革メーカーとの横断的なコラボレ

ーションに応用し、消費者ニーズや 新トレンドを踏まえた新素材や高付加価値製品開発

につなげることが重要となる。こういった取り組みが更なる技術力の向上や収益率の改善

に結びつき、タンナーはもとより我が国皮革産業全体の総合的な「皮革競争力」向上をも

たらすと期待される。そのためには天然、人工といった素材の垣根を越え、両素材の長所

を生かした加工技術の研究やハイブリッド製品開発の取組み、あるいはタンナーの加工技

術を人工・合成皮革づくりに効果的に取り入れるといった素材開発努力のさらなる普及・

進化が望まれる。

ただ、すでに述べたように、皮革業界の中には人工素材を扱うことに対する心理的抵抗

感が根強いことは十分考えられ、人工皮革・合成皮革メーカーにとってもタンナーとの協

業による素材開発はまだ取組みが始まったばかりで、その間口が広いとは言えない。こう

いった状況の中で両者の連携・協業パイプを太くしていくためには、公的なサポートによ

る協業促進のための仕組みづくりということも考える必要があろう。

皮革関連産業の集積度が高いイタリアのフィレンツェ周辺などでは、たとえばクラレが

持ち込んだ人工皮革を現地タンナーが加工→その素材を現地の皮革製品メーカーが試作品

化 といった流れがスピーディに出来上がる素地がある。新素材に対するチャレンジ意欲

や、素材加工と製品企画の連携性の高さは、それ自体がイタリア皮革産業の競争力にも結

127

び付いているといえよう。

だが我が国でタンナーや皮革製品メーカーが人工皮革や合成皮革を取り扱おうとしても、

企業対企業の個別の取組みレベルにとどまる可能性が大きく、素材開発と製品開発の連動

性といった協業効果の面的広がりという点では懸念が残る。

こういった部分を補完するために、たとえば人工皮革・合成皮革メーカーが材料供給を、

タンナーがその素材の加工を、靴や鞄といった製品メーカーが新しい素材の製品企画や試

作を、といった協業コンソーシアムのような場を創設するという方法は十分検討に値する。

素材製造(人工皮革・合成皮革メーカー)、素材加工(タンナー)、製品企画・製造(各

種皮革製品メーカー)という三つの機能が互いに連動し合いながら技術を集約すれば、素

材開発や製品開発という点での相乗効果は大きく、その効果の波及度合いも企業単位だけ

の取組みに較べて大きくなることが期待できる。

こういった取り組みはこれまでにない業界横断的な性格が強く、しかも業界間のパイプ

はこれまでにあまりないだけに、先に述べたコンソーシアム等の創設に国などが適切に関

与し、意欲的な企業の技術を集結させることで、業界横断による協業の相乗効果が高まる

ことが期待される。

そういった横断的な協業の取り組みから新しい素材や製品の開発が加速し、「メイド・イ

ン・ジャパン」の皮革素材・皮革製品として世界で高いブランドイメージを獲得すること

を期待して本調査の結びとしたい。

128

二次利用未承諾リスト

報告書の題名:皮革製品における各種皮革素材の普及状況調査

委託事業名 :平成27年度皮革産業振興対策調査等

受注事業者名: 株式会社 東レ経営研究所

頁 図表番号 タイトル

14 Ⅰ-12 合成皮革の生産量推移推計

15 Ⅰ-13 人工皮革の生産量推移推計

16 Ⅰ-14 合成皮革の生産量推移推計用途別ウェイト推計

17 Ⅰ-15 人工皮革のタイプ別生産ウェイトとタイプ別国内用途推定

18 Ⅰ-16 人工皮革の世界全体での用途動向

19 Ⅰ-17 人工皮革基材の極細繊維ウェイトの概念図

22~31 主要国別の合成皮革・人工皮革生産量推定値