での無人航空機(ドロ...

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国立公園に での無人航空 l ン)の活用 株式会社地域環境 はじめに 地域の自然環境、とりわけ動植 物の生息状況を把握すること その地域でさまざまな施策を検討 する際の基礎情報 根拠資料 なるため、欠くことのできない取り 組みである。特に 立公園はわが 国の生物多様性の屋台骨であり、 公圏内の現状をしっかりと把握し、 課題を抽出して施策に反映してい くことは、わが国の生物多様性を 保全していく上で重要な意味をもっ。 現状を把握するための調査は、 主に動植物の分類の知識を有する 調査員が現地を踏査することによ り行うが、ここに大きな課題がある 0 .人が行けない場所 広大な湿地 帯、急峻な崖など .人が見えないもの 暗闇で活動 支社 佐々木孝太郎 する動物など この 点に関 ては、これまで 十分な調査、情報収集を行うこと ができなかった。 人が行けない場所、 見えないものを見る そこで、当社では 行けないと ころを見に行く、見えないものを 見る ため 無人航空機 以下、 l ンという の活用を始めた。 広大な面積、多様な自然環境を有 する 立公園においては、ド ロー ンを自然環境調査へ導入し使いこ なすことで、この大きな課題を解 消するだけでなく、従来よりも有 益な情報を収集、提供できる可能 性を秘めている まずは業務での利用を可能にす るため、入念な飛行訓練を実施す るとともに、法規制などの情報収 集を行い、平 九年九月に国 交通省航空局の 取得し、調査での活 ドロ l ンの機体の飛行性能や れに付随するカメラの性能 ており、実用性や安全性、取 得デ l 画像や位置情報 の品 質も、業務での使用に十分耐えう るものとなっている。可視光カメラ の解像度の向 上( コンシ ーマ l けのドロ l ンでも静止画で 00 0 万画素、動画は 4K の画質 によ り、位置情報付きの高精細な空撮 が行えるだけでなく、最近では赤 外線カメラやマルチスペク ルカメ ラなど、さまざまなセンサ 類を搭 載できる機種もリリ スされてお り、今後調査への応用が期待される。 ドロ!ンの活用事例 当社でもドロ l ンの活用を開始 て以降、国立公園では阿寒摩周 国立公園の特別保護地区である硫 黄山周辺のつつじヶ原で、ハイマツ の分布や枯損状況を確認するため の植生の空撮 OO M 程度 実施したほか、日光国立公園の戦 場ヶ原で毎年秋に行われているシ カの生息数調査では、平成 九年 度に初めてド l ンを調査に導 、これまで調査 広大な湿原内を上空 ことで、シカの確認に努 念ながら、シカの個体の確 至らなかったものの、湿原内に 横に走るシカ道の存在を確認する ことができた。シカは夜間に活動 することが多いため、赤外線カメ ラを搭載したド l ンで夜間に湿 原内の調査を実施すれば、活動中 の個体が確認できる可能性がある。 このほか、 立公園ではないが、 魅力ある仙台の自然や生きものに 関する動画や音声の発 を目的と して、仙台市環境局環境共生課で 運用している 仙台×生物多様性 ()おらほの生きものチャンネル 1 というペ OE 寸口 σ 。アカウントに掲 載するため、ド l ンを用いて 廉価版のド口 ーン 4K 動画の撮影が可能 No.763/MA Y.20 l 8 24 国立公園

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Page 1: での無人航空機(ドロ 国立公園における自然環境調査での無人航空機(ドロ国立公園における自然環境調査 l ン)の活用 株式会社地域環境

国立公園における自然環境調査

での無人航空機(ドロ

lン)の活用

株式会社地域環境計画

はじめに

地域の自然環境、とりわけ動植

物の生息状況を把握することは、

その地域でさまざまな施策を検討

する際の基礎情報

(根拠資料)と

なるため、欠くことのできない取り

組みである。特に国立公園はわが

国の生物多様性の屋台骨であり、

公圏内の現状をしっかりと把握し、

課題を抽出して施策に反映してい

くことは、わが国の生物多様性を

保全していく上で重要な意味をもっ。

現状を把握するための調査は、

主に動植物の分類の知識を有する

調査員が現地を踏査することによ

り行うが、ここに大きな課題がある

0

.人が行けない場所

(広大な湿地

帯、急峻な崖など)

.人が見えないもの

(暗闇で活動 東

京支社

支社長

する動物など)

この二点に関しては、これまで

十分な調査、情報収集を行うこと

ができなかった。

人が行けない場所、

見えないものを見る

そこで、当社では

「行けないと

ころを見に行く、見えないものを

見る」ために無人航空機

(以下、

ドロlンという)の活用を始めた。

広大な面積、多様な自然環境を有

する国立公園においては、ドロー

ンを自然環境調査へ導入し使いこ

なすことで、この大きな課題を解

消するだけでなく、従来よりも有

益な情報を収集、提供できる可能

性を秘めている。

まずは業務での利用を可能にす

るため、入念な飛行訓練を実施す

るとともに、法規制などの情報収

集を行い、平成二九年九月に国土

交通省航空局の包括許可・承認を

取得し、調査での活用を開始した。

ドロ

lンの機体の飛行性能や、そ

れに付随するカメラの性能は年々向

上しており、実用性や安全性、取

得デ

lタ

(画像や位置情報)の品

質も、業務での使用に十分耐えう

るものとなっている。可視光カメラ

の解像度の向上(コンシューマ

l向

けのドロ

lンでも静止画で二、00

0万画素、動画は4Kの画質)によ

り、位置情報付きの高精細な空撮

が行えるだけでなく、最近では赤

外線カメラやマルチスペクトルカメ

ラなど、さまざまなセンサー類を搭

載できる機種もリリースされてお

り、今後調査への応用が期待される。

ドロ!ンの活用事例

当社でもドロ

lンの活用を開始

して以降、国立公園では阿寒摩周

国立公園の特別保護地区である硫

黄山周辺のつつじヶ原で、ハイマツ

の分布や枯損状況を確認するため

の植生の空撮

(一

OOM程度)を

実施したほか、日光国立公園の戦

場ヶ原で毎年秋に行われているシ

カの生息数調査では、平成二九年

度に初めてドロ

lンを調査に導入

し、これまで調査できていなかった

広大な湿原内を上空から観察する

ことで、シカの確認に努めた。残

念ながら、シカの個体の確認には

至らなかったものの、湿原内に縦

横に走るシカ道の存在を確認する

ことができた。シカは夜間に活動

することが多いため、赤外線カメ

ラを搭載したドロlンで夜間に湿

原内の調査を実施すれば、活動中

の個体が確認できる可能性がある。

このほか、

国立公園ではないが、

魅力ある仙台の自然や生きものに

関する動画や音声の発信を目的と

して、仙台市環境局環境共生課で

運用している

「仙台×生物多様性

()おらほの生きものチャンネル

1」

というペOE寸口

σ。アカウントに掲

載するため、ド

ロlンを用いて

廉価版のド口ーン

4K動画の撮影が可能

No.763/MA Y.20 l 8 24 国立公園

Page 2: での無人航空機(ドロ 国立公園における自然環境調査での無人航空機(ドロ国立公園における自然環境調査 l ン)の活用 株式会社地域環境

戦場ヶ原の湿原内に縦横に走るシカ道

(対地高度100m。動画より切り出し)

「名取川(秋保温泉付近)のカジ

カガエルの生息環境」の動画撮影

を行った(宮Gωに\若者者・

3czg.

85\君民各ぎH凶ー-o司。司-

2ζ。)。

さらなる活用を目指して

ドロ

lンは、建設土木の分野で

は活用が進んでいるが、自然環境

調査(生物調査)への応用は、植

生の空撮以外ではまだ研究段階の

ものが多く、実用事例も少ない。

そこで当社は、ドロ

lンの活用を

層推進するために設立された

「パ

iズアイ・リサーチ研究会(宮否問\\

EE83内85\)」の設立企業の

つに加わり、研究会において

「自

然環境調査でドロ

lンを用いて何

ができるのか」を検証するために

さまざまな実証実験を行っている。

平成二九年三一月には、赤外線カメ

ラを搭載したドロ

lンで樹林内に

いる動物をどの程度補足できるの

かを確認するため、シカやキツネ

に見立てた発熱体を林床に置き、

樹冠の関空率や撮影高度を変えな

がら夜間撮影を実施した。このよ

うな形で、新しい機材を調査で活

用しうる条件の蓄積に努めている。

国立公園の紹介や国立公聞に

おける自然解説、体験への応用

その他のドロ

lンの活用法とし

ては、国立公園の見所を空撮動画

で紹介したり、それを

VR(バー

チャルリアリティー)ヘッドセット

へ転送して臨場感のある風景を上

空から術搬し、自然の雄大さを体

感してもらう

「空中散歩」のサー

ビスなどが考えられる。近い将来、

空撮動画を多くの人が同時にライ

ブで

VR体験できる日も来るであ

ろう。このサービスは、山頂など

の主要眺望点に赴かなくても、そ

の時の景色をリアルに体感できる

ので、体力的に厳しい高齢者や、

障害のある方々にとって、最も望

まれるサービスになると思われる。

’ii首耐湿 L r ヨ園・.-v.. l!'~.....W•l"'l哩.,..圃置E畠市話番鑓 1・よヨーーーーーー-週直面描画祖国U.lii_.恒雄r・h・

赤外線カメラでの撮影試験。真上関空率50%の林床に熱源を置き、どの程度の高度まで感知できるかを試験(左から対地高度

20m、50m、100m。白丸内が熱源)。 1m程度の大きさの熱源であれば、 高度100mでも感知可能であった。

おわりに

このように、活用の仕方次第で

さまざまな可能性を秘めたドロー

ンであるが、活用を推進する上で

は、安全面には十分に注意を払わ

ねばならない。現在は自動車のよ

うな運転免許制度は設けられてい

ないが、ドロ

lンの操作を行うに

は、座学での法令関係の知識をは

じめ、気象や航空力学、機体に関

する基礎知識の習得と、実技訓練

で操作技術をマスターすることが

必須条件と言える。

今後も技術が進歩し、より高性

能なドロlンが出てくることは疑う

余地がない。活用する側の我々も、

その可能性を見出し、その性能を

十分に発揮できるよう、これから

も準備を進めていく所存である。

No. 763/MA Y.20 l 8

佐々木孝太郎・ささきこうたろう

株式会社地域環境計画東京支社支社長

東京都生まれ。

技術士(環境部門自然環境保全)

生物分類技能検定一級(魚類)

〈会社概要〉

生物多様性の取り組みをサポートする環

境コンサルティング会社。全国七カ所に

拠点を置き、地域性を重視した対応で、

自然環境調査、生物多様性の保全、鳥

獣被害対策、環境教育などを手掛ける。

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