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筋骨格系モデルを用いた スポーツ科学へのアプローチ 下肢動作に関するシミュレーション研究 ○長野明紀, 深代千之, 姫野龍太郎 理化学研究所 情報環境室 東京大学大学院 生命環境科学系

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筋骨格系モデルを用いたスポーツ科学へのアプローチ

下肢動作に関するシミュレーション研究

○長野明紀, 深代千之, 姫野龍太郎理化学研究所 情報環境室

東京大学大学院 生命環境科学系

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トレーニングが跳躍パフォーマンスに及ぼす影響

Nagano and Gerritsen, Journal of Applied Biomechanics (2001)

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JH

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問題

• 神経・筋・骨格系のどの特性をトレーニングするべきか?–最大発揮張力–最大収縮速度–最大刺激強度

• どの関節の筋群をトレーニングするべきか(股、膝、足首)?

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コンピューター・シミュレーション

• ヒトの神経・筋・骨格系モデルを構築• パラメーター値を変化させる

– Fmax, Vmax, ACTmax

–トレーニング効果のシミュレーション

• 最適な筋刺激パターンを見出す• 跳躍パフォーマンスの比較

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筋・骨格系モデル

股関節伸展筋

膝関節伸展筋

足関節底屈筋Fmax: 最大発揮張力Vmax: 最大収縮速度

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筋の刺激パターン

Ton Toff

Amplitude

Time

ACTmax:最大刺激強度

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最適化

最適化 :Bremermann アルゴリズム目的 :跳躍高の最大化

Ton Toff

Amplitude

6 XSGI OctaneDADSMATLAB

Time

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神経・筋・骨格系のどの特性をトレーニングするべきか?

• Fmax, Vmax, 及び ACTmax を個別及び同時に増加させた

• すべての筋について同時に強化を行なった

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トレーニング効果のシミュレーション

パラメーター 前 後Fmax 96% 100% 104% 108% 112% 116% 120%Vmax 96% 100% 104% 108% 112% 116% 120%

ACTmax 88% 90% 92% 94% 96% 98% 100%

中間

トレーニング

Davies & Young (1983)Hakkinen et al. .(1998)

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最適化

∆Fmax∆Vmax∆ACTmax

最適化 :Bremermann アルゴリズム目的 :跳躍高の最大化

Ton Toff

Amplitude

6 XSGI OctaneDADSMATLAB

Time

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跳躍高の増加

トレーニング前 トレーニング前 トレーニング前

120% 120% 100%

JH (

cm)

140

150

r2=1.000 r2=0.999 r2=1.000

Fmax Vmax ACTmax

∆JH=+6.99 cm ∆JH=+3.83 cm ∆JH=+4.26 cm

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0

5

10

15

20

Fmax: +6.99 cmVmax: +3.83 cmACTmax: +4.26 cm

合計: +15.08 cm

同時個別

+16.62 cm

∆JH

(cm

)

跳躍高の変化

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どの関節の筋群をトレーニングするべきか?

• 股関節伸展筋群、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群を個別及び同時に強化した∆Fmax (20%), ∆Vmax (10%) 及び∆ACTmax (10%) の強化を同時に行なった

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最適化

∆Fmax∆Vmax∆ACTmax

最適化 :Bremermann アルゴリズム目的 :跳躍高の最大化

Ton Toff

Amplitude

6 XSGI OctaneDADSMATLAB

Time

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0

5

10

15

20

Hip: +1.68 cmKnee: +9.61 cmAnkle: +3.15 cm

合計: +14.44 cm

同時個別

+16.62 cm

∆JH

(cm

)

跳躍高の変化

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考察

• 筋の最大発揮張力が最も重要な特性である• 膝関節伸展筋群が最も重要な筋群である• トレーニングに伴った筋の刺激パターンの変更も必要である

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モーメントアーム長が関節における力学的出力に及ぼす影響

Nagano and Komura,Journal of Biomechanics (2003)

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Fmus

Fmus

MA

Mjoint

Mjoint = Fmus・MA

関節モーメント=筋張力・モーメントアーム長

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筋肉の力-長さ関係

至適長 +55%-55%長さ

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筋肉の力-速さ関係

アイソメトリック(速度ゼロ)

エキセントリック(伸張)

コンセントリック(収縮)

速さ

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目的

• モーメントアーム長が関節における力学的出力に及ぼす影響を評価する

–筋張力

–関節モーメント

–関節パワー

–仕事

• ヒラメ筋(足関節)

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∆ins = 0 cm

∆ins = +1 cm ∆ins = -1 cm• DOF=1

• ヒラメ筋• Delp (1990)

• 筋肉の付着部位を変化させた

筋骨格系モデル

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プロトコル

• ヒラメ筋を最大努力で収縮

• 足関節を一定角速度で動かす

• 様々な角速度

–底屈運動(コンセントリック運動)

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底屈運動(コンセントリック運動)

プロトコル

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Fmus (N)

θankle (deg)

ωankle (deg / s)

∆ins = +1cm∆ins = 0 cm∆ins = -1 cm

-210 -180 -150 -120 -90 -60 -30 0

遅い速い

筋張力

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θankle (deg)

ωankle (deg / s)

Mankle (N m)

-210 -180 -150 -120 -90 -60 -30 0

∆ins = +1cm∆ins = 0 cm∆ins = -1 cm

遅い速い

関節モーメント

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θankle (deg)

ωankle (deg / s)

Pankle (W)

-210 -180 -150 -120 -90 -60 -30 0

∆ins = +1cm∆ins = 0 cm∆ins = -1 cm

遅い速い

関節パワー

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仕事

ωankle (deg / s)

∆ ins = +1cm ∆ ins = 0 cm ∆ ins = -1cm

210 4 7 9180 7 9 12150 10 13 16120 15 18 2090 21 23 2660 28 30 3330 38 40 420 - - -

Wankle (J)

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結果の要点

• 角速度が大きい際にはモーメントアームが短いほうが高い力学的出力が得られる

– 120 rad/s

–筋肉の力-速さ関係に由来する

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考察

速さ

∆ins = -1 cm

∆ins = 0 cm

∆ins = +1cm

収縮 伸張速度ゼロ

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考察

• 特に身体運動の速さが要求される競技において、モーメントアーム長が短いことが有利に働くことを示唆する

• 細身の運動選手が高いパフォーマンスを示すという観測との関連

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今後の方向性

• より多様なスポーツ動作の考察• 神経制御機構の考察• リハビリテーション等への応用