安全な無人航空機システムの開発...アルゴリズムの開発 汎用性確認...

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C&C プロジェクト 2012 成果報告書 安全な無人航空機システムの開発 九州大学大学院 工学府 航空宇宙工学専攻 十時寛典,原田明徳,ビクラマシンハ ナヴィンダ,西村太貴 宮本侑斗,瀬戸口和穂,小塚智之,重富貞成,山岸恭輔 1.プロジェクト概要 近年,低コストで運用可能な無人航空機(UAV, Unmanned Aerial Vehicle)の利用・開 発が盛んになっているが,一般にはまだ普及しているとは言い難い.現在,運用されてい UAV は用途に応じて 2 極化されている. 1 つは防衛用,監視用などであり,これらに は有人機と同等の高価で複雑なシステムが採用されている.もう 1 つは農薬散布用などの 小型模型を改造したものであり,非常に安価ではあるもののその安全性は乏しい. 本プロジェクトは,上記 UAV の中間に位置づけられる無人機システムを開発することで, 『普段の生活の中で,誰もが気軽に,かつ安全に利用できる無人航空機の実現』を目指し て活動を行ったものである.開発のコンセプトは,「簡単な運用(調整不要のセンサ,簡単 な操縦操作)」および「絶対に墜ちない(墜落の危険を知らせる保安装置,安全な姿勢と高 度を維持するオートパイロット)」とした. 2.達成状況 2-1.使用機材 UAV 試験機 UAV 試験機は,市販の模型飛行機を改造し,汎用性確認のため2機種用いた.飛行可能 時間は共に7分程度であり,搭載した機上カメラ,各種センサ類により飛行状態を監視し ながら試験を実施した.2機種の諸元および機体を以下に示す. 図1 小型試験機 全長 1410 [mm] 全幅 1580 [mm] 全高 380 [mm] プロペラ直径 330 [mm] 空虚重量 1.8 [kg] 図2 大型試験機 全長 1770 [mm] 全幅 1880 [mm] 全高 470 [mm] プロペラ直径 520 [mm] 空虚重量 3.0 [kg]

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C&Cプロジェクト 2012 成果報告書

安全な無人航空機システムの開発

九州大学大学院 工学府 航空宇宙工学専攻 十時寛典,原田明徳,ビクラマシンハ ナヴィンダ,西村太貴

宮本侑斗,瀬戸口和穂,小塚智之,重富貞成,山岸恭輔 1.プロジェクト概要 近年,低コストで運用可能な無人航空機(UAV, Unmanned Aerial Vehicle)の利用・開発が盛んになっているが,一般にはまだ普及しているとは言い難い.現在,運用されてい

る UAVは用途に応じて 2極化されている. 1つは防衛用,監視用などであり,これらには有人機と同等の高価で複雑なシステムが採用されている.もう 1つは農薬散布用などの小型模型を改造したものであり,非常に安価ではあるもののその安全性は乏しい. 本プロジェクトは,上記 UAVの中間に位置づけられる無人機システムを開発することで,

『普段の生活の中で,誰もが気軽に,かつ安全に利用できる無人航空機の実現』を目指し

て活動を行ったものである.開発のコンセプトは,「簡単な運用(調整不要のセンサ,簡単

な操縦操作)」および「絶対に墜ちない(墜落の危険を知らせる保安装置,安全な姿勢と高

度を維持するオートパイロット)」とした. 2.達成状況 2-1.使用機材 ・UAV試験機 UAV試験機は,市販の模型飛行機を改造し,汎用性確認のため2機種用いた.飛行可能時間は共に7分程度であり,搭載した機上カメラ,各種センサ類により飛行状態を監視し

ながら試験を実施した.2機種の諸元および機体を以下に示す.

図1 小型試験機

全長 :1410 [mm] 全幅 :1580 [mm] 全高 :380 [mm] プロペラ直径 :330 [mm]

空虚重量 :1.8 [kg]

図2 大型試験機 全長 :1770 [mm] 全幅 :1880 [mm] 全高 :470 [mm] プロペラ直径 :520 [mm] 空虚重量 :3.0 [kg]

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・搭載機器 搭載センサ類は,高度センサ,姿勢センサ,GPS,である.機上計算機には,Arduinoという汎用マイコンを用いる.また,地上との通信には XBeeを用いる.XBeeは短距離無線通信の規格に一つに基づいた通信モジュールで見通し 750mまで通信が可能である.また,小型の機上カメラおよび,映像の送信機も搭載した. 2-1.各コンセプトの実現 簡単な運用

(ⅰ)調整不要のセンサ 通常の姿勢センサは高価で,しかも使用中に誤差が蓄積する.そこで,当初の計画では

GPS姿勢センサを開発する予定であった.GPS姿勢センサとは,航空機のいくつかの部分に GPSセンサを搭載し,その位置・高度差から姿勢を推定しようとするものである.しかし,安価な振動ジャイロを検討,予備試験したところ,良好な精度が得られることがわか

った.そこで,この振動ジャイロを採用することとした.図3には,搭載したジャイロを

示す.また,飛行中の高度を計測する高度センサには図4の高度計モジュールを使用する.

このモジュールにより計測された気圧により,高度を計算することができる.また,容易

にある時点を基準とすることができるように,リセットを行えるプログラムも作成した.

図3 MEMSジャイロ 図4 高度計モジュール

(ⅱ)簡単な操縦操作 ラジコン飛行機の操縦は,かなりの訓練が必要だと思われるかもしれない.そこで,初

心者にも簡単に操縦が行えるように,ユーザーインターフェイスの開発を行った.大きく

2つに分けられる.1つめは「注目すべき情報が目立つモニターのレイアウト」であり,

2つめは「直感で操作できる操縦デバイス」である. ・注目すべき情報が目立つモニターのレイアウト ラジコン飛行機を操縦するにあたって,気にかけないといけないことは飛行機の姿勢で

ある.しかし,地上からの無人機を見上げただけでは把握しづらいこともある.そこで,

センサで得られた姿勢情報を大きく図示する表示システムの開発・作成を行った.開発に

はフリーソフトである「Processing」を用いた.

(Parallax社ホームページより) (sparkfunホームページより)

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飛行中の様々な情報が送られてくるが,飛行の安全に関わる情報のみを大きく表示する

ことでストレスなく情報を得ることができる.一般的な飛行情報表示と外視点表示の2パ

ターンの表示画面を作成した.図5,6に実際の画面のキャプチャを示す.

図 5 一般的な飛行情報表示 図 6 外視点表示 ・直感で操作できる操縦デバイス 通常のラジコン飛行機は,図7に示す様な操縦デバイスを用いて操縦される.これは,

各舵面やスロットルを左右のスティックに割り振り操作するものである.このデバイスよ

り,直感的に操作できるシステムを作成する.直感的な操作を行える手段の一つとしてジ

ョイスティックが挙げられる.ジョイスティックは,実際の有人航空機で用いられる操縦

桿を模擬したものであり,ゲームなどに用いられる市販のものを使用した.ジョイスティ

ックからの信号を舵角に反映させる通信システムを作成し,コントロールを行う.ジョイ

スティックを用いた飛行試験により,コントロール可能であることは実証され,直感的な

操作のしやすさは改善された.ただし,思い通りの飛行を実現させるために必要な操縦技

量は変わらないと分かり,検討すべき課題となった.

図 7 ラジコン用操縦デバイス 図 8 ジョイスティック

そこで,通常の操縦方法とは異なる方法の開発も行った.通常の操縦では,スティック

(例えばエルロンとする)を倒し続けると,倒した方向にロールし続ける.そのような異

UAVの位置

(JR PROPOホームページより)

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常姿勢に入ることを避けるために,「操縦者は舵角でなく,姿勢角を操縦」する試験を行っ

た.具体的には,スティックの操作量を姿勢角のコマンドとし,無人機の姿勢を自動制御

するものである.本手法では,例えばスティックを 10度傾けると,上空の飛行機も 10度傾く.これは,センサにより計測された姿勢と姿勢角コマンドの差をなくすように自動制

御されるためである.バンク角の姿勢制御の実証試験を実施した結果,完全なコマンドへ

の追従はできなかったものの,制御は可能であることがわかった.今後,制御アルゴリズ

ムの変更により,追従可能であると考えられる.実験中のバンク角制御の例を図9に示す.

画面中央の桃色の縦棒が指示したコマンドである.

図 9 バンク角制御

絶対に墜ちない

(ⅰ)墜落の危険を知らせる保安装置 飛行機に異常状態がある場合,操縦者に素早く情報伝達することは安全な運用を行うに

あたって,とても重要なことである.そこで,常時,姿勢・高度・位置・バッテリーを監

視し,異常がある場合に音と表示で警告するシステムの開発を行った.飛行試験により,

正常に作動することを確認済みである. (ⅱ)安全な姿勢と高度を維持するオートパイロット 航空機が墜ちないようにするためには,異常姿勢の検出により操縦者に知らせることも

重要だが,異常状態からの回復が特に重要である.熟練操縦者であれば,異常姿勢からの

回復も難なくこなしてしまうだろう.しかし,そうでない操縦者の場合にはオートパイロ

ットが非常に有効だと考えられる.そこで,オートパイロットにより危険を回避する制御

プログラムの作成を行った.本年度の試験においては,バンク角が大きくなり過ぎた場合

に姿勢を回復させることは可能であった.ピッチ角,高度の自動制御プログラムは未完成

である.

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3.まとめ 本プロジェクトにおいて実施した項目を表 1にまとめた.得られた成果は下記の通りである. 1.安価なマイコン,通信機器により,無人機の飛行情報の取得および簡易な自動制御を行うことが可能であることが明らかとなった.

2.実際の飛行試験を通じて,異常姿勢を知らせる警告(特に音声による警告)が,安全運用上,有用であることが分かった.

表1:プロジェクトの実施内容

大項目 詳細

UAV試験機の準備

機体の選定 小型カメラ,通信機器類の装備・試験

ジャイロセンサ,GPSの装備・試験および計測精度の評価 遠隔操縦装置の

開発 操縦用インターフェースの開発

飛行情報を表示するプログラム(モニター)の開発 自動飛行制御の 実証試験

姿勢制御則の開発・実証(横・方向のみ)

保安装置の 開発

地上への接近,異常姿勢,通信途絶等を検知・警告する アルゴリズムの開発

汎用性確認 特性の異なる機種に,開発した UAVシステムを搭載し,有効性を検証

4.今後の課題 基本の操縦デバイスや,限定した自動飛行の制御則は完成しているので,更なる安全性・

信頼性が確保されれば,誰にでも操縦できる簡単な無人航空機システムへの発展が期待で

きる.