寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と...

7
寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明とその栄養 学的治療法の開発 誌名 誌名 日本栄養・食糧学会誌 ISSN ISSN 02873516 巻/号 巻/号 701 掲載ページ 掲載ページ p. 3-8 発行年月 発行年月 2017年2月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

Transcript of 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と...

Page 1: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明とその栄養学的治療法の開発

誌名誌名 日本栄養・食糧学会誌

ISSNISSN 02873516

巻/号巻/号 701

掲載ページ掲載ページ p. 3-8

発行年月発行年月 2017年2月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

日本栄養・食糧学会誌第 70巻第1号 3-8(2017) |総

寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

その栄養学的治療法の開発

重]

(平成 28年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞)

川 健 *.l

(2016年9月16日受付; 2016年10月14日受理)

要旨: Unloading環境ではタンパク質のユビキチン化が促進されるので, Unloading環境に暴露したラット

の排腹筋の遺伝子を網羅的に解析しそのユピキチン化の原因遺伝子を探索した。その結果,増殖因子のレ

セプターやその関連タンパク質を特異的にユピキチン化させるユピキチンリガーゼ Cbl-b( Casitus B-ligeage

lymphoma-b)の発現が宇宙フライトにより増大していることを発見した。 Cbl七は,インスリン受容体基質

タンパク質(IRS-1) をユビキチン化し分解へと導くユピキチンリガーゼとして働j 骨格筋におけるイン

スリン様増殖因子のシグナル伝達を負に調整していた。また, Cbl-bノックアウトマウスでは Unloadingに

よる筋萎縮がほとんど起こらなかった。これらの所見より, Cbl-bが筋細胞の増殖因子受容体シグナル系を

負に調節し筋萎縮を引き起こす重要な筋萎縮関連遺伝子の一つで、あることがわかった。この分子をターゲツ

トにして,そのユピキチン化を阻害できる栄養素材も発見した(2件の特許取得)。それは, Cbl-bとIRS-1

の結合に対する阻害活性を有する DG(p)YMPペプチド(Cblinペプチドと名付けた)とその類似配列を持

つ大豆グリシニンタンパク質である。これらは invitroやinvivo実験において Cbl-bによる IRS-1のユビキ

チン化を抑制し筋量を増大させた。また,大豆タンパク質添加食は寝たきり患者の筋力減少の抑制にも有効

であった。以上の知見から,リハビリテーション以外に治療法のない Unloadingによる筋萎縮に対する新し

い栄養学的治療法の概念も提唱する。

キーワード:微小重力,筋萎縮,ユピキチンリガーゼ\機能性ペプチド,大豆タンパク質

1. 廃用性筋萎縮と

ユビキチンープロテアソームタンパク質分解経路

急速に高齢化の進む我国では寝たきりや加齢による筋

萎縮(サルコベニア)が大きな社会問題となっている。

また,国際宇宙ステーションの建設など宇宙開発が発展

し宇宙での長期滞在が可能となってきた。これら寝た

きり状態や無重力環境下では,骨格筋の活動量や筋にか

かる機械的ストレスが著しく減少し廃用性筋萎縮が起

こる。このような萎縮筋の内部では,どのような変化が

起こっているのだろうか。

骨格筋,特に遅筋(抗重力筋)は重力の変化に対して

敏感に応答し,微小重力環境下では急速に萎縮する。一

般に,萎縮筋では筋タンパク質合成の減少に加えて,筋

タンパク質分解の充進が起こる1)2)。筋タンパク質の分

解経路には,主に,カルシウム依存的なカルパイン経路,

*連絡者・別刷請求先(E-mail:[email protected])

カテプシン群のリソソーム経路, ATPを利用したユピ

キチンープロテアソーム経路の 3つが存在する。我々は,

宇宙フライトで萎縮した筋肉には,ユビキチン化したタ

ンパク質の集積,プロテアソーム活性の上昇やユピキチ

ンの発現充進などが起こり,ユピキチンープロテアソー

ム経路が,無重力環境におけるタンパク質分解の克進に

最も寄与していることを示した3)。その中で,ユビキチ

ン化システムは,ユビキチン活性化酵素(El),ユピキ

チン結合酵素(E2),ユビキチンリガーゼ(E3)から構

成された複合酵素系から構成され,分解すべきタンパク

質を(ポリ)ユビキチンで標識するシステムである。

ElはATPのエネルギーを利用して, El分子内のシス

テイン残基とユビキチン C末端のグリシン残基との聞

にチオエステル結合を形成する。 Elと結合したユビキ

チンは, C末端カルボキシル基がE2分子内のシステイ

ン残基とイソペプチド結合し, E2に転移する。ユピキ

1徳島大学医学部医科栄養学科(7708503徳島県徳島市蔵本町 3-18-15)

Page 3: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

4 日本栄養・食糧学会誌第 70巻第 l号(2017)

チンリガーゼは E2を結合するドメインと標的の基質タ

ンパク質を認識するドメインを持ち,分子上で E2と結

合したユピキチンを基質タンパク質のリジン残基にイソ

ペプチド結合させる。これらの反応を繰り返すことによ

か多数のユピキチン分子がつながったポリユピキチン

鎖が形成される。ポリユピキチン鎖が結合したタンパク

質は 26Sプロテアソームにより認識され,分解される。

このようにユピキチンリガーゼは,このユピキチン・プ

ロテアソーム経路において中心的な役割を果たす律速酵

素であり,分解すべき基質を決定する酵素でもある。こ

のユピキチンリガーゼは約 1000種類にも及ぶといわれ

ている。我々は,宇宙フライトなどでどのようなユピキ

チンリガーゼの発現が上昇しているのかを DNAマイク

ロアレイ法でキ食言すした。そして, Cbl-b( Casitas B-line-

age lymphoma b), MuRF-1, SiahlAなどのユピキチン

リガーゼの発現が上昇していることがわかった4)。

2. Cbl-bによる IGF-1シグナルの制御

Cbl-bは,ヒト前骨髄球性白血病由来の HL60細胞や

ヒト単球系細胞U937細胞がマクロフ ァージ様細胞に分

化する際に発現が増大する遺伝子として発見された,分

子量約 120kDaの巨大な 阻NG型ユピキチンリガーゼ

である5)。 Cbl-bは, c-CblやCbl-3から構成される Cbl

ファミリーに属しており,線虫から脊椎動物まで広く保

存されている。 Cbl-bはN末端にある TKB(tyrosine ki-

nase binding)ドメインに よってリン酸化チロシンを

認識する。そして EGF受容体, Vav, PI3キナーゼ,

Grb2, Zap70など多数の細胞内シグナル分子と結合 ・ユ

ピキチン化することにより,チロシンキナーゼを介した

増殖シグナル系の負の制御因子として働くことが知られ

筋肥大

(運動、り八ビリテーシヨン)

ている。しかし Cbl-bは上記の全てのタンパク質をプ

ロテアソームによる分解に供するわけではなく,その機

能の多様性も示唆されている。

微小重力による筋萎縮では,増殖因子のシグナル伝達

障害が大きな特徴である。中でも IGF-1(insulin-like

grow出 factoe-1)シグナルは,筋肉の成長と修復に最も

重要な因子である と言われているが,萎縮筋はその

IGF-1に対して抵抗性を示す。IGF-1は成長ホルモンや

負荷刺激に適応して,肝臓だけでなく 筋細胞や骨芽細胞

でも合成され,運動器(骨や筋)の成長制御因子として

も注目されている6)。 IGF-1を介した筋肥大のメカ ニズ

ムを概説すると, IGF-1が筋細胞膜上の IGF-1受容体に

結合すると, IGF-1受容体のチロシンキナーゼ活性が上

昇する。その結果,IRS-1(insulin receptor substrate-1),

PI3キナーゼ, Akt-1, FOXO (fork head box 0)が順に

リン酸化 (活性化)される。リン酸化Akt-1はタンパク

質合成を充進する。FOXOはリ ン酸化されると核内移行

が妨げられ,筋萎縮マーカー遺伝子である MAFbx

(muscle atrophy Fゐoxprotein) I atrogin-1の発現は起こ

らない。一方,微小重力環境下,悪液質などの筋萎縮時

はこの IGF-1シグナルが活性化しない(IGF-1抵抗性)。

その結果,筋タンパク質合成が低下し,リン酸化しなかっ

たFOXOが核内に移行し, MAFbx/atrogin-1を始めと

する様々な筋萎縮遺伝子の転写を高める(図 1)。それゆ

え,筋萎縮の治療のために IGF-1を筋肉に強発現させた

り,成長ホルモンを投与したが,この IGF-1抵抗性のた

め良好な結果は得られていない。そこで,我々は宇宙フ

ライトで発現が上昇する Cbl-bがIGF-1シグナル伝達に

障害を与えているのではないかと考え,この仮説を証明

するために,宇宙フライトを行ったラットの排腹筋にお

筋聾繍{寝たきり、除神経)

図1 筋肥大と筋萎縮のメカニズム(Sandriet al., Cell (2004) 11l

一部改変)

Page 4: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

述のとおり Cbl-bは主に基質タンパク質のリン酸化チロ

シンを認識して結合するので, IGF-1シグナル伝達に

伴って起こる IRS-1のチロシンリン酸化部位を中心に合

成オリゴペプチドを作成し,それらの Cbl七による

IRS-1ユピキチン化の阻害を試みた(図 2)。

Cell-free ubiquitination assayは,ユピキチン・プロテ

アソーム経路を構成する El, E2,ユピキチンリガーゼ

(Cbl-b)と ATP,ユピキチン及び基質(IRS-1)を試験

管内で反応させることにより.細胞を用いずユピキチン

化反応を再現する方法である。また,基質タンパク質と

ユピキチンリガーゼ以外のタンパク質は反応系に存在し

ないので,今回のオリゴペプチドのスクリ ーニングに非

常に有効である。この方法を用いて, Cbl-bのユピキチ

ンリガーゼ活性を阻害できるオ リゴペプチ ドを探索した

結果, DGpYMPの配列を持つペプチド‘a’に最も強いユ

ピキチン化阻害作用があることを見出した(図 3)。こ

のペプチドは HEK293細胞においても同様の回害活性を

示した。さらに,坐骨神経切除マウス (神経性筋萎縮マ

ウス)の排腹筋に投与した場合でも,排腹筋における

IRらlのユピキチン化・ 分解を抑制し (図 4),筋萎縮原

因遺伝子の一つである MAFbx/atrogin-1の発現も抑制

した。以上の結果より,我々はこのペプチドを Cbl-bの

5 筋萎縮とその栄養学的治療法

ける IGF-1シグナル伝達分子について解析を行った。宇

宙フライトを行ったラットでは,同じ期間地上で飼育し

たラッ トと比較して Cbl-bタンパク質の発現増大ととも

に, IGF-1シグナルのアダプタ ータンパク質である

IRS-1の減少, Akt-1のリン酸化の減少が確認できた7)。

Cbl-bとIRS-1を強発現した培養細胞においても, Cbl-b

はIRS-1と結合し IRS-1のユピキチン化を充進した。さ

らに, invivoの実験としてラット前腔骨筋に Cbl七を強

発現させた場合にも, Cbl-bはIRS-1のユピキチン化を

促進し筋萎縮を誘導した。以上の知見より, Cbl-bは萎

縮筋において IRS-1のユピキチン化及び分解を促進し

廃用性筋萎縮の原因酵素の一つであると考えられた。

ペプチドによる IRS-1ユビキチン化の阻害

前述のように,廃用性筋萎縮で発現の増大するユピキ

チンリガーゼ Cbl-bは,IRS-1のユピキチン化と分解を

{足進して,IGF-1シグナルを負に制御している。さらに,

Cbl-b遺伝子欠損マウスが尾部懸垂による筋萎縮に抵抗

性を示すことから7),廃用性筋萎縮の治療には,この

Cbl-bの活性を阻害することが有効で、あると考えられ

た。一般に,ユピキチンリガーゼは基質タンパク質のあ

る部分 (ペプチド)の立イ本構造を認識して結合する。先

3.

++++ ’ +

+ - • -I +

Sham-ope. Denervatoon

図4 坐骨神経切除マウスの排腹筋内 IRS-1のCblinに

よるユピキチン化阻害

Au

a a

n

ul

nM1

a -

sU恨

「lili--」

4・IRS-1

IP: IRS-1 IB: Ub

IB: IRS-1 IB :~-Actin ~唱幅 一

i.m.: Cblin: -

Randomized peptide : DGFMP DGYMP:

- +

a一一且中一

{円凶)中

iRDλdFιfu司

図2 オリゴペプチドによるユビキチン化阻害のメ

カニスム

Ubiquitinated IRS-1

WB: IRS-1

e

(Patent pending 2006・145944)

図3 オリゴペプチドによる Cbl-bによる IRS-1のユピキチン

化阻害(Cell-企eeユピキチン化システム)

b a 一+++++一

一一+++

Oligopeptides E1

UbcH7 GST-Ub Ube・CHOALP inhibitor Peptide

Page 5: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

6 日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号(2017)

阻害剤, Cblin( Cbl-b inhibitor)と名付けた。この Cblin

ペプチドは,坐骨神経切除, Starvationやグルココルチ

コイドによる筋萎縮にも有効であった8)9)0 さらに,

Cblin様配列を有する大豆タンパク質は,寝たきり患者

の筋萎縮抑制を部分的に抑制することも報告した10)。

4.機能性ペプチドの有益性と今後の課題

機能性ペプチドの概念は,経口摂取したタンパク質か

ら消化と吸収の過程の中で派生したペプチドが生体内で

特異な作用(機能性)を発揮することをいう(図 5)。

今回,我々が発見した Cblinペプチドが,筋肉を萎縮か

ら保護する機能性ペプチドとして働いている可能性があ

ると考えた。この機能性を証明できれば,筋タンパク質

代謝を効率よく制御できる食材の開発につながる上,ペ

プチドは食品由来なので薬剤のような副作用も少なく,

運動とは異なり筋肉が痩せてしまった寝たきり高齢者に

も適用できるなど,その利点は多い。しかしながら,食

事タンパク質由来の生理活性を有するペプチ ド (機能性

ペプチド)が,アミノ酸ではなく,ペプチドの形で臓器

まで達するかどうかも解決しなければならない重要な問

題である。なぜなら,刷子縁膜にはジベプチダーゼ,あ

るいはアミノペプチダーゼ活性によるトリペプチドの分

解機能が存在しこれらのベプチダーゼに親和性の高い

ペプチドは刷子縁膜表面で加水分解されてアミノ酸とし

て吸収されるからである。一方,親和性の低いペプチド

もトリペプチドまでは PepTl,PepT2など刷子縁膜の

H+ Iペプチドトランスポータ ーにより吸収されて粘膜

細胞内に取り込まれるが,ペンタペプチドである Cblin

のような大きなペプチドは消化管上皮細胞や細胞膜を通

過しないとされている。テトラペプチド以上のペプチド

に対するトランスボーターは報告されていないからであ

る。

機能性ペプチド研究の進歩を障害するもう一つの要因

として,その合成費が高額であるという経済的な問題も

ある。実際, Cblinペプチドを動物に経口摂取させる実

験を計画したとすると,グラム単位の量が必要となる。

我々がこの研究をスタートした当初は, lOOmgのCblin

VES

タンパク質

周作御制

作用巣作用uu

チ瞳開化益促泌

υ・リ

プ圧磁調疫分川町

円血抗腸免内伏

fill--

L

h

a

a

図5 機能性ペプチドとは

ペプチドを合成するには 15万円ほどかかった。たった

10 gで単純計算で 1,500万円となる。現在ならもう少し

安くなっていると思うが,マウスやラットの食餌として

利用するにはほとんど不可能な金額である。

5. ペプチド研究の新展開と Cblin米の開発

機能性ペプチドの機能性を証明するためには,多量の

ペプチドを安価に作製する技術,血中のペプチドの検出

感度を向上させる技術の開発が必要で、ある。そこで,島

根大学の赤間一仁氏と共同で, Cblin配列を有するペプ

チドをタンデムに 15結合させたものを組み込んだグル

テリンを強発現させた米 (Cblin米)を作製した (図6)。

この米をマウスに摂取させると,消化吸収の聞に Cblin

様配列を有するペプチドを派生することを確認した。そ

して,この米は,普通の米に比べ,坐骨神経切除による

筋萎縮を有意に抑制した(論文作成中)。さらに,驚い

たことに,この Cblin米を 1週間摂取したマウスの門脈

血中に, しかも最後の摂食行動から 6時間ほど経った後

に,このグルテリン米から派生した Cblin様ペプチドを

確認することができた。つまり,機能性ペプチドが本当

に存在することを実証できた可能性がある。食事タンパ

ク質から派生したペプチドは,何らかの機構で小腸上皮

から吸収され,さらには集積し各臓器(骨格筋など)へ

到達しているのではないだろうか。

6. おわりに

手前味噌であるが,徳島大学医学部医科栄養学科には

一昨年最新式のメタボローム解析機器が導入された。こ

れにより血中ペプチドの検出感度は格段に向上した。こ

の検出機器と Cblin米のような食材タンパク質にペプチ

ドを組み込む遺伝子操作技術を用いて,ペプチドの新た

な機能性を解明していきたい。とくに,ペプチ ドの吸収,

集積や細胞への取り込みのメカニズムを解明できれば,

ペプチドバイオロジーともいうべき新たな分野が創設で

きるのではないかと期待している。

講演の時にも少し述べたのだが,アミノ酸・ペプチド・

タンパク質栄養にはまだ解明されていない機序が沢山あ

る。例えば,食欲の制御には食事タンパク質が重要な働

きをしているわけで、あるが,それがどのように食欲を制

御しているのか,アミノ酸のセンシングはどこで行われ

ているのかについてはほとんど解明されていない。徳島

大学医学部医科栄養学科生体栄養学分野は,アミノ酸・

ペプチド ・タンパク質栄養の研究に力を注いで、きた。こ

の賞を受賞したことを機に初心に戻り,退職までの 10

年あまりの期間,これらの難問解決に全力で取り組んで

みたい。

本研究は,農林水産省生研センターイノベーション創

生事業,文部科学省宇宙航空技術開発推進委託費と不二

大豆たん白質財団からの競争的研究費により行われまし

Page 6: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

筋萎縮とその栄養学的治療法

15 tandem repeats with Cblin sequences

7

Chymotryps1n

巾 DGYMP巾 DGYMP峨..吋Q

RB

Development of Cblin Glutelin Storage protein 1n nee peptides _

QDGYMPW l 】a・r』ここニニニJ ・,.....digestion

QDGYMPW

Vector for plant

hu

bU

山山山山

U

UU

~

QDGYMPW

N’ c’

図6 Cblin米の作用機序(仮説)

た。さらに,本研究の遂行にご援助・ご協力いただいた

国立神経医療研究センターの武田伸一先生をはじめとす

る多くの他施設の先生方前教授岸恭一先生をはじめと

する徳島大学医学部医科栄養学科の先生方,学生に深く

感謝の意を表します。

文 献

1)τ'homason DB, Biggs RB, Booth F明「 (1989)Protein

metabolism and /3-myosin heavy chain mRNA in un-

weighted soleus muscle. Am] Physiol 257: R300 5. 2) Tischler ME, Rosenberg S, Satarug S, Henriksen EJ,

Kirby CR, Tome M, Chase P (1990) Different mecha-

nisms of increased proteolysis in atrophy induced by

denervation or unweighting of rat soleus muscle. Me-tabolism 39: 756-63.

3) Ikemoto M, Nikawa T, Takeda S, Watanabe C, Kitano

T, Baldwin KM, Izumi R, Nonaka I, Towatari T, Teshi-

ma S, Rokutan K, Kishi K (2001) Space shuttle flight

(訂ち90)enhances degradation of rat myosin heavy

chain in association with activation of ubiquitin-pro-teasome pathway.ι4SEB] 15: 1279-81.

4) Nikawa T, Ishidoh K, Hirasaka K, Ishihara I, Ikemoto

M, Kano M, Kominami E, Nonaka I, Ogawa T, Adams

GR, Baldwin KM, Yasui N, Kishi K, Takeda S (2004)

Skeletal muscle gene expression in space-flown rats. FASEB] 18: 522-4.

5) Swaminathan G, Tsygankov AY (2006)τ'he Cbl fami-

ly proteins: ring leaders in regulation of cell signa】ing.] Cell Physiol 209: 21-43.

6) Goldspink G, Williams P, Simpson H (2002) Gene ex-

pression in response to muscle stretch. Clin Orthop Relat Res 403: Sl46-52.

7) Nakao R, Hirasaka K, Goto J, Ishidoh K, Yamada C,

Ohno A, Okumura Y, Nonaka I, Yasutomo K, Baldwin

KM, Kominami E, Higashibata A, Nagano K, Tanaka

K, Yasui N, Mills EM, Takeda S, Nikawa T (2009)

Ubiquitin ligase Cbl-b is a negative regulator for insu-

!in-like growth factor 1 signaling during muscle atro-phy caused by unloading. Mal Cell Biol 29: 4798-811.

8) Kawai N, Hirasaka K, Maeda T, Haruna M, Shiota C,

Ochi A, Abe T, Kohno S, Ohno A, Teshima-Kondo S,

Mori H, Tanaka E, Nikawa T (2015) Prevention of

skeletal muscle atrophy in vitro using anti-ubiquitina-

tion oligopeptide carried by atelocollagen. Biochim Biophys Acta 1853: 873 80.

9) Ochi A, Abe T, Nakao R, Yamamoto Y, Kitahata K,

Takagi M, Hirasaka K, Ohno A, Teshima-Kondo S,

Taesik G, Choi I, Kawamura T, Nemoto H, Mukai R,

Terao J, Nikawa T (2015) N-Myristoylated ubiquitin

ligase Cbl-b inhibitor prevents on glucocorticoid-in-

duced atrophy in mouse skeletal muscle. Arch Bio-chem Biophys 570: 23-31.

10) Hashimoto R, Sakai A, Murayama M, Ochi A, Abe T,

Hirasaka K, Ohno A, Teshima-Kondo S, Yanagawa H,

Yasui N, Inatsugi M, Doi D, Takeda M, Mukai R, Te-

rao J, Nikawa T (2015) Effects of dietary soy protein

on skeletal muscle volume and strength in humans

with various physical activities.] Med Invest 62: 177-83.

11) Sandri M, Sandri C, Gilbert A, Skurk C, Calabria E,

Picard A, Walsh K, Schiaffino S, Lecker SH, Gold-

berg AL (2004) Foxo transcription factors induce the

atrophy-related ubiquitin ligase atrogin-1 and cause

skeletal muscle atrophy. Cell 117: 399-412.

Page 7: 寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と …日本栄養・食糧学会誌第70巻第1号 3-8 (2017) |総寝たきりや無重力による筋萎縮のメカニズム解明と

8 B **~ · :ittl~~~t ~ 70 ~ ~ 1 iY (2017)

] Jpn Soc Nutr Food Sci 70: 3-8 (2017)

Review

Molecular Mechanism and Nutritional Approach for Unloading-mediated Muscle Atrophy

(JSNFS Award for Excellence in Research (2016))

Takeshi Nikawa *.l

(Received September 16, 2016; Accepted October 14, 2016)

Summary: Since unloading conditions stimulate the ubiquitination of muscle proteins, we comprehensively examined the types of ubiquitin ligases that are activated by unloading. We found that unloading stress resulted in skeletal muscle atrophy through induction and activation of the ubiquitin ligase Cbl-b. Upon induction, Cbl-b interacted with and degraded the IGF-1 signaling intermediate, IRS-1. In turn, the loss of IRS-1 activated the FOX03-dependent induction of atrogin-1/MAFbx, a dominant mediator of proteolysis in atrophic muscle. Cbl-b­deficient mice were resistant to unloading-induced atrophy and the resulting loss of muscle function. A DG (p) YMP pentapeptide mimetic of tyrosine608-phosphorylated IRS-1, named Cblin (Cbl-b inhibitor), inhibited Cbl-b-medi­ated IRS-1 ubiquitination and strongly decreased the Cbl-b-mediated induction of atrogin-1/MAFbx. Further­more, we also found a Cblin-like peptide in soy glicinine that similarly inhibited the IRS-1 ubiquitination and skeletal muscle volume loss caused by denervation in vitro and in vivo. In particular, a soy protein isolate-sup­plemented diet increased the extension power of the knee in bedridden patients. Our results indicate that Cbl-b­dependent destruction of IR-1 is a critical dual mediator of both increased protein degradation and reduced pro­tein synthesis observed in unloading-induced muscle atrophy. Inhibition of Cbl-b-mediated ubiquitination may be a new therapeutic strategy for unloading-mediated muscle atrophy.

Key words: microgravity, muscle atrophy, ubiquitin ligase, functional peptide, soy protein

* Corresponding author (E-mail: [email protected]) 1 Department of Nutritional Physiology, Institute of Medical Nutrition, Tokushima University Graduate School,

3-18-15 Kuramoto-cho, Tokushima 770-8503, Japan