現場切取供試体の動的安定度の評価について...試体は試験練りアスファルト混合物を室内で転圧・作...

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1.はじめに 福井県は舗装の流動化対策として電線の被覆に用い られている架橋ポリエチレンの廃材を再生したパラフ ィンを改質剤として、アスファルト工場で添加したア スファルト混合物(以下、再生パラフィン添加アスフ ァルト混合物と称す)を採用している。しかし、今年 度ある工事で試験練りアスファルト混合物では必要な 塑性変形輪数が確認できたことにもかかわらず、現場 に流動わだちが発生した。この事態を深刻に受け止め、 県内工事で初めて、現場でのアスファルト混合物の耐 流動性能を確認するため、現場で切り取った供試体(以 下、現場切取供試体と称す)を用いて塑性変形輪数を 計測した。その結果、あるアスファルト工場で製造し たアスファルト混合物の塑性変形輪数が必要とする数 値に満たなかった。原因について調査を行ったので経 過と結果を報告する。 2.設計交通量と目標の塑性変形輪数 現場は一般国道のバイパス工事で計画交通量はN5 交通で、現場の目標塑性変形輪数(塑性変形輪数はホ ィールトラッキング試験の動的安定度で表すため、以 下動的安定度と称す)は一般部で1,500回㎜、交差点 部で5,000回㎜である。 3.試験練りの動的安定度の確認 工事は6工区に分かれているが、使用するアスファ ルト混合物は、3箇所のアスファルト工場が製造する ことになった。使用するベースアスファルト混合物は 再生密粒度アスファルト混合物最大粒度20㎜で再生骨 材比率は30%である。標準の再生パラフィン添加量は、 目標の動的安定度6,250回㎜(現場の目標動的安定度 5,000回㎜÷0.8(安全率)=6,250回㎜)に対して 3.8%、目標動的安定度1,875回㎜(現場の目標動的 安定度1,500回㎜÷0.8(安全率)=1,875回㎜)に 対して2.8%である。福井県の基準に基づき、性能が 上位である動的安定度6,250回㎜の試験練りアスファ ルト混合物の動的安定度の確認を各アスファルト工場 の材料で行った。確認の試験方法は、舗装調査・試験 法便覧の「B003ホィールトラッキング試験方法」 (以 下、ホィールトラッキング試験と称す)によるが、供 現場切取供試体の動的安定度の評価について About evaluation of dynamic stability of spot cutting off specimen 三田村 文寛 福井県は流動化対策の舗装材として再生パラフィンを添加したアスファルト混合物を採用 している。しかし今年度、ある工事で試験練りアスファルト工場の試験的な製造アスフ ァルト混合物において必要な塑性変形輪数(動的安定度)が確認できたことにもかかわらず、 現場に流動わだち舗装の流動によって起きる道路舗装面の凹みが発生した。この事態を 深刻に受け止め、県内工事で初めて現場でのアスファルト混合物の性能を確認するため、現 場で切り取った供試体を用いて動的安定度を計測した。その結果、あるアスファルト工場で 製造したアスファルト混合物の塑性変形輪数が必要とする数値に満たなかった。原因につい て調査を行ったところ、再生パラフィンが配合設計に用いたものと現場で用いたもの異なっ ていたことが原因であることが明らかとなった。 キーワード:動的安定度、現場切取供試体 表-1 試験練りの動的安定度 第1編 調査研究報告 -148-

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1.はじめに

福井県は舗装の流動化対策として電線の被覆に用い

られている架橋ポリエチレンの廃材を再生したパラフ

ィンを改質剤として、アスファルト工場で添加したア

スファルト混合物(以下、再生パラフィン添加アスフ

ァルト混合物と称す)を採用している。しかし、今年

度ある工事で試験練りアスファルト混合物では必要な

塑性変形輪数が確認できたことにもかかわらず、現場

に流動わだちが発生した。この事態を深刻に受け止め、

県内工事で初めて、現場でのアスファルト混合物の耐

流動性能を確認するため、現場で切り取った供試体(以

下、現場切取供試体と称す)を用いて塑性変形輪数を

計測した。その結果、あるアスファルト工場で製造し

たアスファルト混合物の塑性変形輪数が必要とする数

値に満たなかった。原因について調査を行ったので経

過と結果を報告する。

2.設計交通量と目標の塑性変形輪数

現場は一般国道のバイパス工事で計画交通量はN5

交通で、現場の目標塑性変形輪数(塑性変形輪数はホ

ィールトラッキング試験の動的安定度で表すため、以

下動的安定度と称す)は一般部で1,500回/㎜、交差点

部で5,000回/㎜である。

3.試験練りの動的安定度の確認

工事は6工区に分かれているが、使用するアスファ

ルト混合物は、3箇所のアスファルト工場が製造する

ことになった。使用するベースアスファルト混合物は

再生密粒度アスファルト混合物最大粒度20㎜で再生骨

材比率は30%である。標準の再生パラフィン添加量は、

目標の動的安定度6,250回/㎜(現場の目標動的安定度

5,000回/㎜÷0.8(安全率)=6,250回/㎜)に対して

3.8%、目標動的安定度1,875回/㎜(現場の目標動的

安定度1,500回/㎜÷0.8(安全率)=1,875回/㎜)に

対して2.8%である。福井県の基準に基づき、性能が

上位である動的安定度6,250回/㎜の試験練りアスファ

ルト混合物の動的安定度の確認を各アスファルト工場

の材料で行った。確認の試験方法は、舗装調査・試験

法便覧の「B003ホィールトラッキング試験方法」(以

下、ホィールトラッキング試験と称す)によるが、供

現場切取供試体の動的安定度の評価についてAbout evaluation of dynamic stability of spot cutting off specimen

三田村 文寛要 旨

福井県は流動化対策の舗装材として再生パラフィンを添加したアスファルト混合物を採用

している。しかし今年度、ある工事で試験練り(アスファルト工場の試験的な製造)アスフ

ァルト混合物において必要な塑性変形輪数(動的安定度)が確認できたことにもかかわらず、

現場に流動わだち(舗装の流動によって起きる道路舗装面の凹み)が発生した。この事態を

深刻に受け止め、県内工事で初めて現場でのアスファルト混合物の性能を確認するため、現

場で切り取った供試体を用いて動的安定度を計測した。その結果、あるアスファルト工場で

製造したアスファルト混合物の塑性変形輪数が必要とする数値に満たなかった。原因につい

て調査を行ったところ、再生パラフィンが配合設計に用いたものと現場で用いたもの異なっ

ていたことが原因であることが明らかとなった。

キーワード:動的安定度、現場切取供試体

表-1 試験練りの動的安定度

第1編 調査研究報告

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試体は試験練りアスファルト混合物を室内で転圧・作

製したものを用いた。試験結果を表-1に示す。

3箇所のアスファルト工場の材料はすべて、標準の

再生パラフィン添加量で、試験練りアスファルト混合

物の目標動的安定度を満足し、変動係数も基準の20%

以下であった。

4.現場の動的安定度の確認

試験練りアスファルト混合物の目標動的安定度を満

足したので施工を行った。現場の動的安定度の確認の

試験方法は前章と同じホィールトラッキング試験によ

る。ただし、供試体は現場で径150㎜のものを切り取

り、厚さ50㎜に整形したものを用いた。これを300㎜

×300㎜×50㎜の型枠に納めるが、供試体を拘束しな

いよう隙間をゴム製型枠で埋めた。現場の目標動的安

定度は、A、C工場の材料は5,000回/㎜、B工場の材

料は1,500回/㎜である。なお、切取供試体の補正係数

は供試体を拘束しないゴム型枠を用いたため補正を行

わず1.0とした。試験結果を表-2に示す。

3箇所のアスファルト工場の内、A工場の材料が現

場の目標動的安定度を満足することができなかった。

5.現場の目標動的安定度を満足できなかった原因

5.1 想定される原因

A工場の材料が現場の目標動的安定度を満足できな

かった理由は、1)施工が適切でなかったこと、2)

施工時の材料が適切でなかったことが想定される。

5.2 施工

聞き取り調査の結果、現場で材料が到着から施工ま

で約2時間、置かれた施工箇所があるとのことであっ

た。しかし、締固め度はいずれも施工管理値の96.0%

を満足している。施工は必ずしも適切であるとはいえ

ないが、このことが要因であるとは判断できない。

5.3 施工時の材料

5.3.1 再生パラフィン

聞き取り調査の結果、試験練り時に用いた材料(以

下、当初の試験練り時材料と称す)と施工に用いた材

料(以下、出荷時材料と称す)が異なるとのことであ

った。これまで材料の違いによる動的安定度の違いに

表-2 現場切取供試体の動的安定度

福井県雪対策・建設技術研究所 年報地域技術第22号 2009.8

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ついては、報告を受けたことがないが、試験練りが適

切であったとは云えないため、このことが要因である

可能性が高い。

5.3.2 アスファルト混合物

アスファルト混合物は再生骨材を30%用いているの

で、出荷時材料のアスファルト量及び粒度が適切でな

かったことが考えられる。前項のA工場の供試体の№

1~№3のアスファルトを抽出して、アスファルトの

含有量を測定し、抽出骨材の粒度を調べた。試験方法

は舗装調査・試験法便覧の「G028アスファルト抽出

試験方法、常圧式ソックスレー抽出法」で行った。抽

出アスファルト量を表-3、抽出骨材粒度を図-1に

示す。

抽出アスファルト量の平均値は5.26%で設計アスフ

ァルト量の5.6%を下回ったが、再生パラフィンは抽

出できないので、再生パラフィン相当分を加えると約

5.5%(5.26%×1.038=5.46%)になり、ほぼ設計ア

スファルト量と同じであった。出荷時のアスファルト

混合物のアスファルト量は適切であったと判断できる。

抽出骨材の粒度は0.6㎜通過重量百分率がやや上方

にあるが、すべての供試体は標準粒度範囲内におさま

り、ほぼ適正な骨材粒度であったと判断できる。

5.4 現場の目標動的安定度を満足できなかった理

由のまとめ

1)施工は必ずしも適切であったとはいえないが、

締固め度は施工管理値を満足しており、2)出荷時の

アスファルト混合物は、アスファルト量・骨材粒度と

もに適切であったことから、再生パラフィンの試験施

工時に用いた材料と出荷時材料が異なることが要因と

考えられる。

6.原因究明

6.1 施工試験の方法

A工場の材料が現場の目標動的安定度を満足できな

表-3 抽出アスファルト量

図-1 抽出骨材粒度

第1編 調査研究報告

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かった原因を明らかにするため、A工場を所有するA

社は、自主的に施工試験を行った(図-2参照)。材料

は全て出荷時材料を使用した。施工条件は、現場で材

料が到着から施工まで約2時間、置かれた施工箇所が

あったことを考慮し設定した。また、材料の混合時間

を2通り試みた。図-2における工区ごとの試験条件

を表-4に示す。なお、Dryミキシング(以下Dryと

称す)は骨材のみを混合することであり、Wetミキシ

ング(以下Wetと称す)はアスファルトと骨材を合わ

せて混合することである。前述の出荷時およびその際

の試験練りはDry8秒、Wet40秒で行った。再生パラ

フィンはDry時に投入する。

6.2 試験練りアスファルト混合物の動的安定度

(施工試験時)

施工試験に使用するアスファルト混合物について、

試験練りアスファルト混合物の動的安定度を計測した。

試験練りアスファルト混合物は、施工条件を設定でき

ないので、混合条件の同じ1、3工区・2、4工区の

混合条件で試験を行った。試験方法は3章と同じホィ

ールトラッキング試験による。結果を表-5に示す。

1、3工区・2、4工区の混合条件、両者とも目標

の動的安定度6,250回/㎜を満足しなかった。変動係数

も基準の20%以上となりばらつきが大きかった。混合

条件による差は、2、4工区の混合条件の動的安定度

が大きかったが、僅かであり混合時間の差2秒ではあ

まり動的安定度を高める効果は認められない。

6.3 現場切取供試体の動的安定度

(施工試験時)

図-2の箇所で供試体を切り取りホィールトラッキ

ング試験で動的安定度を計測した。ただしA社は、よ

り正確を期すため自主的に、4章と異なり、供試体の

図-2 施工試験展開図

表-4 工区ごとの条件

表-5 試験練りアスファルト混合物の動的安定度(施工試験時)

表-6 現場切取供試体の動的安定度

福井県雪対策・建設技術研究所 年報地域技術第22号 2009.8

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大きさは室内作製と同じ300㎜×300㎜×50㎜に整形し

た。

1~4工区とも現場の目標動的安定度5,000回/㎜を

満足しなかった。施工条件については、適正温度で施工

を行ったものが製造2時間後に施工を行ったものと比

較して、混合条件にかかわらず動的安定度は大きくな

っており、施工が適切でなかったことも原因の一つと

考えられる。混合条件による差は、前項の試験練り時

より大きくなり動的安定度を高める効果が認められる

が、混合時間を長くすると経済性に劣りエネルギーの

消費量も大きくなるので混合時間の設定は検討を要する。

6.4 試験練りアスファルト混合物の動的安定度

(当初の試験練り時材料と同じ)

他現場でA工場の材料を使用する機会があったので、

当初試験練り時の材料と同じものを用いて、同じ混合

時間で試験練りを行い、再度、試験練りアスファルト

混合物の動的安定度を計測した。試験方法は3章と同

じホィールトラッキング試験による。結果を表-7に

示す。

A工場の材料は当初試験練り時と同様、試験練りア

スファルト混合物の目標動的安定度6,250回/㎜を満足

し、変動係数も基準の20%以下であった。

6.5 現場切取供試体の動的安定度

(当初試験練り時材料と同じ)

他現場の施工を行い、動的安定度の確認を行った。

試験方法は3章と同じホィールトラッキング試験によ

る。供試体と補正方法は4章と同じである。試験結果

を表-8に示す。

現場の目標動的安定度5,000回/㎜を満足した。しか

し、前項の試験練りアスファルト混合物の動的安定度

と比較して小さい値になっている。

6.6 原因究明のまとめ

ここまでの調査・試験の結果、A工場の材料が現場

の目標動的安定度を満足できなかった理由は、再生パ

ラフィンの材料が当初の試験練り時と出荷時が異なっ

ていたことが要因と考えられる(表-9参照)。また、

適正な温度で施工を行わなかったことも原因のひとつ

と考えられる。

表-8 現場切取供試体の動的安定度(当初の試験練り時材料と同じ)

表-9 再生パラフィンの使用材料と目標の動的安定度

表-7 試験練りアスファルト混合物の動的安定度(当初の試験練り時材料と同じ)

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7.まとめ

再生パラフィン添加アスファルト混合物の現場での

耐流動効果を確認するため、現場切取供試体において

ホィールトラッキング試験により動的安定度を計測し

た。3箇所のアスファルト工場の内、A工場のみが目

標の動的安定度を満足できなかった。調査の結果、試

験練り時と出荷時で異なる再生パラフィンを使用した

ことが要因であることが明らかとなった。また、適正

な温度で施工を行わなかったことも現場切取供試体の

動的安定度の低下から原因のひとつと考えられる。

8.今後の対応方法

再生パラフィンの材料の違いによる耐流動効果の差

について以下、考察する。

A工場に聞き取り調査を行った結果、他の工場と異

なり、骨材に川砕(川砂利を砕いたもの)を使用して

いることが分かった。

川砕は角に丸い部分があり、耐流動性を重視する舗

装材の骨材には不向きである。特に再生パラフィンの

場合、せん断応力等の力学的な接着力で改質効果を高

めるものであり粘着力は小さい。川砕は転がり安く、

転がり始めた場合、再生パラフィンは粘着力が小さい

ため制止力は小さい。

再生パラフィンのメーカーに聞き取り調査を行った

結果、試験練り時と出荷時の再生パラフィンを比較す

ると、出荷時のものがより粘着力が弱いことが分かり、

出荷時のアスファルト混合物の動的安定度が小さかっ

たことに符合する。

以上のことから出荷時に粘着力の弱い再生パラフィ

ンを添加したA工場のアスファルト混合物が目標の動

的安定度を満足することができなかったと考察される。

また、試験練り時のアスファルト混合物の動的安定

度が現場でかなり小さくなることについても、室内で

供試体を作製する際は型枠による拘束力で川砕の回転

を制止していると考察される。

したがって、骨材に川砕を用いる時は配合設計・試

験練りの際は動的安定度を充分に高く設定する必要が

ある。また、適正な温度で施工を行わなかった際に現

場切取供試体の動的安定度が低下したことから特に2

次転圧温度の管理が重要である。

謝辞

現場提供および協力をいただいた奥越土木事務所、

積極的に原因究明にあたったアスファルト工場の関係

各位に感謝の意を表する。

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