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特集 22 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 - Mobile Action Centric Service “Work Style Innovation with Mobile Document Communication” スマートフォン・タブレット端末の普及に伴い、新 しいモバイル端末を導入し、ワークスタイルを変革ようと考えている企業が増えてきた。制約の多いモイル環境下で効果的にドキュメントを活用するため には、「利便性」と「安全性」の両立が不可欠である。富 士ゼロックスでは、現場観察・実証実験を繰り返す Human Centered Design の手法を取り入れ、個の行動に注目し情報の流れをコントロールする Action Centric という考え方に基づき、新しいモイルサービス Mobile Action Centric Service (MACS)を設計した。このサービスは、「必要情報 の自動収集」「端末への Push 配信」「スケジュールにわせた自動配信・自動削除」「高度な暗号化処理」を組 み合わせることにより、利便性と安全性を両立した。 また、このシステムを、富士ゼロックスのサービス エンジニア業務に適用し、エンジニアの自律的判断を サポートし、結果的に自らが新しい働き方に変革して いく効果があることを、実証実験で確認した。 Abstract 執筆者 長束 育太郎(Ikutaroh Nagatsuka*1 田丸 恵理子(Eriko Tamaru*2 *1 研究技術開発本部 インキュベーションセンター Incubation Center, Research & Technology Group*2 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 Human Interface Design Development, Product Development GroupMore companies are seeking to incorporate the use of smartphone and tablet devices in their approach to promote innovative work styles among their employees. Ensuring both “convenience” and “security” are the keys to successful document management in a mobile environment. By conducting experimental research using the "Human Centered Design” method and studying the idea of “Action Centric,” Fuji Xerox has designed a new mobile service called Mobile Action Centric Service (MACS). MACS combines convenience with security by providing functions for “automated information collection,” “push notification,” the “scheduled sending/deleting of documents,” and “advanced encryption.” A survey of service technicians at Fuji Xerox revealed promising results showing that the service effectively aids technicians in autonomous decision-making and efforts for continuous innovation.

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特集

22 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

Mobile Action Centric Service “Work Style Innovation with Mobile Document Communication”

要 旨

スマートフォン・タブレット端末の普及に伴い、新

しいモバイル端末を導入し、ワークスタイルを変革し

ようと考えている企業が増えてきた。制約の多いモバ

イル環境下で効果的にドキュメントを活用するため

には、「利便性」と「安全性」の両立が不可欠である。富

士ゼロックスでは、現場観察・実証実験を繰り返す

Human Centered Design の手法を取り入れ、個人

の行動に注目し情報の流れをコントロールする

Action Centric という考え方に基づき、新しいモバ

イ ル サ ー ビ ス Mobile Action Centric Service

(MACS)を設計した。このサービスは、「必要情報

の自動収集」「端末への Push 配信」「スケジュールに合

わせた自動配信・自動削除」「高度な暗号化処理」を組

み合わせることにより、利便性と安全性を両立した。

また、このシステムを、富士ゼロックスのサービス

エンジニア業務に適用し、エンジニアの自律的判断を

サポートし、結果的に自らが新しい働き方に変革して

いく効果があることを、実証実験で確認した。

Abstract

執筆者 長束 育太郎(Ikutaroh Nagatsuka)*1 田丸 恵理子(Eriko Tamaru)*2 *1 研究技術開発本部 インキュベーションセンター (Incubation Center, Research & Technology Group) *2 商品開発本部

ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 (Human Interface Design Development,

Product Development Group)

More companies are seeking to incorporate the useof smartphone and tablet devices in their approach topromote innovative work styles among theiremployees. Ensuring both “convenience” and“security” are the keys to successful documentmanagement in a mobile environment. By conductingexperimental research using the "Human CenteredDesign” method and studying the idea of “ActionCentric,” Fuji Xerox has designed a new mobileservice called Mobile Action Centric Service (MACS).MACS combines convenience with security byproviding functions for “automated informationcollection,” “push notification,” the “scheduledsending/deleting of documents,” and “advancedencryption.” A survey of service technicians at FujiXerox revealed promising results showing that theservice effectively aids technicians in autonomousdecision-making and efforts for continuous innovation.

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特集

Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 23

1. はじめに

近年、モバイルでのドキュメント活用に対す

るお客様の期待が急速に高まりつつある。特に

パーソナル領域でのスマートフォンやタブレッ

ト端末の普及に伴い、これらのモバイル端末を

業務に取り入れたいと考えるお客様が増加して

いる。

法人向けモバイルソリューション市場は、今

後大きく成長し、2015 年には、日本国内で

9,000 億円近い市場を形成すると予測されて

いる 1)。

この背景には、以下の様なお客様の期待・狙

いがあると考えられる。

① 環境負荷低減

ペーパーレスワーク、およびモバイルワーク

による移動距離削減によるCO2排出量削減

② Business Continuous Plan(BCP)

特に東日本大震災以降顕著になってきたが、

災害等が発生した場合、社員が出社できな

くても、業務出来る環境の確保

③ ワークスタイル変革による増力化

“新しい端末”を使いこなすことにより、

今までと違った働き方ができ、それが生産

性を上げるのではないかという期待

しかしながら、単純に市販のパーソナル向け

に設計されたタブレット端末を購入し、社員に

配布するだけでは、お客様が期待する効果が上

げられないのが実情である。また、とりあえず

購入し、社員に配布したのだが、どう使ったら

よいか判らないという事例も増えている。

本報告では、富士ゼロックス社内での実証実

験結果に基づき、ワークスタイルを変革させる

ために、モバイル環境でのドキュメント活用に

必要な条件、課題について考察する。

2. モバイル環境でのドキュメント活用

に求められること

モバイル環境下では、オフィスの自席でデス

クトップ PC を操作する場合とは異なり、以下

の様なさまざまな制約がある中で、効率的なド

キュメント活用が求められる。

2.1 モバイル環境下でのドキュメント活

用に対する制約・問題点

2.1.1 デバイス・ユーザーインターフェース

モバイル機器は、そのモバイル性を確保する

ために、デバイスサイズやユーザーインター

フェースに制約がある。

① 画面サイズ

一般にタブレット型デバイスとして市販さ

れているものは、7 インチ~10 インチ程

度の大きさが主流である。3 インチ~4 イ

ンチ程度のスマートフォンと比較すると大

きいサイズではあるが、A4 用紙に比較す

ると 1/3~1/2 程度の大きさであり、A4

用紙に印刷することを前提としたドキュメ

ントを全画面で表示させると小さい文字の

判読は困難である。従って、拡大・スクロー

ルによる閲覧が必要になる。

画面サイズを大きくするとドキュメント

閲覧性は向上するが、重量・サイズによる

可搬性は悪化する。

② キーボードレス

タブレット型端末は、タッチパネル操作が

基本であり、文字入力に関しても、ソフト

キーボードが主流である。一般にソフト

キーボードは打鍵感がなく、ブラインド

タッチは困難である。また、タッチパネル

の感度にもよるが、素早いキーインが難し

い。さらに、キーボードを表示するために、

入力時には、画面上の閲覧領域が狭くなる

ことも課題である。

2.1.2 通信

公衆携帯網を使ったデータ通信は、近年急速

に拡大しているが、依然制約が多い。

① 通信速度

現在、3G 回線での一般的な通信速度は下

り 7.2Mbps である。しかし、この数値は

ベストエフォート方式の最大値であるため、

実際の通信速度は、1Mbps 前後、通信状

態によっては数百 kbps に低下する。この

状態で、サイズの大きなドキュメントファ

イルを扱うと、レスポンス性が悪化する。

最近は LTE(最大 37.5Mbps)や WiMAX

(最大 40Mbps)などの高速無線通信も実

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24 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

用化されているが、通信可能エリアが大都

市圏に制限されているため、汎用的に利用

するのは難しい。

② 圏外、通信不安定

地下街、地下駐車場、高層ビルの高層階な

ど、大都市圏内でも通信圏外になる地域は

存在する。また、完全に圏外にはならない

が、通信が寸断したり、不安定になること

により、通信エラーが発生したり、通信時

間が非常に長くなったりすることが、容易

に発生する。

2.1.3 セキュリティー

企業が、業務用途にモバイル端末を利用する場

合、セキュリティーに関する課題が最も大きい。

① 情報持ち出し

社内にある機密情報・個人情報を、端末上

にコピーし、大量に持ち出すこと自体、セ

キュリティー管理上問題がある。

② 盗難・紛失

モバイル機器を利用する以上、盗難・紛失

のリスクは避けられない。万が一の場合に、

画面ロックパスワードを規定回数以上間違

えた場合にデータを消去したり、無線回線

を通じて遠隔から消去信号を送ったりする

機能を備えている機種もある。

2.1.4 ワーク環境

そもそも社外での業務は、単純な社内業務の

延長ではなく、社外では、社外でやるべき業務

(お客様へのプレゼン、機器の修理等)があり、

その環境自体が社内業務と異なる制約となる。

① デスクのない環境

社外での業務は、必ずしもデスクがある環

境で行うとは限らない。立ちながら、歩き

ながら、電車で移動中など、不安定な体勢

や片手での作業を強いられる環境での業務

も多い。

② 事前に通信状態が判らない場所での業務

お客様先等、不特定で事前に通信状態の判

らない場所で業務を行わなくてはならない

場合も多い。せっかくモバイル機器を持ち

込んでも、通信が出来ないために業務に支

障が発生してしまうのでは、大きな問題で

ある。

③ お客様接点でのレスポンス性

社外での業務の中でも、特に営業職やカス

トマーサービス職などは、お客様接点での

業務が多い。個人作業でのドキュメント活

用とは異なり、お客様にお見せするための

ドキュメントの活用シーン(商品紹介プレ

ゼンテーションや修理履歴提示)では、特

にスマートな操作感が求められる。ページ

めくりにもたもたしたり、ドキュメントの

選択に時間がかかったりすると、それだけ

で顧客満足度の低下に繋がりかねない。

2.2 基本コンセプト:Action Centric

2.2.1 解決すべき課題

以上のように、制約の多いモバイル環境下で

効果的にドキュメントを活用するためには、以

下の 2 つの課題を両立する必要があると考えた。

① 利便性

制約の多い環境下でも、今必要な情報にす

ぐに、簡単にアクセスでき、スムースな操

作でドキュメント活用できる利便性が求め

られる。

② 安全性

どこにいても安心、安全、確実に情報にア

クセスでき、万が一の場合でも情報の漏洩

を阻止できる、高い安全性が求められる。

利便性と安全性は、もともと相反する特性(安

全性を高めると利便性を損なう)であり、これ

らを両立することが、モバイル環境でのドキュ

メント活用の重要な課題である。

2.2.2 Action Centric とは

今回、ワークスタイルを変革するモバイル

サ ー ビ ス を デ ザ イ ン す る た め に 、 Action

Centric という考え方を基本方針とした。

従来は、ワークプロセスを細かく定義し、プ

ロセスの組み合わせで業務全体を構築し、最適

化する考え方で、サービス設計されていること

が多かった。しかし、この方法では、業務プロ

セスが画一化してしまい、人がプロセスに合わ

せて働くことが求められる。

一方、個人に着目すると、「仕事」は、個人が

「情報」を入手し、それに基づいて「意志決定」

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 25

した結果行われる「行動」の集積で成立してい

ると考えられる。さらに個人の行動の結果とし

て、新しい「ドキュメント」が生成され、流通・

共有化される。すなわち、「ドキュメント」とは、

個人が次の「行動」を「決定」するために必要

な「情報」を形にしたものであり、個人の行動

とドキュメントの流通の積み重ねが、仕事を形

成する。

我々は、意志決定に必要な情報を入手し次の

行動に移るという、仕事を構成する一連のサイ

クルを加速することが、迅速な意志決定、行動

に繋がり、結果的に業務の効率を上げるととも

に、自律的な働き方を実現するのではないかと

考えた。すなわち、Action Centric とは、個人

の行動(Action)に注目し、次の行動を決定す

るために必要な情報を素早く提供し、次の行動

を促す考え方である(図 1)。

特に今回は、富士ゼロックスのサービスエン

ジニアの働き方をモデルケースとして、個人の

スケジュールに合わせて情報の流れをコント

ロールし、次の業務に必要な情報を素早く提供

することで、自律的な働き方をサポートし、ワー

クスタイルを変革できることを、実証実験で検

証した。

3. Human Centered Design に

よる設計

新しいモバイルサービスを設計するにあたり、

Human Centered Design(以下、HCD と表

記)の手法を取り入れた。HCD とは、新しい対

話型システム/サービスを設計する際、ユーザー

視点に立ち、ユーザーにとって価値のある/使い

やすい設計を行うためのプローチである 2) 3)。本

アプローチでは、ターゲットユーザーの利用状

況(Context of Use)の深い理解に基づきユー

ザー要求を抽出し、素早いプロトタイピングを

行い、その価値を実際のフィールドで検証する

という一連のサイクルを回す。対象ユーザーや

業務に対する深い理解が設計の基本になってい

る点が特徴である。

今回は、ターゲットとなるモバイルワーカー

として、顧客先で複合機の修理を行う、サービ

スエンジニアに焦点を当て、そこでの観察調査

に基づきサービスのデザインおよび実証実験を

行った。

3.1 HCD に基づく実証実験プロセス

HCD のプロセスでは、単にサイクルを 1 度

回せばよいのではなく、何度もかつクイックに

HCD サイクルを回してシステム/サービスをブ

ラッシュアップしていくことが重要である。今

回のモバイルサービスの設計においても、図 2

に示すように、何度も「調査→仮説構築→プロ

トタイピング→実証実験→フィードバック」と

いうサイクルを繰り返し、システムの設計をブ

ラッシュアップさせてきた。

図 1. Action Centric モデル

Action Centric Model

情報 入手

考察 検討

意志 決定

行動

仕 事

ドキュメント

観察調査 (Context of Use の理解) 配信サービス実証実験

双方向配信サービス 実証実験

サービスエンジニアの 動向調査を通じた 現場ワークの理解

Pull 型配信

サービス実験

Push 型配信

サービス実験タブレット端末の投入

図 2. 実証実験のプロセス

Field Trial Process

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26 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

3.2 対象ワークの特徴

サービスエンジニアとは、顧客先で複合機の

修理を行う技術者たちである。彼らは顧客先へ

出向き、その場で機械の修理を行う。顧客先へ

は車か自転車を利用して移動する。顧客先を訪

問する際、部品や工具の他に、修理マニュアル

や技術情報を参照するためのノート PC、紙の

伝票、電話やメールを行う携帯電話などを常に

携帯している(図 3)。

彼らは顧客先では、1 人ひとりで仕事をしてい

るが、実際には、1つの担当エリアを 5、6 名の

チームで担当し、離れていながらも、互いに顧客

の情報や技術情報、スケジュール情報などを交換

しながら、チームワーキングを行っている 4)。

訪問のスケジューリングは、携帯版のセルフ

ディスパッチシステムと呼ばれる派遣システム

を用いて行う。顧客のコールリストの一覧から、

サービスエンジニア自身が次に訪問する先を選

択する。携帯の画面を通じて、どのようなコー

ルがあり、同僚のエンジニアが今どこにいるの

かが可視的になっており、状況に応じて、次に

どこに行くのが適切かを、サービスエンジニア

自身が決定するというシステムである 5)。

また、サービスエンジニアは『機械を直すな、

顧客を直せ』と言われるように 6)、単に機械の

修理に留まらず、顧客との関係を構築・維持し

ていく上で重要な役割を果たしている。近年で

は、ますますこの役割が重要視されるようにな

り、営業と連携して顧客をケアすることが彼ら

の仕事の重要な部分となってきている。

4. 実証実験結果

4.1 サービスエンジニアの現場の課題

実証実験を開始するにあたり、サービスエン

ジニアの現場における課題を調査した。

4.1.1 サービスエンジニアに求められる価

値の変化

サービスエンジニアの現場では、彼らに求め

られる価値が変化しつつある。“顧客接点として

の重要な役割を担うサービスエンジニア像”に

対しては、以下のような価値を達成することが

求められている。

① 顧客満足度の向上

顧客満足度の向上にはさまざまな要因が考

えられるが、現在のサービスエンジニアの

現場では、顧客にとって有益な情報をいか

に適切に提供するか、が課題となっている。

操作方法がわからない顧客にわかりやすく

操作方法を教えたり、新しい機能や商品に

ついてのタイムリーな情報を提供したりす

るなど、顧客が欲している情報をいかにタ

イミングよく、的確に提供できるかが課題

である。

② 売り上げ向上への貢献

売り上げをあげることはエンジニアのミッ

ションではないが、営業と連携して、「会社

として一体となってお客様に対応する」こ

とにより、売り上げへの貢献を求められて

いる。このためには、いかに営業と連携で

きるかが課題である。さらには、訪問前に、

顧客情報や訪問状況をきちんと把握して、

顧客の状況に適したきめ細かい対応ができ

るかが重要となってくる。

③ 効率改善

上記のような活動を行っていくためには、

修理業務の効率化を図り、顧客接点のため

の時間を生み出すことが必要である。修理

作業を効率化するためには、いかにして訪

問前にマシンの状況を把握し、修理の予測

や必要部品の準備などを的確に実施するか

図 3. 外出時のサービスエンジニアのスタイル

Work Style of Service Technician

タブレット

端末

携帯電話

工具などを 収納したバッグ

部品

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 27

が重要である。さらには、隙間時間を有効

活用して、作業報告など、帰社後の作業を

軽減できるような効率化が必要である。

4.1.2 現場でのモバイルワークの課題

サービスエンジニアは典型的なモバイルワー

カーであるが、現状のモバイルワーク環境では、

以下のような課題を抱えている。

① 立ち上がりの遅いPC

サービスエンジニアは常にノートPCを持

ち歩いており、ノートPCは修理の重要な

道具となっている。ノートPCは修理ツール

としての側面(ファームウェアのバージョン

アップやテストプリント等)と情報端末とし

ての側面がある。ノートPCには修理マ

ニュアルや技術情報が格納され、必要に応

じてPCを立ち上げ、情報を参照する。し

かしながら、セキュリティーが厳しくなり、

ノートPCで持ち出せる情報の量も質も制

限されてきた。さらに、持ち出せた情報に

関しても、セキュリティー対策が施された

ノートPCでは、情報を参照しようとして

も、立ち上がりに5~10分もかかってし

まい、「面倒なので立ち上げない」という、

情報活用への阻害要因となっている。

② 不安定な通信状況

サービスエンジニアのワーク環境は、必ず

しも、通信状況のよい場所ばかりとは限ら

ない。ビルの地下などで作業をしていると、

数時間も通信できない状況が続くこともあ

る。したがって、情報を入手したくても手

に入らないか、わざわざ通信が繋がるとこ

ろまで行って通信して情報を入手するとい

うような状況がしばしば発生しており、安

定的に情報が入手できていない。

4.2 実証実験の概要

以上のような課題に対応するため、情報配信

サービスのプロトタイプを設計・実装した。必

要なコンテンツは、サービスエンジニアの現場

とともに検討した。プロトタイプのサービスを

実際のワークの中で利用してもらい、評価した。

実験システム:エンジニアの訪問スケジュール

に応じて、訪問先の顧客に必要な情報のみを、

社内に分散したデータベースから自動的に収集

し、訪問時刻のタイミングに合わせて配信する

サービス。訪問スケジュールは、エンジニアが

外出先で都度ダイナミックに決定する。

実験参加者:弊社の神奈川地区のサービスエン

ジニア部門。参加人数は実験のフェーズによっ

て異なるが、約 10 名~25 名。

実験期間:フェーズによって異なるが、約 1~

3カ月。

実験方法:情報配信サービスを利用するために

携帯情報端末を実験参加者に配布し、端末を通

じて、配信される情報を参照し、日々のワーク

の中で活用してもらった。

評価方法:同行調査を通じての観察調査、事前・

事後のアンケート調査、サービスのログデータ

を用いた行動モニタリング調査などを実施した。

また、実験期間中には何度か現場のオフィスを

訪問し、インタビュー調査を実施した。

4.3 実証実験結果

4.3.1 Pull 型か Push 型か

本サービスでは、利用者の状況に適合した情報

を、社内に分散したさまざまなデータベースから

自動的に収集するが、その配信方法には次の二種

類ある。Pull 型配信:収集した情報をサーバー

に保存し、情報が着信したことのみ、端末に知ら

せる。情報を参照する場合は、サーバーへアクセ

スして実体を閲覧する。実体が端末に残らないた

め、高いセキュリティーを確保できる。

Push 型配信:情報の実体を自動的に端末まで

届ける方式。利用者は常に欲しい情報が手元に

あり、いつでも簡単に参照できるが、情報が端

末に保存されるため、セキュリティー的にはや

や低くなる。

当初のプロトタイプにおいては、“Pull 型”

サービスで実証実験を開始した。これは、多少

の操作性の犠牲を払っても、「安全性」を保証す

ることが重要と考えたからである。これに対し

て実験を行った結果、8 割近くのユーザーが不

満足であると回答した。この結果、実験期間を

通じて、サービスを十分に使用してもらうこと

ができなかった。ここから、情報は単に入手で

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きればよいのではなく、情報が『どのように配

信されるのか』が重要であることがわかり、セ

キュリティーと操作性のバランスをとった情報

配信サービスを再設計した。

Push 型配信サービスでは、訪問先で必要な

ドキュメントのみを、訪問前に一時的に携帯情

報端末へと自動配信し、1 日単位でローカルに

蓄積された情報を消去する、というしくみとし

た。これによって、エンジニアは、わざわざサー

バーまで情報を取りに行かなくても、欲しいと

思った時に、情報端末で参照できるようになっ

た。Pull 型と Push 型の情報配信サービスの実

験結果を示す。

Pull 型サービスでは、約 8 割の人がサービス

に対して不満足と回答したのに対して、Push

型サービスでは、約 7 割の人が、サービスに対

して満足であり(図4)、業務の質が向上したと

回答した(図 5)。

また、情報が自動配信されることで情報を「見

る気になった」と回答した人が約 7 割であった

(図 6)。人は情報をわざわざ取りにいくことを

わずらわしいと感じているという指摘はあるが、

単に情報が見られればよいのではなく、『どのよ

うに情報を入手できるのか』が重要であること

がこの結果から示唆される。

さらに、興味深い結果として、情報コンテン

ツに対する評価が Pull型と Push型では大きく

変化したことである(図 7)。Pull 型では、コン

テンツが役に立ったと回答した人は約 10~

20%程度であり、「コンテンツが魅力がない。

自分にとっては無意味な情報」といったコメン

トがなされた。一方、Push 型では、同じコン

テンツを配信しているにも関わらず、60~

80%が役に立ったと回答し、コンテンツの評価

が向上した。このように、Pull 型から Push 型

に情報配信の方式を変化させたことで、サービ

スやコンテンツに対する評価が劇的に変化した

のである。

図 6. 情報が自動的に端末に配信される

ことで情報を見る気になった度合い

Willing to Access to Informationwith Automatic Distribution

図 7. Pull 型と Push 型でのコンテンツ評価の差異

Contents Evaluation Difference between Push and Pull

図 4. 情報配信サービスの配信スタイルによる満足度の差異

Satisfaction Rate Difference between Distribution Style図 5. 情報配信サービスを活用した業務の質の向上度合い

Work Quality Improvement by Information Distribution Service

72%

28%

業務の質の向上

そう思う そう思わない

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Pull型

Push型

Pull型

Push型

Pull型

Push型

コンテンツの評価の変化

満足 不満足 未回答

基本

情報

機械利

用情報

機械設

定情報

68%

32%

自動配信で見る気になったか

そう思う そう思わない

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Push版

情報配信サービスに対する 満足度評価

満足

不満足

Pull版未回答

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 29

以上の結果から、情報配信サービスにおいて「情

報が Push 型で配信され、自動的に手元に情報

が届き、見たい時にいつでも情報が参照できる」

という情報アクセスの容易性が、情報コンテン

ツの評価をも左右するような重要なキーファク

タであることが検証された。

4.3.2 ノート PC かタブレットか

現状エンジニアが情報の入力/参照の道具と

して用いているのはノート PC である。ノート

PC は十分に大きく解像度の高い画面とキー

ボードを備え、情報の入力/参照がしやすい端末

である。その一方で、立ち上がりが遅く、重く、

電池の持ちも悪いなどの欠点から、その高機能

さに比較して、外出先ではあまり使われていな

い。これに対して、タブレット端末は、ノート

PC よりは制約のある画面サイズと入力手段し

か備えていない。反面、立ち上がりが速く、携

帯性に優れ、電池の持ちも良い。このような情

報端末の特性の違いが、情報配信サービスの活

用に、どのような影響があるのかを見ていく。

前述の実験で、Push 型情報配信サービスの

価値は確認できたが、多くのエンジニアから、

情報を参照するだけではなく、その場で作業報

告までしたいという要求があげられた。情報を

参照することとは何らかのアクションへと繋が

る一連の行為であり、情報を参照し、作業を行

い、その結果を報告するという一連の流れをサ

ポートして欲しいという要求である。これに対

して、プロトタイプを「双方向の情報配信サー

ビス」へと拡張した。

エンジニアは、顧客先で作業を終了すると、紙

の伝票を記入し、顧客に作業内容を報告する。

作業報告に関しては、作業時刻は携帯電話で簡

易入力はするものの、基本的には帰社後に訪問

件数分の入力作業が発生し、多大な工数が帰社

後の入力作業に費やされている。これに対して、

外出先でも入力作業が行えるように、ノートP

Cによる電子レポート入力システムが開発され、

テスト導入されていた。しかしながらノートP

Cを顧客先で立ち上げて入力するというのは、

立ち上がりに時間がかかり、エンジニアにとっ

て非常に負担であり、外出先での入力はあまり

行われなかった。

この課題に対して、双方向の情報配信サービ

スを活用した電子レポート入力サービスを構築

し、“7 インチのタブレット端末”を情報端末と

して用いて、情報参照から電子レポートの入力

までを一貫してサポートするサービスを構築し、

実証実験を行った。

実験結果は以下のとおりである。全発生タス

クのうち、ほぼ 2/3 のタスクにおいて、電子レ

ポートによる入力が行われた(図 8)。これは、

ほとんど利用されなかったノートPCに比較し、

利用率は大幅に向上した。個人別では、約 4 割

の人は80%以上のタスクをタブレットで入力

を行っており、非常に定着率が高い。

入力のスタイルも変化している。ノート PC

の時は、最もよく入力する場所に関して、訪問

と訪問の間の隙間時間や昼食時などにまとめて

入力することが多かった。一方、タブレット版

では、作業終了後に顧客先で入力したり、顧客

図 8. タブレット版による電子レポート入力率

E-Report Input Rate with Tablet図 9. 入力タイミングの変化(before/after)

Input Timing Change(before/after)

67%

33%

タブレットによる 電子レポート入力率

タブレットを利用した件数 利用しなかった件数

タブレット

ノートPC

0% 20% 40% 60% 80% 100%

作業後お客様先で お客様を出た後すぐ すきま時間 帰社後

電子レポートの入力タイミングの変化 (最も頻繁に入力した場所は?)

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特集

Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

30 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

先を出てすぐに入力するなど、作業後に迅速に

入力を行うという人が 75%であり(図 9)、作

業状況がホットなうちに即座に作業報告を上げ

るという迅速な報告/情報共有が行われるよう

になった。また、訪問先で多くの情報が入力で

きることで、「帰社後の電子レポート入力が短縮

できて楽になった」と作業効率の向上にも寄与

していることがわかった。

このような変化がなぜ生じたのであろうか。

実験初期の段階では、エンジニアの中では、7

インチの画面サイズに対して、「小さすぎる」「入

力の操作性が悪い」というコメントが多かった。

しかしながら、利用を継続していく中で徐々に、

「起動が速いので、すぐに使えるのがよい」「ど

こでも入力できるし、持ち運びもしやすい」な

どというコメントが増してきた。これは画面の

小ささや入力の操作性の悪さを超えて、「立ち上

がりの早さ」「携帯しやすさ」「どこでも入力で

きる作業性の高さ」といった特性が、肯定的に

評価された結果と言えるであろう。これらの評

価が、このようなレポート入力の定着と入力ス

タイルの変化に繋がっていると言える。

4.4 ワークスタイルはどのように変化し

たのか

以上の実験結果から、エンジニアは、「双方向

情報配信サービス」と「タブレット端末」の組

み合わせを提供されることで、『配信された情報

を自身で判断して、適切と思われる行動(修理/

顧客対応)を自らの判断で行い、迅速に情報を

共有する』ようになった。これは、筆者らが当

初仮定していた、“自律的な働き方”であり、今

回実験した情報配信サービスがこの働き方をサ

ポートしていることが検証された。

今回の実験で、顧客訪問前に営業の訪問履歴

を見ることで、「営業活動情報に基づいて、お客

様とのやりとりを変えている。」「常にお客様に

『こういうことを言える(話せる)なあ』とい

うのを意識して、そういう場面に常に備えよう

と思いながら参照している。」というようなコメ

ントがあった。これは単に実験の中で情報が役

に立ったというのではなく、エンジニアの基本

的な行動やマインドが変化しつつあることの現

れである。まだ実験参加者全員にこのような変

化が顕れているわけではない。これは 1/3 程の

イノベーティブなエンジニアたちに見られた現

象である。彼らはもともとこのようなマインド

や行動傾向を持ってはいたが、本サービスのよ

うな支援ツールが提供されることによって、よ

り確実に自律的なワークスタイルへとシフトが

進んできたことを示している。

また、今回の実験でパラメーターとして仕込

んだわけではないが、タブレット端末によって

気軽にインターネットに繋がることで、イン

ターネット検索を通じてその場で顧客の質問に

答えたり、インターネットを通じて商品紹介ビ

デオを顧客に紹介するなど、自発的に顧客との

対話を変化させたエンジニアも多々見られた。

これもタブレット端末の「いつでも使える」「い

つでも繋がる」特性が、情報を活動したいエン

ジニアの行為を触発し、顕在化した例と言える

であろう。

あるエンジニアは、「利用頻度が全然違う。

PC はタブレットに比べて 1/10 以下」と発言

している。サービスエンジニアにとって、修理

に“必要”な情報は、どんなに敷居が高くても

参照する。しかしながら、営業の訪問状況など

の情報は、顧客の状況を知る上では重要な情報

ではあっても、修理に必要な情報ではない。こ

のような「必須ではないが便利な情報」へアク

セスするには、情報への距離を近づけ、日常的

に情報へアクセスできる環境が必要と言えるで

あろう。

エンジニアは、これまで携帯電話とノートP

Cを携帯していたが、携帯電話が「常に」参照

する道具であったのに対して、ノートPCは「本

当に必要なときのみ」参照する道具であった。

これに対してタブレットは、この中間に位置す

る道具として、入力タイミングの選択の幅を広

げ、これまでにあまりなされていなかった、「必

須ではないが便利な情報」へのアクセス行為を

促したといえる。

以上のように、タブレット端末による双方向

の情報配信サービスは、エンジニアの自発的な

行為を触発し、結果として、エンジニアの働き

方のスタイルや行動やマインドが変化すること

が示された。

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特集

Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 31

5. Mobile Action Centric Service

5.1 Mobile Action Centric Service の

システム構成と基本動作

以上の結果から、ワークスタイルを変革する

モ バ イ ル サ ー ビ ス の 設 計 を 行 い 、 Mobile

Action Centric Service(MACS)と名付けた。

図 10 に MACS システム構成を示した。本シ

ステムの動作プロセスは以下の通りである。

① お客様からの保守点検依頼受信

お客様からの保守点検依頼は、テレホンセ

ンターが、電話で受信する

② 訪問スケジュール管理サーバーへの入力

テレホンセンターは、保守点検依頼内容を、

訪問スケジュール管理サーバーへ入力する

③ 担当エンジニアの割り当て

訪問スケジュール管理サーバーにある保守

依頼案件を、担当エンジニアに割り当てる。

この時点で、どのエンジニアが、いつ、ど

このお客様を訪問するかが決定する。

④ 必要情報の収集・暗号化

配信サーバーは、訪問スケジュール情報に

合わせて、サービス情報データベース、営

業情報データベースから、保守点検に必要

な情報(お客様基本情報、契約情報、保守

点検履歴、営業訪問履歴、機械稼働履歴、

作業レポート入力フォーム等)を自動収集

し、ドキュメント化し、暗号化する。

⑤ 担当エンジニアへの配信

配信サーバーは、訪問スケジュールに合わ

せて、収集したドキュメントを担当エンジ

ニアのモバイル端末に自動送信する。

⑥ 現場での活用

エンジニアは、お客様訪問前に、送付され

た情報を確認する。作業完了時には、送付

された作業レポート入力フォームに必要事

項を記入し、配信サーバーにアップロード

する。必要に応じ、モバイル端末画面をお

客様にお見せして、機械の利活用状況や修

理箇所の説明を行う。

⑦ 利用済情報の自動削除

配信サーバーは、入力済み作業レポートを

受信し、作業完了を確認した時点で、該当

お客様情報を担当エンジニアのモバイル端

末から削除する。

5.2 Mobile Action Centric Service の

特長

本サービスの特長を、以下に示す。

① 必要情報の自動収集

現場での業務に必要な情報は、サーバー側

で自動収集されドキュメント化される。次

の業務に必要な情報を事前に準備すること

により、情報を入手するための現場での入

力作業(検索等)を不要にした。

② 端末への Push 配信

収集されたドキュメントは Push 配信され、

モバイル端末のローカルファイルとして自

動的に保存される。Push 配信されること

により、現場エンジニアは、特別な作業を

図 10. Mobile Action Centric Service システム構成図

System Configuration of Mobile Action Centric Service

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Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

32 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

することなしに、自動的に必要な情報を受

信できる。また、ローカルにファイルを持

つことにより、圏外や通信環境が不安定な

場所でも安定した動作、高いレスポンス性

を実現でき、どの様な場所でも確実に業務

を遂行できることを保証できる。

③ スケジュールに合わせた自動配信

収集されたドキュメントは、訪問スケ

ジュールに合わせて自動配信される。現場

エンジニアに対して、必要な情報を必要な

タイミングで配信することにより、必要な

情報に簡単にアクセスすることをサポート

する。

④ スケジュールに合わせた自動削除

作業完了後、不要になったお客様情報は、

自動的に削除される。このことにより、次

の業務執行に必要な情報のみを持ち出し、

不要な情報が端末内に蓄積することを防止

でき、万が一、端末の紛失や盗難の際にも、

情報漏洩のリスクを最小化できる。

⑤ 高度な暗号化処理

モバイル端末内のファイルは、富士ゼロッ

クス独自の暗号化技術により保護される。

この技術は、復号鍵等をサーバーからチ

ケット形式で配布する新しい鍵共有技術で

ある。その技術的特徴は、チケットの有効

期限後に新しい鍵を用いて再暗号化処理を

施すことにより、上記ファイルの安全性を

保証することが可能な点にある 7)。サーバー

が定期的に更新チケットを送付することで、

ユーザーはファイルを継続的に閲覧するこ

とが出来る。万が一端末が紛失・盗難にあっ

た場合でも、更新チケットの発行を停止す

れば暗号化ファイルの復号が出来なくなり、

発行停止処置以後の安全性を確保すること

が可能になる。

これらの特長のうち、①②③は、モバイル環

境において、ユーザーが簡単な操作で、確実に

業務に必要な情報を入手することをサポートす

る。また④⑤は、情報漏洩のリスクを最小化し、

高いセキュリティーを保ち、ユーザーが安心・

安全に情報を扱うことをサポートする。これら

の機能を組み合わせることにより、モバイル環

境下で効果的にドキュメントを活用するために

必要な利便性と安全性の両立が実現できた。

6. まとめ

新しいモバイル端末を導入し、ワークスタイ

ルを変革しようと考えている企業が増えてきた。

しかし、制約の多いモバイル環境下で効果的に

ドキュメントを活用するためには、「利便性」と

「安全性」の両立が不可欠である。

富士ゼロックスでは、現場観察・実証実験を

繰り返し、個人の行動に注目し情報の流れをコ

ントロールする Action Centric という考え方

に基づき、新しいモバイルサービスを設計した。

このサービスは、「必要情報の自動収集」「端末へ

の Push 配信」「スケジュールに合わせた自動配

信・自動削除」「高度な暗号化処理」を組み合わせ

ることにより、利便性と安全性を両立した。

また、このシステムを、富士ゼロックスのサー

ビスエンジニア業務に適用し、エンジニアの自

律的判断をサポートし、結果的に自らが新しい

働き方に変革していく効果があることを、実証

実験で確認した。

7. 参考文献

1) 野村総合研究所「IT 市場ナビゲーター・

2011 年度版」 東洋経済新報社 204p

2) 黒須, 時津, 伊東, ユーザ工学入門―使い勝

手を考える-ISO13407 への具体的アプ

ローチ, 共立出版 (1999/09)

3) 蓮池, 田丸, 戸崎, 多様なメンバーの参加を

通じた観察とプロトタイピングによるデザ

イン仮説の発見, 設計工学 Vol.44, No.10,

pp.535-541(2009/10)

4) 田丸, 上野, 社会-道具的ネットワークの構

築としてのデザイン, 日本デザイン学会誌

9 巻 3 号 デザイン学特集号, pp.14-21

(2002)

5) Tamaru, E. and Ueno, N., 12 Design of

Keitai Technology and its use among

service engineers , in Ito, M., Okabe, D,

and Matsuda, M. (eds.): Personal,

Portable, Pedestrian: Mobile Phones in

Japanese Life, MIT Press 2005,

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特集

Mobile Action Centric Service - モバイルドキュメント活用によるワークスタイル変革 -

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 33

pp.237-255(2005)

翻訳版: 田丸, 上野, 9 章 修理技術者た

ちのワークプレイスを可視化するケータ

イ・テクノロジーとそのデザイン, 松田, 岡

部, 伊藤編「ケータイのある風景 テクノロ

ジーの日常化を考える」(北大路書房),

pp.200-220 (2006)

6) Orr, J.: Talking About Machines: An

Ethnography of a Modern Job

Collection on Technology and Work,

Cornell University Press (1996)

7) 鈴木耕二ほか,富士ゼロックス株式会社,コ

ンテンツ配信システム、携帯通信端末装置、

お よ び 閲 覧 制 御 プ ロ グ ラ ム , 特 願

2011-014429

筆者紹介

長束 育太郎 研究技術開発本部インキュベーションセンターに所属

専門分野:新規事業開発

田丸 恵理子 商品開発本部ヒューマンインターフェイスデザイン開発部に所属

専門分野:ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(CHI)、

コンピュータによる協同ワーク支援(CSCW)、

ワークプレイス研究、サービス工学