研究主題 統合的・発展的に考察する力を育む算数科...

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鹿児島県総合教育センター 平成29年度長期研修研究報告書 研究主題 統合的・発展的に考察する力を育む算数科学習指導 -既習事項と関連付けて次へ生かす学習課題と発問の工夫- 鹿児島市立西陵小学校 教諭 満尾明希子

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鹿児島県総合教育センター

平成29年度長期研修研究報告書

研究主題

統合的・発展的に考察する力を育む算数科学習指導

-既習事項と関連付けて次へ生かす学習課題と発問の工夫-

鹿児島市立西陵小学校

教諭 満 尾 明 希 子

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目 次

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1Ⅰ 研究主題設定の理由

Ⅱ 研究の構想

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 研究のねらい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 研究の仮説

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 研究の計画

Ⅲ 研究の実際

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 実態調査の分析と考察

(1) 実態調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

(2) 実態調査の結果と分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2 研究主題に関する基本的な考え方

(1) 「統合的・発展的に考察する」とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

(2) 「統合的・発展的に考察する力を育む」について・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 検証授業Ⅰの実際

(1) 検証授業Ⅰを通して明らかにしたい視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

(2) 検証授業Ⅰの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

(3) 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらい・・・・・・・・・・・・・9

(4) 指導計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

(5) 検証授業Ⅰの実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

(6) 検証授業Ⅰを通しての児童の変容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

(7) 検証授業Ⅰの成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・134 検証授業Ⅱに向けての改善

(1) 「学習つながりマップ」について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

(2) 「学習つながりマップ」の作成の流れについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

(3) 「学習つながりマップ」の活用について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155 検証授業Ⅱの実際

(1) 検証授業Ⅱを通して明らかにしたい視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(2) 検証授業Ⅱの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(3) 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらい・・・・・・・・・・・・・15

(4) 指導計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(5) 本単元で活用する「学習つながりマップ」について・・・・・・・・・・・・・・・・・16

(6) 検証授業Ⅱの実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

(7) 検証授業Ⅱを通しての児童の変容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

(8) 検証授業Ⅱの成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

Ⅳ 研究のまとめ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・251 研究の成果

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・252 今後の課題

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・253 総括

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Ⅰ 研究主題設定の理由

急速な情報化や技術革新は人間生活を質的に変化させつつある。21世紀に生きる子供たちには,

こうした変化を前向きに受け止め,感性を豊かに働かせながら,どのように社会や人生をよりよい

ものにしていくのかを考え,新たな価値を生み出していく力が求められている。これを受けて,今

回の学習指導要領の改訂では,子供たちが,生きて働く「知識及び技能 ,未知の状況にも対応で」

きる「思考力,判断力,表現力等 ,学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間」

性等」を身に付けることが求められている。そのため,単に知識を記憶する学びにとどまらず,身

に付けた資質・能力が様々な事象に生かせることを実感できるような,学びの深まりが重要といわ

れている。算数科においても,出会った事象を,習得した「知識及び技能」と関連付けて数理的に

捉え,数,式,図,表等を活用しながら,根拠を基に筋道を立てて考えたり,統合的・発展的に考

察したりする数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,三つの資質・能力を身に付け

ることが求められている。

平成28年度鹿児島学習定着度調査における算数科の結果を見ると,本校の「思考・表現」の平均

通過率は5割程度であり,思考力,判断力,表現力が十分に身に付いていないことが明らかになっ

た。この原因としては,算数科の学習において 「知識及び技能」だけが記憶され,新たな課題を,

解決する際に,どのように考えるとよいか,見通しがもてないことが考えられる。児童が見通しを

もち,思考していくためには,学習を通して習得した「知識及び技能」だけでなく,習得する際に

身に付けた考え方と関連付けて考え,更に,関連付けたことを他の課題にも適用できないか考える

といった統合的・発展的に考察する力を育む必要があると考える。

そのために,既習事項と関連付け,次へ生かすことができる学習課題と発問の工夫を行い,児童

が学習のつながりを実感できるようにしたい。さらに,統合的・発展的に考察することにつながる

「学習つながりマップ」の作成・活用にも取り組む。この「学習つながりマップ」を単元を通して

活用することで,児童は,考え方の見通しをもつことができ,学習内容について,自ら統合的・発

展的に考察することができると考える。また,教師は,単元全体を通して統合的・発展的に考察さ

せるためのねらいを明確にすることができると考える。

このような研究を進めることで,児童は,課題解決するに当たって,学習を通して習得した「知

識及び技能」を記憶するだけでなく,既習事項と学習内容との本質的な性質や条件の共通点を見い

だし,考え方を一つにまとめ,考察の範囲を広げていくことができるようになると考える。また,

一つにまとめた考え方を基に,他の学習内容とも関連付けて考察したり,適用したりしようとする

, , ,態度や 新しいものを発見し 物事を多面的に捉えようとする態度を養うことも期待できると考え

本研究主題を設定した。

Ⅱ 研究の構想

1 研究のねらい

(1) 既習事項と学習内容との関連付けや統合的・発展的に考察することについて,児童と教師の

両方から意識の実態を把握し,その課題について分析する。

(2) 学習指導要領や文献などを基に,統合的・発展的に考察することについて整理し,既習事項

と関連付け,次へ生かす学習課題と発問とはどのようなものであるとよいかを考察する。

(3) 「学習つながりマップ」の検討・作成とその効果について検証授業を通して明らかにする。

(4) 検証授業などの分析や考察を通して,成果と課題を明らかにし,今後の学習指導に生かす。

2 研究の仮説

算数科の授業において,単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらいを明確に

し,既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題と発問の工夫を行ったならば,児童の統合的・発

展的に考察する力を育むことができるのではないだろうか。

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基 礎 研 究 本 研 究 まとめ

3 研究の計画

Ⅲ 研究の実際

1 実態調査の分析と考察

(1) 実態調査の概要

算数科での学習に関する児童の実態等を調査することで,学習指導上の課題調査目的

を把握し,今後の研究の基礎資料とする。

平成29年5月31日(水)実施期日

鹿児島市立西陵小学校 第5学年130人及び教師18人調査対象

質問紙による意識調査調査方法

(2) 実態調査の結果と分析

本校の算数科では,習熟度別学習を実施している。習熟度別学習では,単元に入る前に準備

テストを行い それを基に児童のレディネスを把握し 上位からぐんぐんコース すくすくコー, , ,

ス じっくりコースの三つのコースに分けている 本研究では ぐんぐんコースとすくすくコー, 。 ,

スで検証授業を行うため,5年全体とぐんぐんコース,すくすくコースについての実態調査の

結果と分析について述べる。

ア 算数科の学習に関する児童の意識の実態

「算数の学習で楽しいと感じると

きは,どんなときか 」という質問に。

対し,ほとんどの児童が「難しい問

題に答えられたとき 「計算すると」,

き 「答えが合っていたとき」と答」,

えた 。これは,比較的難度の(図1)

高い問題を自分で解き,答えが合っ

ていたときに達成感を味わう児童が

多いからだと考える それに対し 友。 ,「

達の考えを聞いたり,どのように考

えたのかをみんなと話し合ったりす

ることが楽しい 」と感じている児童。

は少数であった。

このことより,算数の課題に対し,

答えを見いだすことについての意欲

は高いことが分かる。その一方で,

答えを導き出すために,どのように

考えたらよいかを追究する意欲は低

いといえる。よって,計算などの技

能の習熟を目的とした学習活動と併

せて,思考を伴う学習活動を更に取

り入れていく必要がある。

時代の要請

児童の実態

指導上の課題

○ 既習事項との関連付けや統合的・発展的に考察することにつ

いての意識の実態を,児童と教師の両方から調査・分析

○ 学習指導要領や文献などを基に,統合的・発展的に考察する

ことについての整理と,既習事項と関連付け,次へ生かす学習

課題と発問についての考察

○ 「学習つながりマップ」の検討・作成

研究主題

研究の仮説

検証授業の

実施と考察

研究の成果と

今後の課題

図1 算数の学習に関する調査

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イ 学習課題に関する児童と教師の意識の実態

学習課題に関する調査より,課題解決に対す

る意欲をもつことができている児童は 全体で7,

割程度であることが分かった 。また,(図2)

既習事項を基にどのように考えるとよいか見通

しをもつことができている児童は コースによっ,

て意識に差は見られたが,全体で8割程度であ

ることが分かった 。教師の学習課題に(図3)

関する意識については 「児童が算数の学習に,

主体的に取り組めるように,学習課題を工夫し

。」 ,「 。」ているか という問いに対し よくしている

と答えた教師はなく 「まあまあしている 」が, 。

6割程度であった 。(図4)

これらのことより,主体的に取り組むための

学習課題の工夫に,課題があると考えられる。

そこで,児童が課題解決に対する意欲を更に

もてるよう,既習事項と関連付けながらどのよ

うに考えるとよいか見通しをもつことができる

。 ,ような学習課題を考えていきたい そのことが

学習のつながりを実感し,統合的・発展的に考

察することにつながっていくと考える。

ウ 統合的・発展的に考察することに関する児童と教師の意識の実態

既習事項と学習内容とのつながりに関する調

査より 今日習ったことは この前習っ( )図5 ,「 ,

たこととつながっているな 」と実感すること。

ができている児童は7割に満たないことが分

かった。また,これまで身に付けた考え方を他

にも適用できないかと考えることに関しては,

「よくあった 「まあまああった 」と答えた。」, 。

児童が全体の6割であった 。教師対象(図6)

の調査からも 算数科の学習において,既習事,

項と学習内容を関連付けながら考えさせ,身に

付けた考え方を他にも適用できないか更に考え

させる時間を十分には確保できていないことが

分かった 。(図7)

これらのことより,児童は,既習事項と学習

内容との本質的な性質や条件の共通点を明確し

た上で考え方を見通すまでには至っていないこ

とが分かる。そのため,身に付けた考え方を他

。の課題にも適用できていないことが考えられる

そこで,児童が学習のつながりを実感できる

ように,統合的・発展的に考察する場面を学習

過程に位置付けたり,統合的・発展的に考察さ

せるための発問を考えたりする必要がある。

図2 学習課題に関する調査

図3 解決の見通しに関する調査

図5 既習事項と学習内容とのつながりに関する調査

図6 習得した考えを他に適用することに関する調査

図7 統合的・発展的に考察することに関する調査(教師)

図4 学習課題に関する調査(教師)

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*1) 『小学校学習指導要領解説 算数編』 平成29年6月 文部科学省

*2) 中島健三 著『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』 平成27年 東洋館出版社

*3) 桜井隆道,片桐重男,高橋英治,大島富明 著『数学的な考え方とその指導(小学校 』)

昭和46年 近代新書出版社

- -4

2 研究主題に関する基本的な考え方

(1) 「統合的・発展的に考察する」とは

「統合的に考察する」とは 「異なる複数の事柄をある観点から捉え,それらに共通点を見,

いだして一つのものとして捉え直すこと 」である 「統合的に考察する」ことについては,*1)

次の三つの場合があると中島 は述べている。*2)

集合による統合- はじめは異なったものとしてとらえられていたものについて,ある

必要から共通の観点を見出して一つのものにまとめる場合

拡張による統合- はじめに考えた概念や形式が,もっと広い範囲(はじめの考えでは

含められない範囲のものまで)に適用できるようにするために,はじ

めの概念の意味や形式を一般化して,もとのものも含めてまとめる場合

補完による統合- すでに知っている概念や形式だけでは,適用できない場合が起こる

とき,補うものを加えて 「完全になる」ようにまとめる場合,

この三つの場合の統合を具体化したものが, である。表1

このように「統合的に考察する」ことで,桜井ら は 「いくつかのことをまとめて一つの*3)

ものにするというだけでなく,進んで新しいものをとり入れていくことによって,もとの内容

が一層豊かになり,一層一般的なものになってくる」と述べている。

表1 統合的に考察する場面の具体例

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*4) 片桐重男 著『数学的な考え方の具体化と指導』 平成16年 明治図書

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「発展的に考察する」とは 「ものごとを固定的なもの,確定的なものと考えず,絶えず考,

察の範囲を広げていくことで新しい知識や理解を得ようとすること 」である 「絶えず考察*1)

の範囲を広げていく」考え方として,片桐 は「広い意味での問題の条件を変えてみること」*4)

と「思考の観点を変えてみること」という二つの場合を示している。この二つの場合を具体化

したものが, である。表2

このように「発展的に考察する」ことで,桜井らは 「一つの見方に固定されないで,もっ,

といろいろな性質を見いだすようになり,多面的な見方ができてくる」と述べている。

また 片桐は 統合的に考察する ことと 発, ,「『 』 『

展的に考察する』ことは互いに刺激し合うもので

あり,切り離して考えることはできない」と述べ

ている。つまり,統合的に考察することにより本

質的な性質や条件の共通点が明らかになり,それ

によって新たな問題や考え方を見いだす「発展的

な考察」につながっていくと考える。また 「発,

展的に考察する」ことで,そこで得られたことが

既習事項と同じ考え方によるものであることに気

付き,再び「統合的な考察」へとつながってい

くと考える 。(図8)

表2 発展的に考察する場面の具体例

図8 統合的な考察と発展的な考察

との関係

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(2) 「統合的・発展的に考察する力を育む」について

統合的・発展的に考察する力を育むためには,単元を通して,児童が既習事項と学習内容を

関連付けて考え,それを基に他の課題も解決できないか思考する場面を学習過程に位置付ける

必要がある 。その上で,既習事項と関連付け,次へ生かすことができる学習課題と発(図9)

問の工夫を行い,児童が学習のつながりを実感できるようにする必要がある。

なお,既習事項とは,学習を通して習得した「知識及び技能」だけでなく,習得する際に身

に付けた考え方を含むものと捉え,本研究を進めた。

… 「整理・分析」の場面で,多様な考えが出たあとに,より

よい観点から共通性を見いだし,まとめる。

… 「まとめ」の場面で,これまで身に付けた考え方を見直し,

一つの考え方としてまとめる。

… 「整理・分析」の場面で,既習事項と関連付けて考えるこ

とができるように 「知識及び技能」または考え方を補い,,

考えやすくする。

… 「まとめ」の場面で,単元内で身に付けた考え方を,もっ

と広い範囲で適用できるように一般化し,既習事項も含めて

まとめる。

… 「課題の把握 「情報の収集」の場面で,条件の一部を置」,

き換えても,これまで身に付けた考え方が,適用できるかを

考える。

… 「課題の把握 「情報の収集」または「整理・分析」の場」,

面で,観点を変えて考え,多様な考え方を出していく。

既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題とは,これまで身に付けた考え方を,更に広い範

囲で適用できるように一般化していける学習課題のことである。また,課題を解決できたとき

に,児童が次時はどのような課題になるか見通しをもてたり,もし条件の一部が変わったらど

うなるかと新たな疑問をもてる学習課題のことである 。(図10)

発展的な考察➊

発展的な考察❷

統合的な考察①(集合)

統合的な考察②(集合)

統合的な考察③(補完)

統合的な考察④(拡張)

図9 学習過程において統合的・発展的に考察する場面

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このような学習課題を基にして,既習事項と関連付けさせる発問を行ったり,身に付けた考

え方を他の課題にも生かすことができないか思考させる発問を行ったりすることで,児童が学

習のつながりを実感できると考える 。(表3)

既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題例図10

表3 統合的・発展的に考察させるための発問例

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このように,統合的・発展的に考察する場面を学習過程に位置付け,学習課題と発問の工夫

を行い,学習のつながりを実感させることで,児童は,知識だけを記憶するのではなく,既習

事項と学習内容との本質的な性質や条件の共通点を見いだし,考え方を一つにまとめ,考察の

範囲を広げていくことができると考える 。(図11)

また,学習のつながりを実感させるために,児童自らが,既習事項と関連付けることや考察

の範囲を広げていくことを意識し,考えられるような「学習つながりマップ」を作成すること

にした。

「学習つながりマップ」とは,児童が単元を通して統合的・発展的に考察するために,既習

事項と関連付け,学習のつながりを可視化するものである。

この「学習つながりマップ」を作成し,活用することで,児童と教師それぞれに次のような

ことが期待できる。

ア 児童に期待できること

○ 見通しをもって学習に取り組むことができる。

○ 既習事項と学習内容との本質的な性質や条件の共通点を見いだし,同じものとして一

つの考え方にまとめることができる。

○ 既習事項と関連付けたことを可視化することができる。

○ 課題の条件の一部を置き換えても,一つにまとめた考え方を適用できるか,観点を変

えて考えることはできないかと発展的に考えることができる。

イ 教師に期待できること

○ 系統性を意識した指導をすることができる。

○ 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらいを明確にすることができ

る。

○ 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらいが明確になることで,1

, , ,単位時間ごとのねらいも明確になり 何に焦点を当て どのようなことを考えさせたり

話し合わせたりするとよいか見通しをもつことができる。

以上のことから,検証授業を通して明らかにしたい視点を次のように設定した。

【視点1】既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題の在り方

【視点2】既習事項と関連付けるきっかけとなる発問の在り方

【視点3】単元を通して統合的・発展的に考察する「学習つながりマップ」の在り方

「学習つながりマップ」については 「 」で詳しく述べる。, 4 検証授業Ⅱに向けての改善

図11 学習のつながりを実感できていない児童の姿と実感できている児童の姿

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3 検証授業Ⅰの実際

(1) 検証授業Ⅰを通して明らかにしたい視点

検証授業Ⅰは,統合的・発展的に考察する場面を学習過程に位置付けるとともに,既習事項

と関連付け,次へ生かす学習課題と発問の在り方を探るために,以下の二つの視点を中心に検

証していくこととした。

【視点1】既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題の在り方

【視点2】既習事項と関連付けるきっかけとなる発問の在り方

また 「学習つながりマップ」をどのようなものにしていくとよいかについても意識した。,

(2) 検証授業Ⅰの概要〈平成29年6月16~20日実施 対象児童 第5学年ぐんぐんコース40人〉

ア 単元名 「図形の角」

イ 単元の目標

○ 三角形の内角の和を適用するよさに気付き,これを活用しようとしている。

【関心・意欲・態度】

○ 三角形の内角の和を基に,多角形の内角の和を考えることができる。 【数学的な考え方】

○ 三角形の内角の和を用いて,多角形の内角の和を求めることができる。 【技能】

○ 三角形の内角の和が180゚であること,多角形の内角の和は三角形に分けて求められるこ

とを理解している。 【知識・理解】

(3) 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらい

三角形の内角の和の性質を見いだし,それを用いて多角形の内角の和を考えることで,図形

の内角の和について統合的・発展的に考察させる。

ア 三角形の内角の和は180゚になり,四角形の内角の和は360゚になるという性質があることを

帰納的に考えさせたり,演繹的に考えさせたりする。

イ 三角形以外の多角形については,既習事項を生かすといろいろな考え方があることに気付か

せる。そして,それらを比較,検討させていくことで,三角形の内角の和を基にして考えるこ

とのよさに気付かせ,図形の内角の和について一般化させる。

(4) 指導計画( 検証授業をした部分)

「問い」と主な学習活動 教師の働き掛け

1 三角形の内角の和が180゚にな ○ 内角の和が180゚であると帰納的に

ることを帰納的に考え 説明する 考えられるように,敷き詰める等の, 。

2 三角形の内角の和を用いて外 活動を取り入れる。

角を求める。 ○ 三角形の内角の和の性質を使う

3 四角形の内角の和が360゚にな ことのよさに気付かせる。

ることを演繹的に考え,どんな ○ 四角形の内角の和が360゚になる

四角形も三角形二つに分けられ ことを,三角形の内角の和を基に

ることに気付く。 演繹的に考えられるようにする。

4 五角形の内角の和を演繹的に ○ 既習事項を生かし,どのように

考え,説明する。 考えれば,更にうまく解決できる

5 いろいろな五角形の内角の和 かを考えられるようにする。

について考える。 ○ 三角形に分けるよさやできるだ

6 六角形の内角の和を演繹的に け少ない三角形にすることのよさ

考え,説明し,いろいろな六角 に気付かせる。

,形の内角の和について考える。 ○ これまでの学習を整理することで

7 多角形の内角の和についてま 内角の和を求める式を一般化し,

とめる。 内角の和の規則性を見いだすこと

8 練習問題をする。 ができるようにする。

どんな三角形でも内角

の和は,180゚になるのか

な。

四角形の内角の和はど

のように考えるとよいか

な。

多角形の内角の和はど

のように考えるとよいか

な。

いろいろな形の多角形

の内角の和は,どのよう

に考えるとよいかな。

四角形の角の大きさ

の和(一時間)

多角形の角の大きさ

の和(五時間)

三角形の角の大きさの和

(二時間)

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(5) 検証授業Ⅰの実際(検証授業を行った第4時から第7時について)

【視点1】学習課題の在り方 【視点2】発問の在り方

は学習課題, は学習問題, はまとめ (T)教師の発問 (C)児童の反応, ,

昨日は四角形の角の大きさの和を求めたね。今日は五T:

角形。何度になると思う。

どのように考えるといいかな。T:

C:三角形に分けて考えたらよさそう。

どのような考え方を使って考えたのかな。T:

三角形や四角形にして考えた。C:

似たような問題が出たら,どの考え方で解きたいかな。T:

C:かけるだけで簡単だから,180゚×3の考え方がいい。

昨日は,こんな形の五角形の角の大きさの和を求めたT:

。 , 。ね 今日は ちょっと変わった五角形を用意したよ

角の大きさの和は何度になるかな。

どのように考えるといいかな。T:

C:前の時間みたいに三角形三つに分けられるかやってみる。

似たような問題が出たとき,どの考え方で解きたいかな。時 T:

C:180゚×3の考え方がいい。

T:どうしてそう思ったの。

C:引く角や足す角が出てこないから。

どんな形の五角形でも三角形いくつに分けられそうかな。T:

C:三つに分けられる。

明日は六角形の角の大きさの和を求めるよ。何度にT:

なるかな。

四角形の角の大きさの和をはっきりさせるには,

三角形に分けて考えるとよい。

180゚×2 180゚×4-360゚

五角形の角の大きさの和は,本当に540゚だろうか。

180゚×5-360゚180゚×3 180゚+360゚ 考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】

180゚×3-180゚+180゚ 180゚×3-180゚+180゚ 180゚×3

どんな五角形でも三角形三つに分けられるから,角の大きさの和は,180゚×3で

540゚になる。

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

魚のしっぽの形をした五角形でも,三角形三つに分けられるだろうか。

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】

五角形の角の大きさの和を求めましょう。

この形の角の大きさの和は何度でしょうか。

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考させる。【視点2・発展❶】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

発展的な考察❶(条件を変える)

発展的な考察❶(条件を変える)

統合的な考察④(拡張)

統合的な考察④(拡張)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

五角形の角の大きさの和は,三角形三つに分けられるから,180゚×3で540゚

になる。

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いらない角や足す角が出てこないように六角形の角

の大きさの和を求めましょう。

どのように考えるとよさそうかな。T:

C:四角形とか三角形に分ければいい。

C:対角線を引けばいい。

C:一本だけ線を引けばいい。

① ② ③ ④

時 T:いらない角や足す角が出てこない考え方はどれかな。

C:①と③と④の考え方です。

七角形や八角形の角の大きさ和を求めるとしたら,どのT:

考え方が考えやすいかな。

C:③と④の考え方だと,いろいろな図形の角の和が分かっ

ていないといけない。①だと三角形だけでいい。

こんな六角形でも,三角形三つに分けられるかな。T:

いろいろな図形の角の和の大きさを求められるかな。T:

どのように考えたら角の大きさの和を求められるかな。T:

C:前の時間みたいに,いらない角と足す角が出ないよう

に三角形を作れば求められるよ。

T:それぞれの多角形の角の大きさの和はどれくらいにな

りそうかな。

C:これまで180゚ずつ増えてきたから,今日もそうなりそう。

式や図を見て,多角形の角の大きさの和には,どのようT:

なひみつがあるといえそうかな。

C:やっぱり180゚ずつ増えている。

どれも三角形の数が○角形の○の数より二つ少ない。C:

C:180゚×(頂点の数-2)という式ができるよ。

この式を使って他の図形の角について考えると何かいいT:

ことがあるかな。

C:形をかいたり,線を引いたりしなくても角の大きさの和

が求められる。

C:百角形でもすぐ求められる。

それぞれの多角形の角の大きさ

の和を求め,どのようなひみつが

かくれているか見付けましょう。

どのような線を引けば,六角形の角の大きさの和を簡単に求められるだろう。

180゚×3 180゚+540゚ 360゚+360゚180゚×6-360゚

多角形の角の大きさの和は,全部180゚×(頂点の数-2)で求められる。

180゚×5=900゚ 180゚×6=1080゚ 180゚×7=1260゚ 180゚×8=1440゚

七角形 八角形 九角形 十角形図形

角の和

多角形の角の大きさの和のひみつを見つけよう。

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】

観点を変えて考えさせる。【視点2・発展❷】

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

発展的な考察❶(条件を変える)

統合的な考察④(拡張)

統合的な考察④(拡張)

発展的な考察❶(条件を変える)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

いらない角や足す角が出てこない,三角形だけを作る線を引くとよい。

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(6) 検証授業Ⅰを通しての児童の変容

検証授業Ⅰでは,単元を通して,三角形の内角

の和を用いることのよさに気付き,それを基に考

え,課題を解決できることをねらいに学習を進め

た。当初児童は「三角形の内角の和は180゚ 「四」,

角形の内角の和は360゚ 「五角形の内角の和は」,

540゚」と,習得した知識を使って解決するにとど

まり,三角形の内角の和を基に考えるよさを実感

するまでに至らなかった。しかし,いろいろな考

えを比較,検討していくことで,三角形の内角の和

, 。 ,を基に 多角形の内角の和を考えるよさを感じることができるようになった 単元の終盤では

どんな多角形の内角の和も,三角形の内角の和を基に考えるとよいと実感する児童が増え,ほ

, 。とんどの児童が 三角形を基に多角形の内角の和を用いて課題を解決するようになった( )図12

(7) 検証授業Ⅰの成果と課題(○:成果 △:課題)

ア 【視点1】既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題の在り方

△ 授業前後に行った意識調査の比較より,課

題解決に対する意欲をもつことができた児童

が減少したことが分かった 。また,既(図13)

習事項を基に見通しをもつことができた児童

も減少したことが分かった 。(図14)

これらのことより,学習課題が児童にとっ

て見通しをもちにくいものであったことが分

かる。これは,各時間の学習が既習事項やこ

れからの学びとどのようにつながっていくの

かが俯瞰できなかったからだと考える。よっ

て,児童が学習課題に出会った際,学習のつ

ながりを実感できるような工夫を行う必要が

あると考える。

イ 【視点2】既習事項と関連付けるきっかけとなる発問の在り方

○ 授業前後に行った意識調査の比較より 「今,

日習ったことは,この前習ったこととつながっ

ているな 」と実感することができた児童が増。

えたことが分かった 。これは,1単位(図15)

時間ごとに既習事項と関連付けさせる発問を

取り入れたことが効果の一つではないかと考

えられる。つまり,考えを深める段階で,考

えた根拠を問い,本質的な性質や条件に気付

かせる発問を意図的に行ったことによって,

「 。」やっぱり三角形に分けて考えた方が簡単だ

という児童の発言が単元後半になるにつれ増えていき,児童が実感を伴いながら理解を深

めていくことができるようになったからだと考える。

図12 考えが変容した児童のノート

図15 既習内容と学習内容との

つながりに関する調査

図13 学習課題に関する調査

※ 5%水準での有意差なし

図14 解決の見通しに関する調査

※ 5%水準での有意差なし

※ 5%水準での有意差なし

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△ 授業前後に行った意識調査の比較より,こ

れまで身に付けた考え方を,他にも適用でき

,「 」,ないかと考えることに関して よくあった

「まあまああった」と答えた児童は増えたが,

。5%水準での有意差は見られなかった( )図16

その原因としては,身に付けた考え方を,他

にも適用できないかを考えさせるための発問

が先を見通したものではなく形式的なもので

あったために,何をねらった発問かが明確に

伝わらなかったことが考えられる。他学年,

, , , ,他校種での学習内容も見通した上で 単元を通して 何をねらいに どのように考えさせ

統合的・発展的に考察させるかをもっと教師が明確にし,より的確な発問を行う必要があ

ると考える。

4 検証授業Ⅱに向けての改善

(1) 「学習つながりマップ」について

検証授業Ⅰより,学習課題と発問の工夫を行い,学習のつながりを実感させるためには,児

童が単元全体の学習を俯瞰し,学習内容の単元内における位置を把握する必要があることが分

かった。また,教師が単元全体だけでなく,他学年や他校種も見通した上で統合的・発展的に

考察させるためのねらいを明確にする必要があることも分かった。そこで,これらのことを実

現できるような「学習つながりマップ」を作成することとした。

(2) 「学習つながりマップ」の作成の流れについて

① 学習指導要領で指導内容を確認しながら,既習事項との関連を分析し ,何をねら(図17)

いに統合的・発展的に考察させていくかを明確にする。

② 明確になったねらいを基に,どこに着目させ,どのように考えさせていくか具体化してい

く。

図17 学習つながりマップを作成するための分析

図16 習得した考えを他に適用する

ことに関する調査

※ 5%水準での有意差なし

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③ 具体化したことを基に 「学習つながりマップ」を作成する 。, (図18)

図18 第5学年「体積」の「学習つながりマップ」の一部

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(3) 「学習つながりマップ」の活用について

「学習つながりマップ」を活用した効果を検証するために,第5学年の単元「体積 「分」,

数のかけ算とわり算 「図形の面積」の「学習つながりマップ」を作成した 「学習つながり」, 。

マップ」の活用を通した成果と課題については 「 」の「(8) 検証授, 5 検証授業Ⅱの実際

業Ⅱの成果と課題」で詳しく述べる。

5 検証授業Ⅱの実際

(1) 検証授業Ⅱを通して明らかにしたい視点

検証授業Ⅱは,検証授業Ⅰで明らかになった視点1と視点2の課題を基に 「学習つながり,

マップ」を導入した際の三つの視点について検証することとした。

【視点1】既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題の在り方

【視点2】既習事項と関連付けるきっかけとなる発問の在り方

【視点3】単元を通して統合的・発展的に考察する「学習つながりマップ」の在り方

(2) 検証授業Ⅱの概要〈平成29年11月8~17日実施 対象児童 第5学年すくすくコース18人〉

ア 単元名 「分数のかけ算とわり算」

イ 単元の目標

○ 既習事項と関連付けて考えたり,式と図をつなげたりしながら,乗数や除数が整数の場

合の分数の乗法及び除法の意味や計算のしかたを考え,それを活用しようとしている。

【関心・意欲・態度】

○ 既習事項を基に,乗数や除数が整数の場合の分数の乗法及び除法の意味や計算のしかた

を,式と図をつなげながら考えることができる。 【数学的な考え方】

, 。○ 乗数や除数が整数の場合の分数の乗法及び除法の意味を理解し 計算することができる

【技能】

○ 既習事項と関連付けて考えたり,式と図をつなげたりしながら,乗数や除法が整数の場

合の分数の乗法及び除法の意味と計算のしかたについて理解することができる。 【知識・理解】

(3) 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらい

これまでの分数の学習で習得してきた 次の三つの 知識及び技能 を生かしながら 分数×, 「 」 ,

整数及び分数÷整数の意味を統合的・発展的に考察させる。

ア 分数の性質やきまりに着目させる。

イ 式と図をつなげて考えさせる。

ウ 単位分数を基に考えさせる。

このことは,分数どうしのかけ算とわり算,中学校での無理数の計算,高等学校でのベクト

ル,積分などに共通する考え方である。

(4) 指導計画

「問い」と主な学習活動 教師の働き掛け

1 真分数×整数の式を立て,図 ○ 問題場面を図に表すことで,分

を基に計算の意味を考える。 数×整数の意味を理解させる。

2 分数×整数の計算のしかたを ○ 式と図をつなげ,分数×整数の

。一般化する。 意味と計算のしかたを考えさせる

3 仮分数×整数,帯分数×整数の ○ 課題の条件が変わっても同じ考え

。計算の意味を図を基に考える。 方で考えられることに気付かせる

4 真分数÷整数の立式をし,図 ○ 問題場面を図に表すことで,分

を基に計算の意味を考える。 数÷整数の意味を考えさせる。

5 真分数÷整数の計算のしかた ○ 式と図をつなげ,分数÷整数の

。を一般化する。 意味と計算のしかたを考えさせる

分数×整数の計算は,

どのように考えるとよい

のかな。

分数÷整数の計算は,

どのように考えるとよい

のかな。

分数×

整数の計算

(三時間)

分数÷

整数の

計算(四時間)

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6 仮分数÷整数の計算の意味を ○ 課題の条件が変わっても同じ考え

。図を基に考える。 方で考えられることに気付かせる

7 帯分数÷整数の計算の意味を ○ 課題の条件が変わっても同じ考え

。図を基に考える。 方で考えられることに気付かせる

8 練習問題をする。 ○ 既習事項の理解を深めさせる。

(5) 本単元で活用する「学習つながりマップ」について

分数÷

整数の

計算(四時間)

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(6) 検証授業Ⅱの実際

【視点1】学習課題の在り方 【視点2】発問の在り方 【視点3 「学習つながりマップ」の在り方】

は学習課題, はめあて, はまとめ (T)教師の発問 (C)児童の反応, ,

①毎日2L飲んだとき 2×5=10

→一日の量×何日分=全部の量

②毎日0.7L飲んだとき 0.7×5=3.5

③毎日3/4L飲んだとき

C:3/4×5

どうしてこの式になったのかな。T:

C:言葉の式を基に考えた。

これはどのようにして考えたの。T:

C:詰めて考えて, になった。

これはどのようにして考えたの。T:

C:色のついた部分を数えた。15個あった。

何が15個あるの。T:

C:1/4が15個。

15/20と考えた人もいるよ。どう考えたのかな。T:

C:5Lを20等分したうちの15個分と考えた。

T:この考え方は正しいかな。

C:この考え方だと意味が違ってくる。しかも約分したら

3/4になるからおかしい。

明日も似たような問題をするよ。この考えが使えるかな。T:

どのようにして考えたのかな。T:

C:図から1Lが5個と,あと5/6Lあるから,答えは

Lになった。

C:5ずつ詰めて足していくのは大変。

C:もう一方の図の方が考えやすい。

どのようにして考えたのかな。T:

C:図から,5/6+5/6+・・・+5/6で35/6になった。

T:たし算の式を簡単な式に変えることはできないかな。

C:5×7をする。

T:5×7だけでいいかな。

C:だめ。1/6がいる。

これは1/6が何×何個分ということかな。T:

C:5×7個分

T:7を分母と分子どっちにかけることになるかな。

C:分子

33

55

3/4×5はどのように考えるよいだろうか。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(単位分数を基に考える)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合②(集合)】(分数の性質との関連付け)

②①③

④ ⑤ ⑥⑦

毎日□Lのお茶を飲みます。5日間飲んだら何L飲んだことになるでしょうか。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合②(集合)】(これまでの乗法との関連付け)

1Lの水が入る水筒が7個あります。この水筒に水を5/6Lずつ入れました。水は全部で何Lあるでしょうか。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(分数×整数の意味の理解)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(単位分数を基に考える)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(分数×整数の意味の理解)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

図で考えて,1/4が何個分あるかを考えるとよい。

発展的な考察❶(条件を変える)

統合的な考察④(拡張)

①②

③ ④⑤

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明日はどんな学習になると思う。T:

分数×分数 帯分数 仮分数C: C: C:

T:明日は,仮分数と帯分数のかけ算をするよ。

どのように考えたらいいか予想していてね。

C:答えはたぶん28/5。

T:どうしてそう思ったの。

C:昨日と同じ考え方でしたらそうなる。

昨日までと違うところはどこかな。T:

C:仮分数になっている。

T:仮分数×整数でも昨日と同じ考え方でできるかな。

どのようにして考えたのかな。T:

C:7/5を4回足して28/5になった。

どのようにして考えたのかな。T:

C:1/5が縦に7個,横に4個あるので,1/5が

7×4個分で,答えは28/5。

T:図と式をつなげて考えることができたね。

仮分数×整数と帯分数×整数はどのように考えるとT:

いいかな。

C:真分数×整数と同じように考えたらいい。

今日は,昨日までとは違うよ。どこが違うかな。T:

花だんにじょうろで水をまきます。青色のじょうろは,1回あたり7/5㎡に水をまく

ことができます。4回分では,何㎡水をまくことができるでしょうか。

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

仮分数×整数も,真分数×整数と同じように考えられるだろうか。

チョコレートケーキを一つ買ってきました。これを二人で等しく分けます。一人分はどれくらいになるでしょうか。

「学習つながりマップ」による単元を通した統合的・発展的な考察【視点3】

仮分数×整数も帯分数×整数も,真分数×整数と同じように考えるとよい。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(分数×整数の意味の理解)(単位分数を基に考える)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(分数×整数の意味の理解)(単位分数を基に考える)

「学習つながりマップ」による単元を通した統合的・発展的な考察【視点3】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

発展的な考察❶(条件を変える)

発展的な考察❶(条件を変える)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

統合的な考察④(拡張)

統合的な考察④(拡張)

図から5/6×7は1/6が5×7個分と考えるとよい。分数×整数では,分子に整

数をかけるとよい。

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】(分数×整数の一般化)

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①一つを二人で分ける 1÷2=0.5→全部の量÷何人分=一人分の量

②もとのケーキの4/5を二人で分ける→4/5÷2

どうしてこの式になったのかな。T:

C:言葉の式を基に考えた。答えは2/5だ。

どのように考えたの。T:

C:分子の4を÷2すると,2/5になるから。

③もとのケーキの3/5を二人で分ける→3/5÷2

あれ,3÷2はできない。C:

C:1.5/5になっちゃう。これじゃあ,おかしい。

どのようにして考えたのかな。T:

3/5を小数に直して,計算したら,答えは0.3になった。C:

C:分数に直すと3/10になる。

どのようにして考えたのかな。T:

C:3/5を6/10にして6÷2をして,3/10になった。

どうして3/5を6/10にしたの。T:

C:同じ大きさの分数にして割れるようにした。

( )前時の振り返り

昨日,縦に分けた人がいたよ。できるかな。T:

5が2列分あるので,五二10で,一人分はC:できる。

そのうちの3個分だから3/10。

T:このように縦に分ける考え方でもできそうだね。

①もとのケーキの5 6を3人で分ける場合/

できない

T:小数で考えた人はどうだったかな。

C:割りきれなかった。

横で分けた人はどうだったかな。T:

6等分を18等分にして考えた。すると15/18になるのC:

で,(15÷3)/18をして答えは5/18になった。

C:横に分けるのは大変だ。

縦で分けた人はどうだったかな。T:

小さいマスが縦に6個,横に3個だから,6×3で18。C:

一人分は1/18が5個分なので,5/18になった。

②もとのケーキの5/7を3人で分ける場合

15÷ 3

18 =5

18

6× 3

1が5個分

6× 3

5=

18

1518

真分数÷整数は,どのように考えるとよいだろうか。

チョコレートケーキを一つ買ってきました。これを三人で等しく分

けます。一人分はどれくらいになるでしょうか。

真分数÷整数は,どのように考えるとよいだろうか。

=6

小数 縦に分ける横に分ける

発展的な考察❷(観点を変える)

統合的な考察④(拡張)

統合的な考察④(拡張)

真分数÷整数は小数に直すか,割ることができる分数に変えるとできそうだ。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合②(集合)】(これまでの除法との関連付け)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展➊】(分数×整数の発展的な考察)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(小数との関連付け)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(分数の性質との関連付け)

観点を変えて考えさせる。【視点2・発展❷】(式と図をつなげる)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)

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どのような考えを使ったのかな。T:

C:7等分したものをさらに縦に3等分した。一人分は

1/(7×3)が5個分で5/21になった。

T:どうして縦に分ける考え方でやったの。

C:横は細かすぎて分けにくい。

真分数÷整数はどのように考えればよさそうかな。T:

C:縦に分けて考えるといい。

C:整数を分子にかけたらいい。

明日は仮分数か帯分数が出てきそう。C:

昨日の学習と違うところはどこかな。T:

C:仮分数になっている。

T:仮分数÷整数はどのように考えたらいいのかな。

C:昨日と同じように図で考える。

T:どう考えていいか分からなくなったらどうしよう。

C:つながりマップとかノートを見る。

どのようにして考えたのかな。T:

C:縦に10あって,横は2等分されている。

T:小さいマスを何分の1と考えたの。

C:1/(10×2)

T:一人分はそれが何個分かな。

C:7個分だから,7/20

どのようにして考えたのかな。T:

C:1が何等分されたかを考えた。

T:小さいマスを何分の1と考えたのかな。

C:1/(5×2)

C:一人分は1/(5×2)が7個分なので,7/10になった。

T:小数に直すと7/10の方が正しいことが分かるね。

7/20の考え方はどこがよくなかったのかな。

あ,分かった。分数は1を何等分したかを考えないC:

といけないのに,2を何等分したかを考えている。

7× 3

1が5個分

7× 3

5=

21

真分数÷整数は縦に分けて考えるとよい。整数を分子にかけるとよい。

仮分数÷整数は,どのように考えるとよいだろうか。

1010× 2

1が7個分

10× 2

7=

202

52

5× 2

1が7個分

5× 2

7=

102

7/5Lの牛乳があります。これを2本のびんに分けます。1本分は何Lになるでしょうか。

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合②(集合)】(分数の性質との関連付け)

発展的な考察❶(条件を変える)

統合的な考察④(拡張)

統合的な考察④(拡張)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(単位分数を基に考える)

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】(分数÷整数の一般化)

「学習つながりマップ」による単元を通した統合的・発展的な考察【視点3】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(単位分数を基に考える)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(単位分数基に考える)

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仮分数÷整数は昨日と同じ考え方でできたかな。T:

C:できた。

(学習つながりマップを活用し,前時の学習を振り返る)

帯分数も同じようにできるかな。C:

昨日の学習と違うところはどこかな。T:

C:帯分数÷整数になっている。

T:どのように考えればいいかな。

C:仮分数に直す。

T:どうして仮分数に直すの。

C:かけ算のとき仮分数に直すとできたから。

T:できるかやってみよう。分からなくなったらどうしよう。

C: 学習)つながりマップを見る。(

どのようにして考えたのかな。T:

C:一人分は,1Lを縦に5等分,横に4等分をしたう

ちの9個分なので,答えは9/20になった。

どのようにして考えたのかな。T:

C:1と4/5に分けて考えた。1÷4は1/4,

4/5÷4は4/20,足して,9/20になった。

T:途中までこのように考えていた人がいたよ。

C:2Lをいくつに分けたかを考えてしまっている。

帯分数÷整数はどのように考えればいいかな。T:

C:仮分数に直して真分数÷整数と同じようにするといい。

Lのオレンジジュースがあります。これを4本の水筒に

同じ量ずつ分けて入れます。1本分は何Lになるでしょうか。

14

帯分数÷整数は,どのように考えるとよいだろうか。

帯分数÷整数も真分数÷整数と同じように考えられる。

①1が何等分されたか。②一本分は小さいマス何個分か。 →

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(単位分数を基に考える)

考えの根拠を問い,本質的な性質や条件に気付かせる。【視点2・統合①(集合)】(式と図をつなげる)(単位分数を基に考える)

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】(分数÷整数の一般化)

発展的な考察❶(条件を変える)

統合的な考察④(拡張)

5÷ 2=

5× 2

7=

10

□÷ △=

□× △

「学習つながりマップ」による単元を通した統合的・発展的な考察【視点3】

仮分数÷整数は,真分数÷整数と同じ考え方でできる。

①1が何等分されているか考える。②それが何個分か考える。

(分母に整数をかける)

身に付けた考え方をもっと広い範囲で適用できるように一般化させる。【視点2・統合④(拡張)】(分数÷整数の一般化)

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

条件の一部を置き換えても適用できるかを考えさせる。【視点2・発展❶】

一人分は

10

10 × 4

1が9個分

10× 4

9=

40

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(7) 検証授業Ⅱを通しての児童の変容

本単元における指導計画では,図を基にした考え方を分数のかけ算とわり算のそれぞれの導

入時のみで指導し,それ以降は,形式化を図り,真分数が仮分数や帯分数に変わったとしても

同じように計算するとよいことを理解させることになっている。しかし,検証授業Ⅱでは,分

数×整数及び分数÷整数の意味を統合的・発展的に考察させるために,単元を通して,図や単

位分数を基に,分数のかけ算とわり算の意味を理解させた。当初,児童は分数の意味をうまく

思い出せず,図を使って考えることによさを感じていなかった。中には,分数×整数,分数÷

整数の計算のしかたを既に知っており,図を使う

必要性を感じることができず,式を書いて答えが

出たら満足していた児童もおり,統合的・発展的

。に考察するよさに気付くことができていなかった

しかし,単元が進むにつれ,図や単位分数を基に

計算の意味について考えると,条件が変わっても

,同じように考えることができることに気付き始め

。児童自ら図や単位分数を基に考えるようになった

, ,また 友達にどのように考えたかを伝え合う際も

図や単位分数を基に説明する様子が見られるよう

になった 。このような児童の変容(図19・図20)

が見られたのは「学習つながりマップ」を活用し

たことが効果の一つとして考えられる 「学習つ。

ながりマップ」を単元を通して活用したことで,

児童は学習のつながりを実感し,被乗数または被

除数がどのような分数でも,全て同じ考え方でで

きるということに気付くことができたと考えられ

る。

(8) 検証授業Ⅱの成果と課題(○:成果 △:課題)

ア 【視点1】既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題の在り方

○ 学習課題に関する調査より,児童の課題解

決に対する意欲が有意に向上したことがうか

がえる 。これは,学習課題が児童に(図21)

とって,既習事項での考え方と関連付けるこ

とで,解決の見通しが立てやすい課題であっ

たからだ考えられる。

○ 解決の見通しに関する調査より,ほとんど

の児童が既習事項を基に見通しをもつことが

できたといえる 。これは,単元を通(図22)

して「学習つながりマップ」を活用したこと

による効果が大きいと考えられる 「学習つ。

ながりマップ」を活用したことで,児童が学

習のつながりを意識できるようになったと考

える。また,教師が単元を通して「分数の性

質やきまりに着目させる 「式と図を関連。」,

させる 「単位分数を基に考えさせる 」と。」, 。

いうねらいを意識しながら学習課題を設定で

きたことも効果的に働いたと考える。

図20 単元終了後の児童の感想

図19 単元終了後の意識調査

図21 学習課題に関する調査

図22 解決の見通しに関する調査

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△ 児童が既習事項と関連付けて考えられるように,学習課題とともに半具体物の提示も

行った。半具体物を提示したことで,児童が問題場面をイメージでき,既習事項と関連付

けながら,式を立てたり見通しをもったりしやすくなったと考えられる。しかし,単元を

通して,既習事項と関連付け,課題解決につなげるための具体的な手立てを常に教師の側

から提示したため,やや児童が受け身の状態になりがちだった。単元が進むにつれ,児童

の実態に応じて教師の具体的な手立てを減らしていき,児童自らが学習課題の問題場面に

ついてイメージし,何に着目して,どのように思考していくとよいかを考えられるように

していく必要がある。

イ 【視点2】既習事項と関連付けるきっかけとなる発問の在り方

○ 授業前後に行った意識調査の比較より 「今,

日習ったことは,この前習ったこととつながっ

ているな 」と実感することができた児童が有。

意に増えたことが分かった 。これは,(図23)

作成した「学習つながりマップ」を基に,教

師が単元全体のねらいを意識した発問を行っ

たためだと考えられる。

○ 身に付けた考え方を他に適用することに関

する調査より,学習を通して,発展的に考察

しようとする意識が高まったことが分かった

。これは,教師が単元を通して「学習(図24)

つながりマップ」を基に 「真分数が他の分数,

に変わったらどのように考えるといいかな 」。

というような発展的に考察させるための発問

を行ったことが効果的に働いたと考えられる。

発展的に考察させるための発問を行ったこと

で,児童が次時の学習内容について予想した

り,また同じ考え方でできるのではないかと

見通しをもったりすることができたと考える。

△ 単元全体を通して統合的・発展的に考察させるためのねらいを意識しながら授業を進め

たことで,既習事項と関連付けたり,先を見通した具体的な発問ができ,統合的に考察さ

せることができるようになった。しかし,学習のまとめをし,他にも適用させる習熟の時

間を十分に確保できないことがあった。課題について考える時間と習熟の時間とのバラン

スをとるために,発問を更に工夫したり精選したりしていく必要がある。

ウ 【視点3】単元を通して統合的・発展的に考察する「学習つながりマップ」の在り方

○ 単元に入る前に教師が「学習つながりマップ」を作成したことで,単元を通して何に着

目させ,どのように考えさせるのかを明確にできた。そのことにより,毎時間の学習課題

や発問についても具体的にどのようなものにしていけばよいか考えやすくなった。

○ 単元を通して「学習つながりマップ」を活用したことで,学習が進むにつれ,児童自ら

学習のつながりを実感するようになり,既習事項と関連付けながら考えるようになった。

,「 」 ,○ 本単元を進めるに当たり 学習つながりマップ を単元の始めにノートに貼らせたり

教室に掲示したりした。そうすることで,児童は今の学習の位置付けに迷っても,自らこ

れまでの学習を振り返り,自分なりの考えをまとめることができた。

○ 分数のかけ算とわり算の考え方について可視化できる「学習つながりマップ」を作成し,

活用したことで,分数のかけ算とわり算の意味について理解を深めさせることができた

。(図25)

図23 既習内容と学習内容とのつながりに関する調査

図24 習得した考えを他に適用することに関する調査

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○ 単元を通した「学習つながりマップ」の活用に

より,分数のかけ算についても分数のわり算につ

いても,児童自ら統合的に考察することができ

た。また,理解できなかった部分についても学

習を振り返りながら,考え方を修正したり付加

したりすることができるようになり,分数のか

け算とわり算の学習に対する自信をもつことが

できた 。(図26)

○ 単元を通して「学習つながりマップ」を活用

し,学習のつながりを意識させたことで 「算,

数って他の学年の勉強とつながっているんだ

図25 児童が記入した分数のかけ算とわり算の「学習つながりマップ」

図26 単元を通しての児童の感想

これまで整数×整数,整数×小数,小数×整数,小数×小数といろいろなかけ算の学習をしてきたね。数が小数になったときは,0.1などをもとにして,整数×整数と同じように考えるとよいことが分かったよ。じゃあ,分数×整数はどのように考えるといいかな。

これまで整数÷整数,小数÷整数,整数÷小数,小数÷小数の学習をしてきたね。数が小数になったときは,かけ算のときと同じように0.1または0.01をもとに,整数÷整数と同じように考えるとよかったよ。じゃあ,分数÷整数はどのように考えるといいかな。

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ね。だって,これは2年生のときに出てきたこ

とだよ 」というようにつながりを意識した発。

言が聞かれるようになった。事後にとった調査

の中でも, のように既習事項との関連付け図27

が意識された記述が見られた。

○ 単元の一番最後に 改めて 学習つながりマッ, 「

プ」を配布し,それぞれの児童がどの程度分数

のかけ算とわり算の意味を理解し,統合的・発

展的に考察することができたかを確認する時間

を設けた。この時間を設けたことで,教師は児

童の学習状況を把握することができ,個別指導

に生かすことができた。

△ 「学習つながりマップ」を記入する時間を確保できないことがあった 「学習つながり。

マップ」は本時の振り返りとして記入するという使い方だけでなく,前時の振り返りとし

て授業の始めに活用したり,自力解決の時間に活用したりするなど弾力的に活用すること

が可能なので,児童の実態や学習内容に応じて使い方を工夫していく必要がある。

Ⅳ 研究のまとめ

1 研究の成果

, , ,(1) 本校の実態調査から 既習事項と学習内容を関連付けて考えたり 新たな課題を解決する際

身に付けた考え方を生かして考えたりすることについて課題があることを明らかにすることがで

きた。

(2) 学習指導要領や文献から 統合的・発展的に考察することについて整理したことで 統合的・, ,

発展的に考察する力を育むためには,児童が既習事項と学習内容を関連付けて考えたり,それ

を基に他の課題も解決できないか思考したりする場面を学習過程に位置付ける必要があること

が明らかになった。その上で,学習課題を設定したり発問の工夫を行ったりし,児童が学習の

つながりを実感できるようにする必要があることが分かった。

(3) 検証授業から 「学習つながりマップ」の活用は,児童に学習のつながりを実感させ,統合的・,

。 ,「 」発展的に考察させる上で極めて効果的であることが明らかになった また 学習つながりマップ

を作成することにより,教師は,単元全体を通したねらいを明確にすることができ,学習課題や

発問をどのようなものにすればよいか,具体的に考えられることが明らかになった。

2 今後の課題

(1) 他の単元について,統合的・発展的に考察させるためのねらいを明らかにする。

(2) 算数科全体における各単元の「学習つながりマップ」を作成し,活用することで,各単元に

おける学習内容のつながりを一層明確にしたマップになるよう工夫・改善を図っていく。

3 総括

統合的・発展的に考察する力を育むためには,児童が学習のつながりを実感することが必要で

あることが分かった。それを実現させるために「学習つながりマップ」の作成を行った 「学習。

つながりマップ」を作成したことにより,教師は,単元全体を通したねらいを明確にすることが

でき,統合的・発展的に考察させるための学習課題や発問をどのようなものにしていくとよいか

明確にできた。また,単元を通して 「学習つながりマップ」を活用したことで,学習のつなが,

りが可視化され,児童は,既習事項との関連付けを意識するようになり,学習に対する自信にも

つながった。

図27 事後の調査での児童の記述

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〈引用文献〉

1) 文部科学省 『小学校学習指導要領解説』 平成29年6月

2) 中島健三 『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』 平成27年 東洋館出版社

3) 桜井隆道,片桐重男,高橋英治,大島富明

『数学的な考え方とその指導(小学校 』 昭和46年 近代新書出版社)

4) 片桐重男 『数学的な考え方の具体化と指導』 平成16年 明治図書

〈参考文献〉

○ 文部科学省 『小学校学習指導要領解説』 平成29年6月

○ 中島健三 『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』 平成27年 東洋館出版社

○ 桜井隆道,片桐重男,高橋英治,大島富明

『数学的な考え方とその指導(小学校 』 昭和46年 近代新書出版社)

○ 片桐重男 『数学的な考え方の具体化と指導』 平成16年 明治図書

○ 鹿児島県総合教育センター

『平成28年度調査研究発表会(算数・数学科分科会 』)

平成29年

○ 中央教育審議会

『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改

善及び必要な方策等について』

平成28年12月21日

○ 新算数教育研究会

『新しい算数研究』 平成29年 東洋館出版社

○ 筑波大学附属小学校算数研究部

『算数授業研究』 平成29年 東洋館出版社

○ 新算数教育研究会

『算数の本質に迫る「アクティブラーニング 』 平成28年 東洋館出版社」

○ 筑波大学付属小学校算数教育研究部

『筑波発 問題解決の算数授業』 平成27年 東洋館出版社

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長期研修者〔満尾 明希子〕

担 当 所 員〔 泊 弘光 〕

〔研究の概要〕

本研究は,統合的・発展的に考察する力を育むため

に,既習事項と関連付け,次へ生かす学習課題と発問

の工夫について研究したものである。

この研究を進めるに当たり,統合的・発展的に考察

する力を育むためには,児童が学習のつながりを実感

する必要があることが分かった。そこで 「学習つな,

がりマップ」の作成・活用を通して,既習事項と関連

付け,次へ生かす学習課題と発問の工夫を行うことと

した 「学習つながりマップ」を作成することで,教。

師は単元全体を通して統合的・発展的に考察させるた

めのねらいを明確にすることができ,どのような学習

課題を設定したり,発問を行ったりするとよいか具体

的に考えることができた。また,単元を通して「学習

つながりマップ」を活用することで,児童は,既習事

項と学習内容を関連付けて考えたり,関連付けた考え

方を基に適用範囲を広げたりすることができた。

このようなことから 「学習つながりマップ」を作,

成・活用し,既習事項と関連付け,次へ生かす学習課

題と発問の工夫を行うことは,統合的・発展的に考察

する力を育む上で有効であることが分かった。

〔担当所員の所見〕

本研究は 数学的に考える資質・能力を支える 数, ,「

学的な見方・考え方」の中で重視される「統合的・発

展的に考えること」に焦点を当てたものである。

「 」 ,研究内で取り上げられる 学習つながりマップ は

教師自身が単元の学習内容を基に,他学年,他校種ま

で分析した上で作成することで,学習課題や発問の工

夫に結び付き,児童の統合的・発展的に考察するため

の意識を有意に高めるものであった。

検証授業Ⅱでは,単元全体を通して,図と式を関連

, 。 ,付け 単位分数に着目させて考察させている 児童は

課題を解決する際に,既習内容や既習の考え方を用い

て見通しを立てられるようになり,統合的・発展的に

考察することのよさを実感できた。

本研究の成果が広く還元されることで,統合的・発

展的に考察させるための授業改善に結び付くととも

に,児童の算数に対する苦手意識が払拭されることと

期待する。