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10. 環形・ゆ虫・星口動物:細長い冠輪動物
奈良教集中講義 2017/08/16-20
新潟大学・自然環境科学・宮﨑勝己
環形動物=ANNELIDA・語源=ギリシア語の
annulatus (=ringed)・体の節分かれ(=体節)を輪っかに見立て、それが連なる体制からきている。
「環形動物門」・BC4世紀頃
アリストテレスは、生物を動物・植物に二分し、動物を「有血動物」と「無血動物」に分けた。(と、ラマルクの「動物哲学」(1809)では、解釈されている)
ゴカイを「海のムカデ」と称し、有血動物のヘビと同じ仲間と見なしている。
「環形動物門」
・1735年
リンネ Linnaeus「自然の体系Systema Naturae」第1版の出版=生物分類学の出発点。
環形動物の仲間は、その中の「Vermes (蠕虫類)」に含まれる。
「環形動物門」 リンネ「自然の体系 第1版」の動物分類表
・1809年ラマルクが、ゴカイ類・ミミズ類を併せた「環形動物(Annelida)」という分類群を創設。
・1851年
Vogtが扁形動物の吸虫類とされていたヒル類を、環形動物に組み込む。
「環形動物門」
・江戸時代本草学では、今でいう「環形動物」の仲間は、「蟲類」に入れられる。
(例: 貝原益軒「大和本草」(1709) )
・水蛭(ヒル) →水蟲
・蚯蚓(ミミズ) →陸蟲
「環形動物門」 環形動物の伝統的な分類体系
環形動物門多毛類(ゴカイの仲間)
貧毛類(ミミズの仲間)
ヒル類(ヒルの仲間)
(原始環虫類(ムカシゴカイの仲間=体の小型化に伴い単純化した多毛類))
原始環虫類□
Barnes et al. (2001)
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環形動物の既知種数の比較
貧毛類
ヒル類
多毛類
(ホシムシ類)
(ユムシ類) Hickman Jr. (2010)
「環形動物門」の特徴(Brusca & Brusca, 2003に従う)
裂体腔性左右相称性体節性典型的な前口動物型の発生端細胞から生じる体節領域化した完全な消化管閉鎖血管系ヘモグロビン、クロロクリオリン、ヘムエリトリンを含む呼吸色素頭部神経節、食道神経環、腹側神経索を持つ発達した神経系多くは後腎管体側面に体節的に生じる表皮性剛毛口前葉と囲口節から成る頭部多くは典型的なトロコフォア幼生海産、陸産、淡水産
体節性
いずれの群も、体が「体節」というユニットに、明瞭に節分かれする。
Brusca & Brusca (2003)
多毛類
貧毛類
ヒル類
同規的体節制
ほとんどの体節が同様の構造を示す=「同規的体節」⇔節足動物の「異規的体節」
Brusca & Brusca (2003)
同規的体節制
体の主要な構成要素が、体節的に配列している。
(上から)・神経系・体節間隔壁・筋肉系・生殖及び排出系・循環系
バーンズら (2009)
外骨格(クチクラ)
クチクラは、表皮(epidermis)より分泌される。
主成分はコラーゲン等のタンパク質とキチン等の多糖類。
環形動物 節足動物
Ruppert et al. (2003)
クチクラを構成するキチンのタイプが、節足動物が鎖の向きが互い違いの「α-キチン」なのに対し、環形動物のキチンは向きが揃った「β-キチン」=頑丈で柔軟性に富む。
環形動物 節足動物
Ruppert et al. (2003)
外骨格(クチクラ) 環形動物の体制(横断面)
藤田 (2010)
環形動物の消化系
基本的に単純な管状だが領域分化がある。
Brusca & Brusca (2003)
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環形動物の循環系
基本的に「閉鎖血管系」
Brusca & Brusca (2003)
環形動物の循環系
背血管は前方、腹血管は後方に血液を送る。
環形動物の神経系
Ruppert et al. (2003)
基本的に対を成し、体節毎に神経節を持つ。
頭部神経系
頭部神経節が発達し「脳」を形成する。
Brusca & Brusca (2003)
頭部神経系
(食道)
Brusca & Brusca (2003)
頭部神経節は頭部の背中側に位置する。
真体腔の形成
環形動物の「真体腔」は、他の「前口動物」と同様 「裂体腔」として形成される。
ウィルマーら (1998)
胞胚腔(■)の大部分は発生途中で退行し、血管系として残存する。
真体腔の形成
ウィルマーら (1998)
発生学的特徴
・典型的な「らせん卵割」
・典型的な「トロコフォア幼生」
Brusca & Brusca (2003)
発生学的特徴
体節増加域にある「端細胞(teloblast)」の分裂により、新しい体節が前方に追加されていく。
バーンズら (2009)
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「有鬚動物類」
有鬚動物=POGONOPHORA・語源=ギリシア語の
pogon (=beard)+phor (=to bear)
・頭部にある触手の束をヒゲに見立てている。
1964年1900年頃オランダのSiboga号探検隊がインドネシアの海底より採集した不完全個体を基に、Caulleryにより、記載される。(完全個体が初めて採集されたのは、1964年)
「有鬚動物類」 有鬚動物(ヒゲムシ類)
体が3つの部分に分かれる共通点から、最初は箒虫動物もしくは半索動物と近縁な後口動物とされてきた。
三浦・白山 (2000)
1969年カリフォルニア沖の深海生態系よ
り「チューブワーム(tube worm)」が発見される。
当初、分類上の位置が全く不明で独立した動物門(Vestimentifera)とする研究者もあった。
「チューブワーム」 「ハオリムシ」=「有鬚動物」の仲間
解剖学的な特徴の一致から、ハオリムシとヒゲムシは同じ仲間と判明。合わせて「有鬚動物門」とされる。
バーンズら (2009)
・らせん卵割やトロコフォア幼生の発見から、前口動物である事が明らかになる。
・後体(固着器官)の体節性から、環形動物との近縁性が明らかとなり、分子系統解析でも支持される。
「有鬚動物類」
「体腔の連なり」=「体節性」
後体部(固着器官)の体腔の連なりから、体節性が明か。
バーンズら (2009)
分子系統解析の一例
有鬚動物は、完全に環形動物の中に入っている。→現在は多毛類中の一科の扱い。
Struck et al. (2007)
「吸口虫類」・ウミシダ等の棘皮動物の寄生虫。最初は扁形動物門の吸虫類に分類されていた。
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「吸口虫類」
体節の不完全化や体腔の消失など、寄生に伴う極端な変形が見られる。
藤田 (2010)
分子系統解析の一例
多毛類と近縁とする考えが有力だが、扁形動物との近縁性を示す分子系統解析もある。
Eeckhaut et al. (2000)
「ユムシ動物門」
ユムシ動物=ECHIURA・語源=ギリシア語の
echis (=viper)+oura (tail)・和名のユムシは、「ヰ」という古名(少なくとも平安時代に遡る)に起源している。
・18世紀に初めて記載された時は、環形動物の一員とされた。
・星口動物や鰓曳動物との近縁性が指摘されたが、最近では環形動物と近縁な独立門として扱われる事が多い。
「ユムシ動物門」 「星口動物門」
星口動物=SIPUNCULA・語源=ギリシア語の
siphunculus (= little tube)・和名のホシムシは、口の周りにある触手を星に見立てて名付けられた。
ホシムシの触手
・16世紀半ばの木版画に描かれている図が初出とされる。
・リンネは「Vermes (蠕虫類)」に含め、ラマルクやキュビエはナマコと近縁とした。
・1828年にSipunculidaの名称が導入され、独立した動物群とされた。
「星口動物門」・1847年に、ゆ虫動物、鰓曳動物と共に、擬環虫類(Gephyrea)にまとめられ、環形動物と棘皮動物の中間の動物群とされた。
・1959年に、ハイマンが擬環虫類の多系統性を認め、星口動物等を独立した門と認めた。
「星口動物門」
成体で体節を欠く、吻を持つ、体腔の構造など、星口動物と共通する解剖学的特徴が多い。
星口動物 ユムシ動物
藤田 (2010)
解剖学的特徴の比較
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ユムシの口と肛門は体の前端と後端に開口するが、ホシムシの消化管はJターンし、肛門が体の途中に開く。
星口動物
ユムシ動物
藤田 (2010)
・らせん卵割、トロコフォア幼生=環形動物・ユムシ動物・星口動物で共通。
・幼生の体節性=環形・ユムシで共通。
・環形十字と軟体十字。
岡田・越田 (1983)
発生学的特徴の比較ユムシの幼生
環形十字
・胞胚期の動物極の頂点に位置する頂細胞の周りに、特徴的な十字状の細胞配列が見られる=(環形十字と軟体十字)・十字細胞群の由来が、環形動物(&ユムシ動物)と軟体動物(&星口動物)で異なる。
軟体十字
(環形動物) (ユムシ動物) (軟体動物) (星口動物)Gilberd & Raunio (1997)
環形動物ユムシ動物
星口動物
Hickman Jr. (2010)
形態・発生形質に基づく系統仮説
・かつては「環形動物」「ユムシ動物」「星口動物」が、それぞれ単系統群をなしていた。
形態・発生形質に基づく系統仮説
Hickman Jr. et. al (2015)
・最近の解析では「ユムシ動物」は完全に「環形動物」の中に入る。「星口動物」は、この解析では環形動物と姉妹群を作る。
環形動物
ユムシ動物
星口動物
分子系統解析の例環形動物
ユムシ動物
星口動物 ユムシ動物・星口動物共に、環形動物門の内部に入る結果が得られている。
Struck et al. (2007)
環形動物の分類体系
環形動物門多毛綱(ゴカイの仲間)
貧毛綱(ミミズの仲間)
ヒル綱(ヒルの仲間)
貧毛類多毛類 ヒル類
環帯類
Hickman Jr. (2010)
形態・発生形質に基づく系統仮説貧毛類多毛類 ヒル類
環帯類
形態・発生形質に基づく系統仮説
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分子系統解析の例環形動物
・環帯類=貧毛類+ヒル類の単系統性は、形態でも分子でも概ね認められる。・いずれも多毛類の単系統性は認められない。
Struck et al. (2007)
分子系統解析の例環形動物
環帯類
・環帯類=貧毛類+ヒル類の単系統性は、形態でも分子でも概ね認められる。・いずれも多毛類の単系統性は認められない。
Struck et al. (2007)
多毛類の伝統的な分類(遊在類)
(定在類)
遊在類=自由生活。定在類=棲管生活。生活様式の違いに基づく分け方で、系統を反映しているわけでは無い。
(環帯類)
(ユムシ類)
(ホシムシ類)
(スイクチムシ類)
Struck et al. (2011)
分子系統解析の例「定在類(含ユムシ類&環帯類)」と「遊在類」の単系統性が、高い信頼性で支持される。
ツバサゴカイの形態と棲管
ツバサゴカイ類
Struck et al. (2011)
分子系統解析の例
ツバサゴカイ類が環形動物中、最も早く分岐してきたグループ?
「軟体・環形動物門」
軟体動物=波部忠重・奥谷喬司により日本の軟体動物相の大要が調べられる。現在では佐々木猛智(東大総合博)らが精力的に研究している。
環形動物=多毛類の分類は今島実(科博)らが精力的に研究。ヒル類は中野隆文(広大教育)が精力的に研究。貧毛類は陸産のものは農業系の研究が多いが、海産種はほとんど調べられていない。