研究結果報告書 - SBC信越放送BDF は、Bio Diesel Fuel の略でバイオマス...

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公益財団法人 長野県高校科学教育奨励基金 理事長 研究結果報告書 報告者 工業化学科 新エネルギー班 代表 浦野 太地 加藤 博明 窪田 大輝 田中 正成 中村 平出 大実 福田 宮澤 誠也 室谷 健太 (指導教員 藤巻 久愛)

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公益財団法人 長野県高校科学教育奨励基金

理事長 田 幸 淳 男 様

研究結果報告書

報告者 工業化学科 新エネルギー班

代表 浦野 太地 加藤 博明

窪田 大輝

田中 正成

中村 司

平出 大実

福田 涼

宮澤 誠也

室谷 健太

(指導教員 藤巻 久愛)

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1、テーマ

BDF の実用化に向けた研究

2、目的

BDF は、Bio Diesel Fuel の略でバイオマス

由来の油脂にエステル交換をして製造される

燃料のことであり、化石燃料の枯渇が問題と

されている近年において、化石燃料に代わっ

て家庭や地域で得られる廃油を原料としてデ

ィーゼルエンジンに利用できる新エネルギー

として注目されている。

BDF は軽油使用時よりも黒煙の排出量が減

るので環境保全にもなり、現在少しずつでは

あるが実用化されてきている。しかし軽油に

比べ流動性が悪いことや、残留アルカリ分に

より、エンジンが劣化しやすくなるというよ

うな問題点があり、さらなる開発がすすめら

れている。

我々はこの BDF を自分達の手で製造し、最

終的には実用化をすることを目的として

BDF の製造に取り組んだ。

3、研究内容

(1)BDF の製造

(2)油の種類と酸価の比較

(3)油の種類とけん化価の比較

(4)ガスクロマトグラフィーによる BDF

の成分検出

4、実験

実験(1) BDF の製造

[原理]

油脂(主に家庭からでる廃油)とエタノール

を KOH 触媒を用いて反応させ、脂肪酸メチ

ルエステルを得る。

[使用器具]

500mL 四ツ口フラスコ、撹拌機(撹拌棒は

ガラス棒で先端はレ型)、温度計、ウォータ

ーバス、撹拌モーター、温度計(0~100℃)

ガラス棒、ろ紙 No.3、駒込ピペット5mL、

300mL ビーカー…3個、コニカルビーカー、

ビューレット、ロート、コマゴメピペット、

廃油(ポリタンク)

[使用薬品]

廃油(植物油)…酸価を予め測定、一級メタ

ノール、一級 KOH(粒状水酸化カリウム

85%)、一級 Na2SO4(無水硫酸ナトリウム)、

0.1(mol/L)水酸化カリウム(濃度既知)標

準溶液…酸価測定用 [実験手順]

(1)ごま油の酸価を測定した。酸化数1.33 (2)ごま油250g を500mL 四ツ口フラスコ

に入れた。

(3)メタノール(500g×0.2)=100g と

85%KOH を

500×1.33×56.1/56100+500×0.01

0.85 =6.07g 混ぜ、KOH を溶かした。

(4)(2)を恒温槽にいれ、

60度以下に保ち(3)を入れた。

((3)は30分かけて少しずつ入れた)

(5)2時間撹拌した。

=3.74g

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(6)静置した。

(7)廃グリセリン(下層)をコマゴメピペ

ットで取り除いた。(有機廃液)

(8)pH を測る。

(上層 pH9,下層グリセリン pH9)

(9)200mL のお湯を入れた。このとき、攪

拌すると失敗する。

(10)30分放置した。

(11)駒込ピペットを用いて下層の水を取り

除いた。(グリセリン、石けん、水を取り除

く)(上層 pH8.5 下層 pH8)

(12)(9)(10)(11)の操作を pH7になる

まで2~3回繰り返した。

・ 2 回 目 : 60 度 の 恒 温 槽で 、

100mL のお湯を入れた。

・ 3回目:60度の恒温槽で100mL

のお湯を入れた。

(13)上層の BDF 量を量った。(371.80g)

(14)37.18g の無水硫酸ナトリウム入れ、

ガラス棒で撹拌させて脱水した。

(15)ひだ折りをしたろ紙で無水硫酸ナトリ

ウムをろ過した。

(16)蓋付きのビンにいれて保存した。年月

日、名称等を記入した。348.5g

実験(2) 酸価の測定

[原理]

酸価とは、油脂1g中に含まれる遊離脂肪酸

を中和するのに必要な KOH の mg 数

この反応が沢山起こっていると脂肪酸が増え、

酸性度が高くなる。

(一般に油の変質とは、RCOOH が増加する

ことで、変質すると酸価の値も増加する)

BDF の原料である油の酸価を測定した。

〔操作〕

(1)0.1mol/L-KOH 溶液の調整、KOH28g を

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取り500ml とした。

(2)油脂5.5g を製秤し三角フラスコに移し、

エタノール約50ml を加えフェノールフタレ

インを3滴加え0.1mol/l-KOH(F=1.031)で中

和滴定を行った。

(RCOOH+KOH→RCOO-+K++H2O) 〔酸価の計算方法〕

(1)0.1mol/L-KOH のファクター(F=1.031)

(2)油の g 数 5.5g

(3)0.1mol/L-KOH 1000mL≡KOH0.1mol

(5.61g)

0.1mol/L-KOH(F=1.031)

1000mL≡KOH 5.61×1.031g

1mL≡KOH 5.61×1.031mg

酸価=(5.61×1.031[mg/mL]

×滴下量[mL])÷5.5[mg]

実験(3) けん化価の測定

[原理]

けん化価とは、油脂1g をけん化するのに要

する KOH の mg 数

アルコールカリウム溶液で油脂をけん化し、

過剰の KOH を0.5mol/L、HCL で中和滴定

(逆滴定法)によりけん化価の値を求める。

けん化価の値は油脂により一定である。

結果、油脂の品質、きょう雑物の混入の程度

などがわかる。BDF の原料である油のけん

化価を測定した。

けん化反応

油脂+アルカリ→石けん+グリセリン

中和反応

酸+塩基→塩+水

逆滴定

●けん化 ○中和反応

(●●●○○○○○)

[実験器具]

試料、三角フラスコ2個

[操作]

(1)0.5mol/L アルコールカリウム溶液250ml

の調整

KOH を28.05g 取って1000mL に薄めた

(2)0.5mol/L-HCl500mL の調整

濃塩酸42mL に水を加えメスフラスコで

1000mL とした。

(3)三角フラスコに油脂2g と(1)のアルコール

カリウム溶液25mL ホールピペットで加えた。

(4)湯せん鍋を用いて30分加熱(還流冷却管を

用いる)

(5)三角フラスコにフェノールフタレインを3

滴入れ0.5moL/L-HCl で滴定した。

(6)空試験を行った。

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(KOH が空気中の CO2を反応してる可能性が

あるため。 2KOH+CO2→K2CO3+H2O) 0.5mol/LHCl1mL は何 mg の KOH に相当す

るか。

0.5mol/L-HCl、1000mL≡0.5×56.105mg

(0.5mol) (0.5mol)

0.5mol/L-HCl1mL≡28.053mg

0.5mol/L-HCl(f=)1mg=28.053×f

けん化価の求め方

けん化価=(y-x)×28.053[mg]×f/油脂[g]

[参考文献]

油脂化学便覧 日本油化学協会編(丸善株式

会社)

各油のけん化価

ゴマ油 187~197

なたね油 167~180

大豆油 188~196

ひまわり油 186~194

オリーブ油 185~197

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[結果]

実験(2)(3)の結果を表1に示す。

表1 BDF 原料の酸価とけん化価

BDF 原料名 酸価[mg/油脂 g] けん化価

食用ごま油

(新) 1.33 189.96

食用ごま油(使用後)① 1.7 172

食用ごま油(使用後)② 1.76 173.98

食用国産100%なたね油

(新) 0.21 171

食用国産100%なたね油(使用後)① 0.21 170.5

食用国産100%なたね油(使用後)② 0.5 174.565

国産ブレンドなたね油

(新) 0.22 170

国産ブレンドなたね油(使用後) 0.35 170

食用ひまわり油(新) 0.25 154.225

食用ひまわり油(使用後) 0.34 171.485

食用なたね油さらさらキャノーラ油

(新) 0.25 189.87

混合油 食用なたね油さらさらキャノーラ油(新)

+食用国産100%なたね油(新) 1:1 0.23 180.435

混合油 食用なたね油さらさらキャノーラ油(新)

+食用ゴマ油(新) 1:1 0.79 189.915

混合油 食用なたね油さらさらキャノーラ油(新)

+食用ひまわり油(新) 1:1 0.25 172.0475

[考察]

・使用後の油は家庭で揚げ物に使用した油であるが、新しい油と酸価を比べてもそれほど大き

な違いはなかった。そのため、揚げ物に使用しても、油に不純物が混入することがほとんどで、

油自体が変質することは少ないのではないかと考える。

・けん化価は参考文献の値と実験の値とで変わりなかったが、ひまわり油のみ、全く違う値と

なってしまった。その理由を今後考えたい。

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実験(4) ガスクロマトブラフィーによる

成分検出

[原理]

気体または気化させた物質を、キャリヤーガ

ス(移動相)とともにカラムを通過させると、充

填剤(固定相)への吸着性や溶解性の違いによっ

て成分の移動速度に差が生じ、各成分が分離

される。試料の注入から検出までの時間(保持

時間)は物質によって一定なので、この性質を

利用して未知試料の同定(定性分析)ができる。

ピークの面積は物質の濃度に比例するので、

ピーク面積を測定することで定量分析もでき

る。このように、移動相として気体を用いる

クロマトグラフィーをガスクロマトグラフィ

ーといい、GC と略記する。またこの分析法の

ための装置をガスクロマトグラフという。

[使用器具]

ガスクロマトブラフ、マイクロシリンジ、試

験管

[使用薬品]

窒素ガス、水素ガス、ヘキサン、軽油、企業

BDF、自作 BDF、ヘキサン+ステアリン酸メ

チル(BDF の主成分といわれている)

[ガスクロマトグラフの設定内容]

CARRIER GAS(N2)・・・5kg/cm2 初期温度・・・100度

上昇温度・・・10度/min

最終温度・・・250度(5分保持)

カラムの種類:キャピラリーカラム

[結果]

以下にそれぞれのガスクロマトグラムを示す。

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図1:ガスクロマトグラム(軽油0.5μL)

図2:ガスクロマトグラム(ヘキサン+ステ

アリンサンメチル5μL)

図3:ガスクロマトグラム(南光 BDF 0.5μ

L)

図4:ガスクロマトグラム(新国産ごま油

BDF 0.5μL)

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図5:クロマトグラム(使用後国産ごま油

BDF 0.5μL)

図 6 : クロ マ トグ ラム ( 新 国産 菜 種油

100%BDF 0.5μL)

図7:クロマトグラム(使用後国産菜種油

100%BDF 0.5μL)

図8:クロマトグラム(新ひまわり油 BDF

0.5μL)

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図9:ガスクロマトグラム(使用後ひまわり

油 BDF 0.5μL)

図10:ガスクロマトグラム(新さらさらキ

ャノーラ油 BDF 0.5μL)

図11:ガスクロマトグラム(新さらさらキ

ャノーラ油+新国産菜種油 100%( 重量比

1:1)0.5μL)

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図12:ガスクロマトグラム(新さらさらキ

ャノーラ油+新国産ごま油(重量比1:1)0.5μL)

図12:ガスクロマトグラム(新さらさらキ

ャノーラ油+新ひまわり油(重量比1:1)0.5μL)

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[考察]

・新しい油を原料とした BDF と使用後の油を

原料とした BDF のガスクロマトグラムを比較

すると、使用後の油を原料とした BDF は小さ

なピークが沢山検出された。

これは、原料の油を揚げ物に使用したため不

純物が混入したのではないかと考えられる。

・BDF の主成分であるとされるステアリン酸

メチルのクロマトグラムは15,006分に大きな

ピークが検出された。

・製造した BDF のクロマトグラムを見ると、

どれも15分付近に大きなピークが検出されて

いるため、ステアリン酸メチルができている

と考えられる。

・企業の BDF と自作 BDF のクロマトグラム

を比較すると、ほぼ同じクロマトグラムが得

られた。よって私たちが製造した BDF は市販

のものとほぼ同等だと考えられる。

[今後の課題]

・実験(2)(3)で測定した酸価・けん化価

が BDF に及ぼす影響を考えたい。

・BDF を製造するにあたって使用する KOH

が、未反応のまま BDF に混入していると、実

際にエンジンに投入した場合、エンジンの劣

化につながる。そのためなるべく KOH を少な

く使用するか、製造した BDF 内の未反応の

KOH をなるべく除去する方法を考えていきた

い。