症状の特異に就いて 昭和十五年仙臺地方に流行せろ...

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49 臨牀實 昭和十五年仙臺地方に 流 症状の特異に就いて 東 北帝 國大學醫學部加藤内科教室 醫學士 Hisinuma Tasuku 流行性磯脊髄膜炎は最近東北地方に於て時々 集團的に小流行を來す以 外に、季節を問はす散發的にも發生す。當加藤内科に收容した流行性 腦脊髄膜炎患者は、昭和十四年七名、十五年一三名であつて、是等の 内昭和十四年末に一名、十五年に至つては一三名中一〇名までに、特 異な症状こして、膀胱障碍ぐと共に下肢の單鍵(Monoplegie) 又は截 擁(Paraplegie )が來り、其等が長期間持續した。斯かる事は本病の從 來の報告には稀な處であつて、昭和十五年仙臺地方に登生した流行性 磯脊髄膜炎の特異な點こ考へ られるから、弦に報告する次第である。 症状の概括 上記特異な症状, こして持續した膀胱障碍を伴ふ下肢の單灘叉は截灘を 起した一一例の本病患者に就いて見るに、年齢は最低七歳最高四四歳 で、内二〇歳以下の 者は八例であつて大部分を占む。性別は男六例、 女五例にして略こ同數である。發病時期は昭和十四年十月仙皇市にて 發病したのが最初であり、それが翌十五年に入つてから二月、三月、 四月、八月及び十月各、一名宛、六月二名、九月は三例で最も多い。 登病地を見るに、大學病院所在の關係もあることこ思はれるが、岩手 縣、福島縣各こ一例の他は宮城縣で、その内仙皇市及び其の隣接町村 が五例を占む。 次に是等の患者に就いて、その症状を概括して述べるく ) 、 ( 一 )症状の全貌 一 般症状は普通の流行性磯脊髄膜炎のそれと何等異なるところはなく、 即ち前驅症状こして輕い頭痛、全身倦怠、悪感等の後に、叉は突然に 烈しい頭痛、悪心、嘔吐拉びに發熱を來し、從つてい つれも頭痛、悪 心、嘔吐、登熱を主訴こして入院し、入院時所見こしては、項部強直 とKernig 氏症歌とは一例に於て入院時輕度陽性であつて入院後四日 目に著明となつ た他は、いつれも初めから著明である。Trousseau 菱沼=昭和 十五 年仙臺地方に 流行せる 流行性腸脊髄膜炎の 症状の 特異に 就いて 四九

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49

昭和十五年仙臺地方に流行せろ流行性腦脊髄膜炎の

症状の特異に就

いて

東北帝國大學醫學部加藤内科教室

Hisinuma Tasu

ku

流行性磯脊髄膜炎は最近東北地方に於て時

々集團的に小流行を來す以

外に、季節を問

はす散發的にも發生す。當加藤内科

に收容

した流行性

腦脊髄膜炎患者

は、昭和十四年七名、十五年

一三名

であつて、是等

内昭和十四年末に

一名、十五年

に至つては

一三名中

一〇名までに、特

異な症状

こして、膀胱障碍

ぐと共

に下肢

の單鍵

(Monoplegie)

は截

(Paraplegie

)が來り、其等が長期間持續

した。斯

かる事は本病の從

の報告には稀な處

であつて、昭和十五年仙臺地方に登生した

流行性

磯脊髄膜炎の特異な點こ考

へられ

るから、弦に報告する次第である。

症状の概括

上記特異な症状

,こして持續した

膀胱障碍を伴ふ下肢

の單灘叉は截灘を

起した

一一例の本病患者に就いて

見るに、年齢は最低七歳最高四四歳

で、内二〇歳以下

の者は八例

であつて大部分

を占む。性別は男六例、

女五例にして略

こ同數

である。

發病時期は

昭和十四年十月仙皇市にて

發病したのが最初であり、それが

翌十五年に入つてから

二月、三月、

四月、八月及び

十月各

一名宛、六月二名、九月は三例

で最も多い。

登病地を見るに、大學病院所在の關係

もあることこ思

はれるが、岩手

縣、福島縣各

こ一例

の他は宮城縣で、その内仙皇市及び

其の隣接町村

が五例を占む。

次に是等

の患者に就

いて、その症状を概括して述べるく)、

(一)症状の全貌

一般症状は普通の流行性磯脊髄膜炎

のそれと何等異なるところはなく、

即ち前驅症状こして

輕い頭痛、全身倦怠、悪感等

の後

に、叉は突然

烈しい頭痛、悪心、嘔吐拉びに發熱を來し、從

つていつれも頭痛、悪

心、嘔吐、登熱

を主訴

こして入院

し、入院時所見

こしては、項部強直

とKernig氏症歌

とは

一例に於て入院時輕度陽性

であつて入院後四日

目に著明とな

つた他

は、いつれも初めから

著明である。Trousseau

菱沼=昭和十五年仙臺地方に流行せる流行性腸脊髄膜炎の症状の特異に就いて

四九

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50

菱沼=昭和十五年仙臺地方に流行せる流行性腰脊髄膜炎の症状の特異に就いて

五〇

症状は六例が陰性五例が著明、意識は溷濁せる者三例、溷濁

はないが

不安状態にして號泣した者が

一例ある。眼症歌として

は同側性複視が

一例、眼球震盪症が二例に見

られた。皮膚知畳過敏を訴

へた者三例、

又口脣

ヘルペスは

三例に於て認

められたのみ。

一例に於ては後遺症と

しての兩側完全聾一を來した。

脳脊髄液は、壓は

一例に於て

一一〇粍なる外

はいつれも多少高く、最

高五〇〇粍最低二三〇粍

であつ乖。外観は殆さ透明に近

いものが二例

なるが、それも

翌日再び穿刺したるに強度漏濁を呈した。他の六例は

薄き牛乳様に漏濁し、三例は輕度

に掴濁し、Nonne-Apelt, Pandy

田、荒等のグ

ロブリン反應総て陽性、蛋白含有量も

著明に増加し、細

胞増加は甚だ著明

にして、中性多核白血球大部分

を占め、いつれの例

に於てもWeichselbau氏墜球菌を證明した。

(二)麻癖症状

一一名

の全症例に就

いて、腦神経

に關しては

一例に於て

一過性

に外旋

神経

の不全麻癖を來して

同側性複視を訴

へ、

一例に於て第四病日來兩

側完全聾を來

した外は、腦神経

の麻癖症歌は認

められないが、

いつれ

一側又は雨側の下肢

の弛緩性麻癖を起

し、同時に膀胱障碍を伴ひ、

それが長期間持續した

のである。

下肢

の蓮動麻癖は

一一例悉く弛緩性麻癖であつて、その内截擁は六例、

の五例はいつれも

左側下肢

の單灘

であつて、單擁が右側に來たれる

例のないことは興味あることと思

はれる。上肢に就

いては、

一例に於

て麻癖を來した

下肢

と同側上肢

に同時に、その程度は下肢に比

すれば

輕度であおが、麻癖を來

し、知覺鈍麻をも伴ひて偏擁の型

をミつ乖も

のがあつたが、上肢

の麻癖は下肢

のそれに比して帳復著

しく紺二ヶ月

後には殆さ正常に戻

つた。その

一例を除

いては他

一〇例いつれも上

には麻癖は認められなかつた。

是等

の麻癖

の現はれた時期は、一一例中七例は第二病日から第

一五病日

迄、即ち最も早く第二病日に現

はれ牝のが

一例、次いで

第三病日が

例、第六病日が

三例、第

一〇病日、第二

五病日が各

≧一例

であり、他

の四例丈が登病數十日後

に現

居り、即ち夫々第二九、五二、六

六、七〇病日に現はれ、而して

此の麻癖は

その登現

の早

い逞いに拘ら

す極めて永く残存し後遺症

ぐ)して残ろ性質であつた。

麻癖の登現歌態を見

るに、比較的徐々に起

るものミ急激に起るものと

.

あつて、前者の場合は初め下肢

の脱力感を訴

へ、次で次第に

下肢

の知

覺鈍麻

と共に蓮動障碍が著明になり、膝蓋腱及

びアヒレス腱反射も潰

失して敷

日にして完全な弛緩性麻癖

εなつたもので、斯

る者は

一一例

中五例(單擁二例、截擁三例)であつて、他の六例(單擁、截擁各

三例)

では比較的急激に起り、

一日にして今迄存在

して居た膝蓋腱及びアヒ

レス腱反射も清失して、完全な弛緩性麻舞

電なつた。

叉六例の截擁に就

いては、兩側殆さ同時に麻癖が現れたのが

二例、別

の二例は二日、

一例は

五日逞れ、残りの

一例は

八日逞れて他側に麻癖

が現はれ、左右時期を異にして麻癖を來し弛

四例申

一例が右側が早く

麻癖し、他

の三例は左側が早く麻癖を起した。

單擁或は截灘いつれの場合に於

ても、麻癖は張度

であつて、伸展、屈

曲、外内方廻轉、廻前、廻後等の蓮動は凡て不可能、出來得たにしても

極めて緩慢且微弱

である。膝蓋腱及びアヒレス腱反射は清失し、同時

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51

に全例に於て腹面にては略

ゝ鼠践

部以下、背面にては略

ゝ腸骨櫛以下、

.即ち脊髄の皮膚知畳支配

の關係より言

ふく)、大體第

一二胸髄以下の領

域に知覧鈍麻が證明

せられた。又單擁の揚合に於

ても、健側下肢の粗

大力は他側が麻癖してより

数日後

には正常に比して

遙に弱くなり且其

の膝蓋腱及びアヒレス腱反射も消失した。

膀胱障碍は下肢

の麻癖の嚢現と略

ゝ同時又は多少前後して起つて居り、

いものは第三病日、選いものは

第七二病日

に現はれ、

いつれも初め

排尿困難を訴

へ、

一雨日して

尿閉

を來した。

一一例中四例

はその程度

強く導尿を行

はねばならす、他は導尿を用ひる迄

ではなかつたが、然

し自然的排尿は不可能であつて

排尿時には怒責

と共

に看護人より膀胱

部を壓迫して貫

ふこくとによつてのみ排尿が可能

であつた。意識溷濁を

來せる三例に於

ても、膀胱障碍は意識の溷濁が輕快乃至清失

した後に

起つたこく)は

注目する可き點であ

る。又いつれに於ても同時に直腸障

碍も存在し、便秘

に悩んで居た。

麻癖症状の経過を見るに、治療として、入院當日より脳脊髄液の排除、

治療血清

の筋肉内叉は腰椎内注入、ズルホンアミド剤

の内服拉

びに腰

椎内注射を行ひ、

一一例中入院後九日にして死亡した

一例を除いては、

流行性腦脊髄膜炎の急性症歌は全治

し、即ち悪心、嘔吐は入院後二乃

至三日にして去り、頭痛も早いも

のは四日、遅いものは四、五日にして

へなくなり、項部強直、Kernig氏症状次で清失し、脳脊髄液も早い

ものは

一〇日、遅くは六〇日

にして水様透明

く)なつた。斯くして總て

の刺戟症歌が去つた後にも

其間に現はれた麻癖症歌は

強く且永く残

一一例中死亡した

一例な除いて麻癖

の轉蹄を述

べると、是等

の麻痺

封してはマヅサージ、平流電氣、ヴィタとンB剤

の皮下及び腰椎内注

射及び沃度加里、変角剤

の投與等種々の療法を行

ひ、極く徐々

ではあ

るが漸次輕快に向ひ、

逐に獨りで

歩行し得

るに至つ弛

者四例あつて、

その内最も輕症

と思はれる

一例に於

ては、膀胱障碍は第四五病日にし

て去り第六

一病日

にして起立竝びに歩行可能

となり、他の三例中二例

は夫々第

一二六病日、第九五病日に至

つて歩行可能

となり、膀胱機能

も夫々第

一三三病日、第二〇四病日に

至り恢復し、残りの

一例に於て

は第

一四八病日にして歩行可能

となつたが、膀胱障碍は依然存在した。

又別

の一例

にては第

一〇二病日

にして扶けをかりて

歩行し得るには至

つたが、膀胱機能

の恢復は不十分

であり、他の五例にては

下肢

の麻癖

は比較的高度

であつて、起坐は辛うじて可能とはなつたが、起立、歩

行は全く不可能

の状態にして

將來運動の恢復は頗る困難と思

はれるも

のであつた。是等五例中二例は夫々第七病日、第三七病日

にして膀胱

機能を恢復したが、他

の三例では膀胱障碍は依然存續

し牝るま

ゝにて

退院した。

上記の様に麻癖症歌は

個々の間では強弱の差

はあるが、

一般に重く且

永續する性質

のものであつた。

二、三の症例

症例

。+、三十入歳。昭和十五年四月二十二日正午頃より悪寒蛇

びに熱感ありて輕い頭痛た訴へ、同日夕刻頃より頭痛の強さた増し、悪心、嘔

吐現はれ、翌朝に至りては頭痛盒く強度ざなり、髄温は三入度五分、全身の倦

怠感高度にして四肢、特に左側上下肢の脱力感た訴

へ、霊ご十四日郎ち登病三

菱沼=昭和十五年仙皇地方に流行せる流行性腰脊髄膜炎の症状の特異に就いて

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52

菱沼=昭和十五年仙臺地方に流行せる流行性腦脊髄膜炎の症状の特異に就いて

五二

に至りて排尿困難あり、同

日午後加藤内科

に入院す。

入院時所見。意識明瞭、瞳孔は兩側稍

く縮小

し且

封光反應も

兩側緩

慢、

眼球露

盪症あり。項部

強直、Kerng氏症

状強度

陽性、Trousseau

氏症状陰性。左

側上

の粗大力は右側

に比し遙

に弱く且左側

上肢

に知覧鈍麻

あり、左側下肢

の諸置

は微弱

且緩慢

で、

同下

肢に著明

の知畳鈍麻

證明す。膝蓋腱反射

爾側特に廊

側微弱、

アキ

レス腱反射も爾側微弱。膿脊髄液

は歴

三九〇粍、強く

潤濁

し、グ

ロブ

ン反鷹轡総て陽性、細胞塘加著明

にして

多籔は中性多染白血球列

氏盤又球蘭

(十)。血液所見は血色素九

三%(Sahli

)、赤血球數

四四〇萬」白血球數入、六〇〇、

その

は中性嗜好性細胞

六七・五%

巴球

ご六・五%

軍核細胞

四・五%

エオジ

嗜好性細胞

一・○%。

輕過。第

四病

E、頭痛、悪

心稽

く輕快。膀胱障碍

は進行

して

尿閉

となり、

より導尿々行

ふ。第

五病

日、左側

下肢

は完全に

弛緩性に麻癖

し、伸展、屈曲

ぜ不

可能

で同側

の足趾の運動も極

めて微

弱。膝蓋腱及

アキン

ス腱反射爾側

清失。第

一一病

日、項

部強直、kering氏症

状著しく輕快

し、膿脊髄液

は魅

ニ○

○粍、

輕度

に溷

し、

キサ

ンとク

ロミーた

呈し、細胞敷

は三分

の六三六。左側

上下肢

の蓮動障碍

には攣

化なく、依然尿閉

ありて導尿

た績行

す。第

一入病日、#

上肢

の蓮動障

碍は著しく

輕快し、左側下肢も

伸展、屈曲、内外方廻轉等

の諸

運動微

弱で

はあるが

可能

ざな

る。依然尿閉

、導

尿

た用ふ。第

三九病日、項部賜

直、kering氏症状陰性。腦脊髄液は壓

一二

〇粍、水様透明

ざなり、細胞敷

はご

の六五、殆

さ淋

巴球

のみ

ざなる。第

四八病

日、膀胱障碍も

輕快し、膀胱部に

壓迫

た加

ふるこ

とによ

つて

排尿可能

どなり、左側上肢

の運動障碍は極く輕度に

存す。第

五六病

日、排尿時上

記の手段

にて排尿

せしめ、導尿々中止す。左

側上

の蓮

動は殆

ぜ正常

ビなり、そ

の部

の知畳鈍麻も

清失

し、左側下肢

の麻

痺蛇び

に知覧鈍麻も漸

次輕快

す。第一時六

病日、左側下肢

の知覧

鈍麻消

失し、他人

けなくして

歩行可能

ざな

る。第一三三ご病日、膀胱障碍も著

く輕快

し、排尿

は怒責

た用

ふる

のみで可能

となり退

院す。

二。

♂、

一四歳。昭

和十五年

六月

二十九日午後熱感

あり、

體温

八度五分。

翌朝に至り

全身倦怠感、頭

痛並びに悪

た訴

へ、同

日午後頭痛烈

く、登病三日目に兩

側の

難聴た來

し、

同日嘔吐頻繁、水様物嘔吐約

二○回

に津

し、第四病

日に於て

兩側

の完全聾

た來し、頭

痛、嘔吐た主訴

として第五病日入

院す。

入院時所見。

意識

溷濁

く、

孔爾側稽

小、

封光反鷹迅速。

部強直、

Kernig氏症状強度陽性、又Brudzinski

氏竝

びにTrousseau

氏症

状陽性。膝

腱及びア

キレス腱反射

兩側微弱、四肢

の蓮動障碍は未だ認

められす。

腰脊髄

は壓

二九〇粍、薄き乳様に潤濁し、

ロブ

リン反應総て

陽性、細胞増加著明、

中性多

核白血球大多数

た占

む。列氏雙球菌

(十)。

血液は血色素八

二%、(Sahli)、

赤血球數四

三ご萬、白血球敷

一、八○

○、

の像は中性嗜好性細胞

六九・○

%

淋巴球

ご五・五%軍

核細胞

四・三%

エオジ

ン嗜

好性細胞

一・ご%。

経過。入院し肇日

の夕刻

より排尿困難々來

し、翌第

六病日

の朝

に至り左

側下肢

は念激に弛緩性に麻癖

し、足竝びに趾

に至

るまで

く蓮動不可能

になり、

同時

に膝蓋腱及び

アキレス腱反射爾側清失

し、麻癖側下肢

に知魔鈍麻

た證明す。第

入病日、

膀胱障碍は進行し完

全な尿閉

ビなり、導尿

た行

ふ。第

一二病

日、項

強直著しく輕快

し、贋脊髄液

は透明

るも、

キサ

ン塾ク

ロミーた

呈し、細胞数

三分

のこ五七、多

くは淋

巴球

ざなる。蓮

動麻癖、膀

胱障碍

には攣化

なし。

五〇病日、

下肢

の麻癖

は稽

く輕侠

し、伸展、屈曲

は極く僅

かながら

可能

とな

る。

五五病

日、項部強直、Kernig氏症状陰性。第入四病

日、下

の麻癖

は可成り

輕快

し、膀

胱庶癖も少

しく輕快し、排尿は初め怒責

によ

つて行

ふご

ビ可能

とな

ゐも、膀

胱にれ

まれ

る尿

の大部分

はそ

の後に膀胱部

への壓迫

によ

つて排出す

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53

程度でみる。第

一〇ご病日、歩

行は物に

りかま

つて可能となり退

院す。

例三。

♀、

七歳。

昭和十五年

入月入日

午後四時頃頭

痛、悪寒

を訴

へ、嘔吐三同あり。

髄温は午後九時

には

四〇度

二分

に達し、夜

入り

て頭痛烈

しくなり、翌日午後意識稽

く溷濁し同日午後七時入院す。

入院時所見。意識稍

く溷濁し、瞳

孔兩側大

きさ正常

なるも、封光反應

は著

しく

鈍。上口唇に

ヘルペ

スた認め、項部強直、Kering

氏症状強陽性、Trousseau

氏症

状も陽性、全身

に知畳過敏

あり。膝蓋腱

反射は左側充

進右側

正常、

腱甲反射

左側

亢進

右側微弱。Babinski

氏症状左側陽性、

膿脊髄

液は壓

ご三

〇粍、薄き乳様

に溷濁し、

ロブ

ロソ反應

陽性、細胞増加著

しく、中性多

核白

血球大多敷た占む。

ワ氏雙

球菌(十)。血液は血色素

一〇

五%、

(Sahli)、赤

血球

五九五萬、白血珠

二入、○○○

に達

し、

その

百分率は中性嗜好細胞

七入・○%

淋巴球

一五・○%

軍核

細胞

五・○

%

エオジ

ン嗜好性細胞

二・○%

で、中性嗜好性

細胞増加

芝共に比較的淋巴球減少た認む。

経過。入院後直に腰椎穿刺た行

つれが、そ

の後間もな

く呼吸停

止し假死

の状態

に昭り、人

工呼吸、強

心剤

の注射等

た行

び、約

十分後呼吸

し得

るに

至り、意識

は全く溷濁

しれが、翌日午前

一時頃より稍

く明瞭

ざな

る。時

々譫妄

あり、水様

物數同嘔吐す。同日師

ち第

三病日

に於

左側

下肢

は弛緩性

に麻癖

し、同時

に同

の充進

せる膝蓋腱及

アキレメ腱反射清失し、他側のそれは

充進た示す。第

四病

日、意識盒

く明瞭

ビなり

嘔吐輕減

じれが、頭痛た強く訴

ふ。左側下肢

の蓮

は極

めて

微弱、且知覧鈍麻

た認む。第

五病日、意識

全く明瞭

芝な

るも、膀胱

碍現

はれ、自然的排尿

は不可能

にして、看護人から膀胱部た墜

して貰

ふご

ぜによ

つてのみ

排尿す。叉右側

下肢も知魔鈍麻

た伴

つて

弛緩性

に麻癖

し、

諸蓮

動は殆さ不

可能になり、同時に充進

して居れ右側

の膝蓋腱及

びアキ

レス腱反射

も清失しれ。第二七病甘

、贋脊髄液は歴

一入○粍、水檬透明

定なり、

細胞激

三分の一入入、殆さ淋巴球のみとなる。第三四病日、Kernig

氏症状は陰性なる

も、項部強直は倫弱陽性。右側下肢の蓮動障碍は、左側に比して恢復はやく、

諸蓮動は不十分ではあるが可能ざなる。膀胱障碍は依然存し、自然的排尿不可

能。第四四病日、項部強直消失。第六ご病日、漸次爾側下肢の麻癖は輕減し、

殊に右側は左側よりも輕快し、知畳障碍も爾側殆ぜ清失す。第七九病日、起坐

可能。第九五病日、濁りでの歩行可能ざなり、叉膀胱障碍も輕快し、排尿の初

怒責によつて自然的排尿可能となる。第一○四病日.自然的排尿

可能と

期には怒責にょつく,自然酌排尿可髄と

る。第

一○匹病自然虐的排尿可能

なり、又歩行もより迅速

ざなる。第

一一四病日、退院す。但し左側の足及び趾

の運動は未だ極あて微弱である。

文献的考察

流行性磯脊髄膜炎

の麻癖症歌中、四肢

の運動麻癖は比較的多くなく、而

も上記の諸例の如く永續

せる膀胱障碍を件つた

下肢

の完全な蓮動麻癖

の報告は極めて少

い。

Flexner(1)

一、三〇〇名の多数の本病患者を観察して、眞の蓮動麻癖は

少數

に起り、且永久的のものは稀

であつたぐ)述べ、Walder(2)

②は四〇例

一一例に於て帳復期に数週乃至數

ヶ月間存續した

雨下肢

の不全麻癖

を、Goypert(3)

は末期に起

つた四肢の弛緩性麻癖の二例を、Gruber及

びKerschensteiner(4

は二例の雨下肢

の不全麻癖を、Morawitz(5

は五九

例中

一過性の膀胱庶癖

の六例と左側下肢の不全麻癖の

一例を、Stoffel

一八例中

一例が脊髄膜の胸髄癒著による結果ぐ)して

雨下肢の不全麻

癖と尿尿失禁とを來

したることを報告し、Parmelee(7)

のは二三〇例中尿

閉を

一例に裁擁と偏擁を六例

に見、Smithbu, Kempe, Zefras

及び

Gilman(8)

一四四例

の観察では偏廃を二例に見、内

一例は第二週に

菱沼=1昭和十五年臺仙地方に流行せる流行性腦脊髄膜炎の症状の特異に就いて

五三

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菱沼=昭和十五年仙臺地方に流行せる流行性腦脊髄膜炎の症状の特異に就いて,

五四

起り後には此の麻癖は全治し、内

一例は第四週に起り後迄も消失せす、

下肢

の蔵灘は三例に見、内

一例

には第

一週に、他の

二例には第五週に

現はれた。又單羅は

一例あつて

第五週に現はれたと云ひ、尚尿閉は二

五・○%に見たと云ふ。更に其後Kempe, Gil

man及びZerfas(9)

二ご例を観察

したが、膀胱症状

は総て昏迷或は昏睡状態の時

にのみ見

.られ、上肢の單擁及び截灘は僅

かに各

迄一例宛にのみ

見たと云ふ。又

JOSEPHINE. jackson

及びAppelbaume(10)

は本病の三三七例の観察に就

いては、右側上肢及び

右側下肢

の庶癖が

ゝ一例、左側上下肢の麻癖

一例にあり、余の症例の様に膀胱直腸障碍を件つた

雨下肢

の麻癖は

一例で、之は恢復期に起

り、氏等は横断性脊髄炎

であるく)云ひ、脱

落症状の多くは

疾患の急性期の間

に登達して炎症過程

の直接の結果で

あるく)述べて居ろ。

次に本邦に於ける報告を見

ると、古川(11)

は大正八年駒込病院

に入院し

牝流行性磯脊髄膜炎患者二

一例中四肢

の麻癖は只

一例

であつて、是は

右側の上下肢に麻癖を來したが

本病の治癒と共に運動も自由

ぐ)なつた

と云ひ、高階(12)

は本症の

四四例中下肢の運動障碍

一例、右上肢

の運動

障碍

一例を、森(13)

一五例中雨側下肢の弛緩性麻癖

一例を、惣中(14)

は七

一例中五例に於て

四肢

の麻癖を認

めたと云ふ。又鈴木(15)

は本病の三四

例を観察し、麻癖

本病の極期

に現

はれたものがあるが少數で、恢復

に入つて治癒し牝

上肢

の不全運動麻痺三例を報告

し、術上記症例と

同様な

一例を述

べて居る。此の例は登病第四日に現出し弛

知畳減退の

膀胱、直腸障碍を伴つ弛

雨下肢

の完全運動麻癖で、輕快

の徴

なく後遺

症として残つ旗のである。

上記の文獣的考察

にて明

かである様に、余の症例に於ける如き下肢

單擁又は截擁

と膀胱障碍が長期間に亙

つて高度に存續

し牝ものが、同

時に大多數

に出現したことは從來の報告にあまりない塵

であつて、昭

和十五年仙臺地方に登生した流行性脳脊髄膜炎の特異な症歌

と考

べら

れる。是等はいつれも腦脊髄液にWeicheslbaum氏

鍵球菌を證明し、

其他急性期に於て

定型的な腦脊髄膜炎の症状を表

はして居る。急性脊

髄前角炎で時

々浦脳膜炎症歌を件

ひつつ、斯る戴灘を起

すものがあり、

Netter及びDebre(16)

が指摘

し弛様に、曾ては病源菌を證明

すること

なしに、此

の疾患を流行性腦脊髄膜炎

として記載

したものもあるが、

.余の症例では著明な膀胱障碍と

知寛障碍を俘ひ、

且腦脊髄液内の病源

菌其他

から見ても、急性脊髄前角炎く)は全然無關係

のものであろ。

今斯る症状の成因を考察

して見るに、Giooert(3)

は下肢

の裁擁

は磯或

は脊髄實質

には攣化を見出

さすして、之を慢性脊髄膜炎

によるもので

あるく)云ひ、gruber及びKerschensteiner(4)

は脊権管が下方

の腰薦

部で閉塞

して

居た非常

に強い脊髄膜炎を検證した

例を述べて

居る。

Strumpell(17)

は同様な尿閉を件

つた下肢

の裁擁で

脊髄實質も亦強く

かされたのを

證明し、Bowing(18)

は意識明瞭な時

に存

した尿閉

一例

を観察

して、之を腰髄

の上部

の膀胱、抑制紳繹繊維の刺戟に蹄

した。.又

既述の様にJosephine, Jackson

及びAppelbaum(10

の例と同様

一例を塞げ、

之を横断性脊髄炎なりと考

へて居る。余

の例に於ける

麻癖症状は特に腰薦部に随發した

脊髄炎症状な軌と考

へられ、即ち此

の昭和十五年仙皇地方に登生した流行性腦脊髄膜炎の大多敷に於ては、

脊髄膜

と共に脊髄實質も張く侵かされたものと解

せられ、此の點が甚

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だ興味

あるものと思はれる。勿論既述の如く総ての例に於て

宅Weich-

selbaum氏隻球菌を證明し牝のである。

東北帝大加藤内科

に入院し、「いつれも磯脊髄液に

芝weichselbaum

隻球菌を證明した」流行性磯脊髄膜

炎患者で、昭和十四年に七例中

一例、

十五年に

一三例中

一〇例に於

て、長期間持績せる膀胱障碍を件ふ下肢

の單擁或は截羅が登現し、之を仙壼地方に獲生した

流行性磯脊髄膜炎

の特異な症状であると考

へ、その臨林的観察を弦に報告

し、その成因

に就いての考察を加

へた。

1) Flexner, J. Exp. Med., Vol.7. No.5. p.553. 1913. 2)

Walder,Correspondenzbl. f. Schweiz. Aerzte, 1906. Nr. 2. S. 33. 3

) Goppert,

Ergebn

. d. inn. Med. u. Kinderheilk., Bd. 4. S. 165. 1909. 4) Gru

ber u

.

Kerschensteiner, ditto, Bd. 15. S. 413. 1917. 5) Morawitz, Hdb. d. i

nn.

Med., 3. Aufl., Bd. I, S. 641. 1934. 6) Stoffel, Dtsch. Arch. f. kl.

Me

d.,

Bd

. 185. S. 113. 1940. 7) Parmelee, J. Amer. Med. Assoc., Vol.60

p.

659. 1913. 8) Smithburn, Kempe, Zerfas and Gilman, ditto, Vol.9

5

p.776.1930. 9) Kempe, Gilman and Zerfas, Arch. Neurol. & Psych.,

Vol.

29.p.433. 1933. 10) Josephine, Jackson and Appelbaum, J. Amer.

MedAsso

c., Vol.87. p.1992. 1926.11) 古川, 東京市駒込病院第12囘報告. 4

2

. 大正9. 12) 高階, 臨牀小兒雑誌. 1年. 1號. 125頁. 昭和2. 13)

森.

本傳染病學會雑誌. 3巻. 1149頁. 昭和4. 14) 惣中, 臨牀小見科

.

1

0

年. 9號. 839頁. 昭和11. 15) 鈴木, 軍醫團雜誌. 81號. 827頁.

大正7.

1

6) Netteret Debre, Zit. n. KnOpfelmacher, Spez. Pathol. u. Therap.

in

n.

Krht., Bd. 2. Teil 2. S. 72. 1919. 17) Striimyell, Dtsch. Arch. f.

k

l.

Med, Bd. 30. S. 500. 1882. 18) Bowing, Munch. med. Wschr., 1924

. S.

644.

菱沼=昭和十五年仙臺地方に流行せる流行性腦脊髄膜炎の症状の特異に就いて

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