相続税の 土 地 評 価 ⑧ · 2019-02-06 · 2 第7章 雑種地の評価...

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平成 30 11 15 基 礎 編 相続税の 土 地 評 価 ⑧ ~ゼロから学ぶ初心者向け土地評価~ 税理士 風 岡 範 哉

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平成 30 年 11 月 15 日

基 礎 編

相続税の

土 地 評 価 ⑧

~ゼロから学ぶ初心者向け土地評価~

税理士 風 岡 範 哉

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<第8回目 目次>

第7章 雑種地の評価

1.雑種地の評価

2.貸し付けられている雑種地の評価

第 8 章 特殊な土地の評価

1.マンション敷地の評価

2.庭内神しの敷地の評価

3.利用価値が著しく低下している宅地の評価

研修教材として実際の資料を使用していますが、研修内容をイメージしやすくするため

に示すものですので、無断転載・コピーはご遠慮ください。

また講師が所属する税理士法人の顧客情報とは関係はありません。

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第7章 雑種地の評価

1.雑種地の評価

1 雑種地の評価

雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地の価額を基と

し、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価します。これを

近傍地比準方式といいます。

路線価地域にある雑種地については、市街化区域であっても市街化調整区域であって

も路線価方式により評価を行います。

市街化区域かつ倍率地域にある場合は、宅地として評価します。

問題は、市街化調整区域で倍率地域の場合です。倍率表をみても倍率がありません。

路線価地域 倍率地域

市街化区域 路線価方式 宅地として倍率方式

市街化調整区域 路線価方式 近傍地比準方式

(宅地 or 農地等に比準)

2 市街化調整区域の雑種地の評価

(1)評価の方法

市街化調整区域内にある雑種地(ゴルフ場用地、遊園地等用地、鉄軌道用地を除きます。)

の評価を行う際には、まず状況が類似する土地(地目)の判定を行います。

この場合には、評価対象地の周囲の状況に応じて、下表により判定することになります。

また、付近の宅地の価額を基として評価する場合(宅地比準)におけるしんしゃく割合(減

価率)は、下表のしんしゃく割合によっても差し支えないとされています。

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(注)1 農地等の価額を基として評価する場合で、評価対象地が資材置場、駐車場等として利

用されているときは、その土地の価額は、原則として、財産評価基本通達 24-5(農業

用施設用地の評価)に準じて農地等の価額に造成費相当額を加算した価額により評価

します(ただし、その価額は宅地の価額を基として評価した価額を上回らないことに留

意してください。)。

2 ③の地域は、線引き後に沿道サービス施設が建設される可能性のある土地(都市計画

法第 34 条第 9 号、第 43 条第 2 項)や、線引き後に日常生活に必要な物品の小売業等

の店舗として開発又は建築される可能性のある土地(都市計画法第 34 条第 1 号、第 43

条第 2 項)の存する地域をいいます。

3 都市計画法第 34 条第 11 号に規定する区域内については、上記の表によらず、個別に

判定します。

(出典)国税庁質疑応答事例「市街化調整区域内にある雑種地の評価」

(2)比準地目の判定

まず、評価対象地の周囲の状況に応じて、状況が類似する地目の判定をします。

土地の価額は、一般的に周辺の標準的な使用状況の影響を受けることから、評価対象

地である雑種地と状況が類似する付近の土地(地目)に比準して評価します。

そのため、比準地目の判定にあたっては、評価対象地の周囲の状況を十分考慮して判定

することが必要です。

(イ)農地(山林)比準方式

評価対象地である雑種地の周囲が、純農地、純山林、純原野である場合には、これらの土

地は各々宅地化の期待益を含まない土地であるため、その雑種地を評価するに当たっては、

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付近の純農地、純山林又は純原野の価額を基として評価します。

(ロ)宅地比準方式

評価対象地である雑種地が幹線道路沿いや市街化区域との境界付近に所在する場合には、

その付近に宅地が存在していることも多く、用途制限等があるにしても宅地化の可能性が

あることから、付近の宅地の価額を基として評価します。

(3)宅地比準方式におけるしんしゃく割合の判定

市街化調整区域内の雑種地を付近の宅地の価額を基として評価する場合の「しんしゃく

割合」については、次のとおりです。

(イ)斟酌割合 50%のケース

一般的な市街化調整区域内の雑種地が存する地域においては、原則として、建物の建築が

禁止されている区域であることなどを考慮すると、上記の家屋の建築が全くできない場合

の減価率 50%を「しんしゃく割合」とします。

(ロ)斟酌割合 30%のケース

幹線道路沿いや市街化区域との境界付近のように、市街化の影響度が強く、有効利用度が

高い雑種地の占める割合が高い地域(市街化調整区域内ではあるが、法的規制が比較的緩や

かであり、店舗等の建築であれば可能なケースも多い地域)においては、原則として、家屋

の構造、用途等に制限を受ける場合の減価率 30%を「しんしゃく割合」とするのが相当と

考えられています。

ここでいう店舗とは、沿道サービス施設(都市計画法第 34 条第 9 号)や、日常生活に必

要な物品の小売業等の店舗(都市計画法第 34 条第 1 号)のことをいいます。

(ハ)斟酌割合0%のケース

判定表②の地域のうち、例えば、周囲に郊外型店舗等が建ち並び、雑種地であっても宅地

価格と同等の取引が行われている実態があると認められる場合には、しんしゃく割合 0%と

します。

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3 役所調査のポイント

市街化調整区域における雑種地の役所調査のポイントは、建物の建築可能性の調査です。

1 号店舗や 9 号店舗が建築可能か、11 号区域に該当するかを調べます。

1 号店舗とは、市街化調整区域における住民の日常生活のための販売等を行う店舗のこと

をいいます。

9号店舗とは、幹線道路沿いの沿道サービス施設(例えばドライブインやガソリンスタン

ド等)のことをいいます。基本的に、国道や県道といった幅員の広い幹線道路に面する土地

でなければ建設を認めないとする自治体が多い。

また、都市計画法第 34 条第 11 号の区域とは、市街化調整区域内の既存の集落において、

一定の道路や排水先が存在する区域について、町長が県知事に申出を行い、県から告示、指

定を受けた区域のことをいいます。

なお、一般の住宅については、市街化区域と市街化調整区域が線引きされた昭和 45 年都

市計画法制定以前から建物が存する宅地(既存不適格)については建替・建築を認められる

可能性が高いですが、そもそも地目が雑種地である場合には建築を認めないとする自治体

が多いです。

【コメント】

市街化調整区域の雑種地の評価において、実務上最も判断が難しいのが斟酌割合の判定

です。

家屋の建築がまったくできない場合は 50%減であり、幹線道路沿いの沿道サービス施設

や小売業の店舗が建築できる可能性がある場合は 30%減です。

自治体によっては、市街化調整区域であるため建築制限が不可のところもあれば、比較的

家屋建築に弾力的なところもある。

沿道サービス施設については、一般的に、条例で指定する道路幅員以上の国道または県道

に接しなければ建築はできないなどの立地基準があるため判断は比較的容易にできます。

問題は小売業の店舗は各自治体の条例によって建築の可否が定められており各自治体の

取り扱い次第となります。そのため建築可能性を市区町村等の窓口で詳細に確認しなけれ

ばなりません。

4 画地補正率

雑種地が倍率地域に存する場合には、地区区分の定めがありません。

そこで、普通住宅地区にあるものとして画地補正率の算定を行います(鈴木喜雄『土地評

価の実務(平成 28 年版)』大蔵財務協会〔2016 年〕426 頁)。

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5 しんしゃく割合と他の規定との重複適用の可否

(1)宅地造成費の控除が可能

雑種地の宅地比準方式は、比準地の価額を基として、比準地と評価対象地との位置、形状

等の条件の差を考慮して、比準地の価額を基礎とした評価対象地の価額を求めます。

さらに、宅地造成費相当額を控除する必要があればこれを控除して評価します。判定表②

のしんしゃく割合を控除したあと宅地造成費を控除して評価します(平成 12 年 12 月 21 日

裁決〔裁決事例集 60 巻 522 頁〕)。

(2)旧広大地補正率と建築制限に対する評価減との重複適用はできない

旧広大地補正を必要とする雑種地について、建築制限に対する評価減(50%)と旧広大地

補正は重複適用できないとされています。

なぜなら、旧広大地補正率は、土地を宅地に開発する場合に生じ得る費用であるのに対し

都市計画法に基づく利用制限は、比準地である宅地との位置、形状等の条件の差を 50%と

考慮した上で宅地の状況に類似した雑種地の価額を評価したものですから、これからさら

に宅地として利用されることを前提とした場合の減価要素を考慮することは、減価要素を

二重に考慮することになるからです(平成 12 年 12 月 21 日裁決〔裁決事例集 60 巻 522

頁〕)。

(3)無道路地と建築制限に対する評価減との重複適用はできない

無道路である雑種地について、建築制限に対する評価減(50%)と無道路地補正も重複適

用できないとされています。

なぜなら、無道路地の評価(評価通達 20-2)は、そもそも建築制限による減価であるとこ

ろ、無道路地として評価した価額から、更に建築制限による 50%の減価をすると、建築制

限による減価を二重に行うこととなり不相当となるからです(平成 19 年 6 月 22 日裁決

〔TAINS・F0-3-319〕)。

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Step1 机上調査

評価対象地は、市街化調整区域(下記住宅地図の西南地区)に所在しています。

現況駐車場として利用されていおり、地積は 750 ㎡です。

<住宅地図>

<都市計画図>

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Step2 現地調査

西南地域の市街化調整区域の航空写真

市街化調整区域においても既存の住宅が多いといえます。

Step3 役所調査

①評価対象地における建物の建築可能性を調べます。

☑都市計画法第 34 条第 1 号の店舗(いわゆる 1 号店舗)は建築可能か

☑都市計画法第 34 条第 9 号の店舗(いわゆる 9 号店舗)は建築可能か

☑都市計画法第 34 条第 11 号の区域(いわゆる 11 号区域)は建築可能か

☑居住用建物の建築は可能か 今回は、1 号店舗の建築は、(役所としては建築申請がなされた案件を個別に判断して

いるため、申請してみなければ許可がおりるかわかりませんが)建築できる可能性はある

とのことでした。 ②土地の所在する市区町村の資産税課に近傍地の単価を確認します。

宅地比準方式によるのであれば近傍宅地単価、農地比準方式によるのであれば近傍田

(又は畑)単価、原野比準方式によるのであれば近傍原野単価を確認します。

Step4 評価

今回は、宅地比準方式により評価します。

①まず、近傍宅地単価に基づいて、路線価に相当する金額を算出します。

②普通住宅地区にあるものとして各種補正を行います。

③市街化調整区域の雑種地専用の評価明細書はないため、通常の土地評価明細書を用い

て作成します。

④最後に、しんしゃく割合を考慮します。

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2.貸し付けられている雑種地の評価

1 賃借権の評価

(1)賃借権の区分

雑種地における賃借権は、登記の有無、権利金の多寡、現実の利用状況等によって 2 種

類に区分されています。

①堅固な構築物の所有を目的とするといった地上権に準ずる賃借権(地上権的賃借権)と、

②地上権的賃借権以外の賃借権です。

地上権的賃借権には、例えば、賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金

その他の一時金の授受のあるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなどが該当しま

す。例えば、バッティングセンターの構築物は堅固な建物に該当し、地上権的賃借権に該当

するとされています(平成 12 年 6 月 27 日裁決〔裁決事例集 59 巻 332 頁〕)。

一方、地上権的賃借権以外の賃借権には、例えば、土地の利用がアスファルト舗装の構築

物であるものや撤去が容易なプレハブ式建物である場合がこれに該当します。

イ.地上権に準ずる賃借権・・・

ロ.地上権に準ずる賃借権・・・

以外の賃借権

例えば

・賃借権の登記がされているもの

・権利金その他の一時金の収受がある

・堅固な建物の所有目的

イに該当する賃借権以外のもの

賃借権

雑種地の賃借権の価額は、原則として、その賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案

して評価しますが、次のように評価することができます。

① 地上権的賃借権

雑種地の自用地価額×法定地上権割合(※)と借地権割合とのいずれか低い割合

② ①以外の賃借権

雑種地の自用地価額×法定地上権割合×1/2

※法定地上権割合とは、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される相続税法第

23 条に定められた割合をいいます。

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2 貸し付けられている雑種地の評価

(1)地上権的賃借権の目的となっている雑種地の評価

賃借権の目的となっている雑種地の価額は、原則として、自用地価額から、財産評価基本

通達 87 に定める賃借権を控除します。

ただし、当該賃借権の価額が、次に掲げる残存期間に応じた賃借権の区分に従いそれ

ぞれ次に掲げる金額を下回る場合には、自用地価額から次に掲げる金額を控除して評価

を行います(財評通 86)。

残存期間が 5 年以下のもの 100 分の 5

残存期間が 5 年を超え 10 年以下のもの 100 分の 10

残存期間が 10 年を超え 15 年以下のもの 100 分の 15

残存期間が 15 年を超えるもの 100 分の 20

控除する割合を算式に示すと以下の通りです。

(算式)

①自用地価額 × 法定地上権割合と借地権割合とのいずれか低い方

②評価通達 86 の但書に定める割合

③①の価額が②の金額を下回る場合には②による。

(2)賃借権の評価

雑種地の賃借権の価額は、原則として、その賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案

して評価しますが、次のように評価することができます。

①法定地上権割合

②借地権割合

①と②のいずれか低い割合

(3)地上権的賃借権以外の賃借権

上記地上権的賃借権以外の賃借権については、当該割合の 2分の 1 に相当する金額

を控除して評価を行います。

<設例1>

雑種地の賃貸借における評価の例を示すと以下の通りです。

残存期間 30 年、借地権割合 70%、地上権的賃借権

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底地 賃借権

①40%<70% →40%

②20%

∴①>②につき 40%

(①財評通 87 が②同 86 を上回る)

底地の評価=(1-40%)=60%

①40%

②70%

∴①<②につき 40%

賃借権の評価=40%

<設例2>

雑種地の賃貸借における評価の例を示すと以下の通りです。

残存期間 10 年、借地権割合 60%、地上権的賃借権

底地 賃借権

①5%<60% →5%

②10%

∴①<②につき 10%

(①財評通 87 が②同 86 を下回る)

底地の評価=(1-10%)=90%

①5%

②60%

∴①<②につき 5%

賃借権の評価=5%

【コメント】

設例2のように、賃借人の賃借権評価と地主の底地評価が足して1にはならないこ

とに注意が必要です。

3 賃貸借の残存期間の算定

賃借権の残存期間は、原則として、相続開始日時点から、その賃貸借契約書に記載のある

契約期間の満了日までの年月で残存契約期間を算定することとなります。

ただし、例外として以下のような算定の方法もあります。

(1)契約期間の定めのないものとされた事例

平成 4 年 3 月 31 日裁決〔裁決事例集 43 巻 369 頁〕における賃貸借契約は、契約期間が

平成元年 4 月 1 日から平成 4 年 3 月 31 日までの間とされており、相続開始時点(平成元年

12 月 21 日)での残存期間は 2 年 4 か月でした。

裁決では、本件の賃貸借期間については、①過去 30 年近くにわたって継続されてきたこ

と、②賃貸先は県公安委員会指定の法人であり公共性が極めて高いこと、③本件土地は当初

からその法人の教習コースとして事業の用に使用されていること、④本件土地の位置が教

習コースのほぼ中央にあって、その利用価値は極めて高いと認められることから、契約上、

その賃貸借期間は3年とはいえ将来にわたり更新されることが予想され、長期間にわたる

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ものと認められるので、事実上、残存期間の定めのないものと認めるのが相当とされていま

す。

(2)民法の最長期間 20 年とされた事例

仙台地裁平成 17 年 3 月 24 判決〔税務訴訟資料 255 号順号 9971〕における賃貸借契約

は、契約日が平成 3 年 7 月 1 日ですが、契約期間の情報が見当たらないため、相続開始時

点(平成 9 年 9 月 17 日)での残存期間は不明です。

判決では、契約期間の定めのないものについては、賃借権の存続期間が民法 604 条によ

り最長 20 年と定められており、相続開始時点において、20 年を超えて契約を継続すべき特

段の事情は存在しないと認められない場合においては、賃借期間の定めのない土地につい

ても 20 年とすべきとされています。

(3)同じ更新年分で更新されるものとされた事例

平成 17 年 5 月 17 日裁決〔裁決事例集 69 巻 264 頁〕における賃貸借契約は、契約期間

が平成 9 年 8 月 1 日から平成 12 年 7 月 31 日までの間とされており、相続開始時点(平成

12 年 5 月 28 日)での残存期間は 2 か月でした。

裁決では、本件の賃貸借契約については、契約の更新をしない場合には、終了の 6 か月前

にその旨を通知しなければならないとされているが、本件相続開始日現在では、契約を更新

しない旨の通知がされた事実はないことから、本件賃貸借契約に記載のある満 5 年という

原則的な期間で更新されるものと考えられ、残存期間は平成 17 年 7 月 31 日までの約 5 年

2 か月と認めるのが相当とされています。

(4)残り 1 年で契約終了といえるため残存期間 1 年とされた事例

平成 22 年 11 月 24 日裁決〔TAINS・F0-3-268〕における賃貸借契約は、契約期間が平成

12 年 2 月 1 日から平成 14 年 1 月 31 日までの間とされており、相続開始時点(平成○年○

月○日)での残存期間は不明です。

裁決では、賃貸借の当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解

約の申し入れをすることができ、その申し入れから1年の経過により契約は終了し得るも

のといえるから(民法 617)、残存期間が 5 年以下のものであるとして算定するのが相当と

されています。

4 臨時的な使用に係る賃借権の評価

臨時的な使用に係る賃借権及び賃貸借期間が 1 年以下の賃借権については、その経済

的価値が極めて小さいものと考えられることから自用地として評価します。

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Step1 机上調査

評価対象地は、第三者である法人へコインパーキングとして貸されています。

土地の総地積は 350 ㎡。市街化区域の路線価地域に所在します。

<住宅地図>

貸借契約の内容は以下の通りです。

契約期間 平成 20 年 1 月 1 日~平成 22 年 12 月 31 日(3 年間)

使用の目的 駐車場

賃料 金 50,000 円(月額)

相続開始日は平成 21 年 10 月 1 日、契約残存期間は 1 年 3 ヶ月です。

Step2 現地調査

土地の使用目的が簡易的なものであるか否かを確認します。

Step3 役所調査

役所で調べることは特にありません。

Step4 評価

相続開始時における残存期間は 5 年未満であるため、これに対応する賃借権の割合は

5%となります。また、今回の賃借権は、地上権に準ずる賃借権以外のものに該当するた

め、5%の 2 分の1を控除します。

4-3

<公図>

タイムズ

パーキング

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第 8 章 特殊な土地の評価

1.マンション敷地の評価

1 区分所有マンションの評価

(1)マンション敷地の評価

通常、分譲マンションの敷地に供されている宅地で、その宅地が多数の者により共有

されている場合には、その敷地全体を評価した価額にその所有者の持分割合を乗じて評

価します。

(2)マンション敷地内の公衆施設の非課税

分譲マンション等の敷地内に公園、道路等の公衆化している施設の用に供されている

宅地が多く含まれていて、建物の専有面積に対する共有部分に応ずる敷地面積が広大と

なるため、通常の評価方法によることが著しく不適当であると認められる場合には、そ

の公衆化している道路等の施設の用に供されている宅地部分を除いて評価して差し支

えないとされています。

なぜなら、分譲マンションは、特色として、マンション敷地の規模が大きいことに加

えて、団地内の道路、公園、集会場等の公衆化している敷地部分の面積も大きいことか

ら、共有部分に応ずる敷地面積が大きくなり、結果として、評価通達にしたがって評価

した場合には不合理な結果になることも想定されるからです。

マンション A棟

マンション B棟

公衆化している道路

(公衆)

公園

公道

公道

マンション用地の地積:

の全体地積から、公衆化し

ている道路、公園の地積を除外す

る。

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2 複数の敷地にまたがるマンションの場合

複数の敷地の上に区分所有マンションが建っているケースがあります。

土地の地型に影響しますので、登記簿謄本で確認する必要があります。

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Step1 机上調査

被相続人は、区分所有マンションを所有していました。

5 階建てマンションの 5 階部分 31.72 ㎡です。

登記簿謄本から、敷地権が 270,550 分 3,382 となっていることがわかります。

<住宅地図>

<路線価図>

<登記簿謄本>

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固定資産税の課税明細書は以下の通りです。

Step2 現地調査

現地調査で確認することは特にありません。

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20

Step3 役所調査

役所で調べることは特にありません。

Step4 評価

敷地権を考慮します。

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2.庭内神しの敷地の評価

1 庭内神しの敷地の評価

庭内神しとは、屋敷内にある神の社や祠等といったご神体を祀り日常礼拝の用に供して

いるものをいいます。ご神体とは不動尊、地蔵尊、道祖神、庚申塔、稲荷等で特定の者又は

地域住民等の信仰の対象とされているものです。

その庭内神しの敷地や附属設備については、①「庭内神し」の設備とその敷地、附属設備

との位置関係やその設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形や、②その

設備及びその附属設備等の建立の経緯・目的、③現在の礼拝の態様等も踏まえた上でのその

設備及び附属設備等の機能の面から、その設備と社会通念上一体の物として日常礼拝の対

象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲のものである場合に

は、その敷地及び附属設備は、その設備と一体の物として相続税の非課税財産として取り扱

われています(国税庁情報「「庭内神し」の敷地等に係る相続税法 12 条 1 項 2 号の相続税

の非課税規程の取扱いの変更について」)。

2 従来の取扱い

上記の取扱いは、平成 24 年の国税庁情報によります。

それ以前は、墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるものの財産の価額は、相続税

の課税価格に算入しないものとされてきました(相法 12)が、その敷地については、「墓所、

霊びょう」には、墓地、墓石及びおたまやのようなもののほか、これらのものの尊厳の維持

に要する土地その他の物件をも含むものとして取り扱われてきたが、庭内神しの敷地につ

いては、「庭内神し」とは別個のものであり、非課税規定の適用対象とはならないとされ

ていました。

それが、東京地裁平成 24 年 6 月 21 日判決〔TAINS・Z888-1664〕で、庭内神しとその敷

地が社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといえる程度に密接不可分の

関係にある場合には非課税財産に該当すると判断されたのを受けて取扱いが変更されまし

た。

鳥居から参道も非課税の対象となります。

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Step1 机上調査

庭内神しの有無は土地所有者にヒアリングして確認します。

Step2 現地調査

非課税となる地積を測ります。

現地にてメジャーで測ったところ、縦 2m、横 1.5m(地積は3㎡)でした。

Step3 役所調査

役所で調べることは特にありません。

Step4 評価

評価対象地の課税地積(700 ㎡)から非課税地積(3 ㎡)を除いた地積(697 ㎡)に基

づいて評価します。

分母は課税地積

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3.利用価値が著しく低下している宅地の評価

1 利用価値が著しく低下している宅地

(1)国税庁タックスアンサー

評価対象地の利用価値が、付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下している

と認められる場合は、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の

10%を減額することが認められています。

利用価値が著しく低下している場合とは、例えば次のようなものをいいます。

(イ)道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べ

て著しく高低差のあるもの

(ロ)地盤に甚だしい凹凸のある宅地

(ハ)震動の甚だしい宅地

(二)騒音、日照阻害(建築基準法第 56 条の 2 に定める日影時間を超える時間の日照阻害

のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められ

るもの

(2)争訟事例

裁決事例においては、以下のようなケースがあります。

(イ)利用価値が著しく低下していると認められた事例

利用価値が著しく低下していると認められる減額要因として以下のような土地があげら

れます。

・高低差のある土地

・電車や新幹線の高架線に隣接していて騒音が著しい土地

・忌み地として元墓地や周囲が墓地に囲まれているような土地

・目の前に歩道橋があるような土地

年月日 事案の概要

① 平成 13 年 6 月 15 日裁決

〔TAINS・F0-3-212〕

新幹線の高架線に隣接し、かつ元墓地であった土地の評価につ

いて、震動・騒音による評価減 10%と元墓地であることの評価

減 10%、さらに住宅地における日照及び眺望への影響の評価減

10%を行うことが相当とされた事例

② 平成 17 年 8 月 23 日裁決〔TAINS・

F0-3-124〕

宅地の前に横断歩道橋施設が設置されていることについて、

10%相当額を減額した課税処分が相当であるとされた事例

③ 平成 18 年 3 月 10 日裁決〔TAINS・ 宅地の前に横断歩道橋が設置されていることについて、10%相

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F0-3-163〕 当額を減額することが相当とされた事例。

④ 平成 18 年 5 月 8 日裁決〔裁事 71・

533〕

三方が墓地に囲まれていることから、10%相当額を控除して評

価することが相当であるとされた事例

⑤ 平成22年10月13日裁決〔TAINS・

F0-3-252〕

マンションの敷地(1 万 1345.91 ㎡)について、北側 185.88 ㎡

に地盤に甚だしい凹凸があり利用価値が著しく低下している

と認められる法面があることの減額をすることが相当とされ

た事例

(ロ)利用価値が著しく低下していると認められなかった事例

一方、周囲に下水処理場があること、家畜施設があることなどその影響が広範囲の地域に

わたり、その減額要因が、路線価に既に織り込み済みである場合には、利用価値が著しく低

下している 10%評価減の対象とならないことに注意が必要です。

年月日 事案の概要

① 昭和 63 年 5 月 27 日裁決〔裁事 35・

151〕

地積が 70.44 ㎡の狭あいな宅地について、周辺地価公示の標

準地の地積が 66 ㎡であることから、評価対象地の近傍に所

在する宅地に共通する事情であって、固有の事情と認められ

ないとされた事例

② 平成 2 年 10 月 19 日裁決〔裁事 40・

217〕

付近に競馬きゅう舎が存在する宅地の評価について、付近の

土地が居住の用に供され利用上の障害が特にあるとは認め

られないこと、臭気に関する苦情がないことなどから判断し

て臭気の影響を受け利用価値が著しく低下しているとは認

められないとされた事例

③ 大阪地裁平成 4 年 9 月 22 日判決〔税

資 192・490〕

下水処理場に隣接する宅地の評価について、その設置の影響

により付近の不動産の価値が減殺されるような事情は、路線

価の設定過程において既に参酌されているとされた事例

④ 福島地裁平成 10 年 9 月 28 日判決

〔税資 238・269〕

近隣に伝染病舎が存在する宅地の評価について、周囲に 20

数件の住宅が建築されていることから、宅地としての需要は

あるとして、直ちに路線価が不合理であるとはいえないとさ

れた事例

⑤ 平成 11 年 3 月 18 日裁決〔TAINS・

F0-3-294〕

付近に暴力団事務所及びパチンコ店等がある宅地の評価に

ついて、それらは路線価の評価時点で既に存在しており、そ

の事情は反映されているとされた事例

⑥ 仙台地裁平成 13 年 6 月 28 日判決

〔税資 250・8932〕

亜炭廃坑の存在する地域内の土地について、同地域内にある

という自然的条件は、売買実例、公示価格、精通者意見価格

等を基礎にして決定された路線価に織り込み済みであると

された事例

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⑦ 平成 16 年 7 月 7 日裁決〔TAINS・

F0-3-100〕

温泉地内の貸付駐車場用地の評価について、宅地の背後にが

けが迫り、隣地に廃墟と化した建造物があったとしても、利

用価値は同一路線にある他の宅地に比較して著しく低下し

ていると認められないとされた事例

⑧ 平成 22 年 3 月 25 日裁決〔TAINS・

F0-3-260〕

鉄道高架に接している土地について、路線価は鉄道騒音等の

環境要因を加味して付されており、評価額から更に斟酌をし

なければならないほどの利用価値が落ちているとは認めら

れないとされた事例

⑨ 平成 23 年 4 月 12 裁決〔TAINS・F0-

3-283〕

流通業務地区内のごみ処理場跡地について、ごみが埋設され

ている地域であることは周知の事実となっており、その事情

は売買実例価額及び精通者意見価格等を参酌して評定され

る路線価に反映されているとされた事例。

2 斟酌すべき高低差はどのくらいか

土地に高低差がある場合、その面については、擁壁を必要とし、人や自動車が出入り

できないという利用不可能部分が生じ、仮に出入口として利用する際には相当の造成費

用が必要となります。

そのため、道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅

地に比し著しく高低差のあるものについては 10%の評価減が認められています。

ただし、高低差の程度については、明示されていません。

裁決例においては、付近の土地と比べて 1.2m~2.9m 程の高低差に 10%減額が認め

られている(平成 18 年 5 月 8 日裁決〔裁決事例集 71 巻 533 頁〕、平成 19 年 4 月 23 日裁

決〔TAINS・F0-3-146〕)ものもあれば、1m以上の高低差があっても周辺の宅地と比べ

て利用価値が著しく低下していると認められない場合や路線価にすでに織込み済みで

あるとして減額されない場合もあります(平成 18 年 3 月 10 日裁決〔TAINS・F0-3-163〕、

平成 18 年 12 月 8 日裁決〔TAINS・F0-3-188〕、平成 21 年 4 月 6 日裁決〔TAINS・F0-3-

244〕)。

(イ)利用価値が著しく低下していると認められた事例

年月日 事案の概要

① 東京地裁平成 9 年 5 月 29 日判決

〔税資 223・918〕

接面する道路との高低差が約 2m あることから、10%相当額を

控除して評価することが相当であるとされた事例

② 平成 18 年 5 月 8 日裁決〔裁事 71・

533〕

接面する道路より 2.9m 低く接していることから、10%相当額

を控除して評価することが相当であるとされた事例

無道路地において実際に利用している路線より 1.9m 低く、付

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近にある宅地に比し著しく高低差があることから、10%相当額

を控除して評価することが相当であるとされた事例

③ 平成 19 年 4 月 23 日裁決〔TAINS・

F0-3-146〕

接面する道路より 1.2m 高い土地について、この高低差のため

車両の進入ができないこと等この付近にある各宅地の利用状

況からみて利用価値が著しく低下した土地に当たるとされた

事例。

(ロ)利用価値が著しく低下していると認められない事例

年月日 事案の概要

① 平成 18 年 3 月 10 日裁決〔TAINS・

F0-3-163〕

高低差が 1.5m から 2.6m の店舗敷地について、高低差があ

ることによって付近の宅地の利用状況に比較して利用価値

が低下していないから評価額を減額する要因とは認められ

ないとされた事例

② 平成 18 年 3 月 15 日裁決〔裁事 71・

505〕

道路から約 70cm 高低差のある土地の評価について、現に居

宅の敷地として利用していること及び周囲の宅地の状況と

比べても利用価値が著しく低下しているとは認められない

ことからすれば、現状において新たな造成工事の必要が認め

られず、路線価方式は相当であるとされた事例

③ 平成 18 年 12 月 8 日裁決〔TAINS・

F0-3-188〕

高低差が東端で 0.1m、西端で 1.15m ある土地について、

評価対象地が所在する地域は、東側から西方向に緩やかな

傾斜地となっているため、このような形状は同じ路線に接

する宅地に共通したものであることが認められ、路線価は

高低差を反映しているとされた事例

④ 平成 21 年 4 月 6 日裁決〔TAINS ・

F0-3-244〕

道路から 1.5m の高低差がある土地について、高低差は当該

路線に面した一連の宅地に共通した地勢であり、その付近に

ある宅地に比べて著しく高低差があるとはいえないとされ

た事例。

⑤ 平成 23 年 5 月 16 裁決〔裁事 83・

799〕

裏面路線と正面路線との間に高低差がある土地について、隣

接する土地も、評価対象地と共通した地勢であると認められ

るため、10%減額して評価することはできないとされた事

例。

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道路の両側に高低差が見られる場合、路線価に高低差という事情が織り込み済みであ

ると判断されるケースがありますので注意が必要です。

また、高低差がみられるものの、ガレージとして活用できているような路線において

は、利用価値が著しく低下しているか否か判断の分かれるところとなります。

【コメント】

著しい高低差といえるかどうかがポイントとなります。

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3 騒音による評価減

(1)騒音の減価

例えば、近くに鉄道が通っていたり、幹線道路があったりするなどして生活環境を損なわ

せ、騒音が取引金額に影響を受けると認められる場合には、利用価値が低下していると認め

られる部分の面積に対応する価額の 10%を減額することが認められています。

騒音減価の目安として、環境基本法に基づく「騒音に係る環境基準」と騒音規制法に基づ

く「自動車騒音の限度を定める省令」の2つがあります。

(イ)環境基本法

環境基本法は、騒音に係る環境上の条件について生活環境を保全し、人の健康の保護に資

する上で維持されることが望ましい基準(環境基準)を定めています(環境基本法 16)。

環境基準は、地域の類型及び時間の区分ごとに次表の基準値の通りとなります(環境庁

「騒音に係る環境基準」)。各類型を当てはめる地域は、都道府県知事(市の区域内の地域に

ついては、市長。)が指定します。

地域の類型 基準値

昼間 夜間

AA 50 ㏈以下 40 ㏈以下

A及びB 55 ㏈以下 45 ㏈以下

C 60 ㏈以下 50 ㏈以下

(注)1 時間の区分は、昼間を午前 6 時から午後 10 時までの間とし、夜間を午後 10

時から翌日の午前 6 時までの間とする。

2 AAを当てはめる地域は、療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地

域など特に静穏を要する地域とする。

3 Aを当てはめる地域は、専ら住居の用に供される地域とする。

4 Bを当てはめる地域は、主として住居の用に供される地域とする。

5 Cを当てはめる地域は、相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地

域とする。

(ロ)騒音規制法

騒音規制法においては、自動車騒音が環境省令で定める限度を超えていることにより道

路の周辺の生活環境が著しく損なわれると認めるときは、都道府県公安委員会に対し、道路

交通法の規定による措置を執るべきことを要請するものとされています(騒音規制法 17)。

その環境省令においては、区域の区分ごとに次表の通り限度が定められています(騒音規

制法第十七条第一項の規定に基づく指定地域内における自動車騒音の限度を定める省令 3)。

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環境省令別表

区域の区分 時間の区分

昼間 夜間

一 a区域及びb区域のうち一車線を有する道路に

面する区域 65 ㏈ 55 ㏈

二 a区域のうち二車線以上の車線を有する道路に

面する区域 70 ㏈ 65 ㏈

三 b区域のうち二車線以上の車線を有する道路に

面する区域及びc区域のうち車線を有する道路

に面する区域

75 ㏈ 70 ㏈

(注)a区域、b区域及びc区域とは、それぞれ次の各号に掲げる区域として都道府県知事

(市の区域内の区域については、市長。)が定めた区域をいう。

一 a区域 専ら住居の用に供される区域

二 b区域 主として住居の用に供される区域

三 c区域 相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される区域

(2)騒音による減価が認められる事例

例えば、評価対象地が線路沿いにある場合です。線路沿いの土地(A地点)と、そうでな

い土地(B地点)といずれも路線価は同一となっております。

電車通過時の騒音を計測すると、A地点で 83 デシベルであるのに対し、B地点で 69 デ

シベルでした。

①同一路線の宅地と比べて、電車通過時の騒音が 1.20 倍異なるにもかかわらず路線価が

同一であること、②騒音規制法第 17 条第 1 項に基づく騒音は、最大でも 75 デシベルとさ

れていることから、評価対象地は利用価値の著しく低下している宅地として評価減を行い

ます。

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4 減額要因の併用は可能か

例えば、土地に高低差があり、かつ、墓地隣地である場合など、利用価値の著しく低下し

ている宅地の評価減は併用できるでしょうか。

平成 13 年 6 月 15 日裁決〔TAINS・F0-3-212〕においては、新幹線の高架線に隣接し、か

つ、元墓地であった土地の評価について、震動・騒音による評価減 10%と元墓地であるこ

との評価減 10%、さらに住宅地における日照及び眺望への影響の評価減 10%を行うことが

相当とされています。

A地点

B地点

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Step1 机上調査

土地の住宅地図からは高低差はわかりません。

Step2 現地調査

現地調査の結果、道路面との高低差があることがわかりました。

高低差を測定すると1.5mとなっています。

Step3 役所調査

役所で調べることはとくにありません。

Step4 評価

高低差があることにより、高低差がない土地と比べて利用価値が著しく低下している

ため、評価額から 10%を控除します。

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誤りやすい事例集

<事例1>

評価対象地と路線との間に自宅敷地がある場合

【誤り】

道路に面する自宅敷地の裏側に接する農地について、無道路地として評価した。

【正しい】

農地は道路に面していないものの、自宅敷地の一部を通路として利用することが可能で

あるため、無道路地に当たらない。建築基準法に規定する接道義務を間口として不整形地と

して評価する。

<事例2>

特定路線価が付されている私道

【誤り】

私道に、特定路線価が設定されている場合において、当該私道そのものについて、特定路

線価に奥行価格補正率、間口狭小補正率、奥行長大補正率及び 0.3 を乗じて評価した

【正しい】

次のいずれか低い方で評価する。

①当該私道に面している路線価を基として、奥行価格補正率等を乗じて計算した金額に

0.3 をした価額

②特定路線価に 0.3 を乗じた価額

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<事例3>

3棟の貸家の敷地の規模格差補正

【誤り】

地積が 1,200 ㎡ある土地が3棟の貸家の敷地となっている場合、その全体としては開発

許可面積基準(500 ㎡)を充たすので地積規模の大きな宅地として評価した。

【正しい】

貸家建付地を評価する場合において、貸家が数棟あるときは、各棟の敷地ごとに評価する

ことになり地積は 400 ㎡となる。

<事例4>

一時使用の借地権の目的となっている土地

【誤り】

工事事務所用の簡易な建物の所有を目的に 2 年契約で貸し付けられた土地の評価につい

て、通常の借地権割合を控除して評価した。

【正しい】

一時使用のための賃貸借契約には借地借家法の適用がないことから、貸し付けられた雑

種地の評価に準じて評価する。

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<事例5>

相当の地代を収受している貸宅地

【誤り】

相当の地代が収受されている貸宅地について、通常の借地権割合を控除して評価した。

【正しい】

相当の地代を収受している場合で、その借地権の設定に際し権利金を収受していない場

合の貸宅地は、自用地価額の 80%により評価する。

<事例6>

無償返還届出書が提出されている貸宅地(使用貸借)

【誤り】

同族法人に使用貸借している貸宅地について、無償返還届出書が提出されていることか

ら自用地価額の 80%により評価した。

【正しい】

使用貸借に係る土地について、無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、

自用地価額によって評価する。

<事例7>

親族間で賃貸借している場合の貸家建付地

【誤り】

甲が居住しなくなった甲所有の住宅を子乙が優勝で借り受けて居住の用に供していた。

しかしながら、親子間の建物賃貸借契約であることから、自用地として評価した。

なお、乙は、通常の家賃に相当する金額を支払い、甲は、不動産所得として申告していた。

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【正しい】

甲から乙への家屋の貸付け及び乙から甲への家賃の支払いが賃貸借と認められれば貸家

建付地として評価する。

<事例8>

夫が所有する土地上に夫婦共有の貸家がある場合

【誤り】

被相続人甲の所有する土地上に甲と配偶者乙の共有でアパートを建築し、その全室を賃

貸していた。乙は甲に地代は払っていない。

アパートの全室を賃貸していたことから、敷地の全体を貸家建付地として評価した。

【正しい】

敷地のうち、貸家の夫の持分 4 分の 3 に相当する部分は貸家建付地として評価するが、

妻の持分 4 分の1に相当する部分は自用地として評価する。

<事例9>

農地法の許可を受けずに貸している農地

【誤り】

農地法の許可を受けていないが、通常の小作料を受領して他人に耕作をさせていること

から、貸し付けられている農地として評価した。

【正しい】

農地法の許可を受けていない、いわゆるヤミ小作は耕作権に該当しないことから貸し付

けられている農地に該当しない。

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<事例 10>

中古車展示場の上に簡易な建物がある場合

【誤り】

被相続人甲は、自動車販売業を営むA社に中古車展示場用地として賃貸する契約を締結

していた。

その契約書には、土地の一部につき、建物の所有を目的とする賃貸借部分が含まれること

が記載されており、A社は、プレハブ建物を建築している。

そこで、当該土地の全てについて貸宅地として評価した。

【正しい】

賃貸借の主たる目的は中古車展示場であり、建物の所有目的は従たる目的にすぎないと

いえることから、建物の敷地部分を含めてその全てを一団の土地として、主たる地目(雑種

地)からなるものとして評価する。

<事例 11>

月極駐車場の敷地となっている雑種地の評価

【誤り】

下記の雑種地をいずれも自用地として評価した。

①土地の所有者自ら月極駐車場として利用している

②土地の所有者が土地を貸し付けて地代を収受し、その土地の賃借人が月極駐車場とし

て利用している

【正しい】

①土地の所有者が自らその土地を月極駐車場として利用している場合には、自用地として

評価する。

②賃借人が月極駐車場として利用している場合には、自用地価額から賃借権価額を控除し

て評価する。

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執筆書籍

講師プロフィール

税理士 宅地建物取引士

風岡範哉(かざおか・のりちか)

相続専門としてこれまで従事した案件は 200 件を超え、100 億円以上の大型案件の

経験もあります。特に判断の難しい土地の評価や名義性財産の判定に強みがあります。

主な論文に「財産評価基本通達 6 項の現代的課題」第 28 回日税研究賞入選(2005

年)、「相続税・贈与税の課税処分における理由附記」租税訴訟№8(2015 年)、「特別対

談 相続税税務調査の最前線 松林優蔵×風岡範哉」税務弘報(2016 年 11 月号)など

があります。

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