感染と発症 日和見感染 -...

9
1 感染と発症 感染 病原体が動物の抵抗力を超えて侵入し増殖すること 発症 感染により宿主の生理機能に異常をきたした状態 定着・増殖 顕性感染 発症する 不顕性感染 発症しない 感染症死 治癒 潜伏感染 病原体 排出 再燃 病原体の侵入 潜伏感染 病原体の増殖が止まり無症候 である状態 再燃 増殖を抑制されていた菌が、 宿主の免疫の低下とともに増 殖し発症すること 日和見感染 健康な動物では感染症を起こさない病原体が原因で発症 する感染症 加齢に伴う体力低下や後天性免疫不全症候群などの免疫 を低下させる疾患に罹患している時などに生じる 細菌性 非結核性抗酸菌症、 緑膿菌感染症など 原虫性 トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症など ウイルス性 ヘルペス、サイトメガロウイルス感染症など 真菌性 カンジダ症、 ニューモシスチス肺炎など 微生物の性状の違い 微生物 核酸の構成 DNAとRNA2分裂増殖 無細胞培地 での発育 抗生物質への 感受性 真菌 両方 しない する ほとんど無効 一般細菌 両方 する する あり リケッチア 両方 する しない あり クラミジア 両方 する しない あり マイコプラズマ 両方 する する ペニシリン無効 ウイルス 片方 しない しない なし プリオン なし しない しない なし 微生物の大きさ ヒトの赤血球 直径 7 μm 大腸菌 0.5×1~3 μm リケッチア 0.3×0.3~1 μm クラミジア 0.15×0.2 μm インフルエンザウイルス 直径0.115 μm 光学顕微鏡では 見れない 真正細菌の一般的な構造 鞭毛 繊毛 リボソーム DNA(核様体) プラスミド 細胞壁 莢膜 細胞膜 細胞質 球菌 連鎖桿菌 らせん菌 桿菌 連鎖球菌 破傷風菌の毒素の発見 マウスの後足に破傷風菌を注射すると全身が麻痺するが、 筋肉や脳、脊髄には破傷風菌が見られない 北里博士は、破傷風菌は菌そのものが起こすのではなく、 破傷風菌が作り出す化学物質が起こすと考えた 濾過して菌体を 除いた培地 破傷風により死亡 その化学物質は現在「外毒素」と呼ばれるものである 北里の発見の前に、パスツール研究所のエミール・ルーが 発見したジフテリアの毒素も外毒素である

Transcript of 感染と発症 日和見感染 -...

Page 1: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

1

感染と発症

感染 病原体が動物の抵抗力を超えて侵入し増殖すること

発症 感染により宿主の生理機能に異常をきたした状態

定着・増殖

顕性感染 発症する

不顕性感染 発症しない

感染症死 治癒

潜伏感染 病原体

排出 再燃

病原体の侵入

潜伏感染

病原体の増殖が止まり無症候

である状態

再燃

増殖を抑制されていた菌が、

宿主の免疫の低下とともに増

殖し発症すること

日和見感染

健康な動物では感染症を起こさない病原体が原因で発症

する感染症

加齢に伴う体力低下や後天性免疫不全症候群などの免疫

を低下させる疾患に罹患している時などに生じる

細菌性 非結核性抗酸菌症、 緑膿菌感染症など

原虫性 トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症など

ウイルス性 ヘルペス、サイトメガロウイルス感染症など

真菌性 カンジダ症、 ニューモシスチス肺炎など

微生物の性状の違い

微生物 核酸の構成

(DNAとRNA) 2分裂増殖

無細胞培地 での発育

抗生物質への 感受性

真菌 両方 しない する ほとんど無効

一般細菌 両方 する する あり

リケッチア 両方 する しない あり

クラミジア 両方 する しない あり

マイコプラズマ 両方 する する ペニシリン無効

ウイルス 片方 しない しない なし

プリオン なし しない しない なし

微生物の大きさ

ヒトの赤血球 直径 7 μm

大腸菌 0.5×1~3 μm

リケッチア 0.3×0.3~1 μm

クラミジア 0.15×0.2 μm

インフルエンザウイルス 直径0.115 μm

光学顕微鏡では

見れない

真正細菌の一般的な構造

鞭毛

繊毛

リボソーム DNA(核様体) プラスミド

細胞壁 莢膜 細胞膜

細胞質

球菌

連鎖桿菌

らせん菌 桿菌

連鎖球菌

破傷風菌の毒素の発見

マウスの後足に破傷風菌を注射すると全身が麻痺するが、

筋肉や脳、脊髄には破傷風菌が見られない

北里博士は、破傷風菌は菌そのものが起こすのではなく、 破傷風菌が作り出す化学物質が起こすと考えた

濾過して菌体を

除いた培地

破傷風により死亡

その化学物質は現在「外毒素」と呼ばれるものである

北里の発見の前に、パスツール研究所のエミール・ルーが 発見したジフテリアの毒素も外毒素である

Page 2: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

2

血清療法の発明

希釈した破傷風菌毒素を注射しても死なないウサギを発見

このウサギに希釈していない毒素を注射しても発症しない

北里博士は、ウサギの血液中に抗毒素ができたと考えた

希釈した

毒素

死なない

未希釈の

毒素

死なない

この抗毒素(抗体)を別の個体に注射すると破傷風を予防できることを発見

破傷風に罹患した個体の治療も回復させることができた

未希釈の

毒素

死なない

このウサギの血清を

別のウサギに注射

抗血清とワクチン

毒素に対する抗体(抗血清)を

含む血清を注射

抗血清(血清療法)

ワクチン

無毒化・ 弱毒化した 毒素

無毒化・ 弱毒化した 病原体

しばらくすると

免疫獲得

他の動物の抗体は異物

アレルギー反応が起きる

場合がある

抗血清の欠点は遺伝子組み換えを利用して作製されたヒトの

モノクローナル抗体を使用することで克服されつつある

生ワクチンと不活性化ワクチン

生ワクチン

毒性を弱らせた微生物やウイルスを使用

体液性免疫、細胞性免疫の両方を獲得できる

発熱や発疹などの副反応を生じることがある

BCG(結核)、ポリオ、麻疹、風疹、おたふくかぜなど

不活性化ワクチン

死んだ微生物やワクチン、抗原のみを使用

体液性免疫のみ獲得するので免疫が続く時間が短い

複数回接種が必要なものが多い

インフルエンザ、狂犬病、日本脳炎、コレラ、破傷風、

ジフテリア、百日咳、ポリオ、A型肝炎、B型肝炎など

細菌の毒素

外毒素

内毒素

細菌が体外に放出する毒素 ペプチドやタンパク質 ホルマリンで処理すると活性を失い トキソイドになる

グラム陰性菌の細胞壁の成分 つまり、リポ多糖

外毒素:エキソトキシン

内毒素:エンドトキシン

外毒素と内毒素

項目 外毒素 内毒素

化学成分 タンパク質 細胞壁のリポ多糖

出現方法 菌体外に分泌 菌死滅後の細胞壁

作用 菌種によって異なる

発熱なし 発熱、ショック

抗原性 強い

(トキソイド化可能)

弱い

(トキソイド化不可)

トキソイド化:免疫原性を有した状態で外毒素の毒性を消失させること

細菌の増殖に関わる因子

細菌に必要な栄養素

水:菌体の75~85%は水分

無機塩類:Na、K、Ca、Mg、Fe、P、Sなど

炭素源:単糖類や二糖類を炭素源およびエネルギー源として利用

窒素源:アミノ酸、タンパク質など

発育因子:ビタミン、プリンなど

増殖に必要な因子

温度:増殖に最適な温度(至適温度)は細菌によって異なる

低温菌、中温菌、高温菌

pH:増殖に最適なpH(至適pH)は細菌によって異なる、pH6~9

酸素:酸素の要求性は細菌によって異なる

偏性好気性菌、偏性嫌気性菌、通性嫌気性菌

浸透圧:一般的な細菌の増殖には塩分濃度0.5~0.8%が必要

Page 3: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

3

細菌の増殖と温度・pH

至適温度 名称 例

15~20℃ 低温菌 腸炎ビブリオ、セレウス菌

30~37℃ 中温菌 乳酸菌、大部分の病原菌

50~60℃ 高温菌(好熱菌) イオウ菌

細菌の至適温度

通常の細菌は0℃以下で活動を停止し、60~100℃で死滅する

至適温度が15℃以下のものを好冷菌、80℃以上のものを超好熱菌という

至適pH 例

pH7.8~8.4 コレラ菌

pH6.5~7.6 大部分の病原菌、ブドウ球菌、大腸菌、赤痢菌

pH6.6~7.4 結核菌

pH5.0~6.2 乳酸桿菌

細菌の至適pH

細菌の増殖と酸素

偏性好気性菌

酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

酸素がなければ生存、増殖できない

結核菌、緑膿菌、枯草菌など

通性嫌気性菌

酸素がなくても生存できる細菌

酸素があれば好気的呼吸を、なければ発酵でエネルギーを得る

大腸菌、赤痢菌など

酸素の有無に関わらず発酵を行う細菌

乳酸菌、連鎖球菌など

偏性嫌気性菌

酸素があると生存できない細菌

発酵でエネルギーを得る

破傷風菌、ボツリヌス菌など

芽胞を作る細菌

バシラス属

偏性好気性または通性嫌気性の有芽胞グラム陽性桿菌

炭疽菌:炭疽の病原菌

セレウス菌:食中毒起因菌の一つ

納豆菌:枯草菌の変種とされる、納豆の製造に用いられる細菌

枯草菌:枯れ草などにつく非病原性細菌で遺伝子研究に用いられる

クロストリジウム属

偏性嫌気性の有芽胞グラム陰性桿菌

破傷風菌:破傷風の病原菌

ボツリヌス菌:食中毒起因菌の一つで、ボツリヌス毒素を産生する

ウェルシュ菌:ヒト腸内常在菌で、食中毒やガス壊疽の原因になる

ことがある

化学療法:細菌に対する戦略

転写・翻訳

タンパク質

細胞壁合成酵素

細胞壁

アミノ酸B

アミノ酸A

葉酸合成酵素

葉酸

化学療法とは、感染症や癌などの疾病を生体に副作用を起こ

さずに、細菌などにのみ効果を発揮する選択的な毒性のある

化学物質を用いて治療を行うこと タンパク質合成阻害

テトラサイクリン系

マクロライド系

ペニシリン、バンコマイシン

動物には細胞壁はない!

細胞壁合成阻害

葉酸合成阻害

サルファ系

動物は葉酸を

合成しない

核酸合成阻害

アクチノマイシンD

マイトマイシンC

細胞膜の作用を阻害

ポリミキシンB

コリスチン

抗生物質の効果

1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000

結核 気管支炎

悪性腫瘍

心疾患 死亡率

抗生物質の普及

西暦

1929年 ペニシリン 発見

マイコプラズマ

自己増殖できるグラム陰性の細菌(200 nm~300 nm)

通性嫌気性で、細胞壁がない

クエン酸回路、脂質合成系、アミノ酸合成系がない

自然条件では特定の真核細胞に付着して寄生する

転写・翻訳

タンパク質

細胞壁合成酵素

細胞壁

ペニシリン、バンコマイシン

動物には細胞壁はない!

細胞壁合成阻害

タンパク質合成阻害

テトラサイクリン系

マクロライド系

Page 4: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

4

クラミジアとリケッチア

グラム陰性菌だが、自己増殖できない偏性細胞内寄生体

クラミジア

細胞壁にペプチドグリカンを欠く

ATP合成系がない

自分でATPを合成できないため

宿主のATPを利用

リケッチア

細胞壁にペプチドグリカンを欠くものがある

解糖系、クエン酸回路、電子伝達系をもつ

細胞膜の透過性が高く、自分に必要な栄養素を保持でき

ないため寄生しなければ生きられないと考えられている

真菌:酵母様真菌

菌類のことで、細菌と区別するために真菌とも呼ばれる

植物と同様に細胞壁を持つが従属栄養生物である

酵母様真菌 (クリプトコッカス)

母細胞 出芽 分裂

出芽細胞(分芽分生子) 莢膜

酵母様真菌 (カンジダ)

発芽管 出芽細胞

出芽細胞

出芽細胞

仮性菌糸

真菌:糸状菌

菌糸と胞子からなる

菌糸は一個の細胞で、集合して菌糸体を形成する

菌糸から分生子柄または胞子嚢柄を分岐させ、それぞれ分生子

(無性胞子)または胞子(有性胞子、無性胞子)を作る

アスペルギルス症では真菌が作るマイコトキシン(カビ毒)

が病因の一つであると考えられている

糸状菌 (アスペルギルス症、白癬)

菌糸

分生子 発芽 菌糸体形成

分生子柄

分生子

白癬

主にトリコフィトン属による皮膚感染症

いんきん:股に生じる白癬

水虫:足底・足裏に生じる白癬

爪水虫:手足の爪を侵す白癬

しらくも:頭部に生じる白癬

たむし:被髪頭部、手足、股以外の白癬

エンベロープなし エンベロープあり

ウイルス:生物と非生物の間

ウイルスは基本的に核酸とタンパク質からできており

細胞を持たない

細胞小器官を持たず、エネルギー産生系も持たない

自己増殖できない

カプソマー

たんぱく質の殻

(カプシド)

核酸

(DNAかRNA)

エンベロープ

(脂質)

スパイク

(タンパク質)

感染の伝播様式

ヒト

空気感染

咬傷

垂直感染

胎盤感染

産道感染

母乳感染

水平感染

直接接触感染

飛沫感染・接触感染・咬傷感染

間接接触感染

空気感染・媒介物感染・節足動物媒介感染

飛沫・接触

空気・節足動物

飲食物・衣類など

飛沫感染:咳やくしゃみによって拡散した体液による

空気感染:飛沫感染よりも小さい粒子(直径<5 μm)

感染の伝播様式

・直接接触感染

飛沫感染:患者の咳やくしゃみの吸引

接触感染:皮膚や粘膜の接触

咬傷感染:咬み傷

・間接接触感染

空気感染:空気中の病原体(飛沫感染よりも小さい)

媒介物感染:水や食物、食器や衣類など

節足動物媒介感染:カやダニ、ハエなど

胎盤感染:胎盤を通る血液を通じて

産道感染:出産時の出血や擦り傷から

母乳感染:母乳の飲用

水平感染 接触、飲食物、空気、ベクターなどにより感染

垂直感染 病原体が親から直接その子孫に伝播される感染

Page 5: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

5

ペスト

ペスト菌が体内に侵入することにより発症する伝染病

ペスト菌は通性嫌気性でグラム陰性、無芽胞桿菌

腺ペスト ペストの中で最も普通に見られる病型

リンパ腺がこぶし大にまで腫れ上がる

毒素により約1週間で死亡(死亡率50~70%)

ペスト敗血症 ペスト菌により敗血症が起こり、皮膚に出血斑ができ全身が黒いあざだらけ

になって死亡(この現象から黒死病と呼ばれている)

肺ペスト 腺ペストの流行後に起こりやすい

腺ペスト患者の二次的発病やその患者の咳を吸い込んで発病

気管支炎や肺炎を起こし、呼吸困難となり2~3日で死亡(死亡率約100%)

皮膚ペスト ノミに刺された皮膚にペスト菌が感染し、膿疱や潰瘍をつくる

ペストを媒介するもの

ペストに罹患したネズミの血を吸ったノミに刺されて感染

ペスト感染

ネズミ

ネコ

イヌ

ヒト ヒト

飛沫

飛沫

感染 感染

刺す 刺す

刺す

感染の予防策

・ペスト菌を保有するノミや、ノミの宿主となるネズミの駆除

・腺ペスト患者の体液に触れない

・ワクチンの接種(1897年に発明)

1900年に東京市では1匹あたり5銭で

ネズミを買い上げた

1 mm

ネズミノミ

人畜共通感染症:ズーノーシス

同一の病原体により、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方が

罹患する感染症

家畜だけではなく、野生動物も含まれる

実験動物

エキゾチックアニマル

ペット 家畜・魚介類 学校飼育動物

・展示動物

野生動物

人畜共通感染症の原因

細菌

炭疽、ペスト、結核、仮性結核、パスツレラ症、サルモネラ症、

リステリア症、カンピロバクター症、レプトスピラ病、ライム病、

豚丹毒、細菌性赤痢、野兎病、鼠咬症、ブルセラ症など

ウイルス

インフルエンザ、SARS、狂犬病、ウエストナイル熱、エボラ出血熱、

マールブルグ熱、Bウイルス感染症、ニューカッスル病、日本脳炎、

ダニ脳炎、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、サル痘など

リケッチアなど

Q熱、ツツガムシ病、猫ひっかき病など

クラミジア

オウム病など

原虫

シャーガス病、リーシュマニア症、クリプトスポリジウム感染症など

真菌

クリプトコッカス症、カンジダ症、アスペルギルス症、皮膚真菌症など

寄生虫

エキノコックス症、日本住血吸虫症、肺吸虫症、旋毛虫症、肝吸虫症、

肝蛭症、アニサキス症など

プリオン

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病

人畜共通感染症の原因 狂犬病

狂犬病ウイルスを病原体とする人畜共通感染症

ヒトを含めたすべての哺乳類が感染する

世界では毎年約5万人が死亡している

(WHOの2004年推計では55,000人)

・潜伏期間は2週間~数ヶ月

・脳に到達して発症

・発症後の死亡率はほぼ100%

恐水症・恐風症・光過敏・興奮

麻痺・精神障害・呼吸困難

Page 6: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

6

日本での狂犬病発生件数

10000

1000

100

10

0 1897 07 17 27 37 47 57 67 77 87 95

ヒト 狂犬病予防法(1950)

輸入狂犬

西暦

動物

1957年以降、ヒト・イヌともに国内発症なし

海外での狂犬病発生状況

アイスランド

アイルランド

イギリス

オーストラリア

スウェーデン

日本

ノルウェー

インド 19000人

中国 3209人

パキスタン 2490人

バングラデシュ 2000人

ミャンマー 1100人

狂犬病清浄国

(厚生労働大臣指定)

狂犬病死亡者数最多5カ国

(2006年厚生労働省)

これ以外の国では野生動物が

狂犬病ウイルスを持っている

場合が多い

狂犬病予防法による通常処置

飼い犬の登録

生後90日後のイヌを取得した場合、

30日以内に市町村長に登録申請する

交付された鑑札をイヌに着ける

飼い犬の予防注射

毎年1回・4月1日から6月30日の間

生後91日以後のイヌを取得した場合、

30日以内に注射を受ける

市町村長から交付された注射済票を

イヌに着ける

2007年度の予防注射実施率は40%程度と推察されている

狂犬病ワクチン接種率

西暦 ワクチン 接種頭数

飼育統計頭数 (接種率)

厚生労働省登録数 (接種率)

1997 445 1044(43%) 514(87%)

1998 448 990(45%) 542(83%)

1999 460 957(48%) 565(82%)

2000 461 1005(46%) 578(78%)

2001 465 987(47%) 594(80%)

2002 483 952(51%) 629(77%)

飼育統計頭数は日本ペットフード工業会の調査による

日本に人畜共通感染症が少ない理由

衛生と教育の習慣

手洗いの励行など、個人衛生に比較的注意されてきた

教育・啓発活動を支える社会組織の充実

農業・牧畜業の形態

歴史的に畜産への経済的依存度が低く、家畜数が少ない

家畜衛生対策が比較的徹底している

収穫穀物の保護のため、ネズミの侵入を妨げる家屋の利用

自然のバリアー

温帯のため、動物やベクターが活動休止する時期がある

海に囲まれているため、陸上動物の侵入がない

口蹄疫

鯨偶蹄目(ブタやウシなど蹄が偶数に割れている動物)が

感染する口蹄疫ウイルスによる感染症

発熱、元気消失、多量の涎などが見られ、舌や口中、蹄の付け根などの

皮膚の軟らかい部位に水疱が形成され、それが破裂して傷口になる

傷の痛みで摂食や歩行が阻害され、体力を消耗し、生産量が低下する

幼獣では高い致死率を示す

高い伝播性があるため、患畜は発見され次第殺処分される

他地域への伝播を防ぐため、地域・国単位で家畜の移動制限がかかる

Page 7: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

7

家畜伝染病予防法

法の目的

家畜の伝染性疾病の発生の予防及び蔓延の防止により、

畜産の振興を図る

家畜の伝染性疾病の発生の予防

・消毒や投薬等の衛生管理と設備の規定(化製場を含む)

輸出入検疫

・海外からの病原体の流入を阻止

1951年公布、2005年最終改正

家畜の伝染病の蔓延の防止

・伝染病の発生の届出と患畜の処分、消毒等を規定

病原体の保持に関する規制

監視伝染病

監視伝染病

家畜伝染病予防法で定められている、発生時に家畜保健衛生所に届

け出なければならない疾病

法定伝染病

監視伝染病のうち、家畜の伝染病拡大に伴う畜主への被害や、畜産

物やそれらの製品への影響などの影響を最小限にするため、発生地

域の交通遮断、当該家畜の屠殺義務、殺処分命令、死体の焼却等の

義務、畜舎の消毒義務、などの強制力を持った強力な措置をとるべ

きものとして、家畜伝染病予防法で定められている28の疾病

届出伝染病

監視伝染病のうち、法定伝染病以外の71の疾病

法定伝染病(その1)

順 伝染病 家畜の種類 原因

1 牛疫 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

2 牛肺疫 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 マイコプラズマ

3 流行性脳炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

4 口蹄疫 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

5 狂犬病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

6 炭疽 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

7 出血性敗血症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

8 ブルセラ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

9 結核病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

人畜共通感染症 法定伝染病(その2)

順 伝染病 家畜の種類 原因

10 ヨーネ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

11 ピロプラズマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 住血胞子虫

12 アナプラズマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

13 鼻疽 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

14 馬伝染性貧血 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

15 伝染性海綿状脳症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 プリオン?

16 豚コレラ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

17 アフリカ豚コレラ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

18 アフリカ馬疫 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症

法定伝染病(その3)

順 伝染病 家畜の種類 原因

19 水泡性口炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

20 豚水泡症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

21 家禽コレラ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

22 家禽ペスト*1 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

23 ニューカッスル病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

24 ひな白痢*2 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

25 リフトバレー熱 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

26 腐蛆病 蜜蜂 細菌

*1 高病原性鳥インフルエンザ *2 家禽サルモネラ感染症

人畜共通感染症 法定伝染病の語呂合わせ

ぎゅうぎゅうの 口の狂った短気のデブが

牛疫 牛肺疫

流行性脳炎

口蹄疫

狂犬病

炭疽

出血性敗血症

ブルセラ病

けつようぴに あそびにでんと アフリカの

結核 ピロプラズマ病

ヨーネ病 アナプラズマ病

鼻疽

伝染性海綿状脳症

馬伝染性貧血

豚コレラ アフリカ豚コレラ

アフリカ馬疫

スーダンにこられペットにヒナをもらった

水泡性口炎

豚コレラ

家禽ペスト

ニューカッスル病

ヒナ白痢

Page 8: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

8

届出伝染病(その1)

順 伝染病 家畜の種類 原因

1 ブルータング 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

2 アカバネ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

3 悪性カタル熱 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

4 チュウザン病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

5 ランピースキン病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

6 牛ウイルス性下痢・粘膜病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

7 牛伝染性鼻気管炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

8 牛白血病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

9 アイノウイルス感染症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症 届出伝染病(その2)

順 伝染病 家畜の種類 原因

10 イバラキ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

11 牛丘疹性口炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

12 牛流行熱 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

13 類鼻疽 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

14 破傷風 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

15 気腫疽 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

16 レプトスピラ症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

17 サルモネラ症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

18 牛カンピロバクター症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

人畜共通感染症

届出伝染病(その3)

順 伝染病 家畜の種類 原因

19 トリパノソーマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 原虫

20 トリコモナス病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 原生生物

21 ネオスポラ症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 原虫

22 牛バエ幼虫症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ハエ幼虫

23 ニパウイルス感染症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

24 馬インフルエンザ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

25 馬ウイルス性動脈炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

26 馬鼻肺炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

27 馬モルビリウイルス肺炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症 届出伝染病(その4)

順 伝染病 家畜の種類 原因

28 馬痘 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

29 野兎病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

30 馬伝染性子宮炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

31 馬パラチフス 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

32 仮性皮疽 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 菌類

33 小反芻獣疫 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

34 伝染性膿疱性皮膚炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

35 ナイロビ羊病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

36 羊痘 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症

届出伝染病(その5)

順 伝染病 家畜の種類 原因

37 マエディ・ビスナ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

38 伝染性無乳症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 マイコプラズマ

39 流行性羊流産 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

40 トキソプラズマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 原虫

41 疥癬 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ダニ

42 山羊痘 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

43 山羊関節炎・脳脊髄炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

44 山羊伝染性胸膜肺炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

45 オーエスキー病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症 届出伝染病(その6)

順 伝染病 家畜の種類 原因

37 マエディ・ビスナ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

38 伝染性無乳症 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 マイコプラズマ

39 流行性羊流産 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

40 トキソプラズマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 原虫

41 疥癬 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ダニ

42 山羊痘 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

43 山羊関節炎・脳脊髄炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

44 山羊伝染性胸膜肺炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

45 オーエスキー病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

人畜共通感染症

Page 9: 感染と発症 日和見感染 - web.agr.ehime-u.ac.jpweb.agr.ehime-u.ac.jp/~seisan/chikusou/slides/DAII10_Basic veterinary... · 偏性好気性菌 酸素を利用して好気的呼吸をし、エネルギーを得る細菌

9

届出伝染病(その7)

順 伝染病 家畜の種類 原因

46 伝染性胃腸炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

47 豚炎テロウイルス性脳脊

髄炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

48 豚繁殖・呼吸障害症候群 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

49 豚水泡疹 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

50 豚流行性下痢 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

51 豚萎縮性鼻炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

52 豚丹毒 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

53 豚赤痢 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

人畜共通感染症 届出伝染病(その8)

順 伝染病 家畜の種類 原因

54 鳥インフルエンザ 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

55 鶏痘 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

56 マレック病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

57 鶏伝染性気管支炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

58 伝染性喉頭気管炎 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

59 伝染性ファブリキウス嚢病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

60 鶏白血病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 ウイルス

61 鶏結核病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 細菌

62 ロイコチトゾーン病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 住血胞子虫

人畜共通感染症

届出伝染病(その9)

順 伝染病 家畜の種類 原因

63 鶏マイコプラズマ病 牛 羊 山羊 馬 豚 鶏 マイコプラズマ

64 あひる肝炎 アヒル ウイルス

65 あひるウイルス性腸炎 アヒル ウイルス

66 兎ウイルス性出血病 兎 ウイルス

67 兎粘液腫 兎 ウイルス

68 バロア病 蜜蜂 ダニ

69 チョーク病 蜜蜂 カビ

70 アカリンダニ症 蜜蜂 ダニ

71 ノゼマ病 蜜蜂 微胞子虫

人畜共通感染症