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1 卒業研究 BS アンテナを用いた 宇宙電波源の観測 宇宙粒子研究室 学籍番号 10861018 齊藤 亮佑

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卒業研究

BSアンテナを用いた

宇宙電波源の観測

宇宙粒子研究室

学籍番号 10861018

齊藤 亮佑

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目次 1 目的 ・・・3

2 原理 ・・・3

2.1 電磁波とは ・・・3

2.2 電波の窓 ・・・3

2.3 電磁波とは ・・・4

2.4 太陽電波 ・・・7

2.5 電波銀河 ・・・7

2.6 宇宙電波源 ・・・8

2.7 赤道座標と銀河座標 ・・・8

2.8 3m口径電波望遠鏡について ・・・8

2.9 4GHz帯について ・・・9

2.10 アンテナの分解能と半値幅 ・・・10

2.11 マイクロ波検波増幅ユニット ・・・11

2.12 デジタルマルチメータ ・・・12

2.13 PC Link Plus ・・・12

3 実験方法について ・・・13

3.1 実験装置 ・・・13

3.2 野外での自動観測システムの開発 ・・・14

3.3 実験手順 ・・・15

4 結果 ・・・18

4.1 太陽電波の観測 ・・・18

4.2 月の観測 ・・・20

4.3 宇宙電波源の観測 ・・・22

5 結論・考察 ・・・24

参考文献 ・・・25

謝辞 ・・・25

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1.目的

3m口径電波望遠鏡を用いて、安定した自動観測システムを開発する。この電波望遠鏡によ

り宇宙電波源の探索を行い、信号の強度を比較する。

2.原理

2.1 電磁波とは

電磁波は空間の電場と磁場の変形によって形成された波動(波)である。電磁波の周期

的な変動が周囲の空間に横波となって伝播していく。基本的には空間中を直進していくが、

物質が存在している空間では、屈折・散乱・回折・反射・干渉・吸収などが起きる。真空

中を伝播する電磁波の速度は、3×108m/sである。

電磁波は波長によって、違った呼び方をされます。波長の長い順に、電波・マイクロ波・

テラヘルツ波・赤外線・可視光・紫外線・X線・γ線などと呼ばれる。

2・2 電波の窓

宇宙からやってくる電磁波の大部分は、地球の大気を通り抜ける間に吸収されてしまう。

そのため、地球に届くのは限られた波長域のものだけとなる。地上から宇宙を観測できる

電磁波としては、1mmから30m付近の電波と300nmから1000nm付近の可視光線がある。

地球大気に対して透明な電磁波の波長域を「大気の窓」という。大気の窓とは大気による

吸収の影響を受けずに地表に到達しやすい波長領域のことである。

大気の窓を通過する波長の主なものには、可視光線や赤外線(近赤外線)、一部の電波な

どがある。天文台からの天体観測や、気象衛星からの地表の観測などでは、光学望遠鏡や

電波望遠鏡を使用することによって大気の窓を利用し、観測を行っている。逆にX線やガン

マ線など、大気の窓を通らない波長は、地表から効率的に計測することができない。

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2.3 電磁波とは

電波の発生する仕組みには大きく分けて熱的放射(黒体輻射)と非熱的放射にわけられ

る。

2.3.1 熱的電波について

すべての物質はその種類に依らず、熱運動によって連続的な周波数分布をもつ電磁波を

放出している。これを、黒体輻射とよぶ。熱運動は考えている系の巨視的な変数である温

度T によって決まるので、黒体輻射も系の温度のみで決まる。1900 年にプランク(Planck) が

導いた公式により、温度T の黒体における単位面積・単位周波数あたりのエネルギー密度u

ν(T) は

と書ける。

各温度における黒体輻射スペクトルここで、h はPlanck 定数、kB はBoltzmann 定数である。

この式を、単位時間・単位立体角辺りに放出される電磁波のエネルギーIν(T) に書き直して

あげると、

となりる。

これによって、黒体の温度T と電波の周波数νから電磁波強度Iν が一意的に定まること、また逆に放出される電磁波の強度Iν と周波数ν から黒体の温度T が一意的に求めること

が分かる。次の図は、この電磁波強度を温度ごとに表したものである。

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各温度における黒体輻射のスペクトル(http://astro.dw.land/file/radio2004.pdf)

さて、電磁波の周波数ν が低く、また温度T が高ければ、hν << kBT として、黒体輻射

の強度の式は、

と近似できる。これは、h → 0 の極限におけるレイリー・ジーンズ(Rayleigh–Jeans) の法

則に他ならない。大部分の電波天文学の領域では、周波数が低いので、この近似は成立す

ると考えてよい。

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2.3.2 非熱的電波について

超新星残骸や電波銀河、クエーサーなどにおいて、天体の活動的な現象に伴った高エネ

ルギー電子によっても、電波は発生する。その代表的なものがシンクロトロン放射である。

電磁場がある空間を電子が運動すると、ローレンツ力によって、電子は円運動(サイクロ

トロン運動) をする。このとき電子が放出する電場の強度は、円軌道の動径方向に一番強く

なる。1個の電子によるシンクロトロン放射電子の速度を光速に近づけていくと、放射さ

れるエネルギーの大部分は動径方向のきわめて狭い幅の中に放射する。あるエネルギーE

を持つ1個の電子によるシンクロトロン放射強度の周波数分布は、詳しいことは省くと図

のようになり、

][66.4 2 MHzEBvm

にピークを持つ。ただし、単位は B [μガウス]、E[GeV] である。

実際の電波源は、多くの高エネルギー電子が集まって電波を放出している。すると、

・シンクロトロン自己吸収・・・シンクロトロン放射した電波が、同じ領域の他の電子に

吸収される現象。電波銀河やクエーサーに多い。

逆コンプトン効果・・・高エネルギーの電子が電磁波(フォトン) に衝突し、それを跳ね飛

ばす現象。密度の低い非熱的電波源に起こる。

このような現象が起こるので、図のようにはいかず、途中で折れ曲がった形のスペクトル

になってしまう。スペクトルの傾きが複数回変わることも多くあるので、逆にこのスペク

トルの形から、観測天体の性質を推測することが非常に重要なことになる。

1個の電子によるシンクロトロン放射

http://astro.dw.land/file/radio2004.pdf

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2.4 太陽電波

太陽からくる電波にはいろいろな波長があり、到達する様子は太陽の活動状況によって

も非常に変わる。波長によって発生源の温度が違うことがわかっている。波長1mでは1

00万度、30cmでは10万度、1cmでは1万度である。

波長の長い電波は太陽を囲む彩層やコロナ(電離したガス)によって吸収されてしまい

ます。】長い波長の電波が観測されたとすれば、それはコロナの外側付近が高温であること

を意味する。

黒点が多くなって太陽活動が活発になると黒点付近から強い電波が、また、特にフレア

が発生すると強烈な電波が発生ずる。そのときの電波の波長は、はじめは短く、だんだん

長い波長に移っていく。電波の発生源が低いところからだんだん高いところへ移っていく

ことを意味する。

2.5 電波銀河

電波源の形状によって、コンパクトのものと広がったものがある。コンパクト電波源は

電波放射が銀河中心コアから集中している。広がりのある電波銀河には、銀河の外側の空

間からやってくる電波が加わり、むしろ銀河本体からのものは減っている。コアの部分か

ら荷電粒子のジェットが噴き出すと広がった放射部分が増していく。そのプロセスは解明

されていないが、ブラックホールが原動力になっているらしい。ジェットが銀河空間へ注

ぎ込まれると全ての銀河同士の空間を満たす膨大な銀河間ガスと衝突する。ジェットのエ

ネルギー供給が銀河間ガスによる巨大なローブ状構造を形成する。そこからは、大量の電

波が放出され、その大きさは数百万光年のも及んでいる。

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2.6 宇宙電波源

ケンタウロスΑ (CenA)

強力な電波源としても有名な楕円銀河である。ケンタウロス座にある。見かけの大きさ

は満月の3分の1ほどで、大型望遠鏡で撮影すると、ややつぶれた円形で真ん中を横切る暗

黒物質の筋が生々しく確認できる。大変に活発な活動を続けていて、X線像や電波像で観察

すると、銀河の両極方向に銀河ジェットの噴出が確認できる。銀河中心部に巨大ブラック

ホールの存在などが考えられている。

M87 (VirA)

おとめ座銀河団の中心にあるM87は巨大な楕円銀河である。銀河の中心部からは可視光や

電波で見るとジェットが噴出しているのがわかる。噴流は直線状に5.000光年も伸びている。

強力なX線源となっている。

M1 (かに星雲)

あらゆる電磁波で明るく輝いていて、電波ではおうし座A電波源、X線ではおうし座X-1と

呼ばれる。M1の元となった星は、中性子雲(16等)として残っており、この中性子星から約

30秒分の1秒ごとに電波やX線が放射され、かにパルサーとして有名である。

2.7 赤道座標と銀河座標

赤道座標

地球の自転を基準とした座標系で、赤経と赤緯の2つの数値で表す。

赤経:春分点を基点とし、東回りに24時までの点を取る(1時 = 15°)。

赤緯:赤道面を基点とし、+90°~ -90°まで点を取る。

*B1950: 1950年に基づいたもの

*J2000: 2000年に基づいたもの

銀河座標

銀河系の天体の分布や運動を表すときに用いられ、銀河面と呼ばれる基準面を基点とした

座標系で、銀経と銀緯で表す。

銀経:銀河系の中心方向である射手座の一点を基点とし、24時までの点を取る。

銀緯:銀河面を天球上に投影した銀河赤道を基点とし、+90°~ -90°まで点を取る。

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2.8 3m口径電波望遠鏡について

今回使用した受信機はSPL-2920である。このSPL-2920のスペックは次の通りである。

受信周波数 3.4~4.2GHz

偏波特性 右旋円偏波

アンテナ有効径 3 m

コンバータ出力周波数 950~1750MHz

2.9 4GHz帯について

4GHz帯は地球大気による吸収が少ないことが知られている。

大気の効果は波長が短くなるほど大きくなる。特にミリ波の領域には、ところどころに水

蒸気や酸素分子による強い吸収が存在する。メートルはやデシメートル波では、大気の吸

収効果は精密な観測を除いて、無視することができる。

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2.10 アンテナの分解能と半値幅

アンテナがどの程度の視野を観測しているかを知るために、アンテナの分解能αを知る

必要がある。観測波長λ[m]、アンテナの口径 D[m]とすると、分解能αは、

から求められる。

実験に用いたアンテナは、

アンテナの口径:3m 観測波長:0.075

分解能αは 1.4°となる。

この分解能は、観測からも求められる。観測では「電波を受信している時の最大値と受

信していない時との中間値以上になっている時間(反復幅)」を測定することで求められる。

具体的には図の t1と t2の時刻を求め、この時間 t2-t1に地球が何度時点するかで求

める。

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2.11 マイクロ波検波増幅ユニット(RFD-1500)

ELECTRODESIGNCOPORATION

・アンテナ、RFD-1500 ユニット、デジタル電圧計(DVM)と組み合わせると電波望遠鏡を

構成することができる。

・パラボラへの電源供給、マイクロ波 IF増幅、分岐、直流の利得調整がこの装置のみでで

き、簡単に観測や実演を行うことができる。

・太陽電波の観測受信、天体からの電波放射などをデジタル電圧計(DVM)で測定実験を行

うためのセットである。

各部の名称と働き

RF IMPUT:パラボラアンテナからの信号を入力する F 端子。パラボラアンテナ用の電

源電圧が重畳されている。

RF OUTPUT:入力信号を約+15db増幅し分岐した出力。

DC ADJ:直流アンプ部の利得調整を行う。

DC+15V:+15Vを供給する電源端子。パラボラアンテナの受信機への電源もこの端子から

供給されている。

2.12 デジタルマルチメータ「PC5000」(三和電機計器株式会社製)

周波数範囲 0.15GHz ~ 2.5GHz

入力、分岐 RF出力 -8dBm ~ 40dBm

入力レベル バナナジャック

出力コネクタ 0.01 ~ 3.00 V

形状WDH DC15V

電源 DCアダプタ、出力ケーブル

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パソコン接続型(PC-LINK)

高絶縁・高圧力

真の実効値測定(AC/AC+DC)

5000&500000カウント(DCV/Hzのみ)

0.01 Ω 分解能

AC/DC 0.01mV 分解能

周波数/ロジック周波数測定

周波数 0.0001Hz 分解能

dBm測定(20種類のインピーダンス選択)

2.13 PC Link Plus

三和電機オリジナルソフトウェア「PC Link Plus」は、SANWAデジタルイマルチメー

タの PCシリーズをパソコンに接続して、DMMから出力されたデータを取得するためのデ

ータ取り込み専用ソフトである。操作画面上にはリアルタイムでグラフが表示される。そ

のため、測定値の変動を簡単に確認することができる。また、測定値は CSV形式のファイ

ルで保存されるため、Excel などの表計算ソフトウェアで直接読み込んで、データの加工や

印刷などが可能である。

3.実験方法について

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3.1 実験装置

装置図

装置は 3m口径パラボラアンテナ、受信機、マイクロは増幅ユニット、デジタルマルチメ

ータ、パーソナルコンピュータを組み合わせ、電波望遠鏡を構成することができる。

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3m 口径電波望遠鏡は宇宙電波の信号強度を測定するもので、アンテナで受信された

4GHz 帯の信号を、周波数コンバータで 1GHz 帯に落とし、増幅する。共同受信用ブース

タは、コンバータから出力された 1GHz 帯の中間周波数信号をさらに 30db 程度増幅する。

また、ブースタは同軸ケーブルを通してコンバータ直流信号 15V を供給する電源の役割も

する。ここまでは交流信号であるが、この交流信号をダイオードで整流して、直流電圧に

するのが検波器の役割である。

そして、この直流電圧をテスターで測定しパソコンに記録していく。

3.2 屋外での自動観測システムの開発

3m光景電波望遠鏡を屋外に設置し、2秒ごとに 1週間プロットしていく。そのため、観

測に必要な実験器具(検波器、テスター、ノートパソコンなどの電子機器)を野外に設置

しなければならない。そのため、実験器具を保護するための実験小屋を開発した。ジュラ

ルミンの屋根と壁、入口にラバー製の暖簾を付いた小屋を作成した。さらに、実験器具を

纏めたプラスチック製の BOXを小屋の中に入れた。このように、風雨、直射日光、衝撃を

凌ぎ、屋外での耐久力の高い観測環境を作り出した。

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3.3 実験手順

3.3.1 3m口径電波望遠鏡の方位角を南中に設定

太陽の南中時刻に電波望遠鏡を向ける。今回の実験では南中する天体のみを狙うので、そ

の方位から動かないように固定する。

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3.3.2 仰角の設定方法

パラボラアンテナの各部位間の長さを実測し、正弦定理、余弦定理から角度を計算できる。

支柱の高さを a、支柱からアンテナ円の中心までの長さを b、アンテナの半径を c と置き、

支柱の上端からアンテナの下端までの長さを d、アンテナの下端から支柱の下端までの長さ

を xとする。

角度 Cは、正弦定理を用いて、

角度 Xは余弦定理を用いて

と表される。よって仰角θは、

となる。

アンテナの下端から支柱の下端までの長さ x を変化させることで、仰角を設定することが

できる。

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3.3.3 太陽電波の観測

3m 口径電波望遠鏡を南の空に向け固定する。検波器のゲインは 0.5V になるように設定

する。ステラナビゲータ Ver.8 を用いて太陽の南中高度を調べる。(4.3.2)の方法を

用いて、調べた角度に仰角を設定する。そのままの状態で 1 週間太陽からの信号を観測す

る。得られたデータをグラフにプロットし、信号の大きさの増幅を調べる。

3.3.4 月の観測

ステラナビゲータ Ver.8を用いて月の南中高度を調べる。太陽と同様の方法を用いて、調

べた角度に仰角を設定する。そのままの状態で 1 週間月からの信号を観測する。得られた

データをグラフにプロットし、信号の大きさの増幅を調べる。

3.3.5 宇宙電波源の観測

3m口径電波望遠鏡の仰角を 1週間に一回 5°ずつ変化させていき、南中する宇宙電波源

の信号の連続した観測を試みる。

またステラナビゲータ Ver.8を用いて、Centaurus Α、VirgoΑ、Crab Nebulaといった

比較的発見しやすそうな宇宙電波源の南中高度を調べ、電波望遠鏡をその仰角に設定し観

測を試みる。

得られたデータを赤道座標、銀河座標のグラフにプロットする。

3.3.6 測定時の注意

テスターのオートパワーオフ機能の解除

RANGEボタンを押しながらファンクションスイッチを OFFから回す(電源を入れる)と

オートパワーオフ機能が解除される。

表示器には”dSAP0”が一瞬表示される。

レンジホールド機能(オートレンジ機能を切る)

RANGE ボタンを 1 回押すとマニュアルモードとなり、レンジが固定される。マニュアル

モードになると、このスイッチを押すたびにレンジが移動する。単位と小数点の位置を確

認し、適正レンジを選択する。

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4.結果

4.1 太陽電波の観測

次の図は、6月16日~23日までの観測した太陽の信号強度と時間をプロットしたグラ

フである。

仰角は 80°に設定した。

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結果を見ると、太陽の南中時刻である 12:00付近に強い信号が観測されている。

また、それ以外の時刻の短い間隔にて不規則に観測される大きな信号は飛行機や通信機な

どに影響されたノイズではないかと考えられる。

この中で、ピーク時にノイズが入っていない物のうち最も強い信号強度を観測できた6月

22日のグラフに注目してみる。

データを参照すると、11時 50分~12時 06分頃の信号が強くなっている。

3m口径電波望遠鏡の視野は 1.4度である

視直径 0.5度の太陽が電波望遠鏡の視野に入ってでるまで、2.4度動く。地球から見た太陽

は 0.25度/分動くので、視野に入って出るまで 9.6分かかる。

グラフを見ると、電波の信号が 16分程度入ってきているので、この信号はおよそ太陽から

のものだと解釈できる。

ピーク時 11時 58 分の信号強度は 1.27Vであった。電波を観測していない安定した時間帯

での信号の大きさの平均は 0.35Vなので、太陽電波の信号強度は 0.92Vと計算できる。

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4.2 月の観測

ステラナビゲータ Ver.8 を用いて10月の第3週の月の南中時刻とその高度を調べた結果、

次のようになった。

日付 南中時刻 南中高度

10/15 1:32 74.7°

10/16 2:20 76.3°

10/17 3:10 77.7°

10/18 4:00 77.5°

10/19 4:52 76.6°

この予想を元に仰角を 75°に合わせ、太陽観測時よりテスターのゲインを小さく設定し、

月電波の観測を試みた。

次の図は、10月15日~19日までの月の信号強度と時間をプロットしたグラフである。

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予想された時刻に月からの電波と思われる強い信号を観測した。

この中で最も強い信号強度を観測できた10月19日のデータに注目してみる。

今回の観測から観測データ上に現れるノイズを除去したグラフを作成した。

青 が実測値の曲線

紫 がノイズを除いた曲線

ピーク時 4時 47 分の信号の大きさは 0.471Vであった。電波を観測していない安定した時

間帯での信号の大きさの平均は0.445Vなので、月電波の信号強度は0.026Vと計算できる。

これは太陽から観測された信号強度の約 3%である。

また、太陽の観測時と比べ昼間の何もない空から観測される信号強度が大きく減少してし

まっている。

気温の影響も考えられるが、原因はわかりませんでした。

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4.3 宇宙電波源の観測

3m口径電波望遠鏡の仰角を 1週間に一回 5°ずつ変化させていき、南中する宇宙電波源

の信号を観測できないかを試みた。

観測開始日 観測終了日 設定高度

10月 21日 11月 3日 30°

11月 4日 11月 11日 45°

11月 11日 11月 14日 50°

12月 2日 12月 6日 55°

12月 6日 12月 9日 60°

しかし、いずれのデータからも宇宙電波源は観測出来そうもなかったため、月の観測時と

同様に目標の天体を定め、その高度へ向けた信号の観測を行うことにした。

まず、主な電波天体をリストアップする。

電波銀河およびクエーサー

名称 星座 赤経 赤緯 電波強度(2.7GHz)

PKS 1322-42 Cen A 13h 25.3m -43°01' 890 Jy

3C 405 Cyg A 19h 59.5m +40°44' 785 Jy

PKS 0320-37 For A 03h 22.6m -37°14' 94 Jy

3C 274 Vir A 12h 30.8m +12°23' 118. 5 Jy

超新星残骸(SNR)

名称 星座 赤経 赤緯 電波強度(2.7GHz)

Cas A カシオペア座 23h 23.4m +58°49' 2720 Jy

Vela XYZ 08h 33.9m -45°11' 1750 Jy

Tau A かに星雲 M1 05h 34.5m +22°01' 1040 Jy

Cygns Loop 網状星雲 20h 50.0m +30°34' 210 Jy

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これらの天体をステラナビゲータ Ver8で調べ、南中し信号強度が強い Cen Aと、南中高度

の高い Vir A、かに星雲M1の観測を行うことにした。

次の日程表の通りに仰角を設定し、信号の観測を行なった。

観測天体 観測時期 南中時刻 南中高度

ケンタウルス座Α 12/24 ~ 12/27 7:10前後 12°

おとめ座Α (M87) 12/27 ~ 12/31 6:00前後 67°

かに星雲 12/31 ~ 1/6 22:50前後 77°

次の図が観測した全データを赤道座標系、銀河座標系にそれぞれプロットしたものです。

宇宙電波源が検出できると予想される地点に、その天体の名前をプロットした。

しかし、目標とした天体の信号を検出することは出来なかった。

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5.結論 ・ 考察

3m口径電波望遠鏡を用いて、安定した自動観測システムを開発した。この電波望遠鏡に

よって太陽電波、月電波の観測に成功した。

観測できる太陽電波の信号強度は 0.92V程度、月電波の信号強度は 0.026V程度であり、

月電波の信号強度は太陽電波の信号強度の約 3%程度であった。

宇宙電波源からの信号を測定したが、検出するには至らなかった。太陽および月の観測

結果から考察すると、信号強度が太陽の 1%程もあれば充分に観測できると予想できる。こ

のため、目標とした宇宙電波源の信号強度が電波望遠鏡の感度に達しない太陽の 1%以下で

あるということが言える。

観測結果からノイズを極力減らし、電波望遠鏡の感度を上げることで改善されるのでは

ないかと思われる。

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参考文献

1) ステラナビゲータ Ver.8

2) マイクロ波検波増幅ユニット「RFD-1500」(エレクトロデザイン株式会社)

3) デジタルマルチメータ、PC Link Plus(三和電気計器株式会社)

4) 理科年表 平成 21年版

謝辞

本研究を行うに当たり熱心なご指導をしてくださいました宇宙粒子研究室 山本准教授、

梶野教授、飯島先輩に心から感謝いたします。