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1/24 GRIPS 文化政策 自治体文化政策 自治体文化政策 自治体文化政策 自治体文化政策の現況 現況 現況 現況と課題 課題 課題 課題:茨城県 茨城県 茨城県 茨城県の 1 はじめに 我が国におけ文化政策においては, 地方自体の果たす役割はきい。例 えば,文化庁の歳出予算も全国の 地方自体の文化関係経費合計した 額の方がきく 2 ,美術館の約 7 割,文 化会館の約 9 割が自体にって設置 さてい 3 。累次にた地方分権改 革にって,地方自体の権限と責任 が重み増してい今日,文化政策の 分野においても,自体の実情と課題 把握しておくことは必要であ。 とこが,地方自体の文化政策の 実態明かにした研究は非常に限 てい。さに,地方自体の中で も,基礎自体であ市町に関す 研究に比して,広域自体であ都道 府県の文化政策扱った研究は少 ないのが現状であ。 1 稿は,竹内潔(政策研究学院学文化政策修士 2 年)が平成 252013)年 2 3 にかけて(2 12 日(火),2 28 日(),3 1 日(金),3 15 日(金)の4 回)茨城県生環境部生文化課に対して行ったもとに構成さてい。 2 図1は文化庁長官官房政策課『平成 24 年度 我が国の文化政策』(2012 年)及び文化庁『平 24 年度 地方におけ文化行政の状について』(2012 年)に作成。 3 図2及び図3は平成 23 年度社会教育調査(博物館調査及び文化会館調査)に作成。博物 館数は,登録博物館数,博物館相当施設数,博物館類似施設数の合計。 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=0000010172540 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 文化庁 予算 地方文化 関係経費 図 1 文化庁予算及び地方文化関係経費 億円 年度 地方 自治体 4,246館 74% 一般 社団 ・財団 法人等 519館 9% その他 780館 14% 独立行 政法人 77館 1% 125館 2% 独立行 政法人 6館 0.3% 私立 118館 6.3% 地方 自治体 1,742館 93.4% 総数 5,747 館 総数 1,866 館 図 2 設置者別博物館数 (H23.10.1 現在) 図 3 設置者別文化会館数 (H23.10.1 現在)

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GRIPS 文化政策ケースシリーズ

自治体文化政策自治体文化政策自治体文化政策自治体文化政策のののの現況現況現況現況とととと課題課題課題課題::::茨城県茨城県茨城県茨城県ののののケースケースケースケース1

はじめに

我が国における文化政策においては,

地方自治体の果たす役割は大きい。例

えば,文化庁の歳出予算よりも全国の

地方自治体の文化関係経費を合計した

額の方が大きく2,美術館の約 7 割,文

化会館の約 9 割が自治体によって設置

されている3。累次にわたる地方分権改

革によって,地方自治体の権限と責任

が重みを増している今日,文化政策の

分野においても,自治体の実情と課題

を把握しておくことは必要である。

ところが,地方自治体の文化政策の

実態を明らかにした研究は非常に限ら

れている。さらに,地方自治体の中で

も,基礎自治体である市町村に関する

研究に比して,広域自治体である都道

府県の文化政策を扱った研究はより少

ないのが現状である。

1 本稿は,竹内潔(政策研究大学院大学文化政策プログラム修士 2年)が平成 25(2013)年 2月から 3月にかけて(2月 12日(火),2月 28日(木),3月 1日(金),3月 15日(金)の4

回)茨城県生活環境部生活文化課に対して行ったインタビューをもとに構成されている。 2 図1は文化庁長官官房政策課『平成 24年度 我が国の文化政策』(2012年)及び文化庁『平

成 24年度 地方における文化行政の状況について』(2012年)により作成。 3 図2及び図3は平成 23年度社会教育調査(博物館調査及び文化会館調査)により作成。博物

館数は,登録博物館数,博物館相当施設数,博物館類似施設数の合計。 (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001017254)

0

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H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22

文化庁予算

地方文化関係経費

図 1 文化庁予算及び地方文化関係経費

億円

年度

地方自治体4,246館

74%

一般社団・財団法人等519館

9%

その他780館14%

独立行政法人77館1%

国125館

2%

独立行政法人

6館0.3%

私立118館6.3%

地方自治体1,742館93.4%

総数

5,747 館

総数

1,866 館

図 2 設置者別博物館数

(H23.10.1 現在)

図 3 設置者別文化会館数

(H23.10.1 現在)

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本稿では,都道府県のうち,文化に関する資源が特に集中する東京に近接し,ある程度

の都市文化を発展させつつも,広大な農村部を擁しており,日本全体の縮図ないし標準と

もなり得る団体の一つとして,茨城県を取り上げ,文化政策の現状と課題を見ていく。

以下,第 1 章で茨城県の概要を見た後,第 2 章で茨城県の各種計画のうち,文化政策に

関係するものを整理する。続く第 3 章で,文化政策の所管組織を確認したあと,第 4 章で

平成 24(2012)年度の具体的な事業について詳しく見ていく。さらに,第 5 章で文化庁が

毎年度取りまとめている「地方における文化行政の状況について」(以下,「文化庁資料」

という。)から茨城県のデータを取り出し,経年的に俯瞰する。最後に,第 6 章で茨城県の

文化政策が当面する課題について触れる。

なお,各章の参考文献及び URL は,脚注にその都度示しているほか,文末にもまとめて

掲載している。

1 茨城県の概要

1.1 県土

茨城県は,関東地方の北東に位置し,

首都東京から県南の取手市までは約

40km,県都の水戸市までは約 100km の

圏内にあり,首都圏を構成している。

県土の総面積 6,095.72 ㎢で,都道府県

別では第 24 位4だが,可住地面積をみる

と,3,981.73 ㎢で,全国 4 位5となってい

る。北部から北西部にかけて山地(久

慈・多賀・八溝)が連なり,南走して筑

波山に至っていることと,南東部に日本第二の湖霞ケ浦及び北浦が広がっていることを除

くと,県中央部から南西部にかけて広がる常総平野(関東平野の一部)を中心に平坦な地

形が多いことが特徴である。

1.2 歴史6

茨城県の県土は,常陸国風土記(養老 7(723)年頃成立)に「常世の国」と記されるほ

ど,古来から豊かな土地であったとされる。

大化 2(646)年の大化改新の詔では,多珂・久慈・那賀・茨城・筑波・新治の 6 国をあ

4 平成 23(2011)年 10月 1日現在。出典:総務省統計局「社会生活統計指標―都道府県の指

標―2013」(平成 25(2013)年 2月 13日公表),表 B自然環境。 (URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001046068&cycode=0) 5 同上。 6 本節については,茨城県ホームページ中の「茨城を知る 県政の歩み」の頁に掲載された年表

を参照して記述している。(URL:http://www.pref.ibaraki.jp/profile/kensei_history.html)

図 4 茨城県の位置(「茨城の観光スポット」

http://www.spots.jp/ibaraki.html より転載)

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わせて常陸国とし,石岡に国衙が置かれた。10 世紀前半には武士が台頭し,天慶 2(939)

年には平将門が常陸国府などを襲う「将門の乱」が起こっている。武士の世にあって,京

を離れた公卿の北畠親房が小田城(現つくば市)で延元 4(暦応 2,1339)年に「神皇正統

記」を著した。戦国時代には,佐竹氏が常陸国を統一し隆盛を誇ったが,関ヶ原の戦いの

後,徳川家康の命により出羽国秋田へ国替えとなり,江戸時代には水戸に徳川家の藩が置

かれた。明徳 3(1657)年,水戸藩第 2 代藩主の徳川光圀が「大日本史」の編纂に着手,天

保 13(1842)年には第 9 第藩主徳川斉昭が偕楽園を開いた。斉昭の第 7 子慶喜は慶応 2(1866)

年に江戸幕府第 15 代将軍となり,翌年大政奉還を行った。

明治 4(1871)年の廃藩置県と府県統合で茨城県が誕生し,明治 8(1875)年に新治県の

一部と千葉県の一部を併合し,現在の県域となった。

1.3 人口

茨城県の人口は,平成 23(2011)年 10 月 1 日現在で 2,957,706 人(都道府県別で第 11 位)

である7。

居住地は広大な平野部に広がっており,県都で県内 44 市町村中最大の人口を擁する水戸

市でも 269,025 人8と,30 万人に満たない。

国勢調査人口で見ると,平成 12(2000)年 10 月 1 日現在の 2,985,676 人をピークに減少

に転じており9,平成 22 年 10 月 1 日現在の老年人口比率は,全国平均(23.01%)はやや下

回っているが,22.50%に達している10。

1.4 経済

経済面での特徴は,農業産出額が全国第2位(4,097 億円,平成 23(2011)年)11という

農業県であるとともに,製造品出荷額も全国第8位(106,201 億円,平成 23(2011)年)12と

上位に位置している。いずれも,首都圏の需要を背景に,広大な土地を耕地や工業団地と

して有効に活用していることがうかがえる。

7 総務省統計局「人口推計(平成 23年 10月 1日現在)」(平成 24(2012)年 4月 17日公表)

の「参考表5 都道府県,男女別人口の計算表」による。 (URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001088119) 8 茨城県ホームページ(茨城県企画部統計課)「いばらき統計情報ネットワーク 茨城県の人口

と世帯(推計)―平成 23年 10月 1日現在―」による。 (URL:http://www.pref.ibaraki.jp/tokei/betu/jinko/getsu/jinkou1110.html) 9 同上 10 総務省統計局「平成 22年国勢調査」(平成 23(2011)10月 26日公表)の人口等基本集計,

全国結果(表 3-1)及び都道府県結果(08茨城県,表 3-1)による。 (URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001039448) 11 農林水産省「平成 23年生産農業所得統計」(2012)の「都道府県別農業産出額及び生産農業

所得実額」による。(URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001104918) 12 経済産業省「平成 24年経済センサス‐活動調査の結果(製造業)」(2013)の「第 22表都道

府県別製造品出荷額等」による。(URL:http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/hyo.html)

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1.5 交通

交通網として,JR常磐線,つくばエクスプレス線,常磐自動車道といった南北に走る

路線での東京へのアクセスが充実しているほか,JR水戸線,北関東自動車道等の東西の

路線も整備され,北関東3県(茨城県・栃木県・群馬県)の結びつきが強まっている。ま

た,日立・常陸那珂・大洗の3港区からなる茨城港と鹿島港という海運の拠点,さらには

茨城空港も整備されるなど,陸・海・空の交通インフラが充実したことにより,「物流や観

光,文化など様々な分野における交流が促進されるものと期待」13されている。

1.6 財政

茨城県の平成 24(2012)年度当初予算の一般会計の規模は 1 兆 1,078 億円で,前年度比

は 6.5%の増となっている。ただし,このうち 1,062 億円は東日本大震災関連分で,これを

除くと 3.7%の減であり,「厳しい財政状況を踏まえ,引き続き実施している徹底した事務事

業の見直しを反映」14している。

2 茨城県における文化政策

2.1 茨城県総合計画の中での位置づけ

茨城県は,県政の総合的な指針として,総合計画15を策定している。現行の総合計画は,

平成 23(2011)年 4 月に策定され,東日本大震災を踏まえて平成 24(2012)年 3 月に改定

された「茨城県総合計画 いきいき いばらき生活大県プラン(改定)」である。

この総合計画は,3 部構成となっている。「計画の推進のために」(基本姿勢)のされてい

る。第 1 部の基本構想では,概ね四半世紀後(平成 47(2035)年を展望した「いばらきの

目指す姿」として,基本理念「みんなで創る 人が輝く元気で住みよい いばらき」と 3

つの目標「住みよいいばらき」「人が輝くいばらき」「活力あるいばらき」を掲げている。

第 2 部の「基本計画」では,平成 23(2011)~27(2015)年度の 5 年間で実施するものと

して,上述の「3 つの目標」の下に合計 11 の「政策」,その下に合計 60「施策」を体系的に

列挙し,さらに,分野横断的に推進すべき 12 の施策群を「生活大県プロジェクト」として

13 茨城県企画部企画課『茨城県総合計画(改訂)いきいき いばらき 生活大県プラン』(2012),

p.17「第 1 部‐第 1 章‐第 2 項‐第 2 節 広域交通ネットワークの構成」より。本節は全体とし

て同頁の記述を参考としている。(URL:http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/kikaku/kikakuka/kikaku1_sougo/ikiikiplan/plan-kaitei_index.html) 14 茨城県「第1回定例会 平成 24年度予算案関係資料」(2012),p.8。なお,本節の計数はす

べて同頁による。(URL:http://www.pref.ibaraki.jp/yosan/201202/01.pdf) 15 平成 23(2011)年の改正前の地方自治法(第 2 条第 4 項)では,市町村はいわゆる総合計画

に相当するもの(基本構想)の策定が義務付けられていたが,地方分権改革(義務付け廃止)の

一環で,同規定が削除された。なお,都道府県に関しては,同改正以前から義務規定はない。し

かし,住民に対して県政の方針を明らかにするとともに,事務事業の執行にあたっての指針とす

るため,実際には多くの自治体(都道府県を含む)で総合計画に相当するものを策定している。

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掲げている。

文化政策に関する施策は,第 2 の目標「人が輝くいばらきづくり」の中に位置づけられ

ている。その中心は,「政策 2 豊かな人間性を育む地域づくり」「施策③ 歴史・芸術・文

化の薫り高い地域づくり」であり,また,「政策 1 いばらきを担うたくましい人づくり」

「施策⑧ 多様な高度人材の育成」にも一部含まれている。

また,総合計画と別に,各部門別の計画が多数策定されている。これらの部門別計画も,

総合計画を補完する計画として,総合計画の中で関連を明示されている。文化政策に関す

る部門別計画としては,「人が輝くいばらきづくり」を補完する「主要な計画」として「い

ばらき教育プラン」,それに次ぐ「その他の計画」として「いばらき文化振興ビジョン」が

位置づけられている。

茨城県総合計画 いきいき いばらき生活大県プラン(改定)

第1部 基本構想 └第2章 いばらきの目指す姿

・基本理念:みんなで創る 人が輝く元気で住みよい いばらき ・3つの目標 1 住みよいいばらき

2 人が輝くいばらき 3 活力あるいばらき

第2部 基本計画 └第1章 政策展開の基本方向(11 の政策・60 の施策)

└1 住みよいいばらきづくり(4つの政策・21 の施策) └2 人が輝くいばらきづくり(3つの政策・17 の施策) └政策1 いばらきを担うたくましい人づくり(8つの施策)

└施策⑧ 多様な高度人材の育成(主な取り組み:6項目うち文化政策関係 1項目) └政策2 豊かな人間性をはぐくむ地域づくり(3つの施策)

└施策③ 歴史・芸術・文化の薫り高い地域づくり (主な取り組み:7 項目(すべて文化政策関係)) └政策3 互いに認め合い支えあう社会づくり(6つの施策)

└3 活力あるいばらきづくり(4つの政策・22 の施策) 第3部 計画の推進のために(全 7 項目) └7 総合計画と各部門計画との役割分担の明確化

県総合計画 各部門別計画

(県政に関する主要な計画) (その他の主な計画)

住みよいいばらきづくり 5 件 12 件

人が輝くいばらきづくり 2 件:①いばらき教育プラン 5 件:④いばらき文化振興ビジョン

活力あるいばらきづくり 4 件 4 件

図 5 茨城県総合計画 いきいき いばらき生活大県プラン(改定)の構成と文化政策の位置づけ

2.2 いばらき教育プラン

「いばらき教育プラン」は,茨城県における第 10 次の教育計画に相当し,前述の総合計

画の部門別計画としての整合性を確保しつつ,平成 23(2011)年に策定されている(計画

期間:平成 23(2011)~27(2015)年度)。また,教育基本法第 17 条第 2 項により地方自

治体で策定することが求められている,県の教育振興基本計画としても位置づけられてい

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る。

学校教育など教育全般にわたる方針を定めた同プランの中に,文化政策に関係する項目

がいくつか見られる。主なものとしては,「第 4 章 生涯にわたって学べる環境づくり」の

中に,「第 2 項 心に潤いと感動をもたらす文化芸術活動の推進」の項が設けられ,「全国

高等学校総合文化祭茨城大会の開催」「幼い頃から文化芸術に触れるための環境づくり」「地

域に根ざした伝統文化の継承」「美術館・博物館活動の充実と活用」「文化財の保護活用」

の 5 節が掲げられている。また,関連するものとしては,「第 3 章 第 1 項 豊かな心を育

む教育の充実」の中でも,「郷土の伝統と文化への愛着を高める教育の推進」という 1 節が

設けられている。

いばらき教育プラン

第 1 章 社会全体での教育力の向上

第 2 章 未来に羽ばたく力を育てる教育の充実

第 3章 豊かな心と健やかな体の育成(全 5 項)

└第 1項 豊かな心をはぐくむ教育の充実(全 6 節)

└第 5節 郷土の伝統と文化への愛着を高める教育の推進 第 4章 生涯にわたって学べる環境づくり(全 3 項)

└第 2 項 心に潤いと感動をもたらす文化芸術活動の推進 └第 1節 全国高等学校総合文化祭茨城大会の開催 └第 2節 幼い頃から文化芸術に触れるための環境づくり └第 3節 地域に根ざした伝統文化の継承 └第 4節 美術館・博物館活動の充実と活用 └第 5節 文化財の保護活用

図 6 いばらき教育プランの構成と文化政策の位置づけ

2.3 いばらき文化振興ビジョン

茨城県の文化政策の全体像をまとめた「いばらき文化振興ビジョン」は,平成 15(2003)

年度末(平成 16(2004)年 3 月)に策定された。同ビジョン策定に先立つ平成 13(2001)

年度に,県は文化振興に対する県民意識調査等(県営文化施設入館者に対するアンケート

調査,市町村文化関係事務所管課に対するアンケート調査,県政世論調査)を実施してい

る。なお同年 12 月 7 日には,国において文化芸術振興基本法が公布されている。さらに,

翌平成 14(2002)年度には,有識者による「茨城県文化振興懇談会」を設置,3 回の会議

での検討を行っている。

同ビジョンでは,まず,策定の趣旨として,文化芸術振興基本法に基づいて国が閣議決

定した「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(平成 14(2002)年 12 月 10 日閣議決定)

に示された「文化の意義」を引用しつつ,文化振興の必要性を述べている。また,当時の

茨城県長期総合計画が掲げていた「文化の香り高い茨城づくり」を目指すとして,概ね平

成 32(2020)年頃を展望した文化振興の理念・方向を示している。

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いばらき文化振興ビジョンの構成

第 1章 文化振興ビジョン策定の趣旨 第 2章 いばらきの文化 第 3章 基本目標 └県土すべてが文化の舞台(ステージ)「元気茨城」の創造

第 4章 文化振興に関する基本的な姿勢と視点 └文化の裾野は広く理想は高く └県民一人ひとりが主役となる └地域の特性を大切にする └地域の活性化に文化を活かす 第 5章 県における文化振興の基本方策 └1 文化芸術活動の活性化 └2 文化的遺産及び地域伝統文化の保存・継承・活用 └3 文化交流の活性化とネットワークづくり └4 恵み豊かな自然との共生と文化的な環境の創出 第 6章 施策の実現に向けて └1 県民一人ひとりに期待される役割 └2 文化団体に期待される役割 └3 (財)いばらき文化振興財団に期待される役割 └4 県民運動組織に期待される役割 └5 法人等に期待される役割 └6 市町村に期待される役割 └7 県の役割 資料編 └1 茨城県文化振興懇談会委員からの提言(9名) └2 県民意識調査等の結果

図 7 いばらき文化振興ビジョンの構成

続いて,「いばらきの文化」の代表的な事例を紹介した上で,基本目標に「県土すべてが

文化の舞台(ステージ)『元気いばらき』の創造」を掲げ,4 点の基本的な姿勢と視点とし

て「文化の裾野は広く 理想は高く」「県民一人ひとりが主役となる」「地域の特性を大切

にする」「地域の活性化に文化を活かす」を示している。

そして,県が実施する基本方策として,4 つのテーマ「文化芸術活動の活性化」「文化的

遺産及び地域伝統文化の保存・継承・活用」「文化交流の活性化とネットワークづくり」「恵

み豊かな自然との共生と文化的な環境の創出」を掲げ,芸術文化,文化財,国際交流,文

化的景観などに幅広く言及している。

最後に,関係各主体(県民,文化団体,(財)いばらき文化振興財団,県民運動組織,法

人等,市町村,県)に期待される役割が整理されている。なお,資料として,策定にかか

わった 9 名の茨城県文化振興懇談会委員からの提言も掲載されている。

茨城県では,平成 25(2013)年 3 月現在で文化振興に関する条例は制定されておらず,

このビジョンが文化政策のよりどころとなるべきものであるが,策定からこれまでに見直

しはなされていない。

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3 文化政策の所管組織

3.1 教育委員会と首長部局の役割分担(法制上の位置づけ)

地方自治体における文化に関する事務は,法的には原則として教育委員会の事務とされ

ている。具体的には,地方自治法第 180 条の 8 に「教育委員会は,別に法律に定めるとこ

ろにより,(中略)社会教育その他の教育,学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを

執行する。」と規定されている。

一方で,教育委員会の組織や権限等について定めた地方教育行政の組織及び運営に関す

る法律(以下,「地教行法」という。)では,平成 20(2008)年 4月 1日施行の同法改正に

より,「文化に関すること」が「スポーツに関すること」と並んで,特例として首長部局で

管理・執行することができる旨が明記された16。

ただし,この法改正以前から,補助執行等の制度を利用して文化行政について首長部局

で管理・執行する現実が先行しており,本件法改正は,規制改革及び地方分権改革の一環

として,この現実を追認する形で実現したものと見ることが妥当であろう。

3.2 茨城県における教育委員会と知事部局の役割分担

茨城県においては,上述の地教行法改正以前から,

教育委員会の文化課と並んで,知事部局の生活環境部

生活文化課が文化政策の主な所管部署となっている。

これらは,文化庁資料に文化関係の所管部署として報

告されている。

なお,以下に見る生活環境部生活文化課(文化振興

担当分)と教育庁文化課(芸術文化及び文化財保護を

含む)の平成 24(2012)年度予算額(災害復旧費を除

く)をグラフで示すと,右のようになっている。両課

の合計は約 12.9 億円で,教育庁文化課と生活環境部生

活文化課の予算比率は概ね 6:4 となっている。

3.3 生活環境部生活文化課

生活環境部生活文化課は,茨城県行政組織規則(昭和 36 年茨城県規則第 6 号)により「文

化行政の企画及び調整に関すること。」を分掌事務としている17。文化庁資料には,同課が

文化振興全般のとりまとめ担当部署であるとともに,芸術文化担当部署としても報告され

ている。一方,同課は文化行政以外の多数の分掌事務がある。具体的には,同課内に県民

運動推進室(特定非営利活動促進法も扱う)及び交通安全対策室を擁しているほか,消費

者行政も所管し,さらに部の筆頭課(幹事課)として,部内全体の総務も取り扱っている。

16 条文は付属資料1として後掲。 17 生活文化課の分掌事務の一覧は付属資料2として後掲。

図 8 茨城県生活環境部生活文化課及び教育庁文化課の

平成 24 年度文化政策関連予算額(災害復旧費を除く)

教育庁文化課

7.94億円62%

生活環境部生活文化課

4.96億円38%

合計

12.9 億円

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3.4 教育庁文化課

教育庁文化課は,茨城県教育委員会事務局組織規則(昭和 40 年茨城県教育委員会規則第

4 号)の規定により,「芸術文化に関すること(学校教育に関するものに限る。)」が分掌事

務となっている。ここで,「学校教育に関するものに限る。」とされているのは,学校教育

に関するもの以外の芸術文化に関することは,知事部局の生活環境部生活文化課の分掌事

務であると解される。ただし,市町村や民間の美術館を含む「博物館に関すること」並び

に県立の施設である「茨城県近代美術館」(分館たるつくば美術館,天心記念五浦美術館を

含む)「茨城県陶芸美術館」「県立歴史館」「ミュージアムパーク茨城県自然博物館」に関す

ることは教育庁文化課の分掌事務である。また,平成 26 年度に第 38 回全国高等学校総合

文化祭が茨城県で開催されることから,その開催準備室が同課内に設置されている。なお,

「文化財に関すること。」及び「銃砲刀剣類の登録に関すること。」も教育庁文化課の所掌

事務となっている18。以上により,文化庁資料には,教育庁文化課が芸術文化担当部署及び

文化財保護担当部署として報告されている。

4 茨城県における文化政策に関する具体的な事業(平成 24(2012)年度)

4.1 生活環境部生活文化課の事業

ここでは,生活文化課の平成 24(2012)年度における文化政策に関する事業について,

「平成 24 年度 生活環境部の概要」(以下,「部の概要」という。)に沿って見ていく19。

部の概要では,まず,県総合計画の体系に沿って主要な施策が整理されており,このう

ち文化政策に関するものとして 5 つの事業(予算額計 69,130 千円)が挙げられている。

生活文化課の予算としては,主要施策体系に掲げられたこれら 5 事業のほかに,文化施

設・団体等に関するもの(427,121 千円)及び茨城県立県民文化センター災害復旧費(377,636

千円)があり,上記を大きく上回る金額が計上されている。

表 1 生活環境部生活文化課の文化政策関係予算(平成 24(2012)年度)

主要施策 (県総合計画の中での位置づけ) 1 茨城県芸術祭開催費 (目標2-政策2-施策⑧) 2 いばらき文化芸術創造・発信事業(目標2-政策3-施策③) 3 文化の担い手育成事業 ( 同上 ) 4 文化を支える新しい力創造事業 ( 同上 ) 5 郷土の先人普及宣伝事業 ( 同上 )

小計1(X=①+②+③+④+⑤)

H24 予算額 15,000 千円① 32,290 千円② 14,281 千円③ 4,063 千円④ 3,496 千円⑤

69,130 千円X

6 文化施設・文化振興財団等関係(7を除く) 7 茨城県立県民文化センター災害復旧費

小計2(Y=⑥+⑦)

427,121 千円⑥ 377,636 千円⑦ 804,757 千円Y

小計3(災害復旧費除く)(Z=X+⑥) 496,251 千円Z

総計(災害復旧費含む)(T=X+Y) 873,887 千円TTTT

18 教育庁文化課の所掌事務の一覧は付属資料3として後掲 19 本章は,部の概要の構成に従いつつ,文末の参考文献及びURL並びに生活文化課へのイン

タビューをもとに記述している。

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4.1.1 茨城県芸術祭(15,000 千円)

平成 24(2012)年度で第 47 回を迎えた伝統ある事業である。毎年秋に数か月間(平成

24 年度は 10 月から 1 月の約 4 か月),水戸の茨城県立県民文化センターほか県内各地の文

化施設等で,美術・音楽・舞踊・芸能・古典芸能・演劇/映画・文学の 7 部門にわたる合計

33 種目について県内の各文化団体の主催により展覧会・公演会等が開催される。

運営にあたっては,「茨城県芸術祭実行委員会」を組織し,県も参画して負担金(15,000

千円)を支出している。日程や企画の調整,予算の配分などの実質的な事務は昭和 41 年の

第 1 回から県内文化団体の連合組織である「茨城文化団体連合」が担っており,行政主導

ではなく,民間主導で継続してきているところに特徴がある。

表 2 茨城県芸術祭開催種目

部門 部門名称 内容

第1部 美術 美術展覧会(日本画,洋画,彫刻,工芸美術,書,写真,デザイン)

第2部 音楽 合唱演奏会,吹奏楽コンサート,県民コンサート(声楽・器楽),オーケストラ演奏会,オペラ公演,ジャズコンサート,三曲演奏会

第3部 舞踊 バレエフェスティバル,日本舞踊大会

第4部 芸能 民謡民舞大会,吟詠剣詩舞大会,民舞大会

第5部 古典芸能 能楽大会,いけばな展,茶会

第6部 演劇・映画 演劇祭,映像祭

第7部 文学 小説(童話),文芸評論,詩(民謡・童謡),短歌,俳句,川柳,連句

4.1.2 いばらき文化芸術創造・発信事業(32,290 千円)

文化庁の平成 24(2012)年度補助事業である「地域発・文化芸術創造発信イニシアチブ」

事業のうち東日本大震災の被災県が対象となる「文化芸術による『心の復興』事業」を活

用して,被災から 1 年 5 か月を経て復旧した茨城県立県民文化センター大ホールをはじめ,

県内各地でコンサート等を開催する。なお,これらの事業は県民文化センターの指定管理

者でもある(財)いばらき文化振興財団に事業委託の形で実施される。(32,290 千円)

表 3 いばらき文化芸術創造・発信事業 公演内容

公演名 開催日 会場 内容

中丸三千繪コンサート H24.8.31 県民文化センター 茨城県出身のソプラノ歌手である中丸三千繪氏のコンサート

宗次郎コンサート H24.9.2 県民文化センター 茨城県在住で活動するオカリナ奏者である宗次郎氏のコンサート

チャイコフスキー記念 国立モスクワ音楽院 日露交歓コンサート

H24.9.20 H24.9.21

県民文化センター 日立シビックセンター

ロシア人演奏家によるクラシックコンサート

ソフィア国立歌劇場 オペラ「トスカ」

H24.11.13 県民文化センター ブルガリアの国立歌劇場によるオペラ公演

水戸室内管弦楽団メンバーによる公開レッスン

H24.10.22 H25.1.16

県民文化センター つくばノバホール

県内の高校生を対象とした水戸室内管弦楽団のメンバーによる公開レッスン(平成 26 年度に本県で開催する全国高等学校総合文化祭に向けた取り組み)

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4.1.3 文化の担い手育成事業(14,281 千円)

茨城県在住・在職等の新人演奏家(30 歳まで)を対象に,コンクール形式の「新人演奏

会」を年 1 回実施する(平成 24(2012)年度は 10 月 14 日に開催)。また,同演奏会の出演

者等を登録し,県内小中学校等へ派遣して演奏活動を行う「音楽出前講座」を併せて実施

している。

新人演奏会は平成 24(2012)年度で第 38 回を数え,茨城県芸術祭と並んで歴史ある事業

となっている。本演奏会では,事前のオーディションで選出された約 15 名の出演者の中か

ら,選考委員による審査で新人賞及び奨励賞が,観客の投票により聴衆賞の受賞者が選出

される。なお,対象種目は,ピアノ,声楽,管楽器,弦楽器,打楽器,箏・尺八・三味線

音楽(長唄,常盤津,清元等)・能,作曲(年度によって変動あり)となっている。

実施にあたっては,(財)いばらき文化振興財団を事務局とする「茨城県新人演奏会実行

委員会」を組織した上で,県も負担金(200 万円)を支出している。また,「茨城県音楽大

学同窓会連盟」の後援を受けており,実行委員として各音楽大学の同窓会茨城県支部等の

代表が参画して,選考委員の選出や出演者の募集などに協力している。

音楽出前講座は,県から(財)いばらき文化振興財団への委託の形で実施しており,平

成 24 年度は小中学校への派遣のほか,美術館等の公共施設でのコンサートや市町村立公立

文化ホールでのコンサートも開催された。(12,281 千円)

4.1.4 文化を支える新しい力創造事業(4,063 千円)

北関東自動車道の開通(平成 23(2011)年 3 月)によりアクセスの改善した群馬県から

群馬交響楽団を招聘し,茨城県内の市町村文化ホールにおいて,小中学生を主な対象とし

たクラシック初心者向けのプログラムでコンサートを実施(平成 23(2011)年度は 2 箇所,

平成 24(2012)年度は 1 箇所)。茨城県新人演奏会に出演経験のある若手歌手との共演も実

現した。(4,063 千円)

4.1.5 郷土の先人普及宣伝事業(3,496 千円)

茨城県は,郷土茨城の発展に大きく貢献したり,全国的に活躍した茨城県ゆかりの人物

について紹介する冊子「輝く茨城の先人たち」を平成 20(2008)年 3 月に作成した。なお,

作成にあたっては,生活文化課だけでなく教育庁義務教育課・同文化課・茨城県立歴史館

の 3 者を加えた 4 者で事務局を構成し,有識者による作成委員会が組織されている。

この冊子を,県内企業の寄付により,毎年県内の全小学 4 年生(約 3 万人)に無償配布

するほか,県費により増刷して県内書店等で販売する。また、この冊子を活用した普及啓

発事業として,先人ゆかりの施設と連携した講演会を開催するとともに,小学生を対象に

郷土の先人についての「新聞コンクール」を実施する。(3,496 千円)

4.1.6 文化施設・団体等に関する予算(427,121 千円)

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生活文化課では,上述の各種事業のほかに,文化施設の管理運営費・施設整備費及び文

化団体・文化振興財団の運営費補助金等を予算計上している。なお,県民文化センターの

指定管理料や財団の運営費補助は人件費を含み,また,施設整備費には比較的大規模な設

備更新や施設改修費も含まれるため,予算規模は上述の施策の合計(69,130 千円)を大き

く上回る額となっている。

(1) 茨城県立県民文化センター(258,980 千円)

昭和 41 年に美術博物館,大ホール,小ホール,集会室等からなる総合文化会館として建

設された。地方自治法上の公の施設であり,設置及び管理については「茨城県立県民文化

センターの設置及び管理に関する条例」が制定されている。地方自治法の改正に伴い,平

成 18 年度からは指定管理者制度が導入され,公募による選定を経て,それまで管理委託を

受けていたいばらき文化振興財団が引き続き指定管理者となって管理運営にあたっている。

なお,平成 23 年度からの 2 期目の指定管理者選定(結果として同財団が指定管理者となっ

た)に併せて,利用料金制度が導入されている。開館から約 45 年が経ち老朽化が進んでい

ることから,設備更新や施設改修にかかる費用も比較的大きい。(指定管理料 201,135 千円,

施設整備費 57,845 千円)

(2) アクアワールド茨城県大洗水族館(93,231 千円)

昭和 45(1970)年から大洗町にあった旧大洗水族館(昭和 56(1981)年までの名称は「海

のこどもの国」)を建て替え,平成 14(2002)年に新たに開館した。同水族館は県営都市公

園である「大洗公園」内の公園施設であり,都市公園法上の管理許可により,(財)いばら

き文化振興財団が管理運営を行っている。東日本大震災では,幸いにして地震や津波の被

害は比較的小さく,20 日間ほどの休館を経て 4 月 1 日から再開することができた。しかし,

福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の海洋への流出が大きく報道されたことな

どから,海岸沿いにある同水族館への客足が遠のいているため,平成 24 年度は風評被害の

払拭と誘客促進に関する事業をいばらき文化振興財団への委託により実施している。(施設

整備費 71,182 千円,誘客促進事業費 22,049 千円)

(3) 茨城文化団体連合等(7,866 千円)

茨城文化団体連合は,昭和 41 年に県民文化センターの設置,茨城県芸術祭の開始と時を

同じくして発足した団体で,分野別の 7 つの部会(前述の茨城県芸術祭の部門と対応)に

合計 62 の団体が加盟している。主な事業は茨城県芸術祭の運営で,県レベルの公募展とし

て作家の登竜門となっている美術展覧会をはじめ,音楽その他の分野でも茨城県の芸術文

化振興において,同連合及び芸術祭が大きな役割を果たしている。なお,芸術祭における

各部門の表彰に合わせ,文化の振興に顕著な功績のあった個人・団体に対する県による顕

彰も行っている。(文化団体育成補助 3,988 千円,その他(顕彰等)3,878 千円)

(4) いばらき文化振興財団(67,040 千円)

平成 4 年に県の出資(基本財産 3 千万円)により設立された財団法人20で,同時に設置さ

20 平成 25(2013)年 4 月から公益財団法人へ移行。

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れた「いばらき文化振興基金」(当初 7 億円。一部取り崩しをしたため,現在は 6.6 億円)

による文化振興事業に対する助成事業を開始した。その後,平成 11 年に社会福祉法人茨城

文化福祉事業団から分離された文化部門(茨城県立県民文化センター・大洗水族館)を統

合して,現在の体制となっている。(財団運営費補助 67,040 千円)

4.1.7 茨城県立県民文化センター災害復旧費(377,636 千円)

県民文化センターは,東日本大震災(平成 23(2011)年 3 月 11 日)により,耐震補強工

事が済んでいなかった大ホール棟を中心に甚大な被害を受けた。復旧工事は平成 23(2011)

年度中に終えることができず,平成 24(2012)年度にも引き続き予算が計上された。復旧

工事は夏までに終了し,同センターは平成 24(2012)年 8 月に全面再開している。(377,636

千円)

4.2 教育庁文化課の事業

茨城県教育委員会が作成している「平成 24 年度 教育行政の概況」では,教育庁各課の

施策が「いばらき教育プラン」の項目に沿って整理されている。教育庁文化課の施策はす

べて「第 4 章 生涯にわたって学べる環境づくり」「第 2 項 心に潤いと感動をもたらす文

化芸術活動の推進」に位置づけられ,5 つの節に整理されている。

表 4 教育庁文化課の文化政策関係予算(平成 24(2012)年度)

いばらき教育プラン中での位置づけ 予算額

第 1節 全国高等学校総合文化祭茨城大会の開催 第 2節 幼い頃から文化芸術に触れるための環境づくり 第 3節 地域に根ざした伝統文化の継承 第 4節 美術館・博物館活動の充実と活用 第 5節 文化財の保護活用(災害復旧補助事業費を除く) 文化財の保護活用(災害復旧補助事業費)

22,284 千円① 9,924 千円②

53 千円③ 696,354 千円④ 65,862 千円⑤ 814,793 千円⑥

小計(災害復旧を除く)(Z=①+②+③+④+⑤) 総計(T=Z+⑥)

794,477 千円Z 1,609,270 千円T

臨時的な経費である文化財の災害復旧補助事業費を除くと,予算規模で見て圧倒的に大

きいのは,「美術館・博物館活動の充実と活用」(696,354 千円)である。これは,教育委員

会において所管している 6 つの施設における企画展や普及活動,調査活動などの経常的な

経費が大部分を占めており,継続的に同規模の予算を要していると考えられる。その他は,

これに比べると比較的少額となっている。

以下でそれぞれの節に対応する事業を詳しく見ていく21。

4.2.1 全国高等学校総合文化祭茨城大会の開催(22,284 千円)

21 本章は,特に断りのない限り「平成 24年度 教育行政の概況」及び文末の参考文献等を参照

して記述している。

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平成 26 年度に開催する茨城大会に向けて,県実行委員会・生徒実行委員会を設立し,総

合開会式・パレード・各部門実施内容の企画検討を開始する。検討の一環として,先催大

会の視察調査を行う。また,大会マスコットキャラクター愛称・イメージソング公募等の

広報PR活動も実施する。(22,284 千円)

4.2.2 幼い頃から文化芸術に触れるための環境づくり(9,924 千円)

児童生徒の創作活動の成果発表・展示の機会として,小中学校芸術祭及び高等学校総合

文化祭を開催する(平成 24(2012)年度の実施概要は表 5 のとおり)。この事業は,茨城県

芸術祭と同じ昭和 41 年度からの継続事業となっている。また,他県(平成 24(2012)年度

は富山県)で開催される全国高等学校総合文化祭に対し,合唱・吹奏楽・美術・工芸・書

道・写真等の各部門の茨城県代表校を派遣する。(8,256 千円)

表 5 平成 24(2012)年度 小中学校芸術祭・高等学校総合文化祭 実施概要

部門 期日 会場

小中学校 芸術祭

美術展覧会 11/28~12/2 県民文化センター

合唱合奏大会 11/21,22 小美玉市小川文化センター

高等学校 総合文化祭

美術展覧会 10/23~28 県民文化センター

音楽祭 10/31,11/5 県民文化センター

演劇祭 11/23,24 小美玉市四季文化館(みの~れ)

囲碁・将棋 10/23 県民文化センター

このほか,県立特別支援学校の児童生徒を対象に,優れた芸術文化を鑑賞する機会を提

供するため,「アートフルステージ巡回公演」として,人形劇,パントマイム,コンサート

等の公演を学校体育館(全 21 校)で実施している。この事業は平成 13 年度から継続され

ている。(1,668 千円)

4.2.3 地域に根ざした伝統文化の継承(53千円)

茨城県内の無形民俗文化財を一堂に集めて公開する「郷土民俗芸能の集い」を開催する

(平成 24(2012)年 10 月 20 日,土浦市民会館,出演 4 種目)。昭和 52 年度からの継続事

業である。

また,文化財保護に係る講演会を開催し,併せて文化財の保護に顕著な功績のあった個

人又は団体の顕彰を行う「文化財愛護推進セミナー」を開催する(平成 25(2013)年 1 月

24 日,茨城県立歴史館)。(53 千円)

4.2.4 美術館・博物館活動の充実と活用(696,354 千円)

(1) 茨城県近代美術館(71,441 千円)

水戸市の千波湖畔,茨城県立県民文化センターに隣接して設置されている茨城県近代美

術館(昭和 63(1988)年開館)において,年間 6 件の企画展,9 件の所蔵作品展を開催す

る(43,204 千円)とともに,美術資料の収集・修復・保存を行う(848 千円)。また,同美

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術館による施設内外で様々な普及活動(ワークショップ,学校への出前授業等)を実施す

る(27,389 千円)。

(2) つくば美術館(8,279 千円)

茨城県近代美術館の分館の一つで,県南の筑波研究学園都市にあるつくば美術館(平成 2

(1990)年開館)では,企画展を 1 件のみ開催する(7,801 千円)。また,各種講座やワー

クショップ等の普及活動を併せて実施する(478 千円)。なお,収蔵品を持たない同美術館

では,企画展実施期間以外は貸しギャラリーとして運営されている。

(3) 岡倉天心記念五浦美術館(58,131 千円)

同じく茨城県近代美術館の分館として,県北部の北茨城市に設置されている天心記念五

浦美術館(平成 9(1997)年開館)において,年間 5 件の企画展,4 回の収蔵作品展,岡倉

天心記念室における展示を行う(51,288 千円)とともに,美術資料の収集を行う(290 千円)。

また,同館が保有する「日本画トランク」の学校への貸し出し,各種講座やギャラリート

ークなどの普及活動を実施する(3,553 千円)。さらに,同館独自の取り組みとして,岡倉

天心ゆかりの再興日本美術院展覧会(再興院展,(公財)日本美術院主催)に対し,「天心

記念茨城賞」(賞状及び賞金 3 百万円)を提供している(3,000 千円)。なお,つくば美術館

と同様,企画展実施期間以外は貸しギャラリーとして運営を行っている。

(4) 茨城県陶芸美術館(47,045 千円)

県中央部の笠間市にある笠間芸術の森(県営都市公園)内に設置されている茨城県陶芸

美術館(平成 12(2000)年開館)では,年間 4 件の企画展,2 件の収蔵作品展を実施する

(34,279 千円)とともに,美術資料の収集を行う(7,137 千円)。また,同館が保有する「陶

芸ボックス」の学校への貸し出し,ワークショップ,各種講座等の普及活動を行う(5,659

千円)。なお,同美術館は,企画展示室とは別に,貸し出し用の「県民ギャラリー」がある。

(5) ミュージアムパーク茨城県自然博物館(79,291 千円)

県西部の坂東市に位置し,自然豊かな菅生沼の畔に設置されているミュージアムパーク

茨城県自然博物館(平成 6(1994)年開館)において,年間 4 件の企画展及び常設展を開催

する(67,345 千円)とともに,博物館資料の収集(1,938 千円)及び学術的調査研究活動(4,477

千円)を実施する。また,学校との連携事業や自然観察会などの多様な教育普及活動を行

う(5,531 千円)。

(6) 茨城県立歴史館(321,741 千円)

茨城県立歴史館(昭和 49(1974)年開館)において,年間 17 件の展示事業を行う。また,

歴史教室をはじめとする様々な教育普及活動,歴史資料・県庁の行政文書・行政刊行物な

どの収集,閲覧室の運営,資料目録の刊行,資料調査・学術調査等の調査研究活動を行う。

館内の講堂や敷地内にある茶室は貸し出しも行う。

以上の 6 施設は,いずれも博物館として,「学校以外の教育機関の設置,管理及び職員に

関する条例」(昭和 36(1961)年 3 月 31 日茨城県条例第 9 号)により設置されている。こ

のうち,茨城県立歴史館のみ平成 18 年度から指定管理者制度が導入されており,従前より

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管理委託を受けていた公益財団法人茨城県教育財団が指定管理者として管理運営を担って

いる(平成 23(2011)年度から第 2 期に入っている)。(321,741 千円)

(7) ミュージアム利用促進事業(110,396 千円)

これら県立美術館・博物館の利用促進を図るため,所蔵品・図書等の情報のデータベー

ス化や屋内外の環境整備を行う。(110,396 千円)

4.2.5 文化財の保護活用(災害復旧補助事業を除く)(65,862 千円)

(1) 国・県指定文化財等への助成(35,040 千円)

国・県指定文化財の所有者等に対し,適切な保存修理や管理が行えるよう助成を行う。(県

指定文化財の保存修理等 33,110 千円,同管理費 703 千円,国指定文化財管理費 1,227 千円)

なお,平成 24(2012)年 3 月 31 日現在,国指定文化財 116 件(うち国宝 2 件),県指定文

化財 683 件となっている。

(2) 文化財の指定等(1,581 千円)

新たな文化財の指定に向けては,文化財保護審議会(委員 13 名)を年 4 回開催し(1,206

千円),新たに指定された文化財等について収録した資料「茨城の文化財」を刊行する(375

千円)。

(3) 埋蔵文化財の保護(23,284 千円)

埋蔵文化財の保護について,発掘調査を円滑に進めるため,埋蔵文化財指導員や文化財

保護指導委員を配置するなど調査体制の充実を図る。(23,284 千円)

(4) 銃砲刀剣類登録の登録審査(3,957 千円)

警察署に発見届の提出された銃砲刀剣類に対して審査を行い(審査会:委員 3 名,年 5

回開催),美術品又は骨董品として価値のあるものを登録し保存を図る。(3,957千円)。

(5) 歴史の道調査

平成 22(2010)年度から 5 か年計画で,古道や運河等の保存と活用の計画を策定するた

めの「歴史の道調査」を行っている。(2,000 千円)

4.2.6 文化財災害復旧補助事業費(814,793 千円)

東日本大震災により,水戸市内の「旧弘道館」(国指定特別史跡・重要文化財)や「偕楽

園」(国指定史跡・名勝),桜川市真壁地区(国選定重要伝統的建造物群保存地区)で建物

等の損壊被害があったほか,北茨城市にある「六角堂」(国登録有形文化財)が津波により

土台を残して流出するなど,茨城県の文化財は合わせて 465件に及ぶ甚大な被害を受けた22。

これら被災した文化財の復旧費用に関し,国などからの補助金・寄付金を除いた額の4分

の3を県が助成する。(814,793 千円)

22 茨城県教育委員会ホームページ「東日本大震災における茨城県文化財の被害状況」 URL:http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/topics/news/kinkyu/jishin/0624/index.html

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4.3 その他の部署による文化政策

以上,主な文化政策担当部署の生活環境部生活文化課及び教育庁文化課の施策を見てき

たが,茨城県ではこれら以外にも文化関係の施策の例がある。各部の発行している事業概

要等から,主なものを見ておく。

企画部地域計画課が平成 6(1994)年度から実施している「アーカス・プロジェクト」は,

県南部の守谷市において,国際的に活動するアーティストが滞在制作を行うアーティス

ト・イン・レジデンスプログラムと地域住民等が関わるワークショップ若手芸術家を招聘

して創作活動を支援するプログラムを展開している。23

保健福祉部長寿福祉課では,高齢者の芸術活動を促すことを目的とした美術展「わくわ

く美術展」を実施している。24

同部障害福祉課では,障害者の自立と社会参加の促進などを目的とした「ナイスハート

ふれあいフェスティバル」において,障害児者による音楽・ダンス・演劇等の発表と障害

児者が製作した作品の展示を行っている。25

商工労働部産業技術課では,産業政策の一環として,笠間焼,結城紬,真壁石灯篭など

の伝統工芸の振興を行っている。26

同部観光物産課フィルムコミッション推進室が事務局を担当している「いばらきフィル

ムコミッション」は,平成 14 年度に設立され,県内で行われる映画やテレビドラマ等のロ

ケーションの支援業務を行っている。また,同課では郷土工芸品(西ノ内和紙,春慶塗等)

の振興も扱っている。27

それぞれに主たる目的は異なるが,文化を手段として用いている点で,共通している。

5 文化関係経費の推移(文化庁資料より)

前章では平成 24(2012)年度現在の具体的な事業を見たが,特殊要因である災害復旧に

関するものを除けば,美術館・博物館・文化会館(文化センター)といった文化施設の存

在が文化政策に関する予算の中で大きな割合を占めていること確認できた。ここでは,視

点を変えて,文化庁資料により過去にさかのぼって,これら文化施設の存在の影響を俯瞰

してみたい。

図 9 は示したのは,文化庁資料で取りまとめているデータのうち,文化施設関連の経費

が含まれる「芸術文化経費」の推移である。

23 茨城県企画部『平成 24 年度 企画部の概要』(2012)及びアーカススタジオホームページ

「ARCUS」(URL:http://www.arcus-project.com/jp/) 24 茨城県保健福祉部『平成 24 年度 保健福祉部事業計画概要』(2012) 25 同上 26 茨城県商工労働部『平成 24 年度事務事業概要』茨城県商工労働部(2012) 27 同上

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5.1 文化施設建設費

まず,確認しておきたいのは,文化施設建設費の動きである。昭和 47(1972)年と昭和

50(1975)年に最初の小さなピークがあるが,これは,昭和 49(1974)年の茨城県立歴史

館開館の前後にあたる。歴史館の沿革をたどってみると,昭和 47(1972)年のピークは歴

史館本館の建設,昭和 50(1975)年のピークは敷地内の茨城県立水戸農業高等学校旧本館

復元完成の時期と符合する。次のピークは昭和 62(1987)年で,こちらは茨城県近代美術

館の開館の年にあたる。続いて,平成 4(1992)年はミュージアムパーク茨城県自然博物館

(平成 6(1994)年開館),平成 7(1995)年は天心記念五浦美術館(平成 9(1997)年開館),

平成 13(2001)年度はアクアワールド茨城県大洗水族館(平成 14(2002)年開館)の建設

費と考えられる。

主要な施設のうち,グラフから読み取れないものがある。茨城県立県民文化センターは

昭和 41(1966)年開館で,その前後の文化庁資料では文化施設建設費が捕捉されていない。

つくば美術館は平成 2(1990)年に開館しているが,施設の建設自体は茨城県が直接行った

ものではないため(都市整備公団が主体),ここには表れてこない。また,茨城県陶芸美術

館は平成 12(2000)年開館だが,こちらは県土木部が建設したものを教育委員会に移管と

いう形をとったため,文化庁資料への報告の際に計上されなかったことが考えられる。

5.2 文化施設経費

次に,文化施設経費であるが,平成 6(1994)~8(1996)年度に建設費を超える大きな

ピークがあるのが特徴であるが,これについては,各施設の沿革を見てもはっきりしたこ

とはわからない。文化施設経費には,展覧会等に要する経費や美術品等の資料購入費,施

図 9 茨城県芸術文化経費の推移(S33-H22)(単位:千円)

(文化庁資料から筆者作成)

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設修繕費等も含まれるため,何らかの大型展の実施,高額品の購入,大規模修繕がなかっ

たか,より詳しい資料をあたる必要があるが,異常値ともいえる値のため,データの信憑

性も含めて検討が必要と思われる。

全体としては,施設の建設に伴い,上昇トレンドにあったが,近年は減少傾向である。

施設の老朽化が進むとともに,修繕費用がかさむことは必至だが,財政が逼迫する中,そ

の分,展覧会や資料収集,通常の管理費用等に削減の圧力が及んでいることが予想される。

5.3 芸術文化事業費

最後に,芸術文化事業費であるが,まず,施設建設費・施設経費に比べると極めて少額

で,変動も小さいことがうかがえる。そのような中,平成 20 年度に比較的大きなピークが

あるが,これはこの年に開催された「第 23 回国民文化祭いばらき 2008」のための経費と考

えられる。その後の平成 21・22 年度にそれ以前の水準に戻っていないが,これは美術館・

博物館の展覧会等の経費を文化施設経費ではなく芸術文化事業費に計上するようになった

ためと考えられ,実際,その分教育委員会の文化施設経費が減少している。

5.4 総括

このように,細部を見ると解釈に注意を要する点が多々見受けられるが,全体としてみ

れば,茨城県の芸術文化経費は,文化施設,特に美術館・博物館にかかる経費の動向の影

響が極めて大きいことが確認できる。

6 茨城県の文化政策の課題

茨城県の文化政策における当面の課題について,平成 25(2013)年 2 月から 3 月にかけ

て県の担当者(生活文化課文化振興担当課長補佐)に対してヒアリングを行った28。その結

果をまとめると,次の4点に整理できる。

6.1 文化団体の高齢化と後継者不足

県生活文化課が県内の文化団体との意見交換会を実施したところ,会員の高齢化や高齢

化に伴う会員の減少等の問題があげられた。

また,後継者の育成の面においても,学校教育での文化に係る授業の内容や若者を取り

巻く趣味の多様化等により,特に伝統文化の分野において,新たな文化の担い手が少なく

なってきているとの意見が出されており,伝統文化の継承が危惧されている。

長年引き継がれてきた地域文化の担い手がいなくなることは,ひいては茨城県の文化の

衰退につながる恐れがある。

28 平成 25(2013)年 2月 12日(火),2月 28日(木),3月 1日(金),3月 15日(金)の4

回。

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6.2 文化振興における県の役割

県内の文化振興の取り組みとしては,水戸芸術館や小美玉市四季文化館みの~れなどの

ように,自主企画で様々な催事を行っているところがある一方で,自主企画までには至ら

ずに,いわゆる買い公演中心のところもあるなど,地域において温度差が見受けられる。

こうした状況を踏まえ,県として,文化芸術活動の基盤が弱い地域の補完的な役割を果

たすべきなのか,それとも市町村では実施しにくい先導的な取り組みをすべきなのだろう

か。

さらには,その役割についても,県単独ではなく,市町村や文化芸術団体,大学や法人

等との連携をどう図っていくのかといったことを考える必要がある。

6.3 市町村や文化芸術団体等との意見交換

本県の文化振興を図る上では,市町村の文化振興担当者や施設管理担当者,学識経験者

や文化団体等から,県への要望や意見,それぞれが抱えている課題等について幅広く聞く

ため,定期的に懇談の場を設けるか,県の方から催事等に積極的に出向いていく必要があ

る。

6.4 財政支援措置の継続・充実

文化活動に係る経費については,会費や入場料収入により賄っている例があるほか,行

政や公益法人等各種団体の助成制度の活用により財源を確保している例がある。

行政や公益法人においては,厳しい財政状況や行財政改革による事務事業の見直しによ

り,事業の中止や規模の縮小,事業費の削減を余儀なくされてきているが,今後,いかに

財政支援措置を継続・充実できるかが,地域文化を守り育てていく鍵と考える。

おわりに

本稿では,茨城県の文化政策について,公表資料等により県の総合計画の中での位置づ

けと,平成 24(2012)年度時点での現状及び芸術文化事業費の経年変化の状況を確認し,

さらに,県担当者からの聞き取りにより当面する課題を整理した。これにより,自治体の

文化政策の現状及び課題の一端は明らかになった。

第1に,茨城県の場合,予算規模から見て,文化施設,特に教育委員会所管の美術館・

博物館が占める割合が大きいことが確認できた。全国的には,文化会館等を含めた文化施

設について,施設の建設(いわゆる「ハコモノ」)が先行し,その活用が課題となっている

が,茨城県の場合,県立の文化施設としては,文化会館(県民文化センターが唯一)より

も,圧倒的に数の多い美術館・博物館(知事部局所管の水族館も含めると 7 施設)の存在

が大きい。

第2に,第1の点とも関連するが,茨城県においては,6 つの美術館・博物館を所管する

教育委員会の予算規模が知事部局(生活環境部生活文化課)よりも大きいことが確認でき

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た。全国的には,文化政策を首長部局に一元化する動きが見られるが,仮に茨城県でもこ

れを目指す場合,これら美術館・博物館の取り扱いの問題も含め,検討課題は多いと思わ

れる。

第3に,一方で,美術館・博物館に関することや文化会館で行われる舞台芸術など,こ

れまで文化政策の中核と考えられてきた文化芸術分野にとどまらず,企画部や保健福祉部,

商工労働部といった他の部局がそれぞれの行政分野で文化政策と関連する事業を実施して

いることも指摘した。今後,これらの他の分野を包括する総合政策としての性格を持った

文化政策をいかに企画・立案し,各分野の行政課題の解決に対して相乗効果をもたらすこ

とができるかが,6.4 で指摘されている財源確保を巡る事務事業見直しの際にも課題になる

ものと思われる。

以上が本稿で明らかになった点であるが,今後の研究課題も多い。

まず,第 5 章で行った文化庁資料による分析では,茨城県の個別の事情と整合しない点

が見られ,データの信憑性も含めて検討が必要と思われる。

また,6.2 及び 6.3 でも課題として指摘されているように,県と県内市町村との連携や役

割分担を考えるうえでも,本稿で触れることのできなかった県内市町村の取り組みの実態

を明らかにしておく必要がある。

さらに,他の都道府県の事例との比較により,今回指摘された課題への対策や,現在認

識されていない課題が浮き彫りになることも期待される。

今後,これらの研究を進め,自治体文化政策の実態と今後のあるべき姿について明らか

にしていきたい。

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付属資料1

地方教育行政の組織及び運営に関する法律(抄)

(職務権限の特例)

第二十四条の二 前二条の規定にかかわらず,地方公共団体は,前条各号に掲げるもののほか,条例の定めるところにより,当該地方公共団体の長が,次の各号に掲げる教育に関する事務のいずれか又はすべてを管理し,及び執行することとすることができる。

一 スポーツに関すること(学校における体育に関することを除く。)。

二 文化に関すること(文化財の保護に関することを除く。)。

2 地方公共団体の議会は,前項の条例の制定又は改廃の議決をする前に,当該地方公共団体の教育委員会の意見を聴かなければならない。

付属資料2

生活文化課の分掌事務

(茨城県行政組織規則(昭和 36 年茨城県規則第 6 号)別表第 2)

1 県民運動の企画,調整及び推進に関すること。

2 消費者行政に関すること。

3 文化行政の企画及び調整に関すること。 4 余暇の開発及び利用の促進に関すること。

5 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関すること。

6 消費生活センターに関すること。

7 特定非営利活動促進法(平成 10 年法律第 7 号)の施行に関すること。

(交通安全対策室)

交通安全対策の企画,調整及び推進に関すること。

付属資料3

教育庁文化課の分掌事務

(茨城県教育委員会事務局組織規則(昭和 40 年茨城県教育委員会規則第 4 号))

1 芸術文化に関すること(学校教育に関するものに限る。) 2 文化財に関すること。 3 銃砲刀剣類の登録に関すること。 4 博物館に関すること。 5 県近代美術館に関すること。 6 県陶芸美術館に関すること。 7 県立歴史館に関すること。 8 県自然博物館に関すること。 (全国高等学校総合文化祭開催準備室)

9 全国高等学校総合文化祭の開催準備に関すること。

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<参考文献及びURL(章別・五十音順> ※URLはすべて 2013.3.31 に確認 はじめに (1) 文化庁『平成 24 年度 地方における文化行政の状況について』(2012),

http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/chihou/pdf/h22_gyousei_ver2.pdf (2) 文化庁長官官房政策課『平成 24年度 我が国の文化政策』(2012), http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/pdf/bunkacho2012.pdf

(3) 文部科学省『平成 23 年度社会教育調査』(2013), http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001017254

1 茨城県の概要 (1) 茨城県「第1回定例会 平成 24年度予算案関係資料」(2012) http://www.pref.ibaraki.jp/yosan/201202/01.pdf

(2) 茨城県企画部企画課『茨城県総合計画(改訂)いきいき いばらき 生活大県プラン』(2012)

http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/kikaku/kikakuka/kikaku1_sougo/ikiikiplan/plan-kaitei_index.html

(3) 茨城県ホームページ「茨城を知る 茨城県の地理と気候」,

http://www.pref.ibaraki.jp/profile/

(4) 茨城県ホームページ「茨城を知る 県政のあゆみ」,

http://www.pref.ibaraki.jp/profile/kensei_history.html (5) 茨城県ホームページ「茨城を知る 歴史と文化」,

http://www.pref.ibaraki.jp/profile/history.html (6) 茨城県ホームページ「いばらき統計情報ネットワーク 指標から見た茨城」,

http://www.pref.ibaraki.jp/tokei/sugata/ibaraki/index.html

(7) 茨城県ホームページ「いばらき闘鶏情報ネットワーク 茨城県の人口と世帯(推計)―平成 23年 10月 1日現在―」, http://www.pref.ibaraki.jp/tokei/betu/jinko/getsu/jinkou1110.html

(8) 経済産業省「平成 24年経済センサス‐活動調査の結果(製造業)」(2013), http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/hyo.html

(第 22表 都道府県別製造品出荷額等) (9) 総務省統計局「社会生活統計指標―都道府県の指標―2013」(2013), http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001046068&cycode=0 (表 B自然環境)

(10) 総務省統計局「人口推計(平成 23年 10月 1日現在)」(2012), http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001088119 (参考表5 都道府県・男女別人口の計算表)

(11) 総務省統計局「平成 22年国勢調査」(2011), http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001039448

(人口等基本集計 全国結果(表 3-1)及び都道府県結果(08茨城県,表 3-1)) (12) 農林水産省「平成 23年生産農業所得統計」(2012), http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001104918

(都道府県別農業産出額及び生産農業所得実額) 2 茨城県における文化政策 (1) 茨城県企画部企画課『茨城県総合計画(改訂)いきいき いばらき 生活大県プラン』(2012)(再掲)

(2) 茨城県教育委員会『いばらき教育プラン~一人一人が輝く教育立県を目指して~』(2011),http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/welcome/keikaku/plan/index.html

(3) 茨城県生活環境部生活文化課,『いばらき文化振興ビジョン』(2004)

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http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/seibun/seibun/bunka/vision/

3 文化政策の所管組織及び事業 (1) アーカススタジオホームページ「ARCUS」http://www.arcus-project.com/jp/ (2) アクアワールド茨城県大洗水族館『平成 23 年度 年報』(2012)

(3) 茨城県企画部『平成 24 年度 企画部の概要』(2012)

(4) 茨城県教育委員会『平成 24 年度 教育行政の概況』(2012)

(5) 茨城県教育委員会ホームページ「東日本大震災における茨城県文化財の被害状況」 http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/topics/news/kinkyu/jishin/0624/index.html

(6) 茨城県近代美術館『平成 23 年度 茨城県近代美術館年報』(2012)

(7) 茨城県芸術祭実行委員会『茨城県芸術祭の歴史―十五年のあゆみ―』(1981)

(8) 茨城県芸術祭実行委員会『茨城県芸術祭の歴史Ⅱ―十六年から三十年まで―』(1996)

(9) 茨城県商工労働部『平成 24 年度事務事業概要』(2012)

(10) 茨城県生活環境部『平成 24 年度 生活環境部の概要』(2012)

(11) 茨城県陶芸美術館『茨城県陶芸美術館年報 平成 22 年度』(2011)

(12) 茨城県保健福祉部『平成 24 年度 保健福祉部事業計画概要』(2012)

(13) 茨城県立県民文化センター『40 周年記念誌』(2007)

(14) 茨城県立歴史館編集『輝く茨城の先人たち』茨城県生活環境部生活文化課(2008)

(15) 茨城県立歴史館『平成 24 年度 運営要覧』(2012)

(16) 茨城文化団体連合『茨城文化団体連合 20 年史』(1985)

(17) 茨城文化団体連合『茨城文化団体連合 40 年史』(2005)

(18) ミュージアムパーク茨城県自然博物館『ANNUAL REPORT OF IBARAKI NATURE

MUSEUM No.18 2011-2012(年報 第 18 号 平成 23 年度)』(2012)

4 文化関係経費の推移(文化庁資料。時系列順。末尾は収録データの年度を表す。)

(1) 文部省社会教育局芸術課『地方芸術文化の現状と動向』(昭和 30(1955)年度)

(2) 文部省社会教育局芸術課『地方芸術文化行政の状況』(昭和 34~39(1959~1964)年度)

(3) 文部省文化局文化課『地方芸術文化行政の状況』(昭和 40(1965)年度)

(4) 文化庁文化部文化普及課『地方芸術文化行政状況調査報告書』(昭和 42~51(1967~1976)年度)

(5) 文化庁文化部文化普及課『地方文化行政状況調査報告書』(昭和 52~平成元(1977~1989)年度)

(6) 文化庁文化部『地方文化行政状況調査報告書』(平成 2(1990)年度)

(7) 文化庁『地方文化行政状況調査報告書』(平成 3~12(1991~2000)年度)

(8) 文化庁『地方における文化行政の状況について』(平成 13~24(2001~2010)年度)

※最新版は,文化庁『平成 24 年度 地方における文化行政の状況について』2012 年 9 月発行

5 茨城県の文化政策の課題 (1) 茨城県生活環境部生活文化課文化振興担当課長補佐に対するヒアリング,2013年 2月12日(火),2月 28日(木),3月 1日(金),3月 15日(金)の4回実施