CAEをあらゆるエンジニアへ ANSYS AIM...42 設計...

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42 機 械 設 計 はじめに ANSYS は米国に本社を置き,ヨーロッパ・ア ジアと世界的にビジネスを展開しているソフトウ ェア会社であり,総合的な CAE ソリューション を提供するリーディングカンパニーである。 ANSYS は以前から,シミュレーション主導の 発(Simulation Driven Product Development)を推進するため,あらゆる物理現 象を網羅する包括的なソフトウェア製品群を提供 しており,設計プロセスで必要とされるほぼすべ ての分野でエンジニアリングシミュレーションを 可能にしている。 一昔前であれば,製品開発に関する解析は専門 部隊の解析技術者のみが行えば良かったが,これ では,いま要求されている開発スピードに追いつ かなくなっている。この背景には,製品の高度 化・複雑化・多様化が挙げられる。たとえば自動 車では,「安全性」「快適性」「環境対策」「省エ ネ」「情報化」など多くの問題に対応するためカ ーエレクトロニクス化が加速している。これらの 理由により,製品をさまざまな角度から検証する 必要性が生じ,1 人の技術者が製品全体を設計で きる時代,あるいは最適化されていない製品を開 発して販売する余裕がある時代は終わったといえ る。コストダウンも含め製品全体を最適化するた めには企画・設計という早い段階で個々の領域で トレードオフの関係を検討する必要がある。つま り,専門分野の観点から影響を理解している複数 の専門分野のエンジニアが製品開発の初期段階で 従事しなければならなくなった。これは,過去十 数年いわれてきた,コンカレントエンジニアリン グの手法が,新しい課題が加わる中で,より加速 度的に必要になったことを意味し,大企業,中小 企業共通の課題になってきたといえる。これを実 現するためには,さまざまな分野の設計者がさま ざまなツールを容易に使える環境や異なる部署と シームレスにコラボレーションできる環境が必要 になる。 ANSYS では,このような環境の変化に対応す るには,製品開発の初期段階でシミュレーション を活用することがソリューションになりうると考 えており,今後,すべてのエンジニアが何らかの 形でシミュレーションを活用していくと予測して いる。すべてのエンジニアがシミュレーションを 活用し,コラボレーションしていくには, ・経験がなくても利用可能な敷居の低さ ・信頼の持てるシミュレーション結果 ・仕事負荷を増大させないための仕組み 各専門エンジニアがシミュレーション内容を共 通言語で会話,議論できる環境 が必要である。また,これを実現するためにシミ ュレーションソフトに求められるものは,以下が 考えられる。 直観的操作および最小限のトレーニングで使え る容易性 共通化された操作体系で幅広い分野のシミュレ 解説 1 CAE をあらゆるエンジニアへ ANSYS AIM 第2部 最新!設計者のための CAE 活用ガイド アンシス・ジャパン 横山 卓也 *よこやま たくや:西日本オフィス技術部 プリセールスチーム 西日本・中部グループ マネージャ http://www.ansys.com/ja-JP

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Page 1: CAEをあらゆるエンジニアへ ANSYS AIM...42 設計 フロントローディングを実現する 設計者のためのCAE活用術 特集 はじめに ANSYS は米国に本社を置き,ヨーロッパ・ア

42 機 械 設 計

フロントローディングを実現する設計者のためのCAE活用術

特集

はじめに

 ANSYS は米国に本社を置き,ヨーロッパ・アジアと世界的にビジネスを展開しているソフトウェア会社であり,総合的な CAE ソリューションを提供するリーディングカンパニーである。 ANSYS は以前から,シミュレーション主導の製 品 開 発(Simulation Driven Product

Development)を推進するため,あらゆる物理現象を網羅する包括的なソフトウェア製品群を提供しており,設計プロセスで必要とされるほぼすべての分野でエンジニアリングシミュレーションを可能にしている。 一昔前であれば,製品開発に関する解析は専門部隊の解析技術者のみが行えば良かったが,これでは,いま要求されている開発スピードに追いつかなくなっている。この背景には,製品の高度化・複雑化・多様化が挙げられる。たとえば自動車では,「安全性」「快適性」「環境対策」「省エネ」「情報化」など多くの問題に対応するためカーエレクトロニクス化が加速している。これらの理由により,製品をさまざまな角度から検証する必要性が生じ,1 人の技術者が製品全体を設計できる時代,あるいは最適化されていない製品を開発して販売する余裕がある時代は終わったといえる。コストダウンも含め製品全体を最適化するためには企画・設計という早い段階で個々の領域でトレードオフの関係を検討する必要がある。つま

り,専門分野の観点から影響を理解している複数の専門分野のエンジニアが製品開発の初期段階で従事しなければならなくなった。これは,過去十数年いわれてきた,コンカレントエンジニアリングの手法が,新しい課題が加わる中で,より加速度的に必要になったことを意味し,大企業,中小企業共通の課題になってきたといえる。これを実現するためには,さまざまな分野の設計者がさまざまなツールを容易に使える環境や異なる部署とシームレスにコラボレーションできる環境が必要になる。 ANSYS では,このような環境の変化に対応するには,製品開発の初期段階でシミュレーションを活用することがソリューションになりうると考えており,今後,すべてのエンジニアが何らかの形でシミュレーションを活用していくと予測している。すべてのエンジニアがシミュレーションを活用し,コラボレーションしていくには,・経験がなくても利用可能な敷居の低さ・信頼の持てるシミュレーション結果・仕事負荷を増大させないための仕組み・ 各専門エンジニアがシミュレーション内容を共通言語で会話,議論できる環境が必要である。また,これを実現するためにシミュレーションソフトに求められるものは,以下が考えられる。・ 直観的操作および最小限のトレーニングで使える容易性・ 共通化された操作体系で幅広い分野のシミュレ

解説1CAEをあらゆるエンジニアへ

ANSYS AIM

第2部最新!設計者のためのCAE活用ガイド

アンシス・ジャパン 横山 卓也*

*よこやま たくや:西日本オフィス技術部 プリセールスチーム 西日本・中部グループ マネージャhttp://www.ansys.com/ja-JP

Page 2: CAEをあらゆるエンジニアへ ANSYS AIM...42 設計 フロントローディングを実現する 設計者のためのCAE活用術 特集 はじめに ANSYS は米国に本社を置き,ヨーロッパ・ア

43第 61 巻 第 5 号(2017 年 4 月号)

第� 部2最新!設計者のためのCAE活用ガイド

ーションが可能・ 部門を超えて使える,統合化されたシミュレーション環境

・業務プロセスに合せた自動化・定型化が可能 そこで ANSYS は,これらのニーズに応えるべく 2016 年 9 月に新製品 ANSYS AIM(エイム)を日本国内で発表したので,ここに紹介する。

製品概要と ANSYS Workbench について

 ANSYS AIMについて紹介する前に ANSYSの製品概要と ANSYS Workbench について説明する。図1に製品概要を示すが,どの解析領域においてもハイエンド製品から分野に特化した製品まで多岐にわたる製品構成になっている。これら多くのの製品を効率良く使い,流体-構造連成のようなマルチフィジックス解析が容易に行える環境として ANSYS Workbench というプラットフォームを用意している。図 2 に ANSYS Workbench の操作画面を示すがプロジェクト概念図というプロジェ

クトページを介して,コアアプリケーションを連携させることができる。図 2に示すようにフローチャートで解析プロジェクト全体を表示することによりデータの関係を正確に把握できる。このフローチャートは,プロジェクトの構成要素となる解析システムをツールボックスから選択するだけで簡単に作成して利用できる。たとえば,流体-構造連成解析を行う場合は,流体解析ソフトANSYS Fluent と 構 造 解 析 ソ フ ト ANSYS

Mechanicalおよび連成解析用のシステムカップリングの解析システムを選択してドラッグ&ドロップする。各ソフト間の連成設定はマウスの操作のみで連携できる。その後は,それぞれの解析においてモデル作成・メッシュ作成・解析条件設定までの一連の作業を個別にソフトを立ち上げて行う。 ANSYS Workbench は非常に優れたプラットフォームで解析技術者であれば問題なく使えるツールであるが,解析未経験者が使いこなすには多少の時間を要する。

図1 製品概要