第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と...

10
消化器内視鏡検査 の安全確保内視鏡室 の効率的運用 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備 玉野市立玉野市民病院 内科  ◎岡山県玉野市 看護師・内視鏡技師 山根史江 正木美恵 津國由美 看護助手 古山純恵 看護師 石谷真紀 依田智美 原田悦子 畑島紀子 村上光江 医師 重戸伸幸 福田智子 山原茂裕 木村文昭 深田耕史 三島康男 執筆者代表 やまね・ふみえ 1991年4月玉野市民病院に入職。内科,小児科病棟勤 務を経て,1997年10月から内科外来(内視鏡室)勤務。 2006年,内視鏡技師資格を取得し現在に至る。 消化器内視鏡を取り巻く環境 消化器内視鏡は,検査および各種治療 に数多く使用されており,日常の診療に 欠かせないものとなっている。日本で内 視鏡(以下,スコープ)が普及しはじめ た1960年ごろは,構造が比較的単純で あったために,重大な感染は報告されて いなかった。しかし,生検が可能なス コープが開発されると,生検鉗子を介し たHBV,HCVの感染事故や,洗浄不十 分のスコープによるヘリコバクターピロ リ感染が認められるようになり,感染管 理に関する意識が全国的に高まった。 消化器内視鏡の感染管理に関するガイ ドラインは,国内外で次々と発表,改訂 されている(表1)。したがって現在で 第4回【最終回】 100 Vol.14 No.3

Transcript of 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と...

Page 1: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

消化器内視鏡検査の安全確保と内視鏡室の効率的運用

内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備玉野市立玉野市民病院 内科 ◎岡山県玉野市 看護師・内視鏡技師 山根史江 正木美恵 津國由美     看護助手 古山純恵      看護師 石谷真紀 依田智美 原田悦子          畑島紀子 村上光江       医師 重戸伸幸 福田智子 山原茂裕          木村文昭 深田耕史 三島康男

執筆者代表 やまね・ふみえ1991年4月玉野市民病院に入職。内科,小児科病棟勤務を経て,1997年10月から内科外来(内視鏡室)勤務。2006年,内視鏡技師資格を取得し現在に至る。

消化器内視鏡を取り巻く環境

 消化器内視鏡は,検査および各種治療

に数多く使用されており,日常の診療に

欠かせないものとなっている。日本で内

視鏡(以下,スコープ)が普及しはじめ

た1960年ごろは,構造が比較的単純で

あったために,重大な感染は報告されて

いなかった。しかし,生検が可能なス

コープが開発されると,生検鉗子を介し

たHBV,HCVの感染事故や,洗浄不十

分のスコープによるヘリコバクターピロ

リ感染が認められるようになり,感染管

理に関する意識が全国的に高まった。

 消化器内視鏡の感染管理に関するガイ

ドラインは,国内外で次々と発表,改訂

されている(表1)。したがって現在で

第4回【最終回】

100 Vol.14 No.3

Page 2: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

は,内視鏡機器の感染管理は

内視鏡室従事者にとって重要

な責務の一つとなっている。

また,小越らは,内視鏡機器

による感染防止の基本的な考

え方を表2のようにまとめて

いる。

 当院では,2004年に内視

鏡専門医の赴任により,内視

鏡検査・処置件数が増加し,

それと共に業務内容の見直し

を行った。その詳細は,本連載第2回

(本誌Vol.13,No.4)と第3回(本誌

Vol.13,No.1)で報告した内視鏡パス

や書類などの作製である。

 今回は,機器整備の重要なポイントで

あるスコープ洗浄における予備洗浄作業

に対する工夫として,2006年に院内研

究会で発表した内容の一部を紹介する。

そのほか,内視鏡付属品の整備や,連載

第1~3回で紹介した内視鏡室所属の看

護助手育成法についても述べる。

スコープ洗浄 (予備洗浄の工夫)

1)スコープの構造と洗浄の目的 電子スコープは,各種処置・治療を行

うため鉗子チャンネルを有しており,構

造が複雑である。その内部管路構成を図1

に示す。また,スコープの洗浄について,

表1 ● 消化器内視鏡の感染管理に関するガイドラインの流れ

1995

1996

1998

2003

2005

2008

ガイドライン

内視鏡消毒法ガイドライン

内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン

消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン

内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン

内視鏡機器の洗浄・消毒に関するガイドライン

消化器内視鏡洗浄消毒マルチソサエティガイドライン

発表した学会

日本消化器内視鏡学会甲信越支部感染対策委員会

日本消化器内視鏡技師会消毒委員会

日本消化器内視鏡学会消毒委員会

日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会

世界消化器内視鏡学会(OMED)

日本消化器内視鏡学会日本消化器内視鏡技師会日本環境感染学会

表2 ● 感染防止の基本的な考え方

小越和栄監修:内視鏡の洗浄・消毒マニュアル 改訂第3版―ガイドラインに基づいた消化器内視鏡の感染管理,P.53 ~ 63,2006.

・内視鏡機器は1回の検査を行う度に,規定の洗浄・消毒を行う

・検査開始時には,清潔な機器であるかどうか確認して使用する

・内視鏡機器のみならず,内視鏡機器を扱う室内の環境汚染を起こさないようにする

・内視鏡検査の施行時および機器の洗浄・消毒に際し,医療従事者の健康管理にも十分に配慮する

・内視鏡検査・治療による,いかなる感染事故も防止することを最終目標とする

101Vol.14 No.3

Page 3: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

図1 ● 電子スコープの内部管路構成

田代芳夫:内視鏡機器の洗浄・消毒―スコープの構造からみた注意点とメーカー側の取り組み,消化器内視鏡,Vol.15,No.1,P.41,2003.

吸引管路送気管路送液管路

ノズル

鉗子チャンネル

鉗子口 送気・送水ボタン

吸引ボタン

送水タンク

150

100

50

吸引口金

鉗子口側先端側

表3 ● 消化器内視鏡の洗浄消毒マニュアル自動洗浄機使用時(抜粋)

Ⅰ.用手による洗浄消毒(ベッドサイド洗浄)①検査終了後ただちに内視鏡の外表面に付着した汚物を濡れたガーゼで拭き取る②次に200mℓ以上の洗浄液を吸引して,内視鏡チャンネル内に付着している粘液や血液などを含む胃腸内容物を除去する

Ⅱ.送気・送水チャンネルへの送水①送気・送水ボタンを外し,A/Wチャンネル洗浄アダプターを装着して送水のチャンネルと送気のチャンネルの両方に水を通す(ノズル詰まりの予防)

Ⅲ.内視鏡外表面の洗浄①外表面の汚れは,洗浄液を用い,スポンジなどで温水を流しながら落とす②先端キャップがあるものは外し,鉗子起上装置のある内視鏡の先端部は複雑な構造のため,専用のブラシを用いて丁寧に洗浄する

Ⅳ.附属部品の洗浄①送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓を外し,ブラシで洗浄後よく揉み洗いし洗浄を行う

Ⅴ.吸引・鉗子チャンネルのブラッシング①チャンネル掃除ブラシを用いて,全て(3箇所)のチャンネルをブラッシングする

Ⅵ.内視鏡自動洗浄装置による洗浄・消毒(用手洗浄は別途)①各メーカーのマニュアルに沿って工程を行う

Ⅶ.内視鏡を乾燥させ(アルコールフラッシュを含む)ボタン類を外したままで保管する

日本消化器内視鏡技師会ホームページ消化器内視鏡の洗浄・消毒 マルチソサエティガイドライン作成委員会:消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン

102 Vol.14 No.3

Page 4: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

消化器内視鏡洗浄・消毒マ

ルチソサエティガイドライ

ンの内容を表3にまとめた。

 我々が検討したところ,

本ガイドラインに沿って洗

浄した場合でも,ベッドサ

イド洗浄(吸引ボタンを押

し,200mℓの洗浄液で吸

引管路を洗浄)後に鉗子栓

を外すと,鉗子口付近に汚

染が認められた。そこで,

この汚染を少しでも除去す

るために,より簡単で効果

的な追加作業はないかと考

え,「検査直後」「各種洗浄

中」「自動洗浄装置(当院

ではオリンパス社OER-2使

用)終了後」の各工程にお

いて極細径スコープ(直径

1.8mm)による鉗子チャン

ネル内の観察と培養検査を

行った。

2)方法と結果(1)洗浄用吸引液の種類

 水(水道水)および医療

用酵素洗浄剤(商品名パ

ワーザイム)。

(2) 一定の汚染状況の

設定法

 仮の検査終了後の汚染状態をつくるた

め,極細径スコープで確認しやすい物質

として,白色で比較的粘着度の高い経管

栄養剤(商品名テルミール)をスコープ

先端より約50mℓ吸引。

(3)汚染状況の観察と撮影法

 極細経スコープを用いて鉗子チャンネ

ル(吸引管路)の先端側と鉗子口側から

撮影。比較検討した過程と結果を写真1

に示す。

写真1 ● 汚染状況の観察結果

①汚染直後(白色物が汚染物)

先端側

鉗子口側

②汚染直後,吸引ボタンを押してまず水30mℓ,次に酵素洗浄剤30mℓを吸引。

鉗子口側

先端側

③同じく吸引ボタンを押してスコープ先端から水30mℓを吸引後,約3秒間空気を吸引(スコープを水から出して吸引した水が吸引瓶に入る程度)。次に,酵素洗浄剤を30mℓ吸引し空気を約3秒間吸引。最後に,鉗子栓を外し鉗子口に直接吸引チューブを付けて酵素洗浄剤30mℓをスコープ先端より吸引し,さらに空気を約3秒間吸引。

先端側

鉗子口側

103Vol.14 No.3

Page 5: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

(4)細菌培養

 培地は,羊血液寒天培地/

トリガルスキー改良培地を

使用した。

 培養材料として,下部消

化管検査(以下,CF)時

の吸引液(便汁)を用い,

それを約100mℓ吸引して

吸引管路内を汚染させた。

その後,各種試験で鉗子

チャンネルの先端側と鉗子

口側の2カ所より培養を行

い,24時間後に判定し細

菌繁殖状態の比較検討を

行った(写真2)。

3)考察(1)撮影結果

・ 写真1-①~③を比較す

ると,先端側の汚れは水

と酵素洗浄剤の吸引量が

総量60mℓであればある

程度排除できているが,

90mℓ以上であれば,肉

眼的汚れは写真上認めら

れない。

・ 写真1-②では,鉗子口

側(生検チャンネル)に

おいても吸引量(総量)

60mℓで汚れが認められ

るが,写真1-③では,

鉗子口に直接吸引チュー

ブを取り付けて酵素洗浄

剤30mℓを追加吸引する

ことにより,肉眼的汚れ写真2 ● 各過程における鉗子チャンネル細菌培養結果

⑤ 自動洗浄装置処理終了後 なお,水や酵素洗浄剤を吸引するごとに約3秒間空気の吸引を行い,また③では鉗子口からの吸引は鉗子栓を外し,直接鉗子口に吸引チューブを取り付けて吸引を行った。

① 汚染直後

先端側

(全面に菌発育あり

3+)

鉗子口側(3+)

先端側(10個以内

:+)

鉗子口側(3+)

② 吸引ボタンを押して,水30mℓと酵素洗浄剤30mℓを吸引(総量60mℓ)

鉗子口側(+)

先端側(+)

③ ②の後,鉗子口より酵素洗浄剤を30mℓ追加吸引(総量90mℓ)

先端側(+)

鉗子口側(3+)

④ 吸引ボタンを押して,水200mℓと酵素洗浄剤200mℓを吸引(総量400mℓ)

104 Vol.14 No.3

Page 6: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

は排除できている。

(2)培養結果

・ 写真2-①において,先

端側,鉗子口側ともに全

面に菌の発育が認められ

る。

・写真2-②,③において,

先端側では,吸引量を総

量90mℓ(水30mℓと酵

素洗浄剤60mℓ)まで段

階的に増やすと,菌の発

育は減少していった。し

かし,吸引量(総量)を

90mℓから400mℓに増や

しても,大きな差は認め

られない(写真2-④)。

・ 鉗子口側では,水と酵素洗浄剤を

60mℓから最高量400mℓ吸引しても多

くの細菌が発育した。しかし,鉗子口

に直接吸引チューブを取り付けて

30mℓ以上追加吸引することで細菌数

が減少した。

・ 自動洗浄装置処理終了後の培養結果

は,陰性である。

4)まとめ 消化器内視鏡洗浄・消毒マルチソサエ

ティガイドラインやOMEDにおいて,予

備洗浄における吸引チャンネルの洗浄の

際は,洗浄液200mℓ以上を吸引すると

されている。当院では,吸引ボタンを押

し吸引管路内を洗浄すると共に,鉗子

チャンネルの一部である鉗子口からの追

加吸引を行うことにより,生検チャンネ

ルを含むすべての鉗子チャンネル内の洗

浄が行えると考えた。工夫点と吸引の流

れを図2に示す。

 検査終了後,スコープを光源から外す

前(ブラッシング洗浄前)のベッドサイ

ド洗浄で少しでも多くの汚物・血液を排

除することは,それらを凝固させにくく

し,洗浄効果を上げるための重要な作業

であると言える。このことからも,追加

吸引の必要性があると考えられる。

当院での内視鏡付属品の 洗浄・消毒・滅菌方法

1)内視鏡処置具 ほとんどに長い管腔があり,また複雑

な構造のものもある。粘膜など無菌組織

を侵襲するものは,スポルディングの分

類(表4)でクリティカル器具に分類さ

れるため,必ず滅菌したものを使用しな

ければならない。

図2 ● 従来の洗浄法と追加洗浄法

ここに注目した

①先端側からの吸引の流れ:従来の洗浄法

②鉗子口側からの吸引の流れ: 今回工夫したところ(鉗子口側から直接吸引チューブを取り付けて,酵素洗浄剤30mℓを吸引するようにした)

105Vol.14 No.3

Page 7: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

 当院では,生検組織採取(バイオプ

シー),内視鏡的粘膜切除術,ポリープ

切除術,止血術,食道静脈瘤硬化療法に

おける処置具は,ディスポーザブルのも

のを使用している。

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影時のカ

ニューレや止血クリップ装置,ホットバ

イオプシー鉗子,APCアプリケーターな

どの各種処置具においても,洗浄ポート

から酵素洗浄剤を注入後,超音波洗浄機

(オリンパス社:ENDOSONIC)による

超音波洗浄(酵素洗浄剤使用)を行い,

消毒液浸漬を行った後十分乾燥させ,

オートクレーブやエチレンオキサイドガ

スなどで滅菌を行っている。

 可動部を有する止血クリップ装置や

ホットバイオプシー鉗子などは,潤滑剤

(商品名スティンミルク)に浸漬させた

後,滅菌を行っている。

2)処置具の点検と確認 内視鏡処置をスムーズに行うためには,

処置具の日々の点検が不可欠である。

 再使用可能な処置具の場合,不具合が

あると処置に時間がかかるだけでなく,

ひいては安全性が損なわれることもあ

る。したがって,洗浄・消毒時に破損の

有無,滅菌前(当院の場合は中央材料室

提出前)に処置具の不具合の確認を行う

ことは,次の検査・処置をより安全に行

うための必須事項である。

3)スコープの保管 OER-2にて洗浄・消毒を行った後(ア

ルコールフラッシュを含む),清潔で乾

燥したタオルで清拭し,乾燥させた後ス

コープを収納庫に保管する。この時,水

分が残っていると細菌の繁殖の原因とな

るため,乾燥には十分気を付ける。また,

吸引,送気・送水ボタン,鉗子栓などの

付属品は外して保管する。

看護助手に対する内視鏡室・ 内視鏡機器整備の指導

1)指導内容 当院内視鏡室における各種指導は,マ

ニュアル内容を把握した上で次の点を基

本としている。

① 見る(指導者がやってみせる)

② 聞く(指導者が口頭で説明する)

③ 実施する(今までの内容を踏まえ施行

し,指導者が修正する)

 さらに知識・記憶を定着させるために,

表4 ● 内視鏡器材のスポルディング分類例

生体に与える損傷の程度

粘膜を傷付ける(無菌の領域に入る)

粘膜や創のある皮膚に接触する

創のない皮膚に接触する

殺菌の水準

クリティカル(滅菌)

セミクリティカル(高水準消毒)

ノンクリティカル(低水準消毒または洗浄)

感染のリスク

高い

低い

ほとんどない

器具の例

生検鉗子ERCP造影チューブ

内視鏡

血圧計のカフ

106 Vol.14 No.3

Page 8: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

可能な限り毎日実施することが重要であ

ると考える。当院で作成したマニュアル

に沿って繰り返し指導した。マニュアル

のアウトラインは次のとおりである。

①内視鏡室の1日の流れ

 午前・午後の業務内容,またその手順

と注意点など

②内視鏡室でよく使われる専門用語・略語

 GIF(上部消化管内視鏡検査),CF(下

部消化管内視鏡検査),ERCP(内視鏡的

逆行性胆管膵管造影)など

③ 内視鏡室で使用される薬剤と薬効・注

意点

 抗コリン剤やグルカゴンの使用禁忌など

④内視鏡機器整備法(写真3)

 スコープは高度の精密機械であり,破

損時には多額な修理代がかかる。そのた

め,スコープの構造を知り,大切に取り

扱う。また,スコープのどの場所を持て

ば安定し持ち運びしやすいかを理解する。

* 人体に入っていく器械のため,清潔操

作の上での機器整備の徹底:自分自身

が受ける立場でも安心できるように,

スコープ整備をする。

2)指導を受けた看護助手の感想・ 医療関係の仕事は今回が初めてで,当

初は血液を見ただけで気分不良になり,

医療用語の意味もほとんど分からず,

不安が強かった。

・ 検査によって,いろいろな病気やがん

と診断された患者さんに接する時は,

精神的につらかった。

・ 内視鏡室の業務内容や機器整備につい

ては,マニュアルを熟読した。マニュ

アルは実際の機器の写真入りで非常に

理解しやすく,さらに内視鏡技師や看

護師の動きを見学した後,サポートし

てもらいながら実施することでより習

得しやすかった。

・ 医学用語や各種疾患については内視鏡

医から説明を受け徐々に知識が増えて

いき,スタッフの会話が理解できるよ

うになった。

・ スタッフや患者とのかかわりの中で内

視鏡室のスタッフとしての自覚が芽生

え,仕事に対する楽しさも感じるよう

になった。

・ 今年で勤務して3年になり,特に患者

に対して検査の不安が軽減できるよう

な言葉掛け,対応に気を配っている。

また物品整備により,スムーズな検査

処置が行えるよう工夫し,清潔・不潔

の区別の上で洗浄・消毒ができるよう

になった。

3)指導スタッフの感想 看護助手は医療に対して素人であり,

特に初期段階ではさまざまな配慮(進行

がんと判明した患者に接した時の精神的

苦痛の緩和や,吐下血処置後の精神的ケ

アなど)の必要性を強く感じた。

 現在では,機器整備はもちろんのこと,

検査前後の患者に対する配慮は非常に素

晴らしいものがあり,内視鏡室スタッフ

としてなくてはならない存在である。

107Vol.14 No.3

Page 9: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

写真3 ● 当院のスコープ洗浄マニュアル(抜粋)

①洗浄機に保持網と洗浄ケースをセットする。

②水道の蛇口が開いていることを必ず確認する。

③検査終了後,吸引管路などのブラッシングを行い,スコープ表面は洗剤を浸したガーゼで拭く。

④防水キャップを忘れずに装着する。

⑤スコープがなるべく重ならないように,操作部は保持網の外側から時計回りに巻いていく。

⑥ユニバーサルコードは,反時計回りで内側に巻いていく。

漏水テスト:検査終了後,スコープに破損がないか確認する作業。アルコールフラッシュは管内の消毒と乾燥をさせるためのものである。

①洗浄機にスコープをセットし,漏水検知用コネクターを取り付ける(この時洗浄チューブは外しておく)。②カバーを閉め,漏水検知ボタンを押す(洗浄槽の中に水がたまるとブザーが鳴る)。③カバーを開け,スコープ表面,管路から気泡が出ていないか確認し,気泡が出なければ洗浄チューブを取り付けカバーを閉める(気泡が連発して出ていたら,すぐに洗浄機から引き上げ業者に連絡する)。④スタートボタンとアルコールフラッシュのボタンを押すと,全自動ですべての工程ができる。

⑨洗浄チューブの取り付けが完了したら,カバーを閉め,スタートボタンを押す。⑩全自動で洗浄・消毒・すすぎとなり,全工程が終了したらブザーが鳴り,時間表示に〔--〕が表示される。⑪フットスイッチでカバーを開け,清潔な布で水滴を拭き取る。

⑦洗浄チューブの内視鏡側接続部を,吸引ボタンと送気・送水ボタンの座に真っすぐ突き当たるように押し込み,そのままスライドさせる。⑧鉗子口に洗浄チューブを取り付ける。

フロートスイッチ

消毒液ノズル

水位センサー

洗剤ノズル

循環口

温度センサー 洗浄ケース取り付け口

給水ホース接続口

送気・送水・鉗子口コネクター

洗浄ケース

保持網

防水キャップ

時間表示

スタートボタン

漏水検知

アルコールフラッシュ

●①

●② ●④

108 Vol.14 No.3

Page 10: 第4回【最終回】 内視鏡洗浄の工夫と 内視鏡機器整備tamanohp.jp/pdf/gairaigango_vol14_no3.pdf · 消化器内視鏡検査の安全確保と 内視鏡室の効率的運用

今後の課題

 当院は,敷地面積の制約か

ら内視鏡検査室と洗浄室が一

体型であり,設備面において

課題がある。しかし予算的な

問題もあり,大きな改装はな

かなか困難である。これにつ

いては,少しでも現状を改善

するために,現在スコープ洗

浄に適したゆとりあるシンク

や,汚物槽・強制排気口の取

り付けなどの一部改装に取り

組んでいる。

 内視鏡室の現状は,各病院

の規模により,機器の整備状

況や洗浄・消毒への取り組み,スタッフ

構成および養成に差があるのは仕方ない

と思われる。当院は比較的小規模な病院

であるが,学会や研究会に積極的に参

加・発表し,新知識を基に全スタッフで

知恵を出し合っている。これからも,よ

り安全で快適な内視鏡室を目指してス

タッフ一同努力していきたい。

連載を終えて

 4回にわたって,当院の内視鏡室の現

状と各種工夫について述べた。本連載の

内容が読者の施設で何らかのお役に立て

れば幸いである。

引用・参考文献

1)日本消化器内視鏡技師会ホームページ

日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会:内視鏡の洗浄・

消毒に関するガイドライン(第2版)

http://www.jgets.jp/CD_GL2.html(2008年12月閲覧)

2)小越和栄監修:内視鏡の洗浄・消毒マニュアル 改訂第3

版―ガイドラインに基づいた消化器内視鏡の感染管理,

P.53 ~63,2006.

3)WGO-OMGE/OMED:消化器内視鏡機器洗浄・消毒法

Minimal Standard,2005.

4)日本消化器内視鏡学会監修,日本消化器内視鏡学会卒後

教育委員会編:消化器内視鏡ガイドライン 第三版,医学書

院,2006.

5)日本消化器内視鏡技師会ホームページ

消化器内視鏡の洗浄・消毒 マルチソサエティガイドライ

ン作成委員会:消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエ

ティガイドライン

http:www.jgets.jp /CD_MSguideline20080523.pdf(2008年

12月閲覧)

6)田代芳夫:内視鏡機器の洗浄・消毒―スコープの構造から

みた注意点とメーカー側の取り組み,消化器内視鏡,Vol.15,

No.1,P.39 ~44,2003.

後列左から津國由美さん,重戸伸幸さん,原田悦子さん,石谷真紀さん。前列左から古山純恵さん,山根史江さん,正木美恵さん。

主な内視鏡スタッフ

109Vol.14 No.3