第3回昆虫生態学II (農学研究科昆虫生態学研究室) - Kyoto U第...

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3昆虫生態学II 【本日のメニュー】 平成291023日(月) 13時~1430松浦健二(農学研究科 昆虫生態学研究室) 前回のおさらい、質問への回答 自然選択による適応進化の検証方法 種の概念 「種の存続ための行動」は進化するか? 【考えてみよう】 さまざまな自然選択

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第3回 昆虫生態学II

【本日のメニュー】

平成29年10月23日(月) 13時~14時30分

松浦健二(農学研究科 昆虫生態学研究室)

前回のおさらい、質問への回答

自然選択による適応進化の検証方法

種の概念

「種の存続ための行動」は進化するか?

【考えてみよう】

さまざまな自然選択

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Fitzpatrick et al. (2007) Nature

Maintaining a behaviour polymorphism by frequency-dependent selection on a single gene

Rovers (squares) were marked with GFP. The sitter strain fors2 (triangles) carries a mutation in the for gene that was generated on a forR genetic background. Fitness was estimated using the proportion that survived to pupation (mean plusminus s.e.m.). Sample sizes were 20 vials per treatment.

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Wada-Katsumata, Silverman, Schal (2013), Science

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ベイツ型擬態

ドクチョウ

モデル

ミミック無毒のチョウ

ミュラー型擬態

Heliconius属のチョウの斑紋遺伝子頻度

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Baxter et al. (2010) PLoS Genet

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シロオビアゲハ I型

ベニモンアゲハ

シロオビアゲハ II型

幼虫時の食草であるウマノスズクサ類からアルカロイドを取りこんで毒化し、敵から身を守る

昆虫の色

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Frequency-dependent Batesian mimicry

scarlet kingsnake (mimic of eastern coral snake)

sonoran mountain kingsnake (mimic of western coral snake)

model model

Pfennig et al. (2001) Nature

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R: 選択反応 次世代における平均的変化

S: 選択差 両親における直接選択によって生じた差

h2 : 遺伝率 親子回帰の傾き

R = Sh2

量的遺伝モデル

選択反応=選択差×遺伝率

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S

生き残り、繁殖した個体

S: 選択差

はじめに居た個体の形質分布

平均

(h2 : 遺伝率)

R

次世代の形質分布

R = Sh2

R: 選択反応

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ダーウィンフィンチの適応放散

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ダーウィンフィンチの食べ物と嘴の形の多様性

種子食

昆虫食

オオガラパゴスフィンチ

キツツキフィンチ

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大ダフネ島のメディウムグラウンドフィンチ

1.メディウムグラウンドフィンチは嘴で種子を砕いて食べる。

2.1977年の大干ばつで、食べやすい大きさの種子ほど多く食べられ、種子の平均サイズは大きくなった。

3.小さな嘴の個体はほとんどが餓死し、大きな種子を砕くことの出来る嘴の大きい個体が生き残った。

4.その結果、もとの集団と比べると、生き残った集団の嘴の厚みの平均は大きくなった。

直接的に選択によって生じた差を選択差(selection differential) S とよぶ。

適応進化の直接的実証 量的遺伝モデル

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親子回帰の回帰直線の傾き=遺伝率 (h2)

嘴の厚みの遺伝率は0.80

実線(青点):1978年に最適であった大きさ

点線(赤点):1976年に最適であった大きさ

どちらも傾きは同じ0.80

大ダフネ島のメディウムグラウンドフィンチの嘴サイズの親子回帰

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S

生き残り、繁殖した個体

S: 選択差

はじめに居た個体の形質分布

平均

(h2 : 遺伝率)

R

次世代の形質分布

R = Sh2

R: 選択反応

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大ダフネ島のメディウムグラウンドフィンチでの予測と実証

R = Sh2

選択反応=選択差×遺伝率

量的遺伝モデルによる適応進化の直接的検証

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「種」とは何か

種概念 まず、種とは実存ではなく、人が生物の多様性を記述し認識するために設けた概念。

生物が「種の存続のために」行動しているという考え方。生物が人の設けた概念のために行動するというロジックがそもそも不成立

【注意!よくある誤解】

種の利益のために行動する個体(白)からなる集団は、自身の利益のために行動する個体(黒)からなる集団より増殖率が高い。

しかし、「白」ばかりの集団に「黒」が侵入すると、その集団は「黒」に占有される。

ただし、群レベルにはたらく淘汰は存在する。

社会性のところで詳述

では、「集団の利益のため」の行動は存在するか?群選択理論の力学的矛盾 (ただし、社会生活を営む生物については例外的)

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界 : 動物界 Animalia

門 : 節足動物門 Arthropoda

綱 : 昆虫綱 Insecta

目 : コウチュウ目(鞘翅目) Coleoptera

亜目 : カブトムシ亜目(多食亜目) Polyphaga

下目 : Cucujiformia

上科 : ヒラタムシ上科 Cucujoidea

科 : テントウムシ科 Coccinellidae

亜科 : テントウムシ亜科 Coccinellinae

族 : テントウムシ族 Coccinellini

属 : Coccinella

種 : ナナホシテントウ Coccinella septempunctata

学名Coccinella septempunctataLinnaeus, 1758

和名ナナホシテントウ

英名Seven-spot ladybird,Sevenspotted lady beetle

リンネ式階層分類体系における基本カテゴリーの中で最下位にある階級(国際動物命名規約)。種の学名は属名と種小名の二語からなる(二名式)。

分類カテゴリーとしての「種」

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生物学的種概念(E. Mayr 1942): 種とは、互いに交配し合う生物の自然集

団のグループのことであり、それは他の同様のグループから生殖的に隔離されているという考え方。

問題点:無性生殖のみで繁殖する生物には適用できない。化石種に適用できない。

形態的種概念: 生物の形態によって種を区別する考え方

問題点:個体のどのような特徴を判断の基準とするか、どれだけ差異があれば別種とするのか基準が主観的かつ曖昧。

生態学的種概念: 生物の生息域や行動など生態的地位の違いによって種を区別する考え方。実験的に交配可能であっても、自然状態で交配の可能性が無く、別個体群として存在していれば別種とみなす。

問題点:生態が詳しく解明されていない生物では分からない。

系統的種概念: 系統関係に基づいて種を認識する考え方。単系統に属し、他の系統と異なる特徴をもつ生物群を種とする。

問題点:どの範囲を種とするかが恣意的。

さまざまな種概念

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新種のアリの発見と記載

オオハリアリとナカスジオオハリアリ

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クレード2

オオハリアリ

オオハリアリ

ツヤオオハリアリ

クレード1

クレード1

クレード2

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くすんでいる

前伸腹節 腹柄節

腹柄節幅 / 頭幅 = 0.573

オオハリアリ クレード1

オオハリアリ クレード2

真のオオハリアリ P. chinensis

今回発見した新種のアリ

完模式標本の形態がオオハリアリ・クレード1と一致

すなわち

模式産地:上海 中国

模式標本との形態比較

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P. n

akas

ujii

P. c

hine

nsis

P. lu

teip

es

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P. NakasujiiとP. chinensisの分布比較

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