第2章 石巻市の現状と戦略第2章 石巻市の現状と戦略 【概 要】...

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第2章 石巻市の現状と戦略 第2章 石巻市の現状と戦略 -11-

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Page 1: 第2章 石巻市の現状と戦略第2章 石巻市の現状と戦略 【概 要】 1.産業別就業人口及び産業の推移 (1)産業別就業人口の推移は、農林水産業が大きく落ち込む。2次産業と3次

第2章 石巻市の現状と戦略

第2章 石巻市の現状と戦略

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第2章 石巻市の現状と戦略

【概 要】

1.産業別就業人口及び産業の推移

(1)産業別就業人口の推移は、農林水産業が大きく落ち込む。2次産業と3次

産業が増加したが、平成7年をピークに減尐。

(2)事業所数は平成3年をピークに一貫して減尐。原材料使用額等や製造品出

荷額は横ばいであるが、従業員数・現金給与総額が減尐。

(3)農地の総経営耕地面積が減尐し、専業農家が 56%減と大きな落ち込み。

2.石巻市の強みと弱み

(1)東北地方としては比較的暖かく、日照時間も長く作物栽培に最適な気象条件。

(2)電源地域における電力料金補助が受けられ電気を多く使う企業の誘致に有利。

(3)石巻専修大学や東北大学と人材育成や産業振興に向けた産学官連携。

(4)唯一の弱点は物流で、首都圏への物流コストが高くつき不利。

3.石巻市の戦略方向と取るべき戦略

(1)「太陽のまち、自然を活かした産業づくり」で環境都市を目指すための戦略

方向は、自給率を高める次世代植物工場の展開、環境をテーマとした次世代

農業の展開、産学官連携による次世代農業の展開

(2)取るべき戦略は植物工場の誘致。気象条件、電力補助が有利で、農業や食

品の様々な課題への対応。若者を中心に就農者確保に効果的で若き後継者の

育成も期待。栽培方法のマニュアル化で比較的企業の新規参入容易。

4.次世代型農業の集積の提案

石巻アグリクラスター-ISHINOMAKI Agri Cluster(IAC)―基本構想の提案

(1) 構想は食の安心・安全の観点、さらには自給率向上を視野に、安価な電力

料金と産学官連携等を軸に植物工場を誘致し、次世代型農業の集積を図る。

(2) 構想の中心機能である「石巻市特産品戦略センター構想」、サブタイトル

「食の虎の巻・石巻」を設置。次世代型農業の普及、産学官連携による新産業

創出の発信基地、さらに高効率な次世代型農業集積を目指す中核施設の役割。

5.石巻アグリクラスター基本構想の具体的な内容

(1)完全人工光型・太陽光利用型の植物工場概要とメリットとデメリット。

(2)地元の農家と参入企業との連携とすみ分けが必要。

(3)環境都市を目指すためのメガソーラ

(4)石巻市特産品戦略センターは、植物工場の集積化に向けた効率化を促進。

(5)植物工場の施策・制度の補助制度を活用する自治体が増加。また、青森県で

は特区制度を活用した例もあり、検討が必要。

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第2章 石巻市の現状と戦略

1.産業別就業人口の推移

石巻市の産業別就業人口の推移を分析する。農林水産業の落ち込みの代わりに、増

えたのは2次産業と3次産業である。工業化が進み、それに伴うサービス業等が増え

ていった。しかし2次産業と3次産業も平成7年をピークに減尐に転じている。市全

体の活性化が望まれるところである。

産業別就業人口の推移

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第2章 石巻市の現状と戦略

2.商業・工業の推移

石巻市の商工業の推移は下表の通りである。事業所数が平成3年をピークに一貫し

て減尐している。平成13年から17年にかけて、原材料使用額等や製造品出荷額は

横ばいであるにも関わらず、従業員数が減り、現金給与総額が減っている。事業所数

の減尐により正規社員が減っていることを示している。しかし、生産額が変らないと

いうことは、非正規社員つまりパートや契約社員などへのシフトが進んだと思われる。

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3.農業の現状

石巻市の農業の現状を分析する。産業別就業者人口を昭和40年と比較すると1次

産業は、下降の一途で従事者は 1/4 以下に落ち込んでいる。この落ち込みは水産業に

よるものが大きいと思われる。2次産業と3次産業は、平成7年をピークに平成17

年には減尐傾向にある。

総経営耕地面積を比較すると、田及び畑は約 20%減である。田より畑の減尐がやや

大きい。また、専業農家が 56%減と大きな落ち込みは注目すべきところである。

農業が産業として成り立ちにくくなってきているということである。

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4.石巻市の強み

(1)気象条件

石巻市の気象条件を検討する。夏場の最高気温が 30 度以下であり、非常に涼しい。

(2001 年以降の統計を確認すると、わずかに 30 度を超えることもあるようだ。)また、

冬場の最低気温は、氷点下ながら最低でも-2.8 度と、東北地方としては比較的暖かい。

また、常に一定の風が吹いている。これは作物の生育に重要なポイントである。さら

に年間の日照時間が約 2000 時間あり、トマトなど比較的日照を必要とする作物の栽

培に適した基準を満たしている。また、冬場の最大積雪が 17cmと尐なく、除雪や雪

対策もほとんど必要ない。これらを総合すると、石巻市は、太陽光型植物工場の立地

には非常に適していると言える。

気温 夏涼しく 冬それほど寒くなく

風 常にそよそよと心地よく

日射時間 年約2000時間→太陽光型もOK

雪 さほど多くなく

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第2章 石巻市の現状と戦略

【主な都市の気象データ 日照量と降水量】

石巻市の日照量と降水量を東北地域の他都市と比較すると、日照量では、東北の湘

南といわれる「いわき市」が最も多いが、次いで石巻市が第2位と高い量となってい

る。また、降水量では、主要都市の中で最も尐なく第1位となっている。

いわき市は、カゴメのトマト工場が立地しており、その立地要因を日照時間が多い

ことをあげている。そのことから石巻市の気候条件は、植物工場に適した気候条件と

いえる。

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(2)安い電力料金

石巻市は、電源地域における電力料金の補助が受けられる強みがある。これは、女

川原子力発電所(東北電力)が立地していることで、交付金制度と電力料金が最大 75%

の割引が受けられるものである。日本の中でも地域が限定される希尐な補助制度であ

る。これにより、完全閉鎖型植物工場の課題である電力料金のコストに対して大きな

メリットとなる。また、電気を多く使う、食品工場などの誘致にも有利に働く。この

利点を企業誘致にうまく活用すべきである。

【原子力発電施設等周辺地域企業立地支援給付金】

電気料金を最大8年間 75%を補助

【交付対象者】

原子力立地地域等の周辺地域で新設・増設(契約電力の増があること)した3人以上の

雇用をする企業で、地域の産業振興に貢献など、必要と認められる企業に、都道府県を通

じて交付する。

【補助要件】

① 新規立地や工場等の増設に伴う契約電力の増があること。

② 新たな雇用者の増加数が3人以上あること。

③ 新たな投資額(固定資産)が一定額以上あること。※特例加算をうける場合のみ

・所在市町村:新設 5000 万円(増設 250 万円)

・隣接市町村:新設 1000 万円(増設 500 万円)

【交付額】

以下の基準で算出した額を交付額とし、新増設(増設は別途算定)した半期のよく半期

から8年間(雇用人数が3人を下まわった場合は、その半期は不交付)交付。

[契約電力(①)+特例加算分(②)=算定交付金]

上記で求めた算定交付額と③の交付限度額(イ:支払電気料金、ロ:算定電気料金)と

の比較を行い、最も低い額を交付額として決定。

① 契約電力分

増加した契約電力に、支払い電気料金に応じて定めた単価に乗じて算定した金額。

(雇用効果3人以上 20 人未満 1500kw 、20 人以上 2500kw が限度)

契約電力×(算定単価-交付金単価)×電気料金支払月額

② 特例加算分

増加した雇用人数に応じて算定した金額

増加した雇用人数×300,000 円(隣接市町村は半額)

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第2章 石巻市の現状と戦略

【前頁のつづき】

③ 交付限度額

イ 支払電気料金:半期の実電気料金×係数-(実契約電力×交付金単価×支払月数)

ロ 算定電気料金:算定契約電力×(算定単価×係数-交付金単価)×支払月数

(注)係数は、所在、隣接等によって異なる。

(3)産学官連携の可能性

石巻専修大学は、理工学部、経営学部、大学院を有しており、企業との産学連携に

力を入れている。また、東北大学においても産学連携事業を全国的に展開しており、

石巻市のおかれている地理的条件、ネットワークから広範囲に連携が組める可能性が

ある。

石巻市と石巻専修大学との包括連携に関する協定書が平成20年2月に締結され、

人材育成や地域活性化の産業振興に取り組んでいる。

① 連携のこれまでの経過

石巻専修大学が平成元年、石巻市に開学して以来、先生方には、各種審議会、委員

会等に委員として参画していただき、市の重要施策の形成過程において、それぞれの

専門的立場から調査・研究や審議を得てきた。また、産学官交流事業においても、地

域の産業振興に取り組んで来ている。

平成19年3月に策定した総合計画において「政策研究機能の強化について、実践

と学術研究との効果的な連携が図れるよう、石巻専修大学と連携した政策研究機関の

設置を検討する」こととし、地域の活性化、人材育成、大学における教育研究活動の

振興を図る観点から、一歩踏み込んだ相互協力体制の確立を目的として連携協定を締

結されている。

② 連携する項目について

1) 地域づくり・まちづくりの推進に関すること

2) 観光振興や産業振興など地域経済の発展に関すること

3) 環境の保全及び防災対策の推進に関すること

4) 健康づくりに関すること

5) 住民との協働の推進に関すること

6) 教育・文化の振興、生涯学習の推進に関すること

7) 地域の国際化・国際交流の推進に関すること など

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第2章 石巻市の現状と戦略

5.石巻市の弱み

(1)物流

石巻市の唯一の弱点としては、やはり、主力消費地である首都圏からの距離になる。

トラック輸送が主流の今日においては、東京まで約 430km車で6時間という距離は

なんとも不利になる。野菜の物流コストはランニング・コストに占める割合が大きい

為、首都圏周辺部との比較において不利となる。環境問題が叫ばれるなか、今後、鉄

道や船を使った輸送手段をどのように再生し、利用できるようにしていくのか?これ

は、石巻市や宮城県にとって、農業分野以外の産業にとっても、非常に重要なポイン

トとなっていくと思われる。

図 石巻市の物流距離

googl

東京まで約430km

車で6時間

首都圏へ農産物を配送するには

埼玉・茨城・栃木・群馬が有利

鉄道や船を検討

東京まで約430km

車で6時間

首都圏へ農産物を配送するには

埼玉・茨城・栃木・群馬が有利

鉄道や船を検討

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第2章 石巻市の現状と戦略

6.「太陽のまち、自然を活かした産業づくり」で環境都市を目指す戦略方向

■ 自給率を高める次世代植物工場の展開

■ 環境をテーマとした次世代農業の展開

■ 産学官連携による次世代農業の展開

今後、石巻市の「太陽のまち、自然を活かした産業づくり」で環境都市を目指すた

めの、取るべき戦略についてまとめる。植物工場に関しては、太陽光利用型には気象

条件が有利で、完全閉鎖型には電力補助が有利となり、両形式とも有利な条件である。

また、環境面と電力料金のコスト削減の観点から、メガソーラ施設の併設も可能とな

る。電力補助は、植物工場から生産される野菜等の付加価値を高める食品加工工場の

誘致にも有利で、立地が優位に展開できる。さらに、食品加工工場と植物工場を組み

合わせで、中間物流のコストを削減すると共に、加工度をあげることで、長距離輸送

のコストインパクトを薄めることができる。

植物工場の研究・生産のメッカとしては、専修大学や東北大学の存在が経営管理や

光源システム、生産システム等の産学官連携が組めることで戦略的な優位性がある。

また、大市場である関東に遠いという弱みがあるが、仙台の近郊に位置し東北一円

への輸送を考えると市場的に弱みばかりともいえない。強みを組み合わせることで十

分に対応できる。これらポイントを中心軸として、戦略を立案する。

【石巻市の特徴(強み)と戦略】

太陽光型植物工場

完全閉鎖型植物工場

特徴 戦略

夏冷涼冬温暖な気温豊富な日照時間

手厚い電力補助

専修大学東北大学

仙台市の近郊

施設園芸農家の存在 産学官連携

メガソーラ施設

食品加工工場

太陽光型植物工場

完全閉鎖型植物工場

特徴 戦略

夏冷涼冬温暖な気温豊富な日照時間

手厚い電力補助

専修大学東北大学

仙台市の近郊

施設園芸農家の存在 産学官連携

メガソーラ施設

食品加工工場

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7.石巻市の取るべき戦略

(1)植物工場の誘致

石巻市の強みを活かした戦略としては、植物工場の誘致が考えられる。今後、石巻

市の取るべき戦略についてまとめる。植物工場の種類に関しては、実は太陽光利用型

にとっては気象条件が有利で、完全閉鎖型にとっては電力補助が有利ということで、

どちらの形式にとっても有利な条件となる。植物工場の研究・発展のメッカとして、

企業誘致に役立てるには、好条件と言える。また、電力補助は、電力を多く消費する

食品加工工場の誘致にも有利である。食品加工工場と植物工場を組み合わせることで、

中間物流のコストを削減すると共に、加工度をあげることで、長距離輸送のコストイ

ンパクトを薄めることができる。これらポイントを中心軸として、戦略を立案するこ

とが望ましいと考える。

夏冷涼冬温暖な気温豊富な日照時間

太陽光型植物工場

手厚い電力補助 食品加工工場完全閉鎖型植物工場

優位性が有る特徴 実現性が高い戦略

通常野菜

地域消費・高付加価値品

地域消費

夏冷涼冬温暖な気温豊富な日照時間

太陽光型植物工場

手厚い電力補助 食品加工工場完全閉鎖型植物工場

優位性が有る特徴 実現性が高い戦略

通常野菜

地域消費・高付加価値品

地域消費

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第2章 石巻市の現状と戦略

(2)今、なぜ植物工場なのか

最近植物工場が着目されるのは、農業や食品における様々な課題にある程度対応で

きるという利点があるということ。また、従事者が高齢化して後継者不足に悩む日本

の農業において、企業に就職する感覚で農業ができる植物工場というスタイルが、若

者を中心に就農者の確保に効果的な点である。また、農外企業が新規に参入した場合

でも、栽培方法が比較的マニュアル化しており、従って失敗無く栽培できるところも

利点である。但し、コストの問題で穀類や豆類には難がある為、カロリーベースの自

給率に寄与するかどうかは疑問である。植物工場で農業の世界に入った若者が、数年

して露地栽培に興味を持ち、参入する事例もきかれており、若き後継者の育成も期待

される。

【植物工場の課題と方向】

■今日の農業の課題

安全性 (1)無農薬、減農薬栽培

従事者の高齢化

離農者の急増

若者の農業離れ

(2)若き農業後継者の育成

食料自給率低下

輸入野菜の急増

生産性向上、高品質

研究開発

異常気象 温室利用、複合環境制御

補光照明、人工光厳冬期の克服

■植物工場における実施内容

9時~17時、週休2日

快適な労働環境

(3)安定生産

高付加価値

■今日の農業の課題

安全性 (1)無農薬、減農薬栽培

従事者の高齢化

離農者の急増

若者の農業離れ

(2)若き農業後継者の育成

食料自給率低下

輸入野菜の急増

生産性向上、高品質

研究開発

異常気象 温室利用、複合環境制御

補光照明、人工光厳冬期の克服

■植物工場における実施内容

9時~17時、週休2日

快適な労働環境

(3)安定生産

高付加価値

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第2章 石巻市の現状と戦略

8.次世代型農業の集積の提案

(1)石巻アグリクラスター―ISHINOMAKI Agri Cluster(IAC)―基本構想

石巻市は、従来から施設園芸が盛んで特にイチゴ、トマトなどは産地化が進んでい

る。また、水産業は近海に豊富な水産資源が有り、全国有数の漁業拠点として発展し

てきている。この1次産業は市の基幹産業として、雇用や地域経済に大きな役割を果

たしてきている。しかし、近年においては食物の輸入拡大と市場の多様化で、従来の

産業形態では衰退の可能性が高く、雇用と地域経済が崩壊する危険性がある。そのた

めには、雇用の拡大と地域農業への波及を図り、新たに植物工場を中心とした次世代

型の農業集積が必要となってきている。

それらの動向に鑑みて本市においては、環境と植物工場を軸とした「特産品戦略セ

ンター」を設置し、当センターを核として次世代農業の普及及び産学官連携による新

たな産業創出の発信基地、さらに高効率な次世代型農業集積を目指す「石巻アグリク

ラスター―ISHINOMAKI Agri Cluster(IAC)―基本構想」を提案する。

本構想は、石巻市のマニフェストのテーマのひとつである「太陽のまち、自然を活

かした産業づくり」で環境都市を目指すことを目標に、食の安全と安心の観点、さら

には自給率向上を視野に、安価な電力料金と産学官連携等を軸として植物工場を誘致

し、次世代型農業の集積を図るものである。基本構想の全体像は、下記の通りである。

石巻アグリクラスター基本構想図

- ISHINOMAKI Agri Cluster (IAC)-

特産品センター研究開発・試作

水産業

植物工場

既存農家の新展開

市場

産業振興ものづくり等

国宮城県・石巻市農協・漁協商工会議所等

専修大学東北大学等

・エネルギー

電気料金割引

メガソーラ

産学官連携

特産品センター研究開発・試作

水産業

植物工場

既存農家の新展開

市場

産業振興ものづくり等

国宮城県・石巻市農協・漁協商工会議所等

専修大学東北大学等

・エネルギー

電気料金割引

メガソーラ

産学官連携

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第2章 石巻市の現状と戦略

(2)石巻アグリクラスター(IAC)の中核施設「特産品戦略センター」の設置

具体的なイメージは、名付て「石巻市特産品戦略センター構想」、サブタイトル「食

の虎の巻・石巻」である。

植物工場への新規参入希望企業にとって、サンプル栽培と販路開拓の為、テストプ

ラントは、次世代型農業において重要なものである。そのためにはまず、市では植物

工場のレンタルプラントを用意して、利用可能な施設とすることである。また、企業

誘致の面から、石巻産の野菜がどのくらいの品質なのか、サンプルが欲しいという希

望が必ず来る。業務用野菜は、「このような品質で」という基準が複雑で、色、太さ、

風味、食感などのほかに、カットした時の壊れ、保存性、加工後の食感や見た目、味

など、確認すべき項目は、通常野菜の数倍にあたり、納得のいく品質になるまで、数

十回のテスト栽培を繰り返す必要がある。一般農家では到底対応できないし、まして

や新規参入企業でも不可能である。

センターでは、有識者の指導の下で、食品加工会社の要求水準を満たせる試作スタ

ッフを育成していくことが、後々の企業誘致の展開において、非常に重要である。

【食の虎の巻・石巻】

(3)特産品戦略センターの役割

・植物工場をはじめとした高効率生産システムを利用し、大手企業などとのコラボレ

ーションにより、マーケットインの発想で、戦略的に栽培・生産の技術(特にコス

ト意識をもって)を構築すると共に、大規模生産基地を誘致していく為のマーケテ

ィング基地とする。

・ 参入希望企業などが、センターの設備や人材を活用し、栽培技術・加工技術の完

成とコストデータの収集を行い、試作品等の栽培・製造を可能とすることで、は

じめて大企業の誘致が可能となる。

石巻市

・特産品作り

・企業誘致

・新たな産業

食品等消費企業

・なぜ石巻?

・サンプルは?

・コストは?“特産品戦略センター”

地元参画企業

・サンプル栽培

・コストデータ収集

・販路開拓

石巻市

・特産品作り

・企業誘致

・新たな産業

食品等消費企業

・なぜ石巻?

・サンプルは?

・コストは?“特産品戦略センター”

地元参画企業

・サンプル栽培

・コストデータ収集

・販路開拓

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第2章 石巻市の現状と戦略

【特産品戦略センターのフィールド】

石巻市の中には、「トゥモロービジネスタウン」という、企業進出用の造成済団地

がある。ゆくゆくは、ここへ、食品加工企業などを誘致していくために、前頁の構想

は、その第一歩であり、対外的にも、食品企業に対するアピールとして、非常に重要

なステップとなる。また、既に運営中の「ルネッサンス館」では、事務所機能を初め、

会議スペースもあり、また、新たに建物を建てなくても、完全閉鎖型植物工場のテス

トプラントとして使用できるなど、コストダウンと全体のスケジュール圧縮には有利

である。この「ルネッサンス館」の有効活用は、植物工場にとって優位性となる。

・石巻トゥモロービジネスタウン(TBT)

石巻ルネッサンス館

石巻市HP・石巻産業創造株HPより

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第2章 石巻市の現状と戦略

9.石巻アグリクラスター基本構想の具体的な内容

(1)植物工場の概念

植物工場とは、閉鎖的または半閉鎖的な空間環境内において、主として植物を計画

的に生産するシステムである。安全な食料の供給、食材の周年供給を目的とした、環

境保全型の生産システムで、この管理の元に栽培する方法を植物工場と呼ばれている。

植物工場には、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う

「完全人工光型」の施設と、温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雤天・

曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により周年・計画生産を行う「太陽光利用型」

の施設の2類型がある。

一般に養液栽培で植物を生育させ、自然光または人工光を光源として、植物栽培の

環境をコンピューターにより温度、光、二酸化炭素、培養液(肥料)など制御すること

で、天候に左右されることなく、人手を必要とせずにトマトや葉物野菜、イチゴ、キ

ノコ類などの作物を自動的に栽培生産するものである。

(2)植物工場の種類

植物工場は、太陽光利用型と人工光(ランプ)による完全人工光型の2つの分類に

分けられる。

① 完全人工光型の植物工場

完全人工光型の植物工場は、外部と切り離された閉鎖的空間において、完全に制

御された環境、すなわち人工的光源、各種空調設備、養液培養による生産を行う植

物工場のことを言う。

最大の特徴は、環

境を完全制御された

閉鎖的空間で、土壌

利用をしない養液栽

培をすることから、

冷夏、暖冬や台風、

病害虫被害などの影

響を受けずに、安定

した量、形や味、品

質、そして価格で

製品供給ができる。

また、病原菌や害

「株式会社 みらい」完全

人工光型工場(HPより)

「株式会社 キューピーマヨネーズ」TS

ファーム完全人工光型工場(HP より)

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第2章 石巻市の現状と戦略

虫の侵入がないため、予防・駆除の農薬の散布が不要で無農薬による安全生産が可

能で、しかも細菌数が尐なく、土等の付着もないため、洗浄せず(簡易洗浄)食べ

ることができ、手間や水道費が削減されることである。

養液栽培は、連作障害を起こさずに連作が可能で、光の強さや日長、温度や湿度、

培養液成分や二酸化炭素濃度を制御することで、成長を促進させることができ短期

間で出荷可能な状態まで育てられ、年十数作が可能となる。

また、施設の設置場所も市街地や工業団地が可能で、しかも密度の高い栽培が可

能であることから土地の高度利用が可能となる。

② 太陽光利用型の植物工場

太陽光利用型の植物工場は、半閉鎖空間で太陽光を主体に人工光を補完的に利用

して養液培養による生産システムである。太陽光を主光源とすることから、雤天・

曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により周年・計画生産を行うことができる。

完全制御型の植物工場ほどの高効率、周年生産は低下するが、その一方で設備費用

や光熱費を低く抑えることができる。そのため完全制御型の植物工場では採算の合

わないものについても生産が可能となる。

また、太陽光による温度の上昇に対処するために外気を導入しなくてはならない

ことから、施設の上部を開閉するシステムを設けている。そのため細菌等の侵入も

多尐あり、農薬も必要となることもある。さらに施設により、温度上昇に対して、

空調費を抑えるため、植物体や、あるいはその一部に対して冷却を行う方法もある。

太陽光利用型トマト工場、上部は一部開放できる設備(北九州市:響灘菜園)

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第2章 石巻市の現状と戦略

③ 植物工場のメリット・デメリット

植物工場のメリット・デメリットを総括すると下欄の通りである。

■無農薬栽培が可能

■天候に左右されない されにくい

■周年安定、計画生産が可能

■土地生産性が高い

※従来より広い範囲で定義されつつある。

植物工場は、1年中安定的に生産でき、形や大きさ、品質が揃い無農薬で安全・

安心、無洗浄で食べられて加工が容易なことから、外食産業や食品加工産業に広く

使われている。特に外食産業では、霜被害や台風などの自然災害で野菜価格が乱高

下によるコストの安定性や安定的な量の確保ができなくなることが、経営上大きな

問題となる。そのため影響の尐ない植物工場は経営の基盤の安定化に重要な役割を

果たすことで、植物工場と直取引をするケースが増えてきている。さらには栄養素

の含有量を高めることが可能で、外食産業等の製品の付加価値も増すことができる。

施設設置は、農地、耕作放棄地、工業団地、商店街の空き店舗等で水と熱エネル

ギーがあれば、農地法や建築基準法、消防法等の規制はあるが、多岐にわたる土地

に設置できる。また、生産施設は多段化で土地を効率的に利用でき、自動化や多毛

作で高い生産性を実現できるとともに、作業の平準化が容易で農業初心者の雇用や

高齢者や障害者の就労も可能で、製造工場と違った安定した雇用の場が創出できる

メリットがある。

その一方で課題も多くある。特に熱エネルギーのランニング・コストと施設の初

期投資コストが大きく、この低減策が今後の課題となる。また、作物の品種の拡大

も課題でレタスやトマト、イチゴといったものからパプリカやマッシュルーム、南

国系フルーツから漢方薬原材料に通じる薬草へと付加価値の高い製品へと生産技

術を開発することが必要となる。特に栽培技術の確立(先進地域オランダの半分以

下に留まる生産性の向上)と人材育成は不可欠である。

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第2章 石巻市の現状と戦略

【植物工場の主なメリット・デメリット一覧】

① 安定供給が可能

環境を完全制御され閉鎖的空間で、土壌利用をしない養液栽培をすることか

ら、冷夏、暖冬や台風、病害虫被害などの影響を受けずに、安定した量、形や

味、品質、そして価格で供給可能。

② 食の安全・安心の確保

病原菌や害虫の侵入がないため、予防・駆除の農薬の散布が不要で無農薬に

よる安全生産が可能。また、細菌数が尐なく、土等の付着もないため、洗浄せ

ず(簡易洗浄)食べることができ、手間や水道費の削減が可能。外食産業で多

く利用されている。

③ 高速生産

養液栽培は、連作障害を起こさずに連作が可能。また、光の強さや日長、温

度や湿度、培養液成分や二酸化炭素濃度を制御することで、成長を促進させる

ことができ短期間で出荷可能な状態まで育てられ、年十数作することも可能。

④ 土地の高度利用

農地以外の住宅地内、商店街、工業用地内でも設置が可能。植物の生育にあ

わせた苗移動で、最大限の密度での栽培が可能。また、棚状に複数段の配置や

斜め配置で、土地の利用効率を高めることが可能。

① 高い施設設備費

工場設置の初期投資及び光熱費等のランニング・コスト費用が生産単価に比

べて高額。特に光源(高圧ナトリウムランプ、蛍光灯、発光ダイオード等)の電

力費、光源から発生する熱の冷却、その他適温の維持の空調費が高い。

② 尐ない栽培品目

現在の技術で採算の合う栽培品目が限られており、高付加価値な品目の技術

対応が不足。

③ 社会的定義付け、規制の障害

「農業」を行う「工場」のため、現行規制への適用が不明確。特に建築基準

法、都市計画法、農地法等の規制法や国・自治体の補助金等の支援制度が不明

確。

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第2章 石巻市の現状と戦略

(3)既存農家との連携

一般農家が植物工場に参入するにはハードルが高く、初期投資や事業運営費負担な

どの金銭的リスクを負うことになる。

大幅な地方自治体による補助があれば別だが、そうでない場合、一般農家が植物工

場に安易に参入することは勧められない。そこで、下図のように、一般の地元農家は、

参入企業との関係を一定に保つことで、リスクヘッジを図ることをお勧めする。この

形であれば、重たい初期投資や、運営費負担を強いられることなく、遊休農地や低利

用の農地を有効活用し、地域の農業全体の活性化を行うことができる。

【既存農家との連携図】

(・農業生産法人参画)

企業資本・事業運営主体・初期投資

・事業運営費

地元農家

・土地賃貸 ・労務提供

・リスクヘッジ

一定の責任が発生

(・農業生産法人参画)

企業資本・事業運営主体・初期投資

・事業運営費

地元農家

・土地賃貸 ・労務提供

・リスクヘッジ

一定の責任が発生

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第2章 石巻市の現状と戦略

(4)植物工場と一般農家のすみ分け

植物工場と一般農家のすみ分けについて、品種の面から検討する。

植物工場では、太陽光型では果菜類から葉菜類まで対応可能で、完全閉鎖型では主に

葉菜類のみが対象となる。

葉菜類に関していうと、植物工場では一般的に、結球するタイプは得意ではない。

成育期間からくるコスト的な要因と成育環境による要因である。従って、葉菜類にお

いては、下図のごとく、露地農業などでは、結球レタスやキャベツ、また、加熱用と

なる小松菜やほうれんそうなどを得意とすることから、ほぼ完全なすみ分けが可能と

なる。

一方、果菜類においては、一般農家でもハウス栽培が主流となることから、企業参

入による植物工場とのバッティングが懸念されがちであるが、果菜類は、成育期間が

長いことから、単位面積あたりの売上高は、葉物に比べて低く、企業参入の際の事業

収支的には魅力が薄い為、あまり参入の心配はない。また、栽培が葉物に比べて難し

い為、新規参入でいきなり果菜類を検討するケースも尐ない。

また、長期的に見れば、石巻のトマトやイチゴということで、産地形成を行い、ブ

ランド化していく為には、一般農家の生産量だけでなく、企業参入の植物工場とも相

乗効果を見出していくことが、一般農家にとってもメリットとなっていく。

【一般農家とのすみ分け図】

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第2章 石巻市の現状と戦略

(5)自然エネルギーを活用した太陽光発電(メガソーラ)

① メガソーラーとは

「メガ」は「100 万」または「千キロ」の意味であり,メガソーラー発電設備と

はメガワット級(MW)の大規模太陽光発電設備のことを表す。

一般の住宅に設置される規模は 3kW程度の太陽光発電装置であることから、1MW

の太陽光発電設備は単純計算で一般家庭の設備の 333 軒分に相当する。

② 植物工場とメガソーラーの関係について

既存のパッシブソーラー型植物工場については,1 ヘクタール規模を想定すると、

コンピュータ制御などによる屋根の開閉を伴う気温や湿度,溶液流量など諸設備の

管理に使用する電力が、数 10kW~100kW 程度と見られている。これらのことから、

パッシブソーラー型植物工場の使用電力規模に対してメガソーラーは、10 倍程度余

剰電力が生じることとなる。

一方、電力会社が行なっているメガソーラー計画については、「メガソーラー」も

既存の火力、原子力、水力など同様に「発電所施設」であることには変わりないた

め、電気事業法上、発電所からの個別施設への直接供給は出来ない。一度配電系統

へ発生した電力を送り、一般の変電所を経由した電力が植物工場へ供給されること

となる。

③ 植物工場と太陽光発電の連携の模索を

植物工場の事業者は、事業規模に見合った設備容量の「自家発電設備」として、

小規模の太陽光発電装置を設置した場合であれば、植物工場への太陽光発電装置か

らの直接供給は可能となる。

この場合、電力会社の系統と連携して、余剰電力が生じた場合は売電することと

なり、不足の場合や夜間は電力を購入することとなる。また、売電の場合の電力計

器の維持管理は植物工場事業者の負担となる。

民主党政権となり、各補助金制度の廃止や見直しが進んでいますが、これら政治

動向を注視しつつ、植物工場の事業化を目的として石巻市へ進出意向を持つ企業に

対して、ランニングコスト低減のため太陽光発電装置設置への適格なアドバイスを

行なうことが、石巻市として太陽光利用をいっそう進める上で、重要になるものと

思われる。

④ 東北電力のメガソーラ

東北電力では、低炭素社会の実現に向けた取り組みについて~「メガソーラー発

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第2章 石巻市の現状と戦略

電設備の建設」及び「プラグイン・ハイブリッド車ならびに電気自動車の導入」に

ついてコメントしている。(平成 21 年 2 月 26 日)

東北電力では、地球環境問題への対応を最も重要な経営課題のひとつとして位置

付け、CO2 排出削減に向けて、電力の供給面では、発電段階でCO2を排出しない

原子力発電の安全を最優先とした利用率の向上や、高効率ガスコンバインド発電の

導入拡大に努めている。また、東北地方に適地の多い水力発電や地熱発電の利用や

風力発電や太陽光発電からの電力購入など、再生可能エネルギーの活用も進めてい

る。一方、電気の利用面での対策として、電気エネルギーの効率利用やヒートポン

プなどの高効率機器の普及拡大にも取り組んでいる。

こうした中で、政府は昨年7月に閣議決定した「低炭素社会づくり行動計画」に

おいて、太陽光発電の導入量の大幅拡大(2020 年に現状の 10 倍、2030 年には 40

倍)と次世代自動車(ハイブリッド車、電気自動車、プラグイン・ハイブリッド車、

燃料電池自動車など)について 2020 年までに新車販売のうち 2 台に 1 台の割合で導

入するとの目標を掲げた。

これを受け、電力業界では昨年 9 月に「メガソーラー発電ならびに電気自動車の

導入計画」を策定・公表し、太陽光発電及び電気自動車の普及拡大を支援していく

こととしている。

⑤ メガソーラー発電設備の建設について

東北電力は、国内における太陽光発電の普及拡大に向けて、2020 年度までに当社

管内の数箇所で合計1万kW程度のメガワット(MW)級の太陽光発電設備(メガ

ソーラー発電設備)を建設・運転することとしている。また、それらを通じて天候

や日射量の変動がネットワーク全体の安定供給に与える影響を検証して行くことと

している。

導入地点については、比較的良好な日照が得られる太平洋側で、経済性や保安面

から既設事業所に比較的近い東北電力社有地を原則とし、ある程度管内に分散して

設置すること、周辺も含めた地形などの諸条件がメガソーラー発電設備の建設・運

転に適していることも基本的な考え方として地点の選定を行った。その結果、八戸

火力発電所及び仙台火力発電所の構内の一部を当社初のメガソーラー発電設備の建

設予定地点とし、それぞれの敷地内に、合計 3,500kW程度を導入することとした。

東北電力としては、今後、地元自治体や関係機関と協議・調整を図りながら、八

戸、仙台両火力発電所地点でのメガソーラー発電設備の実現に向けて検討を進める

とともに、他の開発地点についても引き続き検討を進める予定である。

なお、メガソーラー発電設備の建設予定地点の概要は以下の通りである。

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第2章 石巻市の現状と戦略

【メガソーラー発電設備の建設予定地点の概要】

【イメージ図】

東北電力 HP より

【参考:ソーラー発電について】

●太陽光パネルに光があたると光エネルギーにより、+と-の粒子が発生し、+はp

型シリコン、-はn型シリコンの方に多く集まり、表面の電極に電球やモーターをつ

なぐと電流がながれる。

(出典:NEDO技術開発

機構)

予定地点 八戸火力発電所地点 仙台火力発電所地点

所在地 青森県八戸市大字河原木 宮城県宮城郡七ヶ浜町代ヶ崎浜

出力 約1,500kW 約2,000kW

設置面積 約3ha 約4ha

発電電力量 約160万kWh/年※ 約210万kWh/年※

着工 : 平成22年度目途 着工 : 平成22年度目途

運転開始 : 平成24年度目途 運転開始 : 平成24年度目途

一般家庭約500世帯分の年間電力量 一般家庭約600世帯分の年間電力量

年間約800トンのCO2削減。 年間約1,000トンのCO2削減

工期

効果(推定)

※設備利用率を12%と仮定して試算

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第2章 石巻市の現状と戦略

(6)産学官連携における植物工場

石巻専修大学(平成元年開学)教授陣等は、各種審議会、委員会等に参画し、市の

重要施策の形成過程において、それぞれの専門的立場から調査・研究や審議を得て、

市の発展に大きな役割を果たしている。また、産学官交流事業においても、地域の産

業振興に取り組み、地域産業の発展にも寄与してきている。

その面から、「石巻アグリクラスター施策」と連携した研究開発、特に植物工場の経

営に関する研究、植物の効率的な育成に向けた資材・システム研究など、植物工場を

中心とした環境技術の発展に寄与することで、知の役割を果たすことが期待される。

地域の活性化、人材育成、大学における教育研究活動の振興を図る観点から、一歩

踏み込んだ産学官連携の相互協力体制を確立した推進を図る。

【連携する項目】

(1) 地域づくり・まちづくりの推進に関すること

(2) 観光振興や産業振興など地域経済の発展に関すること

①植物工場の経営に関するプロジェクト

②植物工場資材・システム研究 等

(3) 環境の保全及び防災対策の推進に関すること

①植物工場と環境共生

②メガソーラに関する研究

産学官連携

地域の活性化産業の振興

・産業基盤となる研究開発・技術相談・経営サポート・経営相談

ISプロジェクト産学交流活動・KCみやぎ推進ネットワーク・石巻産学官グループ交流会・観光から地域をつくる交流広場産学連携事業・自動車関連産業集積プロジェクト・石巻地域観光SNS

など

【植物工場の産学官連携事業】

・植物工場経営プロジェクト

・植物工場資材・システム研究

・植物工場と環境共生プロジェクト

・メガソーラに関する研究

事業の可能性検討

産学官連携

地域の活性化産業の振興

・産業基盤となる研究開発・技術相談・経営サポート・経営相談

ISプロジェクト産学交流活動・KCみやぎ推進ネットワーク・石巻産学官グループ交流会・観光から地域をつくる交流広場産学連携事業・自動車関連産業集積プロジェクト・石巻地域観光SNS

など

【植物工場の産学官連携事業】

・植物工場経営プロジェクト

・植物工場資材・システム研究

・植物工場と環境共生プロジェクト

・メガソーラに関する研究

事業の可能性検討

【石巻専修大学との産学官連携事業】

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第2章 石巻市の現状と戦略

10.植物工場の集積化と波及効果

(1)物流関連

植物工場を集積させることにより、共同配送などのインフラを整備することが可能

となる。

元々、植物工場のランニングコストに占める物流コストの割合は大きく(20~25%)

共同配送によるコスト圧縮のメリットは大きい。

また、首都圏近郊の産地との競争においても、このような取り組みを積極的に行っ

ていくことが必要で、1~2 社で行うよりも、数社でまとまって行った方がコスト削

減効果も大きい。

また、地元農家においても、この共同配送システムが確立すれば、相乗りが可能で、

首都圏における新しい販路にむけて、新しい取り組みが可能となり、地元の一般農家

にとっては大きなメリットとなる。

【共同物流効果】

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第2章 石巻市の現状と戦略

(2)集積化における農業の高度化

共同配送システムの構築に加えて、さらに高度化させるべく、相関図を検討した。

まず、企業が参入を検討するにあたり、特産品戦略センターの機能を利用して試験

栽培を行い、その結果をフィードバックして植物工場に新規参入し、石巻市に集積さ

せていくというストーリーである。この際、特に、品種改良や育種の分野になってく

ると、大学や研究機関等との共同研究が必要となってくるので、あらかじめ連携を取

っておく。特産品戦略センターの機能としては、商品開発アドバイスや、販路開拓支

援を通じて、産地ブランドの構築までを行っていくべきである。ここで、主な消費地

である首都圏の販路開拓、マーケティングの為に常にネットワークを活かして情報収

集をすることが重要である。さらに、これらの仕組みを、他の特産品や、水産品・加

工品にも供用していくことで、石巻ブランドを強固にし、浸透させていくことで、地

元経済の活性化を図るというのが目的である。

【植物工場の集積と高度化】

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第2章 石巻市の現状と戦略

11.植物工場の国の施策と課題

(1)国の補助制度

2009年度に実施された、植物工場普及推進策の中で、企業が新規に参入する際に使

えるのが「1/2リース事業」というものであった。これは、初期投資の 50%を補助し、

残りをリース会社からリースする形を取りなさいというものである。しかし、「事前に

生産量の 50%以上にあたる販路を確保し、書面で添付しなさい」という要件があった。

実はこれがネックで、殆どの新規参入希望企業が、補助金申請すらできない状態に陥

った。なぜなら、販路にあたるとことは、通常は、「野菜を作ったらサンプルを持って

来なさい。実物をみたら商談に応じる」となる訳である。これでは鶏と卵だが、新規

参入するには、一旦自前でテストプラントを作り、野菜を試作し、販路開拓を始める。

そして、販路の目処がたって、尐しおおきなプラントを作ろうという時に、初めて補

助金の申請が可能になるのである。

【農林水産省の補助制度の課題】

「1/2リース事業の補助金要件」

・ 新技術の盛込み

→ LED など

・ 事前に販路 50%以上カバー

→ 事業者が自らサンプル栽培しないと販路開拓できず

→ ほとんどの新規参入希望企業が補助金申請そのものを断念

■ 試作品をもっての営業活動による販路開拓ではじめて国の補助金制度

が利用可能となる。

(2)国の特区制度(規制緩和)

農業特区では、企業などが自治体又は公社を通じて農地を借りられるようにするも

のが有名で、その後全国区になった。(しかし、末端の行政窓口では、対応はまちま

ちである。)また、農業関連としては、神奈川県相模原市の「ダチョウ特区」や、農

産物加工としては「どぶろく特区」など、地方ごとに様々な趣向を凝らした特区が登

場した。しかしながら、関連する様々な法規制を紐解かなくてはならず、対応する複

数の所管窓口は縦割りで、実際に利用しようとすると、たいへんな労力である。例え

ば、ダチョウ特区では、ダチョウ飼育用の下野には屋根があるので、建築物ではない

か、仮設トイレは農地に設置してもよいのか、などなど、解決に1~2年を要し、苦

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第2章 石巻市の現状と戦略

労されたとのこと。特区は、地域からの発案により、既存の規制を緩和する制度であ

る。特区計画の認定を受けることにより、これまで国の規制が緩和されることで計画

が推進できることになる。

石巻市においての特区活用は、企業が大規模に植物工場を展開する場合、農地の売

買、賃借に関して、農業振興地域の整備に関する法律(農業振興地域)、農地法の計

画変更及び転用に関する規制緩和が中心となる。また、トゥモロビジネスタウンに設

ける構想となる特産品センターにおける研究開発施設における、太陽光型の植物工場

の立地に建築基準法、消防法が適用となり、コスト面で大きな負担が発生する。その

面で農業施設並の基準に緩和する特区制度の活用が考えられる。

■特区の目的

実態に合わなくなっている国の規制が、民間企業の経済活動や地方公共団体の事業

を妨げていることから、民間企業や地方公共団体などの発案により、地域の特性に応

じて規制を緩和する特定の地域(特区)を設けることにより、日本全体の構造改革が

促進する。

■特区の効果

地域における構造改革の成功事例を示すことで、全国的な規制の改革へとつなげる。

これにより、日本経済全体の活性化を図る。また、地域の特性に応じた産業の集積

や新しい産業が生まれる、地域経済の活性化が図れる。

■特区の基本理念

国がメニューを用意するのではなく、知恵と工夫を活かし地域がお互いに競争する。

「全国一律の規制」から「地域の特性に応じた規制」という考え方に転換する。

規制緩和により特区の内外で弊害が生じる場合は、地方公共団体が自ら防止措置を

講じる。従来型の財政措置(国の補助金など)はない。

■全国規模の規制改革

特区において緩和された規制については、国において評価を行い、支障のないもの

は、全国的に規制を緩和する。

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第2章 石巻市の現状と戦略

【青森県で検討中の植物工場特区事例】

これは、青森県で検討中のものである。青森県では津軽地方と呼ばれる県の北西部

が、豪雪や日照不足で農業に不向きであるため、生鮮野菜をかなりの割合で県外から

買わなくてはならない。そのため、県が特区推進とともに、補助金も用意するなどし

て、津軽地方の活性化を行い、県外品の購入分を県内産にすることで、県内経済の健

全化につなげようというもの。(八戸地区は比較的雪も尐なく、日射もあるため農業

は盛んである。)従って、想定されるのは完全閉鎖型(人工光のみ)となる。

2009 年度には、青森県知事が神奈川の植物工場(太陽光利用型)を見学するなど、

視察検討を行っている。

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第2章 石巻市の現状と戦略

12.今後の展開と課題

今後の展開と課題についてまとめてみた。まず、センターの建設における費用負担

である。何らかの形で市が負担することも考慮しなければならない。国からの補助な

どについては、政権が変り、今後の見通しについては不明である。また、利用者にあ

る程度の利用料負担をお願いすることで、多尐の初期投資回収は可能であるが、基本

的には企業誘致の為の先行投資である。

運営においては、地元の新規参入企業の利用に際し、栽培方法等の指導が可能なス

タッフの育成が必要となる。また、前述のとおり、食品企業向けの試作スタッフの育

成も重要である。幸い、植物工場の栽培では、農業経験は不要だが、機器の操作やメ

ンテナンスなど、それ相応のレベルのスタッフが必要となる。

また、このセンターを利用して、どのように展開し、企業誘致活動を行っていくか、

広報戦略も含めて、非常に重要な項目である。後述するが、オランダのフードバレー

のような展開を目指すとするなら、費用もふくめて、それ相応の体制を整える必要が

ある。

センター建設 費用負担

センター運営 費用・運営事業者

企業誘致 食材消費企業

センター建設 費用負担

センター運営 費用・運営事業者

企業誘致 食材消費企業

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