第27回北海道マルチメディア理科教育研究会実施報告 ·...
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第27回北海道マルチメディア理科教育研究会実施報告北理研マルチメディア研究委員会
代 表 札幌旭丘高等学校 杉山剛英
1 はじめに
本研究会は 「わかる授業実現のため、新教材・素材を用いた実験・授業のあり方を実践研、
究する」を研究主題としている。毎年2月に、その成果を研修会の形で発表し、参加者にも実
際に体験してもらい、その普及を図っている。毎年、新しい教材を扱い参加者は全道各地から
例年80名を超える様になった。今回はその報告をする。
2 実施報告
(1)概要
日 時:平成24年2月4日(土)9:20~16:05
場 所:札幌旭丘高等学校
参加者:87名
阿部益太郎 校長 中村隆信 委員 杉山剛英 委員会代表
(山の手養護) (道教委) (札旭丘)
(2)実践研究概要
「 、 」 ( )、 ( )① 針金-リン酸振動反応 時計反応と反応速度 佐藤 大 士幌 藤田啓太郎 室栄
1Mリン酸の3.5%過酸化水素水溶液に亜鉛メッキを塩酸で溶かした鉄針金を入れると
周期的にH ガスを発生する。その反応機構は完全には解っていないが、針金内の電子のや2
りとりに関係していると思われる実験事実が観察でき、探求学習のテーマにも使える。今回
は、いくつかの実験方法と考えを紹介したい。
亜硫酸水素ナトリウムとヨウ素酸カリウムを使った時計反応は有名だが、その反応理論が
間違って翻訳されていた。今回は、それを正すと共に反応速度定数の教材としての利用を紹
介する。化学Ⅱの有効な教材である。
秒おきに水素ガス発生40
濃度によって変色時間が違う。
反応速度定数を出して、ある濃度
の変色時間を予測
「 」 ( )、 ( )② 電気抵抗と温度 福田 敦 釧湖陵 稲子寛信 登明日
金属抵抗は主に原子振動が原因となって、温度が上がると増し、下がると減少する。これ
は、液体窒素を使って実践されていたが入手が難しいことも多く、気軽には行えなかった。
今回は、入手しやすいドライアイスとお湯とガスバーナーと豆電球で、抵抗と温度の関係を
観察する。また、実際に抵抗も測定する。
「 」 ( )③ 生徒が携帯で撮影して理解する地学現象 佐藤 誠 苫前商
地学では、転向力、天体の視運動など、相対運動やスケールが大きいために分かり難くな
っている現象がある。そこで、ビデオカメラ代わりに携帯の動画撮影機能を使って日食・フ
ーコーの振り子・月の満ち欠け・火星の逆行を生徒に撮影させる。撮影しながら位置関係や
どの様なタイミングにすれば良いかを考える様になり、より深い理解に到達できる。安価な
型落ちデジカメでもよい。また、物理でも使い道がある。
南極日食
月の満ち欠け
懐中電灯を太陽、玉を月に
見立てて日食撮影
「 」 ( )④ 重心の教え方 萬木 貢 旭西
教科書はモーメントを学んだ後、重心の学習と続いています。重心はなぜモーメントの後
なのか、そのつながりから重心の意味を実験を通して学習して行きます。
「 、 、 」 ( )⑤ カルマン渦 テイラー渦を試験管で再現 酢酸Naの凝固 菅原 陽 樽工
渦(うず)にもいろいろあります。お風呂の栓を抜くときにできるうず。竜巻のうず。カ
ルマンのうず。空気砲のドーナッツうず、そしてテーラーのうず。いろんなうずを体験して
みよう。
水が氷や水蒸気になるように物質は固体や液体に様々変化します。この変化を見るのに手
。「 」 。 。軽な物質があります 酢酸ナトリウム です 種結晶を入れるとみるみる白く固まります
同時に試験管は熱くなるのを確かめましょう。
カルマン渦
竜巻
「 、 、 」 ( )、 ( )⑥ ネンジュモ 乳酸菌 納豆菌の観察 芦田朋美 旭丘 山口由人 中標農
今回は、容易に入手できる藍藻類、細菌類の観察実験を紹介する。乾燥ワカメのようなイ
シクラゲ(Narikaで購入)はネンジュモの群生体で、水に浸けるだけですぐに生きた状態で
観察できる。ヨーグルトの乳酸菌、納豆菌、ベルギービール酵母、コウジカビなどもすぐに
観察でき、生物進化の教材としても有効である。
イシクラゲ中のネンジュモ イシクラゲ
ベルギービール酵母等 乾燥イシクラゲ
「 」 ( )⑦ 自作減圧注射器ポンプを利用した実験 大畑真人 札大通
ディスポーサブル注射器に簡単な工作をしただけの高性能真空ポンプの製作と実験を紹介
。 、 、 。する 真空放電 減圧沸騰 ピンポンキャノンなどのインパクトのある実験が手軽に出来る
「 」 ( )⑧ 世界経済と科学技術4 杉山剛英 旭丘
世界的に新エネルギーへの切り替え機運が高まっています。今まで採掘不可能であったシ
ェールガス(頁岩層中の天然ガス)の採掘技術確立。地層に硫酸注入、驚きのレアアース盗
掘。ブータンの観光は1日 低200ドル以上使うことに決まってます。採用は先着順・給
与はサイコロなど、やる気が出るすごい制度。日本の宇宙産業。鉄粉コーティングした種も
み。産業空洞化を出稼ぎ経営に転換など。明日の授業で話したくなる話題を紹介します。
「 」 ( )、 ( )⑨ メチルオレンジ合成 飯島晶子 新川 飯嶋めぐみ 千歳
化学Ⅰの 後に登場するジアゾカップリング。2つの違う分子を結合させて、新たな分子
を作り出す手法で、ノーベル賞の鈴木カップリングに通じるものです。今までは、橙色染料
、 、のp-ヒドロキシアゾベンゼンを作って 布を浸して染めてみるというのが一般的でしたが
より大きな驚きと感動が得られるマイクロスケール実験が理センの研究で完成しました。よ
り、広く活用していただくためにマルチ研でも紹介します。新たな定番実験です。
「 」 ( )、 ( )⑩ 簡易分光器の作成と利用 菊地貴広 網走南 市村由子 手稲
CDを使った分光器(光のスペクトルを見る装置)がよく紹介されているが、案外分解能
が悪く昔ながらのグレーチングシートを使ったものが工作も簡易で実習には適している。今
回は、その作成と観察例、Naランプを用いた黒い炎の観察を行う。
黒い炎
「 」 ( )⑪ 無機化学反応の教え方と進学校での指導法 杉山剛英 旭丘
教員は様々なレベルの学校に勤務する。眼前の生徒は勿論、将来の生徒に対しても準備を
怠ることなく投資しなくてはプロとは言えないだろう。転勤すると、1年目は様子を見て、
とは公務員特有の言い回しである。しかし、様子を見ている間も生徒の学習は進み入試が来
るのであるから、生徒には迷惑なことであろう。今、あるいはこれから進学校に行く先生方
に、着任したら短期間に全力運転できる(と思う)私なりの経験と方法のいくつかを紹介し
たい。
無機化学は、物質・反応が多く生徒も苦手、教員もなんとなく間延びしてしまう分野であ
ろう。しかし、センター試験では3割を超える配点があり、化学の本質もここにある。避け
ては通れないのなら克服するのみ。反応式が書ければ、無機は出来る。その指導例のいくつ
かを紹介する。
弱いもの出て行け反応と言うけれど 中和の一種
塩素原子の微小時間での極性 結合を組み替える
閉会式
今年も紋別高校よりペットボトル入りクリオネ20本をいただき希望校に配
布した。旭丘では1匹がエサなしで1年生きている。
写真撮影 田渕宏二(有朋)
(3)アンケート
火星の逆行見事に見えました。日食や満ち欠けもとてもわかりやすかったです。①
皆既日食の実験は非常にお手軽。生徒は多分夢中になってやるとおもう。外惑星の実験はも
う一工夫必要か。背景ボードが短すぎでは?
生徒と一緒に失敗しながら悪戦苦闘してみたいです。
目で見たときははっきりしなかった月の満ち欠けがケータイを通すとはっきり三日月に見えて
少し驚きました。外惑星は難しいですね。外惑星を直感的に理解できるモデル実験、楽しみに
しています。
予測した値とぴったりの結果になった。生徒の驚きも強いだろう。②
時間を予想させるというやり方が興味をそそります。
ヨウ素時計反応は毎年やりますが、「4」を考えさせるという発送が面白いし、よいと思います。
振動反応は不思議ですね。
反応速度実験は即導入ですね。やります。
針金の周期的な反応やアース、重ねることでの変化の観察、面白かったです。
パッと色が変わるところからグラフ、予想と考えさせることは面白いと思いました。針金リン酸
はすぐにでもできそうですが(40秒は)時間がかかるかなあ。
温める、冷やすことによって抵抗値が変わることが体験できた。簡単だが奥が深い。③
実際に測ったことがなかったので、実験の大切さを学んだ。
やはり数値計測は説得力がある。
回路をさわるのが久しぶりでした。楽しかったです。豆電球の明るさの比較は目に見えて直感
的でよかったです。温度差による抵抗の違いも一目瞭然でした。
光で抵抗がわかるのでとてもよかった。
フォークとスプーン+マッチの重心が見つけられなかったのが悔しいです!④
実際に重心を探し、オブジェを作るのはすぐにでも実践したい。
物体の外に重心があるなんて考えたこともなかったので、新鮮でした。
男の子が夢中で竹とんぼを作る気持ちがわかります。重心と竹とんぼの接点、そして工作も強
く印象に残ると思いました。
手を動かすという原点を知りました。
「なるほど」と思わせる内容ばかりで楽しかったです。ウォーターハンマーは未処理の試験管⑤
やアクリル管があると比較できてよいと思います。
アルミニウム粉末を用いた渦の観察は面白いと思いました。
小さな現象と大きな気象現象との関連を目で見て実感できました。過冷却の実験は氷+塩で
やっていましたが、針状の結晶がじっくりと観察できる様子に驚きました。是非やってみたいと
思います。
ウォーターハンマーの実験は、空気を抜いたのと抜いていないのと両方準備しておいて叩き比
べたほうがもっとインパクトがあるのかなと思いました。
合成にとどまらずその後指示薬としての利用は考えたことがなかったので目からウロコ。⑥
生徒がなじみある指示薬を合成することにより興味を持ってジアゾ化とカップリング反応に対
する理解が図れる教材であると感じました。
簡単にできるのでよい。指示薬を自作して中和滴定の実験を行うと楽しい実験になると思う。
実験は手軽にでき、作る物質も教科書にある覚えるべき物質でよいと思います。実験を理解さ
せるのが難しそうです。
いつもながら教科書の写真ではなく本物を観察させることの重要性や、生徒の理解への効果⑦
を感じました。
そんなの見ても・・・と思ったが意外と面白くためになった。
ネンジュモと初対面。感動しました。コウジカビのセロテープ観察が目からウロコでした。
プレパラートの裏側を水で流すのははじめて!!ためになりました。顕微鏡が立派だった。
細菌類や原核生物などは教科書の写真で紹介で終えてしまうことも多いので直接見えると印
象に残ります。年度初めの顕微鏡操作の演習と合わせてもよいと思います。
入手方法がいろいろとわかりとてもありがたかったです。
理科で経済の話はなかなか結びつけるのが難しいのでためになりました。⑧
授業の内容をいかに生きた学問にするか、その実践の一端を知ることができました。
多角的な話題は心の引き出しを増やす大切なことだと思います。
理科の教員として科学技術・生命科学はもちろんのこと、社会や経済との繋がりも常に念頭に
おく必要があることを改めて考えさせられた。
池上さんのようにおもしろかった。
あんなに簡単にポンプがつくれるとは驚きでした。今回の目玉だったと感じました。⑨
真空落下実験ができるといいのですが、可能でしょうか?
大気圧や空気の存在を感じさせるため、シリンジを改良したポンプを使い、様々な活用ができ
ることがよいと思いました。
シンプルだけどかなり強力。気体の状態方程式の授業で即使えますね。
とても簡単で、多くの効果的な指導ができる教材と思いました。ボイルシャルルの実験、沸点
の圧力による変化は気体の反応の実験には最適。
グレーチングシートを使って簡単にできそうだと知っていましたが、意外にもよく見えたので使⑩
ってみたいです。
今まで作った分光器の中で一番見やすかったです。
黒い炎に感動しました。
光スペクトルは理論では絶対理解できず、やってみる必要性を感じた。
物理を教えたときには何度か生徒に作らせたことがありますが、改めて生徒に作業させるとい
いなと思います。
とてもためになり、刺激も受けた。パワーポイントの授業での使い方についても知りたい。⑪
何事も基本が大事ですね。こちら側の一工夫で理解も大きく違います。刺激になります。
こういったノウハウの交換の場がもっとあるといいですね。
特に酸化還元反応の指導には悩みがありました。全暗記ではなく考え方を教える方法の1つ
を教わることができました。
学力に関わらず教えなくてはならない事、教えるべき事は変わらないと改めて感じました。
ベテランの先生方がこうした授業で必要なことを話してくださる機会が他にもあるとよい。
「進学校での」という話が現状とは程遠く、かなり新鮮でした。たまには受験勉強のようなこと
をしないと、と思いました。
⑫全体を通して
全ての科目の実験ができるとは思っていなかったので、とても充実した一日になりました!今
後も研修を通して様々な活動に役立てていけたら、と思います。ありがとうございました。
毎年参加させていただき、改めて刺激を受けました。ありがとうございました。やる気が増す研
修会でした。
自分の勉強不足を痛感。この一言に尽きます・・・。頑張ります。
学校でいろいろな実験をしてみたくて今回申し込みました。とても参考になりました。
この研修会が一番日々の授業に直接活かすことができる内容です。大切なのは情報の共有
化です。逆に言えば北理研や高教研での集まりでもっと授業実践について話し合いも含めて
時間が少ない。田舎にいるとそんなに出られないし。
3 おわりに
学力の二極化、M字分布の傾向が以前から指摘されている。気持ちの指導がうまくなされな
いと、どんな学校でも見られる現象であるが、教える側の教員はどうであろう。こちらも、研
修をする教員としない教員に二極化しているのではないだろうか。新課程が始まり、教科書は
信じられない厚さになる。これに慌てふためいて、実験をしている時間がないという声も聞か
れるが、未曾有の円高・コストカットを克服して業績を上げている企業も多い。人生に生きる
のは本物の学力であり、本物は本物によってしか作られない。赤い沈殿は、実際に見なければ
どんな赤かもわからないのである。背反する様に見える二律(実は実験と得点力は背反ではな
く相乗)を如何にして並び立たせるかが我々の腕の見せ所ではないだろうか。工夫無くして成
果は得られない世の中であることを銘記したい。
第28回北海道マルチメディア理科教育研究会のお知らせ日 時:平成25年2月2日(土)9:20~16:05 推薦入試の日程によっては変更あり
場 所:札幌旭丘高等学校 案 内:11月末に各校に送付