第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7...

NEXT 初版発行:2010 年 3 月 12 日

Transcript of 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7...

Page 1: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

NEXT 初版発行:2010 年 3 月 12 日

第十六回

  

増矢桐箱

  

瓦屋呉服店 

  

藤井食品

Page 2: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 2

1960 年代後半ごろ、市内宮島町にあった工場。背負われている幼児が増矢社長

技術と心伝えたい

■増矢桐箱 中津市沖代町

 陶器や掛け軸、線香、仏具などを〝包む〟桐(きり)箱。オーダー

メードで、包む物のサイズに合わせて一つ一つ仕上げる。使用

する桐の質や厚さ、細工もさまざまで、「一個」の注文もざら

とか。「部分的には機械も使いますが、基本は手作り。今どき

珍しい家内手

工業です」と

社長の増矢大

介さん(40)

は笑う。

 祖父義夫さ

んが一九三〇

(昭和五)年

に起業した。

隣家がげた屋

で、「桐」が

身近だった初

代は、旧下毛

郡山国地域で

桐が産出され

ていたことも

あり一念発

Page 3: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 3

起。京都に修業に行き、ものづくりの道へ入った。二代目時代

は桐が手に入りにくくなり苦労した。

 桐は軽く、気密性が高い。湿度も恒常的で、腐食しにくい―

などの特性を持つ。木の成長は早く、十五年から二十年くらい

で製品化でき、耐用年数は百年以上と長持ちだ。今でこそ高級

なイメージだが、紙のない昔はとてもポピュラーなものだった

という。

 地元での需要がほとんどだったが、近代化とともに受注エリ

アは拡大。現在は香の産地・淡路市(兵庫県)や萩(山口県)、

唐津、有田(佐賀県)の窯元など西日本各地にお得意さまを持

つ。

 ひと口に桐箱といっても、上ぶたを丸く加工したり、端を〝組

工場では桐箱が手作業で作られていく

Page 4: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 4

み込み〟で仕上げるなど細工は微妙で奥が深い。どんなオーダー

にも、「どこにも負けない技術」を誇る職人ら二十数人ととも

に応えている。陶器や線香の箱のほか、米びつ、へその緒用の

箱など多種多様で、多いときは数万個単位で受注する。皇太子

妃雅子さま御用達の器を納める箱を作ったこともある。

 注文は県外がほとんどだが、「生まれ育った中津から…とい

うのが私には大事」と増矢さん。変わりゆく時代の中で「技術

とともに、ものを大切にするという心を伝えていきたい」。ふ

るさとに支えられ、桐箱文化はしなやかに息づいている。

中津支社・和田礼子(二〇〇六年六月十四日掲載)

昭和の町から「和」発信

■瓦屋呉服店 豊後高田市中央通

 昭和三十年代の再生をテーマにした町づくりがスポットライ

トを浴び、観光客でにぎわう豊後高田市中心部の商店街「昭和

の町」―。桂川に架かる桂橋のたもとにある呉服店。

 ショーウインドー越しに見る店内には和小物が並び、年代物

の荷車がひときわ存在感を放っている。「瓦屋呉服店」が江戸

時代から明治初期にかけて、国東半島各地の得意先回りに使っ

ていた呉服車だ。

 「呉服店なのに、瓦屋なのはなぜ?」と店先で話し合う観光客。

現在の建物は明治時代に建てられたが、創業当時は瓦ぶきの家

Page 5: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 5

が珍しく地元客から「瓦屋」の愛称で親しまれたことに由来す

るという。以前耳にしたエピソードを思い出して店内へ。

 瓦屋呉服店は商店街の中でも特に古い歴史を持ち、創業は

一七八八(天明八)年にさかのぼる。二百年を超える歴史を受

け継ぐ七代目の高井郁朗さん(47)、恵美子さん(43)夫婦が「い

らっしゃいませ」とお客さんを迎える。

着物の採寸をする 7 代目の高井郁朗さん(右)と妻の恵美子さん

Page 6: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 6

 郁朗さんは東京都内の大学を卒業後、大阪府岸和田市内の呉

服店で三年間修業を積んだのち帰郷し、先代の博爾さん(73)

の後を継いだ。「父は口にしませんでしたが、うれしいことは

分かっていたので」とほほ笑む。

 「着物は日本の伝統的な所作が身に付くし、日常と違う雰囲

気を楽しめる」と話す七代目夫婦。自分で着物を着られるよう

にと、着付けの勉強会を開くのがこれからの夢。「学校の卒業

式などいろんな機会で着物を楽しんでほしい」。昭和の町の一

角から「和」の心を発信する。

豊後高田支局・加納修一(二〇〇六年六月二十一日掲載)

 畳敷きの番台奥

には、シーズンを

迎えた浴衣生地の

反物が並ぶ。落ち

着いた基調の古典

柄が多いのが分か

る。郁朗さんが「う

ちではお客さま一

人一人に合わせた

仕立てがほとん

ど。既製品や今風

の柄を扱うのでは

量販店と同じ。違

うことをしていか

ないと」と話す。

1788(天明 8)年創業の瓦屋呉服店

Page 7: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 7

理想の豆腐追求

■藤井食品 日出町新道

県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

 わき水に恵まれた日出町には十八世紀半ば、豆腐作りに適し

た「豆腐水」と呼ばれる井戸水があったという。伝説の豆腐水

があった場所に近

いせいか、藤井食

品の目と鼻の先に

も、かつて良質で

水量豊富な井戸が

あった。

 絶好の環境で、

当代の和幸さん

(75)の祖母コウ

さんが商いを始め

た。時期は定かで

ないが、日出町商

工会史によると、

大正時代には営業

していたようだ。

 戦時中は材料の

大豆が手に入ら

ず、休業状態に

なった苦い経験も

Page 8: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 8

ある。戦後、ようやく再開したが資金はない。豆腐を売った代

金を握り、明日の大豆を買いに農家へ走る日々。「だけど苦じゃ

なかった。少しずつだが手元にお金が残り、商売の喜びも感じ

られた」。

 ブリキの容器に出来たてを一丁ずつ入れ、単車で小売店まで

配達した時代もあった。昔の豆腐は今よりも固かったが、道路

が砂利道のため、崩れないよう気を使った。客は竹で編んだ豆

腐かごで持ち帰っていたという。

 そんな流通や買い物の風景は今や様変わりした。「町の豆腐

屋さん」は姿を消していった。和幸さんは「昭和三十年代、速

見郡(日出町、旧山香町)に二十六軒の豆腐屋があった」と記

憶するが、今では藤井食品しか残っていない。

早朝の工場で出来たての豆腐を水槽からすくい、パック詰めする藤井和幸さん

Page 9: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 9

 「大型店が増え、豆腐も安売り競争に巻き込まれた。だが、

職人の意地というかね。安売りとは違う次元で勝負しようと考

えた」。ゴマ入り、ユズ入りと試行錯誤を重ねた末、粒よりの

県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発。ようや

く納得のいく味にたどり着いた。

 「豆腐の出来はいつも微妙な違いがあり、飽きることはない

が、昔からの豆腐だけを作り続けるのも張り合いがない」と話

す和幸さんは、少しでもおいしい豆腐を求め、理想を追求する。

 「そのためには、気持ちを入れて作るしかない。近道はない」

日出支局・田尻雅彦(二〇〇六年六月二十八日掲載)

Page 10: 第十六回 藤井食品 瓦屋呉服店 増矢桐箱 · 「老舗の風景」第十六回 p. 7 理想の豆腐追求 藤井食品 日出町新道 県産大豆とにがりで作る高級品「日出どーふ」を開発した「藤井食品」

「老舗の風景」第十六回 p. 10

■オオイタデジタルブックとは オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げたインターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一環です。 NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、読者からの指摘・

追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 NAN-NAN では、この「田舎暮らし」以外にもデジタルブック等をホームページで公開しています。インターネットに接続のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上がります。まずは、クリック!!!

別 府 大 学大分合同新聞社

ⓒ 大分合同新聞社

デジタル版「老舗の風景」 第十六回編集     大分合同新聞社初出掲載媒体 大分合同新聞(2005 年4月 6 日~ 2007 年 3 月 28 日)

《デジタル版》 2010 年 3 月 12 日初版発行編集 大分合同新聞社制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室発行 NAN-NAN 事務局    (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内)

ⓒ 大分合同新聞社

●デジタル版「老舗の風景」について 「老舗の風景」は、大分合同新聞社が 2005 年 4月から翌 2007 年 3 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。2009 年 11 月 20 日      NAN-NAN 事務局