共晶系 Ag-Cu 合金の状態図1 共晶系Ag-Cu 合金の状態図...
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1
共晶系 Ag-Cu 合金の状態図
Keyword:状態図計算、溶解度線、共晶組織変化、共晶凝固プロセス、共晶合金融解熱
はじめに
Ag-Cu 系合金は、メッキや線材用として幅広く利用されているが、ここでは、Ag-Cu 合
金の状態図について、以下 19 課題に関して熱力学ソフトの使用方法とともに簡単な熱力学
の説明も行う。
「Ag と Cu を混合した合金を 0℃から 1100℃まで昇温した時、或いは 1100℃から 0℃ま
で降温した時の下記の反応を検討する。(1-x)Ag(液体⇄固体)+(x)Cu(液体⇄固体)→Ag1-x
Cux(液体⇄固体)(x=0.0~1.0)」
・・・・・・・・・基本的な事項・・・・・・・・・
課題 1:温度を 0℃から 1100℃まで昇温させた時の下記の反応の状態図を作成し、本状態
図の特徴を記せ。(Ag-Cu 合金の状態図の表示方法とその特徴について説明します。)
課題 2:前述の状態図において、温度を 1100℃、1000℃、900℃、783℃、700℃と降温さ
せた時の各降温過程における各相の変化を表示せよ。(本ソフト使用すると各温度における
相変化も表示できるので、相変化も含んだ状態図について説明します。)
課題 3:上記の状態図において、熱力学の基本式をベースに液相線 1 と 2、共晶等温線、溶
解度線1と 2 について説明せよ。(それぞれの境界線について簡単に説明しています。)
・・・・温度一定で Cu のモル分率が変化した場合・・・・
課題 4:900℃の共晶系状態図において溶体の自由エネルギー、混合の自由エネルギー、混
合のエンタルピー、混合のエントロピーを表示せよ。(それぞれの表示方法と計算結果につ
いて熱力学の基本式をベースに説明します。)
課題 5:上記の状態図の 900℃において、固相と液相の安定関係を溶体の自由エネルギーを
基に説明せよ。(溶体の自由エネルギーを基に、何故、それぞれの相が 900℃で安定である
かを説明します。)
課題 6:上記の状態図において、900℃における Ag と Cu の組成変化を図示せよ。(固相と
液相中の Ag と Cu の分布の表示法について説明します。)
2
課題 7:上記の状態図を基に、溶体の自由エネルギーを用いて、1100℃、1000℃、900℃の
各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。(各温度で、何故、液相と固相の安定である
かを溶体の自由エネルギーを基に説明します。)
課題 8:溶体の自由エネルギーを用いて、不変反応を示す温度以下の共晶等温線(783℃)と
700℃における各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。(共晶等温線以下の温度での
固相と液相の安定関係について溶体の自由エネルギーを基に説明します。)
課題 9:上記の状態図の 900℃、783℃、700℃における活動度を求めよ。(本ソフトでは、
活動度も表示できます。固相と液相の活動度の表示方法について説明します。)
課題 10:上記の状態図において、Cu=0.8mol 及び 0.1mol における 900℃における合金の
液相と固相の割合を求めよ。(2 種類の組成の合金の固相と液相の割合を表示する方法と「テ
コの原理」を用いて割合を求める方法を説明します。)
・・・・・・組成一定で温度が変化した場合・・・・・・
課題 11:上記の状態図において、Cu=0.8mol 及び 0.1mol の組成の合金を 1000℃から 800℃
まで降温した時の各相の変化を定量的に説明せよ。(ある特定の温度範囲で、2 種類の合金
組成について、固相と液相がどのように変化するかを説明します。)
課題 12:上記の状態図において、Cu=0.6mol における共晶等温線以下の温度での相変化を
表示せよ。(共晶等温線より以下の温度で、ある特定の組成の合金が、どのような割合で 2
種類の固相が変化するかを説明しています。)
課題 13:上記の状態図において、Cu=0.2mol 及び共晶点組成における溶解度線範囲内の相
変化を定量的に説明せよ。(Cu=0.2mol と共晶点組成における液相と固相の割合について説
明します。)
・・・・・・・・顕微鏡下での概念図・・・・・・・・
課題 14:共晶点(Cu=0.4149mol)組成の融液を 1100℃から降温した時の金属組織の変化の
概念図を図示せよ。(共晶合金を高温から降温した時、金属組織がどのように変化するかを
顕微鏡の概念図を基に説明します。)
課題 15:上記の状態図の共晶点(Cu=0.4149mol)における共晶組織に関して状態図を用
いて説明せよ。(共晶合金は、何故、ラメラ構造になるかを、状態図を基に説明します。)
3
課題 16:過共晶(Cu=0.8mol)組成の融液を、1100℃から降温した時の金属組織の変化の
概念図を図示せよ。(過共晶合金を高温から降温した時の、顕微鏡下での金属組織の変化の
概念図を説明します。)
課題 17:亜共晶(Cu=0.1mol)組成の融液を、1100℃から降温した時の金属組織の変化の
概念図を図示せよ。(亜共晶合金を高温から降温した時の、顕微鏡下での金属組織の変化の
概念図を説明します。)
・・・・・・・・融解熱の求め方・・・・・・・・
課題 18:Ag-Cu 系合金における銀と銅の融解熱を求めよ。(純粋な銀と銅の融解熱を求め
る方法を説明します。)
課題 19:Ag-Cu 系合金における Cu=0.4149mol、Cu=0.8mol、Cu=0.1mol 組成の合金の融
解熱を求めよ。(共晶点組成の合金の融解熱とその他の合金の融解熱を求める方法を説明し
ます。)
4
課題 1:温度を 0℃から 1100℃まで昇温させた時の下記の反応の状態図を作成
し、本状態図の特徴を記せ。
(1-x)Ag(固体→液体)+(x)Cu(固体→液体)→Ag1-xCux(固体→液体)の反応で
x を 0 から 1 まで変化させた場合。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法 1)
パソコン画面上の CaTCalc を立ち上げ、画面上段の System をクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法 2)
①最初に Ag をクリックする。
②次に Cu をクリックする。
③データベースとして RICT-BasicDB.EDB を選ぶ。
④最後に Load をクリックする。
*下図に示すように、今回の計算ために選択した条件が表示される。
①
②
③
④
5
①Calculation ボタンをクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法(状態図の表示のための事前入力法3)
下図のような状態図を計算するための入力画面が現れる。
状態図を計算するためのデータの入力方法を以下に示す。
●この計算は典型的な計算であるので、Set Default Values をクリックすると上記の条件が
自動的にセットされる。以下に示すのは、一般的な個々のデータを入力する方法である。
①Add Feed ボタンをクリックし、Phase のプルダウンメニューで Ag(FCC_A1)を選択す
る。
⑦
①
②
③
④
⑤
⑥
⑧
6
②Add Feed ボタンをクリックし、Phase プルダウンメニューで Cu(FCC_A1)を選択する。
*Species の項が Ag と Cu であることを確認する。
③Ag の項の Value に b を入力する。
④Cu の項の Value に x を入力する。
⑤x の項に 0 と 1 を入力する。
⑥Temperature を 0 から 1100℃と入力する。
⑦Phase Diagram を選択する。
⑧全項目を確認し、Calculate を実行する。
●計算結果の説明(0℃から 1100℃までの状態図の表示)
①状態図を Word 等に貼り付けた場合は、メニューバーの Edit をクリックし、Copy to
clipboard を選択すると、Word 等のソフトに図を貼り付けることができる。
②Ag-Cu 系合金の状態図の計算結果が下図に示すように自動で表示されます。
Ag-xCu P=1.01325bar
Mole fraction Cu
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
LIQUID+β(FCC_A1)
LIQUID
LIQUID+α(FCC_A1)
α(FCC_A1)
T2
T3
T4
T5
T1
7
・上図に示す Cu-Ag 系合金の状態図は共晶系合金の状態図である。
・FCC_A1 は Ag の代表的な構造である立方晶系の面心立方格子を示す。ここでは純粋な
Ag との混同を避けるため α(FCC_A1)と標記する。この Agがどのような特徴を有するかは、
上段の Data をクリックして、下段のほうにある Ag(FCC_A1)をクリックすると良い。この
面心立法構造は Cu を固溶できる。
・Cu(FCC_A1)も Cu の代表的な構造である立方晶系の面心立方構造を示す。Ag と同様に
純粋な Cu と区別するため β(FCC_A1)と表記する。この構造は、Ag を固溶できる。
・T1 は、Cu の融点で、1085℃である。T2 は Ag の融点で、961℃である。
・T3 は共晶点であり、その温度と組成は、List ボタンをクリックすると、それぞれの温度
と組成が表示されている。共晶点の温度と組成は、温度 783℃、Cu は 0.41mol である。
・T4 は 2.5℃、T5 は 102℃である。
8
課題 2:前述の状態図において、温度を 1100℃、1000℃、900℃、783℃、700℃
と降温させた時の各降温過程における各相の変化を表示せよ。
●計算熱力学ソフトの使用方法(各相の割合の表示のための事前入力法)
*課題 1 にある「●計算熱力学ソフトの使用方法」にある手順にて必要項目を入力してく
ださい
①x の項は 0 と 1 を入力。注:温度間隔を 0.02 と入力する。
②Temperature は 1100℃に固定。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②
③
④
9
●計算結果の説明(1100℃での各相の割合の自動表示)
・Edit をクリックし、Copy to Clipboard を選択し、必要なファイルにコピーする。
・以下の図は、パワーポイントにコピーし、説明用に加工したものである。
・1100℃では、完全に液相しか存在しない。
●計算結果の説明(1000℃での各相の割合の自動表示)
Ag-xCu T=1100C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.5
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
Liquid
Ag-xCu T=1000C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Liquid
β(FCC_A1)
Ag-xCu T=1000C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Liquid
β(FCC_A1)
Cu=0.89mol
Cu=0.98mol
10
・液相は Cu=0.89mol から急激に減少し Cu=0.98mol では完全に消失している。
・固相は、Cu=0.89mol から 0.98mol まで直線的に急激に増加し、Cu=0.98mol で完全に飽
和している。
●計算結果の説明(900℃での各相の割合の自動表示)
・α相の場合は、Cu=0.05mol から Cu=0.12mol まで急激に減少している。α相は結晶構造
中に Cu が固溶しているが、Plot の左サイドの List をクリックすると、正確なモル数を求
めることができある。
・β相は Cu=0.70mol まで、存在せず、Cu=0.70mol から 0.96mol まで直線的に増加してい
る。
・液相は、Cu=0.05mol から Cu=0.09mol まで直線的に増加し、Cu=0.12~0.70mol 間は
液相のみ存在している。それ以上では、直線的に減少している。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (ato
m)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
Cu=0.05mol
Cu=0.96mol
Cu=0.70mol
Cu=0.12mol
β(FCC_A1)
α(FCC_A1)
Liquid
11
●計算結果の説明(783℃での各相の割合の自動表示)
・783℃は共晶温度であり、Cu=0.41mol が共晶組成となる。α相は Cu=0.41mol で消滅し、
それ以上の濃度では β相が生成する。この温度以下になると固相しか存在しない。
●計算結果の説明(700℃での各相の割合の自動表示)
・700℃になると α相と β相の 2 種類の固相のみとなる。
・一般に状態図では、各相の存在はわかるが、固相同志の量的な関係はわからない。本ソフ
トを使用すると、各固相の存在割合が簡単に把握できるので、全体像を理解するのに非常に
有用である。
Ag-xCu T=783C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
Liquidα
(FCC_A1)
β(FCC_A1)
Cu=0.13mol Cu=0.95mol
Cu=0.41mol
Ag-xCu T=700C, P=1.01325bar
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
FCC_A1
FCC_A1_#2
α(FCC_A1) β(FCC_A1)
Cu=0.10mol Cu=0.97mol
12
課題 3:上記の状態図において、液相線 1 と 2、共晶等温線、溶解度線 1 と 2 に
ついて説明せよ。
これまで説明してきた状態図では、上記の図に示すように、液相線、固相線、溶解度線等
の各相の境界線が表示されている。
(1)液相線 1 と 2 について
銀と銅の結晶構造は、同じ立方晶系の面心立方構造を有する。しかし、銀の Ag-Ag 原子
間距離は 0.286nm であり、銅 Cu-Cu 原子間距離は 0.256nm と、両者の原子間距離には大
きな違いある。そのため、銀と銅は固溶体を形成することはできない。そのため、共晶系 Ag-
Cu 状態図においては、原子間距離の大きい Ag には、原子間距離の小さい Cu が 0.13mol
と相当固溶することが可能となる。それに対して銅の場合は、Cu-Cu 原子間距離が Ag-Ag
原子間距離よりも小さいため、Ag を 0.05mol しか固溶できない。
共晶系状態図の液相線 1 と 2 について熱力学の式を用いて求めるためには、それぞれの
単成分がほとんど固溶しないと仮定した場合には、近似式で求めることができるが、すでに
述べたように、α相中には Cu が 0.13mol、ベータ相中には Ag が 0.05mol の固溶している
ため、液相線 1 と 2 の式を簡単に求めることはできない。
Ag-xCu P=1.01325bar
Mole fraction Cu
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
LIQUID+β(FCC_A1)
LIQUID
LIQUID+α(FCC_A1)
α(FCC_A1)
T2
T3
T4T5
T1
液相線2液相線1
溶解度線1溶解度線2
共晶等温線(不変反応)
13
(2)共晶点と共晶等温線について
成分 A(Cu)と成分 B(Ag)の温度に関する液相の式が得られれば、両式の連立方程式を解く
ことにより、共晶温度と共晶組成を求めることができる。しかし、上述のように、液相線 1
と 2 の式を簡単に求めることができないため、共晶温度と共晶組成は、解析的には求める
ことはできない。
(3)溶解度線 1 と 2 について
溶解度線の理論式は、数パーセントまでの固溶であれば、近似式で求められるが、それ以
上の濃度での式は複雑になり与えられていない。ここでは α相に対する Cu の固溶は、共晶
点温度で 13%、β相対する Ag の固溶は、5%であり、近似式を提示しても不正確な近似式
となるので、ここでは省略する。
以上述べたように、本状態図の境界線に関する簡単な近似式は求めることはできない。本
ソフトでは、複雑な熱力学の式を用い、高度な数学的手段で計算しているため、ここでは説
明を省略する。Cu-Ni 系状態図では、液相線、共晶等温線、溶解度線の近似式を用いて説明
しているので、概略を知りたい方は Cu-Ni 状態図を参照して欲しい。
14
課題 4:900℃の共晶系状態図において、溶体の自由エネルギー、混合の自由エ
ネルギー、混合のエンタルピー、混合のエントロピーを表示せよ。
Ag と Cu 及び液相と固相のように、2 成分 2 相の状態図を検討するためには、溶体に関
する熱力学的考察が必要である。そこで、前述の状態図における各温度での各相の溶体の自
由エネルギー及び混合の自由エネルギー等を用いて、各相の安定性を議論する。なお、ここ
では、最初に、Ag を A 成分、Cu を B 成分とする。なお、これからの式の展開は、丸善出
版の「平衡状態図の基礎」とコロナ社の「固体の熱力学」を参考とした。
○計算熱力学ソフトの使用方法(個々の自由エネルギー表示のための前操作)
先ず、最初に Data をクリックして、左端の+の記号を、今回使用する、Liquid、FCC_A1、
以外は全て消去する。
15
○計算熱力学ソフトの使用方法(900℃における自由エネルギーの求め方)
*Calculate 画面を開き、課題 1 にある「●計算熱力学ソフトの使用方法」にある手順にて
必要項目を入力してください。
①x の項に 0 と 1 を入力、注:温度間隔を 0.02 と入力する。この間隔を忘れると不正確な
図になるので要注意。
②Temperature を 900℃とする。
③Individual Phase Energies を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②
③ ④
16
●計算結果の説明(900℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・液相と固相のギブスの自由エネルギーの計算結果を上図に示すが、それぞれのギブスの自
由エネルギーに関してこれから説明する。最初に A 成分、B 成分の 2 成分とする。
・結晶構造は、α 相と β 相は同じ立方晶系の面心立法構造をとるので、両者の区別はせず、
両者を同じ固相と表現している。
・溶体での液相(GL)の自由エネルギーは、機械的混交の自由エネルギー(GM,L)と混合の自由
エネルギー(ΔGmL)の和として表される。
ここで、機械的混合の自由エネルギーは以下の式となる。
・同様に溶体における固相の自由エネルギー(GS)も機械的混合の自由エネルギー(GM,S)と混
合の自由エネルギー(ΔGmS)の和として表される。Ag-Cu 系では、Ag と Cu の原子半径が異
なるため、固溶体は形成せず、共晶体となる。しかし、結晶構造は同じであるので、先述の
ように、ここでは両者を区別しないで固相として扱う。
ここで、固相の機械的混合の自由エネルギーは以下の式で与えられる。ここでは、A 原子を
GL ΔGmL
= GM,L+
GS ΔGmS= GM,S+
GM,L = GAL + GB
LxAL xB
L
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-56
-57
-58
-59
-60
-61
-62
-63
-64
-65
-66
-67
-68
-69
-70
-71
LIQUID
FCC_A1
液相
固相
17
Ag、B 原子を Cu とする。
・ΔGmSは、以下に示す、混合のエンタルピーとエントロピーの和として求められる。
●計算結果の説明(900℃での各相の組成変化による混合の自由エネルギー)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Gibbs
energy of mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
・液相の混合の自由エネルギー(ΔGmL)は、混合のエンタルピー(ΔHmL)と混合のエントロピ
ー(ΔSmL)の和として表される。
・同様に固相の混合の自由エネルギ(ΔGmS)は、混合のエンタルピー(ΔHmS)と混合のエンタ
ルピー(ΔSmS)の和として表される。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y o
f m
ixin
g (
kJ/
mol_
Form
ula
)
-.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-3.5
-4
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
GM,S = GAS + GB
SxAS xB
S
ΔGmL ΔHm
L= TΔSm
L-
ΔGmS ΔHm
S= TΔSmS-
18
●計算結果の説明(900℃での各相の組成変化による混合のエンタルピーの変化)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Enthalpy
of mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
・液相の混合のエンタルピーは以下のように記述できる。
ここで、XAは液相における A(Ag)原子のモル分率、XBは液相における B(Cu)原子のモル分
率である。Z は一個の原子に結合している数、配位数である。No は溶液中の原子の数、HAB
は溶液中の最近接の A、B 両原子間の結合のエンタルピー、HAAは溶液中の二つの最近接 A
原子間の結合のエンタルピー、HBB は溶液中の二つの最近接 B 原子間の結合のエンタルピ
ーである。ここで、
と置くと、液相の混合のエンタルピーは以下のようになる。
・同様に、固相の混合のエンタルピーは以下のように記述できる。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Enth
alp
y o
f m
ixin
g (
kJ/
mol_
Form
ula
)
8.5
8
7.5
7
6.5
6
5.5
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
.5
LIQUID
FCC_A1
固相
液相
ΔHmL XAXBZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]=
ΩL =ZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]
ΔHmL = ΩLXAXB
19
ここで、XA は固相における A(Ag)原子のモル分率、XB は固相における B(Cu)原子のモル
分率である。Z は一個の原子に結合している数、いわゆる配位数である。No は結晶中の原
子の数である。HABは結晶中の最近接の A、B 両原子間の結合のエンタルピー、HAAは結晶
中の二つの最近接 A 原子間の結合のエンタルピー、HBB は結晶中の二つの最近接 B 原子間
の結合のエンタルピーである。ここで、
と置くと、固相の混合のエンタルピーは以下の式で表される。
・ΩL及び ΩSの値は、異種原子間に吸引的な相互作用があれば、A-A 結合や、B-B 結合より
も A-B 結合が安定になり、負の値とり、混合のエンタルピーも負となる。逆に、異種原子
間に反発相互作用があれば、正となり、混合のエンタルピーも正となる。
・具体的には、溶体における 2 成分の金属の原子半径、結晶構造、物理化学的性質が類似し
ている場合は、負となり、混合のエンタルピーは下に凸の形状となる。
・逆に、2 成分の金属の原子半径、結晶構造、物理化学的性質が異なるなる場合は、正とな
り、上に凸の形状を示す。
・Ag と Cu の場合は、結晶構造は同じでも、原子間距離に差があり、電気陰性度等も少し
異なるため、液相、固相共に正の値となり、その結果、上に凸の形状になったと推察される。
ΔHmS XAXBZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]=
ΩS = ZNo[ HAB - 0.5×(HAA+HBB) ]
ΔHmS = ΩSXAXB
20
●計算結果の説明(900℃での各相の組成変化による混合のエントロピーの変化)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Entropy of
mixing を選択して Apply ボタンをクリックする。
・液相の混合のエントロピーは以下の式で与えられる。
ここで、R は気体定数である。同様に固相の混合のエンタルピーは以下の式である。
・上記の図のように液相と固相は同じ曲線となり常に正の値となる。本ソフトにより正確な
計算を行うと固相と液相の混合のエントロピーに違いがあることがわかる。
・これまで説明してきた機械的混合の自由エネルギーに混合の自由エネルギーを加えるこ
とにより、溶体における自由エネルギーを求めることができる。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Entr
opy o
f m
ixin
g (
J/m
ol_
Form
ula
K)
7.5
7
6.5
6
5.5
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
.5
LIQUID
FCC_A1固相
液相
-R( )xAL ln xA
L xBL ln xB
L+ΔSmL =
-R ( )xAS ln xA
S xBS ln xB
S+ΔSm
S =
21
課題 5:上記の状態図の 900℃において、固相と液相の安定関係を溶体の自由エ
ネルギーを基に説明せよ。
・900℃における各相の成分の変化と液相と固相の安定性の議論を溶体の自由エネルギーを
基に説明する。
●計算結果の説明(前述の 900℃での状態図)
・前述の状態図で、900℃では、Cu のモル分率の増加に伴って、「α相の固相の領域」、「α相
の固相と Liquid の領域」、「Liquid の領域」とり、さらに、「β 相の固相と Liquid の領域」
から「β相の固相の領域」と 5 領域に分かれる。
・900℃では、等温線の赤線と固相線が交差するのは、Cu=0.05mol の時である。また、液
相線と交差するのは Cu=0.12mol である。
・その後、液相の領域となり、等温線の赤線と液相線が交差するのは、Cu=0.70mol の時で
ある。また、固相線と交差するのは、Cu=0.96mol である。
・何故、このような領域になるのか溶体の自由エネルギーをベースに説明する。
Ag-xCu P=1.01325bar
Mole fraction Cu
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
LIQUID+β(FCC_A1)
LIQUID
LIQUID+α(FCC_A1)
α(FCC_A1)
Cu=0.05mol
Cu=0.12mol
Cu=0.70mol
Cu=0.96mol
22
●計算結果の説明(何故液相線と固相線の間は固相と液相が安定化、その1)
・固相線と組成Xの組成線(赤線)が交差する点に接線を引くと Ag=1mol(Cu=0mol)の軸
と交わる点が固相の化学ポテンシャル(μSAg)である。
・液相線と組成 Y の組成線(赤線)が交差する点に接線を引くと Ag=1mol(Cu=0mol)の軸
と交わる点が液相の化学ポテンシャルで(μLAg)ある。
・液相と固相が平衡の場合は、液相と固相の化学ポテンシャルは等しくなくてはならないの
で、固相線と液相線に引いた接線が同じでなくてはならない。
・よって、液相線と固相線に引いた緑色の接線の範囲が、両者が最も安定な領域となる。よ
って、Cu=0.05mol から Cu=0.12mol の間は、液相と固相が安定な領域となる。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-56
-57
-58
-59
-60
-61
-62
-63
-64
-65
-66
-67
-68
-69
-70
-71
LIQUID
FCC_A1
液相
固相
μSAg
μLAg
X Y
AgμSAu μL=
Cu=0.12molCu=0.05mol
23
●計算結果の説明(何故液相線と固相線の間は固相と液相が安定化、その2)
・固相線と組成 X の組成線(赤線)が交差する点に接線を引くと Cu=1mol の軸と交わる点
が固相の化学ポテンシャル(μSCu)である。
・液相線と組成 Y の赤線が交差する点に接線を引くと Cu=1mol の軸と交わる点が液相の
化学ポテンシャルで(μSCu)ある。
・液相と固相が平衡の場合は、上記と同様に、固相と液相の接線が同じでなくてはならない。
そのため、液相と固相の化学ポテンシャルは等しくなくてはならない。
・よって、緑色の液相線と固相線に引いた緑色の接線が、両者が最も安定な領域であり、
Cu=0.70mol から Cu=0.96mol の間は、液相と固相が安定な領域となる。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.8.6.4.2
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-56
-57
-58
-59
-60
-61
-62
-63
-64
-65
-66
-67
-68
-69
-70
-71
LIQUID
FCC_A1
液相
固相
μLCu
X
Y μSCu μL
Cu=
μSCu
Cu=0.96mol
Cu=0.70mol
24
課題 6:上記の状態図において 900℃におけるAgとCuの組成変化を図示せよ。
●計算結果の説明(900℃における液相中における Ag と Cu の分布を求める)
【設定条件】
・Calculate 画面にて Equilibrium Calc を選択し、Calculate を実行する。
・Axis 画面にて[Y-Axis]-[Variable]プルダウンメニューから Phase Composition を選択
し、Apply ボタンをクリックする。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Specie
s F
raction in L
IQU
ID
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Ag
Cu
液相中のAgの分布
液相中のCuの分布
Cu=0.05mol Cu=0.96mol
25
●計算結果の説明(900℃における固相中における Ag と Cu の分布を求める)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase
Composition を選択する。”Phase”から FCC_A1 を選択して、Apply ボタンをクリックす
る。
(*●を表示する際は“Maker”にチェックを入れます)
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Specie
s F
raction in F
CC_A1
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Ag
Cu
Cu=0.12mol Cu=0.70mol
固相(β)中のCuの分布
固相(β)中のAgの分布
固相(α)中のAgの分布
固相(α)中のCuの分布
26
●計算結果の説明(900℃における液相・固相中における Ag と Cu の分布を一
緒に求める)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Elemtnts
Distribution を選択して、Apply ボタンをクリックする。
(*固相中と液相中の Ag と Cu の分布が出力されます)
・固相 α中の Ag の分布は、Cu=0.05mol から徐々に減少し、Cu=0.05mol から Cu=0.12mol
までに直線的に急激に減少し、そのまま、Cu=0.70mol までは固相は存在しないので、0 で
ある。その後、固相β中にCu=0.70molから増加し、Cu=0.96molで最大値に達し、Cu=1.0mol
までに直線的に減少している。
・液相中の Ag の分布は、Cu=0.05mol まで、液相は存在しないので 0 である。Cu=0.05mol
から Cu=0.12mol までの間で急激に増加し、その後、Cu=0.70mol まで直線的に減少し、さ
らに Cu=0.96mol まで減少して消滅している。
・固相 α中の Cu の分布は、Cu=0.05mol まで徐々に増加し、Cu=0.05mol から Cu=0.12mol
まで直線的に減少し、固相は存在しないため消滅している。その、固相 β 中の Cu の分布
は、Cu=0.70 mol から Cu=0.96mol まで急激に増加し、その後、Cu=1.0mol まで徐々に増
加している。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
Ag_LIQUID
Cu_LIQUID
Ag_FCC_A1
Cu_FCC_A1
液相中のCu分布
固相α中のAg分布
固相β中のCu分布
液相中のAg分布
固相α中のCu分布
Cu=0.05mol
Cu=0.12mol
Cu=0.70mol
Cu=0.96mol
固相β中のAg分布
27
・液相中の Cu は、Cu=0.05mol まで、液相は存在しないので、ゼロであり、Cu=0.05mol
から Cu=0.12mol までは直線的に急激に増加している。その後、Cu=0.70mol まで直線的に
増加し、その後、Cu=0.96mol まで減少し、消滅している。
・上記のように本ソフトを用いると、液相中、固相中で Ag と Cu の分布がどのようになっ
ているかを明確にできるの、固溶体の状態を定量的に理解するのに優れている。
28
課題 7:上記の状態図の説明を基に、溶体の自由エネルギーを用いて、1100℃、
1000℃、900℃の各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。
●計算結果の説明(1100℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
【設定条件】
・Calculate 画面にて温度を 1100℃に設定し、Individual Phase Energies を選択。
その後、Calculate を実行する。
・すでに説明したように、溶体での液相の自由エネルギーは、機械的混交の自由エネルギー
と混合の自由エネルギーの和として表される。
・同様に溶体における固相の自由エネルギーも機械的混合の自由エネルギーと混合の自由
エネルギーの和として表される。
・1500℃のような高温においては、Cu=0.0mol から Cu=1.0mol まで、全領域において、液
相の自由エネルギー曲線が固相の自由エネルギー曲線よりも下側にある。この温度では、全
ての組成範囲の合金は単一の溶融体(液相)として安定である。
Ag-xCu T=1100C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-73
-74
-75
-76
-77
-78
-79
-80
-81
-82
-83
-84
-85
-86
-87
-88
LIQUID
FCC_A1
液相
固相
GL ΔGmL
= GM,L+
GS ΔGmS= GM,S+
29
●計算結果の説明(1000℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・1000℃は、液相の自由エネルギー曲線と固相の自由エネルギー曲線は中間の組成でお互
いに交差している。
・各相の安定性を議論するには、前述のように固相の自由エネルギー曲線と液相の自由エネ
ルギー曲線に接線を引く必要がある。
・Cu=0.00mol から Cu=0.89 mol までは液相の自由エンルギー曲線が最も下側にあり、液
相のみが安定である。
・液相と固相の自由エネルギー曲線の接線の範囲内の組成である、Cu=0.89 mol から
Cu=0.9
8mol の範囲では、液相と固相の両相が存在する。
・Cu=0.98mol 以上の組成では、固相の自由エネルギー曲線が最も下側にあり、固相が安定
である。
Ag-xCu T=1000C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-65
-66
-67
-68
-69
-70
-71
-72
-73
-74
-75
-76
-77
-78
-79
LIQUID
FCC_A1
固相
液相Cu=0.98mol
Cu=0.96mol
Cu=0.89mol
30
●計算結果の説明(900℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・900℃では、Cu=0.12molからCu=0.70molまで液相の自由エネルギーが最も安定となり、
2 種類の固相エネルギーの曲線に分離し、複雑な状態図となる。そのため、2 種類の接線を
引く必要がある。
・Cu=0.00mol から Cu=0.05mol までは固相(α)の自由エンルギー曲線が最も下側にあり、
固相のみが安定である。
・Cu=0.05mol から Cu=0.12mol までは、液相と固相(α)の自由エネルギー曲線の接線の範
囲内にあるので、Cu=0.05mol から Cu=0.12mol の範囲では、液相と固相の両相が存在す
る。
・Cu=0.12mol から Cu=0.70mol までは、液相のみが安定である。
・Cu=0.70mol から Cu=0.96mol の間は接線の領域に入るので、液相と固相(β)の両者が安
定である。
・Cu=0.96mol 以上では、固相線が最も下側にあるので、固相(β)のみが安定である。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-55
-56
-57
-58
-59
-60
-61
-62
-63
-64
-65
-66
-67
-68
-69
-70
-71
LIQUID
FCC_A1
Cu=0.12mol
Cu=0.05mol
Cu=0.96molCu=0.70mol
31
課題 8:溶体の自由エネルギーを用いて、不変反応を示す共晶等温線(783℃)
と 700℃における各降温温度おける各相の安定関係を説明せよ。
●計算結果の説明(共晶等温線と一致する 783℃での各相の組成変化による自
由エネルギー変化)
・783℃は、共融等温線の温度である。この温度以下はでは、固相しか存在せず、それ以上
の温度では、液相と固相が存在する。
・この温度で Cu=0.41mol は共晶点の温度である。
・固相線と液相線に接線を引くと、Cu=0.13mol から Cu=0.41mol の点を経て、Cu=0.95mol
までの直線となる。
・Cu=0.13mol までは固相(α)のみが存在する。
・Cu=0.13mol から Cu=0.41 mol までは、固相(α)と液相のみの存在となる。
・Cu=0.41mol から Cu=0.95mol までは固相(β)と液相が存在する。
・Cu=0.95mol から Cu=1.0mol までは固相(β)のみが存在する。
Ag-xCu T=783C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-46
-47
-48
-49
-50
-51
-52
-53
-54
-55
-56
-57
-58
-59
-60
-61
LIQUID
FCC_A1
Cu=0.13mol
Cu=0.41mol
Cu=0.95mol
32
●計算結果の説明(共晶等温線と共晶点を正確に求める方法)
・共晶等温線並びに共晶点を正確に求めるには、Phase Diagram に設定して、x は 0 から
1 の範囲で、Temperature を 0℃から 783℃と入力して状態図を作成する。
・0℃から 783℃までの状態図の上部にある List をクリックすると上記のリストが得られ
る。
・この表の中の 6 が共晶等温線と交差する溶解度線 2 との交点の正確な Cu のモル数と共
晶等温線の温度となる。
・この表の中の 7 が共晶等温線と液相線 1 と液相線 2 が交差する共晶点の組成となる。正
確な Cu の濃度と温度が求められる。
・この表の中の 8 が共晶等温線と溶解度線 1 とが交差する点であり、この交点の正確な Cu
濃度と温度が求められる。
・以上にように、正確な値を求める時には Phase Diagram を用いると良い。
33
●計算結果の説明(700℃での各相の組成変化による自由エネルギー変化)
・700℃では、Cu=0.0mol から Cu=0.09mol までは固相(α)のみが存在する。
・Cu=0.09mol から Cu=0.97mol までは、固相(α)固相(β)の 2 種類の固相が安定である。
・Cu=0.97mol から Cu=1.0mol までは固相(β)みが安定である。
Ag-xCu T=700C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Gib
bs E
nerg
y (
kJ/
mol_
ato
m)
-40
-41
-42
-43
-44
-45
-46
-47
-48
-49
-50
-51
-52
-53
-54
-55
LIQUID
FCC_A1
Cu=0.09mol
Cu=0.97mol
34
課題 9:上記の状態図の 900℃、783℃、700℃における活動度を求めよ。
●計算熱力学ソフトの使用方法(液相と固相の活動度の求め方)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0 1 0.02 と入力、温度を 900℃に設定し、Equilibrium Calc
を選択。その後、Calculate を実行する。
・Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase Activities を選択して、
Apply ボタンをクリックすると、活動度が出力される。
35
●計算結果の説明(900℃固相 α、固相 β、液相のそれぞれの活動度)
・計算結果の出力方法:Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase
Activities を選択し、Apply ボタンをクリックする。
(*●を表示する際は“Maker”にチェックを入れます)
・固相 α の活動度は Cu=0.12mol まで 1.0 であるため安定に存在している。しかし、それ
以降は 1.0 より小さくなり、Cu=0.45mol 当たりで最小となる。
・固相 β に関しては、Cu=0.70mol まで 1.0 以下であり安定に存在していないが、その後、
固相 βは安定となり、それ以降の濃度では再び、不安定となっている。
・液相の活動度は Cu=0.05mol まで 1.0 より小さいく不安定な存在であるが、それ以降は、
から Cu=0.96mol まで 1.0 であるため固相 β と同様に安定に存在している。しかし、それ
以上の濃度では、再度、1.0 よりも小さくなり不安定な存在となっている。
・前述の状態図と比較すると、固相と液相の安定性が活動度の観点からも理解できる。
Ag-xCu T=900C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Phase A
ctivity
1
.98
.96
.94
.92
.9
.88
.86
.84
LIQUID
FCC_A1
液相
固相(α)
固相(β)
Cu=0.05mol
Cu=0.12mol
Cu=0.70mol
Cu=0.96mol
36
●計算結果の説明(782.3℃の共融点温度での固相 α、固相 β、液相のそれぞれ
の活動度)
・正確な共融点温度は 782.862℃である。
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0 1 0.02 と入力、温度を 782.3℃に設定し、Equilibrium
Calc を選択。その後、Calculate を実行する。
・Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase Activities を選択して、
Apply ボタンをクリックする。
・この温度は、共晶温度に近いため、液相→固相 α+固相 βの反応が起こる。しかし、783℃
は、共晶点温度よりも僅かに高温であるため、液相が残っている。この温度よりも僅かに低
温であると、液相は現れない。
・固相 α の活動度は Cu=0.4144mol まで 1.0 であるため安定に存在している。しかし、こ
の値の時の固相 αの割合はゼロに近く、液相のみの考えて良い。それ以降は 1.0 より小さく
なり消滅している。
・固相 βに関しては、Cu=0.4144mol から活動度の値は 1.0 であるが、固相 αと同じで、割
合は非常に小さく得、液相のみと考えて良い。それ以上の銅のモル分率では、活動度は 1.0
であり安定に存在している。その後、固相 βは安定となり、それ以降の濃度では再び、不安
Ag-xCu T=783C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.8.6.4.2
Phase A
ctivity
1
.98
.96
.94
.92
.9
.88
.86
.84
.82
.8
.78
.76
.74
.72
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相(α)
固相(β)
Cu=0.13mol
Cu=0.41mol
Cu=0.95mol
液相
37
定となっている。
・液相の活動度は Cu=0.13mol まで 1.0 より小さいく不安定な存在であるが、それ以降は、
から Cu=0.95mol まで 1.0 であるため安定に存在している。しかし、それ以上の濃度では、
再度、1.0 よりも小さくなり不安定な存在となっている。
●計算結果の説明(700℃での固相 α、固相 β、液相のそれぞれの活動度)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0 1 0.02 と入力、温度を 700℃に設定し、Equilibrium Calc
を選択。その後、Calculate を実行する。
・Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase Activities を選択して、
Apply ボタンをクリックする。
・固相 αの活動度は Cu=0.0mol から Cu=0.97mol まで 1.0 であるため、ほぼ全域で安定に
存在している。しかし、Cu=0.97mol より Cu=1.0mol までは 1.0 より小さくなり、不安定
な存在となっている。
Ag-xCu T=700C, P=1.01325bar
CaTCalc
Cu (mol)
1.8.6.4.2
Phase A
ctivity
1
.95
.9
.85
.8
.75
.7
.65
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
液相
固相(α)
固相(β)
Cu=0.09mol Cu=0.97mol
38
・固相 β に関しては、Cu=0.09mol まで 1.0 以下であり安定に存在していないが、その後、
Cu=0.09mol から Cu=1.0mol まで、活動度の値は 1.0 であり、安定に存在している。
・液相の活動度は、全領域で活動度は 1.0 以下であり、この温度では液相はそんざいしてい
ない。ただ、液相の活動度の値は、固相 αと固相 βと類似の挙動をしており、液相として存
在していなくても、液相がどのような安定関係にあるかを知ることができる。
・このように、前述の状態図と比較しながら、活動度をプロットすると、固相と液相の安定
性が活動度の観点からも理解できる。
39
課題 10:上記の状態図において、Cu=0.8mol 及び 0.1mol における 900℃にお
ける合金の液相と固相の割合を求めよ。
●計算結果の説明(Cu=0.8mol で 900℃における固相と液相の割合の求め方)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0 1 と入力、温度を 700 1100℃に設定し、Phase Diagram を
選択。その後、Calculate を実行する。
・共晶系合金において、液相から固相への冷却過程における、各相の変化並びに組織変化に
ついて、上図に示す前述の状態図をベースに説明する。
・共晶系合金の状態図において、Cu=0.8mol と Ag=0.2mol である X=0.8 の組成の融液を
1500℃から冷却させた時、900℃における固相と液相の割合を求める。
・固溶体の場合は、「テコの原理」で固相と液相の割合が求められる。1000℃の等高線と
X=0.8 の組成の線が交差する点を M とする。また、900℃の等温線と液相線が交差する点
を a とする。この点は、Cu=0.70mol に相当し、液相の組成を表す。同様に 900℃の等温線
と固相線が交差する点を b とする。この点は、Cu=0.96mol に相当し、固相の組成を表す。
・900℃における固相の割合(WS)は、WS=直線(a-M) / 直線(a-b)で求められる。直線 ab
上の S と記述される範囲である。
・同温度における液相の割合(WL)は、WL=直線(M-b) / 直線(a-b)で求められる。
直線 ab 上の L と記述される範囲である。
Ag-xCu P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Cu
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Tem
pera
ture
(C)
1100
1050
1000
950
900
850
800
750
700
LIQUID
LIQUID+β(FCC_A1)
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
LIQUID+
α(FCC_A1)
α(FCC_A1)
β(FCC_A1)
Cu=0.96mol
Cu=0.70mol
S La
M b
Cu=0.12mol
Cu=0.05mol
SLc d
Te
N
Cu =0.10mol Cu =0.80mol
40
●計算結果の説明(固相と液相の割合を正確に求める方法)
①x の項は 0.8 を入力。
②Temperature の項は 900℃に固定。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
●計算結果の説明(Liquid と FCC_A1 の正確な値)
・上記の計算を行うと以下の表が得られる。
・上記の表を基に概略を求めると WS=0.38、WL=0.62 となる。
①
②③
④
41
●計算結果の説明(Cu=0.1mol で 900℃における固相と液相の割合の求め方)
・Cu=0.8mol の場合と同様に、900℃の等温線と X=0.1mol の組成線が交差する点 N とす
る。Cu=0.8mol の場合と反対に、900℃の等温線と固相線が交差する点を c とする。この点
は、Cu=0.05mol に相当し、固相の組成を表す。同様に 900℃の等温線と液相線が交差する
点を d とする。この点は、Cu=0.12mol に相当し、固相の組成を表す。
・900℃における固相の割合(WS)は、WS=直線(N-d) / 直線(c-d)で求められる。
直線 c d 上の S と記述される範囲である。
・同温度における液相の割合(WL)は、WL=直線(c-N) / 直線(c-d)で求められる。
直線 c d 上の L と記述される範囲である。
・Cu=0.8mol の方法を用いて、固相と液相の割合を求めると、 WS=0.26、WL=0.74 と
なる。
Ag-xCu P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Cu
1.9.8.7.6.5.4.3.2.1
Tem
pera
ture
(C)
1100
1050
1000
950
900
850
800
750
700
LIQUID
LIQUID+β(FCC_A1)
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
LIQUID+
α(FCC_A1)
α(FCC_A1)
β(FCC_A1)
Cu=0.96mol
Cu=0.70mol
S La
M b
Cu=0.12mol
Cu=0.05mol
SLc d
Te
N
Cu =0.10mol Cu =0.80mol
42
課題 11:上記の状態図において、Cu=0.8mol及び 0.1molの組成の合金を 1000℃
から 800℃まで降温した時の固溶体の各相の変化を定量的に説明せよ。
●計算結果の説明(Cu=0.8mol で各温度における固相と液相の割合の求め方)
○計算熱力学ソフトの使用方法(Cu=0.8mol における 1000℃から 800℃まで降
温した時の組成変化の求め方)
①x の項を 0.8 する。
②Temperature を 800℃から 1000℃とし、温度間隔を 10℃とする。この時、温度間隔を入
力しないと、結果が直線となり不正確になるので、要注意。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate を実行する。
①
②③
④
43
●計算結果の説明(Cu=0.8mol で 1000℃から 800℃まで冷却した時の固相と
液相の割合の直接表示)
・固相と液相の割合の表示をわかりやすくするため、温度を 800℃から 1000℃に設定して
いる。
・800℃と 950℃の間で液相と固相が共存する。
・液相と固相の割合は、先述の「テコの原理」から求められるが、本ソフトを用いると任意
の温度での液相と固相の割合を求めることができる。
・先述の 1000℃における固相 βは、0.62mol であり、液相は 0.38mol 存在している。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.8
CaTCalc
Temperature (C)
1000960920880840800
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
固相β
液相
0.62
0.38
44
●計算結果の説明(Cu=0.8mol で 1100℃から0℃まで降温した時の活動度の
変化)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0.8 と入力、温度を 0 1000℃ 10 に設定し、Equilibrium Calc を
選択。その後、Calculate を実行する。
・Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Phase Activities を選択して、
Apply ボタンをクリックする。
・1000℃からの温度降下に伴う固相と液相の活動度の変化について説明する。
・活動度は理想溶体の場合には、1.0 となる。
・x=0.8mol の場合は、固相 αは存在しない。
・固相 βは 948℃までは存在するが、それ以上の温度は 1.0 より以下となり、合金中には存
在しない。
・液相の場合は、783℃までは、1.0 以下であり、この系には存在しないが、それ以上の温
度では 1.0 となり、安定に存在する。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.8
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Phase A
ctivity
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
液相
固相β
783℃
948℃
45
●計算結果の説明(Cu(mol)=0.1 で 1000℃から 800℃まで降温した時の固相と
液相の割合の直接表示)
・固相 αと液相の割合の表示をわかりやすくするため、温度を 800℃から 1000℃に設定し
ている。
・830℃と 910℃の間で液相と固相 αが共存する。
・液相と固相の割合は、先述の「テコの原理」から求められるが、本ソフトを用いると任意
の温度での液相と固相の割合を求めることができる。
・先述の 1000℃における固相 αは、0.26mol であり、液相は 0.74mol 存在している。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.1
CaTCalc
Temperature (C)
1000950900850800
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
固相α液相
0.74
0.26
46
課題 12:上記の状態図において、Cu=0.6mol における共晶等温線以下の相変化
を表示せよ。
●計算結果の説明(Cu=0.6mol で 600℃における 2 種類の固相の割合の求め
方)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0 1 と入力、温度を 0 900℃に設定し、Equilibrium Calc を選択。
その後、Calculate を実行する。
・共晶系合金において、900℃からの降温過程において、共晶等温線の温度は約 783℃であ
る。この温度から溶解度線を切って、2 種類の固相への変化について、上図に示す前述の状
態図をベースに説明する。
・上述の溶解度線の状態図において、Cu=0.6mol と Ag=0.4mol である X=0.6 の組成の合金
の 600℃における 2 種類の固相の割合を求める。
・溶解度線内では、固溶体の場合の場合と同様に、「テコの原理」が適用できる。600℃の等
温線と X=0.6 の組成の線が交差する点を M とする。また、600℃の等温線と溶解度線が交
差する点を a とする。この点は、Cu=0.06mol に相当し、固相(α)の組成を表す。同様に
Ag-xCu P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Cu
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
900
800
700
600
500
400
300
200
100
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
α(FCC_A1) β(FCC_A1)
Cu=0.98molCu=0.06mol
固相α固相β
a M b
47
600℃の等温線と溶解度線が交差する点を b とする。この点は、Cu=0.98mol に相当し、固
相(β)の組成を表す。
・600℃における固相 αの割合(WSα)は、WSα=直線(M-b) / 直線(a-b)で求められる。直
線 ab 上の固相 αと記述される範囲である。
・同温度における固相 βの割合(WSβ)は、WSβ=直線(a-M) / 直線(a-b)で求められる。直
線 a b 上の固相 βと記述される範囲である。
・上図を基に概略を求めると 固相 α=0.59、固相 β=0.41 となる。
●計算結果の説明(Cu=0.6mol での溶解度線の範囲内の固相と液相の割合の直
接表示)
○計算熱力学ソフトの使用方法(Cu=0.6mol における共晶等温線から降温した
時の組成変化の求め方)
①x の項を 0.6 とする。
②Temperature を 0℃から 900℃とし、温度間隔を 20℃とする。この時、温度間隔を入力
しないと、結果が直線となり不正確になるので、要注意。
③Equilibrium Calc チェックする。
④Calculate 実行する。
①
②③
④
48
●計算結果の説明(Cu=0.6mol で 900℃から 0℃まで降温した時の 2 種類の固
相の割合の求め方)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0.6 と入力、温度を 0 900℃ 温度間隔 20 に設定し、Equilibrium
Calc を選択。その後、Calculate を実行する。
・温度の上昇と共に、固相 αと固相 βの変化は類似している。
・固相 αは共晶点温度で消滅して、その後、固相 βに変化している。
・固相 βは温度上昇と共に少しずつ増加し、共晶点温度から減少し始めている。
・固相 α と固相 β の割合は、本ソフトを用いると任意の温度での液相と固相の割合を求め
ることができる。
・先述の 600℃における固相 αは、0.59mol であり、固相 βは 0.41mol 存在している。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.6
CaTCalc
Temperature (C)
800600400200
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相α
固相β
固相β
0.59
0.41
49
課題 13:上記の状態図において、Cu=0.2mol 及び共晶点組成における溶解度線
範囲内の相変化を定量的に説明せよ。
●計算結果の説明(Cu=0.2mol で 600℃における 2 種類の固相の割合の求め
方)
・Cu=0.6mol の場合と同様に、2 種類の固相への変化について、上図に示す前述の状態図を
ベースに説明する。
・上述の溶解度線の状態図において、Cu=0.2mol と Ag=0.8mol である X=0.2 の組成の融液
の 600℃における 2 種類の固相の割合を求める。
・溶解度線では、X=0.6mol の場合と同様に、固溶体の「テコの原理」が適用できる。600℃
の等温線と X=0.2 の組成の線が交差する点を M とする。また、600℃の等温線と溶解度線
が交差する点を a とする。この点は、Cu=0.06mol に相当し、固相(α)の組成を表す。同
様に 600℃の等温線と溶解度線が交差する点を b とする。この点は、Cu=0.98mol に相当
し、固相(β)の組成を表す。
・600℃における固相 α の割合(WSα)は、WSα=直線(M-b) / 直線(a-b)で求められる。
直線 ab 上の固相 αと記述される範囲である。
・同温度における固相 βの割合(WSβ)は、WSβ=直線(a-M) / 直線(a-b)で求められる。直
線 a b 上の固相 βと記述される範囲である。
・上図を基に概略を求めると 固相 α=0.85、固相 β=0.15 となる。
Ag-xCu P=1.01325bar
CaTCalc
Mole fraction Cu
1.8.6.4.2
Tem
pera
ture
(C)
900
800
700
600
500
400
300
200
100
α(FCC_A1)+β(FCC_A1_#2)
α(FCC_A1) β(FCC_A1)
Cu=0.98molCu=0.06mol
固相β 固相α
a M b
50
●計算結果の説明(Cu=0.2mol で 900℃から 0℃まで降温した時の 2 種類の固
相の割合の求め方)
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0.2 と入力、温度を 0 900℃ 温度間隔 20 に設定し、Equilibrium
Calc を選択。その後、Calculate を実行する。
・温度の下降と共に、固相 αは減少し、固相 βは増加している。
・固相 α は温度の下降と共に、液相から結晶核が生成し始め、共晶点温度まで増加してい
る。
・固相 βは温度下降と共に、共晶点温度である 783℃から結晶化が始まっている。
・先述の 600℃における固相 αは、0.85mol であり、固相 βは 0.15mol 存在している。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.2
CaTCalc
Temperature (C)
800600400200
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相α
固相β
固相α
0.85
0.15
51
●計算結果の説明(Cu=0.4149mol(共晶点)で 900℃から 0℃まで降温した時
の 2 種類の固相の割合の求め方)
【設定条件】
・Calculate画面にてxを0.4149と入力、温度を0 900℃ 温度間隔20に設定し、Equilibrium
Calc を選択。その後、Calculate を実行する。
・共晶点において固相 α は共晶温度である 783℃以上では完全に消滅して液相に変化して
いる。
・同様に固相 βも共晶点温度である 783℃以上では完全に消滅している。
・この図より共晶点温度を境に 2 種類の固相から液相に直接変化していることがわかる。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.4149
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
mol (a
tom
)
1
.9
.8
.7
.6
.5
.4
.3
.2
.1
LIQUID
FCC_A1
FCC_A1_#2
固相α
固相β
52
課題 14:共晶点(Cu=0.4149mol)組成の融液を、1100℃、1000℃、900℃、
783℃、700℃まで降温した時の金属組織の変化の概念図を図示せよ。
●Cu=0.4149mol で 1100℃から 0℃まで降温した時の金属組織変化の概念図
・共晶点の組成である Cu=0.4149mol における金属の組織変化の概念図を以下に示す。あ
くまでも理解を助けるための概念図であることに留意して欲しい。それぞれの合金により
組織が異なるので、このように単純組織とはならない。
・この共晶組成の合金の特徴は、液相が α 相と β 相の両方に関して同時に飽和してしまう
ことである。
・厳密な平衡条件の基では、共晶温度において α 相の結晶核と β 相の結晶核とが混在する
ことになる。
●計算結果の説明(Cu=0.4149mol で t1、t2、t3、t4、t5 の各温度における各
相の定量的変化)
・各温度における各相の割合は、List タブをクリックすると以下の表が得られる。
1.上段は液相の各温度における Ag と Cu のモル数を示す。また、液相の欄の上段は液相
の合金中におけるモル数、その下の段は液相の活動度を示している。
2.中断は固相 αの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 αの欄の上段と
下段は、液相と同様に、固相 αのモル数と活動度を示している。
3.下断は固相 βの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 βの欄の上段と
下段は、液相や固相 αと同様に、固相 βのモル数と活動度を示している。
t5 t4 t3 t2 t1
液相
固相β
固相α
t4'
53
●上記の計算結果の概念図(1100℃から 900℃までの金属組織の補足説明)
・t1:1100℃:温度が 1100℃では、液相線と交差しないので液相のみである。この時、液相
の組成(mol)は(Cu=0.41mol、Ag=0.59mol)である。
・t2:1000℃:温度が 1000℃に達しても液相線と交差しないので液相のみである。この時、
液相の組成(mol)も(Cu=0.41mol、Ag=0.59mol)であり変化しない。
・t3:900℃:さらに、温度が 900℃まで下降しても液相線とは交差しないので、これまでと
同様に、液相の組成(mol)は(Cu=0.41mol、Ag=0.59mol)である。
T1:1100℃
Liquid(Ag=0.59molCu=0.41mol)
Liquid
t2:1000℃ t3:900℃
liquid/Solid=1.0/0.0
Liquid/Solid=1.0/0.0
Liquid(Ag=0.59molCu=0.41mol)
Liquid/Solid=1.0/0.0
Liquid(Ag=0.59molCu=0.41mol)
Liquid
Liquid
t1:1100℃
54
●上記の計算結果の概念図(共晶点から 700℃までの金属組織の補足説明)
・t4:783℃(1):共晶点の温度より非常に僅かに温度が高い場合、この状態では、本来は液
相のみであり、共晶点の温度での液相の組成(mol)は(Ag=0.59mol、Cu=0.41mol)である。し
かし、この温度では、上図のように、α 相とβ相からなる共晶の前駆体が僅かに生じたり、
消滅したりを繰り返しているとも推測できる。
・t4:783℃(2):共晶点温度より僅かに低温である場合、この温度では、液相は全て、固相
に変化する。この温度近傍で α 相と β 相の共晶(α+β)共晶となるため、700℃のモデル図と
同じになる。この温度での、共晶の組成は α 相が、Ag=0.87mol、Cu=0.13mol、β 相が、
Ag=0.05mol、Cu=0.95mol である。
・t5:700℃:共晶温度より低温となり、700℃まで降温してくると、マトリックスの液相部
分からは直接結晶した α相と β相が共晶組織となる。共晶組織は、α相と β相が交互になら
んだラメラ構造をとる場合が多い。以下に、より詳細に議論する。
L
t4:783℃
Liquid/Solid=0.0/1.0
Solid・α(Ag=0.87molCu=0.13mol)
Liquid(Ag=0.59molCu=0.41mol)
Liquid/Solid=1.0/0.0 Liquid/Solid=0.0/1.0
(α+β)共晶
t5:700℃
Solid・α(Ag=0.91molCu=0.09mol)
Solid・β(Ag=0.03molCu=0.97mol)
Solid・β(Ag=0.05molCu=0.95mol)
Solid・α(Ag=0.87molCu=0.13mol)
共晶(t4’)
共晶
55
課題 15:上記の状態図の共晶点(Cu=0.4149mol)における共晶組織に関する
熱力学的検討
●共晶温度における α相と β相の共晶凝固に関する考察
これより説明する考察の項は「平衡状態図の基礎」をベースに Ag-Cu 系に変更して説明
したものである。下図は先述の状態図の共融点の組成近傍を拡大したものである。
・α粒子の成長による Cu の放出:共融点組成の合金が液相状態から共晶点温度(Te)の温
度より低い Tn の温度まで過降温されたと仮定する。液相線(Ta)の延長線と Tn の温度線と
の交点を 1 とする。この時の α 相の合金の組成は温度 t3 の時の合金(Ag=0.87 mol、
Cu=0.13mol)の組成に近い組成を有するはずである。このことは、母相の液相の組成
(Ag=0.59mol、Cu=0.41mol)よりもはるかに Ag 原子に富んだものとなっている。このよう
に Ag 原子に富んだ α相の結晶が形成されると、Cu 原子はその際に α相の結晶から排出さ
れることになる。この排出された Cu 原子はすぐ隣の液相中に入らなければならない。した
がって、擬平衡状態においては α結晶の周辺の液相では Cu 原子の組成が増大した状態が保
持されるはずである。
e
j k l
Te
Tn
Ta Tc
XCu
固相α+液相 固相β+液相
液相
56
・α 粒子の成長の停止(組成的過冷度の減少):α 結晶がさらに成長していくと、周辺の液
相中でのこのような Cu 組成の過剰量は増加する。その結果として成長しつつある α結晶の
周辺の液相組成は k から 1 に向かうことになる。このようなことが起こると、α粒子に関す
る組成的過冷度(ΔTα)は減少する。なぜならば、この ΔTαは温度水平線(jkl)に液相線(Ta-
e)を周辺の液相まで延長した el との間に引いた垂線との距離に等しいため、組成が 1 に向
かうに従い ΔTα の値は減少し、α 粒子が成長するための駆動力は徐々に減少していく。組
成が 1 点に達すると α 粒子の成長の駆動力はゼロとなり、完全に α 粒子の成長はストップ
する。
・β粒子の成長(組成的過冷度の増加):α粒子が成長するにつれて、周辺の液相中に Cu 原
子が排出するために α粒子の成長はストップするが、β粒子については、組成的過冷度(ΔTβ)
は、e から 1 に向かって大きくなり、β粒子にとっては成長するにはより好都合な環境とな
る。このように α粒子の ΔTαが徐々に減少するのに対して、β粒子の ΔTβは増加する。こ
のような濃度変化が進むと α粒子の成長が減少する代わりに、β粒子が安定的に成長するこ
とができるようになる。
・α粒子と β粒子の交互成長:周辺の液相中での β相の結晶の核生成が容易となり、固相 β
が形成され成長すると、短時間だけ β相が成長した後に、今度は β相界面には Ag 原子が排
出され、β粒子の界面は Ag 原子の濃度が高くなる。このようになると、今度は逆に ΔTβが
徐々に小さくなり ΔTαの値が大きくなる。このため今度は β粒子の外側に α粒子の結晶が
隣接して成長する。そして、このような過程が交互に繰り返される。この結果、共晶凝固生
成物は合金組織のモデル図に示したよう α 相と β 相の二つの固相が交互に密着して混合し
たものとなる。
57
●共晶温度以下で合金がラメラ構造をとる理由
以下の説明は「平衡状態図の基礎」を参考としている。これまで、すでに報告されている
共晶系における 2 相では、多くの場合、交互に並んだ板或いは層状構造を有する特異なラ
メラ構造となっている。板状や層状に結晶が成長する理由としては、下図に示すように、①
で示した β相が、先ず、最初に核生成したと仮定すると、液相と複合固相との間には二次元
的な拡散勾配が形成される。β相と液相の界面の近くでは、液相から先ず Ag 原子が減少し、
Cu 原子に富むようになる。同時に、α 相と液相界面の近くでは、液相から Cu 原子が減少
し、Ag 原子に富むようになる。このように液相と固相の間に生じた濃度勾配は、固相―液
相界面に垂直な方向ばかりでなく、拡散によって下図に矢印で示したように横の方向にも
拡散することができる。これによって、おのおのの固相の成長先端において、他の固相が核
生成する傾向が押さえられため、液相と複合固相との界面に垂直な方向へ定常的に成長す
るための条件が整えられたことになる。この結果、お互いに横方向へ長く伸びた層となって
成長するため、ラメラ構造となる。
α(Ag)
β(Cu)
液相
α(Ag)
α(Ag)
β(Cu)
β(Cu)
③
①
②
Ag
Ag
Ag
Ag
Cu
Cu
Cu
Cu
①
③
Cu
Cu
Cu
CuAg
Ag
Ag
Ag
58
課題 16:過共晶(Cu=0.8mol)組成の融液を、1100℃、1000℃、900℃、783℃、
700℃まで降温した時の金属組織の概念図を図示せよ。
●Cu=0.8mol で 1100℃から 0℃まで降温した時の金属組織変化の概念図
・Cu=0.8mol における金属の組織変化の概念図を以下に示す。
●計算結果の説明(Cu(mol)=0.8 で t1、t2、t3、t4、t5 の各温度における各相
の定量的変化)
・各温度における各相の割合は、List タブをクリックすると以下の表が得られる。
1.上段は液相の各温度における Ag と Cu のモル数を示す。また、液相の欄の上段は液相
の合金中におけるモル数、その下の段は液相の活動度を示している。
2.中断は固相 βの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 βの欄の上段と
下段は、液相と同様に、固相 βのモル数と活動度を示している。
3.下断は固相 αの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 αの欄の上段と
下段は、固相 βと同様に、固相 αのモル数と活動度を示している。
t5 t4 t3 t2 t1
液相
固相α
固相β
t4'
59
●上記の計算結果の概念図(1100℃から 900℃までの金属組織の補足説明)
・t1:1100℃:この温度では液相線と交差していないので液相のみの存在となる。この時の、
液相の組成(mol)は(Ag=0.2mol、Cu=0.8mol)である。
・t2:1000℃:温度が 1000℃に達すると、1000℃の等温線が液相線と初めて交差する。この
温度で、β相の結晶核(Ag=0.04mol、Cu=0.96mol)が析出し始め、結晶成長も始まる。
・t3:900℃:温度が 900℃まで下降してくると、β相はさらに結晶成長が進み、同時に、結
晶核が形成されるので、ますます、液相は Cu が減少するため、この温度での液相組成は
(Ag=0.30mol、Cu=0.70mol)のように Cu が減少し、Ag が増えてくる。この時の液相と固相
の割合(W)は W=0.62/0.38 である。この温度での β相は僅かではあるが、Ag を固溶した固
溶体(Ag=0.04mol、Cu=0.96mol)となっている。
Liquid(Ag=0.2molCu=0.8mol)
Liquid β合金結晶L
T1:1100℃
t2:1000℃ t3:900℃
liquid/Solid=1.0/0.0
Liquid/Solid・β=1.0/0.0
Solid・β(Ag=0.04molCu=0.96mol)
Liquid(Ag=0.2molCu=0.8mol)
Liquid/Solid・β=0.62/0.38
Solid・β(Ag=0.04molCu=0.96mol)
Liquid(Ag=0.30molCu=0.70mol)
β合金結晶
60
●上記の計算結果の概念図(共晶点から 700℃までの金属組織の補足説明)
・t4:783℃(1):共晶点の温度より僅かに高かい温度の場合。1000℃で結晶化した結晶はよ
り結晶成長を行い、液相より Cu 原子を β相の結晶内に集積していく。同時にこの温度でも
結晶核は生成するので、液相組成の Cu は消費されて、Ag=0.59mol、Cu=0.42mol とかな
り Cu 原子は減少する。この時の液相と固相 βの割合は 0.29/0.71 と固相 βの割合は増加し
ている。固相 β の組成は、Ag=0.05mol、Cu=0.95mol である。同時に、この温度では、上
図に示すように α 相と β 相の共晶の前駆体が、生成あるいは消滅を繰り返していると推察
できる。
・t4:783℃(2):共晶点の温度より僅かに低い温度の場合。この温度では液相は完全に消失
し、これから説明する 700℃の組織と同様な共晶組織となる。具他的には、この液相より直
接 α相(Ag=0.87mol、Cu=0.13mol)の結晶と β相(Ag=0.05mol、Cu=0.95mol)の結晶が結晶
成長し(α+β)の共晶が生成している。また、この温度では、より高温で結晶化した初晶の β
相と、この温度で結晶化した β 相の結晶とが混在している。β 相の組成は、Ag=0.05mol、
Cu=0.95mol である。
・t5:700℃:より低温の 700℃まで降温してくると、すでに高温で結晶化した初晶の β相と
マトリックスの液相部分からは直接結晶した α相と β相が共晶組織となる。共晶組織は、α
相と β相が交互にならんだラメラ構造をとる場合が多い。α相は僅かに Cu を固溶し、β相
は僅かに Ag を固溶した先述のラメラ構造となる。
t4:783℃
Solid・β(Ag=0.05molCu=0.95mol)
Liquid(Ag=0.59molCu=0.42mol)
L
β合金結晶
Solid・α(Ag=0.91molCu=0.09mol)
Solid・β(Ag=0.03molCu=0.97mol)
Solid・β’/Solid・α’=0.81/0.19Liquid/Solid=0.29/0.71
(α+β)共晶
Liquid/Solid=0.0/1.0
t5:700℃
Solid・α(Ag=0.87molCu=0.13mol)
Solid・β(Ag=0.05molCu=0.95mol)共晶
(t4’)
共晶
61
課題 17:亜共晶(Cu=0.1mol)組成の融液を、1100℃、908℃、900℃、783℃、
700℃まで降温した時の金属組織の概念図を図示せよ。
●Cu=0.1mol で 1100℃から 0℃まで降温した時の金属組織変化の概念図
・Cu=0.1mol における金属の組織変化の概念図を以下に示す。
●計算結果の説明(Cu=0.1mol で t1、t2、t3、t4、t5 の各温度における各相の
定量的変化)
・各温度における各相の割合は、List タブをクリックすると以下の表が得られる。
1.上段は液相の各温度における Ag と Cu のモル数を示す。また、液相の欄の上段は液相
の合金中におけるモル数、その下の段は液相の活動度を示している。
2.中断は固相 αの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 αの欄の上段と
下段は、液相と同様に、固相 αのモル数と活動度を示している。
3.下断は固相 βの各温度における Ag と Cu のモル数を示している。固相 βの欄の上段と
下段は、固相 αと同様に、固相 βのモル数と活動度を示している。
t5 t4 t3 t2 t1
液相
固相β
固相α
62
●上記の計算結果の概念図(1100℃から 900℃までの金属組織の補足説明)
・t1:1100℃: この温度では 1100℃の等温線と液相線と交差しないので液相の状態である。
・t2:908℃:温度が 1100℃から下降すると 908℃の等温線と液相線が初めて交差する。こ
の時、液相の組成(mol)は(Ag=0.9mol、Cu=0.1mol)である。この温度では、α相の結晶核が
生成したり消滅したりを繰り返していると推察できる。また α相の結晶構造中に Cu が僅か
ではあるが固溶し、その組成は(Ag=0.95mol,Cu=0.05mol)となる。
・t3:900℃:温度が 900℃に達すると、初晶の α相の結晶核が析出し、結晶成長を始めるの
で、最初の溶液組成から Ag が減少する。そのため、この温度での液相組成は(Ag=0.88mol、
Cu=0.12mol)のように Cu が増加してくる。この時の液相と固相の割合(W)は W=0.74 / 0.26
である。また、α 相には Cu が 908℃の場合とほぼ同様に、僅かではあるが固溶している。
Liquid(Ag=0.9molCu=0.1mol)
LiquidL
t1:1100℃
t2:908℃ t3:900℃
liquid/Solid=1.0/0.0
Liquid/Solid・α=1.0/0.0
Solid・α(Ag=0.95molCu=0.05mol)
Liquid(Ag=0.9molCu=0.1mol)
Liquid/Solid・α=0.74/0.26
Solid・α(Ag=0.95molCu=0.05mol)
Liquid(Ag=0.88molCu=0.12mol)
α合金結晶
63
●上記の計算結果の概念図(共晶点から 700℃までの金属組織の補足説明)
・t4:783℃:この温度は共晶等温線と同じ温度であるが、Cu=0.1mol の組成は、783℃の等
温線は不変反応の線とは交差していない。よって、この温度では α 相の合金のみの結晶と
なる。この時の α合金の組成は、Ag=0.9mol、Cu=0.1mol で、液相の組成と同じである。
・t5:700℃:700℃まで降温されると、α相の合金組成は、Ag=0.91mol、Cu=0.09mol とな
り、わずかに銀が増加している。同時に α相の合金の中に β相の結晶が析出している。β相
の組成は、Ag=0.03mol、Cu=0.97mol である。
Solid・α(Ag=0.90molCu=0.10mol)
Liguid/Solid=0.0/1.0
Solid・β(Ag=0.03molCu=0.97mol)
Solid・α(Ag=0.91molCu=0.09mol)
α合金結晶
β合金結晶
α合金結晶
Solid・αのみ
t4:783℃
Liguid/Solid=0.0/1.0
t5:700℃
Solid・α/Solid・β=0.99/0.01
64
●α合金結晶から β合金結晶が析出するメカニズム
1100℃から温度が降下し、Cu=0.1mol の組成線が液相線と交差すると α相が析出し始め、
固相線と交差すると完全に α 相の合金のみとなる。さらに冷却していき、溶解度線と交差
すると Ag に富んだ α相から Cu に富んだ β相が析出し始める。さらに冷却が進むと、β相
の析出が進むので、残っている α相は、さらに Ag に富むことになる。α相の組成は溶解度
線によって決定される。
同時に新たに形成される β相と、それまでにすでに形成された β相は、例えば、下図に示
すように、温度が下降すると Ag 粒子が β相から排出され、β相の粒子の中に記号 a
で示される α相を析出させることになる。α相が析出するには、ある特定な有限な大きさの
α相の粒子が形成される核生成速度が必要となる。核生成速度が速いと安定した α相が生成
されるが、核生成速度が小さい場合は、α相が生成されない可能性もある。
もし、Ag 原子の拡散速度が速い場合は、β相から排出された Ag 原子は、β相の合金結晶
中を拡散して、下図の記号 b で示す α 相の母相中に新たに α 相の結晶核を形成することも
考えられる。よって、Ag 原子或いは、Cu 原子の各合金中での結晶核の生成速度、或いは各
原子の拡散速度によって、その組織は変化することになる。
a
bα合金結晶
β合金粒子
α合金結晶核
α合金結晶核
α合金母相
65
課題 18:Ag-Cu 系合金における Ag と Cu の純粋な金属の融解熱を求めよ。
・融解熱はエンタルピーに相当するので、先ず、その求め方について説明する。
●計算熱力学ソフトの使用方法
(エンタルピー表示のための事前操作1)
①上図の画面で、純粋な Ag と Cu の融解熱も求める時は、x=0.0 と x=1.0 をそれぞれ入力
する。上記の画面は Ag 純粋な融解熱を求める方法である。
②Temperature の項に 0 と 1000 を入力後、10℃毎に計算する場合は 10 の数字を入れる。
この温度間隔の入力は重要である。必要に応じて温度間隔は変更して良い。
③Equilibrium Calc を選択する。
④Calculate 実行する。
①
②③
④
66
●計算熱力学ソフトの使用方法(エンタルピー表示のための事前操作2)
①Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” のプルダウンメニューを表示する。
②Energetic Quantities を選択する。
③Apply ボタンをクリックする。
●計算熱力学ソフトの使用方法(エンタルピー表示のための事前操作3)
①Enthalpy を選択する。
①
② ③
①
67
●先ず、最初に金属 Ag の融解熱を求める。
・上図の計算方法の説明で最初に x=0.0 として計算すると以下の図が現れる。
・上図のエンタルピーの変化は、以下の式を基に求められる。Cp(S)は固体の Ag の比熱で
ある。また、Cp(L)は Ag の液体の比熱である。計算式は絶対温度で表記している。
・融解熱(ΔfusHo)の値は、上図の上方の List をクリックすると表示される。表より、
ΔfusHo=37.7-26.5=11.2kJ と Ag の融解熱が求められる。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Enth
alp
y (
kJ)
35
30
25
20
15
10
5
11.2
∫298
1235Cp(S)dT
⊿fusHo∫1235
1273Cp(L)dT
962℃
⊿H1273 ∫298
1235Cp(s)dTH298+= ∫
1235
1273
Cp(L)dT+ +⊿(Ag) ⊿ fusHo
68
●次に、金属 Cu の融解熱を求める。
・Ag と同様に上図の計算方法の説明で、今度は x=1.0 して、計算すると以下の図が現れる。
(温度も 1100℃と変更する。)
・上図のエンタルピーの変化は、以下の式を基に求められる。Cp(S)は固体の Cu の比熱で
ある。また、Cp(L)は Cu の液体の比熱である。計算式は絶対温度で表記している。
・融解熱(ΔfusHo)は上図の上方にある List タブをクリックすると表示される。表より、
ΔfusHo=42.6-29.3=13.3kJ と Cu の融解熱が求められる。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=1
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Enth
alp
y (
kJ)
40
35
30
25
20
15
10
5
13.711.2
∫298
1357Cp(S)dT
∫1084
1373Cp(L)dT
1084℃
⊿fusHo
⊿H1373 ∫298
1357Cp(s)dTH298+= ∫
1357
1373Cp(L)dT+ +⊿(Cu) ⊿ fusHo
69
課題 19:Ag-Cu 系合金における Cu=0.4149mol(共晶点)、Cu=0.8mol、及び
Cu=0.1mol 組成の合金の融解熱を求めよ。
●Ag-Cu 合金の共晶点における融解熱を求める。
・以下の図は Ag=0.59mol、Cu=0.41mol の組成を有する合金のエンタルピー曲線であ
る。
【設定条件】
・Calculate 画面にて x を 0.4149 と入力、温度を 0 1000℃に設定し、Equilibrium Calc
を選択。その後、Calculate を実行する。
・Plot 画面左の[Axis]タブ‐“Y-Axis”‐“Variable” にある Energetic Quantities を選択し
て、Apply ボタンをクリックする。
・Enthalpy を選択する。
・上図のエンタルピーの変化は、以下の式を基に求められる。式の温度は絶対温度で表記し
ている。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.4149
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Enth
alp
y (
kJ)
40
35
30
25
20
15
10
5
782℃
∫1055
1273
Cp(L)dT
∫298
1055
{Cp(s1) +Cp(s2)]dT
⊿fusHo
⊿H 1273 ∫298
1055{Cp(s1) +Cp(s2)]dT+= ∫
1055
1273Cp(L)dT+H298⊿(Ag0.59Cu0.41) +⊿ fusHo
70
・Cp(S1)は α相の合金の比熱、Cp(S2)は β相の合金の比熱である。Cp(S1)と Cp(S2)の割合
は、298℃から 1055℃まで温度上昇に伴い変化する。
・融解熱(ΔfusHo)は上図の上方にある List タブをクリックすると表示される。表より、
ΔfusHo=37.0-23.5=13.5kJ と合金の融解熱が求められる。
・共晶点温度以上では、Cp(L)は共晶点の組成を示す液相の比熱である。
●Cu=0.8mol の組成の合金の融解熱(25℃から 1000℃まで)
・以下の図は Ag=0.20mol、Cu=0.80mol の組成を有する合金のエンタルピー曲線である。
(*前述の設定条件で x を 0.8 とします)
・
・上図は 25℃から 1000℃までのエンタルピーの変化を示す。ここで、最下段の 25℃から
783℃にかけての赤色の矢印の範囲の比熱の積分の式は、固相 1(α相)と固相 2(β相)の
エンタルピーの変化を表している。また、783℃の共晶温度では、固相 1(α 相)のみが融
解するので、中段の赤の矢印の範囲は、固相 1(α相)の融解熱(ΔfusHo)を示している。
融解熱の値は、以下に示す表より求めることができる。
783℃から 948℃にかけての赤色の矢印の範囲は、固相 2(β相)の融解熱に相当する
が、固相 1(α相)のように、融解温度で急激に変化するのではなく、この温度範囲でな
だらかに変化している。この理由は、783℃から 948℃にかけてのエンタルピーの変化に
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.8
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Enth
alp
y (
kJ)
40
35
30
25
20
15
10
5
783℃ 948℃
∫298
1056
{Cp(s1) +Cp(s2)]dT
∫1221
1273
Cp(L)dT
∫1056
1221
(1-X・)Cp(L)dT + [XΔHm]1221
1056
⊿fusHo(α)
71
は、固相 2(β相)の融解熱(ΔfusHo)と、液相と固相 2(β相)のエンタルピー変化が含
まれるためである。この範囲のエンタルピーの変化については、この後で詳しく説明す
る。上段の 948℃から 1000℃にかけての赤色の矢印の範囲の積分の式は、固相 2(β相)
の液相のエンタルピーの変化を示している。
●Cu=0.8mol の組成の合金の融解熱(783℃から 948℃まで)
・以下の図は Ag=0.90mol、Cu=0.10mol の組成を有する合金のエンタルピー曲線である。
・
・α相は、すでに 783℃で完全に液相に変化しているので、固相としての α相は 783℃以上
の融解熱とは関係なくなる。β相についてはこの温度から「テコの原理」に従って温度が上
昇すると徐々に液相へと変化し、948℃で完全に液相に変化する。この時、液相の割合を x
とする。x は 0 から 1 の範囲の値をとる。そのため、β相の固相の割合は 1-x となる。こ
こで、固相の比熱を Cp(S2)、液相の比熱を Cp(L)とすると、上図のような式となる。特に
β 相の場合は、固溶体を形成する温度範囲では、それぞれの温度で β 相の組成は変化する。
さらに、温度と液相の割合には、一定の関係があるので、この温度範囲での液相の割合を x
とすると、その時の温度は T(x)となる。このため、上式のように、β相の融解熱は xΔfusHo
のように、液相の割合が増加すると大きなり、x=1.0 で最大値となる。このように、合金の
融解熱は、この温度範囲で、液相と固相の割合の変化、β相の比熱の変化、液相の比熱の変
化、β相の融解熱の変化等、非常に複雑な現象となるため、ここでは、β相の融解熱に関す
る詳細な議論は行なわいことにする。
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.8
CaTCalc
Temperature (C)
1000900800700600
Enth
alp
y (
kJ)
42
40
38
36
34
32
30
28
26
24
22
20
18
16
⊿fusHOx∫
1056
T(x)
Cp(L)dTx
∫1056
T(x)
Cp(S2)dT(1-x)
T(x)
72
●Cu=0.8mol の組成の合金のα相の融解熱と液相と固相の各種熱力学情報
(400℃から 1000℃まで)
●Cu=0.1mol の組成の合金の融解熱
・以下の図は Ag=0.90mol、Cu=0.10mol の組成を有する合金のエンタルピー曲線である。
液相
固相β
固相α
α相の融解熱
α相+β相 α相 液相+β相 液相のみ
Ag-xCu P=1.01325bar, X=0.1
CaTCalc
Temperature (C)
1000800600400200
Enth
alp
y (
kJ)
40
35
30
25
20
15
10
5 ∫298
992
{Cp(s1) +Cp(s2)]dT
∫1181
1273
Cp(L)dT
∫992
1108
Cp(s1)dT
719℃835℃
908℃
∫835
908
(1-X・)Cp(L)dT+[XΔfusHO]908
835
73
・0℃から 719℃までの範囲で示される赤色の矢印の範囲は、固相1の比熱と固相2の比熱
を、この温度範囲で積分した合金のエンタルピー変化である。
・719℃から 835℃までの範囲で示される赤色の矢印の範囲は、この温度範囲で、固相1(α
相)の比熱を積分した固相1のエンタルピー変化を示している。
・835℃から 908℃のエンタルピーの変化は、非常に複雑である。この温度範囲では、固相
1(α相)が融解を始めるので、固相1の比熱の積分が、固相1のエンタルピー変化である。
しかし、固相1が液相に変化するので、固相1の液相の比熱の積分が、液相のエンタルピー
変化になる。固相1は温度の上昇に伴い、液相に変化するが、この液相の割合をxとおくと、
固相1の割合は、1-xとなる。xの値は0と1の間の実数となる。また、液相の割合は、
温度変化により変化するため、液相の量(x)は温度の関数となるため、ここでは、温度を
T(x)と表す。よって、固相1の比熱の積分は、835℃より T(x)の温度までの積分が、その温
度までの固相1のエンタルピー変化となる。液相のエンタルピー変化も同様である。固相1
が液相に変化するとき、融解熱(ΔfusHo)が発生するが、この量は液相の量と関連するの
で、融融解はxΔfusHo となる。このように、この組成の合金の融解熱は非常に複雑となる
ため、ここでは、より厳密な議論は行わないこととする。
・948℃以上の Cp(L)は液相のエンタルピー変化である。各温度の値は下表に示してある。
もし、より詳細に温度毎の値を知るには、温度範囲を 10℃とか、必要な温度間隔をセット
すると良い。
液相
固相α
固相β
α相+β相 α相のみ 液相+α相 液相のみ
74
●参考にした文献
1)上原邦夫他:“固体の熱力学”、コロナ社(1965)
2)山口喬:“入門化学熱力学”、培風館(1971)
3)平野賢一他:“平衡状態図の基礎”丸善(1971)