第 3 章 製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含...

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- 59 - 3 章 製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含む現 地適合性検証活動(実証・パイロット調査) 3-1.製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含む現地適合性検証活動(実証・ パイロット調査)の概要 3-1-1. 提案技術の紹介活動 本調査において提案技術のタイ国における適合性を検証するために、 KUMONOS 及び 3D レーザースキャナを用いて室内でのプレゼンテーションを行い、提案技術を紹介した上で 関係者へのヒアリングを通して適合可能性検証に係る情報収集を行った。プレゼンテーシ ョンの概要は下記のとおりである。 ・先進国におけるインフラ構造物の崩落事故の事例紹介 ・予防保全型維持管理(高精度な点検に基づく予防措置の実施)の重要性の説明 ・点検におけるひび割れ調査の重要性の説明 KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの技術説明、計測事例紹介 ・模擬ひび割れ(ひび割れを模した線を白紙に書いて壁面に貼付したもの)・室内形状のデ モンストレーション計測及び計測結果提示 昨年度のマレーシアを対象とした ODA 案件化調査では、中進国で全く浸透していない予 防保全型維持管理の考え方を理解してもらうまでに時間を要し、経時的な変化を正確に把 握して劣化予測に活用できる KUMONOS のメリットを十分に伝えきれない場面があった。 そこで本調査では、先進国で発生した崩落事故の事例に加え、予防保全型維持管理につい て従来手法(事後保全型)との違いや導入効果をイメージ図で紹介し、提案技術のメリッ トの理解促進を図った。 3-1-2. 提案技術を用いたデモンストレーション計測 昨年度の ODA 案件化調査において、実際に橋梁を計測してほしいという声が多数挙がっ たものの、事前準備をしていなかったことから要望に応えることができなかった。その経 験を踏まえ、第 2 回目の現地調査では、カウンターパート候補機関である 3 組織(DRRMRTADOH)それぞれの管理構造物に対して KUMONOS 3D レーザースキャナを用い た小規模な現場計測(以下、デモ計測)を行った。協議相手先の管理構造物を計測するこ とで、提案技術の成果品のイメージや有効性を示すことに加え、日本とタイ国での構造物 の特性や作業性の違い等の特殊要因を明らかにすることで KUMONOS 及び 3D レーザース キャナの適合性を検証した。 現場での計測作業では図 3-1 に示す通り、まず、機器を設置する位置の選定や現場状況を

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第 3 章 製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含む現

地適合性検証活動(実証・パイロット調査)

3-1.製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含む現地適合性検証活動(実証・

パイロット調査)の概要

3-1-1. 提案技術の紹介活動

本調査において提案技術のタイ国における適合性を検証するために、KUMONOS 及び 3D

レーザースキャナを用いて室内でのプレゼンテーションを行い、提案技術を紹介した上で

関係者へのヒアリングを通して適合可能性検証に係る情報収集を行った。プレゼンテーシ

ョンの概要は下記のとおりである。

・先進国におけるインフラ構造物の崩落事故の事例紹介

・予防保全型維持管理(高精度な点検に基づく予防措置の実施)の重要性の説明

・点検におけるひび割れ調査の重要性の説明

・KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの技術説明、計測事例紹介

・模擬ひび割れ(ひび割れを模した線を白紙に書いて壁面に貼付したもの)・室内形状のデ

モンストレーション計測及び計測結果提示

昨年度のマレーシアを対象とした ODA 案件化調査では、中進国で全く浸透していない予

防保全型維持管理の考え方を理解してもらうまでに時間を要し、経時的な変化を正確に把

握して劣化予測に活用できる KUMONOS のメリットを十分に伝えきれない場面があった。

そこで本調査では、先進国で発生した崩落事故の事例に加え、予防保全型維持管理につい

て従来手法(事後保全型)との違いや導入効果をイメージ図で紹介し、提案技術のメリッ

トの理解促進を図った。

3-1-2. 提案技術を用いたデモンストレーション計測

昨年度の ODA 案件化調査において、実際に橋梁を計測してほしいという声が多数挙がっ

たものの、事前準備をしていなかったことから要望に応えることができなかった。その経

験を踏まえ、第 2 回目の現地調査では、カウンターパート候補機関である 3 組織(DRR・

MRTA・DOH)それぞれの管理構造物に対して KUMONOS と 3D レーザースキャナを用い

た小規模な現場計測(以下、デモ計測)を行った。協議相手先の管理構造物を計測するこ

とで、提案技術の成果品のイメージや有効性を示すことに加え、日本とタイ国での構造物

の特性や作業性の違い等の特殊要因を明らかにすることで KUMONOS 及び 3D レーザース

キャナの適合性を検証した。

現場での計測作業では図 3-1 に示す通り、まず、機器を設置する位置の選定や現場状況を

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確認するための踏査を行った。また、KUMONOS 及び 3D レーザースキャナで取得したデ

ータを合成するためには同一の座標系にてデータを取得する必要があるため、機器の位置

座標を確定するために事前に基準点を設置した。その後、KUMONOS による計測と 3D レ

ーザースキャナによる計測をそれぞれ行った。

<図 3-1>計測手順

計測箇所は図 3-2 に示すバンコク都内 3 箇所であり、箇所選定については相手機関からの

要請に従った。

<図 3-2>計測箇所位置図

DOH 計測箇所

MRTA 計測箇所

DRR 計測箇所

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(1) DRR

チャオプラヤ川に掛かる橋梁、King Bhumibol 1 橋の右岸側(南側)の橋脚 2 本を

KUMONOS により計測し、その橋脚 2 本及び橋桁を 3D レーザースキャナにより計測した。

計測者は 2 名で計測時間は約 4 時間、現地踏査と基準点の設置を 1 時間程度行い、その後

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナによる計測を並行して行った。KUMONOS の機器

設置数は 9 箇所で、3D レーザースキャナの機器設置数は 6 箇所であった。

<表 3-1>DRR デモ計測概要

計測日時 2013 年 11 月 25 日 9:00~14:00(休憩 1 時間)

計測対象 King Bhumibol 1 橋(2001 年着工、2006 年開通)

計測人員 2 名(KUMONOS 計測 1 名、3D レーザースキャナ計測 1 名)

計測内容 KUMONOS によるひび割れ計測及び 3D レーザースキャナによる現況計測

同行者 Mr. Sakchai Sunthornvipak,他 6 名

(2) MRTA

地下鉄ブルーラインの Sam Yan 駅から Hua Lamphong 駅方面へのトンネル区間約 100m

を 3D レーザースキャナにより計測した。3D レーザースキャナで計測した区間のうち約

10m を KUMONOS の計測範囲とし、実際のひび割れやその他の損傷等の他に、ひび割れ

を模した線を白紙に書いたものをトンネル壁面に貼り、模擬的なひび割れとして計測した。

計測者は 3 名で計測時間は 2 時間であった。まず、踏査・選点及び 3D レーザースキャナ

の計測データ合成用の基準点を 10 点設置し、続いて KUMONOS による計測と 3D レーザ

ースキャナによる計測を並行して行った。KUMONOS の機器設置数は 1 箇所で、3D レー

ザースキャナの機器設置数は 4 箇所であった。

<表 3-2>MRTA デモ計測概要

計測日時 2013 年 11 月 26 日 1:00~3:00

計測対象 Sam Yan 駅(1996 年着工、2004 年開通)

計測人員 3 名(KUMONOS 計測 1 名、3D レーザースキャナ計測 1 名、補助計測者 1 名)

計測内容 KUMONOS によるひび割れ計測及び 3D レーザースキャナによる現況計測

同行者 Mr.Kwankaew Rujiratwanee,他約 10 名

(3) DOH

バンコク都内、DOH の技術部門のオフィスに面したラマ 6 世通り上の高架道路 Si Rat

Expressway の橋脚及び桁下の計測を行った。ラマ 6 世通りの対象区間は上下各 4 車線の道

路であり、3 本 1 組の門型橋脚となっていた。そのうち橋脚 1 組を KUMONOS による計測

対象とし、対象橋脚付近の桁部も含めて 3D レーザースキャナで計測した。計測者は 3 名

で計測時間は 4 時間であった。まず、踏査・選点及び基準点の設置を 30 分程度行い、引

き続き KUMONOS 及び 3D レーザースキャナによる計測を並行して行った。KUMONOS

の機器設置数は 11 箇所で、3D レーザースキャナの機器設置数は 9 箇所であった。

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<表 3-3>DOH デモ計測概要

計測日時 2013 年 11 月 26 日 10:00~15:00(休憩 1 時間)

計測対象 Si Rat Expressway

計測人員 3 名(KUMONOS 計測 1 名、3D レーザースキャナ計測 1 名、補助計測者 1 名)

計測内容 KUMONOS によるひび割れ計測及び 3D レーザースキャナによる現況計測

同行者 Mr.Pornchai,他約 5 名

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3-2.製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含む現地適合性検証活動(実証・

パイロット調査)の結果

3-2-1. 提案技術の紹介活動

前述の通り、タイ国の道路橋梁点検は重大な損傷の発見が主目的であり、ひび割れ調査

を実施していない機関がある等、ひび割れ調査が重要視されているとは言い難い状況であ

った。しかしながら、プレゼンテーション後のヒアリングでは、「日本ではひび割れに対し

てどのような基準を設けて点検を行っているか」、「ひび割れをどのように分析して劣化状

況を把握しているか」といった質問が多数の機関から挙がる等、ひび割れを損傷としてで

はなく、劣化把握の指標として計測することへの関心を持ってもらうことができた。また、

予防保全型維持管理の導入効果についても、ライフサイクルコストの低減イメージを共有

することにより理解が深まり、事後保全型からの転換の必要性について会議参加者には認

識してもらうことができた。しかしながら、タイ国において予防保全型維持管理は殆ど浸

透していない概念であるため、今後セミナー等による啓発活動が必須である。

タイ国の道路管理組織のひび割れ調査では、手が届く範囲の顕著なひび割れのみが調査

対象となっており、スケッチや写真で記録し、クラックスケールを用いて長さと幅を計測

していたものの、組織毎に若干の違いがあった。DRR では、3 カ月毎に行われる目視点検

で目立った損傷があれば調査する程度であり、ひび割れ自体の調査は実施されていなかっ

た。BECL では、5 年サイクルで全長 70km の区間を点検していたが、ひび割れに関しては

進行したひび割れを写真撮影して報告書に添付するのみであった。EXAT では日本の民間企

業が点検技術研修を実施した経緯があり、日本のクラックスケール及びひび割れ調査技術

が移転されていた。しかし、高所等の近接できない箇所は調査対象外で、報告書は手書き

スケッチを基にしたものであるという課題が残っていた。DOH でも EXAT と同様の手法で

ひび割れ調査が実施されていた。高所作業車を使用して桁下(裏)の近接できない箇所の

ひび割れ調査を実施していた橋梁もあったが、その方法は写真で記録するに留まり、幅は

計測できていなかった。この他にも類似事例が複数挙がったが、それらは離れたところか

らひび割れの幅を計測できる KUMONOS を使用すれば計測可能である。

また、ひび割れの調査結果は BECL や EXAT では損傷度合いの段階評価の評価項目であ

り、DOH では BMMS の管理項目の一つであったが、劣化分析には活用されていないため、

ひび割れの成長等の経時的な変化の観察は一切行われていなかった。適切な補修タイミン

グの見極めには高精度な点検データによる劣化・損傷の進行状況の経過観察が不可欠であ

り、この点においても、ひび割れの成長の他、錆・漏水の広がり等の経年変化の定量的な

把握を可能とする KUMONOS の適合可能性があると言える。

当初、本調査の対象としていた鉄道に関しては、地下鉄ブルーライン(MRT)を管理す

る MRTA 及びそのコンセッショネアである BMCL、スカイトレイン(BTS)の維持管理を

担当している BTSC に対してヒアリングを実施した。MRT については、BMCL が MRTA に

対して「ひび割れはない」と報告しており、BMCL が毎週実施している目視点検ではひび

割れではなくグラウト注入孔からの漏水が主な対象となっていた。これは、地下トンネル

がプレキャストで造られており、また、道路橋梁に比べ築年数が浅いためであると考えら

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れる。一方、BTS に関しては、BTSC がクラックスケールを用いてひび割れの発生しやすい

箱桁内部やパラペットのひび割れ調査をしていたが、橋脚やフーチングはまだ新しいとい

う事由で殆どチェックされていなかった。しかしながら、いずれの機関も提案技術が将来

的には必要になると考えており、全区間(MRT:20km、BTS:30km)を KUMONOS 及び

3D レーザースキャナで計測し、コンセッション契約終了時の品質確認に活用したいという

意見が挙がり、比較元データとして現状の計測をするための見積り依頼を受けた。

3-2-2. 提案技術を用いたデモンストレーション計測

(1) DRR

KUMONOS による橋脚の計測結果を図 3-4、図 3-5 に、3D レーザースキャナによる計測

結果を図 3-6 に、KUMONOS と 3D レーザースキャナの計測結果を合成したものを図 3-7

に示す。開通から 7 年という新しい構造物であることもあり、ひび割れは少なかった。

また、計測は DRR の現場事務所の敷地内での計測であったため、計測を妨げるものは

なく円滑に計測を行うことができた。今回は King Bhumibol 1 橋の河川敷の橋脚を計測し

たが、タイ国では幅の広い河川が多いため、河川に架かる長大橋を計測する場合には細い

ひび割れを計測するのに適切な距離を確保できないケースも考えられる。King Bhumibol 1

橋のような高さのある橋脚では、河岸から約 20m の範囲であれば、護岸から計測が可能で

ある。それ以上の距離となる場合には、橋脚の近くまでボートで行き、隣の橋脚のフーチ

ングの上に KUMONOS を据え付ける、写真測量と組み合わせる等の工夫をして計測する

必要がある。

計測結果を見せた時の DRR 職員の反応としては、データの正確性についても然ること

ながら、デモ計測後すぐにデータ編集を行い、作成した図面やデータの合成結果を当日中

に提示したことから、計測だけでなくデータ編集作業まで迅速に行うことが可能であるこ

とに対して驚きを示していた。

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<図 3-3>DRR 計測対象構造物

<図 3-4>DRR 橋脚の KUMONOS による計測結果の 2D 図面

ひび割れ

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<図 3-5>DRR 橋脚の KUMONOS による計測結果の 3D 図面

<図 3-6>DRR 橋脚の 3D レーザースキャナによる計測結果

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<図 3-7>DRR 橋脚の KUMONOS 及び 3D レーザースキャナによる計測結果の合成

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(2) MRTA

KUMONOS によるトンネルの形状と損傷及び模擬ひび割れの計測結果を図 3-9 に示す。

少数ではあるが、ひび割れや漏水が確認された。プレキャストの部材に発生するひび割れ

であったため、幅が非常に細かった。トンネルのように暗い場所での計測では、ひび割れ

の見落としを避けるために明るさを確保することが必要である。

また、3D レーザースキャナにより取得した点群データ及び KUMONOS との合成結果を

図 3-10、図 3-11 に示す。目地や検査用通路、グラウト注入孔等トンネルの細かい形状ま

でデータを取得していることから損傷の位置が明確になるため、KUMONOS と 3D レーザ

ースキャナとの併用の効果を示すことができた。

道路橋と比較して立ち入りのハードルが高い地下鉄内部での計測を行えたこと、計測の

視察に MRTA 並びに BMCL 合わせて 10 名の職員の立会いがあったこと等、提案技術への

高い関心が窺えた。また、計測結果を見せた際も計測方法や図面作成方法に関する具体的

な質問が多く挙がった上、他箇所の計測や KUMONOS の試用の要望を受けた。さらに、

将来的に必要となる技術として全区間を計測した場合の見積り依頼を受け、初回協議より

も導入に向けた協議が前進した。

<図 3-8>MRTA 計測対象構造物

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<図 3-9>MRTA 地下鉄トンネルの KUMONOS による計測結果

<図 3-10>MRTA 地下鉄トンネルの 3D レーザースキャナによる計測結果

模擬ひび割れ

漏水ひび割れ

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<図 3-11>MRTA 地下鉄トンネルの KUMONOS 及び 3D レーザースキャナによる計測結果

の合成

模擬ひび割れ

漏水

ひび割れ

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(3) DOH

KUMONOS による橋脚の計測結果を図 3-13、図 3-14 に、3D レーザースキャナによる計

測結果を図 3-15 に、KUMONOS と 3D レーザースキャナの計測結果を合成したものを図

3-16 に示す。橋脚の構造は日本とほぼ同じであった。比較的多くのひび割れが見られたも

のの、その多くがヘアークラック(表面的な細いひび割れで、構造的な問題はないもの)

であった。

計測は歩道及び歩道橋上で行い、十分に幅員があったため、車両及び歩行者の通行の妨

げとなることなく計測を行うことができた。しかし、歩道上をバイクが走行することがあ

り、作業エリアの確保に留意する必要があった。

計測時の DOH 職員の視察では、技術的なことを中心に多くの質問が挙がり、予定時間

を過ぎても質問が続いた。KUMONOS を通して実際の構造物を見た際の構造物やひび割れ

の見え方への興味が強く、職員自ら橋脚に鉛筆でひび割れを模した線を書き、それがどう

見えるかを試すほど熱心であった。計測結果を見せた際の反応としては、橋脚だけでなく

梁等、細かい部分の形状も KUMONOS で計測できることに驚きの声が挙がった。また、

KUMONOS の計測結果を 3Dレーザースキャナで取得した点群データと重ね合わせること

に対しても、視覚的にさらに理解しやすくなる有効な手法であると好評であった。DOH

では約 15,000 橋の管理橋梁に対して、BMMS に投入するデータ取得目的で一斉調査を行

うこととなっており、当該調査に活用してみたいという前向きな意見も挙がった。

<図 3-12>DOH 計測対象構造物

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<図 3-13>DOH 橋脚の KUMONOS による計測結果の 2D 図面

<図 3-14>DOH 橋脚の KUMONOS による計測結果の 3D 図面

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<図 3-15>DOH 橋脚の 3D レーザースキャナによる計測結果

<図 3-16>DOH 橋脚の KUMONOS 及び 3D レーザースキャナによる計測結果の合成

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3-2-3. 総括

各構造物の管理組織に対するプレゼンテーションに加え、3 組織の管理構造物を対象とし

たデモ計測及び計測結果の報告を行い、予防保全型維持管理における高精度な点検の重要

性や KUMONOS 及び 3D レーザースキャナそれぞれの計測方法・結果に加え、併用する場

合の効果についても示した。デモ計測には各組織の職員の視察もあり、計測状況を見ても

らうだけでなく、KUMONOS を通してひび割れを見てもらい、室内でのプレゼンテーショ

ンでは示すことができない実際の構造物におけるひび割れの見え方についても示し、提案

技術に対する高い関心を得られた。現場でデモ計測を行い、その結果を提示したことによ

り、プレゼンテーション後のヒアリングで課題として挙がった近接できない箇所のひび割

れ計測に提案技術が適用可能であることを実証できた。また、各組織の管理構造物を計測

したことから計測結果を実際の構造物と比較することができたため、具体的な活用方法の

イメージを共有し、その有効性を示すことができた。

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3-3.採算性の検討

ヒアリング結果から、タイ国で提案技術を展開していく上での潜在的な市場があること

は確認できた。具体的な活用方法についても提案があったことから、販売や計測業務の受

注につながる見込みは十分ある。

デモ計測を行った 3 構造物をはじめとしてタイ国では比較的新しい構造物が多く、ひび

割れは少なかったことから日本におけるひび割れ調査の見積もり工数と大幅に乖離するリ

スクは小さいと言える。さらに、橋脚、地下鉄トンネルとも、計測を行う上では日本の橋

脚、トンネルと大きな違いはなく、構造物の特性の違いにより大きな手間が掛かるという

こともないと思われる。また、計測時に必要な装備に関しても、基本装備(ヘルメット、

安全チョッキ、安全靴等)はタイ国にて安価で調達可能であった。KUMONOS 及び 3D レ

ーザースキャナの機器に要する費用を除けば、主な計測費用は計測員の人件費のみである

ことから、タイ国で適用するための追加費用は大きなものとならない。機器の導入費用に

関しても第 2 章 2-6.で述べた通り、各組織との協議において想像通りまたはそれよりも安い

という反応が圧倒的に多かったことから、提案技術普及の阻害要因にはならないと考えら

れる。

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第 4 章 ODA 案件化によるタイ国における開発効果及び提案企業の

事業展開に係る効果

4-1.提案製品・技術と開発課題の整合性

4-1-1.タイ国における開発課題の整理

タイ国における道路橋梁分野においては、今なお予算・関心ともに新規建設に重点が置

かれており、また、人命が奪われるような重大な橋梁の崩落事故も起きていないため、既

設橋の老朽化や劣化に対する問題意識は低い。故に、維持管理に関して十分な予算が配賦

されておらず、また予算申請の根拠の精度と信頼性が低いという問題点があり、限られた

予算内でできる作業内容・箇所を選んで対処しているというのが現状である。また、維持

管理に必要なデータという観点でも、橋梁台帳の整備(電子化)が進んでおらず、設計計

算書や設計図面もきちんと管理されていない。

維持管理のあるべき姿という観点からタイ国の現状を分析すると、損傷が激しい箇所の

みを補修するという事後保全型維持管理が中心となっており、計画的な維持管理は行われ

ていないことも大きな問題である。日本、アメリカ、ヨーロッパといった先進国では、経

済成長に伴う建設ラッシュで構造物が増加してきた初期の段階から精度の高い点検及び劣

化予測により予防措置を講じる予防保全型維持管理を十分に行ってこなかったことで、老

朽化を起因とした橋梁の崩落等の事故が相次いで発生し、中には多くの人命を奪ったもの

もある。本調査の会議参加者は、予防保全型維持管理の導入効果を説明した後に事後保全

型からの転換の必要性について認識しはじめたものの、タイ国の大半は未だ深刻な状態を

迎えていないとの認識である。タイ国では今後、補修が必要となる橋梁が飛躍的に増加す

ることは明白であり、この状態を放置すれば上述の先進国と同じ事態に陥る可能性がある。

故に、予防保全型維持管理の早期実施を行うことが課題であり、精度の高い点検及び劣化

予測による予防措置を早期から講じることの重要性・必要性を伝えて然るべき対策を提案

することが、先例である日本の果たすべき役割であると言える。

一方で近年は、タイ国内で維持管理に対する意識に向上の兆しが見えはじめ、特に DOH

では具体的な取組みも始まりつつある。DOH では、現状に即しておらず形骸化していた

BMMS を予算申請の根拠として活用する目的で改良し、自らの意思により仕組みの整備を

進めている。本調査のヒアリングにおいても、今後数年かけて BMMS でデータベースを構

築し、将来にわたって活用していきたいというニーズがあることが確認された。DOH では

BMMS を機能させるために、橋梁の基礎情報(橋長、上部工タイプ等)に加え、維持管理

に必要となる点検結果、補修履歴等のインプットデータを整備して橋梁データベースを構

築し、それらの情報を基に補修計画を策定しようとしている。しかし、事後保全型維持管

理が中心であるタイ国では、表面化した顕著な劣化・損傷のみを写真やスケッチで記録す

る従来型の手法が点検の主流であるため、これらのデータでは、将来の劣化予測に基づく

適切な補修計画の策定は難しい。あくまでも「現在の劣化・損傷の程度に基づく判断」と

なるため、結局は事後保全型維持管理の域を脱しておらず、現状では DOH のニーズが直接

的に予防保全型維持管理への転換というタイ国の開発課題の解決につながっていない状態

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である。前述のとおり、予防保全型維持管理には詳細な劣化分析・予測ができるレベルの

正確性の高い点検データが不可欠であり、DOH のニーズと高精度な点検を可能とする提案

製品・技術とを掛け合わせることにより、開発課題の解決につなげることは非常に有意義

であると考える。

4-1-2.提案製品・技術と当該開発課題の整合性

BMMS を予算申請の根拠としてのみならず予防保全型維持管理にも活用できるようにす

るためには、劣化・損傷の現状に加えて経年変化を把握し、それらに基づく劣化分析・予

測により、適切な補修工法及び補修時期を決定できる仕組みにしなければならない。劣化

分析・予測には高精度な点検データが不可欠となり、その中でも異常箇所やその原因の特

定の重要な判断材料となるひび割れのデータが大きな役割を担う。よって、データベース

の中に経年変化観察に使える形でひび割れデータを入れる必要がある。現在タイ国におい

ては、ひび割れを目視と写真またはスケッチにより調査しているが、その結果は紙ベース

であるため電子データとして BMMS の中で管理することは困難である。また、ひび割れの

原因究明や補修工法選定の際には構造物の形状やサイズ等のデータが必要になるが、それ

らを示す設計図が残っていないケースが多々あるのが現状である。提案技術である

KUMONOS 及び 3Dレーザースキャナの特徴及び技術的優位性については第 2章 2-1.に示し

た通りであり、以下に示す提案製品の技術的メリットを活用することにより、予防保全型

維持管理を実施するために必要な初期データの整備が可能となる。

(1) 点検・分析精度の向上

タイ国で行われている目視点検及び写真またはスケッチによる報告といった従来型の

ひび割れ調査方法では、調査員のスキルの違いによる誤差が発生しやすく、正確な計測の

担保は難しい。一方、KUMONOS を用いることで、目視点検によるスケッチと比較して、

位置・形状に関して約 10 倍の精度が得られることが確認されており、高精度な計測が可

能となる。

また、タイ国における構造物のひび割れ点検では、立地状況や構造、危険度等の事由か

ら近付くことができない場所については十分な点検が実施されていないことが本調査に

おいて確認されている。これでは、構造物の劣化状況の把握が十分になされていない懸念

があり、対策を打つべき劣化が見過ごされるリスクを孕んでいる。

KUMONOS の最大の特徴の一つに、TS を使って離れたところから調査ができるという

点が挙げられる。KUMONOS を使うことにより、正確なデジタルデータの取得が可能とな

る上、従来方法では調査できなかった範囲の計測も可能となり、総合的な現状把握及び補

修の可否判断ができるようになることから、健全度の分析精度向上にもつながる。また、

一つのことを集中して行うことを厭わないタイ人の国民性が、精度確保の前提となる地道

な計測作業に向いている点もメリットである。

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(2) 経時変化分析を可能とするデータの収集

上述の通り、タイ国の構造物のひび割れ点検は、劣化把握の正確性に懸念がある状況で

ある。KUMONOS を用いた計測では、ひび割れ位置を正確な位置座標で管理できるため、

従来方法では困難であった、ひび割れの成長や劣化面積の拡大等の経年変化把握が可能と

なる。これによって、ひび割れの成長スピードの定量的な分析を行い、適切な補修タイミ

ングを見極めることができる。また、周囲の形状を瞬時に大量の点(点群)として取得す

る 3D レーザースキャナを使用すれば、複雑な形状であっても、構造物自体の形状及びそ

の変化や変位の把握が可能となる。

さらに、将来の劣化予測を行うことにより、すぐに補修・改修等の処置を講じる必要が

あるのか、あるいはあと数年待ってもよいのかを見極めることができ、危険度に応じた補

修・改修の優先順位付けができる。定量データに基づいた明確な優先順位付けは、補修・

改修の意思決定を従来方法に比べてより客観的に行うことにつながる。また、ひび割れの

幅・長さや他の劣化箇所の面積等を定量的に且つ正確に把握できることから、補修・改修

等が必要となった場合、適切な補修材料量を導き出すことも容易となる。

(3) 対象構造物の形状を正確に再現した図面の作成

対象構造物の設計図面が整備されていない状況で維持管理を適切に行うことは難しい。

3D レーザースキャナを活用すると、取得した点群データから構造物の形状を正確に再現

した図面を作成することが可能となる。作成した図面を橋梁のその他基礎データと一緒に

管理することにより、維持管理の質をより高いものにすることが可能となる。

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナを活用した初期データの構築は、DOH のニーズ

である精度・信頼性の高い根拠による予算確保だけでなく、予防保全型維持管理への転換

の実現にもつながる。DOH が BMMS の改良の一環で投入するデータを整備しようとして

いる今がまさに提案技術導入の適期であり、この時期に合わせて導入することにより、開

発課題の解決に資するシステムをより効率的且つ効果的に構築することができる。提案技

術を使った新たな維持管理手法は他の道路管理組織、さらには道路橋梁以外の構造物にも

適用できるものであることから、将来的にはタイ国全体の構造物の長寿命化及び安全性の

確保につながるという点で大きな開発効果を生み出すものであると言える。

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4-2.ODA 案件化を通じた製品・技術等の当該国での適用・活用・普及による開発効果

将来のタイ国におけるODA案件の中でKUMONOS及び 3Dレーザースキャナが適用され、

実際の維持管理の現場において活用され、またタイ国の維持管理関係組織にこれらの製品

や技術が普及することによって得られる効果について以下に整理する。尚、製品・技術の

「適用」→「活用」→「普及」の各段階において得られる効果の質や内容が異なることか

ら、それぞれの段階毎に整理を行った。

<表 4-1>ODA 案件化を通じた製品・技術等の当該国での適用・活用・普及による開発

効果

1)「適用」による効果

橋梁の現況(形状、ひび割れ等の劣化状況)を正確且つ定量的なデジタルデータ

として取得できるようになる。

設計図面が存在しない構造物についても、取得した形状・位置・寸法のデータを

基に図面作成が可能となる。

近接せずに計測できることから、これまで点検できなかった箇所の劣化状況まで

把握できるようになり、劣化分析の精度が向上する。

ひび割れ計測の作業効率が飛躍的に向上し、従来方法で KUMONOS と同程度の

範囲・精度で計測を実施した場合と比べると、計測や図面作成に掛かる工数・費

用が大幅に削減される。

2)「活用」による効果

橋梁の維持管理に不可欠な初期データが整備される上、蓄積したデータの活用に

より、劣化の進行(ひび割れの成長等)や変位といった経時的な変化の把握が可

能となる。

橋梁の劣化予測に基づく適切な補修タイミングの見極めや補修方法の選定を行

うことが可能となり、適切な補修計画を策定できる。

適切な補修計画が、橋梁維持管理の予算申請プロセスにおいて精度・信頼性の高

い根拠となり、予算が配賦されやすくなる。

橋梁維持管理マスタープランや中長期の橋梁維持管理計画を適切に策定するこ

とができる。

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KUMONOS や 3D レーザースキャナの計測データ及びそれらを基に作成した図

面を設計図、写真、施設情報等とともに一元管理することにより、包括的な 3D

維持管理が可能となる。

点検、分析、評価に係る作業量が増加することに伴い、道路管理組織における維

持管理分野の体制が強化される。

橋梁の健全度判定に関するタイ人技術者の計測・分析技術が向上する。

データ分析において大学等研究機関と連携が強化され、構造物の劣化予測や健全

度評価に関する技術レベルや研究能力が向上する。

3)「普及」による効果

タイ国において維持管理に対する意識が向上する。

維持管理の重要性が認識されることにより、維持管理に係る予算が増え、より計

画的な維持管理の実施が可能となる。

道路以外の構造物(鉄道、発電所等)の維持管理の現場にも適用・活用されるこ

とにより、タイ国全体の維持管理能力が強化される。

構造物の維持管理分野の業務増加に伴い、新たな雇用機会が創出される(現地コ

ンサルタント会社、現地建設会社等)。

既設橋の耐用年数が伸び、橋梁の安全性が高まる。

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4-3.ODA 案件の実施による当該企業の事業展開に係る効果

関西工事測量の海外事業の軸となる KUMONOS を維持管理の現場で導入してもらうには、

実際に機器を使う計測者のみならず、維持管理業務の発注元となる組織(政府機関、民間

企業)に KUMONOS の有用性を認知してもらうことが重要であるが、関西工事測量の事業

規模・内容や海外における実績を考慮すると、その働きかけは容易ではなく、そのための

投資も難しいのが現状である。特に、KUMONOS の計測対象の多くは公共構造物であるた

め、それらの管理者である政府機関への働きかけが導入における鍵となるが、中小企業に

は他国の政府機関とのつながりがなく、アポイントの取得すらできないことが多い。

関西工事測量は、これまでにもアメリカや台湾の大学機関へ KUMONOS を納入(寄贈)

した実績があるものの、納入後のフォローを長期的に実施することは、要員やコストの観

点から難しく、特にその納入先が大学機関であったことからも、維持管理の現場における

KUMONOS の活用にはつなげられていなかった。2013 年にスウェーデンやアメリカの民間

企業に対して納品し、現場で活用されはじめたものの、活用状況の把握を今後も継続的に

行うことは難しい。

ODA 案件を通して、タイ国の公共構造物の管理組織に対して提案技術である KUMONOS

及び 3D レーザースキャナの有用性を実証することは、関西工事測量が抱える資金面と政府

機関への働きかけという KUMONOS の海外事業展開に係る課題を解決するため、事業展開

の重要なステップとなる。また、日本とタイ国の政府間レベルの事業であることから、B to

B に比べて提案技術の裨益範囲が広がるとともに、政府機関がトップダウンで普及を後押し

することで迅速且つ円滑な事業化が促進される。KUMONOS のみならず 3D レーザースキ

ャナについても計測需要の発生が見込まれることから、海外展開の事業領域も拡大できる。

さらに、ODA 案件の実施過程で、KUMONOS の適切な活用を目的として技術・ノウハウ・

経験の移転といった実践的なフォローを行うことが可能となるため、機器の供与に留まる

ことなく、ODA 案件終了後も KUMONOS が引き続き活用されることが期待できる。

ODA 案件により KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの現地適合性及び有用性が実証さ

れると、タイ国内の販売・計測需要の増加や活用対象範囲の拡大が期待できる。例えば、

円借款で建設された地下鉄ブルーライン(MRT)を管理するMRTAやスカイトレイン(BTS)

を管理する BTSC では、比較的新しい構造物が多いものの、KUMONOS や 3D レーザース

キャナは今後必要となる技術なので導入を検討したいと言われている。本調査において、

全区間の現状を計測した場合の見積り依頼を受けており、コンセッション契約終了時の品

質確認における比較元データとして将来的に活用される見込みがあるため、ODA 案件が当

該業務実現の後押しとなり得る。また、構造物の維持管理はタイ国に限ったことではなく

世界共通課題であり、タイ国以外にも KUMONOS 及び 3D レーザースキャナが展開できる

市場があるため、タイ国で実績を積み重ねることにより、他国への KUMONOS 及び 3D レ

ーザースキャナの普及が加速することも期待できる。

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<図 4-1> KUMONOS の普及拡大イメージ

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第 5 章 ODA 案件化の具体的提案

5-1.ODA 案件概要

5-1-1.ODA 案件提案における前提条件

これまでの検討を踏まえ、ODA 案件化にあたっては、タイ国における KUMONOS 及び

3D レーザースキャナの普及のみならず、タイ国の開発課題の解決に寄与すること、またよ

り多くの人がその恩恵を受けることが重要であると認識している。

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナは、構造物の安全性を確保するという点でタイ国

の経済発展に貢献可能と考えているが、その効果を最大化し、より多くの人に恩恵をもた

らすためには、機材がタイ国に渡るのみでは十分ではなく、KUMONOS 及び 3D レーザー

スキャナが有する正確性や安全性、効率性といった有益性を、タイ国の維持管理関係者(政

府機関、民間企業、大学研究機関)にも理解してもらい、タイ国で活用するための仕組み

を整備する必要がある。

KUMONOS は、正確なひび割れ計測データを取得し、それを将来的な劣化予測にも役立

てることを可能とする特徴を有している。また 3D レーザースキャナを使用して取得した点

群データを活用することにより、設計図面が存在しない橋梁についても形状、位置、寸法

のデータを取得して図面を作成することが可能となり、維持管理に必要な初期データが整

備される。また、橋梁基礎工の沈下等、構造物の形状の経時的な変化を確認できるため、

ひび割れデータと重ね合わせることによりひび割れの原因究明に役立てることもできる。

よって、KUMONOS 及び 3D レーザースキャナがより広く活用されれば、劣化予測のため

のサンプルデータも増加し、より良い効果(より正確な劣化予測)をもたらすことが可能

な技術であると考えている。

そこで、ODA 案件化にあたって、下記の考え方を基に提案を行う。

タイ国において、KUMONOS 及び 3D レーザースキャナが適合可能であり、且つ、効

果を発現し得ることを実証する

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの機材のみならず、活用のための技術・ノウハ

ウをタイ国に移転し、維持管理関係者の意識及び技術レベルの向上を図る

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナを用いた計測がより広く行われるようになるた

めの、且つ、より大きな効果の発現を可能とするための土壌を作る

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5-1-2.ODA 案件の概要

前項で述べた前提条件を満たすために、本事業においては表 5-1 に示す 2 つの ODA 案件

を提案する。なお、それぞれの案件の詳細については 5-2.に記述する。

<表 5-1>本事業で提案する ODA 案件

案件名称 ODA スキーム 実施期間

日本の先端測量機器及び計測

技術を活用した橋梁の 3D 維

持管理手法普及に係るパイロ

ット事業

民間提案型普及・実証事業 2014 年 9 月から 1 年間

橋梁維持管理能力強化プロジ

ェクト 技術協力プロジェクト 2015 年 X 月より 3年間

5-1-3.活用する ODA スキームについて

今回提案するプロジェクトにおいて活用する ODA スキームは以下の通りである。

(1) 民間提案型普及・実証事業

道路橋梁を対象として、KUMONOS によるひび割れ計測、3D レーザースキャナによる

形状計測、及び計測データの整備をパイロット的に実施するとともに、構造物の維持管理

における正確な劣化把握・予測の重要性ならびに KUMONOS 及び 3D レーザースキャナが

果たしうる役割についての啓蒙活動を行うために本スキームを活用する。本プロジェクト

のカウンターパートとしては DOH を想定しているが、現地民間企業や大学等研究機関と

連携してプロジェクトを実施することを想定している。

(2) 技術協力プロジェクト

道路橋梁のアセットマネジメントに関するキャパシティデベロップメント及び予防

的・計画的な維持管理の普及を目的として本スキームを活用する。そのためには、まず橋

梁の状態に関する基礎データの整備が不可欠であるが、現在の機材や手法では十分なデー

タ収集ができないため、KUMONOS 及び 3D レーザースキャナを適用する。本プロジェク

トのカウンターパートとしては DOH を想定しているが、その他関係機関に対しても効果

が及ぶような体制を構築することもスコープに含まれる。

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5-2.具体的な協力内容及び開発効果

先に提案した 2 つのプロジェクトについて以下に説明する。なお、「日本の先端測量機器

及び計測技術を活用した橋梁の 3D 維持管理手法普及に係るパイロット事業」については、

KUMONOS と 3D レーザースキャナを併用するオプションと、KUMONOS のみを使用する

オプションの 2 ケースについて整理した。KUMONOS のみでも構造物の形状を捉えること

は可能であるが、図面作成をするためには 3D レーザースキャナを併用してより詳細な情報

を取得することが必要となる。段階的な導入を念頭に置いてまずは KUMONOS のみに集中

的に取り組むか、もしくは最初から KUMONOS 及び 3D レーザースキャナ両方の導入を目

指すのかについては、今後も引き続き協議を進め、先方の要望に応じて最終決定を行うこ

ととする。現時点で DOH としては、3D レーザースキャナを導入する代わりにより多くの

橋梁を計測の対象とすることができる前者の方が望ましいと考えていることが第 3 回現地

調査にて確認されている。2014 年 3 月末までに DOH より最終的な回答を受領予定である。

5-2-1. 日本の先端測量機器及び計測技術を活用した橋梁の 3D 維持管理手法普及に係る

パイロット事業(民間提案型普及・実証事業)

(1)オプション-1:「KUMONOS」+「3D レーザースキャナ」を使用するケース

1)事業目的

パイロット計測を通して、タイ国の橋梁維持管理において提案技術が適合可能且

つ有用であることを実証する。また、技術・ノウハウ移転により継続的な活用の地

盤をつくる。さらに啓蒙活動により、予防保全型維持管理の重要性の認識を高める。

2)活動内容

KUMONOS を用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測データの管理(パイロット)

3D レーザースキャナを用いた構造物の形状、位置、寸法データの取得及び図面の

作成(パイロット)

構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS・3D

レーザースキャナが果たしうる役割についての啓蒙活動

3)現地カウンターパート

運輸省高速道路局橋梁建設部(DOH、Bureau of Bridge Construction)

4)予定実施期間

2014 年 9 月から 1 年間

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5)実施スケジュール

※3D レーザースキャナの計測回数については、詳細見積り次第で決定する。また、

差異解析の手法を移転する目的で、同じ構造物を 2 回計測することも可(例:構造

物 F の部分を構造物 B の再測にする)。

<図 5-1>オプション-1の実施スケジュール

6)概算予算規模

1 億円

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7)成果及び開発効果

8)各活動の詳細

①KUMONOS を用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測データの管理(パイロット)

ア)計測対象構造物の選定

・DOH が管轄する国道の橋梁 6 橋(うち 5 橋はバンコク都内、1 橋は地方)。差異解

析の手法を移転する目的で 1 つの橋を 2 回計測することも可能であり、その場合

の対象橋梁数は 5 橋となる。

・具体的な構造物は、以下の観点を考慮し、DOH と協議の上で決定する。2014 年 3

月末までに DOH より候補橋梁リストを受領予定である。

実証の効果を考慮し、知名度・注目度が高い橋梁(規模、計測の難易度等)

現在の点検、状況に懸念がある橋梁

タイ国における平均的な形状、立地条件の橋梁

様々な築年数(0~20 年/21~50 年/50 年以上等)の橋梁

これまで日本がタイ国に対し、有償資金協力(円借款)で整備してきた橋梁

円借款で開発したバンコク郊外の工業団地へ向かう道路上の橋梁

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの計測技術を有する人材の育成を通して、

構造物の現況を正確且つ定量的に把握する手法が移転される

当該手法を用いて取得したデータを初期データとして管理し、継続的に活用

することにより、現況のみならず劣化の進行や変位等の経時的な変化も定量

的に正しく把握できるようになる

従来の方法では計測できなかった箇所の計測が可能となり、重大な欠陥を見

落とすリスクが低減される

計測可能範囲の拡大及び継続的に取得したデータを用いた経時変化の把握に

より、劣化分析の精度が向上する

タイ国の維持管理関係者(政府機関、民間企業)の、定量的な劣化状況把握

の重要性に対する認識が上がり、手法の見直し・改善に寄与する

構造物の長寿命化・安全性確保のためのノウハウがタイ国に移転され、維持

管理能力が強化される

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イ)計測チームの構築、研修の実施

・ 計測者の調達先の候補としては、DOH のコンセッショネア(BECL)、タイ西松

建設、AEC(現地建設コンサルタント会社)を想定している。

・ 選抜された計測者に対して約 1 週間の座学による技術研修を実施する。

ウ)実際の現場での計測作業

・ 1 つの現場に KUMONOS を 3 台、現地人計測者 3 名、日本人技術指導者 2 名を

配置し、2 チーム構成により 2 か所ずつ同時進行で計測を行う。尚、日本人技術

者については、事業実施により得られる効果を日本国内の他企業にも波及させ

ることを目的として、一部委託することも検討している。委託先企業にとって

は、海外業務実績となるとともに現地関係者との人脈形成もでき、自社ビジネ

スの展開にもつなげられる可能性がある。

・ 準備~計測~内業~成果物(図面、クラックリスト)作成までの作業を、1 つの

現場につき実働 2 週間程度で実施することを想定している。

エ)計測データの整理、橋梁台帳の作成

収集したデータを整理し、橋梁に関するいくつかの情報の一つとしてひび割れデ

ータ(図面、クラックリスト)を追加する形で橋梁台帳を作成する。本作業の実施

期間として約1ヶ月を想定している。

②3D レーザースキャナを用いた構造物の形状、位置、寸法データの取得及び図面の

作成(パイロット)

KUMONOS 計測の対象となる橋梁のうち、2 橋を選定して 3D レーザースキャナで

の計測を行う。計測チームの構築及び研修については、KUMONOS と同様に行う。

実際の現場での計測作業は DOH 所有のライカ社 C10(仮に使用できない場合は関西

工事測量の所有機器)を使用し、計測~データ合成~図化の一連の技術指導も行う。

1 チームのみによる計測とし、作業期間は 1 回あたり実働 2 週間程度を想定している。

現地技術者 2 名に対し、日本人技術指導者 2 名で技術指導を行う。

③構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS・3D レ

ーザースキャナが果たしうる役割についての啓蒙活動

構造物の正確な劣化予測や KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの有用性を広く

認知・理解してもらうことも、タイ国の構造物の維持管理には重要である。例えば、

本調査のヒアリングを通して、タイ国における構造物のひび割れ調査は、深刻なひ

び割れを見つけることに特に重点が置かれていることが確認されたが、前述した通

り、構造物の維持管理において重要なのは、深刻になる前に劣化を把握し、最適な

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予防措置を講じることである。よって、これまで日本や他の先進国が積み上げてき

た教訓を、この啓蒙活動を通してタイ国にもナレッジ・トランスファーしたいと考

えている。

そこで、本案件においては、前述の人材育成に加え、ひび割れ計測及び計測結果

を用いた経年変化の分析・劣化予測の重要性について、政府機関や構造物の維持管

理に関連する民間企業、大学研究機関に対してセミナー等を開催し、地道な啓蒙活

動を行う。

<図 5-2>啓蒙活動のイメージ

セミナー開催にあたっては、本案件のカウンターパートとして想定している DOH

の協力は不可欠であるが、チュラロンコン大学、ブラパ大学等大学研究機関、タイ

国における建設業界のネットワークのハブの役割を担うタイ王立工学会(Engineering

Institute of Thailand)等にも幅広く声掛けを行うことが効果的であると考える。

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9)投入

想定している投入は以下の通りである。タイ国側の実施体制に関しては、DOH よ

りプロジェクト管理及び計測に携わるメンバーに関する部署名等の詳細情報を 2014

年 3 月末期限で提供してもらうこととなっている。また、実証活動の評価及び啓蒙

活動に携わる大学に関する希望(DOH と関係が深い大学の追加等)の有無もあわせ

て確認中であり、先方からの要望に応じて適宜追加・変更を行うこととする。

①KUMONOS 及び 3D レーザースキャナを用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測

データの管理(パイロット)

及び

②3D レーザースキャナを用いた構造物の形状、位置、寸法データの取得及び図面の

作成(パイロット)

<表 5-2>活動①と②に対する投入

項目 数量 備考

日本側の投入

KUMONOS 6 台 -

専門家派遣

長期専門家

(総括・技術責任者)

1 名

12 人月 関西工事測量

短期専門家

(KUMONOS 技術アドバイザー)

4 名

8 人月 関西工事測量

短期専門家

(3D レーザースキャナ技術アドバイザー)

2 名

2 人月 関西工事測量

長期専門家

(業務調整)

1 名

12-15 人月

オリエンタルコンサルタンツ

(必要に応じて

サポート要員を投入)

計測支援費用、データ整理費用 6 構造物 現地コンサルタント会社、

現地建設会社等

その他、諸経費 - -

タイ国側の投入

カウンターパート人員の配置

プロジェクトリーダー 1 名 DOH

プロジェクトメンバー 5-7 名 DOH

分析・研究者 4 名 チュラロンコン大、ブラパ大

プロジェクト活動に必要な専門家執務ス

ペースの提供 - バンコク都内

その他、諸経費 - -

概算予算規模 0.97 億円

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注)上記、投入の前提として、下記機材は、既にタイ国側が保有していることを前提

としている。尚、下記機材は TS を用いた測量には一般的な機材である。

・1 素子プリズム・整準台セット

・測量用三脚

・ミニプリズム・ピンポール・ピンポールスタントセット

・プリズムシール(3cm×3cm)

・木杭・鋲等測量消耗品

③構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS が果た

しうる役割についての啓蒙活動

<表 5-3>活動③に対する投入

項目 数量 備考

日本側の投入

専門家派遣

短期専門家 2 名×3 日間×2 回 関西工事測量

短期専門家 1 名×3 日間×2 回 大阪大学

その他、諸経費 - -

タイ国側の投入

カウンターパート人員の配置

現地人専門家(講師) 2 名×3 日間×2 回 現地大学関係者

セミナー場所の提供 - バンコク都内

その他、諸経費 - -

概算予算規模 0.03 億円

注)上記活動①、②に加えて必要と想定する投入

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10)実施体制

想定している実施体制は以下の通りである。

<図 5-3>オプション-1の実施体制

11)その他確認事項

KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの計測データについて、BMMS でどのよう

な形で入力・管理していくのが適切であるかを確認する。

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(2)オプション-2: 「KUMONOS」のみを使用するケース

1)事業目的

パイロット計測を通して、タイ国の橋梁維持管理において提案技術が適合可能且

つ有用であることを実証する。また、技術・ノウハウ移転により継続的な活用の地

盤をつくる。さらに啓蒙活動により、予防保全型維持管理の重要性の認識を高める。

2)活動内容

KUMONOS を用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測データの管理(パイロット)

構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS が果た

しうる役割についての啓蒙活動

3)現地カウンターパート

運輸省高速道路局橋梁建設部(DOH、Bureau of Bridge Construction)

4)予定実施期間

2014 年 9 月から 1 年間

5)実施スケジュール

※計測回数については、詳細見積り次第で決定する。また、経年変化把握の手法を

移転する目的で、同じ構造物を 2 回計測することも可(例:構造物 G の部分を構造

物 A の再測にする)。

<図 5-4>オプション-2の実施スケジュール

6)概算予算規模

1 億円

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7)成果及び開発効果

8)各活動の詳細

① KUMONOS を用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測データの管理(パイロット)

ア)計測対象構造物の選定

・ DOH が管轄する国道の橋梁 7~8 橋(うち 1 橋は地方の橋梁)。経年変化把握の

手法を移転する目的で 1 つの橋を 2 回計測することも可能であり、その場合の

対象橋梁数は 6~7 橋となる。

・ 具体的な構造物は、以下の観点を考慮し、DOH と協議の上で決定する。2014 年

3 月末までに DOH より候補橋梁リストを受領予定である。

実証の効果を考慮し、知名度・注目度が高い橋梁(規模、計測の難易度等)

現在の点検、状況に懸念がある橋梁

タイ国における平均的な形状、立地条件の橋梁

様々な築年数(0~20 年/21~50 年/50 年以上等)の橋梁

これまで日本がタイ国に対し、有償資金協力(円借款)で整備してきた橋梁

円借款で開発したバンコク郊外の工業団地へ向かう道路上の橋梁

KUMONOS の計測技術を有する人材の育成を通して、構造物の現況を正確且

つ定量的に把握する手法が移転される

当該手法を用いて取得したデータを初期データとして管理し、継続的に活用

することにより、現況のみならず経時的な変化も定量的に正しく把握できる

ようになる

従来の方法では計測できなかった箇所の計測が可能となり、重大な欠陥を見

落とすリスクが低減される

計測可能範囲の拡大及び継続的に取得したデータを用いた経時変化の把握に

より、劣化分析の精度が向上する

タイ国の維持管理関係者(政府機関、民間企業)の、定量的な劣化状況把握

の重要性に対する認識が上がり、手法の見直し・改善に寄与する

構造物の長寿命化・安全性確保のためのノウハウがタイ国に移転され、維持

管理能力が強化される

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イ)計測チームの構築、研修の実施

・ 計測者の調達先の候補としては、DOH のコンセッショネア(BECL)、タイ西松

建設、AEC(現地建設コンサルタント会社)を想定している。

・ 選抜された計測者に対して約 1 週間の座学による技術研修を実施する。

ウ)実際の現場での計測作業

・ 1 つの現場に KUMONOS を 3 台、現地人計測者 3 名、日本人技術指導者 2 名を

配置し、2 チーム構成により 2 か所ずつ同時進行で計測を行う。尚、日本人技術

者については、事業実施により得られる効果を日本国内の他企業にも波及させ

ることを目的として、一部委託することも検討している。委託先企業にとって

は、海外業務実績となるとともに現地関係者との人脈形成もでき、自社ビジネ

スの展開にもつなげられる可能性がある。

・ 準備~計測~内業~成果物(図面、クラックリスト)作成までの作業を実施す

ることを想定している。

エ)計測データの整理、橋梁台帳の作成

収集したデータを整理し、橋梁に関するいくつかの情報の一つとしてひび割れ

データ(図面、クラックリスト)を追加する形で橋梁台帳を作成する。本作業の

実施期間として約1ヶ月を想定している。

② 構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS が果た

しうる役割についての啓蒙活動

構造物の正確な劣化予測や KUMONOS の有用性を広く認知、理解してもらうこと

も、タイ国の構造物の維持管理には重要である。例えば、本調査のヒアリングを通

して、タイ国における構造物のひび割れ調査は、深刻なひび割れを見つけることに

特に重点が置かれていることが確認されたが、前述した通り、構造物の維持管理に

おいて重要なのは、深刻になる前に劣化を把握し、最適な予防措置を講じることで

ある。よって、これまで日本や他の先進国が積み上げてきた教訓を、この啓蒙活動

を通してタイ国にもナレッジ・トランスファーしたいと考えている。

そこで、本案件においては、前述の人材育成に加え、ひび割れ計測及び計測結果

を用いた経年変化の分析・劣化予測の重要性について、政府機関や構造物の維持管

理に関連する民間企業、大学研究機関に対してセミナー等を開催し、地道な啓蒙活

動を行う。

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- 96 -

<図 5-5>啓蒙活動のイメージ

セミナー開催にあたっては、本案件のカウンターパートとして想定している DOH

の協力は不可欠であるが、チュラロンコン大学、ブラパ大学等大学研究機関、タイ

国における建設業界のネットワークのハブの役割を担うタイ王立工学会(Engineering

Institute of Thailand)等にも幅広く声掛けを行うことが効果的であると考える。

9)投入

想定している投入は以下の通りである。タイ国側の実施体制に関しては、DOH よ

りプロジェクト管理及び計測に携わるメンバーに関する部署名等の詳細情報を 2014

年 3 月末期限で提供してもらうこととなっている。また、実証活動の評価及び啓蒙

活動に携わる大学に関する希望(DOH と関係が深い大学の追加等)の有無もあわせ

て確認中であり、先方からの要望に応じて適宜追加・変更を行うこととする。

① KUMONOS を用いた道路橋梁のひび割れ計測及び計測データの管理(パイロット)

<表 5-4>活動①に対する投入

項目 数量 備考

日本側の投入

KUMONOS 6 台 -

専門家派遣

長期専門家

(総括・技術責任者)

1 名

12 人月 関西工事測量

短期専門家

(KUMONOS 技術アドバイザー)

4 名

10 人月 関西工事測量

長期専門家

(業務調整)

1 名

12-15 人月

オリエンタルコンサルタンツ(必要に応

じて サポート要員を投入)

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計測支援費用、データ整理費用 7~8 構造物 現地コンサルタント会社、

現地建設会社等

その他、諸経費 - -

タイ国側の投入

カウンターパート人員の配置

プロジェクトリーダー 1 名 DOH

プロジェクトメンバー 5-7 名 DOH

分析・研究者 4 名 チュラロンコン大、ブラパ大

プロジェクト活動に必要な専門家

執務スペースの提供 - バンコク都内

その他、諸経費 - -

概算予算規模 0.97 億円

注)上記、投入の前提として、下記機材は、既にタイ国側が保有していることを前提

としている。尚、下記機材は TS を用いた測量には一般的な機材である。

・1 素子プリズム・整準台セット

・測量用三脚

・ミニプリズム・ピンポール・ピンポールスタントセット

・プリズムシール(3cm×3cm)

・木杭・鋲等測量消耗品

② 構造物の維持管理における正確な劣化把握・予測の重要性及び KUMONOS が果た

しうる役割についての啓蒙活動

<表 5-5>活動②に対する投入

項目 数量 備考

日本側の投入

専門家派遣

短期専門家 2 名×3 日間×2 回 関西工事測量

短期専門家 1 名×3 日間×2 回 大阪大学

その他、諸経費 - -

タイ国側の投入

カウンターパート人員の配置

現地人専門家(講師) 2 名×3 日間×2 回 現地大学関係者

セミナー場所の提供 - バンコク都内

その他、諸経費 - -

概算予算規模 0.03 億円

注)上記活動①に加えて必要と想定する投入

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10)実施体制

想定している実施体制は以下の通りである。

<図 5-6>オプション-2の実施体制

11)その他確認事項

KUMONOS の計測データについて、BMMS でどのような形で入力・管理していく

のが適切であるかを確認する。

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5-2-2. 橋梁維持管理能力強化プロジェクト(技術協力プロジェクト)

(1) 事業目的

タイ国の国道及び高速道路(Motorway)を管理している運輸省傘下の DOH を対象に橋

梁維持管理技術を強化するとともに、効果的且つ活用しやすい橋梁維持管理システムを構

築し、またその他関係機関を含む橋梁維持管理関係者に対して予防的・計画的な橋梁維持

管理に関する啓蒙活動を実施することにより、将来的に同国のアセットマネジメント能力

向上(橋梁維持管理システムを活用した高度な維持管理計画の策定及び予算配分の効率化)

に関して我が国の効率的なインフラ管理技術を活用できる基盤を構築する。

(2) プロジェクトサイト

バンコク都内及びタイ国内にある DOH が管理する橋梁(300 橋程度を対象)

(3) 受益者

DOH の橋梁維持管理部門(カウンターパート)、タイ国の他の道路管理組織(DRR、EXAT、

BECL)、タイ国民間企業(計測、データ整理等担当者)、大学(データ分析、劣化予測等

担当者)、その他構造物の管理機関(MRTA、BMCL 他)の維持管理担当部門(研修参加

者)

(4) 協力期間

2015 年X月より 3 年間

(5) 概算総事業費(日本側)

XX 億円

(6) 現地カウンターパート

運輸省高速道路局橋梁建設部(DOH、Bureau of Bridge Construction)

(7) 上位目標(プロジェクト終了後概ね 5年までに達成すべき目標)

予防的・計画的な橋梁維持管理を実施することにより、DOH が管理する既存橋

梁の耐用年数が伸び、橋梁の安全性が高まる。(指標例:維持管理費の削減、耐

久年数の延長)

DOH での成果がその他関係機関へ水平展開され、タイ国における橋梁維持管理

に対する意識が向上し、維持管理状況が改善する。(指標例:研修の参加者数、

実施回数等)

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(8) プロジェクト目標(プロジェクト終了時までに達成すべき目標)

(9) 成果

(10)活動

成果1に対する活動:

研究機関(大阪大、チュラロンコン大、ブラパ大)等と連携して実施する。

活動1-1: 現在 DOH が行っている橋梁維持管理(事後保全型)の実態と、本事業で

目指す維持管理手法(予防保全型)の違いを明確に示し、技術改革の重要

性について理解するためのセミナー/ワークショップを開催する(計 10 回

程度)。

成果2に対する活動:

活動2-1:DOH と協議の上、本事業で対象とする既存橋の選定を行う。

活動2-2:選定した既存橋の現地調査及びインベントリーデータ(橋梁名、建設年、

橋長等)の整理を行う。

活動2-3:既存橋の点検を行う。点検項目及び点検方法は以下の通り。

成果1:タイ国内において橋梁維持管理に対する意識が向上する。

成果2:DOH の橋梁情報管理能力が向上する。

成果3:DOH 及びタイ国民間企業の橋梁維持管理業務(点検、健全度判定、維持

修繕工法選定)の技術水準が向上する。

成果4:構築する橋梁維持管理システムのデータを橋梁維持管理計画策定に活用す

ることにより、DOH の橋梁維持管理計画能力が向上するとともに、BMMS

で見極めた適切な補修時期を根拠とした予算作成を行うことにより、効果

的且つ効率的な予算配分を実現する。

成果5:橋梁維持管理に携わる職員(DOH 及び大学関係者)の技術・能力が向上

し、その他関係機関を対象とした研修がタイ国側の主導で実施される。

成果6:DOH の維持管理担当者が、導入するひび割れ計測技術(KUMONOS)及

び構築した橋梁維持管理システムを用いて、本事業で対象としていない橋

梁/高架構造物についてもプロジェクト終了後に継続的且つ計画的に維

持管理を行うことができるようになる。

DOH の橋梁維持管理業務にかかるキャパシティ・デベロップメントが図られ、

橋梁維持管理体制が改善される。

DOH での成果をその他関係機関へ水平展開するための体制が整備される。

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<表 5-6>想定する点検項目及び点検方法

(出所:国交省道路局総点検実施要領(案)【橋梁編】2013.2 をもとに作成)

活動2-4:DOH が保有している Bridge Maintenance Management System (BMMS)の詳細

について調査し、問題点等を整理した上で、誰もが利用しやすい汎用性の

高いものに改良する。

活動2-5:橋梁データベースの入力(インベントリー・設計図書・図面・診断結果、

履歴)を行い、橋梁台帳を作成する。

活動2-6:橋梁情報管理に関する研修を行う。

成果3に対する活動:

研究機関(大阪大、チュラロンコン大、ブラパ大)等と連携して実施する。

活動3-1:橋梁維持管理業務(点検、健全度判定、維持修繕工法選定)の技術水準を

改善するための OJT(On the Job Training)を行う。

【解説】

橋梁維持管理マネジメントサイクルを図 5-7 に示す。この中で、「点検」、「健全度判

定」、「維持修繕工法選定」は、維持管理計画と同様に維持管理の核となる重要なプロ

セスである。よって、本事業の中で、「点検」、「健全度判定」、「維持修繕工法選定」に

関する改良を実施する。

KUMONOS -

想定する点検方法

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<図 5-7>橋梁維持管理マネジメントサイクル

「点検」については、実際の現場点検作業の中で OJT を行う。点検のうち、特にひ

び割れの計測が重要であるため、KUMONOS を用いた OJT を重点的に実施する。主担

当は関西工事測量の技術者。

「健全度判定」及び「維持修繕工法選定」については、点検で収集したデータをも

とに研究機関と連携しながら、将来の劣化予測モデルの作成、適正補修時期の判断に

関するシステムの構築を行う。主担当は日本人コンサルタント(橋梁技術者)。

活動3-2:橋梁維持管理業務(点検、健全度判定、維持修繕工法選定)に関する研修

を実施する。

活動3-3:タイ国の実情にマッチし、今後も継続的に全国で活用されるような各種マ

ニュアル(橋梁点検マニュアル、健全度評価マニュアル、補修・補強方法

選定ガイドライン等)を整備する。

成果4に対する活動:

研究機関(大阪大、チュラロンコン大、ブラパ大)と連携して実施する。

活動4-1:橋梁維持管理計画策定のための研修を実施する。

活動4-2:BMMS で管理する橋梁データ及び大阪大とタイ国の大学関係者で作成する

劣化予測モデル及び補修時期判断システムを用いて中期橋梁維持管理計画

(5 年計画)を策定する。

活動4-3:上記の橋梁維持管理計画を踏まえ、BMMS の橋梁データ(補修時期等の分

析結果も含む)に基づく橋梁維持管理予算を算出し、従来方法で算出した

予算との差異(削減効果、配分効率性等)を検証する。

活動4-4:DOH が将来にわたって継続的に橋梁維持管理計画及び予算を策定・更新で

きるような組織体制となるように支援を行う。

成果5に対する活動:

活動5-1: DOH 職員及び大学関係者に対して、橋梁に関する技術・能力の確認(ベー

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スライン調査)を行う。

活動5-2:マスタートレーナーの選出を行い、マスタートレーナーに対するキャパシ

ティ・デベロップメントを実施する。

活動5-3:その他関係機関(DRR、EXAT、MRTA 等)を対象に、タイ人のマスタート

レーナーが講師となって研修を実施する。その際のテキストとして、活動

3-3で作成するマニュアル/ガイドブックを使用する。

成果6に対する活動:

活動6-1: 本事業で対象とした約 300 橋のサンプルデータ結果を分析し、その他多数

の橋梁について条件(年代、上部工形式、下部工形式種類、立地条件、荷

重条件等)毎にグループ分けを行い、様々な劣化のモデルパターンを作る

ことにより、適切な補修時期及び補修方法について整理する。

活動6-2:成果4で策定した中期橋梁維持管理計画(5 年計画)に基づき、個々の橋梁

についての補修計画を策定する。

(11)投入

想定している投入は以下の通りである。

1)日本側

・専門家派遣:総括/橋梁維持管理、維持管理計画/組織、橋梁技術基準、橋梁点

検技術、橋梁設計(健全度判定)、橋梁設計(維持修繕工法選定)、劣化予測モデル

/研修担当、橋梁データベース、人材育成、業務調整等

・本邦研修

・機材供与:KUMONOS(20 台)、その他プロジェクト活動に必要な資機材の供与(パ

ソコン等)

・現地活動費

2)タイ国側

・カウンターパートの配置(DOH)

・プロジェクト事務所

・プロジェクトの実施に必要な施設・機材の提供

・運営・経常経費

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(12)スケジュール

現時点で想定するスケジュール案を表 5-7 に示す。

<表 5-7>本事業における実施スケジュール案

1-1 技術改革の重要性に関するセミナー/ワークショップの開催(計10回

程度)

2-1 対象橋梁の選定

2-2 既存橋の現地調査及びインベントリーデータの整理

2-3 既存橋の点検

2-4 BMMSの改良

2-5 橋梁データベースの入力、橋梁台帳の作成

2-6 橋梁情報管理に関する研修の実施

3-1 橋梁維持管理業務の技術水準を改善するためのOJTの実施

3-2 橋梁維持管理業務に関する研修の実施

3-3 各種マニュアルの整備

4-1 橋梁維持管理計画策定のための研修の実施

4-2 中期橋梁維持管理計画(5年計画)の策定

4-3 橋梁維持管理予算の算出、従来方法による予算との差異の検証

4-4 DOHの組織強化に関する支援の実施

5-1 DOH職員及び大学関係者の技術・能力の確認

5-2 マスタートレーナーの選出及びマスタートレーナーに対するキャパシ

ティ・デベロップメントの実施

5-3 その他関係機関を対象とした研修の実施

6-1 その他多数の橋梁に関するグループ分け及び適切な補修時期・補修

方法についての整理

6-2 中期橋梁維持管理計画(5年計画)に基づき、個々の橋梁についての

補修計画を立案

成果6:DOHの維持管理担当者が、導入するひび割れ計測技術(KUMONOS)及び構築した橋梁維持管理システムを用いて、本事業で対象として

いない橋梁/高架構造物についてもプロジェクト終了後に継続的且つ計画的に維持管理を行うことが出来るようになる

3年目

成果2:DOHの橋梁情報管理能力が向上する

成果3:DOH及びタイ国民間企業の橋梁維持管理業務の技術水準が向上する

成果4:構築する橋梁維持管理システムのデータを橋梁維持管理計画策定に活用することにより、DOHの橋梁維持管理計画能力が向上するととも

に、BMMSで見極めた適切な補修時期を根拠とした予算作成を行うことにより、効果的且つ効率的な予算配分を実現する

成果5:橋梁維持管理に携わる職員の技術・能力が向上し、その他関係機関を対象とした研修がタイ国側の主導で実施される

成果1:タイ国内において橋梁維持管理に対する意識が向上する

No                              時期

  作業項目1年目 2年目

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<表 5-8>本事業における成果、活動の概要等のまとめ

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5-3.他 ODA 案件との連携可能性

5-3-1.円借款案件との連携

上述の ODA 案件の対象として、これまで日本がタイ国に対して有償資金協力(円借款)

で建設してきた橋梁や、円借款で開発したバンコク郊外の工業団地へ向かう幹線道路上の

橋梁を含めることも可能である。そうすることにより、既設橋の耐用年数が伸び、橋梁の

安全性が高まる等の開発効果のさらなる向上が期待できる。日本の ODA で建設された橋梁

の多くがバンコクのチャオプラヤ川架橋であり、その詳細については第1章1-4.に記載した。

また、現在実施中、もしくは今後実施予定の円借款による構造物の建設案件について、

建設後の初期段階からひび割れの計測を行い、適切なタイミングで補修等の対処を施すこ

とによる構造物の長寿命化や、初期段階から蓄積した計測結果の活用による構造物の劣化

予測の精度向上が図られることから、予め、構造物の維持管理も含めたパッケージ化案件

を形成し、その一環として、KUMONOS や 3D レーザースキャナを用いた計測、図面作成、

コンサルティング業務を行うことで、日本の ODA 案件の品質の確保・向上に寄与できると

考える。

また、円借款による構造物の改修案件においても、改修の要否や方法、時期等を判断す

る際に、KUMONOS によるひび割れ計測や 3D レーザースキャナによる形状計測も盛り込

むことで、より精緻且つ効率的な計画策定が可能となり得る。

上記のような ODA 案件については、事前・中間・事後評価が行われるものと理解してい

るが、その際に、ひび割れの計測も盛り込むことで、相手国における構造物の維持管理に

貢献できると考える。

5-3-2.SATREPS との連携

技術協力プロジェクトの中で KUMONOS によるひび割れデータの収集を行い、ある程度

データが蓄積された時点でマトリクス表による傾向分析や将来の劣化予測、補修時期判断

のシステム化を目的とした SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力:Science and

Technology Research Partnership for Sustainable Development)を実施することも考えられる。

SATREPS は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が実施しているプログラムで、開発途

上国のニーズを基に地球規模課題を対象とし、将来的な社会実装の構想を有する国際共同

研究を ODA と連携して推進するものである。本プログラムでは、地球規模課題の解決及び

科学技術水準の向上につながる新たな知見や技術を獲得することや、これらを通じたイノ

ベーションの創出を目的としており、その国際共同研究を通じて開発途上国の自立的研究

開発能力の向上と課題解決に資する持続的活動体制の構築を図るものである。SATREPS の

実施主体は大学等研究機関であるため、タイ国側はチュラロンコン大とブラパ大、日本側

は大阪大を想定している。ただし、SATREPS と連携する上で、橋梁維持管理という研究分

野を、募集する研究分野及び研究領域といかに合致させられるかが課題である。SATREPS

で研究課題を募集する分野と研究領域は以下の通りである。

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<表 5-9>研究課題を募集する分野と研究領域一覧

分野 研究領域

環境・エネルギー分野 ①「地球規模の環境課題の解決に資する研究」

②「低炭素社会の実現に向けた高度エネルギーシステムに関する研

究」

生物資源分野 ③「生物資源の持続可能な生産・利用に資する研究」

防災分野 ④「開発途上国のニーズを踏まえた防災に関する研究」

感染症分野 ⑤「開発途上国のニーズを踏まえた感染症対策研究」

(出所:平成 26 年度 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム 研究課題募集の案

内より)

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5-4.その他関連情報

5-4-1.我が国の援助方針における位置づけ

日本政府は「対タイ王国 国別援助方針」(2012 年 12 月 外務省)において、重点分野と

して「持続的な経済の発展と成熟する社会への対応」、「ASEAN 域内共通課題への対応」

「ASEAN 域外諸国への第三国支援」の 3 点を挙げている。このうち、「持続的な経済の発

展と成熟する社会への対応」に関して、以下に示す内容が ODA 案件の実施により達成され

うる。

・KUMONOS の普及に伴う計測技術者の育成

・日タイ双方の研究機関や研究者間のネットワーク強化

・持続的な経済発展のために不可欠な安心・安全な道路ネットワークの維持

また、「ASEAN 域内共通課題への対応」に関しては、隣国の ASEAN 諸国につながる道

路ネットワーク上の橋梁を適切に維持管理することにより、ASEAN・メコン地域における

連結性強化及び同地域内の格差是正といった域内共通課題に対して寄与できると考えられ

る。

(出所:「対タイ王国 国別援助方針」(2012 年 12 月 外務省))

<大目標>戦略的パートナーシップに基づく双方の利益増進及び地域発展への貢献の

推進

日本とタイ国の政治・経済・社会面での緊密な関係を踏まえた戦略的パートナーシッ

プに基づき、双方の利益増進につながる協力を推進するとともに、ASEAN・メコン地

域の均衡のとれた発展に貢献する。

<中目標>

(1)持続的な経済の発展と成熟する社会への対応

日タイ双方の経済・社会面の利益に資するよう、2011 年の大洪水を踏まえた洪水対

策の推進、産業人材の育成や日タイ経済連携の強化、我が国の新成長戦略の実現等を

通じた競争力強化のための基盤整備、日タイ連携による研究能力向上、研究機関や研

究者間のネットワーク強化の支援を行う。また、社会の成熟化に伴い取り組むべき課

題である環境・気候変動問題、高齢化問題、社会的弱者支援等、タイ国だけでは解決

が困難な課題について、日本の知見・経験も活用した支援に取り組む。

(2)ASEAN 域内共通課題への対応

2015 年の ASEAN 共同体設立も視野に入れ、タイ国との協力に基づき、ASEAN・メ

コン地域における連結性強化及び同地域内の格差是正等といった域内共通課題への取

組についての支援を行う。

(3)ASEAN 域外諸国への第三国支援

国際社会の課題に対し援助国でもあるタイ国と協力し、アフリカ地域を中心とした

ASEAN 域外諸国への南南協力を展開する。

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5-4-2.タイ国関連機関との協議状況等

タイ国関連機関との協議状況は表 5-10 に示す通りである。本案件への協力について、関

係機関からは前向きな反応を受け取っており、特にカウンターパート候補である DOH から

は民間提案型普及・実証事業の実施に際して協力する意思がある旨のサポーティングレタ

ー(2014.2.13 付、別添 収集資料 No.1)を受領している。

<表 5-10>タイ国関連機関との協議状況

No. 協議機関 協議状況

1 DOH

DOH の Bridge Construction Bureau と協議を実施。また、プレゼン及

び KUMONOS、3D レーザースキャナのデモ計測を実施。今後の ODA

案件における連携及びカウンターパートとしての協力について前向き

な回答を受領した。また、民間提案型普及・実証事業の実施に対するサ

ポーティングレター(別添資料参照)を受領した。

2 DRR

King Bhumibol 1 橋管理事務所の維持管理担当スタッフを対象に、プレ

ゼン及び KUMONOS、3D レーザースキャナのデモ計測を実施。実際の

現場におけるひび割れ計測結果を提示したところ、その正確さに大きな

関心を示していた。

3 EXAT

維持管理担当スタッフ 12 名に対してプレゼンを実施。現在彼らが行っ

ている従来型の点検方法との違いを説明したところ、KUMONOS の有

効性を評価していた。

4 BECL

Maintenance Department のゼネラルマネジャーをはじめ、コンサルタ

ント等の関係者等 17 名に対してプレゼンを実施し、将来のビジネス展

開の可能性を探る目的で協議を進めた。KUMONOS に関して興味を持

っており、今は時期尚早かもしれないが、将来的に展開できる可能性は

ある。

5 MRTA

維持管理部門のスタッフに対してプレゼン及び KUMONOS、3D レーザ

ースキャナのデモ計測を実施。実際の MRT のトンネルの計測結果には

高い関心を示したものの、トンネル自体がまだ新しい構造物であるた

め、現時点での導入可能性については低いが、将来的な導入については

高い関心を示したため、ビジネスベースでの展開可能性は高いと言え

る。

6 BMCL

維持管理部門のスタッフに対してプレゼン及び KUMONOS、3D レーザ

ースキャナのデモ計測を実施。深夜のデモ計測の実施に際しては非常に

協力的であった。

7 BTSC

維持管理部門の Director をはじめ維持管理担当者に対してプレゼンを

実施。KUMONOS 及び 3D レーザースキャナの有効性を高く評価した

ものの、スカイトレイン自体がまだ新しい構造物であるため、現時点で

の導入可能性については低いが、将来的な導入については高い関心を示

したため、ビジネスベースでの展開可能性は高いと言える。

Page 52: 第 3 章 製品・技術に関する紹介や試用、または各種試験を含 …...MRTA・DOH)それぞれの管理構造物に対してKUMONOS と3D レーザースキャナを用い

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8 教育省

教育省副大臣に対してプレゼンを実施。教育システムについての調査と

将来的な協力の要請をした。副大臣からは、将来的な協力(テクニカル

カレッジのカリキュラムにKUMONOSの使用方法に関する内容を加え

るといった現地技術者の育成に向けた協力)にも前向きな回答を得た。

9 チュラロンコン大

副学長らに対してプレゼンを実施。大阪大学の矢吹教授とも親交があ

り、KUMONOS で計測したデータを蓄積してデータベースを作成し、

当該データを分析して劣化予測や補修時期の判断を行うための研究を

大阪大学と共同で行う方向で今後協議を進める予定。

10 ブラパ大 計 33 名の関係者に対してプレゼンを実施。チュラロンコン大学同様、

将来の ODA 案件にて連携を考えている。

11 AEC

Deputy Managing Director はじめ関係者に対してプレゼンを実施。

KUMONOS の有効性を高く評価しており、将来の ODA 案件実施の際

のパートナーとなりうる組織である。

12 タイ西松建設 タイにおける維持管理分野に高い興味を持っているため、将来の ODA

案件実施の際のパートナーとなりうる組織である。