第 1 章 ルベーグ空間 - Pikara第1 章 ルベーグ空間...
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第 1 章 ルベーグ空間
本章においては,ルベーグ空間 Lp の定義を与え, そのルベーグ空間 Lp の基本性質について考察する.ただし, 特に断りない限り,
1 ≤ p ≤ ∞であるとする. ルベーグ空間 Lpはバナッパ空間であることを証明し, ルベーグ空間 Lp の関数列の収束について考察する.
1.1 ルベーグ空間の定義
本節においては, ルベーグ空間 Lpの定義を与える. ただし, 1 ≤
p ≤ ∞であるとする. 本節においては, 次の記号を用いる.
d ≥ 1であるとし,d次元ユークリッド空間をRdと表す. (Rd, M,
µ)はルベーグ測度空間であるとする.
いま, 集合 E はRd の可測集合であるとするとき, (E, ME , µ)
はルベーグ測度空間である. ここで, ME はEのルベーグ可測部分集合体の作る集合族を表す. µはRdのルベーグ測度をEに制限したルベーグ測度を表す.
1 ≤ p < ∞であるとき, ルベーグ空間 Lp = Lp(E)はE上定義された p乗可積な複素数値関数の全体のつくる関数空間であると定義する.
p = ∞のとき, ルベーグ空間 L∞ = L∞(E)はE上定義された本質的に有界な複素数値関数全体のつくる関数空間であると定義する.
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1.1.1 ルベーグ空間Lp, (1 ≤ p < ∞)
本項においては,1 ≤ p < ∞であるとき, ルベーグ空間 Lpの定義を与える.
1 ≤ p < ∞であるとき, E 上定義された複素数値可測関数 f(x)
が p乗可積分であるとは, 条件∫E|f(x)|pdx < ∞
が成り立つことであると定義する.
このとき, E上定義された p乗可積分な関数全体のつくる関数空間を Lp = Lp(E)と表す.
Lpの二つの元 f と gが同値であるということは, 条件
f(x) = g(x), (a.e.x ∈ E)
が成り立つことであると定義するLp(E)の元を上の同値関係によって類別して得られる商空間を
Lp = Lp(E)と表す. すなわち,
N = {f ∈ Lp(E); f(x) = 0, (a.e.x ∈ E)}
と定義するとき, N は Lp(E)の部分空間である. このとき, 上の商空間 Lp(E)は, 関係式
Lp(E) = Lp(E)/N
によって定義する. ここで, Lp(E)の二つの元 f と gが等しいということを f = gと表す.
ここで,1 ≤ p < ∞であるとき, 関数 f(x) ∈ Lpに対し,pノルム ∥ · ∥ = ∥ · ∥pを関係式
∥f∥p ={ ∫
E|f(x)|pdx
}1/p
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によって定義する. この pノルムをLpノルムということがある.
ここで, 二つの元 f, g ∈ Lp(E)が, 条件 f − g ∈ N を満たすとき,
等式 ∫E|f(x)|pdx =
∫E|g(x)|pdx
が成り立つから, ノルム ∥f∥pの定義は意味をもつ.
厳密にいうと, Lp(E)の元 f の属する同値類を [f ] ∈ Lp(E) と表すとき, [f ]のノルムを, 関係式
∥[f ]∥p = ∥f∥p
によって定義する. ここで, Lp(E)の二つの元 f と gが同値であるとすると, 等式
[f ] = [g]
が成り立つ. したがって, 等式
∥[f ]∥p = ∥f∥p = ∥g∥p = ∥[g]∥p
が成り立つから, Lp(E)のノルムを考えるとき, ノルム ∥[f ]∥pの代わりに, 略式表現として ∥f∥pと書くことがある.
通常は, 上のような詳しい議論を繰り返すことなく, ノルム ∥f∥pの表現を用いることが多い.
略式議論においては, Lpの元 f(x)のことを単にLp関数であるといい, ほとんどいたるところ等しい二つのLp関数を同一視して, それを区別することなく, 一つの Lp関数であるということがある.
したがって, この関数空間 Lpはノルム ∥f∥pに関してノルム空間になる.このことを証明するために, ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式を証明する.
すなわち, 次の定理 1.1.1と定理 1.1.2が成り立つ.
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定理 1.1.1(ヘルダーの不等式) 二つの実数 p, qは条件
1 < p, q < ∞,1
p+
1
q= 1
を満たすとする. このとき, 任意の f ∈ Lp, g ∈ Lq に対し, 不等式∣∣ ∫ f(x)g(x)dx∣∣≤{ ∫
|f(x)|pdx}1/p{ ∫
|g(x)|qdx}1/q
が成り立つ.
特に, p = 2であるとき, この不等式はシュワルツの不等式である.
これを系としておく.
系 1.1.1(シュワルツの不等式) f, g ∈ L2に対して, 不等式
|∫
f(x)g(x)dx| ≤{ ∫
|f(x)|2dx}1/2{ ∫
|g(x)|2dx}1/2
が成り立つ. ここで, g(x)は g(x)の複素共役を表す.
系 1.1.2 Rdの可測集合 Eが条件 µ(E) < ∞を満たすとする.
ただし, d ≥ 1であるとする. このとき, 1 ≤ p < q < ∞であるならば, 包含関係
Lq(E) ⊂ Lp(E)
が成り立つ.
証明 シュワルツの不等式とヘルダーの不等式を用いて証明される. //
定理 1.1.2(ミンコフスキーの不等式) 実数 pは条件 1 ≤ p < ∞を満たすとする. このとき, 任意の f, g ∈ Lpに対して, 不等式{ ∫
|f(x) + g(x)|pdx}1/p
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≤{ ∫
|f(x)|pdx}1/p
+{ ∫
|g(x)|pdx}1/p
が成り立つ.
定理 1.1.3 実数pは条件1 ≤ p < ∞を満たすとし, Lp と∥·∥pは上と同じであるとすると, f, g ∈ Lpとα ∈ Cに対し,次の (1)∼(3)
が成り立つ:
(1) ∥f∥p ≥ 0. 特に,∥f∥p = 0となるのは,ほとんど至るところ f(x) = 0であるときに限る.
(2) ∥f + g∥p ≤ ∥f∥p + ∥g∥p.
(3) ∥αf∥p = |α|∥f∥p.
証明 (1)と (3)は定義により明らかである.
(2)は定理 1.1.2において証明されている. //
したがって,1 ≤ p < ∞であるとき, Lpはノルム ∥ · ∥p に関してノルム空間になっている.
1.1.2 ルベーグ空間L∞
本項においては, p = ∞のとき, ルベーグ空間 L∞ の定義を与える.
まず, 本質的に有界な関数の定義を与える.
Rdの部分集合Eは可測集合であるとし, µ(E) > 0であると仮定する.
E上の可測関数 f(x)が本質的に有界であるとは, ある正の数αに対して, 条件
|f(x)| ≤ α, (a.e.x ∈ E)
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が成り立つことであると定義する.
このような正の数 αは無数に存在する. このような正の数 αの下限を |f(x)|の本質的上限であるといい,
ess.sup |f(x)| = ess.sup {|f(x)|; x ∈ E}
と表す. すなわち,
ess.sup |f(x)| = inf{α; |f(x)| ≤ α, (a.e.x ∈ E)}
が成り立つ. このとき, 次の命題が成り立つ.
命題 1.1.1 E はRdの可測部分集合であるとし, µ(E) > 0であると仮定する. f(x)はE上の可測関数であるとする. このとき実数 aに対し,
ess.sup |f(x)| = a
であることと, 次の (1), (2)が成り立つことは同値である:
(1) µ(E(|f | > a)
)= 0.
(2) 任意の b < aに対して, µ(E(|f | > b)
)> 0.
f(x)が本質的に有界でないとき,
ess.sup |f(x)| = ∞
であるという. このとき, 次の命題が成り立つ.
命題 1.1.2 Eと f(x)は命題 1.1.1と同じ条件を満たすとする.
このとき,
ess.sup |f(x)| = ∞
であることと, 任意の実数 bに対して,
µ(E(|f | > b)
)> 0
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が成り立つことは同値である.
E上の本質的に有界な関数全体のつくる関数空間をL∞ = L∞(E)
と表す.
このとき, L∞の二つの元 f と gが同値であるということは, 条件
f(x) = g(x), (a.e.x ∈ E)
が成り立つことであると定義する.
L∞(E)の元を上の同値関係によって類別して得られる商空間をL∞ = L∞(E)と表す. すなわち,
N = {f ∈ L∞(E); f(x) = 0, (a.e.x ∈ E)}
と定義するとき, N はL∞(E)の部分空間である. このとき, 上の商空間 L∞(E)は, 関係式
L∞(E) = L∞(E)/N
によって定義する. ここで, L∞(E)の二つの元 f と gが等しいということを f = gと表す.
L∞のノルム ∥f∥∞を関係式
∥f∥∞ = ess.sup |f(x)|
によって定義する.
ここで, 二つの元 f, g ∈ L∞(E)が, 条件 f − g ∈ N を満たすとき, 等式
ess.sup |f(x)| = ess.sup |g(x)|
が成り立つから, ノルム ∥f∥∞の定義は意味をもつ.
定理 1.1.4 f, g ∈ L∞と α ∈ C に対し, 次の (1)∼(3)が成り立つ:
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(1) ∥f∥∞ ≥ 0. 特に, ∥f∥∞ = 0となるのは, ほとんどいたるところ f(x) = 0であるときに限る.
(2) ∥f + g∥∞ ≤ ∥f∥∞ + ∥g∥∞.
(3) ∥αf∥∞ = |α|∥f∥∞.
したがって, L∞はノルム空間になる.
1.1.3 バナッハ空間Lp, (1 ≤ p ≤ ∞)
本項においては, ルベーグ空間 Lp, (1 ≤ p ≤ ∞)がバナッハ空間であることを証明する.
1 ≤ p ≤ ∞であるとするとき, f, g ∈ Lp(E)に対して,
ρ(f, g) = ∥g − f∥p
とおいて, これを f と gの距離であるという.
定理 1.1.5 1 ≤ p ≤ ∞に対して, Lp(E)は距離空間である. すなわち, f, g, h ∈ Lp(E)に対し, 距離関数 ρ(f, g) は次の (1)∼(3)
を満たす:
(1) ρ(f, g) ≥ 0. 特に, ρ(f, g) = 0となるのは f = g, (a.e.x ∈E) のときに限って成り立つ.
(2) ρ(f, g) = ρ(g, f).
(3) ρ(f, g) ≤ ρ(f, h) + ρ(h, g).
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Lp関数列 {fn}が関数 f ∈ Lpに p次平均収束するということは,
条件limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つことをいう.
特に, 2次平均収束のことを略式に表現して平均収束といい,
l.i.m. fn(x) = f(x)
と表す. ここで, 記号 l.i.m.は ‘limit in mean’と読む.
さらに, Lp(E)はこの距離に関して完備である. すなわち, Lp(E)
はノルム ∥ · ∥pに関して完備である. この意味で Lp(E)はバナッハ空間である. すなわち,次の定理が成り立つことがわかる.
定理 1.1.6 Lpはバナッハ空間である. すなわち, Lpの関数列{fn(x)}がLpノルムに関してコーシー列であるとき,すなわち,条件
limm, n→∞
∥fm − fn∥p = 0
が満たされるとき, f(x) ∈ Lpが存在して,
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つ.
特に, バナッハ空間 L∞ の関数列の収束は, E の測度 0の部分集合を除く部分集合上における一様収束と同じことである.
1.1.4 ヒルベルト空間L2
本項においては, p = 2のとき, ヒルベルト空間 L2 = L2(E)について考察する.
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L2の内積 ( , )は, f, g ∈ L2に対し, 関係式
(f, g) =
∫Ef(x)g(x)dx
によって定義する.
このとき, L2(E)は内積空間である. すなわち, 次の定理が成り立つ.
定理 1.1.7 f, g, f1, f2 ∈ L2(E), α ∈ C に対し, L2 の内積( , )は次の (1)∼ (4)を満たす:
(1) (f, f) ≥ 0. 特に, (f, f) = 0となるのは, f = 0, (a.e.x ∈ E)
のときに限って成り立つ.
(2) (f, g) = (g, f).
(3) (f1 + f2, g) = (f1, g) + (f2, g).
(4) (αf, g) = α(f, g).
系 1.1.1 f, g, g1, g2 ∈ L2(E), α ∈ C であるとする. このとき, 次の (3)′, (4)′が成り立つ:
(3)′ (f, g1 + g2) = (f, g1) + (f, g2).
(4)′ (f, αg) = α(f, g). ここで, αは αの複素共役を表す.
このとき, L2ノルム ∥ · ∥2は, f ∈ L2に対し, 関係式
∥f∥2 =√
(f, f)
を満たす.
定理 1.1.8 f, g ∈ L2(E)ならば, L2ノルム ∥ · ∥ = ∥ · ∥2に対し, 次の関係式 (1)∼(6)が成り立つ:
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(1) ∥f∥ ≥ 0. 特に, ∥f∥ = 0となるのは, ほとんどいたるところf(x) = 0であるときに限る.
(2) ∥f + g∥ ≤ ∥f∥+ ∥g∥.
(3) ∥α∥ = |α| ∥f∥.
(4) |(f, g)| ≤ ∥f∥ ∥g∥, (シュワルツの不等式).
(5) ∥f + g∥2 + ∥f − g∥2 = 2(∥f∥2 + ∥g∥2), (三角形の中線定理).
(6) 4(f, g) = ∥f + g∥2 − ∥f − g∥2 + i(∥f + ig∥2 − ∥f − ig∥2).
1.1.5 双対空間
本項においては, ルベーグ空間 Lpの双対空間の定義を与え, その基本性質について考察する.
いま, 1 ≤ p ≤ ∞に対し, Lp上の連続線形汎関数全体のつくるバナッハ空間を Lpの双対空間であるといって, (Lp)′と表す.
このとき, (Lp)′ と Lp の双対対応を定義する双対内積 < f, g >
は, f ∈ (Lp)′と g ∈ Lpに対し, 次の関係式
< f, g >=
∫f(x)g(x)dx
によって定義する.
双対内積< f, g >は直積空間 (Lp)′ × Lp上定義された連続双線形形式である.
このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 1.1.9 実数 p, qは 1 < p, q < ∞であるとし, 条件
1
p+
1
q= 1
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を満たすとする. E は Rd のルベーグ可測集合であるとするとき,
Lp = Lp(E)であるとする. このとき, 次の同型が成りたつ.
Lp ∼= (Lq)′ ∼= (Lp)′′.
特に, 同型L∞ ∼= (L1)′
が成り立つ. ここで, 同型はバナッハ空間としての同型を意味する.
さらに, (L∞)′は L1とは同型にはならない. 一般に, 包含関係
L1 ⊂ (L∞)′
が成り立つ.
定理 1.1.10 d ≥ 1, 1 ≤ p < ∞であるとし, Lp = Lp(Rd)であるとする. D = D(Rd)はRd 上のコンパクト台の C∞関数全体のつくるTVSであるとする. このとき, Dは Lpにおいて稠密である.
定理 1.1.11 d ≥ 1, 1 < p ≤ ∞であるとし, Lp = Lp(Rd)であるとする. Lpの関数列を {fn}であるとし, f ∈ Lpであるとする.
このとき, 次の (1), (2), (3)は同値である:
(1) Lpのノルムに関して fn → f が成り立つ. すなわち,
∥fn − f∥p → 0, (n → ∞)
が成り立つ.
(2) Lpの弱位相に関して fn → f が成り立つ. すなわち, Lq の任意の元 gに対し,
< fn, g >→< f, g >, (n → ∞)
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が成り立つ. ここで, 1 ≤ q < ∞ であるとし, 条件
1
p+
1
q= 1
を満たすとする.
(3) D′の位相をLpに制限した位相に関して fn → f が成り立つ.
すなわち, Dの任意の元 φに対し,
< fn, φ >→< f, φ >, (n → ∞)
が成り立つ. ここで, D′とDの双対内積は, f ∈ D′, φ ∈ Dに対し, < f, φ >と表す.
注意 1.1.1 Lpの弱位相は汎弱位相ということがある. ここでは, Lp関数の弱位相に関する微分と Lp関数の超関数としての微分との関係が整合的であるように Lpの弱位相の概念の定義を与えている.
注意 1.1.2 1 ≤ p, q ≤ ∞に対し, 条件
1
p+
1
q= 1
が成り立っているとき, 特に,
1
0= ∞,
1
∞= 0
であると規約する. 以下の説明においても同様である.
定理 1.1.12 d ≥ 1, 1 < p ≤ ∞であるとし, Lp = Lp(Rd)であるとする. このとき, Lpの関数列 {fn}に対し, 次の (1)と (2)は同値である:
(1) 関数列 {fn}は Lpのノルムに関して収束する.
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(2) 関数 f ∈ Lpが存在して, L1locの位相に関して fn → f, (n →
∞)が成り立つ.
定理 1.1.12において, 関数空間 L1locについては, 第 2章を参照し
てもらいたい.
1.1.6 様々なルベーグ空間の例
本項においては,次のような特別な形のLp空間について考察する.
一つは, 1次元ユークリッド空間R = (−∞, ∞)において p乗可積分関数全体の作る関数空間 Lp = Lp(−∞, ∞)である.
1 ≤ p < ∞に対し, Lpノルムは,関係式
∥f∥p =( ∫ ∞
−∞|f(x)|pdx
)1/p, (f ∈ Lp)
によって与えられる.
また, L∞ノルムは, 関係式
∥f∥∞ = ess.sup−∞<x<∞
|f(x)|, (f ∈ L∞)
によって与えられる.
さらに, Rの領域は開区間 (a, b)であるから, 開区間 (a, b)上のルベーグ空間 Lp(a, b)が考えられる.
もう一つは, d次元ユークリッド空間Rdにおいて定義された複素数値の p乗可積分関数全体の作る関数空間 Lp = Lp(Rd)である.
このとき,1 ≤ p < ∞に対し, Lpノルムは,関係式
∥f∥p =( ∫
|f(x)|pdx)1/p
, (f ∈ Lp)
によって与えられる.ここで, 積分はRd上のルベーグ積分を表す.
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また, L∞ノルムは, 関係式
∥f∥∞ = ess.supx
|f(x)|
によって与えられる.
同様に, Rdの領域D上のルベーグ空間 Lp(D) が考えられる.
1.1.7 ルベーグ空間の基本性質
本項においては, ルベーグ空間 Lpの諸性質について考察する.
定理 1.1.13 µ(E) < ∞であるとき, 任意の 1 ≤ p < ∞ に対して, 包含関係
L∞(E) ⊂ Lp(E)
が成り立つ.
さらに, L∞(E)の関数列 {fn}と f ∈ L∞に対し,
limn→∞
∥fn − f∥∞ = 0
が成り立つならば, 任意の p ≥ 1に対し,
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つ.
このとき, 等式∥f∥∞ = lim
p→∞∥f∥p
が成り立つ.
µ(E) = ∞であるとき, 定理 1.1.13の結果は成り立たない.
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µ(E) < ∞であるとき, ess.sup |f(x)| = ∞となる関数 f(x)に対しても, 等式
limp→∞
{ ∫E|f(x)|p
}1/p= ess.sup |f(x)| = ∞
が成り立つ.
定理 1.1.14 任意の 1 ≤ p < ∞に対して, 包含関係
L1∩
L∞ ⊂ Lp
が成り立つ.
また, 関数列 fn ∈ L1∩
L∞, (n ≥ 1)に対し, 条件
supn≥1
∥fn∥∞ < ∞
が成り立っているとき, f ∈ L1に対し, 等式
limn→∞
∥fn − f∥1 = 0
が成り立つならば, 任意の 1 < p < ∞に対し, f ∈ Lp∩
L∞であって, 等式
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つ.
定理 1.1.15 d ≥ 1であるとする. さらに, 1 ≤ p ≤ ∞であるとする. X はRdの可測部分集合であるとする. いま, X の開部分集合U に関数空間Lp(U)が対応しているとする. このとき, X上の前層 {Lp(U)}は局所化の原理の条件 (S1)を満たす:
(S1) X の開集合 U の開被覆 U =∪α
Uαが与えられているとす
る. 各 f ∈ Lp(U)が, 任意の αに対し, 条件 f |Uα = 0を満たすならば, f = 0が成り立つ.
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しかし, 前層 {Lp(U)}は局所化の原理の条件 (S2)を満たさない.
それ故に, 前層 {Lp(U)}はそれ自身層にはならない.
このとき, 前層 {Lp(U)}の層化によって作られる層は局所 p乗可積分な関数のつくる層 {Lp
loc(U)}になることがわかっている.
1.2 Lp関数列の収束概念について
本節においては, Lp関数列に対する様々な収束概念の関係について考察する.
1.2.1 概収束
本項においては, 可測関数列の概収束の概念について考察する.
いま, Rdの可測集合 Eにおいて, 可測関数列 {fn}が可測関数 f
に概収束するということは, E上ほとんどいたるところ極限移行
limn→∞
fn(x) = f(x)
が成り立つことをいう.
概収束極限を
limn→∞
fn(x) = f(x), (a.e.x ∈ E)
と表すことがある.
可測関数列 {fn}が可測関数 f に概収束することを, 関数列 {fn}は関数 f にE上ほとんどいたるところ収束するということがある.
このとき, 次の定理が成り立つ.
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定理 1.2.1 D は Rd の領域であるとし, Lp = Lp(D)であるとする. ただし, d ≥ 1, 1 ≤ p ≤ ∞ であるとする. このとき,
fn ∈ Lp, (n ≥ 1), f ∈ Lpに対し,
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つならば, {fn}のある部分列 {fn(k); k ≥ 1} が存在して,
limk→∞
fn(k)(x) = f(x), (a.e.x ∈ D)
が成り立つ.
注意 1.2.1 Lpの関数列 {fn}が関数 f ∈ Lpに Lp 収束するとき, 極限関数 f(x)はある部分列 {fn(k)}の概収束極限として定められる. このことは, Lpの関数列 {fn}の Lp収束の意味における極限関数 f は Lpの元として定まっているが, f(x)の値はほとんどいたるところ定まっているということである.
f(x)の値が定まっているということは, f(x)の値が複素数値として定まっていることを意味する.
一般に, E 上定義された関数列 {fn(x)}の極限関数 f(x)は E 上各点収束の意味における極限関数として定められ, E上各点において f(x) の値が定まっている.
また, E上定義された関数列 {fn(x)}の概収束の意味における極限関数 f(x)の値はE上ほとんどいたるところ定まっている.
このようにして, 関数列 {fn(x)}の極限関数 f(x)が具体的に定められる.
一般に, Lp 関数列 {fn}の Lp 収束の意味における極限関数 f はLpの元として定められる. この f はある部分列 {fn(p)}の概収束極限になっているから, E 上ほとんどいたるところ f(x)の値は定まっている.
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定理 1.2.2 DはRdの領域であるとし, Lp = Lp(D)であるとする. ただし, d ≥ 1, ∞ > p ≥ 1とする. このとき, fn ∈ Lp, (n ≥1), f ∈ Lpに対し,
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立ち, {fn}のある部分列 {fn(k); k ≥ 1}が存在して,
limk→∞
fn(k)(x) = f0(x), (a.e.x ∈ D)
が成り立つならば,
limn→∞
∥fn − f0∥ = 0
が成り立ち, Lpの元として等式
f = f0
が成り立つ.
1.2.2 漸近収束
本項については, 可測関数列の漸近収束の概念について説明する.
Rdの可測集合をEとする. このとき, E上の可測関数列 {fn(x)}が可測関数 f(x)に漸近収束するということは, 任意の ε > 0に対し,
極限移行
limn→∞
µ({x ∈ E; |fn(x)− f(x)| > ε}
)= 0
が成り立つことをいう.
E 上の可測関数列 {fn(x)}が可測関数 f(x)に漸近収束するということを測度収束するということがある.
漸近収束の概念は条件 µ(E) < ∞が成り立っているときに有用である.
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可測集合 E において漸近収束の概念は次の距離空間 F = F (E)
における準ノルム ∥ · ∥S に関する極限移行として特徴付けることができる.
Rd の可測集合 E に対し, 条件 µ(E) < ∞が成り立っているとする.
E 上ほとんどいたるところ有限な値をとる可測関数 f(x)の全体のつくる集合を F = F (E)とおく.
Sの二つの元 f と gが等しいということは, 条件
f(x) = g(x), (a.e.x ∈ E)
が成り立つことをいう. このとき, f = gと表す.
ここでも L∞と L∞(E)の間の関係と類似の関係を用いて説明することもできるが, 上のように両者の区別をせずに F = F (E)の場合のような表現を用いることがある.
このとき, 次の系が成り立つ.
系 1.2.1 Rdの可測集合Eに対し, 条件 µ(E) < ∞が成り立っているとする. さらに, 実数 pは条件∞ > p ≥ 1を満たすとする.
このとき, 包含関係Lp(E) ⊂ S(E)
が成り立つ.
このとき, f ∈ F に対し,
∥f∥ = ∥f∥F =
∫E
|f(x)|1 + |f(x)|
dx
おくと, これは F において次の条件 (i)∼(iii)を満たす:
(i) ∥f∥ ≥ 0. ∥f∥ = 0となるのは, f = 0のときかつそのときに限る.
(ii) ∥f + g∥ ≤ ∥f∥+ ∥g∥.
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(iii) 次の (a), (b)が成り立つ:
(a) ∥ − f∥ = ∥f∥.
(b) αn → α, ∥fn − f∥ → 0ならば, ∥αnfn − αf∥ → 0が成り立つ.
このとき, ∥ · ∥を F における準ノルムであるという. F において,
ρ(f, g) = ∥g − f∥
と定義すると, ρは F において定義された距離であることがわかる.
これによって空間 F は距離空間になる.
定理 1.2.3 µ(E) < ∞であると仮定する. このとき, F の可測関数列 {fn(x)}が可測関数 f(x)に漸近収束することと
limn→∞
∥fn − f∥F = 0
が成り立つことは同値である.
定理 1.2.4 µ(E) < ∞であると仮定する. このとき可測関数列{fn(x)}と可測関数 f(x)に対し,
limn→∞
fn(x) = f(x), (a.e.x ∈ E)
が成り立つならば, 関数列 {fn(x)}が f(x)に漸近収束する.
F の関数列 {fn(x)}が F の関数 f(x)に p 次平均収束するということは, 条件
∥fn − f∥p ={ ∫
E|fn(x)− f(x)|pdx
}1/p→ 0
が成り立つことをいう.
21
定理 1.2.5 可測集合 E において, F の関数列 {fn(x)}が F の関数 f(x)に p次平均収束するならば, 関数列 {fn(x)}が f(x)に漸近収束する.
特に, Lpの関数列 {fn(x)}がLpの関数 f(x)に p次平均収束することはLp収束の意味で関数列 {fn(x)}が関数 f(x)に収束することと同じである.
したがって, 次の系が成り立つ.
系 1.2.2 可測集合 E において, Lp 関数列 {fn(x)}が Lp 関数f(x)にLp収束するならば, 関数列 {fn(x)}が f(x)に漸近収束する.
定理 1.2.6 可測集合Eにおいて, 可測関数列 {fn(x)}が可測関数 f(x)に漸近収束するならば, ある部分列 {fn(k)(x)}が存在してf(x)に概収束する.
系 1.2.3 µ(E) < ∞であると仮定する. Eにおいて Lp関数列{fn(x)}がLp関数 f(x)にLp収束するならば, Eにおいてある部分列 {fn(k)(x)}が存在して f(x)に概収束する.
系 1.2.4 µ(E) < ∞とする. F = F (E)の一様有界な関数列{fn(x)}がある F の関数 f(x)に漸近収束するならば, 任意の p ≥ 1
に対して,
limn→∞
∥fn − f∥p = 0
が成り立つ.
定理 1.2.7 Lp(Rd)において関数列 {fn(x)}が f(x)に収束するならば, Rdの任意のコンパクト集合Eに対し, Lp(E)において関数列 {fn(x)}が f(x)に収束する. したがって, Rdの任意のコンパクト集合Eにおいて, 関数列 {fn(x)}が f(x)に漸近収束する. したがって, Rdの任意のコンパクト集合Eにおいて, ある部分列 {fn(k)(x)}が存在して f(x)に概収束する.
22
定理 1.2.8 µ(E) < ∞であると仮定する. このとき, ベクトル空間 F は準ノルム ∥ · ∥F に関して完備である.
これはベクトル空間F が完備距離空間であることを意味している.
一般に, 準ノルムの定義されたベクトル空間が距離空間として完備であるとき, これはフレッシェ空間であるという.
1.3 ルベーグ空間Lpと部分空間
本節においては, d次元空間Rd上のルベーグ空間Lp の部分空間について考察する. ただし, d ≥ 1とする.
考える関数はRd上の実数値関数であるとする.
(1) 関数空間C0. Rd上定義された実数値連続関数でコンパク
ト台をもつ関数全体のつくる関数空間を C0 = C0(Rd)と表す. こ
こで, 実数値関数 y = f(x)の台というのは, 集合 {x; f(x) ̸= 0}の閉包であると定義する. 関数 f(x)の台を supp(f)と表す.
f ∈ C0に対し,
∥f∥∞ = supx∈Rd
|f(x)|
と定義する. このとき, C0はノルム ∥ · ∥ = ∥ · ∥∞に関してノルム空間になる.
C0の関数列 {fn}がノルム ∥ · ∥∞に関して収束するということは,
関数列 {fn}がRd上一様収束することと同値である.
しかし, C0は完備ではない.
このことは, 次の例によって示される.
23
例 1.3.1 関数 hn(x) ∈ C0, (n ≥ 1)が, 条件hn(x), (|x| ≤ n),
0 ≤ hn(x) ≤ 1, (n < |x| < n+ 1).
hn(x) = 0, (|x| ≥ n+ 1)
によって定義されているとする. このとき, 関数
f(x) = (1 + |x|2)−1, (x ∈ Rd)
に対し,
fn(x) = f(x)hn(x), (x ∈ Rd; n ≥ 1)
と定義すると, 関数列 {fn(x)}は C0のコーシー列であって, Rd上で関数 f(x)に一様収束する. しかし, f /∈ C0である. したがって,
C0は完備ではない.
証明 関数列 {fn}は, 不等式
m > nならば, ∥fm − fn∥∞ ≤ (1 + n2)−1
を満たすから, C0のコーシー列である. したがって, 容易に結論が導かれる. //
(2) 関数空間 C∞. Rd 上定義された実数値連続関数 f(x)で,
条件lim
|x|→∞|f(x)| = 0
を満たす関数全体のつくる関数空間を C∞ = C∞(Rd)と表す. このとき, f(x) ∈ C∞であることと, 任意の正の数 ε > 0 に対し,
集合 {x; |f(x)| ≥ ε}がコンパクト集合であることは同値である.
いま, f ∈ C∞に対し,
∥f∥∞ = maxx∈Rd
|f(x)|
24
と定義する. このとき, C∞はノルム ∥ · ∥ = ∥ · ∥∞に関してバナッハ空間になる.
このとき, 次の定理 1.3.1が成り立つ.
定理 1.3.1 C0は, C∞の部分空間であって, ノルム ∥ · ∥∞に関して稠密である.
定理 1.3.2 実数 p ≥ 1であるとする. このとき, C0は, Lpの部分空間であって, ノルム ∥ · ∥pに関して稠密である.
定理 1.3.3 実数 p ≥ 1であるとする. このとき, 関数 f ∈ Lpが,
任意の φ ∈ C0に対し, 条件∫f(x)φ(x)dx = 0
を満たすならば, f(x) = 0, (a.e. x ∈ Rd) が成り立つ.
(3) 合成積の定義 ここで, L1 = L1(Rd) において合成積の演算を定義する.
f, g ∈ L1に対して, 関係式
h(x) =
∫f(x− y)g(y)dy
によって関数 h(x)を定義すると, h(x) ∈ L1が成り立つ. この関数h(x)を f(x)と g(x)の合成積といって,
h = f ∗ g
と表す. この合成積のことをたたみ込みということがある.
このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 1.3.4 f, g ∈ L1であるとすると,次の (1), (2)が成り立つ:
(1) f ∗ g = g ∗ f .
25
(2) ∥f ∗ g∥1 ≤ ∥f∥1 · ∥g∥1.
関数の合成積は, その定義式の積分が意味を持つ限り L1 以外の関数に対しても定義できる.
定理 1.3.5 f ∈ L2, g ∈ L1であるとすると, f ∗ g ∈ L2で, 不等式
∥f ∗ g∥2 ≤ ∥f∥2 · ∥g∥1
が成り立つ.
定理 1.3.6 f, g ∈ C0ならば, f ∗ g ∈ C0が成り立つ.
(4) 関数空間 C[a, b]. 閉区間 [a, b]上の連続関数全体のつくる関数空間を C[a, b]と表す. このとき, 任意の実数 p ≥ 1に対し,
C[a, b]は Lp(a, b)の部分空間である.
さらに, C0[a, b]は, f ∈ C[a, b]であって, 条件
f(a) = f(b) = 0
を満たす関数全体のつくる関数空間であるとする.
このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 1.3.7 p ≥ 1は実数であるとする. このとき, C0[a, b]は,
Lp(a, b)の部分空間であって, ノルム ∥ · ∥pに関して稠密である.
(5) ワイエルストラスの多項式近似定理 ここで, 次の定理においてワイエルストラスの多項式近似定理を証明する.
定理 1.3.8 xの多項式全体のつくる関数空間を K[x]と表す.
このとき, K[x]はC[a, b]の中でノルム ∥ · ∥∞に関して稠密である.
すなわち, 閉区間 [a, b]上の任意の連続関数は多項式で一様近似される.
26
証明 t > 0, −∞ < x < ∞において定義された関数
K(t, x) =1√πt
e−x2/t =1√πt
∞∑m=0
(−1)m
m!
x2m
tm,
Kn(t, x) =1√πt
n−1∑m=0
(−1)m
m!
x2m
tm, (n ≥ 1)
を考える.
このとき, 任意の正の数 δ > 0に対し, 等式
limt→0
∫|x|≥δ
K(t, x)dx = limt→0
2√π
∫δ/
√te−y2dy = 0
が成り立つ.
また, 閉区間 [a, b]上の連続関数 f(x)を (−∞, ∞)上の連続関数に拡張して, 条件
f(x) = 0, (x < a− 1,または x > b+ 1)
を満たすようにした関数を同じ記号 f(x)で表す. このとき, 拡張された関数 f(x)は (−∞, ∞)において有界な一様連続関数になる.
ここで, 関数 ft(x)と ft, n(x), (n ≥ 1)を, 関係式
ft(x) =
∫ ∞
−∞K(t, x− y)f(y)dy,
ft, n(x) =
∫ ∞
−∞Kn(t, x− y)f(y)dy, (n ≥ 1)
によって定義すると, ft, n(x)は xの多項式である.
このとき, 任意の正の数 ε > 0に対して, 次の (1), (2)が成り立つ:
(1) ある t > 0に対し,
|f(x)− ft(x)| < ε, (x ∈ [a, b])
が成り立つ.
27
(2) 任意の t > 0に対し, ある n ≥ 1が存在して, 不等式
|ft(x)− ft, n(x)| < ε, (x ∈ [a, b])
が成り立つ.
上の (1), (2)より定理が証明される. //
系 1.3.1 xの多項式全体のつくる関数空間K[x]はL2(a, b) の中でノルム ∥ · ∥2に関して稠密である.
証明 定理 1.3.7と定理 1.3.8によって明らかである. //
(6) 関数空間 SとD. 自然数の多重指数α = (α1, α2, · · · , αd),
(αj ≥ 0; j = 1, 2, · · · , d)に対して,
|α| = α1 + α2 + · · ·+ αd
とおく. ただし, d ≥ 1とする. このとき, 偏微分作用素Dαを
Dα =∂|α|
∂xα11 ∂xα2
2 · · · ∂xαdd
によって定義する.
Rd上定義されたC∞級関数 f(x)が急減少であるとは, 任意の自然数の多重指数 α = (α1, α2, · · · , αd)と任意の自然数mに対して, 条件
lim|x|→∞
|x|m|Dαf(x)| = 0
が成り立つことをいう.
Rd 上定義された急減少の C∞ 級関数全体のつくる関数空間をS = S(Rd)とする.
さらに, Rd 上定義された C∞ 級関数でコンパクト台をもつもの全体のつくる関数空間をD = D(Rd)とする.
28
このとき, Dは S の部分空間である.
命題 1.3.1 f ∈ Sならば,任意の自然数の多重指数α = (α1, α2,
· · · , αd)と任意の多項式 P (x)に対して, P (x)Dpf(x) ∈ S が成り立つ.
例 1.3.2 P (x)を任意の多項式とし, f(x) = e−|x|2P (x)と定義すると, f ∈ S が成り立つ.
また, g(x) = e−|x|2 sin(e−|x|2)と定義すると, g /∈ S となる.
例 1.3.3 正の数 δ > 0に対し, Uδ = {x; |x| < δ}とおく. いま,
fδ(x) =
exp(− 1
δ2 − |x|2), (x ∈ Uδ),
0, (x /∈ Uδ)
と定義すると, fδ(x) ∈ Dとなる. このとき, supp (fδ) = Uδ となる.
したがって, f ∈ S となる.
例 1.3.3の関数 fδ(x)に対し,
fδ(x) ≥ 0, (x ∈ Rd), f(0) > 0
が成り立つ. いま,
Nδ =
∫fδ(x)dx
とおくと, Nδ > 0である.
例 1.3.4 fδ(x)は例 1.3.3と同じであるとする. いま,
hδ(x) =1
Nδfδ(x)
とおくと, 次の (1)∼(3)が成り立つ:
(1) hδ(x) ∈ D ⊂ S. supp (hδ) = Uδ.
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(2) hδ(x) ≥ 0. hδ(0) > 0.
(3)
∫hδ(x)dx = 1.
この関数 hδ を用いて次の定理 1.3.9を証明できる.
定理 1.3.9 任意の実数 p ≥ 1に対し, 次の (1)∼(3)が成り立つ:
(1) S ⊂ C∞ ∩ Lp.
(2) S は C∞の中でノルム ∥ · ∥∞に関して稠密である.
(3) S は Lpの中でノルム ∥ · ∥pに関して稠密である.
上の定理 1.3.9の証明には次の二つの補題を用いればよい.
補題 1.3.1 f ∈ C0, φ ∈ S ならば, φ ∗ f ∈ S.
補題 1.3.2 hδ は例 1.3.4と同じであるとし, f ∈ C0 であるとすると, 次の (1), (2)が成り立つ:
(1) limδ→0
∥hδ ∗ f − f∥∞ = 0.
(2) limδ→0
∥hδ ∗ f − f∥p = 0, (p ≥ 1).
系 1.3.2 実数 p ≥ 1であるとする. このとき, Dは, Lpの部分空間であって, ノルム ∥ · ∥pに関して稠密である.
定理 1.3.10 f ∈ L1とする. このとき, 任意の φ ∈ Sに対して,
条件 ∫Rd
f(x)φ(x)dx = 0
が成り立つならば, f(x) = 0, (a.e. x ∈ Rd) が成り立つ.
定理 1.3.11 f(x)がRd 上有界な連続関数であるとするとき,
次の (1), (2)が成り立つ:
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