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BioPlus 便り 腟垢(スメア−)検査 犬の腟垢中の腟上皮細胞の成分(図 1)は、発情周期に伴って規則的に変化するため、腟垢検査によって 発情前期、発情期のおおよその時期を知ることが可能である。このため、犬では腟垢検査は交配適期を判断 するために用いられている。腟垢中に出現する細胞は、腟上皮細胞、白血球、赤血球が含まれる。犬の腟垢 は、綿棒などで採取されるが、発情中は陰部に付着している発情出血を用いることが出来る。 腟垢検査は、一般に綿棒を生理食塩液に浸して、腟内に挿入し、綿棒に付着した粘液をスライドグラスに 回転させながら塗抹する。風乾後、90%メタノールアルコールで数分間固定し、直ちにギムザ染色を施して 顕微鏡で観察する。 1. 発情前期(発情出血開始から交尾を許容する前日まで、平均 8 日、図 2この期の前半は、有核腟上皮細胞の中層から表層の細胞が多数出現するが、その後、徐々に減少し、後半 には消失する。有核腟上皮細胞は、常に少数出現しているが中頃から徐々に増加する。白血球は、有核腟上 皮細胞とほぼ同様の消長を示す。 赤血球は、発情出血の開始する平均 7 日前から出現し始め、発情前期の前半は多数出現するが、後半は 徐々に減少する(図 345)。 2. 発情期(雄に交尾を許容している期間、平均 11 日) 有核腟上皮細胞、白血球は前半には出現しなくなり、後期から再び出現するようになる。角化腟上皮細 胞は多数出現し、ギムザ染色液に濃染する。このような所見が一般に交配適期に当たる。赤血球はこの期 の前半で認められなくなるが、後半から再び少数認められるようになる(図 6789)。 3. 発情休止期(黄体期、2 ヵ月) この期の腟垢中には、有核腟上皮細胞、角化腟上皮細胞が常に少数出現する。有核腟上皮細胞の中に基底層 の細胞が少数認められる。白血球も常に少数出現しているが、半数例は発情終了直後に一過性に増加する。特 に、屋外で飼育されている犬に白血球の一過性の増加が顕著である(図 10)。赤血球は、陰門から血様粘液の 漏出がないにも関わらず、発情終了後 10 日頃まで少数認められる。 4. 無発情期(35 ヵ月) この期の腟垢中には、有核腟上皮細胞、角化腟上皮細胞、白血球が常に少数出現しているが、有核腟上皮細 胞と角化腟上皮細胞は発情出血開始 1.5 ヵ月前からわずかに増加する。赤血球はこの期に認められないが、発 情出血の始まる 1.5 ヵ月前に多くの犬に、数日間少数認められる。また、発情出血会誌の1週間前からは多数 認められるようになる。 このような腟垢中の細胞の出現状況から、発情前期開始の 1.5 ヵ月前には、すでに視床下部、下垂体、卵巣 系が活動を開始していることがうかがわれる。 2 犬の発情前後における腟垢中に出現する 各種細胞の消長(32 頭) 1 腟上皮細胞

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BioPlus 便り

腟垢(スメア−)検査

犬の腟垢中の腟上皮細胞の成分(図 1)は、発情周期に伴って規則的に変化するため、腟垢検査によって

発情前期、発情期のおおよその時期を知ることが可能である。このため、犬では腟垢検査は交配適期を判断

するために用いられている。腟垢中に出現する細胞は、腟上皮細胞、白血球、赤血球が含まれる。犬の腟垢

は、綿棒などで採取されるが、発情中は陰部に付着している発情出血を用いることが出来る。

腟垢検査は、一般に綿棒を生理食塩液に浸して、腟内に挿入し、綿棒に付着した粘液をスライドグラスに

回転させながら塗抹する。風乾後、90%メタノールアルコールで数分間固定し、直ちにギムザ染色を施して

顕微鏡で観察する。

1. 発情前期(発情出血開始から交尾を許容する前日まで、平均 8 日、図 2)

この期の前半は、有核腟上皮細胞の中層から表層の細胞が多数出現するが、その後、徐々に減少し、後半

には消失する。有核腟上皮細胞は、常に少数出現しているが中頃から徐々に増加する。白血球は、有核腟上

皮細胞とほぼ同様の消長を示す。

赤血球は、発情出血の開始する平均 7 日前から出現し始め、発情前期の前半は多数出現するが、後半は

徐々に減少する(図 3、4、5)。

2. 発情期(雄に交尾を許容している期間、平均 11 日)

有核腟上皮細胞、白血球は前半には出現しなくなり、後期から再び出現するようになる。角化腟上皮細

胞は多数出現し、ギムザ染色液に濃染する。このような所見が一般に交配適期に当たる。赤血球はこの期

の前半で認められなくなるが、後半から再び少数認められるようになる(図 6、7、8、9)。

3. 発情休止期(黄体期、2 ヵ月)

この期の腟垢中には、有核腟上皮細胞、角化腟上皮細胞が常に少数出現する。有核腟上皮細胞の中に基底層

の細胞が少数認められる。白血球も常に少数出現しているが、半数例は発情終了直後に一過性に増加する。特

に、屋外で飼育されている犬に白血球の一過性の増加が顕著である(図 10)。赤血球は、陰門から血様粘液の

漏出がないにも関わらず、発情終了後 10 日頃まで少数認められる。

4. 無発情期(3〜5 ヵ月)

この期の腟垢中には、有核腟上皮細胞、角化腟上皮細胞、白血球が常に少数出現しているが、有核腟上皮細

胞と角化腟上皮細胞は発情出血開始 1.5 ヵ月前からわずかに増加する。赤血球はこの期に認められないが、発

情出血の始まる 1.5 ヵ月前に多くの犬に、数日間少数認められる。また、発情出血会誌の1週間前からは多数

認められるようになる。

このような腟垢中の細胞の出現状況から、発情前期開始の 1.5 ヵ月前には、すでに視床下部、下垂体、卵巣

系が活動を開始していることがうかがわれる。

図 2 犬の発情前後における腟垢中に出現する

各種細胞の消長(32 頭)

図 1 腟上皮細胞

犬の腟垢像(ギムザ染色、×200)

獣医師便り 九州小動物検査診療所 灘崎 由佳

今回、初乳を扱えるブリーダーの皆様方だからこそ強く生きる子犬に成長させることが出来るのだと思い、初乳につ

いてお話させていただきます。

初乳は分娩後最初に生成される乳腺の分泌物であり、乳汁分泌から2〜3日間の分泌の間に母乳に移行する。肉眼的

に、初乳は母乳よりも黄色みがかっており、粘調である。

生後数週間以内の子犬の生存は、分娩後2日間で乳腺で産生される特別な分泌物である初乳に大きく左右される。

初乳は栄養と免疫グロブリンの両方の供給源となる。したがって、新生子死のリスクは、受動免疫の移行の質と出生

時から2日齢までの子犬の成長(出生体重の4%以上体重が減少するべきではない)という2つの要素に依存してい

る。多くは生後2日目で子犬の約20%に受動免疫不足が認められ、30%は早期成長が不十分なことが多いといわ

れている。

《初乳の役割》

①免疫学的防御

成犬の IgG の循環血中濃度が 8〜25g/L であるのに対し、子犬では 0.3g/L 前後で生まれてくる。初乳摂取によって

受動免疫の獲得が可能になり、初乳摂取後 48 時間で新生児子の血清 IgG 濃度が 6g/L 程度になる。この Ig の供給は

初乳の持つ最も特別な役割であり、新生子死の殆どが感染によるものであるため、子犬の生存に対する決定因子とな

る。この受動免疫を獲得するには子犬は生後8時間以内に初乳を摂取しなければならない。この時間は以下の2つの

理由により決定されている。

・ 第1に、初乳中の IgG は出産後、数時間で減少する

・ 第2に、子犬は出生時には摂取した初乳の 40%を吸収するが、分娩の 4時間後にはわずか 20%、12間後には 9%、

出産 24 時間後では吸収は0となる。

②成長

充分な免疫を得るために摂取しなければならない初乳の平均量は体重 100g あたり 1.3mL である。それとは対照的に

エネルギー要求量を満たすために必要な平均摂取量は体重 100gあたり 12mL である。

③臓器の発達

初乳を摂取した子犬は合成ミルク製品を投与した同じ体重の子犬と比較した場合、消化管の発達が 60〜95%良好で

あることが報告されている。

《初乳の代替法》

雌犬の分娩後2日目に母乳を絞ることが可能となる(分娩直後はその雌犬自身の子犬たちが受動免疫を得ることを確

実にするため)。皮膚をクロルヘキシジンのような洗浄剤で洗浄した後、小容量のプラスチックチューブに初乳を採取

し冷凍する。少量の初乳はその後必要に応じて解凍し(37℃で。どんな状況であっても電子レンジを使用するべきで

はない)、哺乳瓶か栄養チューブを用いて、1日に子犬の体重 100gあたり 1.5mL を投与する。

卵巣組織

(黄体)

図 3 発情前期の第 1 日 図 4 発情前期の中期

図 5 発情前期の末期 図 6 発情期の初期

図 7 発情期の中期(交配適期)

図 8 発情期の中期

(交配後のもので精子が多数認められ

図 9 発情期の末期

図 10 発情休止期