AutoCAD 2010 機能ガイド 異 ... -...
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AutoCAD 2010 機能ガイド
異尺度対応
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はじめに
AutoCAD には、実寸で設計対象となるオブジェクトを作図とする モデル空間 と、モデル空間に作図され
たオブジェクトを、紙図面 のイメージ、つまり、図面として表現するための ペーパー空間 の 2 種類の作
図空間があります。
モデル空間とペーパー空間は、当初、図面ファイル(.dwg、.dxf) に 1 つずつ定義するものでしたが、モデ
ル空間に作図されたオブジェクトを、異なる種類の 紙 のイメージで共有して表現できるように、数多くの
ペーパー空間を定義できるように改良されました。これを境に、ペーパー空間を レイアウト と呼ぶことが
一般的になりました。
レイアウトには、実際に紙図面として出力するための各種設定をおこないます。用紙サイズの指定が最もわ
かりやすい例です。また、図面枠や図面タイトルなどの書き込みも必要です。重要なのが、モデル空間に作
図したオブジェクトを、どのようにレイアウトに反映するか、ということです。
AutoCAD は、紙図面のイメージであるレイアウトに、ビューポート と呼ばれる 窓 を開けて、窓からモデ
ル空間のオブジェクトを のぞき見る 形式を採用しています。モデル空間では、XY 平面に 2D オブジェク
トを作図することもできますし、Z 軸を含む 3D 空間に 3D オブジェクトをモデリングすることもできま
す。モデル空間での視点はさまざまな方向に変換することができますが、のぞき窓 であるビューポートも、
モデル空間のいろいろな場所を、いろいろな方向からのぞき見ることができます。
レイアウトには、複数のビューポートを開くことができるので、ビューポートをきれいに整列させれば、立
派な紙図面のイメージが出来上がります。
モデル空間 レイアウト (ペーパー空間)
ビューポート
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異尺度表現の問題点
図面には、同じ部分の拡大箇所や縮小箇所を表現しなければならない時があります。レイアウトに配置され
たビューポートは、ビューポートごとに異なる尺度を設定することができます。
モデル空間に実寸でオブジェクトが作図されていれば、ビューポートにその尺度を指定することで、期待し
た大きさ(尺度) でビューポートにオブジェクトを表示することもできるので、モデル空間・ペーパー空間の
利点を生かした効率的な作図が可能です。
ところが、そのままだと少々問題が起きてしまいます。下の図面を参照してみてください。レイアウト上に
4 つにビューポートが作図されていて、モデル空間のある部分の拡大図が異なる尺度で表現されています。
この図面では、青い枠で示したビューポート内のオブジェクトの見え方に問題があります。モデル空間に作
図したオブジェクトの大きさの表現に問題はありませんが、ハッチング、寸法矢印、また、寸法文字の大き
さまでもが、ビューポートに指定した尺度に沿って変化してしまっています。
このような図面で期待するのは、赤い枠で示したビューポート内の表現方法です。モデル空間のオブジェク
ト外形は尺度に応じて変化させ、注釈 呼ばれる ハッチング と 寸法 だけは、ビューポート尺度に左右さ
れずに、一定の大きさで表現されています。
1:1 (異尺度未対応) 1:2 (異尺度未対応)
1:1 (異尺度対応) 1:2 (異尺度対応)
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このように、通常、AutoCAD のモデル空間とレイアウト(ペーパー空間)とビューポートの組み合わせで異尺
度表現をおこなうと、注釈オブジェクトの大きさに問題が起こります。
ただし、少し手を加えれば、赤い枠で示されたビューポートのような表現ができるようになっています。そ
の方法は、AutoCAD 2007 までの AutoCAD と、AutoCAD 2008 以降の AutoCAD で異なります。
AutoCAD 2007 まで 1. ビューポート(尺度)ごとに表示/非表示にする画層を作成する。
2. 画層ごとにビューポート尺度にあった注釈オブジェクトの大き
さを計算して、モデル空間に作図する。
3. ビューポートごとにそのビューポートにあったオブジェクトだ
けが表示されるよう、画層の表示/非表示を切り替える。
AutoCAD 2008 以降 1. 新しい異尺度対応の機能を利用して、モデル空間に作図する注釈
オブジェクトにビューポート尺度を設定する。
AutoCAD 2008 以降の異尺度対応機能を使って作成した図面を AutoCAD 2007 で開く際に
は、従来のビューポートごとの画層設定を使った方法を使って異尺度表現を維持します。この
設定は、[オプション] ダイアログの [開く/保存] タブで指定することができます。
先ほどの赤い枠で示したビューポート内のオブジェクトは、異尺度対応の機能を使って表現された注釈オブ
ジェクトを含んでいます。それでは、異尺度対応の機能を利用できる注釈オブジェクトとは、どのようなも
のがあるか一覧にしてみます。異尺度表現をする際に、その大きさに気を配る必要があるのが注釈オブジェ
クトとも考えられます。
ハッチング BHATCH[ハッチング] コマンドで作図するオブジェクトです。
文字 文字スタイルを参照して、TEXT[文字記入] コマンドと MTEXT[マル
チ テキスト] コマンドで作図するオブジェクトです。
寸法 寸法スタイルを参照して、DIMxxxx コマンドで作図する寸法オブジェ
クトです。
幾何公差 TOLERANCE[幾何交差] コマンドや LEADER[引出線記入] コマンド
を使って作図する幾何交差オブジェクトです。
引出線 LEADER[引出線記入] コマンドと MLEADER[マルチ引出線] コマン
ドで作図するオブジェクトです。
ブロック BLOCK[ブロック登録] コマンドや BEDIT[ブロック エディタ] で定
義したブロックを、INSERT[ブロック挿入] コマンドで挿入(作図) するオブジェクトです。
属性 ATTDEF[属性定義] コマンドを使って、ブロック定義内に作図される
オブジェクト。ブロック定義は、BLOCK[ブロック登録] コマンドや BEDIT[ブロック エディタ] で定義します。
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AutoCAD の異尺度対応
AutoCAD 2008 以降、モデル空間とレイアウトを使って、簡単に異尺度対応の図面表現ができるようになっ
ています。AutoCAD 2007 以前のように、尺度にあわせて文字高さなどを計算したり、ビューポート尺度ご
とに画層をコントロールしたりする面倒な作業は必要ありません。
ここで紹介する異尺度対応の作図方法は、モデル空間とペーパー空間(レイアウト) を使って。
レイアウト上にビューポート枠を配置していく方法を利用します。ペーパー空間(レイアウト)を利用せずに、モデル空間に図面枠や表題とともに、実際の設計対象オブジェクトを作図する
場合には利用できません。ペーパー空間(レイアウト) に直接作図された注釈オブジェクトも同
様です。
もし、他 CAD ソフトウェアとデータ交換するために、ペーパー空間(レイアウト) の使用をあ
きらめているなら、レイアウト-モデル変換機能を使用することで、異尺度対応の機能を活かす
ことができます。
EXPORTLAYOUT[レイアウト-モデル変換] コマンドを使えば、レイアウト上に配置した異尺度
対応表現を含むすべてのオブジェクトを、新規図面のモデル空間に書き出す(転写) します。こ
の機能を利用すれば、ペーパー空間を認識しない、他の CAD ソフトウェアにも、異尺度表現
された図面を DXF ファイルなどを介して渡すことができます。
EXPORTLAYOUT[レイアウト-モデル変換] コマンドは、アプリケーション メニューからとレ
イアウト タブ上でマウスの右ボタン クリックで呼び出すことができます。
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異尺度対応の考え方
それでは、具体的な異尺度対応の操作手順を紹介していきます。ここでは、モデル空間に下図のようなオブ
ジェクトが作図されているとします。このオブジェクトを、レイアウト上の異なる尺度を持つビューポート
で異尺度対応させていきます。
異尺度対応の基本操作手順
1. ペーパー空間 “レイアウト 1” に、図面枠と表題欄を作図します。通常、指定した用紙サイズにあわせ
て図面枠と表題欄はブロック化されているので、そのまま 1:1 の尺度で挿入したと仮定します。
幾何交差と引出線
マルチ引出線
仕上げ記号のブロック参照
平行寸法
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2. MVIEW[浮動ビューポート管理] コマンドを使って、2 つのビューポートを作成します。このとき、モ
デル空間のオブジェクトが、ビューポートにフィットしたサイズで表示されます。 ここでは、左手のビューポートを拡大図(尺度 2:1)、右手のビューポートをそのままの尺度(1:1) で作
図することを意図することにします。
3. 左右のビューポートに、意図したビューポート尺度を設定していきます。レイアウト上で、右手のビュ
ーポートを選択します。次に、AutoCAD ウィンドウ右下のステータスバーの ボタンを使って、ビ
ューポートの尺度一覧を表示させて、”1:1” を選択します。
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4. 右手のビューポート内に表示されているモデル空間上のオブジェクトの表示サイズが、1:1 で表示され
ます。表示位置がずれている場合は、ビューポート枠内でマウスの左ボタンをダブルクリックすると、
モデル空間の編集モードに入ることができます。その状態で、PAN[画面移動] コマンドなどを使って、
表示位置を調整します。編集が終了したら、ビューポート枠外をダブルクリックして、モデル空間の編
集モードを終了します。
5. 同じ手順で、左手のビューポート尺度を 2:1 に設定して、左下の領域を表示するように調整します。
6. 調整されたビューポート内の注釈オブジェクトは、異尺度対応の指定をおこなっていないため、表示サ
イズが統一されていません。
尺度変更によって 表示位置がずれた
モデル空間モードで
表示位置を調整示
再びペーパー空間へ戻る
寸法文字と矢印、幾何交差、仕上げ記号の
ブロックの大きさが左右ビューポートで異なる
2:1 (異尺度未対応) 1:1 (異尺度未対応)
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7. 右手のビューポート(尺度 2:1) を選択します。ビューポートを選択すると、ステータスバー右下に “ビューポートを最大化” ボタンが表示されます。このボタンをクリックすると、ペーパー空間(レイアウ
ト) からモデル空間の編集をおこなうことができます。4. でおこなったビューポート枠内のダブルク
リックでは、画面の最大化はされないので、編集をする目的では、こちらの機能が便利です。
8. レイアウトからモデル空間が最
大化されたら、拡大図に表示され
ていたハッチング オブジェクト
を選択して、マウスの右ボタンク
リックでメニューから [プロパ
ティ管理] パレットを表示させ
ます。
9. [プロパティ管理] パレットに選択したハッチ
ング オブジェクトのプロパティが表示されて
います。このなかから “異尺度対応” の項目を
見つけて、値を “いいえ” から “はい” に変更し
ます。
10. “異尺度対応” プロパティを “はい” に変更する
と、”異尺度対応の尺度 プロパティが現れて、
同時に、値が現在編集中のビューポート尺度で
ある “2:1” となっていることがわかります。 この設定は、選択したハッチング オブジェク
トが、ビューポート尺度 2:1 に自動調整され
ることを意味しています。
ハッチングを選択
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11. ハッチング オブジェクトは、この時点で 2:1 のビューポート尺度にしか対応できていないため、レイ
アウトの右手に配置した 1:1 の尺度を持つビューポートでは、適切な異尺度表現ができないため、表
示すらされなくなっていまいます。 ここでは、ハッチング オブジェクトに 1:1 に対応できるような設定を追加します。”異尺度対応の尺
度” プロパティの値の欄をクリックすると ボタンが表示されるので、これをクリックして [異尺度
対応オブジェクトの尺度] ダイアログを表示させます。続いて、[追加] ボタンをクリックして、一覧か
ら 1:1 を追加してください。
[オブジェクトに尺度を追加 ] ダイアログの一覧に指定したい尺度がない場合は、
SCALELISTEDIT[尺度リスト編集]コマンドを使って、任意の尺度を登録することができま
す。
12. これで、ハッチング オブジェクトが、ビューポート尺度 1:1 と 2:1 で適切な大きさで表示されるよ
う、異尺度対応の設定が完了しました。同様の操作は、2:1 のビューポートに表示される、ブロック を除くすべての注釈オブジェクトに設定することができます。 幾何交差、2 つの平行寸法、マルチ引出線 に 1:1 と 2:1 の尺度を設定したら、表示内容を確認しま
す。ステータスバーのボタンでペーパー空間(レイアウト) に戻ります。
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ここまでの作業で、仕上げ記号のブロックと一番左以外のマルチ引出線を除く、すべての注釈オブジェクト
の表示サイズが、”レイアウト 1” 上で統一されています。ただし、ビューポートによっては寸法が重なった
り、表示範囲からはみ出してしまったりしています。これも、AutoCAD の異尺度対応の仕組みを理解する
ことで解決することができます。
異尺度対応の仕組み
異尺度対応の設定を加えたオブジェクトを、モデル空間でマウスクリックによって選択して
みます。既定値では、マウスカードの右上に、選択したオブジェクトが異尺度対応になって
いることを表す アイコンが表示されます。
また、選択したオブジェクトは、設定した尺度ごとに隠れたサイズのオブジェクトが表示されるはずです。
これが、AutoCAD が尺度に合わせて自動的に設定したオブジェクトです。つまり、ビューポートによって、
適切な大きさのオブジェクトだけを表示して、不要な大きさのオブジェクトを非表示にしているのです。
ここでは、 1:1 と 2:1 の2 つの尺度に対応 しているので、オブジェクトが 2 つ表示されます ここでは、 1:1 と 2:1 の2 つの尺度に対応 しているので、オブジェクトが 2 つ表示されます
ブロックの異尺度対応は、モデル空間に配置さ
れたブロック参照には指定できません。ブロック
定義側で指定する必要があります。
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この仕組みによって、AutoCAD は、ビューポートごとに注釈オブジェクトの表示位置も変えられます。ビ
ューポートごとに位置合わせをすれば、異尺度表現を持った適切な図面をレイアウト上に作成することがで
ます。
もっと便利な異尺度設定方法
異尺度対応の設定は、1 つの注釈オブジェクトに対して幾つでも設定することができます。ただし、注釈オ
ブジェクトごとに複数の尺度設定を加えていくのは、とても大変な作業です。実は、この作業を簡単に方法
があります。
1.つは、スタイルの活用です。寸法オブジェクトは寸法スタイル、文字は文字スタイル、マルチ引出線はマ
ルチ引出線スタイルで、よく利用するスタイルを管理しています。このスタイル設定の中にも、異尺度設定
を指定する項目があります。注釈オブジェクトを作図する際に、あらかじめ注釈尺度を設定したスタイルを
参照すれば、ここの注釈オブジェクトごとに尺度を設定していく必要はありません。
ビューポートは矩形以外にも 円 や ポリライン、スプラインでも定義可能
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また、ステータスバー右下にある ボタンを使えば、ビューポート尺度の変更にあわせて、注釈オブジ
ェクトにそのビューポート尺度を追加設定する作業を自動化することができます。
モデル空間に配置されたブロック参照には、”異尺度対応” プロパティはありません。ブロック
を異尺度対応にするためには、BLOCK[ブロック登録] コマンドでブロック定義をし始める時点
か、BEDIT[ブロック エディタ] コマンドで定義中のブロック定義を異尺度対応に指定する必
要があります。
ブロック エディタ内でブロック定義を異尺度対応させる方法は、ダイナミック ブロック 章でも紹介しますので参照してください。ブロック エディタ内では、何も選択しない状態で、[プロパティ管理] パレットから、ブロック定義の異尺度対応を指定することができます。
ブロック エディタ内で何も選択せずに [プロパティ管理] パレットを表示
BLOCK[ブロック登録] コマンド
で定義情報と1つとして指定