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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望 1 Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望 【要約】 ASEAN 2000 年代に入り世界経済の平均を上回る安定成長を続けており、近年に減速 傾向をたどる中国とは対照的である。この背景には、異なる特性を持つ国々で構成される ASEAN が、多様な成長ドライバーを有していることがある。多様な成長ドライバーとしては、 ①各国の優位産業が発展段階に応じて異なること、②中間層の厚み、③豊富な天然資 源、④中国からの経済協力の取り込み、⑤インドシナ半島部における地理的連結性などが 挙げられる。 このように多様な成長ドライバーを活かす要素となったのが、ASEAN の経済統合である。 ASEAN 自由貿易地域(AFTA)に基づく関税撤廃は 2015 年時点で概ね完了し、その効果 は域内貿易の活発化などとして現れている。さらに、AFTA を土台に、関税撤廃以外の統 合にも ASEAN 経済共同体(AEC)の枠組みで取り組み中である。ASEAN の統合ペースは 欧州連合(EU)に比べて緩慢であるが、統合を急いだ EU には今や懐疑論が高まってい る。EU とは対照的に、今後も ASEAN 統合は現実的な漸進主義を維持するとみられる。 今後 5 年間を展望すると、多様な成長ドライバーが ASEAN の安定成長を支える構図に変 わりはなく、ASEAN10 では+5%程度の成長が続くだろう。一方、中国は 2020 年代半ばに は前年比+45%程度への減速が見込まれるため、ASEAN は世界の「成長センター」とし ての期待をますます高めていくだろう。 1. ASEAN 経済の現状と方向性 (1)多様性を背景に安定成長が持続 1990 年代後半に通貨危機に陥り、著しい経済の落ち込みを経験した ASEAN は、2000 年代以降、安定成長を持続している。ASEAN6 1 の平均成長率は、 通貨危機後の 1998 年に▲7.9%の大幅なマイナスとなったが、2000 年代に入 り回復を遂げた後は、リーマンショック後の 2009 年を除き、世界経済の平均を 上回る+5%前後の安定成長を続けている(【図表 1】)。その 2009 年について も、世界経済の平均成長率が▲0.1%とマイナスに転じた中で、ASEAN6 の成 長率は+2.2%とプラスを維持していた。 一方、2011 年以降は中国経済が、リーマンショック後の 4 兆元の景気対策に より積み上がった過剰投資、過剰債務の調整と生産年齢人口の減少を背景 に減速基調をたどっている。2020 年代半ばに中国の成長率は+45%程度ま で低下する可能性があり、対照的に ASEAN 経済は近年の+5%前後の成長 を保ち、今後も生産年齢人口が増え続けて成長を支える要因となる見通しで あるなど、安定感が目立ちつつある。企業のビジネスターゲットとしての ASEAN のプレゼンスは 1990 年代後半の通貨危機後に急落したが、近年は 総人口 6 億人(【図表 2】)を有し安定成長を維持する ASEAN を再評価する 動きがみられる。みずほ総合研究所が会員企業を対象に毎年行っている「ア ジアに関するビジネスアンケート調査」では、ASEAN は「今後最も注力する予 定の地域」として 2012 年度に中国を抜いて 1 位となった後、直近の 2016 度調査(2017 2 月実施)に至るまで首位の座を維持している。 1 ASEAN のうち資源国ブルネイを除く先行加盟 5 カ国と後発加盟国の中で工業化が先行しているベトナムを合わせた 6 カ国 2000 年代に入り 世界経済の平均 を上回る安定成 長が持続 近年は減速基調 をたどる中国と比 較して ASEAN の 安定性が目立つ

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

1

Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

【要約】

ASEAN は 2000 年代に入り世界経済の平均を上回る安定成長を続けており、近年に減速

傾向をたどる中国とは対照的である。この背景には、異なる特性を持つ国々で構成される

ASEANが、多様な成長ドライバーを有していることがある。多様な成長ドライバーとしては、

①各国の優位産業が発展段階に応じて異なること、②中間層の厚み、③豊富な天然資

源、④中国からの経済協力の取り込み、⑤インドシナ半島部における地理的連結性などが

挙げられる。

このように多様な成長ドライバーを活かす要素となったのが、ASEAN の経済統合である。

ASEAN自由貿易地域(AFTA)に基づく関税撤廃は 2015年時点で概ね完了し、その効果

は域内貿易の活発化などとして現れている。さらに、AFTA を土台に、関税撤廃以外の統

合にもASEAN経済共同体(AEC)の枠組みで取り組み中である。ASEANの統合ペースは

欧州連合(EU)に比べて緩慢であるが、統合を急いだ EU には今や懐疑論が高まってい

る。EU とは対照的に、今後も ASEAN統合は現実的な漸進主義を維持するとみられる。

今後 5年間を展望すると、多様な成長ドライバーが ASEAN の安定成長を支える構図に変

わりはなく、ASEAN10 では+5%程度の成長が続くだろう。一方、中国は 2020 年代半ばに

は前年比+4~5%程度への減速が見込まれるため、ASEAN は世界の「成長センター」とし

ての期待をますます高めていくだろう。

1. ASEAN 経済の現状と方向性

(1)多様性を背景に安定成長が持続

1990年代後半に通貨危機に陥り、著しい経済の落ち込みを経験したASEAN

は、2000 年代以降、安定成長を持続している。ASEAN61の平均成長率は、

通貨危機後の 1998年に▲7.9%の大幅なマイナスとなったが、2000年代に入

り回復を遂げた後は、リーマンショック後の 2009 年を除き、世界経済の平均を

上回る+5%前後の安定成長を続けている(【図表 1】)。その 2009 年について

も、世界経済の平均成長率が▲0.1%とマイナスに転じた中で、ASEAN6 の成

長率は+2.2%とプラスを維持していた。

一方、2011 年以降は中国経済が、リーマンショック後の 4 兆元の景気対策に

より積み上がった過剰投資、過剰債務の調整と生産年齢人口の減少を背景

に減速基調をたどっている。2020年代半ばに中国の成長率は+4~5%程度ま

で低下する可能性があり、対照的に ASEAN 経済は近年の+5%前後の成長

を保ち、今後も生産年齢人口が増え続けて成長を支える要因となる見通しで

あるなど、安定感が目立ちつつある。企業のビジネスターゲットとしての

ASEAN のプレゼンスは 1990 年代後半の通貨危機後に急落したが、近年は

総人口 6 億人(【図表 2】)を有し安定成長を維持する ASEAN を再評価する

動きがみられる。みずほ総合研究所が会員企業を対象に毎年行っている「ア

ジアに関するビジネスアンケート調査」では、ASEAN は「今後最も注力する予

定の地域」として 2012 年度に中国を抜いて 1 位となった後、直近の 2016 年

度調査(2017年 2月実施)に至るまで首位の座を維持している。

1 ASEANのうち資源国ブルネイを除く先行加盟 5カ国と後発加盟国の中で工業化が先行しているベトナムを合わせた 6カ国

2000 年代に入り

世界経済の平均

を上回る安定成

長が持続

近年は減速基調

をたどる中国と比

較して ASEAN の

安定性が目立つ

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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【図表 1】 ASEAN6 と世界、中国の実質 GDP 成長率

(出所)IMF、中国国家統計局よりみずほ総合研究所作成

(注)ASEAN6は、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの

実質 GDP成長率を IMFによる 2015年 GDP(購買力平価ベース)のシェアにより加重平均

【図表 2】 主要国と ASEAN10 の経済指標(2016 年)

(出所)IMF よりみずほ総合研究所作成

(注)ASEAN10の成長率は、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、タイ、

インドネシア、フィリピン、ベトナムの実質 GDP成長率を IMFによる 2015年 GDP(購買力平価ベース)の

シェアにより加重平均

ASEAN が安定成長を続けている背景には、個々の国が有する異なる優位性

や特性(【図表 3】)が多様な成長ドライバーとなっていることがある。各国の成

長ドライバーを類型化すると、第 1 に各国が異なる発展段階の下で経済・産

業特性を発揮していることが挙げられる。ASEAN各国の経済発展段階は、最

低位のカンボジアと最高位のシンガポールの間で多段階に分散している。そ

の中で、シンガポールを除き上位・下位中所得国2に分類される各国の多くは、

人口動態の面では生産年齢(15~64 歳)人口が増加し総人口に占める比率

(生産年齢人口比率)が上昇する人口ボーナス期にあり、労働集約型産業や

資本集約型産業に比較優位がある。また、高度に発達したインフラと法制度

2 世界銀行の定義によると、下位中所得国は一人当たり総国民所得が 1,026~4,035 ドル、上位中所得国は 4,036~12,475 ドル

であり、12,475 ドルを超えると高所得国に分類される。

多様な成長ドライ

バーの存在が安

定成長の背景

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

1995 2000 2005 2010 2015

ASEAN6

中国

世界

(前年比、%)

(年)

米国 1.6% 1.9% 185,691 32,330 57,436

中国 6.7% 6.3% 112,183 138,271 8,113

日本 1.0% 1.1% 49,386 12,690 38,917

ユーロ圏 1.8% 1.6% 164,084 50,889 32,244

ASEAN6 4.7% 4.8% 24,387 56,179 4,341

ASEAN10 4.8% 5.0%程度 25,494 63,740 4,000

1人当たり名目GDP(米ドル)

実質GDP成長率

(前年比)

実質GDP成長率予測値(今後5年平均値、前年比)

名目GDP(億米ドル)

人口(万人)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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を強みとして地域統括拠点や研究開発拠点としての機能を発展させているシ

ンガポールのような高所得国もある。ASEAN 全体としてみれば、異なる比較

優位産業を持つ各国が補完し合う形で総合力と安定性が発揮されている。第

2に人口規模が大きいインドネシアやフィリピン、ベトナムなどで中間層の拡大

に伴い内需の厚みが増していることである。こうした特性は、リーマンショックの

ような外的ショックに際して成長を下支えする要因にもなっている。最後に、豊

富な天然資源、陸続きの地理的条件がもたらす連結性の高さ、親グローバル

化政策や対外援助国として浮上する中国との関係など、個々の国の固有の

特性や政策がある。以下、ASEAN が有する多様な成長ドライバーについて

具体的に論じていく。

【図表 3】 ASEAN の多様性

(出所)みずほ総合研究所作成

(注)「生産年齢人口」は 15~64歳人口の規模であり、「人口ボーナス」は生産年齢人口比率(生産年齢人口/総

人口)の上昇期

下位中所得

上位中所得

高所得生産年齢

人口人口

ボーナス

シンガポール ○ ○

マレーシア ○ ○ ○ ○

タイ ○ ○

インドネシア ○ ○ ○ ○

フィリピン ○ ○ ○ ○

ベトナム ○ ○ ○

ラオス ○ ○ ○ ○

ミャンマー ○ ○ ○ ○

カンボジア ○ ○ ○ ○

地理的連結性

親グローバル化

対中関係

人口要因経済発展段階天然資源

賦存

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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(2)ASEAN 各国の成長ドライバー

①労働集約型産業主導の発展

ASEAN の中で下位中所得国の発展段階にあるフィリピン、インドネシア、ベト

ナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアの 6 カ国では、生産年齢人口の増加

(【図表 4】)が労働投入量の増加を促す前期人口ボーナス期の局面にある。

農村・地方から都市近郊へ低廉な労働力が移動し、労働集約型産業が発展

している。

【図表 4】 下位中所得国における生産年齢人口の伸び

(出所)国連人口部資料よりみずほ総合研究所作成

6 カ国のうち最も早く下位中所得国入りしたフィリピンでは、組立主体の労働

集約型製造業が発展した。同国は、1990 年代まで政情不安と低成長が長期

化して「アジアの病人」と称される状況にあり、現在でも下位中所得国の段階

にとどまっている。依然として生産年齢人口の増加率が高いことから、電子部

品産業における組立を中心とする労働集約型部門に比較優位がある。次い

で 1990 年代に下位中所得国入りしたインドネシアでは、縫製・繊維や電機・

電子の組立等の労働集約型産業が発展している。

ベトナムは、2001 年の米ベトナム通商協定発効や 2007 年の WTO 加盟に伴

い、国内の法制度を世界標準に合わせて整備する改革を実施したことで、繊

維・衣料・履物などの労働集約型産業で対内直接投資が拡大し、2000 年代

後半には下位中所得国入りした。近年では、韓国系企業を中心に携帯電話

やスマートフォンの組立工場をベトナムに設置する動きが目立ち、IT 産業の

国際サプライチェーンにおける労働集約的分野で頭角を現している。

2010年以降に下位中所得国入りしたカンボジア、ラオス、ミャンマー(CLM)で

も軽工業を中心とする労働集約型産業が勃興している。長引く内戦や閉鎖的

体制により ASEANの中で対外開放が最も遅れた CLMは、低コスト労働力の

活用の余地が大きいラストフロンティアとして投資を集め始めている。

下位中所得国の古株であるフィリピン、インドネシアは、今後 10年の間に上位

中所得国入りを目指すステージにある。上述した組立を中心とする労働集約

型産業から、資本集約型産業へと産業構造の重点をシフトさせることが期待さ

れる。また、ベトナムは生産年齢人口の伸びが大きく低下するため、労働集約

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

カンボジア ミャンマー ラオス ベトナム フィリピン インドネシア

2012~2016年の平均 2017~2021年の平均(前年比、%)

生産年齢人口の

増加を背景に労

働集約型産業が

発展

フィリピンとインド

ネシアが先行

ベトナムは IT 産

業の労働集約的

分野で頭角

2010 年以降から

CLM でも労働集

約型産業が勃興

生産年齢人口の

増加が続く中、上

位中所得国入りを

目指す国も

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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型産業は比較優位を徐々に喪失し、資本集約型産業への移行を目指してい

くことで、やはり上位中所得国入りをうかがうことになろう。一方、下位中所得

国になったばかりの CLM は、生産年齢人口の高い伸びを維持することから、

引き続き労働集約型産業主体の発展を持続するだろう。

②資本集約型産業主導の発展

ASEAN の中で経済発展が先行しているのはシンガポール、タイ、マレーシア

の 3カ国である。シンガポールは 1960年代、マレーシアは 1990年代、タイは

2000 年代に下位中所得国の段階を終了した。3 カ国とも上位の発展段階へ

の移行(所得水準の向上)に伴い労働集約型産業は比較優位を失い、代わ

って資本集約型産業を主力産業として発展させることで経済成長を持続した。

これらの国では、後期人口ボーナス(生産年齢人口比率の上昇に伴う国内貯

蓄率の上昇)と対内直接投資を通じた外国資本の導入が資本集約型産業の

発展を促す要因となった。シンガポールは既に高所得国に移行し、より高位

の産業を発展させているため、以下では現状で上位中所得国の段階にある

マレーシアとタイについて詳述する。

タイでは 1960 年代、マレーシアでは 1970 年代に生産年齢人口比率が上昇

に転じ、人口ボーナスがスタートした(【図表 5】)。さらに、タイ、マレーシアとも

1980 年代に国内貯蓄率が上昇しており、生産年齢人口比率の上昇に伴う国

内貯蓄率の上昇が資本蓄積を促す後期人口ボーナスが始まったと考えられ

る。しかし、両国とも国内貯蓄を生産活動の拡大に資する資本蓄積に動員す

るための金融制度の整備が十分でなかった。このため、後期人口ボーナスに

加えて、対内直接投資を通じた外国資本の導入が資本蓄積を促す要因とな

った(【図表6】)。マレーシア、タイにおける対内直接投資拡大の背景には、投

資環境・制度の整備を通じて外資誘致を図ったことがある。タイは 1950年代、

マレーシアは 1970 年代頃に労働集約型産業を中心とした外資誘致を開始し、

許認可行政や工業団地などの外資受入体制や投資優遇税制の整備、規制

緩和、電力・道路・港湾などのインフラ整備を進めたことで 1980 年代頃から自

動車、電機・電子などの資本集約型産業も集まるようになった。これらの産業

においても、当初は組立などの労働集約的工程の受入を通じて産業基盤を

構築した後、タイでは裾野産業の誘致を進めたことで「アジアのデトロイト」と称

される自動車産業の集積が実現し、マレーシアでも半導体前工程などの資本

集約的工程へのシフトが進んでいる。

シンガポール、マ

レーシア、タイで

は後期人口ボー

ナスと外資導入

により資本集約

型産業が発展

投資環境を整備

して外資を誘致

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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【図表 5】 タイ、マレーシアの生産年齢人口比率と貯蓄率

(出所)国連、世界銀行よりみずほ総合研究所作成

【図表 6】 タイ、マレーシアの総固定資本形成に対する対内直接投資フローの比率

(出所)国連よりみずほ総合研究所作成

一方、上位中所得国入りをうかがうインドネシア、フィリピン、ベトナムの中で、

外資誘致の積極姿勢が目立つのはベトナムである。ベトナムは、2007 年の

WTO 加盟に伴う国内規制改革の実施を受けて対内直接投資が拡大し、グロ

ーバル化の便益を享受した。2000 年代後半に国際収支の悪化に直面したベ

トナムは、さらなるグローバル化の便益を獲得すべく 2010 年に TPP 交渉に参

加し、国有企業や労働規制などの政治的にハードルの高い分野における改

革を受け入れる形で合意に至った。WTO 加盟交渉時に外圧を活用して国内

改革を推し進めた手法がTPP交渉においてもとられた。また、ベトナムは 2015

年に EU との FTA に最終合意しており、2018 年以降の発効が見込まれてい

る。前述の通り生産年齢人口の伸びが急速に低下するベトナムは産業構造

の転換を急ぐ必要があり、それを促すために外資を積極的に誘致する姿勢を

継続するとみられる。

0

10

20

30

40

50

40

50

60

70

80

1980 1990 2000 2010

生産年齢人口比率(左目盛)

国内貯蓄率(右目盛)

(%) (%)

(年)

タイ

0

10

20

30

40

50

60

30

40

50

60

70

80

1980 1990 2000 2010

生産年齢人口比率(左目盛)

国内貯蓄率(右目盛)

(%) (%)

(年)

マレーシア

0

5

10

15

20

25

30

35

1985 1990 1995 2000 2005 2010

マレーシア タイ

(年)

(%)

上位中所得国入

りを目指す国の

中では、特にベト

ナムが外資誘致

に積極的

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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③法制度整備による高度産業の発展

ASEANの先頭ランナーであるシンガポールは、1980年代初めに高所得国へ

の移行を果たした。高所得国入りのためには、労働、資本といった要素投入

に依存した成長から脱却し、生産性主導の成長パターンに転換する必要があ

る。そのために必要な技術革新が実現せず、高所得国への移行を前に経済

成長が停滞する「中所得国の罠」に陥る国は少なくないが、シンガポールが罠

に陥ることはなかった。シンガポールの GDP を産業別にみると、1980 年代か

ら製造業の比率が低下する一方、サービス業の比率が上昇した。サービス業

の比率は 2015 年に 73.6%で、他の ASEAN 諸国(30~50%台)に対して群を

抜いて高い。特に金融やビジネスサービスといった高付加価値サービス業や

地域統括拠点機能の発展が目覚ましく、リーディング産業を資本集約型から

知識集約型に転換させたと評価できる。

シンガポールが高度な産業を発展させた背景には、優れたインフラの整備、

法律や制度・ルールの透明化、行政機構の効率化などに取り組み、高度なビ

ジネス環境を構築したことがある。実際に、シンガポールのビジネス環境は世

界最高水準にあり、世界銀行の「ビジネスのしやすさ指標」は 2017年に 2位、

政府の透明性を示す腐敗認識指数は 2016年に 7位など、シンガポールの優

位性を示す指標は枚挙にいとまがない(【図表 7】)。このようなシンガポールに、

先進国の企業がアジアのビジネス拠点として進出し、高度なサービスを産出し

ているのである。建国以来、外資を活用して産業振興を図るシンガポールの

戦略は一貫しており、その戦略の下で発展段階に合わせて外資の受入環境

の高度化を図ることで産業高度化を実現している。

今後を展望すると、高度な法制度を整えたシンガポールの ASEAN の高度産

業拠点としてのポジションに揺らぎはないだろう。一方で、マレーシアとタイも、

上位中所得国から高所得国への移行を目指す段階にある。後述の通りタイは

高所得国入りに長期を要するとみられる状況にあるが、マレーシアは「ビジネ

スのしやすさ指標」で 2017年に 23位と先進国並みの高位にあり、シンガポー

ルに次ぐ ASEAN のビジネス拠点として頭角を現しつつある。シンガポールに

比べてビジネスコストの面で優位性のあるマレーシアは、シンガポール並みの

ハイレベルなビジネス環境までは求めない一部の高度産業の誘致に成功す

る可能性がある。

高所得国のシン

ガ ポ ー ル で は、

知識集約型の産

業が発展

ハード、ソフトの

両面で高度なビ

ジネス環境を構

築し、先進企業を

誘致

コスト優位性を強

みにシンガポー

ルに次ぐ高度産

業拠点化を目指

すマレーシア

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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【図表 7】 ビジネス環境評価の世界順位

(出所)世界銀行、Transparency International よりみずほ総合研究所作成

④人口規模の大きさと中間層の厚み

総人口 6 億人の ASEAN の中で、圧倒的な存在感を持つのは人口 2.6 億人

のインドネシアであり、人口が 1 億人を超えるフィリピンや 9,000 万人強のベト

ナムの存在感も大きい。これら 3 カ国は、いずれも厚みのある中間層を有して

いる。2017 年時点で ASEAN6 の中間層(年間世帯別可処分所得 5,000 米ド

ル以上、35,000 米ドル未満)は 8,969 万世帯(全世帯中約 60%)であるが、国

別にみると、インドネシアが 4,217 万世帯(同国の全世帯中 64%)、フィリピン

は 1,551 万世帯(同 65%)、ベトナムは 1,146 万世帯(同 42%)にのぼる(【図

表 8】)。また、タイも、総人口では 7,000万人弱と上記 3カ国よりもやや少ない

ものの、2017年時点の中間層世帯数は 1,592 万世帯(同 69%)でフィリピンを

上回っている。

これらの国では、厚みのある中間層が主として次の 2 点から成長ドライバーと

なっている。第 1に、規模の経済を誘因として企業進出が拡大し、産業集積が

進展して労働力吸収や資本蓄積がなされることだ。実際に、インドネシアでは

自動車セットメーカーや部品メーカーの進出が拡大し、自動車産業の集積が

始まっている。

第 2 に、内需主導の自律的な経済成長が促されることだ。インドネシア、フィリ

ピン、ベトナムでは、個人消費が安定的な伸びを維持し成長を下支えしており

(【図表 9】)、リーマンショック後の 2009 年には他の ASEAN 主要国がマイナ

ス成長に転じた中で、これら 3カ国はプラス成長を維持した。

順位 「ビジネスのしやすさ指標」 順位 腐敗認識指数1 ニュージーランド 1 ニュージーランド2 シンガポール 〃 デンマーク3 デンマーク 3 フィンランド4 香港 4 スウェーデン5 韓国 5 スイス6 ノルウェイ 6 ノルウェイ7 英国 7 シンガポール8 米国 8 オランダ9 スウェーデン 9 カナダ

34 日本 20 日本

人口が多く、所得

水準が上昇した

国では厚みのあ

る中間層が出現

厚みのある中間

層が誘因となっ

て産業集積が進

内需主導の自律

的な成長が外的

ショックに対する

耐性に

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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【図表 8】 ASEAN 主要国の中間層世帯数 【図表 9】 個人消費の実質 GDP 成長率寄与度

(出所)Euromonitor よりみずほ銀行産業調査部作成

(注)年間世帯可処分所得別の世帯数。中間層は、年間世

帯可処分所得が 5,000~35,000米ドルの世帯

(出所)各国統計よりみずほ総合研究所作成

今後、既に生産年齢人口の減少期に差し掛かっているタイでは中間層が頭

打ちとなる一方、インドネシア、フィリピン、ベトナムでは中間層の拡大が続く

見通しだ。2022 年時点でインドネシアの中間層世帯数は 4,861 万世帯となる

ほか、フィリピンの中間層世帯数は 1,819 万世帯にまで増加し、タイの 1,748

万世帯を上回ると予想される。ベトナムの中間層世帯数も 1,660 万世帯と、タ

イに迫る水準となる見込みだ。これらの国では、厚みのある中間層が成長ドラ

イバーであり続けるだろう。

⑤豊富な天然資源

ASEANの中には天然資源に恵まれた国がある。天然資源の貿易収支をみる

と、マレーシアとインドネシア、ミャンマーは純輸出国である(【図表 10】)。マレ

ーシアは石油のほか、パーム油や錫、金、鉄鉱石、ボーキサイトなどを産出す

る。インドネシアで採掘される資源には、石油、石炭、天然ガスなどの燃料、鉄

鉱石や銅などの鉱石がある。ミャンマーは、天然ガスと鉱石を主力輸出品とし

ている。このうちインドネシアは、石油、天然ガス、石炭、銅などで ASEAN 最

大級の産出国であるが、同国の石油生産量は減少傾向にあり、既に国内消

費量を下回っているほか、天然ガス生産量も頭打ちである。

ASEAN の資源国は、2000 年代の原油価格に代表される資源価格上昇局面

の恩恵を受け、交易条件の改善などにより経済が潤った。しかし、2014 年半

ばに 1バレル=110 ドル近い水準であった原油価格が 2015年 3月に 40 ドル

台の半値以下に急落した「逆オイルショック」が生じると、資源国は逆風を受け

る形となった。2016 年以降は産油国の需給調整を受けて原油価格は持ち直

しているが、需要面のドライバーが不在である中、今後の原油相場は引き続き

需給調整の動向に依存することになる。こうした中、資源国が持てる資源を再

び成長ドライバーに転化するためには、資源生産量が伸び悩んでいるインド

ネシアを中心に資源開発投資を促進して供給力を高める必要がある。加えて、

資源加工型の関連産業を育成し、資源の付加価値を高めることも重要である。

マレーシアでは、石油関連製品の輸出総額に占める未加工品の割合は 1980

年に 9割に達していた。その後、同国は投資環境を整備して精製等の関連産

今後 5 年の間にフ

ィリピンの中間層

世帯数はタイを上

回る水準に拡大

マレーシア、イン

ドネシ アが代表

的な資源国

資源を成長ドライ

バ ー た ら し め た

資源ブームは終

了。資源加工型

産業の振興によ

る高付加価値化

が鍵

0 2000 4000 6000

インドネシア

フィリピン

タイ

ベトナム2012年

2017年

2022年

(万世帯)0

2

4

6

8

2008 2010 2012 2014 2016

インドネシア フィリピン ベトナム

(成長率寄与度、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

10

業の振興に成功し、同比率は 2015 年に 2 割まで低下している(【図表 11】)。

対照的に、インドネシアの同比率は、1980年から 2015年にかけて 7割程度と

なっており、資源産業の高付加価値化は進んでいない。この違いが、上位中

所得国まで発展したマレーシアと、下位中所得国にとどまるインドネシアの格

差の一因であろう。

【図表 10】 ASEAN 各国の資源貿易収支(名目GDP比) 【図表 11】 石油関連輸出に占める未加工品の比率

(出所)UN comtrade、IMF よりみずほ総合研究所作成

(注 1)資源は HS コード 15、25、26、27の合計

(注 2)2015年のデータ。ただし、インドネシア、ベトナムは

2014年のデータ

(出所)経済産業研究所 RIETI-TID より

みずほ総合研究所作成

⑥中国との経済的、政治的結びつき

近年、対外援助における中国のプレゼンスが高まっている。中国の対外援助

は 2009年頃から拡大し、2010~2012年の累計は 144億ドルに達して既に先

進国並みの規模となっている。事業別では 7 割がインフラ整備、地域別では

アフリカ向けが 5 割、アジア向けが 3 割である。アジアの内訳は非公開だが、

ASEAN 向けが多いようだ。日本の ODA を通じたインフラ整備や経済協力が

ASEAN の発展に貢献したことは論を待たないが、ASEAN の中には対外援

助を拡大する中国との関係を自国経済の発展のために活かそうとする動きも

みられる。典型例は、中国が掲げる「一帯一路」構想(【図表 12】)への

ASEAN各国の対応だ。

「一帯一路」構想は、ユーラシア、アフリカ大陸にまたがる地域で物理的・制度

的障壁を取り除いてシームレスな経済圏を構築することを目指すものである。

その実現のため、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金な

どのファイナンスツールを活用しながら、経済圏内におけるインフラ建設を支

援する姿勢を強めている。「一帯一路」構想は経済圏における連結性の向上

につながるものであり、そのルート上に位置する ASEAN諸国の中にも中国の

構想を支持して経済効果の享受を狙う動きがみられる。ASEANと中国の間に

は南シナ海の海洋権益問題を巡る対立が存在するが、ASEAN には外交・安

全保障と経済を切り離して実利を追求する現実的判断が働いているとみられ、

AIIB の参加国には ASEAN 全 10 カ国が名を連ねている。その中で中国との

対立点が少ないカンボジアとラオスは、国際会議等の場で中国寄りの姿勢を

示してインフラ支援を獲得する姿勢を明確にしている。さらに、南シナ海問題

を巡って中国と対立関係にあるフィリピンも、2016 年に就任したドゥテルテ大

▲ 10▲ 8▲ 6▲ 4▲ 2

02468

マレーシア

インドネシア

ミャンマー

カンボジア

ベトナム

フィリピン

タイ

シンガポール

(%)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

インドネシア マレーシア

1980年

2015年

(%)

対外援助国とし

て浮上する中国

ASEAN には南シ

ナ海問題と経済

を切り離して実利

を追求する国も

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

11

統領の下で中国との対話路線に転換し、中国側も 2 兆 6 千億円の巨額援助

を申し出ている。ドゥテルテ政権の実利重視姿勢が明確に表れている。

下位中所得国が高位の発展段階へ移行するためにはインフラ整備が必須課

題であるが、多くの国は資金制約の問題を抱えている。「一帯一路」構想には、

アジアを中心とした国際社会での影響力拡大とインフラ関連輸出の拡大を狙

う中国の意図もうかがわれるが、ASEAN 側では中国との適度な距離感を探り

つつ支援受け入れを図ろうとする動きは続くだろう。

【図表 12】 「一帯一路」構想

(出所)みずほ総合研究所作成

⑦地理的特性による連結性

ASEANは、2010年 10月に「ASEAN連結性マスタープラン」を策定し、交通・

情報通信技術・エネルギーなどの物理的連結性、貿易・投資・サービスの自

由化・促進などの制度的連結性、教育・文化や観光などの人と人の連結性の

強化に取り組んでいる。連結性の強化は、後述する経済統合の深化を通じて

ASEAN の競争力向上と発展につながる取り組みである。その連結性強化を

進める上で有利な条件を備えているのが、インドシナ半島部で陸続きの関係

にあり、陸の ASEAN とも称されるタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオ

スである。

インドシナ半島では、古くから陸上交通や、メコン川などの河川交通を通じて、

ヒト、モノ、カネが行き交い、地域経済の発展につながっていた。国境を接す

る陸の ASEAN 諸国の間で陸路の整備を進めることが、さらなる地域経済の

発展につながるとの考えの下、陸の ASEAN に中国の雲南省と広西チワン族

自治区を含めたメコン川流域の大メコン圏と呼ばれる地域では、アジア開発

銀行(ADB)の協力を受けて東西・南北・南部の 3つの経済回廊を建設するこ

とが 2000 年に決定された。日本も「ASEAN 連結性マスタープラン」に基づく

連結性の強化に協力する立場に立ち、その一環として経済回廊の整備を支

援してきた。日本の支援も貢献する形で 2015 年までに工事は概ね完了して

いる(【図表 13】)。その成果として、例えば南部経済回廊を自動車で走行する

と、ベトナムのホーチミンからカンボジア国境まで 2 時間、バンコクからカンボ

ジア国境までは 3時間で到達できるようになった。各回廊の沿線には、経済特

今後も中国の支

援は軽視できず

連結性強化に有

利な陸の ASEAN

経済回廊建設に

より物理的連結

性を強化

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

12

区や工業団地の投資が増えるなどの経済効果も発生している。東西経済回

廊のタイとミャンマー間の国境部分では、橋の老朽化により重量制限が課せら

れるなどの制約があったが、現在増強工事が行われており、状況は改善する

見通しだ。

今後についても、南部経済回廊をバンコクからミャンマーのダウェーまで延伸

する追加計画が決まっている。越境車両交通に関わる規制緩和や、通関手

続きの簡素化などソフト面での連結性強化も取り組まれている。こうした連結

性の強化は、タイと周辺国の間のサプライチェーン深化を通じて陸の ASEAN

の成長を促進することが期待される。

【図表 13】 大メコン圏の経済回廊

(出所)みずほ総合研究所作成

2. 多様性を活かすドライバーとしての ASEAN 経済統合

(1)これまでの統合の経緯

①AFTA による域内関税撤廃で経済連携を強化

経済規模、人口動態、発展段階、資源賦存状況が異なる多様な国の集合体

である ASEAN が全体として発展していくためには、経済統合を深化させ、各

国の優位性や特性を相互に補完し合う体制を構築することが鍵となる。その

観点から経済統合に対する ASEAN のアプローチの特質を押さえ、それを踏

まえて ASEAN の成長ドライバーである経済統合の進展を展望することが重

要である。

ASEAN は、1992 年に、アジア初の FTA である AFTA の形成を打ち出した。

AFTA では、ASEAN で生産された工業製品・農産品のほぼ全てについて、

関税の引き下げが目標とされた。発展途上国を主たる加盟国とする ASEAN

にとって、全ての品目の関税を一気に削減することは困難なため、各国が保

ホーチミン

プノンペン

バンコク

ダナン

ハノイ

昆明

南北経済回廊

東西経済回廊

南部経済回廊

ハイフォン

ダウェー

今後もさらなる連

結性強化により

分業が深化する

期待

ASEAN 域内関税

の 撤 廃 に よ る

AFTA 形成を推

ASEAN 発展の鍵

となる経済統合の

深化

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

13

護したい品目は一時除外品目(TEL)として認め、それ以外の品目を自由化

対象品目(IL)として段階的に貿易の自由化を進めることとした。当初のスケジ

ュールでは、1992 年時点で ASEAN に加盟していた先行 6 カ国が、IL の関

税を 2008 年までに 0~5%に引き下げることを目指した。しかし、同時期に

WTO やアジア太平洋経済協力(APEC)などの多国間自由貿易体制の確立

が世界的に進んだことから、ASEAN は優位性を保つための対抗策として、新

たに加盟国として認められた後発 4 カ国に対し 2015 年までの関税撤廃を求

めたほか、先行 6カ国の関税撤廃目標を 5年前倒しした(【図表 14】)。

その結果、先行 6カ国では、2003年には ILの関税撤廃を達成し、2010年に

は TELを含むほぼ全ての関税を撤廃した。また、後発 4カ国も順調に関税水

準を引き下げ、2015 年 2 月時点で平均関税率を 0.55%まで下げ、概ね全て

の関税を撤廃するに至った(ただし、一部品目は 2018 年まで関税撤廃が猶

予されている)。

【図表 14】 関税撤廃スケジュール

(出所)経済産業省「通商白書 2010」よりみずほ総合研究所作成

②AFTA を土台に AEC の発足を目指す

1997年の通貨危機以降、ASEAN諸国の経済が停滞する中、中国やインドな

どの新興大国の台頭が顕著となり、ASEAN が存在感を維持するためには、さ

らに踏み込んだ統合が必要となった。そのため、2003 年に AEC 構想が打ち

出された。AEC は、域内関税撤廃に加えて、非関税障壁撤廃、サービス貿

易・投資・労働者の移動の自由化、基準適合・相互認証などのより広範囲か

つ高レベルの経済統合に踏み出すことで、中国やインドに対抗しうる総人口 6

億人強の経済圏・単一市場の創設を目指すものである。AEC 実現に向けて、

2007 年に公表されたブループリントでは、2015 年までの戦略目標として、①

単一の市場と生産基地、②競争力ある経済地域、③衡平な経済発展、④世

界経済への統合の 4つが掲げられた(【図表 15】)。

AECは 2015年末に発足したものの、ブループリントに掲げられた 4つの戦略

目標の達成状況はまちまちで、特に経済統合に直結する重要目標である①

の達成が遅れている。ASEAN では、統合の進捗をモニターするために、スコ

アカードによる評価を行っている。2015 年 10 月時点のスコアカードでは、①

2015 年時点で全

加盟国の関税撤

廃は概ね完了

中国やインドへの

対 抗 策 と し て 、

AEC の創設を目

指す

関税撤廃以外の

統合措置の進捗

は遅れる

ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、

シンガポール、タイ

ベトナム

ラオス・ミャンマー

カンボジア

0~5%

(一部除く)0%

0~5%とする

対象品目を最大化0~5%へ 0%

0~5%とする

対象品目を最大化0~5%へ 0%

0~5%とする

対象品目を最大化0~5%へ 0%

2002年 2005年 2010年 2015年

先行6カ国

後発4カ国

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

14

の達成度は 92.4%にとどまった。AFTA を土台に関税撤廃が概ね完了した一

方で、非関税障壁撤廃には進展がみられなかったほか、サービス貿易や労働

者の移動は形式的な自由化にとどまり、実態的には参入や移動がかなり制限

されている。このため、実質的な達成度は上記の公表値よりも低いとみられる。

また、②の達成度も 90.5%にとどまり、海上輸送や租税(二重課税の防止)な

どの分野で出遅れている。一方、③と④については達成度 100%と評価されて

いる。なかでも④については、2000 年代半ばから ASEAN が中国、韓国、日

本などの周辺国と相次いで FTAを締結した実績が大きい。

2015年末のAEC発足時点で達成されなかった課題は、2015年 11月に発表

された新ブループリントで、2025 年までの計画として受け継がれた。新ブルー

プリントでは、旧ブループリントの 4分野から 5分野に戦略目標が改編された。

また、今回の修正には、非関税障壁撤廃などのこれまでの課題の克服に加え、

企業参入の妨げとなっている公的部門の不透明性の是正や、域内の競争力

強化に向けた技術移転の促進など、より高度な課題も盛り込まれ、ASEAN 統

合の深化を狙っている。

【図表 15】 AEC のブループリント(2007 年・2015 年策定)とスコアカードによる評価

(出所)ASEAN事務局資料よりみずほ総合研究所作成

(2)統合の深化は経済効果を発揮

AFTAに始まる経済統合は、貿易の活発化を通じてASEANの経済発展に効

果をもたらした。ASEANの域内貿易比率(域内貿易額÷対世界貿易額)をみ

ると、AFTA 発効以前の 1980 年代は 18%程度だったものが、1997 年のアジ

ア通貨危機後の一時的失速を経て、2000 年代には 25%程度まで上昇してい

る(【図表 16】)。この時期には、電気機械などの分野で、技術力に優位性を持

つ日本や韓国、台湾などと、労働力に優位性を持つ ASEAN の間で生産工

程が分業化される形で、ASEAN を巻き込んでアジア全体にサプライチェーン

が広がるようになった。さらに、ASEAN 域内では、自動車産業を中心に部品

毎に生産拠点を集約化して相互供給を行ったり、電気機器産業のように複数

国にまたがった生産拠点を製品毎に統合して一国に集約化したりする動きが

みられ、効率的なサプライチェーンの再構築が図られた。この結果、ASEAN

の域内貿易が盛んになった。

達成度①単一市場と生産基地 ①高度に統合した経済

ヒト ・ モノ・サービスの移動を自由化ヒト ・ モノ・サービスの移動を自由化グローバル・バリュー・チェーンへの参画強化

②競争力のある経済地域 ②競争力のある革新的でダイナミックなASEAN税制改革やガバナンス、生産性の向上により、競争力を強化

③高度化した連結性と分野別協力交通運輸・情報通信技術(ICT)・電子商取引・科学技術の整備

③衡平な経済発展 ④強靭で包括的、人間本位・人間中心のASEAN中小企業支援や格差是正に向けた協力枠組み(ASEAN統合イニシアチブ)を整備

中小企業強化や民間セクターの役割強化など

④世界経済との統合 ⑤グローバル経済への統合FTAによる域外経済との協調や、グローバルサプライチェーンへの参加

域外経済との経済連携の強化

AEC2015(2007年策定) AEC2025(2015年策定)

92.4%

インフラや法律などの競争基盤の整備

100%

100%

90.5%

未達分野は 2025

年を目標とする新

ブループリントに

継承

生産分業の進展

に伴い域内貿易

が活発化

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

15

また、2000 年代半ば以降は域内貿易比率の伸びは一服する中で、中国との

貿易比率が高まっている。2005年のASEAN・中国 FTA(ACFTA)発効を受け

て、ASEAN と中国の間では電子機器類・部品の輸出入、インドネシアから中

国への石炭輸出が盛んになっており、ASEANに広がったサプライチェーンは

中国ともつながって拡大していることが示唆される。台頭する中国への対抗が

ASEAN の経済統合の狙いの一つであったが、FTA の効果により ASEAN と

中国のサプライチェーンがつながったことで中国の発展の恩恵を ASEAN も

享受するようになり、ASEAN と中国の経済関係は対抗的なものから協調的な

ものに変質しつつある。

【図表 16】 ASEAN 貿易の相手先別構成比

(出所)UN Comtrade よりみずほ総合研究所作成

(3)今後も緩やかながら着実に経済統合は前進

上述のとおり、ASEAN の経済統合の効果は一定程度出てはいるものの、統

合のプロセス自体は道半ばである。ASEAN における経済統合への取り組み

は、あくまでそれぞれの国の自発性に委ねられてきた。統合への取り組みが

遅延しても、各国に対する罰則は規定されていない。その結果、各国の足並

みが揃いにくく、経済統合のペースも緩慢なものにとどまっているのが現状で

ある。このように漸進的アプローチをとる ASEAN の経済統合は、各国の主権

を移譲する行政機関を設立し、スピード感のある経済統合を実現した EU と比

較して低いレベルにとどまっており(【図表 17】)、否定的に評価する立場がか

つては主流であった。

しかし、近年は欧州債務危機により EU の経済統合における構造的問題が露

呈する中、主権喪失や域内移民などに関して EU 懐疑論が強まり、既に英国

の EU 離脱が決定したほか、一部の国では反 EU 政党の支持が高まるなど、

今や EU統合は後退の危機にさらされている。一方、ASEANでは、民族毎の

土着の文化に中国やインドからの外来文化、植民地時代の欧米宗主国の文

化の影響が重層的に加わって多様な文化・価値観が形成されており、移民問

題に揺れる欧州よりも異質性が強い。こうした ASEAN にとって、全会一致・内

政不干渉の原則に立って時間をかけて合意形成を図ることは現実的なアプロ

ーチとして、評価されるようになった。ASEANは、1992年にAFTAへの取り組

近年は中国との

間にサプライチェ

ーン拡大

EU に比べて緩慢

な ASEAN の経済

統合

ASEAN にとって

現実的選択であ

る漸進主義を今

後も維持

0

5

10

15

20

25

30

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

(%)

(年)

AFTA発効 対中FTA発効

域内貿易

活発化

中国との

連携強化

ASEAN

域内貿易

対中貿易

アジア

通貨危機

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

16

みを開始した後、国際情勢もにらみつつ 10 年単位の時間をかけて経済統合

を着実に前進させてきた。欧州が直面している状況を踏まえると、今後も

ASEANは EU型の拘束力の高い意思決定・行動方式を採用することなく、漸

進的アプローチに基づく統合を継続するだろう。その完成には、発展段階の

低い後発国を含む全ての国が高度で包括的な自由化・統合を政治・経済の

両面で受け入れる準備が整う必要があり、現行の AEC ブループリントが目標

とする 2025年を超える長期を要する可能性があろう。

【図表 17】 AEC と EU との比較

(出所)石川・清水・助川(2013)等よりみずほ総合研究所作成

(注)〇:対象としている。△:対象としているが範囲が限定、あるいは 100%実現は困難

×:対象としていない

AEC EU

関税撤廃 ○ ○

非関税障壁撤廃 ○ ○

貿易円滑化 ○ ○

域外共通関税 × ○

規格相互承認 △ ○

サービス貿易自由化 ○ ○

投資自由化 ○ ○

ヒトの移動 △ ○

知的所有権保護 ○ ○

政府調達開放 × ○

競争政策 △ ○

域内協力 ○ ○

共通通貨 × ○

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

17

3. 今後 5 年程度の各国の成長シナリオ

【図表 18】 ASEAN 各国の主要指標(2016 年)と今後 5 年の成長率見通し

(出所)IMF、国連人口部よりみずほ総合研究所作成

(注)過去 5年は 2012~2016年、今後 5年は 2017~2021年。人口予測は国連によるもので、成長率予測は

みずほ総合研究所の見通し

(1)シンガポール

シンガポールは 2000 年代に年平均+6%台の高成長を遂げたが、2015 年と

2016 年の成長率は低く、それぞれ前年比+1.9%と同+2.0%に過ぎなかった。

ASEAN の先頭に立ってグローバル化を進めてきたシンガポールは、2000 年

代には世界的なサプライチェーンの拡大と世界経済の成長加速を背景とする

国際貿易拡大の効果を享受して高成長を遂げた。しかし、2008 年の世界金

融危機後の先進国の低迷、その後の中国をはじめとする新興国の減速の影

響を受ける形で国際貿易が失速したことから、シンガポール経済は低成長に

陥った。また、石油リグの主要生産国であるシンガポールは、資源価格下落

によるマイナスの影響も受けている。

少子高齢化により潜在成長率にも低下圧力がかかっている。これまでは外国

人労働者を積極的に受け入れることで低下圧力を緩和してきたが、外国人の

流入拡大に伴い不動産価格上昇、交通混雑などの問題が引き起こされてい

るほか、賃金上昇が抑制されているとして国民の反発が強まっている。政府は

近年、外国人労働力の受け入れペースを抑える方針に転じており、労働力供

給の制約が強まる恐れがある。中期的には労働投入の伸びが低下し、潜在

成長率を下押しする要因となることが予想される。

こうした状況を踏まえ、政府は 2016~2020 年の研究開発投資額を、2011~

2015年の 160億シンガポールドルから 190億シンガポールドルに引き上げる

研究開発投資計画を打ち出した。また、諮問機関の未来経済委員会が、産

業構造改革の推進や労働力の質的転換などによる生産性の上昇を図り、長

期的な経済成長の維持を目指す戦略を提言した(【図表 19】)。その戦略の実

現のために、政府は今後 4 年間で 24 億シンガポールドルを投じることを発表

した。まずはシンガポール企業および人材の国際化、地場中小企業や起業

家に対する支援を拡充する。今後も成長戦略実現のための具体的施策が打

ち出される方向だ。

実績過去5年平均

予測今後5年平均

実績過去5年平均

予測今後5年平均

シンガポール 2.0 2.4 2,970 561 52,964 1.9 1.3 1.5 0.6

マレーシア 4.2 4.9 2,964 3,166 9,360 1.5 1.3 1.9 1.4

タイ 3.2 3.1 4,069 6,898 5,899 0.4 0.1 0.3 ▲ 0.2

インドネシア 5.0 5.2 9,324 25,871 3,604 1.3 1.0 1.5 1.3

フィリピン 6.9 6.3 3,047 10,420 2,924 1.6 1.5 1.9 1.7

ベトナム 6.2 6.2 2,013 9,264 2,173 1.1 0.9 1.1 0.6

ミャンマー 6.3 7~8 663 5,225 1,269 0.8 0.8 1.4 1.3

カンボジア 7.0 7~8 194 1,578 1,230 1.6 1.5 2.0 1.5

ラオス 6.9 7~8 138 716 1,925 1.7 1.7 2.3 2.0

全人口(前年比、%)

生産年齢人口(前年比、%)実質GDP

成長率(前年比、%)

名目GDP(億米ドル)

人口(万人)

1人当たり名目GDP(米ドル)

実質GDP成長率予測値(今後5年平均値、前年比%)

近年は国際貿易

失速の悪影響を

受け低成長に陥

今後は少子高齢

化の影響が大き

くなる見通し

生産性の上昇を

通じて長期的な

成長の維持を目

指す

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

18

今後を展望すると、世界経済は、減税やインフラ投資の効果による米国の回

復などから緩やかな持ち直しが見込まれる一方、国際分業の停滞や保護主

義の台頭が世界貿易の拡大を抑制する要因となる。そうした中で、シンガポー

ルは、上述の成長戦略の実行により高度なインフラ、経済法制、人的資源が

有する潜在力を顕在化させることで生産性を高めつつ、高い国際競争力を発

揮することで、世界経済回復の効果を享受しやすい状況を維持する見込みだ。

アジア生産性機構(APO)の推計によると(【図表 20】)、2010~2014 年の年平

均成長率+4.4%のうち、労働投入の寄与度は+1.2%PT、資本投入は+2.9%PT

で、全要素生産性(TFP)については+0.2%PT にすぎなかった(四捨五入)。

今後 5 年間については、少子高齢化の影響で、労働投入の寄与度縮小や、

貯蓄率低下に伴う資本投入の寄与度縮小が見込まれるものの、TFP が持ち

直すことで、年平均+2%台後半の成長を維持することは可能であろう。

【図表 19】 未来経済委員会が提言した戦略

1 国際的関係の進化・多様化

2 優れた技術の獲得・活用

3 技術革新と規模拡大に向けた企業の能力強化

4 確固たる情報技術活用力の育成

5 ビジネスの機会に満ち溢れ、活力のあるハブ都市の開発

6 産業構造改革計画の策定と、その実施

7 技術革新と成長を可能にする官民等の協力関係の構築

(出所)未来経済委員会資料よりみずほ総合研究所作成

【図表 20】 シンガポールの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

成長戦略の推進

により高い国際

競争力を発揮し

つ つ +2% 台 半 ば

の成長が持続す

る見通し

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

7

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性

労働

資本

成長率

(年率、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

19

(2)マレーシア

2016年までの過去 5年間の平均実質 GDP 成長率は+5.1%と、マレーシア経

済は着実な成長を維持した。2016 年には通貨リンギが売り込まれ、緊縮財政

政策が採用される状況に至ったにもかかわらず、前年比+4.2%の底堅い成長

を実現した。マレーシア経済には、①原油・パーム油など一次産品の強固な

輸出基盤、②開放的な経済政策と幅広い輸出型製造業の集積、③サービス

業におけるイスラムビジネス(イスラム金融、ハラール認証、イスラム圏観光客

の受け入れ)の発展、④イスラム圏からの外国人労働者の受け入れが容易、と

いった強みがあり、これらが経済成長の原動力となっている。

一方、マレーシアの弱みは、いわゆるブミプトラ政策が聖域として残されている

ことだろう。これは、教育や就職などでマレー系等の先住民を優遇するもので、

政府・国営企業などの非効率・汚職体質残存や、優秀な華人の国外流出など

を招いている。同政策の見直しが実現できれば、生産性が大きく向上すること

が期待される。ただし、同政策は現与党連合の重要な存立基盤であり、微修

正程度であればともかく、その根幹が見直されることはないとみられる。マレー

シアが参加した TPP 交渉においても同政策の見直しが焦点の一つであった

が、抜本的な見直しは行われず交渉合意に至った。マレーシアが上述の優

位性を活かすことで経済発展を持続することは可能だが、聖域に切り込む改

革が実現できない限り、将来的にシンガポールの地位を脅かすほどの発展は

難しいだろう。

今後を展望すると、2015 年 3 月の第 11 次マレーシア計画(2016~2020 年)

で打ち出された技術・職業訓練の充実や交通などのインフラ高度化を通じて

生産性の向上が進展すると見込まれる。また、マレーシアの優位性の一つで

あるイスラムビジネスは、原油価格の緩やかな上昇に伴う中東経済の持ち直

しが追い風となって経済成長に寄与するだろう。一方、労働投入を支えてきた

外国人労働力の流入に対しては、政府が不法流入を抑えて秩序だった受け

入れを進めるため、やや抑制する方針に転じており、従来ほどには経済成長

に寄与しないだろう。近年の年平均+5%台の成長率のうち、労働投入の寄与

度は+1%PT 程度、資本投入は+3%PT 程度、TFP は+1%PT ほどであった

(【図表 21】)。今後 5年間を展望すると、労働と資本の要素投入による寄与度

は前者を中心に低下するのに対し、これを TFPの緩やかな改善で緩和するこ

とで、年平均+4%台後半の成長率を維持すると予測する。

マレーシア政府は、2020年までに先進国入りを目指す計画の一環として 1人

当たり総国民所得(GNI)を 15,000 ドルに引き上げる目標をかねてから示して

きたが、2016年時点の 1人当たり GNIは 9,102 ドルにとどまっている。目標達

成には、今後 4 年間のドル換算 GNI の年平均成長率を+13.3%以上に保つ

必要があり、実現は事実上無理である。目標達成が視野に入るまでには10年

程度の期間を想定すべきだろう。

直近 5 年は年平

均 +5% 台 の 堅 調

な成長を維持

非効率性の原因

であるブミプトラ

政策は今後も持

生産性向上とイ

スラムビジネスの

発展などを軸に

+4% 台 後 半 の 成

長を維持する見

通し

マレーシア政府

が目標とする先

進国入りの達成

には 10 年程度の

期間を要する

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

20

【図表 21】 マレーシアの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

(3)タイ

資本集約型産業を振興し上位中所得国に発展したタイが、近年は経済の停

滞に直面している。過去 5 年の成長率は年平均+3.4%にとどまった。成長モ

デルの転換を通じた高所得国入りの準備が整う前に生産年齢人口が 2017年

から減少に転じるなど、少子高齢化で活力が失われている。2006 年のクーデ

ターによるタクシン政権崩壊後の政治混乱長期化の中で経済政策は迷走し、

新たな成長モデルの提示が遅れてきたが、軍政はタクシン政権の経済ブレー

ンだったソムキット氏を 2015 年から副首相に抜擢し、低廉な労働力を有する

CLM の活用や国内の産業高度化を柱とする新たな成長戦略を打ち出してい

る。

CLM の活用については、2017 年からの 5 年間で 1.5 兆バーツ(約 4 兆 5 千

億円)を投じる道路、鉄道、港湾、空港などのインフラ整備計画の一環として、

タイと CLMを結ぶインフラも建設する。また、ODA予算で CLM国内でのイン

フラ整備にも取り組んでおり、例えばタイ国境からミャンマーのダウェー経済特

区(SEZ)を結ぶ 132 キロの南部経済回廊延伸について、タイが 45 億バーツ

(約 145億円)の借款供与を持ちかけ、ミャンマー政府も 2017年 2月にこれを

承認した。連結性強化を通じて CLM との分業を深め、生産性の向上や、市

場の開拓を目指す。

国内の産業高度化については、2015 年に「クラスター型経済特別区」の政策

が打ち出された。自動車産業やソフトウェアなどの高付加価値産業を特定の

地域に集積させることで、イノベーションを円滑化するものである。また、同年

には「Thailand4.0」の計画も示された。自動車等の 5 つの既存産業に加え、ロ

ボット産業等の 5 つの知識集約型産業を育成するものだ。「Thailand4.0」の実

現に資する投資に対しては過去最大の恩典が付与される上、首都バンコク近

郊の 3 県を「東部経済回廊(EEC)」として 10 産業誘致の重点地域に指定す

るとともに、インフラも整備する。

高度産業を担う研究者の厚みを欠くタイが高度産業育成を果たすには時間

がかかる。タイ政府が目指す高所得国入りは、2036 年を目標とする長期計画

だ。2018 年には軍政から民政への移管に向けた総選挙が実施される予定だ

経済停滞が続く

中、新たな成長

戦略を打ち出す

CLM との連結性

を強化

国内では高度産

業の集積による

イノベーションを

推進

今後 5 年間は高

所得国入りに向

けた助走期間

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性

労働

資本

成長率

(年率、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

21

が、総選挙の規定を基にすると次期政権でも軍部の影響力が強く残る見込み

であるため、現行の成長戦略は継承されそうだ。今後 5 年は「2036 年までの

高所得国入り」という長期目標に向けた助走期間という位置づけになり、生産

年齢人口の減少により労働投入が成長率を下押しする一方、成長戦略による

生産性の向上は緩やかなものにとどまるだろう。近年のタイは、既に高齢化の

影響で労働投入の成長率寄与度はマイナスとなっていたなかで、資本投入と

TFPが共に+2%PT程度寄与して年平均+3%台半ばの成長を続けてきた(【図

表 22】)。今後 5 年間の成長率については、労働投入の寄与度がさらにマイ

ナス幅を広げて成長率は鈍化する可能性が高い。ただし、資本投入の寄与

度はインフラ投資の下支えで保ち合いとなり、TFP は緩やかに改善するため、

成長率は年平均+3%台前半を維持する見通しである。

ただし、2018 年に想定される民政移管後も、軍部の影響が残ることに関して

は、軍のクーデターによって政権を追われていたタクシン派が反発を強める恐

れがある。軍部とタクシン派の対立が再燃すれば、先行き不透明感から民間

企業や外資の投資が冷え込むリスクが懸念される。

【図表 22】 タイの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

(4)インドネシア

2011 年には+6.2%だったインドネシアの実質 GDP 成長率は、その後減速傾

向をたどり、2016 年には前年比+5.0%になった。減速の主因は、資源価格下

落の影響による経常収支の悪化、それを背景とする通貨安に対応して、2013

年 6月から 11月にかけて中央銀行が政策金利を計 2%PT引き上げ、金融引

締めを継続したことである。資源価格が下落に転じたことで資源部門は成長ド

ライバーとしての機能を喪失した。今後については、ハイブリッド車や電気自

動車の普及によって単位当たりの原油消費はさらに減少し、原油需要の増加

ペースは緩慢となることで、原油価格の上昇は緩やかなものに抑制されると想

定される。このような状況下で、資源部門全般について、インドネシア経済の

けん引役を期待することは難しい。

政治対立の再燃

がリスク

過去 5 年は減速

傾 向 を た ど り 、

2016 年に成長率

は 前 年 比 +5% に

低下

▲ 3

▲ 2

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性

労働

資本

成長率

(年率、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

22

今後の労働投入を左右する生産年齢人口の増加率はやや鈍化するものの、

向こう 5 年間はプラスで推移する見通しである。この予測に基づくと、当面は

労働投入要因が引き続き成長に一定の寄与をすると考えられる。また、今後

も中間層世帯の厚みが増していくことが予想され、これが内需狙いの対内直

接投資の誘因となり続ける。

インドネシアは、2004年に策定した長期計画において、2025年までの今後約

10 年の間に、上位中所得国入りを果たすという目標を掲げて改革に取り組ん

でいる。2014 年に就任したジョコ・ウィドド大統領は、資源関連産業の高付加

価値化および海外からの企業誘致を通じた輸出・産業振興を図るために、投

資環境の改善を改革の旗印に掲げてきた。例えば、企業活動を阻害するイン

フラ不足の問題を改善するため、補助金等の抑制を通じてインフラ整備費に

対する予算配分を高めたほか、段階的に発表された 15 弾の政策パッケージ

の中で投資許認可手続きや輸出入手続きの簡素化を打ち出してきた。また、

国有石油会社のプルタミナの経営改革や、主要産油国からの投資誘致を推

進している。

改革にはある程度の時間を要すると同時に、一枚岩でない議会や行政府をま

とめるだけの政治力も求められる。ジョコ大統領は就任直後こそ支持率の低

下に見舞われて思うように改革を進められなかったが、徐々に政治的な手腕

を発揮して支持率を高め、議会からの支持も取り付け始めており、政策は実

行に移りつつある。こうした状況を勘案すると中期的には改革が進展すると考

えられる。近年の年平均+5%程度の成長率を寄与度分解すると、労働投入が

+0.5%PT 程度、資本投入が+3%PT 強、TFP が+1%PT 台半ばだった(【図表

23】)。今後は、徐々に投資環境が改善して資本投入の伸びが加速し、5 年後

にかけて成長率は前年比+5%台半ば程度に向かうと予想される。

【図表 23】 インドネシアの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

今後も生産年齢

人口の増加と中

間層の拡大は続

外資誘致を通じ

た産業振興のた

め投資環境改善

に取り組み

改革は徐々に進

展し、 成長率は

+5% 台 半 ば に 向

かう

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性労働資本成長率

(年率、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

23

(5)フィリピン

フィリピンでは、前アキノ政権(2010~2016 年)による汚職対策の強化や治安

の安定化などの取り組みが投資環境の改善につながった結果、同政権下の

実質 GDP成長率は、年平均+6.1%に達した。

フィリピンは今後も ASEAN の中で最も高い生産年齢人口の伸びが見込まれ

る国の一つであるため、労働投入要因は中期的に成長を下支えすると考えら

れる。また、1 億人超の人口を有するフィリピンで人口増加と所得の上昇が続

くことにより、中間層が 2022年にはタイを上回る 1,819万世帯に達する見通し

である。厚みのある中間層の購買力が誘因となって、対内直接投資を引き付

ける潜在力を有するといえよう。

2016年 6月に就任したドゥテルテ大統領は、フィリピンの潜在力を発揮するた

め、基本的に前アキノ政権の改革路線を継承して汚職対策強化、人材育成、

治安対策強化、インフラ整備などに取り組む方針を打ち出している。特にイン

フラ整備には積極的であり、インフラ整備費を年々拡大させることを表明して

いる(【図表 24】)。

南シナ海問題で対立する中国との関係は前アキノ政権下で大幅に悪化した

が、ドゥテルテ政権は中国による経済協力などの実利を重視し、対中関係改

善に向けた外交努力を進めている。これを受けて中国がインフラ整備に約

240 億ドル(約 2 兆 6000 億円)規模の支援を打ち出したほか、中国からの観

光客数も大幅に増加するなど、既にいくつかの成果がみられる。

フィリピン語と共に英語を公用語とするフィリピンの人材面の優位性や、ドゥテ

ルテ政権の改革の進展による投資促進効果が中期的なフィリピン経済の成長

に寄与するだろう。アキノ政権下に改革の成果で年平均+6.1%に達した成長

率は、今後 5 年間も年平均+6%超の高水準で推移すると予想される。成長率

寄与度についても、アキノ政権下と同様に、労働投入が+1%PT、資本投入が

+2%PT 強、TFP が+3%PT 強となり、投資の拡大が生産性の向上にも波及す

ると期待される(【図表 25】)。さらに先を展望すれば、10 年以内にはフィリピン

の上位中所得国入りも視野に入ってくるだろう。

ただし、ドゥテルテ政権の超法規的な麻薬取り締まりの手法に対して、欧米諸

国から人権侵害との批判を招いていることには注意が必要だ。人権問題に敏

感な欧米企業が投資を控える展開となれば、ドゥテルテ政権の狙い通りに投

資促進が実現しない恐れがある。

【図表 24】 フィリピンのインフラ整備計画

(出所)フィリピン政府資料よりみずほ総合研究所作成

前政権の投資環

境改善努力で高

成長を達成

中間層の厚みが

対内直接投資を

引き付ける潜在

ドゥテルテ政権は

前政権の改革路

線を継承し、投資

促進を図る

中国との関係改

善を進め、インフ

ラ整備への協力

を取り付け

人材面での優位

性の維持と改革

の進展による投

資促進に支えら

れ、中期的に高

成長を持続

強硬な犯罪対策

を批判する欧米と

の関係悪化のリス

クが懸念

5.3%

6.7%

7.1% 7.1%7.2%

7.4%

0

500

1,000

1,500

2,000

4%

5%

6%

7%

8%

2017 2018 2019 2020 2021 2022

金額(右目盛) 名目GDP比(左目盛)(名目GDP比) (10億ペソ)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

24

【図表 25】 フィリピンの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

(6)ベトナム

ベトナムでは外資系企業の参入が成長のドライバーとなり、過去 5 年間の平

均成長率は+5.9%と高成長を維持した。2001 年の米国との通商協定発効や

2007年のWTO加盟といった対外開放策により、国内の法制度を世界標準に

合わせる改革が進められたことで、2005 年に 33 億ドルだった対内直接投資

額は、2016年には 158億ドルまで拡大した。この結果、GDPの約 2割を外資

系企業が担うまでとなっている。特に近年は韓国勢を中心としたスマートフォ

ンの組立工場など IT 産業の労働集約的分野で対内直接投資が急増し(【図

表 26】)、ベトナムの輸出競争力向上に大きく貢献した。

ベトナムは、TPP や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などのメガ FTA へ

の参画や EU との FTA(EVFTA)など、ASEANの中でグローバル化での先行

性は際立っている。EVFTA については 2015 年末に最終合意に至っており、

2018 年には発効する見通しである。EU は 7 年後、ベトナムは 10 年後までに

貿易額と品目数の 99%において関税を撤廃する予定だ。また、米国が離脱し

た TPP に代わって、ベトナム政府は米国との 2 国間 FTA の締結に向けて舵

を切り始めている。これらの取り組みが実れば、ベトナムが進める外資導入に

よる輸出志向型工業化に大きく寄与するものとみられる。

ベトナムの労働力に対する評価が高いことも、外資誘致に有利な条件となっ

ている。例えば、国際協力銀行が日本企業を対象に行ったアンケートによると、

ベトナムで事業を行う有望理由として、「安価な労働力」と「優秀な人材」が、他

の国に比べて高く評価されている(【図表 27】)。こうした低廉で優秀な労働力

の優位性は短期で失われるものではなく、現時点においても韓国企業や日本

企業による中期的な投資計画が存在していることを踏まえると、当面は外資主

導の成長モデルが継続すると予想される。

対外開放策によ

り外資主導で経

済成長

さらなる対外開放

に積極的で、グロ

ーバル化を推進

低廉で優秀な労

働力が多いことも

誘因となり、労働

集約型産業にお

ける外資主導の

成長が持続

▲ 2

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

7

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性

労働

資本

成長率

(年率、%)

(年)

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

25

ベトナムは、中長期的には上位中所得国入りを目指すステージにある。当面

は労働集約型産業を中心に外資参入が見込めるが、今後、生産年齢人口の

伸びが大きく低下していくため、比較的早い段階から資本集約型産業への構

造転換を進めることが求められる。資本集約型産業誘致の基盤となるインフラ

整備は重要である。

ただし、過剰な公的債務の積み上がりは、インフラ整備の足かせになりかねな

い。ベトナム財務省は、2016 年の公的債務の名目 GDP 比が 64.73%となり、

政府が定める債務上限の65%に迫っていることを明らかにした。政府は、公的

債務を抑制するために、その 2 割を占める政府保証債務に目を付け、国営企

業がインフラ投資のために行う新規借り入れに対して、政府保証を停止すると

発表した。ベトナムでは国営企業が交通や電力などのインフラ整備の一翼を

担ってきたことから、債務保証の停止はインフラ整備の足かせになることが懸

念される。そうした事態を回避する上で、国営企業の売却や民間資金の活用

などを通じた財政再建の成否が問われている。

今後 5 年程度を見通すと、生産年齢人口の減速は下押し要因となり、労働投

入の成長率寄与度は近年にゼロ近傍だったものが、マイナスとなる可能性が

ある(【図表 28】)。しかし、外資導入による資本蓄積と生産性向上がドライバ

ーとなることで、近年にそれぞれ 5%PT弱、1%PT弱だった資本投入と TFPの

寄与度が拡大し、年平均+6%台前半の成長が継続するだろう。もっとも、この

ペースで成長を続ける場合、上位中所得国入りを果たす時期は今後 5 年より

もさらに先となる。上位中所得国入りを確実にするために、外資系企業からの

技術移転の促進や優秀な人材を生かした地場産業の育成などに取り組むこ

とで、生産性向上に努める必要があるだろう。

【図表 26】 ベトナムの業種別直接投資残高(製造業) 【図表 27】 事業展開を行う上での有望理由

(出所)ベトナム投資計画省よりみずほ総合研究所作成

(注)累積額上位 5位の産業

(出所)国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開

に関する調査報告」よりみずほ総合研究所作成

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

2010 2011 2012 2013 2014 2015

エレクトロニクス 繊維

化学 鉄・鉄製品

食品加工

(2010年からの累積、億米ドル)

(年)

0

10

20

30

40

50

0 5 10 15 20

ベトナムミャンマー

フィリピン

メキシコインドネシア

インドタイ

中国

ブラジル

米国

(得票率、%)

(得票率、%)

安価な労働力

優秀な人材

今後 10 年を展望

すると、下位中所

得国から上位中

所得国への過渡

財政難で投資環

境を整備するイ

ン フラ 投資に は

支障の懸念

今後 5 年の成長

率 は 年 平 均 +6%

台前半の見通し

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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【図表 28】 ベトナムの成長会計

(出所)Asia Productivity Organization よりみずほ総合研究所作成

(7)ミャンマー

ミャンマーでは、2011 年に軍政が半世紀ぶりに終了して以来、成長率は軍政

末期の前年比+5%台から同+7~8%程度に上昇している。高成長が続く中で、

2014 年には低所得国から下位中所得国へと移行し、産業面では農業中心の

段階から労働集約型製造業が勃興する段階となっている。発展の背景には、

2011 年からの連邦団結発展党(USDP)政権が、民政復帰を機に国際社会か

ら孤立した閉鎖的体制を改めて改革開放へと舵を切ったことがある。さらに、

2016年4月にUSDPからアウン・サン・スー・チー党首の国民民主連盟(NLD)

政権に交代した後も、日本と共同で商都ヤンゴン郊外に開発しているティラワ

経済特区(SEZ)の拡張開始や、外国企業に内国民待遇を与える新投資法の

整備など、経済発展に向けた取り組みが強化されている。

今後の成長をけん引する要因の一つは、タイとの連結性強化だろう。第 1 に、

これまで遅れていた連結性強化のためのインフラ整備が、タイや日本の援助

を活用する形で急速に進むと予想されるからだ。柱となる事業として計画され

ているのが、バンコクから西へ 250km、インド洋に面するダウェーにおいて、タ

イおよび日本と共同で開発する SEZである。これに合わせてタイ国境からダウ

ェーSEZ を結ぶ 132 キロの道路を一体開発する計画に対し、タイが 45 億バ

ーツの借款を供与することが決まっている。第 2に、労働コストの高い隣国タイ

から労働集約型産業が進出する形でタイとの分業モデル(タイプラスワン)の

進展が見込まれるからだ。ミャンマー側のインフラ不足などから、これまで企業

はタイプラスワンの投資に及び腰であったが、今後のインフラ整備の進展を受

けて進出が徐々に加速する可能性がある。

ダウェーSEZ は初期開発事業だけで少なくとも 1,800 億円の規模とされ、ティ

ラワ SEZ の初期開発の 10 倍に相当する巨大プロジェクトだ。初期開発の完

成には 8 年を要すると見積もられており、まずはタイとの連結性強化の基盤と

なるインフラ投資が経済効果として現れることになりそうだ。その上でタイプラ

スワンの直接投資が拡大し、国境をまたぐサプライチェーンは計 10 年程度を

かけて広がっていくとみられる。

経済発展の条件

が整ってきたミャ

ンマー

今 後 は タ イ と の

連結性が強化

ダウェーSEZ 開

発が進展し連結

性強化の効果は

10 年程度をかけ

て本格化

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

1995-2000 2000-2005 2005-2010 2010-2014

全要素生産性

労働

資本

成長率

(年率、%)

(年)

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ミャンマーの人口は 5,225 万人と ASEAN の中で比較的規模が大きいため、

低廉な労働力の活用を目指した直接投資だけでなく、内需の成長性に着目

した直接投資も見込まれる。実際、工業団地の販売好調を受けて拡張が始ま

ったティラワ SEZでは、ミャンマーでの内販をターゲットに製造を行う企業の進

出が目立っている。人口が 1,578万人にとどまるカンボジアや 716万人のラオ

スはタイプラスワンの受け皿としての輸出型製造業進出が主体であるのに対し、

ミャンマーは産業の裾野が拡大する潜在力を有しているといえよう。

今後 5 年を展望すると、生産年齢人口の伸びが過去 5 年と同程度の年平均

+1.3%程度で推移する見通しの下、労働集約的分野への直接投資が拡大し

て労働投入が成長に寄与するとみられる。併せて、上述のインフラ投資進展と

内需狙いの直接投資拡大が成長をけん引するとみられる。今後 5年の年平均

成長率は+7~8%の高率を維持すると予想される。

もっとも、ミャンマーでは、NLD政権移行後も少数民族との武力対立が続いて

いることには注意が必要だ。特に、国軍が過激派討伐を理由にイスラム系ロヒ

ンギャ族を虐殺したとの疑惑が浮上している。NLD は、ロヒンギャ族と対立す

る国内多数派の仏教徒に配慮して、問題解決には及び腰と指摘される。また、

国軍は憲法の規定に基づき国政に一定の影響力を有するため、政権運営に

国軍の協力が必要な NLD は、国軍がロヒンギャ族を攻撃することに対してブ

レーキをかけにくい立場にあるとされる。民主化を進めて外国からの経済協力

や直接投資を引き付けてきたミャンマーが、少数民族の人権抑圧や国軍の暴

走を許すことになれば、経済協力や直接投資の受け入れに支障をきたすリス

クが懸念される。

(8)カンボジア

カンボジアは、2015 年までの 5 年間に年平均+7%台の高成長を続け、低所

得国から下位中所得国へ移行した。2016 年の実質 GDP 成長率は未公表な

がら、前年比+7%程度の成長が続いたもようである。成長の原動力は、労働

集約型の縫製業による輸出と、海外からの資金を活用したインフラや不動産

の建設投資であった。

今後は、タイが CLMの低廉な労働力を活用しつつ自国内で産業構造を高度

化する分業モデルを志向する中で、賃金の低いカンボジアに向けて、タイの

労働集約型産業を移管または補完する目的での企業進出が増えると考えら

れる。こうした投資を受け入れる上でカンボジアは、タイとつながる道路インフ

ラ整備と国内の SEZ開発でミャンマーに先行している点が有利である。特に、

カンボジアの中でもタイ国境沿いに点在する SEZ は、バンコクから経済回廊

で 3 時間の圏内にあり、タイとのサプライチェーンの中で労働集約工程を行う

のに有望なエリアである。

また、近年はインフラ整備に対する中国の支援が目立っている。インフラ整備

資金を必要とするカンボジアと、「一帯一路」構想の下で ASEAN を組み込ん

だ経済圏の設立を目指す中国の利害が一致したものとみられる。2016 年 10

月に習近平国家主席がカンボジアを訪問した際にも 2億 4千万ドルの借款供

与が表明された。カンボジアは、中国が批判の対象となりやすい国際会議な

どの場でも中国寄りの姿勢を明確にしており、対中関係を基盤にインフラ整備

人口が多いため、

内需を目指した

直接投資も拡大

今後 5 年の成長

率は年平均+7~

8%で推移する見

通し

リスクは少数民

族との対立で民

主化の果実が損

なわれること

縫製業の輸出と

建設投資の拡大

が成長の原動力

今後は人件費が

上昇したタイとの

分業モデルの中

で労働集約型産

業が発展

中国の支援など

を活用したインフ

ラ 整 備 が続 く 見

通し

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を進展させることが予想される。

政府は、2015年に策定した産業開発政策の中で、2025年までに労働集約型

産業から技術・知識集約型産業に高度化することを目指している。具体的な

数値目標としては、輸出に占める縫製品以外の製品の比率を 2013 年の 1%

から 2025 年までに 15%にすることなどを設定している。縫製業などの軽工業

主体の段階から、10年間で技術主導・知識集約型に急転換するという野心的

なビジョンが打ち上げられた背景には、今後投資環境整備が進むミャンマー

が追い上げてくることへの危機感があるようだ。

もっとも、ASEAN の中で最速で経済発展を遂げたシンガポールでも、下位中

所得国から高所得国に移行するまでに 20 年ほどを要している。カンボジアが

10 年でこれを達成する目標は非現実的であろう。現実的視点に立って今後 5

年間を展望すると、中国などの支援を受けてインフラ整備が進む中で、自動

車やエレクトロニクス関連の労働集約的分野でタイと分業する形での直接投

資拡大が見込まれる。現状の縫製業中心の産業構造からの転換が始まり、資

本投入と生産性の伸びが緩やかに高まるだろう。生産年齢人口が年平均

+1.5%の伸びで増加することに伴う労働投入の寄与が続くことも踏まえると、成

長率は前年比+7~8%と高めの水準で推移すると予測される。

(9)ラオス

ラオスの実質 GDP成長率は 2000年代半ば以降、前年比+7~8%と堅調に推

移している。経済発展段階は 2010 年に低所得国から下位中所得国に移行し、

産業面では農業、水力発電、金属鉱物などの資源関連に加えて、労働集約

型の軽工業が発展し始めたところである。

ラオスの強みは、カンボジアと同様に、タイと連結する道路や国境地帯の SEZ

開発が進んでいることだ。これを受けて、タイから労働集約型の産業がラオス

に分散立地する動きが既にみられている。こうした企業展開は今後もタイが

CLM との連携を強める中で広がっていくとみられる。もっとも、ラオスの人口は

716 万人で、カンボジア(1,578 万人)やミャンマー(5,225 万人)より少ないた

め、大量に人員を採用する大企業には不向きである。雇用規模の小さい中小

企業の進出が中心になると思われる。

また、中国が大部分の費用を負担して建設する鉄道も、今後の成長ドライバ

ーになる。近年、ラオスは中国寄りの外交を展開しており、中国側もラオスへ

の経済協力姿勢を強めている。中国との国境にある北部のボーテンから、南

部の首都ビエンチャンまで 400kmの区間に、総工費 60億ドル(ラオスの名目

GDP 比 43%)をかけて鉄道を建設する工事が 2016 年末に始まった。全区間

を中国企業が落札し、設備には中国製を使うため、工費の全てがラオスに落

ちるわけではないものの、一定の経済波及効果は見込まれる。

ボーテンは中国に接し、ビエンチャンはタイ国境に位置するため、2021 年に

鉄道が完成すると、ラオスを介して中国とタイの連結性が向上する。鉄道の運

行が始まると、中国との間にもサプライチェーンが広がるであろう。将来的にラ

オスはタイと中国のサプライチェーンの結節点として、製造業や物流の集積が

進む可能性がある。

ミャンマーによる

追い上げの危機

感から産業高度

化を急ぐ

今後 5 年間は産

業構造の転換の

中で成長率は前

年比+7~8%で推

労働集約型軽工

業の発展が始ま

今 後 は タ イ と の

分業を目的とした

中小企業の進出

が増加

中国の支援を受

けてインフラ整備

を促進

将来的には中国

とタイの結節点に

なる可能性

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今後 5年を展望すると、タイ国境付近での労働集約型産業の直接投資拡大、

2021 年までの鉄道インフラ投資が成長率の押し上げ要因となるほか、生産年

齢人口が年平均+2%の伸びを維持して労働投入の成長への寄与が続く見通

しである。実質 GDP 成長率は、引き続き前年比+7~8%程度で推移すると予

測される。

4. まとめ ~5 年後の ASEAN の全体像~

冒頭で述べた通り、ASEAN は、個々の国が有する異なる優位性や特性が多

様な成長ドライバーとして機能することで、安定成長を維持してきた。今後、こ

れまでの成長ドライバーの一部は変化あるいは機能を低下させるとみられる

が、全体として多様な成長ドライバーが安定成長に寄与する構図は変わらな

いだろう。

個々の成長ドライバーの先行きを改めて整理すると、まず経済発展段階と比

較優位産業の多様性については、今後 5~10年の間に幾つかの国が上位の

発展段階に移行するステージを迎えることになり、それに伴い個々の国の比

較優位産業も変化していくことになる。もっとも、各国の経済発展段階が多段

階に分散している ASEAN の構造は変わらず、ASEAN の経済統合が緩やか

に進展していく中で、例えばタイプラスワンのように各国の優位性と特性を相

互に補完し合う構図も維持されるだろう。次に、ASEAN の中で人口規模の大

きいインドネシア、フィリピン、ベトナムなどの国における中間層の厚みが引き

続き成長ドライバーとなるだろう。これらの国では中期的に中間層の拡大が続

き、それを誘因とする対内直接投資の増加や内需主導の自律的な成長が見

込まれる。さらに、幾つかの国において、対外援助を拡大する中国との外交

関係を基盤としてインフラ整備を促進する動きや、陸の ASEAN を中心とした

連結性の強化が成長を促す状況も続くだろう。

一方、資源ブームが終了したことにより、マレーシアやインドネシアといった国

が有する豊富な天然資源は、成長ドライバーとしての機能を大きく低下させる

ことになる。これらの国が豊富な天然資源を今後も活かしていくためには、資

源加工型産業の発展を通じた高付加価値化が必要となる。マレーシアでは既

にそうした取り組みが進んでいるが、インドネシアは大きく出遅れている。また、

米トランプ政権の保護主義傾斜に象徴される通り、世界的に反グローバル化

の風潮が台頭しており、グローバル化をけん引役として成長を続けてきた国は

厳しい環境下に置かれることが懸念される。そうした局面においても ASEAN

自身は挫折することなく、対外開放と構造改革を通じてグローバル化の便益

を享受する姿勢を貫くことが望まれる。

以上の通り、ASEANが全体として多様な成長ドライバーを持ち続けることを踏

まえ今後 5年間を展望すると、ASEAN6は引き続き年平均+5%弱の成長を持

続する見通しだ。後発の CLM も+7~8%の高成長を持続すると予想される。

以上を合わせた ASEAN10 では+5%程度の成長が見込まれる。中長期的に

減速傾向をたどる中国とは対照的に安定成長を持続する ASEAN は、「成長

センター」としての期待をますます高めていくことになろう。

今後 5 年も前年

比+7~8%程度の

成長が続く

今後も多様な成

長 ド ラ イ バ ー が

ASEAN の安定成

長を支える構図

は変わらず

発展段階・比較

優位産業の多様

性、中間層の厚

み、対中関係、連

結性は今後も成

長ドライバーとし

ての機能を維持

一方、成長ドライ

バ ー と し て の 機

能を大きく低下さ

せる要素も

中長期的に減速

傾向をたどる中

国とは対照的に

ASEAN は安定成

長を持続

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Ⅰ. ASEAN 経済の現状と展望

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みずほ総合研究所アジア調査部

小林 公司

稲垣 博史

菊池 しのぶ

松浦 大将

みずほ銀行産業調査部

総括・海外チーム 中村 正嗣

[email protected]

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編集/発行 株式会社みずほフィナンシャルグループ リサーチ&コンサルティングユニット

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平成29年7月25日発行 MIZUHO Research & Analysis/12