AI 基礎研究所 オープンハウス 2018」開催報告 -...
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NTT技術ジャーナル 2018.956
NTT コミュニケーション科学基礎研究所では,最新の研究成果を多くの方々に知っていただくイベントとして,2018年 5 月31日, 6 月 1 日に「オープンハウス2018」を開催しました.ここではその開催模様を報告します.
オープンハウスの概要
NTT コミュニケーション科学基礎研究所(CS研)は,人と人,あるいはコンピュータと人の間の「こころまで伝わる」コミュニケーションの実現をめざし,時代を先取りした基礎研究に取り組んでいます.その最新成果を「見て,触れて,感じてもらう」イベントとして,₂₀₁₈年₅ 月₃₁日(₁₂:₀₀~₁₇:₃₀)と ₆ 月 ₁ 日
( ₉ :₃₀~₁₆:₀₀)に,NTT京阪奈ビル(京都府精華町)で,「NTT コミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス₂₀₁₈」を開催しました(₁).₂ 日間の期間中には,NTTグループ関係者のみならず,各企業や研究機関,大学関係者,近隣地域の方などを含む,合計₁₆₀₀名を超える方々にご来場いただきました.
所 長 講 演
₂ 日間のオープンハウスは,CS研山田武士所長による講演「新たな次元へとシフトする─さらに深化するコミュニケーション科学の取り組み─」で幕を開けました(写真 ₁ ).
本講演では,まず深層学習に代表される最近のAI(人工知能)技術の発展に触れ,CS研に求められていることとして,これらの最先端の技術を高度に使いこなすことで直面する課題にうまく適用させるだけでなく,新たな次元を切り拓く取り組みに常に挑戦し,研究テーマを大胆にシフトさせていくことの重要性を指摘しました.また,CS研における人間科学と情報科学の最新の研究成果や新しい取り組みを紹介しました.基礎研究における研究テーマを開拓するうえでの取り組みにはリスクを伴います.すでに研究が順調に進んでいてさらにその周辺をより詳細に探索するExploitationを行うべきか,未知の分野を切り拓くために,方向性を変えてより広範囲に探索するExplorationを優先すべきか,AI研究の分野でしばしば問題になる
「Exploration‒Exploitation Dilemma」
と呼ばれる命題を取り上げ,基礎研究を担うCS研としてどのように選択あるいはバランスをとるべきかを論じ,今後もExplorationに大胆かつ粘り強く取り組むことを宣言しました.
研 究 講 演
研究講演では,CS研の顕著な研究成果の中から特に注目度の高いテーマに関して,以下の講演を行いました.
① 「 基 本 演 算を 操る量 子コンピュータの真価─ゲート型量子コンピュータの計算能力の分析─」
オープンハウスの概要
所 長 講 演
研 究 講 演
写真 ₁ 所長講演
情報科学
人間科学
AI 「NTT コミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス2018」開催報告
岩い わ た
田 具ともはる
治 /雨あめみや
宮 智ともひろ
浩 /中なかじま
嶋 秀ひではる
治 /白し ら い
井 良よしなり
成 /白し ら き
木 善よしふみ
史NTT コミュニケーション科学基礎研究所
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NTT技術ジャーナル 2018.9 57
EVENT
REPORTS
と題した高橋康博(メディア情報研究部)による講演では,現在さまざまな量子コンピュータの方式が提案されている中で,従来のコンピュータよりも計算能力の高さが理論的に保証されているものの,実現に要求される技術水準が高い「ゲート型量子コンピュータ」に焦点を当て,計算リソースを制限したとしてもその計算能力が高いことを示すCS研の成果について詳しく解説しました(写真 2 ).
② 「ウェルビーイングにおける触覚の役割─触れることの科学とデザインが人の心を豊かにする─」と題した渡邊淳司(人間情報研究部)による講演では,最近新たに立ち上がったウェルビーイングに関する研究について紹介しました.ウェルビーイングは,機能性や能率性に代わる技術の評価指針として近年注目されており,人や組織が持続的にいきいきと活動している状態に関する概念を指し,それを構成する要因の特定やモデル化,他者との共感が及ぼす寄与,そして触覚を通して働きかける刺激による効果についての取り組みを紹介しました(写真 3 ).
③ 「“組合せ爆発”を乗り超える─二分決定グラフを用いた膨大な量の組合せの数え上げと最適化─」と題した西野正彬(協創情報研究部)の講演では,グループ分けや鉄道の乗り継ぎルート選択などのさまざまな日常場面でみられる,要素の数が多くなると考えられる組合せの数が急激に増大化してしまう現象である「組合せ爆発」に対して,「二分決定グラフ」と呼ばれるデー
タ構造を用いることで効率的に数え上げることを可能にしたCS研の研究成果を紹介し,これまでは現実的な計算時間で解けなかった問題を数え上げられるようになったことで何が分かるようになったかを,実演を交えて紹介しました(写真 4 ).
④ 「脳からみた聞くと話すの共通性─音声変換技術と脳機能計測による人間の音声コミュニケーションの仕組みの解明─」と題した廣谷定男(人間情報研究部)の講演では,人間の「聞く」と「話す」という音声コミュ
ニケーションはこれまで別々に議論されてきましたが,それらに共通した仕組みが脳の中に存在することを示す研究成果を紹介しました.脳機能計測とCS研の音声変換技術を組み合わせて音声情報処理の仕組みの解明を試みる研究を紹介するとともに,音声認識技術や音声合成技術のさらなる性能向上にもこうした脳の仕組みを活かすべきという提案をしました(写真 5 ).
いずれの研究講演でも,研究の背景や全体像を述べたうえで,最新の研究成果と技術ポイントを分かりや
写真 2 研究講演(高橋康博) 写真 3 研究講演(渡邊淳司)
写真 4 研究講演(西野正彬) 写真 5 研究講演(廣谷定男)
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NTT技術ジャーナル 2018.958
すい例を交えて紹介しました.多くの来場者に講演会場および中継会場に来場いただき活気ある講演となりました.
研 究 展 示
展示会場では,「データと学習の科学」「コミュニケーションと計算の科学」「メディアの科学」「人間の科学」の ₄ カテゴリに関する最新成果₂₉件を展示しました(写真 ₆ ,₇ ).各ブースでは,研究員が大型モニタによるデモやスライドで最新の研究成果を分かりやすく説明しました.また工夫を凝らした体験型のデモなども用意し,実際に触れてもらいながら,来場者とディスカッションを行いました.以下は各カテゴリの展示名です.■データと学習の科学( 7件)
・ 膨大なデータから似た音声を見つけます!─グラフ索引に基づく類似音声探索─
・ 複数の問題に共通して重要な情報の組合せを発見─共通因子を効率的に学習する低ランク回帰技術:MOFM─
・ 人はどこから来て,どこへ行くのか?─人流データ同化と学習型誘導─
・ 都市の今を知る─環境センシングと異種データ融合分析によるイベント解析─
・ 深層学習をモバイル向けに小さくします─量子化による深層学習のモデル圧縮技術─
・ 光で機械学習をスピードアップ─光リザーバーコンピューティングによる高速機械学習─
・ ネットワーク構造から深層学習のしくみを知る─ニューラルネットの理解に向けたコミュニ
ティ抽出技術─■コミュニケーションと計算の科学( 7件)
・ あなたの量子メモリをちょっと拝借!─未初期化量子ビットを利用した高速量子計算─
・ こわれにくいネットワークをデザインします─二分決定グラフを用いたネットワーク信頼性最
大化─・ 人工知能は文脈を読んで翻訳で
きるか?─ニューラル翻訳の文脈理解度をテストする─
・ ことばの発達がゆっくりなお子さんの特徴を探る─小児医療現場で収集したデータの解析からみえてきたこと─
・ 物知りロボットとおしゃべりし
研 究 展 示
写真 ₆ 展示会場の様子
写真 ₇ デモの様子
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NTT技術ジャーナル 2018.9 59
EVENT
REPORTS
ながら賢くなろう─複数ロボット対話制御に基づく雑談と質問応答の融合─
・ いつでもどこでもそれっぽくしゃべれます!─スマホで音声リズムを英語母語話者っぽく変換─
・ 離れていても盛り上がりを共有できる─双方向性の臨場感 ・ 一体感の向上をねらう拍手音符号化─
■メディアの科学( 7件)・ 照明光で色の鮮やかさを操る─
彩度強調成分を用いた分光スペクトルの制御─
・ 聞きたい人の声に耳を傾けるコンピュータ─深層学習に基づく音声の選択的聴取─
・ 二択問題にして解くことでAIは賢くなる─深層学習による仮説比較と音声認識結果選択への応用─
・ 音だけから情景を推定─音から画像認識結果を予測するクロスメディア情景分析─
・ 浮像(うくぞう)─影を駆使して絵に奥行きを与える光投影技術─
・ 声の雰囲気や聞き取りやすさを変換する─深層生成モデルを用いた音声属性変換─
・ 選んで創るお気に入りの画像─DTLC-GANを用いた画像の階層的理解 ・ 生成制御─
■人間の科学( 8件)・ 音への注意を眼で測る─瞳孔反
応に現れる聴覚空間注意─・ ウェルビーイングを測る,知る,
育む─“いきいきとした心的状態”の実現を科学する領域横断研究─
・ 人工知能で人の聴こえの仕組みを理解する─機械学習モデルに
よる聴覚神経機構の分析─・ 一流打者はボールをどのように
打っているか?─打撃中の身体運動計測から認知過程を探る─
・ 一流打者はボールをどのように見ているか?─打撃中の眼球運動計測から認知過程を探る─
・ 急ぐ方が正確?─視知覚と運動に潜む情報処理のからくり─
・ 力で感じるかたちとうごき─ぶるなび ₄ による環境 ・ 状況の呈示─
・ 平らなシートなのに凹凸感?!─磁性シートに凹凸感を“書き込む”磁性触覚印刷技術─
招 待 講 演
今年は,理化学研究所 革新知能統合研究センター 社会における人工知能研究グループ グループディレクターの中川裕志さんをお招きして,「AIと倫理および社会的影響」と題する講演を行っていただきました.国内外の組織が提案しているAIの開発倫理指針の紹介から,個人情報保護の下でのデータ収集課題,これからのAIとの付き合い方に至るまで幅広いトピックを取り上げ,特に昨今騒がれているAIが人間の仕事を奪うのかという問題についても解説していただき,自然言語処理研究が重要なテーマとなること,メタな視点で仕事を定義し直すことの重要性について解説していただきました.
Webによる情報発信
CS研の研究力 ・ 技術力の高さを国内外に広くアピールするため,当日の展示パネル資料を日本語と英語の両方でWebサイトに公開すること
を毎年継続して行っています(₁).研究講演の映像もWebサイトで公開し,多くの方々にCS研の最新成果を詳しく知っていただく機会を提供しています.また,NTT広報室のSNSを通じて,専門的で高度な研究内容を,幅広い層の方に分かりやすく伝えることにも取り組んでいます.
オープンハウスを終えて
₂₀₁₈年のオープンハウスは,₁₆₀₀名を超える方々にCS研の最新成果をご覧いただきました.特に,研究展示においては,来場者の方々に活発な議論に参加いただくことで,貴重なご意見を多数いただき,大きな刺激となりました.来場者の皆様,本イベント開催に協力いただきました皆様に,心よりお礼を申し上げます.
■参考文献(1) http://www.kecl.ntt.co.jp/openhouse/₂₀₁₈/
招 待 講 演
Webによる情報発信
オープンハウスを終えて
(後列左から) 白井 良成/ 中嶋 秀治/岩田 具治
(前列左から)白木 善史/ 雨宮 智浩
今後ともCS研の研究にご注目ください.
◆問い合わせ先 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 企画担当 TEL ₀₇₇4-₉3-5₀2₀ FAX ₀₇₇4-₉3-5₀₁5 E-mail cs-openhouse-ml hco.ntt.co.jp