★技術論文 オープンソースCFD-DEMを用いた球形 …...1 数値解析技報 第12号...

26
★技術論文 オープンソース CFD-DEM を用いた球形および 非球形粒子挙動シミュレーション ★技術レポート 進化的計算手法と確率的戦略手法の最適化技術の紹介~DE・PSO・SA の最適化手法~ パラメトリック流体形状最適化技術の紹介 粒子を含む流体解析手法について 摩擦熱の解析適用~SSB(すべり支承)を例として~ 解析によるJ積分の算出、評価について 杭の中抜け現象へのSPH法適用例題 ~地盤解析への取り組み(その3)~ MATLAB Simulink によるプロセス制御シミュレーション技術紹介 製品紹介 : 汎用有限要素解析ソフト Marc2016 新機能紹介 社外情報発信活動 N S プ ラ ン ト 設 計 株 式 会 社 NS Plant Designing Corporation

Transcript of ★技術論文 オープンソースCFD-DEMを用いた球形 …...1 数値解析技報 第12号...

★技術論文

オープンソース CFD-DEM を用いた球形および

非球形粒子挙動シミュレーション

★技術レポート

進化的計算手法と確率的戦略手法の最適化技術の紹介~DE・PSO・SA の最適化手法~ パラメトリック流体形状最適化技術の紹介 粒子を含む流体解析手法について 摩擦熱の解析適用~SSB(すべり支承)を例として~ 解析によるJ積分の算出、評価について 杭の中抜け現象へのSPH法適用例題 ~地盤解析への取り組み(その3)~ MATLAB Simulink によるプロセス制御シミュレーション技術紹介 製品紹介 : 汎用有限要素解析ソフトMarc2016 新機能紹介 社外情報発信活動

N S プ ラ ン ト 設 計 株 式 会 社 NS Plant Designing Corporation

目次

数値解析技報第12号発刊のご挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・1

【技術論文】

○ オープンソース CFD-DEM を用いた球形および

非球形粒子挙動シミュレーション・・・・・・・・・・・・・・・・2

【技術レポート】

1. 進化的計算手法と確率的戦略手法の最適化技術の紹介

~ D E・ P S O ・ S A の最適化手法~・・・・ 6

2. パラメトリック流体形状最適化技術の紹介 ・・・・・・・・・・・・・・・8

3. 粒子を含む流体解析手法について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

4. 摩擦熱の解析適用―SSB(すべり支承)を例として・・・・・・・・・・・・・・12

5. 解析によるJ積分の算出、評価について・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

6. 杭の中抜け現象へのSPH法適用例~地盤解析への取り組み(その3)・・・・・・・16

7. MATLAB Simulink によるプロセス制御シミュレーション技術紹介・・18

【製品紹介、情報発信】

1. 汎用有限要素解析ソフト Marc2016 新機能トピックス・・・・・・・・・・・・20

2. 社外情報発信活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

1 数値解析技報 第 12 号 2017

数値解析技報第12号発刊のご挨拶 2017 年 01 月

数値解析技報12号の発刊にあたり、ご挨拶を申し上げます。

この技報では、技術論文として「オープンソースCFD-DEMを用いた球形および非球形粒子挙動

シミュレーション」を掲載しております。最近のトレンドでありますオープンソース、連成を主体とし、

さらに球形に限定されていたDEMを非球形に開発、解析適用可能なところまで構築しております。

詳細は本文をご覧ください。

技術トピックスとして流体最適化技術の紹介、粒子を考慮した流体解析、摩擦熱の解析適用、非線形 J

積分の算出、SPH法の地盤への適用、制御シミュレーション技術等を掲載しております。皆様の技術

の一助となればと考えております。

さて、NSプラント設計㈱ シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部(以降、

SiES’S 部と記す)は、新日鉄住金エンジニアリング株式会社殿および新日鐵住金株式会社殿向け

の研究開発、設計支援を中心に社外案件も含め30年間で約 1 万件超のシミュレーションの実績を

積み上げてきました。構造解析、流体解析、電磁場解析、システム開発の4本柱とともに、互いの

場を連成させた連成解析も行ってきております。また、システム開発分野ではプログラム開発、

操業データ可視化、データ分析、最適化技術などにも取り組んでおります。組織の陣容は約50名

を擁し、博士取得者3名、日本機械学会計算力学技術者 認定資格 上級アナリスト5名、固体分野

1 級、熱流体分野 1 級、振動分野 1 級の認定者合わせて16名を抱え、部員一同 皆様のご愛顧に

応えるために、数値解析、システム開発に関する技術を更に高度化しております。また、東京の

新日鉄住金エンジニアリング本社15階に東京分室を設け、関東、東海地区の営業を担当しており

ます。

今後とも、微力ながら皆様のお役に立ちたいと考えております。

ご一読いただき、ご質問・ご意見などありましたら、以下にメールいただければ幸甚です。

メールアドレス:[email protected]

シミュレーションエンジニアリング・ソリューション部リーダー 湯本 淳

日本機械学会認定 計算力学技術者 上級アナリスト

オープンソース CFD-DEM を用いた 球形および非球形粒子挙動シミュレーション

当社では流体解析(CFD)と離散要素法(DEM)の連成解析ができるオープンソース CFDEM を公開当初

から利用し,解析時間や精度の面から CFDEM が粉体解析業務に使えるレベルにあることを確認してきた。

本稿ではその CFDEM を用いた球形および非球形粒子の CFD-DEM 連成解析事例を紹介する。なお、以降に記

載する内容は、設計工学会 2016 年度秋季大会にて著者 首藤が論文発表したものである。

博士(水産科学) 首藤 史

1.はじめに

コンピュータ性能の格段の向上により,プラント設

備,海洋・土木分野などにおいて離散要素法(DEM:

Discrete Element Method)を用いたシミュレーショ

ンが活発になってきている.DEM は粒子間の衝突を考

慮した粒子挙動をシミュレーションする手法であり、

連続体シミュレーション(Euler-Euler 法)では表現

が困難な粒状体の自由表面形状や応力ネットワーク構

造を算出できるという特徴をもつ。また,粒子的挙動

と連続体力学を前提にした流体解析(CFD),構造解

析(FEM)などを組み合わせることで,製造プロセス

から防災に関わる海底地盤の挙動検討に至る幅広い分

野での適用が可能となってきている 1).

しかしながら,実現象においては,扱う粒子数が億

から兆のオーダーとなる事が多々ある.現在の計算機

でその粒子数の DEM 解析を現実的な時間で実行するの

は困難であるため,粒径を実際のものより大きくする

などして粒子数を減らすことで対応している.それで

も DEM の計算には大規模高速計算機が必要となること

から,ソルバーの並列化は不可欠と言える.この並列

化への対応としては,各種解析ソフトの並列化ソルバ

ー導入が最も手早いと考えられるものの,ソフト導入

費用が高騰する問題があることから,これを解決する

ためにオープンソースを用いてソルバーを開発する流

れが盛んになりつつある.

また,DEM では球形粒子を用いることが多いが,実

際の粒子形状は非球形であるものが大半であるため,

これら粒子挙動を高精度に把握するには,非球形粒子

での検討が必要になる.

本稿ではまず流体-粒子連成解析に用いたオープン

ソース CFDEM2)について概説した後,解析例として二

成分粒子の気系流動層における粒子混合と偏析の解析

および,伝熱や反応を伴う流動層の解析を紹介する.

続いて,非球形粒子の DEM について概要を述べた後,

具体的な適用事例について紹介する.

2.オープンソースCFDEM の概要

CFDEMは CFD-DEM連成解析を可能としたオープン

ソースであり,OpenFOAM3)をベースとした CFDソルバ

ーと DEMソフトウェア LIGGGHTS4)で構成されている.

CFDEMでは CFD-DEM連成解析手法として Euler-

Lagrange法と埋め込み境界法の2種類のソルバーが

提供されているが,本章では Euler-Lagrange 法のソ

ルバーについて説明する.

図 1に Euler-Lagrange 法の CFDEMの計算手順を示

す.まず CFD側では DEM粒子データ (粒子の中心座標

値と速度) の受信後,流体計算セルに粒子を配置する.

次に各流体計算セルにおける流体体積率αf (= 1 -

粒子体積率)と粒子-流体間の運動量交換量 (流体力)

が計算され,流体力は DEM側に転送され,流体体積率

と流体力は流体解析に用いられる.DEM側では,流体

力の受信後,粒子運動を計算し,粒子の中心座標値と

速度を CFD側へ転送する.ここで,CFDと DEM間のデ

ータ送受信には MPIが用いられている.また,流体力

(抗力,浮力,仮想質量力,揚力)のモデルは既に組み

込まれているモデルを参考にすれば,新たなモデルを

組み込むことも容易である.

図 1 CFDEMの計算手順

CFDEMソルバ

DEM粒子データ取得

セルに粒子を配置

体積率と運動量交換量の計算

DEMにデータを転送(MPI)

流れの計算

LIGGGHTS

CFDにデータ転送

粒子運動の計算

CFDデータの取得

スタート

技術論文

3.CFDEMを用いたCFD-DEM連成解析事例

3.1 二成分粒子流動層の粒子混合と偏析の解析

ここでは文献 5)を参考にして実施した,矩形流動層

における二種混合粒子の流動化シミュレーションにつ

いて紹介する.槽のサイズは幅が 0.065 m, 高さが

0.26 m, 奥行が 0.0081 m である。総粒子数は 25000

で,粒径 1mm(小粒子)、粒径 2mm(大粒子)がそれ

ぞれ重量比 50%ずつの割合で混ざった状態で存在して

いる.ガスは底面から一様に送入される系である.シ

ミュレーションに用いたパラメータおよび抗力係数モ

デルは文献 5)と同じである.このシミュレーションは

CFDEM が提供しているソルバーをそのまま使用すれば

実施できる.

図 2 に流入ガス流速 1.4 と 1.6 m/s の時の粒子流動

状態の時刻歴を示す.まず,ガス流速 1.4 m/s では小

粒子が層上部に,大粒子が層下部に偏在していること

が確認できる.一方,ガス流速 1.6 m/s になると層全

体が流動化し,層底部を除くと大小粒子が良く混合し

ていることがわかる.

図 3 に実験と解析における粒子流動状態の比較を示

す.実験の方は暗い色が小粒子,明るい色が大粒子で

ある.この図から流入ガス流速による大粒子の層高さ

の違いが実験と解析で良く一致していることが確認で

きる.

図 2 流入ガス流速(a) 1.4 m/s と(b) 1.6 m/s

の時の粒子流動状態の時刻歴

図 3 実験と解析の粒子流動状態の比較

(実験の写真は文献 5)から転載)

3.2 伝熱を伴う流動層の解析

伝熱を伴う流動層を扱う場合,粒子間と粒子-壁間

の接触および輻射伝熱や粒子-流体間の対流伝熱の考

慮が必要となる.この内,輻射伝熱以外は CFDEM に実

装されているため取り扱うことができる.また,

CFDEM は非圧縮性流体ソルバーのみ提供しているため,

圧縮性流体およびエネルギー方程式のソルバーは新た

に作成する必要があるが,これらは OpenFOAM を用い

て比較的容易に作成できる.解析例を図 4に示す.

図 4 伝熱を伴う流動層の

(a)ガス温度と(b)粒子温度の時刻歴

(a) ガス温度

0.2 s 0.5 s 1 s 2 s 3 s

(b) 粒子温度

0.2 s 0.5 s 1 s 2 s 3 s

(K)

(a) ガス流速1.4 m/s

実験 解析

(b) ガス流速1.6 m/s

実験 解析

(a) ガス流速1.4 m/s 0 s 2 s 5 s 10 s 15 s 20 s

(b) ガス流速1.6 m/s 0 s 2 s 5 s 10 s 15 s 20 s

初期状態は粒子温度 400 K,ガス温度 292 K であり,

底部からの流入ガス温度は292 Kである.この図から

時間と共にガスに熱を奪われ粒子温度が低下して行く

様子がわかる.

3.3 反応による粒径変化を伴う流動層の解析

反応を伴う流動層を扱う場合,反応による粒子-流

体間の物質移動やそれに伴う粒子密度や粒径の変化を

考慮する必要がある.これらを考慮するには

LIGGGHTS のカスタマイズが必要になる.また,化学

種輸送方程式のソルバーも新たに作成する必要がある.

図 5に反応による粒径変化を伴う流動層の解析例を

示す.これは粒子の揮発分がガスに放出され,時間と

共に粒径が縮小して行く様子を解析したものである.

4.非球形粒子のDEM

4.1 非球形粒子の DEMの概要

非球形粒子のDEM解析では、個々の粒子の姿勢(物

体固定座標系)を時々刻々更新する必要があるため、

球形粒子の場合と比べて計算量が多くなる。そのため,

球形粒子では数百万粒子が実用的な時間で解析できる

ようになってきたが,非球形粒子では未だ困難である.

非球形粒子の形状表現方法には,超二次関数 6)や超

二次曲面 7)を用いる方法,多面体で表現する方法 8),

球の集合体で表現する方法 9)がある.球の集合体で表

現する方法は多面体で表現する方法より複雑な形状を

表現し難いことが欠点だが,接触力計算に球形粒子と

同じ方法が使えるため計算量が少ないことが利点であ

る.LIGGGHTSには非球形粒子を球の集合体で表現す

る方法が実装されているため,その解析例を以下に紹

介する.

4.2 安息角測定試験の解析

ここでは文献 10)を参考にして実施した,安息角測

定試験の解析を紹介する.要素モデルは図 5 に示す 6

個の等球形要素を対称配列したものである.球要素の

重複程度によって凹凸度合いを表現するパラメータと

して,次式で表す凸度 β を用いる 11).

Dn = βD (1)ここで,Dn:非重複領域の長さ,β:凸度を表すパラ

メータ,D:球形要素の直径である.安息角測定装置

は文献 10)と同様のものとしたが,要素の径は 30 mm

(文献 10)では 5~10 mm)としたため,それに合わせ

て装置も拡大した.

図 7に凸度 β = 0.2 と 0.5 の場合の粒子挙動の時刻歴

を比較して示す.また,図8に安息角と凸度の関係を

示す.これらの図から凸度 β が大きいほど安息角が大

きくなることがわかる.したがって,粒子の凸度 β の

調整で安息角を任意の値に調整できるといえる.

図 5 反応による粒径変化を伴う

粒子の流動状態の時刻歴

図 6 六等球形対称配列集合体要素

(文献 11)から転載)

図 7 凸度 β = 0.2 と 0.5 の粒子挙動の時刻歴比較

(左:凸度 β = 0.2,右:凸度 β = 0.5)

粒径

(K)

0 s 0.5 s 1 s 1.5 s 2 s

(a) 基本形状 (b)重複程度

4 s

8 s

12 s

16 s

図 8 安息角と凸度 β の関係

4.3 埋め込み境界法を用いた CFD-DEM連成解析

流体と粒子の連成解析手法に埋め込み境界法を用い,

水中に連続的に落下する物体の様子をシミュレーショ

ンした結果を図 9に示す。物体は 27個の球で立方体

を近似したものである。気液界面追跡法には界面捕獲

法(Volume of Fluid法)を用いている.埋め込み境

界法では,メッシュを粒子サイズより小さくするため,

物体が水中に落下した時に巻き込む気泡まで捉えられ

ていることがわかる.

5.おわりに

以上では,オープンソース CFDEMの概要を説明し,

球形粒子と非球形粒子を用いた解析例を紹介した.二

成分粒子の流動層の解析については実験と解析の粒子

流動状態を比較した結果,CFDEM で粒子の混合や偏析

を精度良く予測できることを確認した.したがって,

CFDEMは流体-粒子連成解析の業務に利用できるレベ

ルにあると考えている.また,非球形粒子を用い,安

息角測定試験を模擬した解析では,凸度 β を変えるこ

とで粉体の安息角を任意の値に調整できることを確認

した.尚,CFDEMで伝熱や反応を伴う解析や埋め込み

境界法を用いた解析は実行可能だが,今後,実験との

比較等の妥当性検証は必要である.

参考文献

1) Zhu, H.P., Zhou, Z.Y., Yang, R.Y., Yu, A.B.:Discrete particle simulation of particulate systems: A review of major applications and findings, Chemical Engineering Science, 63, (2008), 5728.

2) Goniva, C., Kloss, C., Deen, N.G., Kuipers, J.A.M., Pirker, S.:Influence of rolling friction modelling on single spout fluidized bed simulations”, Particuology, 10, 5, (2012).

図 9 水中に落下する物体のシミュレーション

3) Weller, H. G., Tabor, G., Jasak, H., Fureby, C.:A tensorial approach to computational continuum mechanics using object-oriented techniques, Computers in Physics, 12(6), (1998), 620.

4) Kloss, C., Goniva, C., Hager, A., Amberger, S., Stefan Pirker, S.:Models, algorithms and validation for opensource DEM and CFD-DEM, Progress in Computational Fluid Dynamics, An Int. J. 12, (2012), 140.

5) Feng, Y. Q., Yu, A. B.:Assessment of model formulations in the discrete particle Simulation of gas-solid flow, Industrial and Engineering Chemistry Research, 43, (2004), 8378.

6) Cleary, P.W.:Industrial particle flow modeling using discrete element method, Eng. Comput. , 26, 6 (2009), 698.

7) Lillie, C., Wriggers, P.:Three-dimensional modeling of discrete particles by superellipsoids, Proc. Appl. Math. Mech. , 6 (2006), 101.

8) Zhao, D., Nezami, E. G., Hashash, Y. M. A.:Three-dimensional discrete element simulation for granular materials., Eng. Comput. Int. J. Comput. Aided Eng. Softw., 23, 7 (2006), 749.

9) Bierwisch, C., Kübler, R., Kleer, G., Moseler, M.:Modelling of contact regimes in wire sawing with dissipative particle dynamics, Phil. Trans. R. Soc. A, 369 (2011), 2422.

10) 堀口俊行,澁谷一,香月智:個別要素法による

礫材の安息角解析,構造物の衝撃問題に関する

シンポジウム論文集,10 (2011), 43. 11) 堀口俊行,香月智,田附正文:集合体要素を用

いた個別要素法による柔性鋼製枠堰堤の抵抗力

推定法,構造工学論文,59A (2013), 208.

0 s 0.6 s 1.2 s 1.8 s0

5

10

15

20

25

30

35

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

安息角

(°)

凸度β (-)

6 数値解析技報 第 12 号,2017

概要

人工知能の一分野である組合せ最適化技術を紹介する。本稿では特に、進化的計算手法である

差分進化(Differential Evolution、以下 DE と略す)と粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、以下 PSO と略す)、確率的戦略手法である焼きなまし法(Simulated Annealing、以下 SA と略す)

について簡単に説明し、離散型(Discrete)組合せ最適化の例を紹介する。

1. はじめに

近年、コンピューターの性能が向上したことによ

り、人工知能の技術も飛躍的に向上している。その

人工知能の一分野である最適化技術をエンジニア

リングに応用している事例も多い。

そこで、当部で最適化技術の獲得に向けた取り組

みを開始し、今後増加することが見込まれる最適化

問題への対応力強化を進めている。

2. 進化的計算手法と確率的戦略手法

進化的計算手法とは、生物の進化や行動を元にコ

ンピューター上でシミュレーションを行い、最適解

探索を行うことを特徴としている手法のことであ

る。例として、遺伝的アルゴリズム・差分進化・粒

子群最適化があげられる。

確率的戦略手法とは、最適解探索に確率を用いて

乱択するアルゴリズムのことである。例として、焼

きなまし法がある。

多くの進化的計算手法でも確率を用いており、こ

れらの類似性は非常に高いと言える。

3. DE の概要

DE は、突然変異・交叉・適者生存を繰り返しな

がら大域的最適解または準最適解を求めるもので

ある。

DE のアルゴリズム

(1) 探索点の初期化。

探索点はランダムに与える。

(2) 全探索点に対して以下の操作を繰り返す。

(2-1) d 番の探索点 dx がランダムに 3 点選ぶ。

(2-2) 突然変異によって、新しい探索点 dv を

生成する。

)( 321 xxFxvd F は突然変異確率を表す。

(2-3) 探索点 dx と dv が交叉確率 Cr によって

交叉し、新しい点 du を生成する。

CrossoverPoint はランダムに選択。

r は 0 から 1 の一様乱数を表す。

図 1 交叉の例

(2-4) 目的関数の評価をし、探索点を更新。

(3) 探索回数を更新。

(4) 終了判定を満たしていれば終了し、そうでな

ければ(2)に戻る。

(最大世代に到達、解が一定値に収束)

4.PSO の概要

PSO は、生物において一匹がよさそうな場所を発

見すると、群れの残りもそこに集まって周辺を探索

する性質を利用したものである。

PSO のアルゴリズム

(1) 粒子群の初期化。

各粒子の位置および速度をランダムに与え

る。

(2) 全粒子に対して以下の操作を繰り返す。

(2-1) 全粒子の評価値を計算する。

(2-2) 個々の粒子の最良位置を保存する。

技術レポート No.1

進化的計算手法と確率的戦略手法の最適化技術の紹介

~DE・PSO・SAの最適化手法~

ソリューション第二チーム

日本機械学会認定計算力学技術者 2級

西山 裕樹

7 数値解析技報 第 12号,2017

これを ipBest とする。

(2-3) 全粒子から最良の位置を保存する。

(評価値の一番いいもの)

これを gBest とする。

(2-4) 各粒子の速度を更新する。

)()(

22

111

i

iiii

xgBestcrxpBestcrwvv

w は慣性力、r1,r2は 0から 1 の一様乱

数、c1,c2は定数を表す。

(2-5) 各粒子の位置を更新する。

11 iii vxx(3) 終了判定を満たしていれば終了し、そうでな

ければ(2)に戻る。

(最大反復回数に到達、解が一定値に収束)

5.SA の概要

SA は、金属工学における焼きなましを模したも

ので、熱が高い時は大域的に解を探索し、熱が冷め

てくると大域探索で得られた最適解近傍を探索す

るものである。

SA のアルゴリズム

(1) 初期値の設定。

初期温度 T、冷却率ε、初期値 xを設定。

(2) 以下の操作を繰り返す。

(2-1) 評価値の計算をする。

(2-2) 変更する変数 ix を 1つ決定する。

(2-3) 変数の値の増減を決定。

5.05.0

1 rxrx

xi

ii

αは任意定数、r は 0 から 1 の一様乱

数を表す。

(2-3) 前の解と比較し、良質な解の場合は採

用。ただし、一定確率で不良な解も採

用。

TEA exp

A は解の採用確率、⊿E は今回と前回

の解の差を表す。

(2-4) 温度を冷却する。

ii TT 1

(3) 終了判定を満たしていれば終了し、そうでな

ければ(2)に戻る。

(温度が設定温度以下、解が一定値に収束)

6.適用例

歯車の歯数列の設計問題を考える 1)。下図に示す

4 つの歯車 D,B,A,F があり、それらの歯数を

x1,x2,x3,x4とする。

図 2 歯車

所望のギア比と現状のギア比の差を最小化する

問題を考えると、次のように定式化できる。

4,3,2,16012

min931.61)(

2

43

21

ixxxxxxf

i

大域的最適解は総当たりにより得られており、こ

の問題では 4つの大域的最適解が存在している。

49,43,16,19

43,49,19,1649,43,16,1949,43,19,16,,, 4321

xxxx

各アルゴリズムで探索した最適解を示す。

表 1 探索結果

歯数 DE PSO SA

x1 16 19 16

x2 19 16 19

x3 43 43 43

x4 49 49 49

f(x) 2.7e-12 2.7e-12 2.7e-12

すべてのアルゴリズムで最適解を得られた。

7.おわりに

最適解探索は必ず最適解が見つかるというわけ

ではない。しかし、準最適解は見つけることが出来

る。今後もさらに最適化技術を高めていく予定であ

る。

参考文献

1) Sandgren, E., Nonliear Integer and DiscreteProgramming in Mechanical Design Optimization, ASME/J. of MechanicalDesign, Vol.112, (1990), pp.223-229.

8 数値解析技報 第 12 号

概要

近年、最適な設計寸法や形状を予測するシミュレーション技術(最適化技術)が注目されてい

る。その要因として、これまでの形状最適化検討は設計者が手動でケーススタディを実施し最適

形状を求めていたが、最適化ソフトの性能向上により、半自動的に検討が可能になったことが挙

げられる。そこで、本稿では熱流体解析ソルバーFluent(ANSYS 社)と最適化ソフト HyperStudy(Altair 社)を連成させたパラメトリック流体形状最適化手法について紹介する。

1.はじめに

一般に最適化手法は①ノンパラメトリック最適

化、②パラメトリック最適化の 2 つに大別される。

①は制約条件を設けないため、設計者が予想しない

ような最適形状を得られることがある。そのため、

設計初期のアイデア出しの場面で用いられること

が多いが、得られた最適形状は複雑なため、実際に

は製作できない場合が多々ある。流体形状最適化の

場合、Fluent のみでこの検討が可能である。

一方、②のパラメトリック最適化は、設計者が決

めた制約条件の中で最適形状を見出す手法であり、

詳細設計の段階で用いられることが多い。流体形状

最適化の場合、Fluent および HyperStudy を連成

させて、最適形状を求める必要がある。

今回はある制約条件の中でダクトの圧力損失を

最小化することを目的として、角型ダクトのコーナ

ー ベ ー ン 形 状 の 最 適 化 検 討 を Fluent と

HyperStudy を用いて実施した。

2.連成シミュレーション手法

今回のパラメトリック流体形状最適化検討の処

理フローを図 1 に示す。まず、通常の流体解析の時

と同様に Gambit にて形状を定義し、流体解析の設

定を終えた Fluent のケースファイルを作成する。

作成したケースファイルを HyperMesh に読み込ま

せ、変形領域および設計変数の定義を行い、最後に

HyperStudy にて、形状最適化手法の設定を行うと

いう流れである。

図 1. 処理フロー

3.解析モデル

解析対象を図 2 に示す。角型ダクト内のコーナー

部にベーンと呼ばれる整流板を 3枚等間隔に配置し

たモデルである。HyperMesh では 2 次元の対象物

を設計変数とすることができないため、解析モデル

は 3 次元軸対称モデルとした。解析条件を表 1に示

す。

表 1. 解析条件

流体解析条件 入口 10m/s の空気が流入

出口 大気圧固定

形状最適化

検討の条件

設計変数

ベーン直線部

(直線部 1000mm を初期

状態とし、3 枚の直線

部は同様に変形。)

制約条件垂直方向に±500mmの範囲内で変形

目的関数 圧力損失の最小化

技術レポート No.2

パラメトリック流体形状最適化技術の紹介

~Fluent と HyperStudy の連成解析~ 東京分室

日本機械学会認定計算力学技術者 2級

吉原 翔太

9 数値解析技報 第 12 号

図 2. 解析モデル

4.解析結果

4.1 実験計画法

最適形状の傾向を掴むため、HyperStudy にて実

験計画法を用いた検討(全 9 水準)を実施した。ベ

ーン直線部は図 3 に示す通り、1000mm を基準とし

て±500mm の範囲内で、125mm ずつ変形する条件

である。実験計画法から得た結果を最小二乗法で近

似した曲線を図 4 に示すが、ベーン直線部長さが

1000mm 付近にダクトの圧力損失が最小となる最

適形状が存在することが確認できる。

図 3. 変形領域(ベーン直線部)

図 4. ベーン直線部長さと圧力損失の関係(実験計画法)

4.2 ARSM を用いた最適化検討

続いて、前述の実験計画法で得られた結果を用い

て、最適形状の絞り込みを行った。最適形状を特定

するために今回、“ARSM(Adaptive Response Surface Method:逐次更新型応答局面法)”と呼ば

れる最適化手法を採用した。ARSM は最小二乗回帰

法をベースとした最適化手法であり、図 4 の近似式

からダクトの圧力損失が最小となる設計変数の値

を算出するために用いられる。今回の場合は設計変

数が 1 つであるため、最小値を見つけることは容易

であるが、設計変数が複数になると、人間の手で求

めることは困難である。そのため、このような場合

は ARSM などの最適化手法を適用することが有益

である。得られた結果を図 5 に示すが、ARSM を適

用すると、ベーン直線部長さが約 998.6mm の時に

ダクトの圧力損失が最小(12.188Pa)となることが

確認できた。

図 5. ベーン直線部長さと圧力損失の関係(ARSM)

5.おわりに

Fluent および HyperStudy を連成させたパラメト

リック流体形状最適化検討行い、制約条件内での最

適形状を見出すことができた。この手法を実際の設

備に適用することで、様々な流体問題における形状

最適化のニーズに対応できると考えられる。

参考文献

Altair HyperStudy チュートリアル

ガス流れ

直線部(赤色)

が垂直方向に

±500mmの範

囲内で 125mmずつ変形

1 0 数値解析技報 第 12 号

概要

弊社の主たる解析対象である製鉄プラントや溶融炉およびそれらの付帯設備では、鉄鉱石や石炭、コークス、

微粉炭、ダストといった粒子状物質が多く扱われており、これら粒子の輸送や反応など、粒子を含む流体解析が

多く利用されている。本稿では、代表的な粒子の計算手法および流体解析との相互作用について概説する。

1.はじめに

粒子の計算方法は、流体計算と同様ラグランジュ

型とオイラー型に大別され、問題に応じて適切な計

算手法を選定する必要がある。前者は運動方程式に

もとづいて個々の粒子位置や速度を直接計算する

方法であり、粒子が離散的に存在する場合や粒子同

士の衝突を厳密に計算する場合に用いられること

が多い。一方、後者は粒子の集まりを流体と同じよ

うに固定した計算格子上で計算する方法であり、流

動層のように粒子数が多く直接計算することが困

難な場合などに適用される。

粒子を含む流体解析では、これら粒子の計算と流

体の計算を連成させて計算する。

2.粒子の計算手法

(1)粒子追跡法

粒子追跡法は、流体解析の入口境界、あるいは内

部領域に通常複数粒子投入点を定め、運動方程式を

用いて投入点からの各粒子位置を追跡する方法で

ある。本手法は一般に粒子同士の衝突が無視するこ

とが出来る希薄な状態を想定している。

流体解析で得られた流れ場を固定して粒子の計

算を行う 1-way の場合には、流体の計算と粒子の計

算を分離することが可能であり、流体解析のいわゆ

るポスト処理の感覚で計算することが出来る。図 1

は、ダストを含むガス配管の計算例を示したもので

あり、粒子追跡法で得られたダストの衝突頻度や速

度、角度情報から Neilson と Gilchrist の式 3)4)を

用いて壁面摩耗速度を評価している。

粒子の濃度が高く流れが粒子の影響を受ける場

合や微粉炭燃焼におけるガスの揮発や粒子表面反

応、液滴噴霧における液体の揮発・蒸発のように、

粒子と流体との運動量や物質、熱の授受を考慮する

必要がある場合には双方向(2-way)の連成計算

が必要となり、1-way の場合と比べて計算の安定性

や計算負荷の面でハードルが高くなる。

(a)ダストの飛跡 (b)摩耗速度分布

図 1 ダストによる摩耗速度の評価例

(2)DEM/離散要素法

DEM も粒子追跡手法と同様ラグランジュ型の計

算方法であるが、個々の粒子同士の相互作用を計算

する点で大きく異なる。DEM では互いに接触した粒

子間に働く弾性反発力や摩擦などの接触力を、ば

ね、ダッシュポットおよびスライダーから構成され

るモデルを用いて直接的に計算する。摩擦係数など

の物性値を適切に与えることで、粒子の流動化速度

を直接計算することも可能である。DEM の詳細につ

いては本数値解析技法に掲載の技術論文を参照さ

れたい。

(3)二流体モデル

無数の粒子が対象であり且つ局所的に均質な挙

動を仮定できる場合には、計算速度が粒子数に依存

しない二流体モデルの適用が有効である。二流体モ

デルはオイラー型混相流モデルの一種であり、流体

の計算にも粒子の計算にもオイラー型の計算手法

が適用される。

粒子が固体の場合には固体相の内部摩擦や圧力

を考慮することで、堆積など固体粒子特有の挙動を

技術レポート No. 3

粒子を含む流体解析手法について

ソリューション第二チーム

日本機械学会認定計算力学技術者1級

塩月 浄志

ソリューション第二チーム

博士(環境科学)

山田 貴啓

滞留時間 摩耗速度

ガス

ガス+ダスト

11 数値解析技報 第 12 号

適切に計算することが可能である。図 2は沈殿槽に

堆積する固体粒子の挙動を計算した例である。(a)

の固体粒子間の作用を考慮しないケースでは体積

濃度が 100%まで増加しているのに対して、相互作

用を考慮している(b)では、粒子間の空隙を考慮し

た妥当な体積濃度が得られている。

(a)固体の相互作用を考慮しない場合

(b)固体の相互作用を考慮した場合

図 2 沈殿槽の計算例

3.流体との相互作用

粒子を含む流体解析では、粒子と流体の相互作

用、すなわち運動量や熱、物質の移動を適切にモデ

ル化する必要がある。物質の移動とは、例えば粒子

から流体側への揮発・溶出、あるいは逆に流体から

粒子への収着である。微粉炭におけるチャー燃焼で

は、流体側の酸素と粒子側の炭素が粒子表面で反応

することで二酸化炭素が生成するとともに反応熱

も生じることから、両者が複雑に作用している。

粒子と流体の間で交換する代表的な運動量には、

抗力や揚力がある。この他に、乱流場では乱流分散

力、流体や粒子が加速度を持つ場合には仮想質量力

やバセット力といった力が作用する。粒子に作用す

る流体力を直接流体計算で得られない場合には何

らかのモデル化によりこれらの力を計算する必要

がある。以下に抗力と揚力について簡単に記す。

(1)抗力

抗力を動圧と粒子の投影面積で無次元化して得

られる抗力係数 CD は、よく知られているように粒

子レイノルズ数の関数として整理される。粒子レイ

ノルズ数は、代表寸法に粒子径を、代表速度に粒子

と流体の相対速度を適用して算出する。粒子が球体

の場合には以下に示す Schiller と Naumann の経験

式などを適用して算出する。

44.0

/)15.01(24 687.0 ReReCD 1000

1000

ReRe

実際には対象とする粒子が完全な球体であるケ

ースは少なく、粒子の性状に応じて抗力を補正する

必要がある。例えば Haider と Levenspiel の式 5)6)

では、粒子の実際の表面積と、粒子と同じ体積を有

する球の表面積との比をパラメータとして非球形

粒子の抗力係数を計算する。また、液体粒子の場合

には流動様式に応じて抗力が変化することを考慮

しなければならない。

(2)揚力

揚力は流れに直行する方向に作用する力であり、

流体の速度勾配や粒子の回転によって生じる。野球

で投手が投げる変化球の多くは、後者の力すなわち

ボールに回転を与えて生じる揚力により球筋を変

化させている。揚力は抗力と比べて小さいため無視

される場合が多いが、非球形粒子などでは揚力の影

響を慎重に評価する必要がある。

4.おわりに

粒子を含む流体解析について概説した。計算機性

能が向上した現在においても、実設備を対象として

粒子個々の挙動や粒子周りの流れの構造を計算で

求めることは計算負荷の点で困難な課題である。汎

用的な計算方法は無いため、各種計算手法の中から

それぞれの前提条件や限界を把握した上で計算対

象に応じて適切な計算方法を適用する必要がある。

参考文献

1) 日本混相流学会 編集,混相流ハンドブック,朝

倉書店

2) 太田光浩ほか,混相流の数値シミュレーション,

丸善出版

3) NEILSON, J. H.; GILCHRIST, A. Erosion by a

stream of solid particles. Wear, 1968, 11.2:

111-122.

4) NEILSON, J. H.; GILCHRIST, A. An experimental

investigation into aspects of erosion in

rocket motor tail nozzles. Wear, 1968, 11.2:

123-143.

5) ANSYS, ANSYS17.2 FLUENT Theory Guide.

6) HAIDER, A.; LEVENSPIEL, O. Drag coefficient

and terminal velocity of spherical and

nonspherical particles. Powder technology,

1989, 58.1: 63-70.

体積濃度

12 数値解析技報 第 12 号

概要

鋼製の振り子型免震装置の球面すべり支承における摩擦係数は、免震建物の地震応答に影響を及ぼすことが知ら

れている。摩擦係数は温度と滑り速度の関数 1)2)3)であることが示されており、また、すべり材をスライダー表面に

接着しているため、温度上昇が接着強度に影響する。従って、地震時の繰り返しにより摩擦熱で生じる温度上昇を

把握することは重要である。摩擦熱を考慮した温度解析は、熱と構造の連成解析で行う必要があるが、構造解析ル

ープで計算時間がかかることが課題である。そこで温度解析のみで温度予測を行う手法を試み、実用的な手法を開

発した。これによりパラメータスタディを効率的に行うことが可能になった。

1. SSB について

SSB 装置 3)を図1および図 2に示す(建築学会大

会概要より引用)。上コンケーブが建造物に、下コ

ンケーブが基礎に固定される。上下コンケーブ間に

スライダーは設置され、両者間に滑りが生じて復元

力が発生する。この滑りで摩擦熱が生じる。

2.温度予測 FEM モデルについて

2-1熱構造連成モデル

図 3 にモデルを示す。コンケーブ・スライダーと

もにメッシュを作成する必要がある。球面の R は

4000 ㎜程度と大きく、コンケーブの相対変位に対

して生じる復元力を算出する必要が無いので平面

形状としている。コンケーブに GLUE 結合した剛

体に強制変位を与えることで相対運動を与える。

接触面の節点に作用する垂直力 F に摩擦係数μ

をかけて速度Vをかけると発熱量Qが計算される。

Q=μFV [Nm/s] =μFV [Watt] この発熱を節点 FLUX として与えて温度解析を行

う事になる。MARC ではこの換算を自動的に行っ

て熱構造連成を実施することが出来る(図 4 参照)。

2-2 熱解析モデル

図 5 に示す通り、熱モデルでは、構造解析と同じ

メッシュを用いるが、コンケーブの要素タイプは剛

体メッシュとする。構造解析のように別途剛体を設

ける必要はない。

摩擦による発熱を境界条件として温度解析モデ

ルに与えることで構造解析を省くことが可能にな

る。

2-3 熱解析モデルの発熱の考慮方法

摩擦熱は、両方の接触面に生じるが、接触面が移

動するために、コンケーブ側に発熱を与える領域を

技術レポート No.4

摩擦熱の解析適用 ~SSB(すべり支承)を例として~

東京分室シニアスタッフ

西 俊二

F V

図 3 連成解析モデル 図 4 摩擦熱 Q

図5 熱解析モデル

13 数値解析技報 第 12 号

認識することが困難である。そこで発熱面が一定の

スライダー面に発熱 Q を与える。接触面に適当な

熱伝達係数を設定することでコンケーブ側にも熱

を与える(図 6 参照)。

スライダー接触面の垂直力分布は一定ではない

が、負荷される垂直荷重を面積で割った平均値とし

て考える。従って、スライダー面に発生する摩擦を

一定とすることよる誤差が生じることになる。

日本機械学会発行の「伝熱資料」によると、図7

に示す通り接触熱伝達係数 H は接触面圧 p により

変化し、H=1/RH=0.01[W/(㎜ 2K)]程度と推定で

きる。この値を参考にケーススタディを行う事と

し、本モデルでは H=1.0[W/(㎜ 2K)]とした。

3.熱構造連成モデルと熱モデルの比較

3-1 要素タイプについて

先に示した様にメッシュ形状は同じであるが、要

素タイプは下表の通りとする。

何れも上下コンケーブに反対方向に強制変位を

与え運動を再現する。

3-2.計算結果

図 8 にそれぞれのモデルを用いて同一条件で算

出したスライダーのすべり面中心と側面の2点で

の温度履歴を比較している。接触面から遠い側面の

結果はほぼ一致していることがわかる。

接触面の結果は、熱解析のほうが少し高めに算出

され安全サイドの評価になっている。

図 9は最終時刻での温度分布で左が連成解析、右

が熱解析である。

3-3 計算時間

計算時間は、大凡下表の通りであり、熱構造連成

モデルは熱モデルの 8 倍程度の時間が必要である。

4.おわりに

熱構造連成モデルを代用する熱解析モデルを開

発した。スライダー面圧を一定とする仮定を設けて

おり、誤差が生じることを認識した上で使用すれ

ば、パラメータスタディを効率的に実施することが

できる。

参考文献;

1) 西本晃治他:新日鉄住金技報,第 405 号(2016)p124-128,球面すべり支承 NS-SSB の開発

2) 中村秀司他:新日鉄住金エンジニアリング技報,Vol.6(2015),p28-35,球面すべり支承 NS-SSB の開発

3) 中村秀司他:日本建築学会大会学術講演梗概

集,2015,p465-466,球面すべり支承(SSB)の繰り

返しによる温度上昇と摩擦係数の予測

4) 日本機械学会:伝熱工学資料(改訂第5

版),2009,p17

Q =μFV Watt

をスライダー側に

図6 摩擦熱の与え方

図7 接触熱抵抗 RH(熱伝達係数 H の逆数)4)

図8 温度履歴

図9 温度分布

14 数値解析技報 第 12 号

概要

一般的に、構造解析における強度評価指標としては応力が用いられる場合が多い。しかし亀裂先端や

溶接不溶着部のような鋭い切り欠き部においては、理論上、応力集中係数が無限大となってしまうため、

応力による評価は困難である。

破壊力学はこのような問題を取り扱う分野であり、応力に代わる強度指標として、応力拡大係数、エ

ネルギー解放率、J積分などが用いられる。

応力拡大係数とエネルギー解放率は線形弾性材料を前提としているため、金属のような延性材料が広

範囲に塑性降伏する問題には適用できない。これに対し J積分は非線形材料まで適用することが可能で

あり、弾塑性材の破壊力学的評価指標として良く用いられている。本稿では汎用ソルバーMarc による J

積分の算出、評価方法等について紹介する。

1.J積分の定義

J 積分は、き裂先端を含む経路 Γ(図 1)に沿った

線積分として下式(1)のように表すことができる。

)( dsxuTWdyJ ・・・(1)

Γ:き裂先端を囲む積分経路(図 1)

W:ひずみエネルギー密度、

T:経路Γに沿う表面力ベクトル、

u:経路Γに沿う変位ベクトル、

ds:経路Γ に沿う微小要素

MARC では、(1)式を面積積分に置き換えた(2)式に

て J値を計算している 1)。

dAxqW

xu

Ji

A ij

ij 1

11

)(

・・・(2)

J 積分は弾性材料に対して適用されるエネルギー

解放率の考え方を、非線形材料にまで拡張したもの

と解釈することができる(よって、弾性材料に対す

る J積分はエネルギー解放率と同じとなる)。

2.解析によるJ積分の算出

MARC による J 積分算出の例として、破壊靭性評

価の為の ASTM 規格による 3 点曲げ試験 2)を解析に

て再現した(図 2-1)。

① J 値の積分経路依存性について

MARC での J積分値は、き裂先端を囲う積分経路(図

2-2)毎の値の平均値として出力される。

荷重点変位 0.4mm 時の塑性域の分布と積分経路毎

の J値を図 2-3、図 2-4 に示す。

技術レポート No.5

解析によるJ積分の算出、評価について ソリューション第一チーム

日本機械学会認定計算力学技術者1級

坂田 健

図 1 J 積分概念図

図 2-1 解析モデル

1 5 数値解析技報 第 12 号

J 値は、き裂先端において若干小さな値をとるが、

おおむね一定しており、J積分値は経路依存性が無

い事を示している。

②厚さ方向の J 値分布(3 次元効果の影響)

試験片の厚さ方向の J 値の分布を図 2-5 に示す。J

値は、厚さ方向の中央と端部で差が有り、変位が大

きくなるとその差が拡大している。

3.実験式との比較

J 積分は変形に要するポテンシャルエネルギー

の変化を表すものであり、3 点曲げにおける荷重-

変位グラフ(図 3-1)より得られる面積Aplから次の

式(3)で表わす事が出来る。

・・・(3) K:応力拡大係数、 ν:ポアソン比

E:ヤング率、 B、b:部材寸法

η:形状係数(3 点曲げの場合η=1.9)

解析結果より得られる J 値と、荷重-変位グラフお

よび(3)式から算出した J 値を比較した。厚さ方向

の J値については、平均値、および最大値での比較

を行ったところ、最大値での比較の方がより算出値

に近い値が得られた(図 3-2)。

実問題への適用法としては、3 点曲げ試験を実施し

て破断時の J値を算出し、実機モデル解析結果の J

値と比較する事で亀裂進展有無を判定する、等が考

えられる。

4.おわりに

弾塑性材に亀裂が生じた場合の亀裂進展の評価

手法として、解析によるJ積分算出を紹介した。

今後は業務への適用に向けて、実測データの収集、

解析との比較等、知見の習得に取り組む予定であ

る。

参考文献

1)Marc2014 Volume A: Theory and User Information

CHAPTER 5 Structural Procedure Library

Numerical Evaluation of the J-integral

pp.149-151

2)山本琢也:破壊靭性試験法とデータ解析の実例

(講座:核融合構造材料における機械的特性の評

価手法とデータ解析、2015)

図 2-2 MARC の積分経路

図 2-3 塑性ひずみ分布図 2-4 積分経路毎の

J 値分布

図 2-5 厚さ方向の J 値分布

図 3-1 3 点曲げ解析 荷重-変位グラフ

図 3-2 3 点曲げ解析 変位と J値の関係

16 数値解析技報 第 12 号

概要

ここ数年、本数値解析技報では地盤解析技術の向上に向けた取り組みを報告してきた。今回は

(その3)として杭の中抜け現象などに適用できると考えられるSPHという解析手法への取り組

み例を報告する。

1.SPHとは

(1) SPHとは 1)

SPH法はメッシュレス(フリーメッシュ)法の

一つに分類される数値解析手法である。FEM解析

で定義するような節点と要素の代わりに、「(疑似)

粒子」の集合のみで与えられた物体を表現する。

ただしSPHは、DEMなどの離散要素法のよう

に互いに衝突や粘着挙動を示す粒子ではなく、偏微

分方程式の離散化方法として粒子を用いているだ

けで、基本的にはFEMに近い手法と言える。

(2) SPH モデルの作成

今回用いた解析ソフトでは通常のFEM(連続体

要素)と同様にモデル作成したのち、計算開始時(計

算途中でも可)にボタン一つでSPH粒子への変換

が可能であり、モデル作成作業はDEMなどに比べ

ると容易であった。

2.解析対象と解析要領

(1) 対象モデル

モデル図を図1に示す。角度 20°層厚 2m の斜面

を想定し、杭1間隔分のみをモデル化した。すべり

面および杭位置の対称面および「杭」は剛板で表現

した。なお、杭間隔は2m~4mとした。

図1 モデル図

(2) 解析条件

今回想定した斜面(移動層)の材料パラメータを

表1に示す。また、移動層と各剛板には接触条件を

付与し、摩擦係数は表2とした。

作用荷重は移動層の自重のみで解析開始直後に

作用させたのち、3秒後まで動的解析を行った。

表1 材料パラメータ

移動層

単位重量 γ 16 kN/m3

ヤング率 E 20 x 103 kN/m2

ポアソン比 ν 0.40

内部摩擦角 φ 20°

粘着力 c 10~50 kN/m2

表2 境界部の摩擦係数

接触面 摩擦係数μ

移動層-すべり面 0.01

移動層-杭 0.3

移動層-対称面 0

3. 解析結果

(1) 粒子数の影響

本検討では図1に示す通常のメッシュ作成を行

い、そのメッシュを粒子に変換する。ここでは1メ

ッシュを1次(粒子1個)および2次(粒子4個)

で変換した際の差異を確認した。対象は杭間隔2

m、移動層の粘着力 c=50kN/m2 とした。

解析結果から杭間方向応力(3秒後)を図2に示

す。1次、2次とも杭間や杭上流側で圧縮応力が高

まる状況を捉えているが、2次の方がより明確なコ

ンタでかつ最大値も大きい。当然ながら2次の方が

精度は良いと推定される。

一方、2次の計算時間は1次の約18倍となり解

析規模により精度と計算時間のバランスが課題と

技術レポート No.6

杭の中抜け現象へのSPH法適用例

~地盤解析への取り組み(その3)~ ソリューション第一チーム

日本機械学会認定計算力学技術者 2級

岡本 有造

すべり面(剛板)

対称面(剛板)

※両側に設置 移動層(厚さ 2m)

杭(剛板)

17 数値解析技報 第 12 号

なることも分かった。なお、今回の以降の検討はす

べて1次変換としている。

図2 杭間方向応力(左:1次、右:2次)

(2) 杭間隔の影響

杭間隔を変更したケースと杭なしケースのX方

向(モデル長手方向)の変位コンタを図3に示す。

また、杭間中央点(杭から上流側約1m)の粒子の

速度履歴を図4に示す。

図3 X方向変位 杭間隔変更(3秒時)

図4 杭間中央点の粒子の速度履歴

これらの結果について定量的な妥当性評価は難

しいが、定性的には杭の中抜け現象をある程度表現

できていると考えている。

(3) 物性値の影響

移動層の粘着力 c を変化させた結果から

c=20kN/m2 のケースのX方向変位を図5に示す。

図3の杭間隔2mと比較して変位が増大してお

り、また、杭近傍と杭間中央部での変位差も大きく

なっていることが確認できた。

図5 X方向変位 粘着力 c=20kN/m2(3秒時)

4.今後の展開

今回、杭の中抜け現象に対して定性的な評価では

あるが、SPHの適用可能性を確認できた。今回の

モデルでは杭を剛板としてモデル化しているが、今

後は変形体とすることで、杭の変形や応力状態も把

握できるよう検討を進めていきたい。

5.おわりに

本稿では杭の中抜けに着目した検討を行ったが、

SPHの技術は汎用性があり、特に変形の大きな領

域を対象とする地盤解析には有用であると考えて

いる。FEMに限界を感じた際など積極的にSPH

を活用して、その可能性を広げていく所存である。

参考文献

1) Abaqus 6.14 マニュアル

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

X方向速度(mm/sec)

時間(sec)

杭間粒子の速度履歴

杭間隔2m

杭間隔3m

杭間隔4m

杭なし

変位量:約 0.3m

杭なし

杭間隔2m

杭間隔3m

変位量:約 0.9m

変位量:約 6.6m 変位量(杭間中央)

:約 2.3m

変位量(杭近傍)

:約 1.6m

18 数値解析技報 第 12 号

概要

プロセス制御シミュレーションを実現するにあたり、動特性をもつプロセスモデルを MATLABSimulink 上で構築する方法について紹介する。

1. はじめに

プロセス制御シミュレーションを実現するため

には、図-1に示すようにプロセスの入力(バルブ

操作 etc)に対する出力(温度、圧力 etc)がどの

ように変化するかを表現するプロセスモデルとプ

ロセスモデルが目標とする出力を得るための制

御モデルの2つが必要となる。

図-1 制御モデル図

プロセスモデルでは、コントローラからの入力を受

け取り、演算結果を出力する。制御モデルは演算値

と目標値を比較し、出力が目標値となるようにコン

トローラを操作する。以下よりプロセスモデルのモ

デル化について述べる。

2.状態方程式のモデル化

動特性をもつプロセスモデルはプロセスの状態

を示す変数とその時間変化を表す変数を用いた状

態方程式として表せる。例えばプロセスモデルが一

階微分方程式で表せる場合は、

x’=u ・・・プロセスの時間変化

y=x+C ・・・プロセスの状態

となる。ここで、例題としてディーゼル発電機を冷

却水で冷却するシステムを考える。冷却水は循環し

ており、発電機の熱で温められた冷却水は放熱器で

冷却され発電機へ戻る。放熱器は電動ファンが付い

ており、冷却水温度が一定になるように送風量を制

御する。

図-2 冷却システムモデル図

表-1 変数表

パラメータ変数 設定値

Qin 発電機発熱量[W] 5000Tgoal 冷却水目標温度[℃] 60Text 外気温度[℃] 20rho 冷却水密度[kg/L] 1Cp 冷却水比熱[J/kg・K] 4217V 冷却水容量[L] 5A 放熱面積[m2] 2T0 冷却水初期温度[℃] 20

計算式

s ファンコントローラ指令値

Alpha(s) 系外への熱伝達率[W/m2・K] =-0.0875・s2 + 7.875・s + 23.75

Qout 放熱量[W] =A・Alpha(s)・(T-Text)

dQ プロセスの時間変化

=Qin-Qout Q プロセスの状態(熱量[W])

=∫dQ・dt+T0・rho・Cp・V T 出力変数(冷却水温度[℃])

=Q/(rho・Cp・V)

技術レポート No.7

MATLAB Simulink による

プロセス制御シミュレーション技術紹介ソリューション第三チーム

石田 崇

目標値プロセス

モデル

コント

ローラ

入力

出力

放熱器

発電機

Qin T Qout Text

ファンコントローラ冷却水

Tgoal

α

19 数値解析技報 第 12 号

3. MATLAB Simulink によるモデリング

図-2に示す冷却システムをSimulinkで構築した

ものが図-3となる。この中で制御モデルに相当す

るものがオレンジで示されたブロックで、プロセス

モデルに相当するものが赤丸でマーキングされ

た’Heat Model’ブロックである。

図-3 Simulink モデル図

‘Heat Model’は’Level2 MATLAB S-Function’と呼

ばれる API*1を通じて Simulink 側から呼び出され

るユーザー定義の MATLAB 関数である。この機構

を利用することで、制御モデルを Simulink、プロ

セスモデルを MATLAB でそれぞれ構築すること

が可能となる。MATLAB でプロセスモデルを構築

するメリットは MATLAB の豊富な数学ライブラ

リやソルバを利用できるため、有限差分法や有限要

素法などを用いたより厳密なプロセスモデルをも

構築可能ということである。

*1 Application Program Interface:相互利用関数のイン

ターフェイス仕様

4.Level2 MATLAB S-Function によるコーディング

’Level2 MATLAB S-Function’では4つの関数を

記述する必要があり、それぞれ Simulink が「ブロ

ック初期化」「状態変数初期化」「微分係数計算」「出

力」を行うタイミングで呼び出される。ユーザーは

呼び出されたタイミングで引数 block に適切な値

をセットする必要がある。図-4に ’Level2 MATLAB S-Function’のコーディング例を示す。

(変数及び計算式は表-1参照)。

(つづき)

図-4 ’Level2 MATLAB S-Function’コーディング例

5.シミュレーション結果

例題のシミュレーション結果を図-5に示す。

シミュレーション開始と共に冷却水温度が上昇し、

180 秒から電動ファンが稼動、300 秒で目標温度に

到達し、以後温度、指令値共に安定状態になった。

図-5 シミュレーション結果

6. おわりに

今回、プロセスモデリングについて

’Level2 MATLAB S-Function’’を用いた方法を紹

介した。今回の例題規模であれば Simulink の

State-Space ブロックを用いる方法でも十分構築

可能ではあるが、今後のプロセスシミュレータを作

る基盤技術として積極的に活用していく予定であ

る。

参考文献

Simulink ドキュメント:Level-2 MATLAB S-Function

https://jp.mathworks.com/help/simulink/slref/level

2matlabsfunction.html

%ブロック初期化

function HeatModel( block ) block.RegBlockMethod('InitializeConditions',

@InitConditions); %状態変数初期化関数の登録

block.RegBlockMethod('Outputs', @Output); %出力関数の登録

block.RegBlockMethod('Derivatives', @Derivative); %微分係数計算関数の登録

end %状態変数初期化関数

function InitConditions(block) %プロセスの状態変数 Q の初期値

Q=T0*rho*Cp*V; block.ContStates.Data=Q; end

%微分係数計算関数function Derivative (block)

%プロセスの時間変化 dQ Alpha=@(s) -0.0875*s^2 + 7.875*s + 23.75;

Qin=block.InputPort(2).Data; s=block.InputPort(1).Data;

Qout=A*Alpha(s)*(T-Text); dQ=Qin-Qout; block.Derivatives.Data=dQ;

end %出力関数function Output (block)

%プロセスの状態変数 Q と出力変数 T Q=block.ContStates.Data T=Q/(rho*Cp*V);

block.OutputPort(1).Data =T; end

冷却水温度[℃]

ファンコントローラ指令値

数値解析技報 第 12 号, 2017

製品紹介 : 汎汎汎用用用有有有限限限要要要素素素解解解析析析ソソソフフフトトト MMMaaarrrccc222000111666

Marc2016 の新機能 トピックス

Marcは前バージョンのMarc2015で、従来のGUIであるClassic版が廃止されました。 今後リリースされていくバージョンではすべて新しいGUIとなります。これまでClassic版をお使いのユーザの方でMarcの新しい機能を利用するためには新しいGUIへの切替をお願いします。

◆ 新しくなった GUI

Marc 用プリポストソフトウェア Mentat のメニュー表記が日本語化されました。これから Mentat の利用を始められる方にもわかりやすいインタフェースとなっています。 また解析モデルの設定にダイレクトにアクセスできる「モデルブラウザによるツリー表示」や「操作アイコン」などこれまでに比較して格段に操作性が向上しています。 Classic 版をお使いのユーザの方は、この機会にぜひ新しい GUI の利用をご検討ください。

モデルブラウザによる

ツリー表示

荷重ケースの設定が

Drag&Drop で対応可能に

◆ 相変態機能の追加

MSC ソフトウェアが販売している Simufact 製品からの技術フィードバックとして、Marc の材料データに相変態が設定できるようになりました。 金属は融解温度まで熱せられると相変化と呼ばれる冶金プロセスを受けます。鋼鉄であれば、オーステナイト、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトの分布状態を再現できます。 Marc では、TTT 線図(Time-Temperature-Transformation:時間-温度-変態)、もしくは CCT 線図(Continuous Cooling Transformation:連続冷却変態)を材料データに組み込むことで、材料の硬度と強度の予測が可能になります。

表示操作のアイコン化により、

操作性が向上しました。

図 1.連成シミュレーションのフロー

図 2.計算例-オーステナイト体積率の表示

20

熱伝導解析 機械的解析

相分率計算

数値解析技報 第 12 号, 2017

衝撃解析は、一般に陽解法が適していると言われますが、Marc 陰解法で衝撃

解析を試みた事例を紹介します。2つの鋼球の衝突問題を Marc の陰解法で解

析してみました。

停止している鋼球(左)に速度 V=1m/sec の鋼球(右)を衝突させます。結果

として、被衝突鋼球(鋼球 1)は左方へ V=1m/sec で動き、衝突鋼球(鋼球 2)は停

止します。

図 Aは鋼球の速度変化を示しています。ニューマークベータ法(図中 NH)で

は高周波が見られますが、平均化するとシングルステップフーボルト法(図

中 SH)と一致します。

また、衝突前後の鋼球の運動量変化は、加わった力積に等しくなります。

被衝突鋼球(鋼球 1)の力積は下記で求められます。

力積�運動量変化� � 0 �M � �ー�� � �=��=1000 � ��=1000 � 7.86 � 10�� � 9.175 � 10 � � 0.722��・����

鋼球間の接触力履歴を図 Bに示します。

力積 Fは鋼球間の衝撃力を時間積分することで求められます。

時間ステップは一定 ∆��=5.0 � 10���� としているので下記の通り計算さ

れます。

力積� � ������ ������ � ∆���

=5.0 � 10� � ∑�����=0.727��・����Marc の結果から求められた力積は、理論値にほぼ一致します。このことによ

り Marc の陰解法を使用した衝撃解析でも充分な計算精度であることがわかり

ました。Marc は自動接触機能はじめ多彩な機能を有しています。

Marc による衝撃問題を試してみてはいかがでしょうか?

弊弊社社取取扱扱製製品品弊社では構造解析、流体解析などの受託解析に加え、エムエスシーソフトウェア株式会社の代理店として、Marc など

MSC ソフトウェア製品の販売を行っております。Marc 導入をご検討の際には下記窓口へご相談ください。

<お問合せ先>ソフトウェア契約担当窓口 TEL: 093-588-7233 / E-mail:[email protected]

※ 記載の製品名等の固有名詞は各社の商標または登録商標です。

◆ その他の主な新機能

○解析事例紹介:Marc 陰解法による衝撃解析 ○<2 つの鋼球の衝突>

鋼球 1停止

V=0.0m/s

図 A. 鋼球 1 と鋼球 2 の速度履歴

図 B. 鋼球 1 と鋼球 2 の衝撃力履歴

鋼球 2右から衝突V=1.0m/s

21

セグメント-セグメント接触のDDM対応

局所アダプティブメッシュの拡張

圧力の表示

セグメント-セグメント接触がDDM(領域分割並列計算)で利用で

きるようになりました

接触解析において、メッシュ細分化のロジックの見直しが行われ、

貫通を回避するようになりました

CADソリッドの接触ボディ対応 Parasolid ジオメトリを接触ボディとして定義可能になりました

新しいポストコードとして圧力の表示が可能となりました

22 数値解析技報 第 12 号

・日本設計工学会 2016 年秋季大会

開催日:2016年10月8日(土)

場 所:北九州国際会議場

日本設計工学会九州支部様のイベント、日本設計工学会

2016 年秋季大会にブース出展を行いました。

日本設計工学会は、設計工学に関する情報交換や人的交流

のための機会提供を目的として活動されており、当社も設

計に携わる企業として賛助会員となっています。

同大会では、設計論、機械、材料、数値解析など設計に関する研究成果発表が企業および教育機関

より実施され、当部からは粒子挙動シミュレーションについての講演を行いました。

また、ブース展示は北九州地場の企業を中心に約 10 社の出展があり、当部からは解析技術の一つ

である流体-構造連成のパネル展示とスライド上映を行いました。参加者の中には就職活動を控えた

学生も見受けられ、メモを片手に出展企業の説明員の説明を真剣に聞く姿も見られました。

開催地の地元企業として、設計に携わる方々が多く参加される設計工学会での講演と企業展示を通

じて、当社の技術をアピールするいい機会となりました。

・第 19 回 CAE 活用事例セミナー

開催日:2016年11月24日(木)

場 所:北九州テクノセンター

当部が販売代理店として活動しているエムエスシーソ

フトウェア(株)様(以下、MSC)との共催で、数値シミュレ

ーションの最新情報および事例を紹介するイベント、「第

19 回 CAE 活用事例セミナー」を開催しました。

今回のセミナーは熱に関連した疲労寿命や信頼性に関

するセッションを企画し、九州工業大学 次世代パワーエレクトロニクス研究センターの宍戸信之様

と電力中央研究所 高橋由紀夫様にご講演をいただきました。MSC からは当社の主力販売製品 Marc の

最新情報、昨年より当社が仲介販売している金属加工シミュレーションソフト Simufact 製品の紹介、

(株)電通国際情報サービス様からは MSC 製 機構解析ソフト Adams の連成解析事例をご紹介いただき

ました。また、当社からは流体と粒子の連成をオープンソースで実現した高度な事例を紹介しました。

九州地場の企業および教育機関の約 40名の方々にご参加いただき、MSC 製品を中心とした最新の数

値解析技術および事例について、有意義な情報発信活動となりました。

SiES’S 部の社外情報発信活動

私たち SiES’S 部は、社外セミナーの開催や出展、シミュレーション事例集や数値解析技報の発行などを

通して、シミュレーションに関する最新情報の提供を心がけています。